第19回 文化審議会文化政策部会議事録

1. 日時

平成17年10月17日(月)  10:01~12:19

2. 場所

東京會会本館 11F ゴールドルーム

3. 出席者

(委員)

青木委員 伊藤委員 上原委員 岡田委員 河井委員 熊倉委員 嶋田委員 関委員 富澤委員 根木委員 真室委員 山西委員 
吉本委員 米屋委員

(事務局)

加茂川次長 寺脇文化部長 岩橋文化財部長 亀井文化財監査官 関政策課長 他

4.議題

  1. (1) 「文化芸術の振興に関する基本的な方針」の評価と今後の課題について(各論(3))
  2. (2)その他

5.議事

○青木部会長 文化審議会文化政策部会第19回目を開催します。
 事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

○関政策課長 <会議資料及び参考資料の説明>

○青木部会長 資料1の第18回の議事録(案)に関しまして,ご意見がございましたら本日から1週間後の10月24日(月)までに事務局までご連絡をお願いします。
 本日は,前回に続きまして,文化芸術の振興に関する基本的な方針の各論部分,第2 文化芸術の振興に関する基本的施策のうち「3.地域における文化芸術活動の振興」「5.芸術家等の養成及び確保等」「9.国民の文化芸術活動の充実」等を中心に委員による発表及び質疑応答を前半と後半に分けて行いたいと思います。
  それでは,まず「5.芸術家等の養成及び確保等」「9.国民の文化芸術活動の充実」「10.文化施設の充実等」を中心に,伊藤委員からご発表をお願いいたしたいと思います。

○伊藤委員 まずは意見を述べるに当たって,私の考えている文化政策とは何かというイメージに触れて話を進めさせていただきます。
 辞書等で文化という言葉を引きますと,大きくわけて一つに人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果,特に精神活動化を目指されたものという定義と,もう一つは社会を構成する人々によって習得・共有・伝達される行動様式ないし生活様式の総体といったような特定の人間集団に共通するような行動を指す定義の二つがございます。私は文化政策は基本的には一つめの文化というものを振興して,結果として二つめの文化,特定の人間集団における共通する行動等を豊かにしていく政策だと考えております。言ってみれば,人間の私的な精神活動の成果を,社会的財産に転換していく施策というものが文化政策ではないかと思うわけです。
 そのために,必要な条件として,私的な創造,表現というものの自由が保障されなければいけない。そして,その上で,多くの人々の成果へのアクセスが保障されなければいけない。と同時に,あわせて特定の人間集団等が固有の文化を保持していく。これが,三つめの要素として出てくるのではないかと思っております。
 このような観点から,芸術家等の養成及び確保についての意見,並びに前回議題になりました文化施設についても関連する形で触れさせていただきたいと思っています。
 まず第1に,「5.芸術家等の養成及び確保」に関してですが,まず,社会の中で文化が生産され,継続的に発展していくということはどういうことであろうか。こういったことについて,さまざまな学者の議論がございますが,これはアメリカの社会学者のグループたちが唱えている文化生産論について,私もこの辺の専門ではございませんが簡単に紹介させていただいて,一つのポイントを見つけたいと思います。
 この文化生産論の中心になっているリャード・ピーターソンという学者が,文化生産ということについて,文化の内容がいかに制作され,流通され,評価され,教育され,保存される社会的環境であるか,そういった文脈でとらえなければいけないということを述べております。すなわち,ここから言えることは,文化の発展のためには,芸術家の養成ということは非常に重要ですが,それだけにとどまらず,今日の社会においては広い意味で,文化産業,文化の生産流通にかかわっていく産業,あるいは批評家,紹介者,普及教育,保存・継承,さまざまな一連の広義の文化生産者の養成・確保といったものが必要になってくる。これが第1のポイントだと思います。
 それから,第2のポイントとして,高度専門職業人養成システム,実は私のいる大学も大学院ができました。高度専門職業人養成ということをうたっておりますが,こういったシステムは,教育だけでは決して完結しないものであって,教育と職業というものの一貫性が必要ではないかと考える次第です。
 先日,新国立劇場でマイスタージンガーをみたのですが,中世の世界においてはそういった同業者組合というものが新人の育成,認定,あるいはその仕事の保障,すべて一貫して行ってきている。このような構造というものを今日の社会において考えていくことはできないだろうか。かなり難しい問題だと思いますが,仕事雇用,安定して働ける環境をいかにつくっていくかということが,こういった芸術家等々との養成・確保に関しては非常に重要なポイントになると思います。
 そういった観点から,具体的な意見としては,前回の基本的な方針の中の文を使いますと「芸術家等」の養成の「等」を明確化していく必要があるのではないかと思っています。実際に,具体的にある程度書かれてはおりますが,例えば,優秀な人材を得ることというだけではなくて,優秀な芸術家のみならず,それを支え,広め,活用していく幅広い人材の確保をより明確に打ち出していく必要がある。
 そして,また,その確保ということについても,この言葉は実は若干あいまいなところがありますので,文化芸術活動にかかわる幅広い人材がその能力技能を,職業として十分に発揮できる職場,あるいは仕事といった形の表現をより強化にしていくことで,具体的な施策を考えていく必要があるのではないかと考えています。
 第2の,「9.国民の文化芸術活動の充実」という観点に関してですが,こちらについても,二,三の論点があるのではないかと思っています。
 まず,人々の文化・芸術との接点というのにはどういう形があるだろうか。
 これは「みる」「する」以外に,さまざまなかかわり方が歴史的に発見することができるのではないかと思います。かつては共同体がさまざまな形で文化を支え,あるいは私的なパトロンとして,いろいろな形で文化を支える人がいました。あるいは今日においても,目利きだとか,あるいはそれを批評する人たち等,さまざまな人たちが存在しています。
 こういった人々が文化芸術に対して,それを享受し,鑑賞する,あるいは表現し創造する。さらには,支援,協働していく。あるいは学習して,評価し,伝承し,継承していく,さまざまなつながり方,接点というものを視野に置く必要があるのではないかと思ったわけです。
 それから,2番目のポイントとして,最近さまざまな世界でバリアフリーとかユニバーサルデザインという言葉が随分言われています。文化政策においても,こういったバリアフリーないしユニバーサルデザイン,アクセシビリティーといった考え方が今問われてきていると思っています。
 一般的に,こういったバリアの中には,ハードなバリアと言いますか,物理的なバリアとして,地域格差とか交通手段があるない,あるいは段差,障害物等々,さまざまな問題があり,これらの問題については,戦後日本の政府及び地方自治体が努力をしてきたと思いますし,障害者等との問題については,この10年間の問題ではないかと思います。
 それから,2番目に経済的バリアという問題。特に舞台芸術系の場合には料金が高いといったバリアが現実に存在しています。こういった問題についても,さまざまな形の努力がありますが,経済的バリアについては,まだまだ日本においても大きな問題ではないかとは思います。
 しかし,さらに,それ以上に大きな問題として,特に国民の今日の文化芸術活動の充実を考えるに当たって大きなバリアは,社会的に形成されてきたバリア,文化的,心理的,さまざまな形でつくられていたものではないかと思います。
 社会的なものとしては,中年の男性が芸術に触れる機会が少ないということが言われています。それは勤務時間だとか,労働観だとか,そういった問題が非常に大きな柱になると思います。また,小学生以来,後のご発表にあるかもしれませんが,学校教育等々で形成されてきた文化に対するイメージというものが非常に貧困であるといった問題も大きいと思います。
 その他,教養,知識,偏見,さまざまな問題がありまして,こういった問題をなくしていくことがこれから先の国民の文化芸術活動の充実に当たっては非常に大きな柱になってくると思います。
 これは単に「みる」というレベルだけではなくて,「する」,あるいは「ささえる」といった分野レベルにおいても,さまざまな問題がある。「みる」,「する」に関しては,地域においても随分さまざまな形のバリアがなくなってきてはいますが,例えば障害を持った人や,お子さんのいる若いお母さん,あるいは在住外国人の人たち等が,「ささえる」というレベルにおいて参加しようと思いますと非常に難しい問題がある。したがって,こういうバリアの相関の中でさまざまな問題をピックアップしていく必要があると思います。
 そして,そういったものを個別に解決していくのではなく,それらを含む哲学を持つことが必要になってきているんではないでしょうか。
 イギリス,フランスを中心に,ソーシャル・インクルージョンという言葉が,この10年来かなり広まってきました。社会福祉政策の方では最近日本でも広がりを示していますが,文化の方ではまだ弱い。しかし,1年前から,アートとソーシャル・インクルージョンといったフォーラムが奈良県のたんぽぽの家を中心に行われてきております。こういったところで考えられている理念,言ってみれば個々のバリアフリーからだれでもが参加できるようなユニバーサル・アクセシビリティーと言いますか,サービス,そしてまた,そういったものを超えて,だれも排除しない形のソーシャル・インクルージョンと言った理念が今現在問われていると思います。
 ちなみに,ソーシャル・インクルージョンというのは,例えばアートとソーシャル・インクルージョンのアジアフォーラムの趣旨によれば「誰もが健康で文化的な生活をおくることができるように,人々を孤独や排除から救い,社会の構成員として包み込むことをめざす概念」という定義が出されていますが,まだ日本においては明確な定義はなされていません。
 それらを踏まえて,以下の2点についてもう少し明確化していく必要があると思います。
 まず第1が「国民の鑑賞等」とありますけれども,鑑賞を代表的に挙げていくとどうしてもそちらの方に行きがちです。創造・表現レベル,あるいは支援・協働レベルにおける機会の充実も非常に重要です。また関連して,文化ボランティア活動についての記述もございます。これについても,より具体的に,文化芸術と社会をつなぐ市民活動,あるいはアートNPOにも触れていく必要がある。
 それから,2番目に「高齢者・障害者等の文化活動の充実」,これも,前回の基本方針の中で最も高く評価できる部分だと私は考えておりますが,これらについても,先ほど申したように,ソーシャル・インクルージョン,あるいはユネスコで,条約等が提示されている文化的多様性といった考え方に基づく理念をより明確にしていくことが必要になります。それに基づいて,アメリカ等においては,例えば障害者が劇場,博物館,公共施設にアプローチするときに,それを妨げるようなサービス等があった場合には処罰される法律があります。このような形でのユニバーサル・サービス,ユニバーサル・アクセシビリティー等に対する法制化も,これは文化庁の問題ではないと思いますが今後検討材料になっていくと考えます。
 この2点が,私がいただいたテーマですが,前回,文化施設の誘致等について,発言する機会が時間的になかったので,改めてポイントだけを述べます。
 まず,私は文化施設を単にハコモノではなく,以下のように考えます。
 文化活動,特に芸術文化の成果を市民社会の共有の財産にしていくために,近代市民社会が生み出した仕組み。実際にフランス革命前後に,今日の公共劇場,あるいは博物館,美術館が世界に開かれたものとして存在するようになりました。代表的なものとしては,ストックの整備と公開をしていく博物館,美術館,図書館。それから,ストックできないような活動を実際に国民,市民に公開していく仕組み,そのために活動を支え,公開していく形で劇場,あるいは音楽堂。実際にハコモノではなく,劇団付きの劇場だったり,オーケストラ付きの音楽堂だったりします。こういったものが欧米においては文化施設として生まれてきたと思います。
 もちろん,日本においてこういった文化施設の整備も非常に重要です。前回述べられた視点に加え,さらに書かなくてはいけない問題として,20世紀の最後の四半世紀あたりから,市民社会が大きく変化してきて,情報化,国際化,多文化等,さまざまな問題が起こっていること。それに対応する形で,今日NPO等の活動が大きく注目されているわけですが,こういう市民社会の変化に対応する新しい課題と,それを充足する機能が求められていると思います。
 第1点が,社会的・経済的機能。単に文化を教養や娯楽としてとらえるだけではなくて,人々の社会参加や地域を活性化していくための一つの手段と言ってしまうと語弊がありますが,非常にかかわりがあるものとしてとらえていく考え方です。
 それから,第2の課題としての代表的なものが,先ほども言いましたソーシャル・インクルージョン。すなわち従来文化芸術に縁遠かった,疎外されていた人々の参加です。多くの人々が市民社会に包含されていく。そのために多くの人たちの権利,あるいは参加というものを保障する考え方が必要になってきている。
 こういった新しい課題に対しては,新しいタイプの文化施設が求められ,例えば,実際に今イギリスやアメリカにおいては,コミュニティーアートセンター,あるいはドイツにおいては,社会文化センターといった形の施設が出ています。
 こういったものの多くは,工場や倉庫などを改造し,そしてまた市民団体,NPO等々が運営し,そして市民参加型の文化,社会変革を目指すような活動を行っています。具体的には,スラムの再開発,あるいは,職業能力の育成。例えば,私自身,取材したイギリスのリースのコミュニティーアートセンターでは,周辺のパキスタン人や中東の人たちがたくさん住んでいて,ひどい失業状態にある。そういう人たちが手に職をつけるために,例えばメディアだとかアート関係の仕事,デザイン関係の仕事を,そのセンターが獲得させるような活動を主催する。こういった形のものを初め,日本でも最近広がっています障害者の自立支援といったさまざまな特徴が見られます。
 もちろんこういった動きが生まれてまいりますと,従来からの文化施設においても,それに対応した活動が生まれ,現在,美術館における教育普及関係や劇場におけるワークショップ・コーディネーターも生まれています。
 そういう点で,前回の3の「地域における文化芸術活動の場の充実」については,こういった第三の文化施設を展望するような視点からの記述乃至,そういったものを考えていくための施策が必要になっているといったことを付け加えたいと思います。以上です。

