文化審議会第9期文化政策部会(第5回)議事録

1.出 席 者

(委員)

秋元委員,伊藤委員,太下委員,岡本委員,加藤委員,後藤委員,佐々木委員,里中委員,高萩委員,坪能委員,富山委員,中村委員,浜野委員,宮川委員,宮田委員,吉本委員,渡辺委員

(事務局)

福原参与,神本政務官,近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,小松文化部長,石野文化財部長,大和文化財監査官,大木政策課長

2.議事内容

 【宮田部会長】  それでは,文化審議会第9期政策部会第5回を開催いたします。御多忙のところ御出席頂きまして,ありがとうございます。
 本日は,前回に続きまして福原文部科学省参与に御出席頂いております。ありがとうございます。
 なお,青柳部会長代理,奥山委員,西村委員,鷲田委員の4名が本日は御欠席でございます。また,本日は大変御多忙のところ,神本政務官に御出席頂いております。開会に当たりまして,一言お願い申し上げたいと思います。

【神本政務官】  御紹介いただきましたこの9月から文部科学大臣政務官を拝命しております神本美恵子と申します。参議院議員でございます。
 本日は,この文化政策部会の開催に当たりまして,一言御挨拶申し上げたいと思います。東日本大震災から9か月がたったところでございますが,この震災からの復旧・復興は,日本国民のみならず世界中の皆さんが期待していただいているところなのですが,復旧・復興に当たって私は文化芸術の力というものがどれほど大きな貢献をするといいますか,力を発揮するかということを心から信じている者でございます。今日,部会の委員の皆さん方も,それぞれ文化芸術の各界で御活躍のそれぞれの皆さんでございますので,私が申し上げるまでもなくそのことを認識していただいていると思いますし,特に被災された皆様方が心の傷をいやされるだけではなくて,立ち上がっていく力にもなるのがこの文化芸術の力ではないかと思っております。
 個人的なことで恐縮ですが,私も大学のときに声楽を学んでおりまして,今は全然歌えなくなってしまっているのですが,どれほど自分の人生の中で文化や芸術というものが大きな力を,年をとっても発揮するものであるかということを身をもって,個人的な体験でもっておりますので,皆様方がここで御審議頂くそのことが震災からの立ち上がり,復興により大きな力を発揮されることを心から願っている者でございます。
 また,本年の2月には文化芸術振興基本方針が閣議決定されまして,本年度予算でも過去最高1,031億円の文化予算を計上していたのですが,来年度,2年次分としてまた,これも思い切って1,171億円という要求をしているところでございます。いよいよ予算も大詰めになっておりますので,この満額獲得のために私も政務官として頑張っていきたいと思っております。
 本日の主な議題といたしましては,文化芸術への助成に係る新たな仕組みについて御検討いただいているワーキングチームの御報告もあるとお聞きしております。本当に国民の大切な税金であります文化予算,この税金が文化芸術立国としてのこれからの日本のために有効に使われるためには,今活動している文化芸術に関わる皆さん方に対する助成の在り方も本当に重要なことだと思いますので,御熱心な皆様方の御審議によってその方向性がきちんと確立していくことを心から願いまして,冒頭の貴重なお時間を頂いての御挨拶にさせていただきます。
 どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

【宮田部会長】  ありがとうございました。大変力強いお言葉を頂戴いたしました。
 政務官はたしか福岡教育大学。

【神本政務官】  はい,そうです。

【宮田部会長】  教職にも就かれていて,そして,かつそういう現場もよく御存じで,政務官としてお力を頂くということでございます。大変いろいろな視点から私どもの政策の御支援を頂けると思っております。ありがとうございました。是非とも,先程の数字は大変うれしい数字でございます。

【神本政務官】  みんなと一緒に頑張ります。

【宮田部会長】  ええ。是非,是非政務官のみならず,全員で力を合わせてという気持ちでございます。どうもありがとうございました。

【神本政務官】  ここですみません,次の会議に出ますので,申し訳ございません。

【宮田部会長】  ありがとうございました。

【神本政務官】  よろしくお願いします。失礼します。

【宮田部会長】  失礼します。ありがとうございました。
 それでは,本日は議事の次第にありますとおりに,議題の1,文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方についてのワーキンググループ「意見のまとめ」について,これは先程ワーキンググループ,30分ぐらい前でございますが,一応終了いたしました。
 議題の2としまして,第3次基本方針に基づく主要施策の評価手法について,それぞれ報告並びに意見交換を行いたいと思っております。
 参考資料の2としまして第2回部会の配付資料,第9期文化政策部会の主な審議事項についてまとめたものがお手元にあると思います。本日の審議内容は主として本資料の下線部に当たる部分であると御理解頂きたいと,かように思っております。
 それでは,議題の1に入らせてもらいます。本年9月以降,本部会のワーキンググループを設置して,文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方について検討してまいりました。先程15:00から開催し,第3回のワーキンググループにおいて取りまとめた意見のまとめを報告し,今後に向けた意見交換を行いたいと思っております。
 まず,私が概略を報告しますが,事務局から意見のまとめについて詳細に御説明頂いた方がよろしいかと思います。ワーキンググループは9月29日,11月2日,12月14日,本日ですね,非常に多くの意見を頂きました。何はともあれPD(プログラム・ディレクター),PO(プログラム・オフィサー)含めて信頼性のある,そしてお上から頂いた,「お上から頂いた」という言葉を使うのはいいかどうか分かりませんが,有効な資金の流れができ上がることを期待しているということでございます。
 それでは,いかがでしょうか,事務局からひとつ御説明頂いて,私がとやかく言うよりもその方が明快かと思いますので,よろしくお願いいたします。

