文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方に関する
ワーキンググループ(第2回)議事録

1.出席者

(委員,オブザーバー)

衛紀生委員,太下義之委員,岡本真佐子委員,片山泰輔委員,片山正夫委員,相馬千秋委員,高萩宏委員,武濤京子委員,宮田亮平委員(座長),湯浅真奈美委員,吉本光宏委員 関裕行オブザーバー,根木昭オブザーバー

(事務局)

近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,小松文化部長,石野文化財部長,大木政策課長,山﨑芸術文化課長,清水芸術文化課支援推進室長,大川芸術文化課課長補佐

2.議事内容

【宮田座長】  お忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございました。よろしく皆様ご審議のほど,お願い申し上げます。ありがとうございます。
 それでは審査に先立ちまして,配付資料の確認をぜひしたいと思いますので,お願いします。

【大川芸術文化課課長補佐】  <配付資料の確認>

【宮田座長】  はい,ありがとうございます。よろしゅうございますでしょうか。
 それでは第2回の文化芸術の助成に関する新たな仕組みのワーキンググループを開催させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ご多忙のところ,まことにありがとうございました。
 前回に引き続き,今後も,文化芸術の助成にかかわる新たな仕組みの在り方について,忌憚のないご意見をいただきたいと思います。
 初めに前回,大変いい意見をいただきました。ご議論していただきましたが,ご欠席の委員もいらしたので,前回出されたご意見について,簡単にちょっと事務局からご説明いただきましょうか。

【大川芸術文化課課長補佐】  <資料1について説明>

【宮田座長】  はい,ありがとうございました。貴重なご意見を賜っております。これらも踏まえて,またやっていきたいと思いますが,委員以外のオブザーバーの先生方からも,どうぞご意見を賜りたいと思っております。この辺の大川さんの説明の中からでも結構ですが,また,あるいはそもそも論というところからでも結構でございますので,いろいろなご意見をいただいた上で,構築に向けて,1歩進めていきたいと,かように思っております。いかがでしょうか。まず,どなたか。高萩先生,お願いいたします。

【高萩委員】  すみません,前回,欠席しましたのでよろしいでしょうか。文化審議会の文化政策部会の中で,第3次基本方針を2年かけて審議しました。その中にはっきり,文化芸術支援策をより有効に機能するため,独立行政法人日本文化芸術振興会における専門家による審査,事後評価,調査研究等の機能を大幅に強化し,諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入するというのが書いてあります。それに伴ったワーキンググループだと思うんですけれども,一応新しいものをつくっていこうということについては了解がとれているかと思うのですが,その辺をやっぱりはっきりさせておきたいと思います。今までの芸術文化振興会の評価について,20年前に導入したとき,僕はあのやり方しかなかったし,あれでよかったと思うんですけれども,20年たって,やはり変えどきにきているんではないかということが,文化政策部会の中でも論議された上で始まっている。決して,新しくできた仕組みが全部を決定していくのかということは言っていないわけですが,文化庁とその新しい仕組みの関係をどうしていくか,ちゃんと提案とか,調査機能ももって,状況をちゃんと文化庁が把握できるようにするということも含めて,両者のパートナーシップみたいなことを考えてつくられるものだと思います。その辺,今の状態からやっぱり新しくするんだということについては先に議論をしておいたほうがいいかなと思います。委員の方とか,オブザーバー方の意見の中で,今のままでもいいんじゃないかなという話があるのかなと思うので,まず「動き始めましょう」「新しい体制に動きましょう」ということを議論していきたいと思います。
あと,もう1件だけ言いたいのは,今回,日本芸術文化振興会のほうで始められた試行が,決して十全のものではないということです。つまりいろいろな事情で非常勤の方がPDとPOになったということで,もちろんそれでも半歩前進とかであると思うんですけれども,そこを評価するといったときに,ある種中途半端な,仮定の状態であるということをしっかりわかっておいてもらって評価しないといけないと思います。そこをわかってもらわずに,今までとどこが変わるのという話になってしまうと,私も日本芸術文化振興会で行われた調査研究会に属していましたので,ちょっと不本意かなと思います。その2点だけ,確認をしてからいろいろな議論をしていかないと,必ずもとへ戻っていくと思うんです。そこだけよろしくお願いいたします。

【宮田座長】  ありがとうございます。議長が言わなければいけない感じ。言っていただきまして,まさしくそのとおりで,20年前につくられたもの,そしてここ2年間かけてつくられた政策部会での議論,その辺から1歩,日本芸術文化振興会の力をつけたいという幅広さも持ちたいというようなことも含めて議論することが必要でございます。それからいろいろなことがあるでしょうが,先生方の中で,やはり1つ勇気をもって進めていただくというのを大前提としてやっていくというのが,今回の流れかなと私も思っておりますが。
 いずれにしても,資金的な問題も含めていろいろあるでしょうが,信頼関係の上で,ここが一番大事だと思うんですけれども,上で,どういうものをつくっていくか。ただし,新しいことは必ずその中にやはり未完の部分がございます。それもまた議論の対象にするために,進んでいなければ空論になりますので,ということで,お願いしたいと思っています。
 それから,先般,ご出席でない先生もいらっしゃると思うのですけれども,ぜひ忌憚のないご意見をいただきたいと思っております。約四,五十分いただいて,全員の先生からいただいたほうが私はいいと思うのですが,いかがでしょうか。高萩先生,ありがとうございました。
 どうでしょうか。オブザーバーの根木先生。

【根木オブザーバー】  私は,日本芸術文化振興会の運営委員会の座長代理という立場にあり,あまり一方的に決めつけられるのはどうであろうかという気持ちから,今日の配布資料に意見を書かせていただきました。これらを踏まえた上で,ご議論いただければありがたいと考えております。
 日本芸術文化振興会の審査体制は,専門委員会の上に部会があり,さらにその上に運営委員会があって,そこで最終的に配分等を決めるというシステムになっていますが,この部会と運営委員会があまり機能していないのではないかというご意見があるようにうかがわれます。言ってみれば,「でくのぼう」ではないかというご認識と思うのですが,必ずしもそうではありません。先般も,審査基準を決めるに当たって,音楽と舞踊の2分野ですが,PD・POの方々も入って決められ,それが運営委員会まで上がってきました。しかし,両分野で表現等がばらばらであり,これは少し具合が悪いということで差し戻しをした経緯があります。このように,運営委員会が全くの「無能な集団」ではないことをご認識をいただきたいと思います。
 それと,専門委員会は,専門的立場から主体的に議論して決定をしていらっしゃるわけです。それを,上の方で引っくり返していいのだろうかということがあります。よほどおかしなところがあれば補正する必要があると思いますが,専門委員会が,専門の立場で審議し決定したことをある程度尊重し,委員会として最終的な意思決定をするという仕組みで20年来たはずであり,この仕組み自体に欠陥があるという意見については,私はいささか疑問があります。もっとも,それほど頻繁に開かれているわけではないので,もう少し開催の頻度を高め,運営委員会が関われるような仕組みにし,皆さん方がおっしゃっている,いわゆるアーツカウンシルの評議会的な機能を持つべきだということであれば,それはそれで結構だろうと思います。しかし,現在の仕組みに致命的な欠陥があるとは私は思っておりません。
 それから,今の仕組みは,文化庁と日本芸術文化振興会の二元体制が実態といえます。イギリスの場合は,アーツカウンシルに全面的に委ねて,そこで一元的にやるという体制のようですけれども,我が国の場合はそうではないので,そのような二元体制ということをきちんと押さえた上でどうするかということを考える必要があると思います。となると,そのビジョンとか戦略というものも,一体どこが担うのか。それから,パイロット事業とかプログラムということがよく言われるのですが,これも,どこが策定して,どこがどのように実施するかということも,もう少しきちんと整理する必要があろうかと思います。高萩さんがさっきおっしゃったのはそのことであろうかと思いますが,そこはきちんと現実を踏まえて行う必要があるのではないでしょうか。
 それからもう一つ,日本では民間サイドの助成財団があります。その意味で日本は,二元体制というよりは三元体制ではなかろうかと思います。民間財団は,比較的小回りがきき,機動的な助成ができ,現にそのようになさっていらっしゃるということはよくわかります。しかし,国の場合は,民間サイドと同じように先端的あるいは前衛的なところだけに目を奪われていいかというと,そういうわけのものではないと思います。学術でいえば基礎研究に相当する基盤的な芸術活動に目配りすることが必要です。ここをきちんと押さえた上で,応用研究や開発研究に相当する先端的なものにどの程度目配りをしていくか,ということではないでしょうか。このことはまた,文化庁,日本芸術文化振興会,民間サイド3者の相互の棲み分けをどう考えるかということにもつながってくると思います。

【宮田座長】  ありがとうございました。少なくとも,文化政策の企画立案機能が文化庁や文化審議会であり,実施をするのは芸術文化振興会であるということですね。この仕組みがきちんとできた上で,今,根木先生は民間をも関係の中に入れているということですね。そこの辺で,日本らしさが出てくるのかなという気がしているんですが,例えばイングランドとか,そういうところのものとはちょっと違う,日本らしさのこのアーツカウンシルに持って行けたらという気がしております。
 衛先生,どうぞお話しください。

