第6期文化審議会文化政策部会第2回議事録

1. 日時

平成20年6月25日(水) 10:00~12:00

2. 場所

文部科学省3F2特別会議室

3. 出席者

(委員)

池野委員 唐津委員 高萩委員 田村(和)委員 田村(孝)委員 富澤委員 宮田(慶)委員 宮田(亮)委員 山内委員 吉本委員 米屋委員

(事務局)

青木文化庁長官 高塩文化庁次長 尾山文化部長 吉田長官官房審議官 苅谷文化財鑑査官 清水芸術文化課長 他

(欠席委員)

尾高委員 三林委員 パルバース委員

4.議題

  1. (1)部会長代理の指名
  2. (2)実演芸術家(音楽,舞踊,演劇等の分野における実演家)等に関する人材の育成及び活用について
    【ヒアリング(1)】
    • ○米屋尚子委員
    • ○宮田慶子委員
    • ○佐々木涼子氏(東京女子大学文理学部教授)
  3. (3)その他

【宮田部会長】 定刻となりましたので,第6期の文化政策部会の第2回の政策部会を開かせていただきたいと思います。本日はご多忙のところ,ありがとうございました。
 有識者のメンバーといたしまして,本日は佐々木様においでいただいております。ありがとうございます。ご多忙の中,恐縮でございます。佐々木さんには後ほどご発言をいただく機会があるかと思っておりますので,よろしくお願いします。
 会議に先立ちまして,お手元の配付資料のご確認をお願いしたいと思います。

<清水芸術文化課長より配付資料の確認>

【宮田部会長】 では,次に進めさせてもらいます。前回の部会で部会長に推薦されたにもかかわらず,出席できず,大変申しわけございませんでした。出席の意志はあったんですが,動けないという状況でした。皆様方に大変ご迷惑をおかけしました。もう元気になりました。
 元気ついでに,昨日大阪造幣局へ行ってまいりまして,全国の47都道府県が60年になることを記念して,記念貨幣を北海道から漸次つくっていくということで,北海道知事,それから額賀財務大臣,それから総務省の谷口副大臣がいらして,私は47全部のデザインを任されたわけです。1発目でちょうどこれはチャンスだなと思ったものですから,何はともあれ,我が家でもそうですが,かみさんがしっかり握っているひもをほどくチャンスと思ったので,明日,実はこんな話がありますと,パーティーのときに伝えました。そして,すばらしいコインができたのですが,こういうこともすべて,文化芸術の感性がきちんとあるからできるんですよと,日本はそういう国なんだということを伝えるお仕事を文化審議会でやらせてもらっているので,ぜひともそういうことに対しても目を向けていただきたいと思います。そんなことまで知らないみたいだったので,辻説法のように,まめに伝えるということは大事なのかなという気がいたしました。前回欠席した分のお返しにはなるかどうかわかりませんが,私もそれなりに違った意味で頑張らせてもらいました。ありがとうございました。
 それでは,議事を進めさせてもらいたいと思いますが,部会長の代理をご指名させていただきたいと思います。

<部会長代理の指名> ※部会長代理について,富澤委員が部会長の指名により選出された。

【宮田部会長】それでは,始めさせていただきます。前回,実演芸術家等に関する人材の育成及び活用について審議を開始し,今回は今後の審議の進め方などについてご検討いただきます。
 本日は,まず事務局から,前回ご意見のあった諸外国の実演芸術家の資料を説明いただいた後,実演芸術家をめぐる全般の状況,分野ごとの人材育成及び活用について,米屋委員,宮田(慶)委員から発表いただくとともに,お招きした有識者の先生からご意見を伺いたいと考えております。その後,委員との意見交換を通じて審議を深めたいというふうに思っております。
 本日お越しいただきました有識者の先生を改めてご紹介させていただきます。東京女子大学文理学部教授の佐々木涼子先生でございます。佐々木先生には,15分ほどご意見を伺った後,各委員との自由討議とさせていただきたいと思っております。
 それではまず,事務局から,諸外国の実演芸術家の人数について簡単にご説明願えますでしょうか。

【清水芸術文化課長】 <資料3の説明>

【宮田部会長】 ありがとうございました。データ調べというのはなかなか難しいと思います。日本人の感覚でのカウントの仕方と諸外国の中でのカウントの仕方というのは異なるでしょうから。苦労してここまで調べていただいたこの資料に対してご議論いただくのですが,何かございますか。私のほうからちょっとよろしいでしょうか。例えば英国,米国というのと,判断基準みたいなものもあるのでしょうが,例えば韓国や中国は調べるのが結構難しいという感じがしたのですが,その辺の苦労などを教えてください。表現方法がいろいろ違うと,どんなものかなというような感じがちょっとしたので。もしそういうことがお話しできるようなことがあったら。

【清水芸術文化課長】 データとしては,アメリカとイギリスについては,基本的に個人単位で芸術家であるかどうかということを調べたデータです。ですから,音楽あるいは演奏,そういったパフォーマンスをする人であるかどうかということを個人単位で調べたわけですが,アメリカの場合には,そこに作家なども含まれていて,分けられないという違いがあります。
 中国については,個人単位ではなく,団体単位で調べているということがありますので,個人単位で動いている人が入っていません。ただ,正確には公演団体で働いている人ということになりますので,公演の中で事務を担当している人や,マネジメントを担当している人なども入っている可能性がありますので,必ずしも実演の人だけではないという違いがあります。
 韓国は,これは団体単位ではなく一応個人単位ということですが,対象が団体に登録されている人数と絞っていることでもって,実際に団体に所属せずに動いているような人はこの統計から漏れてしまうというような違いがあります。