【山﨑課長】  それでは,事務局から御報告させていただきます。資料はお手元の資料番号1,それから参考資料といたしまして参考資料3-1,3-2,3-3が関係するところでございます。
 文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方に関するワーキンググループでございますが,今宮田部会長から御報告がありましたように,本日3回目の会合で意見の取りまとめを行ったところでございます。
 委員につきましては,本政策部会から宮田部会長はじめ太下委員,岡本委員,高萩委員,吉本委員にも御参画いただいて,意見の取りまとめを行ったところでございます。
 資料1に沿って若干御説明したいと存じます。本ワーキンググループで出された主な意見,項目を見ますと,「総論」のほかに「新たな仕組みの対象について」,それから「新たな仕組みの体制の整備について」,そして「新たな仕組みにおける事後評価について」,それから「助成対象とする団体について」,そして「文化庁と振興会の権能を踏まえた新たな仕組みの在り方について」,そして「地域ごとの文化芸術活動へのきめ細かい支援について」という項目でまとめております。
 最初にお断りしておきたいのは,本取りまとめの構成で,パラグラフごとに「○」がついている部分については,委員の中でおおむね合意に至ったものでございます。ただ,必ずしも意見の集約には至らなかった,あるいは時間の関係で十分な議論に至らなかった点については「・」でその他の意見というような形で掲示してございます。今後の議論に引き継ぐというようなことで,あえて掲載させていただいております。
 まず,順に1ページ目から簡単に御紹介いたします。1ページの下の方に「2.本ワーキンググループにおいて出された意見」として,まず総論がございます。ちょっと読み上げますと,「新たな仕組みを導入するに当たり,文化芸術の各分野におけるデータ収集及び分析といった調査研究機能の強化,審査基準や評価結果を公表することによる審査・評価の透明性の確保等,仕組みの基盤を整備することが大切である。」ページをめくっていただきまして,2ページでございますが,一番上の○で,この仕組みをより実効あるものとするために,飛んで,助成する側と助成される側との間に信頼関係を構築することが肝要であるということを指摘しております。続いて,また,こうした信頼関係を作るためには,1継続性,2スピード感,3双方向性が必要であるといったことを指摘しております。
 ちょっと飛んで,次に(2)としまして「新たな仕組みの対象について」は,平成23年度はトップレベルの舞台芸術創造事業のうち,音楽と舞踊の分野において試行されておりますが,速やかに演劇及び伝統芸能・大衆芸能の分野にも広げるべきである。そして,現在の振興会の体制を踏まえつつ,トップレベルの舞台芸術創造事業以外の事業についても新たな仕組みの導入の可能性を検討する必要があるとしております。
 次に,(3)「新たな仕組みの体制の整備ついて」でございますが,まず1番目の「PD及びPOの体制の整備」につきましては,POが1分野につき3名という現在の体制では不十分であり,今後増員する必要がある。また,各分野の状況に応じた適切な人員を配置する必要があるとしております。
 3ページに行きまして,一番上の○でございますが,PD及びPOが業務に専念できる環境にすることが望ましいといったことを指摘しております。
 次に,中ほどの2の「調査員の拡充」につきましては,POの増員にあわせて,これらの業務の一部を行う調査員も拡充する必要があるとしております。
 下の方の3「若手人材の登用等」については,丸印はございませんが,記載のような御意見があったところでございます。
 続きまして,4ページに行きますと,4の「調査研究機能の強化」としまして,振興会の調査研究機能を強化することが必要であるということを提言しております。
 次に,(4)「新たな仕組みにおける事後評価について」でございますが,事後評価につきましては振興会は個別の助成対象活動に係る評価を行うことが重要であるとして,その評価は文化庁において実施する事業評価と相互に関連するものであることに留意する必要がある。このため,第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の評価手法に関する検討が今後文化庁において更に進められることが求められるとしております。
 その上で,振興会の評価においては助成を行うことによって,文化芸術の各分野がどのように発展したか,またそれによってどれだけの社会的波及効果があったかについても把握する必要がある。助成対象団体の成長を促す視点も大切であるとして,このためPD及びPOは助成対象活動に対してどういう効果を期待するか,助成対象団体と対話をしていくことが重要であるとしております。
 次に,(5)の「助成対象とする団体について」でございますが,助成対象とする団体の組織形態については,文化芸術への助成の在り方全体を議論する中で検討されるべき事項であるが,本ワーキンググループにおいても以下の意見があったとして,幾つか御覧のような意見があったところでございます。
 続きまして,5ページにまいりまして,(6)の「文化庁と振興会の権能を踏まえた新たな仕組みの在り方について」でございますが,法令に基づく文化庁及び振興会の権能を踏まえた整理が必要であるとした上で,2の「事業を発展させていくための文化庁と振興会の連携」のところでは,振興会において,国の文化政策・施策やそれに基づく事業の目標に沿って助成対象活動に係る評価の結果やその分析等を通じて明らかになった成果や課題を精査し,その結果を文化庁に報告したり,今後の改善策や効果的な助成の在り方を提案することで,文化庁が行う事業の企画・立案に生かしていくことが重要であるとしております。
 続きまして,6ページにまいりまして,(7)の「地域ごとの文化芸術活動へのきめ細かい支援」については,○はございませんが,御覧のような意見があったところでございます。
 最後に,7ページでございますが,「終わりに」としまして,最後ですが,今後の進め方として,PD,PO,そして調査員の体制の整備や調査研究機能の強化といった振興会の環境整備を進めることが必要であるということ,それから,文化庁において文化芸術への助成の在り方全体に関する考え方についての検討や,第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の評価手法の確立に向けた検討が求められる。
 さらに,新たな仕組みの試行について,平成24年度以降実施されるフォローアップが的確に行われるよう,これに必要な体制を文化庁及び振興会において十分検討することを期待するということでまとめております。
 参考資料の3-2と3-3を用意しておりますが,3-2は現在の独立行政法人日本芸術文化振興会(以下,芸文振)におけるPD,PO等を中心とした審査の体制でございます。
 3-3は来年度,平成24年度の概算要求の内容でございます。PD,POの分野の拡充とともに,人員の拡充をお願いしているところでございます。
 簡単ではございますが,以上でございます。

【宮田部会長】  山﨑さん,ありがとうございました。
 少なくともPD,POですね,きちんとした動きをしていただくことによって日本の文化芸術行政がスムーズに,そして活躍できる環境作りをしていってもらいたいということでございます。
 改めまして,たった3回と言われるかもしれませんが,その間に多くの御意見を頂きまして,それをまとめさせていただいたということでございます。まず一歩進む。それがコンクリートでは決してございません。常に新しい御意見を頂きながらこれを進めていきたいと,かように思っておる次第でございますが,先生方,いかがでしょうか。御意見等ございましたら,承りたいと思います。
 後藤委員,どうぞ。

【後藤委員】  意見ではなくて質問なのですが,新しい試みとしてPD,POを非常勤として配置しているということなのですが,短い期間ではあると思うのですが,これによって何がどういうふうに変わってきたかということがお分かりでしたら,教えていただきたいと思います。

【宮田部会長】  お願いします。

【山﨑課長】  この新たな仕組みは今年度,いわゆる日本版アーツカウンシルの試行的導入ということで,今年度に始めたばかりでございます。PDにつきましては今年の8月から,POについては9月から芸文振の方で採用いたしまして,平成24年度の採択事業に向けて準備を始めました。ですので,この事業の成果については,今はまだ始まったばかりでございますのでこれからでございます。検証については今年度の試行を踏まえて,来年度以降しっかりとフォローアップをしていく予定でございます。

【宮田部会長】  どうぞ。

【後藤委員】  効果までは分からないと思うのですが,実際この方たちがどういうお仕事を今されていらっしゃるのかというのを分かる範囲で教えていただきたいということです。

【山﨑課長】  失礼しました。芸文振ではこれまでも採択事業に当たっては外部の有識者による専門家から審査を行っていたわけですが,その審査に立ち会って適宜情報提供したり,助言をするという役割があります。
 来年度の事業に当たっては採択の基準であるとか,審査の進め方等について,振興会の基金部の事務局と一体となって今準備を進めているところでございます。

【宮田部会長】  先程のワーキングの中にもございましたが,PD,POそのものも1年ごと,あるいは半年でも構わないのですが,お互いに意見交換していきながら,後藤委員から今御指摘があったようなことも含めて,こういうことでありたい,こうあるべきだということを暫時膨らませながら構築していきたいと思っている次第でございますが,あとございますでしょうか。
 何しろ新たな仕組みでございますので,難しい部分もあると思いますが,文化庁が,同時に,今,福原先生がいらっしゃいますが,東京都も今動き出していると。確認はまだ私はしておりませんが,大阪府も動き出そうとしているということを聞いております。やはり大きな日本の文化行政に対する動きではないかと,かように思っております。
 加藤委員,どうぞ。

【加藤委員】  今,概略を御説明頂いただけなので,必ずしも全体をよく,詳細にわたって理解できたわけではないのですが,全体の印象なのであるいは外れているかもしれませんが,全体の印象を拝見する限りは,第3次の基本的な方針で新しい仕組み作りを提言したわけですが,その提言と今回ここで議論されていることのまとめの部分の間には相当距離というのか,考え方の根本がもしかするとかい離があるんじゃないのかなという印象がぬぐえない。
 というのは,少なくとも諸外国のアーツカウンシルに匹敵するような新しい制度作りをしようという提案だったはずなので,そうだとすると,そもそも組織の在り方として,これは試行なんだからと言われればそれまでだが,組織の在り方として一番重要な国との距離のとり方,また関係性を一体どういうふうに,いわゆるアームズレングスの法則を一体どう考えるのかという組織論のそもそも論が第一抜けているのではないか。
 もちろん試行的なんだから当面PDとPOを配置して,そのうちそういうことも検討して,本格的導入の際に検討するんだということなのかもしれないですが,全体のトーンが非常に,表現が悪くて申し訳ないですが,やや貧弱。こんな程度の話を我々は議論していたのかなという印象を非常に強く持ちます。
 更に言えば,もちろんここに書いてある各分野のデータ収集分析調査機能,それから審査基準,評価結果の公表,そういうことは非常に重要なことではありますが,その前提として国が持っている文化政策の実現のために一体どういう分野にどういう投資をしていくことがいいのか,それぞれの分野の中で具体的にどういう機能をより強化していくのがいいのか,そういうポートフォリオを作成するというのが一般的にアーツカウンシルで考えられている事柄で,政策立案そのものは国がおやりになる。しかし,それは大きな方向性を示されるわけで,それに対する具体的な施策の段階で一体どういう投資をしていくことが望ましいか。そうしたことを検討するのが本来この新しい制度の目指すべき方向性ではないのかな。
 そういう意味で言うと,一番肝心の方向性,そもそもの組織論,そのあたりが十分議論されないまま,ともかくPDとPOを配置すればそれなりの形ができるというふうにこの報告書は,大変御尽力された方々に申し訳ないので,穏やかに,しかしながら何か大変大きな物足りなさを感じるということです。
 更に申し上げると,これもこのプロセスで大変私が不思議に思ったことの一つは,文化庁月報に雑感だったかな,という形である意見が載せられて,文化庁月報に出る以上はある程度,文化庁もその意見について少なくとも全く反対ではないということが前提にあって載せられたんだと思うのですが,そこのトーンを拝読する限り,ともかく新たな制度は要らないと言っておられるように見えた。つまり,そうした前提のもとに文化庁がこのことに取り組もうとしておられるのか,このあたりの文化庁自体の姿勢が如実にこの意見の取りまとめにも反映していないか,その辺を危惧いたしました。
 以上です。

