文化審議会第4期文化政策部会(第6回)議事録

1. 日時

平成18年6月9日(金) 14:00~16:50

2. 場所

如水会館 3F 松風の間

3. 出席者

(委員)

青木委員 伊藤委員 上原委員 岡田委員 尾高委員 河井委員 熊倉委員 嶋田委員 白石委員 田村(和)委員 田村(孝)委員 
根木委員 真室委員 山西委員 吉本委員 米屋委員

(事務局)

辰野審議官 高塩文化部長 岩橋文化財部長 竹下政策課長 他

(欠席委員)

川村委員 冨澤委員 中島委員 松岡委員 横川委員

4.議題

  1. (1)テーマ別審議(5)

    「文化と経済(観光産業等)
    ・山下和彦氏(関西経済連合会文化・観光委員長、株式会社大阪国際会議場社長)
    意見交換

  2. (2)中間まとめに向けた論点整理(1)

5.議事

○青木部会長 本日の部会は前半は山下様より審議テーマ、「文化と経済(観光産業等)」に関しましてご意見の発表をいただいた後で1時間程度審議を行いたいと思います。その後10分間の休憩を挟みまして、後半は中間まとめに向けた論点整理について審議を行いたいと思っております。

○事務局 <配布資料の確認>

○青木部会長 それでは、山下様より文化と経済をテーマに、ご意見を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

