文化審議会第8期文化政策部会(第5回)議事録

1.出 席 者

(委員)

宮田部会長,田村部会長代理,青柳委員,小田委員,加藤委員,後藤委員,佐々木委員,里中委員,鈴木委員,高萩委員,坪能委員,富山委員,浜野委員,増田委員,山内委員,吉本委員

(事務局)

中川副大臣,坂田事務次官,玉井文化庁長官,合田文化庁次長,清木文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,大木政策課長,滝波企画調整官,他

2.議事内容

【宮田部会長】
 ただいまより文化審議会第5回文化政策部会を開催いたします。ご多用のところご出席ありがとうございます。なお,本日は酒井,堤,西村,山脇の4名の委員の方は残念ながらご欠席ということでございます。
 冒頭でございますが,ご多忙のところ中川副大臣にご出席をいただいております。一言ご挨拶をお願い申し上げます。
【中川副大臣】
 改めて一言お礼のご挨拶をさせていただきたいと思います。本当にここ一月の間で精力的にご審議をいただいて感謝を申し上げたいと思っています。
 私たち新しい政権としては,この文化の基本的な方向性というものも改めて皆さんと一緒に固めていきたい,議論を展開していきたいということで,ご無理を言いまして本当にその間,ご参加をいただいてしっかりとした議論を積み重ねてきていただいているという報告を受けています,改めて心からお礼を申し上げたいと思います。
 5つのワーキンググループが設置されて,本日はその成果をご報告いただくということで,今日は改めて直接その報告を聞かせていただきたいとお邪魔をいたしました。来月に予定される中間的な報告というものを,今日の5つのワーキンググループの結果を中心にしながらまとめていく作業になりますが,これから大いに楽しみにさせていただいて,私たちも一緒に議論に参加をさせていただきたいと思っていますので,よろしくお願いを申し上げます。本当にありがとうございました。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。それでは進めたいと思いますが,後ほど後藤政務官もお見えいただくということになっております。
 本日は,平田内閣官房参与にもご出席いただいております。ご紹介させていただきます。また,大変ご多忙でございますので,しばらくしてご退席ということでございますが,一言お願い申し上げます。
【平田内閣官房参与】
 平田でございます。よろしくお願いいたします。 内閣官房参与ということで私は官邸のほうにおりまして,総理から昨年10月に任命を受ける際にも主に3つのことを言われました。一つは,官邸からの情報発信ということで所信表明演説,施政方針演説からブログ,ツィッターに至るまですべて情報発信について一元管理をし,きちんと情報を発信していく。もう一つが東アジアの外交政策,そしてもう一つが文化行政です。この文化行政は広い意味で,例えば象徴的なことをひとつ申し上げれば,先般国際交流基金の日本語教育が事業仕分けの対象になったわけですが,この日本語教育は実際には鳩山内閣としては強力に推進したい政策の一つなわけですが,個別に仕分けの対象になってしまって,どうしてもこれはムダがある,あるいは重複があると。こういった文化政策についてはこれまで縦割りの弊害が非常に大きかったと思います。これに関しましては国家戦略室のほうで大きな文化政策,広い意味での文化政策の方針を打ち出して,ぜひその中核としてこの文化庁の業務を進めていっていただきたいというのが総理のご希望でもございます。
 総理の近くにおりまして民主党の個別のマニフェストの大きな政策とは別に総理ご自身が本当にやりたいんだなと思われる政策が幾つかあります。一つは今申し上げた「東アジア共同体」,「新しい公共」,それから「居場所と出番」,そして「文化立国」ということだと思います。文化政策はこの4つのいずれにもかかわる非常に大きな重要な政策だと思いますので,ぜひ充実した答申を出していただいて,予算がすべてではないのですが,やはり予算を大幅に増やすと,それからその後で秋以降の国会で必要な法整備もしていただくということで,恐らくこんなチャンスはそんなにはないと思いますので,ぜひ具体的な提言をたくさん盛り込んでいただければと思います。
 もう一つは先ほどの話にも関連するのですが,例えばハコモノはなかなかもう造れない時代かとは思いますが,しかし例えば観光庁はものすごく予算を伸ばしているんですね,そうすると今までと違って観光と文化を結びつけるような政策ならば,地域の観光拠点として様々な施設を使ったり,今までの文化施設を観光と文化の拠点として使っていく。例えばこれも一例を挙げますと八戸市に新たにできる観光拠点は文化施設でもあり,アーティスト・イン・レジデンスもできる非常に前衛的な取組もできる,一方でお祭りの山車を保存したり,そういった文化財の保護,それから観光拠点,まちづくりの拠点とすべてを兼ねたような複合施設です。まさに今までの縦割りの弊害を地域から打ち破っていく,そしてその主体になっているのは市役所ですが,多くの民間からの人材を登用しています。まさに「新しい公共」,そして「居場所と出番」も実現しています。こういったことをぜひ国のほうでバックアップをしていただけるような施策を考えていただければと思います。
 今日,大変申しわけないのですが,芸団協の会合が先に入っておりましたので,このあと退席をさせていただきますが,次回以降できるだけ参加をさせていただきますので,内閣官房あるいは国家戦略室のほうでお手伝いできることは何でもいたしますし,またそちらからの情報も提供したいと思いますので,ぜひ活発なご議論をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。今までこの中でお話をしていても,それをどこへ伝えていいのかわからないという部分もときおり私の中にもありましたが,私どもも今回特に先生方には大変なご努力をいただきましてワーキンググループでご議論いただいたことが確実に伝わるよう,ぜひ先生のお力もお借りしてお願いしたいと思います。ありがとうございます。
 それでは進めさせていただきたいと思います。前回,第4回,3月23日の会議におきまして5つのワーキンググループの設置を決めさせていただきました。その後,1カ月という限られた時間の中で大変ご負担をおかけしたことをお詫び申し上げますが,これはもうすべて文化立国,日本のためということで,ご容赦願いたいというふうに思っております。
 本日は,ワーキンググループの意見のまとめについてそれぞれ座長,あるいは座長代理の諸先生方からご報告をいただいた上で,今後本部会として中間的な報告に向け審議を進めたいと,かように思っております。それでは事務局から説明をお願い申し上げます。
【滝波企画調整官】
 それでは,ご説明させていただきたいと存じます。
 まず,資料の1をご覧いただけたらと思います。資料の1は,文化政策部会と各ワーキンググループにおける審議・検討の経過でございます。2月に諮問をいただきまして,2月から3月にかけて4回この部会を開催してまいりました。そして3月23日にただいま部会長からもお話がありましたとおりワーキンググループの設置が決定をされ,それを受けまして5つのワーキンググループにおいてそれぞれ3回の会合を重ねていただきました。回数としては3回ということでございますが,それぞれ非常に濃密な意見交換をしていただいたというふうに思っております。その成果が今日の各資料の中に出てきておるというふうな状況でございます。
 それから資料の2をご覧をいただけたらと思います。資料の2は先ほどからお話が出ておりますとおり,これから中間的な報告に向けた議論をお願いをできたらと存じておりますが,その際に中間的な報告がどういう形に最終的にまとめていったらいいのか,議論のきっかけになるものがあったらいいかなと思い作成してみたものでございます。
 第1,第2,第3と書いておりますが,第1の部分につきましては2月の諮問事項に沿った形でおおむね書いてある内容になってございます。また,第2の重点施策につきましては,この4月にかけて各ワーキンググループのほうでご議論いただいた内容のことを中心に書いていく構成になってございます。また,第3につきましては,まだ十分議論はされておりませんが,文化芸術全般を通じた基本的な施策の見直しの方向性ということもこれから議論をしていく必要があるのではないかというふうに考えております。
 おおむね以上のような形の目次(案)を事務局のほうで作成してみたものでございます。
 資料の3につきましては,これは第4回,3月23日の日に行いました文化政策部会の中で出てまいりました主なご意見をまとめたものでございます。この日は諮問事項の3つ目,「文化芸術振興のための重点施策」について,ご議論をいただいたわけでございますが,その際に出てきたご意見を少し項目別に沿って概要としてまとめたものでございます。この辺も参考材料にしていただきながら,またこのあとのご議論をいただけたらと存じます。
 それから資料の4以下でございますが,各座長,または座長代理の方々からご報告をいただくということで先ほど部会長からお話がございました。それぞれのワーキンググループにおける検討の成果がこの意見のまとめという資料の中で出てきているということでございます。資料4が「舞台芸術」,資料の5が「メディア芸術・映画」,資料の6は「美術」,資料の7は「くらしの文化」,資料の8は「文化財」というこの5つのワーキンググループということになってございます。これにつきましては後ほど各座長,座長代理のほうからご報告をいただけるものと思っております。資料の説明は以上でございます。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。それでは,ワーキンググループからの発表に移らさせていただきたいと思います。約10分程度でございますが,順次ご報告をお願い申し上げます。
 最初に,舞台芸術ワーキンググループ,田村委員からお願いいたします。
【田村部会長代理】