○青木部会長 続きまして,「5.芸術家等の養成及び確保等」等,「9.国民の文化芸術活動の充実(1)国民の鑑賞等の機会の充実」等を中心に,熊倉委員からご発表をいただきたいと思います。

○熊倉委員 取手アートプロジェクト,略してTAPと申しますが,茨城県取手市に二つ目のキャンパスを構える東京芸術大学が,市民と自治体と大学の協働によるアートプロジェクトということで,1999年より毎秋開催されているものがあります。
 実際,何をしているかというと,市街で,あるいは田んぼの上でといった野外でアート展を行っているとお考えいただければと思います。美術のみならず音楽や,本格的というわけにはいきませんが演劇の方々にもご参加いただいています。三者の協働と言いますが,取手市が主に予算,行政の持っている資産,場所や,ネットワーク,そういったものを出してくださっています。市民の方々は実務運営にボランティアという形で携わってくださっています。そして,私ども東京芸術大学は,専門的な知識ですとか,芸術の専門家の方のネットワークをプロジェクトにもたらすということで,三者がそれぞれ持っている力を出し合う協働を行っています。主催の形式は実行委員会形式です。
 目的としては,一つ目に,若いアーティストたちの創作発表活動を支援する。二つ目は,広く市民が芸術に身近に触れる機会を提供する。三つ目は,これは取手市が掲げているのですが,文化都市として発展していくことを1と2によって目指すということ。ですが,実は,この一つ目,二つ目,三つ目とが必ずしも同じ方向を向いているわけではないのと,それを無理やり詰め込んでいるところが従来の文化政策型と非常に似てはいます。
 事業概要としては,リ・サイクリングアートプロジェクトという,全国から作品案を公募する,若いアーティストたちの登竜門的な野外展という性格と機能を持っている年と,市内在住の,芸大がキャンパスを構えて20年になりますので,卒業生,あるいは昔からそこに住み着いている作家さんたちなどのアトリエ公開という性格と機能を持つ年。つまり,外から導き入れる年と,中にある文化資源を市民に公開していく年と交互に行っています。
 これが秋のイベントですが,そのほかに環境整備事業と銘打って,例えばJRの高架下などに壁画を作成してずっと残していくとか,更にことしは地元の東日本ガスさんから,その壁画を見てご連絡をいただきまして,ガスタンクを10年に一度塗りかえる年なので,そこに美術作品を載せたいということで,私どもでデザインコンペを行いまして―芸大の4年生のデザイン案を市民の方々とともに選ばせていただいたという状況です。これが都市環境。
 また芸術環境としては,駅前の商業ビルの中にTAPサテライトギャラリー,これは,文部科学省からの大学と地域連携の補助金で運営していますが,秋に展覧会をやるだけではなく,恒常的に若いアーティストたちの発表の場を取手という町に開設をしていく。それも敷居の高い文化施設ではなくて,だれでも来られる駅前の商業ビルの中にしつらえるというものです。
 さらに,芸術教育事業として,1999年の第1回目から毎年市内の全小学校の全1年生に共通のテーマで絵をかいてもらって,優劣はつけずにそれを一堂に展示する児童画展を開催してまいりました。昨年からは,学校に「その授業どうですか」「どういうふうにやっていらっしゃいますか」「何か困ったことありませんか」とヒアリングをしまして「実は,あれ結構困っている」と先生方に言われたものですから,子供たちが絵を描くお手伝いということで学校に地域の若いアーティストを派遣しております。
 それから,基本方針の中にもうたわれるようになったアートマネージャーですが,この人たちを,教室の中だけでは育てられませんので,このアートプロジェクトの実践の場を活用して,アートマネージャー育成制度であるインターン制度TAP塾を去年から行っています。
 実際の予算の内訳は,取手市は文化予算として結構大きな額ですが400万円,文化庁から主にインターン制度への支援ということで,隣の守谷町で実施されている県の事業と共同で,文化芸術による創造のまちということで支援をいただき,私どもの分担として400万円,民間の企業,これは去年から市民の個人の方々もぜひ支えてくださいという呼びかけをいたしまして,TAPエンジェルという制度を始めて,それも含めて170万円となっています。
 収益として,ことし初めて一部有料化に踏み切り,参加料,ガイドブック売上などなどで30万円を見込んでいます。
 運営体制として,実行委員会形式と申しましたが,委員長は,現在芸大の副学長です。副委員長は取手市長,委員の皆様方は地元経済界の方々など,いわゆる偉い方々が集まっていらっしゃって,これは年に一度しか開かれません。実際には,当然運営をしていただくわけにはいきませんで,その下に運営スタッフ,運営実施本部という実働部隊があります。運営スタッフとインターンという人たちの二種類分けていますが,実質的にはほとんど差はなく,どちらも市民ボランティアです。その中で運営スタッフとしているのは1年以上取手アートプロジェクトで経験のある市民ボランティアです。運営スタッフの役割は,マネジメントのノウハウやスキルを身につけていて,アートマネジメントを志すような若い方々,あるいは地域でボランティアによる文化活動をしたいと思っている方々,あるいは取手以外の町で文化によるまちおこしを市民の手で始めたいが,どういうふうにやったらいいのか,何が問題なのか学びたいというインターンの方々に教えること。そのようにしてノウハウを分けていく,あるいは一緒に考えていくということです。
 中年男性が文化から最も疎外されているというお話が伊藤委員からありましたが,ちょうど疎外の要件から開放された,たくさんの定年退職後のサラリーマンの方々に運営スタッフとして,ご参加いただいています。あるいは,抑圧からすこし開放された,子育てをちょうど終えた方々も長年この中核的なスタッフとして頑張っていただいています。ここに,地元の行政,取手市の文化振興課の担当者の方も入っていただいて,市民と全くフラットな関係で忌憚なく意見を言い合って,一緒に仕事をしています。
 インターンの方ですが,こちらの方はありがたいことに,去年は参加したアーティストにTAPはニートの天国なんて言われてしまったのですが,いまひとつ社会参画に踏み切れない,けれども人とは実はつながりたいと思っている。どういうことに興味があるかというと文化に興味があるというような若者たちが,たくさん手弁当で駆けつけてくれました。学生やフリーターの人が多いのですが,ことしはさらに登録人数がふえて,市内外合わせて現在42名ほどの登録者がいて,皆さんに疎外感がないように,できる範囲でできることを,自分の希望するかかわり方でかかわっていただく参画の場を保障していきたいと思っています。
 幸い,ことしは,余り数が多いとは言えませんが,文化疎外中核組の中高年まではいきませんが30代のサラリーマンの方々,あるいは実際に都内で働いているOLの方々,それから子育て中の主婦の方々もメンバーにご参画いただくなど,これまでは社会でばりばり活躍している人たち以外の,一部の人たちの取組という構図が典型的だったのですが,随分いろいろな方々が参加してくださるようになりました。
 当初立ち上げのときには,専門知識やネットワークに長けた芸大の教員が中核になって引っ張ってきましたが,現在は市民運営ということを掲げております。市民が中心になってかかわり,つくり上げていくというプロジェクトの中では,比較的規模も大きく,うまくいっているのではないかなと自我自賛しています。そして,市民運営というあり方の実験を外の人たちにも開いていくということで,昨年からTAP塾のインターン制度を始めました。現在は,市民,自治体,大学,三者の協働といったときに,市民は必ずしも取手市の在住在勤者を指しません。実際に毎年新しいエネルギーを吹き込んでくれて,ばりばりプロジェクトの現場に立って新しいアイデアを出し,町の中に飛び込んで新しいネットワークをつくってくれているのは,外からやってくる人たちです。その人たちに引きずられるような形で長年町に住んでいる人たちも,「そういうことをしたいのならこの人に相談しなさい。」「僕が電話をしておいてあげるから行ってごらんなさい」ということで企画書を持って若者が走っていく。そんな形で,プロジェクトを支えていると思います。
 なかなかなじみにくいと言われる現代美術を中心に行われているプロジェクトですが,そうした必ずしも現代美術ファンとは限らない多くの人々の手に支えられることによって,少しずつ市民の中に何をやっているのかわからないけれども,「ああ,あるよねあのプロジェクト」というような気運が高まってきているように,まだ胎動かもしれませんが感じます。ことしで7年目ですが,7年やってようやくそのぐらいなので,活動を継続していくことが非常に重要です。まさに,市民参加で,先ほど伊藤さんがおっしゃったような「ささえ」,「広め」,「活用していく」ということに知恵を出し合う。ここの部分に一般の市民の方々の見識,価値観,あるいはほかの職業で培っている専門知識が非常に役に立ちます。
 現在の基本方針の文言で,特に何か付け加える部分はないのですが,一言,そうした「ささえ」,「広め」,「活用していく」ということを指して,現在,アートマネージャーのところに「企画管理担当者」とあるのですが,これを指して管理というのはちょっと寂しいなと,せめて運営という言葉にしていただけたらうれしいと思っています。