○山下氏 テーマが文化と経済ということでありますが、経済活動のこの21世紀の方向がどういう方向に進んでいくのか、その辺を多少見据えながら文化活動がそれにどういう形で即応していけばいいか、ということをお話ししてみたい。文化活動のマーケティングということになりましょうか、マーケティングというのはご承知のように、まずは方向一般を決め、それに対して効率的、効果的なオペレーションを展開する仕組みでありまして、65年ぐらいから始まったマーケティングの考え方は、主力は科学性、あるいは調査分析などが主体でありましたが、世の中の変化がものすごく速い、そして人々の心の多様化が進んでおりますので、ともすれば後追いのマーケティングということにもなりかねない。極端なことをいうと、きのうの天気予報みたいな話になりかねないということもありまして、昨今ではポストモダン・マーケティングという考え方が出てまいりました。これはスティーブン・ブラウンというアメリカの学者が言い出しているんですけれども、調査分析よりも大事なのは、もう少し創造性や芸術性を加味しなければならない。そして分析よりも洞察力を高めなければならないということで、顧客第一主義とか、消費者は王様であるとか、こういうものは捨ててしまえというような、過激な論評を展開しておる人でありますけれども、意地悪志向とか物不足志向とかあまのじゃく志向だとか、そういうものを入れていかないと、なかなか変化の激しい顧客に対応できませんよということも言っております。
 まずこれからの経済活動の方向について、触れてみたいと思います。20世紀はいろいろございましたけれども、全体としてみると本当に光り輝く世紀であったと言えると思いますが、光のボリュームが大変大きかったがゆえに、影の部分の問題点も大変大きくクローズアップされておりまして、なるべく21世紀の早めにこの辺の20世紀のツケを解消しておかなければならないということを、最近しきりに言われておるわけです。その中で非常に大きな主なものと申し上げますと、一つつは人間性の喪失という問題と、もう一つは自然破壊、環境破壊であります。この2つをどう解決するかについては、産官学挙げて問題解決に非常に一生懸命になっておりますけれども、そのスピードは必ずしも速いとは言えませんが、実は消費者、国民大衆の中から大変大きな変化が出始めてまいりました。
 1994年までは、GDPの60%強を占める消費の内訳が94年までは過半数は「物」でございましたが、95年からこれが「非物」に変わるんですね。これは経企庁の国民経済生活年表と、電通が三月に1遍出しておりました消費動向調査、この2つが消費動向についての権威ある調査と言われておりますが、これがぴったり一致するんですね。95年からは「非物」が過半数を占めるようになりました。
 この「非物」の四本柱は、1つは医療・介護・保険・スポーツなどの健康産業にお金がかかるようになってきた。それから情報通信産業にお金がかかるようになってきた。そして、いろいろな領域の芸術産業に大変お金がかかるようになってきた。そして4番目が観光ないし、観光にまつわる出費がふえてきたことです。20世紀のツケである人間性の喪失、あるいは環境破壊という問題を考えてみると、どうもこの4つはその辺の改善に役立ちそうな産業であると見てよろしいかと思います。これは人間の本能というのか、本能回帰ともいうのか、あるいは何か見えざる神の手とでもいうのか、明らかに、むしろその大衆の方からかじを切ってきたということが言えると思いまして、この辺のところが1つの21世紀のあり方、方向性を示していくんではなかろうかと思っておりますが、この4つの領域は、さっきも申し上げましたけれども、いずれも20世紀のツケを解決する方向に向かうエネルギーを持っておりますし、例えば観光産業はむしろ環境破壊、自然破壊を守るだけではなくて、むしろドレスアップしていくようなエネルギーを持っている産業であります。
 この4つをしばらく眺めていただきますと、その共通のキーワードは、やはり「文化」というところに落ち着く気がするわけであります。そういうことで21世紀経営の一つの処方箋として考えてよろしいんではないかということでありますし、その群ごとの文化とのかかわり合いを4つのところで解析してみるのもおもしろいんではないかなと考えまして、以下、4つの新しい方向というのか、そういう方向について文化とのかかわり合いを検討してみたいと考えております。
 恐らくこの4つの中から、21世紀をリードしていくリーディングカンパニーというのが、この4つの群から出てくると思うんですね。我々知っておる限りでは、日本をリードしてきたリーディングカンパニーは、まず最初は綿紡でございました。それから今度は鉄鋼、造船、炭鉱になりますね。鉄鋼、造船、炭鉱がいつの間にやらモータリゼーションとエレクトロニクスに今移行して、そして現在に至っているという状況でありますが、これが今申し上げた4つの群に変わろうとしているという時期だと考えてよろしいかと思います。ですから、この中から将来の日本の産業をリードしていくカンパニーが出てくると考えて、まず間違いはなかろうというふうに考えております。
 第1番目の健康産業と文化という問題ですけれども、やはり人々が求めてやまないものは、何よりも健康と長寿だということで、いろいろな試みをやっておるわけでありますが、まず高速道路でジョギングする人はおりません。やはり静かで自転車にぶつかったりなんかしない、オーラでも受けるようなところでジョギングをすると、心身ともに心安らかであるということだろうと思うんですね。そういうセッティングをさらにふやしていかなければならないなというふうに考えております。特に都会においては、そういう場に恵まれないところもあります。ですからこういう条件をどうつくっていくか。関西の場合は、まだまだそういう場はたくさんあると思いますが、川が非常に多いですから、川筋をどういうふうにきれいにしていくかというようなことも考えなければならない。都会の真ん中でジャングルの中に住んでいる。隣がだれかもわからないような人々が、朝おはようと言って散策をしていく状況を想像してみていただきたいと思うわけですね。都市のつくり方なんかもここら辺でいろいろと研究しなければならない。
 それから、旅というのも心のいやしに重要な要素になってまいります。その辺の仕組みや段取り、あるいはインフラの整備ということもやらなければいけない。幸い関西はその点は手近なところで、大阪、京都、神戸、奈良、大津、和歌山その辺は大体、1時間コースで行けますし、そこから先にいろいろとすばらしい自然、あるいは歴史遺産なんかもございますんで、そういうスケールの小さい旅は安直に行けるということになりますが、さらにその辺のところを磨いていこうと今考えているところであります。
 不幸にして病を得たり、あるいは終末医療という問題も、最近では医療だとかバイオ等の集積機関が大変関西の場合多くなってまいりました。関西のこれからのバイオというのは、1つの売りになるんではないかと考えておりますが、そういうことで最終心安らかに過ごせるような施設、これもやはり文化だと考えてよろしいかと思っております。
 見るスポーツというのも、これは興奮と感動を伴いますので、大変重要な要素であります。夢を育てる肥やしとしては、感動と興奮というのがよく効く肥やしでありますから、そういうのを大いに生産して発信していかなければならないということであります。WTO世界観光機関の定義によりますツーリズムの概念は、一般観光、それからイベントですね。これは博覧会だとか大きなスポーツイベント、それからコンベンション、そして祭りと定義づけておりますけれども、このスポーツのイベントというのも、特に来年大阪で行われます世界陸上は、スポーツイベントとしてはオリンピック、それから今日から始まりますワールドカップサッカーとともに三大イベントでありますね。興奮も感動もありますし、なおかつ国際交流がにぎやかであるということもプラスが多いということでありますので、そういう関連をぜひ官民挙げて、いろいろな仕掛けをつくっていかなければならないと考えております。
 祭りも大事な要素になってまいります。高知のよさこい鳴子を見た北大の2年生の長谷川岳君が、札幌でこんな元気の出るのをやろうというわけで15年前に、約1,000人から始めたYOSAKOIソーランが何ともう200万人を突破いたしまして、経済波及効果220億円、冬の雪祭りともう肩を並べたと、札幌としてはもうこの2つやめられないというところまで来ているわけでありまして、やはり祭りのエネルギーというのもすごい。例えば、震災直後にやりました神戸ルミナリエ、これは現在2週間で500万人来ております。経済波及効果500億円と言われておる祭りに成長したということでありますので、そういうこともあわせていろいろ考えていかなければならないということであります。
 次に、情報通信産業でありますけれども、例えば国立劇場を中心としていろいろ発信していくというのは、言ってみると宮廷文化みたいな部分があります。一方、近松や西鶴のいわゆる庶民文化は、大変すそ野が広い。しかもメディアがどんどん分布してきておりますんで、さらににぎやかになるであろうと思いますが、ここで気をつけねばならないのは、日本語の乱れ、あるいは社会風俗の問題そういうものに対してどうチェックをするかということも、あわせて考えていかなければならない。この辺のところは地上系のテレビだとか放送は、放送三法に守られておりますんで、余り無茶はできない。ただし、その中でも例えば日本語の乱れみに対するチェック機能はないということでありまして、この辺のところはどういうものを入れていけばいいか。将来の美しい日本のあり方というものは、結構マスコミの影響が大きいですので、この辺のところをどう入れていくかというところを考えなければならない。
 問題は、放送と通信の融合以来、通信業者の放送まがいの参入がすごい勢いで進んでおりますね。2000年にIT基本法という一応網掛けはできているんですが、チェック機能はほとんどないと言っていいと思います。この集積量が大きいのと、匿名性が高いのと、そして廉価であるということで、インターネットあるいは最近のワンセグにしても、不正・不法行為がはびこっています。この辺のところをどうやって法整備をするかということと、法整備をして後追いにならないためにはどうやってチェックをすればいいか。これだけIT技術が進んできたんだから、便利なフィルターは開発されねばならないと思っておりまして、その辺のところも非常に重要な問題ではなかろうか。
 昨今では、知的財産権も大きな問題になっております。小泉内閣やっと知的財産本部をつくったんですが、大変おくれております。手塚治さんのジャングル大帝は、完全にディズニーに模倣されて、ライオンキングに化けております。心あるアメリカ人はライオンキングのことを、ライキングと言っているようであります。彼らも模倣したことを知っているんですね。それからクレヨンしんちゃんは中国に完全にとられてしまって、本家本元のクレヨンしんちゃんが中国へ行くと、にせもの扱いをされるというような状況でありますので、これはWTOやFTAの協議の場においても、従来は農産品の問題であるとか、関税の問題だけが主力であったんですが、やはり協議のテーマとしての知的財産権の問題は、だんだんクローズアップされてきておりますんですね。この辺のところをしっかりやっておかないといけないということがございます。
 情報通信産業にいきますと、いまやコンテンツが大不足時代なんですね。具体的には15年ほど前に日本で生産され調達された映像の時間数は、年間約10万時間、お金が5兆円ぐらいかけておりました。昨今では、必要量が250万時間必要で、25倍です。かけられるお金は25兆円、5倍なんですね。良質であることは条件だけれども、廉価であらねばならないという事情が発生しております。現在、大体地上波系を中心にして、主に東京で製作されておりますテレビの放送番組は、大体時間当たりにして3,000万とか5,000万の製作費をかけております。これではそろばんが合わない。だから新しいラインをつくらなければならないというところに、新しい文化活動が発生すると考えているし、そういう点では好奇心が強い、やんちゃである、中小企業のエネルギーが強い関西は1つのチャンスがあるかなと思います。
 芸術産業はもちろん文化活動の中心でありますが、何と言ってもこれは金がかかりますね。国の支援活動も積極性が見えますけれども、なかなか足りない。それとポリシーの継続性とガバナリティが大変大事だと思うんですね。僕はフランスはなんであんなに文化大国で威張っていられるのかということの材料の1つに、アンドレ・マルローが文部大臣10年ほどやっているんですね。政権が交代しても彼はかわらないという仕組みを、やはり文化活動の長たるものにはつくっていかなければいかんのではないかなという気がしておりまして、文化庁長官も10年ぐらいやってもらったらいいんではないかなと思いますけれども、継続性は非常に大事なことだと思うんですね。大臣がかわるたびにころころ考えの違う、方針が出てきたのではたまったものではないので、せめてアンドレ・マルローの10年というのを視野に入れながら研究していただきたい。
 その継続性というところになると、文化庁に平成15年からやっていただきました関西元気文化圏構想、河合長官の提唱によりまして、これが少しずつ実を上げてきているというような感じもいたします。だからやはり継続は力ということになりますので、ぷつぷつ切れない継続の力をお願いをしてみたいなと思っています。
 しかし、金がかかりますから、やはり民間も協力しやすいように、例えばフランスにおけるメセナ活動みたいな税制問題、あるいはアメリカの損金算入制度みたいな考え方を横目に見ながら、民間が支援しやすい税制体系をぜひこういう委員会で提言、構築していただきたいと思っております。劇場をつくるにしてもお金がかかります。大阪にはオペラを見られる場所がないんですね。 劇団四季の大阪四季劇場もできまして、これも大入り満員で大変頑張っています。中之島に2つぐらいシアターが新しくできる予定であります。
 観光産業は幾つかの要素がありますが、観光目的というのは自然とか、あるいはすばらしい都市景観や文化遺産に触れてみるというようなことがありますけれども、自然について、これは私の計算ですけれども、我々は四季というものをごくごく当たり前の授かりものだと思っていますけれども、日本ほどすばらしい四季に恵まれた中で過ごしておる人々は、世界64億の民の中の1割もいないんですね。大体が三季、二季、極端な場合は暑いなら暑いだけ、寒いなら寒いだけという一季で過ごしておるわけですね。しかも歴史、文化の遺産も大変大きい。そういうものを活用していかなければならない。関西の場合は色合いが違う都市が近隣にばらまいてありますんで、非常にいい。何よりも来訪目的の1つには、おいしい物を食べたいというのがあります。やはり都市の魅力の中には、食べ物をいろいろやらないかん。それからショッピング。品物は豊富で値ごろ感だけではいかんのですね。買いやすさというものがショッピングにとっては大事なところでありますから、そういうところもやっていかないかん。それからシャンゼリゼを歩いておると、あちこちにエンターテイメントありますが、そういう町に持ってこなければならないということであります。今大阪は北ヤードというのを最後に残った一等地を何とかそういうふうな格好にしようと思って、一生懸命やっているところで、これは請うご期待というところであります。
 観光についていいますと、サーキットをつくらなければいかん。これは事例があるんです。青森のねぶた、秋田の竿灯、それから仙台の七夕、これはばらばらにやっているのを足したら220万人ぐらいだったんです。これが3県の知事が1週間のサーキットに入れようよということで、1週間のサーキットに入れた。そしたら何とその数は2.5倍、七百二、三十万人になっているんですね。点だけで考えなくて、上手なサーキットをつくるというようなことも考えていかなければならない。
 そういう国づくりをやっていく上で参考になるのが、アレックス・カーでして、「犬と鬼」という本を出しています。犬と鬼というのは、中国の古典、韓非子の中で当時の皇帝が弟子どもを集めて「書きやすい絵は何だ」「書きにくい絵は何だ」「その理由は何だ」と問います。書きやすい絵は鬼の絵でございます。鬼はいでたちパフォーマンスが派手で、なおかつ想像物であるから、これは書きやすい。犬は書きにくい。身近な存在でそしておとなしくて、自己顕示が少ないから、こういうのは書きにくい。人間の心の中にはそういうものがあるだろうということです。だけれどもこの50年ばかりの日本人は鬼の絵ばっかり書いている。日本のすばらしい海岸線は53%がテトラポットで埋め立てられている。あるいは、川がコンクリートで埋め立てられてしまって、メダカも住めない。宍道湖とか有明海の干拓必要ないのに、何かやっている。ダムが2,700ある。さらに計画地が800ある。アメリカでは今つぶしかかっているよと。こういうことを言っているんですが、ちょっと鬼の絵に偏り過ぎているんではないか。人間の心がこれではおかしくなりますよということを言っているわけですが、いろいろな意味で文化というのは、どちらかというと、犬の絵なんでしょうね。ですから、日本の今現在、しゃかりきに進んでいる方向は鬼の絵ばかり書いているというような部分もありますんで、その辺のところをバランスをどういうふうに保っていくか、将来あるべき方向を考えながら、文化活動というものを推進していかなければならないではないだろうかなと思います。

○青木部会長 どうもありがとうございました。
 それでは、今の山下様のご発表に関しまして、委員の皆様からご質問ないし、あるいはご意見をいただきたいと思います。
 観光については、今盛んに政府も言い出しましたですね。

