第5期文化審議会文化政策部会第3回議事録

1 日時 平成19年10月18日(木) 10:00〜12:00
2 場所 東京會舘丸の内本館 11階 シルバールーム
3 出席者
(委員)
唐津委員 高萩委員 田村(和)委員 田村(孝)委員 高萩委員 パルバース委員 三林委員 宮田委員 吉本委員 米屋委員
(事務局)
青木文化庁長官 高塩文化庁次長 尾山文化部長 大西文化財部長 清水芸術文化課長 他
(欠席委員)
尾高委員 山内委員
(ヒアリング)
伊藤(順)氏(いずみホール顧問,前いずみホール支配人)
伊藤(久)氏(財団法人新国立劇場運営財団技術部長)
4 議題

(1)アートマネジメント人材等の育成及び活用について

(2)その他

【宮田部会長】
 第5期文化政策部会の第3回の議事を進めます。ご多忙の中,皆様ありがとうございました。本日は,有識者として,伊東順一様,伊藤久幸様,お2人にお越しいただきました。大変ご多忙の中ご出席いただき,本当に感謝申し上げます。先生方には,後ほど話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。それでは,配付資料の確認をお願いします。
【清水芸術文化課長】
 <配布資料の確認>
【宮田部会長】
 ありがとうございました。さて,前回はアートマネジメント全般,大学等における人材育成,若手アートマネジメントの人材などについてヒアリングを行いましたが,今回は人材の受け入れ側についてです。送り出す側ではなくて受け入れ側の団体や,文化施設からの観点,また舞台技術の問題について,有識者の先生から意見を伺い,その後,委員の先生方と意見交換を通じて審議を深めていきたいと思います。それでは,順に紹介させていただきます。いずみホール顧問,前いずみホールの支配人をしておりました伊東順一様,よろしくお願いします。
【伊東順一氏】
 今,部会長からも紹介がありましたように,少し前までいずみホールの支配人を6年間務めてまいりました。現在は顧問として残っていますが,住友生命の子会社に転出して,そちらの仕事をやり始めたところです。本日は,6年間のいずみホールの仕事の経験をもとに話をしたいと思いますので,よろしくお願いします。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。次は,新国立劇場運営財団の技術部長である伊藤久幸様です。よろしくお願いします。
【伊藤久幸氏】
 今年の8月21日に技術部長を拝命して,まだ少ししか経っていませんが,現場の方はかなり長い経験がありますので,今日は現場の課題や育成といった話をできればいいと思いますので,よろしくお願いします。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。生の声をお聞かせ願えれば幸いです。それでは,お2人から20分ほど意見をいただいて,それを踏まえ,討議いただければと思います。それでは,最初に伊東(順)様よりお願いします。
【伊東順一氏】
 今日,与えられた課題について,私の経験が中心の話になるかと思いますので,どの程度参考になるのか自信はありませんが,順番に話をして,その後で,どのように人材育成を考えていたかということについて若干触れたいと思います。私は,平成14年1月にいずみホールの支配人として着任し,まず問題であると感じたのは,主催事業の制作運営を担当するスタッフや責任者がしっかりトレーニングされていない,また,若手のスタッフもほとんど育っていないし,育つ可能性も非常に小さい状況下にあるということでした。当時は,親会社,協賛金をいただく会社も非常に厳しい経済状態にあったので,その資金提供も次第に減少が続いていて,こういう状況下では,スタッフたちはこれにどう対応していいかさっぱりわからず,主催事業を縮小する以外に方法がないのではないかという心理状態に置かれていました。資料3の2枚目に,私が最近,関西音楽新聞に寄稿した文章を掲載しています。後ほどお読みいただきたいと思いますし,また時間があれば話もしたいと思いますが,ここに書いたことは,芸術とお金,投資等のかかわり合いの問題ですが,これがどの程度実現できるかということが,私にとっての6年間の取り組みでした。もっとこういうふうに考えた方がいいのではないかということを,スタッフたちにいろいろ話をしましたが,最初は私が何を言っているのかさっぱり分からなかったようです。それでも1年,2年と経つうちに,議論して具体的に答えを出していく過程の中で,スタッフたちは,私が考えていること,やっていった方がいいと思われることについて理解をしてくれるようになりました。ここに書いたことは,大学という教育の場でも,その考え方とかハウツーについては教えることが可能かもしれませんが,現実の技術が身につくとか,経験値が上がるという意味においては,やはり仕事を実践する場でOJTで教えていくしか方法がないと感じました。いずみホールにおいても,現場でこうした考え方をちゃんと実践して,指導能力を身につけた人たちが,いずれホールの責任者についていくことになればいいと思ってやってきました。ある程度その芽はできたと思います。そういうふうに鍛えられた責任者,スタッフたちが出てくることが,若い人材を育てていく環境が整うということではないかと思います。そういう意味で,OJTをやるといっても,そのリーダーになる人たちがしっかりした仕事の仕方,考え方を持っていなければ,なかなか人を育てる環境は整わないと思います。そのように考えると,民間のホールについても公共のホールについても,状況的にはもしかすると厳しい面があるのかもしれません。公共のホールや民間のホールでは,公共団体から,あるいは親元の企業から管理者が出向してくることが多いようですが,そういう方々の大半は二,三年というケースが多いのではないでしょうか。そういう点を可能な限り改めて,ある程度長い年数をかけてホールの経営をやっていただいた方がいいと思います。あるいは,そういう方がいない場合は,民間で経営管理の実績や経験のある方を連れてきて,ホールの経営や人材育成を任せていって,指導者をつくっていくというのも一つの方法だと思います。先日たまたま読んだ本ですが,公共ホールの指定管理者を幾つか受託されているサントリーパブリシティサービスの伊藤部長が,その本の中のインタビューに答えられた話で,こんなコメントが載っていました。ホールの館長や支配人などの館務人材の確保が課題であると述べられていましたが,これが現在のホール運営,人材育成の一番の悩みであり,課題の一つではないかと思います。公共団体や親元からの企業の出向に対して,どんな人がいいのか,悪いのかという観点ですが,音楽ホールならば当然のことですが,音楽を愛する気持ちになれない人は,資格がないと思います。それから,いわゆる「おたく」と言われている人たちもホールのリーダーとしては適格性を欠く場合が多いのではないかと,経験の中から思いました。今までの話が,最初のベテランのスタッフや責任者たちの育成ということです。次に私がホールの中で着手したのが,若手人材の採用・育成です。当然のことですが,将来のホールを担う人材が育っていないホールは,いずれ衰退すると思いますので,20歳代の若手の人材を数名採用してOJTで,しかも責任のある仕事を与えるという形で教育をしてきました。例えば,これは偶然のきっかけがあって採用できたのですが,大阪大学の文学部で音楽学を専攻していた学生がいて,その方が卒業する際に,縁があって,新卒としてホールに入ってきました。これは多分ホール始まって以来のことだと思います。音楽学をしていましたので,当然音楽の知識はあるわけですが,頭でっかちの状態で,最初はチケットの営業から始めさせました。既に2年余り経過し,まだその仕事もやっていますが,チケットをどんな人がどんな思いで買ってくれるのかということを肌で感じるようになり,営業成績も今年度は新記録を続けています。一方で主催公演の企画もやらせ始めましたので,そういうものが公演の企画の中にもだんだん生きてくるようになったと感じています。では,若手人材の育成を簡単にできたのかといえば決してそうではありません。私がいずみホールに着任したときは,私を含めて住友生命からの出向者が6名いました。スタッフが20数名の中の6名ですから,結構な割合を占めていますし,人件費的にも結構大きいわけです。そこで,6名のうち4名を親会社に戻しました。戻して浮いた人件費で若い人を採用することで余裕をつくりました。公共ホールなどでも,役所からの出向ポストが結構あるのではないかと思いますが,これも若手人材育成の観点,財政的余裕をつくるということで言えば,出向ポストは必要最小限に減らして,こういう若手人材を採用する財政的余裕をつくっていくことも一つの方法ではないかなと思います。それから,人材育成の3点目,最後は,学生たちにどうしようかということを考えました。たまたま今から1年半ほど前に,大阪音楽大学の中村学長と議論をさせていただく機会があり,資料の3枚目にある講座を1年間受け持つことになりました。これは,題名は音楽産業論となっていますが,いずみホールが1年間,この講座を丸ごと受け持つという事業です。しかも,私だけが話をするというわけではありません。私どものスタッフが,それぞれ自分の持ち分野のときに講師として話をしています。無論それで足りない部分は,例えば音楽の担当をしている新聞記者や音楽に関係のある業界の経営者に講師になっていただくことも適宜組み込んでいます。この講座のねらいは幾つかあります。1つは,ホールにとっての観点が大きいのですが,学生と1年間接触していろいろな話をすることで,優秀な学生をホールとしても発見できる可能性があります。