○青木部会長 続きまして,「5.芸術家等の養成及び確保等」などを中心に,根木委員からご発表をお願いいたします。

○根木委員 私に与えられましたものは高等教育機関における,文化芸術分野の人材育成ですが,前回までの議論でいろいろお話が出てまいりましたので,それに関連して若干の意見を申し上げたいと思います。
 と申しますのが,前回までに,例えば心の問題をどう考えたらいいのかとか,それから住民のニーズにそぐわなくなったものは多少整理してもいいのではないか,といったようないろいろな意見がありました。これらは,文化芸術,そのものをどうとらえるかということにも関連してこようかと思いますので,この点につきましても,若干整理した上で,意見として申し上げたいと思います。
 第1に,現在の文化芸術振興基本法の前文で文化芸術の役割について,よく言われております効用的な側面だけではなく,文化芸術の本質という面からの言及があるやにうかがわれます。これは言うなれば,文化芸術は人間の本性に根ざした存在であり,文化芸術と人間との不可分の一体性について一応きちんと記載されているものと考えられます。
 他方の効用面は文化芸術の社会とか経済にどんな役立ち得る面があるかということですが,この点については,経済学の方面から文化芸術の外部性ということで,従来再三にわたって言及されてきたところです。
 そのような外部性と言いますか効用面に関しましては,古くは,文化庁に1986年に組織された「民間芸術活動の振興に関する検討会」という会議がありまして,そこで出された「芸術活動振興のための新たな方途」という報告で,初めて文化芸術の社会,経済へ役割,効用というものが明確に打ち出されております。その当時の言葉では,芸術というものは発想の水源であり,それが社会経済に非常なインパクトを与えるものであると,述べられております。それ以後,本審議会の前身である文化政策推進会議の提言・報告等におきましても,何らかの形で言及されてきているわけです。
 当審議会のこれまでの報告では,基本方針についての答申も含めて,そのような効用面が当然ながら強調されるとともに,基本法にある本質面についても付言されています。
 そのような一連の流れがあるわけですが,残念ながら,関係者以外国民も,企業も,ほとんどこの点については無関心だったのではなかろうかという感じがしています。これはPR不足ということもあると思われますが,このような一連の流れを今一度再確認し,強調することが必要かと思います。
 その際に,文化資産といった概念を導入することも一案ではないかと思います。
 現在の基本方針にも文化芸術は社会的財産であるという表現がありますし,文化財保護法の第4条で,文化財というものが貴重な国民的財産である,それからまた,文化審議会の2002年の報告でも社会的な資産であると表現されております。
 こういったことを併せ考えますと,文化資産といった概念を,この際導入することが適当ではないか。と申しますのは,文化資産は人間の精神的な営為によって形成されるものということで文化芸術を含む概念として認識することができるでしょう。従って,当然ながら,内に創造という概念も含み,創造活動の結果として得られたものという認識が可能と考えられます。それと同時に,その保存・継承ということも含意されているとして理解できるわけです。
 ただ,現在,似たような言葉として,文化資源とか,文化資本という言葉が使われております。しかし,文化資源というと,どちらかというと既にでき上がったものないし,存在といった意味合いが強く,幾分即物的な感じがし,創造という作用面を含めることにはやや難点があるのではないか。また文化資本という言い方は,効用という側面が中心になるのでしょうが,特に経済的効用面が強調され過ぎる嫌いがあるやにうかがわれます。
 そういったことで,文化資産といったものの考え方も一案と思います。こういう表現を導入しますと,文化それ自体に対する価値を内に含むものとして認識されると同時に,短期的な効用よりも,中長期的な効用をも内に含んだものの考え方として把握できるのではないか。
 特に地域にあっては,こういったとらえ方は知的,精神的営為の蓄積と申しますか,単的には文化的蓄積をはかる目安としても機能するでしょうし,地域アイデンティティー,ないしは誇りの源泉といったことをも表すものと思います。
 そして,そのような文化芸術,つまり文化資産というものは,基本的には赤字構造であることを認識する必要があろうかと思います。その上で,どのような創造・発展と保存・継承,及びその包括的な枠組みを構築するかという発想が基本的に必要ではないかと考えられます。
 また,前回の議論で,指定管理者制度の導入ということを踏まえて,例えばスタンダードの設定について考えたらどうかというご意見もありました。これについては,今日,新しい法制とか,国による提示ということは,規制緩和とか,地方分権という時代の流れに逆行することにもなりますので,例えば連合団体である公文協などにおいて,そういった一定の基準を設定することによって一定の効果が得られるという可能性もあるのではなかろうかと思われます。
 それから,前回,評価についても議論がありましたが,これについても,何らかの方法なり,評価の指標を確立し,その枠組みを提示することがそろそろ必要になってきているんではないかと思われます。ただ,そうは言いましても,政策評価のレベルで考慮するのか,事業評価という側面を取り上げるのか,またアウトプットを中心に考えるのか,アウトカムまで念頭に置くのか,非常に難しい問題があろうかと思います。しかし,評価論に関しても,何らかの格好でそろそろ具体的な手を打つ必要が生じているという感じを持っています。
 以上が前段で,次に本論の方に入らせていただきます。
 まず,人材育成と申しても,アーティストである芸術家の育成と,それ以外の,先ほど伊藤委員が言われました「等」の部分である,主としてアートマネジメントの担当者の育成と,この二つに大きく分かれようかと思います。
 前者,芸術家の育成についてですが,古い数字で恐縮ですが,これをもとにお示ししたいと思います。昭和63年の学校基本調査から集計したものです。分野別・学校種別に入学者の比率を拾ってみますと,音楽の分野に関しては,大学の比率が圧倒式に多くて40.8%でした。美術に関しては,短大のシェアが最も高く54.6%という状況でした。それからデザインに関しては,専門学校で77.9%という比率でした。これら以外のその他の分野については,演劇,映画,写真といったものが含まれておりますが,こういった分野では専門学校の比率が高く57.5%という状況でした。
 こういった各学種別に卒業者の就職状況を見てみますと,専門学校が最も就職率が高く78.7%,他方,大学,短大は60%台ということでした。これを分野別に見てみますと,デザインに関しては専門学校の比率が圧倒的に高くて82.5%でした。ただ大学も76.1%,短大も66.9%ということで,デザイン分野に関しては,就職と言いますか,市場はかなり広いと思います。その他,先ほど申し上げました演劇,映画,写真等の分野ですが,これについても,専門学校が86.1%,短大が79.4%,大学が65.9%という状況でした。
 一方,美術ですが,美術は,やはり短大の比率と言いますか,就職率が一番高くて58.9%,専門学校がそれに続いて55.1%,大学が44%,こういう状況でした。
 最後の音楽ですが,これはかなり低くて,大学が65.0%,専門学校が63.3%,短大が59.2%という状況でした。
 以上は就職一般の状況でして,それぞれの専門分野を生かした関連分野への就職はどうかということについては,やはり専門学校が圧倒的に高くて69.7%,他方大学は35.9%でした。ただこのうち教員が圧倒的に多く,約3分の1強の13.8%が教員ということです。短大は22.8%で,関連分野への就職というのは非常に少ないと言ってよろしいかと思います。短大の場合も教員が7.9%という状況でした。
 この数字自体は古いのですが,現在もほぼ似たり寄ったりの傾向ではなかろうかと思われます。文化庁の方でもこの辺の集計をなさっていただければありがたいと思います。
 以上を包括しますと,一般的な傾向としては,芸術家教育に関しては,専門学校の比率がかなり高いということです。そして,また,就職率も専門学校が高い。一方,音楽については大学,美術については短大のシェアが非常に大きい。他方デザイン,演劇,映画,写真といったものに関しては専門学校の比率が非常に高い,こういった大体の図式になるのではないかと思います。
 また,就職率といった観点から見ますと,音楽,美術といった純粋芸術に関しては市場性が非常に低いということが言えようかと思います。最もこの分野に関してはソリストであるとか画家といった,独立したアーティストへの志向が非常に強いということも背景にあろうかと思います。他方,デザイン,写真等に関しては,市場性が非常に高いということが一般的に言えようかと思います。
 そのようなことから芸術家の育成の方向として,今後,考えられるべきことは,学部教育のレベルでは,こういった分野間の均衡,それから地域間でもかなり不均衡がありますので,地域間の均衡,こういったことを今後考慮していく必要がある。
 それから,今までの数字というのはどっちかというと学部の数字ですが,今後は,大学院の充実を考慮していく必要がある。特に市場性が低い音楽,美術に関しては,博士号まで見通した高度専門職業人の育成,こういったことを考える必要があるでしょうし,高等教育機関外における研修制度の充実を図ることによって,アーティストがその後才能を伸ばす方向性を考慮する必要があるのではないか。
 大学院の充実に関してあえて強調したのは,ヨーロッパの老舗芸術専門学校もどうやら大学への志向が高まりつつあるようにうかがわれるからです。現に,私どもの方に,イタリア,ミラノのヴェルディー音楽院,それからフレンツェのケルヴィーネ音楽院から交流協定の締結についてかなり強い希望が寄せられています。彼らがなぜ芸大とそうしたことをしたいかと申しますと,どうやらイタリアにおいても,コンセルバトワールといったような純然たる専門職育成ということよりも大学に転換をしたいという希望が強いようです。その意味で,私どもが戦後すぐに大学に転換していることが,参考になるのではなかろうかということのようです。
 次に,アートマネジメント担当者の育成ですが,アートマネジメントのコースがあちこちの大学にできています。これらは,経済的な側面,経営的な側面,政策的な側面,この三つの観点からのアプローチによる教育研究がなされているとお考えいただいてよいかと思います。それらは,研究分野として文化経済学,アートマネジメント論とも言われている文化経営学,それに文化政策学ないしは文化政策論の三つの分野に分けられると思います。そして,それぞれの大学の性格,当該コースの成り立ち,教員の構成,立地条件などから,大学ごとに一定の傾向が見られます。あるいはそれらが複合した形態と言ってもよいかと思います。
 どんな形かと言いますと,一つは政策寄りか,経営・マネジメント寄りか,経済ないしは社会寄りかといったような傾向。いま一つが,やや芸術寄りか,それとも市民文化ないしは地域文化寄りかといった傾向。それからまた音楽系寄りか,美術系寄りかといった傾向。さらに現代文化寄りか伝統文化寄りかといった傾向。こういった傾向の区分が一応見られますが,各大学とも大体これらをミックスした形で,いろいろな授業科目が開講されている。中でも首都圏の大学では,対象をある程度集約をして,各大学がすみ分けをしながら専門化する傾向がある。つまり専門性を深化させる方向での人材育成に主眼が置かれている。
 反面,地域立地の大学では対象が非常に複合的である。つまりある程度包括的な内容を持つ傾向があり,養成目的も地域文化の担い手として幅広い素養を備えた人材の育成に焦点が絞られているように見受けられます。
 いずれにしても,これらの分野はまだ学問としても未成熟でして,寄せ集めと言っていいような授業科目が開講されています。そういったことから,大学院レベルの充実ということが必要になってきます。学部レベルからアートマネジメント教育を行っているところでは,学部段階でいろいろな現場に接することができるような科目を配置していますが,それを修士レベルで総合化するといった必要性があろうかと思います。逆に,私どもの応用音楽学コースは大学院コースでして,学部レベルでは各分野の専門教育を受けた人を受け入れているわけですが,そのような出自がばらばらな人たちを修士レベルで受け入れることによって総合化を図るということが必要になっています。いずれにしても,特に修士レベルのそういった教育の充実の必要性が求められると思います。
 それと同時に,将来は大学の教官として教えるようになる人材,つまり博士後期課程に在籍し,博士号を得ることによって研究者として自立していく人材の育成も必要です。
 このようなアートマネジメント担当者について,市場性があるかというと,目下のところ非常に少なく,これがネックとなっているところです。
 そういった意味で,受け皿,活動の場の確保の必要性が生じています。この場合において,制度上の課題として,修士レベル以上の専門家として何らかの資格の可能性を考えていく必要があるのではないかと思われます。ただ,そうは言いましても,公的な資格というのは,時代に逆行したことですので,例えば関係大学の連合体とか,場合によっては各大学で資格を設定して付与することも一案ではないかと思われます。
 さて,問題はその受け皿の用意ですが,例えば自治体の職員であれば公務員試験によるものとは別枠で採用するといった可能性についても検討する必要がある。また芸術団体は規模が小さいために,専任の職員の採用は非常に困難な状況です。さらに文化芸術NPOについても同様に規模が小さいため,こちらの方に行きたいという希望は多いのですが,専任の職員を採用することは非常に難しい。仮に採用されるとしても,身分的にも非常に不安定な状況であるといった課題があります。
 文化施設については,各自治体の直営の場合のほか,最近では大半が運営財団等による管理運営ということが多くなっていますが,指定管理者制度の導入に伴って,現在は採用を手控えているという状況です。この指定管理者制度については,現在いろいろなところで,議論が行われていますが,見方によっては,この制度が導入されることにより,今後は都市部では民間からの参入が見込まれ,そのような民間サイドの指定管理者にアートマネジメント担当者が入り込む余地,つまり市場の可能性が存在してくるのではないかと推測もされます。いずれにしても,受け皿が目下のところ非常に狭隘であるのが大きな問題点であり,これについての具体的な施策はなかなか難しいでしょうが,何らかの手を差し伸べる必要があると思われます。以上です。