【宮田部会長】 ありがとうございます。それでは,次に,米屋委員に実演芸術家をめぐる全般の状況に対してご説明ください。

【米屋委員】 それでは社団法人芸能実演家団体協議会で1974年から5年ごとに実施してきております実態調査について,実演家全体の総論的な部分と今後の議論に対してのポイントをご指摘させていただきたいと思っております。
 お手元に幾つか配っておりますけれども,抜粋になって横型になっておりますのが最新版で,第7回の,2004年調査で2005年版と申しているものです。このときからスタッフと実演家は設問票を分けまして,共通部分もありますけれども,スタッフ向けに設問を別にして調査を始めておりますが,実演家に関しては74年からずっと継続しておりまして,毎回同じ設問ではないのですが,コアな部分は同じにして,その時々,聞きたい部分を加味しながら続けてきているというものです。
 それから,カラーの小冊子の「ドキュメントパフォーマー」というのは,2000年版のダイジェスト版ですが,大体回答者はどちらも1500名前後で傘下の会員団体の中からご協力をいただいて,ランダムにサンプルを選んで調査をしているものです。主に8つの分類にしており,邦楽・伝統演劇・邦舞・洋楽・現代演劇・洋舞・演芸・その他という区分で実演家の傾向を分けて見ておりますが,回答者数が20名以上あった場合には,再分類としてさらに詳細をつかむということもしております。
 小冊子の6ページの下に,小分類も示した形での図表10,平均活動日数というものがあるかと思いますが,その上の図表9というのもありますけれども,実演家といいましても,必ずしも舞台やコンサート,ライブなどの出演だけではなくて,それに出演するためのお稽古や,テレビ,映画など,メディアに収録するための撮影であるとか,それから教えるという活動,それと実演芸術に付随する企画・制作・演出という周辺の関連する仕事も含まれています。これらを8つの分類で見ただけでも,圧倒的に舞台が多いジャンルと教えることが多いジャンルというのに分かれてくるかと思います。伝統演劇は比較的生の舞台が多く,演芸も同様ですが,教えることが多いのは邦舞,洋舞,洋楽となっております。
 それから,よりこれを詳しく見ますと,最新版の抜粋のほう,問7の(a)というところ,コピーで言いますと33ページからになります。まず,答えてくださった方に「イベントやライブに出ましたか」と,「はい」と言った人が77%いたというような読み方で見ていただければよいのですが,昨年1年間に携わった仕事,イエスかノーかというので示していただいたものを集計したのが33ページの表になっておりまして,さらにそれを,活動日数としてどうかというのを詳しく見ていったのが34ページ以降問7(b)のところです。
 これも先ほどの小冊子のほうで見ていただいたのと同様に,ライブ系が多いのは演芸で,教授業,教える活動が多いのが舞踊系であるというのが,34から41ページぐらいまでを見ていただくとわかると思いますが,この中でちょっと特徴的なところを申し上げますと,例えば現代演劇の分野では企画・制作・プロデュースというのに費やした日数が結構多いです。これは日本の劇団が制作者を専門的な役職と見ないで,役者さんが制作も兼ねると,お手伝いをいっぱいしているという状況で,制作者の数がなかなか増やせない,増えないというようなことを数値的にあらわしている部分でもあります。また,ほかのジャンルと比べて,教える仕事の活動日数が少ないのが,現代演劇と演芸ということになります。
 それから,総じて言えることですが,メディアに出演するということ,それからそのための稽古は日数で見ると割合が非常に少ないです。ただし,これがどの活動から収入を得ているかということになりますと,またその割合は変わってきております。つまり,日ごろ,メディア,テレビなどを通して,いわゆる芸能人という人を私たちは目にしているわけですが,一般の方が目にしているそういった芸能人というのはほんの一部でありまして,日本中の総体としてはもっといろいろな分野の実演家がいまして,分野によっては仕事の仕方が違っていると言えると思います。
 今回,図表ではお示ししておりませんけれども,10年ぐらい前の数値で,例えば邦楽,邦舞,あるいは音楽家のような教える活動が主の分野について都道府県別の人口でその人数を割りますと,全国的に割合は一緒で散らばっているという結果が出ております。人数にしますと,人口の多い首都圏域やそういったところに集中していますが,人口当たりの専門家では,教える分野では,結構平準化されていたという傾向がありました。
 このような活動は,その活動日数というのは,ライブの場所が,興行として成り立っている分野と成り立っていない分野があるということと,小冊子のほう見ていただけるとわかるかと思いますが,弟子入りした,習い事を始めた,養成所に入った,専門教育を受けるようになったなどという年齢から,初めて報酬をもらった,ギャラをもらったとなるまでの年数にも分野によって違いがありまして,一般に伝統芸能は長く,舞踊や器楽演奏などの分野は小さいときから始めていて,報酬がもらえるようになるまでに相当な年数がかかると言えます。それに反して,演劇や演芸は専門教育を受けた,あるいは弟子入りしたという年齢から報酬がもらえるようになるまでが比較的短いということがあります。それは,例えば演劇には高等教育機関があまりないということもありますし,演芸などは弟子入りしてから教えて,ちょっとずつレパートリーをふやしていくというようなこともあるからではないかと思います。
 次に,レジュメでいいますと,養成と現職者研修というところですが,私どもの社団法人芸能実演家団体協議会の場合は,プロになってからの現職者研修でして,養成ではなく,それ以降のサポートを中心に考えおります。それで,よく言われるのはキャリアアップについてですが,もう一つ,キャリアチェンジということも視野に入れていかなければいけないと思っております。
 お手元にお配りしております水色の表紙の小冊子の34ページ,35ページ,36ページあたりの図をちょっと見ていただきたいのですが,キャリアアップと言うと,まず大前提として,実演家が力をつけていくのは,第一義的には仕事を通じて,より大きな役をもらったり,大きな場に出演させてもらえたりというようなことを通じてであろうと思うのですが,その中でもキャリアをどういうふうに広げていくかということもあります。それで,養成所などがきちんとしていたとしても,そこで身につけた技術が養成所などを出てからもずっと通用するというわけではありませんで,いろいろな仕事をしているうちに壁にぶち当たったり,行き詰まったり,何か新しいチャレンジがしたくなったりというようなことはキャリアの局面で時々にあるわけです。そういったものをどうやって乗り越えて,より大きくなっていくかというようなことですとか,そこで皆さんいろいろな苦労があるのだろうと思います。
 きょうはご紹介しませんけれども,この冊子の前半のほうで,分野ごとにグループインタビューをして,実演家がキャリアについてどう考えているのかと,どういう問題意識を持っているかということはいろいろなお話を聞きました。そこで,自分自身が豊かにならないと豊かな演奏はできないということで,どのように豊かな人間として成長していくかというようなことを言及されていた方が各ジャンルを通じて皆さんいらしたということでした。これは人としての成長ということに直結するということを改めて思い,とても難しいと思ったのですが,その一方で,体のメンテナンスということがあります。仕事柄,体の特殊な部分を使ったりしますので,普通の人の健康維持とはまた違った観点でメンテナンスが必要ですし,起こりやすい故障というのもあったりするのですが,そういったことに対して本当はサポートが必要ですけれども,なかなかそこにまで手が回らないといったことや,お金がかかるので後回しにしてしまうとかいったことが現実では起きているというようなことがあります。
 また,グループインタビューの中ではあまり直接的に話題には出てこなかったのですが,実を言いますと,演奏家や俳優としてトップを目指すということは皆さんの意識の中に最優先としてあるのですが,それを生かした別の仕事があるかということが実は大きなことなのではないかということがありました。
 私の事務所は「芸能花伝舎」と言いまして,ここは小学校を転用してけいこ場として使用しており,いろいろな実演家が集まるところなのですが,先日,立ち話をしている,おそらくオペラ関係者の方々が,歌い手になる教育ばかり受けていても,つぶしがきかないので,歌い手になろうと勉強する人間が減ってしまう,だからもっと音大の中で音楽を生かした別の職業についての教育をしなければいけないのではないかというようなことをしゃべっていました。そういうことは皆さんの意識の中にもあるのではないかと思います。
 実際,音楽の場合は,演奏家にならなくても音楽の先生になるということがあるので,音楽家を目指す方というのは結構いらっしゃると思うのですが,そういったことが,つぶしがきかないジャンルというのはなかなか目指す人が少なく,途中であきらめて全く違った分野に行ってしまうというのがとても残念なのかなというのが感じます。トップを目指すための教育・養成・研修というのはとても大事だと思いますが,それと同程度に,トップを支える中堅がちゃんと仕事をしていける,周辺の仕事に生かすチャンスがある,そういう構造というのをどうやってつくるかというのが,結果的にトップを押し上げるのではないかと感じております。
 人材育成の支援策についてですが,さきほど申しました芸能花伝舎を2005年から始めまして,当時課題だと言われていたことを少し実現出来てはいるのですが,何分やはり一法人でできることというのは限りがありますし,このように整理をしたときも,一番足りないところをどういうふうにカバーしていくかという発想で,優先順位をつけて,いろいろトライをしていきたいとまとめたのですが,今回のこの部会の検討でも,実演家等の人材育成というと本当に幅広く,分野ごとに違った事情を抱えており,それ全部に対応するというのはなかなか難しいと思いますので,どういった優先順位で考えていくのかということを提起しておきたいと思います。
 つまり,養成機関が薄いジャンルについてや,仕事の幅をどういうふうにつくっていくかということ,さらには,実態調査を通じてわかったことは,実演家は自分の仕事にとてもプライドを持っており,やりがいがあるからこの仕事をしているというところがありまして,一般の勤労者では収入を得るため仕事をしているというのが割合としては最も多いのですが,一方,実演家はやりがいを見出してキャリアをつくってきているが一般の人からそういった仕事が理解されているかというところに関しては,割と悲観的なのです。目立つトップクラスの人がすばらしいというのはだれの目にでもわかると思いますけれども,中堅やわきで支えている人もものすごくすばらしい活動をされているということを伝えていくべきではないかと思います。概して舞台に立つ人より教える人を低く見るような風潮もなきにしもあらずですが,やはり教授業ということを通して芸術のすばらしさというのを人に伝えていくということも,すごく尊い仕事だと思いますし,教え方によって随分変わりますので,そういったことを全部ひっくるめて実演家の仕事だということの認識をもう少し広めていくことが必要なのかというふうに思っております。ですので,目立つところだけではなく,どうやって全体を構築していくかという視点で考えていただけたらと思います。

【宮田部会長】 ありがとうございました。大変すばらしい,たった15分の中に中身の濃いお話をいただきました。ありがとうございました。
 最初の,こちらのグラフは大変興味深いですね。トータルしたときにいろいろな,表が変わってくるなというのをつくづく感じます。それから,自分の豊かさから他人への喜びとなるということや,自分が豊かでないといけないということ,トップをつくる人材も大切だけれども,トップを支える人材が大切だということ,舞台に立つ人間も大事ですが,教える人間,その両者の関係が大事であるというようなこと,まさしく舞台そのものが人生そのもののような感じがいたしました。ありがとうございました。