それから,既にホールにいる職員の育成という観点では,自分の仕事を学生に話すので,当然いろいろなことを整理して考えて話をしなければならないので,そういう意味でも研修効果が生まれつつあると思います。学生にとっては,こういう業界の人間に直に話を聞け,直接面識を持つことができるので,いい刺激にもなるし,この業界に入っていこうという具体的な動機づけにもなるという効果が生まれてきつつあります。今月初めにも,半年ぶりに講義に行きましたが,そのときに学生たちから返ってくる反応を見ていると,随分音楽業界に対する関心が強くなったという印象を持ちました。それから,4番目のところに若干触れますが,インターンシップについては,短期であれば,これまでも毎年当ホールでも受け入れてきました。ただ,学校側の事情も,ホール側の事情もありますが,期間は1週間強ぐらいです。教育効果につては,正直,ほとんど望めないのではないかと思います。いわゆる社会見学にとどまる感じがします。非常に優秀な学生も時折いましたが,そういう学生でも,そのレベルではないだろうと思います。仮にこの期間を1カ月に延ばしても大きな違いはないと思います。無論実験をしたことはありませんので,絶対そうだとは言い切れませんが,そのような感じを受けます。そういう思いから,ある大学の先生と議論の途中で,もっと長期のインターンシップの導入を議論しました。ここでいう長期というのは,2年です。通常の職員と同様に週5日,フルにホールに出てきてもらう形です。なぜ2年間かと申しますと,最初の1年間で仕事になれてもらいながら,2年目で,その学生に主催事業を自ら企画してもらうという課題を与えるイメージを持っていました。そのための準備を1年目にやってもらう。2年目には,その主催事業を自分自身が責任者として実施してもらう。こういうことで,何とか教育効果を上げられないだろうかと考えていました。これを大学の修士課程の中に組み込むという議論を大学の先生としていましたが,いろいろな制度上の問題,学生の事情などがあり,これでいけるという答えにはまだなっていません。そこで,在学生が無理であれば,卒業したばかりの人たちを,長期のインターンシップの対象とするということも今後検討できるのではないかとも思いました。ただ,いずれにしても,長期のインターンシップなので,インターンにとっても生活費や勉学費用がかかります。それに対しては,ホールもある程度の奨学金を出そうかなというイメージは持っていますが,ホールとしては月10万出したらいいところだと思います。それだけでは生活できませんので,これについては,例えば国なりの助成金の仕組みも考えたらいいのではないかと思いました。それから,この長期のインターンシップを経験した後ですが,例えば,ホールが優秀と認めた人は,文化庁に推薦をして,海外でアートマネジメントを学べるチャンスを与えるといった,そういう仕組みづくりもあっていいのではないかと思いました。研修ばかりでは意味がありません。採用のチャンスが広がらなければいけません。そういう意味において,やはり若い人を採用できるような環境をどんどん整えていっているホールについては,そういうところを特に中心に助成をしていく仕組みもあっていいと思います。やはりホールを運営していて一番問題になることの一つは人件費です。その人件費には,まだ助成がおりることは一切ないので,それを若い人の人材育成に限定して,例えば期間を限定してやるということならば,仕組みとして考えられるのではないかと思います。これはホールだけの問題ではなくて,例えば最近導入された指定管理者の場合も,ホールを実際に運営しているので,そういう気があればバックアップしていく仕組みもあっていいような気がします。最後に,ホールの役割をどう考えて運営してきたかということだけ簡単に触れます。多くのホールでは,音楽マネジメント会社がつくったコンサートツアーを買って,それを自主公演としているケースがかなり多いのではないかと思いますが,いずみホールでは,できるだけ自主的な制作をやるように心がけています。そういう中で,いいアーティストを発見し,使っていくことをどんどんやっていきたいのですが,何せ,やはり問題になるのは常にお金です。それで,将来はこうなりたいというイメージですが,ホールは芸術投資をやっていくプロフェッショナルになろうと。そういうものを信頼して,いろいろな寄附をできる人たちがホールに寄附をしてくれるという構図です。そういうものにお金を出してくれる気持ちの付託をホールは受けて,小さなお金ばかりですが,集めれば大きなお金になるので,それをうまく使ってやっていく経験もある,能力もあるところがホールではないかと。そういうものを目指していきたいと考えて,ここまでやってきました。ただ,現在,いずみホールは主催公演を年間20か30しかしていません。芸術投資ができるような機能を担うためには少なくともどのぐらいの公演数が必要なのか考えると,どんなに少なくとも50以上自主公演ができるようなところでないと,そういう機能があると言うことはなかなか難しいと思います。以上で私の話を終わります。どうもありがとうございました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。5点大きな項目で現場の方からの意見,コメント等をいただき,ありがとうございました。また,先生方におきましては,次の同じ伊藤(久)先生の話の後,質疑応答に入りたいと思いますので,よろしくお願いします。それでは伊藤(久)先生,よろしくお願いします。
【伊藤久幸氏】
 今日の内容ですが,三つの項目に重点を置きたいと思います。一点目が劇場の業務,二点目が技術者の研修及び養成をする為に,三点目が技術者の資格について簡単に触れたいと思います。まず,一点目の劇場の業務の現状についてです。説明資料として,今年6月のスケジュール表を添付いたしました。新国立劇場にはオペラ劇所,中劇場,小劇場の3つの劇場がありますので,運営の一例を説明いたします。例えば,6月1日はオペラ劇場ではオーケストラ付きの舞台稽古,中劇場では19:00から演劇の公演,小劇場では現代舞踊の公演を行っております。という感じで見てください。新国立劇場の運営時間は10:00から22:00までです。この時間を一班で,通しで作業をしています。ちなみに,外国の劇場では朝班,夜班など2交代や3交代で行う劇場もありますが,現在,多くの日本の劇場は交代なしの一班体制が多いのではないかと思います。では,10:00から22:00という長い時間を,なぜ交代せずに一班で行っているのか。理由は,現在の職員数及び委託数では1日2班制を作る事が出来ないからであります。また,一日の仕事,作業を引き継ぐ。この事も難しい事柄になります。このスケジュール表のオペラ劇場は「バラの騎士」を公演しながら,「ファルスタッフ」の仕込み及び舞台稽古をして行きます。我々は入れ替え公演というシステムを取っていますので,例えば6月8日はテクリハといって,照明の作業や技術的な作業を行い,21:00頃になると「ファルスタッフ」の装置を格納します。その後,「バラの騎士」を舞台上にセッティング。翌9日は朝から音響,照明のチェック作業,14:00から「バラの騎士」の公演。そして公演終了後に「バラの騎士」の格納をし,また「ファルスタッフ」の装置を舞台上にセッティングします。そして翌10日には「ファルスタッフ」のピアノ稽古をする,という風に入れ替え作業を行っていきます。この連続する作業を一日の中で,引き継ぎながら行っていくということは,職員・委託のメンバーが固定されていたとしても難しいと思います。劇場技術は継続してこそ,力が発揮できる物。そう思っております。そんな中,最近は委託スタッフも随意契約ではなく単年度契約で一般入札にするように,という流れになってきております。最悪の例を語るとすれば,今年はA社のスタッフで劇場作業をし,来年はB社で,再来年はC社でと言う事では,連続する入れ替え作業など出来るとは到底思えません。なぜならば再演という昔の公演技術が継承されずに,毎年,毎年スタッフが変わってしまっては,我々はどの様に劇場技術を守っていけばよいのか。保守業務に関しても劇場の老朽化が進み,どんどん故障が多くなって行きます。当然のことながら,建築直後より経年劣化により,故障が多くなり,ケアする部分も増えます。特殊性のある舞台機構の保守業者が年々変わるようでは安全を保てないだろうと思います。エレベータと同じように,昇降する床機構や吊物機構を持っています。安全第一を優先して契約するセクションは考慮して頂きたいと思っております。
