資料1

国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会作業部会(第9回)議事要旨

1.日時   平成18年7月19日(水)14:30〜17:30
2.場所   東京文化財研究所地階会議室
3.出席者   (委員)
石崎座長,阿部委員,泉委員,内田委員,梶谷委員,川野邊委員,木川委員,岸本委員,高妻委員,肥塚委員,佐野委員,高瀬委員,成瀬委員,松田委員,松村委員,三村委員の各委員
(文化庁)
山?美術学芸課長,岩本記念物課長,小野主任文化財調査官,島田補佐,その他の関係官
(オブザーバー)
杉山検討会委員
4.概要
(1) 開会あいさつ
山﨑美術学芸課長からあいさつが行われた。
(2) 委員及び文化庁出席者紹介
委員及び文化庁出席者の紹介が行われた。
(3) 座長の選出,座長代理の指名
互選により石崎委員が座長に選出され,肥塚委員が座長代理に指名された。
(4) 議事の公開について
事務局より,会議の公開について提案があり,原則として会議を公開することとし,必要があれば報道関係者へ退席を願うということで,また,終了後のブリーフィングは行わないということで了承された。
(5) 石室取り出し後の墳丘部の仮整備について
○ 事務局から石室取り出し後の墳丘部の仮整備の概略説明後,内田委員から詳細な説明があり,以下の意見交換が行われた。
佐野委員 C案(石室レプリカを設置する案)を採用する場合,空調整備をしっかりと行う必要がある。また,管理者が必要となるので,その旨を明記していただきたい。
岸本委員 仮整備のスケジュールを示していただきたい。
小野主任 解体後,時間を置かずに仮整備を実施したい。本日は仮整備の方針案を様々なメリットを勘案しながら検討していただきたい。
岸本委員 今後,修復作業を行うにあたって,様々な状況変化があると思われる。本方針は現時点での仮の方針であると認識してよいのか。
小野主任 恒久保存方針には,「壁画の修理や保存処理工程の段階で壁画の状況を勘案しつつ,検討会において検討を行うものとする。」とあり,今後の状況に委ねる事態は当然あると認識している。この会議の場では,その間の仮整備の方針について検討していただきたいということである。
松村委員 石室取り出し後に,古墳を見学される人たちのことを考慮すると,ある程度,魅力ある整備を行わなければならないと思う。石室取り出し後には,そのまま古墳を野ざらしにするわけにはいかないので,作業は当然急ぐものと認識している。
岸本委員 基本的に,復元的に整備していただきたい。そのためには,更なる研究と調査が必要であり,来年度の整備は難しいのではないか。南面部分などは更なる調査が必要であろう。
松村委員 発掘を行ったのは北半分であり,南半分の情報は全くない。特に周溝がどのように丘陵斜面に沿って流れているのかも不明であり,二段築成のテラスが南面にどう回るのかという点も何ら手がかりはない。復元を行うとなると,かなりの時間が必要になるものと思われる。
岸本委員 仮整備と本整備を区別しなくても,いずれ,古墳を本来の姿に復元的に戻すのであれば,そのためのデータ収集は必要なことであり,そういったことを特段先延ばしにすることはないのではないか。
肥塚委員 石室レプリカを設置するC案を採用する場合,おそらく,石室取り出しに用いたレールクレーンをそのまま活用することになると思われる。このクレーンにはメンテナンスが非常に大変なので,C案ならば仮整備のスケジュールを早めに決めていただきたい。
松村委員 C案の場合,石室レプリカを現地で公開するとしたら,現状の保存施設を活用することは物理的に不可能ではないかと思う。入れて1,2人程度なので,年間25万人の高松塚古墳見学者を当該施設で対応することはできない。
小野主任 公開の在り方として,全く自由に入ってもらうという公開は不可能であると考える。限定的な,入場制限をした公開方法があり得るが,今後の管理運営の在り方で考えていかなければならない。
松村委員 管理がかなり大変になる。