【宮田(慶)委員】 私自身も新劇系の,老舗の劇団と言われる,50年以上続いてきた劇団に所属しているものですから,実演家たちの生活の大変さについては本当に身をもって感じています。
 それから,やはり劇団の中で仲間たちの仕事ぶりを見ていますと,本当に今おっしゃったようだと思います。また,現代演劇はまだ教授業が非常に少ない分野なのだということを,今これを拝見して思いましたが,役者の本業だけでなく,それ以外の分野に固定収入を何とか得ようとしている人が本当に年々ふえてきているので,引け目に感じることなく,立派に一つの技術職として,世間的にも認知されていけるといいなと思っています。
 ということで,私自身は,きょうは資料5をお配りさせていただきました。主に新国立劇場の演劇研修所についてということで,資料5でお配りしたものは,演劇研修所の概略の話でまとまっているのですが,後ほどこのことについても補足しながら,ご説明申し上げたいと思います。
 今ちょうど米屋委員がおっしゃっていた,実際プロになってからどういう仕事をするかということにも本当に深くつながってくるのですが,演劇特に現代演劇という現場で仕事をしている者たちにとって,自分のよりどころと胸を張って言えるようなキャリアというのはどこをもってしたらいいんだろうということがやはり常にありまして,多くの場合,独学,それから組織でなく,徒弟制度などで育っています。演劇の場合は,例えば新劇系の劇団で育ってきた人間も多いのですが,小劇場運動が出て以降,自分の劇団を若いころ立ち上げ,そこで演出なり役者なりをやってきて,何十年,とにかくひたすら現場で舞台を踏むこと,演出をすること,そういうことを重ねてきて今現在に至っている者たちがほとんどです。そうしたときに,自分のやり方ではやってきたけれども,対外的な評価や例えば教えるに当たってもどういう資格を持っているかといったシステムが一切ありませんので,非常によりどころのない状態のまま仕事をしているというような人が多いのが現状だと思います。
 そこで,何かしら,一度は若いときに系統立った教育プログラムを受けて,一人の演劇人としてきちんと胸を張って世の中に出て行けるシステムはないかということが長い間,特に現代演劇界の切望だったのです。
 今はテレビ,マスコミも発達していますし,小劇場が出てから役者になりたい,演出をやりたいという人間が非常にふえたのですが,実際は役者といっても基礎がなくて,自分たちの身近な劇団だけで通用する,その場限りの演技を身につけてしまって,役者だと言っている人がいたりします。それから,演技には興味があるんだけれども,あまり舞台には興味がなくて,テレビに出て有名になりたいというのが本音で,いざ実際役者の仕事を通して見てみると,基本的な,所作ができない,日本語がしゃべれない,自分が生まれたときから,自分の人生の中で育ってきたままの癖を引きずっているだけで,自分の身の回りの人とのコミュニケーションはとれるかもしれないけれども,舞台表現というようなものにのせた場合に,全く表現技術,発音技術が追いついていない人が多かったり,また,例えば古今東西の戯曲にほとんど触れることがないまま,役者だと言っている人も今現在かなり多いのが,悲しいことに現状です。「シェークスピアを読んだことあるか」と言うと,「読んでいません」と言う若い役者が実際にいます。それを役者と呼んでいいのかどうかというのも非常に問題はあります。 とにかく戯曲を読ませても,台本に取り組んでも読解力がない,どういうふうに取り組んだらいいのかわからない若い役者が多い。私自身演出を始めてもう30年近くなりますけれども,役者のレベルがこの程度で,果たしてレベルの高い舞台芸術がつくっていけるんだろうかということは,常に危惧を抱いております。
 しかしながら,では,演劇について本気で学ぶとしたらどこに行けばいいのかということを考えたときに,新国立劇場の演劇研修所ができて今年で4年目ですが,以前は,私自身が演劇人を志した30年前と全く同じ状況で,まじめに勉強したいけれども,果たしてどこへ行ったらいいのだろう,大学なのか,劇団の養成所なのかと悩んでしまう状況でした。私自身,二十歳のときに悩みました。それでいろいろ自分自身でも調べました。私は本当に演出を自分の仕事にしていきたいのだけれども,一体どこに行ったらいいのだろうと考えました。それぞれ特色は何か,というところまで調査をしたのですが,その結果は現在に至るまで変わってませんでした。
 つまり,大学は一般教養課程もございますけれども,押しなべて広く浅くになりがちである。確かに週5日制,6日制という非常に優秀な,非常に授業数の多い体制ですが,しかしながら,押しなべてのカリキュラムにどうしてもならざるを得ない。それと同時に,座学は非常に多いが,実技が少ない。
 エデュパという芸能関係の進路情報サイトがございまして,そこが,平成17年のデータをまとめたものを,新国立劇場のほうでもデータのもととして参考にしているのですが,そこによりますと,今現在も学校のデータとしては基本,週5,6回,押しなべての教育にどうしてもなりがちであるということがあります。それから,公立の大学などの授業料は,ほかの経済学部や政治学部と基本的には同じで,少し割高です。
 それに対して,民間の劇団やプロダクションがやっている養成所は,授業日数を調べたところ,大学と同じように週5,6日というところと,週1日もしくは不定期というところまで,本当にさまざまだということがわかりました。
 それに伴い,授業料も例えば大学などの場合は,ほかの学科と一緒ですから入学金から授業料含めて百何十万から200万ぐらいなのですが,一般の民間のところですと,一番低いところでは月額3,000円というところがありました。ある程度老舗の劇団で,そのような養成を何十年もやっているところは,授業数と講師料,それから施設料,教材費,実習公演費,いろいろなものを含めていくと,やはり100万位にはなっているのが実情です。
 しかしながら,教育の内容で考えますと,劇団の養成所は,基本的には自分の劇団の新人を育てたいというのがどうしても主目的になってしまいます。それから,学校が非常に座学が多く実技指導の時間が少ないのと逆で,即戦力,速成教育といいますか,やはり実技の時間が非常に多くあります。また,やや,どうしてもその劇団やプロダクションの性質が傾向として強くあらわれがちです。なので,劇団によっては全く手をつけていないジャンルもあったりします。例えばシーンスタディーのような演技の勉強の時間は非常に多いけれど,日舞に全く手をつけていないという場合もあったりします。どうしても劇団の枠の中でできることというのが,非常に限られてしまうのだなと思います。
 結論を言いますと,既成の養成機関,学校,もしくは民間の劇団なりプロダクションの運営する養成所というのは,内容がかたよりがちなのではないか思います。そこでどうしても求めたかったのは,技術,実践的な技術の習得と同時に,演劇人としての広い視野,それから広い見聞,広い分野に関しての知識の習得を何とかさせたいということです。例えば細かい所作ごとができても,世界の演劇がどういうふうに成り立ってきたのかということや,ギリシャの劇場がどうしてあのような構造なのかなどということに一度も触れることなく,とても偏った演劇人ばかり育っていっているのは,非常に忍びないと感じるのです。何とかもっとおおらかに広い視野を持った中で,プライドを持って自分の役者や演出の仕事を担っていくような演劇人をぜひとも育てたい そのような切なる願いで4年前につくられたのが,新国立劇場演劇研修所だと感じております。
 それで資料5の最初の「(1)設立の経緯とその狙い」の3行目あたりから今申しましたことが書いてございます。
 民間では予算やスペースの問題から十分な教育が施せないので,欧米並みの専門教育機関の必要性が長く訴えられてまいりました。平成15年から検討会・調査が行われ,17年度から研修所が開校いたしました。3年制なので,やっとこの春初めての卒業生を出したところでございます。後でご説明申し上げますが,この卒業生たちが,どういうふうに身の振り方を考えていくのかというのが今,課題なのですが,ちょっと置いておきまして,(2)番目の「研修の方針」ですが,ここの1行目にまず目的が書いてありまして,明晰な日本語を使いこなし,柔軟で強度のある身体を備えた次代の演劇を担う舞台俳優の育成を目的とするとございます。まさにこのことを専門にやろうとしています。
 それから,4行目に,3年制,週5日の全日制フルタイムというふうになっています。これは開設当初目標といたしましたのは,英国ロンドンにRADA(ロイヤル・アカデミー・ドラマティック・アーツ)という組織がございます。ここの教育システムが非常にすばらしいものになっております。私自身も個人的に以前から,休暇をとってロンドンに行った時に学校を訪ねて授業を見せてもらったりしていたのですが,実にオープンな,窮屈でない,それでいて非常に視野の広い教育です。それで,本格的に研修所を立ち上げるに当たって,RADAの教育システムを非常に参考にさせていただいた経緯があります。
