第18回文化審議会文化政策部会議事録

1. 日時

平成17年9月16日(金)  14:30~17:00

2. 場所

東京會舘本館 11階 ゴールドルーム

3. 出席者

(委員)

青木委員 伊藤委員 上原委員 冨澤委員 岡田委員 河井委員 熊倉委員 佐野委員 嶋田委員 関委員  田村委員 根木委員 松岡委員 真室委員 山西委員 横川委員 吉本委員 米屋委員 渡邉委員

(事務局)

加茂川次長 岩橋文化財部長 関政策課長 他

4.議題

  1. (1)「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の評価と今後の課題について(各論(2))
  2. (2)その他

5.議事

○青木部会長 第18回文化審議会文化政策部会を開催します。議事に入ります。事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

○関政策課長 <配付資料及び参考資料を説明。>

○青木部会長 資料1の第17回議事録(案)に関して,皆様にご確認いただき,ご意見がございましたら,10日後の9月26日,(月)までに事務局までご連絡願います。
 本日は,前回に続いて,「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の各論部分,「第2 文化芸術の振興に関する基本的施策」のうち,「10.文化施設の充実等」及び「11.その他の基盤の整備等」を中心に委員による発表及び質疑応答を行いたいと思います。
 前半は,吉本委員から「11.その他の基盤の整備等」の「(2)地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等及び(4)関係機関等の連携等」を中心にご発表いただき,上原委員と真室委員から「10.文化施設の充実等」を中心にそれぞれ15分程度のご発表いただき,それを踏まえて委員の皆様からご意見を賜る。後半は,「11.その他の基盤の整備等(3)民間の支援活動の活性化等」を中心に,嶋田委員,関委員,富澤委員からそれぞれ15分程度ご発表をいただき,そのあとで,委員の皆様からご意見を賜りたいと考えております。

○吉本委員 この文化審議会で基本的な方針を見直そうということで,今作業が進んでいますが,前提として基本的な方針の閣議決定以降の国の取り組みや実績について,まず自己評価をする,自己分析をする作業が重要だと思います。基本的な方針に記載された政策体系があって,それに基づいた政策目標,それから政策目標ごとに具体的に実施された施策や事業の有無と内容,投入された予算,その結果達成された事業の実績はどうであるかということ。実績はアウトプットと,アウトカムに分けられますが,アウトプットは例えば,どういう分野にどれ位の予算や助成金が配分されて,どれぐらいの本数の公演が行われ,何人位の観客が鑑賞したのか。あるいはそのことによって観客一人当たりどれ位チケット料金の単価を下げる実績が出たのか等,そういう客観的な部分です。
 そして,そういった事業で達成されたアウトカムというのは,極めて定性的な部分です。そして,それを踏まえた上で,個々の政策や事業の問題点や課題を洗い出す作業をどこかで行う必要があると思います。これは言うは易く,行うは難しで大変なことになると思いますが,まずは実績を評価するところがスタートではないかと思います。
 それに関連して,この基本的な方針の第1の4の(3)「支援及び評価の充実」の中に「文化芸術の各分野の特性を十分に踏まえ,定量的な評価のみならず,定性的な評価を含む適切な評価方法を開発,確立していく。」ということが盛り込まれています。文化芸術の振興に関する基本的施策全体の見直しをする中でこういった文化の評価,文化事業あるいは文化施設運営,あるいは文化政策についての評価というのを,どういうふうに行ったらいいのかということを開発していくことも重要なポイントではないかと思います。
 今,私の研究所でも評価と無縁のプロジェクトはほとんどないような状態で,正直うんざりしています。しかし,この問題は避けて通れないので,ここは基本的な方針を見直すという中でそういったことも国が先頭を切る形で,進めていったらどうかと思います。
 それからもう一つ,評価に関係する項目のうち,特に助成制度について,90年の芸術文化振興基金の創設以降,文化芸術分野の助成制度はかなり拡充されてきたと思います。正確な数字かどうか自信がないのですが,1990年度,文化庁と芸術文化振興基金のいわゆる助成金の額が40億円程度だったものが,昨年度には5倍の金額になっています。これはアーツプラン21の創設によって重点助成等いろいろな形で拡大されてきたわけですが,その基盤整備で拡充された結果,どういうような効果があったのか,どういうようなインパクトがあったのかということを,そろそろ一度検証する時期にあるのではないかと思っています。
 そして,その検証をした上で,より大きな成果を生むための戦略的な政策を,ぜひ検討する時期ではないかと思います。例えば今,重点支援などの例をとると,いわゆる拠点形成事業ということで劇場への支援がありますが,多くの割合の助成金がいわゆる芸術団体,つまり最後の芸術活動を行う末端の部分に出ているのではないかと思います。場合によってはそれよりも中間組織,例えば劇場のような拠点的な施設に資金が配分されれば,そこが主催事業を行うことで,さらに芸術団体に配分されていくことで,波及効果の大きくなるような形もあるのではないでしょうか。
 それからあとは,再助成制度。これは英語でリ・グラントと言われますが,例えば演劇に対してどういう助成をするのが効果的なのか,国が直接全部判断するのはなかなか難しいと思いますので,ある部分を専門的な機関を経由して助成できるようにする仕組みもあるかと思います。
 それから,最近,アートNPOと呼ばれるNPOが各地に誕生していて,本当にアクティブな活動をしています。ただ,NPOの場合は運営基盤,組織基盤とも脆弱でして,組織そのものを維持することに皆さんとても苦労されている。そこで,こうした中間的な支援を行う小規模のサービス型NPOに対する運営助成のようなものも,検討に値する項目と思っています。
 例えば,ニューヨークにはニスカ(NYSCA)というニューヨーク州の芸術助成機関のようなものがあって,そこの助成は実に7割ぐらいがゼネラル・オペレーティング・サポート(GOS)といわれる運営助成に資金が使われています。ただし,団体への助成金額は,その団体の予算の25%以上を超えないこと,あるいは5,000ドルを超えないことというように,いろいろな規定があって,非常に小さな金額ですが,それがあることによって,例えばNPOの活動を何とか維持できる。そうした組織の運営が継続されることからの広がりを期待したある種,投資的な助成です。そういう戦略的な効果の大きさを視野に入れた政策の形を,検討してもよいのではないか思います。
 それから,助成に対する制度的な点検,見直しについて。例えば審査制度ですが,書類での事前評価は非常に大変なものだと思います。その仕組みそのものを抜本的に見直すのは難しいかもしれませんが,重点助成のように金額の大きい助成についてはきちんと事後の評価もして,それを公表するような仕組みも必要ではないかと思います。
 次に基本方針の第2の11「その他の基盤の整備等」についての2番目にある「地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等」についてですが,この基本的な方針に書かれている内容を見るだけでは情報というものが,かなり漠然としたものとしてとらえられている気がします。ですので,情報の中身や性格を考えた方針を打ち出していく必要があるのではないかと思います。日本語の情報という言葉をあえて英語に置き換えてみますと,一つは Dataと呼べるような非常に基礎的な情報,各種データベースあるいは統計的な情報のようなもの。そして,もう一つは Information に当たるいろいろな案内とか催しものの情報のようなもの。それがさらに進んで知恵とかノウハウ,英語で訳せば Intelligence になるかもしれませんが,そういったものもすべて情報だと思います。
 そうした各種情報を一律に提供するといっても,その仕方も当然違ってくるのではないかと思います。まず基礎的な情報についてはストックしていくものです。一つ目に文化に関する統計的な情報,つまりDataの部分で言いますと,芸団協さんが何回か芸能白書を出されていて,まさにデータを網羅したものだったのですが,それが今はいろいろな事情で芸団協さんだけでは賄いきれないということですから,そういった基礎的な情報は国や公的機関がストックしていくことが重要かと思います。
 それから2つ目のInformationに相当する部分ですが,これはフローの情報でして,スピードが必要ですし,どんどんアップデートをしていかなければいけません。また,古くなった情報は必要なくなるようなものです。こういう情報については,もう今やインターネットの中で日常的に大量に提供されているということがありますので,あえてそういうものを国がやる必要があるのかどうかについては検討の余地があると思われます。
 それから三番目の Intelligenceの部分については,これはただ一方的に提供するだけではだめで,やはり face to faceで双方向のコミュニケーションが求められると思います。以上のように,情報の種類あるいは情報の取り扱い方によって政策の方針を検討していくというようなことが重要ではないかと思います。それとあわせて,一般に情報といったときに本当に幅広いので,誰が誰に向けた情報なのかということの整理。それから情報は確かにあれば便利というようになりますが,ひとたびその情報を集めて提供する作業を始めれば,そのメンテナンスに膨大な手間と費用がかかります。従って,どこまでをあつかう情報として含めるべきなのか,メンテナンスも含めて方針をしっかり検討する必要があると思います。
 それからレジュメの2の(2)の「情報に関する中間支援機能」とは,先ほどの情報の種類で言う Intelligenceに相当する部分に関して,その情報の提供入手という関係だけではなく,必要な情報を集めて,それを求めている人や団体に対して提供していく中間支援,媒介をするような団体を育成することで,より効率的な取り扱いができるのではないかということです。
 レジュメの(3),「文化庁HPのポータルサイト化」について。これはなかなかこういう場で申し上げにくいことではありますが,文化庁のホームページが私にはどうも見にくいという印象を持っています。それでも,日本語のホームページはいいのですが,英語の方は海外の方から日本の文化政策の情報を求められて文化庁のホームページを案内しようと思うと,日本語と英語の情報が対応していなくて古い情報だけが出ているのが現状です。参考までに申しますと,例えばお隣の韓国の文化省のホームページは,韓国語のほかに日本語,英語,中国語の4カ国語対応です。ソウル市の文化振興課になるのでしょうか,そこもやはり4カ国語です。
 情報がテーマで今日しか言う機会がないと思いあえて申し上げましたが,この文化庁のホームページに入っていくといろいろなホームページにリンクされて,ここがある種のポータルサイトになっていくことも,ぜひご検討いただけたらと思います。
 それからレジュメの(4)番の「関係機関等の連携等」について。これは福祉とか教育とかの異分野と文化芸術に関する団体との連携ということなのですが,それぞれの専門的な経験,専門的なノウハウが必要ですから,その異分野の専門家が共同で何か作業して,どういうプログラムがあるのかという実験的なことを行うことも,とっかかりとしては必要かと思います。
 アートNPOとも関係しますが,例えば学校とアーティストをつなぐというようなNPO,一番古くは東京に「芸術家と子どもたち」がありますが,最近例えば福岡とか京都とか,各地で同様の活動をするNPOが出てきています。そういった中間支援組織,つまり異分野の専門的な活動の間に立って両方のことがわかってつなげられる組織の育成が必要かと思います。
 それともう一つは,文化芸術サイドから見た視点と他分野から見た視点ということで申し上げますと,略してAIEとよく言われる, Arts in Educationという概念があります。従来からある教育の場で芸術を教えるArts Education=芸術教育そのものと比べると,Arts in Educationは子どもたちの健全育成にとって,芸術にどういう可能性があるかということを重視するものです。例えばダンスでからだを動かすということが最近の子どもたちには欠けている身体能力の開発に役立つとか,あるいは音楽を使って算数を教えるとか,それはLearn Through Artというような言い方もされますが,連携先の視点から見た検討も必要かと思います。
 ご参考までに,昨年のARTS NPO FORUMの調べでは約1,200件のアートNPOが全国で活躍していて,情報の中間支援的な機能を担う場面でもアートNPOは徐々に活躍しはじめていますから,そういうところを育てていくことも重要ではないかと思います。以上です。