 田村でございます。舞台芸術ワーキンググループの意見のまとめをご報告させていただきます。私どものワーキンググループでは先ほどの表にございましたように4月13日,20日,26日の3回にわたりまして音楽,舞踊,演劇などの舞台芸術の振興について検討を行いました。お手元の意見のまとめをご覧くださいませ。1ページ目が概要,2ページ以下が詳細な本文になっております。内容は3つに分かれておりまして,まず「舞台芸術を振興する意義」,続いては「舞台芸術の振興の方向性」,そして舞台芸術の振興のための「具体的施策」となっております。
 それでは,まず「舞台芸術を振興する意義」についてでございますが,日本の現状を考えまして今回5つに整理いたしました。1つ目は,舞台芸術は人々に本当の意味で心の豊かさをはぐくみ,衣食住と同様に人が生きていくために必要不可欠なものであるということ。2つ目は,舞台芸術は,それ自体芸術として価値あるものですが,同時に観光や産業などに新たな付加価値をもたらし,日本及び地域の経済や社会の活性化に貢献するものであるということ。3つ目は,何よりも次代を担う子どもたちに豊かな創造性,感性をはぐくむものであるということ。4つ目は,舞台芸術はソフトパワーとして国の魅力を高めるとともに,世界の文化芸術の発展に貢献するものであるということ。そして5つ目は,人々が共に生きる絆と社会基盤を形成するものである。このような意義につきましては文化政策部会の皆様には当たり前のこととお考えのことと存じますが,なかなかそのようには考えられていないのが日本の現状でございます。そこで,このような意義を共有できる社会を実現するために舞台芸術の振興が重要であると考えました。
 続いては「舞台芸術の振興の方向性」についてでございます。ワーキンググループでは文化芸術は,国民や地域住民のための公共財であると考えまして,このために文化芸術の振興を国の政策の根幹に据えて,これまでの文化政策を抜本的に見直し,舞台芸術振興策の強化・拡充を図る必要がある。また,日本の文化予算は諸外国に比較し圧倒的に少ない状況です。このことは日本が世界の文化芸術の発展に果たすべき役割を十分に果たしてないとも言えると思います。そこで国として文化予算を大幅に充実させる必要があるということ。
 また,舞台芸術の振興に当たって特に重視すべき施策の1つ目として,地域の核となる文化芸術拠点の充実とそのための法的基盤の整備。2つ目,専門家による審査・評価の仕組みの導入の検討と支援制度の抜本的見直し。3つ目,子どもたちが優れた舞台芸術に触れる機会の拡充。4つ目が舞台芸術の国際交流と海外発信の強化であると考えました。そして3の「具体的施策」ではこの4つに沿っての提言を記述しております。
 それでは,「舞台芸術の振興に向けた重点施策」についてご説明します。1つ目,まず「地域の核となる文化芸術拠点の充実とそのための法的基盤の整備」ですが,現在日本には各地に多くの,それも立派な文化施設があります。ただ,今日の経済状況の影響で自治体の文化予算は削減されておりまして,指定管理者制度の導入は施設運営に支障を来しているのが現状です。一方,プロの文化芸術団体は大都市圏に集中していることがありまして,地域の文化施設では多彩な文化芸術に触れることも創造活動を実施することも難しく,地域が豊かな文化環境になるためには,何より地域の文化芸術拠点がその機能を十分に発揮できるようになることが大切です。そのための必要な専門人材,必要な支援などについて法的基盤の整備について早急に具体的な検討を行う必要があります。また,国立の劇場は我が国の文化芸術振興の中核的な拠点として運営,地域との連携など望ましい在り方について検討を行う必要があります。
 2つ目です。「専門家による審査・評価の仕組みの導入の検討と支援制度の抜本的見直し」ですが,まず,私たちにとってどのような文化芸術が形成されるのが望ましいのか,国の支援が有効に活用されるような見識ある審査,事後評価を行う必要があります。そのためには現場の実情を把握し,個々の事業の選定評価などを行うプログラムオフィサーを配置し,専門的な審査を行えるように,またその経験やノウハウが蓄積されるように新たな仕組みの導入が必要ではないか。つまり海外の例を参考にしながら日本版アーツカウンシルのような機関の導入について検討が必要ではないかということが,まず一つです。
 また,支援制度については,3分の1あるいは2分の1と赤字補填的な支援であったり,限定された支援対象費など問題の多い現在の支援制度を,舞台芸術の振興のために有効となるようなものにする。例えば演劇,音楽,舞踊など分野の特性に応じた支援であること。また,地域の芸術団体には地域性を配慮した支援であることなど,支援制度を抜本的に見直す必要があります。と同時に民間からの寄附金と公的助成金とを組み合わせるマッチンググラントのような仕組みの導入についても検討する必要があります。それとともに舞台芸術の対応や資質向上のためには,舞台芸術の創造,提供のための人材育成が何よりも大切で,文化庁で実施されてきた新進芸術家海外研修制度の修了生が成果を還元できるようなフォローアップであるとか,人材育成の場として新国立劇場のオペラ,バレエ,演劇の各研修所の役割の充実とともに,芸術系の大学だけではなく総合大学にも演劇や舞踊など舞台芸術を学ぶ場が十分でないことから,人材育成の総合的,効果的な方策を検討する必要があるのではないかということです。
 3つ目,「子どもたちが優れた舞台芸術に触れる機会の拡充」についてです。子どもには優れた舞台芸術に触れる機会をできるだけ小さい頃から可能な限り多く提供するべきです。そして国としては地域によって差が出ることのないように,機会を倍増させる必要があります。また,地域の文化芸術拠点の役割として文化芸術関係者が学校や教育関係者と協力して,継続的に優れた舞台芸術鑑賞の機会やワークショップなどの教育普及活動を子どもたちに提供することも有効ではないでしょうか。
 お手元のチラシをご覧いただきたいと思います。こちらに「キジムナーフェスタ」のチラシがございますが,国際児童演劇フェスティバルです。これは子どもたちや大人も含めて世界に出会える場でもありますし,児童演劇の質的向上の場にもなっています。この年間イベントカレンダーにもございますが,グランシップでも5カ国から4カ国のものを招へいします,東京でも招へいします。それからこれはもう終わったものですが,文化庁の地域文化芸術振興プランの予算で実施しました静岡のプログラムの一つでございます。普段は実施困難な地域3カ所で行ったものなのですが,メンバーをご覧いただければ東京でもなかなか実現できないメンバーです。もったいないので,こどもの日にも改めてお願いしたというものですが,子どもに提供されるものはこんなものであってほしいし,芸術家の協力でこれは実現可能なことだと思います。
 それから4番目「舞台芸術の国際交流と海外発信の強化」についてでございます。国際交流といえば優れた作品の海外公演への支援はもちろん大切でございますが,これからは海外の芸術団体との共同制作への支援を充実すべきと考えます。それもこれまでおろそかにしてきた東アジアに配慮しながら世界各国との国際交流を積極的に推進する必要があると思います。また,アジアを中心に海外の若手芸術家を研修で受け入れることも大切ですし,日本で開催される核となる国際フェスティバルへの支援も充実される必要があると思います。
 次のチラシでございますが,静岡ではグランシップのほかに劇団を持ったSPacというものがあります。ここでも春の芸術祭が実施されておりますし,各地から人々が訪れています。劇団があるために先日,南米コロンビアでイベロアメリカ国際演劇祭,世界最大規模と言えると思います。海外85,国内100の公演があったそうですが,そこにSPacは参加しています。こういうことも可能ということでございます。
 それともう一つ,地域の国際演劇祭,八雲国際演劇祭ですが,NPO法人劇団あしぶえによる公設民営のしいの実シアターで開館以来計画され実施されてきた演劇祭です。この村の人々が世界に出会う場になっているということです。また,全国で長く続いている音楽祭は地域を豊かにしているだけではなく,日本や海外の音楽家を育成しています。地域で豊かに生きるためには非常に上質で多彩な芸術が身近に存在するということが非常に大切だと考えております。
 以上が舞台芸術ワーキンググループの意見のまとめでございます。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。とてもすばらしいご報告でございます。特に早いうちの高度な出会いということが大きくその後発展していくのではないかと思いますね,ありがとうございました。それでは,メディア芸術・映画ワーキンググループについて浜野委員からお願い申し上げます。
【浜野委員】
 メディア芸術・映画ワーキンググループの座長を務めました浜野でございます。ワーキンググループの意見のまとめにつきましてご報告いたします。本ワーキンググループでは4月9日,21日,28日の3回にわたりましてアニメーション,ゲーム,マンガ,メディアアートなどのメディア芸術及び映画について内容の濃い議論を重ねまして,質の高い作品の創造,鑑賞機会の充実,アーカイブ,国内外への発信,産業や観光面の振興,研究機能の強化,人材育成などの観点からその振興方策につきまして検討を行いました。
 本ワーキンググループとしましては,お手元の資料のゴシックで書かれています5つの論点が重要であるということで検討を重ねております。
  1. (1)メディア芸術祭の拡充と関連イベントの連携
  2. (2)メディア芸術に関する貴重な作品・資料等のアーカイブの構築
  3. (3)新人クリエイターによる発表の場の創設等の人材育成の強化
  4. (4)産業や観光面の振興,研究機能の強化及び国内外への情報発信
  5. (5)日本映画の振興のための支援の充実
 また,この意見のまとめの構成は大きく分けて3つの区分になり,1として現状と課題を述べた上で,2で大まかな振興方向を記述しまして,3で具体的施策を挙げております。3は先ほど述べた論点になっています。
 では,初めに「1.メディア芸術・映画をめぐる現状と課題」です。