 夏休みとか春休みはございますが,基本的には年間33週,1日7時間です。週5日体制ですが,7時間やっています。実際にはほかのメニューも入ってきますと休みにどんどん食い込んできたり,休みの期間も彼らは自主稽古をしていたりしますので,ほぼ年間フル稼働のような状態で動いています。
 それからあと,次の2ページ目からはカリキュラムが書いてあります。細かく書いてありますが,次のページをめくったところにまとめて書いてあります。
 1年目には,主な実技と書いてありますが,要は1年目は基礎訓練です。とにかく声と体をつくる。本当に余計なことは考えずに,とにかくひたすら毎日の課題をこなすということ,1年目はとにかくたたき込みです。それまでの,演劇はこんなに体を使うと思わなかったとか,もっと頭だけでできるのかと思っていたという考えを全部払拭するようにします。とにかく1年目が基礎訓練です。それから声のトレーニングは1日でも早くスタートしたほうがいいと思っておりまして,役者の声ができるには,器官としての鍛えが必要ですからどうしても時間がかかります。しかし,先ほど米屋委員もおっしゃっていましたが,我々が一生懸命教えていても,例えばその生徒が大恋愛して大失恋すると,いきなり声ができたりするようなこともあってどうしても人間性とリンクする部分があるように感じます。不思議なもので,その人の内面と相まってこないと,声というのはできないと感じています。しかし,何を経験するにせよ,その前にトレーニングはとにかくスタートさせようということで,1年目は声と体づくりをしております。
 研修2年目というページがございますが,2年目になりますとようやくキャラクターを創造するという,俳優というのは一体何をする仕事なのかということに入っていきます。ここの3行目に,「スタジオ・サポート委員会によって選定され」とありまして,やっとサポート委員という名前が出てきますが,使う教材や進め方について,サポート委員が何となく,緩やかに講師に対して要望を出すというような形になっています。例えば日本の近代古典,久保田万太郎であるとか岸田國士であるとか,その辺のきちんとした日本語をまず習得させてほしいという意見が出れば,そういう戯曲を選定したり,それから自分たちの日常から一番遠い,例えばギリシャ悲劇のようなものにぜひとも取り組む勇気を与えてほしいというような意見をいただければ,ギリシャ悲劇を課題とするというような,そういう形でサポート委員と現場がリンクしながら進んでいます。
 このように2年目の研修では,あらゆる角度から役者としてキャラクターをつくるという実際の作業をメインにしています。ただし,ずっと継続しなければいけない声のトレーニングや基本的な日舞であるとか,舞踊であるとか,殺陣であるとか,そういうものはコンスタントにずっと続いています。基本的には午前中がそういう基礎訓練,午後になりますと,シーンスタディーの稽古というような形に2年目は入ります。
 それから,3年目になりますと,最後のほうにちょっと書いてありますが,いよいよ実践ということで舞台人として働くということになります。基本的な日常的な授業はありません。年3回,演出家による実習公演が行われています。その稽古の中で実践として,役者としていろいろな作品世界に向き合いながら,舞台を立ち上げていくということをやっています。
 それと同時に,最後のほうに1期生2007年の活動状況がついているかと思いますけれども,3年次になりますと,これだけの活動が始まります。これは主に講師の方たちにお願いをしまして,実践的に,ごらんのような活動を行っております。やはりどうしても新国立劇場の公演が多いですが,外の作品にもどんどん講師,主に演出家たちを中心として,どんどん連れ出していくようなことをしています。例えば2段目に,豊島未来文化財団あうるすぽっとの公演にプロンプターとして参加していますが,これは私自身が引っ張り出したりしています。おかげさまで,どの現場でも非常に評価が高いです。プロンプターとして参加したり,代役として参加したり,出演者として参加したりしていますけれども,どこでも研修中とは思えない非常に落ち着いた冷静な判断力を持った,なおかつ非常に実践的な技術を身につけた子たちだねというような,非常にうれしい反響をいただいて心強くしたところでございます。3年次は大体そのような形で進んでいます。
 その後,講師陣についてですが,所長の栗山民也氏を初め,今現在,日本で考え得る最高のスタッフをそろえていると思っております。各分野,本当にこの人をおいてはないという方たちに授業をやっていただいています。こんなメンツはとても民間には来てくれません。おまけに高くてお呼びできません。
 それで,前回配られました新国立劇場の年間予算のところを見ていただくとわかるんですが,あまり予算のない中で,一流の講師たちが非常に安い講師料で来てくださっています,講師の方たちも非常に楽しみにしてくださっています。やっと国立でこういう研修ができる。マンツーマンで,目の届く指導ができる。それから,目に見えて生徒が伸びていくということを講師の方々が非常に楽しみにしてくださって,安い講師料に甘んじて,育てばいいよという思いで皆さん来てくださっているのは,もう感謝以外の何物でもないような状況です。とにかく専門家の養成を目的としたいということ,それからなるべく広い範囲の習得を目的としたいこと,レベルの高い,バランスのとれた授業をしたいということです。
 最後に,現在抱えている課題と,今後の夢を少しお話しさせていただきたいと思うんですが,現在抱えている課題としましては,今は,芸能花伝舎の一角の,かつては幼稚園だった部分をお借りしまして,その施設で研修所をやっておりますが,目が届く人数ということで各学年15人ですが,3学年そろうと45人で,恒常的に狭いです。3学年になって,授業をどんどん活性化して多角的にやっていこうと思っているんですが,今は,花伝舎の部屋を1部屋ないし2部屋お借りしつつ,本拠地の研修所のスペースも使いつつ進めているような状況です。本当はもっともっと拡大したいと思うのですが,どうやっていったら場所の確保ができるだろうというのが本当に頭の痛いところです。例えば殺陣の稽古とか,そういうものは広いスペースがないものですから,勝手に花伝舎の駐車場でやっています。校庭だったところが駐車場になっているものですから,青空のもと竹刀を振るのもまあいいかと言いながら,みんなでそんなところを使ったりしています。
 それから,2点目に,やはり講師の確保というのがやはり非常に難しいです。これだけ一流の講師がおかげさまで常に授業をやってくださっておりますが,やはりスケジュールの調整が非常に難しいこととか,それからやはり,既にどこかのワークショップで,実績がある講師ならいいのですけれども,例えば新しいジャンルに取り組みたいと思って新しい講師をお願いした場合に,非常におもしろいのだけれども,教育者としてのスキルがまだ未熟だったために,一時期お願いしたのですが,うまく継続できなかったというようなこともございます。そのように,ジャンルを広げたいが,本当に安心してお願いできる講師はどなただろうというようなことが非常に悩みの種です。
 後でこの各講師の経歴を眺めていただけるとわかると思うのですが,どうしても日本はライセンス制やきちんとした教育制度がないまま,皆が独学で,自力で育ってきた演劇人ばかりなものですから,日舞とか舞踊でありますとか,幼いころからその分野で活躍なさった方は別として,我々演出家にしても,本当にたたき上げてきたというような人間ばかりなので,そこでやっと実績を見込んで講師としてお願いをして,何とか授業をやっているような状況です。あと,コンスタントに今授業に入っていただいている,池内美奈子さんそれから山中ゆうりさん,ローナ・マーシャルさん,ジェレミー・ストックウェルさん,ジム・チムさん,これらの方々は,日本人それからイギリスの方,香港の方がいらっしゃいますけれども,養成機関に教育者としてのプログラムがあり,そこを卒業して資格を持っています。ですので,この方たちに今,基本的には授業の主なメインのところをお願いしているわけですが,安心して任せられます。それはやはり,演劇教育としての専門の資格,技術習得をしているからです。
 養成機関の3年間の間にはマンツーマンで生活指導があるとか,さまざまな問題にぶつかります。うまくいっていたかなと思うと思いがけないところでハードルにぶつかったりとかいうこともあり,そういうときに一つ一つメンタルな部分も含め,向かい合える専門職のような講師たちが残念ながら非常に少ないと思います。それから,前回出ていたように,卒業後のキャリアパスの問題も課題です。
 最後に1つだけ,将来構想として。今役者の養成をやっておりますが,ぜひとも演出のコースをつくりたいと思っています。これは,私も,ひとりの演出家として切に願っております。本当に二,三人でもいいです。このことは研修のオペラやバレエのほうからも同時に課題として上がっています。なので,ぜひとも演劇研修所の中に,オペラやバレエにも対応できる演出家の養成コースというのを早急に立ち上げたいと思っております。将来的にはスタッフコースも併設できたらいいなとも夢見ております。それからキャリアパスの中で,ここで育てた人間が,全国の教育機関に教師として行けるようなシステムができるといいなというように思っております。