【宮田部会長】  どうですか。どうぞ。

【小松部長】  まず,第3次基本方針のときの書き方なのですが,やはり日本の現在の仕組みを,毎日仕事しているわけですから,非常にドラスティックに変えることは難しいということがありますので,基本方針自体が芸文振におけるいろいろな機能を大幅に強化して,諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入するという書き方にしております。つまり,芸文振の基金部の機能を強化するという,それが大前提にあるということは,この基本方針を御議論頂いたときにあったのかなと思います。
 それで,先程御紹介いたしませんでしたが,お手元にこの黄色い冊子の報告書がございますが,このワーキンググループの前に,芸文振の機能をどういうふうに強化して,PDCAサイクルをきちんと構築していくかという検討を芸文振でしていただいておりまして,これに基づいて新たな審査評価の仕組みの在り方を考えて,PD,POがどういった機能を果たすか,それからPD,POを含めて芸文振全体がどういうふうに変わっていくかということをまずこの報告書で報告頂いております。この報告書の上に立って,先程御説明しましたように秋,夏の終わりからPD,POを配置して,次年度の採択についての基本方針など,これまでよりもかなり工夫して変えて,既に指導しているというふうに芸文振からは聞いているところでございます。
 加藤委員が御指摘のようなずれといいますか,基本方針を作っていただいたときの議論の中での若干のずれというものがあるのかもしれませんが,文化庁といたしましては芸文振でやるということは変えられないと思いますので,芸文振の機能を更にこれからも強化できるように支援しつつ,なるべくスピード感を持って試行からきちんとした実際の実行に移していきたいと考えています。

【宮田部会長】  ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【伊藤委員】  今の加藤委員の意見とほぼ似ているわけなのですが,2点ぐらい追加的な形で発言したいと思います。第1点は,今,小松部長が言われたように,実際に今現在,何年かにわたりまして芸文振あるいは文化庁による支援が行われております。その助成について見直し,評価体制をきちんとしていく,あるいは基礎調査をしていくという,今回,半分に関しては答えているなという感じがして,問題はないと思っているのですが,やはりそもそも助成の在り方を考えていくことになってきますと,それと並行して,芸文振をそのまま使っていくのであれば,現在の独立行政法人改革等々と絡めて,基金部の在り方について根本的に考えていく必要があるんじゃないかと思っています。
 その中で文化庁と,アーツカウンシルという名前で言うべきかどうか分かりませんが,芸文振の基金部との関係,特に,例えば政策部分は文化庁でやるにしましても,組織の問題から幾つかのところで考えていかないと,今の基金部の中でPD,POを配置すれば終わるという問題では決してないということです。そういう意味で,1年や2年遅れるのは構わないのですが,PD,POの配置と並行する形でその評価をしつつ,根本的な在り方を独立行政法人改革の動きも含めて考えてほしい。
 これは違う検討会でも申し上げたことですが,例えば芸文振の中に国立劇場も入っていたりして,非常に今は複雑な機構になっております。したがって,基金部という形じゃなくて,芸文振自体がアーツカウンシルとしての機能を果たしていくためには,今の在り方では根本的におかしいんじゃないかと思っておりまして,その辺について今回の意見は,飽くまで試行的な動きに対する意見だというふうに限定すれば全く問題はないと思っておりますが,大きなテーマとしてもう一歩踏み込んでほしかったというのが感想です。

【宮田部会長】  どの辺ですか。

【伊藤委員】  今言いましたように,助成の在り方そのものには,加藤委員が言ったようにそもそも体制自体を組みかえなきゃいけないんじゃないか,つまりPD,POという機能だけでアーツカウンシル化に向けての一歩と言えるかどうかです。一歩とは言えると思うのですが,次の第2歩が見えてこないということです。

【宮田部会長】  2歩を作る前には1歩を作らなきゃいけないんじゃないですか。

【伊藤委員】  もちろんそうですが。

【宮田部会長】  はい,結構です。ありがとうございます。
 ほかに。
 加藤委員の期待というのは,どの辺をもう一つ載せたらよろしいかと思われますか。

【加藤委員】  芸文振ができたときに,英文ではあれは「アーツカウンシル」という名前がついているのですが,そのときにも国の基金がもちろん相当部分を占めているのは事実ですが,私も当時担当だったのでよく記憶しておりますが,民間の基金も120億ぐらいでしたかね,全体で,中に含まれているわけで,そうした民間の資金も入れて運営するということは,当時から期待値としてはある程度国との距離というものを考えておられたという。それがもちろん国の中につくられて,国の外郭団体としてつくられたわけですから,当時は国とぴったりくっついている状況がある程度やむを得なかったのかもしれませんが,これだけ民間の知恵も導入し,当然PD,PO等も民間の専門家を起用しようというわけでしょうから,そうしたことからいうとある程度,どういう距離の取り方をまずするんだと,国との間で。
 つまり今の振興会そのまま維持していいのかどうか,それを強化したいという,それは小松部長としての切々たる思いがおありなのはよく分かりますが,そもそもそれを今の状態のまま強化する方向性で果たしていいのかどうかということについてはもう一度きちんと,是非方向性を議論してほしい。せっかくこういう議論をされるならということです。
 さらには,先程から申し上げている機能が幾つかあるわけですが,一番大きな機能は政策の実現のための施策において,一体どういうポートフォリオを作成するのかということが非常に重要な役割になるはずなので,その部分についても現状調査,その他,もちろん必要なことはそのとおりなのですが,もう少しビジョンを出せないと,つまり政策を受けて我々としては,施策としてこういうものを持つべきだということをこの新しい組織の中で提案されないと,何のために作るのかよく分からないというか,もしこういう状況をずっと継続されるなら,こんなことを会長がいる前で言えるかどうか分かりませんが,私は別な協議会として百数十億部分だけ分離して民間で運営したいということを,そうした方がよほど日本国の,我が国の芸術文化の振興になるというふうに,我々のこれまでやってきたことから自信を持って言える点なので,会長は反対されるかもしれませんが。
 何を言いたいかというと,芸文振そのものをもっと,民間的センスでもう少し距離をとるべきなんじゃないかと,国との間にということを申し上げたいです。そういうことの議論はないままに,今の距離感でいいじゃないかと,この親密感,この中にも書いてありますが,文化庁に報告するとか書いてありますが,そういうレベルでいいじゃないかというのは,新たな制度と果たしてこれで言えるかどうかという。いろいろ踏み込んだ,踏み込み過ぎの話もありますが。

【宮田部会長】  いや,いや,そんなことはないですよ。議論というのはそういうものです。

【加藤委員】  期待をしているということです。

【宮田部会長】  ということは,加藤委員,私の理解不足かもしれませんが,アーツカウンシルそのものと芸文振との関係,そして文化庁と国との関係というところにもうひとつちゃんと図式が欲しいということですね。ありがとうございます。山﨑課長,どうぞ。

【山﨑課長】  誤解がないように補足させていただきますと,芸文振の基金部で運用している芸術文化振興基金は民間から100億というお話ですが,この部分については今回の試行の対象ではございません。今回の試行の対象になっているのはトップレベルの舞台芸術創造事業で,これは文化庁から芸文振に間接補助という形で補助金をお渡しして,その補助金を使って芸術団体を支援する事業で,芸文振で行っている基金部の基金の事業についてもどうするかというのは当然議論の対象にはなっておりますが,現在はこの民間からの資金については直接試行の対象にはなっていない,これだけは補足させていただきます。