○青木部会長 伊藤委員のソーシャル・インクルージョン,それから取手の熊倉委員からのアートプロジェクトの実態,問題点,また今の根木委員からの養成という問題,それぞれ重要な問題を含んでいると思います。
 取手の場合は,芸大があるからできるわけでしょうが,そういう存在がないところでは,どんな発想があるでしょうか。

○熊倉委員 私どものインターンをした若い人たちの中には,自分の地元に帰ってやりたいという人もいて,できないことはないとは思います。ただ自治体がそういった市民団体にすぐにお金を出すかどうかということです。私どもは芸大の教員なので,こういったことを半ば研究活動として手弁当でできますが,給料もなしにだれかができきるのかという問題は大きく残ってくると思います。とは言え大学がなければどうしてもできないという問題では,まったくないと思います。

○青木部会長 TAPというアートマネージャーの育成ですね。それに対して,根木委員がおっしゃったような資格の問題とか,これはうまくかみ合わせるような可能性がありますか。

○熊倉委員 私どもでも,終了証を出していて,その人たちのキャリアの中に取手アートプロジェクトのインターン終了とぜひ書いてもらいたいと思っています。そういったことが就職活動のときに,ああこの人は現場を知っている,あるいは地域というものを体験していると,とらえていただければいいとは思いますが,現実には,まさに根木委員がおっしゃったように,次の職性につながらないのは大きな問題点だと思います。

○青木部会長 アートマネジメントも含めて文化政策,あるいは文化交流の資格を,もしきちんとできるとすごく発展すると思います。今はやはり資格がないとなかなか人が来ないので,この分野は非常に重要だと,国際的な文化交流を含めて,何か資格をつくるようなことができれば大変ありがたいと思います。

○岡田委員 今の熊倉委員のご発言を,私も興味深く伺いました。今,芸大だからできるのではないかとありましたが,このように地域密着型で,大学が活動することを,全国に広げられないかと思います。ところで,どういういきさつでこういうお話が持ち上がったんでしょうか。

○熊倉委員 取手校地も20年ほど前から展開していますが,ずっと美術学部の1年生だけがいるキャンパスで,2年生になると上野に来てしまうという性格だったのです。それが,1999年に初めて1年生から大学院生までずっといる現代美術の学科が新設されて,それを記念して取手市から大学の方に何か一緒にやりませんかということになった。そのときに新しい学科を構成しているアーティストの先生方が,自分の作品としての発表を市民参加型のプロジェクトで行うことを発案したのが経緯になります。考えてみれば,ある種アーティスト側からの非常に先見的な提案であったわけで,アートマネージャーだけではなく,アーティストがマネジメントの中核になることもできるということだと思います。

○岡田委員 非常におもしろかったのは,運営をしていくスタッフの中に芸大以外の外から来た人が多いということです。ということは,芸術系の大学ではなく普通の総合大学でも興味を持っている人さえいれば同じようなことができるのではないか。音楽,美術のみならず,他の部分での文化もあるわけですから,これは取手から発信して,全国に広げていけたらすごくおもしろい試みだと思います。

○米屋委員 きょう三人の方が発表してくださった部分は,芸術にかかわりたいという,これから参入したいという人たちに対する教育の部分が中心だったかと思います。基本方針の方は,見出しに「芸術家等の養成及び確保等」と,「等」というのがありますが,中身で言いますと,研修という,参入したいという人から一端参入した人をどのように充実させていくのかにも触れられていて,その視点がやはり先ほど根木委員がおっしゃった受け皿ということにもかかわってくるのですが,労働市場,従事者の市場というものをどう考えていくか。そこに従事している人たちの充実と能力向上をどう考えていくかということと不可分です。一つには,そういった研修制度に関しては,現状のものも見直さなければなりませんし,もう一つ考えなければならないのは,芸術に従事している人たちがもう少し職場の流動性を持たねばならないということです。全国である程度の共通性を培っていく研修であったり,資格制度がいいのかどうかわかりませんが,そういった仕組みを考えなければならないと思っています。

○伊藤委員 今,米屋委員が述べられことは非常に重要な問題で,私自身,先ほど抽象的に教育と仕事,職場の連携という話をしたのですが,もう少し根木委員の発表と絡めた形で補足いたします。例えば,資格の問題について,芸術等の人材育成には,現場と大学等が連携していくシステムをつくっていかないと難しいだろうと思います。大学院の場合でいきますと,単に学校を卒業した学生だけではなくて,実際の研修生を受け入れていく。それからまた,資格はどちかというと大学ではなくて現場の方でつくるべきだと私は思いますが,現場で資格を設定するときに大学の教員も協力していく。そういった形で両者の連携作業をつくることによって,その仕事が一職場での評価ではなくて,全国的な,スタンダート的評価になっていく。そういう連携をつくっていくための連続性を今後検討していく必要があるのではないかということです。

○青木部会長 では,後半に入りたいと思います。
 「3.地域における文化芸術活動の振興」,「9.国民の文化芸術活動の充実(3)青少年の文化芸術活動の充実」などを中心に,河井委員にご発表をお願いします。

