国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第10回)議事要旨
1.日時 |
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平成19年11月30日(金)13:30~16:40
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2.場所 |
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日本交通協会大会議室
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3.出席者 |
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(委員) |
藤本座長,三輪副座長,有賀,石崎,岡村,梶谷,河上,川野邊,肥塚,杉山,白石,関口,高鳥,鉾井,増田,松田,三浦,三村の各委員 |
(文化庁) |
高塩文化庁次長,大西文化財部長,亀井文化財鑑査官,山﨑美術学芸課長,内藤記念物課長,ほか関係官 |
(作業部会委員) |
木川委員,松村委員 |
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4.概要
- (1)文化庁挨拶
高塩文化庁次長から挨拶を行った。
- (2)壁画の現状及び修理について
- ○壁画に関するこれまでの新たな知見(資料2)
事務局より,壁画に関するこれまでの新たな知見について説明があった。
- ○高松塚古墳壁画の劣化状態について(資料3)
川野邊委員より,高松塚古墳壁画の劣化状態について説明があり,以下の質疑応答が行われた。
河上委員: |
壁面に付着したゲルのひび割れは,石室解体後に生じているのか。それとも以前の石室内からこういう状況はあったのか。 |
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川野邊委員: |
石室解体後,ゲルが乾燥したため,ひび割れが生じてきている。 |
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河上委員: |
修理施設内の湿度を上げることはできないのか。 |
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川野邊委員: |
部分的に湿度を上げると,元の平らな位置に戻る。その状態でゲルが柔らかくなるので,物理的に取り除くことを検討していたが,非常に薄い層でめくれ上がっているため,危険性が高い。そこで,まずゲルを弱くして取り除く手法を検討していきたい。 |
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松田委員: |
壁面の表層のゲルが引っ張られているとあるが,それは壁画の顔料そのものか,あるいは壁画が表面的に引っ張られているということか。 |
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川野邊委員: |
壁画ある部分にはひび割れは生じていない。壁画がない無地の部分でゲルが縮むことによって亀裂が生じている状況である。壁画で顔料が持ち上がっているというところはない。 |
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松田委員: |
天井のところに樹脂がはみ出しているという説明をもう一度してほしい。 |
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川野邊委員: |
天井部分におそらく修理に使った樹脂が,後に使用したエタノールで溶けて出て固まっているのではないかと思われる。 |
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- ○取り上げた石材の劣化損傷状態について(資料4)
肥塚委員より,取り上げた石材の劣化損傷状態について説明が行われ,以下の 質疑応答が行われた。
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河上委員: |
それぞれの石材を最終的にどのような状態にするのかということを踏まえなければ,応急処置もできないのではないか。 |
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肥塚委員: |
石材を戻すのか戻さないのかということも含めてのことか。 |
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河上委員: |
石一つを完全なものとして復元するのか,どうなのかということである。先ほどの説明では,応急修理であっても石と石を接着させるとあったが,それは最終的な処置とも言える。
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肥塚委員: |
まず小さい破片については,確実にここに戻るとわかっている部分については,応急的か恒久的かを問わず,早い段階で戻しておく方がよいという考え方である。 |
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河上委員: |
処置出来るものについては,よいのではないか。 |
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肥塚委員: |
小さなものに限って確実に戻せるものは戻したい。大きな亀裂などの部分は,今現在,ベルトで拘束しておくことしかしない。 |
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松田委員: |
石材の接着面が少ない部分の補填材料のことであるが,その材料物質の耐久性や劣化ということは心配ないのか。 |
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肥塚委員: |
室内に置く場合は,エポキシを使用するが,特段問題はない。但し,湿度の非常に高い過酷な環境におかれたら,樹脂の接着面で問題を起こす可能性が高い。また,熱可塑性のものでは,接着がもたない。選択肢としては,熱硬化性樹脂を使って外れない状態にするのが適当ではないか。 |
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松田委員: |
これまで保存処理に使った材料が劣化するということで,問題になっている。今後の処置として,使用する材料も慎重に考える必要がある。 |
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肥塚委員: |
仮に石室を元の位置に戻した場合の条件として,非常に湿度が高いとか制御できない環境ではなく,現在,修理施設に石材を置いているような環境に置くことが必要。樹脂の寿命が数百年あるのか誰も分からない。数十年前に接着したものは現在でも問題ない。 石材の修理において,資料4に示された応急処置の方法で行うことが了承された。 |