【衛委員】  話をちょっと高萩委員の発言に戻したいんですけれどもよろしいですか。

【宮田座長】  結構ですよ。

【衛委員】  もう一度,つまりなぜ今の日本芸術文化振興会ではいけないのかというところについてです。
 第3次基本方針の策定に当たって,日本版アーツカウンシルという発想が出てきた背景を,つまり今の日本芸術文化振興会の審査のどこがまずいのか,1つはおそらく,先般の委員会であった相互の信頼性がないというところがあるんでしょうけれども,アーツカウンシルというものが出てきた背景みたいなものを,もうちょっと共有して,何を変えるんだ,どう変えるんだということを議論しないと,百論を噴出でまとまりがつかないように私は思うんですが,いかがでしょうか。

【宮田座長】  ちょっとその部分だけでも,ほんの少々,議論しましょうか。その部分だけがずっと長くなると全然本末転倒になってしまう可能性もあるので,少々,議論しましょう。

【高萩委員】  一番大きかったのは,その専門委員といわれている人たちが,年に数回ほどしか集まらない。それから助成金申請については,申請があったものに対して委嘱を受けた委員の方が年に何回か集まって,申請されたものを審査する今の体制というのが,今の先進国の文化政策にはもうなじまなくなっているのではないかということです。それからもう一つは,根木さんは機能しているとおっしゃったんですけれども,芸術文化振興会のほうには,情報というか,いろいろな各芸術ジャンルのいろいろな動向みたいなことの蓄積がなかなかされていかないということです。もちろん審査として公平性ということについて非常にきっちりおやりになっていたと思うんですけれども,その辺が時代に合わなくなってきているのではないかということが原因だと思います。他にあれば他の先生から補足していただければと思います。

【宮田座長】  いかがでしょうか。では,吉本先生。

【吉本委員】  それに加えて,最初のきっかけは,助成した成果をちゃんと評価することが,十全に行われていないということかと思います。それで,事業仕分けがあったときに,この取組はこういう効果がありましたと十分に説明できなかったということ,それがすごく大きいと思います。あと,やはり継続性の問題があって,審査委員会や専門委員会の議論が,ちゃんとストックされていかない。議論がストックされた結果,よりよい助成プログラムに改善していくということが,なかなか今の体制ではできない。そういう指摘が背景にあったと思います。

【宮田座長】  他にはいかがでしょうか。
 仕分けは,是非はともかくとしても,評価という部分というのは,ある部分とても大事なことかなと思います。自分を律するためにでも必要なことかなという気がしますが,過度な評価は評価になりませんのでね。その辺がまた,信頼関係ということになってくるんではないかという気がします。何しろ,上で何かされるというのは人間だれだって嫌なんです。これは簡単な言い方なんです。だけど,認めてくれたというのと,上からむちを振られたというのとでは随分違うような気がするので,その辺のところが,今回ちょっと議論した上で進めることは必要かと思います。そういう意味では,衛先生の気持ちというのもわからなくはないなという気はしております。
 ほかはいかがでしょうか。
 はい,どうぞ,片山正夫先生。

【片山(正)委員】  やはり今の体制だとプログラムが,今,吉本さんおっしゃったとおりで,高度化していかないということが非常に問題でありまして,決まったプログラムをずっと継続していくだけというような状態に今なってしまっていると思いますもともと芸術文化振興基金というのは,芸術文化の振興を目的としているわけでありますけれども,その中でも,芸術文化団体が行っている公演活動等に対する助成に特化して行っているわけですよね。ところがそれは文化芸術振興を行っていく上での,1つの登り道にしか本当はすぎないわけで,おそらくPDやPOが,今後そのリサーチをし,いろいろなその芸術文化団体の方,あるいはアーティストの方とじかに対話をしていけば,いや登り道は1つじゃないだろう,例えばこういうやりかたはどうなのかという疑問が必ずわいてくるはずだと思います。助成機関というのは,本来はもっとも生きた情報が集まる場所なんですよね。それが政策に循環していかないというのは,非常にはがゆいところがありました。
 それから,芸術文化団体に支援する際に,助成する側の説明責任の問題が出てくる。そのときにやはり非営利法人格をもった,きちんと事業内容や経理の透明性が確保されたような団体にのみ,お金を投入していくべきだという議論がおそらく出てくると思いますね。そうすると,法人格を持たない人たちはどうなるのか。例えばコンテンポラリーダンスなどの分野は,我々やっていますけれども,現状多くはそれに該当できないわけですね。そういった人たちに対して支援をしていくには,個人的なフェローシップをやっていくか,あるいは中間支援組織を強くして,そこを通じて支援していくか,どちらかを考えていかねばならない。そうするとこれは,さっき高萩さんがおっしゃったような,文化庁の政策の問題にもなってくるわけですね。文化庁の人材育成のプログラム,それからあるいは劇場音楽堂への支援,これも1つの中間支援組織への支援だと考えると,オーバーラップしてくるわけです。ですから,現状そういった政策のダイナミックな転換が起こりにくい状態になっているというのが問題だと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。湯浅先生,どうですか。

【湯浅委員】  ブリティッシュ・カウンシルの湯浅と申します。前回欠席してしまいまして,今までに2年間議論を重ねて,また,その前の20年にわたる政策が積み重なっての議論だと思いますが,今既に議論済みのことを申し上げることもあるかもしれませんけれども,ご了承いただきたいと思います。
 ブリティッシュ・カウンシルとは英国の組織なのですが,決してこの英国モデルをこちらに紹介するために来ているのではないということは一言申し上げたいのと,やはり先ほど高萩さんがおっしゃったように,日本型のアーツカウンシルを探していくということが重要で,そこに私も個人的に興味があります。ちょうど昨日,英国のアーツカウンシルが2011年から15年の事業計画というか,プランを発表したばかりで,まだ私も読んでいないんですが,1つは,お話しの中で,文化庁の機能と芸術文化振興会の機能とのオーバーラップの話が,やっぱりすごく出てくると思うんですね。PD・POの役割を話していく前に,そこの全体的な枠組みですとか,そのリミットのところをもう一度整理したほうがいいのかなと思っています。
 アーツカウンシルは,英国の場合は今,新しいビジョンの中,新しい政策の中でも役割は3つあると書かれていまして,言葉としてはチャンピオンとディベロップとインベストということで,チャンピオンというのはやはりセクターをリードしていって,そしてほかの政策領域の中で,文化芸術の役割を声高く,引っ張っていくなり,アドボケーションしていくということだと思います。そのディベロップのそのセクター,文化芸術のセクターの中で,どんな今問題があって,そこがあとどんなチャンスがあるとか,そういったことも調査に基づくということもあると思いますけれども,明らかにして,それにあたって政策を入れていくということと,最後にあるインベストメントというところで,そのパブリックなお金である税金をどういうふうに分配をしていって,より広く文化芸術セクターに対してインパクトを出していくかということが,この3つの柱なんですね。
 今,文化庁の機能があって芸術文化振興会があるところで,これを線を引くのかどうか。この芸術文化振興会の役割,アーツカウンシルという言葉は今使っていますけれども,これは全部を移行したらということではないんだと思うんですね。どこの部分なのかというところだということ,整理が必要かなということと,その評価が1つ大きな課題で出てきているところで,そもそも仕分けのときに,どれだけのインパクトがあるのかというところをきちんと説明していくところで弱さがあったのではないかということだと思うんです。評価と一言で言っても,やっぱりすごく色々な概念があると思うんですね。また何のためにやるのかということも違うと思いますので,評価という言葉を使ってしまうと,またそこがぶれるのかなと実は思っています。助成金を出した先で,その助成金をきちんと使われたかという,助成プログラムに対する評価というものが1つあると思うんです。それは非常に助成に基づいて直結したものでありますけれど,仕分けがあったり,これからセクターをチャンピオンしていくといったところで,実際には芸術文化が広い社会に対して,どんなインパクトがあるのかということをはかって,そのインパクトを集積していくということになると,これは今,日本の文化助成の分配が,日本芸術文化振興会がやるものと,やっぱりそうではない,劇場関係の助成だったりとか,子どもの育成だったり,人材育成とか,色々な助成,お金が流れていきますけれども,その全体を包括したインパクトだったり,集積をする必要があると思います。
また,やはり今,とても日本の文化助成が細分化すごくされていて,あと分野ベースになっていると思うんですね。今,イギリスのアーツカウンシルが,非常に国のお金が少ないので制御したところで,分野ではなくて,非常に大きな領域で,戦略的に3つか4つくらいに,今新しいのが出てきていますので,もういったん上のところでどういうふうに整理をすると,その自治体のいろいろな機関のPD・POにわたるまでの役割が整理できるのかなと思っています。

