第15回文化審議会文化政策部会議事録

1. 日時

平成17年4月27日(水)  10:00〜11:41

2. 場所

東京會舘本館11階 ゴールドルーム

3. 出席者

(委員)

青木委員 上原委員 永井委員 松岡委員 岡田委員 渡邊委員 根木委員 米屋委員 吉本委員 伊藤委員 河井委員 佐野委員 嶋田委員 田村委員 山西委員 横川委員

(事務局)

河合文化庁長官 加茂川次長 辰野審議官 寺脇文化部長 岩橋文化財部長 亀井鑑査官 吉田政策課長 他

4.議題

  1. (1)部会長の選任
  2. (2)運営規則等の決定
  3. (3)文化政策部会における審議事項等について
  4. (4)意見交換
  5. (5)その他

5.議事

○吉田政策課長 それでは、定刻の10:00になりましたので、ただいまから文化審議会文化政策部会を開催させていただきます。本日はご多忙の中、ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 私は、文化庁長官官房政策課長の吉田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。きょうは、本年2月の委員改選後初めての会合でございますので、部会長が選任されるまで、私の方で議事を進行させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず初めに、文化政策部会の委員の皆様のご紹介をさせていただきたいと存じます。資料3をご覧いただきますと、今期の文化政策部会の名簿がございます。これに沿いまして順次ご紹介させていただきたいと存じます。
 まず、青木委員でいらっしゃいます。
 隣が伊藤委員でいらっしゃいます。
 上原委員でいらっしゃいます。
 岡田委員でいらっしゃいます。
 河井委員でいらっしゃいます。
 熊倉委員は本日ご欠席でございます。
 佐野委員でいらっしゃいます。
 それから嶋田委員でいらっしゃいます。
 関委員は本日ご欠席でございます。
 田村委員でいらっしゃいます。
 富澤委員は本日ご欠席でございます。
 永井委員でいらっしゃいます。
 根木委員でいらっしゃいます。
 松岡委員でいらっしゃいます。
 真室委員は本日ご欠席でございます。
 山西委員でいらっしゃいます。
 横川委員でいらっしゃいます。
 吉本委員でいらっしゃいます。
 米屋委員でいらっしゃいます。
 渡邊委員でいらっしゃいます。
 続きまして、本日の会議に出席しております文化庁関係者の紹介をさせていただきます。
 まず、河合文化庁長官でございます。
 加茂川文化庁次長でございます。
 辰野文化庁審議官でございます。
 寺脇文化部長でございます。
 岩橋文化財部長でございます。
 亀井文化財鑑査官でございます。
 まず最初に、お手元の配付資料の確認をさせていただきたいと存じます。
 お手元の議事日程のところに配付資料一覧表がついてございますが、資料1が「文化審議会について」、それから資料2が「文化政策部会の設置について」、資料3が先程来ご覧いただいております名簿でございます。資料4が文化審議会関係法令でございます。資料5が文化審議会運営規則、そして資料6が文化政策部会運営規則(案)、資料7が「文化政策部会の議事の公開について(案)」でございます。資料8が「文化政策部会における審議事項等について」というものでございます。文化芸術振興基本法が資料9でございます。資料10が「文化芸術の振興に関する基本的な方針」に関する資料でございまして、概要パンフレットと冊子本体と両方を配付させていただいております。資料11は「文化芸術の振興に関する基本的な方針」制定後の動きについて、横長の1枚紙にまとめた表と、資料をつづったものがお手元にあるかと思います。
 また、封筒の下に参考資料として、平成17年度文化庁予算のあらましと、「我が国の文化行政」というパンフレットを配付させていただいております。
 あわせて参考でございますが、「丸の内元気文化プロジェクト」の関係で、「丸の内ブックカフェ」や、「丸の内から文化力」というチラシも配付させていただいておりますので、ご覧いただければ幸いでございます。

※文化審議会令の第6条第3項に基づき部会に属する委員の互選により青木部会長が選任された。

(「異議なし」の声あり)

○吉田政策課長 それでは、今後の議事進行は青木部会長にお願い申し上げます。

○青木部会長 青木でございます。ただいまご指名にあずかりまして、これから部会長として司会の役をさせていただきたいと思います。
 早速でございますけれども、文化審議会令第6条第5項の規定に基づきまして、部会長代理を指名させていただきたいと思います。資料4にその条項が書いてありますが、私といたしましては、本日はご欠席でございますけれども、富澤委員にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

○青木部会長 どうもありがとうございます。では、部会長代理を富澤秀機委員にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

※文化政策部会運営規則及び議事の公開について(案)について事務局から説明後、原案通り決定された。

○青木部会長 それでは、これから議事を進めるに先立ちまして、まず河合長官からごあいさつをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○河合文化庁長官 本日はご多忙のところご出席いただきまして誠にありがとうございます。文化審議会文化政策部会の第15回の開催に当たりまして一言ごあいさつを申し上げます。
 まず初めに、皆様方に対しましては、本部会の委員をお引き受けいただきましたことに厚く御礼申し上げます。今後のご審議をどうぞよろしくお願いいたします。
 前期の文化審議会文化政策部会におきましては、本年2月に「地域文化で日本を元気にしよう!」の報告を取りまとめていただきました。文化庁では、この報告書を全都道府県及び市町村に配布しましたほか、ホームページや各種会合などにおきまして、その内容について周知しているところです。改めて報告書の取りまとめに尽力いただきました委員の皆様に御礼申し上げます。
 平成14年12月に閣議決定いたしました「文化芸術の振興に関する基本的な方針」は、おおむね5年間を見通し、文化芸術の振興に関する施策の総合的な推進を図るために定められたものであります。今後も本方針にのっとり各種の施策を着実に実現していく必要がある一方、次期基本的な方針の策定に向け、社会経済状況等の諸情勢の変化を踏まえ、検討を進めていくことが必要であると認識しているところでございます。このため、この文化政策部会では、基本的な方針に関する検討課題につきまして専門的なお立場からのご議論を行っていただきたく、本年度につきましては、基本的な方針策定後の各分野においてこれまで実施された施策の評価と、今後新たに取り組むべき課題などについてご検討をお願いしたいと存じております。
 私としましては、本部会におけるご議論を十分に踏まえまして、今後の文化芸術振興施策の一層の充実に力を尽くしてまいりたいと考えておりますので、委員の皆様方におかれましては忌憚のない活発なご議論をいただきますように、よろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 私も、今、部会長のご指名にあずかりましたけれども、全く新任の委員でございまして、これまでの経験はございません。いろいろと皆様から教えていただきまして何とか1年で成果を出せればいいと思っておりますので、皆さまの活発なご議論を心から期待しております。よろしくお願いいたします。
 それでは、次の議題に移りたいと思います。本日は新たに文化政策部会の委員になられた方もいらっしゃいますので、本部会の概要につきまして、事務局からご説明をお願いしたいと思います。

○吉田政策課長 それでは、資料1と資料2をまずご覧いただきたいと存じます。
 資料1は「文化審議会について」でございます。この文化政策部会も文化審議会のもとに位置づけられております部会でございます。文化審議会は、平成13年に国語審議会や著作権審議会、文化財保護審議会、それから文化功労者選考審査会の機能を整理・統合いたしまして新たに設置されました審議会でございます。文部科学大臣あるいは文化庁長官の諮問に応じまして、文化の振興あるいは国際文化交流の振興に関する重要事項の調査審議などを行い、そのほか国語の改善に関する事項あるいは著作権法や文化財保護法、文化功労者年金法等の規定に基づく事項を処理するということになっております。
 構成のところをご覧いただきますと、下の表にございますように、国語、著作権、文化財、文化功労者選考分科会という4つの分科会が設置されております。その最後のところに(4)ということで、審議会及び分科会には、必要に応じて部会を設置するとなっておりますが、文化政策部会はこのところで設置されているわけでございます。
 資料2をご覧いただきますと、これはことしの2月の文化審議会の総会でご承認いただいたもので、文化政策部会を設置するということでございます。設置の趣旨は、その3行目の後半に、「文化審議会に、文化の振興に関する基本的な政策の形成に係る重要事項に関し調査審議を行うため、文化政策部会を設置する」となっております。
 その際お定めいただきました調査審議事項でございますが、「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の取り組み状況について、「その他文化の振興に関する基本的な政策の形成に係る重要事項について」という形になっております。
 構成は、先ほどご覧いただきました資料3にありますような総会の委員及び臨時委員によって構成するという形になっているところでございます。
 以上でございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 次に、本政策部会における審議事項などについて事務局からご説明をお願いします。