 我が国のアニメーション,ゲーム,マンガ,メディアアート等のメディア芸術は,それ自体は優れた文化的価値を有しているとともに社会的にも高く評価され,我が国のソフトパワーとして国の内外から注目が集まっています。文化庁では毎年「文化庁メディア芸術祭」を開催しており,応募作品数と来場者数は年々増加し,13回目を迎えた平成21年度では海外からの応募も含め応募作品は2,592作品,来場者数は約6万人ということで,一日当たりの来場者数では世界有数のアート・フェスティバルの一つにまでなっています。また,映画につきましても様々な施策により振興が図られております。
 一方で,ワーキンググループではメディア芸術に関する貴重な作品や関連資料等は,我が国が誇るべき文化遺産でありながら,劣化・散逸あるいは廃棄されるなどの現状があり,危機に瀕していることは大きな課題であるという認識を有しています。
 また,諸外国の研究者等は,アニメーションやマンガなどを学術的な研究課題として取り上げて検討していますが,我が国においても資料や統計に基づいたメディア芸術に関する学術研究が促進されることが必要であるという認識が示されました。
 次に,「2.メディア芸術・映画の振興に係る方向性」であります。
 優れた文化的価値を有し,ソフトパワーとして国の内外から注目を集めている我が国のメディア芸術や映画の振興は,我が国の文化振興はもとよりコンテンツ産業や観光の振興,国際文化交流にも大きな効果を発揮するものです。
 このようなメディア芸術の振興を図る観点から,文化庁メディア芸術祭は質の高いメディア芸術作品を発信する世界的なフェスティバルとなるように一層の充実が必要であります。
 また,メディア芸術に関する貴重な作品や関連資料等の計画的・体系的な収集・保存,いわゆるアーカイブでありますが,それに取り組む必要があります。
 さらに,我が国のメディア芸術が今後とも世界に誇る魅力ある文化芸術として創造・発信され続けるためには,独創的な新たな作品が生まれてくる環境を整備するとともに,若手クリエイター等の人材育成を強化していく必要があります。
 中国や韓国等のアジア諸国も国を挙げて国策としてアニメーション,映画,ゲーム,マンガ,メディアアート等の文化産業の振興に取り組んでおりますが,我が国も国としてこれらの分野の振興に一層力を入れて取り組む必要があると思われます。
 次に「3.具体的施策」について,ワーキンググループの主な意見は以下のとおりです。
まず,初めに(1)としまして,メディア芸術祭の拡充と関連イベントとの連携であります。
文化庁メディア芸術祭については世界的なフェスティバルとして一層の充実を図るとともに,将来にわたって継続して開催していくことが重要であります。そのためにはメディア芸術祭の顕彰事業,つまり賞としての価値を高める必要があり,例えば賞金額を上げることや受賞者に対して創造活動に専念できる環境を提供することも考えられます。
 また,クリエイターと企業との交流の場を設けたり,活動の場を広げられるようにすることが必要です。加えてメディア芸術祭に新たに新人賞や学術的な分野も発展させるということで論文賞なども創設する必要があります。
 また,メディア芸術祭の受賞作品が一般に広く知られるようインターネットのWeb上で可能な限り受賞作品をどこからでも閲覧できるようにすべきです。メディア芸術祭をより一層盛り上げるには,メディア芸術祭と同時に関連イベントが集中して行われるよう文化施設などと連携を図ることが考えられるとの指摘がありました。さらに,海外のフェスティバルとの連携や,海外の視点も含めるということで海外からの審査協力を得ることも検討する必要があります。
 メディア芸術祭の開催期間につきましては,現在東京において10日間程度であることから,地域におけるメディア芸術の鑑賞機会の充実を図る必要があります。例えば地域の映画館や商店街の空き店舗,廃校などを活用し,「映像メディア・サテライト」といったものをつくることが考えられるというご提案がありました。
 また,文化庁と地域の文化施設が協力し,先ほど平田委員がおっしゃったようなことですが,連携企画展を実施することも効果的であり,これらによるコンソーシアムの形成も必要ではないか。
 次に(2)として,貴重な作品・資料等のアーカイブの構築であります。
 過去に日本の浮世絵などの美術品や絵画などは,海外に多く流出した歴史的な経験がありますが,このような過ちを繰り返すことなく,これらを計画的・体系的に収集・保存(アーカイブ)する必要があります。そのためには公的支援が不可欠です。
 アーカイブは膨大な作業を伴うものであることから,一方で各分野の作品や資料等の所在情報の集積などを進めることも必要です。また,これらを整理保存する場所及び多くの専門人材が必要であることに留意しなければなりません。
 アーカイブについては,対象となる分野の性質の違いを踏まえて,そのアーカイブ方策を検討する必要があります。国立国会図書館における納本制度なども参考にしつつ,これまでに様々な大学や団体が保存しているものもあるので,それらと連携を図りながら検討していく必要があります。
 アニメーションやマンガの原画やセル画は,日本のアニメーションやマンガの歴史を示す貴重な資料であることから,アーカイブを行う必要があります。ゲームに関しては,ソフトからハードまですべてをメーカーから寄贈してもらい,保存することが望ましいと考えます。メディアアートにつきましては,完全に動くようにするのは非常に困難なことでありますので,その方策の一つとして設計図や,それが動いている映像記録などにして作品を再生することができるようにして,そういった情報を保存することも考えられます。また,映画のデジタル保存をどのように行うかにつきましては,調査研究をさらに行うべきであるという議論がありました。
 次に(3)として,人材育成の強化であります。
 独創性を重視した人材育成の観点から,Web上に新人クリエイターの作品発表の場をつくる必要があります。また,例えば優勝したクリエイターには,その作品を市場に送り出すことを副賞としたコンテストを実施することも考えられます。
 クリエイターの育成には大学などの教育機関に企業などの寄附講座を設け,人材育成に取り組むことが考えられるというご意見もありました。「作り手」の育成と同時に,「見せ手」や「受け手」(鑑賞者)の育成も求められるという意見もありました。また,育成された人材が働く現場の環境改善と職業としての活躍の場の確保も重要であります。
 映画分野につきましては,プロデューサーの育成も含め,そのキャリアパスにおいて大学院での学習経験を位置づけていくことも考える必要があります。また,アニメーション分野ではデジタル技術などの新しい技術の習得を含めた人材育成が必要であります。
 学校教育施設からの育成としましては,メディア芸術は我が国の文化であるという認識を有することができるよう,子どものころからメディア芸術に触れる機会を提供することが必要であるという議論がありました。大学の学部段階では,インターンシップの形で学生が現場に派遣されることが有効であります。
 続きまして(4)として,産業や観光面の振興,研究機能の強化及び国内外への情報発信についてであります。
 メディア芸術を振興し,その芸術性を高めることは我が国のコンテンツ産業の競争力の強化,観光や国際交流の促進に極めて大きな効果を発揮するものです。新しいメディア技術に芸術の要素が加わり,次世代のビジネスの萌芽となります。
 観光との連携につきましては,最近アニメーションやマンガの舞台となった場所を訪れる,いわゆる「聖地巡礼」というものが流行しておりますが,このような動きとも連携して活用することが有効であります。
 また,国内の発信につきましては,既にメディア芸術分野での様々な取組みを行っている関係機関の連携・協力体制を構築することが必要です。
 海外発信につきましては,海外で行われている様々なイベントがありますが,それらのイベントと連携し活用するとともに,海外からの留学生や研修生等を積極的に受け入れて帰国後の海外発信につなげて,現在の我が国のメディア芸術の人気が一過性に終わらないようにすることが重要であります。
 さらに,大学などの教育研究機関におけるメディア芸術における分野横断的な研究を振興し,海外の状況も含めたメディア芸術の関連情報,統計なども整備する必要があります。
 また,我が国の大学等が連携し,国内外から研究者が集まるよう研究機能を強化するために,インスティチュートの構築が必要であります。
 最後に,(5)映画の振興についてであります。
 映画につきましては,現在製作支援とは別に時間が大変かかる,準備段階であります脚本づくりを支援することが考えられます。また,映画作品は,商業的な作品と非商業的な作品に大別されますが,芸術性を主眼とすることが多い非商業的な作品の振興につきましては,製作費などの直接支援が必要である一方,商業的作品の振興には税制面での優遇措置が望ましいと考えられます。
 また,放送と連携してテレビ放送を通じた映画作品の普及がより促進されることが望ましいという議論があり,国を挙げて映画を振興する観点から,政府と民間企業が一体となって海外に映画を紹介して売り込んでいく姿勢が必要であります。
 映画の鑑賞環境に関しましては,東京と地方の地域間格差とともに若者の映画離れが憂慮されておりまして,ネット上での映像配信になれている若者には映画館での鑑賞体験を持てるようにする必要があるというご意見がありました。
 以上がメディア芸術・映画ワーキンググループの意見のとりまとめでございます。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。大変盛りだくさんで非常によくまとめられてございます。大学の発信あるいはメディアが単なる文化だけではなく,産業と観光も含めて連携されているというようなことでした。ありがとうございました。
 それでは,続きまして美術のワーキンググループからお願いしたいと思います。青柳委員,よろしくお願い申し上げます。
【青柳委員】
 私どもも3回の会合を持ちまして,以下申し上げるような意見のとりまとめを行いました。美術ワーキンググループは美術分野に関する専門的な事項についての提言を行うために,以下のような4つの事項を中心に検討を加えてきました。