【宮田座長】  なるほど。ありがとうございます。いいですね。

【太下委員】  3点ほどちょっとご意見申し上げたいんですけれども。

 まず1点目は,先ほども高萩先生の御意見などによって,現行制度の課題,またワーキングが設置された経緯というのが非常によく整理されたかなと思うんですけれども,私なりに別の言葉で言いかえると,おそらく明確なPDCAサイクルというものが構築され,世間に対してきちんと表明されるということができていなかったのではないかと思います。やはりPDCAサイクルをきちんと回していき,それをまたさらに外から評価してもらうという体制を構築するためには,専門的な人材というものがきちんとそこにいて,顔が見える形なり,そしてそこに責任が付与されているということがきちんと必要でないかなと思います。その意味では現行,試行が始まっておりますPD・POの体制というのは非常に意味があると思いますし,さらにこのワーキンググループでも課題になっておりますけれども,分野の拡大というものも並行して進めていくべきと,こういうふうに考えます。以上が1点目です。
 2点目としまして,先ほど,文化庁と芸術文化振興会の二重構造,さらに民間ということで三重構造という御意見もありました。ここで例えばいわゆるシンクタンク機能をどちらが持つべきかという,こういう議論も出ると思うんですけれども,これは,私はすっぱりどちらかにシンクタンク機能を持たせるということではないのではないのかなと,ちょっと今議論をお聞きしていて思いました。例えば,今言ったような形でPD・POがきちんと機能していけば,当然日本芸術文化振興会の方に現場ならではの知恵,ノウハウというものが蓄積されていき,そこがシンクタンク的な機能を持つでしょうし,一方で,当然文化庁やそして文化審議会もより広い見地から政策提言とかしていく立場にあるわけです。いわば双方が切磋琢磨というか,意見をすり合せするような形で,よりよい政策なり事業というものを展開していくというのが一番望ましい形ではないかなと思います。特にこのワーキンググループで議論に上がっていましたパイロットプログラムのようなものを考えるときは,多分どちらかが一方で行うということではない。おそらくそのすり合わせが非常に重要になってくるんではないかなと思いました。これが2点目です。
 3点目がちょっと本質的な部分なんですけれども,実は私自身,東京都のアーツカウンシルの議論にも参加しているんですが,そこでも課題になった点なんですけれども,アーツカウンシルをつくって結局どうなるんだということです。冒頭の高萩さんの確認ともつながるんですけれども,おそらくアーツカウンシルをつくること自体が目的ではなくて,アーツカウンシルという1つのツール,手段を使って,助成の制度をよりよくしていく,さらに言えば,そこからのフィードバックをもとに,文化政策をより改善していくんだというところが大きな目的なのかなと,ここはきちんと確認しておきたいなと思います。と言いますのも,私は文化庁で行われている,「劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会」にも参加しているんですけれども,法律をつくること自体が目的化しているような部分も一部あるんではないかなという懸念を持っておりまして,本来はそういうことではないだろうと思います。やっぱり舞台芸術の振興そのものを今後どうしていくのかという議論が一番にあり,そのため必要であれば法律をつくる。こういう目的と手段の混合がないようにきちんと議論していければと思います。これが3点目です。
 以上です。

【宮田座長】  ありがとうございました。大変,非常に明快なご発言をいただきました。ありがとうございました。
 私もどちらかというと大学人なものですから,法人化をする前と法人化後で大きく違ったのは,学部が絶対権力を持っていた教授会というのがあったんです。全くその機能をなくしたんですね。上に理事会,役員会というのがあって,それがすべての責任を持つことになっている。結果的にはやっぱり現場の教授会というのが相当いい発信をしていない限り,決定機関が上では決定できないですよね。上からも金を配分できない。この関係が,こういう関係につくるから図式がおかしいんで,じゃあこうやったらどうかというと,これはまたできない話なんだけど。今回のことも先生がおっしゃったみたいに,この関係がどういうふうにちゃんとでき上がっていくのかというのと同時に,下の,いわゆる現場からの,今の太下先生の話にありますように,下の現場の話との連携がちゃんとできる,そしてこのパイプがちゃんとしていれば,自分の提言がちゃんと伝わったし,その提言が今度は評価になったときには,また継続していいですよという連携がとれるというふうな,そういうパイプがきちんとできているかできていないかによって,その大学の機能はものすごく変化すると。始まって五,六年たちましたけど,多分芸大像って大分変化したのかなと感じています。法人化をさせられるんじゃなくて,法人化後の中で,小さな科や講座での発信がすごく潤沢に動けるようになったという感じがします。それとあと,資金に関しての流れの持っていき方が非常にうまくいったなと思います。それはどういう機能をつくっているかというと,PD・POのような機能を持つ先生方を,いろいろな部分に配置したことによって,生の意見を聞くことができるという結果があったので,そういう意味でもちょっとこれは,私としては期待するものがあります。特に文化芸術に関しては,なかなか形にならない,表現しにくいような部分があるので,ぜひともこういうものをつくっておくといいのかなという気がちょっといたしました。
 どうぞ,片山泰輔先生。

【片山(泰)委員】  片山泰輔です。2点ほど申し上げたいと思います。資料2の意見の中で,衛委員が公認会計士等,そういう財務などチェックできる機能を持つべきだろうということをお書きになられています。こうしたことは非常に大事なのですが,そのチェックを助成金を出す側が全てやるのは,短期的にはあり得るかもしれませんけど,長期的にはそうではないかたちが重要です。申請する側が,きちんと内部評価を行い,そして外部評価も行い,そして外部監査も受けて,そういうきちんとした公益性を果たせる団体が,そもそも公的資金の応募ができるような状態になることが重要だと思います。
 先ほど高萩委員が最初に指摘されましたが,90年の時点と今の時点とを比べ,20年間の変化で何が違うかというと,一つは地方分権一括法などがありまして,地方分権の流れというのがあるかと思います。それからもう一つは,やはり官から民への流れの中で,公益法人改革もありましたし,その間NPO法もでき,そして今年の6月にはNPO法がさらにステップアップして,認定NPOがつくりやすくなるという形で,これまで行政が独占していたいわゆる公共的なものを民間が担うという時代になったというのが,やはり大きな変化だと思います。ですので,助成金を申請する民間芸術団体が,公的なものとして申請をするという方向に持っていく必要があります。ただいきなりそれを明日からそうしますと言ってもついて来られないでしょうから,そうなるための移行措置といいますか,そういうことを考慮しながらプログラムの改革を考えていかなければ難しいんだろうと思います。  そういった意味で,先ほど片山正夫委員がおっしゃいましたように,自立をするのはなかなか難しいような零細な団体とか,個人のアーティストに対しては中間支援組織を強化するとか,また別のフェローシップを考えるとか,そういったものがセットになるという形を考える必要があると思います。この20年間の変化の大きな流れをとらえ,パートナーシップを考えることが重要です。まず最初に国が公的なものをやり,それを民にゆだねるという発想ではなく,民自身が芸術を通じた公的なミッションを果たすのだということを掲げて,それをパートナーシップとして支援するという形の仕組みの構築,そういうビジョンを持ったプログラムが重要なんではないかというのが,まず大枠のところです。
 評価に関しては,幾つか意見がもう既に出ていますが,一つ意見をつけくわえます。まず,個別の事業の評価があります。支援した公演がうまくいったかということの評価です。ただ,支援された団体がどうなったかということの評価もさることながら,支援された団体の中でも,うまくいかなかったところもあるかもしれないですし,それ以前に応募したけれど助成がとれなかったところもあるかもしれません。これらすべてをひっくるめた形で,そのプログラムの実施によって,その業界全体がどう発展したかということをやはり見ていくという,そういう意味でのプログラム評価というのもあわせてやっていく必要があると思います。
 つまり個別の企業の特定の商品開発がうまくいったかどうかだけではなくて,その企業,そしてさらにその業界全体が発展したかどうか,つまり舞台芸術産業,あるいは演劇産業,音楽産業といった非営利芸術産業がマクロとして発展しているかどうか,そういう視点でのプログラム評価というのをやっていかないと,おそらく事業仕分けなどで,このプログラムそのものの予算が問われたときにはなかなか太刀打ちできなくなるのだろうと思います。助成金が取れなかったところも,そういう助成金制度があることで,いろいろと自己改革をするわけですので,ミクロな評価とともに,マクロなプログラム全体の成果などもきちんと捉えるような,そういう調査機能を持つということが重要なのではないかなと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。評価に関してはとてもおもしろいご意見をいただきました。ところが,さっきの話に戻りますが,私のところで,やりますとですね,面白いことをやろうとしてどんどん出す。後で評価されるときに,とても書きにくくなってくるので,評価されやすいアイデアを出そうとするようになってくるということもあるんですね。ここはすごく気をつけなければいけないところで,勇気を持った,おもしろいものをやったことに対して,どんな評価でも受けましょうという感じにしないとおかしくなるということは1つ。はい,どうぞ。

