資料7

資料7

古城十忍氏発表資料

劇団一跡二跳主宰・劇作家・演出家 
古城 十忍

1.人材養成についての国の役割

●芸術団体人材育成支援事業

 統括団体だけでなく個別団体からの申請も可能になったことで,従来よりも多岐に渡る事業が申請されるようになった半面,「どんな人材を」「何のために」養成するのか,その根本的指針は極めて不鮮明な状態に陥っている。
 現状では,「俳優のための演技ワークショップ」の採択が最も多いとはいえ,公共ホール自主事業担当者の研修のための交通・宿泊費から,ドラマリーディング,「日韓演劇交流シンポジウム」や「ベトナム演劇講座」等も採択されており,採択基準は極めて曖昧になっている。申請基準が明確でないために,あれもこれも人材養成という形で申請が行われている感は否めない。
 今後,人材養成についての国の役割を明確にするために,例えば養成対象を「俳優」「劇作家」「演出家」「デザイナー・プランナー」「プロデューサー」などと,まずは明確にした上で申請するシステムに切り替えるべきではないか。同時に,それぞれの養成対象について,「どういった人たちを」「何のために」「どのような人材に育成するのか」,その目的・方法を明記すべきだと思う。
 申請数が最も多い「俳優」の養成についても,キャリアのある俳優のスキルアップを目的としたものから,裾野を広げるための新人育成を目的としたものまで際限がないのが実情で,どこまでを人材育成の支援対象とするのか明確でない。これも,「何のための」人材養成なのかという指針が定まっていないことが原因ではないか。このまま際限なく支援の対象が広がれば,「カルチャーセンター」まで国は支援するのか?ということにもなりかねない。  なお,劇作家養成の意味合いを強く持っていた「舞台芸術創作奨励賞」が廃止になったことは極めて残念。受賞作品は上演することを前提とした上で復活を願う。

●海外留学制度

 ある程度実績のある演劇人がスキルアップを図るための留学制度なのか,実績に関係なく勉強したい意志があればよしとするのか,制度の趣旨が不鮮明になってきているように思う。
 具体的には,ほとんど実績がない人の諸外国の演劇大学等への入学を支援するのかどうかをどう扱うかで,制度の趣旨はある程度明確になるのではないか。
 だが実績を重視すると,実情では俳優としての仕事がない人が海外留学に申請するケースが少なくないので,成果が残せるのかといった課題が残される。
 海外留学制度はスタッフ部門の採択を拡大し,俳優については廃止された「国内研修」を復活することでスキルアップを図るほうが,人材養成としては現実的だと思う。

2.ジャンル別の支援体制の整備

 芸術文化の支援システムは,現状ではあらゆるジャンルが一括りにされる場合が少なくないが,今後は,「音楽」「舞踊」「演劇」「伝統芸能」「美術」などのジャンルごとに,必要に応じた具体的な人材支援事業を整備することが必要ではないか。
 一口に文化芸術と言っても,ジャンルごとに求められる人材育成の方法は大きく異なり,かかる必要経費の費目にも相当の違いがある。この方法では「音楽」ではうまくいっても「演劇」ではうまくいかないというケースは多々ある。
 また,「アーツプラン」が創設されたときには,重点支援事業において「牽引する団体を支援」という方向性があったが,現状では「企画ごとの審査」に変更されたこともあり,ますます総花的な支援状況に陥っている。ジャンルごとに,どのような支援体制の整備が必要なのか,その指針を具体的に打ち出すべきではないかと思う。

以上

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