第5期文化審議会文化政策部会第2回議事録

1 日時 平成19年9月19日(水) 10:00~12:30
2 場所 東京會舘丸の内本館11階ゴールドルーム
3 出席者
(委員)
唐津委員 田村(和)委員 田村(孝)委員 高萩委員 三林委員 宮田委員 吉本委員 米屋委員
(事務局)
高塩文化庁次長 尾山文化部長 清水芸術文化課長 他
(欠席委員)
尾高委員 富澤委員 パルバース委員 山内委員
(ヒアリング)
若林氏(社団法人企業メセナ協議会シニア・プログラム・オフィサー)
武濤氏(昭和音楽大学音楽学部芸術運営学科准教授)
柴田氏(財団法人鳥取県文化振興財団副理事長兼文化芸術デザイナー)
4 議題

(1)アートマネジメント及び舞台技術に関する人材養成について

(2)その他

【宮田部会長】
 ただいまから文化審議会文化政策部会の第2回を開催します。本日はご多忙の中ご出席いただき大変ありがとうございました。本日は,有識者として,若林朋子氏,武濤京子氏,柴田英杞氏の3方にお越しいただきました。ありがとうございます。先生方には後ほどお話をいただければと思います。配付資料の確認を事務局でお願いします。
【清水芸術文化課長】
 <配付資料の確認>
【宮田部会長】
 では,次に進めます。今日は3人の先生方にお越しいただいていますが,文化政策部会では前回よりアートマネジメント人材等の育成及び活用についての審議を開始し,今後の審議の進め方などについて前回は検討いただきました。前回の意見を踏まえて,本日はアートマネジメント全般,あるいは大学等においての人材育成,若手アートマネジメント人材などについて,有識者の先生から意見を伺い,その後に委員との意見交換を通じて審議を深めたいと考えています。順次,紹介します。社団法人企業メセナ協議会シニア・プログラム・オフィサーの若林朋子先生です。昭和音楽大学の音楽学部の芸術運営学科准教授の武濤京子先生です。財団法人鳥取県文化振興財団の副理事長兼文化芸術デザイナーの柴田英杞先生です。進行ですが,3方から約20分程度意見を賜った後,皆様方の意見を踏まえ,先生方と自由討議をし,中身が濃い一つの流れをつくっていけたらと思います。よろしくお願いします。それでは,早速ですが,若林先生よりアートマネジメント全般について,20分ほど意見をお願いします。
【若林氏】
 企業メセナ協議会の若林です。よろしくお願いします。私にいただいたテーマは,アートマネジメントの定義と役割,その役割を推進する意味,あるいはアートマネジメント人材とは一体どういうものかといった非常に理論的,概念的な部分でした。正直なところ,私は研究者ではないので,私のような者が定義に当たるものを専門家の皆様の前で発表するのは,大変恐れ多いと思っていましたが,本日の後半の議論や,今後の審議会の審議において,まずはアートマネジメントについての共通認識を持つことが必要と伺いましたので,その議論のたたき台として本日のレジュメを用意しました。ただ,まとめにあたっては,なるべく芸術文化関係者以外の方々にも通じるような言い回しを考えてみようと思いました。王道の表現ではないかもしれませんが,これも今後の議論のたたきにしていただけたらと思います。また,定義のほかに,私は企業メセナ協議会のスタッフとして,トヨタ自動車のメセナ活動であるトヨタ・アートマネジメントの事務局を担当しており,トヨタのアートマネジメント活動,ネットTAMというアートマネジメント総合情報サイトを運営していますので,このサイトの運営から見えてくることや,このサイトに寄せられるいろんな各地の若いアートマネージャーたちの声なども参考までに紹介できたらと思います。それから去年,数カ月前ですが,若手の制作担当者を対象にしたアンケートなどをとったセミナーを一緒に企画したので,それも議論の参考に紹介できたらと思っています。それではまず,レジュメ1ページ冒頭の,アートマネジメントとは何かという定義のところに入りたいと思います。これはもうよく聞かれるところだと思いますが,一番よく引用されるのが,アートマネジメント分野の第一人者と言われるアメリカのウィリアム・バーンズの定義で「芸術と社会の出会いをアレンジすること」が挙げられます。次は,日本におけるアートマネジメント研究の第一人者で,現在は富山大学の芸術学部の教授をしている伊藤裕夫さんがかつて言っていた「社会において芸術をうまく成り立たせるシステムのことをアートマネジメントという」という定義があります。もう少し長目の定義だと,慶應義塾大学で早くからアートマネジメント教育に携わっている美山先生の「芸術・文化と現代社会との最も好ましいかかわりを探求し,アートの中にある力を社会に広く解放することによって,成熟した社会を実現するための知識,方法,活動の総体」という定義があります。すべて,社会というもののかかわりにおいて定義が語られているのがポイントだと思います。ただ,こういった定義というのは,言ってみれば抽象的とも言えるので,具体的にどういうことかと聞かれることがよくあります。そういうときに私がよく使っているのが,その下に書いてある狭義のところで,「アートマネジメントとは,アートにかかわる事業の運営,アーティストの芸術活動の管理,つまりアーティストマネジメント,それから芸術団体の組織運営,文化施設の管理運営,またそのために必要な知識や技術のこと。具体的には,芸術分野での資金調達やマーケティングの手法,芸術団体の健全な組織運営のためのノウハウ,関連分野の法政策,経済・会計の知識など。」という定義です。ただ,通常,ただし書きをつけて,アートマネジメントは何かということに,たった一つの答えがあるというよりもむしろ,社会的,歴史的,文化的な背景などによって,こういった芸術運営の方向性や方法論は異なってくるというふうに言っています。では次に,アートマネジメントの役割とは何かというところに移ります。先日,打ち合わせをし,なぜその役割を推進する必要があるのかというところまで話しをすることになっていましたので,以下のような10個程度の役割を考えてみました。これを考えるに当たっては,だれにとってどのような場面で重要なのかというのが一つ大事だと思います。まず1つが,芸術文化政策や振興の施策を個々のアートマネジメントの現場に落とし込む役割。2つ目は,公立文化施設,公立に限ったことではありませんが,文化施設の効果的な運営,ソフト開発に取り組むという役割。こういったことは文化振興の主体にとっての役割で主体にとって重要と思われます。あとは,公的資金,つまり税金,それから企業にとっての売上金などを芸術文化に投入すること,拠出することの説明責任を果たすための役割。4つ目としては,芸術文化へのアクセスを阻害するさまざまな要因,よく5つの要因と言っていますが,地理的バリア,経済的バリア,物理的バリア,情報のバリア,心理的バリア,こういったものを解消する役割を担っているというのも挙げられます。次に,芸術文化の社会的な意義や役割,情報を一般社会に,市民社会にわかりやすく伝える役割。それから,創造された芸術,生み出された芸術を知財として保護していくという役割も持っていると思います。また,それと似ているところがありますが,同時代芸術,つまり,今,生まれつつある,生まれた芸術文化というものを育て,紹介し,後世に残していく。一方で,古くからある伝統文化,文化財や文化遺産の今日的な意義を検証して継承していく役割も担っていると思います。次に,市場経済になじみにくいという性格を芸術文化は持っていますが,そういった芸術文化をうまく成立させる,つまり非営利芸術を効果的に経営するという役割も担っていると思います。あとは,つなぎ手という言葉,この分野ではよく使われますが,だれかとだれかをつなぐそのつなぎ手として,また翻訳者として,芸術作品や芸術家というものを社会に紹介する,社会との橋渡しを担うという役割も持っています。次に,芸術文化を本当の意味で理解する,愛好する市民を増やし,文化的に成熟した社会をつくるための中間支援的な働きを担う。最後に,芸術文化という切り口から社会,日本社会,地域社会など,そういった社会が持っている潜在的な能力を開発,向上させるという役割も持っていると思います。こういった役割を持っているために,アートマネジメントの振興というのが重要になってくると思います。この四角の中に書いているのは,多様化する現代社会の状況や,日々変わる芸術文化環境の中で,芸術文化の創造や振興を推進して,芸術文化のクオリティーを維持し向上させて,継続的な改善を図るためのPDCAサイクルを担う。これはよく企業経営で言われるところですが,企画をしてそれを実現して,それをきちんと評価して次につなげるために改善する。そういう役割を芸術文化の中でアートマネジメントは担っていると思います。次に2ページ目です。こちらはアートマネジメントにおける人材についてですが,どういった人材があるのかという質問をいただいたときに,これも本当に定義すればするほど苦しくなっていく分野で,なかなか難しいですが,今日は4つの視点から人材について見てみました。まず1つは,職業的な分類です。大きくArts Workerと書いていますが,芸術文化関連の職業従事者がいるとすれば,それは2つに分かれて,1つは芸術家,実演家という言葉もありますが,アーティスト,実際に創造する人。もう一つは,芸術文化関係の仕事をするグループ。よくアーツリレイティッドジョブとかワークというような言葉も聞かれますが,そういったグループに分けられると思います。それをさらに細分化していくと,例えば舞台技術の専門家のような特別なテクニカルスキルを持って仕事に当たっている技術者の方がいます。その次に,専門的な学問の知識,専門知識を持って研究している方がいます。それから運営上,ビジネスのスキル,知識などを持ってこの分野で働いている方,運営者と訳しましたが,そういうグループがいます。あとは,個人的にいろいろ動いていて,どの分野にも属さない方もいると思いますが,この中で恐らく今後振興の対象になっているのは,この運営者に当たる,ビジネススキルを持って仕事をしている方だと思い,そこをアートマネージャーと置いてみました。ただ,これも非常に1つの見方でしかないので,次に所属組織という見方で分類してみました。芸術分野にかかわる組織というものは,大きく3つに分けられると思います。1つは芸術文化団体,これは創造を担う団体と仮に置いてみます。2つ目は,文化機関とか公共の文化施設が考えられます。3つ目は,中間支援組織的なもの,いわゆるサービス・オーガニゼーションと言われるものに当たります。こういった団体にそれぞれどういう方が属しているかを見ると,またアートマネージャーの別の見方ができると思います。例えば芸術文化団体,制作担当の方,ディレクター,プロデューサーのような方がいると思います。それから,2番目の文化機関や文化施設ということになると,学芸員の方がいたり,ホールの運営を担うプロデューサーの方がいたり,一方で行政だと,文化振興課の担当の方というのもアートマネージャーと言っても大きく入るのではないかと思います。それから中間支援組織,私の働いている企業メセナ協議会もこういったくくりに入りますが,そこではプログラム・オフィサー,事業を動かす担当者という者がいますし,プランナー,コーディネーターの方もいますので,こういった方も大きな意味でアートマネージャーかと思います。3番目に,マネジメントのレベルで分類すると,例えば1つの組織の中で幾つかの段階にアートマネージャーが分かれると思います。上から見ていくと,ボード,理事ですね。理事もアートマネージャーというと少しイメージが違いますが,組織の運営をしている大きな意味でアートマネージャー。次に,ディレクターとか,上の統括者,プロデューサー,マネージャーというのもあります。こういったマネジメントのレベルで考えることもできます。最後に,機能で分類すると,職能というか,例えば企画運営を担当している者,プログラミング,それから制作担当,あるいはマーケティング,よく最近聞くファンドレーザー,資金調達担当者,こういう方もアートマネージャーだと思います。それから,財務や法務担当,広報担当,外とのかかわりを担当する渉外,人事,友の会などの会員対応をする人というのもアートマネージャーの仕事に入ると思います。あとは,施設担当というのもあると思います。こういったさまざまな切り口で,アートマネジメントにおける人材というのが少しずつそのイメージを浮かばせることができます。では次に,人材育成の現状はどうなのかというのを話します。これは私が日ごろから感じていることを一番上に書きましたが,海外との比較もぜひと申しつかりましたが,すべての外国について余り詳しくないので,大まかに見て海外と比較して思うことですが,日本ではアートマネジメントの人材育成,教育といったときに,英語を使うと,エデュケーションという部分とトレーニングという部分がまだ未分化かなと思います。教育といったときに,アカデミックな教育とそれから実地訓練というものが,海外と比べると,余り分けて語られていない印象があります。