【衛委員】  今,私もちょっとある部門の専門委員会をやっておりますが,芸術性のコンペみたいなものなんです。運営であるとか,正直申し上げて,要するにマネジメントの部分であるとかということに対しては一切審査していないですよ。専門委員会の在り方の問題というのもあると思うんです。専門委員は各公演を見に行ったり,あるいは地域に出かけて行ったりするのは努力目標であって,義務ではないんですね。行かない人もいるし,数多く見る人もいるし,ほとんど見ない人もいる。だから,その後チェックができない。さらに先に行こうということもできない,アドバイスもできないということになっているんですね。
 ですから,その日本芸術文化振興会自体の,専門家委員会も含めた組織を改革する,あるいは機能を改革するというふうに理解していいのかということです。つまり日本芸術文化振興会があって,そこにアーツカウンシルをくっつけるんじゃなくて,日本芸術文化振興会を含めてインクルーズした形で,日本芸術文化振興会の言う制度改革というのが。それと今,片山委員から言われたように,受ける側の改革というのがすごく大事なんですね。受ける側も基本的には申請して,なるべくいい事業を,体裁をよくして,取って,ところがその年にそのお金をやるものが全然内容が違ってしまったりということが平気であるんですよね,これは。なので,受ける側の意識改革というのも相当進めないとだめなんじゃないかという気がします。

【宮田座長】  なるほど。それはやはり受ける側がそうであれば,ピッチャー,キャッチャーの話みたいなものですけれど,いい球投げるやつは,皮肉にもすぐれたキャッチャーがいなきゃだめですしね。その両者が必要だと思いますが。それはさっき片山先生がおっしゃっていたような感じで,文化芸術の日本のレベルアップ,それから業界も大きくアップするというような関係になるのかなと,そういう持っていき方までこれは持っていけたらなという気はいたしますよね。
 どうぞ,吉本委員。

【吉本委員】  今の衛先生のご意見,1つ目の,日本芸術文化振興会にアーツカウンシルをくっつけるということではないというのは,まさしく,私はそういうふうに理解していまして,今の仕組みは厳然としてあるわけですから,それをよりよいものにしていくためにどうすればいいかというのが議論の大前提になっていると思います。
 それから先ほど来からいろいろ意見があります,文化庁と日本芸術文化振興会の関係ということなんですけど,これは基本的にパートナーであり続けると私は思っています。例えば,日本芸術文化振興会のほうに現場の情報が集まり,現場の実態をよく把握できる体制ができれば,戦略とか,あるいは実験的なプログラムとかについては芸術文化振興会から発案されたほうがより効果的で有効なものが出てくるのではないかと私は思うんです。そのときに,今の事業は文化庁の補助金で行われていますが,芸術文化振興会の判断でやってみて,ちゃんと個別の事業の評価とプログラム全体の評価や成果を報告する。それが非常にすぐれたプログラムであれば,それをより強化しましょうという政策決定が文化庁でなされ,それに関連して予算がちゃんと日本芸術文化振興会に与えられるというパートナーのような関係だと思うんですね。
 芸術文化振興会でプログラム立案したりとか,戦略を考えたりするという機能がなく,ただ評価審査をちゃんとやってくださいということだけでは,せっかく整えた体制がもったいないと私は思うんです。だから文化庁との関係でいうと,そういうパートナーシップというのが生まれるのが私はいいんじゃないかなと思います。

【宮田座長】  武濤先生,どうぞ。

【武濤委員】  今日の議論の中で先ほどから,これまでの20年間で出された芸術文化振興会の問題点というのを,高萩委員とか吉本委員からお話しいただいて,かなり私自身の中で整理できたなと思います。この問題点がクリアになった上で,新たな仕組みが試行されているので,私自身はこれがいわゆる現状の問題点の部分については,このPD・PO,これから人を増やすとかいろいろな話があると思いますけど,これを行っていくことで,ここでの議論を踏まえて,かなり解決されていくのであるだろうと思うし,してほしいと思っています。
 ただ,やはり片山正夫委員がおっしゃっているような,これからの発展というんでしょうか,これからの部分をやっぱり議論するに当たっては,このいわゆる日本芸術文化振興会と,日本芸術文化振興会のいわゆる組織上のことであるとか機能,そういったことについてはやっぱりもう少し突っ込んだ話し合いが必要かと思います。基本的に私自身も,文化庁と芸術文化振興会の関係というか在り方については,皆さんの今出ている意見と全く同意見で,共存というか,いい形ですみ分けて協力し合っていくということについては賛成です。以上です。

【片山(正)委員】  文化庁との関係でもう一言,言わせていただきますと,助成機関というのは政策実験ができるんですよね。つまり,うまくいくかどうかわからないようなプログラムを試してみることができるわけです。期間限定で,実験的な支援プログラムをやってみる。
 例えば,こうやればアートが地元に根づき,お客さんが増えるんじゃないかといったようなイニシアチブが民間から提案されるとしますよね。それに対して,例えば5年間だったら5年間,集中的に支援して,終了後に評価をしてみると。つまり5年後に評価することをあらかじめ目的としたような,新しい試みに対する助成の在り方ですね。こういうのはアメリカでは民間の助成財団が意図的にやっています。民間の大型の助成財団が,政策をまさに実験しているのです。そこでうまくいったものを国の政策に取り入れていくという,こういうことになっているわけです。日本には残念ながらそれをやれる規模の芸術助成財団がない。これはやっぱり芸術文化振興基金でやっていけるところなんですよね。そうすることで文化庁との連携というのは,よりダイナミックなものになっていくはずだと思うんです。

【宮田座長】  よろしいですか。どうぞ。

【高萩委員】  文化庁の文化政策部会に関わった者として,一番大きなことを忘れていたなと思ったのでつけ加えたいと思います。第3次基本方針というのは,第2次基本方針が存在しているときにつくり変えたという経緯があるわけです。さっき吉本さんがおっしゃったように,仕分けの問題とかいろいろあって。その一番大きな,つまり第3次基本方針になって今までと一番大きな違いについては,かなり中で議論をしました。今までの基本方針では,比較的恩恵的支援だった。「従来社会的費用としてとらえる向きもあった文化芸術への公的支援」という書き方をしていますけれども,それを投資的支援に切りかえようというところが大きな転機です。書き方としては,「文化芸術への公的支援に関する考え方を転換し,社会的必要性に基づく戦略的な投資ととらえ直す。」これが大きな第3次基本答申の柱になっていると思うんですね。
 今まで芸術文化振興基金は,どっちかというと「社会的費用として,芸術家の方たちに対して支援をする」ということだったのを,「日本の社会全体これからどうしていこうかというときに,文化芸術を投資的に使っていくんだ」ということが,第3次基本方針の大きな流れだったと思います。そこの中で議論した上で,こういうことをやろうとしたんだということを踏まえて,ぜひ新しい体制に持っていければと思っています。そこが第1歩だったということをお伝えしたいと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。とても大事なことですね。実はまたうちの話で恐縮なんですが,科研費というのがあるんですね。実技系芸術に関しては,どうやっても戦えないんですよ。相手は私どもを無視するわけですね。だから私どもが今,科研費で獲得して一生懸命やっているために,こうやったら科研費が獲得できるだろうということをすごく勉強しています。それも,どちらかというと学問的意識,つまり科学研究費ですから,学問的意識の中における芸術論というふうなものでしかないというようなのがあって,本当に実技の,そこで国のお金が助成できるというのに対して,これをきちんと獲得できれば,国にも文部科学省そのものに対しても大きな力が得られるのかなというのが,私の中にあるのです。
 そういう実技系の表現者にも配分される国の経費というものが出てきて研究ができると,より発展的な深い芸術文化が構築できるような制度にしていきたいというのが,私の念願です。そのためにはやはり,こちらから発信するということが大きなものになるのかなと思います。そうすると大学の若手の機関とか教員たちと一緒に,地方のそれぞれの民芸だや文化芸能と連携をとることも可能なんですね。そうしたら力強い日本の文化芸術ができるのかなという気がしています。民俗芸能だけ守っている人たちは大変苦しいんです。だけどそこに若者たちが入るということによって非常に大きな力になるのかなという気がしているんですけどね。
 相馬先生がちょっとしばらくお話しなさっていなかったような気がするので,ぜひどうぞ。