○吉田政策課長 今度は資料8をご覧いただきたいと存じます。
 先ほど長官のごあいさつの中でも申し上げましたが、平成14年12月に「文化芸術振興基本法」を受けまして「文化芸術の振興に関する基本的な方針」が閣議決定されました。これは、おおむね5年間を見通した基本的な方針ということでございまして、平成14年から始めますと平成18年度をもって一応第1期の基本的な方針が終了するという形になっております。したがいまして、平成19年度以降の国としての「文化芸術の振興に関する基本的な方針」をどのようにしていくかということが今検討すべき事項として出てきているわけでございます。そういう意味で、文化政策部会におきましては、ことしから「文化芸術の振興に関する基本的な方針」についてご検討いただきたいと思っております。私どもといたしましては、これについて2年間をかけてご議論いただきたいと考えております。来年平成18年の暮れごろには新しい基本方針の原案になるようなものをまとめていきたいという思いでございます。そういう意味でことしはその第1段階ということで、平成14年につくられました第1期の基本的な方針につきまして、これまでのいろいろな情勢の変化等を踏まえながらこれに対する評価をしていただきまして、その中から今後の課題というものを探求していくといった段階であろうかと思っております。
 資料8はスケジュール案で、時期を並べておりますが、この部会は1年刻みで任期が切れるものですから、来年の1月ごろには今期のまとめをおつくりいただかなければいけないということになってまいります。そこに向けてこれからいろいろとご議論いただくわけでございますが、本日は第1回目ということでもありますので、私どもの方からこの後、「文化芸術振興基本法」が制定されました以降のいろいろな動きにつきましてご説明させていただきます。それから皆様に自由な意見交換をしていただきたいと思っております。
 第2回は6月上旬に予定しております。ここは、基本的な方針全体を見渡していただきまして総論的な議論をお願いできればと思っております。その後、7月から11月にかけまして4回ほどの部会開催を想定しております。この4回の間には、それぞれの分野ごとに少し集中したご議論をいただきたいと思っております。各論といいましょうか、その具体的な進め方につきましては、また委員の皆様のご尽力を賜ることが多々あろうかと思いますので、また青木部会長とご相談の上、改めて6月にでもお諮りさせていただきたいと思っております。12月と1月はそれまでの議論をまとめていくといった作業を私どもの方では考えているところでございます。
 以上でございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。
 次に、審議に先立ちまして、今ご説明のありました検討の対象となります「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の評価と今後の課題に関して、基本的な方針の概要と策定後の世界と国及び文化庁の動きにつきまして、事務局よりご説明をお願いします。

