資料6


資料6


緊急保存対策として冷却と併用して取り得る方策について

<現状>

高松塚古墳では,壁画の解体修理まで微生物の壁面での増殖を遅くするために,緊急対策として2005年9月以降冷却が実施され,石室内の温度が10℃程度に保たれるように制御されてきた。その結果,石室が高温(20℃前後)になる時期にここ数年大発生していたカビが顕著に発生する状況は2005年には抑制されていた。しかし,2006年2月以降,再度,カビによる壁画のしみが発見され,2006年5月には壁面で暗色系のAcremonium sp.がみられるようになった。このカビは,最適生育温度は25℃付近にあると考えられるが,10℃でも生育し,分生子を形成することができる(「高松塚古墳Acremonium sp.の生育温度予備試験」杉山純多)。以前,顕著であったカビが抑えられた分,このようなカビが相対的に目立ってきたと考えられる。
この暗色系のAcremonium sp.の殺菌には,種々の消毒薬が有効であることがわかっている(「高松塚古墳分離カビ等に対する消毒薬試結果」高鳥浩介)。殺菌処置は適宜行っていくが,それと同時に,解体までの期間カビの生育そのものを抑える方策を併用していく必要がある。

<他に取り得る方策について>

(1)相対湿度を若干低くする
高松塚古墳で従来主要に繁殖してきたカビは,いずれも好湿性のカビであり,環境の相対湿度が90%ないしは80%程度まで低くなると,生育はかなり有効に抑制される(国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会 第5回資料8-2,「高松塚古墳から採取されたカビと酵母の発育湿度調査」阿部恵子)。したがって,相対湿度を現在の100%近い値からやや低減することができれば,カビの発育速度はかなり遅くなると考えられる。
ここで,高松塚古墳の漆喰壁画(特に天井面や損傷が大きい側面部)では,もとより乾燥は壁画への物理的な負荷が大きいと考えられているため,あまり大きな湿度の変化は採用不可能である。行うとすれば,相対湿度90%程度への湿度の低減が,ひとつの可能性として考えられる。
しかし,相対湿度90%程度で現在主要に存在するカビの生育がある程度抑えられたとしても,長期にわたれば,やや湿度の低い環境で生育するカビが発生してくる危険性はある(国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会 第5回資料8-2,「好乾性カビの発育調査」阿部恵子)ため,あくまでも緊急対策と考え,長期による制御は不可能である。

(2)高松塚古墳施設全体としての清浄度の向上
石室につづき取り合い部,前室,作業室,低温前室などの空間があるが,これらの空間の清浄度を高く管理することは,石室へのさらなるカビの汚染を防ぐという点で非常に重要である。結露に対して,定期的にふき取り作業や除菌作業を行うことはもとより,作業用の機材は消毒をして持ち込み,使用しない機材や使用済みの用具などを取り合い部,前室,作業室,低温前室などに置かないように基本的ルールを今一度徹底する必要がある。また,入室時にはタイベックス,マスクを必ず装着し,退出の際も,床,壁,扉などを消毒薬でふき取り退出するなどのルールを徹底する。また,石室へ入る際は,かならず新しいタイベックスを装備し,前室などの除菌作業などで使用したものとは分けるようにルールを明文化する。
以上のような点検,作業の際のルールを明文化したマニュアルを作成,全関係者に徹底周知する必要がある。
さきに述べたように,石室の湿度を低下させる場合にも,取り合いや前室などの空間と無関係に石室の湿度管理を行うことは現状では極めて困難である。したがって,取り合い部,前室,作業室,低温前室などの空間の清浄度管理は,石室の湿度を低下させる必要がある際にも,必要不可欠な要件となる。


2006年6月7日

高松塚古墳から分離されたAcremonium (sect. Gliomastix) sp.

T6517-7-1の生育温度予備試験
杉山純多

分離源 : 高松塚古墳 西壁白虎頭上,黒色部分(2006年5月17日採取)

培養条件 : ポテトデキストロース寒天培地(PDA),暗黒下,6段階温度条件下,10日間培養

培養温度 10℃ 15℃ 20℃ 25℃ 30℃ 37℃
コロニー直径(mm) 4〜7 11〜15 18〜20 45〜50 28〜45
分生子形成量(注)
(相対量)
± ++

(注) 肉眼および光学・実体顕微鏡観察下において,黒色化の度合いを分生子形成量として,相対的に評価した。
±:わずかに形成,+:形成,++:より多く形成,-:形成なし。

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