○山下氏 現在出ていく人は1,600万人ぐらいいるんですね。入ってくる人が去年で650万人ぐらいにやっとなったんですが、約3兆円ぐらいの赤字なんですね。貿易は今輸出が60兆、輸入が50兆でプラス10兆と、そしてODAで1兆持っていかれますんで、観光収支の3兆とあわせて日本の国際収支は6兆内外というのが現在の相場なんですけれども、せめて観光収支をイーブンぐらいにしておかなければいかんのではないのというのが一つ。
 もう一つは、1.25人しか生まなくなってしまった日本はどんどん人口が減ってまいります。国のエネルギーも減ってくる。これをどういうふうに対処するかという問題がありますが、それは女性の社会参加とか、あるいは老齢者の問題、あるいは外国人労働力の規制緩和という問題ありますけれども、とりあえず間に合わせるためには、やはり入り込み客をふやしていくということを考えなければならない。1人が海外へ行きますと、これは皆さん胸の中で考えていただきたいのは、日常生活の7倍ぐらい、お金を使います。10日間滞在するとすると、70人日のパワーがあるわけですね。仮に1,000万人が来てくれるということは、7億人日のパワーがあるということになります。これを365日で割ったら、人が残りますね。それは200万人が残るわけです。つまり1,000万人のお客さんが来てくれるということは、人口が200万人ふえたのと同じエネルギーということなんですね。フランスは5,400万人の人口に対して、お客さんは8,000万人来ているんですね。8,000万人というのは今の計算でいきますと、1,600万人人口が多いのと一緒です。処方箋として必要なのは、少子化の問題はそういうことも考えていかなければいかんということです。

○青木部会長 出るというのは何となくわかるんですけれども、どうして入ってこないんでしょうか。その主たる原因というのはどこにあるとお考えですか。

○山下氏 これは20年ほど前、国が悪いんですよ。黒字を減らすために、その当時、テンミリオン計画、1,000万人海外へどんどん行ってくださいと、奨励策をやったわけですね。今のテンミリオン計画は何だというと、2010年を目途に、1,000万人の人に来てもらおうということでありますが、そのころにあった逆ザヤのツケはやはり重たいですね。

○青木部会長 例えば外国人が日本に来たときに楽しめるかどうか、いろいろな問題もあるんだと思うんですけれども、そういう面ではいかがでしょうか。いわゆる観光客を受け入れのソフトの部分です。

○山下氏 日本ほど、安全、安心な地域はないという点では優位性はあるんでしょうね。
 だからあとはどういう仕掛けでやっていくのか、例えば今日のような情報化社会であったら、その気になって21世紀の新三大珍味なんていうのをつくったら、恐らく3年でなると思いますよ。そういうものをやはり世界に発信していかなければいかん。食べ物はやはり物すごい大きなエネルギーがありますね。
 それから自然はもうこれはもう絶対負けない、すばらしい。瀬戸内海みたいな自然、あそこに3,000ぐらいの、登録は700か800ですけれども、3,000ぐらいの島影がある中に、近代的な都市が入っているというような景観は、世界中にどこにもない。アメリカズカップ三連覇をしましたラッセル・クーツが瀬戸内海を2週間回ってくれて、ここでレースしたいとこう言っておりますから、十分保証つきであります。歴史文化遺産も宝庫でありますから、ぜひそういうものをいろいろなサーキットをつくって、点でやるんではなくて、一緒になってそれが2倍にも3倍にもなるようにやっていかなければいかんと考えております。

○岡田委員 情報通信産業のところで、日本語の乱れと風俗の乱れについて言及がございましたが、私も常々この場で文化立国を国が目指したとしても、それをつくる人、支える人、享受する人の心が乱れていたり、貧しかったりしては何にもならない、まずそれをどうにかしなければいけないんではないかというお話をよくさせていただいているんですけれども、どうしたらいいのかわからないというのが本音で、では人にああしなさい、こうしなさいと言っても、すぐに聞き入れてもらえるものでもない。マスコミの影響も多分にあると思います。そのことに関してもテレビを国が主導することはできないけれども、テレビの製作と、我々が文化がどうあるべきかということの話し合いがあってもいいではないかということも申し上げているんですけれども、名案がございますでしょうか。
 もう一つ、ネットが無法地帯状態になっています、これは文化庁の方に聞きたいんですけれども、ネットにチェック機能を強化させるというあれは可能なんでしょうか。もう遅過ぎてもう手がつけられない状態なんでしょうか。

○山下氏 第一の問題は、放送三法の中に日本語の乱れを是正しようという項目はないんです。公序良俗程度は入っていると思いますけれども、もっと具体的に日本語という問題についての書き込みをやれば、少なくとも現在の放送局はかなり改善されると思います。
 ただし、ネット系はもう無法状態ですから、ですからこの辺のところをどうするのか。インターネットに関しては、全部見ようと思ったら見られるインターエクスチェンジというシステムが世界に15ありまして、そしてそのうちの1つが日本にもあるんです。ただしあくまでも膨大な量でありますから、物理的に無理。インターネットや携帯電話などの発信されるもの全部チェックするというのは無理だと思うんですね。だから、改めてそういうものが機械的にチェックできるフィルターを開発しなければならんのではないかと思います。

○真室委員 日本は確かに美しい自然はあると思うんですが、外国から来て、都会に入るとまず電柱、電線を見るわけです。外国の主だった都市には、ほとんどないわけですね。地中に埋まっている。これはいつになったらきれいになるのか。経済界から見て、これをどう考えて、将来どうしたらいいか伺いたいと思います。

○山下氏 やはり必要な規制というのは、やらなければいけないと思うんですね。特に看板だとか電柱だとかの問題は、これは地方自治体の許認可業務なんですね。ですから、伊勢市や下関市などそういう都市が少しずつふえてきている。だから行政もそれなりの規制をやったら効果が出るんだよということをやっていかなければいかんと思いますね。電柱なんかも新しい町づくりの中では、そろそろ地下埋設型になってきていますから。
 だけれども、これは国が指導するというわけにもいかんのですよね。やはり地方自治の問題だと思います。だからその気になったらできていますね。

○青木部会長 東京もかなりかなり地下にもぐったんですけれども、それでもまだまだ電柱が目立つ、東電の人に聞いたらやはり全部は1つの企業では無理だと言っていましたね。都市づくりの新しいアイデアを出さなくては、本当に恥ずかしい。

○山下氏 今度もしくは神戸に行かれる機会があったら、元町の大丸の界隈を歩いてみてください。それはもう大丸と地域の商店街とが一緒になって、神戸市を動かして、電柱を全部埋めてしまって、植栽入れてライトアップして、きれいな町になった。

○嶋田委員 観光産業というのは私どもですと、観光地に訪れることによる経済効果と単直的なものでとらえていたんですけれども、ここ数年海外旅行の影響で、日本人が余り好きでなかった香りも全く垣根がなくなってきた。そういう意味からすると、産業界も含めて国境がなくなってきて、産業の波が変わってくるおそれがあるんですね。観光産業というと、国を挙げてということになるんですけれども、県レベルでこのような知見を持って取り組んでいる県はどこかありますでしょうか。

○山下氏 鳥取県の境港漁港、鳥取県何もないんですよね。鳥取砂丘に20万人ぐらい来ていたんですね。ゲゲゲの鬼太郎通りができて、今100万人ぐらい。そのうちが砂丘に流れるのが40万人、だから何か仕掛けを考えると、地域おこしには役に立つなと思います。
 出雲なんかもそうですよね。あれも1日ぐるぐる回ってバスおりても、次のバスに乗って一日500円。それから舟運ができましたね。お堀が多いですから。やはり地域地域によっては特徴をつかみながらやっていっているんですね。

○吉本委員 4つの産業を比べたときに、3番目の芸術産業は一番ひ弱な印象を私は持ってしまうんですね。例えば2番と4番というのは、いわゆる市場経済の中で、産業としても自立していける要素があると思いますし、一方1番目の健康というのはある程度公共のお金が入っていると思います。芸術も公共のお金が入っていると思うんですが、そのお金の入り方が圧倒的に違いますし、そういうものに税金が使われるということに対する国民の理解の度合いも、福祉、健康は賛成しても、芸術というとどれだけの人が賛成するかなというのもあって、差が出ているのかなと思います。経済界から見た場合、この芸術産業をほかの3つと同じぐらい活力を持って推進するために、先ほど文化大臣が10年ぐらい務めなければだめだというご提言もございましたが、ほかに経済界から見た場合のご提言があれば、ぜひお伺いしたいなと思いました。

○山下氏 インセンティブをどうつくるかということも考えなければいけないと思うんですね。関西経済連合会は、たまたまですけれども、坂田藤十郎さんが231年ぶりの名跡なんですよね。4代目なんです。東の団十郎、西の藤十郎、団十郎は十何代目なんですね。だから名跡が途絶えておった理由は、これはまた歌舞伎のおもしろいところですが、上方歌舞伎というのは暗黙知の芸なんですね。江戸歌舞伎というのは暗黙知と比べて、形式知なんです。ですから伝承がしやすい、記録にも残りやすい。だから二百何十年名跡が絶えていなかったということがあるんでしょうけれども、一応ここにスポットを合わせようよというのも今やっておりまして、そういう方向も1つのインセンティブとしていろいろな構図でやってみたらどうかということがあります。

○伊藤委員 この4つのこれから先の産業の柱に関しては非常に共感を感じます。ただこの中で、文化庁がこういった産業の形成に向けて、今の文化庁の体制ではこれで3番目の部分になんとかかかることは可能でありますが、1、2、4に関していうと、対象の領域ではないと思います。これから先の文化政策の課題がかなり拡大していく中で、これから先の文化政策の基本方針を考えるに当たり、もう少し文化政策の対象のとらえ方、あるいは課題を拡大していくべきか。あるいは文化庁はこの3に絞って、1、2、4は他の省庁との関連、あるいは民間の力を所轄するようなやり方でやっていくべきなのか、この辺の方法論については幾つかの考え方が出てくるんではないかと思います。この辺で山下様のお考え、あるいはアドバイスがあればぜひお聞かせいただきたいと思っております。