○吉田政策課長 資料9から11までの説明をさせていただきたいと存じます。
 資料9は、この見開きのものでございますが、これが平成13年に制定されました「文化芸術振興基本法」でございます。この中で基本方針を策定するということが第2章のところに出てまいりますので、これに基づいて資料10にあたる「基本的な方針」ができているということでございます。
 「基本的な方針」については、冊子の方をご覧いただきたいところではございますが、これはなかなか大部のものでございますので、こちらの見開きのパンフレットの方をまずご覧いただきたいと存じます。この基本方針は平成14年12月に閣議決定されたものでございます。このパンフレットは、冊子の内容をできるだけポイントだけ抜き出すような形で書いてございます。
 見開きを開けていただきますと、国はどういうことに取り組むのかということで、国の役割が書かれております。国としては、特に次の事項を重視して取り組みますとして、文化芸術に関する教育、国語、文化遺産といったことがずっと並べてございます。右側には、地方公共団体や民間の役割といったものについても記載されております。
 それから、少々前後いたしましたけれども、ちょうど今開いていらっしゃいます右側の「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の「文化芸術の振興の必要性」というところで、五角形のものがございますが、こういうところに焦点を当ててということを述べているわけでございます。
 具体的な施策につきましては、右側を開いていただきますと、「文化芸術の振興に関する基本的施策」ということで、そこに各分野ごとにどういうものが必要であるか述べられております。芸術の振興から始まりまして、メディア芸術、それから伝統芸能、芸能、生活文化、国民娯楽、出版物等、そして文化財等の保存・活用、地域の文化芸術の振興、国際交流等の推進、真ん中あたりは芸術家等の養成・確保等、それから国語の正しい理解、日本語教育の普及・充実、著作権等の保護・利用、そして国民の鑑賞等の機会の充実、高齢者、障害者等の文化芸術活動の充実、青少年の文化芸術活動の充実、学校教育における文化芸術活動の充実、一番右側の列には、これは文化施設の関係ということになりますが、劇場、音楽堂等の充実、美術館、博物館、図書館等の充実、そして地域の文化芸術活動の場の充実、公共の建物等の建築に当たっての配慮といったことがございます。それから下は、その基盤に関わることでございます。情報通信技術の活用の推進、地方公共団体・民間の団体等への情報提供、民間の支援活動の活性化、関係機関等の連携、それから顕彰、そしてこういう政策形成への民意の反映といったことが基本的な施策として掲げられております。そこで、私どももこの基本的施策に沿って、これまで逐次さまざまな施策を実施してきたところでございます。
 そのあたりを少し表にまとめておりますのが資料11です。それぞれの事項につきましては、添付資料がございますので、それを適宜ご参照いただければと思います。この横長の表をご覧いただきますと、左側が世界及び国の動きという形で整理しております。右側が文化庁の動きということでございます。一番右側に添付資料対応番号がございます。これはご参照の際の便宜ということでございます。
 まず平成14年12月のところをご覧いただきますと、ここで「基本的な方針」が閣議決定されました。また、同じ12月には平成15年度の政府予算案におきまして文化庁予算が初めて1,000億円を突破したといったことになっております。
 その後、平成15年2月に、これは文化財の関係でございますが、日本の文化庁と韓国文化財庁との間での文化財の交流・協力に関する討議記録、一種の覚書のようなものでございますが、それに署名するということがございました。ここは国際協力というところでの取り組みでございます。
 その後、平成15年3月に、「知的財産戦略本部」が設置されました。文化庁の動きとしては、「国際文化交流懇談会」で「今後の国際文化交流の推進について」という報告をいただいております。これを受けて、この後のさまざまな国際交流関係の事業、例えば「国際文化フォーラム」の実施や、「文化交流使」の派遣等につながってくるということでございます。
 それから、14年4月には「観光立国懇談会」の報告書が提出されました。観光という側面には文化が大きく関わっておりますので、この報告書の提出もその意味で注目すべき事柄です。文化庁側でございますが、この4月には「映画振興に関する懇談会」が「これからの日本映画の振興について」というテーマで報告を出しております。これを受けまして「日本映画映像振興プラン」の策定につながっていくわけでございます。
 5月には、河合長官の多大なリーダーシップで「関西元気文化圏」を始動させるということがございました。
 6月には、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2003」が決定されております。
 7月には、「観光立国行動計画」、それから「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」について、先に見ていただいた戦略本部あるいは「観光立国懇談会」の報告などを受け政府として決定していきました。
 右側をご覧いただきますと、文化財関係ですが、「アフガニスタン等文化財国際協力会議」の報告が出され、アフガニスタンにおける文化財の保護に関する協力事業についてさまざまなご提言がありました。また、同じ時期には「イラク文化財保護国際会議」も東京で開催され、イラクに対する支援などをここで決めていくということになったわけでございます。
 9月には、「地方自治法」の一部を改正する法律が施行されて、この中ではいわゆる指定管理者制度が導入されるといった重要な法律改正が行われたわけでございます。
 10月には、ユネスコ総会におきまして「無形文化遺産の保護に関する条約」というものが採択されました。有形の文化遺産、世界遺産につきましてはご存じのように70年代から条約もあったわけですが、無形文化遺産の方につきまして新たにこういった条約ができたということです。なお、この条約につきましては、昨年の通常国会で国会の承認が得られまして、既にユネスコに対しては、日本国として締結の手続をとったところでございます。また、同じ10月には、地域再生ということで、「地域再生本部」の設置も行われました。
 11月には、「ユネスコ」が人形浄瑠璃文楽を「人類の口承及び無形遺産の傑作」に宣言いたしました。これは、先ほどご覧いただきました「無形文化遺産の保護に関する条約」の先駆けといった位置づけでございます。日本では能楽を第1回目といたしまして、第2回目が文楽ということになったわけでございます。同じ11月には、「国際文化フォーラム」の第1回が開催されております。それ以降毎年実施しております。
 平成16年になりますと、「著作権法」の一部を改正する法律が施行されました。その内容は、括弧書きにありますように、映画の著作物の保護期間の延長等の事項をここに含んでいるものでございます。また、同じ1月には、「国立劇場おきなわ」が開場するということがございました。
 2月には、文化審議会の方から「これからの時代に求められる国語力について」の答申がございました。また、この文化政策部会では「今後の舞台芸術創造活動の支援方策について」の提言もなされたわけでございます。
 平成16年4月の欄でございますが、文化庁の方では文化遺産オンライン、これは各博物館ですとか美術館にございます文化財をインターネットを通じて総覧できるようなシステムの開発を進めておりますけれども、その試行版ができましたので、それを公開するということをこの4月に始めたわけでございます。
 5月には、「知的財産推進計画2004」の決定がなされております。同時期に文部科学省文化庁が丸の内地区に移転したということもございまして、「丸の内元気文化プロジェクト」を始めたということでございます。
 6月には、「骨太の方針2004」の決定がございました。それから、先ほど少しご紹介いたしましたが、「無形文化遺産の保護に関する条約」をこのときに締結しております。文化庁サイドとしましては、文化政策部会の方で「文化多様性に関する基本的な考え方」の報告がなされました。これは、今現在ユネスコの方で「文化多様性条約」の作成作業が進められておりますけれども、それに対する我が国の考え方、対応方針をここで固めていただくといった作業をしていただいたわけでございます。
 7月にまいりますと、これは世界遺産でございますけれども、「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されるということがございました。
 8月には、文化庁の欄をご覧いただきますと、「文化財国際協力等推進会議」の報告がなされました。これは、前にアフガンですとかイラクですとかというところでいろいろな会議なども行っていたわけですが、より包括的に今後日本のすぐれた保存修復技術などを活用してさまざまな文化財国際協力を進めていくといったことの基盤をつくるという内容の提言が行われております
 9月には、これは議員立法でございますが、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」が制定され施行されております。同じ9月には、フィルムセンターの在り方に関する検討会が「フィルムセンターの独立について」の審議のまとめを発表したところでございます。
 10月には、傑作宣言の第3回目に日本からは歌舞伎を推薦したわけでございます。今現在、審査をユネスコの方で進めているところでございます。同じ10月には、奈良で「有形文化遺産と無形文化遺産の保護」というタイトルの国際会議を開催いたしまして、「大和宣言」というものを採択しているところでございます。これは、「世界遺産条約」と「無形文化遺産条約」の両方がそろったということもございまして、有形文化遺産と無形文化遺産の融合といったことを目指したものでございます。
 11月には、「観光立国推進戦略会議」の報告がなされております。同じ11月には、文化庁関係では、大阪にございます「国立国際美術館」が大阪中之島に移転するということがございました。
 同じ年の12月には、「文化外交の推進に関する懇談会」が官邸の方に設置されるということがございまして、これは青木先生がその座長を務めていらっしゃいますけれども、今現在検討中でございます。
 ことしに入りまして1月でございますが、「日韓友情年2005」が始まったわけでございます。右側をご覧いただきますと、「著作権法」の一部を改正する法律が施行されました。これは、音楽レコードの還流防止措置、あるいは書籍・雑誌の貸与権の付与などを内容とするものでございます。
 2月には、これは「地域再生本部」の方で取りまとめたものでございますが、「地域再生推進のためのプログラム2005」が決定されました。同じ2月に、文化審議会文化政策部会では「地域文化で日本を元気にしよう!」というタイトルの報告を出しました。また、年末から準備を進めておりました「お雑煮100選」を2月9日に発表させていただいております。
 3月には、文部科学大臣の方から「敬語に関する具体的な指針の作成について」、また「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」の諮問をいただいたところでございます。
 4月には、「文化財保護法」の一部を改正する法律が施行されました。これは、文化的景観の創設、あるいは民俗技術の保護、登録文化財制度の拡充といったものを内容とするものでございます。あわせまして、4つ目の国立博物館として「九州国立博物館」が機関設置されました。
 こういったことが14年12月以降行われたということでございます。以上でございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまから委員の皆様のさまざまなご意見をお聞かせいただくことにしたいと思います。ただいまの事務局のご説明への質問も含めまして、資料8の検討事項に沿って意見交換をお願いしたいと思います。本日は初めての会合でもございますので、委員の皆様方の「文化芸術の振興に関する基本的な方針」及び文化行政全般についてのお考えなどをお聞かせいただければありがたいと思います。ご意見はいろいろとお聞きしたいのですけれども、たくさんの委員がいらっしゃいますので、甚だ申しわけございませんが、お1人3分以内程度でお話しいただければありがたいと思います。早速でございますけれども、ただいまご説明いただいた「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の制定後の動きも非常に多様で、いろいろとご質問やご意見があるかと思います。そのあたりに加えて、文化行政全般の方針についてもご意見を賜れればと思います。それでは、あいうえお順にご発言をお願いしたいと思いますので、私は青木でもう大分話しましたので、次は伊藤委員、それから上原委員という順番で進めていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、伊藤委員、よろしくお願いします。

○伊藤委員 静岡文化芸術大学の伊藤でございます。このたび初めて委員を拝命いたしました。
 私は、大学ではアートマネジメントを中心に学生たちに教えておりますが、今回この委員になるに当たり、実は4年前に「文化芸術振興基本法」ができるときに若干批判的な発言をしてきた人間としまして、基本方針を改めて見直したときの感慨にはたいへん大きいものがございます。もっとも、私自身基本法をつくることに対して反対していたわけではございません。こちらに米屋委員がいらっしゃいますけれども、芸団協の基本法に関する委員会等にも関わってもまいりました。そのときに私自身が感じたのは、一つは、国、地方自治体、民間、さまざまな文化を支えるセクターが多様化している中で、国、それから地方自治体、あるいは民間の役割というものをもう少し明確にとらえ直していく必要があるのではないだろうか。この辺に対する議論がやや甘いのではないのかということが非常に気になっておりまして、もう少し時間をかけた議論をということを述べてきた次第です。その基本的方針の中にも、地方公共団体、民間に何を期待するかという形で、こういった趣旨がある程度生かされて述べられてきております。
それと、私自身特に重要だと思っていることがあります。それは、このところ話題の指定管理者制度や、あるいは文化庁がずっと行っております芸術拠点形成などに関わって地域で文化を支えていく文化関係者あるいは市民等、実にさまざまな人たちがいる。その人たちが議論し合い、自分たち自身の文化をつくり上げていくために活動していくような拠点というものをつくっていくことが非常に重要ではないかということです。そういう動きの中で指定管理者制度がどのように関わっていくのか、こういうものを含めた上で今後の動きというものを見ていきたいと思っております。
 きょうは総論的な話ですので、細かな話についてはまた別の機会に触れさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、上原委員、お願いします。

○上原委員 多少伊藤委員とダブるところがあるかもしれませんが、私も、指定管理者制度は、この基本方針が定められて以降の動きの中で最も大きな影響力を持つ法改正だと思っております。どのように効いてくるのかということと、それから図書館、美術館、博物館というものと指定管理者制度がどう関わっていくのかということもとても大切なことだと思っています。これはぜひ教えていただきたいのですが、個別法、つまり「博物館法」や「図書館法」とこの自治法の改正にかかわる部分がどういう関連性を持つのかということもぜひ法律の専門の立場から文化庁の方で伺えればいいなと思っています。
 それから、この表にはないのですが、国のさまざまな文化施設が独立行政法人になりました。「日本芸術文化振興会」もたしか平成15年10月ではなかったかと思うのですが、それがどういう効果を持っているのかということ。実際、両方の側面があると思います。もちろんメリットもあるでしょうし、これはちょっと考えものだというところもあると思います。そういう部分もこの基本方針を改定する場合に、視野に入れておくべきではないかと思っております。
 以上です。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 では、岡田委員、お願いします。