次に舞台技術者の研修及び養成に移りたいと思います。この内容は大きく2つに分けて考えたいと思います。1つは,現在プロとして活躍されている方々が他の劇場へ行って研修する。それともう1つは,これからプロとして活躍したいという人を養成する。この2つに大きく分類できると思います。まずは,現在プロとして活躍されている人が研修する場合ですが,この方々はある程度のベースラインというか,共通基盤を持っているハズなので,受け入れ側も楽だと思います。自分の例としてですが,新国立劇場がオープンする前から準備室として作業をしてきました。劇場は一から作るものが多いので,当時の幾つかの劇場を参考にさせて頂きました。そういう劇場に研修に行って,内容を見て,持ち帰って,それを噛み砕いて我々の劇場に取り入れる。中でも,愛知芸術文化センターには大分お世話になりました。操作盤の操作方法,操作盤への指示の出し方,舞台運用など参考にして,劇場を立ち上げたつもりです。これとは逆に,新しく出来た兵庫県立芸術文化センターの方々がうちの劇場に来て,昔我々がしたように研修をし,それを噛み砕いて現在の劇場を立ち上げたと信じております。具体的な研修の内容と言いますと,インカムをつけて操作盤の方にどういう指示を出すか。例えば「33番,間もなくダウンなのでスタンバイしておいてね」とインカムで言う。そうすると,操作係がスタンバイをし「スタンバイ,オーケー」と返す。で,「33番,ダウン」とフロアーから言うと降りてくる。そういうことを,どういうふうに伝えればこういうことが起こる。「ここが危険なので,こういうことはしないように注意して見てよ」というのを,プロとして活躍している人であれば,我々がテキストをつくらなくても「見ていてね,聞いていてね,ちょっと感じてね」ということで大体は通じと思います。従って,そういうプロの方に対しては,我々が使っているキューシートや吊物表など細かいもの,いわゆる具体的に使っているサンプル集を渡せば,かなり実践的な内容として持ち帰れます。ただ,ここだけは注意していただきたいと思います。研修に来ている方々の運営体制という土壌があります。自分達の土壌と研修作の土壌は基本的に違います。それを理解しないで研修をしてしまうと,「あそこではこうしていたので,ウチもこうしなくては」などと,自分達の土壌に合わないルールを作ってしまいます。通常和物を公演している劇場と,通常洋物を公演している劇場では,持ち物,作業スタイル,そして基本的な考え方も違ってきます。また,年間6割程度の自主事業をしている劇場と,その逆の劇場でも考え方,作業スタイルが違ってきます。研修する方が,違いをキチンと理解し,得たものを自分の作業環境に当てはめられれば,問題なく研修が出来ると思います。今度は,プロになろうという方々を対象とする養成です。この養成に関しては3つの解決する項目があると思います。一つ目は養成のためのテキストを作ること。二つ目はオン・ザ・ジョブ・トレーニングが出来る環境を整備すること。そして三つ目が育成をする講師の問題。この三点があると思います。まずテキストですが,作るのは簡単ではないか,と思われる方もいると思います。今,共通の理解,見解のもとに仕事をしているかというと,それはかなり薄いと思います。なぜかというと,先ほど言ったようにやっている内容,演目が違えば考え方や格好,習慣が全然違います。例えば,我々の劇場では,足袋,雪駄というのはほとんど履いていない。別に禁止しているわけではありませんが,装置が鉄骨などで大きく,重くなっているので,自分の体を守るためには安全靴,安全ベルトをしています。僕が最初に育ったところは歌舞伎座ですが,そこは足袋,雪駄。教えられたのは,まず「役者が歩くところはすべて自分の家の座敷の上だと思え」と。だから「役者が歩くところというのは,雪駄を脱いで足袋で歩きなさい」というふうに教わった。そういう土壌が違うところでテキストをつくることになると,誰がどの様に,どこのベースに乗って作るかが非常に難しい。例えば「このテキストは誰が作ったのですか」,「あっ,彼ね。ということは何々流か」みたいな感じになってしまう。そうすると,そのテキストが果たしてテキストとして世の中で認知されるか,というのがまず1つ。それと,あの劇場ではOKだが,別の劇場ではダメというローカルルールも現状ではまだ多いと思います。従って,共通基盤が必要になってくると思います。その基盤の整理が無い時にテキストを作成しても,テキストの価値は低いものになってしまうと思います。次にOJTの事です。これもどの劇場,どの作業現場,どのルールをスタンダードとするかによって,ぜんぜん違ってきます。例えば,新国立劇場。あそこが最適であるかどうか,研修及び養成所を作る場合,果たしてスタンダードとして捉えられるかどうか。一度きちんと議論して検討すべきことだと思います。施設的に,設備的に新国立劇場や国立劇場は,国立という名前がつくので適しているだろうと思われがちですが,そこはもう一度違う角度から見てもらい。果たしてそれが世間的な劇場か施設から見て適切かどうか。スタンダードとして向いているのかどうかを検討していただけたらと思います。いわゆるOJTをできる職場というか,現場のとらえ方だと思います。受け皿としてですが,「忙しいからできません」とは言いにくいのですが,このスケジュールをこなしていく中で,受け皿としてもやはり頑張っていってくださいねということになると,養成所としてどういうことをしなければ成立しないのか,どういうことがないとだめなのかを,受け側や受け入れ側も含めて協議していただきたいと思います。国立という名前がつくからそれに適するかどうかというのは,違うと思っています。
最後に3番目,資格についてですが,これはいろいろな物があると思います。具体的な物としては玉掛け,フォーク,クレーン,救命救急などがあります。また,劇場空間における事故を減らそう,安全な作業を目指しましょう。その先に資格を作りましょうと。そのためには,テキストではないですが,共通基盤になる基を作りましょうと。それを守れば,ある程度事故が防げますという物を作れれば,事故がかなり減るのではないかという案があると思います。ただし,それを押し通すには,作られたルールを強制的に,これは絶対守ってくださいね,という管轄部署が出来るかどうか。例えば赤信号なので渡らないでくださいというのは,法律で決まっていて,共通認識できています。今,劇場の中の共通の赤信号というのは果たして何なのか,よく理解できていない。これはあそこの劇場では赤信号と言っていても,「いや,うちはまだそれは黄色信号だよ」,ある劇場では「いや,それは青信号だよ」という所もある。従って,ルールを作り資格を作る場合,何々流ではなくて,ドーンと立派な冠を背負った物とか,バックボーンがしっかりとしているとかが必要だと思います。「これがルールブックです。これが守れないのであれば現場に入らないでください」とか,「これが守れないなら,あなたはプロとして生活できませんが,それでいいですか」というような強制権というか,そのぐらいまでないと資格論まではいかないと思います。資格を取ったはいいが活躍出来る場所が無いとか,葵の印籠の様な認知度が無いというのであれば,その資格があっても取る人が少ない,守る人が少ない。資格を作るのであれば,必ず取らなければいけない様な義務的な物がないとダメだと思います。例えば,車の運転の職業をしたいというのであれば,必ず運転免許証は取ります。それと同じように,舞台の仕事をしたいというのであれば,その免許を取ってくださいと。でないとうちの劇場には入れませんよ,仕事をすることはできませんよという資格ができるのであれば,これは立派な資格となるのでしょう。安全な作業をするための技術だけに特化した共通基盤をもとに,ルールを作成し,資格を作る。しかし,個人的にはそれはチョット難しいと思います。そこまで縛られると,自由な発想,自由な表現が縛られてしまいそうな気がします。その辺も議論をよろしくお願します。長時間ありがとうございました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。先般の三方,そして今回の2人の先生方のお話,大変興味深く聞かせていただきました。皆さんから質問があるので,そのきっかけづくりで,最初から口火を切ってよろしいでしょうか。どちらもイトウ先生なので,名前の方で……。
私も実は現場人間ですから,3番の玉掛け,フォーク,クレーンなんていうのは,私のところは全員取らせます。労働省で取らせます。
【三林委員】
 玉掛けって何ですか。
【宮田部会長】
 玉掛けって,物をつり掛けるものです。クレーンでつるために,引っかけて持っていく。それでウイーンと動かしたりする。
【高萩委員】
 バランスが悪いとだめなのです。
【宮田部会長】
 そう,もう大変なことになりますから。その下をくぐっちゃいけないとか,溶接技術とかは全部持った上で学生に指導している。学生も全員持たせます。新国の現場に行くと,私どもの工場と変わりませんよね。工場と言ってはいけませんが,アトリエと。
【伊藤久幸氏】
 僕も実際工場だと思っています。搬入口を入ると,組み立て場には2.8トンまで吊れるクレーンがあります。そこで何かを搬入するといった場合に,今質問された玉掛けがないと作業が出来ません。作業に対してフォークリフトやクレーンの免許がないといけない,という話だと思います。
【宮田部会長】
 そうですね。あのぐらい大きくなると,当然必要でしょうね。ちょっとおもしろい質問をさせてください。歌舞伎座で最初教わったと言いましたよね。そのときに,同じようなことを今,先生は,忙しくてとても若いのは教えられないと言いながら,あなたはどうしてそういうチャンスに恵まれて,そういういい先輩に恵まれて現在があるのですか。
【伊藤久幸氏】
 この業界に入りたいと思っていたのですが何のつても無く,アルバイトニュースを見て当事歌舞伎座の,長谷川大道具に入りました。そこで教わったのは,役者が歩くところは自分の座敷だと思えと。それ以外は,「おれの後ろについてこい」という。先輩の後ろを見て,張り物の持ち方とか,物のつくり方,直し方,その物の呼び方から含めて,すべて見て覚える。だから,最初は「おい,何々を持ってこい」と言われても,僕はそれが何だか全然わからないのです。結局,「ばかやろう」と怒鳴られ,怒られながら覚えていく。それで嫌な人は,大体1カ月しない間にやめてしまう。そういう形で,見て覚えろ,覚えたかったら朝早く来てやれということだったので,朝早く行って,張り物の持ち方とか,所作の持ち方とか……。
【宮田部会長】
 わかりました。そうすると,この前の3人の先生方は,どちらかというと教える側でいくと,今の久幸氏のようなとらえ方とは少し違う表現の育成の仕方みたいなものがあるわけですよね。でも,あなたのような考え方や生き方で今まで現場では来ているのでしょうね。
【伊藤久幸氏】
 殆どはそうだと思います。相当いい先生というのは,どうでしょうか。聞きたいぐらいですけれども
【宮田部会長】
 同じように,順一先生の方で,大阪大学の学長さんと云々という話が先ほどありました。2年間ないとだめだという話の中で,インターンシップの問題でしょうが,この辺,うまくつながらなかったのは残念でしたね。それは学生の問題ですか。