 まず,1つ目は,美術館・博物館に関する管理運営方策,2番目としまして,美術作品等の鑑賞機会の充実及び美術作品制作等へ支援の在り方,3つ目といたしまして,アートマネージメントに関する人材の育成,そして最後の4つ目として,美術関連資料のアーカイブ戦略であります。この検討を加える際に広く美術関連分野に関し,従来国が施策の対象としてきた分野に限定することなく,ヒアリングなど現場の声も聴きつつ,様々な観点から検討を加えていきました。
 まず,「我が国の美術をめぐる現状と課題」でありますが,大体3つのことが言えるかと思います。今日,高齢者や障害者を含めた多くの国民が美術館,博物館を広く利用し,鑑賞,制作活動などを行っている。これはもう世界でも最も美術の好きな国民といわれるほどの活発な状況がございます。しかし経済情勢の悪化等により全国の博物館は経費削減を余儀なくされております。特に公立博物館は指定管理者制度の導入により,調査研究や保存修理に関する機能が低下する例もみられます。
 一方,現代美術を中心とした美術市場は拡大し,例えばこの間,それほど代表作でもないピカソが100億とか,これまでは1億円レベルのブラックがキュビズム,余り人気がないのですが,それが10億もするというように美術市場は拡大を示しております。そして国内で様々なアート・フェスティバルが開催されておりますが,国際的に活躍するアーティストも我が国から登場はしていますが,アートの現場と社会のコーディネート役となるアートマネージメント人材の活躍の場が国内では十分ではありません。また,次代を背負う文化芸術創造の基盤となる美術関連市場は計画的で体系的なアーカイブ化が必要ですが,それが進んでおりません。例えば丹下健三の主要な資料がポンピードセンターに買い取られてしまうといった散逸や,あるいは海外流出の危機に現在あります。
 2番目としまして,「美術分野の振興に係る方向性」というものを3つ提案いたします。
 1つは,美術はそれ自体固有の意義,価値を有し,世代を超えて人々に感動を与えるものであります。国内外や分野といった差別化をせずに幅広く振興していく必要がございます。
 その一方で,美術分野の振興支援にあたってはアーティスト等の主体性・自立性を尊重し,そして効果的に進めていくことが肝要かと思われます。
 3つ目として,美術分野の振興は,教育・観光・産業など幅広い分野に関わりを持っており,地域振興や都市の活性化にも寄与するという視点あるいは国際的に遜色のない人材育成を図るといった国際戦略の構築も重要かと考えられます。
 そこで具体的施策としてはどのようなものがあるかということを,(1)から(4)まで提案したいと思います。
 まず,(1)として「博物館の管理運営方策の充実について」,国による総合的・体系的な博物館政策──もちろんここは美術館を含めておりますが──の構築が急務であり,以下の5つの事項からの提言を図りたいということです。
 まず,[1]博物館の果たすべき役割やその重要性についての理解促進方策です。新たな市民社会においては市民が誇りをもち,市民とともに生きる博物館であることが必要であり,設置者や職員はこのような意識を共有し,サービスの充実に努めるべきであります。
 博物館は生涯学習や国際交流,観光の拠点となるなど多くのポテンシャルを有しており,今後これらの機能を強化し,新たなミッションを博物館の役割として位置づけ,多面的な機能を備えた新たな博物館像を形成することが重要であります。
 そして管理部門を担うためにミュージアム・アドミニストレーターあるいは保存・修復を行うコンサベーター,美術作品等の履歴管理を行うレジストラーなど博物館において様々な専門知識,経験を有する職員の配置を促進するとともに研修制度を充実することが肝要です。
 そして最後に,博物館を地域社会における総合的な成長分野,情報発信拠点と位置づけ,社会的投資の場となり得るような社会全体の認識を深めることも重要かと考えます。
 [2]といたしましては,博物館の国際戦略の構築でございますが,アジアにおける日本のリーダーシップが強く求められており,そして保険制度や文化財の不法輸出入の禁止など国際的な課題に積極的に対応するために,ICOM(国際博物館会議)が定めた「博物館のための倫理規程」を行動規範とし,関係団体が中心となって我が国の博物館の倫理規程を策定することが必要であります。また,国際交流の舞台における若手の実践的・経験的な研修を行っていくべきであります。
 [3]といたしまして,高齢者・身体障害者等に対する対応でございますが,博物館における高齢者・身体障害者あるいは外国人等に対応したソフトサービス施策の充実を図ることが重要であります。
 [4]といたしまして,児童生徒等に対する教育普及方策でございますが,博物館における教育担当専門職員,いわゆるエデュケーターの配置促進や鑑賞活動の増加を通じて博学連携を一層推進すべきと考えます。また,視覚的思考法,いわゆる Visual Thinking Strategyと呼ばれる方法の普及,あるいは子どもたちが博物館に初めて出会える場を積極的に設定するミュージアム・スタート・キャンペーンのようなプログラムの実施も考えられると思われます。
 [5]でございますが,厳しい財政状況下における博物館の運営のあり方です。国として博物館が指定管理者制度を導入する際のガイドラインを作成すべきではないかと考えます。また,博物館に対する公的資金の拡充や寄附税制の充実,それから登録美術品制度のより利用しやすい制度への改善が求められます。この登録美術品制度は非常にすばらしいそうですが,結局税制がネックとなっております。
 それからアーティストの政策活動の場や美術関係団体の拠点となっている旧校舎,旧工場等を活用したオルタナティブ・スペースあるいは博物館の利用促進のため,国として改築やあるいは改修費用の支援について検討すべきと考えます。
 また,NPO法人や個人等が設置する小規模博物館に対する支援方策について検討することが肝要かと思います。
 国立博物館あるいは国立美術館については現行独法制度において毎年度運営費交付金が削減され,経営努力の認定基準が厳しくなるなど様々な課題が指摘されております。政府の独立行政法人の見直しに向けた動向を踏まえつつ,より柔軟かつ効果的な運営を行うことができるよう検討すべきではないかと考えます。
 次に,(2)「美術作品等の鑑賞機会の充実及び美術作品制作等への支援の在り方について」お話をいたします。
 [1]でございますが,美術館作品等の国家補償制度の創設による国際的レベルの企画展覧会開催の支援です。近年,国際レベルの美術作品の保険料が高騰し,企画展覧会が開催しにくくなりつつあります。国民の美術作品等へのアクセス拡大や,あるいは地域間格差を是正するために美術作品等に対する国家補償制度を導入することが必要不可欠と考えます。G8で導入していないのは我が国とロシアだけであります。また,アジア諸国ではこの制度が導入されておらず,まず我が国が率先して導入すべきではないかと考えます。
 [2]でございますが,質の高い国際的大規模展覧会や美術作品制作等に対する支援の促進です。まず,アート・フェスティバルの国内開催を戦略的に支援するため,国際交流基金と連携しつつ国としての適切な支援の在り方を検討すべきではないかと考えます。
 次に,地域の活性化や創造拠点の形成等に資するアーティストの美術作品の制作活動等に対する効果的あるいは効率的な支援方策についても検討すべきであると考えます。
 次に,(3)「アートマネージメントに関する人材の育成について」であります。
 特別展などの企画力や資金収集力を培う研修など,アート・マネージメントに関する人材育成を図り,これらの人材が活躍する場を増加させていくことが必要だと思われます。  それから芸術性と経済性の両立した知識あるいは経験を有する人材を育成するため,現職研修の機会充実を含め,大学・大学院における人材育成の場の充実を図っていくべきだと思います。
 (4)で美術館関連資料のアーカイブ戦略でございます。
 [1]として「美術関連資料のアーカイブの必要性」,これは展覧会,カタログ等の美術関連資料は計画的,体系的なアーカイブが進んでおらず,資料の適切な保存,データベース化や公開活用を促進していくべきだと考えます。そのために各博物館・美術館において所蔵作品の目録(資料台帳)の整備が急務であり,その上で書誌情報,デジタル画像等のアーカイブ化を進めるべきである。
 [2]としてMLA(博物館・図書館・公文書館)の連携の促進。美術分野におけるクリアリングハウス(多様な情報の中継点)の構築,地域連携を促進し美術関連資料を貴重な文化資源として計画的・戦略的な保存・活用をしていくことが必要であり,ギリシヤ語でカゲロウを意味するエフィーメラというチラシのようなものの保存も重要であります。
 それから館の種類あるいは設置者を超えて学芸員,司書及びアーキビストが相互に交流推進を図っていくべきであると考えます。
 以上が本文ですが,最後に留意事項として,今後,美術振興政策,施策を策定するにあたっては,本ワーキンググループで議論の足りなかったアーティストの制作環境,つまり制作活動の支援やあるいは発表機会の提供などの改善についても十分配慮すべきと考えます。
 また,税制,国際交流,アーカイブなどほかのワーキンググループにも共通した議論は文化政策部会における整理・調整をぜひお願いしたいと思います。
 以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。大変すばらしい内容で,ミュージアム・スタート・キャンペーンはおもしろいですね。それからエデュケーターのお話,田村委員からのご報告と共通する部分もすごく多くあったような感じがいたしましたし,先ほどの浜野委員のご報告からもつながる部分が多いかと思います。ありがとうございました。
 それでは,次にくらしの文化ワーキンググループについて,後藤委員からご報告をよろしくお願い申し上げます。
【後藤委員】
 後藤です。よろしくお願いします。くらしの文化ワーキンググループは山脇委員が座長だったのですが,今日はご欠席ということで代わって私から報告をさせていただきます。