○河井委員 私どもが関係する実践事例をご報告申し上げて,提言にかえたいと思います。
 最初に,文化少年団の設立について。
 もともと日立市には文化協会を構成している団体が30ほどありましたが,そのメンバーが次第に高齢化しリタイヤした人が中心の団体となり,自分たちの技能をどうやって後継者,要するに子供たちに伝承させるかをテーマで検討している状況にありました。
 その際に,文化庁の文化体験プログラム支援事業があり,これに2年間取り組んだ成果を受けて議論し,文化少年団を発足させました。
 具体的には,2月にこども文化体験見本市を実施して,いろいろな文化体験をさせて,4月に学校を通して少年団参加者を募集する流れになります。
 日立の文化少年団登録者数が650人,児童・生徒,小学校1年から中学3年まで含めまして約3.7%の参加率です。資料には文化少年団の実施状況があります。そこに日本体育協会の機構図がありますが,一番上に日本スポーツ少年団とあります。日本体育協会の事務局となって全国レベル,都道府県レベル,市町村レベルのそれぞれの少年団を構成しているということで,子供に対する指導体制がしっかりと構築されています。一方,日立市のスポーツ少年団の登録団員は4,451名で,小学校1年生から中学3年生まで含めますと約25%の組織率となっています。全国の状況としては,組織人員93万3,644名が参加しているということで,スポーツの分野においては,技能伝承の体制ができていると思います。
いずれにしても日立が構築したような常設的な文化少年団はほかに例がないと思っておりまして,全国展開できるような少年団発足ができないかということをまず申し上げます。
 次に青少年の伝統芸能への取り組みですが,日立市にも日立風流物等の伝統芸能がありますが,それは氏子中心に開催されていたものであり,これに市民が広く参加できる芸能づくりをする必要があるということで,最近では,郷土芸能大祭というお祭りをしながら,日立市の子供たちに芸能を体験させています。
平成14年からは全国の郷土芸能に取り組む青少年の競演をこの祭りの中で実施しています。開催の年によって,大学や高校,あるいは韓国の高校からもご参加をいただいています。
 そういうことで,高校生同士の刺激合い,交流の促進を図ると同時に,それぞれの技能向上に寄与しているというところでございます。
 実は,数年前の全国高校総合文化祭で,伝統芸能部門を拝見しました。二日間にわたる催し物ですが,参加団体数は全都道府県の約半分でした。それと,国民文化祭ですが,ことしの福井県のものには,日立市の能楽少年団が参加しますが,これの参加数も都道府県で20にも及びません。両文化祭とも,地域で表現活動をする者にとっては晴れ舞台です。この充実も必要ではないかと思っています。
 次に,オペラ事業です。
 ここで申し上げたいのは,地方文化振興のためには,鑑賞型ではなくて体験型,技能習得型という方向に大きく振っていく必要があるということ。同時に,地方での文化創作活動を行うためには幅広い人材の育成が必要だということで,キャスト,スタッフ,あるいはそれを取り巻く市民,あるいは聴衆の育成も必要になるということです。
以下,順を追っていくと,1995年日立市民オペラを育てる会を音楽活動をしている方だけではなく,町の商店会の方々も含めて組織しました。
1996年,全国の地方オペラを実施している方々にご参加いただき会議を開催。
 1997年に,レクチャーコンサート,オペラサロンと聴衆の育成のために実施。
 2000年,オペラ制作講座,それと2004年,オペラ大学講座,これはスタッフ養成講座。
 公演としては,2000年の「水の声」。これは,オリジナルのオペラ。
 2001年に,第1回の野外オペラ「トゥーランドット」を実施。
 それから,2005年8月20日,野外オペラで「カルメン」を実施しました。その時の会場は,一部有料席でそれ以外の部分は無料とし,少しでも多くの方に関心を持っていただくように取り組みました。オペラにつきましては以上です。
 次は,全国のいろいろな活動団体とのネットワークについて申し上げます。
 第9回全国オペラフォーラムでは,日立市が先進的な活動をしているオペラ団体から学ぶための調査結果を公表しました。全国にある約100ほどのオペラ団体の調査をして冊子にしています。当日はその当該団体の皆さまにお集まりいただき交流をしていただきました。
 資料としては各地のオペラ団体活動の紹介を載せていますが,これは各団体からのニーズの非常に高いものでした。
 そういったフォーラムをきっかけに各団体の交流が始まっていて,例えば,衣装の相互貸し出し等の例も見られますが,まだまだ十分なものにはなっていないと思っています。
 オペラ関係は各地域でも新しい団体ですので,地元の支援が弱いということで,集まってそれぞれ情報を交換することに強い意味があります。
 オペラフォーラムは,まだ組織化されていませんが,昨年日本オペラネットワークとして,まずメーリングリストでネットワーク化は図ろうということで,組織化が始まりました。
 それから,山・鉾・屋台保存連合会について。
 全国26団体で構成されるこの連合会の特徴は,いわゆる舞台等の製作技術者も会員として入っていることです。この会の中で舞台等の製作修理技術者講習会を非常に熱心に,かなり高度な内容の研修会を開き,相互の団体間で人材交流をしています。
 最後に,全国芝居小屋会議です。
 これは,江戸の末期,あるいは明治,大正と,全国でいろいろな小屋が建築されましたが,活用している小屋が少なくて,転用されたり,あるいは放置されているものも多い。10年ほど前に山鹿市の八千代座を復元する市民グループの提案で組織した会議ですが,最近では,新たに小屋を復元しようとする人たちの参加が多くなっています。
 ご提案申し上げたいのは,全国各々の地域で活躍している人たちのネットワークをつくることが必要だということです。国でもご支援をいただければと思いますが,金銭的な支援よりは当面相談にのる,あるいは会議にご参加いただく等の支援が有効ではないかと思います。
 事例の発表は以上ですが,最後に二つ意見申し上げます。
一つ目は,子供たちへの芸能の継承にもっと力を入れることが必要ではないかということ。
 子供たちを取り巻く環境には,ゲームソフトや,テーマパークのようなレジャー関係,あるいは先ほど申し上げましたスポーツの分野がありますが,これらの分野に比べると芸術文化の分野は子供たちの関心を引きつける,魅力を感じさせる,あるいは参加させる機会の多さということでは遅れをとっている印象を持っています。子供たちへの芸術文化活動の促進に,より力を入れる必要があると思っています。
 それから,二つ目ですが,日本の高い文化を今後も発展させ,維持しようという場合には,地域での活動も含めて,もっと層を厚くする必要があるということです。その方向性の中でいわゆる鑑賞型から体験型,技能習得型へと,地域の活動がシフトしているのではないかと思っています。
 それから,最後に,現在の方針の中で一つ気になる部分について。「10.文化施設の充実等」の中で余裕教室の活用がかなり大きく取り上げられていますが,方針がつくられた平成14年当時から見ますと,学校現場の余裕教室はかなり減ってきています。現状では,余裕教室を地域の文化施設の大きな柱に据えるのはいかがなものかという印象を持っております。以上です。