【伊東順一氏】
 修士課程の中で組み込んでやろうとしましたが,事実上,学生は2年間学校を休む状態になります。本当の意味での休学ではないので,授業料はある程度減免になるらしいのですが,納めなければいけない。これは,阪大の例で議論したのですが,学生もそんなに長くやっていられないという,たまたまそのときの対象になりそうな人はそんな状況でした。そういう意味で,なかなか腰を据えて在学中にやることは,難しいのかなという気がします。
【宮田部会長】
 そうですか。ありがとうございます。それと,任意契約と,いろいろ問題があると思いますが,任意契約するときのマイナス面というのは,なあなあになって高くなるという現実があるわけですよね。新しいことを入れようとすると「いや,過去にそんなことはやっていないから」と現場に言われて突っぱねられるというのは,何度も経験していますので,「何だったら変えろ」ということを言います。そうすると途端にやり出す。そういうことがあって,いろいろ難しいなというのと同時に,おっしゃったように経験値のすばらしさという,その辺の難しさも現場の中であります。きっかけづくりをしました。ぜひ先生方の中で,いろいろな意見,あるいは提案等をいただければ。富澤先生,どうぞ。
【富澤委員】
 2人の話を伺って,現場で本当に苦労されたり,あるいは現在も苦労されている話なので,具体的でわかりやすくて参考になりました。順番で,伊東順一さんから伺いたいのですが,私も時々お邪魔しますが,いずみホールというのは非常に小じんまりしていますが,本当にきれいで清潔感にあふれていて,音楽ホールとしても超一級の,本当に聞きやすい,いいホールですが,もともとは住友生命がつくったホール。そこに広く大阪の経済界が運営資金面などで寄付したりしています。それで,欧米の施設のように,入りますと寄附した人の銘板があって,こういう人たちが寄附したということで,今は大変難しいでしょうが,企業がたくさん利益を出している当時にはそういうことができたわけで,多分企業の人たちも,あそこへ行って見ると,文化に貢献できたということで誇りに思っているのではないかと思います。東京と違って,大阪の場合は国立のものが少ないですから,そういう施設が多いのです。例えば中之島公会堂も民間の資金でできています。大坂城もそうです。大坂城も,民間の人がみんなでお金を出してつくったという,大阪の一つのいい伝統だろうと思いますが,そういう形でみんなが参画してつくるという意味では,典型的な本当にいい音楽ホールだと私は常々感じております。先ほど伊東さんが在任中に幾つかの新しい試みをされたという中で,今,宮田先生から話があったものもそうですし,それから,もう一つ,音楽大学の中で1年間講座を持たれた。今持っておられるわけですね。
【伊東順一氏】
 この4月から。
【富澤委員】
 こういう事例はよくあって,私も新聞社にいたころ,北京大学にそういう講座を新聞社が持って,交代で北京の大学院に講演に行った経験もありますが,そういうことをやると,我々も学生がどういうことを感じているのかが非常によくわかるし,どういう思考を持っているのかもわかりますし,大学側も非常に有効な手段だと思います。いろいろなところがそういうことをやると,ある意味ではアートマネジメント,アートマネジャーを育成していく意味で非常に有効だろうと思います。伊東さんのケースの場合,費用はどのぐらいかかって,どう捻出するのか。今後も続けていけるのかどうかを伺いたいと思います。
【伊東順一氏】
 今後も続けていけるかどうかですが,先日,学長にお会いしたときに「来年度もよろしくお願いします」と言われ,「わかりました」とお受けしたので,来年度もやることになっています。費用の面については,基本的には大学側からホールとして講師料を若干ですがいただいています。そういう意味では,ホールにとって収入があります。それが持ち出しになっていないかですが,実際にお金の動きという面でいくと,ホール側が持ち出して損をしているという状態はございません。ただ,手間がすごくかかるという意味では,仕事中の時間をそこに費やしている面では,何らかの業務の障害要因になっている可能性もあります。しかし,一方で職員に対して研修効果も上がっていると思いますので,そういう意味では,財政的な問題は基本的には存在しないと思います。
【富澤委員】
 そうですか。普通,企業が講座を持つ場合は,大学側から要請されて一定の金額を出してほしいと。企業側は人材がいますから,人材を派遣する意味では余り問題はないと思いますが,大学側から講座の費用を要求されるケースが多いのです。
【伊東順一氏】
 そういう意味では,中村学長と議論して,私がこういうようなやり方はどうですかと提案したら「ああ,それはすごくいいです。でも,その話をほかに持っていかないでください」とおっしゃって,それから半年ぐらいたったらお願いしますと言ってこられましたので,ほかの大学に取られることをすごく心配されたようです。
【宮田部会長】
 ちょっとお待ちください。それは,阪大の学生が……。
【伊東順一氏】
 いや,それは大阪音楽大学です。
【宮田部会長】
 失礼しました。音大の学生がいずみホールへ行ってということですか。
【伊東順一氏】
 大学に私どもが出かけていって,30人ぐらいの小さな教室で週に1回教える形です。時にはホール見学を何回か入れています。
【宮田部会長】
 それはいいですね。寄附講座的な要素ではない。
【伊東順一氏】
 ではないです。お金は私どもがいただいていますので。
【宮田部会長】
 そうですか。例になるかどうかわかりませんが,私の大学では,横浜にメディア芸術の方は某電通さんから全部いただいて,学生を指導しているということはあります。それは非常に効果が上がっています。ほかの先生方,いかがでしょうか。
【田村(孝)委員】
 いずみホールの伊東様に伺いたいのですが,たしか磯山先生が芸術監督として入っていらっしゃるのでしょうか。要するに,館長は芸術を愛せない人はだめ,でもおたくはNGとおっしゃったと思いますが,私も,愛せない人はNGだと思っていますが,いずみホールのような,いわゆる将来の音楽界の若手を育成するということまで視野に入れたプログラミングをしているところでは,芸術監督というポジションを置いていらっしゃるのかどうか。館長というのは,多分インテンダントというか総監督だと思いますが。それともう一つ,長期のインターンシップが毎日とおっしゃって,これは理想的だと思いますが,例えば臨床心理などでは,大学院を出ないと資格は取れないので,その間に施設に週二,三回,きちんと泊り込んで行くということをしながら研究をしています。そういう方法は可能なのかどうか。やはり毎日なければだめなのかどうかという……。
【伊東順一氏】
 まず1点目のところからですが,磯山先生は音楽ディレクターという形で,主催公演のプログラム制作についてのアドバイザー的な役割で,月に1遍ぐらいのミーティングに来ていただいています。私はホールができた当初のことは現場では知りませんが,当時からいるスタッフに話を聞きますと,学者ですから,当然学問的にこうありたいというものをまず目指されるわけです。しかし,それは幾ら何でも興行的に成り立ちようがないとか,我々の財政的には無理ですというのが出てくるわけです。そこの部分を逆に先生を教育するという側面が相当あったように聞いています。それは時間をかけてやる中で,ある程度の理解はできるようになった。一方で,芸術的な価値というものをどうやってプログラムに折り込んでいくかというのは,それだけ長い年月ずっと一緒にやってきていますから,自然とスタッフたちがある程度考えるようになりました。だから,スタッフ同士だけのミーティングをやっても企画としてはなかなか通らないという状況になっています。そういう中で若いスタッフが採用されて入ってきても,それを当然のこととしてやっているわけです。
私が出る前に,「そればかりではないだろう」という言葉を言い残して出てきましたが,いずみホールの企画は,どちらかというと地味な企画が多いです。お客さんはそればかりを求めているわけではない。華やかなものも必要ではないか。そういうものをどうやって加えていけるかということが,これからの課題だし,財政的な面も多少ついてくるようになったので,そういうことを考えてはどうかということを今後の宿題として残してきました。それから,2点目の長期のインターンシップについて,実はこれも阪大の先生から同じ質問が出まして,私も答えは持っていません。週二,三回でも人によっては効果が上がる可能性はあると思います。それは,その人が,我々の現場に来てどの程度のやる気を見せてやるかによって違うと思います。ただ,今までいずみホールに入ってきた若手職員を見ていますと,まずホールの環境,仕事の仕方になれるだけでも結構日数はかかる。週二,三回ですと,人間関係も十分にはつくれませんし,仕事になれませんし,そういう中では,一般的に言うと厳しい人の方が多いのではないかという印象は持ちます。
【宮田部会長】
 せっかくですので,すべての先生方にいろいろご発言をいただけたらと思います。どうぞ。
【三林委員】
 例えば,国立劇場で文楽の技芸員を2年間養成していますね。新国立劇場の方で技術者の養成はないのですか。
【伊藤久幸氏】
 今のところはないです。今は演劇やバレエ,オペラは持っていますが,いわゆる技術者,スタッフの養成はありません。
【三林委員】
 それはおやりになった方がいいのではないでしょうか。
【伊藤久幸氏】
 多分,先ほどの受け側をどう整備していくか,という課題がつぶれない限りは,なかなか進むのが難しいのではないかと思っています。
【三林委員】