そういった中で,日本においてアートマネジメントの人材育成がどういうパターンでされているかというと,次の5つが挙げられます。まず1つは,この後,武濤先生からも話があると思いますが,高等教育でのアートマネジメント人材育成。これは先ほど紹介したトヨタのメセナでやっているネットTAMというサイトで,日本におけるアートマネジメント講座を持っている大学の一覧を調べて,常時アップデートしていますが,その情報収集の結果によると,現在アートマネジメントの関連科目とか講座を持っている大学,大学院は120ぐらいあることが分かっています。これは非常に増える傾向にあります。最近は,電車に乗っていて,よくチラシなど目につきますが,心アート教育学科とか,肉体表現学科,身体ではなくて肉体表現学科ということで,その中に講座が入っていたり,新しいコースもできており,アートマネジメントというと非常に学生の食いつきがよく,どんどん増えていく傾向にあるというのが私の印象です。ただ,よく中身を調べていくと,専任教官を配置した総合的なカリキュラムを組んでいるコースというのは非常に少ない。昨日カウントしましたが,全体で120あるうちの20ぐらいが総合的なアートマネジメントコースを持っています。次に,公的機関のアートマネジメント研修があると思います。これは各地の文化振興財団とか,文化庁もやっていますし,地域創造,公文協,そういったところでアートマネジメント講座がなされており,これは10数年の歴史があると思っています。次に,民間のアートマネジメント講座があり,これは企業メセナで言えば,いち早く取り組んだのがトヨタ自動車で,1996年からこの分野で活動をしています。それから,最近はアサヒビールもアートマネジメントのスクールのようなことをしています。あとは,NPOが最近は各地でアートマネジメントの講座をしていて,1日だけの講座もあれば,連続講座を開講しているところもあります。コース制でやっているところもあり,人気のあるNPOのアートマネジメント講座もあります。さまざまな工夫が凝らされており,例えば福岡のNPOなどは,札幌のNPOとネット中継をして講座を行うなど,民間ならではの講座が各地で展開されています。それから,現場の実習,研修,いわゆるインターンも日本ではされています。これは,学芸員実習というのは美術の分野でかなり前からあったと思いますが,そのほかの芸術の分野でも最近はインターンで学生が現場に赴いたり,それから大学のプログラムの一環ではありませんが,芸術文化機関に現場研修したいということでやってくる方もいます。メセナ協議会でも,大学の授業の一環で来る学生もいますが,ここ5年くらい,個人的に希望してくる方が増えています。山梨県からわざわざ東京へ出てきたり,3カ月毎日来たり,京都からウイークリーマンションを借りてインターンをしに来たりという学生もいて,みんな現場で体験を積みたいというのが非常に伝わってきます。ただ,ネットTAMで感じることですが,このインターンとボランティアとの差別化が余りされていません。さまざまな芸術団体でインターン募集の情報が寄せられますが,ボランティアとの区別があいまいで,余りはっきりプログラムは組まれていないなところもあるので,今後改善していかなければいけないと思っているところです。それから,一部聞こえてきますが,国からインターンに関する助成金をもらっているので,ぜひ受け入れをお願いしますというような依頼もあったりして,そういうところも少し課題だと思います。あとは,ハンズ・オンということで,オン・ジョブのトレーニングというのもこの分野では盛んだと思います。次に,レジュメ3ページ,求められる人材像というところにいきます。これは「急な坂スタジオ」という横浜のNPO,横浜でけいこ場を運営しているNPOがありますが,もともと結婚式場だったところが,月1回セミナーを開いており,卒業シリーズというのをやっています。若手のスタッフが企画をしているものですが,「卒業したけど,どうしよう」この前の回は「卒業したら,どうしよう」というもので,その連続講座で,「卒業したけど,どうしよう」というセミナーがあり,これを一緒に企画したときにさまざまなアンケートをとったので,参考までにここに書き出しました。これは実際の芸術団体を運営しているトップというか事務局長に,どういった人材を求めていますかという質問をした結果です。ここに,今後育成していかなければならない人材の像が見えてくると思い書き出しましたが,少し具体的に読むと,判断力にすぐれている,めげない,頭の切りかえが早い,気配りができる,複眼的に考えられる,自分で状況を切り開ける,運が強い,自分で食っていこうと思っている人,自分に自信を持って行動できる人,語学ができる人,これはよく言われます。それから,関連する分野とその周辺全般に関してスペシャリストである人,どんな状況にあっても予期せぬ変化に遭遇してもどんな人と応対しても自分の軸がぶれなくスマートに対処,解決する人,相手や周囲に不快な感情を与えるようなことを間違ってもしない人,柔軟性に富んでいながら一本筋が通っている人,極めて当たり前の感覚や意識を持つ職人だけれどもスーツを着こなしている人,ミッションに対して意識の高い人,複眼的に考えられる人,バランス感覚にすぐれた人,好奇心旺盛な人,自分に責任を持てる人,許容範囲の広い人,実行力のある人,アートが嫌いではない人ということで,総合して見てみると,何かのスペシャリスト,例えば法務のスペシャリストとか経理のスペシャリストというよりはむしろ,あることにおいてプロフェッショナルなジェネラリストというのが求められています。芸術分野に特に特化していない項目が多かったのが特徴的でした。最後になりますが,アートマネジメント分野でのニーズと課題が日ごろの仕事の中から見えてくるので,簡単に項目だけ説明します。後半の議論で,もし関心がある項目があれば説明したいと思います。まず1つは,いろいろな地域から,この分野での地域間格差が声として寄せられています。人材が首都圏に集中している。これは,福岡のNPOからも非常に強く言っていただいたことですが,福岡のような都市でもこういった意見が出てきています。それから,雇用環境の地域差が見えてきます。このネットTAMというサイトで,アートマネジメントの求人情報サイトを運営しており,かなりヒット率がいいのですが,この2年半で大体700件ぐらいのアート関係の求人情報が寄せられましたが,驚くことに7割ぐらいが東京の求人です。やはり各地で大学などを通じて人材育成をしても,雇用環境というのに明らかに地域差があるというのは見えてきています。それから,学びの場,機会が不均衡だという意見も,これは本当に非常に多くのところから寄せられています。ただ,そういうのをいかに解消するかということで,先ほどのようにサテライト方式でやっているところも出てきています。それから,人材育成後の問題があると思います。求職者と求人者のミスマッチ,これは先ほどの雇用の環境の問題もそうですが,現場が求めている人材と,こういった分野で働きたいと思う人たちがうまくマッチングされていない現状があります。大学を出たけれども,現場経験がないから働けないというような声が学生から常に聞かれています。それから,R25,R35問題というのがあり,これは先ほどの「急な坂スタジオ」のセミナーで取り上げた問題ですが,大体働き始めて3年目ぐらいの方が抱えている問題,それから30代後半ぐらいに入ると出てくる問題があります。話すと長くなるので,また紹介したいと思います。その他として,統計,指標の少なさというのもよく挙がってきています。あとは,アートマネジメントの海外ネットワークというのが比較的弱いのではないかということも挙げられます。プロフェッショナルとしての芸術文化関係職の社会的地位が確立されていないところも課題として見えてきています。あとは,政策立案者側と現場との乖離,温度差というのがこれも各地で聞かれてくるところです。やはり色々な地域の色々なレベルの芸術文化団体,現場を抱えていますが,そういったところと政策を立案する側とがもう少しコミュニケーションを密にとっていく必要があると思います。駆け足でしたが,時間が過ぎてしまいました。以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。大変よくまとめられておりました。ご苦労さまです。またいろいろと教えてください。それでは,続けさせていただきます。次に武濤先生,よろしくお願いします。大学等における人材養成ということで。
【武濤氏】
 昭和音楽大学の武濤です。私の方では,資料4を使って話をします。特に,今仕事をしています昭和音楽大学のアートマネジメントコースについてのカリキュラムとか教育の方法,それから卒業生の状況などを中心に話をしていきたいと思います。まず,このアートマネジメントコース,歴史になりますが,昭和音楽大学は1969年に短期大学部がまずできています。その後,1984年に4年制の学部ができ上がっています。アートマネジメントコースですが,音楽芸術運営学科ということで,10年たったところで設立されています。昭和音楽大学の建学の理念は,礼,節,技の人間教育と申しまして,礼儀,それから節度,それから技能,技術,そういったものを持った人間を教育するということになっていますが,昭和音楽大学のアートマネジメントコースは,1994年日本で初めて学位の取れる学科として設立されました。その後,98年に大学院,それから2000年に音楽療法コースもでき,2005年に,それまで短期大学部にあった舞台スタッフのコースを4年制に移行し,同時に,10年たちましたので,カリキュラムの全面的な見直しを行い,新カリキュラムのもとでスタートしています。今年の4月,それまで校舎のあった厚木市から川崎市,小田急線の新百合ヶ丘の駅から4分のところに移転しました。日本で初めてのコースですが,大学の前身が声楽の専門学校で,設立者が長年オペラ界の実力者として活躍をしていたこともあり,オペラの制作は,キャストや歌手だけではなくて,作曲家,オーケストラ,バレエ,それから舞台監督,照明,そういったさまざまな人々がたくさんかかわる形になっています。それから,もちろんたくさんのお金が必要になっていて,早くから,いわゆるこのアートマネジメント的な職能とか人事育成の必要性ということについては,学校の中でも,学校をつくる前から認識していたというようないきさつがあります。この学科設立に当たっては,ヨーロッパやアメリカ,特にアメリカのアートマネジメント教育というものをかなり参考にしながら,そして日本の現状とかニーズというものを配慮して,最初のカリキュラムがつくり上げられました。先ほど,2005年にカリキュラムを改定したと申し上げましたが,そのもともとの考え方は踏まえていながら,日本のさらにこの10年間の現状とか,卒業生のヒアリングとかアンケート,それから特に音楽やオペラ関係の現場の方々へのヒアリングとかアンケートを実施して,カリキュラムを改定していったいきさつがあります。次に,特徴ですが,全国で初めていわゆる学科として設立したコースであることです。今の1年生が14期生です。この3月に卒業した学生が10期生,いわゆる1期生がちょうど卒業後10年たった状況になります。だから,そのままストレートにいくと30代の前半,働き盛りという状況になっています。それから次に,大学の特色を生かした教育と書いていますが,音楽大学ですが,バレエとかミュージカルとか,そういったコースも持っており,また,舞台スタッフコース,そういったものもありますので,そういうコース間の連携とかをとりながらの教育を行っているということ。それから,校舎が移転して,本格的なオペラが上映できる劇場,ここにちょっとモノクロですが写真を置いていますが,このような劇場も学校の教育施設として持つようになったので,そういった施設を利用したいわゆる実践的な場もできるだけ持つようにしています。それからもう一つ,音楽大学ということで,演奏家の卵とか,実際に演奏している教員とかが,存在しているという特色があります。それから次の現場との連携という特色ですが,これは先ほどの話にもありました,インターンシップとか実習という言葉でも語られますが,今,アートマネジメントコースの専任教員が合計で9名おり,うち2名は語学の教員です。アメリカ人も含めて語学の教員,1名が音楽学の専門教員,残りがいわゆるアートマネジメントの現場で仕事をしてきた教員で,そういった意味で,現場の方々との実習を通じた会話とか,教育へのフィードバック,コミュニケーション,そういったものがかなり密接に行われているという特徴もあります。次に,4つの柱の教育を行っていますが,これはまた後でもう少し話ができると思います。次は,資料の右側です。教育目標として大きく2つ挙げており,1つ目が舞台芸術活動を成功に導くためのリーダー,または芸術運営のスペシャリストという言い方でもいいのかもしれませんが,そういったリーダーを育てるということ。