 この「くらしの文化」という分野について文化政策部会で取り上げるのは初めてだったようで,他のワーキンググループに比べて本当に議論の積み重ねがないところを切り拓くような会合でした。しかも「くらしの文化」というと,文化芸術振興基本法に書いてある茶道,華道,書道であるとか,あるいは香道といったものも入るのかもしれませんが,そういうふうなものから衣食住に係わる文化,今までのワーキンググループから報告されたような事柄をくらしの中にどう取り込むかということ,あるいは文化財には至らないが非常に貴重な伝統文化として残すべきものの振興をどうしたら良いかといったことも含めて,非常に広範にわたる議論となりました。ワーキンググループは3回開いたのですが,非常にテーマが広いものですから議論を尽くさなければいけないことはたくさんあると思うのですが,今日までのところをご報告申し上げたいと思います。
 まず,最初に他のワーキンググループとも一緒ですが,「くらしの文化」をめぐる現状,課題について話し合い,それから振興に係わる方向性,それから具体的な施策として,ここが一番ボリュームがあると思いますが,「くらしの文化」に関する調査・研究の推進であるとか,「くらしの文化」の担い手,あるいは団体の育成支援,それから創造都市の推進と創造産業の振興,4番目に観光振興や文化発信に資する環境整備となっております。それから最後に留意事項ということで,他のワーキンググループと同じ構成になっているかと思います。
 まず,一番最初ですが,本ワーキンググループが一体何を話し合ったのかということなのですが,先ほども申し上げましたとおり文化芸術振興基本法に書いてある生活文化という括り,あるいは国民娯楽についても書いてございますので,そういうものを取り上げるということと,それから衣食住に係わる文化,つまりファッション,食,建築などに関する事柄ということになります。そういうものすべて生活に係わる「くらしの文化」として包括的にとらえて,その振興方向について検討をしたということになります。
 その際,文化財の指定には至らないが失われつつある伝統的な「くらしの文化」の保護,伝承という過去のものを大事にするという側面と同時に,そういう伝統的なものを生かしながら現在の創造が行われているというところもとらえまして,それが「くらし」の中にもっともっと文化が入ることによって,先ほど他のワーキンググループからもご報告がありましたように観光振興につながるとか,あるいは産業振興につながる,経済の振興につながるといったようなことがございますので,創造都市とか創造産業を含めて現在・未来の創造活動によって形づくられる「くらしの文化」といったものも振興の対象として取り上げる。あるいはそれらを観光振興とか地域振興,雇用創出,文化発信につなげるというふうな非常に大きなテーマで議論をいたしました。
 まず,「くらしの文化」をめぐる現状,課題ですが,「くらしの文化」というのは非常に長い歴史の中で営まれてきた人々の生活によって形づくられてきたもので,我が国独自の風土を形成するとともに,その地域に固有の文化的価値を形成してきたという認識を基本にしました。
 しかし,この「くらしの文化」というのは生活に密着したものであるがゆえに失われつつあるという危機感が各委員からは出されました。それは衣食住すべてにわたって失われつつある。それから茶道とか華道とか香道についても,やはりそれらをたしなむ人たちが減っているのではないかという議論もございました。ですから失われつつある「くらしの文化」である伝統的なものを,もう一度再興しながら現代におけるより魅力的な生活をつくり,それが産業振興とか地域振興,観光振興につながるといったように過去から現在,あるいは未来を見据えた振興をしていかなければいけないということになるかと思います。
 では,一体「くらしの文化」という,これは場合によってはプライバシーにも関わることになるので,一体国が何をしたらいいのかというところで,振興に係る方向性ということになるわけですが,一つはまず実態調査をしてみる必要があると,どれだけ失われ,何がどうなっているのかということをきちっと調査をする必要があるということです。
 その次に調査に基づいて新たに「くらしの文化」を発掘したり,もう一度再興したり,あるいは連携・交流を通じて振興する,それから「くらしの文化」そのものが観光資源になるというようなこともありますので,発信をしていくことが方向性になるかと思います。
 あと,「くらしの文化」というのは人々の生活に密着しているため,直接国が入っていって非常にハードな手法で振興するということはできませんので,国としては税制ですとか法制度,それから競争的資金の配分とか顕彰などによってインセンティブを設計する。民間で既に行われていることの障害を取り除いたり支援をしたり,あるいは地方公共団体の創造性を喚起するといったインセンティブに関わる制度設計というのができるのではないかという議論になりました。そして,文化庁としてはおおむね3年程度をかけて「くらしの文化」振興のフレームワークを構築することを当面の目標にすべきではないかということになりました。
 次に,具体的施策ですが,これは幾つかありますが,まずデータを収集するということで,施策を立てるための基礎資料というのをつくっていきましょうということが一つです。
 次に「アーカイブの整備」をする。これは他のワーキンググループで出されたことと共通しますが,できるだけ無差別に保存しておくというのがアーカイブの趣旨になりますので,アーカイブを整備をしていくことが非常に大事なことではないかということです。
 次に「担い手の育成」なのですが,「くらしの文化」ですから例えば陶器といったような伝統産業をとってみても,それは使う人がいなければそういう産業はないということになります。ですからお茶というような文化があって,初めてすばらしい茶器といったようなものが生まれたりするわけですから,生活の在り方と産業の結びつきが強い。生活が産業を創り出していくというような面がありますので,供給サイドと需要サイドの両方から振興する必要がある。ここは舞台芸術ワーキンググループでも子どもの鑑賞ということに言及されておられましたし,美術館ワーキンググループも同じですから全く「くらしの文化」も同じだと思いますが,重要サイドの人たちのくらしの中の文化についてできるだけ子どものときに本物に触れる体験をすべきであるし,そういう本物を知る入口としてはゲームとかインターネットなどを活用することも考えられるといった議論がありました。そういうことを通じて今度は供給側としては文化財ワーキンググループとも関連しますが,伝統的な美術,技法を継承する,あるいは保護することについて指摘されました。
 次に「支援手法の検討」ですが,従来,建物とかハード面では各省庁が助成をしてきたわけですが,地域資源の発掘とか団体の立ち上げに関する支援策はまだ不十分なので,その拡充が求められるといったようなこと。あるいは文化財には満たないが,街の文化的な景観を構成するのに非常に重要な古民家などを再生・保存,それだけではなくて現代的に活用するというようなことも含めて税制優遇など,様々な支援策が考えられるのではないかということです。
 それから「くらしの文化」もやはり海外に発信するということができるので,そういうことに対して顕彰制度,つまり海外において発信してくれる人たちに対するインセンティブの設計というのがあっても良いのではないかといったことも話し合われました。
 次に,創造都市とクリエイティブ産業の振興ということで,クリエイティブ・シティというのは地域の資源とか伝統的なものの良さを見直して,それを地域振興に寄与するように潜在的な可能性を見出していくことも含まれますので,「くらしの文化」と密接な関わりがあるということで取り上げました。都市がクリエイティブ・シティを推進する上で意味のある税制などインセンティブの設計,あるいは省庁横断的な支援ができないかといったことが話し合われました。
 いずれにしましても経済的インセンティブ,文化的インセンティブを導入して,創造的な人材の集積を促すといったようなことに対する国としての何らかの方策も考えていくべきだと思います。
 次に,クリエイティブ(創造)産業の振興ですが,このクリエイティブ産業の中には建築とかファッション,デザイン,工芸なども入りまして,従来のコンテンツ産業よりは非常に広い範囲を含みます。クリエイティブ産業については今までですと流通促進という産業政策の一環としてとらえられてきたのですが,今後は創造性を重視した文化政策の一環としても振興を図っていく必要がある。つまり非常にクオリティが高く文化的な価値のあるものを振興していくことも非常に重要な役割になるのではないかということです。
 それからもう一つ,クリエイティブ産業というのは非常に小規模な事業所で活動している,あるいはフリーランスの人たちが多いということで,そういう人たちのための社会保障あるいは知的財産とか契約に関する教育が重要ではないかといった意見の出されました。
 その次の観光振興や文化発信ですが,これは平田参与から先ほど文化施設が観光拠点にもなってというお話がありましたが,やはり「くらしの文化」というものがそのまま観光資源になる,あるいは非常に重要な地域振興の資源になるというとらえ方をして,文化財には満たないが伝統的なものを活用したビジネスを支援していく。ワーキンググループに参加された委員の中に京都のまちを再生してレジデンスを行っていらっしゃる方もいらっしゃいまして,大変ご苦労されているようですが,そういったビジネスを成立させていくための支援などが検討されてもいいのではないかといったことも話し合われました。
 最後に文化発信ですが,これは外国語での海外への発信といったことを実施する必要があるということです。留意事項ですが,「くらし」の文化は衣食住に関わるわけですから文化庁だけというよりは,他の省庁と一緒に省庁横断的にやっていく必要があるということが最も強調されたことです。それからアーカイブであるとか税制とか,そういうインセンティブ設計という観点からの施策の考え方も強調されました。