 難しいですか。せっかくバレエもやっていらっしゃるので,技術者も養成機関があってもいいかなと思ったものですから。
【伊藤久幸氏】
 そうですね。僕はここが違うとおもいます。表方の方は,活躍される場はかなり広がっていると思います。それに比べ技術者に関しては,食べるところというのは非常に少ない。そうすると,卒業したとして,果たしてどこか採ってくれるところがあるかなと。受け皿がある程度しっかりしない限りは,職に就けないで,あぶれてしまう人が多くなる。せっかく舞台技術の養成をした人の活躍の場がない。そこの受け皿,いわゆる採用してくれるところがある程度しっかりしていますよ,もしくは需要がありますよ,みんな欲しいですよというところが整備されない限りは,早く作ってもあぶれてしまう人が多くなってしまうと思います。ですから,作ろうというのは美しい話のような感じがしますが,その先が難しいのではないかと。
【宮田部会長】
 なるほど。ものすごくリアリティーのある話で恐縮ですが,今,芸大が120周年でいろいろなことをやっていますが,「ラボーエム」をこの間やりました。美術の学生が舞台美術を全部やって,音楽の学生が当然演ずるわけです。教員が演奏すると,この3つがうまくいって,ものすごく大変なカーテンコールがありました。金集めを僕がやったわけですから,最後についでに私も出ましたが,いいですよね。舞台は魔物ですね。「またやるぞ」という気になります。けれど,そのとき美術の学生たちに「おまえたちも出ろ」と言ったのですが,恥ずかしがっているのです。出なければだめですよね。
【伊藤久幸氏】
 僕も恥ずかしいので出ないタイプですが。
【宮田部会長】
 そこで,みんながちゃんと光を浴びているという環境をつくらないと育たないと思います。必ず来年またやりますが,そのときに彼らが次の学生に「あんなに気持ちよかったよ」ということを,夏休みからアルバイトもしないで,ずっと頑張っているわけですから,そういう彼らに光をきちんと当ててやれば,すごく育つのではないかなという……。本当にリアリティーのある話を聞くと,身につまされるところがあるものですから。一つの具体的な話をさせていただきましたが,先生方もそうだと思います。
【高萩委員】
 新国では長期の研修は行っています。アジアからの研修とか,特に技術の照明,音響みたいなものに関して韓国からの研修生を受け入れて,半年とかの長期研修を行っています。短期はやっていらっしゃらないということだったと思います。
【伊藤久幸氏】
 申し込みがあれば検討します,ということです。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。他にいかがでしょうか。吉本先生どうぞ。
【吉本委員】
 いずみホールの伊東様からインターンのことについていろいろと話を伺い,すごく勉強になったのですが,かなり長期で,しかもみっちりやらないと人材育成にはインターンは役立たないのではないかということだったと思います。ただ,インターンをした場合に,どの程度のゴールを設定するかというのがあると思います。つまり,インターンをした結果,かなり現場ですぐ使えるぐらいまでの人材育成をしようと思うと,確かにおっしゃるとおりだと思いますが,教育機関があって,現場でのOJTがあった場合に,これはどの職業も同じだと思いますが,大学を出たからといって,すぐ会社に入って使いものになる人材はいません。だからインターンは,OJTというか,現場と大学をつなぐ期間に限定してしまって,学生の方からすると,例えばいずみホールさんに週1でお伺いして,ホールの運営の現場はこういう仕事があるんだということをちゃんと体験することで,それがつなぎの役割を果たす。あるいはホール側から見ると,この学生は向いているか,向いていないのか,あるいはホールにとって採用してもいい学生なのかどうかということをある種判断する期間にする,何かつなぎの期間というふうに限定をしてしまった方が,インターンに人材育成の何か現場のプロになるところまで求めると,やはり難しいのかなという気がしたもので,その点をいずみホールの伊東さんに伺いたいです。もう一つ,新国の伊藤さんには,伊藤さんの場合は,歌舞伎座に入られたのがきっかけで,今の舞台技術の専門になられたということだったかと思います。新しく劇場ができると,既存の劇場の技術の方がその劇場に移るとか,そういう話をよく聞きますが,舞台技術をやろうという方の最初の入り口はどういうところにあるのかを知りたいのですが,お願いします。
【伊東順一氏】
 吉本さんから話のあった点は十分検討できる話だと思います。私は現場の人間ですから,やはりこの人をプロで育てたいという意識が強く働いて,どっちに転ぶかわからない人に余り手間暇をかけるという気持ちにはなれないのです。それが正直な気持ちです。ただ,今やっていることを生かしてやるのであればということで申し上げますと,大阪音楽大学で1年間教えているわけですから,そのカリキュラムの中に,例えば1週間程度がいいのかどうかわかりませんが,ショートタームのインターンシップを中に入れてホールに来ていただくというやり方はあるかもしれません。そういう中からホールとして人材発掘をしていくし,学生もまたそれに動機づけられて,この業界を目指すという相互効果があるのかもしれません。
【伊藤久幸氏】
 何がきっかけでということになると,本や芝居が好きだということが入り口の原点だと思っています。他の人も,高校や中学で鑑賞して,好きだったのであの世界に行ってみたいというのは,多いのではないかと思います。入ったきっかけとなるのは,好きだったかどうかがやはり多いと思います。
【吉本委員】
 入り口として最初にどこの門をたたくのですか。やはり劇団だったりとか,劇場に技術で入りたいといったって入れないですよね。どこの門をたたくのですか。
【伊藤久幸氏】
 僕もどこの門をたたけばいいか全然わからなかったので,本当は劇団に入りたかったのですが,全然知らなかったので,アルバイトニュースを見て,歌舞伎座へ。これはちょっとおもしろそうだなと思って行って,面接して,その翌日から働きに行きました。そういう意味では,今,情報公開とかいろいろ言われていますが,どこの門戸をたたけばいいかとか,まだ情報としてはすごく少ないのではないかと思います。
【高萩委員】
 すみません。吉本さんのご質問で,私の知っている限りで言うと,照明会社と音響会社は,ある程度定期的に人を募集しています。専門の学校もあって,そういうところを卒業した人が新卒で入って,派遣されたりしながら,その中から育っていくというのはあると思います。ただ,舞台監督とかになると,伊藤さんがおっしゃったような,何かのきっかけで間違って入ってきた人が育っていくみたいな……。でも,一番人を輩出しているのは劇団四季ですよね。四季は大量に人を採って大量にやめていきますので,やはり新卒で演劇をやろうと思ったとき,仕事として演劇と考えたときに,東宝,松竹をねらうよりは,やはり四季にというのは,ここ30年ぐらいの傾向だと思います。私も実は大学を卒業するときに四季を受けました。やはり仕事でやっていこうと思ったときに,少し給料が欲しいと思うと四季をねらう人って多いと思います。伊藤さんの関係は……。
【伊藤久幸氏】
 僕は四季ではないですね。
【高萩委員】
 ああ,違うんですか。珍しいですよね。
【伊藤久幸氏】
 だから裏街道かもしれません。
【高萩委員】
 今,舞台監督の中で多分半分ぐらい元四季の方じゃないですかね。
【伊藤久幸氏】
 そうですね。パーセンテージはわかりませんが,高萩さんが言われたみたいに,いわゆる四季経験者はかなり多いと思います。
【高萩委員】
 かつては新劇団の民藝,文学座,俳優座とかが旅公演をものすごく多くしていたので,若い人をどんどん入れて旅につけていました。旅公演というのは仕込んで,ばらして,仕込んで,ばらしてとやるので,すごく技術が習得できるというのがあって,技術者はそこからだんだんいろいろなところに散っていったのですが,今は逆に効率化で人数も減らしていくので,若い人が行かなくなってきています。かつては地方を回るのは結構大人数でワーッと回っていたのですが,そこでの育つ人というのはすごく減ってきていますね。
【宮田部会長】
 それと,舞台が明る過ぎるのと同時に,周りのそでが暗過ぎるというのがあります。だけど,あの暗さの中にすばらしい魅力があるということを,さっきの「ラボーエム」の話で言いたかったのですが,それを伝えるということが必要と思います。そうすると,「ばかやろう」と言われても,これはおれの身になるんだという気持ちになるのかなという意識があるのではないかと思います。
【伊藤久幸氏】
 そうですね。最近はこんな感じかなと思っていますが,我々というか,ある年代のところまでは,見て覚えろと怒鳴られてやりました。ところがある世代の若さになると,「だって教えてくれないんだもん」と。「何か教科書があれば僕だって勉強できます。何でそれを教えてくれないんですか」というのを平気で言う。そうすると,我々がまたそれを考えなければいけないということになって,ちょっと難しいと思います。
【宮田部会長】
 それは今の一つの大きな風潮で,すべてにかぶるところはあります。いかがでしょうか。
【唐津委員】