○事務局 文化庁のホームページは,日本語の部分につきましては事業や,記者発表などについてアップデートしていますが,英語版につきましては文化庁の政策の概要を翻訳したものが載っている状況です。

○青木部会長 最近は地下鉄の駅でも中国語,韓国語,英語は標記されていますから,そういうサービスは必要かと思います。

○米屋委員 アートNPOについて,私も吉本委員と同じようにこういった活動をどんどん活発にしていく政策は必要だと思っていますが,その中間組織,インターミディアリーといった言葉に関して,使われ方によっては混乱が生じるかなと,懸念を感じていることがあります。というのは,これが商品の販売で言いますと,消費者に直接かかわる部分ということでしたら,インターミディアリーと呼ばなくてもいい場合があって,サービス型NPOとか中間組織といったときに,卸しに相当するような意味で末端とそのアートをつなぐ中間に入る中間組織と,一人一人の享受者とアートをつなぐという意味を持った中間組織ということが,何か混乱して使われているような気がするからです。
 アートと享受者をつなぐということでは,特にアートNPOに限った新しいことではなくて,昔から芸術団体がやってきたことなので,その違いとか共通項とかいうことを考える必要があります。新しい動きだけに目を奪われていると,全体の状況が見えにくくなることがあります。

○根木委員 前段の評価のところで,「施策や事業によって達成されたアウトカム」について,何か具体的なイメージはありますか。

○吉本委員 文化施設の事業評価のお手伝いをする際,アウトカムとして何があるかを言葉にあらわそうとします。すると例えば「美術館がそこで何年か運営されて,美術展等が行われることで,その町の生活の質が変った」とか,非常に定性的な言い方しか今はできません。ですから,基本的な方針を見直す中で,文化政策のアウトカムの具体例を出していけるといいのではないかと,問題提起させていただきました。

○岡田委員 大きい1の(3)の助成制度についての一番下のところですが,審査を事前評価から事前+事後評価にというところがあります。これについては以前から文化審議会の場面で事後評価をきちんとして報告してくださいというようなことを申し上げてきましたが,事後評価について発表があったことがないのですが,その辺はどうなっていますか。

○関政策課長 それについては,ご指摘を踏まえて検討させていただきます。

○富澤委員 吉本委員が情報について述べられたことには私も同感です。文化庁に伺いたいのですが,2,3年前福田官房長官のもとで,政府の各種情報や資料をアーカイブとしてつくりあげることに,初めて手をつけた。最近になってそういうシステムができあがりつつあると思いますが,文化についてのアーカイブは今どうなっていますか。

○真室委員 それに関連することで,文化遺産オンライン構想が今進められています。1,000館位の美術館,博物館あるいは公共団体が持っている文化財や資料等を,インターネットで公開できるようにデータベース化する作業が2003年度から始まっています。2006年度までに一つの成果を出そうということで文化庁の方で進めていて,今のご質問に関連するかと思います。