三村委員 仮にC案を採用し,公開で人を入れるのであれば,現在石室が傾いている状態をそのまま踏襲するかという問題もある。人が入ることを想定すれば,構造的に余り好ましくないかもしれない。また,閉塞石が常に開いている状態なので,構造的には弱くなる。固定するなど,何らかの方策が必要である。
高妻委員 石室レプリカの中に人を入れることを想定しての発言なのか。
三村委員 そうである。
高妻委員 それは無理である。
肥塚委員 石室の傾きを復元することは無理である。床石自体が多少なりとも割れているということ,天井石も断裂している。更に側面の微妙な石の一つずつのずれを復元することは困難である。力学的には水平に置くのが適当ではないか。
内田委員 説明の補足をすれば,C案の場合,石室の内部に漆喰を塗ったりするとカビ対策への管理が大変なので,陶板で写真を焼き付けることも考えられる。また,オプションとして,石室内に木棺をいれ,本来の埋葬状態を復元することもアイディアとしてある。
佐野委員 石室レプリカの内面など,出来る限り,カビの生えない材料で作成されることが重要。
高瀬委員 C案では,版築の土層が見学施設と石室レプリカの両壁に露出面ができるので,カビの心配をしなければならない。土層の保存対策が必要。
岸本委員 繰り返しだが,調査をしっかりした上で復元的に行うべき。保存施設を撤去し,墓道などを復元的に出して南壁に至るところを出すことを考えている。
木川委員 復元については,本整備の段階で実施する方が効果的に思う。
肥塚委員 仮整備は本整備をにらんだ形で出来るとよい。現実面からすれば,石の状態や漆喰の状態がわからない以上,取り出し時に整備に向けた対応を行うことは困難だと思う。現時点ではC案が妥当ではないか。その代わり,本整備に向けた対応を仮整備の段階で何か実験といったようなことを実施することはあり得るのか。
内田委員 本整備のリハーサルとして,石室レプリカを入れて,温湿度などの実験を行うことは可能である。
肥塚委員 本整備に向けたことは,段階的に実施すべき。現時点では,応急的な仮整備の位置づけとして,石室取り出し後のどのような埋め戻しを行うべきかを検討する方がよい。
高瀬委員 墓道を開いて石室を見せることは,今のように墳丘部が高く盛られる以前の段階が墓道が開いている状態なので,現時点では,そのような状態を作り出すことはできない。さらに,墓道の壁面の保存がかなり難しいだろう。また,本整備を見据えた仮整備は2段階あると思われる。本整備をどのような環境で行うのがよいのか,どういう施設に戻すべきか,そのようなデータが全くない状態では,壁面の修理期間にしばらく検討していく必要があると思われる。
松村委員 一般の方が高松塚古墳を見る場合,古墳前の星宿広場からになる。そうなると,昭和50年に盛土整備した部分を見て,それが高松塚古墳の形状と誤解される。史跡の整備活用という観点からは,本物の古墳を如何に見せるかという視点が必要ではないか。
松田委員 整備して活用の効果があるのは墳丘ぐらいと思われる。墳丘以外では,石室のレプリカや木棺を入れる程度であって,どれだけの活用の価値があるのか,または意味があるのか考える必要がある。個人的には,高松塚古墳の現状に至った経緯を明らかにして,学習できるようにした方がいいのではないか。
高妻委員 具体的にどのようなものを考えているのか。
松田委員 本整備の形が決まるまでは,墳丘のダメージを考えた場合,あまり細かいところまで詰めても意味がないと思う。それよりも,文化財保存の経過,高松塚の保存に関する経過を十分に説明できるようなものにする方がよいのではないか。仮整備としては,そのまま埋め戻す案が適当ではないかと思う。
内田委員 A案やB案のような余り活用のことは考えない方策ということか。
松田委員 活用しても限界がある。近くに壁画館があるので,それで十分に対応ができる。壁画館で不足しているものをわざわざ墳丘の中に作る(木棺など)必要はないと思う。
肥塚委員 将来的に修理した石室を墳丘の中に戻した場合に活用といったことは考え得るのか。
小野主任 C案で考えているような公開活用よりもさらに限定的になると思われる。
肥塚委員 年に1回でも公開することを目指すのか。
小野主任 不確定な要素がたくさんあるので何とも言えない。