それからもう一つ,これはとても大事なことだと思っていますが,芸術を愛し,自分自身の美学を持って感動を大切にできる人材を育成したいと,このように大きな教育目標を立てています。そのために必要な身につけるべき知識や能力ということで,この下のようなものを挙げています。では,それを実際にどういう形で教育のカリキュラムに落としているかということですが,資料の次のページをご覧ください。ここにある第1,第2,第3,第4というふうに縦に柱をつくっていますが,最初の柱が音楽と舞台芸術ということで,芸術に関する知識や理解を身につけます。2つ目が,これも整理の仕方としてもアートマネジメント理論という言葉を使っていますが,内外環境と経営手法についての理解,それから3番目として英語と国際教育,4番目として実践力というのを1つの柱にしていて,実習あるいはインターンシップということを考えています。この資料の下の方に,横に年次ごとのカリキュラムが置かれている状況を書いていますが,1年生のときには,音楽に限らず,舞台芸術と縁がかなり深い,芸術分野の基礎を学ぶという形で科目を置いています。2年次は専門科目ということで,舞台芸術の歴史のところもありますが,アートマネジメントあるいは内外環境といったところにかなり重点を置いています。この1,2年生のところをプラットホームと呼んでいますが,基礎力を養成する学年と位置づけています。3,4年で実践力あるいは応用力という形で,例えば学外における2週間ほどの実習経験,それからこれは実は今まだ完成年度になっていませんが,4年生のところにインターンシップという言葉がありますが,これはいわゆる欧米型のインターンシップ,長期間のインターンシップを来年度実現できるようにということで,来年からカリキュラムに出てきます。それから,今のインターンシップの右側ですが,これも来年度からですが,ゼミと卒業論文。一番右側の音楽活動研究のところですが,これは音楽を軸にしたアウトリーチなどの社会コミュニティーへの社会活動に携わっていくという,来年から置く全学的な選択科目で,アートマネジメントの学生にもこういったところにかかわっていって,市民活動とか,そういったニーズがあるので,それについても考える場あるいは実践をする場を与えていきたいと思います。もとの資料に戻りますが,一番右側の一番下のところに就職先を幾つか出していますが,全体として,先ほど若林さんの方で分類がありましたが,いわゆるバレエとかオペラの実演団体,そういったところに就職している者もいます。それから,公立あるいは私立も含めて,文化施設の管理運営を行っているところ,これがこの財団法人何とか財団というようなところに就職している者もいます。その次の株式会社等は,これは音楽事務所です。こういったところに就職しています。それから,特に近年の傾向ですが,神奈川共立とか,シミズオクトとかですが,これはいわゆる指定管理者制度がスタートして,その流れの中でホールや施設の管理運営を担うようになったところ,そういったところへの就職も最近増えてきています。1期生から10期生まで,今,卒業生の数が大体250名,年度により在籍の数が違いますので,毎年25名かというと,そういうわけではありませんが,大体そのぐらいの卒業生が出ています。今後の課題を資料の左下に書いていますが,これは私が今教育現場にいて目の前でいろいろ思うことと,それからもうちょっとゆったり座って,全体を見て思うことがひょっとして混在しているかもしれませんが,簡単にこの部分についても話をしたいと思います。先ほどの若林さんの話を聞きながら,そうだそうだといろいろうなずいたりしていましたが,この就職とキャリアアップというところは,この業界で仕事をしたいと希望した学生たちが卒業していくわけですが,やはり必ずしもそれが就職先として確保し切れていないということです。もしあったとしても,いわゆる任期つきとか,給料といった問題とか,そういったこともまだまだ横たわっています。例えば,非常に優秀で,やはり仕事がしたいと思っていても,諸般の事情で一般企業の方へ行く,そういう人材がそちらへ流れていく,こういう現状もないわけではありません。それから,もしそこへ就職できたとしても,その後のスキルアップとかキャリアを伸ばしていくための土壌,状況が非常に厳しい。一回やめて次にステップアップしていけるのか,あるいは仕事をしながら,仕事が終わってからそういうスキルアップあるいはキャリアアップのための勉強ができるのか,そういったところが今非常に問題になっていると,卒業生などと話していても見えてくるところです。次の大学院・社会人教育というのは,それにやはり連なってきますが,自分も今こういう教育現場にいますが,大学あるいは大学院でそういう場をつくっていけるのか,実はカリキュラム改定をした段階で,大学院の方もいろいろやりたいということで,様々な計画をしていますが,残念ながら今それが実際に形にはなっていません。まだ検討中ですが,例えば実際にそういうものをつくっても,本当に仕事をしながら学んでいけるような形があるのか,非常に忙しい芸術団体の現場でそういったことをやっていけるのか,その辺がなかなか厳しい部分です。慶應大学の方で社会人のコースが何年か前にスタートしていますが,やはりそういったところの難しさというのはあるような話も聞いています。それから,次に教育・研究活動と実践という,いわゆる欧米型のインターンシップ,こういったところがもっともっときちんとやっていけるような土壌が必要だと思いますし,さらにもう一歩先に進んだような現場の方々,現場と教育の場の連携といったものがあってもいいのではないかと思います。例えば,これは私も詳しく知っているわけではありませんが,ヨーロッパ,ドイツやスイスとか,そういったところでは,本当にばりばりの劇場のインテンダントのような方々が定期的に授業を持って教える,いわゆる体験談ではなくて教えていく,そういうようなシステムもあると聞いています。それから,アメリカでこれは私が実際に聞いた話ですが,地方の大学とそこで活動している芸術団体が一緒に実際の授業をつくっていく,そういう例もあると聞いています。それがそのまま日本に当てはまるとは思っていませんが,何かそういうさらに一歩踏み込んだ形の教育と実践とのコラボができないかと考えています。次のアートマネジメント教育の位置づけですが,これは若干自分の経験になりますが,私はこの大学で教えるようになり7年目になります。その前は,音楽にかかわるいわゆる企業財団で,コンサートの運営,音楽教室の運営,それから広報とかをやってきました。その後,アメリカのビジネススクールで学びました。そのときに,やはりマネジメントの共通言語というか,それを学んだことが非常に大きな影響があり,それまでやってきたことをマネジメントで整理していくという経験があります。それが,目からうろこがぼろぼろというような感じで,自分がこれまでやってきたことの自信とか,やっぱりそうだったのかという何か納得感とか,そういったものが非常にありました。逆に言うと,そういった思いがあったので,今この教育の場にいるのかもしれないなという思いもあります。やはりこのマネジメントの視点でアートという非常に芸術あるいは哲学的なものを見ていくとことは,なじまないと言う方もいると思いますが,むしろ適正な形で,愛情と情熱を持った形で見ていくことは,その芸術の公共性とかすばらしさとか,そういったことをきちっと訴えていく力になるのではないかと思っています。最後にネットワークと情報交換,もちろん先ほどの現場とのネットワークとか情報交換というのも含めていますが,もう一つ言うならば,例えばジャンルごとのいろんな動きに加えた横のつながりです。今幾つか,もちろん芸団協さんとかも,全体的な横のつながりでのマネジメントの研修とかも行っていますが,そういったものがもっと盛んになっていかないかなと,共通基盤でくくりながら,全体的に底上げをしていくような,そういうシステムができないものかと思っています。あるいは,例えば教育を受けた人たちのネットワーク,そういったこともあるかもしれません。それから,先ほど地域間の格差という話もありましたが,私もそれはあると思いますが,やはりネットTAMで行っているようなホームページや,ネットを活用した情報交換のあり方,さらにもう一歩進んだ底上げの方法とか,何かそういったものがあるのではないかと思います。時間になりますので,これで終わります。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。それでは,少し時間がオーバーしておりますが,そのまま続けたいと思います。では次,柴田先生から,若手アートマネジメント人材に関してお願いします。
【柴田氏】
 鳥取県文化振興財団の柴田です。お手元の資料5をご参照ください。私は,平成9年度の在外研修員アートマネジメント部門の派遣者の一人として,海外の経験を積ませていただきました。まず,海外の人材養成について,海外研修の経験から話しをしたいと思います。研修先は,アメリカのサンフランシスコベイエリアにあるシアターアルトーというコンテンポラリーなダンス劇場,それからイギリスは,リーズ,ウエストヨークシャープレイハウスの地域劇場にインターン生として入りました。劇場支配人のアシスタントとして,事務補助,フロントスタッフ,広報宣伝などの日常業務を経験して,各種会議に参加させていただきました。両劇場に共通する人材育成の特徴として,まず人材育成の組織的位置づけができているということ,組織における人材育成の理念が明確であり,次代を担う人材の育成が明確に位置づけられています。それと,マンツーマン指導による指導方法,上司1人,スタッフ1人に対して,インターン生が1人ないしは2人という少人数精鋭型の指導により,マンツーマン方式をとっていました。また,ヒューマンリソースマネジメント,人的資源開発と言われておりますが,インターン生あるいはボランティアに対して,一人一人の個性や持ち味を生かしながら,個々人の潜在能力を引き出すことを重視したヒューマンリソースマネジメントの徹底が行われていました。受け入れ体制と指導者ですが,各部署が連携をとり,インターン生の悩みや相談に応じながら,きめ細かい対応で面倒を見る受け入れ側の体制が見事でした。また,管理職スタッフは,業務の秀逸さに加えて,指導者としての役割も十分果たすほど,その層に厚みがあり,人材が充実しています。また,助成制度もあり,小規模な民間非営利組織では,インターン生を受け入れる場合,実費経費で少なくとも1カ月当たり約10万円程度経費がかかるということで,民間助成制度もありました。また,平成19年の6月にイギリスとアメリカの地域劇場に視察調査に行きましたので,その結果を若干報告します。アメリカワシントンDCのケネディーセンターでは,教育部門が充実しており,その中でアートマネージャーの養成が位置づけられています。年間予算は2,500万ドル,約28億7,500万円です。収入の内訳は,アメリカの教育省が1,400万ドル,チケット売り上げが300万ドル,資金調達が800万ドルで,そのうちアートマネージャーの育成費150万ドルが支出されています。これは約1億7,250万円となっており,アートマネージャー育成が教育部門に占める割合は6%となっています。総指揮は,2001年に着任した劇場総支配人兼会長のマイケル・カイザー氏です。マイケル・カイザー氏は元ロンドンロイヤルオペラハウスの支配人で,多額の劇場負債を数年がかりで返済して,健全な運営状態に導いた方です。この方が開発したアートマネジメントプログラムが3つあり,1つ,インターンシップ,これは1982年から25年間継続されています。対象は主に学生。アメリカでも大学とか大学院課程でインターンを推奨しています。期間は3カ月から4カ月,募集人員は各20名で,1年間で60名の定員,1回の募集で100名から200名の応募があるそうです。指導は現場スタッフが担当します。業務は現場でのアシスタントで,業務の分野は,広報とマーケティング,資金調達,教育,会計と財務管理,契約,国立交響楽団のマネジメント,プレス,事業計画とプロデュース,ITの中から希望分野に振り分けられます。経費は生活費のみ支給されるということです。2番目にフェローシップですが,マイケル・カイザー氏の肝いりで始められたプログラムで,2002年から開始されています。対象は,経験10年以上の劇場スタッフ,アートマネージャーで,それらのスタッフの再教育制度という位置づけになっており,将来の劇場支配人候補生を公募により選抜しています。期間は1年間,募集人員は10名のみの少人数精鋭型で,海外からの応募もあるそうです。指導と業務については,管理職つきの業務を行い,マイケル・カイザー氏じきじきの指導もあります。経費は1名につき2万ドル,約230万円が支給されており,健康保険にも加入できます。指導内容としては,毎週1回5時間の集中セミナーがあり,日常は管理職つきのスタッフとして実務を行うそうです。