○青木部会長 文化庁の方で,他に何かございますか。

○加茂川文化庁次長 調べましてご報告させていただきたいと思います。

○青木部会長 引き続き「文化施設の充実等,劇場,音楽堂等の充実」を中心に,上原委員よりご発表いただきます。

○上原委員 文化会館での「芸術文化活動支援のあり方」について,特に地域における文化会館の現状がどうなのか,それに対してどういうことが必要なのかということをまとめました。
 お手元の資料の一番目「地域における文化会館の現状」ですが,これは文化会館だけでなく,図書館や博物館,美術館を含む文化施設全般について記述していますが,1970年代後半,20世紀の最後の四半世紀に各地域でさまざまな文化施設が整備されました。その中で長い時間かかって図書館とは何か,博物館,美術館とは何かというコンセプトが形成されてきました。その裏には図書館法,博物館法の存在が大きいと感じています。
 文化会館の建設・整備は公会堂という集会施設にはじまり,公民館,市民会館,文化会館,そして劇場・ホールという専門ホールが整備されてきたという経過があります。図書館や博物館,美術館と違って,劇場法あるいは劇場事業法という法律がなかったために各地域で,さまざまな文化会館や劇場・ホールができ,様々な活動が行われるようになってきたことは評価されるとは思います。が,一方でまだハコモノとして建設される文化会館も多いことは事実です。現在は専門的な活動を展開している文化会館,劇場・ホールも,また主として集会施設や貸し会場として使用される会館もすべて文化会館といわれており,圧倒的多数を占める集会施設や多目的に利用される貸し会場としての文化会館というハコモノ概念が一般化しているというところではないでしょうか。
 こういう状況に対して文化庁などの補助制度や文化芸術振興基本法は文化会館の事業を支援し,ハコモノ概念からの脱却をうながす一連の動きだったと思いますが,この動きがはじまったとたんに2003年6月の地方自治法244条2の改正による指定管理者制度の導入がございました。関連条文をみると文化施設をハコモノとしてしか概念していないのではないか。そこでの事業や活動については考慮されていないのではないかと思われます。それに加えて財政悪化,市町村合併という中で,地方の今まで頑張ってきた文化会館も含めていろいろな問題が生じています。一方でこのような時期であるにもかかわらず,合併特例債によって新たな文化会館が建設されるという動きもある,これが現状です。
 2番目に,芸術文化活動支援のあり方としてぜひこういうことを考えてほしいということがあります。それが資料の2番目に項目(1)から(3)と挙げているところです。まず,文化芸術を支えるための法律や制度,法律は一応できたわけですが十分でないということ。それから制度を整備するということ。特に他省庁所管の法律や制度の改変に対して「芸術文化振興」の視点からの文化アセスメントが必要であろうと思います。
 また,法律の解釈,説明についても十分注意を払う必要があるということについて。これは地方自治法第244条の2の改正に関連しての総務省が行った通知あるいは説明について事例ですが,まず自治行政局長の通知というものがあります。法律の適用についての通知です。そこに書いてあるとおり通知は何の拘束力も持たないものです。通達行政は2000年4月の地方分権一括法でなくなったはずですが,非常に残念ですが,まだ分権の思想が地方の方にも浸透していないということがあって,この一遍の通知を通達と受けとめて,このとおりやらなければいけないと受け止められて「原則公募」という言葉が一人歩きしております。これは非常に腹立たしいことだと思っています。
 自治行政局が,行った説明会資料についてです。内容は「公の施設としてはどんなものがあるか」として,体育館,文化センター,美術館,博物館,図書館だけが例示されました。また,文化センター,美術館,博物館の指定管理者としては,ホテル,リゾート,文化芸術関連企業が,それから図書館については出版・組織関連企業が挙げられていました。その場でこういう事例を使われるのは大変問題ではないかということは指摘しましたが,既にこの形で全国に文書が配られていました。
 公の施設には,さまざまな施設があります。その中でなぜかこの文化関係のものだけが,具体的に事例として取り上げられて全国に説明が展開されてしまったことは大きな問題ではないかと思います。こういうことに対して本当にチェックをする必要があると思いました。
 資料の(2)について。指定管理者の問題点は様々あるのですが,それを整理して日本の文化芸術を支えるために何が必要かという視点から法の不備を補う。法律はできてしまったわけですからただちに法改正ということにはならない。不備を補う措置をとることが必要であろうと思います。例えば,地方独立行政法人の対象分野に文化施設が入らないかということ。国は美術館も劇場もみんな独立行政法人にしましたが,地方独立行政法人法の中ではそれらは政令に列挙されていないので,地方独立行政法人にできません。地方では大学と病院が独立行政法人にできることになっています。例えばそういうことができないかということです。
 それからもう一つ。総務省でこの6月に設置されたというのですが,指定管理者の運用指針を来年の3月に策定するということを目標に研究会が開かれているようです。もちろん,総務省が所管する指定管理者は非常に幅が広いと思いますが,そこに図書館も含めた芸術文化の視点からものを言うことはできないのかどうか,この指針がまた勝手につくられてしまうと大打撃になるのではないかという気がしています。
 さらに,近々公益法人制度が改革されるということですが,芸術文化を担う非営利組織にふさわしい法人制度,税制のあり方についても検討を加えて事前に法や制度を準備する,あるいはチェックするということを,ぜひやっていただきたいと思います。公立文化施設あるいは公立文化会館の基盤になる法律とか制度というものを,まずはきちんと整備するということが一番の支援策ではないかと思っています。
 それから三番目ですが,「劇場」概念の確立が必要だと,これは現場にいて思っていますが,1の現状でご説明しましたとおりにさまざまな文化会館があります。その中でともすると一般化されてしまっているハコモノ概念の文化会館がどうしても目につくということで,何かやり玉に上がっている気がしますが,中には頑張っている劇場が幾つかあるわけです。そういうものについて劇場概念を確立することができないかなということです。これについては 2004年の3月に芸団協が「芸能による豊かな社会づくりのために─提言と具体化への道筋 PartⅠ」ということでお出しになったものを抜粋して資料として付けております。これは一つの事例ですが,大切な概念がとてもよく整理されています。同じ提言の中で,劇場事業法ということが提案されていて,果たしてそういうものができるかどうかはわかりませんが,例えば法律の整備の検討を開始するべきではないでしょうか。冒頭申しましたように博物館法や図書館法が一定の役割を果たしたということを考えますと,この法律は必要ではないかと思っています。それが無理でも例えば望ましい基準のようなものができないか。図書館あるいは博物館については法律でそれぞれ望ましい基準を定めることになっています。劇場概念がさまざまですので難しいとは思いますが,法律をつくるよりも前にそれができないものかと思っています。
 それから四番目です。「補助制度による誘導」,これは例えば芸術拠点形成事業が平成14年からできましたが,そのような事例です。補助制度によって劇場概念を普及させていくという意味では,この芸術拠点形成事業というのは非常に明確であったと思います。滋賀県では図書館が25年の間にめざましく発展して,今や一人当たり貸出冊数でいうと全国一になりました。25年前は全国最下位でしたからすごい発展です。その理由は「望ましい基準(案)」を達成した場合に建設費補助だけでなく,図書購入費補助等についても,館長が司書であることを条件とした補助制度をつくって,それに則って忠実に行ってきたからです。そういう補助制度による誘導ができないかと思っております。
 実のところ私は最初と最後のところで,かなり矛盾したことを言っておりまして,地方分権一括法ができたにもかかわらず,なぜ国の補助制度に頼らなければいけないかという当然のご疑念があると思います。それは分権一括法ができたから直ちに分権ができるというような状況にはなく,その狭間で苦しんでいるというのが地方の文化関係施設の現状だからです。
 最後五番目に,「国立施設としてふさわしい活動の推進」があります。これは基本的な方針の中にもうたわれているところですが,文化芸術基本法第2条の第3項にいわれている居住する地域にかかわらず等しく云々というところがあります。これを実現するために例えば新国立劇場で制作したオペラや演劇,バレエなどを首都圏外の在住者が首都圏在住者と同等の条件で鑑賞できるような仕組みがほしいと思っています。それについては資料に書いてあるとおりですが,特にコストの高いオペラ,バレエなどでは難しいということになります。自治体や文化会館,文化施設がかなり負担をしなければならないという状況,そうでないと首都圏の人が見るのと同じチケット価格では提供できないということになります。
 それが一つと,もう一つは最近の例ですが,バレエをテープ演奏で持っていくということを行っている。それは安上がりで,それでいて十分感動を与えているといいますが,やはり二分の一の感動に過ぎません。テープ演奏によるバレエの公演とオーケストラ付きのバレエの公演ではいかに効果が違うかというのは,もうその場に身を置かなくてもおわかりだと思いますが,そういうことにならざるを得ないという状況をご理解いただき,そこに格差が生じないような措置をぜひ講じていただきたいと思います。

○青木部会長 引き続き「文化施設の充実等,美術館,博物館,図書館等の充実」を中心に,真室委員からお願いします。

○真室委員 それでは,美術館,博物館の諸施策に対する現状,評価,課題という順番で考えてみたいと思います。その前に,2000年から2005年まで5年間の美術館,博物館の動きを見ますと,経済的な不況の影響を受けて,特に私立美術館,そして公立美術館の運営が非常に財政的に厳しい状況になっています。都内のデパートの美術館等が相次いで閉館になり,一方で,公立美術館では作品の購入費,事業費等の予算が大幅にカットされて苦しい運営を強いられています。
 また,この時期には新しい多くの公立美術館が開館しております。ご存じのように岩手,群馬,青森,兵庫,神奈川,新潟,そしてまた府中とか松本,熊本,そして最近では金沢市が新しい美術館をオープンさせています。国内のこういった博物館の数を見ますと統計にもよりますが,大体5,300館余り,そのうち総合歴史美術等の博物館は約8割を占めています。そして全体的には年々増える傾向にある。入館者の数を見ますと,バブル経済の崩壊後は減少の一途をたどっています。したがって日本の美術館,博物館の活動は全体としては厳しい状況が続いているといっていいかと思います。
 この5年間で最も大きな動きとして注目されるのは平成13年からの公立美術館,博物館等の独立行政法人化。もう一つは,平成15年の指定管理者制度の導入です。公立美術館,博物館がいわゆる公の施設としてこれまでは民間事業者には開放されていなかったのが参入できるようになり,美術館,博物館の運営について効率性,経済性がより強く問われ,その一層の活性化が図られようとしているものです。これらの政策はいずれも活力ある日本文化の創造に向けて機能するように今後見守っていく必要があるかと思います。特にこの指定管理者制度につきましては,例えば収蔵品の管理とか調査,研究等の継続性という点でいろいろ問題があるかと思います。どういうふうにこれに対処していけばいいのかといったことを含めて検討をしていく必要があるかと思います。
 そしてまた,国においてはいろいろな文化施策が精力的に進められてきていますが,美術の分野を見てもさまざまな施策が具体的に展開されております。例えば優れた作品を鑑賞する機会を国民に広く提供するために,登録美術品制度あるいは創造性豊かな芸術家を育てるためのさまざまな支援策,それぞれある程度成果を上げていると思いますが,問題点もまた課題もあるかと思います。
 お手元の資料に,7つほどの施策の項目を順を追って掲げておりますが,その中で,まず質の高い展覧会の開催,その促進,法的整備はどうかということです。ご存じのように博物館法というのが昭和26年に制定されて,その博物館法に則って戦後日本の美術館,博物館はある程度整備されてきたと思います。ところが今,必ずしも時代の流れにそぐわない部分が出てきていて,これは今後大幅な見直しが必要かと思います。
 ちなみに全国の博物館のうち,博物館法の適用を受けている,いわゆる登録博物館,それに準ずる相当施設は全体の2割強で,残りの8割は博物館類似施設です。ところが現実にはこういった博物館類似施設が国民のニーズを満たしているという現実がございます。そういうことから博物館法,それに関連する法案がもう少し現状に即した形で見直される必要があるかと思います。
 それから2番目の寄付等に係わる税制上の措置ですが,税制上の支援が十分ではないと言っていいかと思います。資料の課題のところに挙げましたが,特定公益増進法人の認定が非常に厳しい。そういうのをもう少し積極的に推進していく必要があるのではないか。それから個人所有の重要文化財等譲渡の際の非課税措置,これももう少し積極的に推進していく必要がある。それから特に経営上厳しい状態におかれている私立美術館への税優遇措置等をもう少し拡大するよう考えていく必要がある。
 それから三番目の鑑賞機会の拡充,サービスの向上,登録美術品制度の活用ですが,平成11年に登録美術品制度が発足して,それなりの寄与はしていると思われますが,平成17年4月1日現在では23件の登録ですので,制度の周知徹底を図っていく必要があるのではないか。特にその所蔵者が亡くなったあとの物納の順位が第一位に扱われるということ,これは非常にメリットになるかと思います。それからもう一つ,この課題のところでは国家補償制度。展覧会を主催する場合の保険料は各主催者が払うわけですが,これを欧米の国のように国家が補償する形がとれないか検討する必要がある。
 それから四番目の,地域の博物館,美術館への支援ですが,特に学校教育との連携を今後もう少し積極的に進めていかなければいけない。それともう一つは,全国美術館会議とか美術館連絡協議会という全国的な組織との連携をどう考え,必要とすればどういう方法があるか等を検討していく必要があるのではないか。また学校との関係では各公立美術館等で各種プログラムが組まれて展覧会等が開かれてきていますが,まだ十分ではないという状況かと思います。
 それから五番目は国の美術館,博物館の整備の充実等ですが,独立行政法人化になり,ある程度の評価はされてきているといふうにうかがっております。国の場合,まず自己評価をして,そして各独立行政法人が設けた外部評価委員会に評価を受け,そしてそれを文部科学省の独立行政法人の評価委員会の中にさらに総務省の評価委員会,自己評価を含めますと四つの評価段階を得るというような手続きが設けられています。それからここでは新聞社等との連携について。国立美術館,博物館等の展覧会事業を見ますと,新聞社,マスコミの協力なしには展覧会が非常に難しい状況があります。今後適切な連携関係を築いていくには検討の必要があろうかと思います。
 それから,危機管理。これは広い意味で地震,災害等が一番の対象になります。
 それから6番目の学芸員の資質向上。聞くところによりますと,こういう研修会への参加者がそう多くないというふうにも聞いておりますので,これも今後どのようにするか。特に学芸員資格の見直し,それからその養成のシステムを,同時に検討していく必要があります。
 それから7番目の美術品の積極的な公開。先ほどの「文化遺産オンライン構想」については,著作権の問題が一つ大きな課題です。
 9番の「文化芸術団体への支援」については,特に民間企業によるメセナ活動との連携,あるいはメセナ活動への支援,例えばこれは税制の問題等もあるかと思いますが。
 それから10番の文化交流。これもこの5年いろいろな国際文化フォーラムとかあるいはシンポジウムが開かれています。
 それから海外での日本の美術の紹介ですが,日本の場合は古美術の展覧会が多いのですが,現代の日本の美術の動き,アートの動向を紹介することも必要ではないかと思います。
 11番目,これは文化庁で優秀美術作品の買上制度が昭和34年に,地方の特に公立美術館等への巡回展で公開されて有効に活用されていると思います。文化庁の買い上げる作品と特に国立の美術館等で収集する作品,これは基準がある程度違うのはわかりますが,その辺の整合性に疑問があります。
 それから最後の12番の「観光政策との関連」。これは美術館,博物館が都市の文化施設として観光の拠点としても位置づけられるのではないかということです。2001年度版の「首都圏白書」によると,外国人の意識調査による評価で東京の場合,施設の充実度は6割とあります。特に文化施設は東京の場合,数はあっても身近になく,非常に行きにくいということがこの充実度の6割程度という結果になったように読みとれます。それから都市景観の整備,これは文化庁の範囲ではないかと思いますが,特にこういうことも課題としてはあるのではないかと。それから美術館,博物館等の,あるいはそこで行われるいろんな展覧会事業の経済的波及効果がやはり,極端に言えば予算に反映させられるのではないか,そのためのいろんなマーケティグ調査と研究があってもいいのではないか。以上でございます。