【加藤委員】  それだから,つまり今の試行の段階はそこにとどまっているんだから,その議論だけということがそもそもおかしいんじゃないのですかということを申し上げているだけで,そもそも試行を含めてあるべき姿を提案したはずなので,試行というのは便宜的に出てきた話で,それは今のところ文化庁からの直接の金だけの部分を議論しているというからおかしいと言っているわけです,もっと言えば。
 そもそもの在り方全体を議論すべきでしょうと,新しい制度作りというなら。現状に今,山﨑さんがおっしゃるこの部分に限っているよというのは,現実に金の動きはそうかもしれないが,そんなことを言っていること自体が不可解です。

【宮田部会長】  山崎課長,どうぞ。

【山﨑課長】  先程,小松部長が御紹介した芸文振でまとめた6月のこの黄色い冊子の12ページに,芸術文化振興基金助成事業等も対象にした制度にしていく必要があるという,芸文振での検討会ではそういった御提言も頂いております。
 加藤委員がおっしゃるように,基金事業は当初から対象外としているのではなくて,とりあえず試行はトップレベルの事業に限ってやっておりますが,将来的にほかの事業についてどうするかというのは今回の,今日おまとめ頂いたワーキングの報告でも触れておりますし,これは当然今後の検討対象として考えておるところでございます。

【宮田部会長】  それでは,順番にいきましょう。吉本委員から,どうぞ。

【吉本委員】  ワーキンググループの一員だったものですから,なかなか発言をしにくくて,加藤さんと伊藤さんから手厳しいおしかりを受けた気がしまして,まずその貴重な御意見にありがとうございましたと申し上げたいと思います。
 実は30分前というか,1時間ぐらい前まで3回目のワーキング会議をやっていまして,特に加藤委員からの御指摘のところは,このまとめでいいますと1ページ目の,「はじめに」の5段落目のところにあるように,「第3次基本方針に示された文化芸術への助成の在り方全体に関する事項についても意見が出されたところである。こうした事項については,本まとめに紹介するにとどめ,今後,文化庁における検討に委ねることとしたい」と,まさしくここのところが検討不足だということの御指摘だったと思います。
 ワーキング部会でも,ここにわざわざこういう記述があることからもお分かりのように,そのことは結構議論が出ました。出ましたが,この資料の中で「○」と「・」という区分があるように,残念ながらその部分は積み残しになってしまっているのですね。そのことについては,先程のワーキング会議でも積み残しになっているのはまさしく重要な課題なので,スピード感を持って是非議論してほしいということを事務局には申し上げましたので,それが早く進んでほしいなと思います。
 ここからは政策部会の委員としての意見になりますが,政策部会でそういう意見が出ましたので,なおさらそのことを早く検討していただきたいなと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。座長の代わりを言っていただいて。高萩委員,どうぞ。

【高萩委員】  私はこの黄色い冊子の方の委員会にも関わりましたし,ワーキンググループにも関わりましたので事情を説明します。黄色い冊子の方の芸文基金の中に作ったこの会議の方では,最初の段階では日本における新しい助成の仕組み全体についての議論と,それから本年度の議論を並行して進めようという話があったのですが,実際時間,予算も限られている中で,今年度の予算をどう使って,今一番いい状況,芸文基金として今年の対応をどうするかという議論が,後半はほとんどその議論になってしまいました。並行して進めようという議論については難しい,とてもそんな時間もないし,事業をやっている組織が自らやっていることと別のことを考えることは非常に難しいということになったのです。それで,文化庁の文化審議会の中に,もう一個別の,広い意味から判断をしていくために今度はワーキンググループを設置していただいたと思っていたのですが,こちらの方も時間が限られていることもありまして,目の前の予算に対してどの程度の意見が言えるかということに時間をとってしまったという感じです。
 ですから,吉本さんと同じことになるのですが,今回出てきた,かなり議論が煮詰まらないまま文化庁で検討してくださいという形で投げ返した格好になってしまっています。で,もう一度文化審議会の中でその部分について議論を更に進めるべきではないかということを言っていただいてというか提案して,やはり新しいものを作る,諸外国と比べて勝るものを作っていくというのはかなり時間がかかることなので,しかもかなり専門的な人たちも必要としますので,それについては専門的な委員会をもう一回作っていただいて議論した方がいいのではないかと思っております。

【宮田部会長】  PD,POがまだスタートしたばかりでございますので,実際に,机上の問題ではなくて,PD,POが現場で,生の声を出してきたもの,それをまた構築していくということを前提にしながら,先程はまとめをしたという部分もあると思います。
 どうぞ。

【高萩委員】  結局,芸文振で一番議論があったのは,今回の助成金の中,それから今の芸文基金の在り方の中でいえば,PDについても非常勤でしかあり得ないというところです。週2日の非常勤ということですが,週2日の非常勤ということは何か本職を持たれた方が2日来ることになります。新しいものをいろいろリードしてやっていくというのはかなり難しいと思うのです。そうすると,その人が考えたこと,その人たちが議論したことを今度は芸文基金の職員がまとめなきゃいけない。芸文基金の職員がいろいろなことを調査しなきゃいけないとなると,今でも芸文基金自体は本当に大変な作業量を抱えていて,評価の問題だとか,それからちょうどいろいろな助成金の不正受給の問題とかが出てきている中でいうと,業務的に手いっぱいな感じなのです。
 ですから,このやり方自体では多分,全く新しいことをやっていくのは難しいだろうと思います。今回の予算が付いた中での試行としても,考えられる中では一番いい形,つまり今回のPD,POが直接審査に関わるということは避けようとしました。そんなことをしたらとても煩雑なので,審査基準と評価基準を作るところだけに限定して試行を始めたのですが,試行自体が非常に,十全な形の試行ではないということについては何回か議論がありました。本格的な試行というのではなく試行と言えるかどうかも分からない。言いにくいのですが,十全な形として行われているものを評価するのと違って,ちょっと途中,つまり不十分な中で試行しているものを評価しなきゃいけない。ちょっと難しいような状態にあることの中で,日本の将来に関わるような結構大きな事項だと思いますので,是非それを判断する,更に新しいことをできるような何らかの考える部分が必要だろうとは思います。

【宮田部会長】  まず一歩なのですが,そのまず一歩が当然危うい部分だっていっぱいあると思うのですが,その一歩を足払いされては困るのです。

 加藤委員。

【加藤委員】  とりあえず試行されたこと自体,私は評価しないと言っているわけではないです。それはおやりにならないより,おやりになった方がいい。ただし,それを,先程から話題に出ているように,そのあたりも言うなら,期の途中で,しかも非常勤という形でスタートするということ自体がもう何か,いや,だから,何も足払いをしたという意識はない,その部分について。それよりも,それをやりつつも,つまり先程山﨑さんがおっしゃった,とりあえず金はこの部分だけ今やっているんだ。それは分かっています。
 そんなことじゃなくて,そもそも根本を考えなくて,そこの部分でおしまいなんだから,残りの部分は検討せんでいいという,それは書いていないですが,そんなことは。だから,検討すると書いてあるのですな。本当にどういうふうに,じゃ,検討するのですか。そもそもこの提案が出た段階から見ても,余りにもスピードが遅いのも事実。
 なので,是非いろいろな形で前へ進めていっていただいていいですが,もっと根本的なところをきちんと議論しつつ,本当に機能するものにしていっていただきたいなと,そういう姿勢が果たして,いや,あるとおっしゃっていただいているからよしとしますが,本当にこの間の一連のいろいろなアクションの取り方は,十分信頼に足りますかということを申し上げているわけです。