【相馬委員】  そうですね,私はこの委員会に呼んでいただいていて,一番現場に近い人間ということもありますので,終始,現場サイドの意見を述べさせていただくように努めたいと思います。そもそも論みたいになって申しわけない面もあるんですけれど,ちょっとお聞きいただきたいと思います。
 まず先ほどから議論に上がっている,文化庁と日本芸術文化振興会の役割分担ということですけれど,率直に申しまして,おそらく現場の人はその役割の違いをほとんど理解していないと思います。それはさっき衛委員がおっしゃったように,受ける側の意識改革の話にも通じると思うんですけれども,その制度の意義や仕組みがよくわからないのに,その制度から何とか助成金を得て,あるいは補助金を得て活動しようというところに,そもそも非常に困難があると思うんですね。やはりここで話されている議論の内容,制度設計,ミッションといったものと,現場サイドの感覚というのにあまりにもずれがあるというのが,私の現状認識です。
 それを是正していくための双方の努力というのが必要だと思いますが,やはり1つの問題としては,制度が単純にわかりづらくて,日々自分の作品をどうつくるかということしか考えていない芸術家にとっては,ここにある仕組みそのものをまず理解するためのチャンネルがないということがある。もちろんそれを翻訳して,吸い上げていくのがプログラムディレクター(PD),あるいはプログラムオフィサー(PO)の役割ですから,そういう人材が間に入ることでつなげていくことは急務だと思います。おそらく高萩さんとか私のように直接そのアーティストとものをつくっている人間は,結果的にそういう機能を持っていると思うんですね。実際,こういう助成があるので申請したらどうかとか,これだったら日本芸術文化振興会ではなくて文化庁のこちらにアプライしたほうがいいんじゃないかということを,日常的にサジェスチョンしています。昨日もたまたまフェスティバル/トーキョーに,台湾からフェスティバル・ディレクターがいらっしゃっていて,FTでやっている若手のアーティストを台湾に招聘したいということで,急遽その話が決まったんですけれど,そうすると来年度の助成金を申請しようかという話になります。で,一体どこに申請したらいいか,彼は全くわからないわけですよね。それで,私や現場の人間が,日本芸術文化振興会がある,でも日本芸術文化振興会は海外がないから文化庁だ,でも文化庁って締め切り明日だし台湾は国交がないから対象なのか分からない,みたいな話になって,結局あわてて徹夜で申請書を書いたりしている。そういう現状があるわけですね。
 そういった,もちろん受け手側の知識不足,勉強不足というのはもちろんあるんですが,やはり本当の意味で芸術振興を推進するのであれば,やはりその要はアーティストであるべきで,つくっている人たちにとってそれはどれだけ効果的で,かつわかりやすいものかというところに,この場の議論や目線を持っていくべきだと思います。
 それから先ほど片山委員が,助成機関であれば政策実験ができるということをおっしゃいましたけれども,私も同感です。ある制度が形骸化してしまうと,やはり受け手側の意識も形骸化するということがあると思いますので,その制度自体が現状を受けてどんどん進化していく,ダイナミズムみたいなものが具体的に見えたほうがいいと思います。結局10年前から全然応募要項変わっていないじゃんと思うと,申請する側も非常にルーチン化してしまって,ある種のテクニックの世界になってくると思うんです。これをこう書けばこうで,こういうふうに書くと何となく通るみたいな感じで,その助成制度の求めているものに対して,非常に認識が甘くなるんですね。それはお互いにとってよくない。信頼関係ないし共犯関係を構築できないことになってしまいますので,あえて,その制度をダイナミックに実験していく姿勢を助成プログラムの中に内在化させることは,非常に重要かと思います。
 やはり現場でやっていると失敗もあるんですよ。アートは失敗が許される数少ないジャンルだと私は思っていまして,これが医療とか法律だと失敗したら犯罪みたいな話になるかも知れませんが,アートは失敗してもなかなか犯罪にはなりませんので,そういったアートだからチャレンジできること,で,そこに生まれる価値というものを大前提に,助成制度の側も失敗のリスクを恐れずにやっていくという姿勢を示すことが重要かなと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。失敗してもいいじゃないですか。助成いただかなかったら絶対失敗しないと思うんですよね。こじんまりまとまってしまう。失敗を恐れず,この助成を生かすことによって,その分野での大きな発展が明日から見えるというような感じに受けとめることが大切だと思います。
 先ほど片山正夫委員のほうから,ちょっとペーパーをいただいたんですけど,これなんかもご紹介したらどうですか。

【片山(正)委員】  皆様にはメールでお送りしましたよね。この委員の皆様には。私どもの財団の,森下スタジオというところにレジデンス施設がありまして,今韓国から,韓国の,国の機関である「韓国アートマネジメントサービス(KAMS)」という組織のスタッフでありますコ・ジュヨンさんという女性が今来て,2カ月くらい滞在しておられます。彼女に韓国のアーツカウンシルの現状について,問題点も含めたことをプレゼンテーションしていただく予定にしています。関心のある方,文化政策に関係のある方にお集まりいただいて,ラウンドテーブルで,肩の力を抜いたディスカッションをしたいなと思っておりまして,11月15日の(火)に,14:00から,森下スタジオで行いますので。メールは皆さんにお送りしたはずですが,受け取っておられないという方もしおられましたら,お知らせください。よろしくお願いいたします。

【宮田座長】  ありがとうございました。こういう活発な,それぞれの財団とかいろいろな組織の中で,真剣にご討議なさっていることは構築の上ではとても大事なことじゃないでしょうか。そんな意味でご紹介させていただきました。
 高萩先生,どうぞ。

【高萩委員】  せっかく顔をそろえているので,根木さんがどう思われているのかということ,根木さんも文化政策をリードされてきた方だと思うので,ぜひこういう議論を聞いてどう思われたかというのをお伺いしたいと思います。
 文化庁月報に根木先生が雑感でお書きになっていたものを読んで,現在の除籍金の在り方を変えなくてよいと思われていたんだと思って,すごくびっくりしたんです。今盛んに,根木さんに対して私たちとしてはプレゼンしたつもりもあったので,根木さんのお考えが,この議論を聞いて,やはり先ほどのままなのか,それともちょっと変わってきているのかあたりを,お聞かせいただければ,非常に集まったかいがあったかなと思うんですけど,いかがでしょうか。

【根木オブザーバー】 今出ていた議論の中で,高萩委員が,第3次基本方針の中で,助成の在り方が従来の赤字補てんから投資的な経費へと変わり,現在の助成はそれがベースになっているとおっしゃいました。それはそのとおりだと思いますが,そのことがおそらく「団体性」の議論に結びついてきているのではないかと思われます。つまり,先ほどから,公益を実現できる団体に限定すべきではないかというご意見が出ていました。確かに,目に見えて把握しやすい団体であればそれでいいのですが,地方のいろいろなアマチュアの団体,特に演劇関係の団体などは,出ては消え,消えては現れるという実態があります。そういう団体を一体どのように把握するのか,それに対してどのような効果的な助成を行うのかという問題があります。したがって,NPOとか法人格を持った団体だけに限定するというのは,今の時点ではいかがなものかという感じがしています。
 ご承知と思いますが,文化庁の文化政策は,トップを伸ばすことと,すそ野を広げることを縦・横の軸にして,ずっと進めてきていたわけです。したがって,下の方を捨象して切り捨てるということは相当な議論が必要です。この点を念頭に置きながら,どうするかを検討しなければならないと思います。
 現在,振興会が行っているのは,文化庁から二,三年前に移管を受けたトップレベルの舞台芸術創造活動に対する支援と芸術文化振興基金による支援です。基金事業がまた2段階に分かれていて,芸術家・芸術団体による芸術創造普及活動に対するものと,地域のアマチュアの活動や文化会館・美術館の活動に対するものからなっています。したがって,トップレベルの舞台芸術創造活動に対する支援事業と基金による支援事業を一体どうするのか,特に両者の相互関係をどう整理するかといったようなことが,これからの課題であろうと思います。今すぐ一足飛びにこうあるべきだなどとはなかなか言えず,やはりかなり議論をしなければならないと思います。
 それから文化庁と振興会との役割分担で,吉本さんが振興会がそういったパイロット事業を行う役割を持つべきだということをおっしゃったのですが,イギリスはそうであっても,我が国の実態が果たしてそれになじむものかどうか,私個人としては,必ずしも同調できません。
 それからもう一つ。高萩さんがしょっちゅうおっしゃっている「ピュアレビュー」ということについて,少しコメントさせていただきますが,よろしいですか。

【高萩委員】  いや,少々細かい部分に話がいってしまったので,本質的な部分,「全体的にやはり変えていこう」ということについてはいかがでしょうか。
 もう1回言いますと,芸術文化振興会については,民間のお金がやっぱり100億円入っているというのはかなり大きいと思うんですよ。つくったときの経緯というのがありまして,国のお金だけではなくて,民間のお金が入っているのだというこの特徴をどう生かしていくかということについては,どうお考えなのかというのをお伺いしたいのです。

【根木オブザーバー】  あのとき,企業を中心とする民間サイドから110億円出していただき,政府出資の500億円と合わせ,その運用益で助成を行うことになったことはご承知のとおりです。当時は運用益が30億円ほどあったのですが,今はその半分以下です。それをどう配分していくかということについては,上から下まで相当程度目配りをし,かつあらゆるジャンルを対象にするというのが,当時寄付をしていただいた方々の考えでもあったと思います。したがって,それをがらっと別の方向に変えるということになると,また大きな議論が必要だろうと思います。

【高萩委員】  「大きな議論」とか「一足飛びにいけない」ということになると,つまり結局すぐには変わらないということになってしまいます。今,文化審議会があり,文化政策部会があって,やっぱりそこは一応論議をしたと考えられはしないのでしょうか。文化審議会や文化政策部会の論議では足りないということをおっしゃってらっしゃるということになりますか。

【根木オブザーバー】  そこは見解の相違であって,変えるべきではないとは言いませんが,差し当たって今すぐ変えなければいけないのかどうかということになると,そういうわけのものではなく,議論が必要ではないかということです。それと,文化審議会の中でとおっしゃいましたが,主としてワーキンググループの中でやっていらっしゃったのですよね。