業務分野はインターンシップと同じような内容になっていますが,企画・戦略計画,資金調達,マーケティング,会計と財務管理,IT,教育,人的資源開発,法律,ユニオン交渉,メディア戦略などとなっています。3番目に,キャパシティービルディングというプログラムですが,全米の団体,それから海外の団体との共同プログラムを開発して,アートマネジメントのノウハウを提供しているとのことです。過去に中国,メキシコ,パキスタンで教えた実績があるとのことでした。次に,アートマネジメントに関する業務の現状と課題ですが,今,鳥取県で公立文化施設を管理運営する財団法人に勤めている関係で,地方から見た,あるいは公立文化会館から見た業務の現状と課題を話します。まず1番目に,アートマネジメントとは何かという再定義が必要だと考えています。若林さんも述べていましたが,一般的には「芸術と社会の出会いをアレンジする」とか,広義的には「芸術と社会の接点を開発して,芸術の社会展開を図る」とか,狭義的には「アートにかかわる事業の運営,アーティストの芸術活動の管理,芸術団体の組織運営や文化施設の管理運営を行う」というふうにされていますが,このような抽象化された定義ではなく,今一歩突っ込んだ再定義,実学としての定義づけが必要と思います。ケネディセンターの研修内容を見てもわかるように,芸術を現場で理解すること以上に経営学的な専門知識や経験が求められると思っています。次に,アートマネジメント教育の見直しです。どのような人材を育成するのかを明確にする必要があると思います。文化政策立案者を育てたいのか,高度研究者を育てたいのか,現場のアートマネージャーを育てたいのか,または文化的教養人を育てたいのか,これらそれぞれの人材によって,教育育成方法が違うはずです。特に,現場を預かるアートマネージャーの養成には芸術と経営の両側面からの教育が必要であると考えます。また,指定管理者制度導入により,現場は即戦力になるような人材を求め始めたと思います。その影響で,就職マーケットは少し拡大したようにも見えますが,長期的なスパンで人材を育成するということは非常に難しくなっています。加えて,採用された新規職員の傾向として,あいさつができない,電話が満足にとれないなど,社会人として疑問に思う採用者もいます。アートのことは詳しいが,社会人の常識や自覚に欠けるということからいうと,本人の責任とアンバランスな教育であるということも言えるかもしれません。アートマネジメント教育とは,本来,総合的な人間力を養う教育であるとも感じています。独創性,協調性,コミュニケーション,専門性,知力,体力など人間として不可欠な要素がかなり求められます。また,これらの要素が絶妙なバランスでないと,なかなかうまくいかないものであろうと感じています。次に,現会館職員の専門性と意識改革のところです。多くは平成5年以前に建設された会館職員に多くの問題があると思います。問題の発生は,まずは採用時,縁故採用やコネクションなどを通じて,一般総合職,一般事務職として採用された職員です。この職員には明確な,これならできるといった専門性は余り見かけられません。次に,組織内での人材育成の怠りです。設置自治体,自治体には職員研修がありますが,その自治体の外郭団体にはその研修制度がありません。よって,管理職や専門職などの研修制度が欠如しています。職員の意識については,本来は会館ミッションの名のもとに集まり,会館が地域における新しい文化価値を生み出す創造性のある場,交流広場であるという自覚があって当然ですが,その点,認識が薄いのではないかと思います。労働は生活の糧のみという考え方の職員が多くないだろうかと思います。これは,各地研修会で講義をする際に感じることが多いです。自身の職場イコール会館をみずから愛していないのではないかと思います。市民に愛される会館を目指すということよりも以前に,まず自身の勤務する会館を愛することから始めなければならないと私は啓発しています。また,ライセンスを持たないトップマネジメントの存在ですが,他の業界を見渡してみても,専門性を持たないトップなどあり得ません。しかしながら,日本の公立文化会館にはそのような現状があります。指定管理者制度が導入され,さまざまな要素の専門性が求められる現在は,文化のことや現場はわかりませんという館長やトップマネジメントの存在は,会館運営を妨げる要因となり,その下で働く職員たちに悪影響をもたらすと考えています。次に,自治体のミッションの欠如です。自治体における明確な文化振興のミッションが欠如していると思います。主体的な理念やミッションを具体的に示すべきであると考えています。また,設置者としての設置自治体は,どのような劇場を求めているのか,その劇場にどのようなことを期待するのか。例えば,料理でいうと高級レストランなのか,郷土料理なのか,無国籍料理なのか,創作料理なのかといったように明確にすべきであると思います。したがって,それにはどのような人材が必要なのか,どのような人材を育成するのか,したいのかを公立文化会館に投げかけるべきであると考えています。次に,研修費用の捻出の困難についてですが,地方の小規模なホールは指定管理者制度導入により,コスト削減から,人材を育成する研修費,交通費すら捻出できない現状があります。次に,地域間格差の是正ですが,東京,大阪,名古屋などの大都市圏は交通アクセスがよく,情報が集積し,技術やノウハウの蓄積があり,人材が豊富なので,育成はしやすいと思います。しかしながら,地方都市については育成環境が大都市よりも整っていない,あるいは不十分なところがあると思いますので,育成計画に取り組む際は全国的に不公平感が伴わないように十分配慮が必要であるかと考えます。最後に,我が国の人材育成や現職研修に対する期待ですが,期待される人材像の明確化が必要です。求める人材とその質により,育成方法を多様化する必要があります。次に,既存の研修制度のさらなる充実と職場環境の改善ですが,時代に即応して,外部環境の変化にこたえられる研修内容が必要だと思います。研修の指導者層の充実とその人材の養成も必要であると考えています。研修が生かされる職場環境の改善が必要ということで,研修後,モチベーション低下が起こってしまわないような職場の雰囲気,トップが現場を知らない,中間管理職が硬直化しているなど,組織としての問題を改善していく必要性もあると思います。育成に関しては,これからのことを考えると,特に管理職とトップマネジメントの研修が必要であると感じています。30代後半から40代の職員を強化しなければいけません。反面,新卒者や若手はどんどん伸びていく傾向にあると思います。次に,劇場法の制定とアートマネージャーの公的資格制度の検討です。劇場や公立文化会館の基準や水準など国レベルで明確にすべきではないでしょうか。この基準を策定することにより,各地域での指定管理者の要求水準が明確になり,コスト削減に流れる傾向にある制度の現状を克服することが可能になるのではないかと思います。劇場や公立文化会館に文化専門職を明確に位置づけ配置する,また,文化専門職やアートマネージャーの公的な資格制度も設けられるべきときに来ているのではないかと思います。次に,資料の3ページ目のアートマネジメント・エッセイですが,これは全国公文協の通信に書いたものです。海外研修から私が何を学ばせていただいたかということが詳しく書いていますので,あとでお読みいただければと思いますが,やはり,海外研修でいろいろな勉強をさせていただきましたが,専門的な勉強もさることながら,劇場のトップを預かるマネージャーの人格というか,徳というか,そういうものに大きく触れて,私が今後この道を歩んでいく上での非常に目標となる方々に多く会い,非常に目標が定まったという,そういう感動の思いをしました。最後にも書かせていただきましたが,私としては,細やかで緻密なマネジメント能力,人を温かく包み込む懐の深さとか,トップとしての器の大きさもぜひ私も獲得していきたいと思い,このようなことも学ばせていただきました。また,資料として配布した文化ボランティアの活動実態環境調査についてですが,これは公立文化会館に限ったことではなく,美術館とか博物館,それから個人活動者,それから演劇鑑賞団体等々も含めて調査をした最新のものです。ここにも施設の受け入れ体制の問題,それから文化ボランティアの専門性,それから人材を受け入れる際の環境整備等々の問題とか提言とかが書かれていますので,後でお読みいただければ幸いです。以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。3人の先生方から,切り口が違うところからではありますが,お話をいただきました。大変興味深い部分がいっぱいあります。中身の濃い話でした。それで,これをどういうふうに構築していくか,あるいは切り込んでいくか,いろいろここでご討議いただければ幸いです。例えば,共通しているのは,3方の先生のを見ていても,結局は実学,実際にやっている現場,それから社会へ出ていってからの受け皿との関係,そして少しぼやけているのは,インターンとボランティアとの切り口がすごくあいまいなので,なかなか獲得できないような問題だとか,基本的には総合的な人間力の問題だろうということはありますが,それをすぐそのまま言うと,それでおしまいになりますので,その途中段階でも,色々なことを先生方の中から感じたことを含めて,フリートークの時間を持ちたいと思いますので,よろしくお願いします。いかがでしょうか。約小一時間ぐらいと思っていますが,お気づきになったところとか含めて,お話しいただけたらと思います。
【三林委員】
 よろしいですか。今,柴田さんがおっしゃったことですが,私のうちは,父と弟とおいが文楽の人形遣いをしている関係で,国立劇場,国立文楽劇場と非常に密接に仕事をさせていただいていますが,今おっしゃったトップの方で内容が大変変わります。文楽を見たことないという方,文楽に全く興味がないという方がいらっしゃったとき,これはもう大変なことになるわけです。それは,やっている方にも,見る観客にも迷惑です。何でこの時期にこんな演目を出すのかという,何もわかっていない状態で,お客様のことも考えないで,そういう出し物なども選ばれてしまう場合も多々ありますので,先ほどおっしゃった,やはりトップがわかっている,ちゃんとした人というのは,少なくとも国の管理する劇場にはそういう方を配置していただいて,もちろんそれだけではなくて,国立劇場や公共団体の劇場のスタッフには,やはりそれなりの人がいて当たり前だと思いました。ちゃんとそこにはそういう人材が必要だということが分かりますと,当然就職先もできるわけですし,専門に勉強しても希望が持てるわけです。だから,そういう意味で,ただ役所に就職するというだけじゃなくて,専門的に勉強した人を採るという形を早くつくっていただくのが,文化庁の会議なので,一番手っ取り早い方法じゃないかと思いました。
【宮田部会長】
 なるほど,そうですね。どうですか,次長。いきなり振りますが。
【高塩文化庁次長】
 いろいろありますね。
【宮田部会長】
 私のところも,教員採用するときには,ものすごく遠くの色まで見ます。この人を採ろうと思ったときに,自分が教員だったせいもあるのかもしれない。事務方採用というのに立ったときに,どういう採り方をしているのかなと,時々不安になります。そうすると,柴田先生の話の最後のところにも,つながっていくのですが,次の若者というときにはどういうふうになっていくのかなというのが,このマネジメントの話だけに特化することもなく,総合的に降りかかる話でしょうが,トップは大変大事なことですので,私も頑張ります。
【三林委員】
 すばらしいトップだと思います。
【宮田部会長】
 ほかにございませんか。
【高萩委員】
 全般的には,私もアートマネジメントを勉強したり研究したりしているので,大体はそうだなと思います。結局,評価のない世界だったことが一番問題だと改めて思いました。日本の中で,公共事業という形でたくさん文化施設ができてしまった。できたことが悪いことではなかったと思います。ただ,それをどうマネジメントするのかということが余りちゃんと話されてこなかった。しかも,その運営方法について評価されてこなかった。日本の場合,芸術に関しては,趣味の,一部の芸術家がやっているというところから抜け切れなかった。芸術施設は管理していればいい,だから,多くの体育施設とか芸術施設にしても,管理はだれでもできるのではないかということで行われてきた。だから,よく管理しました,悪く管理しましたということが余り評価されなかった。今は,よく管理しましたというと,どちらかというと指定管理者制度の中では,効率的に,つまり安く管理する人がいい人だみたいな感じになってきている。国として何らかの評価基準をきっちり当てていくことが必要だと思います。よい評価のものには,ある種の助成金を増やしていく。多分,教育分野においては,COEですか,20世紀センターオブエクセレンツという形で,かなり大型の助成が行われてきています。実際,芸術施設の方にも,今,芸術拠点形成事業のような形で行われ始めてはいますが,始めた途端に,大学の方は集中する方向に行っていますが,文化庁の方は分散する方向に行き始めている。で,何かちょっと評価の基準がはっきりしていない。評価がはっきりすると,評価を上げるために質のよい人材を採らなきゃいけないところへつながっていって,比較的,流れがよくなるのではないかなと思いました。