石崎座長 C案の意見が多かったと思うが,B案のそれぞれの長所,短所など,ここで検討した内容をとりまとめて検討会に報告したい。
(6) 壁画の修理方針と手順について
○ 事務局から石室取り出し後の仮設修理施設における壁画,石材の修理方針の概略説明後,川野邊委員,肥塚委員から詳細な説明があり,以下の意見交換が行われた。
肥塚委員 壁画の修理には非常にリスクがある。例えば,壁画が漆喰層が剥がれた場合,漆喰層を接着させる必要がある。過去の経験が言えば,アクリル樹脂を用いた場合,時間の経過によって,アクリル樹脂の濃い部分と薄い部分が漆喰の表面に浮かびあがってきて,濡れ色の部分と濡れ色でない部分が出てくる。剥落止めにはそういった可能性があることを承知していただきたい。
川野邊委員 既に高松塚古墳壁画にはアクリルがまだらに入っている。
肥塚委員 もともと入っている箇所があるということか。
川野邊委員 皆さんが想像されるきれいな状況にはならない。
肥塚委員 まず,劣化しないことを目指すことであり,現在よりもきれいになるということはないということを知っていただきたい。
泉委員 最初に石材を搬入したときに汚れを除去するとあるが,具体的にどのような方法で実施するのか,また,漆喰層を合成樹脂を用いて接着するとあるが,これはアクリル樹脂のことを言っているのか。
川野邊委員 絵画面以外の石材表面をきれいにしたいということ。特に石の外側をきれいにする方法やどの段階で実施するのか。
肥塚委員 土が付着しているものをクリーニングするという意味。時期については状況をみて判断する必要がある。
川野邊委員 現状でかなりのアクリル樹脂が段だらに入っていることを考えると,似た樹脂で行った方が被害は少ないのではないかと考える。
泉委員 樹脂自体が劣化するため,20〜30年にかけて再度修理が必要とあるが,天井壁画のことについてだけのことなのか。天井を元に戻すのは非常に危ないので,別置してレプリカで済ませるなど,様々な方策が考えられる。
川野邊委員 恐らく天井の方がたくさんの樹脂や処理する薬剤を入れ込む可能性が大きいので,再処理が必要となるのは天井が一番可能性が高い。側壁も立てるため,それなりの強化措置が必要となる。例えば,天井が20年で再処理が必要となったとすれば,側壁は30年から40年で再処理が必要となるで思われる。
松村委員 石室の石材の土を落とすことは,発掘によって全体が露出した段階で実施しなければならない問題である。表面は写真撮影や測量の必要性からきれいにするが,組み合っていた面については,その場で掃除するわけにはいかないので,修理施設で作業になると思う。
梶谷委員 石材を取り出した後,絵画面が乾燥で亀裂が入ることが予想されるが,それは十分に抑えられる程度なのか。
川野邊委員 絵画面に関しては恐らく大丈夫。その下の石材がフレーキングされてしまうとどうしようもない。
梶谷委員 凝灰岩の表面にフレーキングとかチョーキングも60%ぐらい起きているということか。
肥塚委員 凝灰岩は火山ガラスでできており,火山ガラス自体がかなり風化してくるため,乾燥の状態を測定し,処理として適当な方策を検討してやっていこうということである。
阿部委員 再度壁面を上にして処理をする必要があるという話だが,凝灰岩というものは,20年,30年に出し入れして保つものなのか。
肥塚委員 凝灰岩をひっくり返すということか。
阿部委員 20年,30年に再度掘り返して全部出してという話なのか。
肥塚委員 凝灰岩自体は大丈夫である。
阿部委員 耐久性は大丈夫なのか。
肥塚委員 確認しておくが,戻す場合,カビ等の問題があるため,博物館のような環境が必要となる。その環境下ではフレーキングなどの石の問題はないと思う。
阿部委員 すごく不思議だが,博物館みたいな環境をその小さな古墳の場所に本当に作れるのか。古墳全部を分解して施設だけがそこに残るという形になるのではないか。
石崎座長 温湿度の制御に関しては,規模を抑えることは不可能なこととは思えない。
阿部委員 仮整備から本整備に移行する際,実験して施設を検討するとあるが,古墳現地で実験することは無理なのではないか。
肥塚委員 本整備の形を検討する際,何らかのシールドをしたような環境をつくって実験を行う必要はある。それが保障されない限りはその修理した石材,壁画を戻すことはできない。綿密な検証は必要。