【宮田部会長】 ありがとうございました。抱える問題というのは,大学は座学の時間が多い,養成所は実学のほうが多い。どっちも必要なんですけど,両者とも片方に寄ってしまっているということの現実かと思います。それに対して,新国立劇場の研修所は,両者の関係が成り立ったものができ上がりつつあると思います。
 それから,演出家の養成も,これは研修所では,現在ないのでしょうか。

【宮田(慶)委員】 現在ないです。ですので,芸術監督の鵜山さんも,提言を本当に積極的に研修所のほうにくださっております。演出家はどうやって育ってきているのか,現状ではわからないような状況になっているんです。だから,みんなキャリアはばらばらです。私は演出者協会というところにも所属しておりまして,そこで演出家の養成に関して年間数回,ワークショップをやっています。これができたら演出家だというような基準がないものですから。

【宮田部会長】 そうですね。なかなかその教科書というのは難しいところもありますよね。

【宮田(慶)委員】 ただし,押しなべてこのぐらいはやれなくてはいけないということがやや見えてきたように思うので,それをもとにつくっていけたらと思っております。

【宮田部会長】 新国立劇場の評議会に行ったり舞台は見に行ったりはするのですが,研修所は行ったことがありません。研修所は見学できるものなのですか。

【宮田(慶)委員】 歓迎します。初台と別になっており,花伝舎のほうにおります。

【宮田部会長】 私の学校も,展覧会とか,演奏会だとか,オペラとか,そういうやっているものを見に行くのは結構できます。でもそうではなくて,教育現場を案内しますと俄然ファンになってくれて,次は味方になってくれるというようなことがあるので,ぜひ現場を見てくれという話をきのう大臣なんかにさせてもらったら,ぜひぜひなんて言ってくれているということがあるので,やはり味方をふやすということは理解の幅が広がりますよね。ありがとうございました。
 では,佐々木先生,よろしくお願い申し上げます。

【佐々木涼子氏】 今,研修所のお話を伺って大体,私が言いたいこともその線だなという気がしているのですが,その前にまず,芸術とか文化とか言いますけれども,その中で音楽と舞踊,あるいは演劇と舞踊は,日本の中での位置づけが全然違うのです。ですから,芸団協のこの資料を拝見しても,それぞれのジャンルが抱えている問題が全く違うのです。私は本日,舞踊のことを考えてまいりましたが,ここへ来てみて,舞踊だけのことをお話ししてよろしいかという気がしてきたのですが,とりあえずは,私は舞踊の立場に立っておりますのでそのことをお話したいと思います。
 まず,舞踊がほかの芸術と全く違う立場にあるということをお話しようと思います。学校教育の中で芸術と言われているものは,長らく音楽と美術だけで,舞踊は体育の中に一部含まれているだけでした。ですから,舞踊に関して,これが果たして芸術であるかどうかという認識が日本の中にしっかりでき上がっていないと思います。それと同時に,教育システムの中で,芸術として舞踊を教える制度が全くでき上がっていないわけです。
 そこのところをわかっていただいた上で話を聞いていただきたいのですが,芸術の分野で人を育てることというのは,すなわち技能を育てることです。ですから,例えば福祉のように技能がないところで人だけ育ててもだめなわけです。それから技能だけが育つものでもないので,それはどうやって育てるかといえば,人を育てることです。ですから,技能と人を一体のものだというふうに私は考えて,必ずしも人材ということにこだわらずに,幾つか,今の舞踊の問題点というのを出してみました。
 現在,ヨーロッパの諸国を見渡してみて,舞踊に関して公的な教育機関を持っていない国というのはないと思います。まず,フランスはパリオペラ座というのがルイ14世のときにできまして,1713年にもう学校が始まっていますし,それからスペインでも,ポルトガルでも,それからもちろんイギリスでも国立舞踊団があるんですが,前に述べた教育制度の特質もあって日本にはそれが全くないのです。
 日本の舞踊の中にもいろいろありまして,伝統芸能であるところの日本舞踊,それから同じく古典舞踊なのだけれども外来にルーツを持っているバレエというのがあって,それと同じくらい長い伝統を持っている現代舞踊があります。加えて,演劇の小劇場運動のように,伝統や枠組みを持たない,自発的な性格のコンテンポラリーダンスというのがあります。それらがみな別の事情と障害を抱えているのですが,芸団協の資料を拝見すると,お互いに交流をしたいということを言っていらっしゃる。
 そんな状況の中,私個人の考えでは,海外にルーツを持っている,いわゆる洋舞というのは,確かに海外の現状なり伝統なりを尊重しなければいけない面を持っているけれども,日本人がヨーロッパ人のまねをしてもしようがないので,その伝統を踏まえた上で,日本のバレエなり,現代舞踊なり,コンテンポラリーダンスをつくっていってしかるべきだと思っています。これはヨーロッパのものであっても,日本人にしか踊れないバレエというものがあっていいので,フランス人に見まがうようなバレエを踊っても,フランス人から見てもヨーロッパ人から見てもおもしろくないのです。
 そういうことを踏まえた上で,今の舞踊の実際はどうかというと,バレエも,現代舞踊も,日本舞踊も,全部お稽古ごとで小さいときから習ってきています。そして,お稽古の先生がトップになって,発表会という形式で公演をしているんです。そういう発表会のような公演は無数にあるんですが,これが,小さなお山がいっぱいあって,それぞれが,ある種の天皇制のようになっています。外へ出て行くことが先生への一種の裏切り行為のようになりますので,とても難しい。
 一般の認識も,制度も,実際のシステムもお稽古ごとであるところの舞踊を,いかに日本人全員にとってのバレエ,日本人全員が認める現代舞踊,日本舞踊という公的なプロの芸能へ持っていくかということが今の一番大きな課題だろうと私は思っています。
 ジャンルによって少しずつ違いますが,お稽古ごとで上に先生がいてという状況を乗り越えて共通の水準を引き上げることが重要だと思います。特にバレエに関して言うならば,国際的に認知されるようなレベルまで持っていくことが当面の課題です。それから日本舞踊も,海外の人たちから,あれが日本の固有の伝統芸能だとしっかり認知されるように,発信できることが重要だというふうに思っています。
 文化庁の在外研修制度は,国際交流をやっていらっしゃるのですが,実のある国際交流というのがなされていないように感じます。
 また創造性ということに関しては外から入ってきたダンスは,創造性のある作品を発信することができずにいるし,それから日本固有の日本舞踊はなおのこと古典作品に固執して,新しい日本舞踊をつくることができずにいる。
 その他,問題としては,踊りたい人,踊りたかったんだけれどもそれを道半ばにして現在は教えている人はいるのですが,その芸術活動を支えているマネジメントの組織が今非常に薄弱です。ですので,その辺の周辺スタッフの人材育成もするべきではないかと思います。
 現在は,公演のお世話をする私立のマネジメントの事務所のようなものはあるのですが,これは個人の事務所ですので,あまり公的な視野で動いてくれないので,こういうものがもう少し公的な性格を持つようになったらいいのではないかとも思います。そういうものがあると,アーティストがその後,転職もできるだろうと思うのです。
 また,上に先生がどんといる形をとっていますので,バレエでも日本舞踊でも。新陳代謝がなかなかできない。スターが固定化するというのが今の舞踊の問題点です。
 さらに,ダンサーというアーティストが,社会から芸術家だというふうに認定されるような,制度がない。何をもって芸術家と言っていいのか,外へ自分自身をアピールしていいのか,自分自身も自信を持っていいのかという制度が全くできていないのです。
 そして,最後に,公演の場,技芸を披露する場を広げていきたい。
 大体こういう問題が解決されれば,今の舞踊はかなりレベルアップするだろうと思われるんですが,これはどれもかなり抜本的なことですので,どうやったらいいだろうかというふうに考えております。それで,今の新国立劇場の演劇研修所の話を伺っていて改めて確信したのですが,やはり公的な研修機関をつくることしかないと思います。
 たった1つの提案というのは寂しいようですが,確かに今,少しずつ大学の中に舞踊を教える部門ができてきてはいるのです。けれども大学というのは学問研究の場ですので,そのメンタリティーと舞踊の研修ということがどうしても相入れないような気がするんです。ずっと体育学科の中の,体育の先生の養成として舞踊というのがありましたので,昔の高師とか女高師講師の中に舞踊のカリキュラムというのがありましたので,今でもお茶の水や筑波大の中にかなりリーダーシップを持っていらっしゃる方がいらっしゃるが,これが実演家に結びつかない。ですので,大学の中に養成機関を置くということは,舞踊の発展のためには効果的でないことだと思いますので,大学と別に研修機関をつくるというのが,まず充実した環境をつくる第一歩だと思います。
 たとえ小さくてもいいから,プライベートなお稽古場ではない,バレエ教室ではないところがあって,その上に,大学や,大学院に相当するものがあるというようにできないかと思います。バレエ教室や稽古所の優秀な生徒が,もう一回オーディションなり試験なりを受けて,入学するような制度はできないかと思うのです。今は新国立のバレエの研修所というものがあって,これが大変いい教育効果を上げています。ですので,あれを発展させる形をとってもよいと思います。あるいは,あれを吸収する形で別につくってもよいし,それから,さっきおっしゃったように研修所の目的は,結局は新国立劇場の演劇のための新人養成ですよね。ですから,あくまで新国立のためのバレエ研修所だというのならば,その研修所をお手本にして,ほかにつくってもいいのではないかと思います。国立芸術学院のような形で,教育制度を見ながら,教育制度とは別枠のものをつくるというのがとてもいいことだと思います。
 演劇も音楽も,音楽大学というのはありますけれども,この先,音楽と舞踊,演劇と舞踊みたいにして,相互の連携をとることができれば,全体的な実演家の育成には大変実りを上げることができるのではないかというふうに考えています。
 また,そこを交渉の拠点として,例えばパリオペラ座のバレエ学校とか,イギリスのバレエ学校と交換制度形式で留学をさせるのです。例えば,こちらからだとオペラ座に1年間置いてくださいと。向こうから来る場合は,必ずしもバレエのところで受け入れなくても,伝統芸能のお能なり,歌舞伎なりの教室にお迎えしてもいいということにする。バレエだけではなく,コンテンポラリーダンス,現代舞踊,日本舞踊というのを全部集めた舞踊学院のようなものをつくって,留学生を洋舞から送り出して伝統芸能のところへ受け入れてもよいわけです。そのような形にして,海外との交流をもう少し実りを上げていただきたいという気がします。
 以前,在外研修の審査員もしました。フランスに行く人がみんな,メナジュリ・ド・ヴェール,ガラスの動物園というところに行くのですが,それはフランスではあまり聞かないところなのだそうです。ダンス教室だと思うんですが,恐らくインビテーションを簡単に出してくれるのではないかと思われます。でも,そこで何をやってきたかということが全くわからない。日本へ帰ってきてもその成果をきちんと,還元することができずにいるんです。将来は,受け入れ先のカリキュラムをもとに研究計画をつくり,やってきたことを日本に戻ってから皆さんに還元するという形にしないと,現在のままでは留学制度が無駄に終わっているという気がします。
 それと,創造性の活性化というのが課題ですので,必ず振りつけ部門を置くこと。場合によっては大学のように転科を可能にする。ダンサーであるよりも,自分は振付家のほうが向いていると思ったら,そちらに転科するということを可能にする。あるいは,ダンサーの教育をしていても,振りつけの勉強もするし,そこから舞踊学,演劇学,音楽の勉強も出来るようにする。これは今,バレエの研修所ではやっているようですね。
 その舞踊学院で正規の学生とは別に,例えば一,二年の研究員制度とか,奨学金制度とか,そういうものをつくって,キャリアが立ち消えにならないようにするということも考えていただきたいなと思います。
 日本舞踊の場合,こうした総合的舞踊学院がよいのは,これによって恐らく初めて何々流の何々先生のもとでという人間関係のしがらみが越えられることではないかと思います。1つ考えるべき問題は,日本舞踊には流派というものがありますが,その流儀が消えてしまうのではないかと。今も流儀間の交流が行われているために,それぞれが持っている固有の味というのはかなり失われつつあるのですが,その分全体が非常にレベルアップしていることも事実です。ここで研究機関として,今の大学の中で行われている舞踊研究のような学問研究のセクションも1つつくって,何々流の個性というのは何であったのかということを勉強する場を置けば,ただ閉鎖的な世界でこれがうちの流儀ですと言っているよりは,もっと客観的な評価なり判断ができるようになるんじゃないかというふうに思います。
 そういう学院をまず東京につくって,そして地方の大きな都市に幾つかの拠点をつくって,地方からの吸い上げと地方への還元ということを考えていったらいいのではないのではないでしょうか。お金の問題などもあるかと思いますが,この大学をきちんと正規に卒業した者へのの学院修了者という資格が出てくると,恐らく民間のバレエ団でもダンサーとして,あるいは教師として就職の道が開けると思いますし,いろんな意味でキャリア展開が可能になると思います。
 これが実演家のほうの問題ですが,あとはやはり受け手のほうを育てていかないといけないと思います。芸術というのは発信する者があって,それを受け取る側が必ずあるわけですので,この辺の支援をやっていただきたいと思います。今,子育て支援によって世間の認識が変わったと思うんですが,そのように,芸術を受け取る側への支援ということを考えていただきたいと思っています。
 どういうことかというと,芸術鑑賞について何かサポートをするとか,キャンペーンを行うとかということです。もし本当に日本が文化国家になろうとしているのであるとすれば,ほんの一握りの芸術実演家がいるということではなく,国民全員がそれについての高い認識を持つようになるということですので,例えば企業への働きかけなどが必要だと思います。ただメセナになってくださいというだけではなくて,企業が持続して支援していくように国として働きかけていただきたいということです。メセナになっていただくことはうれしいことですが,事業というのは営利で動きますので,ちょっと不況になるとぱっと手を引くわけです。ですので,いろんなことを公的なレベルでやっていただかないと持続しないというふうに,ここ数年,つくづくと感じております。

