資料3
アートマネジメント人材の育成及び活用について(論点整理案)
1.基本的な考え方
- (1)アートマネジメントの必要性
- アートマネジメントは,文化の作り手と受け手をつなぐ役割を担うものであり,公演や作品等の企画・制作,資金の獲得など,芸術を発展させるために不可欠。
- 芸術家は創造活動に専念し,芸術を支え受け手のニーズを汲み上げるアートマネジメントを担う人材との間で分担・協力して,芸術の発信力を高めていくことが必要。
- 各地に多くの劇場・ホール等の文化施設が整備されてきたが,ソフト面の充実が課題となっており,アートマネジメントの役割を担う人材の充実が必要。
- (2)アートマネジメントの捉え方
- アートマネジメント人材がどのような場所でどのような目標を持って活躍していくことができるのかを明確にすべき。
【アートマネジメントを担う人材の職務内容(例)】
〔劇場・ホール等の文化施設,実演団体等の芸術団体〕
・公演や作品等の企画・構成・制作,マーケティング・資金獲得,営業・渉外・広報等の業務〔メセナ財団等の中間支援組織〕
文化施設や芸術団体と企業等とのコーディネート等の業務 - アートマネジメントという言葉は十分根付いておらず,アートマネジメントの概念の明確化や,わかりやすい言い換えを検討すべきではないか。
- アートマネジメント人材がどのような場所でどのような目標を持って活躍していくことができるのかを明確にすべき。
- (3)アートマネジメント人材に求める資質・能力
- アートマネジメント人材に対するマーケット側の需要にあった資質・能力を有する人材を育成することが必要。
【アートマネジメント人材に求められる資質・能力(例)】
- ・文化芸術に関する幅広い知識と興味を持ち,芸術家を支え,鑑賞者にとって魅力的な公演や作品を制作する能力
- ・文化芸術の価値を鑑賞者や地域住民,行政などにわかりやすく発信していく能力
- ・公的助成や企業の支援など文化芸術のための資金を獲得する能力
- ・会計,著作権等に関する知識・経験を持ち,芸術性と経済性を両立した経営ができる能力
- アートマネジメント人材に対するマーケット側の需要にあった資質・能力を有する人材を育成することが必要。
2.現状と課題
- (1)大学等における人材養成
- 大学等でアートマネジメントに関する講座,コース等を置いている学部,大学院は増えてきたが,カリキュラムが区々であり,必ずしもアートマネジメント人材を養成するための体系的・系統的なものとなっていないのではないか。
- 大学では理論と実践の両面を積極的に教える必要があるが,文化施設等におけるインターンシップは短期間のものが多く,実習効果を高めることが課題ではないか。
- (2)現職研修
- アートマネジメントの現職研修については,国や地方公共団体,財団法人,NPO法人などが様々な研修を実施しているが,必ずしも現場のニーズを十分踏まえた内容となっていないのではないか。
- 文化施設では,最近は効率化等のために職員数が減ってきており,現職の人材育成も難しくなってきている。
- (3)文化施設等の受け入れ側
- 大学等でアートマネジメント人材を育成しても,受け入れ側の文化施設等では現場の経験が重視されるため,学生の就職の受け皿が少なく,学生が現場に入っていけないのではないか。
- アートマネジメント人材のキャリアアップについては,何かを学んだとして,それがその後どうつながっていくのか目標を持てない状況にあるのではないか。
- 各地域で多くの文化施設が整備されたが,マネジメントの評価基準がはっきりしないため,指定管理者制度の中では効率的な管理が強調される傾向にある。
- (4)舞台技術
- 舞台技術のスタッフに光が当たっておらず,モチベーションが高まらない状況にある。
- 80年代以降,公立文化施設の数が増え,プロデュース公演でその都度スタッフを雇うという形に舞台の在り方が変化した結果,舞台技術者が育たなくなってきた。
- 舞台技術のノウハウが劇場・ホール等で蓄積されておらず,安全管理上の問題などが生じているのではないか。
- (5)アートマネジメントに関する情報
- アートマネジメントに関する人材養成,研修,文化施設等の情報が共有されていない。
- アートマネジメント人材として,どういう人がいるのかという情報が少なく,同じ人ばかりに仕事がいくような状況になっている。
- (6)文化行政の在り方
- 文化行政の風土環境として,地域社会における文化行政の継続的なガバナンスが欠如しているのではないか。
- 地域においてアートマネジメントがうまくいっているのは,行政の中に地域で芸術をどう生かすかをよく捉えている人が活動しているところである。
- (7)日本型アートマネジメント
- 日本ではアマチュアの文化活動が非常に盛んであるが,内側に閉じこもっており,これをどうやって社会をリードするような力に変えていくかが課題。
- 日本ではアートマネジメントが制度化されておらず,芸術家個人が責任を負わなければならない環境の中で仕事をしていることが多く,それを周囲の人のシャドーワークで支えてきたという状況がある。
- 日本でアートマネジメントのシステムを作り上げていくとき,近代市民を前提とした欧米モデルのアートマネジメントだけでは対応しきれなくなっており,日本の風土を踏まえたアートマネジメント概念の構築が必要。
3.取り組むべき施策の方向
- (1)大学等における人材養成の支援
- 大学等において,全般的な芸術の重要性やアートマネジメントの知識も含めた教育の充実を図るため,コアとなる体系的・系統的なカリキュラムを開発すべきではないか。
- アートマネジメント人材の養成に当たっては,劇場・ホール等と積極的に提携し,高校生や大学生の時からその運営に参加するなど,実習機会の充実が重要ではないか。
- 実際の活動の中でノウハウを学ぶためには,大学等と現場をつなぐ期間として,劇場・ホール等で長期のインターンシップを行うことが望ましいのではないか。
- (2)現職研修の充実
- 現職の育成を強化することが必要であり,現場のニーズに即した効果的なプログラムを開発することが必要ではないか。
- 専門的な芸術機関の人材育成事業やプログラムに,アートマネジメントの人材育成を加えることの可能性を検討すべきではないか。
- (3)アートマネジメント人材の活用の充実
- 劇場に来る観客のニーズを汲み上げて演目を選ぶなど,文化施設等のアートマネジメント機能の充実のためには専門の職員を配置することが重要ではないか。
- 日本のアートマネジメントを欧米のように個人や団体に依存しないように制度化するためには,政策的な誘導と日本型のソフトランディングが必要ではないか。
- アートマネジメント人材がキャリアアップに向けた明確なビジョンを持てるようにすることが重要ではないか。
- (4)舞台技術者の養成・活用の強化
- 舞台技術者を育成していくためには,安全管理の問題などをはじめ舞台技術者に求められる共通項を作り上げていくことが必要ではないか。
- 舞台技術のノウハウを蓄積して,舞台技術の継続性を確保することが重要ではないか。
- (5)アートマネジメントに関する情報の整備
- アートマネジメントに関する人材養成,研修,文化施設等の情報を共有化するための体制の整備が必要ではないか。。
- (6)国と地方公共団体の役割
- 国や地方公共団体で文化行政を担う担当者に文化振興やアートマネジメントに関する専門的な知識や理解のある人材を配置することが必要ではないか。
- 国として文化施設等のマネジメントの評価基準を明確化するとともに,よい評価のものには支援を行うことも検討すべきではないか。
- 優秀なプロデューサーや舞台技術のスタッフを顕彰するなど,アートマネジメント人材が魅力的な職業人の一つであることをPRすべきではないか。