【高萩委員】  しかし,文化政策部会の下にワーキンググループがあって,文化政策部会が文化審議会に上げて,答申として出させていただいていることについて,ワーキンググループの話でしょうと言われてしまったら,もう議論になっていかないと思うんですがいかがでしょう。

【根木オブザーバー】  私は何も変なことを言っているつもりはなく,それ自体は尊重しますし,変えてはいけないと言っているのではありません。ただ,高萩さんが,いろいろ現状で問題点があると盛んにおっしゃっており,またどういう問題点があるのかということを言ってもらわないと我々も困るとおっしゃたので,そちらが指摘される問題点に対する問題点として申し上げているつもりです。
 それからもう一つ,この助成金は,経常費補助ではなくて,あくまで事業費補助なのですね。この枠組みをがらっと変えるのはなかなか難しいと思われます。したがって,「団体」に対して助成をするということになりますと,考え方を相当程度変えることになり,基本的な議論をしないといけないのではないか。プログラムか何かつくって,一足飛びに団体性の強化の方向に持っていけるかというと,それほど容易なことではないという感じがしております。

【宮田座長】  はい。

【吉本委員】  まず団体のところなんですけど,ちょっと誤解があるなと私思ったのは,両片山委員がおっしゃっていることは,団体助成をしようと言っているわけではなくて,公的の資金を受けられる団体の性格というか,位置づけを明確にしましょうと言っているんだと思うんです。そうですよね。

【片山(正)委員】  はい。そういう趣旨です

【吉本委員】  それと同時に,根木先生のおっしゃる,すそ野やアマチュア活動については,それはちゃんと枠組みを残した上でということですよね。

【片山(泰)委員】  中間支援の団体を間にかませるとか,いろいろそれはやり方があると思います。

【吉本委員】  それとあと,一足飛びに変えられないというのは,それはまさしくそうだと思うので,変えられるところから変えていくべきだと思います。しかし,どういうゴールを目指しているのかという何か将来像がないと,とりあえず変えられるところだけ変えていくというのでは,変えることの説得性にも欠けると思うんですね。芸術文化振興会において,根木先生が座長をされて,高萩さんが副座長をされて,この報告書が出ていますけど,これはまさしくそのPD・POを置いて,変えられるところを変えていきましょうということだと思うんです。その上で,今回のワーキンググループは,これを前提とした上で,より長期的な,日本らしいアーツカウンシルというものがどういう姿になるべきか,何を目指すべきか,あるいは今ないプログラムで必要なものがあれば,そういったものを備えるべきではないかということを,ここで議論して提案していくというふうに私は理解をしています。その中で,もちろん改革はできるだけ早くやったほうがいいので,できるところからやっていきましょうということを議論しているんだと私は理解しているんですけれども,どうでしょうか。その辺をもし,ほかの委員の先生方もぜひご意見をお伺いしたいと思います。そうしないと,ワーキンググループの結論がぶれてしまうと思うんですけど,いかがでしょうか。

【宮田座長】 太下先生,どうぞ。

【太下委員】 吉本さんのご意見に賛成です。先ほど高萩さんが,整理していただいて,助成の位置づけそのものが変わったという認識から,この検討も起こっているんだという,非常に私も明快になりました。赤字補てんから社会的戦略的投資に変わっているんだということですね。
 こういうふうに考えるとやはり助成団体,対象も,公益を実現できる団体や持続的に成長できる団体(NPO法人や公益法人など)というところを,いかに逆に,支援を通じて育てていけるのかというところが大きな目標になり得ると思うんです。確かにすぐに制度そのものをがらっと変える,例えば,そういった団体だけに限定したメニューをつくるとかというのは難しいかもしれませんけれども,既存の,そういう支援メニューの中に,こういう公益枠を設けて,例えば一定はそこだけに出すんだということはあり得ると思います。優先的に,シードのような形で,そこに配分するんだということをつくるだけでも,多分文化庁と振興会としても,そういう長期的なゴールが社会にきちんとPRできるんじゃないかと思います。今のは一つのアイデアですけれども,すぐには変えないというのは,それはそれでもちろん一つの手段ですからいいんですけれども,中期的に,段階的にどうしていくのかという具体的なところも含めて,よりよくしていくための議論をぜひ前向きにしていければと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。新たな仕組みをつくるわけですから,当然今までの概念的な形ができ上がっているものは,一度まっさらにする必要もあるのかもしれませんが,やっぱりこれ,変えられないというものは変えられないでいいと思うんです。だけどここはやっぱりメス入れなきゃというのは,随分,20年もあれば当然たまるわけですから,そこのあたりのところをちゃんと意識改革と,幅を広げていくというところをぜひやっていきたいなという気がしているんですね。ちょうどそういう時期に来ているのではないかということだと思いますけどね。
 他に,どうでしょうか。
 どうでしょう,こういうところは大事にしたい,この辺はちょっともう,そろそろメスを入れたいというあたりの議論については,ご意見等ありますでしょうか。
 相馬先生,さっき結構厳しいストレートなご意見がございましたけど。切実だと思うんですね。また,1つのきっかけづくりになるかもしれません。どうでしょう。

【相馬委員】  そうですね,制度そのものが非常にわかりにくい現状の中で,刷新していく状態を戦略的に表明していかないとと思います。別にアートは競争ではないですけれど,今明らかに諸外国の芸術支援システムというのがかなり進化している中で,ちょっと日本は取り残されつつあるなということを正直に感じます。
 例えば,先ほど片山委員からご紹介のあった韓国のKAMSという組織ですが,私も実際そのオフィスに行ったことがあるんですけれど,働いている方全員がプログラムオフィサー(PO)かプログラムディレクター(PD)みたいな状況なんですね。国の直接的なイニチアチブでつくられた組織ですけれども,私と同世代ぐらいの若いPO・PDにあふれていて,彼女,彼らはどんどん海外にも積極的に視察に行って,自分たち自身の価値観をつくった上で,どんどん新しい仕組みをつくって支援をしています。非常にダイナミックです。
  前回の議論で,信頼関係を築くには,信頼性,スピード感,双方向性が必要だということを申し上げましたが,要するに現状それがないので,非常に歯がゆい思いをしているということがあります。競争ではないと言いながらも,今議論しているのは,国の政策として文化政策あるいは文化支援をどうしていくかという話であって,その前提にはやはり国際競争力に文化を位置づけていくという基本的な考え方がある以上,そこはもっとシビアに選んでいかなくてはいけない。予算が有り余るほど潤沢にあるのであれば,現状こうやって維持しつつということもあるかもしれませんが,今それがない中で取捨選択をしなくてはいけないから,こういう議論の場が設けられていると思うんです。
今後,震災復興などいろいろな局面で厳しくなっていく中で,何を選んでいくかということは,痛みを伴うことでもあるとは思うんですけれども,あえてリスクを恐れずにやっていくべきだと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。私も韓国のPD・PO,うちの留学生が随分いるもんですから,それで見ていて,ちょっとうらやましいなという感じがいたしました。やはり今度導入するPD・POに関しても,要は人材なんですよね。もう一にも二にも信頼できる人材が,どういう人たちがいっぱいいて,彼らが本当に真剣に議論して,ここに特化したところに,いいアドバイスをしよう,いい決断をしようということになるんではないかと思います。その辺の問題が一番大きいのかなという気がしています。その彼らがちゃんと動けるために,私どもの議論がその軸受けになっているんだということが大切なんだと思います。
 それから評価の話で,またちょっと私ももとへ戻るんですが,評価してくれる人が,単なる評価のための人たちではなくて,実践者でもあってもらいたいという気がするんですね。そういう人たちもその中に入っているというのが必要かなという気がしています。全く違う関係の人たちが判断基準をつくられると,評価のための評価をつくらざるを得なくなってきたりしますので,
 それはそうと,PD・POの,これからの選定とかそういうのというのはどういう進め方をこれからしていっていいのかなという,多分先生方皆さん,ちょっと疑問に思うと思うのですが,芸術文化課長,いかがですか。

【山﨑芸術文化課長】  個々のPD・POの選定は,これは芸術文化振興会の人事のお話ですので,芸術文化振興会にお任せをすることになると思います。今後の分野の拡大であるとか,人員の補強については,既に来年度の概算要求で,他の分野も拡充するべく,要求は今,しているところでございますので,芸術文化振興会ともご相談しながら,予算的な裏づけについては文化庁のほうでやりつつ,具体的なPDを中心とした審査の運営はもう芸術文化振興会のほうで行うということで考えております。