○青木部会長 では,以降質問などをお願いします。

○関委員 私は,文化会館とか,図書館とか,それから美術館とかいう範疇の議論をどうするかということを伺って,これを2つに分けて考えるべきだろうという感じを持ちました。特に美術館が該当しますが,やはり国際的なというところまで言うか言わないかはともかくとして,美術館としての競争力を考えなければいけない。そうしたものをどうするかということと,地域の文化施設や図書館という日常的な生活に結びついた施設をどうするかということについては,やはり分けて考える必要があるのではないでしょうか。
 特に競争力が問題になる美術館のようなものは,これは日常の生活にそれほど密接に関連しているわけではありませんし,むしろ非日常的な側面が強いと思うのですが,こういったものが全国に5,000もあると聞いて,私は大変びっくりしました。我々産業のアナロジーで言えば全国に5,000も競争力のない中小企業がたくさんある状態だろうと思いますが,これらを集約して国際的にも通用する優れたものをつくっていく政策を強力に推し進める必要があるのではないでしょうか。財政建て直しをしなければならない時代に,5,000もあるものをそのままにしておいて,補助金や税について論議するのもとても不効率です。
 おそらく幾つかのものに集約すれば,先ほどおっしゃっていた外国人の方を含めて,たくさんの人間がそこに来ることになる。地域との関連で言えばそれは巡回という方法があるわけで,それを適宜地方にも普及していける。そういうふうにして,世界に誇れるものをつくっていく視点を持ち,そういった方向をはっきり出した形で必要な補助をしていく。あるいは民間の資金を集める。大きな柱を立てれば私は経済界も相当協力し,支援できると思っています。

○佐野委員 私は,文化は人なりという立場からちょっと聞きたいのですが,ハコモノの問題というよりも,私が博物館の方を見ていますと,やはり学芸員の問題ではないかと考えています。学芸員によって博物館の状況が,かなり違います。
 真室委員整理の,1と6に関係すると思います。例えば登録博物館においても,一つの条件に学芸員の充足があったのですが,これが後退して努力目標になってしまった。そのことを逆手にとられた学芸員の削減という状況があります。その経緯について,どういうことでそうなったのか,文化庁の事務局からも聞きたいところです。
 それから学芸員の資格の問題ですが,その養成システムも,専門性を高めた,あるいは修士課程を出たという専門職員にということですが,これも何の手当もないという現状であって,その辺のところをお聞きしたいと思います。

○田村委員 先ほど関委員がおっしゃった話,非常に私も共感しております。先ほどの吉本委員の情報の話もそれからこの施設の話も,いわゆる文化を考えていく場合のインフラ論と考えますと,全部私は当たっている課題だと思います。
 ただ,気になるのは,例えば戦後60年で問題を考えていくときに,一方では非常に充実できた状況があるわけです。それで,充実すればするほどこれだけ課題が出てくるということがある。こういうことから,僕は文化施設とか文化情報とかの文化のインフラが,ちょうど今大きな転換点にきているのではないかと思うのです。そこを正確にとらえないと,すべての議論が過去の方の備忘策にばっかりいってしまうのではないかと思います。
 情報のことに例えて言うと,僕は文化情報というのはうんと精緻化しなければいけない部分と,うんとラフに考えなければいけないことがあると思います。たしかにITの問題にしても非常に充実してきている世の中ですから,これはやっていけばどんどん精緻化をして深くなっていく。情報足りて肉体とか感性が衰えるということもあるわけですね。むしろ感性とか肉体を育てていく情報とは何なのだろうかと考えていくべきであって,そういうときにもう少し我々はそのスキルだとかツールではなくて,もっとコンテンツに対して戦略をつくるべきだと思います。
 それから施設の方に関して言いますと,先ほど上原委員がおっしゃったとおりだと思います。ところが私もずっといろいろな施設をつくってきてしみじみ感じるのは,私はそれを全てインフラ装置と呼んでいますが,一般には常にそれは施設,ハコモノなのです。そして,装置にしてしまうとお金がつかないからというような話を常にされる。考えてみますと戦後60年というよりも,もっと大きな日本の歴史の長い中でこれだけインフラが充実してきた時代にあって,もう一度文化の情報とか施設という概念そのものを考え直す時期にきているのだろうと思っています。
 それに対して,例えば公がどういう戦略をとるかという話に関しても整備戦略というのをきちんと持つべき時期にきているのに,依然として同じフィールドの中で考えられている。これはもっともっと精緻に議論しなければいけないことなので,そのあたりの転換点を今どうとらえるかということを,もっとここの場所で議論すべきです。
 文化については,何かというと外的な条件,例えば経済社会条件の変化の中で,文化の基盤整備の話が影響されていく。常に景気等で引いたり押したりする状況の中で文化の問題が語られている。これは非常に不幸なことです。こんなことで文化立国ができるかといったら,できないと思います。そのあたりの議論を歴史的にも構造的にもきちんとしていただきたい。私は文化単独の世界ではなく,まちづくりというような世界からそういうことを考えています。関委員がおっしゃった大きな戦略を構えていただきたいと思います。

○松岡委員 私も今,田村委員がおっしゃったことにまったく同感ですが,この場で議論して解決することなのかということがより大きいと思います。つまり,指定管理者制度が導入されたのも文科省,文化庁の問題ではなくて総務省なわけです。ですから,初回に私は申し上げたと思いますが,他の省庁で文化に直接係わるような施策なり制度なりができたときに,文化の側から異議を申し立てる。それだと本当に文化が崩壊するぞというような危機感をもって発言するとか何とかということが,何より大事ではないかと思います。
 それで今,美術館が全国に5,300館ある。ところが入館者は減少傾向にある。そしてそれが平成13年に独立行政法人化されたものが現れ,平成15年には指定管理者制度が導入された。この間の相関関係はどうなっているのか。おそらく独立行政法人化も指定管理者制度導入も,本来ならば経済効率とは関係ないはずの文化施設に経済効率の文法を持ち込んで制度として起こってきた。にもかかわらず入館者の数が減少しているのはいったいどういうことなのか。この点についてのデータに基づいて,総務省の施策が目論見どおりの効果があがっていないことについて,文化の側からの見解を明確に伝えるべきです。