阿部委員 仮整備の段階でも綿密な検証ができるように,途中から変えるということか。
肥塚委員 石材の劣化状態,漆喰の剥離程度など,状態が詳細に判明した段階にならないと案を作成することができない。7,8年ぐらいはかかると思われる。
岸本委員 数十年ごとに出して修理するとなると,そのような条件で現地に戻すことが必要なことなのか。
川野邊委員 同じような処置をするかどうかは今の段階では分からない,可能性として現時点でわかる範囲で言及したまでのこと。
高瀬委員 本整備をどうするのかはこれからの課題。整備で作出した施設も老朽化すれば当然,作り直すこともあり得る。
岸本委員 そういうことも踏まえて戻すのか,戻さないのかという判断があり得るのではないか。
高瀬委員 保存方針の問題であるが,現時点の検討会の前提条件では,元に戻すとの方針で対策を実施するということ。仮整備もこの方針に従って考えている。
(7) 緊急保存対策として冷却と併用して取り得る方策について
○ 緊急保存対策として冷却と併用して取り得る方策について,木川委員,杉山検討会委員から説明があり,以下の意見交換が行われた。
泉委員 暗色系アクレモニウム系のカビが,死滅している場合でも暗色の色は残ったままと考えるべきなのか。
杉山委員 暗色系の色はそのまま残ると思われる。おそらくメラニン系の色素と思われる。
石崎座長 高鳥検討会委員からコメントをもらっているので,木川委員よりお願いしたい。
木川委員 高鳥検討会委員がカビ対策の中で感じたのは,被害が非常に著しく進んでいるということ,長年にわたってそういう被害が蓄積したものと感じる。サンプリングしたものを顕微鏡で見るとおびただしいカビの微生物が見られる。目には見えなくとも状況的には壁面に微生物に汚染されている状況である。常在化しているのはペニシリウムである。カビはもはや常在化しており,特殊な環境でのカビ除去は困難を極めること,今後の修復措置を考慮するとあまり特殊なものを急に使うことは得策ではない。緊急対策としては,低温化して,カビの発生を制御しながら行うことが緊急対策としては適当。但し,低温でもカビは生えるので,一定期間ごとに点検を実施し,速やかな薬剤対応を実施することである。また,除湿によるカビ制御の可能性については,相対湿度95%以上では発生を制御できないが,80%台にすればかなり制御できる。しかしながら,現時点の状況で解体までの期間を考慮すれば,そこまで心配することはないと書かれている。
岸本委員 湿度を下げる案は,1年以上前から可能性が探られてきたが,今になってどうして再度湿度を下げることが検討されるのか。
木川委員 低温でもカビの大発生は抑えられているが,さらに抑制するために何か方策があるかという点で,もともと危険性があるということで却下された案ではあるが,再度検討するものである。
岸本委員 そうすると危惧されていた危険はないという判断でよいか。
木川委員 カビによる劣化とのリスクを比較検討することはできるのではないかということ。
石崎座長 湿度90%にすることができても,長期に亘って漆喰面の表面に与える影響は現時点で判明していない。リスクが軽減されたわけではない。
岸本委員 安全な湿度95%ぐらいから徐々に始めることは,この1年間で出来たのではないかと思う。
石崎座長 あくまでも先の検討会で低温が一番効果があると決定されたことをこれまで行ってきたもの。
阿部委員 これまでの検討では,湿度を下げることは絶対できないということではなかったのか。仮に可能であるならば,様子を見ながら下げることができたのではないか。
石崎座長 湿度を下げることによって,非常に脆弱な天井面について十分な監視の必要性は変わっていない。
阿部委員 保存施設の「前室」は湿度を下げてはいけないのか。そこにはよくカビが生えると思うが。
石崎座長 「前室」は湿度を90%程度にしている。
阿部委員 例えば,除湿器を入れてもっと下げることは可能か。
石崎座長 現在,石室の中の湿度が急激に下がらないような形で,「前室」部分は90%程度に維持されている。80%程度にすることも可能であるが,石室の中に与える影響が高いものと思われる。
