意見のまとめ 文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方に関する ワーキンググループ

平成23年12月14日

1.はじめに

 「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次基本方針)」(平成23年2月8日閣議決定)(以下「第3次基本方針」という。)を踏まえ,独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」という。)における文化芸術への助成の仕組みについては,より有効なPDCAサイクルを構築するため,審査,事後評価等の機能を強化し,平成23年度からその試行に着手したところである。

 本試行においては,振興会が行う事業のうち,「トップレベルの舞台芸術創造事業」の音楽及び舞踊の分野を対象とし,専門家であるプログラムディレクター(以下「PD」という。)1名,プログラムオフィサー(以下「PO」という。)3名を各分野に非常勤として配置している。

 本ワーキンググループでは,この試行の状況を見据えつつ,文化芸術への助成に係る新たな仕組み(以下「新たな仕組み」という。)の本格的な導入に向けた今後の在り方について検討を行った。

 本まとめにおいては,本ワーキンググループで明らかになった論点を整理するとともに,論点ごとに出された主な意見をまとめた。なお,論点によっては,多様な意見があり,考え方が必ずしも一致しない場合も見られたことから,本まとめにおいて,方向性の異なる意見についても並列的に掲げることとした。

 また,本ワーキンググループでは,第3次基本方針に示された文化芸術への助成の在り方全体に関する事項についても意見が出されたところである。こうした事項については,本まとめに紹介するにとどめ,今後,文化庁における検討に委ねることとしたい。

2.本ワーキンググループにおいて出された意見

(1)総論

  1. ○ 新たな仕組みを導入するに当たり,[1]文化芸術の各分野におけるデータ収集及び分析といった調査研究機能の強化,[2]審査基準や評価結果を公表することによる審査・評価の透明性の確保等,仕組みの基盤を整備することが大切である。
  2. ○ この仕組みをより実効あるものとするためには,単に上記のような仕組みの基盤を整備するだけでなく,助成する側と助成される側との間に信頼関係を構築することが肝要である。
  3. ○ こうした信頼関係をつくるためには,[1]継続性(複数年度にわたる助成を行う中で,振興会が文化芸術の各分野を育成する視点を持つこと),[2]スピード感(変化に対応した助成等を適切なタイミングで行うこと),[3]双方向性(助成対象団体がPO等に相談できる関係を構築すること)が必要である。
  4. ○ 信頼関係を構築するに当たっては,新たな仕組みによって,振興会が文化芸術団体の状況把握に努めるとともに,文化芸術団体においても,国の助成制度の趣旨等を理解する必要がある。
  5. ○ これらの点を踏まえつつ,新たな仕組みを継続的に実践することによって,審査の信頼性を向上させ,より良い助成を行っていく必要がある。

(2)新たな仕組みの対象について

  1. ○ 平成23年度は,「トップレベルの舞台芸術創造事業」のうち音楽及び舞踊の分野において試行されているが,速やかに,演劇及び伝統芸能・大衆芸能の分野にも広げるべきである。
  2. ○ 現在の振興会の体制を踏まえつつ,「トップレベルの舞台芸術創造事業」以外の事業についても,新たな仕組みの導入の可能性を検討する必要がある。
  3. ○ 新たな仕組みを「トップレベルの舞台芸術創造事業」以外の事業に導入する場合には,「トップレベルの舞台芸術創造事業」において実績を積み重ね,その過程で得られた課題や振興会の体制を踏まえるとともに,対象となる事業の目的や対象となる文化芸術の分野の性質等を踏まえた検討が必要である。

