資料6

資料6

実演芸術家等に関する人材の育成及び活用について(論点整理案)

1.実演芸術家等の育成・活用に関する基本的な考え方

(1)舞台芸術を振興する意義

○音楽,舞踊,演劇等の舞台芸術は,文化芸術の中でも,創り手と受け手が時間と空間を共有し,人と人とのつながりを深めるという重要な役割を果たしており,心豊かな国民生活を実現していく上で不可欠である。

○舞台芸術は,公演に多くの実演芸術家等が関わるため,比較的多額の経費を要する一方で,入場料収入等で全ての経費を賄うことが困難であり,公的な助成などの支援が極めて重要である。

(2)実演芸術家等を育成・活用する必要性

○舞台芸術は,実演芸術家等の創造活動によって成り立っており,今後とも発展・充実させていくため,我が国の舞台芸術を担う優れた実演芸術家等を育成するとともに,活躍の場を充実する必要がある。

○優れた実演芸術家等を育成することが,産業や経済活動において新たな付加価値を生み出す源泉となり,国力を高めることにもつながる。

(3)基本的な視点

ⅰ)実演芸術家等の育成

○トップレベルを目指すための教育・養成・研修の充実を図ることが必要である。

○トップレベルを支える中堅層が着実に仕事をしていける構造を作ることが,結果的にトップレベルを押し上げることにつながる。

○実践的な技術を習得するとともに,広い視野,広い見聞,広い分野に関する知識を持って創造していくことが必要である。

○分野によって基礎的な部分や技術面は環境も手法も異なるが,共通して言えるのは,基礎や技術を磨いて個性を出していくためには,舞台などの実際の場で実践しながら高めていくことが必要である。

○学校における芸術教育と,才能をどう見つけ出し,才能を持つ者にどう場所を与えるかという話をトータルで考える必要がある。

ⅱ)実演芸術家等の活用

○実演芸術家等の活動を公演の実施だけで捉えるのではなく,公演準備などを含めた総体として捉え,新たな創作活動を促進していくべきではないか。

○芸術家個人で活動するという考え方から,劇場を中心として,劇場と連携した団体として活動するという考え方にシフトしていくべきではないか。

○芸術を社会で活用するために芸術家を育てることが必要であり,公共劇場を芸術家の活動に活用するという考え方を明確にすべきではないか。

○舞台に立つだけでなく,教授業を含めて実演芸術家等の仕事であるという認識をもう少し広げていくことが必要ではないか。

ⅲ)実演芸術家等の育成・活用に向けた環境整備

○実演芸術家等がプロになっていくプロセスにおいて,思い切って芸術に打ち込むことができる環境を整えることが必要ではないか。

○芸術家が育つための環境として,子どもの頃から本物の文化芸術に触れることが重要であり,結果的に日本の子どもたちを健全に育成することにもつながる。

○地方自治体や企業,メディア等と提携し,地方と結びついて芸術家のサポーターを持ち,交流していく中で様々な可能性も生まれてくるのではないか。

○舞台芸術に触れる機会の地域間格差を解消し,全国どこでも優れた舞台芸術に触れることができるような環境の整備を図るべきではないか。

ⅳ)国の支援の在り方

○実演芸術家等の育成及び活用については,文化芸術団体の自主的・主体的な取組を尊重することを基本としつつ,国は諸条件の整備を進める必要があるのではないか。

○国の支援事業については,幅広く公平に配分するという考え方から,数は少なくても質を充実させるため,戦略的にメリハリを付けた支援を重視していくべきではないか。

○国の支援は公演実施などの成果主義になっており,今後は,脚本を作る段階からの構想や考え方に対する支援の在り方を検討する必要があるのではないか。

2.実演芸術家等の育成・活用に向けた具体的な方策

(1)実演芸術家の育成に関する施策

ⅰ)海外フェローシップ制度の充実

○新進芸術家海外留学制度(旧芸術家在外研修員制度)については,

  • (1)研修先で実のある国際交流を進めるとともに,日本に帰国後に研修成果を十分還元できるように改善すべきではないか。
  • (2)研修先で劇場のオーディションに採用になった場合など,一層の活躍が期待されるときは研修期間の延長も検討すべきではないか。
  • (3)人数が多過ぎて質が落ちてきており,例えば,人数を150人から100人にして助成金を増額することを検討すべきではないか。
  • (4)本事業の趣旨が,既にキャリアを持っている人達のキャリアアップのためのシステムなのか,その道を志す人でキャリアはなくてもいいから広く裾野を拡大するためのシステムなのかを,明確にすることが必要ではないか。
  • (5)俳優の場合,キャリアはあっても仕事のない俳優が対象になることが多いため,むしろ俳優の枠は減らし,スタッフの枠や文化交流使としての派遣を増やすことを検討すべきではないか。
ⅱ)文化芸術団体における人材育成への支援

○芸術文化人材育成支援事業については,

  • (1)統括団体以外の団体でも申請が可能に変更したことで,企画が小粒,目先のものが多くなっている。人材育成の具体的な指針を明確にした上で申請させるシステムを検討すべきではないか。
  • (2)分野によって必要経費や支援が必要な人材の種類も異なるため,ジャンル別の支援体制の整備を検討すべきではないか。

○劇作家養成において戯曲を実際に公演することの意義にかんがみ,戯曲の公演の支援を行うべきではないか。

○観客数から言うと現在の舞台の主流はミュージカルになっているが,脚本はアマチュアレベルで,プロのミュージカルの脚本家がほとんどいない。英米からプロのミュージカル専門の脚本家を呼ぶなどして脚本家の育成を図るべきではないか。