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- (3)壁画の劣化原因調査について
- ○高松塚古墳壁画の劣化の経緯と生物的要因について(資料5)
- ○壁画の劣化に影響を与えたと思われる発掘調査で判明した事実(資料6)
- ○高松塚古墳石室解体時の墳丘地盤安定検討結果について(資料7)
- ○高松塚古墳版築の地盤工学的調査結果について(資料8)
- ○壁画の劣化原因の調査に係る検討事項(議論のたたき台)(資料9)
上記事項について,それぞれの担当者から説明が行われた。その後,以下の質疑応答が行われた。
白石委員: |
劣化原因調査の主体は何か。この検討会で行うのか,また,検討会の下にワーキンググループ的なものを作るのか。それとも全く別の組織を作って行うのか。 |
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山﨑美術学芸課長: |
最終的には文化庁が責任をもって調査する必要がある。実際の作業として,具体的なデータを持っているのは,東京文化財研究所,奈良文化財研究所,文化庁に保管している資料等があるので,作業部隊としては自とそこではないかと思っている。その一方で,この検討会においても様々な観点から議論しているところであり,まずは,検討,調査体制についても幅広く自由に発言していただき,それを踏まえて文化庁において最終的に検討したい。 |
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白石委員: |
この検討会ではあまり細かい技術的な議論はできないように思われる。今までのように作業部会である程度問題を煮詰めて,最終的に検討会に諮ってもらう方法がよいと思う。また,調査には人為的な要因も含めて総合的に行うことをお願いしたい。 |
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河上委員: |
この調査のためには,まずは各々の分野の専門家に学術的な意味で調査し直してもらうことが重要である。壁画の劣化原因というのではなく,考古学,美術史などの方面からもう一度調査研究を行う必要があるのではないか。 |
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増田委員: |
壁画を修復する作業を担当した者としては,壁面に注入した合成樹脂の状況やどういう考え方のもとに使えばよいのかという点を調べてほしい。過去にはイタリアの忠告に従ってパラロイドB72を用いたが,カビの発生とも関係があるという。長期間置かれた場合や現在の合成樹脂の状況を調査し,今後の修理に役立ててほしい。 |
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三浦委員: |
現在判断できることをもって過去がどうだったかは避けるべき。当時どのような判断をしていったのか,それが妥当であったのかを検証することが必要。 |
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三輪副座長: |
劣化原因調査で一番大事なことは,将来の保存や修復等に必要な基本資料となることである。調査の範囲として,他の装飾古墳,韓国には非常に近似した漆喰を使った装飾古墳もあるので,幅広な実情調査等を含めた将来のためになる素材の収集といったものも非常に重要である。 |
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杉山委員: |
石室の解体に際して多くの微生物の資料を収集した。劣化原因との関係で調査しているが,十分な時間をかけて様々な視点で検討すべきであり,作業部会などで十分に検討し,この検討会に出すことがよいと思われる。 |
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高鳥委員: |
検討会委員の任期は来年3月までなので,それまでに劣化原因にあたる最終的な結論は恐らく出ない。また,問題は高松塚だけではなく,キトラもあり,それ以外にも恐らく明日香村には調査しなければならない部分もあるだろう。日本国内いろいろあるはずである。高松塚の劣化原因調査をすることで次のステップになる。例えば微生物の劣化という問題をカビの専門家の立場からみているが,必ずしもカビだけの問題ではない,物理的,科学的な問題も入ってくる。それぞれの専門家の立場からこのような古墳を含めて,何故このような劣化が生じるのか,事故が起きるのかという問題を学術的な分野から追求してほしい。
さらに,このような劣化をどのようにして制御するのかという対策まで進めてほしい。これは1~2年で結論が出るものではない。長い目で対応してほしい。 |
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松田委員: |
保存管理に関する記録の整理は,あらゆる劣化原因調査の基本になるものであり,早急にやってほしい。 |
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杉山委員: |
これまで収集した微生物のサンプルそのものや分離・培養・同定した微生物分離株は恒久的に保存することは非常に大事である。人材,設備,維持費,スペース等が必要であり,その手当を十分に検討してほしい。 |
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肥塚委員: |
最先端のわかっていない分野まで手を広げて調査することは,10年かかってもできないのではないか。それよりも,高松塚古墳壁画の劣化ということに限定して,1年程度を目途に目標をもって調査することではないか。まずは,今ある記録をもう一回整理して検証できる分は検証する。全て実証的に検証できるわけではない。これまでのデータの蓄積がある文化財研究所が中心となって1年間でできるのはどの範囲かというところに目標を置いた方がよい。 |
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三浦委員: |
調査には2つのステージがあると思う。1,2年の短い期間で概略的な形を出す。当然その中で学問的に残された課題は何であるかを明確にし,検討することを考えていけばよい。概略的なものを考えるに当たっては,劣化原因の調査だけではなく,将来にどのように繋げていくかという視点をもってどこまで行うかという1年になる。そういった方向付けをした上で整理する必要がある。
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事務局において,発言内容を踏まえて整理し,次回の検討会で引き続き劣化原因調査について検討することとされた。
- (4)今後のスケジュールについて
次回は,検討会及び作業部会の合同会議とし,平成20年2月頃に開催する旨を確認し,第10回検討会は終了した。
以上