木川委員 石室の解体に伴い,例えば,天井面の養生作業と連動しながら,湿度を下げることも検討ができる。また,発掘作業によって徐々に乾いていく方向にいくので,その過程の中で湿度制御という手段を提案した。
松田委員 今の状況下で石室の中の湿度を下げることは可能なのか。
石崎座長 可能である。
松田委員 以前,墳丘の背後に掘り周溝があるので,矢板を打って北東側からの水分を止めて湿度を下げるべきと提案したが,その時は,石室の北東側については不飽和状態だから効かないと説明があったと思うが。
石崎座長 墳丘の北東側は土自体に空隙が50%あって水が入っている状態にある。そういった状態では新たに水が来る来ないに関わらず,それと平衡する水分量,湿度には影響がない。
松田委員 矢板は効果がないということか。
石崎座長 矢板があってもなくても石室の中の平衡状態にある湿度は100%である。石室内に点検者が入ると湿度が若干下がり,出てしばらく立つと平均して大体95%程度になる。長期間放置すれば,平衡状態の100%になる。
松田委員 ということは,95%程度の湿度に保つことは難しいということか。
石崎座長 平衡状態としては難しいが,除湿したり,外気を入れるなどして一時的に下げることは可能。
川野邊委員 湿度の変化は温度が上がったために相対的に下がっているように見えるだけ。
石崎座長 人が入ることで温度が上がり,湿度も下がる。人が出ることで温度がすぐに元に戻るが,湿度は急激には戻らない。
川野邊委員 飽和しているセンサーの感知能力の問題ではないのか。
石崎座長 そうではない。
川野邊委員 そこでなくなった水分量はものすごい量ではないか。
石崎座長 湿度で水分量としては1立方メートルあたり数十グラム程度なので,例えば湿度が5%下がったとしても数グラムの水がなくなる程度。
杉山検討会委員 湿度95%で壁画や漆喰への影響はないのか。
川野邊委員 ない。
杉山検討会委員 よく状態を見ながら,湿度を下げることが可能であれば,下げた方がよい。
川野邊委員 下げることは可能なのか。湿度を下げることは選択肢にないと理解していたが。
杉山検討会委員 壁画や漆喰そのものに非常に脆い部分があるという話であったと思うが。それが大丈夫という保証があれば湿度を下げた方がよい。
川野邊委員 どんどんと水が来てしまうから湿度を下げられないと理解していた。漆喰の部分まで突っ込んで考えていなかった。
佐野委員 湿度センサーの記録を見る限りでは,壁画が徐々に乾いてきているのではないか。
川野邊委員 自然に乾いてきているということか。
佐野委員 空調を連続で運転するようになったことが一因としてあると思う。直接風を送らないで,除湿剤のようなものを入れてみて,監視していきたいと考えている。
松田委員 話は変わるが,空気漏洩量調査の再調査を実施すべきであるということを改めて提案したい。検査機器の使用法を仕様書に基づいて使っていないので,解体の方針とは別にきちんとした検査を行い調査をしなければならない。座長の意見を聞きたい。
石崎座長 この前の検討会で窒素封入について議論が行われたが,その結果として窒素封入は作業者の安全性の観点からも緊急的な対策とはなり得ないということであったが。
松田委員 作業部会ではそのような議論はされなかったし,空気漏洩量調査に基づいて窒素封入する方法の是非について検討されていない。作業者の安全に影響を及ぼさない方法を採用した上で議論すべきではないのか。
岸本委員 私のところにも窒素ガス封入について外部の技術者から手紙が来ている。なかなか説得力のある内容で,作業者が入るときも酸素を入れ替えることができるとある。本当にできるのであれば,文化庁も真摯に対応すべきであり,作業部会としても回答を出さなければ私は納得できない。
石崎座長 空気が漏洩している箇所がどこにあるのかわからない状態であり,技術的にも酸素を全て入れ替えるという難しい作業。作業者にとっても非常に危険であり取り得る措置とは思えない。
木川委員 実際問題として,現実的にできるかできないかの議論があると思う。
松田委員 それを検討するのがこの場ではないのか。