○加茂川文化庁次長 指定管理者制度の話が出ていますので,幾つか指摘させていただきます。まず,この地方自治法の改正は各省庁の大臣が賛成し内閣として提出したもので,政府として取り組んでいる制度であることをご理解いただきたいと思います。
 この法令協議のときになぜきちんと文部科学省なり文化庁は発言しなかったのかといえば,それは上原委員のペーパーとも関係しますが,地方分権という地方自治体の判断や選択肢を広げようという大きな流れの中で,文化施設または美術館,博物館を外せなかったためです。私としても,効率化一辺倒で本来達成されるべき文化サービスの充実に心配があるという運用上の不安を共有しないではないですが,制度自体に不備があるとは思っておりません。
 この制度は,これまでの管理委託制度の選択肢をより広げて,NPO法人も民間法人にも一定の条件のもと,地方自治体が議会で条例,法令でもって関与することで責任を明確化することによって,効率化を図りつつサービスの向上を図ることを目指している制度です。つまり,上原委員が1ページに書いているとおり,地方財政の悪化はありますが,自治体の文化政策のあり方が問われている。自治体の中には,直営に切り替えた千葉県の例もありますし,非公募でこれまでの財団法人を指定管理者にしたところもあります。いろいろな取組みが地方から生まれていて,自治体が文化行政を大事にすれば,今たしかに地方は財政難ではありますが,現在の水準は維持できるし,それ以上のものが期待できる制度であることはご理解いただきたいと思います。
 ただ運用上,効率一辺倒で文化のレベルは維持できるのかという不安はありますから,文化庁としても,自治体がより主体的に判断できる情報を提供するために公立文化施設に関するシンポジウムを行ったり,関係する研究会を立ち上げてよりふさわしい判断ができるような支援もしているところです。

○熊倉委員 私も基本的には今の次長のお考えと理念的には非常に共感するところです。ただ,前提として制度には実際不備がありまして,例えば非常に細かいテクニカルな問題が全然定められていなくて,官民が実際に同じ土俵で競争ができないという問題は既に各現場から出てきています。一つには事業所税の問題です。県の財団だったら払わなくていいけれども,民間の場合には払わなければいけない,2,000万円のお金が余計にかかるというようなことで,それでどうやって公共と民とが平等な競争ができるのか,情報に関しても同じです。そもそも今おっしゃったような自治体の文化政策がまさに問われているのですが,その文化政策を自治体の方が文化施設,あるいは財団に丸投げしていて,大きなビジョンをきちんと立てていないというツケが回ってきています。
 ただ,今の国全体の流れの中で,文化を守るという論理だけでとてもそんなことを言える状況ではないというのは非常に同感です。流れとしてはこれまでの文化のあり方に対して,余り役に立っていないということを我々は突きつけられている気がします。マクロな意味での危機感があまり共有されていないという部分で,先ほどの田村委員の意見と私も同感です。残念ながらここまでインフラを整備してきたのに観客離れが起こっている。
 それで,海外で今最もあこがれられている日本文化はコミックです。二十歳ぐらいの海外の若者に,日本人だというと急に目を輝かせて,あこがれのまなざしで見られるのですが,残念ながら全然話が伝わらなくてびっくりしました。パリの書店でもかなりの日本のコミックスの翻訳物が出ていて,大変大きな影響を与えているのに,日本の美術館の名前を知っている人はだれもいない。つまり,今日我々が一生懸命文化だ,芸術だと言ってきたものの輸出に,我々は成功していないという状況もあると思います。
 そういった中で,せっかく培ってきた劇場なり美術館なりに,どうやって今日的な部分の役割を付加していくのか。学芸員にはしっかり美術史を勉強してもらった方がいいのは確かですが,今日の文化政策の中でどういう位置づけを担っていくべきなのかも勉強してもらった方がいい。多くのお客さんに今楽しんでいただくことをどのくらい大事にするのか。あるいは将来の観客づくりとして学校との連携,福祉との連携みたいなことをどうやっていくのかというように。同様に劇場にもきちんと演劇のこと,ダンスのこと,世界の動向の様子がわかってネットワークをつくれるような専門家も必要だと思います。
 経営戦略を立てられる専門職員がどこの施設にも決定的に欠落しています。独立行政法人化した国立の美術館の運営委員会や,評議委員会に出ても広報やマーケティングの概念がないし,そこに人を割く予定もない。そういった部分での大きなテコ入れが必要ではないかと思います。
(青木部会長退席,富澤部会長代理による議事進行)

○富澤部会長代理 大変重要な議論に入っていますが,前半の部分はこれで止めて,後半部分の発表と,議論にしたいと思います。その他の基盤の整備等,民間の支援活動の活性化等を中心に嶋田委員,関委員,続いて私も意見を発表したいと思います。