○岡田委員 岡田です。私は、ちょっとインターネット絡みで話したいと思います。
 いつもこのような場で言っておりますが、文化とは生活そのものであって、心の有り様だと思います。心の有り様ということは、人が集うときに感情の交流が始まることであって、この一連の活動というのも、人をいかに集めて、そこでみんなで一緒に何をしようかということを一生懸命考えていらっしゃるということはすばらしいことだと思います。そして一方で先程申し上げましたネット文化というのが広がっておりまして、人間の孤立化だとか、下手をしたら人間がサイボーグになってしまうのではないかというような怖さがある。しかし、この基本法ができたときにはまだそのようにネット文化というのが、急速な勢いで普及し始めてはおりましたが、これほどまでにはなっておりませんでした。基本方針にもこの情報通信技術、ITの推進ということでいい面だけを取り上げていて、負の部分、さっき申し上げた人間の孤立化とかサイボーク化の恐れとか、そして野放しにされていて、ネットに人の悪口などが書き込まれていくというネット文化の負の部分が一切書き込まれていないことが少し気になりましたので、それについて話させていただきました。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、河井委員、お願いします。

○河井委員 私は、地方自治体の立場で一つ申し上げたいと思っております。
 この基本方針に載っている言葉を借りますと、「文化芸術の頂点の伸長」という言葉と「文化芸術の裾野の拡大」というものがございますが、私どもは主に「文化芸術の裾野の拡大」という方の役割が多いと思っております。一つの文化事業で必ずしもそのベクトルが頂点と裾野で、垂直と水平に分かれるものではないと思うのですが、主に「裾野の拡大」という役割を担う立場かなと思います。それで、地方での文化活動の現状を見ますと、鑑賞型ということから既に脱皮し始めて、体験型あるいは技能習得型に移行してきている状況でございます。鑑賞事業などを一つの動機としまして、体験や技能の習得ということに取り組みたいというような欲求を持つようになった市民に対して、どのような継続的な支援をするのかというのが大事なテーマになっております。金銭的に、あるいは指導者をどう供給するかということが大きなテーマだと考えております。
 それからもう一つは、地方で文化事業をやっておりますと、先ほどの資料にも「観光立国」という言葉がございましたが、コンベンション機能との関係をもう少し明確にして市民に説明する必要があるかと思っております。私どもも単独で経済波及効果を調査しようとしているのですが、なかなか技術的に難しい面があるということで、その辺の説明がもっとつけば、予算的にも有利になるのではないかということを感じております。
 以上でございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 では、佐野委員、お願いいたします。

○佐野委員 佐野です。私は民俗学という学問を専攻していまして、最近は青木先生の方のもう一つの民族学が文化人類学となりましたので一々言わなくて済むのですけれども、風俗の俗の民俗学であります。それで、地方の農山村などによく行くのですが、ご存じのようにそこでは大変元気がなくなっているわけです。ですから、先の文化政策部会報告書の「地域文化で日本を元気にしよう!」という題名は大変いいものだと思っております。文化振興が地域振興に連なるようなことについて、この場でいろいろ考えさせていただきたいと思います。
 まず一つ目。自分の大学の宣伝のようにもなるのですが、私は澁澤敬三という人が創設者した常民文化研究所に所属しています。例えば日常庶民が使ってきた民具といったものも、一度は保存されながらも、今もう一度消滅しつつあるという危機を迎えています。実は、中国などでもこうした民具といったものの保存をどのようにしていくべきかに大変悩んでいる。そういったところに日本の持つ民具の整理・保存のノウハウを生かすことができる。先ほどの国際交流ということも、文化の一つの輸出ということでやってみたいと思います。
 それからもう一つは、今、人類文化の研究のための非文字資料の体系化ということで、21世紀COEプログラム「世界的研究拠点形成のための重点的支援」の文科省のプロジェクトに採択され、取り組みを進めております。これを見ると、文化芸術の振興と重なる部分が大変多い。こういう文化芸術の振興の理念的な問題と実践的な問題とをどう結びつけたらいいのか、これも考えさせてもらいながら、そういうローカルな問題とかナショナルな問題、グローバルといった視点で統合できるようなことを皆さんから学ばせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 嶋田委員、お願いいたします。

○嶋田委員 花王株式会社の嶋田と申します。私は、花王の中で社会貢献の担当者ということで、メセナを含めた社会貢献の支援活動と、それから花王芸術科学財団の専務理事を勤めております。きょうはどちらかというと企業の側から支援する立場で、この法律はどう関わっていくのかということについて、少し勉強もしたいですし、意見も述べたいと考えております。
 実は、2000年からこの担当をしておりまして、それまでは余り文化ということを企業人としては考えてきませんでした。ここ数年文化庁がお進めになられている、例えば「関西元気文化圏」のこととか、「丸の内元気文化プロジェクト」とか、さまざまな施策があることで、文化というものが雲の上のことから我々の身近なものに近づいてきたというのが一般的な社会人の感覚なのではないかと思っております。そういう意味では、今まで文化というのは非常に遠いところにあったような気がしますが、これからは国民全体が文化に関わっていくし、考えていかなければならないので、先程の2つのような施策をもっとたくさん実施していただきたいということが一つ。
 それから、企業の側から言いますと、今ご存じのとおり、企業の社会的責任――CSR経営というのがトレンドになってまいりまして、社会的な貢献というのもどちらかというと本業の中でいかにするかということがテーマになってまいります。そうすると、文化ということにつきましてはとりあえず置いておいて、ある一定の予算の中ですと、どうしても文化への支援が隅に追いやられがちになってきたのです。日本の産業を考えますと、これから付加価値の高いものを生産していくということを考えると、やはりものづくりには文化度というのはすごく重要に関わってくると思いますので、この点をもっと社会的にPRしませんと、とりあえず文化は置いておいて、本業で社会的な仕組みをどうつくるかとか、グローバルにどう打ち勝っていくかということにどうしても費用が移ってしまうので、そこは担当者としてはちょっと危惧しているところです。寄附の問題も、今おかげさまでメセナ協議会を通じて、そこで認定されたものについては税制のいろいろな猶予も受けられるようになってきましたので、少しやりやすくなってきた。でも、これは文化だけの問題ではなくて、全体的に個人が寄附をするには日本の社会は少し厳しい状況ですので、これは国全体で考えていかなければいけない問題ではないかなと思っております。
 今回初めての参加で、私もこういう審議会というのは初めて出席させていただくので、お役に立てるかどうか、ちょっと不安ですけれども、企業の現状からさまざまな問題を提案もし、一緒に考えていきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 田村委員、お願いします。