 2人の話,私も現場の人間なので身につまされるというか,非常に参考になりました。その中で,やはり2人に共通しているのは,結局は芸術を愛するという気持ちがどれだけあるのかということ。アートマネジャーがいないとか,なかなか育たないと言われる現実がある中で,実は昨日,たまたま30代の若手制作者3人と話をする機会があって,これだけいろいろなアートマネジャーの育成がされているにもかかわらず,やりたいという人が現実にはいないという問題が出てきました。例えば仕事が,例えば世田谷パブリックシアターで,新国立劇場で何か制作のスタッフが欲しいといったときに,同じ人に仕事が行くのです。というのは,結局仕事ができる,すぐに使えるという人は本当に限られた人しかいないというような現実が出てきている。そこで,もっといるのかもしれないけれど,実際にどういう人がいるのかということが知られていない現実と,それから,たくさんの大学で今,第2回目のときにいろいろな教育機関の先生方の話もありましたが,実際,そういうところに入られている学生が本当にアートが好きなのかなという問題が,そのアカデミーの方から出てきました。結局はアートの周り,周辺領域にかかわりたい,何となく格好いいとか,アートが好きというよりも,アートマネジメントの仕事につくと格好いいのではないかということを考えてしまって,実際四年生になって,いろいろなところに会社訪問に出かけても,きちんとした給料を確保していただけて,自分たちがイメージしているような仕事にはつけないという現実を知るわけです。そうすると,やはり2人の言われていたような,結局は芸術が好きという気持ちが根底にないと,その現場に飛びこむ勇気はないという現実に直面する。結局,30代の女性たちと話をしていて思ったのが,今の30代,つまり2000年よりもうちょっと前の世代にアートマネジメントを目指した人たちは,アートマネジメントを学ぶ環境がない中で,たたき上げで出てきた世代の最後なのだと思います。その方たちしか残っていないという現実があるのではないか。ですから,先ほど新国立劇場の伊藤さんがおっしゃいましたが,現場のたたき上げで育った次の世代の方々ですね。結局,現場に行っても教えてくれないというような,指示待ちというのをよく言われますが,とにかく指示待ちをする世代が多くなってきている。そういう中で人材育成をしていくには,もちろん30以降のたたき上げの世代が,自分たちが教える方法も工夫しなければいけない。「私たちについてきなさい」ではもう通用しなくなっているというところを工夫しなければいけない。一方で,やはりどれだけこの仕事をやりたいかというところで人を育てていく必要がある。そのためには,アートマネジメントとか舞台技術のスタッフたちに光を当てる必要があるのではないか。その光を当てる一つの方法として,例えば賞を与えるという方法もあると思います。作品でも,芸術家でも,アーティストに対する賞というのは非常にたくさんあります。だけど,プロデュースとか,技術に対しての評価は非常に低いと思います。そういったところに光を当てていくことは一つ非常に重要ではないかと思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。そうですね。本日,初めてで恐縮ですが,ロジャー・パルバース先生,いかがでしょうか。
【パルバース委員】
 3回目なのに,私は初めて参加させていただいておりますが,三度目の正直として考えていただくとありがたいです。今日の2人の話や委員の皆さんの話を大変興味深く伺いましたが,ちょっとまだ,何だか茫然自失としています。特に知らない状態というか,まだちょっとこういう話に関しては,やや足が地面についていないので,もう少し後で,あるいは次回に回していただくとありがたいです。どうもすみません。よろしくお願いします。
【宮田部会長】
 突然すみません。申しわけございませんでした。ほかの先生方,いかがですか。
【米屋委員】
 先ほどの,どういうきっかけでということについては,限られた対象ですが,4年ぐらい前に技術者を対象にした調査をしていますので,ある程度の傾向は出てきていると思いますが,ただ,今のいわゆる団塊の世代と言われる人より少し後ぐらいまでは,先輩の背中を見て怒られながら経験で学んでいくということが許された時代でしたが,80年以降ぐらいから舞台作品のつくられ方がかなり変わってきて,業界の動き方も変わってきました。先輩の背中を見て育つということが許されないような状況に変化してきてしまっているというのが,こういった問題が浮上してきている一つの背景だということを認識いただいた方がいいのかなと。つまり,ローカルルールで足りていた時代がありました。何々座は何々座のルールだけで足りていた。ところが,公立ホールが80年代ぐらいからかなりの数がふえて,劇団もその中で人材を抱えないで,プロデュース公演という,その都度人を雇うという形式に変わっていき,人の雇われ方が変わってしまいました。ですから,その中で共通語がないのではないかということがだんだん問題になってきたし,昔のようにゆっくり人が育つのを待っていられなくなって,育った人がどんどん新しい劇場にヘッドハントされて,なかなか次が育ってこないということになってしまった。その構造変化が背景にあるので,オン・ザ・ジョブで育てばいいんだよねと言っていられる時代ではなくて,冒頭に新国立劇場の伊藤さんもおっしゃっていましたが,随意契約というふうに,スタッフが結局外注されているという状況です。新国立劇場が直接雇用していないということなので,逆にこの状況が本当はおかしいのではないかと思います。デザイナーとか俳優とか歌い手という方々は,クリエイティビティのところでだけで評価されてきますので,賞もありスポットも当たりますが,プロデュースとか制作技術者というのは,クリエイティビティももちろん求められますが,もっと職人的な,本当に技能の部分なので,何か賞というよりは,雇用環境がきちんと整っているかどうかという,そこの問題が重要だと思います。ですので,その観点からいうと,最初に新国立劇場の伊藤さんが提起してくださったように,継続性を担保するには,何か課題を見つけていった方がいいと思います。新国の伊藤さんにお聞きしたいのですが,スタッフ会社から派遣を依頼するのではなくて,直接雇用する方向は,今考えられないのでしょうか。
【伊藤久幸氏】
 直接雇用といいますと,例えば1名,フリーでやっていますよという人を雇うかということですか。そうではなくて……
【米屋委員】
 そうではなくて,専属のスタッフとして。
【伊藤久幸氏】
 技術部の話ですが,自分を含めて50名弱が職員です。その中には調整課,舞台課,照明課,音響課があります。それプラス委託で,舞台課だと大道具,あとはインカムをつけて操作への指示をする人,諸々含めて大体45名程度。それから,音響と照明の方で大体30数名程度。あと楽屋稽古場など,これも委託です。
【米屋委員】
 委託にしている理由や,委託の方が仕事がスムーズにいくのか,もっと職員の幅を広げた方がいいのかということです。
【伊藤久幸氏】
 個人的には,職員は多い方がいいです。ただし,それは財団や,振興会とかが考えると経費削減しなさいということになり,職員を抱えているより委託の方がメリットがあるという判断だと思います。もう一回言いますが,技術的な立場から言えば,継続性を考えると職員の方がいいです。
【パルバース委員】
 宮田先生,すみません。1つ質問してよろしいでしょうか。日本には,広い意味での技術,パフォーミングアーツに関する技術とかアートマネジメントを専攻として習う大学というのはどれぐらいありますか。あるいは学部とか。
【宮田部会長】
 この前,そんな議論も少し出てきましたが,それほど多くは……。事務局の方で,この間データを集めていましたよね。
【高塩文化庁次長】
 教育機関は120ぐらいありますが,アートマネジメントコースは約20大学ぐらいあると思います。舞台技術者となると,ほとんど大学ではなくて,専門学校とか……。
【パルバース委員】
 専門学校ですよね。
【清水芸術文化課長】
 細かく言いますと,アートマネジメントの講座というか科目を持っているのは165あるわけですが,それを専攻していることになると,かなり数は少なくなってしまう。そのためのアートマネジメントの人材養成ということを目的にした組織,学科という点では,かなり少ないと思います。科目についても,数え方としていろいろあって,どこまで科目で拾うかというのはありますが,165というのはかなり広目に拾った数字で,大学と専門学校まで含めた数字です。
【パルバース委員】
 そうですか。そのうち大学はどれぐらいありますか。
【清水芸術文化課長】
 アンケート調査をしようと思い,いろいろ調べたところ,165の内訳としては国立大学が33,公立大学が8,私立の大学,短大等を含めて83,専門学校が41です。
【パルバース委員】
 これはアートマネジメントの方。
【清水芸術文化課長】
 アートマネジメントの科目を持っている。
【パルバース委員】
 科目を持っている。それを学生がどのぐらいとっているかという,数はわからない。
【清水芸術文化課長】
 選択科目まで含めて,大学の学生が全員とっているということではないと思います。
【パルバース委員】
 それはそうですね。
【宮田部会長】
 概念的ですが,大変皆さん興味はあるのですね。単位取得としては結構確率は高い方だと思います。ただ,それが自分の将来の云々になると,ちょっと違ってきているような感じがします。
【パルバース委員】
 そうすると,よくわかりませんが,技術の方は割と軽く見られているではないですか。余り哲学とか美学とかのような─あれはつくる方だから,そこら辺でやればいいじゃないですかとか……。私の国はオーストラリアですが,シドニーにはNIDAという国立演劇大学というすばらしい,ひょっとしたら世界一かもしれないパフォーミングアーツの大学があります。そこにテクニックコースもありますし,そこからほとんど直線で各州の劇場とかに行ったり移ったりしますが,ビクトリア州にも,ビクトリア・カレッジ・オブ・アーツという非常にすぐれたインスティテューションがありますし,アデレードにも,ブリスベンにもあります。だから,国が2,100万人の人口なのに,日本より割と論理的というか,もっと上手にまとまっているのではないかと。それはなぜかというと,やはり物事を考えたり論文を書いたりするのは本当の研究で,本当の学者がやるべきことで,たかが照明を動かしたりするのはだれでもできるんじゃないか。そこら辺の大工さんだってできるはずだからという,割とこういう発想が昔からあるのではないかと思うのです。だから,僕はさっきも申し上げましたが,初めて参加させていただいているので,こういうことを言う資格はないかもしれませんが,新国立劇場という新しい劇場ができたぐらいで,新国立演劇大学というのも日本でつくらないと,何だかイタチごっこというようなことになってしまうのではないかと思います。つまり,ちゃんとやらないとだめですね。