木川委員 測定方法について見解を取りまとめてほしいとの意見と聞こえたが。現実的に取り得るか否かはこの前の検討会で難しいとの結論が出たものと理解している。
松田委員 検討会では専門的な話はほとんど出なかった。この場で専門的な検討をすべき。空気漏洩調査の検査自体に疑いをもった人がいるので,それをはっきりさせないといけないのではないか。
木川委員 解体間近の現時点であらためて検査をやり直す状況なのかという問題もある。
松田委員 本年3月末段階で文化庁も意見を受け取っていたはずなので,十分時間があったのではないか。過ぎたことにせよ,作業部会でこの問題を放置することには問題がある。
石崎座長 窒素充填の方法は漏洩が全くないような状況での計算結果である。これまで作業部会でも検討会でも生物対策として難しいと判断されてきている。先の検討会ではこの問題については結論は出ており,もう一度議論することはおかしいのではないか。
松田委員 この作業部会に問題を差し戻すべき。漏洩部分の検証として,どの部分についてかを特定しなければならない。実際に漏れている分は十分市販の窒素発生装置で対応できると言っている方もおり,本当にできないかを検討すべき。
杉山検討会委員 今の話に何か具体的なデータを持っているのか。
松田委員 私は専門家ではないので,持っていない。そのことを言っている人の意見である。
杉山検討会委員 現在,石室の壁面は繰り返しの微生物の発生で十分に栄養があり,バイオフィルム状になっているため,そういう状態で窒素を置換していくことがどのような影響があるのか実験的なデータが必要。実際問題として,石室の中で窒素を置換して実験的なデータを得ることはできない。嫌気性のバクテリアもおり,窒素ガスによって必ずしも抑えられるわけではない。
岸本委員 栄養分があるから窒素封入しても効果がないと理解してよいか。
杉山委員 カビの分解に壁画が損傷を受けることは十分に想像に難くない。酸素がなくなっても嫌気性のバクテリアが繁殖することになる。
石崎座長 本件の議論はここまでにしたいが。
松田委員 今後,新たな壁画古墳が出た場合,解体するしか手段がなくなってしまうのではないか。別の手法として,検討することも必要である。
岸本委員 冷却と併用して取り得る手法を検討していたわけだが,窒素封入が取り得る手段でないという理由がきちんとした回答になっていないので,私としては納得できない。
石崎座長 新たな古墳壁画の対策については,今後の高松塚古墳壁画の劣化原因を明らかにしていく過程も踏まえ検討していくこととなると思われる。
松村委員 結論として,湿度は下げるのか,下げないのか。
石崎座長 石室内の状況を勘案しながら,慎重に少しずつ下げていくことを検討したい。
松村委員 これまで聞いてきた話では壁画が剥落するので採用できないと言っていたものを急遽困って採用するという,その保証がどこにあるのかわからない。試行錯誤ではなく,試しにやってだめだったというわけにはいかない。
杉山検討会委員 漆喰の専門家の了解がないとできない。
石崎座長 高松塚の漆喰の専門家というのはいないのではないか。
川野邊委員 私の理解が間違っていたのかもしれない。湿度は下がらないと理解していた。湿度が90%までであれば,壁面に与える影響はあまりないと思う。湿度は下げた方がいいと思う。
木川委員 発掘後の断熱覆屋ある段階では湿度制御ができる。
松村委員 来年1月以降になると思う。
石崎座長 今後は慎重に石室内の状態を見ながら,90%まで下げていくという方針でよいか。
島田補佐 結論付けが曖昧ではないか。アイディアを出す段階で止まっており,具体的方策については明確に整理されていない。
山?課長 具体的な技術的な手法を含めて結論は本日の段階では得られなかったという整理でよいか。文化庁としては,実際に得られた結論を踏まえて判断をしたいが,検討段階であれば引き続き検討いただくという整理でよいか。
石崎座長 今後の検討としたい。

○  石室取り出し後の墳丘部の仮整備と壁画の修理方針については,作業部会の検討を整理して検討会に報告することとされ,作業部会は終了となった。
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