○田村委員 田村でございます。私は、地域づくりといったことの中で、文化というものとの接触面について、ここ30~40年ずっと考えてまいりました。それで、今、地域づくりではちょっと遠くに見えるのですけれども、私は、芸術文化という領域と地域文化あるいは企業文化というものはちょうど縦糸と横糸の関係があって、文化という同じ言葉を使いながら、ややファンクションとか働きかけ、語り口が違うかなと思っています。そして、その両方をどういう形で組み合わせていくかというのが、日本の社会の中で文化というものをトータルに語ることだと思います。そういう意味で言いますと、今、地域づくりの中で持続的、内発的なまちづくりというのが非常に大きな意味を持ってきています。これは突き詰めていきますと、本当は全部文化という価値に帰着することなのです。あるいは非文化的な要素を克服するというか、ただそれをやっていきますと日本社会の既存システムとぶつからなければいけないというので、非常に苦労しているところがあります。
 そういうことでやってきているのですが、きょうはちょっと皆さんと違う角度からお話ししたい。それは、文化ということは、30年とか50年ぐらいの範囲で考えていくべきことだということです。そうしますと、ことしは昭和81年になりますが、昭和50年ぐらいから状況が非常に変わってきた。そのあたりから、ここにたくさんの方がいらっしゃいますけれども、日本の中には多様化が進んで、今さら様式とかトータルな文化状況を語る時代ではないのだけれども、大変なストックができてきたように思うのです。実のことを言いますと、この10年、日本の社会というのは非常に苦しい思いをしてまいりました。私のつき合ってきた人たちの、98%以上は中小零細企業の人たちとか、非常に疲弊した地域の人たちでした。私がそのときにしみじみ感じ、また、たくさんの方からも聞いたのはこんなことでした。例えば美術館一つがそうした人たちのものすごいしんどさをどれだけ助けたかということは、確かにデータには出ない。しかし、これが実に大きなことだったと。そうした意味から、この30年のストックをどう生かせるか。例えばこの基本法に「恵沢」という言葉があります。それから、5条にこれを使う人の側の問題がありますけれども、その人たちがこの30年のストックでどれだけプラスを得てきたかということ。これは、供給者側の状況が何であろうと、私は非常にすばらしいことをやってきたという確信を持っています。特にこの10年ぐらいは、いろいろな意味で我々は非常に傷み苦しみながら自分たちを取り戻す時代だったと思うのです。その過程で例えば「自己実現」とか「スローイズム」といったたくさんの言葉が出ました。そういう中で非常にたくさんの文化体験とか文化施設、文化装置との関わり、ハードもソフトも含めて、そういうことが非常に大きな媒介項になったということ。これは忘れてはいけないことだと思っています。
 一つ具体的な例を挙げますと、富山県高岡市で企業内告発をしたために完全に干された方が1人いらっしゃいました。その方が精神的に頼ったのは何か。富山美術館のキューレーターのボランティアをなさったということが非常に支えになったという話を聞きました。私はこれはたいへん象徴的だと思いますが、非常に大きな広がりのある世界を我々はつくってきたし、文化に対しても、こういう目で見ていくべきだと思っているのです。
 もう一つは、そういうことが結局地域づくりの中の触媒になっていく。大きな引っ張り手になっていくということがこれから非常に大切なことです、先ほど言いましたように、持続的、内発的な文化的発展を遂げた地域には、何もハードがそろっていたとは限らない。やはり私は、いろいろ語り合っていると、その中でいわゆる政治的なアクティブや経済的あるいは産業的なアクティブではなく、文化的なアクティブの方が持続的に、周囲の内発的なものを引き出すようにして引っ張っている。こういうことが大きいと思います。ですから、こういう意味で、今やその人たちは文化のコンシューマーではなくて、プロシューマーだと思いますが、そういう面からどう見ていくかということ。それを文化庁さんが出されている大きな流れの中でどう考えていくのかというのも非常に大切なことではないかと思っています。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 永井委員、お願いします。

○永井委員 私は芝居のつくり手ですので、いい演劇作品が生まれるためにはどういう支援のあり方が必要であるか、それから現在の支援がどのような効果を出しているかということについて大変関心があります。ですが、きょうは少し別のお話をしたいと思います。
 最近しみじみ思うのは、アーティストが育っていくためには、観客が本当に重要だということです。非常に質のいい観客、厳しい観客に支えられてアーティストというものは成長していくものだと思います。ところが、日本は戦後の復興と高度成長期に、芸術を鑑賞するという習慣がなかなか働き手の中に根づかなかった。根づくような条件がなかった。これは現在でもそうで、今、芝居はほとんど昼公演になってしまっています。お昼に見に来る方が多くて、夜公演は18:30とか19:00開演にしますと、22:00以前に終わらないと劇場に延長料金を取られるとか、いろいろな問題があるので、早目に終わりたいのです。それで、ぎりぎりおそく19:00に始めたにしても、会社に勤めていらっしゃる方で19:00に来られる方というのはたいへん少ないのではないでしょうか。ご飯も食べずにぎりぎりに来て、劇場で寝ているということになりかねないのです。「文化芸術振興基本法」ができましても、働き手の側、芸術を見る方の側の条件が変わらないと、これは享受できない。また、最近若い人は非常に貧乏です。ニートという言葉もありますが、お金を持っていない。つまり、働けない。もちろん自分が怠けて働けないのだったらそれはしようがないのですが、働きたくてもなかなか雇用してもらえない人が演劇などを見るには、チケットが高過ぎます。私たちもぎりぎり頑張っていますが、地方の公共ホールにおいての公演でさえ6,000円とか1万円を超してしまう公演が出てきます。
 それで、話は指定管理者制度にいくのですけれども、この指定管理者制度というものは、経済効率だけで運営を評価されると、これはまた違ったことになってくるのではないだろうか。私はまだこのことについて詳しく研究していませんが、いい形で民間の力が活用されればいいですけれども、スターを連れてきて高いお金で公演をして利益を上げるという形で運営自体はうまくいっても、それを見る側の人が文化を享受できる形になるかどうかということはまた別問題だと思います。ですから、そういうこともあわせて考えていかなければならないのではないかと思っております。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、根木委員、お願いします。

○根木委員 今回は基本方針の改定ということですので、この点について若干感じたことをお話し申し上げたいと思います。
 基本方針の目次を拝見しておりますと、大ざっぱには第1と第2に分かれておりまして、第2の方のは、具体的な基本的施策についての細かい内容に関して、今後どうあるべきかということを個別具体的にどう盛り込んでいくかということであろうかと思います。一方第1の基本的方向の部分に関しては、今回どういった内容をこの中に盛り込むかということになるのではなかろうかと思われます。第1の1の「文化芸術の振興の必要性」というくだりに関しては、恐らくは基本法の前文の第1・第2段落、あるいは平成14年の審議会の答申の第1章の部分を多少要約される形でまとめておられるのではなかろうかと思われます。これはこれで、今後将来的にもこういった方向性ということはそのまま継続できるのではなかろうかという感じを持っているところです。いま一つの1.の2の(2)のところの「重視すべき方向」と、4.の「文化芸術の振興に当たって留意すべき事項」のあたりに今後の新しい方向性というものをお入れになってしかるべきではなかろうかという感じがしております。
 先ほど政策課長のご説明で文化庁の施策についてのお話がございましたが、あの一覧表を拝見しておりますと、国際環境の変化といったことも大分あるような感じがいたしております。そういったことも「重視すべき方向」あるいは「留意すべき事項」の中に多少とも取り込んでしかるべきではなかろうかといった感じもいたしております。
 いま一つは、人材育成についての言及がここではやや弱かったのではないだろうか。基本法の中にも芸術家等の養成ということで1条は確かにありますけれども、この点もいま少し配慮すべきではなかろうか。
 それからいま一つは、振興策の基本方向といったものへの言及に関しても、多少めり張りをつけた形でのものの言い方ということもあるのではなかろうかという感じもいたしております。
 いずれにしましても、第1のところにこれからの方向性ということも頭に入れながら、いま少し表現に配慮すべきではなかろうかという感じがしているところです。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、松岡委員、お願いいたします。