○嶋田委員 私は2000年から企業の中で社会的な支援という意味での社会貢献活動とメセナ活動と財団活動を担当していますので,実際メセナ活動をする上で企業の担当者がどういう点で困ったり悩んだりしているかという視点でお話をします。
 2003年度の経団連の社会貢献推進委員会・1%クラブの「社会貢献活動実績調査結果」という資料があります。企業の場合,社会貢献活動支出額には,大きく寄付にかかわるものと,自主プログラムといって継続性のあるもので,その企画に企業の担当者がかかわっていくようなものとの2つに分けることができます。03年度のデータでは経団連の1,300社強の調査対象の中から回答企業が388社,28.3%で,1社平均を見ますと,大体3億3,000万です。その内訳は,資料の8ページにあるように寄付金額が1社平均2億2,000万,自主プログラムは1億500万というのが平均になっています。寄付の中には単純に大きなコンサートとか美術展の協賛というのも含める企業もありますので,全体的には大体3億円ちょっとから3億5~6,000万ぐらいで毎年動いているととらえられます。
 そして社会貢献活動額支出の構成比ですが,2003年度は文化・芸術が一番多くて全体の費用の17.6%,1年前の2002年でも16.1%ということで,文化・芸術への支援は,かなりコストをかけて行っていると言えます。
 次に10ページの,社会貢献活動を推進するための専門部署や専任担当者の位置づけのところで,独立した部署として設置している会社は3割程度,専任担当者を任命している企業がまた約3割で,総務部門にそういう方々がいらっしゃるわけですが,このCSRブームというかCSRの時代になりまして,独立した部署がなかった企業も大手の場合には,この機会に社会貢献とかメセナ活動をする担当者も含めてCSR関連部署を新たにつくって,その中にそういう担当者を置くという傾向が見られるようになってきました。
 それから,企業の中のメセナ活動の位置づけの変化についてお話します。経団連の中に社会貢献推進委員会が,メセナ協議会と同じころの1990年にできて,毎月研究会をしていますが,企業の中では金食い虫と言われているセクションですので,企業活動にきちんと位置づけるために,いろいろな考え方を勉強してきました。2001~2年ごろから,CSR,企業の社会的責任については,経済,環境,社会という三つの視点でさまざまなステークホルダーに対して,企業が持続可能な社会を構築するために,これを行っていることをきちんと情報開示して活動すべきであり,その中に社会貢献活動も位置づけられるという論議を展開してきました。そうした中で2年ほど前までには,新聞広告の中でも企業のメセナ活動や社会貢献活動を広告化する企業も増えてきました。
 こういった文化政策等々に企業が協力するというのは,日本のある種特有の活動です。グローバルな視点でCSRという評価を見るときには,そういった社会貢献,メセナ活動にかかわる活動よりは,むしろ人権の問題とか,それから男女共同参画の問題とかあるいはグリーン購入の問題とか,さまざまな全世界共通のテーマで企業が社会に対してどういう活動をしているかという説明責任が求められます。また,それに対する体制が整っていない場合には,決まりもつくって企業の中で運営していくようになってきましたので,全般的に企業経営にお金のかかる時代を迎えています。
 その中にあって,CSRとメセナも含む社会貢献の関係をどう位置づけるのか。私が作成した資料2枚目のように,土台となるのはコンプライアンスであり,そこに企業活動に伴うネガティブインパクトに対応する企業倫理があって,さらに社会の役に立つための自発的活動としての社会貢献がある。この三つの要素がそろわないと企業ブランドは向上しないと,私は社内に説明して,社会貢献,メセナ活動の大切さを訴えています。
ただ,社会貢献活動の考え方の変化が起こっていまして,隠匿は美徳ということで80年代までは利益の一部還元については外部には公表しませんでしたし,ましてやこのような報告書の中にそれを入れるということは余りしておりませんでした。
 ところが90年代になって,アメリカ式の考え方が入いり,事業活動とのリンクでシナジー効果を生み出せるように,事業活動に近い分野で戦略的な社会的活動をして,それを情報開示し信頼を得ていこうという時代になりました。そして,2000年以降はCSRということで完全に社会的活動に注目が集まってきました。企業は社会に責任を果たし,社員も社会に責任を果たす。キーワードは地域貢献,NPO,NGOとの協働,ボランティアの推進。この三つに対して企業が活動していないと,評価されなくなってきました。
 具体的には,CSRの枠組みの中で社会貢献活動の見直しを行う企業が増えてきました。その活動が持続可能な社会づくりに貢献していると言えるかどうか,それからまた寄付等々もステークホルダーに理解が得られるかというような視点からすべての見直しを行う。そうすると,企業にとっては事業活動以外にも社会的な問題に投資しなければならなくなって,メセナへの関心が残念ながら相対的に少し後退しているのではないかと思われます。それは,戦略的な社会貢献活動を進めるとなると,メセナよりは狭義の社会貢献活動の方が社内的にも社外的にも理解されやすく歓迎されやすくなるからです。
 それからコーポレートガバナンスの観点からは,次のようなこともあります。以前でしたら,社長がバレエ好きだからバレエの後援をするというようなことも成り立ちました。ところが,経営者個人の嗜好ということで支援したり寄付したりするということが,企業統治としての透明性に欠ける形になるとして,社会貢献委員会のようなものを社内につくって支援の方向性を決めるという動きが起きてくる。結果として,本当の意味でのパトロン的な活動が,だんだん縮小される傾向になってきています。
 一方,バブル期を経て企業が学んだものについて言えば,マスコミでバブル崩壊以降企業はメセナ活動を何もしていないと書かれる方がいらっしゃいますが,実際さまざまな活動をしています。ただ資金提供だけをしたのでは,結局お金が出せなくなったときには何も残らないのみならず,かえってそれが批判になって返ってくるということ,これを学びました。ですから協賛というような形よりもできれば協働へ持っていきたい。資金支援型から脱却し,一緒に活動して企業の強みを芸術活動に生かすことで新しい社会の動きをつくっていくことを目指すのが,メセナ活動も含めた社会貢献活動担当者の今の考え方になってきています。
 そうなると,純粋な芸術支援というよりは福祉とか教育のフィルターをかけた活動が注目されてきました。例えばハンディキャップのある人たちの芸術活動を支えるとか,小中学校に芸術の出前授業をするときにスポンサーになるとかいうこと。企業の強みを生かすということで,コンピュータソフト会社だったら音楽祭の模様をネットを使って全世界に配信するとか。それから今まででしたら例えばオルセー美術展の協賛だけをしていた企業が,それとあわせて一般の観覧者や子どもたちにレクチャーもするようになる,というような付加価値型の協賛もあわせて実施していく。それから芸術団体に企業のマーケティングの視点からアドバイスしたり,公演のあとにアンケートをして一緒に分析したり,自分たちの使っていない施設を稽古場として提供したり。つまり,比較的費用はかからなくても手間はかかるという活動に移ってきています。その一方では,芸術家の立場になるとお金をいただいても,ものを言われたり一緒にやったりされないで,ただ好きなことをできるのが一番ありがたいのではないかと,実のところは思います。しかし,そういった活動をしていても企業としてはあまり評価されないという状況になってきています。
 それから,民間支援を活性化させるための税制について。企業メセナ協議会の助成認定制度ができて,第三者機関が関与することで安心して助成ができるようになりました。特に演劇等で助成認定がされていると安心して助成できるので,企業にとってはやりやすくなりました。以前のメセナ協議会の調査でも税制に優遇措置がないため,メセナ活動に支障があるというものが22%ありましたが,さまざまな別の企業側の問題点を解決すれば,税制の問題だけで支援が止まることはないのではないかと思います。むしろ,個人ベースでは制度改革よりは意識改革が先ではないでしょうか。大事なのは,自分でお金を出して芸術に触れる機会を増やすことです。お金を出してチケットを買うことが,実はその美術展や美術館を支えているという意識の醸成をどうしたらできるかが問題です。そのために,舞台の劇でもオペラでも何でも時間はかかるけれども,鑑賞法を若いうちから教育していくことが,必要ではないかと思います。
 これからのメセナ支援上の企業側の問題点には,スタッフの不足,専門知識の不足,情報不足という3不足があります。スタッフの不足については,企業は人件費にコストをかけることは,今後ないと思いますので,こういったセクションに人を増やすことは少なく,むしろ外部をうまく使って協働で何かしていく方向になっていくと思います。そうしたときに,企業と芸術NPOをつなぐ組織が必要となります。既にそういったものはありますよという方はいらっしゃいますが,今のところまだそれは非常にクローズな世界で,私ども普通の企業はなかなか情報をとる手立てがありません。
 通常の社会貢献活動でしたら,まずその本社の所在地の社会福祉協議会に行きます。そして福祉上どんな問題があるか教えてもらったり,経団連の社会貢献担当者委員会に行ったりします。NPOセンターでも企業とNPOをつなぐ活動の提案をしてくれる等,頼りになる機関がいろいろあります。ところが,メセナの場合はメセナ協議会ありますが,非常に組織が小さいのでなかなかそういう要求に答えていただける部分が少ないのが現状の問題点です。
 それからメセナ活動支援のための社会の理解について。我々財団の仲間で集まったときに,今までの絵画や,クラシック音楽は旧制高校を経た方々のあこがれの芸術という言い方をしています。そして今,企業のトップは代替わりになりまして当社の場合も50代の中盤です。そうすると芸術に対する理解が以前とは随分変わってきているので,芸術振興が社会に及ぼす効果や影響を社会全体で改めて認識する必要があると思います。
 21世紀は,我々のようにシャンプーや洗剤のようなものでも感性が要になり,格好いいもの,使い勝手のいいものでないと,グローバルで商売をする場合にはとても難しくなっています。そのベースにあるのは,やはりその国の芸術の発展度合だと思います。ですから,芸術振興が産業振興のために不可欠であるという認識を経済界も含めた社会全体が持っていかないと,経営レベルでも芸術支援よりは社会支援の方に目が行きがちであり,ましてや途上国支援という大きな問題も出てきています。お金の配分をどうするかが非常に悩ましくなっているのが企業の現状です。

○関委員 今,嶋田委員からお話がありましたことに,私はまったく同感です。これからの私の話は嶋田委員のお話を具体的に裏付けるような話になると思います。
 まず,資料の1ページ目に企業による芸術文化支援活動の推移を概観しました。70年代まではその啓蒙期として,戦後経済の発展に呼応する形で企業が文化支援をしました。
 80年代には社会貢献の意識が高まり,この期にホールが続々とできました。それで冠イベントの実施や,企業財団の設立が始まりました。
 90年代は活性期と位置づけました。企業メセナの意義,認識の高まりを受けて,社会文化支援活動が加速しました。この時期は日本がバブル経済を謳歌し,同時にそれがはじける時期と一致します。企業メセナ協議会が90年にできて,メセナ元年と言われています。しかし,バブルがはじけてメセナ活動が停滞したという概観ができると思います。
 2ページ目は企業メセナ活動の現状を同協議会が調査したものです。調査対象4,124社中632社の回答。回答比率が大体15%,回答中65%がメセナ活動を行ったということなので,ほぼ4,000社強調査して調査対象会社の10%がメセナ活動を実施していると見たらいいでしょう。
 メセナ活動費はほぼ200億,バブル崩壊で減りましたが,01年を底に以前の水準まで戻ってきています。動機は「社会貢献の一環のため」から「企業イメージの向上」まで四つ挙げてありますが,いずれも事業活動とは必ずしもリンクしていない。むしろ先ほど来お話のCSR活動の一環としての位置づけになっているのではないでしょうか。そこにある「地域社会の芸術文化振興のため」という回答は結構多く,やはり企業は地域との共生あるいは共栄を図ろうということから,むしろメセナは地方に根づきつつあると理解していいかと思っております。
 それからメセナ活動を行わなかった理由としては,お金がない,社内コンセンサスができない,スタッフ,ノウハウの不足もあるようです。
 それから芸術文化をどこが支援すべきかということですが,地方自治体に期待する声が大きいようです。それで以降,新日本製鐵の現状をお話しておきたいと思います。
 私ども新日鉄グループの企業理念の中の一つである「経営理念」に,社会と共生し,社会から信頼されるグループであり続けたいということがあって,社会への貢献を重要視しています。
 具体的には,第1に「科学技術及びものづくり教育の普及」です。ご参考までに私どもが作成している,ものづくり教育に関する学習絵本をご用意しました。これは大変評価されまして,39万部近く配布し,1,000通を超える手紙が私どもにきています。あわせてものづくり実践教室。これは各製鉄所で小学生から大人まで体験学習にご参加いただいています。
 そして「環境貢献」は当たり前のことで省きますが,次の「文化貢献」としては紀尾井ホールをつくり,そこには紀尾井シンフォニエッタ東京というハウスオーケストラがいます。このオーケストラも新日鉄の丸抱えではなく,この2,3年自立できるような活動をしています。
 戦後,優秀な演奏家を日本に招聘するお金がない時代に,新日鉄コンサートを1957年に始めて,約50年間続きました。優れたクラシック音楽を身近に親しんでいただくことを,ずっと企画してきた下地があり,音楽活動の支援を続けています。
 その他「地域スポーツによる貢献」をしていますが,それは地域スポーツへの発展を目指して展開しています。
 5ページでは,企業による芸術文化支援の今後の展望として,いくつか整理しました。
やはりだんだん皆さんの目が肥えてきて,いいもの,本物でないと,ものにならないということだと思います。一方,企業はグローバルコンペティションで事業を取り巻く環境が厳しく,本物を1社だけで提供するというのは,とてもできない時代になってきています。総括して言えば,活動支援の主体も変化している。公から民へと,あるいは公でも国ではなくて,むしろ地方自治体の方が担い手になってくる。民も企業が後退してきて,市民やNPOが主体になってくる。さらには,国,企業,非営利団体,市民の相互連携を強化していくということで非常に優秀なものを提供していくことが,今後の基本になると考えるべきでしょう。
 また,企業のかかわり方で言えば,社会からの信頼を得る一環としての活動が趣意になるのではないでしょうか。1社で丸抱えとはいかないということで,基幹団体としてメセナ協議会ができていて,200団体ほど参加しています。会長は資生堂の福原さんですが,会員収入は事業収入からいっても1億円ぐらいで,それから先ほど嶋田委員からご紹介のあった助成寄付金の受け皿になっていることで約7億円位の実績があります。これを今後中核的な組織として活用していくことが重要ではないでしょうか。そこに資金の一部をプールして安定的支援を実現するようなことを考える,そういうステージにきているのではないかと思っております。
 それから,インフラ整備として寄付税制は必要です。これは今主税局の方でいろんな検討が進んでいると聞いております。また文化庁の予算執行についても先ほどのメセナ協議会のようなところに資金を流すとか,一部基幹団体へ移管していくことも考えられると思います。
 資料には企業としてどう展開していくのかという提案もいくつか具体的にしましたが,中でも教育現場支援の取り組みというのは,やはり大きなシェアがあるのではないかと考えています。美術館,ホールを学校の授業にきちんと組み込むとか,あるいは紀尾井ホールを練習場所として使っていただくようなことも考えられます。実は紀尾井ホールに邦楽ホールがありますが,邦楽の教材を共同開発する等のこともあり得る。つまり教育との連動を一つの柱に企業がこれをきちんと組み込んで,メセナ活動をやっていくという視点が一つ。
 それから,全国にある公立文化施設を有効活用する企画やノウハウの提供という視点が一つ。
 そして,外国との関係ですが,文化交流のチャネルを拡大していく中で,一定のコントリビューションをしていくという観点があるのではないかと思います。特に,海外での基金形成,つまり日本のアーティストを海外に招聘する海外のプロモート組織がなく,随分我々の文化発信にも制約があると聞いていますので,そこに各企業がかかわって支援するという視点が一つです。以上です。