 それから3番目として,他のワーキンググループで議論されている舞台芸術,美術,それからメディア芸術,文化財といったものを「くらし」の中にどう取り込んでいくか,つまり美術館にわざわざ行かなくても「くらし」の中で絵が楽しめるというようなことも非常に重要になってきます。例えばですが,Percent for Artといって公共事業費の1%を文化にあてていくという考え方ですが,そういうことも考えられますし,あるいは意見のまとめには書いてありませんが,オランダ等ではアーティストの絵を政府が買い上げて,絵の図書館というのがあります。その絵の図書館では,一般人が2,000円ぐらいで1カ月絵を借りられて自分の家に飾れると,もちろん国宝級の絵とか非常に重要なものは貸しませんが,それでも若手のアーティストの絵などを政府がたくさん買ってストックをして,それを図書館のように有料で貸し出すことによって,もっと「くらし」の中に絵を飾るとかそういう楽しみを広げていくということも考えられますので,そういう視点から他のワーキンググループとのすり合わせをしていきたいというふうに思います。
 以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。初めての分野ということで大変ご苦労なさったことがにじみ出ておりました。これも先ほどの美術ワーキンググループなどのご議論とつながっておりまして,しかもまたそれが大きな建物ではなくて個人のくらしの中からも文化芸術がきちっとできるのではないかというふうお話だと思います。ありがとうございました。
 次に最後でございますが,文化財ワーキンググループについて佐々木委員からお願い申し上げます。
【佐々木委員】
 それでは,ご報告申し上げます。文化財ワーキンググループもやはり3回会合を持ちました。先ほど来ずっと各ワーキンググループのご報告を聞いておりまして,大分重複する項目もございますので,その辺はまたいろいろご調整をいただくことにしまして,まず,私どもが関わりました本ワーキングループの様々な意見をここでご報告をいたしたいと思います。
 本ワーキンググループは新たな文化芸術立国の時代にふさわしい文化行政の展開を図るということで議論をしたわけでありますが,その際に幾つかの視点に立って議論を進めようということで,資料8の2つ目の【に「―」がありますが,5つぐらいの視点をまず確認をしたわけであります。
 多様で非常に豊かな文化財が存在しているわけでございますが,これらは従来から文化財保護法のもとにそれ相応に施策がなされまして,かなり役割を果たしていると。しかし近年この文化財というのは先ほど来いろいろ出てきておりますように地域振興であるとか観光振興であるとか,あるいは経済発展あるいは国際社会への貢献ということで様々な役割を担うことが期待されているわけでございます。文化財保護の裾野をやはり広げていくと,文化財を幅広く支えることがどうしても必要になってきます。その裾野を広げるためには必然的に様々な組織であるとか多くの人々との連携がやはり前提になければいけない。そして国の施策としては,やはり文化施策が他の諸施策と非常に良いバランスのもとに配慮される必要がまずあると。そういうことを前提にしまして,いろいろ議論を展開したわけであります。
 先ほども申しましたように,日本には非常に豊かで多様な文化が存在しているわけでございますが,従来文化財保護法に基づいて守られてきたという点がかなりございますし,それからいろいろな時代の変化に対応して見直しが行われたり改善が図られたりということで,一定の成果がおさめられてきているわけであります。私たちはこの議論をする際に,そもそもこの文化財というものは国とかあるいは地域の歴史文化の証として存在するものでありまして,文化的なアイデンティティのまさに基本を成す,基本を形成するものであるということを,まず認識をしておかなければいけない。
 近年やはり文化財が地域振興であるとか観光振興であるとか,経済発展あるいは国際社会の貢献にも資するものであるという認識が確かに高まってきている。そして文化財の果たす役割というのは非常に拡大が求められてきている時代であることは間違いないわけであります。この日本文化全体の基盤であります地域の多様で,かつ豊かな文化財を幅広くとらえて,その保護,保存,活用を図るということは,真に活力ある地域主体の社会を構築していくと,そして活力ある社会として発展していくということにやはり文化財というのは大いに寄与するものであるだろうということです。
 そういう国民一般の認識が最近は高くなってきていることは事実であります。
文化財の支援が社会の活性化あるいは経済振興に貢献するという意識も徐々に高まっていることは事実ではあるのですが,一方で環境が十分に醸成されているとは言いがたいわけであります。環境を整えていくということがこれから非常に必要になってくるだろうと,現代のそういう社会認識,社会状況に立脚をいたしまして,新たな文化芸術立国の時代にふさわしい文化財行政の展開を図ることが必要であるという,認識に立って議論を始めたわけであります。
 具体的には文化財に求められる役割が拡大していることに対応するため,これまでの文化財保護制度に加え,指定された文化財のみならずその周辺の文化財,先ほどもちょっとお話に出ておりましたが,周辺の文化財あるいはそれを取り巻く環境にも視野を広げて,単に点としてとらえるのではなくて,線または面として総合的に保存・活用を図るということが必要であると。そしてこのことにより地域の人々の文化財への理解増進,それから文化財保護への支援というものが得られる環境が醸成されていくということが必要でありまして,その結果として文化財の継承を確かなものとしていく。そういう方向での展開が図られるような行政の在り方が求められるわけであります。その際には文化財に求められる役割も非常に多様化しておりまして,当然関係者間での一層の連携強化というものが不可欠ということは言うまでもありません。
 具体の施策としましては,文化財の持つ潜在力を一層引き出すための文化財行政の展開を図るために考慮すべき事項として大きく4つ挙げております。
  1. 1つ目は,文化財の公開・活用の在り方
  2. 2つ目は,文化財を将来の世代に持続的に継承するための取組
  3. 3つ目は,無形の文化財や文化財を支える技術,技能の伝承者等の養成
  4. 4つ目は,文化財を通じた国際協力,交流の推進
 ということであります。
 最初の1つ目,文化財の公開・活用の在り方ですが,これは3ページの(1)でございますが,これまで以上に社会全体で文化財を守り,かつ継承し発展させていくためには,社会を構成する各層の主体が文化財への理解を深める,それから関心を持ってもらうということが重要でありまして,文化財の公開・活用についてもこれまで以上の積極的な取組が当然必要になるわけであります。そのためには文化財の公開・活用を促進するための方策といたしまして,公開・活用の取組は例えば昨今非常に科学的な技術が進展しているということもありまして,そういうものを踏まえた文化財の魅力をうんと引き出すような,そういう新たな公開・活用への取組が必要である。それから活用環境の整備あるいは施設設備の整備等,公開・活用促進のための支援をする必要があるだろうと。
 それから文化財の魅力の再発見を促す展示機会等の充実,あるいは公開・活用における学校教育との連携など非常に重要なわけでありまして,そのための支援の充実の必要性について整理をいたしております。
 それから地域の活性化を促すための文化財の活用といたしまして,地域の文化財を総合的に保存・活用するための基本的な方針として,「歴史文化基本構想」の策定を進め,地域の魅力の再発見を促し,地域の活性化等多様な地域文化の継承に資する取組を行うということの必要性。そしてまた,そのための支援の充実の必要性について整理をいたしております。
 次に4ページ中の,(2)でありますが,「文化財を将来の世代に持続的に継承するための取組」であります。
 この取組としましては,文化財の一層の活用を図りながら文化財を将来に持続的に継承するため,適切な保存の取組が必要であるわけですが,地域社会の変化あるいは担い手の不足,あるいは原材料の不足等によりその取組が困難な状況にあることから,文化財を適切に保存する取組をこれまで以上に充実することが必要であり,そのためには一つは適切な保存のための取組の充実といたしまして,まず,文化財の全体像を把握する。そして全体像を把握して文化財の保存の取組の充実の基盤をつくる。それから文化財保護対象の範囲の拡大あるいは周辺環境を含めた保護の措置を講ずる方策など,この文化財保護の裾野の拡大をしていくということであります。
 それから文化財の計画的な保存修理,防災対策の実施もぜひ必要でありまして,そのためには長期にわたる修理,防災計画を立案し計画的な整備を実施すること。それから周辺を含めた広域的な防災体制の構築を行うということ。そしてそのための支援の充実の必要性につきまして整理をしております。
 また,文化財について将来の世代に持続的に継続していくには社会全体で文化財を支える環境の醸成が必要でありまして,そのために文化財について理解を深めるための方策といたしまして,5ページの中ほどになるかと思いますが,学校教育とも連携をした上で子どもの頃から文化財に関する教育及びそれに親しむ機会の充実を図る必要があります。それから文化財の保護に関する人々の理解を増進するための機会の充実とこれらを支える仕組みとして,やはりこれも税制上の優遇措置あるいは必ずしも金銭的な寄附のみならず幅広い支援の仕組みづくり,そのための支援の充実の必要性について,今整理をいたしております。
 それから6ページの(3)に,無形の文化財や文化財を支える技術・技能の伝承者の養成の取組について整理をしております。
 我が国固有の伝統と文化を反映して,長い歴史の中で受け継がれてきた無形の文化財あるいは文化財を支える技術・技能の継承,これがなされなくなるということが危惧される,それが非常に危うい状態で危惧される状況が生じております。この状況に対して重点的に手当を講ずるべきであって,そのために,まず伝承者の養成のあり方といたしまして,無形の文化財や文化財を支える技術・技能の伝承者について,その頂点の伸長を図るとともに,その保持者に続く伝承者の養成とその裾野の拡大を図るための方策の充実,あるいはその支援の充実の必要性について整理をしております。