【宮田部会長】
 そうですね。今日の話でもそうですよね。一生懸命やるけれど,やっぱり人間,生身ですから,だれかがちゃんとそれを位置づけしてくれるということがないと,それを評価する人が何か3年ぐらいですっといなくなって,また違う水道課の人が来たりということで,がっかりするという話をよく聞きますので,大切なことだと思います。あと,どうですか。いかがでしょうか,先生。
【吉本委員】
 今日,3人の先生方のお話を聞いて,アートマネジメントのことを改めて整理できましたし,同時に一言で人材育成といっても,非常に幅広い課題がいろいろあると思いました。その中で,文化庁を初め,地方公共団体などの文化政策ということで,何が重要なのかなということを考えていましたが,私が一番はっとしたのは,若林さんの報告の2枚目のペーパーの中に,文化振興課の担当の方というのも実はアートマネジメントの人材であるという指摘があったり,それから柴田さんのペーパーの中にも,自治体のミッションの欠如というようなことがあった点です。つまり一言で言うと,専門的な文化行政官をどうやって育成するかというようなことが非常に重要だということに改めて気づかされました。これは,私の個人的な感じ方かもしれませんが,アートマネジメントの人材育成というと,やっぱり劇場で働く人とか,劇団の経営をできる人とか,最近だとつなぎ手とか,何かそういうふうに考えがちな部分があると思います。文化審議会の場でなかなか申し上げにくいのですが,文化庁で働いている方々,あるいは地方公共団体の文化行政を担当している方々が,専門的なことを理解し,文化振興とか,あるいはアートマネジメントのミッションをご自身の中で理解して,熱意を持ってやっていただけるような仕組みというのをどうやってつくればいいのかというのが,人材育成の中で非常に大きな課題かなという気がしました。先ほどの三林委員の話ですと,それをさらに突き詰めると,人事の話とか何かそんなことにどんどんいってしまうので,そこまで広げられないと思いますが,やはり文化行政官の問題は重要だと思います。地方公共団体では特に大きいと思いますが,例えばフランスなどでは,元文化大臣の秘書官をしていた方が,今,中核都市の文化局長ということで非常にらつ腕を振るっておられて,その市の文化がよみがえったと,そんなことが起こっていますので,やはり地方公共団体を初めとした行政の中にそういう専門官をどうやって育てて位置づけていくのかというのも非常に重要なことだという気がしました。
【宮田部会長】
 そうですね。それと,どうでしょうか。いろんな地域が,首都圏は別としても,今の話からくると,各地域に新聞社がありますよね。例えば信州でしたら信濃毎日だとか,新潟だったら新潟日報社とか,ああいうところで事業部という組織体がありますし,若林先生のいろんな切り口の中からでも出てくるのですが,そういうところとの関係,あるいは全国にあるNHKにもあるような文化施設との連携関係というのは,余りアートマネージャーの人たちはしていない気がします。その辺がもっとしっかりつくっていると,自分たちがやった仕事がきちっと世の中に,あるいは新聞記事に,いろんなところに,やった仕事が認められるという価値観が出てくるということがあると,もっともっといいのかなと感じました。ついこの間もあるところで個展をやらせていただいたときに,そういう人たちと報道系の方の人たちが全く別に訪ねてくるんです。ああ,もったいないな,一緒に来て,一緒に話し込んだらプラスアルファ,自分の個展の話だけじゃなく,地域の芸術の話とかいろんなことができるのにという,もったいない雰囲気を感じたので,こんな話をさせていただきました。さて,ほかの先生方はどうでしょう。田村先生,どうぞ。
【田村(和)委員】
 今日はありがとうございました。いろいろと文化行政は考えてはいますが,こういう非常に具体的な話を聞けて,非常に勉強させていただきました。ちょっと気になることが1つあって,3人の先生方の話を聞いていますと,90年代に入ってきて非常に盛んになったアートマネジメントということのいわゆる定義とか考え方とか,特に職とか業という世界での受け入れ方の問題が非常に大きいと思いますが,実は,このアートマネジメントというのが非常に広く,文化行政の風土環境にかかわると思いますが,日本の中で本当に,吉本さんもおっしゃいましたが,文化行政を地域でコントロールするというか,そこにガバナンスとして押さえている人は,だれもいないんじゃないかなというのが一番大きい問題だと思います。というのは,私は地域づくりとかいろんなところでいろんな世界を見てきましたが,アートマネジメントから描くのもいいですが,アートマネジメントを受け入れる外側の世界,つまり絵をかくときに真ん中をかいていくこともありますが,背景からかいていくロールシャッハみたいなやり方があります。そういう見方をしたときに,日本の地域社会というのは本当に文化というものをガバナンスしていく世界が全くないんだなという感じがします。たまたまその中に非常に文化に堪能な方がいれば,それは先ほど三林先生がおっしゃったように,非常に当たりますが,大体が余り当たらない方が多いですね。そういう方が一番本来のところにいて,それがまちづくりとか,それから地域行政とか自治体行政の中で文化を一つのパートとして置いたときに,一体何が起こるかというと,例えば文化施設を超えた文化施設の中のソフトの問題として,今語られたような話がどこで考えられているのかというのは,ちっともその置きどころがないような気がしています。ですから,本来,文化行政,ガバナンスそのもののあり方というのがもっと問われないと,そのあたりで話が進まないのではないかという恐怖感をずっと持っています。それで,一つそういう意味でお聞きしたいことがありますが,これは非常に乱暴な言い方ですが,3人の話を聞いていて,アートマネジメントのあり方というものの発想が,率直に言ってすべて欧米モデルなんです。いろいろと勉強しに行くのも当然ですが,私はずっと市民参加とかを現場の中でやってきて一番気になっているのは,日本の中でそういうシステムをつくるときに,欧米モデルをどこまで参考にできるかというのは,いろんな世界で行き渡っているような,完全につかってきているような感じがしてなりません。特に市民参加の世界は,非常に近代市民を前提にしていますが,やはり日本の中の近代市民とは非常に難しい存在です。これは,一橋の阿部謹也先生が,日本は近代社会ではなくて,ずっと日本の社会というのは世間というものとつき合ってきたといういい方をしますが,やっぱり文化というのも世間の中でつくり上げられた何か非常に望洋とした,非常に高みにあるものだという感覚が日本の中であります。これを近代文化,近代芸術文化とか,現代芸術文化とか,それからそれに対応する欧米モデルだけではもう対応し切れなくなっているのではないかという危機感を持っています。今伺いたいのは,そういう乱暴な話ではなくて,アートマネジメントの考え方を日本に定着されて,非常に苦労されていると思いますが,日本の非常に風土的な世界の中で,これはアートマネジメントという概念と遠いかもしれないが,実際に何かそういうところで触れられて,そこのあたりからアートマネジメントを,何か立て直していこうとか概念を変えてみようというような事例とか,そういうことってなかったのかということをちょっと伺いたいです。というのは,いろんな人間像で,やっぱりアートマネジメントというのは一つの人間像が非常に見えてこなければいけないと思いますが,戦前,山田耕筰という方がいましたが,私はあの方の乱暴さを見ていると,何か非常に一つのアートマネージャーとしてのたくましさがあります。あそこで,特に戦前の世界でぶつかってこられて,例えば水戸かどこかに大きな音楽堂をみずからつくろうとして失敗したり,スキアピンと会ってきて,こんなことをやられたというような話を聞いたりすると,一つの人間像みたいなものが何か日本の中にもあったはずだという感じが強くします。そういうことが今,全く乱暴な話としてお聞きいただきたいのですが,何かそのあたりに一つ私が市民参加とぶつかって,そこで本格的にみんな考え方を変えていかなければいけないと思うように,アートマネジメントもそのあたりが重要になってくればくるほど,ぶつかっていく問題があるような気がしています。ですから,何かそのあたりのヒントってないでしょうか。失礼だとは思いますが。
【宮田部会長】
 いかがでしょうか。今の田村先生の話ですが。
【柴田氏】
 答えになるかどうか分かりませんが,在外研修でたまたま選ばせていただいた地域が先進国のアメリカとイギリスだったという経験からいくと,私は,地域に限らずいいマネジメントであれば,どんどんそれは実践で取り入れていくべきだと思います。それは地域性に限らず。ですから,日本にも家元制度を代表されるように,日本の伝統文化が昔から脈々と続けられてきた文化なり,そういう土壌がありますから,今まで続いてきたということは,いろいろな問題はありますが,でもそれはものすごいことで,今,歌舞伎界があれだけいろいろな人材を輩出しているということは,すばらしいことだろうと思います。経営にも日本型経営というのがあって,さまざまな世界的企業が日本から育っていますので,例えば日本のマネジメントがだめだとか,それからアジアのマネジメントが先進国に及ばないとか,そういうふうなことではないと思います。それはどこの国に行ってもいいマネジメント方法,それから歴史文化に根差したマネジメント方法があるわけですから,いいものはどんどん取り入れて日本型のアートマネジメントをつくっていく,今,基盤固めの時期であると思います。私はそういうふうにとらえています。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。
【武濤氏】
 よろしいですか。今の話と非常に似た話になるかと思いますが,私もやはり10年間こういう現場にいて,活動をしてきて,アメリカのモデルが万能だということではなくて,そういった例えば今の,先ほど評価をしてこなかったという話もありましたが,そういうほかでうまくいっている,あるいはどういうふうにしているんだろうということを知ることによって,逆に今の話のようなことが見えてきている部分もあると思います。やはりこれが万能ではないし,こういう何かスタンダードというか,見えるものがあるから次のことを考えていくというふうな段階だろうと思っていて,それの中でシステムとしてつくって,まずつくりながら検証しながらという形をやっているところですので,柴田さんの話にあったように,これが万能だということではもちろんなく,多分そういうご趣旨での話しだと思いますが,やはり何か物があって,いろいろなものを取り入れた中で次のものをつくっていく,日本型だろうと思いますが,そういったものに移行していく時期というか,段階があって,今そういうところではないかと思っています。
【田村(和)委員】
 どうも失礼しました。
【武濤氏】
 そのためには,やっぱり情報交換とか,こういったところでこんなことが行われているということが,より明確にいろんなところで見えてきたり,わかってきたりというのは必要だと思います。
【宮田部会長】
 先生方どうでしょうか。
【米屋委員】