○青木部会長 続きまして,「9.国民の文化芸術活動の充実(4)学校教育における文化芸術活動の充実」を中心に,山西委員にご発表をいただきたいと思います。

○山西委員 これらのテーマを考えていくときに,私ども市町村立の公立小・中学校においては,国の定めました学習指導要領を具体化していくことが大きな課題になりますので,その範疇での実践と,ともに今求められている特色ある教育活動の推進という中で,どういうことが出来るかということがあると思います。その両方のせめぎ合いの中で地域と統一のとれた学校づくりを考えていくという観点からお話しをさせていただきます。
 三つほどポイントがあります。第1点目に,国が指導要領で求めていることと,現在の小・中学校では,文化芸術の振興に関する基本的な方針に述べられていることとがどのように具体化されているかということ。
 第2点目を,私が預かりました小・中学校での具体的な実践例についてのご紹介。
 第3点目に,それらの中で何が日本の伝統文化を初め,さまざまな文化芸術に関する教育について疎外する要因であるか。あるいは,今後取り組むべき課題は何かということです。
 まず第1点目のうち,国の示す方針や学校の実情ということ。
平成15年中教審答申は21世紀の教育が目指すべきものとして5本の柱を明示しています。
 その中で,特に(2)の「豊かな心」という部分ですが,そこに美しいものに感動する心や生命を大切にする心などを学び身に付ける教育の推進があるので,この辺が文化芸術にかかわって来ると思います。
 それから,(5)に「日本の伝統・文化基盤として国際社会を生きる教養ある日本人の育成」とあるので,これが文化芸術と内容的には一番かかわりのある分野になると思います。「自国の地域や伝統・文化についての理解を深め,尊重する態度を身に付けることで,人間としての教養の基礎を培い」と,伝統文化の理解と尊重する態度について述べられています。
 続いて現行の学習指導要領のねらいにつきましては,常に見直しをされながら今求めているところですが,四つの柱で考えると,第1の柱が「豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚」。ここに豊かな心の育成ということや,主体的に学んでいく資質や能力,第2,第3の柱が,今,社会で騒がれている学力低下をどうするかという内容にかかわってくる「自から学び,自ら考える力の育成」であるとか,「基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育」ということ。そして,冒頭申し上げたように,「各学校が創意工夫を活かし特色ある教育,特色ある学校づくり」をどう進めるかというのが4番目です。
 それらをもとにしてカリキュラムを組むときに何が大事になるかというと,今,小・中学校で求められているものとして,「生きる力の育成」と,「創意工夫」をどう図っていくかということになってくると思います。
 それから,「道徳」と「体育」,健康づくり。中学校では「選択教科」の拡充という問題。
 そして,基本的な方針の中にも述べられておりますけれども,「総合的な学習の時間の充実」をどう図っていくのか。賛否両論ある中で,学校とすると確かな学習,あるいは教科との相互管理をどう図るかという観点で,研究されているところです。
 「時間の弾力化」も問題で,小学校45分,中学校50分で行くのか。あるいはモジュール的にそこに少し付け加えをすることで弾力を図り,それを通して特色ある教育が推進できるのではないかという問題。
 それから,個性を生かす教育や選択幅を拡大した多様な教育活動の推進には,それに向かっていく子供たちへの「ガイダンス機能の充実」をし,学びに目的を持って向かわせること。
 そして「個に応じた指導」ということは,おおむね定着していますが,「少人数指導」であるとか,「習熟の程度に応じた指導」を具体化していくといった内容。
 それから,「コンピューター等の情報手段の活用」等,教育課程編成の骨格となる部分について,今このような対応を迫られています。そして,これこそは学校の生命線であり,学校の顔であると考えているところです。
 次に第1点目のもうひとつのポイント。小・中学校では,基本的な方針に挙げられていることを,どんな計画で支持,支援しているのかということで幾つかあげてみます。例えば小学校2年生の国語科では「語り手になって昔話を読もう」という単元の中で,昔話や民話を子供たち同士が読んでいく,あるいはそれを鑑賞していく,そして表現をしていく,という単元。生活科では,名人登場とか,あるいは身近な人に学ぼうとかいう単元を組んで,地域の民話での語り部とか,読み聞かせのグループの方々にお越しいただいて触れ合う。あるいは伝統文化の方で言えば和太鼓とか,笛とか,民謡とか,あるいは伝承遊びなども取り入れていること。
 国語の小学校3年生になると「世界のお話を楽しもう」や「本の紹介や音読発表会をしよう」で,日本や世界の語り継がれているお話にはどんなものがあるかということを取り入れています。
 総合的な学習の時間では,それぞれの学校が,それぞれの地域や児童・生徒の実態に応じて,さまざまなカリキュラムの開発に努めているところですが,例えば3年生あたりでは「大発見!私たちのまちのステキ」などというテーマ設定をし,郷土芸能,文化財,町並みにはどんなものがあるかとか,お店屋さんの名前を調べてこようとか,それから地場産業ではどんなものがあるかといったような内容で取り組んでいます。
 社会科では,3年,4年で自分たちの郷土と自分たちの住んでいる都道府県の今について学ぶことになっていて「郷土に伝わる願い」や「昔のくらし」等の学習をしています。
 音楽科では「楽しもうわらべ歌」ということで,いわゆるわらべ歌を楽しむことが取り上げられています。
 一方,道徳では,これらの教育活動のかなめとして,郷土の文化や伝統を尊重する態度を培うという大きな役割を持っています。週1時間の授業の中では,例えば指導内容とすると「郷土の文化や生活に親しみ,愛着を持つ」とか,中学年になると「我が国の文化と伝統に親しみ,国を愛する心を持つとともに,外国の人々や文化に関心をもつ」ということの中で,伝統文化についての指導とか,先人の思いを学ぶとかという学習を,これらの教育のかなめとして扱っています。
 文部科学省からは,全児童・生徒に「心のノート」をいただいていますので,その中で,伝統文化や,文化の継承や保存,あるいは創造的活動をどうするかということを書き込んだり,そこに籠められたメッセージから学んだりしています。
 学校行事の中では,学芸的な行事として,例えば「民話劇の発表しよう」であるとか,それから,旅行・宿泊的な行事では「思い出に残る修学旅行をしよう」とかというふうなものの中で,グループごとに伝統文化に触れさせていただく取り組みをしています。
 運動会などでは,地域の方々にお越しいただいて,地域の方々が地元に伝わる民謡や何々音頭というものをどういう気持ちで継承し,今に発展させているかというお話を伺ったり,実際に楽器の演奏等をさせていただく中で,それらを発表する場として,全学年で地域の人も交えながら踊っていくという取り組みがあります。
 それから,クラブ活動等では,郷土文化クラブなどで,郷土に関する活動をしています。
 学校の研究課題としても,地域や学校ごとの違いはありますが,例えば「ふるさとを愛し,地域に生きる子ども」であるとか「地域理解を深め,地域に根ざした未来を拓く子の育成」であるとか「豊かな伝統文化を通し郷土愛を育成する」ということを,その学校の研究課題に定め,全職員でそれぞれの教科や道徳,特別活動,総合的な学習の時間を通して,これらを具体化していくという研究学校等も見られます。