【宮田部会長】 ありがとうございました。
 今の佐々木先生のお話も含めて,いかがでしょうか,25分ぐらいですが,自由討議ということでご議論いただけたらと思います。いかがでしょうか。

【青木長官】 どうも大変貴重なお話,勉強になりました。
 一つ,演劇研修所,それから舞踊の研究所,これはどのくらいの時期に就学するべきだとお考えですか。日本の教育制度の中で,大学を含めて,欠けているところではないかとも思うのですが。しかし,それを一体どういうふうに日本の教育システムの中に位置づけるかとなると,何歳から入学できるようにするか,何年になっても入れるのかという問題と,それから公的教育との関係があると思いますが,それで,その資格を学歴と同じにというお話ですが,その場合に,例えばこの研修所を出た人が一般大学の大学院などに進学できるかという問題があると思います。私が1つ心配しているのは,演劇の場合も実技,発声法や,日本語などは非常に重要で,こういうものは普通大学でやっていません。それからもう一つ演劇だと,もちろん実技があります。それから,やはり大学で教えるような教養的,専門的な知識ですね,それとの関係が将来の発展ということを考えると重要ではないかと思うのです。その辺のことで何か,こういうものができる,現状はこうで,それからこうなる,どうなるというご意見・ご提案をお聞かせ願います。

【宮田部会長】 まず,一番最初の就学の問題ということに対して先生のほうから一言お願いします。

【佐々木涼子氏】 演劇と舞踊が違うのは,舞踊は身体訓練が主ですので,若いときからやる必要があるのですが,第1ステップは,高校修了者を募集するという形で,大学と別にやるべきだと,思っています。非常に充実してきて世の理解が得られたら,中学の段階から広げていけばよいと思います。例えばフランスでもスペインでも,高校卒業の資格を与えているのです。普通の義務教育をそこで併用していって,実践を重視しながら高校の資格をとるというのがいいというふうに思っています。

【宮田部会長】 ありがとうございました。宮田(慶)委員,その辺に関していかがですか。

【宮田(慶)委員】 一応,受験資格としては18歳以上30歳以下ということになっています。だから,高校を卒業もしくは同等の資格を有する……

【青木長官】 遅くはない。

【佐々木涼子氏】 それは,一般のバレエ教室である程度の成果を上げている人が受けるところですから,いいのではないかと思います。

【宮田(慶)委員】 そうですね。

【佐々木涼子氏】 ええ,そうです。ですから,素人が受けるわけではなく,恐らくトップの,スターの候補者がそれ以上を目指してという感じで受けることになると思います。実際難しくなると思いますし。

【富澤部会長代理】 佐々木先生が言われていることで,これは多分,今,国立のことをイメージしているのだと思うのですけど,民間では,例えば宝塚歌劇の学校がありますよね。そこには中学でも高校でも入れると。その国立版みたいな感じなのですか。