○山下氏 関西は例の高野熊野がユネスコで認定されまして、もうないのは大阪府だけなんですね。京都、滋賀の神社仏閣、それから奈良は神社仏閣プラス法隆寺、兵庫県は姫路城、もう大阪府がそろえば全部そろうんですね。大阪ができ上がると、もう一気通貫でサーキットが組めるということになりますので、文部科学省にはアピールしていただきたい。ユネスコの世界遺産だけではなくて、伝統芸能、郷土の芸能というものを地域でサーキットを組んでみたらどうだろうかとか、祭りをネットワーク化してみたらどうだろうかというご指示とかご検討は、文化庁が大いにおやりいただくと地域が喜びますね。

○青木部会長 もう大体時間があれですけれども、どうですか。芸術産業、尾高委員は何か。

○尾高委員 私ほとんど英国にいることが多いんですけれども、英国におりまして20年ぐらい前はもっと日本に行くのは幾らであるという広告がいっぱいありました。今はほとんどないですね。
 本当は向こうの人が来たら何でも安く買えていいはずなのに、なぜか目が向いていない。そして成田のイミグレーションにしてもすごく外国人は嫌がるし、実際に入ってみて一人でJRの切符を買う。英語は書いていない。こんな国ないと思うんですよね。そういうようなことも直した方がいいのではないでしょうかということがあります。
 シンガポールではすごく罰が厳しいですね。ちょっと悪いことしたことに対しても、罰があって、だからなんか罰が日本というのはすごく軽いために、そういうものがはびこってしまうのではないかなといつも外では感じます。
 あとは、昔東京フィルハーモニーの会長がソニーの盛田昭夫さんだった時に、ある一定のレベル以上の収益が上がった会社全部に、文化税をかけてそれを全部の文化に分けたらどうだろうと、と考えました。そういうことは可能性があるんでしょうか。

○山下氏 企業が参入しやすいような税制はモデルもございますし、考えられるんでは。その気になったら。ぜひやってもらいたいと思います。

○根木委員 観光という場合は通常日常にないものを人は求めることが中心だろうと思いますね。極端な場合には、奇をてらうものを何となく志向する傾向があるのではないかという感じがいたします。ところがその地域文化の振興ということになりますと、日常的な文化開発を志向する必要があるんではなかろうか。そうした場合に、観光との間の結びつきは一体どうデザインしていったらいいのか。その辺のことについてお考えがありましたら、お伺いをしたいんですけれども。

○山下氏 なかなかそういう明快なデザインの考え方があったらもう早目にやっていますよね。地方の非常にローカルな地域の郷土料理だとか、あるいは郷土芸能なんかを特別に鑑賞してみたいというご注文も結構あることはあるんですね。ですから、その辺のところのアレンジメントというのは、どうすればいいのか。やはりマーケティングをしっかりやらなければいけないと思うんですね。
 今私が思っていますのは、今日本にたくさん留学生が来ていますが、この辺のところを例えばJTBなどと契約して、しっかり日本の歴史、文化を勉強してもらって、例えば福建省から私の国の人を全部連れてくるから、近所のおじちゃんおばちゃん連中、僕がそのリーダーでやってくることになると、度数料をしっかり上げる形で、インバウンド専門のトラベルエージェントをつくったらいいんではないかな。例えば韓国の方、中国の方、あるいは東南アジアの方、そういうところに対しては、例えば税制の優遇措置を考えてやるとか、事務スペースの便宜供与を図ってやるとか、いろいろなことをやって、インセンティブを出しながら、インバウンド専門のツーリストを育て上げていくということが非常に僕は手近ではないかなと最近思っております。

○吉本委員 旅行代理店の方のお話ですと、海外からの問い合わせで日本の美術館でパーティーをしたいけれども、貸してくれるところありますかというのがよくあるらしいんです。それで国立の美術館に聞いても、どこもそういうのがない。たしかフランスだったと思いますけれども、値段表があって、それでそういうのが日本の旅行代理店に公開されているらしいんですね。だからそういう形で文化施設と観光を結びつける非常に具体的な施策を考えると、文化的な資産が観光に結びつくということがあるかなと思って、ご参考までに発言させていただきました。

○山下氏 ボストン美術館でパーティーやったことがありましたけれども、気持ちいいですね。料金表をつくるように大阪のミュージアムに一遍声かけてみます。公序良俗に反しなければ、そしてまたそういう文化に接点のあるところであれば、やはり多くの人々の耳目にさらすということが文化政策です。今おっしゃった提言は非常にいい提言だ。文化庁のご指導のもとに、料金表をつくってやりましょう。

○青木部会長 ではどうも、それは料金表をつくるという結論を出してくださってどうも本当に長い間、山下様にはありがとうございました。大変貴重なご意見をいただきました。どうもありがとうございました。
 後半は、基本方針見直しの中間まとめ案作成に向けた論点整理について、ご審議をお願いいたしたいと思います。
 本日委員の皆様には、ご検討いただきます素案といたしまして、資料5「第4期文化政策部会中間まとめについて(論点整理)(案)」をお配りしてございます。
 まず簡単にこの案をご説明しました後で、審議を行いたいと思います。まずこの中間まとめの位置づけでございますけれども、7月末に公表を予定しております中間まとめの位置づけに関しましては、この資料5の1にまとめてございます。
 1点は中間まとめには、重点的に取り組むべき事項や、留意すべき事項と考えられることを取り上げること。また、中間まとめ公表後に広く意見募集を行いまして、秋以降の審議に対処できるようにいたしたいと思います。その旨記述してございます。
 2の中間まとめのコンセプトに関する作成チームにおける論点。2は先日6月1日(木)に開催されました作業チーム会合において、そこに出席されました委員によって議論された主な論点を簡潔にまとめたものでございます。
 (1)に関しましては、基本方針を見直すに当たりまして、考慮すべき点を4点記述しております。普遍的な部分は引き続き、また方向性は維持すべきと考えられる項目については、修正した上で残すこと。また新たに盛り込むべき考え方などに追加すること。前期の審議のまとめなど、これまでの審議の蓄積を生かすことを記述してあります。
 (2)は、1でも記述しましたとおり、中間まとめは広く国民の意見を求めることを記述しています。3は現行の基本方針に触れられてはいないけれども、見直しに当たり盛り込むべきではないかと考えられるコンセプトを記述しております。
 次に中間まとめに盛り込むべき事項案でございます。資料4としてまとめてあります。この資料4は「第4期文化政策部会ヒアリングで示された主な意見まとめ」ですけれども、これまでのヒアリングで示されました主な意見や作業チームにおいて出された意見を踏まえて、中間まとめに盛り込むべきと考えられる事項を整理したものでございます。
 (1)の基本方針の見直しにおける視点に関しましては、文化芸術施策の基本理念の再確認と、地方分権時代における文化芸術振興に関する国の役割の2項目を掲げました。そして、(2)として今後5年間で重点的に取り組むべき事項については、日本文化を継承し、創造する人材の育成、子どもの文化芸術活動の充実、地域文化の振興、文化芸術創造活動の戦略的支援、日本文化の海外発信及び国際文化交流の推進の5点を掲げまして、それぞれの項目について検討すべき論点、視点を記述してございます。
 (3)の基本方針において、留意すべき事項に関しましては、経済と文化の関係における二面性について、留意検討すべき点を5点ほど記述しております。具体的には、例えば3番目の我が国の構造改革が推進される中で、文化芸術活動に短期的な経済的効率性を一律に求めることは、文化芸術の特質になじまないことについて、国民の理解を得る必要があるということ。また4番目、文化財の保護においては、伝統文化の継承の観点から、保存技術や材料の特殊性、希少性、非市場性が配慮されるべきであることなどを記述しております。
 これらの項目、論点につきましては、今回の中間まとめに向けた論点整理にあたり、あくまで素案としてご提出させていただいたものでございますので、いろいろな面で抜けており、また追記すべき事項や記述内容につきましては、ここで委員の皆様から忌憚のないご意見を伺えればと考えております。
 それでは、今後5年間で重点的に取り組むべき事項、日本の文化を継承し創造する人材の育成、子どもの文化芸術活動の充実、地域文化の振興、文化芸術創造活動の戦略的支援、日本文化の海外発信及び国際文化交流の推進について。ほかに重点事項として追加すべき項目や各項目の個別論点の内容と、皆様のご意見、ご発言をお願いしたいと思います。
 今日の山下さんのご意見発表の中で、文化振興と産業の関係についてもいろいろな興味深い論点が示されましたけれども、それについて今後の文化芸術振興、あるいは文化庁の政策方向として、そういう観点をどこまで取り入れていくか。あるいは発展させていくかという問題提起があったと思いますけれども、そういうことも考えながらご意見をお願いしたいと思います。