○松岡委員 私は、これまで国語分科会に所属して、いろいろ答申をつくることなどにも関わってきたので、その立場でこのメンバーの一員にということなのかもしれません。ですが、総論にかかわることというお話なので、そこから少し離れて、今、文化と行政とか、経済とか、教育とか、そういうことで考えていることをお話しさせていただきたいと思うのです。
 資料11で世界及び国の動きと文化庁の動きというこの対照表が私のふだん考えていることを示してくださるという感じがしますが、どうもこのところ、政治、経済、それから治世と言ったらいいのか、それで決まっていくことや行われていること。これが、何か文化ということを軸にして考えると、そこと抵触することが余りにも多くなっているのではないかという気がします。この間のこの会でも申し上げましたが、例えば市町村合併というのが地域の名前を消し、そこに積もってきた歴史を消し、ひいては文化を消していくということ。それから指定管理者制度にしても、現場で芝居なり何なりをつくっている人たちの文化の側から見れば、必ずしももろ手を挙げて賛成できるものではないということです。非常に象徴的なのは、ちょっと過激なことを言わせていただければ、文化庁の動きでアフガニスタン等文化財国際協力会議、それからイラク文化財保護というのがありますけれども、国でやっていることは、これを壊しにいく側に手を貸しているのではないか。本当に過激に言い過ぎているかもしれませんが、あえてわかりやすく言えば、そういうことではないかと思うのです。
 これから可能ならばですが、この先の5年間の基本方針を出すときに、文化庁というのはとても大きな矛盾の中を生きなければならない官庁というか行政機関だと思います。そういうことからすれば、国がそれぞれの部署から持ってくることに対して、文化という側からそれを受けとめていく省庁だと思うのです。例えば日韓友情年にしたって、文化庁の方で推進していくことと政治・経済の側で起こっている現象とは完全にぶつかってしまっている。観光ということが文化の一部だということは、確実にそうなってきていると思うのが、それですら、今現に中国の修学旅行を取りやめるとか、日本に韓国・中国の若い人たちが来るということを阻むような動きになっている。可能かどうかはわからないのですが、これから先の5年間の基本的な方針というのを考えるときに、文化の側から行政・政治・経済・治世ということに対して、何か歯どめをかけるようなことは、ぜひ盛り込むようにしていけたらと、文化政策部会の一員として思うのです。例えば、基本方針のどの文章を読んでも自主性とか創造性とかという言葉が出てきます。でも、例えば東京都がやっている、国旗を掲揚するときには先生が全員立たなくてはいけない。そうでない人は減給とか減俸とか訓戒とか何か処分をされてしまう。そういう先生が萎縮するような、先生に踏み絵を迫るような状況で、子供たちに何の自主性、何の創造性という感じがするのです。
 ですから、繰り返しますけれども、文化ということを軸として、各省庁がいろいろとやっていることに対して、それでは文化の側からはやっていけない、文化が壊れてしまうといったことをきちんと発言していけるような基本方針というものにしていきたい。非常に大きな問題であり、微力な私にはどうしたらいいかわからないのだけれども、思いを吐露しまして、ここで皆さんで知恵を絞っていい基本方針をつくっていけたらなあと。最初なので、少々大ぶろしきを広げさせていただきました。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、山西委員、お願いします。

○山西委員 山西と申します。私は、県と市の行政に9年、それで小学校の校長1校、中学校の校長2校を経験いたしました。それぞれ文化的に明るい専門の先生方と違って、学校教育の現場からこの文化をどう子供たちに具現化していくかという観点でこの部会に入ったと考えております。私どもは、指導要領の柱の中で、豊かな人間性や社会性を培い、国際社会に生きる日本人としての自覚を育むことを学校教育にどのように具体化するかという方針を受けて、それぞれの仕事に励んでいます。しかし、ややもすると、今大きな問題として教育現場では学力低下をどうするかということが非常に大きな論調としてあり、確かな定義がないままにその点での保護者あるいは地域方々からの学校への要望も強くあるわけです。しかし、もう一方で考えなければならないのはこの文化の面です。私は学力をどうするかということを単独の問題として考えるのではなく、それを文化と一緒の形で考えていかなければならないと思っています。それで2点だけお話を申し上げさせていただきます。
 1つ目。先ほどご説明いただきました基本的な方針の第1の1.「文化芸術の振興の必要性」のところで5つの基本的な方針が挙げられていたかと思いますが、実は「人間が人間らしく生きるための糧」から始まるこれらの方針は、文化芸術の方針だけではなくて、学校教育の中で教育文化あるいは芸術文化をどう推進していくかという意味での一つの方向性や必要性を説いているのではないかと読ませていただきました。この5本の柱がいわゆる文化芸術のバックボーンであり、あるいは学校現場への大きなエールではないかと思います。私どもがこれらにかかわる教育を計画しますときに、その裏側には何があるのかというのがいろいろなところから意見として学校に寄せられることがありますが、この5つを明確にしていただいたということは、私どもの実践に非常に力強い影響を与えているのではないかなと思います。
 2つ目は、第2の9.(4)に「学校教育における文化芸術活動の充実」というくだりがあり、大きく5点ほど挙げていただいております。この中で、高等学校における総合文化祭は別にして、日常の教育活動の中でどうするかといったときに、大変うまくまとめていただいている感じがいたしました。単によりすぐれた文化に触れさせるだけで本当に子供たちに文化が高まるかというと決してそうではない部分もあったり、では理屈だけで文化がわかるかというとそうではない部分も当然あるわけです。学校教育としますと、教師として伝える文化と、それから芸術家の持ついいもの・本物に触れさせて伝わる文化と、この両方の側面を持っていくべきだと考えております。そういう中で、豊かな感性を醸成するとか、豊かな心情をはぐくむといった自分の生き方とどうかかわらせていくかという道徳的な側面。それからすぐれた文化芸術に触れるという体験的な側面。そして音楽や国語や社会科の中でどうそれらを学ぶかという知的な側面。それから総合的な学習の時間などにおいて地域の文化にどう親しみ触れていくかといった問題。これらが調和し統一のとれた秩序ある課題として子供たちの中に形成されていくことが本当の文化芸術活動に触れる内容になっていくのではないかと思います。従って、文化を語るときに、この子供たちに関わっていくさまざまなアプローチと言うか、糸口、切り口がバランスよく述べられているということが非常に大切であると、これを読ませていただき感じたところでございます。
 外部人材の活用であるとか、あるいは予算的な措置等についてはまだまだ問題もあろうかと思いますが、これはまた後の会議の中で具体的な事例等もお出ししながらお話しさせていただければと思います。ありがとうございました。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 では、横川委員、お願いいたします。

○横川委員 私は今回初めてこの委員を拝命したわけでございますが、今までこの基本的な方針に関する件では、「映画振興に関する懇談会」、あるいはフィルムセンターの在り方とかというところで私は映画あるいは映像関係といったメディアのことで参加させていただきました。今、委員の先生方がいろいろおっしゃって、私も初めてこうして制定後の動きという対照表を見まして、私が関わったところでは、随分と積極的に取り入れられて、一方的な押しつけではなくて、双方向的に検討されてきている部分が目に見えて出てきているなと思っております。
 また、今、山西委員がおっしゃったように、私も学校教育の中でここに書いてございます「人間が人間らしく生きるための糧」とか、あるいは「文化芸術に関する教育」とか、どうも文化とか芸術とかというところが学校のいわゆる時間の中でうまく組み入れられていないのではないかとも思っています。つまり、成績ばかりよくするために、塾に行っても、あるいは学校内においてもそうだと思うのです。つまり、小学生であれば、国語にしても、算数にしても、理科にしても、成績向上という方はものすごいウエートをもってなされるわけですけれども、例えば今小学生とか中学生が社会見学的な形で、あるいはまたフィールドトリップのような形でどこかへ出かける機会はほとんどないのではないかと思います。土日にしても、親御さんが子供を連れて美術館や博物館に行くとか、あるいはそうではなくて地域のそういった文化施設に行くか、あるいは伝統工芸的なところに連れて行くかというと、ほとんどない。それは、経済状況とか、その家庭でさまざまでしょうけれども、結局、学校の先生方にそういった視点で少し目を向けていただかないとどうにもならない。幾ら行政の方から「もっとしなさい」とか、いろいろ話し合いの中で言われても、先生方自体がそういう姿勢を持っていないと、芸術文化に関する人材育成はなされていかないのではないかと思います。この中でも施行するために相当な予算を取っていただいているわけです。送り手の養成だけじゃなくて受け手の養成を図る、それにはやっぱり学校の中でうまく話をしていただく。これは教員との関係があるかと思いますし、大学でのカリキュラムの問題もあるかと思いますが、先生になる方が学芸的な分野とか博物館的な科目を取りながら、授業にフィードバックしていただくというのが、僕はどこか刺激になるのではないかと思います。
 それから、地域でもそうでございますが、地名がどんどん変更されていってしまうわけです。かつて富士見坂などというところがいっぱいあった。今は建物がすごくあって富士山などは見えないが、かつてはここからも富士山が見えたとか、そういう歴史的な地名が○○町○丁目○番地みたいな形でどんどんなくなっていってしまっています。そうしますと、そういう自分の地域での歴史とか、広く言えば文化がどんどんなくなってきてしまうのではないか。また、そういうことを伝えていくということもできないのではないかと思います。地域には必ず長い歴史の中で祭りがあり、あるいは踊りがあり、その他にもいろいろなことがあったと思うのですが、そういったものがどんどん少なくなってきてしまっています。幾ら地域の文化芸術だといっても、それを実際に地域の人たちが生活の中で育てはぐくんでいかないと、消えていってしまう。そういう中でともかくもお金でもってやればいいというような型にはまった安易な方法になると、日本人の人間性というのはどんどんなくなっていってしまうのではないでしょうか。
 きょうは初の会合でございますので、今後各分野でお話が出てくるかと思います。そのときにまた私も考えていることをお話させていただきたいと思います。ただ1点、最後に一つ、いわゆる歴史のある先進国では、経済が疲弊してきても芸術や文化は、あるいはそうした国々の企業もそうですが、とても大切にされるのです。先ほど嶋田委員がおっしゃっていましたが、バブルのころはメセナが一気にでき上がりました。それで経済の疲弊とともに、メセナもかなり衰退してしまったのではないでしょうか。それは、いかに文化とか芸術というものに対する日本人のとらえ方が希薄になっているかという証ではないかと思います。ちょっと勝手なことであれこれと意見を出させていただいたのですが、今後各分野にわたってまたいろいろと意見を出していきたいと考えております。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 では、吉本委員、お願いします。