【宮田部会長】  なるほど。太下委員が先だったかな,伊藤委員でしたっけ。伊藤委員,どうぞ。

【伊藤委員】  吉本委員と高萩委員から大体の事情は分かったわけですが,ただ,初めの第3段落に「この試行の状況を見据えつつ,文化芸術への助成に係る新たな仕組みの本格的な導入に向けた今後の在り方について検討を行った」と書いてある割には,そこがないというのが加藤委員も,私も言っているところじゃないかと思います。
 そういう意味では,先程吉本委員も,高萩委員もおっしゃったように,文化庁に投げ返したわけですから,ここで是非,本当の今後の在り方に向けての議論をするようなことを是非,次年度に向けてでも構いませんので,はっきりさせてほしいということをお願いしたいと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。決してしゃんしゃんで終わろうとは思っておりませんので,そういうお話を頂くということは大変大事なことだと思います。どちらにしても,今までずっと出てはつぶれ,出てはつぶれていた話が,一歩出るというところからスタートしておりますので,当然,加藤委員のおっしゃるように危うい部分も多々あること自体は私もよく把握した上で,これを議題にのせておりますので。ということでございますが,ありがとうございます。久しぶりに緊張して,いい御意見を頂いたような気がして,遠慮のないというのは大変いいことではないかと私は思っております。ありがとうございます。他にございますでしょうか。

【岡本委員】  ほとんど蛇足になりますが,お聞きしていて,ワーキンググループのメンバーも,それからここでの問題提起をされた方の基本的な考え方も大きくは違わないのかなと考えております。私も一度,ワーキンググループの方,ミーティングを欠席しておりますので,少し間違えていたら御指摘頂きたいのですが,やはり今のままでは駄目だろうというところは非常に共有されていたと思います。ただ,文化芸術の振興ということを次に一歩進めていくときに,可能な選択肢の中からまずどこから始めるかという枠組みが示され,その中から議論を始めていったというところなのかなと思っております。もちろんその枠組みから始まること自体既に譲歩しているじゃないかということで,それでは大きなことはできないという考え方はあろうかとは思いますが,ただ,アームズレングスといった非常に大きなところにまずどうするかというところをやらなければいけないという了解はかなり委員の中にはあったと思います。
 ただ,今回,PD,POというものを配置し,彼らがどういうふうに自由に動けるようにするか,あるいはそもそもの信頼関係を築いて,何とかしていい事業と評価ができるようにするにはどうしたらいいかという,そこからまずは議論をし,そして残った部分,この報告書の中で,先程伊藤委員から不十分なところがありますねということがありましたが,やはりワーキンググループとしても十分に残された課題の大きさ,それから方向性についても更に議論しなければならないということは了解の上で,まずは一歩を踏み出させていただきたいという意味での報告書なのかなと思っております。
 多分考え方としては本当に違わないし,向かっていきたい方向もずれてはいないんだろうというところは非常に強く感じられましたので,一言申し述べさせていただきました。
 以上です。

【宮田部会長】  ありがとうございます。

 はい,どうぞ。

【高萩委員】  もう一点追加します。論議をしていますと,芸文基金の在り方の問題に結構踏み込まざるを得ないと思います。それは前回のときに福原参与がおっしゃっていたような,独立行政法人の在り方みたいなことも多分関わってくると思うのです。今,NPO法人の税制優遇とかが出てきています。芸術団体,芸術活動自体には税制だけじゃなくて,民間からの助成金とか,民間からの寄附というのは非常に大きな要素なわけです。そのことについて,つまり独立行政法人,現在の芸文振の在り方についてまで話ができるぐらいの委員会を作らないと駄目です。実際に,じゃ,振興会が今どういうふうに助成金を割り振りしますか,予算をつけたら人が何人増やせますかみたいな論議だけではとても収まり切らないだろうと思います。
 結構このこと自体僕は,10年後,20年後の国の在り方にまで関わるぐらいのものだと思っております。実際,韓国が本当に公共のお金を文化芸術,特にソフト部門に入れている。実際K-POPだとか,演劇にしても,海外へ出たりとかいろいろな形で動きが始まっているのを見ると,日本の中で少しそこら辺の論議が遅れているのかなという気がします。別に韓国と競えばいいというものではないかもしれませんが,その辺,国全体として独立行政法人は少なくしていくんだみたいなのがあるのかもしれないが,そこも踏み込める論議ができるくらいの委員会なのか,意見を言える会議体を作っていただければと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。
 一歩進めたことによって物足らない,あるいはそれ以上の期待感というのは当然出てくるわけでございますが,その一歩があったからこその議論ではないかと私は思っております。ですから,新たな仕組みの本格的な導入をするわけでございますので,今の先生方の御意見をベースにしていきながらより進めていきたいと思っておりますので,ちょうど私は真ん中に座っているものですから,両者,よろしくお願いしますという言葉になるかと思います。
 ありがとうございました。
 予定の時間を30分超えましたが,大変有り難い御意見を頂戴したような気がしております。そもそも論からスタートしたような感じがして,よろしいのではないかと思います。ありがとうございました。
 恐縮ですが,これをまた深めるためにいろいろな会議が当然またできてくると思いますが,同時に現場の意見がPD,POからも吸い上げられてくることによって,より深い形ができ上がってくるのかなという気がいたしております。期待したいと思います。
 それでは,すみませんが,次の議題に移らせていただきたいと思います。議題2でございます。参考資料2にありますとおり,第3次基本方針では重点戦略に基づく施策の進捗状況を点検することにあわせて,有効な評価手法の確立に努めることとしております。この間に,文化庁において評価手法の確立に向けた調査研究等に着手しておりますので,その趣旨,内容,進め方等について御説明頂き,先生方から御助言を頂きたいと思っております。
 まず,事務局からお願いいたします。

【滝波調整官】  それでは,御説明させていただきます。ただ今の文化芸術への助成の在り方に関するワーキンググループの報告とも一部関連しますが,第3次方針に基づく主要施策の評価手法ということで,調査研究を進めてようとしておりますので,そのことついて御説明したいと思います。
 まず,参考資料の2を御覧頂けたらと思いますが,ここの中では,第3次基本方針の一部抜粋を下の方に記載させていただいておりますが,今般の第3次基本方針の中でも,これまでも議論頂いておりますとおり,PDCAサイクルの確立といったことが重要なテーマになっております。その際に有効な評価手法の確立に努めるということも今般の第3次基本方針の中に明記されているところでございます。
 これを受けまして,このたび文化庁で文化政策の評価手法に関する調査研究に着手しておりますので,そのことについて御説明したいと思います。参考資料の4-1を御覧頂けたらと思います。これは「文化政策の評価手法に関する調査研究仕様書」というものでありまして,この間の経緯を少し御説明いたしますと,去る11月14日にこの調査研究について募集を始めまして,計4つの業者からこの調査研究に応募がございました。それを受けて,外部の有識者の参画も頂く形で技術審査会というものを開催し,その後,技術面の審査と価格面の審査と両面にわたります審査を経まして,去る12月12日にこの調査研究の業者が確定したということになります。後ほどその内容については御説明頂くことにしておりますが,私からは調査研究の概要について御説明したいと思います。
 参考資料4-1の1番「事業の趣旨」でございますが,先程も御説明しましたように,第3次基本方針の中で文化芸術施策の着実かつ継続的な実施を図るということ,それから国民への説明責任の向上を図るということから,重点戦略に関するPDCAサイクルの確立が求められているということで,そのために有効な評価手法の確立に努めるとされております。それを受けて今回この調査を行うものでございます。
 2番の「事業の内容」ですが,今日,文化政策部会にこのような形で御説明,御報告しておりますとおり,文化審議会文化政策部会との連携を図りながらこの調査研究を進めていきたいと思っております。
 それで,中核的な部分としては,ここの(2)「様式例の考案」という部分になります。「我が国の文化政策」,これは第3次基本方針に基づく主要な施策のうち文化庁の指定するものでございますが,「の効果を把握するために必要な視点・指標を設定するとともに,実用的な様式例」,これは2つありまして,1つはアンケート調査票など個別の取組事例に関する基礎的なデータや効果の測定の様式です。それから,2つ目に施策全体の評価の様式,この2種類の様式例を考案頂くという内容でございます。
 文化庁が指定する施策としましては,この記載のAからEまでの施策なのですが,この考え方としましては,第3次基本方針の中で六つの重点戦略を明記しましたが,その六つの重点戦略の中から主要施策をピックアップしていこうというとで,このAからEまでをリストアップしたものでございます。おおむね,Aのトップレベルの舞台芸術創造事業については重点戦略1に対応するもの。Bの優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業についても,同様に重点戦略1に対応するもの。それから,Cの文化遺産を活(い)かした観光振興・地域活性化事業については,ややまたがりますが,重点戦略の2,3,4,5あたりに対応するもの。それからDの文化芸術創造都市推進事業については重点戦略の5に対応するもの。それから,文化芸術の海外発信拠点形成事業については重点戦略の6に対応するものという形でピックアップしたものでございます。
 なお,重点戦略の2と3にダイレクトに対応する事業についてはここでは拾っておりませんが,これについては別途の検証事業の中で評価,検証を実施していこうということで,ここからは外れております。
 それから,2ページのところで,留意点を幾つか掲げてございます。各施策の特性,趣旨・目的を十分に踏まえるということ,ここの趣旨・目的を十分に踏まえるということに関連しましては,参考資料4-2に先程御説明したAからEまでの各事業の趣旨・目的などを補助要項の中で記述している部分ですが,それを抜き書きしたものを用意しておりますので,あわせて御参照頂ければと思います。
 こういったものを踏まえますとともに,各施策の効果を的確に把握するために,1つには定量的,定性的な側面,2つ目にアウトプット,アウトカム,インパクトの区分,3つ目に文化的,経済的,その他社会的観点などの組合せによって,適切な視点,あるいは指標の設定に努めていただくということにしてございます。このような形で調査研究をこれから着手しようというものでございます。
 なお,(3)のとおり「評価手法に関する提言」ということで,こういった調査研究に併せまして先進事例であるとか,海外の事例などを含めて有効な評価手法の確立に向けての御提言も併せて頂くことにしておるものでございます。
 このような形で調査研究の仕様書を用意し,公募し,業者が決定しておるということでございます。
 私からの説明は以上でございます。