【宮田座長】  文化部長さん,ぜひどうぞ,お願いします。

【小松文化部長】  これまでのご議論の中で,大きく分けると2つの議論があると思います。1つは,そもそも文化芸術に対する公的支援をどういうふうにやっていくかということを,もっと戦略的にしっかりしなきゃいけないということです。そういうことをしっかりしないから相馬委員がおっしゃったように諸外国に負けるんじゃないか。それから片山正夫委員がおっしゃったように,とんがった部分に対する支援に目が向いていないと,そういう国としてどういう公的助成をしなきゃいけないかという議論が1つあると思います。
 もう一つ,今私どもが審議をお願いしているのは,具体的にどういうところに支援するかという体制についてです。特に審査体制の部分について,このたび芸術文化振興基金のほうを強化して,もっといい体制にしていくということをやっていますので,政策をどうしていかなきゃいけないかということと,それからその政策を動かすための体制をどうするかということです。
 体制についてだけ議論しているからややこしいんだと思うんですね。それで,国としてどういう支援をしていかなきゃ,どういう政策をとらなきゃいけないかというところまで,今芸術文化振興会のほうに責任を負わすような,つまりそれは体制のせいじゃないかという議論になってきていると思うんですね。そこはちょっと整理をしていただきたいと思います。今までお話を聞いていて,文化庁として受けとめないといけない部分はかなりあると思います。文化芸術への公的支援に対する考え方を,社会的必要性に基づく戦略的な投資ととらえ直すと書いてはあるんですけれど,それは全く具体的にどうしようということはまだ議論していないんです。とりあえず,今現在の文化庁が行っている公的支援の体制が,その審査の体制が必ずしも十分ではなかったので,その体制を芸術文化振興基金のほうで強化していただくという,そういう状況になっていると思います。
 日本芸術文化振興会のほうも,がらっと変えるという考え方もあるかと思うんですけれど,でも毎年の作業をやりながら変えていかないといけませんし,これまでも機能している面もありますので,全部を否定するということではなくて,今まであることを基礎として,それをどうやっていいものに変えていくかという議論をしていただければありがたいと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。ほかに文化庁さんのほうで,このようなこと等はございますでしょうか。
 滝波企画調整官,どうでしょう。

【滝波政策課企画調整官】  今の小松部長のまとめ方になるかと思いますので,その視点から,このワーキングのほうでご議論いただけたらと思います。

【宮田座長】  ありがとうございます。衛先生,どうぞ。

【衛委員】  究極はやっぱり専門委員会による審査の仕方と,それからそれをさらにきちんとチェックして次につなげていくという体制が全くできていないんですよね。専門委員会の中での,選ぶほうに対する不信もあるだろうし,同時に僕の立場から言うと,選ばれている芸術団体に対する不信というのは,極めて強くあります。そのお金の使われ方に対して。両方あるんだと思うんですよ,不信といったときに,それは。そこが一番のきっと解消の仕方,つまり一番変えなければいけないところじゃないかなという気がするんですね。
 だから審査員というのは,審査委員会はあってもいいんですけれども,その審査で上に上げていくときに,それを結果リサーチする多くの若い,先ほど先生がおっしゃったのは現場を知っている人間たちが,きちんとチェックをして,プログラムディレクター(PD)によってアドバイスをまとめて返していくという作業が行われれば,つまりまさに投資ということになっていくんじゃないかと感じるので。第3次基本方針から言えば,そういうことを要求しているんじゃないかと思うんですよね。バッとばらまいて,下で口あけて待っていて,そこにまんじゅうが入ってくるようなことじゃなくて,まさに投資であるということを,機能として求めているんじゃないかなと思うんですけどね。

【宮田座長】  なるほど。はい,片山先生どうぞ。

【片山(泰)委員】  先ほど高萩委員のご発言に関連して一言。今話題になっていました,社会的必要性にもとづく投資にというところですが,例えがいいか悪いかわかりませんけれど,農業は弱者だから補助をするという考え方から,農業は国民にとって重要な食料を供給する重要な産業だからそこに投資するというふうに変わるのだと思います。つまり,芸術団体は弱者だから補助するというのではないということです。つまり,助成の受益者は芸術団体なのではなくて,芸術団体に投資することによって,そこから生み出される何かが国民にいろいろな形でリターンをもたらすのだということです。それは必ずしも金銭的なものに限らないと思いますけれども,こういう形でのリターンの評価をするというのが答申の評価なんですよね。だからそこを申請するほうも,自分たちが弱者で,生活保護や農業補助の申請をするのではないのだと。この活動ををやることによって,国民をこういう形で幸せにするのだということを,やはりときちんと書くということが必要です。
 たまたま私のところの院生が,台湾と日本の助成制度の比較研究をやっているのですが,助成金の申請書類における成果を書く欄の大きさが,全然違うのです。日本の場合は数行書くくらいしか欄がありません。私が研究していたアメリカなどでも,どういう成果が社会にもたらされるか,それをどう自己評価するかというところまでを求めているところがありました。やはりその辺が日本の場合はあいまいなままだと思います。受け取る芸術団体が,補助金の受益者であるということがまかり通ってしまっているようなところがあるように思います。そこを改めようというのが,今回の3次方針の大きな転換なのだろうと思います。だからそれに沿った制度設計をしていくということで,議論していくことが必要ではないかと私自身はとらえています。

【衛委員】  今の片山委員のお話のとおりだと思うんですね。そういう意味で言うと,90年,これできたときと現在とどう変わっているかというと,やっぱり公開性であるとか,あるいは投資としてのしっかりした評価がなきゃいかん,リターンがなきゃいかんということの時代になってきていると思うんです。

【片山(泰)委員】  そうですね。

【衛委員】  そのディスクロージャーすることを求められている,でも,アーティストの側はアーティストは自分がつくりたいものをつくりたいだけなんですよ。つまり社会的にどういうインパクトがあるのかどうかということに関しては,アーツマネジャーがやるべきことだと思いますが,実はアーツマネジャーが育っていないんですよ。だから直すべきは実は団体の体質ではないかと思います。アーツマネジメント言われてから20年たつんだけど,全く定着していないです。そこも変えるようなインセンティブをどこか仕組みの中に入れていかないとだめじゃないかと思うんです。

【宮田座長】  根木先生が芸大においでになるころには,随分ご苦労なさったと思いますが,アートマネジメントの育成ということについてはいかがでしょうか。

【根木オブザーバー】  一応大学は大学なりに努力しています。芸大でもそうだったのですが,今の昭和音大では「企画制作」にポイントを置いて,それができる人材を育てる,つまりそのためのスキルを培うことを主眼にしてやっています。この点,我々音楽大学は,一般大学とは違う形で養成を行っていると一応自負しておりますが,遺憾ながら出来てからまだ20年も経っていないので,これから彼らがどのように成長していくかを見守っているという状況です。劇場などもう少し雇用の枠を広げて欲しいのですが,指定管理者制度が導入され採用が抑制されるという状況が各ホールにあり,なかなかそちらに進出ができない,したがって,今までの勉強の成果を生かし切れないというのが現状です。

【宮田座長】  そうですね。片山正夫先生,どうぞ。

【片山(正)委員】  ちょっと本件については日本芸術文化振興会で行っていた会議のトラウマがあるので一言よろしいでしょうか。この委員会は,皆さん大変いい意見をおっしゃっていると思います。ただ,もう既にこれで2回目が終わろうとしているのではないかということに気がつくわけですが,最終的にどう終わるかということが問題ですよね。つまり,どこまで議論する。例えば何年後に,これは絶対に譲れない,5年後にはこうなっていなきゃいけないという話なのか,まず何を変えたいのかというところから,原理的な話をしていくのか。制度はそれに追従すると思うんですが,少し検討する範囲を明確にしたらどうかと思うんです。次回もこういう感じで話をしていると,またいい意見がたくさん出るだけで終わってしまうと思います。少しちょっと,どこに着地しようかというあたりを少し議論頂けませんでしょうか。

【宮田座長】  いろいろ新しくつくらざるを得ない状態ですので,いろいろなふうにご意見いただくほうがいいかなとちょっと思ったんですけれども,そろそろ締めていかなければいけません。

【山﨑芸術文化課長】  どこまで議論するのかという片山正夫委員のお話だったんですが,今年度まだ試行を着手したばかりですので,今年度の検証というのは来年度に入らないとできないということになったと思うんです。ですので,今年度の検証を踏まえた上で将来のあるべき姿という結論を出していくということになろうかと思います。
 このワーキングは,それに先んじて,各委員のブレインストーミング的に,将来の在り方を議論していただくという位置づけだったと思いますので,ここで何か早急に結論を得るということではなくて,結論を得るまでに並行して議論していこうということで,このワーキングをお願いしておりますので,よろしくお願いします。

【宮田座長】  そういうことですので。

【片山(正)委員】  何か,報告書のようなものを,公開するようなことはされるんでしょうか。

【大川芸術文化課課長補佐】  今,課長からもご説明させていただきましたように,ここでさまざまなご議論をいただいて,今後フォローアップを踏まえながら,精緻なものにしていくということになると思います。どういう意見があったかということについては整理をさせていただいて,このワーキンググループのまとめのようなものを作成したいと考えております。

【宮田座長】  それは出さないとだめですね。それを出したことによって,また次の人たちに話が構築されていって,ステップアップしていきますので,ちょっと大変かもしれませんがつくってください。