○吉本委員 今回の政策部会の審議事項は基本的な方針の評価ということですが、最近、正直申し上げて、私どもは評価というものに大変うんざりしてきています。どこへ行っても評価、評価で、そもそも芸術や文化というのは画一的に評価できないからこそ価値があるという逆説的な言い方もできるのではないかと思うのですが、画一的な評価ができない芸術文化を振興するためにこの基本方針を評価しなければいけないのだろうなと思っています。それで、評価を考えるときに、2つぐらい視点があるのではないかと思います。
 まず1つ目は、基本法及び基本的な方針を含めて、これができたことによってどれぐらいインパクトがあったかという大きなマクロの視点からの評価です。具体的に言いますと、基本法の中にも国の責務や地方公共団体の責務が書かれています。基本法ができた後、幾つかの自治体で条例を設置したり、ビジョンをつくったりという動きがありますが、逆に、いろいろな都道府県や市町村の方からは、国が振興法をつくって基本方針を定めたのに、市町村や都道府県は文化予算を減らす一方で、国の指針と全く逆行することばかりしているといった声をよく聞きます。それはどうしてかというと、予算が非常に厳しいということもあると思うのですが、ある種こういうものが国の大きな指針として示されたということがきちんと伝わっていない、メッセージが弱いという部分があるのではという気がします。その中で具体的に言いますと、文化庁の予算があって、平成13年から14年にかけて180億ぐらい伸びて、このときは基本法ができたときだと思いますが、次に基本的な方針ができて1,000億円を超えて、何か1,000億円を超えた途端に安心してしまって足踏みをしているのではないかと思います。今は予算が厳しいから増やすことは実際に難しいでしょうし、ただ予算が増えさえすればいいということでもないとは思います。しかし、地方自治体の人などから見て、こういう状況の中でも国は文化予算を伸ばしているということがあれば、それが非常に大きなメッセージになると思いますので、基本的な方針がどういうインパクトを与えるのかというマクロな視点からどう評価するのかという問題が一つあると思います。
 それからもう一つ、2つ目のポイントは、個々の施策をどう評価していくか。この基本的な方針の中にもかなり具体的な突っ込んだ方針が示されて、実際にそれに基づいて施策がいろいろ展開されていると思うのですが、ではその個々の施策をどう評価するかというと、これは本当に難しいのです。うちの研究所にもいろいろ相談がありますが、今一番多い相談は指定管理者制度と評価の問題です。ある公共劇場の評価のお手伝いなどもしていますが、本当に難しい。それで皆さん困っている。どうしても入場者数とか、そういう定量的なものに頼りがちですが、それでは評価できないものをどう評価するかというのがこれから大変重要になると思います。ですから、この基本的な方針を再検討していく中で、そういう文化政策というものをどう評価したらいいのかということについてこの審議会でぜひ議論でき、結果としてそういうものが示されれば、それこそいろいろな地方自治体の文化政策等に与えるインパクトは大変大きいかと思います。そういうことをしっかりと議論できたらいいと思っております。
 以上です。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、米屋委員、お願いします。

○米屋委員 私は所属先が日本芸能実演家団体協議会、通称「芸団協」と言っておりますが、伝統芸能から現代ものまであらゆる舞台芸術の方々をカバーするような組織におります。ですので、ここにおりますのもそういった方々の代弁者的なところを求められているのだろうと前年度も前々年度も思ってはおりました。けれども、私自身は全然実演する芸はございませんので、一貫して舞台芸術が好きな観客といった立場で、これをより広めるには、よりよくするにはどうしたらいいのだろうとずっと考えてきている人間です。
 それで、この基本法ができまして、文化芸術を支える理念といったものがかなり明確な言葉になりましたので、その辺では享受者のことを考えてということで、とても説明しやすくなっていますし、その制定後、実際いろいろなことが動いてきているというのは感じます。先ほど資料11を拝見しまして、こんなに多岐にわたるのだと、私が親しんでいる分野だけでないものの動きもたくさんあって、本当にため息が出てしまいました。そして、ここに書かれていないことでも、例えば、2003年だったと思うのですが、芸能法人に係る源泉徴収制度の撤廃ですとか、これは舞台芸術関係者にとっては非常に大きなことでしたし、あるいは、まだ具体的な結果は出ておりませんけれども、そういった芸能にかかわる人の地位向上ということでの議論が始まったりというので、動きが出ていることについては、本当にこれをつなげていきたいと思っております。
 ただ、今、吉本委員もおっしゃった「文化芸術の振興に当たって留意すべき事項」の中の1項目としてある「支援及び評価の充実」ということの問題については、昨年度、芸術団体の方々と何度も議論し取り組んできたのですが、本当に難しい。そして、そこで感たことは、芸術といっても、一般の人が見ている、あるいは行政がとらえている芸術活動というのは本当に氷山の一角で、それこそ上っ面の部分だけしか把握されていないのではないかということです。実際、芸術ということに関していろいろ話を聞いてみると、「あら、そんなことまであるのですか」といったことがたくさんあります。芸術家とか芸術団体の活動というのは、公演とか展示といった華やかな部分だけではなく、日ごろの部分が非常に大きいはずなのですが、そこがしっかりととらえられていないという思いがいつもしております。それで、一つ危惧の念を以て感じているのは、「すぐれた」ということが「有名な」ということに最近置きかわってしまっているのではないかということです。別に著名ではなくても本当にすぐれた活動を地域でしていらっしゃる方というのはたくさんいるし、それを見る目を持っていなければいけないと思うのですが、何かそれが著名性というところに置きかわってしまっている。それが、先ほど委員の方からのご指摘もありましたけれども、経済の論理にすり変わってしまっているのではないかということをとても危惧しております。
 そんなことを考えますと、理念はきれいにできて、支援制度ですとか、文化予算というのも拡大してきていますが、例えがいいかどうかはわからないのですが、何か建て増しに建て増しを重ねた温泉宿のようなイメージがあって、文化庁ができる前からの芸術に対する支援の考え方を引きずっているような部分もあって、赤字の補填だとか、有名な人に頑張ってもらえばいいといった考え方から最近つけ加わった部分ですとか、そういったものが対症療法的にだんだん増えていったところがあるので、何か全体としてすっきりした筋が見えない。大変感覚的な物言いで申しわけないのですが、進んでいっているなと思うところがある反面、そういう印象も持っております。
 ですので、私としましては、今年度はこの4.「文化芸術の振興に当たって留意すべき事項」の中の2つ目「国民の意見等の把握、反映のための体制の整備」、それと先程述べた3つ目あたりが非常に重要なものなのかなと。それと1番目の「芸術家等の地位向上のための条件整備」に関しましても、先ほど根木委員が、人材育成が弱かったのではないかということをおっしゃいましたが、条件整備と人材育成ということは関連づきますので、結局この3項目が中心になるのかなという感じは持っております。いずれにしても、一番大変なところに来たなということと、政策を評価していくということになりますと、きょうは初めですので、とても感覚的な物言いで言っているのですが、それを判断するための根拠というものをきちんと集めなければいけないのではないかということを考えております。それについては、今後のやり方ですが、できるだけ具体的にデータや状況というものを把握して、議論を深められたらいいと願っております。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、渡邊委員、お願いします。