【佐々木涼子氏】 そうですね。必ずしも国立でなくても,国からの援助があって,そして,一般にこれは公的な性格の学院であるという印象を与えるようなものが望ましいと思っています。

【高萩委員】 今,演劇のほうは新国立劇場の説明があったので,佐々木さんのほうは新国立劇場じゃないものというのを盛んにさっきおっしゃっていたと思ったのですが。

【佐々木涼子氏】 新国立劇場であってもいいのです。それを発展させても。

【高萩委員】 新国立劇場のバレエ研修所の今の問題点というのは,どこら辺なのですか。

【青木長官】 大学にアートの研修コースのようなものがないのが非常に欠点だと思っています。ご指摘のような独立の必要と同時に,今の日本の大学にほとんどこういうものがないのが,個人的に以前から問題点だと思っています。

【高萩委員】 演劇のほうは比較的,今のまま頑張って,もうちょっと充実させればいいかなと思うのですけど,新国立劇場のバレエ研修所は何か,決定的な問題があるんですか。

【佐々木涼子氏】 小さ過ぎることですね。それと,新国立バレエに直結し過ぎていると思います。ただ,人数がふえて,今の段階でも新国立バレエに必ずしも全員入れないかもしれないというふうになっていますので,そのときには,私立のバレエ団に流れていくと思います。ですから,まだ年数も浅いことですので,現段階ではただちょっと何とも言えない部分もあるかと思います。

【高萩委員】 実は,次回が,新国のバレエ団の方が来て,ここでしゃべってくださるものですから,何が問題かが先にわかっていると非常に我々も次の時聞きやすいかと思いまして質問いたしました。規模だけの問題なのか,それとも根本的な問題があるのかどうかということについて。

【佐々木涼子氏】 根本的には,新国立バレエ研修所は教育は非常にいいと思います。
 ですから,これが新国立バレエではなく,日本のバレエ全体のものになってほしいということです。

【米屋委員】 恐らく演劇とバレエの決定的な違いは,観客層の大きさにあると思います。演劇は十分とは言えないまでも,その人たちを使って舞台をつくろうという人が存在するんですけれども,バレエの場合はバレエ団が,必ずしも踊り手にちゃんとした支払いをして公演を行えないという観客層の小ささがあります。そこがあるので,どんなに育てても,それを民間のバレエ団で引き取れるかといったら,難しいという問題があると思います。つまり,舞台活動でちゃんとプリンシパルが食べていけるという状況が日本につくれていないという,そこの問題だと思います。

【高萩委員】 せっかく部会長も次長も部長もいらっしゃるので,もしそうならば,ぜひプロのバレエ団を4つか5つつくってくださいと言ったほうが早いんじゃないですかと思います。
 つまり,文化庁は拠点形成事業というのをやっていらっしゃって,公共劇場の拠点へ支援をしている。ですので,バレエ団を持ったらきちんと国が半分の費用を半分の費用を出すという施策があれば,プロとして成り立つし,そのための新人育成もしっかりしてくるというような流れができるならば,そういう意見のほうがわかりやすいと思いますが,いかがですか?

【佐々木涼子氏】 公演の場まで準備できる,そういう公共のカンパニーのようなものをつくることは,学校をつくるよりもっと難しいと思います。だって,何十人も必要になりますから。

【高萩委員】 いや,研修所をつくって生徒が出ても,結局働くところがなかったら,しょうがないですよね。

【佐々木涼子氏】 でも,研修所は今は十数人ぐらいですけれども,新国立バレエ団だけで吸収するのではない形で,何十人かの人ができると,それが今の私立のバレエ団に行くだけで,全体のレベルがすごく上がると思うのです。

【高萩委員】 私立のバレエ団ではそういう人が吸収できないだろうというようなことをおっしゃったかと思うんですけれども,それは大丈夫なんですか,

【佐々木涼子氏】 研修所でまず卒業していく人数が少ないでしょう。だから,大丈夫だと思います。

【池野委員】 今,お話があった,舞踊家がきちんと職業として成り立っていかないということで,ちょっと現状をお話したいと思うんですけれども,例えば民間にたくさんのプライベートな養成機関がありますが,優秀な人はどうなるかというと,海外のバレエ団で採用されるんです。
 それとプライベートなところばかりではなくて,例えば群馬県にも,普通の高校にバレエ科がありまして,そういった学科を持っている学校とか,あるいは京都にも専門学校があります。群馬の高校と提携しているバレエ団の公演を一度見に行ったことがあるんですけれども,大変よい教育をされていることがわかりました。その中には,英国のバーミンガムをはじめプロのバレエ団に就職している人もいるんです。
 そういったことを考えますと,実演家のレベルを上げるということよりも,実演家を支える,受け皿というようなところでの活動をする人にこそ,プロ意識というものが必要なんじゃないかなと思っています。それを考慮することなく,養成機関だけの充実を考えていても,うまくいかないのではないかと思います。

【田村(孝)委員】 先ほどもお話がございましたけれども,文化庁の在外研修が,どのような成果を上げているのかは,一度,検証していただく必要があるように思います。たくさんの方が在外研修に行っていらっしゃいますよね。経歴の中によく,文化庁在外研修云々ということは書かれていますけれども,私どもはそれがどのような成果を上げているのかわからないというのが現実でございます。それから,舞踊で成功している方は海外の教育機関にいらした方ですよね。それは,日本にきちんとした教育システムの完備した教育機関がないということだと思います。海外とは比べ物にならないバレエ教室があるにもかかわらず,それが現実ではないでしょうか。演劇も同じことだと思いますが,きちんと理念を育てるような,流派にとらわれない教育機関が必要と感じております。

【唐津委員】 私も皆様のお話を伺っていて,本当に納得することばかりでした。
 実際,今,多くのバレエダンサーと仕事をする機会がございまして,彼らの今後のキャリアの相談を受けるようなこともたびたびございます。
 公演の企画の中で,オーディションをやって作品をつくるというようなこともしておりますので,例えば自分が今高校を卒業するに当たって,どういった道を行こうかと悩まれていることが多い。バレエ団の先生に相談すると,大体海外に行かれることは拒まれるというケースが多かったりしますので,そういったときに,それをふり切って飛び出すのか,あるいは先生の納得いくようなところで教師という道を選ぶのかというような,自分が何をやりたいかということよりも,人間関係や,収入の問題,そういったことで選択をせざるを得ないという非常に厳しい現実があります。
 日本の場合,民間の中でテクニックだけを学んでくるというダンサーが多いので,例えば教師という仕事がどういうものなのかということも実は真に理解できていないのに,ダンサーになれないなら,じゃ教師に,という安易な選び方をするんです。バレエを教えるということも非常に重要な仕事ですし,当然,公演をつくっていくというマネジメントの仕事も同じです。
 そのように,例えばバレエを学んできても,テクニックに限らず振付だとかそれからマネジメント,教師,とバレエとはいってもいろいろな選択の道があるということが,皆さんわかっていないのです。高校卒業ぐらいの年齢でも,精神的に非常に幼い子がほとんどです。バレエだけを目指してやってきていますので,社会のことを知らないんです。それで,私のような人間と接して,始めてバレエをつくるということにかかわるのにはこんな色々な仕事があったんだということに気がつくという実情があります。
 技術に関しては,日本は非常に高いレベルに今ありますし,コンクールで実績を出しているというような現状もあるんですが,やはりもう少し精神的な教育,社会とどういうふうに自分がかかわっていくかというところでの教育が非常に重要になっているなというふうに思います。
 それから,それにすごく大切だと感じているのが,先ほどから議論になっている公的な機関をつくるということです。どういう形態,例えば,大学がいいのか,それとも研修所がいいのかという議論はもちろんあって,それぞれに多分よさがあると思うんです。精神性とか社会性,芸術と社会との関係等の幅の広さを考えると,やはり大学のようなところが,良いかもしれないです。実は私自身が,お茶の水女子大学の舞踊教育学科というところを出ておりまして,最初入ったときには舞踊家を目指していました。大学時代にもある程度ダンスの活動をしていたんですけれども,けがをしました。そういったこともありまして,踊ることではなくても自分の役割を果たすことができるという場を考えるようになったのです。そのような幅広い考えを得ることができたのは,やはり大学にいたことが大きかったと感じております。これが例えば技術だけを学ぶ研修所にいたとしたら,もしかしたら実演家以外の選択肢を考え付かなかったかもしれません。その辺の幅広さというのは,大学に恩恵を得ているなと思っています。あと,バレエ議連という与党の議員がつくられたものがございまして,愛知県にバレエ団が非常に多いということで,愛知県のバレエ団のトップだけを集めたバレエ議連のヒアリングというのが去年開催されまして,私もそちらで意見を言わせていただく機会がありました。そこでは,皆さんやはり普段は独自で活動されているわけですが,そこに公というものが来たときには,やはり立場が少し変わられるんです。
 今,地方のバレエダンサーが海外に行くのと同時に多いのが,例えば東京のバレエ団にかなりの割合で流出しています。そういった状況ですから,国できちんとした機関を設けていただいて,そこで出して,そしてまたその人たちが戻ってきて,地方に還元するというシステムをつくってもらえないかという議論がございました。そういったところで,公の機関に行っていただくのが非常に重要かなと思っております。