 今の質問に,私も90年代の初めにイギリスとアメリカで勉強して,その後,芸団協という日本の古典芸能から現代物まで全部カバーしているようなところで仕事をしていますので,海外のモデルと日本の現状というものを常に比較しながら仕事をしてきましたが,いろんな留保が必要と思いますが,誤解を恐れずに言うならば,日本型というのは,アーティスト個人,活動する個人が非常に責任を負わなければならない環境でずっと仕事をしてきたと思います。ところが,海外のこのアートマネジメント教育の歴史とか,海外の芸術制度史などをひもといていくと,制度化,インスティチューショナライゼーションという言い方をしますが,一つ一つの芸術団体が,個人がコントロールするものではなくて,制度としてだんだん大きくなってきています。ですから,トップは芸術監督が何年か置きにかわって,そのたびにカラーは出ますが,でもそれは単なる器であって,その芸術家の私物ではないというところで,いろんな才能が活躍できるような仕組みとして支えられてきました。日本の場合,何か芸術は個に非常にかぶさった形で,また先ほど家元制度というのが出ましたが,古典芸能に限らず,周囲の家族とか,弟子とか,そういったところが無償の労働で支えるという形で,日本の現代芸術も支えられていることが多い。本当に海外で活躍しているダンスカンパニーの人とこの間話をしていたら「私はダンスの制作をやっているところから1銭ももらっていません。」ということをおっしゃっていて,本当に無償で仕事をしている人がたくさんいます。ですから,こういったところが,シャドーワークというか,影になってなかなか世間に認知されてこなかった,知られてこなかったというのが日本の特徴かなと。これを,欧米モデルのような制度化というところに向かうのかどうかといったときに,それは自分でできる範囲でやりますという方もいらっしゃるかもしれませんが,やはり制度化を進めるのであれば,そこに大きな政策的な誘導というのが必要なのではないかなと思います。これはどちらという二項対立的なものではなくて,日本型のソフトランディングみたいなことをしていかなければならないと思いますので,それにはやはり現状がどういうふうになっているかということが,もう少し皆さんに共有される必要があると思います。それともう一つ,先ほどの意見に出ていたように,文化行政がしっかりしなければということも確かですが,芸術文化活動は,やはり人の創造的な営為が根幹にあって初めて世の中に影響が及ぶものですので,アートマネジメントの一番大事な部分というのは,アーティストの活動をどう本当に開いていくかという,アーティストの環境を整えてあげるというところが非常に重要と思います。そうしたときに,欧米型の劇場は,劇場と劇団員というのが一体になっているケースが結構多いのですが,日本の場合は,劇場というのは器だけで,そこに人が所属しないという形で来たし,また,鑑賞団体というのも独特な形で組織されていて,劇場が観客を組織するのではなくて,民間の文化団体があるルールで鑑賞者を組織するということが進んできた。3つの機能がばらばらに発展してきたという特徴がありますので,この辺がやはり欧米モデルを即導入できない一つの障害というか,違いだと思います。ですので,やっぱりアーティストの活動をどう育てていくかというのは,非常に長い目で見守らなければならないことですので,アーティストが所属する集団というものをやはり重視していただきたいなと。行政も劇場ももちろん大事ですが,そこのところは忘れないでいただきたいなと思っています。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。はい,どうぞ。
【田村(孝)委員】
 米屋さんのおっしゃる意味はとてもよくわかりますが,その部分が強調され過ぎたというか,アーティストの部分,芸術家の部分に立ち入らないでほしいという傾向が日本にあったために,非常におくれてきてしまった。例えば基本法というのが6年前にできましたが,その前の1994年のときに振興法をつくろうとした方がいて,そしてそういう動きがあったにもかかわらず,芸術界からそういうものは要らないという話があった。芸術の独創性とか,そういうものを担保するために,そういうものは要らないのです,国がかかわらないでほしい,行政がかかわらないでほしいという流れが日本の中には残念ながらあったということで,そういうことはとても影響しているように思います。私が現在かかわっている地域で,アートマネジメントが非常にうまく展開しているところは,例えば音楽祭であったり,公共の文化施設では,その方たちが行政の中に,はっきりとその地域をどうしようかという考えがあって,それをその芸術の分野で生かして,その地域をどうするか,それをアートの分野でということだけであって,海外の劇場,歌劇場の方もその教育プログラムなどにかかわっている方はいますが,別にオペラを皆様に伝えよう,見てもらおうとしているわけで,人間としてどうあるべきか,子供の育成にどうあるべきかということ,それをたまたま劇場だから劇場の分野でやっている,オペラの分野でやっているにすぎないんですという視点が,いわゆる劇場関係者にもきちんとあるということです。日本の中でもそれがきちんとしているところは,いわゆる音楽祭でも,公立の文化施設の美術館でも,そこがきちんととらえられている方が中や行政側にいるところが,きちんとアートマネジメントしていますし,その地域で文化活動というものも,文化振興というものも一生懸命に進んでいる気がします。だから,そういう意味で,先ほど吉本さんがおっしゃった文化庁とそれから地方自治体の中に,そういう意識のある方というのは,残念ながら日本はそういう意味になると,最終的に芸術に対する価値観という問題になってしまいますが,それを理解してくれる方がまだ少ないということは大きな……,ただ,価値観だけの問題ではないということだけは思っていますが,そこが大きいということは確かです。吉本さんがおっしゃった,私自身も今その立場で,もしトップに立てる機会があっても,それが地域の住民の方に理解がなかなか広まらないのは,行政,あなたたちのせいですという,それは本当に現実問題だと思います。うまくいっているところは,行政の方が目立たずにやっています。これだけは事実です。
【宮田部会長】
 そうですね。余りそれを強く言うと,あっち側の人がちょっとつらい思いをするかもしれませんが,でもこのテーブルを置いたということ自身が,僕は大変な評価だと思っていますので,ここからスタートで十分じゃないかと。十分というのは,大いに期待されるものがここから出てきてもらいたいと,この6カ月後にはそうあってもらいたいという感じがします。大きく言えることは,人間が人間に伝えることですから,お互いが伝え合えるというものをどうやって表現する,あるいはその波及効果がどうやって出ていくかみたいなことをすること,これはもしかしたら本当に先生方の話なんかを総合するわけではないのですが,本当にアートだけに限らず,人間性のすばらしさをどう伝えていくかと,人間力,そして日本人力というものをどう伝えていくかということによって,世界のものも受け入れられるでしょうし,逆に日本発信で世界の人たちが感動するものもあるという感じが,先ほどからの話でお聞きすることができました。どうぞ。
【唐津委員】
 今日の3人の話を改めて聞かせていただき,私の方もこれまで考えていたことをすごく整理する非常にいい機会になりました。本当にありがとうございました。そういった中で,共通点として,私も一つ一つうなずきながら聞かせていただきましたが,実質,今,私は,愛知県の職員として現場に一応専門職としてついていますが,その中で私自身にも,後輩たちにも言えることとして,目標設定ができないでいるということが一番強く感じていることです。先ほど武濤先生のおっしゃったキャリアアップの問題もそうですが,例えば私は今15年愛知県の方で同じ職についていますが,この後どうなっていくのだろうかと考えたときに,もしキャリアアップの機会があって,何か学んだとして,それがその後一体何になれるかという目標というのは持てないでいる現状があります。例えば,これは先ほどのトップが全く違う芸術と関係ないところから来てしまうというところにつながっていますが,うちの劇場にしても,トップ3,トップ4,トップ5ぐらいでしょうか,全部行政職ですので,結局専門職と呼ばれている人間は,常に一番下の現場というレベルで働くというところから,キャリアアップできないという現状があります。そこからどういうふうになっていくのかという明確なビジョンが見えないと,新しく何かをしていくというきっかけはなかなかつくっていくことができない。これは私のような人間ではなく,これからこういった仕事につく人にとっても,あのくらい仕事をした人がこうなっていくということが見えていかないと,下は育っていかないということをすごく強く感じます。例えば,法学部に入るときには弁護士,検事という幾つかの仕事が見えて,最終的には裁判官を目指すというような何か明確なビジョンというものが,ぼんやりとですが,イメージができると思います。アートマネジメントというところに入った学生もぼんやりとしたビジョンはあると思います。けれども,最終的に,例えば田村委員のように館長を目指すとか,何かそういったものが持てるかというと,なかなかそうはいかない。それからもう一つ,アートマネジメントという存在を知らない人たちがとても多いということです。弁護士に興味がなくても,弁護士を知らない高校生っていないと思います。そういった中で,自分の職業の選択肢の一つとして法律というものを学びたい,弁護士になりたいという目標設定を持てるためには,国がこのアートマネジメントを育てるということを方針として出されるということがあるのであれば,やはりアートマネージャーというものはこれだけ社会にとって必要であって,目指すべき理想的な職業人の一つなんですよという何か大きなPRをしていただく機会をどこかで打ち出していただけないかなということを強く感じました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。武濤先生,教育現場から今のようなお話の若者たちが先生にそういう質問をしている会話が多分あるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。生の声で結構ですので。
【武濤氏】
 唐津委員が非常に的確な言葉でおっしゃっていましたが,目標設定というところについては,中期的なぐらいまでの目標設定は立てられますが,そこから先の部分というのは,今の日本の現状の中では厳しいところがあると思います。大学の現場では海外の状況とかそういったものも話しますので,やはり隣の芝生ではないのですが,社会状況も違いますが,ヨーロッパなどでは,例えば劇場をキャリアアップしていくとか,そういったのが,現実はどこまでどうかは別としても,そういったものがあるのに比して,日本ではそこから先の部分というのはやはり見えない。先ほど,10年たって今30前半であると申し上げましたが,そういった卒業生の中から,今,話のあったような声は聞こえてきていますし,私自身もその辺については,やはり何らかの形に見えてくるものというのがあれば,非常にありがたいと思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。現代GPとられたんですか。ちょっとその辺の話を。それもいい参考になるかと思いますが。
【武濤氏】
 よろしいですか。今ちょっと部会長の方から現代GPという話がありましたが,先ほどカリキュラムの中で簡単に触れましたが,手元の資料の中にもう一つ,オレンジ色の薄いパンフレットを挟んでいますが,これは音楽大学,いわゆる現代に必要なニーズに対応した教育プログラムという形で,文部科学省の方からそれにマッチしたものに対して,頑張ってやりなさいというような形の資金というか補助金をいただくようなプログラムです。これから昭和がやろうとしていることは,先ほどの話にも出ていたいわゆる人間力ですね,技術とか,音大ですから音楽の技能とか,そういったことはもちろん大切ですが,アートマネジメントも含めて,人間力を養っていくことを学校のカリキュラムの中で体系的に位置づけながら,体験しながら学んでいこうということで,社会貢献とか,音楽のアウトリーチとか,実際に社会に,コミュニティーに出ていって,自分たちの持っている技能とか能力,そういったものを社会に提供することで,逆に力とかフィードバックをもらって人間的に成長していくというプログラムになっています。これは全学的に来年からカリキュラムにおいて行うものですが,このアートマネジメントというところでいうと,そういったプログラムと連動しながら,人間の力というか,そういったものが一緒に向上していけるような形で,今あるカリキュラムに,もう一つ一つ大きな柱というか支えを立てていけるような形にできないかなということで進めています。
【宮田部会長】
 3年計画,2年計画でしたか。
【武濤氏】
 今,3年計画の2年目です。
【宮田部会長】
 そうですか,楽しみですね。それと,若林先生にちょっと質問ですが,いろんな切り口をしてくださったので大変おもしろいなと思いましたが,アートマネジメントそのものは運営の方に大きな位置づけがあるという指定図があって,あれはとってもおもしろかったのですが,もうちょっとあの辺説明していただけるとうれしいなと思います。
【若林氏】