○伊藤委員 ヒアリングの中でも感じたものとしまして、文化政策の対象、範囲を一応ここである程度確認し合っておいた方がいいんではないかという気がします。この前の文化庁の政策が芸術文化の振興、あるいは文化財の保護といったところに大きな柱があったわけですが、議論の中でグローバリゼーションあるいは文化活用ほかの動き、あるいは少子化、高齢化などさまざまな動きの中で文化がかかわってくる領域は非常にふえてきているということがはっきりしてきておりますし、今日出されたたたき台の中にもそういったことはたくさん指摘されているんではないかと思っています。
 文化政策の基本方針の中で、どこまで私たちはその範囲を広げて議論していくべきか。例えば文化と経済の話になってきますと、産業育成がかかわってきたり、あるいは政策手法としても、いわば誘導政策的なものが大きな柱になってきたりだとか、いろいろな話が出てくるんではないかと思いますが、この辺をどうするかというスタンスの問題をまず検討した上で、実際に上げている課題に入った方がいいのかなという意見でございます。

○上原委員 そのとおりだと思います。今なぜ文化芸術に対してそれだけの投資が必要なのか。その投資と今後のリーディングカンパニーとのかかわりについて記述することが必要なのではないか。具体的な政策対象になりにくいと思いますが、基本となるところを押さえておくことが必要です。そのリーディングカンパニーがこういう部分から生まれるんだよということと、ここでいう芸術文化政策がなぜ必要なのかということをかみ砕いてわかるようにしておかないと、なぜ文化芸術なのかということがわかっていただけないと思います。取り組むべき事項というよりも、むしろ2ページの基本方針の見直しにおける視点のところで、そういうことを記述するのでしょうか。

○伊藤委員 私自身もその辺は明快な意見は持っておりませんが、ただ従来の文化政策のあり方に対して、やはりきちんと見直しをしなければまずい時期に来ているのかなという意味では、議論をしておいた方がいいんではないかという問題提起です。

○青木部会長 それは大分重要なことですね。それによってかなり見直しの結果というのは変わってきますからね。

○伊藤委員 大学で文化政策の研究大会を行ったときに、ヨーロッパにおける文化政策が今どういうことを対象にしているかということが議論されました。その中でやはり大きな2つのテーマが出てまいりましたが、1つは文化外交にかかわる問題。もう1つが文化産業、あるいは文化産業という言葉自体を否定して、創造的産業という形で、それを軸にした地域づくり、社会形成といった問題が大きなテーマとして挙がってきました。この辺の問題を、今回この文化政策の中で考えるのか考えないのかというのは結構重要な問題で、周辺情報としてヒアリングあるいは議論の中では常に出てくる問題ですが、提案の中に盛り込もうとすると、極めて範囲が広くなってきて、文化庁だけが進めていってもなかなか実現できないような課題がいっぱい出てくるであろうという問題もあります。そういう意味では経済だけではなくて、外交的な問題、あるいは伝統の文化の問題も今回随分ヒアリングでは出てきておりますが、伝統文化はかなり取り組む方向になりつつあるんではないかと思います。幾つかの接点が広がっているんではないかという意味で、少し輪郭をはっきりさせておいた方がいいのかなという問題提起です。

○青木部会長 上原さん、芸術産業についてはどう思いますか。

○上原委員 吉本委員が1、2、3、4のうちの3が弱いということを言われました。その部分が文化庁がかかわるところだと思います。3に対する公共性を獲得していくための理論づけをここでやっておかないといけないと考えて、先ほどの意見を申し上げました。
 政府の各省庁で外務省が国際文化交流基金、文化にかかわる仕事をしていますね。経済産業省では映画産業の育成で、プロデューサーをつくっていくというようなメディアコンテンツ課というところがあるのを新聞記事で読みました。どんな省庁がどんな仕組みで芸術とか文化とか、文化産業まで含めて、支援をしていたり、政策を打とうとしているのかという整理は、文化審議会でしたことがありますかしら。省庁の枠を超えて報告書を出すのはなかなか難しいと思うのですが、資料として私たちが共有化していくことができるならばありがたいと思うのですが、できるでしょうか。

○辰野審議官 最終的には、この計画は閣議決定されると政府全体としての文化についての基本方針ということになりますので、当然、政府全体として視野に入れてやっていかなければいけない。ですから、今まで、当然どこかでつくったと思いますけれども、また審議の参考に国全体として各省庁で文化的な政策にかかわった施策を打っているのか、体制はどうなっているかというのはまとめさせていただきたいと思います。
 それと最初の伊藤委員のご提案ですけれども、まさにそういう問題意識に立って、この資料55ページの例えば3の中間まとめに盛り込む事項案の上の方の3つぐらいには3つ、4つ問題意識が出てきているんではなかろうかと思います。
 特に河合文化庁長官になられてから、文化力というものを打ち出して、文化の力で国に活力を与えよう、人々に元気を与えようとしております。その政策のもとで、観光面、外交面におきましても、さまざまなところで文化庁との結びつきができてきておりまして、そういう意味で幅の広がった取り組みということになってきておりますから、そこを基本方針の中へ底流に流れる哲学として出していくということは、一つ意味のあることではなかろうかと思います。

○青木部会長 文化をめぐるいろいろな問題、政策面の問題というのは、ある種の転換点に来ていると思いますね。いろいろな大衆娯楽も含めた文化に対する認識も変わってきましたし、やはりグローバル化とか情報化の影響も非常に強く出てきましたね。
 ただ最近、韓国は民間と政府と一緒になって文化継承というのを発表しましたですね。この5月21日に発表して、ユネスコが昨年の10月に文化的表現に関する多様性の養護と推進という条約を結んだんですが、これは余り日本では議論されない。日本の松浦事務局長は尽力されたり、また佐藤ユネスコ大使もやられたことなんですけれども、国内ではマスコミもほとんど取り上げないですね。これは30カ国で各国政府が批准することによって発効するんですが、現在ではまだ2カ国しかやっていないんですよ。それはカナダがやって、それから今モーリシャスだけなんですね。今度の文化憲章は結構画期的なこと、そこでやったことで注目すべきは、恐らくアジアで最初にこの条約を批准する国になるんではないかというと、やはり韓国に一歩とられてしまうということもあるわけですね。ただ、この条約についてはいろいろな議論があります。日本は文化輸出国としてのかなり大きな立場を持っています。自由貿易の面で文化輸出しても、文化製品の輸出ですよね。これに対してフランスなんかは規制をかけたいと言っていたわけです。この問題があって、若干慎重になっているかなと思うんですが、残念なことではありますね。

○河井委員 4ページの子どもの文化芸術活動の充実という項目でご意見申し上げたいと思っております。
 文化の議論は多岐にわたり、どうしても子どもへの文化伝承、子どもの文化環境の確保というのが、小さいテーマのように意識しておりました。この文化審議会で、子どもの文化環境を守るということが今まで以上に大事に思えてきたし、現状を見ると非常に危機的な状況なんではないかと思えるです。それは伝統文化とか地域文化の担い手としての子どもの期待もありますけれども、そういうものばかりではなくて、文化一般について文化環境が劣悪になっていないかという心配があるんです。例えますと、前回の映画の話ですけれども、シネコンができて、中心市街地の映画館がなくなっていく。ビジネスとしてはそれでいいんですが、シネコンの多くは郊外に立地をしておりますんで、マイカーでないと行けない。子どもが映画を見ることに対するハードルが高くなっている。文化の将来を考えるときに非常に危機的な状況ではないかと思っています。
 そういう意味で、この提言の中でその部分をもう少し強調できないかという意見を持っています。それで、文部科学省はスポーツについては具体的な提言をしています。1つは以前に申し上げましたスポーツ少年団の仕組みを全国に提言する。最近では相互型地域スポーツクラブの提言を全国にしている。文化の分野でもそういう形で、具体的な提言を全国に発信できないかという希望も持っております。そういうことも含めて、子どもの芸術活動の確保、文化環境の確保をもっと強調すべきかなと思っています。

○田村(和)委員 この基本方針とは一体何者なんだろうという感じがありまして、現実にこういうことを進めていかなければいけない場合に、2つの側面があるんですね。すなわち、1つは文化を非常に広くとって、マキシマムでとらえる世界ですね。それから非常に文化を狭く、狭くというよりもむしろ限定して、ある意味では文化庁の施策としてきちんと押さえられる範囲でミニマムにとらえる話かなと思うんですね。マキシマムにとらえる話というのは、結局今日のお話にもあったように、文化はその背景であったり、現象としてとらえていく、あるいは広がりとしてとらえていく話だと思うんですが、これはもっともっと広げていきます。大切なことなんだけれども、他省庁も関連してくるのだろうし、ほかの主体もかかわってきますよね。
 基本方針という限りは、このミニマムなところをどう押さえていくか。つまり文化の現象とか背景ではなくて、まさにシーズになるところをしっかりどう押さえることかと思うんですね。そういう意味では、5点重点的に取り組む事項がまさにその問題だろうと思うんですね。基本方針としてどう具体化していくのか、施策化していくかというところはやはり一番大きなウエートを持つべきだろうと思うんだけれども、同時に先ほどから言っているマキシマムなことが背景とか現象になるところも私は提案があってしかるべきだと思うんですね。
 ただ、やはり文化庁の予算にも限界がありますし、やはり重点項目としてきちんと整理して、少なくともメニューもロードマップもきちんと5年間で出せるぐらいの話に持っていくのが私はいいんではないかと思うんですね。
 大きな話も小さな話も文化の広さに合わせてしまうと、我々がどこへ行っていいのかわからないところでずっと議論していなければいけないということですね。この基本方針を読んでいても、いいことはたくさん書いてあるんですけれども、ちっとも実感がないというような話になると思います。少し仕分けをしながら進めていく方がいいのではないかなという気がしたんです。