○渡邊委員 私は長いこと文化財保護ということに関わってきましたので、その方からの意見というよりも陳述になります。
 ここには文化庁の方、特に文化財保護を長年やってこられた方々もいらっしゃいますので、私が改めて言うこともないのですが、近年の文化財保護政策の中で大変印象深いのは、対象の拡大と手法の多様化ということです。そして、これが大きな成果を生み始めていると思っております。特に私が関心を持っておりますのは文化的景観という問題でありまして、日本の国土というのはすべて文化的な空間である、あるいは景観であると思っております。単純に自然景観として存在しているものは恐らくこの中にはないのではないかと思っているくらいです。そういう意味で、この国土をどう保つかということは、日本の文化政策の上で非常に重要なことになるという認識でございます。
 あと一つは、日本は文化立国と言ったときに、いろいろありますが技術社会というもの、あるいは技術文化というものを大変大切にしてきた国だと思っております。日本がこのようにものづくりの技術で世界に進出できましたのは長い伝統としての技術力があったからだという認識でございます。ただ、近年はというか、明治以来でございますが、だんだん伝統的な技術というものは社会的に少し基盤を弱くしておりまして、特に近年、果たして世代間の受け継ぎがうまくいくだろうかと危惧される部分もないではありません。この社会の大きな動きに関して我々は何ができるかということについては大変心もとないのでございますが、日本の文化のコンテンツとよく言いますが、その中でも重要な技術的遺産というものをいかに保つかということに努力していきたいと思っているわけでございます。
 あと、今の委員の皆様方のご発言に関連して、ただいま松岡委員の方からアフガニスタンの問題などが出されましたが、私もこれに深く関わっておりますので、決して破壊者の方に援助しているわけではないということを申したいと思います。向こうへ行ってしみじみ実感しましたのは、今、現地の博物館から遺産の保存に関わっている人たちというのは、タリバンと対決した人たちなのです。一時は生命の危険を感じながらも何とか守ろうとした人たちが、今、博物館行政あるいは遺産の行政に関わり始めたということです。向こうで感激したのは、実際に博物館の施設へ行って木箱をあけてみますと、さまざまな仏像あるいは彫像が小さな土くれの状態になっている。彼らはそれを全部拾い集めて箱の中に納めている。復元不可能な状態です。それでも、そういうことを彼らは一生懸命やったのです。そういう精神の働きといいましょうか、そういうものを見ると、我々も何がしかのシンパシーを持たざるを得ない。そこで日本がこれから何をすべきかといったときに、文化遺産の保存への協力があると思うわけです。そういう貧困な国家であり、またいろいろな問題があって行政的にも統一性のないことしかできないような面もあるわけです。そういう中で、文化というものに対するその国の人々の認識がだんだん改まっていくためにも、いまいちど文化遺産というものを重要視していかなければいけない。このように考えて保存について協力しましょうということで行っているわけでございます。どうぞご理解をいただきたい。

○松岡委員 私は逆のことを申し上げたつもりなのです。文化庁がやっていることは文化の支援であって、そうではなくて国の方向がどうも、という意味だったのです。ですから、理解も何も、そういう方向を文化庁はとっていく。だから、渡邊先生のなさっていることに応援したつもりなのです。

○渡邊委員 ありがとうございます。
 あと、先生方の意見の中で気になったのは、これは前の文化審議会のときにも松岡先生が隣におられましたので2人の間で話題になったのですが、このところ地方の行政組織の統合ということがあって、盛んに新聞紙上をにぎわせている。これはどうも経済効率とか行政効率を高めようということだと思っておりますが、果たしてそれで文化性というものが保てるのか。今私は、地域の文化がこれによってどのような影響を受けるのかというのが最大の関心事の一つです。その中に地名の問題があって、地名がいたずらに横文字化されていく、片仮名化していくということには甚だ抵抗感を持っています。先ほど横川先生の方からも話がありましたけれども、地名というのはすべて歴史を持っております。そういう意味からも文化の大きな要件だと思っておりますので、いたずらにこれを消し去っていくということは大変危険であると思っております。今後ともそういうことに関しては、あるいはこういうものが議論の対象になるかどうかは別ですが、意外に小さい問題のように見えて、日本全国どこの場所でもおこり得る行政問題であるということを考えてみますと、大きな課題であるとも言えるのではないかと思っております。
 以上でございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 各委員からのご意見は、大変重要な、また「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の根幹にかかわるようなご意見でございまして、これをこれからどのように具体的に議論していくか、これはなかなか大変だと思いますけれども、皆さんのお話を拝聴しておりますと、具体的な問題も出てきまして、これからの議論がむしろ楽しみだと思います。
 では、ここで河合長官にお言葉をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○河合文化庁長官 お聞きしていまして、文化庁の役割は本当に大きいなというのを痛感します。ただ、大きい役割と弱い力で頑張っているという実感がありまして、それでも、皆さんにここまで言っていただいたら、私どもも頑張らねばならないと思います。文化というのは本当に大事なことですので、おかげで、しかし少しずつでも変わってきているという感じはあります。ますますいろいろなものをやっていきたいと思います。どうもありがとうございました。

○青木部会長 力強いお言葉をいただきまして、文化政策部会としても頑張りたいと思いますが、これまでいろいろと委員の方々から出されましたご意見に対しまして、文化庁の方から何かレスポンスはございますか。きょうも文化庁の方針に対していろいろとご意見があったと思いますけれども。

○吉田政策課長 先ほどの資料8で今後の審議日程等をご紹介いたしましたところで、次回は総論、先ほど根木委員の方から第1、第2とこの基本方針を分けた中で第1の部分について幾つかご意見をいただきましたけれども、次回はどちらかといいますとそちらの方を中心にご議論いただきたいと思っております。それから7月以降、4回程度に分けまして各論に入ってまいりますが、その際には、ただいまさまざまな委員から、例えば指定管理者の関係については、「博物館法」や「図書館法」との関係はどうなっているかとか、経済波及効果などについて何か適切な資料はないかとか、幾つか、この審議を進めていく上で私どもの方でも用意しなければいけない、またそれが大変有益であろうと思われるようなご示唆をいただきましたので、それはそれぞれのテーマに即した形で提供させていただきながら議論を深めさせていただきたいと思っているところでございます。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 委員で何かつけ加えてご意見があれば。

○上原委員 前回の文化審議会総会で申し上げたことなので、繰り返しになると思って遠慮したことが一つだけあります。

○青木部会長 きょうはお話が短かったですからね。

○上原委員 はい。松岡委員がおっしゃったことの中で、今現在置かれている日本の状況というのが本当に「文化芸術振興基本法」の方向とは逆の方向が多いのではないかというご指摘がありましたけれども、自治体でずっと仕事をしてきた私としては、本当にそのとおりだと、危険性のようなものを感じております。一つ一つが、例えば合併問題もそうですし、三位一体という名のもとで行われている財政カットの問題、それから「地方分権一括法」ができたにもかかわらず、「地方自治法」が突然改正されて、突然全国のすべての自治体に指定管理者制度で委託というか、外に出す場合はしなければいけないというのは一体分権の動きとどうなっているのかとか、もう一々身に感じてきているところです。そういう意味でぜひ、総会の場でも申し上げましたが、この場がそういうものに対して言える意見があるならば、言っていけるような場になればうれしいと思っております。全く賛成でございます。

○青木部会長  ありがとうございました。ここまで、きょうは第1回目でございますので、皆様の基本的なご意見を拝聴してまいりました。これは、今後の議論の基礎にしたいと思います。それでは、本日の討議はこれで終了させていただきます。
 事務局から次回の日程そのほかについてご説明をお願いしたいと思います。

○吉田政策課長 次回は、皆様に事前に日程をお伺いいたしますと、6月1日がご参加に好都合の方が多いようでございますので、6月1日(水)、14:00から16:00、場所は同じ東京會舘で開催させていただきたいと思いますので、ご予定いただければありがたいと思います。

○青木部会長 次回は6月1日(水)の14:00~16:00、場所はここだということです。それでは今日の審議は全部終わりましたので、これで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

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