(3)新たな仕組みの体制の整備について

[1] PD及びPOの体制の整備
  1. ○ 新たな仕組みを機能させるためには,調査研究機能を充実させることが肝要であるが,POが1分野につき3名という現在の体制では不十分であり,今後,増員する必要がある。また,文化芸術の各分野の状況に応じた適切な人員を配置する必要がある。
  2. ○ PD及びPOが十分機能するよう体制を強化する必要がある。できれば,PD及びPOが業務に専念できる環境にすることが望ましい。また,一定期間の契約をして,PD及びPOの職に就くことが,キャリアパスとなるようにする必要がある。
  3. ○ PD及びPOは,文化芸術団体の経営面についても十分に留意し,助成に係る審査及び評価に当たって適切に助言する必要がある。
  4. ○ PD及びPOが文化芸術の各分野の利益代表となってはならない。
  5. このほか,以下の意見があった。
    ・ 分野を跨ぐような文化芸術活動も今後増加することが考えられるので,こうした活動についても審査及び評価ができるよう,分野横断的に俯瞰するPDを配置したり,関係する分野のPDによる合同の検討会を設けたりするなどの工夫が必要である。
[2] 調査員の拡充
  1. ○ 助成する側と助成される側との間に信頼関係を構築するためには,助成する側が文化芸術活動の現場を十分に把握し,助成される側と意見交換をする必要がある。このため,POの増員に併せて,これらの業務の一部を行う調査員も拡充する必要がある。
  2. このほか,以下の意見があった。
    ・ 調査員は,演出家,俳優,スタッフ,制作者等の現場を熟知している者で構成すべきである。
    ・ 併せて,文化芸術への助成金の不正受給を防止する観点から,調査員には,文化芸術活動の経費に精通した者も含まれるべきである。
    ・ 調査員は,文化芸術団体と意見交換を行う必要があり,専門的知識に加え,調査手法に係る能力が求められる。このため,調査員をどのように養成するかということも視野に入れるべきである。
    ・ 調査員を1~2週間程度,文化芸術活動の現場に派遣することで,助成の効果を十分に検証するといった事後評価に係る体制を整備すべきである。
[3] 若手人材の登用等
  1. 若手人材の登用等について,以下の意見があった。
    ・ POや調査員には若手の人材を積極的に登用し,人材育成を図るべきである。また,文化芸術活動の現場にいる若手を登用することは,助成する側と助成される側との相互理解を進める効果が期待される。
    ・ 若手の人材を登用することについて,育成という観点だけでなく,時間的及び経済的に余裕のない若手の人材をどのように確保するかといった観点を含め,総合的に検討する必要がある。
[4] 調査研究機能の強化
  1. ○ 助成事業における助成の基本的方向性を示すため,振興会の調査研究機能を強化することが必要である。

(4)新たな仕組みにおける事後評価について

 新たな仕組みにおける事後評価については,以下に示した点を踏まえ,振興会は個別の助成対象活動に係る評価を行うことが重要である。また,本評価は,文化庁において実施する事業評価と相互に関連するものであることに留意する必要がある。

 このため,振興会において行われている新たな仕組みの試行を成果あるものとするためにも,現在,文化庁において進められている第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の評価手法に関する検討1が,今後,文化庁において更に進められることが求められる。

  1. ○ 振興会の評価においては,助成を行うことによって,文化芸術の各分野がどのように発展したか,またそれによってどれだけの社会的波及効果があったかについても把握する必要がある。
  2. ○ 助成金の配分と助成対象活動の評価に当たっては,助成対象団体の成長を促す視点も大切である。このため,PD及びPOは,助成対象活動に対してどういう効果を期待するか,助成対象団体と対話をしていくことが重要である。
  3. ○ PD,PO及び調査員が文化芸術活動の現場に赴くことは重要であるが,管理的な受け止めにならないよう,その方法や期間については慎重に配慮する必要がある。

1 第3次基本方針では,「文化審議会において,重点戦略に基づく施策の進捗状況を年度ごとに点検することとし,併せて有効な評価手法の確立に努める」こととされている。

(5)助成対象とする団体について

  1.  助成対象とする団体の組織形態については,別途,文化庁において,文化芸術への助成の在り方全体を議論する中で検討されるべき事項であるが,本ワーキンググループにおいても,以下の意見があった。
    ・ 文化芸術活動に助成を行うに当たっては,公益を実現できる団体や持続的に成長できる団体(公益法人やNPO法人等)に限定して助成するということが考えられる。これらの団体に対象を限定する場合,当該要件を満たす団体になるよう誘導するための方策や何らかの移行措置を講ずる必要がある。
    ・ 文化芸術の分野によっては,上記のような団体に限定して助成することが馴染まない分野も想定される。このような場合には,中間支援組織を設け,これを通じて助成することや,個人を対象としたフェローシップ事業で対応すること等が考えられる。
    ・ 我が国の文化政策は,文化の「頂点の伸長」と「裾野の拡大」を両輪としており,「裾野の拡大」については,現在,振興会において,「芸術文化振興基金事業」を行っている。「芸術文化振興基金事業」においては,アマチュア団体も対象に支援しており,現段階で公益法人やNPO法人等のみに助成対象を限定すべきではない。
    ・ 助成対象団体を限定するのではなく,事業報告書や損益計算書,監査報告書等をウェブ上で公開することを義務付けること等の措置を講じ,助成対象団体の透明性を確保した上で,助成事業の対象とする方法も考えられる。
    ・ 文化庁や振興会が行う文化芸術への助成については,事業費に対する補助を行うものであり,団体の経常費を補助するものではないことを踏まえると,団体の組織形態によって,助成対象とするか否かを検討するのは適切ではない。