ⅲ)新国立劇場に求められる役割と取組

○新国立劇場のオペラ研修所については,国際的な競争の観点から研修生の高齢化への対応を検討すべきではないか。

○新国立劇場のバレエ研修所については,

  • (1)教育内容は大変素晴らしいが,新国立劇場のバレエ団員の育成だけではなく,日本のバレエ全体のものとなるよう工夫すべきではないか。
  • (2)17歳からの募集となっているが,15,6歳から始めてはどうか。

○新国立劇場の演劇研修所については,

  • (1)サマーセミナーとして中学生のコースや学校の演劇部の顧問の先生を対象としたコースを検討すべきではないか。
  • (2)オペラやバレエにも対応できる演出家養成コースの設置を検討すべきではないか。また,将来的にスタッフコースの併設も検討すべきではないか。
ⅳ)大学等における人材養成の推進

○芸術大学を充実し,芸術家が他分野の芸術家との交流を進めることにより,技術的な面や研究活動の幅も広がっていくのではないか。

○芸術家の優れた才能を発掘し,低年齢化している国際的な舞台で競争するため,教育制度において飛び級による養成を検討すべきではないか。

○芸術家がある時期に総合大学で一般教養を獲得することが重要であり,専門家養成の機関から総合大学に進学するコースの設置を検討すべきではないか。

○ギターは楽器として確立しているが,大学にギター科がほとんどないため,個人が養成している。大学にギター科があれば,作品や若手の育成の広がりが出てくるのではないか。

○大学にサウンドエンジニア科を整備し,日本でもサウンドエンジニアの文化が根付いてくれば,マイクを通した音もよくなるのではないか。

○大学に舞踊学科や演劇学科が非常に少なく,総合的・体系的に学ぶことが困難になっており,今後の整備が期待される。

○演劇,舞踊の分野の高等教育については,大学という枠にとらわれず,実演家の実技トレーニングやマネジメント要素も含めた教育を行うコンセルヴァトワールのような専門的な教育機関の整備を検討すべきではないか。

ⅴ)初等中等教育における芸術教育の推進

○学校教育において,コミュニケーションツールとしての演劇や様々な日本語に対する感覚や意識を学ぶため,小中学校から演劇教育を導入し,演劇界でキャリアを持った人が指導に当たるべきではないか。

○日本人は姿勢があまりよくなく,体のパワーも弱い。小学校4年生くらいから,学校でバレエの基礎を体操のような形で取り入れることで,腿や腰が強くなって姿勢もよくなるのではないか。

(2)実演芸術家等の活用に関する施策

ⅰ)公演の準備から実施までの一体的な支援

○芸術創造活動重点支援事業については,基本的に本番助成に制限されているため,支援の数を減らしてでも,公演の練習や稽古期間から支援する助成システムを検討すべきではないか。

○公演助成の仕組みの中に,新しい作品を創造する公演への助成ができれば,その中から作曲委嘱や脚本,振付など新しい作品が生まれてくるのではないか。

ⅱ)劇場等における活動機会の提供

○実演家や演出家は劇場で育つものであり,劇場がないと演出も振付もできないので,劇場付きの実演団体を増やすべきではないか。

○公演の質を上げていくため,公共施設が芸術家に活動の場を積極的に提供することが重要ではないか。

○公共施設を活用して,オーディションなど若手の活動機会を増やすとともに,優れた芸術家に直接習える機会を進めれば,プロの育成にもつながるのではないか。

ⅲ)実演芸術家等の受け皿の整備

○実演芸術家等の養成に当たっては,一握りの人しか活動の機会が与えられないことを前提として,その他の人たちが教育の場で人材養成に関わっていくという活用方策を考える必要があるのではないか。

○れたバレエダンサーが育ってきているが,日本ではプロとして活躍する場が極端に少なく,優秀な人は海外のバレエ団に採用されることが多い。受け皿となるバレエ団の充実を図るため,円滑な運営のための支援の充実を検討すべきではないか。

(3)実演芸術家等の育成・活用に向けた環境整備に関する施策

ⅰ)実演芸術家等の学習環境,処遇の改善等

○バレエの場合,中学卒業後や高校途中で海外留学することが増えているため,継続して教育を受けることができるような支援を検討すべきではないか。

○若い実演芸術家等の処遇は一般の労働者と比べて低く,芸術も生活と絡む中で自己表現があるので,処遇の改善を図ることが重要ではないか。

○実演芸術家は体の特殊な部分を使うため,普通の人とは違ったメンテナンスが必要だが,多忙や経済的な理由により後回しになる傾向があるため,身体ケアのサポートを充実していくことが重要ではないか。

ⅱ)子どもの文化芸術体験活動の充実

○国が地方自治体と提携しながら,若い人達が国内外の優れた文化芸術に触れる機会を作っていく必要があるのではないか。

○子どもの頃から,受け身の鑑賞だけではなく,プロの芸術家と共演するなど実際の体験ができれば,普段経験していないことや他者の考え方などにもっとキャパシティを持てるようになり,表現も豊かになるのではないか。

ⅲ)各地に根ざした舞台芸術の展開,国民意識の醸成等

○公共施設において,アウトリーチ活動やワークショップなど,芸術を社会に提供するための取組が重要であり,国は支援を充実すべきではないか。

○優れた舞台芸術の全国展開を図るため,各地域における鑑賞機会を充実する必要があるのではないか。

○観客層が高齢化しており,もっと若い人が公演に来るように鑑賞者層の開拓を進めることが重要ではないか。

○光の当たりにくい中堅層や脇で支えている芸術家が素晴らしい活動をしていることを広く一般にも伝えていくべきではないか。

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