 それから担い手の裾野の拡大の方策としては,学校指導要領にも伝統文化に関する記述の充実が図られてきたところでありますが,学校教育における指導の充実,それから研究機関等との連携の強化も重要であります。
 それから無形の文化財や文化財を支える技術・技能について広く国民の理解を得るための方策を考えていかなければいけない。それからその支援の充実等について整理をいたしております。
 7ページは(4)文化財を通じた国際協力・交流の推進という形で整理をしております。
 世界の非常に多様な文化の発展に積極的に貢献していく上でも,国際協力というのは非常に重要であります。また諸外国と文化についての相互理解を進めていくためには外国に日本の文化を発信するとともに,海外の文化を理解するための取組の強化も必要でありまして,そのためには,まず文化財保護の国際協力の推進,つまり我が国が持っている非常に高度な文化財保護・保存の修復技術等を積極的に提供していく必要があるだろうと。
 そして国際協力に係る人材の育成も極めて重要でありますし,その仕組み,取組の充実です。さらにそのための支援の充実の必要性ということをこのあたりで整理をいたしております。
 それから文化財を通じた国際交流の推進といたしまして,これは美術工芸品であるとか,あるいは伝統芸能,伝統技術など日本の伝統文化を戦略的に発信をしていくことが必要であります。また逆に海外からの文化を日本に積極的に紹介をするという,そういう形での国際交流の推進ということが必要でありまして,そのための支援の充実の必要性について整理がなされております。
 最後に,文化財行政における国,それから地方,新しい公共,各々の役割及びその連携の方策について8ページの3に整理をいたしております。
 具体的には総論といたしまして,文化財は,我が国の歴史や文化の理解に欠くことのできない国民共通の財産であるということ。
 地域文化を確実に継承していくために,地域社会に係わるあらゆる主体の参画を得るということが非常に重要であるということ。
 地域文化を継承していくための取組を進めるに当たっては,国,地方公共団体,それから自ら活動に参画する地域の人々やNPO法人などの民間団体等が各々の役割を明確にしつつ,相互に連携を図るということが必要である。ということを総論として述べております。そして国の役割として,
 国民共通の財産である貴重な文化財,これは確実に継承していくべきものであって,その継承するための文化財の適切な保存の取組というものは,これは国が責任ある体制のもとに指導的な役割を果たすということが何としても必要である。
 そして地域の風土や生活を反映した文化財は,その地域経済の活性化あるいは雇用機会の拡大にもつながるということが期待されているわけでありまして,国がその保存活用について積極的な支援を行うなど,指導的な役割を果たすことが必要であるということ。
 それから地域の多様で豊かな文化財の継承というのは各地域で主体的に取り組むことは確かに基本ではありますが,それらの文化財は日本の文化全体の基盤をなすものでありまして,国は地方公共団体等と連携をして地域ごとの文化財保護の実情にも留意しつつ,積極的な支援を行うことが必要であるということを述べております。
 その際には,寄附の促進であるとか,あるいは税制上の優遇措置等についても的確に施策を講じることが必要である。
 民間団体が主体となって実施する活動に対しても国として積極的な支援が必要である。
 さらに,我が国の貴重な文化財の散逸あるいは海外流出を防ぐため,国や国立博物館等の買い上げ予算の充実を図るとともに優れた,必ずしも否定はされていないが,優れた未指定文化財も含めて散逸,流失を防ぐ方策について検討する必要があるだろうということであります。 
 それから地方公共団体の役割といたしましては,今日,地域主権への転換が求められておりまして,地域の人々に身近で多様な文化財を保存・継承していくには地方公共団体の果たす役割というのは言うまでもなく極めて大きいわけであります。
 地域の文化財は,地域振興や観光振興等に資するものでありまして,地方公共団体がその域内の文化財を総合的に把握し,点としての保存活用のみならず,先ほど申しましたようにすべて点・線あるいは面として総合的に保存・活用することが必要である。
 そのために地方公共団体において財政措置の充実を図るとともに,文化財行政とそれから地域振興あるいは観光振興,産業振興などの幅広い分野との連携を図りつつ,新たな展開を図ることが必要である。
 そして新しい公共の役割としましては,新たな時代における文化財を支える仕組みとしては,国,地方公共団体といった官だけが担うのではなくて,広く地域の人が参加して,社会全体で応援をするという,そういう「新しい公共」の考え方に基づいてNPO法人や地域の人々などが参加できる基盤を形成して,積極的な「民」の活力を生かす取組が必要であると,またそのための支援が必要であるという,そういうことで一応意見をまとめたわけであります。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 先生方が大変な思いでワーキンググループをなさってくださったので,その発表の機会ということでございましたのでしかと承りました。ありがとうございました。
 さて,一番重要な部分がございます。つまりそれぞれのワーキンググループでお話になったこと,これからその中でいわゆる皆さんがおっしゃっている横断的といいながら,今発表はすべて縦割りでございましたので,その辺ところを含めてご意見等々もいただかなければいけないと,かように思っておりますので,よろしくお願い申し上げます。
 それでは,中間的な報告に向けて資料2の目次(案),全体構成をベースにまとめていってはどうかというふうに考えますが,よろしゅうございますか。
 まず,目次(案),全体構成についてご意見がございましたら,それに対してお答えしたいと思います。もし,このまま進めていってよろしいということでありましたら,意見のまとめについて「第3次基本方針」の重点施策に盛り込んでいくと,これを念頭におきながらご意見をいただければと思っておりますがいかがでしょうか。
 よろしゅうございますか。

(発言する者なし)

【宮田部会長】
 それでは,進めさせていただきます。そのためには重点施策のメリハリのある記述,それから来年度の概算要求,これを見据えながら重点的なことを深く,また新たにということを大事にしていきたいと思っております。その辺にご留意いただきまして,全体的,横断的にご意見をお願いしたいと思います。加藤委員お願いいたします。
【加藤委員】
 全体的なことなのですが,先ほど文化財ワーキンググループの意見のまとめの中に,「国の施策においても,経済発展等を目指す中で,文化施策が他の諸施策と常にバランスよく配慮される必要がある」というふうに書いておられて,これまことにそのとおりだと思うのですが,いささか遠慮がち過ぎるのではないかなと思いました。先ほどの平田参与のご発言なども踏まえて考えると,むしろバランスよくという遠慮をしないで,ここで審議をしている文化芸術の振興ということは,我が国の最も重要な成長分野なんだということをもっと強く最終的には主張して,そのことを強く主張した上で具体的な施策展開ということを図っていく必要があるのではないのかなというふうに思います。 もう一つだけ付け加えますと,特に「くらしの文化」とか「文化財保護」ということまで視野に入れると,いわゆる既存の文化振興のための施設等への振興策というものについては,わりあい具体的な提案というものがあったかと思うのですが,特に地域における文化資源の発掘とその活用の制度設計について,必ずしも十分突っ込んだ提案が出てきていないのではないかなというふうに思います。その点はどのワーキンググループでも触れてはおられるわけですが,既存の文化施設でない創造的な地域文化拠点の形成をどういうふうに制度設計するのかということは,ぜひ重点施策として網羅的に取り上げていただきたい点だと思います。以上です。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。その点は今日のこのワーキンググループのご報告の中からも先生方も感じているのかなと。加藤委員,ありがとうございました。では,後藤委員お願いいたします。
【後藤委員】
 意見というよりも質問なのですが,先ほど文化財のところをお聞きしていて思ったのですが,文化財政策については非常に長い歴史があって,文化財保護法ができて,それが1950年から相当積み上げがあった分野だと思うのですが,今回のこの報告では新しいものとして一体そこに何をプラスしようとしているのか,やはり明確にしたほうがわかりやすい気がいたしましたので,その点を質問させていただきたいということ。
 もう一つは,個別の意見になってしまいますが,美術のところで出た美術展をやるときに国家補償というのはもう長いこと懸案で実現していないことで,そういうのはもう本当に具体的に個別の問題として挙げていったらいいと思いますし,それから相続税の物納に当たるものがうまく機能していないのは税制の問題だということも出ておりましたし,それから流出を防ぐための,あるいは作品を収集するための税制ということで,文化財のところで触れられているのですが,この辺の税制についてはもう少し具体的にどういう税制を今回は重点として挙げるかというようなことも,もう少し踏み込んで議論したらいいかなというふうに思いました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。では,吉本委員。
【吉本委員】