【宮田部会長】
 何か私が責任を負わなければいけないような……。
【パルバース委員】
 私も東工大で,去年世界文明センターをつくりまして,今,映像をいろいろなテクニカルなことも含めて教えたりして,単位も取れるし,東工大で大事にしています。技術者もたくさんいる学校ですから,いつか合併してもいいぐらい自信を持っています。どうぞよろしくお願いします。
【宮田部会長】
 今もそのオファーをいただいておりまして,いつでも研究させていただいて……。両方が利益になること,学生のためにそれが必要ですよね。どちらかだけに流れるのはだめですよね。ですから,別に結論めいたことを言うわけではありませんが,やはり先生の出身のオーストリアの大学との姉妹校提携みたいなことで,学生間交流みたいなものでしたら,もっともっといい環境で学生たちが本物を見て,それでそれを日本へ持ってきて,違った部分を日本の環境の中でどうするかということを考えていくような過程が必要で,そうすると,今度は新国の伊藤先生のところとかに行かれると,「そうか」みたいな感じになって,もっと新しいジャンルをつくることだって可能かもしれませんね。雪駄から安全靴に変わったというのは,相当大きなことだと思います。あと,どなたかどうぞ。
【吉本委員】
 先ほど唐津委員の発言で,アートマネジメントを勉強した人の中に,本当にそれを本気でやりたいと思っている人が余りいないのではないかという話でしたが,それはある部分は当たっていると思います。私の非常に少ない経験で言うと,今,芸大の大学院で教えていますが,その学生は4,5人と少ないです。そうすると,最後までちゃんと現場でやりたいと思っているか,あるいは研究者として博士とか先生になろうという意思がかなり明確だと思います。逆に,学芸大学の学部で教えていたときは,40人ぐらいいましたが,その中で多分この現場に入っていこうと思っている人は3,4人ぐらいだなという感じがありました。学芸大学は先生になるという選択肢も多いので,そういうことだと思いますが,その一方で,逆にそういう仕事をしたいと思っている若い人は確実にいて,例えばそういう人の選択肢のひとつとしてNPOに入るということもあると思います。僕の知っている範囲の情報なので,それが正確かどうかわかりませんが,ひょっとしたら大学の学部クラスのアートマネジメントの教育を充実させるということが,果たして人材育成につながるのかどうか。20大学という数が多いのか少ないのかという量的な判断も難しいと思います。毎年それなりの勉強をした学生が既に輩出されていて,数が少なくともなりたいと思う人が確実にいると思います。そうすると,さっきのインターンとも関係しますが,前回,柴田さんが,ケネディーセンターですごい教育制度が整っているという話をされていました。例えば現在,世田谷パブリックシアターも人材育成をやっていますが,やはり手間もかかるしコストもかかる。だから,そういうところに対する国の助成制度が考えられないか。あるいは,若い人がとにかく劇場に入って,さっきの2年間丸々詰めるみたいなことがあるとすると,2年間の若い人の育成のための最低の人件費に対する助成金などの制度が考えられないかと思います。
【宮田部会長】
 そうですね。突然振って恐縮ですが,長官。
【青木文化庁長官】
 今日の2人のイトウさんの話,大変すばらしい話で,示唆をたくさん受けまして,また興味深い点がたくさん指摘されたと思います。いずみホールというのは大阪にいたときに非常に好きだったところなので,いろいろな話を聞けてありがたかったのですが,1つは,長期インターンシップは,確かに大切ですが,これは大学に在籍している学部生はほとんど不可能ですよね。大学院生でドクターコースまで行けば可能性があると思います。それで,ドクター論文を書けると思いますが,技術を獲得したり経営感覚を磨いたりするということは,個人の問題だと思います。ただ,インターンシップを受けるというか,そこに入る人たちというのは,そのまま劇場で仕事をしたいという希望を持っていないと,なかなか2年間もできないと思います。だから,今議論された問題に常につながりますが,新たな受け皿があるかどうかというのは問題です。ただ,もう一つ背後には,いまいち日本の社会の中で劇場に対する社会的期待,社会的な地位,そういうものが少なくともヨーロッパ,アメリカと比べると低いということは否めない事実です。だから,この劇場の社会的地位をどういうふうに上げるかというのは,一つはこういう劇場が非常に魅力ある職場として輝くかどうかということと,それから,もちろん出し物から何からすばらしいところ,そういうアトラクティブなものができるかどうかというのがあります。もう一つは,やはり社会的意識,それから地域社会でそれを盛り立てるという,そういうものを醸成するような運動と一緒にやっていかないとなかなか難しいかもしれません。ジュゼッペ・トルナトーレの「ニュー・シネマ・パラダイス」という映画があって,これは地方の小都市の映画館の話です。少年が映画館の技師に憧れていてという話で,これは名作で今も上映されています。戦後何もないときだと,映画館というのは憧れで,映画館で働きたいと思ったりしたものですが,今はそういう劇場に対する憧れというものがどこまであるかが,一つ大きな問題でしょう。これはやはり劇場が輝けば,アートが好きだとかいうことだけでなくても,そこで働きたいという気持ちが出てくる可能性があると思います。長期インターンシップについては,やはりこれは,例えばいずみホールとか阪大でも音大でもいいのですが,タイアップして一つのコースを積極的につくった方がいいと思います。それから,例えば芸大と新国立劇場で研修コースをつくって,それを芸大の教育の中にも組み込むような形で両者の連携プレーでやればいいし,先ほど新国立劇場の伊藤さんがおっしゃったように,非常に飛び抜けた人が全国の劇場に優先的に採用されるとか,基本的なものができているという点で,そういう資格というのは必要かもしれない。ただどこを出たとかいうのではなくて,先ほどパルバース委員も言いましたが,技術部門は普通の総合大学では教えないため非常に価値が高いです。それに対してもっと光が当たるような形でやるには,例えば大学と技術部が一緒になって,一つのコースをつくるというのがいいのではないかと個人の意見として申し上げます。それから,もう一つは新国立劇場の話。10:00,22:00って,これは一体どういう労働条件になっているのか。こういうことをやっていると,危ないのではないですかね。これはこちらの管理意識もあるかもしれませんが,やはりミラノスカラ座みたいに2交代とか3交代とか,労働改善としてやっていかなければならないでしょう。それについては驚きました。クレーンが回ったりして,よく劇場で事故が起こって死んだりしますが,大変な話だと思います。例えば,芸術をわかるようなパフォーミングアーツの技術者を東工大でも養成すると言えば,これはどうなるでしょう。それで,新国立劇場が組んで一緒にやるとか,大学にドクターコースを出せるようなコースを設けることが大切だと思います。今日の話は具体的で非常にわかりやすくて,しかも重要な問題提起だったと思います。どうもありがとうございました。
【宮田部会長】
 言いたくてうずうずしている顔が見えたので,これは座長の役目かなと思います。ありがとうございました。今回の話を聞いていると,東工大さんとの関係,それから芸大がやらなければいけないというか,いわゆる教育機関自身が単なるバーチャルな教育をしていてはいけないということの根幹的な教育に対する提言でもあるのかなという気がします。何か紙だけやって点数がついて,それで「はい,卒業だ」と言ったって何もならないですし。
【吉本委員】
 大学で舞台技術を教えるとなると,舞台技術といっても,コンサートホールだと,照明とか,技術はそんなに複雑ではないと思いますが,演劇とかオペラとか舞台物だと複雑だと思います。そうすると,大学でそれを教えようと思うと,劇場がないとだめだと思います。芸大には美術館と演奏センターはありますが,劇場はないですよね。それは舞台芸術のコースがないからだと思います─ありましたか。ないですよね。だから,大学で劇場を持っているところは,京都造形芸大か,最近つくった桜美林大学くらいですかね。
【宮田部会長】
 京都造形はすごく立派なものができましたね。昭和もありますね。
【三林委員】
 大阪芸大もあります。
【吉本委員】
 そうですか。そういうところでも技術者養成のコースがないのではないですか。あっても制作をするというカリキュラムの中に劇場のことが使われているというものだと思いますが,技術者の養成を目的に劇場を持っている大学はあまりないのではないでしょうか。
【宮田部会長】
 京都は,たしか見学に行ったときに,それこそ足袋を履いて頑張っている学生たちがいましたよ。詳しくはないですけれど。うちも音楽ホールですが,考え方次第で,緞帳がなくても舞台を裏返しにすると違う舞台になるということを,それを見せていきながら,という方法がありますので,大舞台はあるにこしたことはないですが,工夫次第でおもしろい展開が,玉手箱がいっぱいできて,大変おもしろいものができているような気がしますので,また先生,来てください。いろいろご指導ください。