(6)文化庁と振興会の権能を踏まえた新たな仕組みの在り方について

 我が国の文化政策及び施策については,法令に基づき,文化庁において企画・立案している。また,これらを実現するため,各種事業を文化庁及び振興会等において分担しながら実施している。新たな仕組みの本格的な導入に向けた検討に当たっては,こうした法令に基づく文化庁及び振興会の権能を踏まえた整理が必要である。

[1] 総論
  1. ○  諸外国においては,それぞれの国の特色に応じた考え方や組織体制の下で助成が行われている。今後,様々な国の調査を十分に行い,こうした状況を把握した上で,我が国に適した仕組みを検討すべきである。
[2] 事業を発展させていくための文化庁と振興会の連携
  1. ○ 振興会において,国の文化政策・施策やそれに基づく事業の目標に沿って,助成対象活動に係る評価の結果やその分析等を通じて明らかになった成果や課題を精査し,その結果を文化庁に報告したり,今後の改善策や効果的な助成の在り方を提案したりすることで,文化庁が行う事業の企画・立案に生かしていくことが重要である。
  2. このほか,以下の意見があった。
    ・ 様々な取組を試行し,成果のあるものを本格的に導入することが重要である。振興会において,パイロット的な取組を積極的に実施し,その成果を文化庁に報告することで,文化庁における施策や事業の企画・立案に生かしていくことが重要である。
    ・ 振興会がパイロット的な取組を実施し,先導するような役割を持つべきという点については,文化庁と振興会の権能を踏まえた議論が必要であり,他国の取組をそのまま導入するのは難しい。
    ・ パイロット的な取組を検討する場合には,これまでの実績や経験等を基に,文化庁と振興会とで調整し,双方で創り上げることが重要である。
    ・ パイロット的な取組を実施する場合には,前衛的なものだけでなく,学術における基礎研究に相当するような地道な取組にも目を向け,バランスのとれた助成に配慮することが重要である。

(7)地域ごとの文化芸術活動へのきめ細かい支援について

  1.  地域ごとの文化芸術活動については,振興会において,その状況が必ずしも十分に把握されていないとの指摘がある中,今後どのような対応が考えられるかについて,以下の意見があった。
    ・ 振興会に新たに地域事務所を設けることは,国の行政改革の動向に照らして難しい状況にある。こうした状況下における対応としては,例えば,調査員を1週間程度,地域に派遣し,情報を集める方法が考えられる。
    ・ 地域ごとの文化芸術活動の状況を把握するため,まず,情報ネットワークを構築すべきである。
    ・ 地方公共団体が設置するアーツカウンシルが,国からの助成金を再配分するような方法が考えられる。
    ・ 米国の国立芸術基金(NEA)が1960年代末に州政府の芸術支援部局(State Arts Agency)の設立を促すために行ったような包括補助金(Block Grant)の交付によって,地域レベルの支援機関の設立を促すことが考えられる。
    ・ 「トップレベルの舞台芸術創造事業」と「芸術文化振興基金事業」とでは,助成目的や対象団体等の点において,地域との関わりには違いがあり,これらの違いを踏まえた検討が必要である。

3.終わりに

 上記のとおり,新たな仕組みを有効に機能させるためには,PD,PO及び調査員の体制の整備や調査研究機能の強化といった振興会の環境整備を進めることが必要である。

 また,これらの取組を進めるとともに,文化庁において,文化芸術への助成の在り方全体に関する考え方についての検討や,第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の評価手法の確立に向けた検討が求められる。

 このため,今後,速やかに,文化庁において,これらに関する検討がなされることを期待する。さらに,新たな仕組みの試行について,平成24年度以降実施されるフォローアップが的確に行われるよう,これに必要な体制を文化庁及び振興会において十分検討することを期待する。

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