 運営,職業的分類のところですかね。この図をここにかいた理由ですが,文化庁の方と先日話していて,私は余り分類というのはしない方がいい分野だと思っていますが,ただ企業メセナでもそうですが,やはり国の文化政策においても,対財務当局なのだなということが分かり,いかに言葉にしてこの分野のこういった人材がどれくらい必要なのかというのをきちんと言葉化していく,見える形にしていくことが大事だと気づきましたので,どうやって予算をつけていくのかというのを考えたときに,クリアになるようにということで仕事分類というのをしてみたところです。この分類だけで語れるものではないので,やはりもっといろんな切り口から皆さんで議論していただくのが大事と思いました。この場をおかりして,さっきの唐津さんの話に非常にそのとおりと思ったのですが,レジュメの3ページに少し書きましたR25問題,R35問題というのがまさにそれです。25というのは現場で働き始めて数年後の人たちで,本当に忙しくて,過重労働になっているというのも非常に問題になっていますが,この35の問題というのは,ちょうど私も同世代あたりですが,まさに目標が見えにくい,周りの違う仕事をしている友達なんかと比べると非常に目標設定しにくいと,まさに唐津さんが言ったような将来像が描きにくいという問題で,ただ一方で例えば結婚もする,子供も生まれるということで,一家を支えなきゃというような局面になるような世代で,今後どうしていこうかというときにすごくここで分かれていってしまう,せっかくいろんなところで人材が育成されてきても,ここでアートの仕事から離れていく分岐点になっているというようなところです。これはやはりこの分野というのは給料的にそんなによくないということもありますし,ほかと比べてそういう問題もあり,どうにか何か手を考えていかないと,せっかく大学教育で学び,その後,現場に入って手をかけて育てていった人材がほかに流れていってしまうということになれば,もったいないとしか言いようがないので,どうにか考えていけたらなと思っているところです。
【田村(和)委員】
 よろしいですか,失礼ですが,このRというのは何なの。
【若林氏】
 Rというのは,R25というのはリクルートの出している雑誌がありまして,フリーペーパーですが,私も調べてみましたが,R25世代というのは25から大体35ぐらいの世代のことを指すそうです。
【田村(和)委員】
 はい,どうも。
【宮田部会長】
 なるほど,ありがとうございました。
【米屋委員】
 多分そうだろうと思いますが,柴田さんにお伺いしたいのですが,ケネディセンターのアートマネジメントのプログラムで学生というのがありましたが,これは大学院レベルなのか学部レベルなのかというのはいかがでしょうか。
【柴田氏】
 両方ともあるそうです。まざり合っています。
【吉本委員】
 先ほどから,いろんな人材育成の分野について,本当に課題が幅広いという気がしていますが,人材育成を文化政策としてどう進めるべきかというのを考えると,なかなか難しい気がして,2つだけ思いついたことがあります。1つは,3人の先生方もそうですし,また次回も現場の方を含め話を伺うことになっていると思いますが,アートマネジメント分野の人材育成を考えると,いろんな立場のいろんな違う形の団体とか組織がかかわっている気がします。そうした人たちが,例えば大学ではこういうふうに人材育成をやっている,劇場ではこういうようにやっている,あるいは地方自治体なんかは研修でこういうのをやっていると,いろんなことがいろんなふうに行われていると思います。でも,それらの情報が共有されていない気がするので,そういったもののある種のプラットホームをつくるような異業種,異分野の人たちの研究会のようなものを立ち上げて,そこで今後の人材育成をどうしていくべきかということを議論する場があってもいいのかなと思いました。というのは,文化庁とか地方公共団体の文化政策で人材育成となると,すぐ研修プログラムというふうになりがちで,それは結構既にいっぱいあると思います。だけど,その研修プログラムを出た人がその後,どこで働けるのかという,要するに求人のマッチングのようなことも,例えば異業種の交流会とかプラットホームができてくれば,起こり得るのかなと思うので,この政策部会で人材育成のことをずっとやるわけにはいかないですし,まして2回だけで結論が出るわけではないと思うので,そういう研究会を立ち上げるということができないのかなと思いました。もう一つは,柴田さんのケネディセンターの人材育成の話を聞いて,本当にうらやましいなと思ったのですが,例えば国立劇場ではオペラ研修所などアーティストの人材育成を今もやっていると思いますが,新国立劇場でいわゆるアートマネジメントの人材育成というのが事業やプログラムの中に入っているのかどうかというのは疑問です。少なくとも国のそういった専門的な芸術機関が,このケネディセンターの例でいうと,8億7,500万円のうち1億7,000万円をそういったことに使っているわけですよね。結局そういう人材育成をすることが劇場の運営をサステーナブルにしていくことになると思うので,そういったことの可能性が検討できないのかなと思いました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。大切なことだと思いますし,当然この後のどういう方針でいくかということのベースになると思います。いかがでしょうか。行政の方からもどうぞ発言いただいて,有識者の先生方に対して,いかがですか。
【高塩文化庁次長】
 今の吉本先生の話ですが,たった2回のヒアリングといいますが,そこでうまくまとめるのが行政の力です。行政の芸術に対する熱意の話も出ていますが,最近は良くなりつつあるということをご理解いただきたいと思いますし,文化政策部会で,アートマネジメントに焦点を絞るということは,先ほど唐津先生から,社会的に認知されていないという話がありましたが,閣議決定された基本方針に基づき,集中して審議していただき,施策として行いたいということを考えています。前回の会議で私から研修のことを申し上げ,吉本先生から,もうそれは十分あるのではないかという話が出ていましたが,まだ不十分な面もあるのではないかという認識もあり,多様な分野がある中で,どういった人材を養成していくかということは,なかなか難しい。また,国が直接やるかどうかという問題もありますが,新国立劇場ではオペラと演劇とバレエのアーティストの養成をやっていますが,今回のアートマネジメントや舞台技術者などのさまざまな芸術を支える人材についてどういう形で,支援を行うことがいいのか,また研修を行った後のその人たちの将来というようなことも考えなければいけないわけで,その分野の中でそれなりのキャリアを積んでしかるべき地位までいって,安定した職能を確立しなければいけないというのが,人材育成の場合の要諦と考えます。これまで国のさまざまな人材育成の論議は,その後のことをあまり考えないでやってきた。大学院の重点化をやって,ドクターを育成しても就職する場がないのでは,何のためにドクター人材をたくさん養成しているのかということにもなります。ですから,アートマネージャーについてもその辺の所を気をつけなければいけない。今120くらいの養成機関があって,20大学にアートマネジメントがあるというように,徐々に増えているということは,ある程度のニーズはあると考えられます。ニーズは職業の場もありますが,先ほど武濤先生からございましたように,教養人の養成もあると思います。文化芸術に造詣の深い社会人を育てたいという機能は,芸術関係の学部で多いと思います。全員がプロを目指すのではないというのは当然ですから,そういう面も含めて,行政としては,芸術活動を支える職能としてのアートマネージャーをどうやって育成し,研修し,活躍する場を設定するかという総合政策を考えなければいけないというのが基本的な考え方です。以前のように人材育成の提言を出して,ある程度の研修をやって終わりということではなくて,さまざまな芸術文化活動の場を増やしたい。その人たちが活躍できるような場面をさまざまなところでつくっていくことが,いつも視野にあるということはご理解をいただきたいと思います。したがって,今回はこの政策部会で2度ヒアリングを行って,その後も当然やれますが,全体を見わたしながら,具体的に芸術団体や劇場のニーズや,アートマネジメントの人たちが実際に困っていることや要望を踏まえて,行政として何をやるべきかという提言をやっていただきたい。政策部会は文化政策全体を高みから考えることをお願いしているが,政策というのは予算を中心に動きますので,来年度や再来年度の概算要求に向けこういったことが必要だという,具体的な提言等をいただくことを大いに期待しています。行政に対する色々な注文についてはよく反省をしていますし,考えてもいます。文化庁全体を見ますと,大きく芸術行政と文化財行政に分かれますが,文化財行政は,文化財の調査や指定など,専門家が長年やっています。これは地方公共団体においてもそうです。単純には比較できませんが,同じ部署に非常に長くやれる人材が行政にそろっているのは文化財行政の分野です。そのことによって行政中心としてさまざまなシステムがうまくいっているというか,動いているということができます。芸術行政の分野は,どうしても役所でも人事異動が多く,長年やれる専門家がそろっていないといえます。それは都道府県などでもそうだと思いますが,どうやって行政が専門性を備えるかということも大きな課題です。芸術行政の場合においては,そういった専門的な知識や経験を有する人たちの数を確保する体制をどうやって作るかということが本当は重要なのですが,行財政改革路線の中で,公務員の数をふやすということは,国,地方を通じて大変難しくなっています。こうした世の中の動きと我々の文化行政に対する思いが,逆ベクトルのような状態が今の状況で,このことは国よりも都道府県,市町村の方が顕著です。文化庁として現在ある程度頑張って,地方への支援を行っていますが,残念ながら,国が支援すると地方の支援が減るということがあり,芸術の総量が増えません。このことが今一番頭の痛いところで,行政の力だけでなく,政治の力も借りて何とかしなければいけないと思っています。我が国の政治風土の中で芸術文化や文化財についての意識改革や社会全体の中での理解を導いていきたいと考えています。
【宮田部会長】
 要するにここで提言をし,ネタを行政の人たちに預けると,それによって金が来る,金が来たときに地方にばらまけ,その地域の中でそれが発展すると,そういう一つのはっきりとした路線を今おっしゃっていただいた。そんなことを言うと,政治家なんかもついこの間かわりましたが,シラクさんなんか見ていると,いいな,うらやましいなと思って。関空にいきなり来て,相撲を見に来たりして,それから歌舞伎を見に来たりして,何かそういうこと考えると,我が国家はちょっとつらいものがあるなと思った。ぜひとも頑張っていきたいと思いますので,何はともあれ,今全体に先生方の話をいろいろ聞いていると,その中でも一番まとめにくいアートマネジメントという課題,また成熟し切っていないものですから,そこをまとめないといけないので,まとめるというよりも,分捕るための何かの色とか旗とかというものをしっかりつくるというぐらいの気持ちを持って今後進めていきたいなと思っています。当然その中にはいろんなことが出てくるでしょうが,それはもうその英知を集めてやっていくという気持ちでいきたいと思います。
【高萩委員】
 さっき田村さんがおっしゃったことで,日本の風土で言うと,留学した人たちはみんな思っていると思いますが,日本はアマチュア文化が芸術に関しては非常に盛んです。欧米の劇場で,みんなでとにかくダンスをやりましょう,演劇をやりましょうといってもなかなか集まって来ない。日本は,東京でも地方でもいわゆるバレエ学校,舞踊学校みたいな,ダンスとかバレエとか日本舞踊とかでも,おけいこごとの世界というのが非常に浸透している。ただ,これがなかなかプロの芸術活動に結びついてこないというところが非常な問題です。この風土をうまく生かしていけば,本当にそこの中で動いているお金まで換算したら,かなりのお金が日本の中で動いていると思います。しかし,なかなかそれが文化芸術という,もしかしたら社会をリードしたりするイノベーションを生み出す力になってこない。何か内側に閉じこもっているというのが問題だと思います。これをどうやっていくかが多分課題だと思いますが,先ほど高塩さんがおっしゃったことで言えば,地方とは,はっきりマッチング・グラントみたいな方式を打ち出した方がいいと思います。必ず国は,地方が持っている分の3分の1しか出さないよとか,良いものなら3分の1は必ず出すよよか,ものすごくはっきりさせていく。今はちょっとあいまいなところで出ている部分があります。そうすると地方は,地方の公共劇場とか美術館とかは自分で必ずお金集めをしなきゃいけない。お金集めできる人材が必要になってくるということになると,良い循環が出てくると思います。今は何か,多分大変だろうとか,いろんなことで,あいまいに助成金が出ているところがあります。文化庁からお金を取ってくるためには,独自にファンドレイズできる人材が必要だということにつながってこないのかなと思います。最近,「連携プログラム」とかいろんな形で,専門性を必要とする事業が出てきて,やはり専門的な知識がないとできないよということになってくると,30才前後の方たちの間では,すごくネットワーク化が行われてきているなと思います。うちなんかでも,どうやって助成金を取るかという話をいろんな形でやっています。そういう意味では,専門的知識を持った人は増えてきているし,30代の中でのネットワークも増えてきている。やってみていると,あいつは非常にこの分野は強いなとかということが分かってきて,それに伴う人材交流というのも起こってきているとは思います。だから,そこはやはり何かある方針を打ち出されるというのがいいのではないかという気がします。