○吉本委員 先ほど伊藤委員の提起されたことは非常に重要だと思うんですけれども、でもどうやって分けられるかと考えると、非常に難しいと思うんですね。現実的には、例えば創造産業が台頭していることや、今文化庁で扱っている以外の部分にも文化芸術が関係していることを最初に押さえた上で、この基本的な方針は今文化庁が扱っているような領域を中心に考えたというような整理もあるかと思います。その場合、1つの理念的な整理の仕方として、ノンプロフィットなもの、要するに営利を追求するようなものではないという言い方とか、あるいは文化的な価値の方が重視すべきものとかいうようなことで、整理ができないのかなという気がしました。でも先ほどの文化庁次長のお話ですと、政府全体としての政策決定だということなので、文化庁以外のことも考えた場合に、例えばこの基本方針の中に、現行の指定管理者制度は、文化施設にはそぐわない面があるので、考え直すべきであると仮に盛り込んだとすると、それは総務省の政策に対して反対意見を文化審議会が表明するということになるわけですね。それは理論的に成り立つのかどうか。今日のペーパーにも「Japan Cool」の中に、例えばゲームというのがありますけれども、ゲームに子どもがなれ親しむことによって、バーチャルな体験に偏ることの弊害も山のようにあるわけですよね。文化審議会で扱うことはそうではなくて、生や本物に触れるということを重視しようということであれば、ゲーム産業を振興しようということを文化審議会が言うのは、違うのではないかなという気がするんですね。伊藤委員のおっしゃったことを整理するのは非常に重要だと思うんです。どう整理できるのかというのが非常に重要で、その上で具体的な項目に落とし込んでいくということかなと思いました。

○熊倉委員 まさに前回のこの閣議決定の後、この政策部会というのができて議論されてきた。とはいえ振興基本法すらだれも知られていない。やはりある1つのスタンスを明確にした上で、何か発言をしていくべきではないかと私も思います。つまり、日本の国策全体にかかわる問題なんだということはもう毎年言っている。特に例えば経済との関連でいうと、フォープロフィットの種であるノンプロフィットの部分を、文化庁はしっかり押さえていかないと。フォープロフィットのものだけ世界に出す、あるいは日本の中で流通させていくと考えていくと、いつかはその種もなくなって海外から輸入することになりますよという、警鐘を鳴らしてみる。米屋委員にぜひご意見を伺いたいんですけれども、一方でこれから日本の文化庁の政策がどうなっていくんだろうかということに対して、大所高所の文化の世界的な高揚みたいなことを言ってくれるのはいいけれども、我々のことをどうしようとしてくれているのか、あるいはどっちを向けと言いたいのかについては、明確に今回出していった方がいいんではないかなと思います。

○根木委員 確かに文化と経済とか、文化と観光とか、さらに言えば文化と福祉とか、かなり文化そのものが関連してきているということはあると思うんです。それは結局文化の定義づけといいますか、文化そのものをどのように把握するかということにもなってくるんだろうと思います。
 文化の定義そのものは非常に広範多岐にわたるわけでして、その際に政策対象としての文化とはどうなのか、そのときに現行の基本法でどういう枠づけがなされているのか。そして基本方針そのものは法律に則って策定される。そうしますと、法律の枠をかなり踏み出したようなことが可能かどうかということがあろうかと思います。
 いまひとつは、文化庁が中心となってやっている文化政策は、いわば文化政策の中核的な領域ではなかろうか。ところが文化と経済とか文化と観光とか、それから文化と産業とか文化と福祉とか、そういったものは文化政策の周辺部分、周辺領域ではなかろうか。したがって、中核領域も周辺領域もそれを一緒くたにした場合には何が何だかわからなくなる。少なくとも文化庁が対象としているような領域を中心としながら、周辺領域に関しても言及し、その上で仕分けをした上で主として中核領域に関して物申すと、こういった整理の仕方でよろしいんではないかなと思います。

○米屋委員 この基本法及び基本方針ができて、一番喜んでいたのは芸術の現場にかかわっている人たちだったと思うんですね。この基本法ができて、他省庁もちゃんとテーブルに着いてくれるようになったと。これだけでも物すごく私たちは喜んでいるんですね。先ほどフォープロフィットとノンプロフィットを分けるのは、1つの区切り方なんだとは思います。例えば私どもが管理しています芸能花伝舎では、小学校の廃校なものですから、学校シーンを撮りに撮影隊がよくいらっしゃるんですね。映画、テレビ番組はフォープロフィットの部分なんですが、私ども公益法人のところで安い利用料で提供しているわけなんですけれども、来ているスタッフの方が疲れている場合があるんですね。厳しい撮影スケジュールで撮りにいらっしゃる。こういうことを見ると、これはフォープロフィットだから何の手立ても必要ないということではなくて、労働環境や、そのコンテンツがどう流通してどう利益が還流されているのかなど仕組みにもかかわってくるので、単純な縦割りでは立ち行かない問題なんだと思います。
 文化庁がこれまでやってきた中核的な施策中心というのはわかるんですけれども、むしろその文化の視点から政府全体の政策に対して、どういう影響力を持つのかというところをやはり強調していっていただきたいですし、その場合に直接的な財政的な支援や、間接的なところでもやはり指導力を発揮して、文化の視点からの大切さというところで政府全体のところにかかっていくという位置づけであってほしいと思っております。

○青木部会長 重要なご指摘だと思います。中核的なものというのは何ですかね。

○米屋委員 芸術の範囲とかノンプロフィットの範囲というのも時代とともに変わっていくものだとは思いますが、芸術政策と言われるコアな部分、ともう一つは享受者であったり、受けとめる人たちに対する文化政策と、この2本を中核にしたいと私は思っております。

○青木部会長 芸術といっても、概念は時代によって変わってきますし、だから現在、5年前と現在大分違うかもしれないですね。ここにアニメとかなんか出てきた。前はなかったと思いますよね。ですからそういう意味では、アニメといっても漫画といっても、芸術の域まで高まっている場合もあるわけですから、その辺の大衆ワークと簡単に分けることはできないでしょうね。
 先ほど米屋さんがおっしゃった文化の視点からほかの省庁で扱っているような事項もとらえ直すというのは非常に重要だと思いますけれども、皆さんのご意見をまた拝聴したいと思いますが。

○岡田委員 芸術家等の地位向上のための条件整備というところで、等というところに照明さんとか大道具さん、小道具さん、そういうのも全部含まれていると思うんですけれども、やはりこれできちっと書かれているにもかかわらず、向上していない。そして今お話を聞いていて思ったことは、労働条件となると映画に携わっている人だけではなくて、飲食業に携わっている人、建設現場にいる人だって、労働条件が悪い人たちはいっぱいいるわけで、世の中全体、働く者の労働条件がすべからくよくなるような方向に持っていくには、ここの場だけではだめだとやはり思いますし、そこら辺は縦割りではなくて平面的に考えていかなければいけないことだと思います。

○青木部会長 一般的な労働条件の向上という点で。

○尾高委員 いつも疑問だったのは、どうして文化省ではないのかということはよく外国で言われます。この集まりで日本を文化省にしましょうみたいなことはできないでしょうかね。

○青木部会長 昔からそういうことを言っていると思います。

○尾高委員 日本の人たちがクラシック音楽嫌いになったというのは2つ理由がありまして、昔クラシック音楽が発展した時代は鎖国していたんですね。だからベートーベンのころは徳川11代家斉の時代で何も入っていなかった。素養はなかったんです。追いかけて始めようとしたときに、間違ったのが文部省の小学校の教材だと思うんです。あれが余りいいできではなかったのと、音楽を例えばメロディーが書いてあって、この5つのうちのどれですかと、その5つに決められないから音楽なのであって、そういうようなことを文部省はやっていました。その上に音楽教室をやってつまらない曲を選ぶんです。予算は少ない。指揮者は一番安い人になるわけですね。オーケストラももともとやる気がない、いい曲ではないし、悪い指揮者で、そして強引に2,000人集めて先生が出てきて、静かにしろと言って出てきたら万雷な拍手をしろと、ああいうことでクラシックは嫌いになった人はいっぱいいて、それは元凶は絶対僕は文部省だと思います。そしてその辺がとてもよく変わっていただいたら、もっとこの文化庁がなさることもうまくリンクしていくのではないか。ですから岡田委員がおっしゃった横のつながりがどうしても必要なのではないかなと思うんです。