 私は舞台芸術のワーキングだったのですが,他のワーキンググループのご報告を聞いておりまして大変勉強になりました。このまとめの資料2の第2のところに相当すると思うのですが,1の(2)以降,分野別になっていまして,分野別にそれぞれ重点施策を挙げるということはあると思うのですが,各分野の話を聞いておりまして幾つか共通するものがあったかと思います。支援の話は,例えば舞台芸術ではアーツカウンシル的なものを充実すべきだということがあります。それからアーカイブの話がいろいろ出まして,実は舞台芸術の分野ではアーカイブのことを議論し忘れたなという,舞台芸術って一回限りの公演なのでそれこそどうやって記録を残すかというのは非常に重要な課題なんですね。例えばそこがアーカイブというものに共通するのもありますし,それから国際発信とかフェスティバルなど共通するのがあるので,第2の1の(1)のところに,重点分野というか重点施策というような言い方ができないだろうか,と思いました。文化の分野における未来への投資というようなことで,例えば支援のことを謳うとか,未来への投資だけではなくて過去のものもちゃんと体系的に整備しなければいけないということでアーカイブを謳うとか,何かそういう柱立てをした上で分野ごとの特徴にあった施策を打ち出していくというふうにしないと,分野別に施策が並ぶと舞台芸術とメディア芸術と美術とどこを一緒にやるんだみたいな話になってしまいそうな気がしましたので,この第2の1の(1)のところでそういう施策の柱立てというのを打ち出せるといいのではないかというふうに思いました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。そのとおりと思います。里中委員どうぞ。
【里中委員】
 私はメディア芸術と映画分野ですが,随分他の分野も勉強になりまして大変参考になりました。全体を見ておりまして,大きくいうと結局文化芸術立国のために何をするかということなんですが,文化芸術立国となるためには経済性というのは離せない問題ですので,もう少し全体を通じて,経済効果みたいなものも入れ込んでいって良いのかなという感じがしました。それとやっぱり幾つかのところで,東アジアの中での文化芸術の中心地になりたい,ならねばならぬ,期待されているというのが出てきたのですが,これは本当に期待されているのかどうか,つまり近隣の国が本気で膨大な予算をかけてくれば中心地はこちらですと言われてしまう今風前の灯火なところがありますよね。今の日本の経済状態からするとどんなに頑張ってもそれほどの予算は見込めないわけですよ。ですから経済効果をうったえることも大事なのですが,それを乗り越える,何となく今日本が文化芸術の面でこれだけ大事にしていて,文化芸術立国になれそうと言ったとしても,本気で莫大なお金をかけてどこかが何かの場を構築すれば,かえって恥ずかしいことになってしまうんですよね。その辺のバランスがすごく難しいのですが,最悪のことを考えまして経済効果がそれほどなくても誇りにつながるような,非常に崇高な使命感とか理念とかそういうものを謳い上げておかないと何だったんだと言われかねない。やっぱり政策というのは,次の世代がもっと自分たちが頑張ってこの理念を引き継いでいこうと思えるような,何か哲学的ともいえるようなものをバーンと出しておくというのも必要かなと思いました。
 あと,全体を見て著作権というのがすごく微妙な問題になってきますので,各分野ともその処理をどうするのかとか,何か新しい方策とか,特にアーカイブ化のときには具体的にはその面が結構出てきちゃうと思うんですね,だから今後具体性を持った著作権処理の方法みたいな新しいアイデアなども組み込まれるといいかなと思いました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。小田委員お願いします。
【小田委員】
 5つのワーキンググループからそれぞれご報告を頂戴しまして非常に参考になりました。ただ,私が申し上げたいのは,今の我が国が抱えている社会状況,高齢化,それから経済成長はともかくとして成長社会から成熟社会へと移ってきていることは事実であろう。そのために文化芸術立国を振興していかなければいけないと,推進していかなければいけないと,こういう位置づけがやっぱり社会情勢と同様に大切ではないかと思います。
 それからワーキンググループの共通したところは先ほども少しご意見が出ておりましたが,もっと文化予算を大胆に,やっぱり充実をすべきではないかということ。それからこれからの次世代を担う子どもたち,やはり小さいときから感性を養うといいますかそういう必要性,それから作り手,クリエイター,それから見せ手,プレゼンター,それぞれの役割分担,それと同様に国と地方との役割分担もあるであろうと,そういったやっぱり位置づけというものが共通した5つのワーキンググループの流れではないかというふうに感じました。そういう点を中間まとめの中で位置づけをいただければという意見でございます。
 以上でございます。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。鈴木委員どうぞ。
【鈴木委員】
 私は少し国の大きな方向性との整合性というのを意識することも必要ではないかなと,地域主権国家をつくるということは新政権の目玉中の目玉であると同時に,他の政党も方向性としては位置づけている。明らかにそういう方向に日本が進んでいくということでありますからそういう中での文化政策の在り方とか,あるいは先ほど平田参与も申されていましたが,総理が「新しい公共」というものに対して非常に大きな価値を置いているということでありますから,そうした担い手としての「新しい公共」がこの文化政策の中でどういった位置づけになるのか,国の今の大きな施策の方向性の中で文化政策というものについても少し整合性を図る必要があるのではないかなと,そんな感じを受けました。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。高萩委員。
【高萩委員】
 資料2の「中間的な報告」の目次のところなんですが,先ほど吉本委員がおっしゃったように,2番目の重点施策のところの(1)をきちんと書くということが重要だと思うのです。しかし中間的報告というのが来年度予算をにらんで出しておこうということだったらば,今議論したような重点施策を先に持ってきて,そこの部分を強調した方がよいと思います。そして基本理念の見直しについては今後やっていく。最終的に第3次の基本方針を出すときは,やはりこの格好でないとまずいと思うのですが,今回に関しては重点施策を表に出すというほうがはっきりわかりやすいのではないかなと思います。
【宮田部会長】
 その辺はテクニックが必要になってきますね。増田委員お願いします。
【増田委員】
 今回の討議で共通しているのは人の養成とそれからNPOという民間,「新しい公共」ですね。小さい政府でいながら大きい能力的な活動を進めるためには「新しい公共」を積極的につくっていかないと,人を減らすだけでは結局はだめなんだというところを,ぜひ強調していただきたいと思います。
【宮田部会長】
 ありがとうございます。最後に中身の濃い一言でございました,ありがとうございます。  私はやはり人材育成ですね,この部分がきちっとできていないとどうにもならないと。子どもがパッと上がっていくにはその目標となる,例えば幼稚園であれば小学校,小学校であれば中学校,中学校であれば高校,そして向かっていく大学の中で大きな高等教育の中でしっかりとした文化芸術できれば,大きな文化芸術につながる感じがしております。その辺をしっかり構築していくには文化庁及び文科省が隣にあるだけではなくて,きちっとした連携がとれる力が必要だというふうに思います。それに対して私どもは十分の体力を持って頑張るつもりでおりますので,よろしくお願いいたします。
 大変申しわけございません,最後ばたばたとしましたが,いい議論をいただきました。ありがとうございました。 最後になりましたが,後藤政務官においでいただきました。一言お願い申し上げます。
【後藤政務官】
 政務官の後藤でございます。部会の先生方には本当にお忙しい中ワーキンググループそれぞれの5分野の中で3回にわたってご議論頂き,とりまとめていただきましてありがとうございます。今後,部会としてさらにまた3度ご議論をいただきながら中間的な報告をとりまとめるという話を聞いております。すべてをお聞きしたわけではありませんが,事務局のほうからも随時報告を受けながら,あくまでも大臣が皆様方に諮問をし,答申を受けるということの中で,これからの予算や政策に反映していく所存でございます。
 冒頭2月に諮問をした際には,大臣なりのお考えをお話をさせてもらいましたが,私自身は30年前,大平内閣のときに当時浅利慶太さんほかが「彩の国」という日本のこれからの文化芸術という方向性を何年かかけてとりまとめをいただきました。それ以上のものを私は部会長はじめ皆さん方にぜひ,大変お忙しい中でありますし,時代が当時と違って人口も減少し,また経済も非常に厳しいという状況の中でなかなか文化芸術というものが国と地方公共団体,また民間も含めてそれぞれの役割分担が余りよく見えないという混沌した中で,新たにこれからの方向性を見出していただきたいと。先ほど部会長がお話になりましたように,他省庁との連携を含めて変化すべきは変化をするということで,現在の予算や事業をやはり皆さん方から見てもきちっとした形で連携がとれ,またきちっと評価をされるというふうな予算の体系,事業の体系にしていきたいという個人的な思いもございます。これから大変お忙しい時期とは存じますが,6月の中間とりまとめに向けて,さらにご審議をいただきながらより良いものを部会長を中心にとりまとめていただくことを心からお願いをして,御礼とお願いのご挨拶にさせていただきます。これからもどうぞよろしくお願いします。
【宮田部会長】
 ありがとうございました。それでは,最後に事務局から今後の日程,確認等をお願いします。
【滝波企画調整官】
 今後の日程ですが,資料9に書いていますとおり,次回,第6回の部会は5月19日,(水),15:00から17:00,場所が東館の3F1特別会議室という部屋になります。
 それ以降は記載のように,大体週に1回のペースで6月2日まで行っていくというふうな予定でございます。どうぞよろしくお願いをいたします。ありがとうございました。
【宮田部会長】
 大変ハードでございますが,予算の概算要求のため,すべて私どもの汗は日本の文化芸術のために寄与できるということで,よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
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