 それ以外に,国や地方自治体の教育委員会等が主催する行事に学校ごとに参加をしていくといったような活動も考えられると思います。
 中学校でも,大体それを発展させて考えていただくとよいかと思いますが,例えば国語科の1年では「古典を味わう」,あるいは「物語のおもしろさを味わう」といった鑑賞や表現,2年生では「古典のひびき」を音読したり,朗読したり,あるいは平家びわを鑑賞するということでゲストにお招きをして,実際にお話を伺ったり,生演奏を聞かせていただいたりする取り組みをしています。
 中学校には選択教科が入っていまして,これが今の教育課程の中では重要な役割を果たしています。国語の中では「百人一首を楽しもう」や,「狂言のリズムを味わおう」等といったコースを子供たちが自分で選んで,それぞれのコースに入って学習をする取り組み等があります。
 では第2点目として,私の勤務した学校の中での事例をご紹介いたします。
 私の勤務した越谷市の学校では,総合的な学習の時間の研究開発学校を平成9年から受けていた,全国に先駆けた学校でした。その中で,どういうプログラムを組むかということで,総合的な入門,導入として私どもの学校では,郷土というものを位置づけ,それについてのさまざまな活動や学びを通して,郷土への関心や,環境や福祉といった部分についても発展するという考えで取り組みました。
 例えば教材開発の試みとすると,歴史的景観ではどんなものがあるか。町並みを歩いてみる。あるいは寺社,石塔,塚などどんなものがあるか。地場産業はどんなものがあるか,民俗の伝承には何があるか,自然環境にはどんなものがあるか,そこに書かれているような観点を子供たちに示す中で,子供たちがそれぞれ自分の身近な郷土や,そこに薫る文化に触れる。そして,それらに基づいて自分なりの課題を立ち上げてグルーピングをして,それについて調べていく。地域のフィールドワークだけではわからないものについては映像,資料を活用して古い町並みとか,その当時の状況とかを学習していく。そして,それらについて自分たちで活動し学んだものを,越谷自慢の話や演技に触れるということで,地域の方々にお越しいただき,越谷の日本一は何だろうということでお話しいただく機会等も設けながら,テーマに沿って活動する。
 それで,まとめたものを私どもの研究校では,研究発表を毎年行っていましたので,全国から来たお客様を小学3年生が自分の町を連れて歩く。そのことで,自分たちが調べた,例えばここの蔵は何年ぐらいの蔵で,どういう保存をされていたとか,あるいは,ここの文化財はこんなものがあるとか,ここから流れてくるその地域の人々のうたいや木遣りはこういうことであるということについて,全国から来た先生方という大人に伝えていくという活動に発展させました。さらに,それらが地域の人にも大変高い評価もいただき,せっかく調べたことだから学校だけではなくて,商工会館を提供するから作品を展示しなさいとか,市役所に話をつけてあるから市役所のホールに展示しなさいというお話等もいただいて,そちらが大きなまちおこしの一つにもなっていったという事例です。
 また,越谷小学校木遣り保存会を復活させました。
 地域に木遣り歌を保存する越谷市木遣り保存会の方々がおいでになるので,これらの方々に(金)にお越しいただいて,多くの子供たちが参加しました。
 それから,越谷市教育委員会では,子供能楽劇場を毎年開催をしていただいていますので,6年生はそれについて学習をします。
 中学校では,選択教科,それから部活動が中心かと思います。
 それでは,第3点目として現状と課題です。一つは,教師の余裕と発想が必要だろうということです。
 現在,学校ではさまざまな問題が○○教育という名のもとに入ってまいりまして,対応しなければならない課題が大変多い。それから,学校の安心・安全の確保という部分も考えてまいりますと,毎日多忙感と,煩雑さに追われているという現況があります。総合的な学習の時間なども教材作成打ち合わせなどが不十分というようなことが全国調査でも85%近い数字が上がっているようですが,内容よりもむしろそうそう状況で,なかなか伝統文化についてのコーディネートする状況にないというのが現状です。
 それから,次には,教育課程上の問題としてどこに位置づけていくか。小・中学生に美術の作品とのふれ合いをということもありますが,今,中学校2,3年生は,週に1時間しかないので,なかなか難しい状況にある。
 それから,国際理解教育といったときに,日本の伝統文化よりも西洋の文化の方に偏っていないかということ。
 それから,伝統文化の意義とねらいを学校にどう位置づけていくかということで,特にどこまでを教育のねらいとしていくかが問題になっている。
 それから,地域の教育力の発掘と条件整備ということで,それぞれの地域の違いがある中で,郷土芸能と連携しやすいところと,しにくいところがあること。それから,市や教育委員会で報償費や災害保障の予算化をどうするのかということ。
 それと,学校と外部団体との相互理解ということになるかと思いますが,授業で伝統文化の専門性だけを押しつけてしまうと,どうしても小・中学生は離れていってしまうという現状もあるので,あるいは学校の状況について伝統文化を継承する皆さん方にもご理解いただき,あるいは学校の教師の方もそういう方々との繋がりの持ち方いついて理解をしていく。そうした相互理解が必要です。それから学校週5日制の意義の再確認ということで,学校教育と少し離れた分野になりますが,その辺ももう一回確認してみる必要があると思います。
 日本の伝統文化を授業に活かしていくことは,今の教育の方向と同じであると考えます。これらについて具体的で,実効性の高い施策が盛り込まれるといいと考えています。

○青木部会長 それでは,全体きょうの5人の委員の発表を含めて討論したいと思います。

○関委員 地域に根ざした教育をするという,あるいはそれにいろいろな文化になじむというのは極めて大事なことであることは間違いないのですが,学校で行われていることと市で行われていることとの分担と言うか仕分けと言うか,私は学校がここまで郷土文化の教育をしないとならないのかということに,率直に言って疑問を感じています。地方自治体や地域社会,あるいは家庭でやらなければいけないことを全部学校に持ち込んで,学校教育に地域郷土教育のウエイト,負担がかかり過ぎているのではないか。つまり,その意味では,自治体や地域社会がきちんとやることと,学校でしかできないこととを,きちんと区別して学校教育を充実したものにすることが必要ではないかと思います。

○河井委員 関委員のご意見のとおりと私は思っています。山西委員からも話がありましたが,学校の現場に○○教育という形で,いろいろな教育が求められている。それを限られた時間数でこなすのには限界がある。
 それから,文化にしろスポーツにしろ同じことですが,少子化で学校自身が小さくなっているので指導できる先生の数も減っている。例えば,音楽でも美術でも,指導できる先生が必ずしもいない。指導できる先生がいても数年で異動する。ですから,学校の現場で継続的にスポーツや文化を子供たちに学ばせるのには限界があると思っております。そこで,我々は,学校教育ではなくて,地域の教育力を生かすためスポーツ少年団,あるいは文化少年団,それからキャリア教育で職業体験少年団というのを商工会議所につくってほしいと言っています。学校では,指導要領に基づいて,基礎的なことを教える,あるいは入り口にとどまりますが,多様な体験をさせる。子供たちが一歩進んで,この技能を習得したい,勉強したいというときのために地域の教育力を充実させていく,そういう使い分けと言いますか,取り組みをしています。