○山西委員 文化省か文化庁かの議論もあるんですが、文部科学省の中にこの文化庁があるということで、ぜひ学校と連携をお願いをしたいと思いますね。この見直しの基本方針を見ても、例えば国語力のところを見ても学校教育活動全体を通して行うと書いてあります。子どもの芸術活動のところを見ても、授業においては和楽器を用いたり、あるいは童歌を取り上げましょうと書いてあります。学習指導要領にきっちり書いておいていただければ、学校でやるのではないかなと思うんですね。
 ここで議論になっているような文化や芸術と子どもという議論が、学習指導要領の作成のレベルに声は届くのか届かないのか。きっと向こうは中教審、教科審、そして学習指導要領作成のこの縦ラインで流れるんではないかと思いますね。そのときに教育基本法の見直しまでしましょうよという大きな流れのある中で、こちらでやっているような議論が向こうに相互補完されることによって、もっと学校にあるいは地域に定着しやすいような仕事になってくるんではないか。知育、徳育、体育の三本柱は極めて重要だろうと思うんですね。例えば文化科であるとか、そういうものがぼんと学校の中にできてきて、国語の問題もバーチャルな問題も考えていくというところまで踏み込まないと、今あるものの中で何かできませんかということを言っているのでは、限界が学校にも地域にもあるんではないかなという気がしてならないわけですね。
 今挙げられている総合的な学習の時間の中にも、環境や情報はありますけれども文化はないですね。今社会の情勢を文化的なとか心豊かな生き方というよりは、生き方即キャリア教育ではないですかとこういう大きな波が来ていますね。文化というのが、学校の領域の中でどこに根づいていくのかということが、なかなか領域や教科として入りにくいのではないかと思うんですね。ですから同じ文部科学省の中にある文化庁に、上手に相互補完をやっていただき、ここに書いてあることは割ときっちりと学校の中に定着していくんだろうと思います。
 その辺で私たち公教育は学校指導要領は法的な拘束力を持っていて、これに従って教育を進めていきましょうというのが基本ですので、そんなところの連携もしていただくとありがたいかなと思います。

○田村(孝)委員 実際問題として伝統音楽を教えるのは学習指導要領にあるんです。文化芸術振興基本法という名前がよくなかったんではないか、内容的には文化振興基本法だと思います。ただこの法律ができたことでもって関係者は非常にこんなに早くできるとは思わなかったということを、関係者の中の方も皆様おっしゃっていました。でも、喜んでいるのは関係者だけであって、文部科学省にすら理解はないのが現実のような気がいたします。ですからぜひ各省庁に理解を得られるような文化庁としてすべきことと同時に、そういうところに影響を広げていけるような基本方針であった方がいいかなと思います。
 それと、文化庁で施策を出されましても、現実問題、地方自治体の社会教育課とか教育委員会がそれを生かしていないという事実はあります。相当な予算を取ってなさった事業でも、それを全く受けていないという事実もあると思いますので、そういう広がりをこの文化振興とはどうあるべきかという広がりを持たせられるような基本方針だったらいいかなと思っております。

○伊藤委員 今一番大きな問題は、文化ということが非常に社会のさまざまな領域に深くかかるようになってきた。この認識はかなりこの委員会の中でも共通した認識ではないかと思っております。したがってそれが基本的な視点、あるいは留意事項等々にかなり強調して書き、特に閣議で決定する基本方針でありますので、政策連携に対してより強く促していくための課題を強く提起していくことは必要になってくるんではないかと思います。
 ただ、当面5年間の基本方針としてまとめていくに当たって、余り領域を広げてしまいますとあいまいなものになってしまい、もう一つこの委員会の中での議論として、5年間の間に何らかの形で達成が可能なものを少しきちんと積み上げていく。そうしないと、いいこと書いてあっても全然力はないではないかというんで、批判を受けるわけですので、重要な取り組むべき事項に掲げられている5点は間違いではない非常に重要なものではないかと思っています。
 今後の議論の進め方として、何らかの形で視点なり留意事項できちんと述べることを条件に、議論自体は割と絞った形、現在ある面では文化庁が取り組み得る領域に焦点を置き、留意事項等は文化庁だけではなく、閣議で他の省庁も理解していただくということを強く出す形でまとめていく。こういった方法にならざるを得ないのかなと提起を変えさせていただきたいと思います。

○上原委員 資料5の3ページ「地方分権時代における文化芸術振興に関する国の役割」の中で、国がシステムを構築すべきものが挙げられているのですが、そのシステムの構築を(2)「今後5年間で重点的に取り組む事項」の一番最初の丸のところに入れられないか。5ページの留意事項の中に書かれていますが、留意事項では弱過ぎる。文化審議会としての提案としては、やはり国がきちんとしたシステムをこの5年間で構築すべき大切な事項なのではないかと思っています。

○青木部会長 ではこれをどこに、一番初めに持ってくる。

○上原委員 取り組むべき事項の最初に、それが当然あってしかるべきではないかなと思います。

○青木部会長 (2)今後5年間で重点的に取り組むべき事項、というところね。

○上原委員 本当に今大変危機的な状況になっています。国の施設でも市場化テストにさらされそうになった国の美術館、博物館、又、国立劇場、新国立劇場など国の施設自身もとても厳しい状況に置かれていると思います。地方の文化芸術振興拠点ばかりではなくて、国の文化施設も同じようなことが言えます。実現可能性等も考慮しなければいけないというのは十分わかるのですが、この取り組むべき事項の第1番目に挙げることが望ましいという提案です。

○田村(和)委員 システムを変えるとか、それから支援のやり方を考える、これは課題意識でもあるんだけれども、やはり本来ここで積極的に中心として扱うべき話だと思いますね。基本方針というのは2つの役割があって、1つは文化庁として実現可能な計画でなければいけないんだけれども、やはりもう一方ではメッセージとかアジテーション性がありますよね。そのアジテーションみたいなところは、私はしっかりと押さえておくべきだと思うんですね。まさに今回の審議会のレポートというのは、文化力で国を元気にするというテーマだっていいと思っているんですね。
 具体的な話として文化庁の政策として組み立てとか構造みたいなものをきちんとしっかりつかんでいくような作業はどうしても必要だと思うんですね。二段階の提案と二段階性を持った計画があっていいんではないか。その方がかえってすっきりするような気がするんですね。今上原委員のおっしゃったのは、両方にまたがる話で、前半にしっかりした意味を置いて、その具体性を後に展開するような話に持ってくるべきではないか思っています。

○青木部会長 ちょっと気になるのは、先ほどから文化庁がやっていることが文化庁の範囲とかおっしゃるんですけれども、いろいろな意見で。それは何ですか。

○田村(和)委員 つまり文化というものが、社会において国家において非常に重要な意味を占めてくれば、当然その範囲は変わってくるわけで、尾高委員がおっしゃったように、例えば今の文化庁の位置づけでは、もう日本の現代文化は扱えないんですね。だからダイナミックに文化について、細部と現場の話と同時に、田村孝子委員がおっしゃったような書かかれても実行されないというような連携の問題も含めて、押し出すことによって徐々に文化政策あるいは文化庁の役割に対する認識が、国にとっても政府にとっても、また社会にとっても変わってくるというような起爆力がないと、余り意味がないだろうと。

○青木部会長 だから余り我々の既存概念の中で、文化庁がこういうことを扱っていた範囲でというような文言は、委員の方から余り言ってもらいたくないですね。つまりそれで新しくやっているんだから、これから発展的なことをやっていかなくてはいけない。

○田村(和)委員 それはおっしゃるとおりなんだけれども、むしろ逆に今のメッセージ性のところにその話はきちんと書かれるべきではないかと思うんですね。問題なのはそのことが抜けていると同時に、これまでジャンルごとに分けて、こうしたらいいという書き方がありますね。もう一遍今の時代の中で再構成してミクロの議論としていくべきではないかと思うんですね。ですから先生がおっしゃるような形でそこのところの今時代が変わっていく中で、文化というのは大きな価値の問題ですから、そこは正面から扱うべきだと思っています。

○熊倉委員 別に現状を追認するようなものにしたいと思っているわけではなくて、実行力のある基本方針にしていかないと、これだけ時間と国税を費やして議論をしているのにまずいと思うんです。先ほどの上原委員がおっしゃった、留意事項をもっとしっかりというのは私も気になっておりまして、例えば5ページの留意事項の3番目、我が国の構造改革が推進される中で―これが指定管理者制度の導入ですよね―最後の、「国民の理解を得ることが必要」というところ、私はこの文言がよくわかりません。だれが国民の理解を得る努力をするんでしょう。どうしてここで政策的な配慮が必要と言えないのかなと思いました。

○青木部会長 国民の理解は必要だけれども、その前にきちんとそれをプッシュする主体を明確にするべきだと。

○吉本委員 青木部会長のおっしゃるように、全体的に強く打ち出すことは、賛成なんですけれども、一方で文化庁の施策の中でも、現実的に考えたときにいろいろ変えていく余地は多分にあると思うんですね。それが今日5つ挙がっている項目、実はここの5つでいいのかどうかという議論も含めて、もう少し丁寧に書き込んで、具体的な政策がイメージできるような書き方にまで落とし込んでいくということが、私は大変重要ではないかなと思うんですね。
 例えば地域文化の振興のところで、文化芸術活動の一極集中を是正し、とありますけれども、ではどういう施策を考えるべきなのか、あるいは上原委員のおっしゃった国のシステムとしてどういうものを考えるべきなのかということを、例えば地方分権化に基づいてもっと地域に中核的な文化機関をつくっていくことを検討するとか、あるいは次の文化芸術活動の戦略的支援のところで、メリハリをつけることが必要とあるんですが、ではどうメリハリをつけるべきなのかというところに踏み込んで方針に盛り込んでいかないと、いいことは書いてある、けれども具体的な政策につながらないんではないかなと思います。
 同じ項目の3番目は結構新しいことが書かれていると思うんですね。専門的機関とだけ言ってしまうと、また特殊法人のようなものをつくるようなイメージがあるので、例えば民間団体を含め専門的機関を経由して助成するという書き方にすれば、それだけで随分変わってくると思うんです。だから全体の大きなことを打ち出すと同時に、一方でディテールを丁寧に書き込んでいくとことがすごく重要だなという気がします。