○富澤部会長代理 それでは,最後になりましたが,私からも簡単に意見発表をさせていただきます。資料はあえて用意しませんでした。
 私は,まず,なぜ文化芸術の振興が今日的な課題なのかということを,あらためておさらいした上で,当面の企業メセナを推進する上での提言を幾つか申し上げます。
 戦後の総理大臣の一人で非常に短命政権でしたが,石橋湛山という人がおりました。この人が敗戦直後に,日本は植民地,膨張主義をとらなくてもこの四つの小さな島でやっていけるんだということを言いました。それをあらわしたのが『小日本主義』という本です。戦前の日本の拡張主義が近隣諸国に大変迷惑をかけました。そのもとが2.26事件の黒幕であった北一輝という思想家が『日本改造大綱』という本を書いて,日本の人口は明治以降増えて,100年後には2億5,000万人になる。これを養うためには大変大きな領土を持たなければやっていけないということを言い出し,これに軍部が載っていったことです。
 そうしたものに対する反省もあって石橋さんはそれとは逆に,人には人格があり,それと同じように国にも国の格,国格というものが必要だと言った。単に軍事力が強いとか経済が豊かだというだけでは格はできない。それに何かがプラスされて国格になるんだと言っていますが,まさにそれが我々の今直面している21世紀の課題でもあります。もともと一般に国力といった場合は軍事力と経済力ですが,21世紀に入ってくると基本的には経済力が大きな力になる。けれども経済力だけでは世界から軽蔑され,経済力プラスアルファーの何かが必要になる。
 そこで登場するのがまさに文化力です。今こそ文化が力を示すときであると私は考えます。国内的に見ても日本はずっと戦後右肩上がりの経済成長を続けてきましたが,今日そういうことは望めません。人間でいえばもう背丈は伸びない。そうなると心の豊かさをどうするかということです。それが政治力,経済力の時代だということであります。日本だけではなく世界各国がこれからは文化の戦いになるのではないかと認識しています。
 その意味で日本にとって非常に手ごわいのは中国です。なぜかというと,中国は国家の意思を持って挑んでくるからです。かつてフランスがそういう形でした。フランスで文化の担い手は貴族でしたが,その後は国の意思として国が前面に出て文化に責任を持っている。フランスの国家予算は今20兆円ぐらいだと思います。日本よりは大分小さいですが,フランス文化省の予算は,その1%の2,000億円程度ある。日本の文化庁予算が1,000億円ですからその2倍,GDP,国家予算は小さくとも文化予算にはそれだけのものを投じている。私は,文化は先ほどから申したことから,国家が責任を持って担うべきものと考えます。ただ,現実にはなかなかそうならない。そうした国家戦略を持った指導者が今後あらわれてくるかどうかですが,当面は民間の力を活用して,国家の足らざるところを補っていくしかないのではないかと。そういう意味で企業メセナについて2,3提言を申し上げます。
 日本の経済を支えているのは多くのビジネスマンですが,その人達にとって文化あるいはスポーツは不可欠です。ということは,企業にとってもメセナは欠かせない活動になっています。80年代に日本の企業はどんどん海外に出て,特にアメリカで貿易摩擦が起きる,その解消を目的にアメリカでの現地生産を急増させました。その過程で現地での企業のあり方を模索するようになり,90年代には経団連を中心に1%クラブやメセナ協議会も発足することになりました。こうしたことから,日本におけるメセナ・フィランソロフィー活動は,多分にアメリカに進出した企業から逆輸入された側面が大きい。
 しかしバブル崩壊後,日本企業の間に敗北感が広がり,今は株主主権とかあるいは利益優先の考え方のもとにメセナ活動はむだな経費だという声もあります。いまだに多くの企業に儲けた金の一部を寄付して税金対策にするという,非常に安易な発想から抜けきれない面もあります。私はメセナ活動が経済の活性化そのものにつながるという意識がまだ足りないと思います。
 従来はハコモノ施設の建設に偏りがちでしたが,活動自体は社会貢献の一環であるという考え方を根づかせていく方向に持っていくべきではないかと思います。
そのためには,まず第一に既存のインフラをいかに有効活用するかということが,焦眉の急であると思います。バブル期には官民ともに文化施設の建設が活発に行われましたが,用途不明な多目的施設が多く有効に活用されていないと思います。中にはリストラの一環で自前の施設を閉鎖する企業もあって,せっかくの施設を腐らせています。こういうものを近隣で共通な考え方の基盤に立って共同で使うとか,逆にイベントをすみ分けるようなことを徹底していく。そのために地域全体の施設運営をプロデュースする人材あるいは組織の育成も考えていかなければならないと思います。
 二点目はソフトインフラの整備です。文化施設の研究調査,あるいは統計の整備が遅れているのではないかと思います。文化庁も1988年ですか「わが国の文化と文化行政」を発表しています。いろいろ努力はされていますが,民間から見ると現状分析に必要な統計数字が不足していると思います。文化施設の現状一つを例にとってみても,全体像がなかなかつかめないというところであります。全体像が見えないと当然その解決策も探れませんし,官民の役割分担ということもなかなか議論ができないのではないかというふうに思います。
 それからまた,大学のメセナ講座なども非常に少ない,それも企業との連携となるとほとんど見られません。先端技術分野等では産学協同が非常に進んでいますが,文化の面では立ち遅れがまだ目立っているのではないかと思います。
 三点目は,税制ですが,日本では損金算入の限度内でメセナの一般寄付金を経費に,損金に計上できますし,先ほどのように企業メセナ協議会への寄付も別枠で免税になる形になっていますが,損金算入できる所得の割合は現在1.25%位だろうと思います。アメリカの税制優遇策と比べるとやはり足りない。固定資産税については,前からこの政策部会でも大分議論が出ていますが,国の施設は固定資産税がかからず,民間はかかる。これが企業に大きな負担になっています。だからいろいろな美術館等を閉鎖してしまうわけです。景気が悪くなると閉鎖してしまうところが多くなるわけで,私は税制改革はもっと進めるべきと考えています。
 それから四点目,地方分権の推進ということですが,企業がメセナ活動を推進する上で地域といかにかかわっていくかということは大変重要な視点だと思っております。実際これまでも地域に密着し,地域おこしと結びついたメセナ活動の例はたくさんありますが,全国で事業展開をする大手の企業の場合,地域にどこまで肩入れをしていくのか軸足がまだ定まっていないと思っています。そして企業の中枢機能をどんどん東京へ移してしまう現象が目立ちますが,その意味では企業文化の面でも東京への一極集中が非常に進んでいるということです。河合長官が呼びかけて,今,関西元気文化圏というイニシアティブを行っていますが,これ等は成功事例の一つだろうと思います。こういうものに対する認識をもっと深めて,企業から住民へ活動が広がるように期待していきたいと思っています。
 それから五点目は,先ほど嶋田委員が説明をされたので省きますが,CSR,企業の社会的責任の位置づけ,整合性です。企業は社会的な存在として役割を果たすべきだというのがCSRですが,これが普及してきてメセナ活動が追い風を受けているように見える。ところが,実態は必ずしもそうではない。企業のCSRを見ていっても法令遵守,企業倫理,人権あるいは環境問題,そういうものへの取組が強調され,メセナは片隅へ追いやられている感じがします。企業によってはCSRの専門分野担当部署とメセナの担当部署が違い,一体化していないということもある。ところが,逆に今後CSRの中でのメセナの位置づけについて,幅広いコンセンサスづくりができれば,企業がもっとメセナに目を向けやすくなり,推進できるようになると考えています。以上です。
 それでは,先ほどからの議論も含め皆様のご意見をうかがってまいりたいと思います。