【宮田部会長】 ありがとうございました。公という言葉が,大きくも小さくもいろいろ考えられますが,深さとこっちの問題がいろいろあるとは思います。

【吉本委員】 きょう,3人の先生方のお話を聞いて,一口に実演芸術家の人材育成といっても,ジャンルで全然違うという状況が非常によくわかりました。舞踊といっても,バレエも,現代舞踊も,日本舞踊も,全部違うので,それらを総合的に政策の中で検討していくというのは結構大変だなということを改めて実感しました。
 その中で,この政策部会が,国の人材育成のことを中心に議論するにしても,大学とか,いろいろなことを全部含めて考えると,非常に範囲が広くなってしまうと思うんです。新国立劇場の今の研修所,演劇,バレエ,オペラとあるわけですけれども,例えば演劇だと場所が狭いとか,予算が少ないとか,あるいは演出家を育成しなきゃいけないというような,実際の現場で抱えていらっしゃる課題があるわけですよね。あるいはバレエであれば,この間の資料でも,新国のバレエ団に入団するという方が多いということだったんですけれども,先ほどのお話だと,そうじゃないところで活躍できるバレエの実演家をどうやって育成するかというようなことが課題になっているということでした。ですので,視野を広くしながらも,やはり新国立劇場の研修所でやっていらっしゃる人材育成の事業,それと文化庁が長年やっている在外研修を初めとした人材育成の事業など,現在の国の政策の現状と課題というところに絞り込んで,政策を考えるような形にしたほうが具体的なことに結びつくのかなというような気がしながら,きょう聞いておりました。

【宮田部会長】 ありがとうございました。

【田村(和)委員】 私も今,吉本委員がおっしゃったとおりなんですが,本当にお聞きしていて,非常に勉強になることも多いし,現状はよくわかります。
 ただ,実演家をどう養成するかという話の議論のよりどころはどうなんだろうというふうに考えますと,あまりにも広いという感じします。これだけのお話しがたくさん出てきた場合に,やはり議論の出口をどのあたりに置くかをはっきりしていかないと思います。すべてに公の役割があるわけではないし,特に今財政がどんどん緊縮される中で,なかなか実現は難しいと思っています。ですから,限られたものを戦略的にどこに使っていくのかということを考えるべきだと思います。これは別にどこの分野をひいきするという問題ではなくて,相対的に我々は眺める立場にあるんだという感じがしています。
 それが1つあれば,そこからまたいろいろなものがどんどん引きずられていくという大きなベクトルが出てくるような気がするので,出口論に向けてのストーリーみたいなものが用意されたほうがいいなという感じはしております。
 ですから,先ほど池野委員もおっしゃったように,やっぱり志望者が非常に多いということもあるでしょうけれども,その中から本当にトップがどれだけ出てくるのかということが重要だと感じています。では,トップが出てくるためには,市場とか需要がどう安定するのかということが問題になってくると思います。実際に日本の社会を見ていますと,妙なところで非常に文化繚乱状況にある。でも一方では,非常にインフラが弱いというところがあります。ですから吉本委員のおっしゃるように,我々が本当に力を入れるところはどこなのかというところをもう少し,議論を聞きながら整理していきたいなという感じでおります。

【宮田部会長】 そうですね,ありがとうございます。
【山内委員】 いろいろなことがあるのですが,予算的な裏づけとかそういうことを考えたとき,公と私の関係というのが今出ましたけれども,そういうメリハリというものをどう考えるのかという問題にどうしても突き当たるのではないかと思います。国の文化政策の中で,どういうふうに様々な領域にメリハリをつけるのか,それはどこかで問われることになるのではないかと思うんです。薄く均等に考えていくのか,それとも日本のいろいろな発信能力,対外的な部分を重視していくのか。今,私たちは文化新戦略に関する懇談会というのを一方でやっていますけれども,芸術というものもまた日本を表現する大きな手段であると思います。
 私は芸術に直接かかわった人間でありませんから,なおそういう発想をするのかもしれませんが,やはり今はなかなか厳しい時代ですから,国民の見る目というものがあるかと思います。そういうものに対してどう答えていくのかといことも重要だと思います。そこに答えを私たち各自が持っていないと難しい時代かなと思います。
 さはさりながら,芸術に志を持ってかかわっていく人たち,特に若い層は,芸術とはいえ,やはり生活があって,あるいはそれと絡む形で自己表現というのがあるわけなので,そういう若い人たちの生活,もっと申しますと,年収あるいは生活のある種の低さといいますか,そういうことはやはり危惧されます。これをどのようにメリハリの問題を含めて考えていくかということが私にとっては気になります。
 それから,これは文化発信との関係でも気になることなんですが,例えば先進国,バレエの先進国はもちろん欧米,特に欧州ということになりますから,それと比べた場合,バレエ・舞踊ということで言いますと,西洋舞踊は我が国の場合,伝統,それから歴史を考えた場合に,日本の伝統的な和舞なんかと比べてハンディがあると思います。それは,多くの演劇や音楽などに関してさえ,日本が背負わなければならなかった一つの歴史的な,これはある種の制約であり運命であったと思うんですけれども,そのことを仮に踏まえた場合,しかしながら日本はG7あるいはG8の国としては,なかなかにそういうハンディを超えてうまくやっているのではないかと思うのです。それは一重に,ここにいらっしゃる委員の先生方の専門領域におけるいろんなご活躍やご努力があってそうなっているんだと思います。
 ことしはTICADⅣも開かれましたし,間もなく洞爺湖サミットも開かれますけれども,そういう中で,こうした国際会議の中で文化という要素が余り語られることがないと感じます。途上国で,なおかつ芸術的にいろんなことを模索しているような国もまだあるわけですからそうした国に,西洋と比べてやや後発的に出発した日本が経験してきたようなこと,あるいは今試行錯誤しているようなこと,すなわちきょう議論していることもそれにかかわるんですけれども,そうしたことをそうした国々に対しても何か発信していけるようなものがあるかなということを私は考えています。
 また,いろいろな就職の問題,演劇表現の問題等々で,必ずしも間口が広くないという問題が国内だけを見ていればあるわけです。しかし国内だけなく,アジアなどその活躍する舞台を広げてそうしたアジア人としての日本,それから世界人としての日本ということで,何か独特な役割を果たせるような余地があるのではないかと思っております,そういう方面においても意識して議論しておく必要があるかなという印象を私は受けております。

【宮田部会長】 ありがとうございました。
 いいお話,きょうは大変幅広く,またいろんな意味で実感することがありました。ありがとうございました。
 どうですか,またちょっと現場を見るというふうなことでいくと,第3回目に新国立劇場の養成所で議論するなんていうのはいかがなものでしょうか。見学を兼ねて,そして実践を見るということで。

【米屋委員】 夏休み期間に入っているかと思いますけれども。

【宮田部会長】 ああ,なるほどね。今のは単なる提案で,前後が全くありませんので。ただ,やりましょう。今度がいいかどうかが別としても。いかがなものでしょうか。

【富澤部会長代理】 ぜひ,そうさせていただきたいと思います。というのは,この間私,吉本興業の吉野さんと話したら,あそこは新宿区から廃校になった花園小学校へ来てくれと言われて,非常に安い値段で行って,そうしたら学校の校舎だから広くて,校庭や何かを幾らでも使って練習もできるというような話をしていました。ですので,多分いろんな工夫をすればもう少し,今お話しになったような困難を克服できるような道もあるのではないかというふうに思って聞いておりました。

【宮田部会長】 ありがとうございました。

【清水芸術文化課長】 <今後の予定等について説明>

【宮田部会長】 それでは,本日はこれにて終了させていただきます。ありがとうございました。

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