【宮田部会長】  ありがとうございました。
 それでは,引き続いて本調査研究の事業計画の(概要)でございますが,吉本委員,御説明頂けると幸いでございます。

【吉本委員】  今日は立場がいろいろ変わって申し訳ないのですが,これは今,滝波さんから御説明頂いた入札というか,プロポーザルのプロセスを経て,私の所属する研究所で受注させていただくことになりましたので,ここからはニッセイ基礎研究所の立場で,提案した事業計画の概要を文化庁さんに作っていただきましたので,御説明させていただき,委員の先生方の御意見を頂戴したいと思います。
 資料2-1を御覧頂けますでしょうか。最初に,取組方針として書いてございますのは,私どもの研究所ではいわゆる文化政策に関する評価,あるいは文化施設に関する評価というのをそれなりにやらせていただいておりまして,そのストックをできるだけ活用して,少しでもいいものを作りたいということが1つ目でございます。
 この点は,正直申し上げますと,文化の評価をすることがいかに大変かというのを私は身をもって感じていて,本当のところ,これは大切な調査研究だがやると大変だろうなというのが個人的な気持ちだった,まあそれは半分冗談ですが,でも,今日オブザーバー席に来ておりますが,うちの若い研究員からこれをやらずにどうするのですかとハッパをかけられまして,それでいろいろ果敢な提案をさせていただいております。
 それから,(2)です。これは今の滝波さんの御説明にもありましたが,どうしてもこれまでの評価は定量的な側面に偏っていますので,そうではなくてアウトカム,あるいはもう少し社会的,経済的な側面を含めたインパクトという大きな視点で評価の仕組みを作るように努力したいと考えております。
 具体的にどうやるかということについて2番以降に書いてございますが,まず専門家の方々で委員会を作って御議論頂きたいと。ですので,場合によってはこの政策部会の委員の方に御協力をお願いする場面があるかもしれません。
 それから,2-1,具体的な成果物としましては,様式例と称するものを作ることになっているわけですが,そのときに4つの視点を重視したいと思っております。1つ目は,基本方針の中に書かれておりますPDCAの確立が重要だということがございますので,そのPDCAサイクルの確立に資するような評価手法,別の言い方をすればPDCAを内包したような評価手法を何とか考案できないかなと思っております。
 ここでいうPDCAというのは幾つかの層がございまして,2ページ目の図を御覧ください。これは助成をする文化庁さんと,ここには芸文振も当然入るわけですが,それと助成を受ける芸術団体,文化施設等を含めた流れ図として整理したものです。それで,PDCAというのはまず現在行われている助成制度の制度設計といいますか,例えば募集要項の書き方等も含め短期的な場面での改善をしていく。これがアです。公募をして審査を行って,採択をして,実際に事業を行って,事後評価が出て,それが公募に戻っていくというプロセスの部分です。
 2つ目は,そういうことを繰り返すことによって,今行われている助成の仕組みよりももっといい効果的な助成制度があるのではないかということを考案していくようなプロセス。つまり,制度の見直しにとどまらず新しい助成制度を作っていくというような部分で,それはこの図でいいますとイに相当します。
 もう一つ大変重要だと思っておりますのが,これは文化庁あるいは芸文振の助成の仕組みそのもののPDCAを確立するだけではなくて,実は助成金を受けて活動する芸術団体や文化施設の側も同じように事業の見直しを行って改善していくというプロセスが必要だろう,ということです。それがないと,全体として大きな流れになっていきませんので,評価をするためには当然助成を受ける団体,施設の側にも協力を頂かなければなりませんから,何とか芸術団体,文化施設の側にもこうしたPDCAが重要で,そのことが評価の仕組みの中にある程度内包できるような,そういった三重のPDCAを確立するというようなことを考えつつ検討したいと思っております。
 それから,2番目は定量的な側面だけではなくて,定性的な側面を重視したいということです。定量的な側面については例えば観客が何人入ったという,そのことだけで評価するのは大変難しいので,定量的な側面は恐らく経年変化で努力を見るようなことが中心になるだろうと。
 定性的な側面についてはある種の調査をして,その定性的な効果を裏づける情報収集をしなきゃいけないと考えております。その方法がその下に箇条書で6つありまして,1つが,例えば芸術団体さんであれば,助成を受けた事業に参加した観客の方々がその事業をどう思ったかということについて採択団体がアンケートを実施するというものです。つまり今のアンケート調査1というのは上のPDCAでいうとウを評価するためのものです。それから,アンケート調査2というのは採択団体向けに文化庁さんが実施するもので,助成制度そのものがどのような効果があったか,課題が何かということを調べるものです。
 それから,グループインタビュー調査も同じく2階層ございまして,採択団体さんが観客や参加者の方に聞いて,定性的な評価を行う。それも例えば,大変感動したというような薄っぺらなことではなくて,普及系の事業をやって子供たちがすごく生きる力が湧いたとか,学級崩壊しそうなクラスの学習態度が変わったとか,それを丁寧に拾うしかありませんので,そういうようなことをやる。採択団体の皆さんへのグループインタビュー調査は今の制度は果たして効果があるのかどうか,あるいは改善すべき点はないかどうかということを文化庁さん,あるいは芸文振さんが行うということです。
 さらに,先程来PD,PO,あるいは調査員という言葉が出ておりましたが,実際に現場を見るようなこと,それからデータを集めて基礎データを分析するようなこと,様々,やろうと思えば本当に際限なくあるのですが,そこをどうやって仕組みとして作っていくのかということを重視してやっていきたいと思っております。
 それから,仕様書にはアウトプット,アウトカム,インパクトというものがございまして,アウトプットというのは観客動員数等の直接的な成果のようなもので,アウトカムというのは事業の目的に照らし合わせた成果のようなもの,インパクトというのは更に経済的な側面等を含めた社会的な効果等の部分なのですが,それを見据えつつ,もう一つ,最近イギリスでは文化政策とか文化プログラムの評価にロジックモデルというものが使われているということでございまして,今の3つの視点に更にインプットとプロセスという過程も加えて,ここは実は採択を受けた団体側の評価につながるのですが,この5段階のプロセスを考慮した評価の仕組みが開発できないかなと考えております。
 その具体例が3ページにありますが,こういった5つのステップで考えると,評価も,芸術団体のPDCAに結びつく工程評価に加え,効果の評価,これは事業の目的に照らして,果たしてどのような効果があったかということ。それから,ウの蓄積評価というのはより長期的な視点でどのような効果が社会的に蓄積されたかということを評価していくといったような視点を重視したいと思っております。4点目は,今までの中に含まれているわけですが,目の前のアウトプットだけではなくて,文化的,経済的,その他社会的な観点を考慮した評価手法を検討したいという,この4点を重視して進めたいと思っております。
 様式例の考案と検証のところは非常に初歩的なことで,具体的にどういう様式を作るかということを書いているプロセスですので省略します。その様式を作っていくときに,4ページ目の(2)-4で,取りまとめをすることになっているのですが,今まで御説明したようなことを網羅的にやると,ものすごく複雑な仕組みになって,しかも,ものすごく手間もお金もかかる仕組みになってしまう恐れがある。それでは実際使えませんので,できるだけ精緻な検討をした上で,より有効なものを取捨選択して,この評価の仕組みを実際に使う採択団体の皆さん,あるいは文化庁,芸文振の皆さんにとって評価することが過度の負担にならないような実効的な仕組みを作りたいと思います。まあ,書くのは簡単なのですが,相当ハードルは高いなと。提案していながらどんどん自分でハードルを上げている気がして,どこまでできるか分かりませんが,こういう視点で作りたいと考えております。
 最後に,「評価手法に関する提言」というのも調査の項目に入っております。先進事例としましては,この政策部会の委員でも関係の方がいらっしゃいますが,こうした国内の民間の事例ですね,それから,海外の事例についてはやはりイギリスが様々なレベル,様々な文化事業で評価をやっておりますので,それを紹介しながらエッセンスを抜き出して,より有効な評価の手法を提言したいと思っております。
 この提言のところは,先程の議論にも関係していまして,評価の手法を検討することがこの調査研究の主な目的なのですが,もう少し大きな視点で,評価の手法を確立するということは助成の仕組みそのものを考えることと表裏一体ですから,仕様書には自由な提言を行ってよいと明記していただいていますので,調査の結果がこれじゃ生ぬるいと言われないように相当大胆な提案を,またここでハードルを上げているのですが,やっていきたいなと思っております。
 今日,是非委員の先生方にこの進め方について御意見を頂戴したいということと,あと,最後の6ページにスケジュールを書いているのですが,もう3か月半しかないのですね。これは文化庁さんに是非,こういう調査は少しでも早く公募していただいて,ある程度の期間がないと良い成果は出ませんので,今後そのことを是非検討頂きたいと思うのですが,この3か月の中ですぐ着手しようと思うと,最初のハードルだと私が思っていることがあります。参考資料の4-2を御覧頂きたいと思います。一番後ろに付いているペーパーです。ここに今回の調査の対象になっております5つの助成事業の趣旨と目的の部分だけ抜き出していただいたのですが,実は目的が書いていない助成事業が非常に多いのです。例えばAのトップレベルの云々というのは,何を助成するかということは書いているのですが,目的に関しては1行もありません。
 それから,Bに関しては,前半は何を助成するかということを書いていて,2段落目にこのことにより何とかかんとかを目的としますと書いてあるので,Bは一応あるかなと。この目的を達成したかどうかを評価しなきゃいけない訳ですから,この目的をどういうふうに評価手法に落としていくかというのが最初のステップかと思います。
 Cも最後の1行に目的は書いてあるのですが,「文化振興とともに観光振興・地域経済の活性化を推進することを目的としています」という,これを目的と言われたらどうやって指標に分解するのか,本当に悩ましいところです。
 それから,Dも目的は「文化芸術創造都市モデルの構築を目指す」とあっても,じゃあモデルは何かということを全然書いていないのですね。
 それから,Eについても,最後の行に「日本各地に文化創造と国際的発信の拠点作りを推進する」というのがあるのですが,やはり何を助成するかということが中心です。つまり,どの事業も目的が余り明確じゃないというところがあって,評価の仕組みを作るにはまず目的を明確にしないと評価のしようがないというのが,恐らくこの評価の仕組みを考える上では,これが一番ハードルの高い点だと思っています。ここのところはそれぞれの事業の文化庁の御担当と十分協議する必要があると思っているのですが,そのあたりについて是非委員の先生方からアドバイスを頂戴したいなと思います。
 長くなりましたが以上です。よろしくお願いします。