○上原委員 先ほど加茂川次長からご説明がありましたが,白紙で真空の状況の中での制度設計であれば,たしかに選択の可能性の幅を広げたということも言えると思います。今現在,私が説明の中で矛盾したことを言っていると申したのは,地方の実態を申し上げたのであって,決して分権一括法だけで分権が成立したわけではなく,まだまだ地方の行政自体が分権の意味をよくわかっていない実態があるということです。
 それから,特に芸術文化については各委員からご発表がありましたように,決して国民の中に十分浸透していない。それがいかに大切かということを,みんなが認識する必要がある段階であるというご発表がありました。そういう状況の中にあって指定管理者制度がどういう役割を果たしているのかが問題であるわけでして,真空の中で書かれた制度設計ではないということはご理解いただいて,その中でどういう効果をもたらすのか考えていただきたいということをお願いしたいと思います。

○横川委員 皆さまのご発表を総括すると,基本的には真室委員は,小中学生向けの展覧会等のプログラムの充実ということを。嶋田委員は個人のレベルでは制度改革より意識改革のためにも,教育の中に鑑賞法を組み込む必要性を。また関委員は,体験教育や科学及びものづくり教育の普及,教育との連動ということをおっしゃっていました。僕も芸術なり文化なりも,これから鑑賞者になっていく層,つまり小中学生をどう育てていくかが,一番のベースだと思います。そういう人たちを学校の授業で実際に美術館に連れて行ったり,あるいは音楽会や,演劇鑑賞に行ったりできるようにしていくために,教育委員会等がバックアップする。僕は芸術に関する教育のカリキュラムそのものが,非常に希薄ではないかと思います。大切なのは小さい時からの,そういう環境や体験だと思います。学校のカリキュラムに組み込んで子どもを鑑賞者として教育というか養成していくことを,僕は強調したいと思います。

○岡田委員 ずっとお話を伺っていて,現状の分析,そして当面の課題と,いろんな枠組みを考え文化力を高める戦略を詰めていくことも大切だと思いますが,気になるのは討論の中に人間の顔が見えてこないことです。
 先程初めて,熊倉委員から観客ではなくお客という言葉が出てきましたが,余りにも事務的に現状分析から入っていて,人間がよそに追いやられていてはこの文化のことを論ずる意味がないと思います。文化をどうするかということ,文化力を高めることの一番核に人間があるということを忘れないでほしいと思います。人間の関心を文化の方にどう向けるか,向けさせるかということは,まさに人の心にゆとりがないと文化にまで気持ちがいかないわけでして,人の心をどう動かすかという一番大事なところについても,決して忘れないで熱く語っていただきたいと思うし,私もよく考えていきたいと思っています。

○山西委員 全体を通して学校と美術館,それから企業等々の関連についてのお話が出ていますので,学校の現状等も含めまして幾つかお話を申し上げます。
 最初に,真室委員からの美術館や博物館と学校との連携をどうしていくかというご意見がありましたが,学校週5日制が導入されておおむね定着はしておりますが,そういう中で美術館や博物館,科学館も含め,小中学生向けの展覧会プログラムがたくさん企画運営されているというのは,ここ10年来で大きく変ったことです。そういう企画の改善の中から,子どもたちは鑑賞の楽しさや,博物館になれ親しむ資質能力を身につけていっているのも現状です。そういう中で育っていった子どもが高等学校に行ったり大学に行ったりしてから,自分が通った美術館や博物館のボランティアとして,そこに戻ってくる子どもたちも育ってきています。
 一方,教員の資質向上についてもいろいろなワークショップ等をご提供いただき,私どもでも夏休みに職員が美術館に行って,研修としてワークショップに参画する中で新たな啓発を受けてくるということで,学校がここ10年間で随分変りつつある実感があります。
 しかし一方では,NPOや青年会議所,あるいはロータリークラブ等々,(土)(日)の文化活動を呼びかけていただきますが,なかなか保護者や子どもたちの積極的な参加をみないということもまたあります。保護者にすればそこに子どもを参加させない。心にゆとりがないから文化よりも生活優先の社会だというお話がありましたが,まさにそのとおりで,文化に対する受容のあり方が,二極化という以上に固定化している現状があるのではないかと思います。保護者や地域の大人たちが文化や科学に理解のあるところでは,この夏休み等も使って子どもに合宿形式も含めていろいろと参加させていますが,まだまだそれは一部に固定化されていて,外部からの企画に応じきれない感じがあります。
 また,学校教育の中身で申しますと,先ほど嶋田委員から社会貢献活動としての出前授業等のお話がありましたが,こういう機会もこのところ多く,学校でも国語や音楽の時間等に,本物にふれる活動が増えつつあります。しかし,先ほどカリキュラムの問題がありましたが,現在のカリキュラムの中で例えば音楽の時間を1時間それに当ててしまったために,通常の活動が十分達成できないというような枠組み上の制約があるのも,今後課題の一つになるでしょう。
 学校と企業やその他の主体の活動との関連の中では,学校は学校の中だけ,企業は企業でというようなことで,なかなか双方のキャッチボールがうまくいっていないのも現状としてあります。これからの共同開発のお話も出ましたが,そういう中で学校の教職員と外部の方との会議をプログラムしたり,あるいは上手にコーディネートしていくような仕組みが必要になってきています。学校側のリーダーシップが大事だという話が随分ありますが,リーダーシップとともにネットワークをつくる力が今後の学校には求められていくのではないかと思います。

○渡邊委員 私自身,ある美術館との関わりができて,いささかその美術館の経営にタッチしはじめました。先ほど関委員から,競争力のない美術館が8割もあることへの驚きのご発言がありました。確かに,このところの美術館が全体的傾向として観客動員数が減少する中で,マイナーな美術館・博物館の設立目的は,本来何だったのか,もういちど分析してみる必要があると思います。日本の場合たいがいは個人資産の保存が大きな要因になっている。そのくせまた別なところでは,例えば絵本の博物館とか何か小さな目的を持って生きていく部分もある。
今,私のかかわっているところは八ヶ岳山麓にあり,近辺でもおそらく20以上はそうした施設がある。それぞれに競争力抜群のところもあれば,まだそこまでいかないものもある。そういう施設は場合によっては観光の対象として十分開発しうることも含めて,凋落傾向のなか最終的に潰れていいのかどうかという問題がある。
 そういう施設は,そこにある場所の地域性,地域行政との連携を得ないとまず生き残ることは難しいです。それで,学校教育と結びつこうという努力もしているわけです。これからの分析というのは,集合的にまとめて全体凋落傾向にあるというだけでは不十分で,そこに将来像は出てこない。そこで問題になるのは地域行政が直接投資だけではなく間接的にであっても,何をしてそういうところを活かすのかという視点であって,それがこれから問われてくると思います。地域性の中でどこかに競争力をつけていかないといけない,あるいは社会的な貢献度を高める努力をして,地方行政の中で生きていく努力をしていくということです。
 そして,上原委員が前から懸念している指定管理者制度があります。これは対象が地方公共団体になりますが,若干これがやはり美術館にも影響するだろうと私も感じています。ですから,これからの動きはやはり文化庁としても十分に注意しておいてほしいと思います。その結果,何か不具合が生じれば正していくということを行っていただければいいと思います。

○富澤部会長代理 まだ,手をあげていらっしゃる委員もいらっしゃいますが,時間ですので次回以降にまた議論を深めてまいりたいと思います。本日の討議はこれで終了します。事務局より次回の日程等についてご説明をお願いします。

○関政策課長 次回は10月17日(月),10:00から13:00まででございます。場所は東京會舘ゴールドルームです。根木先生,熊倉先生,伊藤先生からは高等教育機関について,山西先生からは学校教育について,そして河井先生からは地方公共団体の関係について,それぞれにご発表をお願いしたいと存じます。資料等のご準備については,適宜ご連絡いたします。

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