○山西委員 御賢察のとおりでして,今こそ学校で担うもの,市町村行政で担うもの,保護者・地域・家庭が担うもの,この役割分担を明確にしていくということは大事だろうと思います。しかし,ともすると,さまざまな問題が学校を通してというような傾向にありますから,その中では一概に移譲できない過渡期にあるのではないかと思います。

○嶋田委員 今,私は,企業が行ういろいろなイベントというか,例えば自然とアートを結びつけた子供たちのためのプログラム等を行った経験からしか物が見られないのですが,やはり通常の学習と違い,こういう文化については親御さんがどれだけ感性が高いかで子供たちが経験できるものが物すごく変わってしまいます。そうしてみると必須でないだけに,日立市のようにこれだけ様々な学校外のところで,参加できる環境にある地区にお住まいの方はすごく幸せだなと思いました。それから,逆に山西委員の学校のように,学校教育の中でこれだけ,通常のいわゆる理科,算数,社会といった教科以外に,こういう時間が持てるのも,またこれはきっと子供にとっていい結果になっているのだろうということ。難しいのは,バランスでして,やはり最低でも子供たちに,そういうことに自分からさらに進んで勉強したり接したりしたいという思いを抱かせるぐらいまでは学校の中で教育しないと,親御さん自身が連れていかない限りは,子供さんは恐らく身近なところでいろいろな文化活動をしていても参加する機会がない。その点スポーツは,層が広く厚いものですから,だまっていても親御さんもお子さんも参加できるということで,ある種,学校教育の場での文化教育の時間というのも,特に小学校の段階では少し充実させておくのもいいのではないかと思いました。
 それと,お話が前後してしまいますが,先ほどアートマネジメントの資格というお話がありましたが,私が最近疑問に思うのは,学芸員という資格です。疑問というと失礼ですが,芸術に対する役割は大分変わってきたのですが,学芸員の資格を持っていても,それを生かす場がほとんどないという現状を聞きました。そういう状況の中で学芸員の資格を持っているとか,あるいは企業の中でメセナの担当セクションとか,財団とか,そういう活動を担当してもらう人には,できれば従来の学芸員的な知識のある方よりは,むしろ,アートマネジメント寄りの学習をされた方がいいのかなと。実際,そういう専門性を持った方々を探すのは大変なので,アートマネジメントの資格ということを考える中では,学芸員養成の今のカリキュラムのあり方は,どうなのかということもあわせて考えていく必要があると思いました。

○岡田委員 先ほどの関委員のご質問は,ゆとり教育の見直しと大きくかかわる奥の深い問題だと思います。私は,ゆとり教育の見直しに賛成でして,やはり,今,学力低下と言われていますが,ゆとり教育の中で文化に無理やり接するような教育を詰め込むよりも,むしろ学問と言うか,教科の方を詰め込んでもらいたいと思います。そして,皆さん先ほどからおっしゃるように,文化の面での教育,文化に接する喜びは地域社会,あるいは家庭の方での役割だと思います。山西委員の報告の中には非常に多くの文化に接するカリキュラムが披露されましたが,やはりここはゆとり教育の見直しということと関連づけて,真剣に討論すべきところだと思います。

○吉本委員 前段の人材育成の件で,もう既に議論が出ましたし,伊藤委員のペーパーにも教育と職業の一貫性が必要だということが明確にうたわれていますが,高等教育の方は根木委員からご案内のあったように,いろいろなシステムが徐々には整ってきていると思います。ですが,それが実際の現場となったときに,教育というか,人材育成をできる制度,システムになっているかというと,そこは非常に難しいところではないかと思います。人材育成も芸術家とアートマネジメントを仕事にする人と二つの局面があると思います。ですから,できれば劇場とか,あるいは文化施設,あるいは芸術団体等,そういった現場のところで大学院レベルの高等教育から現場へと,実際に活躍する前段階のところで人材育成をできるシステムができないかという気がしました。
 具体例で言いますと,例えば私が関係しているSTスポット横浜という大変小さな劇場が横浜にあるのですが,そこなどは契約アーティスト制度をつくって,若いアーティストと契約して積極的にプロモーションをし,活動の場を与えるようなことをしています。それから最近ある劇場からの相談を受けたのですが,劇場の現場の第一線で働く人たちが次の人材を育てていないということに大変な危機感を抱いていて,その劇場では,先ほど申したような人材育成のプログラムをつくれないかということを検討しているようです。ぜひそういうことが現場の中でできるようなシステムや,それを支援する政策ができればいいと思います。

○真室委員 二つほどありますが,一つは,きょう小・中学校と,高等教育の人材育成のお話がありましたが,ちょうど一番多感な時期にある高校生に対する考え方,芸術,文化の育成をどうするのかということが抜けていると思う点。
 もう一つは,大学等の高等教育機関で,芸大の取手のアートプロジェクトの事例を伺ったのですが,大学で地域と連携してこういうプロジェクトをする際,大学の中でのカリキュラム,あるいは大学におけるそういうプロジェクトの位置づけ,それが一体どうなっているのか。実際に,受講する学生が,どういう単位が得られ,どういう資格が……資格については,いろいろ議論があると思いますが,その辺のところが伺えたらと思います。

○根木委員 私どもの応用音楽学部は2年間の修士課程,その上に3年の博士後期課程がつながっていますが,主に修士レベルで,インターンシップを制度化し,160時間をこなせば2単位を与えることになっています。例えば文化庁とか,国立劇場とか,それから草津の音楽祭とか,いろいろなところに学生の興味と関心に応じて行って,そこでインターンシップの実務についているという状況です。

○熊倉委員 他大学でも,インターンシップ制度の単位を設けているところがたくさんありますので,そちらの大学側が私どものプロジェクトでいいとなれば,単位は出せると思いますが,まだ,その事例はありません。
 私どもの音楽環境創造科は,アートマネジメントの実践ということを実技の単位として1日1時限目から5時限目まで行いますが,年間12単位で本当は1日だけでいいのですが,私の学生数名はほぼ夏休みもつぶして週に2日半携わることで実践体験を得ています。プロジェクト以外に授業としてグループでゼミのような形で,その背景にあるものを考察するとか,参考文献を読むとか,ほかの事例の比較をするとかということを補足的に行っています。その中で,個々人が卒業製作に,例えばなぜ市民は文化ボランティアをするのか,そこにおいてどのような幸せの価値というものが形成されるのかとか,地域経済における文化の高揚ということのケーススタディーといった論文をまとめる研究に反映させています。

○青木部会長 どうも日本の組織は官庁も地方自治体も,あるいは企業も,民間財団も,文化関係の専門家を余り重視しない傾向が強い。それから学芸員というのは,今,キュレーターでしょうけれども,資格も,そのコースもあるのですが,一つの専門家としての地位を認められているとは言えない現状で,かつて学術会議で地位向上ということを提案したのですが,実際にその資格を使っていくのに評価されないと意味がありません。やはり,本部会あたりが「専門家をもっと重視しなさい,それから,その地位をちゃんと認めなさい」というような提言を積極的に行っていくことが必要だと思います。それがあって初めてきょうの人材育成もさまざまなレベルでできるのではないかと,これは非常に重要課題だと思います。
 キュレーターというのは,ヨーロッパやアメリカでは地位が高くて,それなりに保障された,あるいは尊敬される存在です。ハーバード大学にはピーボーゼミュージアムがありますが,そこのキュレーターを任命されると,教授がそれを名誉に感じて名刺の肩書きの一番最初にピーボーゼミュージアムキュレーターとするぐらいです。
 取手には,東京芸大のキャンパスがあり,日立市には日立という大企業があり,そういうバックグランドがあってこそできることなのか,そういう存在がないところでは,ああいう大活躍というか,大発展はできないのか,そういう問題も若干残ったと思いますが,数々のご提言,ご発表大変興味深く,また貴重な問題を含むものでした。
 それでは,時間となりましたので,本日の討議はこれで終わります。
 事務局より次回の日程,そのほかについてご説明をお願いします。

○関政策課長 次回,第20回は,11月8日(火)の10:00からお願い申し上げます。場所は,本日と同じゴールドルームです。
 次回は引き続き,5人の先生からご発表をいただくということで,青木部会長,それから田村先生,渡邉先生,松岡先生,岡田先生にお願い申し上げます。

○青木部会長 長時間ありがとうございました。本日はこれで閉会といたします。

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