【宮田部会長】
 そうなんですよ。内々の話で恐縮ですが,やっぱりうちの大学も取ってこようとするときに,そのための文書を書くときに,何とかして取りたいと思うものだから,それ以外のことも書いたりして,それが逆に取ってきてから足かせになったりなんてこともあります。内々の話ですよ。(笑)だから,本当にいい取り方というのをやらなければいけないと思います。そういう仕事をするというのが,大きくアートマネジメントの力になってくるし,その人に,1回そういうことがあったらもうほかの人はみんな求心者のようにその人を尊敬するでしょうしね。この1年間はこれでいこうという流れになっていくと思うから,そういう意味での人材育成というのはすごく大事なのかなと。だから現代GPを取られたのはだれかが文章を書いている。先生が書かれたのですか。でしょう。そういう人がいるから取れるんです。これを見たときに,これいいじゃんとかって,科研なんかにしてもそうですけれどもね。
【若林氏】
 すみません,1つだけ。
【宮田部会長】
 はい,どうぞ。
【若林氏】
 配付資料の中に,メセナ協議会が6月に出した「日本の芸術文化振興について,10の提言」というものを入れましたが,この中に,先ほど高萩さんがおっしゃっていたマッチング・グラントについてとか,吉本さんから話があった文化行政官のプログラム・オフィサー機能の配置ということについても提言という形で書いていて,今こういうものをできるだけ政策立案なさる方々に届けたいと思っていて,7月ぐらいから始めていますが,例えば全国知事会とか,自治体の首長の方とか,そういうところに協議会のトップと一緒に回って,これを届けていて,一般の方からもコメントを募集しています。もっと議論が盛んになればなと思っていますので,これが完璧だとは思っておりませんし,また今年度末にまとめていければと思っていますので,何か専門家の皆さん,委員の皆さんからご意見をいただけたらと思っています。たまたまそういう話が出たので紹介させていただきました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。これはいいですね。
【若林氏】
 ぜひこれをたたき台と思って,いろいろたたいていただければと思います。
【宮田部会長】
 地域の活力みたいなのを出すときに,こういうのがベースになったらいいと思います。
【三林委員】
 あと,例えばアートマネジメントの教育をしようと思う学校があっても,そういう地盤がなかったり,それからもちろん劇場を持っている学校は少ないと思いますが,やろうと思うときに,地元の劇場とかと積極的に提携をして,高校生,大学生の時代からそこに参加してということをもう少し積極的に進められるとどうかなと思います。なかなか横の連絡が,先ほどもNHKとおっしゃったのですが,そういうものが少ないので,横の連携を各都市でどんどん進めていって,テレビ局とも,劇場とも連携し,東京はたくさんございますが,地方はやっぱり劇場が1つであったりとか2つであったりとか制約されているので,それをやると大変かもしれませんが,そこのところを積極的に扉を開いてもらうといいのではないかと思います。
【宮田部会長】
 なるほど,大事なことですよね。やっているということの存在意義が,広く特に若者たちに認知されるということが大事ですものね。ありがとうございます。
【唐津委員】
 今の件にちょっと関連してですが,武濤さんの方から大学のインターンシップの問題をかなり話されたと思いますが,私どもの劇場でもやはりインターンシップの依頼というのが最近増えてきました。ただ,実際現場で働く人間が減っており,いっぱいいっぱいで運営しているという状況の中で,インターンシップの学生を受け入れて,その方々にどういうことをやることができるのかという問題が毎年のように議論されます。結局,忙しい時期に来ていただくことになると,本当にほったらかし状態で,ボランティア扱いになってしまっているのが現状です。そういった中で,でも現場の経験を踏むということで,受け入れた方がいいのかどうかというようなことも,実は今悩みというのが劇場側にもございまして,今昭和大学の方でいろんな劇場にインターンシップに行かれていると思いますが,そのコーディネートの問題というのはどのような形で解決されているか,ちょっと教えていただきたいと思います。
【武濤氏】
 実習,インターンシップも,ほかの先生と一緒に担当していますが,今おっしゃるようなことは確かにあります。やはり受け入れ先によって,時期の問題,それから施設そのものが,例えば何年もカリキュラムのような形で,きちっとしたプログラムをある程度持っているところもありますし,試行錯誤で,気持ちとしては受け入れたい,しかしなかなか現場は難しいというところもありますので,基本的には個々のところと学生の希望とをすり合わせていく形をとっています。先ほど申し上げたように,ある程度プログラム化されたカリキュラムのようなものを持っている地方のホールとか,劇場とか団体とかもありますので,そういったところと話をしています。先ほどちょっと話をしました3年生のときは2週間,日本ではそれもインターンシップという言葉を使っていて,私自身はちょっと混乱をしているところがありますが,2週間程度の実習に関しては,若干現場に触れるだけでもという話をして派遣する場合があります。その場合,もちろん教員は,視察とか,事前には行きますし,学生の事前事後指導,オリエンテーション,そういったもので若干厚く手当てをします。来年からやりたいと思っているのは,いわゆる欧米型のインターンシップで,これは全員がということではなくて,本当にこの業界で仕事をしてキャリアを積んでいきたい者と,その相手ともきちっと話し合いをして,ある長期間,何カ月かという形で受け入れていただくようなことをやっていこうと。これは実はこれからですが,やはりその辺の実習という言葉とインターンシップという言葉を,個人的にはというか,うちの学校では使い分けをしていこうというふうに今考えているところです。
【田村(孝)委員】
 ちょっとお聞きしたいのですが。昭和の場合のこのコースというのは,アートマネジメントコースの教育ということでしたが,いわゆるアーティストの教育課程ってありますよね。その中に,少なくとも社会にとって芸術がどうあるべきかというような教育があるのでしょうか。実は,ある教育プログラムをなさっており,ロンドン交響楽団のバイオリニストでもあり,ロイヤルオペラハウスの教育プログラムのマネジメントをしていらした方が,芸術家がすべてできる必要はないけれども,これが必要であるということを認識していなくてはいけないという,例えばオーケストラのメンバーが全員かかわる必要はないけれども,オーケストラのメンバーが,私たちはこれを社会にとってしなくてはならないということは,アーティストとして認識していなくてはならないということをおっしゃっていました。要するに芸術教育の課程の中で芸術家側に対してどういう教育をされているのか,技術に専心ということですか。
【武濤氏】
 昭和の場合というか,歴史的にというか,厚木にいたころから,その地域の学校やいろいろなところからのリクエストを受けて,学生を派遣というか,演奏活動とか,小学校の吹奏楽とか合唱とか,そういった部活動の指導をしていました。その中で,それをもうちょっときちっと見える形で教育の場にプログラムのような形でやっていきたいなというところが,先ほどちょっと説明した厚木コミュニティーというオレンジ色のプログラムになります。これは,今日はアートマネジメントの文脈の中ですから,アートマネジメントの学生がこういう形でかかわると申し上げましたが,実はこれは全学的なプログラムとして置いており,実は昨日,近くの老人福祉施設で演奏会があったのですが,声楽の学生や音楽療法の学生,それから器楽の学生たちが混合チームで行って,要するに涙を流す体験というか,そういったものをやってきており,ただやりっ放しでもなく,また,その後をフォローするような,自分たちでそれをまとめて書いていくというような,非常に一歩一歩のことですが,そういう形で教育課程の中にそういう仕組みを落とし込んでいこうというのが今のプログラムで,全学的にやろうとしています。もちろん,個々のレッスンの中とか,ついている先生の中での個別にそういう考え方の話とかは多分あるのだろうとは思いますが,そこは私も実技の教員ではないので,そうであろうと推察するにとどまりますが,今申し上げた音楽活動研究,一番右側のこのカリキュラムは全学の,選択科目ですが,全部の学生に対して開いていこうというふうに考えています。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。尽きませんが,時間が来たので,この辺で今日の分をまとめたいと思います。
【高萩委員】
 ちょっといいですか,評価の件で,さっき具体的に何かなとおっしゃったので思いついたんですが。ちょうどノーベル賞の受賞者を増やそうというので,いろんな科学技術関係の補助金が,一気に増えたときがありましたよね。だから,舞台芸術に関しても,国際フェスティバルとか,本当に国際級のフェスティバルだよというものに呼ばれる,参加するとか招待されるというのについては,かなり芸術団体とかしっかりしていないとできないわけです。それに対してちゃんと評価をしていく。10年後には必ず大きな国際フェスティバルには日本の作品が出ているようにしようとかという目標を出された方がいいのではないかと思います。国際展にしても,国際展をキュレーションできるキュレーターを抱えている美術館というのは特別だと思います。そこら辺がちょっと今まではあいまいな感じになっているというのが非常に大きな問題で,さっきのマッチング・グラントとはちょっと違います。マッチング・グラントの場合は地方との関係ですが,日本という地域,日本という国を挙げてアートをどうしていくかということに関して,やっぱりそういう世界的な評価のあるところについては,もうちょっと何らかの手当てをしていく。それにはやはり人が必要になりますので,そういう指標を出されるというのもいいのではないか。どこを10大国際フェスティバルにするかとか,ちょっと議論があるかもしれませんが,10個ぐらいだと比較的だれが言っても同じようなものになると思います。今は,舞台人に関してちょっと不幸で,どのフェスティバルへ行ってもいつもお金集めに苦労しながら行っているという感じが強いので,そんな指標もいかがですか。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。その辺も最後に言おうかなと思っていたので,大変いいチームが集まっているなという感じがしました。ありがとうございます。本日はもう時間も過ぎましたので,この辺で一回閉じたいと思いますが,いかがでしょうか。3人の先生方,本当にありがとうございました。いい提言をいただき,それぞれの違ったスタンスの中から話をいただいたことに対して感謝申し上げます。これは十分教訓として生かしていきたいと思います。最後,行政の方で一言お願いできますか。
【清水芸術文化課長】
 それでは,事務局より次回の日程について説明します。<次回の案内>
【宮田部会長】
 ありがとうございます。どうですか,18日(次回)に2人の先生方においでいただきますが,どうしてもこの2時間,いろんな先生方の話,みんないいなと思っているけれども,ところが最後のところが美術であったり音楽であったり芸能であったり,到達点がそれぞれみんな違う。その中で議論しているから,何かうまくいくような感じはしますが,こうなってしまう。先生方の中でぜひ,私も当然そのことを意識しながらですが,これは舞台だよということで話をちょっと進めるとか,これは美術館だよというようなことで話をちょっとやってみるとか,そういう意識も少し持たれてやりませんと,ちょっと混乱するところが出てくるともったいない気もします。僕は美術の人間として,美術だから美術のことしかわからないものですから,逆にほかのことに対して,ああ,なるほどという感じがして,むしろそれは美術に生かせるなという思いが出て,とてもおもしろいですが,おもしろい,おもしろいだけじゃ話が固まりませんので,最終的には,高塩次長がおっしゃっていましたが,提言をし,財務省の懐のひもを緩めるという仕事にいくと思いますので,頑張ってやりたいと思います。どうも本日はありがとうございました。
(了)
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