○根木委員 理念論は絶対必要だと思うんですよね。部会長がおっしゃいましたように文化力をということは、当然先端に入れるべきであろうと感じておるんですけれども、広義の文化政策として一切合財を入れるより、狭義のものを中核としながら関連分野にまである程度言及する体裁が最も現実的ではなかろうかという感じがしております。
 それから先ほど熊倉委員がおっしゃった「国民の理解」ということですけれども、これに関しては文化芸術の特殊性を国民一般が恐らく理解していらっしゃらないというところがあるんではなかろうか。まずその辺のコンセンサスを得るということを前提とした上で、政策なり施策を進める必要があろう。その辺の項は問題提起的な意味合いで、言うなれば個々の表現は言葉のあやということですね。
 5項目としての中身、内容としてもうちょっと詰めた具体性のあるそういった議論をしていただいた上で、これを確定した上で理念論その他を前後に配置して全体の構成をどうするか。こういう方向に持っていったらどうかというのがワーキンググループのこの間のお話でございましたので、主としてこの取り組むべき事項について、部会長からもご提案がありましたようなこの点について、焦点を絞ってご議論をいただいた方がいいのかなという感じがしています。

○河井委員 文化庁の方に質問させていただきたいんですが、振興法の7条に基本方針の規定がございますけれども、通常はこういう分野は基本計画という言葉で条文化すると思うんですけれども、「計画」ではなく「方針」に表現を変えたということに、例えば国は直接文化事業にはかかわらない、ある程度距離を置くという意味合いを込めたのかどうか教えていただきたい。
 私どもは現場で実践する立場ですので、この指針が現場で実際に文化事業を行っている者の具体的な指針になればということを希望しているんですが、だれが何をそしてそれの財源をどうするんだということまで明示されなければ、推進のための計画にはならないと思っているんです。
 そこで、1つの考え方としては基本方針を受けて国のやるべきことの計画をつくって明示する。私は基本方針という言葉である以上、いつだれが何を幾らの予算でということまで書き込むのは無理なのかなと思って、その下位のレベルのものとして計画化を提言したいと思っています。

○辰野審議官 この文化芸術振興基本法成立当時の考え方を見てみますと、この基本法自体に、この2条で、「文化芸術の振興に当たっては文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」とあります。ですから計画という形で策定すると、それに基づいて計画的に図っていくということは自主的な活動を縛るものと受け取られるおそれがあります。それで「基本計画」はなじまないので「基本方針」にしたということです。文化は幅のあるものですから、こういうことになったということで、河井委員の感覚と大体合っているのかなとに思っております。

○青木部会長 そうすると河井委員がおっしゃるように、もっと実行しやすいような表現が盛り込まれるかどうかですね。今審議官から説明があったような計画の問題と、文言の書き方の問題で、非常に細部的に縛ってしまうとまずい。

○河井委員 そういった趣旨で、方針ということになっていれば、具体的に書くのは無理なのかなという気がします。

○辰野審議官 ですから、政府全体としての基本方針をこのようにしましょうと、それを受けて各省庁、都道府県、市町村がそれぞれの具体の施策は考えていきましょうとなると思います。それを縛り過ぎるとかえって角をためて牛を殺すということになるんではないかということだろうと思います。

○河井委員 それを受けて文化庁の計画は可能なんですか。

○辰野審議官 文化芸術振興基本法の考え方でいけば、基本方針をとにかくその5年間にふさわしいものとして審議していただければ、それを各省庁が責任を持って施策として生かしていく構造になると思います。

○嶋田委員 子どもへの文化芸術活動の充実ということが大体時間にして4割ぐらいは語られていて、それが本当に重要で、本当に重要であるならば、全部同じようなボリュームではなくて、5つの項目の中の強弱をつけてもいいのかなということと、実際問題として、学校教育の中に芸術活動を盛り込むことで、芸術は振興されるのかどうか。何か国民が全体からすべて抜けているので、国民としてどう対応すべきかという項目をどこかにちょっと入れておきたい。そうしたらやはり子どものところが一番取り組みやすいと考えております。

○山西委員 今回の議論は、学校教育の担う役割、地域や親の担う役割はかなりできているんではないかなと思いますね。地域でやるものまで学校に入るのか、本来学校でやるものかという限界と役割は、明確にされたと思うんですね。ですから、ぜひその子どもを取り巻く環境で、学校でやるもの、親としてやるもの、地域としてやるもの、あるいは各種団体がやるものということを明確にする中で、子どもがどう育っていくのかというトータルな見方をしていくということが極めて大事ではないかなと思いましたんで、本当にありがたいなと思いました。

○青木部会長 全体的には学校教育における文化の位置づけがこれまで弱かったわけで、これは大分ご指摘ございましたけれども、文化が非常に重要だということをやはりここできちんと打ち出すことは必要だと思いますね。
 それから先ほど博物館とか美術館などに、どこまで学校教育で先生と一緒に見にいくようなことがあるか、そういう奨励は必要だと思うんですがね。

○米屋委員 芸術拠点形成事業という施策が文化庁の中にありますけれども、それが影を潜めているなという気がして、これは文化芸術創造活動戦略的支援の中にも入るし、地域文化の振興にも入るし、先ほどの上原委員のご指摘にあった国としてのシステムづくり、地域分権化の中での再構築にもかかわってくるので、どれかに入れると何か差しさわりがあるのであれば、1つ文化芸術拠点の充実という項目を入れていただいた方がいいのかなと思います。
 これに関しては、芸術拠点形成事業ということがここ数年行われてきておりますので、その評価に基づいて、より戦略的に充実させる。ばらまきにしないということを踏まえて検討に入れていただければと思います。

○上原委員 今米屋委員がおっしゃったことがこの戦略的支援ということかなと私は思っていたんですけれども、それでは弱いですか。そこに拠点という言葉を入れ込むとか。

○米屋委員 皆さんが位置が低いと言うのであれば、黒ポチの中に必ずその言葉を入れてほしいなと思います。

○上原委員 先ほどの下支えになるシステムの構築をするべきではないかというのはまさに国の法律、制度ですので、それは主語が国ということになるんですね。文化庁ではなくて国全体、それこそ総務省含めて全部がもう一度考えてほしいというのがやはり大きな丸で今後5年間にぜひ取り組んでほしいなと思うことなんですね。それは国の役割であると思います。

○伊藤委員 この5年間で取り組むべき事項というもの、国が取り組む事項とそれからそれを受けて文化庁が取り組むべき事項という形で、かなりはっきりさせた方が明快になってくるのかなという気がします。国がという意味においては、確かに経済の問題あるいは外交の問題、さまざまな視点がかかわってきます。文化庁が今後5年間、具体的に今までの政策を点検し、より発展させていくために何に重点的に取り組んでいくのかということをはっきり出していく。何らかの形で文化庁が基本方針を受けて、何を行っていくかが見えてこないと、やはり読んだ人間は何をしようとしているのかわからないということになりかねないような気がします。

○青木部会長 今やノンプロフィットをプロフィットにしようという動きは急だから、旧来の芸術のための芸術とか、美術のための美術という視点では、もう国民の理解を得られない。それから、文化力という言葉がせっかく使われるようになったものですから、文化というものがいかに重要で意味があるかということをやはり強く打ち出すということと、同時に細部的なこれまでの文化庁の役割でいろいろとやってきたことを否定したり、批判したりということではなくて、より徹底させるということで、これまで並列的に書いてありますから、それでちょっとインパクトが弱いということはあると思いますね。

○伊藤委員 当面取り組むべき事項として挙げられている5つの問題、あるいはちょっとふえるかもしれませんが、それについて次回もう少しきちんと詰めて議論することをぜひ提案したいと思っています。きちんと具体的な提案を出せるようにしていきたいということで問題提起をしたわけですので、この5項目について、もっと細部を詰めていく議論をやらなくていいという意味では全くないわけです。中身には余り議論されていなくて、最後の方で少し芸術拠点形成など話が出てきている程度ですので、次回ぜひここについてさらに詰めた議論をしていだたくということお願いしたいと思っております。

○上原委員 結局、もう一度この基本的な方針を第二次基本的方針として最終的な目標はつくり直すということになるわけでしょうか。

○竹下政策課長 中間まとめ、その後最終的に答申をいただいて、それを踏まえて基本的な方針の見直しをさせていただき、それを閣議決定するということになります。
 本日資料として出させていただいております部分は、現在の基本的な方針でいいますと、第1に文化芸術の振興の基本的方向、そして第2に文化芸術の振興に関する基本的施策という構成でございますが、主にこの第1の部分についてご議論を今日はいただいているという状況でございます。

○青木部会長 次のこの部会までに、1回は作業チームで中間まとめのたたき台をつくりますので、それをまた次回にこの委員会でお諮りしたいと思います。それでは、事務局より次回の日程等についてご説明をお願いいたします。

○事務局 <次回日程>

○青木部会長 それでは本当に長い間、ありがとうございました。これで終わります。

以上

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