資料6

資料6

実演芸術家(舞踊)の人材育成

安達 悦子(舞踊家(クラシックバレエ))

(1)日本のクラシックバレエの現状

 日本では古くから“お稽古事”文化が発達しているが,バレエも今では最もポピュラーなお稽古事のひとつとして確立されてきた。その結果として,今日,全国にある個人経営の教室から将来を嘱望されるダンサーたちが続々と育ってきている。
 しかし,残念ながら現在の日本ではプロとして働く場が極端に少ないのが現実で,バレエは“職業”として成り立ちにくい,という構図ができあがってしまっている。この問題は簡単に解決するとは思えない。そこで,彼らの受け皿としてのバレエ団の充実が大切となってくる。

 クラシックバレエダンサーはバレエ団に“所属”しているということが重要だと思う。足元を固めるという意味においても,キャリア・アップしていくという意味においても有形無形の“核”となるからだ。根無し草ではいけない。朝のクラスレッスン,リハーサル,舞台公演。団体の中で動ける場所があってこそ,その後の個人活動につなげることもできるのだ。真の意味での切磋琢磨もここから生まれるような気がする。こうした考えは世界共通で,私も駆け出しの頃は海外の一流ダンサーたちにホームカンパニーの大切さを幾度となく教えられた。

人材育成

  • ◆ダンサー
  • ◆振付家(作家)
  • ◆教師

練習場,稽古場の充実が急がれる。
舞台活動へのサポートが望まれる。

 たとえば,バレエ団の円滑な運営のために通常経費等の援助があれば,ダンサーや作家,そして,教師にまでより良い環境を与えることができる。現在は通常経費に対する助成は行われていないように思われる。
 舞台を数多く踏むこと,様々な場を経験することこそが成長の基本であり,舞台活動への助成がダンサーとしての,そして,アーチストとしてのレベルアップにつながっていくのだと思う。更に,舞台数が増えれば内外の振付家の作品に触れる機会を得ることができ,新進作家には創作のチャンスが与えることができる。

(2)公的機関 江東区との提携

 東京シティ・バレエ団は1994年,東京シティ・フィルと共に江東区と事業提携した。

  • ◆ティアラジュニアバレエへの教師派遣
  • ◆江東区でのオーディションにより選ばれた子ども達との「くるみ割り人形」の公演
  • ◆アウトリーチ

 東京シティ・バレエ団は地域に根ざしたバレエ団を目指している。
 バレエを単なる子供のお稽古事から,職業に結びつく可能性のある芸術,と認めてもらうのには時間がかかると思うが,一歩一歩誠実に活動していけたらと願っている。

 東京シティ・フィルと打ち合わせする機会が多くあり,知れば知るほどオーケストラの組織がしっかりしていることが羨ましく思えた。マネージメントを勉強する人たちがもっとバレエ団の運営に興味を持ってくれたら,携わってもらえたらと思う。

 文化庁の『本物の舞台芸術体験事業』による学校公演は観客育成,ダンサー育成にも繋がり素晴らしい事業だと思うが,劇場での公演も検討してほしい。

(3)社会的なステイタス

 プロのバレエダンサーを目指す人は高校卒業と同時に活動し始める場合がほとんどだ。たとえば,舞踊大学・クラシックバレエ科というようなものができるとしたら,それは,研究者,教師を養成する場となるのか,ダンサーとして踊りながらアカデミックなことを学ぶようになるのか,そして,それがキャリアにつながる道となるのか。未知数だが期待せずにはいられない。

 現在は,中学卒業後,または,高校途中で海外に留学する子ども達が増えている。当然ながら,そのうちの全員が良い結果を得る訳ではない。そこで,海外からの通信教育とか,帰国してから高校に行けるようなシステム作り等のバックアップを考えても良いのではないだろうか。

 音楽大学の講師をさせていただいているが,教え子である大学生,大学院生とバレエ団の団員たちの年齢層は変わらない。音大生が大学,大学院で学んでいる時期に,バレエダンサーはバレエ団の活動を通して学び,成長している。バレエ団は学校の役割を果しているとも言えるのだ。そこで,バレエ団でも身体的,肉体的な成長だけではなく精神面での成長を考慮した講習会なども行っていくべきだと思うのだが,余裕のないのが実情だ。

 バレエの社会的認知度はアップしたと思うが,社会的ステイタスはまだまだであることを残念に思う。しかし,クラシックバレエに携わる者ひとりひとりの熱い想いが未来を明るくするのだと信じたい。

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