【大川芸術文化課課長補佐】 いただいたご意見については整理させていただきたいと思います。

【宮田座長】  はい,どうぞ。

【高萩委員】  24年度予算がもう提案されていますので,24年度予算に関して,これにかかわるところについてはワーキンググループとしては,はっきり意見を押し出したほうがいいと思います。

【宮田座長】  そのとおりです。

【高萩委員】  24年度予算に関わる部分については,出来るだけ早く話をして,それとやっぱり長期的なことについても話をしたいと思います。今回,芸術文化振興会を変革しようという話になっていると思うのですが,日本にとって,国のお金と民間のお金が入った機関として,芸術文化振興会は,かなり理想的だと思うんですね。今の状態とはまた別なんですけど,これはこう変えたらこうなるんじゃないのというくらいの,すごく理想的な在り方について,できれば幾つか提案が出来ればよいと思います。

【宮田座長】  いいですね。どうぞ。

【湯浅委員】  おそらく,整理していただいたような形で,このワーキンググループについては引き続き,わかりやすく言うと今の日本芸術文化振興会のやっている仕組みに新しくPD・POが入るとどういうふうにより精度を上げていくかということで,それとは別で,もうちょっと大きな公的支援の在り方という議論がなされているというふうに理解をしているんですけれども,その中で長期的,短期的,この会議の中で何を出していくかということの中の関係で,おそらく来年度のもう予算が執行していて,すごく長期的なビジョンを出していくということはもちろんそうだと思いますが,もう一つは,じゃあ来年度の,今ずっと話が出ている評価だったりとかいうところ,もしかしてもう公募が始まっていたりとかして,既にプロセスが始まっているので,どこまでまた来年度のところで少しずつこう,改善があるのかというところがあると思うんです。アーツマネジャーの役割とか,多分今プロデュース力の低下とか,いろいろなことが非常に課題として上がっていると思うんですね。幾つか助成制度がある中で,せっかくこういった話し合いが持たれて新しい仕組みを入れようとしているのであれば,この仕組みをもって,そのアーツマネジャーが,そのアーティストが活動しやすくなる枠組みをつくれるようなことを,みんなで考えられるといいのかなと個人的には思っています。例えば,先ほどの話で,ほかの国との助成の申請書ですとか報告書を見ると,自己評価のところが非常に薄いというお話があったと思うんですが,ここの議論の中で1つ具体的な提案として,これから来年度の事業の自己評価なりPD・POがどういうふうにかかわるかというところを少しブレインストーミングでき,それが試せると,ほかの助成にもそれがまた生かせたり,今,日本芸術文化振興会がやっているのは文化庁さんの要請,助成枠幾つかあるところでも少し反映ができたりという,実験がここでできるのかなという位置づけかなと,ちょっと思っています。
 ちょうどイギリスに9月に出張に行ったときに,アーツ機関にちょっと立ち寄ったんですが,ちょうどそこにアーツカウンシルのリレーションシップマネジャーの方が来たんですね。それはつまりPD・POの方だと思うんですが,そこの議論は,今度は一緒にKPI,すなわちキープ・パフォーマンス・インジケーターを設定していくという作業のミーティングだったので,非常におもしろかったんです。というのは今,アーツカウンシル・イギリスは,この第3次基本方針に近いゴールを5つ出しています。そのゴールに基づいて助成金がデザインされて,戦略的になっています。多分,パートナーシップとかインベストメントという考え方が非常に強いので,一緒にその助成する団体のパートナーシップを組んでこのゴールを達成しましょう,でもお金は少ないのでインベストしますので,みんなで頑張りましょうというざっくりしたエリアがある。で,意識改革を今すごくしているんですね。じゃああなたの機関は5つのゴールの,多分この日本芸術文化振興会の中での「トップレベルの舞台芸術創造事業」の助成枠の流れを大きく変えるということではないと理解しているんですけど,どういうふうな波及があってという,助成を出す側として,日本芸術文化振興会の側なりアーツカウンシルといった側として,ではこの幾つ,ここまでこういったゴールを来年度は出しますと,それに基づいてあなたの団体はこうだから取り上げたんですと話していくのがPD・POの役割ではないか。助成する側も,助成を受ける側も,多分ちょっとルーチン的になっているというところもあると思うので,より明確にこのゴールとリンクさせるような形で,でもそこの中であなたのところはチャレンジング,新しいことをするにしてもその芸術を創造するというところ,についてどういう効果を期待しますよということを話していくのがPD・POの役割ではないか。
 ちょうど私がイギリスにいるときは,非常にトップレベルのメディアセンターだったんですが,「もうちょっと子どものところを非常にこれからもっと出してほしい,やっている人は,やっているけれども」と言ったときに,それを可視化する手法を持っていなかったんです。そこを助けるようなこと,「そうじゃなくてこういうふうなやり方でやったらどうか」ということをミーティングの中でサジェスチョンしていっていて,一緒にデータを集めていきましょうというような話し方だったので,そのお互いの意識を変えつつ,団体のプロデュース力がつく。もう一つ,評価の中で,単体の事業だけではなく,このトップレベルの創造事業というこの事業全体の評価があると思うんですが,来年度はこのお金を投資することによって事業として何を目指すのかということを,日本芸術文化振興会のほうで話すべきであって,その中の1つとして,じゃあかかわるアーツマネジャーが少し育成されるとか,幾つかの具体的な指標を出していくと,よりそれが,全体が1つ1本線が通るのかなという気がちょっとしました。

【宮田座長】  ありがとうございます。今の湯浅先生の話ですと,非常に前向きなとらえ方ができるし,大きな意味での意識改革ができる。それから芸術家というのは,やはりそれ1本だから芸術家として成立しているということが結構あるんですね。ですから,そういう意味では,そういうことを伝えてくれる人たちにPD・POがいろいろな意味での活躍ができるような,そんな感じになれたらすてきな関係ができるのかなという気がするんです。彼らに本当に,自分のできない,だけどこのすてきさを伝えてもらいたいみたいな関係ができるのは,とてもいいことじゃないかと思うんですけどね。
 では,太下先生よろしいですか。

【太下委員】 先ほど,特に予算との絡みでいうと来年度の仕組みをどうするのかというところが議論に上りました。今PD,POの試行をしているわけですけど,これと並行して分野の拡充をするんだということと,それに伴って人員を拡充するんだということは,ぜひこのワーキングの結論と,それを踏まえた文化審議会,文化庁の政策等々に反映させていただきたいなと思います。これが1点目の意見です。
 もう1点意見ありまして,現状試行という形になっているわけですから,この試行の評価体制づくりというものを,きちんと来年度に向けてつくっていただくことが大事だと思います。今このワーキンググループの中で非常に大きな意見も含めて,いろいろな意見が出ていますけれど,おそらくそういった意見を具体的にビルドインしていくこともその評価体制づくりの中でリアライズしていくんではないかなと思います。いかに文化審議会の中で,継続的に議論をつなげていくのかということも含めた評価体制づくりというのが非常に大きな検討課題になろうかと思います。以上です。

【宮田座長】  ありがとうございます。時間になりましたので,事務局からまとめてみていただいていいでしょうか。

【大川芸術文化課課長補佐】  失礼いたします。2回及び2回までの間にもご意見を賜りまして,次回に向けまして広範なご議論をいただきましたので,事務局で一度整理をさせていただければと思っております。それから,次回は12月14日,(水),15:00から16:00,同場所を予定をしております。以上でございます。

【高萩委員】  ちょっと1分だけよろしいですか。

【宮田座長】  はい,どうぞ。

【高萩委員】  先ほどから出ている今年度の役割みたいなことがあると思うんですけど,やっぱり文化政策部会の中のワーキンググループなので,座長にお任せしますので,文化政策部会に中間報告というか,ほんの少しでも報告していただくと,文化政策部会としての意見になるかなと思います。まとめについてはぜひお任せして,やっていただければと思います。いかがでしょうか。

【大川芸術文化課課長補佐】  高萩委員ご指摘の点につきましては,同日16:00から文化政策部会の開催を予定しております。今までいただきましたご意見をまとめさせていただいたものを,同日ご報告させていただければと考えております。よろしくお願いいたします。

【宮田座長】  ありがとうございます。はい,吉本委員,どうぞ。

【吉本委員】  そうすると,今度の会議までにまとめをつくられると思うので,それをなるべく早めに委員に配付いただいて,そこで事前に意見を集めて,最後のまとめを,もう1回議論した上で,政策部会に報告という流れにぜひしていただきたいと思います。

【宮田座長】  どうぞ。

【大川芸術文化課課長補佐】  吉本委員ご指摘のとおり,皆さんのご意見,しっかり調整させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

【宮田座長】  ありがとうございます。議論のための議論ではなくて,非常に切実な部分も含めて,現場のご意見も含め,大所高所のお話もいただきました。
 それから,関オブザーバー,あまりご発言がなかったですけれども,ぜひいろいろなお話をしていただけたらと思っています。
 ご協力ありがとうございました。これにて第2回,終わりにいたします。ありがとうございました。

── 了 ──

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