【宮田部会長】  ありがとうございました。大変いいお話を頂きました。特に最後の評価に関しては大変難しいことだと思います。そういう意味でも,特にここでいい関係を作ってもらいたいなと思いますが,いかがでしょうか。そうですね,おっしゃるとおりで,目的がなければ進むことも,立ち止まることもできませんので,そういう部分というのは大変大事かなという気がします。
 先生方,時間の関係もございますが,いろいろな御質問があると思いますが,最後の部分のところなどは何かございましたら,4-2に関して,なるほどな,読んでみるとそうだなというのがありますが。いいアドバイスなどございましたらお聞きしたいと思いますが。
 どうぞ。

【高萩委員】  基本的な質問だけ。イギリスの場合,こういう調査はどういうところがやっているのですか。最後の方の参考事例で調査主体は書いてありますが,自らアーツカウンシルがやるとか,エジンバラフェスティバルがやっているのか,それともやはり調査会社みたいなのが入ってやっているのかしら。

【吉本委員】  アーツカウンシルがかなり主導的にやっているものもあると思うのですが,シンクタンク,調査会社が入っているケースの方が多いと思います。有名なところではBOPコンサルティングという会社がありまして,そこは文化政策だけを扱うコンサルティング会社というかシンクタンクなのですが,この中でもエジンバラなどはそこがやっています。

【宮田部会長】  ちょっと1つ進めさせてください。続いて,次世代を担う子供の文化芸術体験授業という検証でございますが,このことにつきまして山﨑課長から御説明頂いた上で,また先生方の御意見を頂きたいと思います。

【山﨑課長】  文化政策の評価手法に関する調査研究に関連して,補足的に申し上げておきます。重点戦略3に関係する次代を担う子供の文化芸術体験事業というのがございます。これは文化芸術団体の学校の体育館などにおいて舞台芸術公演を実施し,事前に公演に関するワークショップを行って,児童・生徒を実演に参加させたりする事業でございますが,この事業については当初から検証事業を実施するということになっていたということと,また検証の内容としまして文化芸術団体の実施状況等の把握のみならず,学校における例えば事業実施前後の児童・生徒の変化の状況であるとか,そういった学校の方の実施状況の把握ということもありまして,今回,政策課で行っている調査研究とは別に,スキームとしては同様に民間のシンクタンク等から企画提案していただいて,公募によって事業者を選定するというやり方で行っておりますが,別の事業として行ってまいりますので,その点御理解頂ければと思います。
 以上でございます。

【宮田部会長】  ありがとうございました。この辺も含めて。後藤委員,どうぞ。

【後藤委員】  すみません,2点ほどあるのですが,1つは,吉本さんが示された資料の2ページのところで,ロジックモデルの概念図があって,アウトプットのところに「公演や展覧会」で,公演回数,観客数,事業収支などとあるのですが,日本で観客の調査というのは意外とされてなくて,施設ごとにやっているのですが,観客数は分かるし,それから大体,アンケートがマーケティングの視点からしかされていないので,何を見てきましたかみたいなことは聞いているのですが,観客の属性について聞いた調査はほとんどないと思います。
 それで,そんなものは要らないんだと言ってしまえばそれまでなのですが,やはりどういう人たちが見に来ているのかということは非常に大事な要素で,スウェーデンなどはそれをずっと,何十年も社会学者が統計調査をしていたりというようなこともありまして,違った属性の人たちが見にくるようになるというのがそもそも公的支援をする目的でもあるので,観客の属性も含めてやった方がいいんじゃないかというのが1つです。
 それから,もう一つは,蓄積的評価というところと関わると思うのですが,どうしても評価というと個々の事業を評価するというふうになってしまって,個々の事業は積み上がっていくんだけれども,じゃ,一体それを通して何が実現しているのかという。それは目的が書かれていないということとも関わると思うのですが,大きな方向として,あるいは大きな戦略として何を達成して,それで次の課題は何かということを探るために評価というのはあると思うので,非常に抽象的で難しいとは思うのですが,やはり是非,評価をしたことによって,予算が無駄に使われていないということを示すというようなことではなくて,次の政策課題を探ったり,あるいは政策のやり方,適正な政策のやり方というのはどういうものかということを探ったりと,それから大きな戦略として一体何が達成されているのかという,そういう大きな視点から見たものを是非加えていただきたいなと思います。