【田村(和)委員】
 門外漢なんですが,今日の話を聞いていて,非常に感じるのは,この世界は,ほかの産業の就業構造とか需給ギャップみたいなものではなくて,すごく柔軟な場所だと思います。その柔軟性を前提に話さないといけないのだろうという気がします。そういう意味で言いますと,何か聞いていて,舞台の表方と裏方という言い方をすると,裏方で足らないのはどこなのだろうという感じがあります。それで,舞台芸術というのは演劇と音楽,サーカスとかありますが,そういう意味で言いますと,どうも最近の技術というのは音楽に取られているのではないかと思います。音楽の方は私の周辺にも随分います。これは余り固定しなくて,小さいコンサートにも大きいコンサートにもかなり動き回っています。どうも足らないのは,非常に大がかりな長丁場で継続性の必要な演劇という世界ではないかなという感じがします。演劇は,単にハード面だけではなくて,非常にソフト面が大切になります。この間,永井荷風の本を読んでいましたら,永井荷風は「おまえも少し何か仕事しろ」といって,座つき役者か何かで歌舞伎座に送り込まれるのです。ソフト経験をしていくわけです。そしていろいろなことを経験するのですが,今の話を聞いていて,何かやはり延々と演劇の世界って,好きこそものの上手なれみたいな世界だなという感じがして,そういう意味で,余りかたくここの話の就業構造とか需給ギャップをとらえてはいけないのではないかという感じがします。先ほど米屋さんがおっしゃった,就業構造はどんどん変わってきているという話もあるだろうし,技術そのものの意味みたいなものが,例えば舞台でも音楽に偏っているみたいな意味で変わってきているという感じがして,どうもそのあたりでもう一度アートというか,舞台芸術のインフラって何なのかということを,今の状況の中で,それが本当に何で─特に私はむしろハードの方は割合に,オン・ザ・ジョブ・トレーニング,先ほど新国の伊藤さんがおっしゃったように,これはもうテキストを超えるようなところでやるしかないと思いますが,むしろソフトな方の継続性ですよね。ソフトは,演出者にしてもそうですし,先ほどの荷風の座つきのシナリオライターなんかもそうだと思うし,何かそのあたりの力みたいなものが非常に弱くなっている感じがするものですから,むしろ本当に足らない場所がどこなのかという需要側の話と,それから,先ほどからいろいろ何回も出てきますアートマネジメントを勉強しながら,その中で何かやりたい人は非常に限られていると思いますが,その人たちがどういう方向に行けるのかという供給側の話です。そこのあたりをきちんとつかまないとわからないなという感じがして,永井荷風さんには失礼ですが,ああいう世界がずっと続いている。非常にそれこそアートの世界だという気がしています。今日の話を聞いていて,そういうことを非常に強く感じました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。
【青木文化庁長官】
 コースに入っても,どこに入っても,全部が全部そういうふうになる必要はないです。大学院だって,研究者になりたいという人は10人いたら1人しか残らないですよね。ただ,そういうものがあって,いろいろな人がそれで勉強してみる。技術を習得してみて,こういう世界があるということがわかってということです。しかも,企業とかにもそういう技術が役立つような面が必ず出てくると思うので,全部が全部ならなければいけないというものではないと思います。
【田村(孝)委員】
 先ほど資格という話を新国の伊藤さんがなさっていて,個人的には最後になくてもというようなことをちょっとおっしゃったと思いますが,私は,今のようなハイテクの時代には,最低の資格はもしかして必要ではないかなと。今,劇場にいますので,技術者が要するに専門職員として雇用されていないというのは非常に不安に思います。そういうことは,要するにマニュアルの時代だったら感覚でとどめることができても,ハイテクの時代は,一たん押したら,そのままずっといってしまうのが現状だと思いますので,最低の資格というのは,もしかしたらあった方がいいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
【伊藤久幸氏】
 そうですね。最低の資格を共通基盤という言い方に直すとすると,その共通基盤が何なのかというのがまだまだ不透明で,各施設によって違うのかなと思います。例えば,うちの劇場でいくと,舞台機構をマニュアルで行うものは非常に少なくなっています。綱場がなかったり。ですから,うちの公演を開けるときには,演出家の要望とか各プランナーの要望を,「ここは何秒で動くようにやりたい」とか,「一瞬に決まって,ここまでを何秒でやりたい」という事を十分稽古しながら決めていき,打ち込んでいく。それが今度は,ある劇場へ行くと「うちは全部綱場なので,そういうことはないですよ」とかになると,共通基盤自身の部分がどんどん低くなっていってしまうということがあるので,なかなか難しいかなというのが1点。それと,その資格にどれだけ強制力を持たせられるかということだ思います。つまり,資格をつくりました,皆さん,どうぞ取ってください。我々受ける側として,それを取ってどうなったのか,どうなるのか。ギャランティーがアップするのか,保障が強くなるのかということを考えると,多分それはないと思います。資格が無いといけない,という意見に少し溝があるのではないかと思います。だから,この資格が無いとあなたは仕事ができないですよ,この資格が無いとそこに入れませんよという強力な物であれば,僕はいいと思います。
【田村(和)委員】
 伊藤さんがおっしゃった,プロとして活用する人たちの養成というのは,テキストの作成ってありますね。これは本当に必要とお考えなのか,それともできないとおっしゃっているのか,どちらですか。
【伊藤久幸氏】
 僕は必要だと思っています。というのは,その最低限のテキストというか,共通言語の本がない限りは,自分たちを含めて後の人間に対してこういうふうにやってくださいとはなかなか強く言い切れないですよね。例えば,どなたかがおっしゃいましたが,学校と劇場が提携をして,OJTみたいなことをやって世の中に送り出しましょうということになった場合でも,「これはあそこのローカルルールなので,ほかに行ったら勉強したことは全然役に立たないよ」と言われた瞬間にもうだめになってしまう。そのテキストは必ず誰かがまとめなければいけない。ただ,そのまとめる人は,かなり難しいと思います。まとめる方法を含めて。
【宮田部会長】
 応用力のあるテキストが必要ですよね。
【伊藤久幸氏】
 この物をどういうふうに呼ぶかから始まって,統一を検討する必要があると思います。例えば「あそこ,見切れていますね」という,その言葉が人によっては違う言い方だったり,同じだったりという部分がありますので,まずそういう共通言語をきちんとならして,やっと作業の方に行かないと,共通基盤はできないと思います。
【宮田部会長】
 なるほどね。そういうことを考えると,どうも気になるのですが,とんでもない話をして恐縮ですが,なぜ東京會舘でやるのですか。
【高萩委員】
 ここ。この会議を新国でやらないのかと。
【宮田部会長】
 そう。大劇場があるじゃないですか。あそこの現場でみんなやろうよとか,うちの大学でもいいですよとか,東工大のセンターをつくったじゃないですか。あそこでやるとか。経費がかかるから,それはお互いにちゃんともらう。今日は現場の2人でしたので,非常にリアリティーのあるキャッチボールができたのですが,どうもアートマネジメントの話をすると空を飛んでいきます。空を飛ぶときに場所設定を現場でやると相当違うのではないかと思いますが,いかがでしょうか。次回は東海大学の校友会館,阿蘇の間となっていて,僕はちょっと存じ上げないのですが。
【清水芸術文化課長】
 これは霞ヶ関ビルの上の階を予約していますが,まだキャンセルは可能だと思います。
【高萩委員】
 せっかく伊藤さんがいらっしゃっているので,先日,それこそ5,000万以上の自主事業予算を持っている劇場の技術者の人たちが集まって,安全管理とか人材育成の会合をして,文化庁からも出席されていたと思うので,ちょっと説明していただくと……。つまり,ある程度の予算規模で自主事業を回しているところでないと,技術者の共通言語はないだろうと思います。これからのことを考えて,新しい団体をつくろうとしていると思うので,ちょっと説明いただけないでしょうか。
【伊藤久幸氏】
 公共技術者連絡協議会というのを作りました。最初は年に1回か2回,技術者レベルでこんなことがあったよ,こんな失敗をしたよ,こんなことが非常に危なかったよということを言って横の繋がりをやろう,ということに看板がついたみたいなものです。年に2回程度集まって色々やっています。その中で共通基盤を作っていこうかとか,共通言語を統一していこうという,その動きは遅いですがやろうとしています。
【宮田部会長】
 よろしいですか。12:05になりました。2人の先生方,本当にありがとうございました。また,委員の先生方,ありがとうございました。とりあえずここで一旦締めたいと思いますが,少なからずリアリティーのある現場での意見,それから研修の話,表と裏の話,明るい,暗い話等々も含めて,現実に置かれた人材に対して,新しいものに対してどうしていこうかという提案もいただいた気がします。では,事務局の方からお願いします。
【清水芸術文化課長】
 <次回の説明>
【宮田部会長】
 それでは,これでよろしいですか。ありがとうございました。
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