資料5


資料5


壁画の修理方針と手順について(案)

1.修理の基本方針

(1) 現地に戻された石室での保存に耐え得る強化を行う。

(2) 修理措置が壁画の表現に及ぼす影響を出来る限り小さくする。

(3) 「恒久保存工程」について

(4) その他上記(1)から(3)に関連する事項

2.修理の手順

(1)  搬入された石材周囲の泥などの汚れを極力除去する。表面1層の表打ちを一部残した状態で石材の乾燥状況を監視する。乾燥状況を制御するため,新たな表打ちや石材の覆いなどを適宜用いる。乾燥に従って生じてくる剥離,亀裂などの応急処置を行う。この期間に生じる生物被害は逐次殺菌などの処理を行う。

(2)  石材の状態が安定した状況で詳細な調査と記録を行う。状況に合わせた処理工程を作成する。生物被害の記録を行い,緊急度に合わせた処理を行う。事後の処置に影響を与えないために,極力エタノールなどの穏和な殺菌方法を採用する。必要に応じて手術用顕微鏡などを用いる。

(3)  生物被害の痕跡およびその他の汚れの除去を行う。また,クリーニングに耐えられない部分は応急的に強化処置を行う。強化処置を行うことで汚れが定着することがあるのでこの段階での強化処置は必要最低限に止める。この段階でのクリーニングによって除去できない汚れに関しては,別途技術開発の必要がある。一般的に淡色で新鮮な生物被害の痕跡以外は除去できる可能性は非常に低い。

(4)  クリーニングが終了した後に,保存環境および壁画面の向きに応じて顔料層と漆喰層の強化処置を行う。剥落止めと漆喰層の石材への接着を行う。

3.修理上の課題

(生物被害の痕跡の除去)
濃色の胞子やゲルなどは,キトラ古墳の経験からも絵画に影響を与えずに除去する方法が見いだされていない。すでに,様々な方法が試みられているが良い結果は見いだされていない。

4.庶務

(1) 石材間の接着の可能性と方法。

(2) 石材間に存在した漆喰の取り扱い。

(3) 石材間にあって取り外した漆喰の取り扱い。

(4) 合成樹脂を用いて十分に接着する必要があるため,かなりの濡れ色となる。

(5) 定期的に強化措置が必要である。殊に天井は壁画面が下向きであるため,どの程度まで強化し,石材に接着すれば,どの程度の時間保つことができるか,現時点では見積もれない。いずれにしろ,維持のために定期的な措置の必要があるので,20~30年に一度は壁画面を上向きにして処理を行う必要があると思われる。その際には石室の解体を伴う。

※ (1)~(3)はいずれも,現位置に戻した場合,石材間の相互位置を精密に復原することはできないと思われることから,新たな位置関係を外部からの構造などで安定化する場合を除き,2および3は現位置に戻すことはできないと思われる。

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