【宮田部会長】  どうぞ。

【吉本委員】  貴重な御指摘ありがとうございます。後藤委員の1点目の指摘は,2ページ目の2のところに少し書いてあるのですが,観客数だけではなくて文化に関しても基礎的なデータがほとんど整っていないと思うのですね。ですので,例えばアンケート票とか様式を使って,文化庁が助成した団体が毎年何百団体かあると思うのですが,その団体の観客数がトータルとして増えているのか増えていないのか,あるいはどういう年齢層の人が来ているのか来ていないのかというデータは相当とれるはずなので,それはきちんとストックしていって,日本の文化状況全体のトレンドを把握し,そのことに対して助成はどういうインパクトを与えているのかということがデータとしてとれるようなことも検討すべきだと考えています。
 それから,2点目の御指摘はまさしくPDCAをどう組み込むかというところですので,よかった,悪かっただけじゃなくて,課題を見つけて,それを政策に反映していくということだと思いますので,その視点は是非重視してやりたいと思っています。

【宮田部会長】  ありがとうございます。太下委員,どうぞ。

【太下委員】  先程,吉本さんから御説明があった中で,現在の事業の目的が明確に記述されていないという点についてですが,日本語というのは非常に便利なもので,文章として「~を目的とする」とか,「~を目指す」という形では実はさりげなく書かれています。ただ,吉本さんがおっしゃった趣旨としては,要は評価するに足るだけの明確な目標が設定されていないということだと思いますので,これは逆に言いますと,今回の調査の中で吉本さんと御担当の課で話し合われて,仮説として目的を再設定される必要があると考えます。その仮説の上に評価を進められて,それが最終的に特に問題ないのであれば,先程吉本さんから御説明もありましたが,その仮説を改めてその事業の目的として再設定するという流れを作ればいいのではないかと思いました。
 これが1点目で,もう一点お話ししたいことが,今回の評価として社会的,経済的な評価ということも含めたというお話がありまして,確かにこれは大変重要な点かと思うのですが,経済的な評価を行うことについて若干のジレンマがあるということをちょっとお話ししたいと思います。吉本さんも重々御承知の上で書かれているのだと思うのですが,また少し専門的な部分になってしまうかもしれませんが,一般にこういう経済評価を行うに当たっては,産業連関分析というものが使われまして,これは何かというと,平たく言うと様々な産業部門同士がいろいろな結びつきをしているので,1つの産業にお金が流れたとしても,それはいろいろな産業に波及していきます,ということです。
 例えば1億円でダムを整備したとして,その1億円が仮に最初に建設会社に渡ったとしても,建設会社は資材をいろいろな会社から提供してもらうわけですし,その資材を提供するメーカーもまたその事業活動をする上でいろいろな会社と取引をしているということで,実は最初の1億円がいろいろな形で日本中の産業,ひいては海外の産業にも波及していきます。こういうお金の流れを全体として見ていくと,元の1億円が結果として2倍にも3倍にもなっていくということが経済波及効果という形で,産業連関分析を通じて把握されるわけなのです。実際,最近,文化事業とか文化政策についても産業連関分析を使って,実は文化投資が無駄使いではなくて,こういう経済効果がありますというレポートなり,または論文等でも見る機会があるのですが,ここに2つジレンマというか危険性があるということを御認識頂きたいなと思います。
 1つ目は,経済的な効果を評価の中で余り重視してしまうと,経済的な効果が大きいものを優先して文化政策や文化事業を実施してしまうということが次のサイクルで起こってくるという懸念があるわけです。もちろん経済的な効果が大きいものが必ずしも文化的に必要なものというわけではありませんので,ここは非常に気をつけて扱う必要があるかと思います。
 2つ目は,産業連関分析を使った場合の危険性についてですが,先程申し上げたとおり産業連関分析というものは現実の経済上の結びつきをモデル化したものですので,現実の経済的な結びつきが強い部門の方がより効果が大きく出やすいという傾向があります。したがって,よく文化でもこれだけ効果があるという言い方をすることがあるのですが,一方で仮に日本がいまだに土建国家だと仮定すると,もし同じお金を使えば土木業を通じたハードなインフラ整備などに投入した方が多分計算上はより大きな効果が出てしまうはずです。
 そういった意味でいうと,文化的な政策の経済効果を余りに強調し過ぎると,同じ額の税金を違う部門に投入した方が効果は大きかったのではないかという議論で,もしかしたら足元を意地悪にすくわれる危険性もあるのではないかなと思っております。当たり前のことではありますが,そもそも経済的な効果を得るために文化政策をやっているわけではありませんから,あくまでも副次的な効果だという位置づけで扱っていただいて,これを余り重視し過ぎることがないような形で評価していただければと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。経済効果と文化の効果の論議ですね。ありがとうございました。秋元委員,どうぞ。

【秋元委員】  私は民間で実際に自分が文化事業をやっていた方だったので,評価される側だったわけです。評価の問題は現場で実際に物事を動かしている人間からすると非常にシビアな問題です。評価を丁寧にやろうと思うとまずは当初の目的というのがどれぐらい明確になっているかということを問う必要がありますね。それをなくして,評価基準だけが細部にわたるということはないと思います。今回の評価基準を作る前提の事業目的は,案外,ざっくりと総論的なものですね。だから余り評価だけを厳密にすると目的とのバランスが狂ってしまうのではないかと危惧します。だから当初の目的や目標も同じようにもう少しはっきりさせていいんじゃないかと思います。
 もう一つは,ここでアンケート調査とグループインタビューが出ていたので,これは是非取り入れていただきたいなと思いました。数字ではどうしても説明し切れないような,例えば,どういう人たちがそれを体験して,その人たちがどういうふうに変わったのかとか,数字に出てこないようなところを丁寧に捉えるというのは大事だと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。今までの経験値の中からのお話,大変有意義だと思います。吉本委員,どうぞ。

【吉本委員】  貴重な御指摘どうもありがとうございます。太下さんから御指摘頂いたのは2つあると思うのですが,1つ目のポイントはまさしくそこが一つのゴールだなと思っていまして,この調査をやることで今の対象になっている助成制度の目的をより明確にすることが少しでもできればいいかなと思っています。
 2点目は,これ,実は経済的ということをここに書くのは私もちょっと抵抗があったのですが,仕様書に書いてあるのです。「文化的,経済的,その他社会的観点等の組合せにより」。ですから,今,太下さんから経済偏重は困るよという御意見が出ましたので,それは私も全く同意見ですから,文化庁さんと相談しながらそこに偏らないように進めたいと思っています。
 それから,秋元さんの御指摘も大変有り難い御指摘で,これだけ細かくは多分できないだろうというのは私もそうだと思いますので,できるだけ精緻にやった上で,最後本当に目的に照らした成果として何を評価するのかということをざっくりとつかめるような,そういうことも目指したいなと思っております。
 今日はもう時間がないので,ほかの先生方もいろいろ御意見があれば,是非事務局経由でも結構ですし,私に直接でも結構ですのでお寄せ頂きたいと思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。そうですね,私のつたない経験ですが,立派な施策を作るとそれだけで完成した気分になって,全く動きがなくなるというようなことがあって,攻め込むこともできないし,活性化した動きを作ることもできないというようなことがございますので,先程の加藤委員の御指摘にもありましたが,アーツカウンシルにしてもそうですが,少しキャパがある中でそれぞれが生かし切っていきながら歴史を作っていくというふうになってもらえたらという気がしておりますので,加藤委員,また今後とも厳しい御指摘を期待できるかなという気もしております。
 同時に,それぞれの先生方におきましては,今,吉本委員がお話になりましたが,これがラストではございません。これがスタートですので,大いに,委員会ででき上がる形ではなくて,いろいろ御指摘等々頂ければ,アドバイスも含め頂ければということで,いい評価手法の確立を期待したいと思っております。
 それでは,貴重な時間どうもありがとうございました。これにて今日は終わりにしたいと思います。

── 了 ──

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