文化審議会第10期文化政策部会(第2回)議事録

1.出 席 者

(委員)

青柳委員,太下委員,岡本委員,片山委員,加藤委員,中村委員,平田委員,宮田委員,山村委員,湯浅委員,渡辺委員

(事務局)

近藤文化庁長官,河村文化庁次長,芝田長官官房審議官,大木文化部長,石野文化財部長,大和文化財鑑査官,他

2.議事内容

【宮田部会長】  皆様大変お暑い中お集まりいただきまして,まことにありがとうございます。それでは,第2回の会を開かせていただきます。
 前回,第1回目のときにちょっとご欠席でございました加藤委員と湯浅委員,本日ご出席でございます。恐縮ですが,一言ずつお願いできませんでしょうか。加藤委員から。

【加藤委員】  加藤でございます。よろしくお願いいたします。

【湯浅委員】  湯浅です。どうぞよろしくお願いいたします。前期はワーキンググループに参加させていただきました。その際にも申し上げましたが,私は英国の文化交流機関のブリティッシュ・カウンシルで働いておりますが,英国の文化政策やアーツカウンシルをここでプロモーションするために参加させていただいているということではなく,日本型の文化助成のあり方をご一緒に考えさせていただきたいと思い参加させていただきます。よろしくお願いいたします。

【宮田部会長】  はい。ご期待申しております。ありがとうございました。
 それでは,本日の議題でございますが,議題の1が東日本大震災の創造的復興について,議題2が文化政策の評価手法の確立に向けた取り組み,議題の3が最近の法律改正等の動きとございます。それぞれご報告をいただき,そして意見交換を行うという手順でやっていきたいと思っておりますので,ご協力のほどお願い申し上げます。1回目はわりに時間が足りなくになってしまいましたので,なるべく先生方から貴重なご意見をたくさんいただきたいと思っておりますので,よろしくお願い申し上げます。
 本日はこの3.11の話題もございますので,文化財関係の議論にも及ぶかと思います。そのため,本日は分科会の鈴木分科会長にもおいでいただいております。鈴木先生,ありがとうございます。オブザーバーとしてご出席いただいておりますので,よろしくどうぞお願い申し上げます。
 それでは,進めさせていただきます。議題の1に入りますが,前回の部会ではそれぞれのお立場から,皆様から東日本大震災の創造的復興に向けて,文化芸術が担うべき役割ということでご意見を頂戴しておりました。このテーマは非常に重要な部分でもありますし,昨日今日という部分ではございませんで,ずっと続けてこれは構築させていかなければと,そんなふうに思っております。その辺のところを皆さんのほうからもまとめていろいろ議論をつくっていってもらいたいと,かように思っております。よろしくお願い申し上げます。
 それに関しまして,事務局から皆様へ以前情報提供してくださっているということがもしございましたら,お話いただけますか

【内田調整官】  皆様方にご連絡申し上げておりますけれども,2回ほど東日本大震災関係の集中ヒアリングを行っておりまして,そういった内容につきまして,今日ご報告をいただきたいというふうに思っております。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。では,今内田さんからのお話あったように,集中ヒアリングというのを2回行っていただいております。このメンバーの中でそのヒアリングに大変お力をいただきました太下委員,岡本委員,熊倉委員,相馬委員にご出席いただいておりますので,その辺の部分も共有しながら意見交換をしていきたいと,かように思っております。第1回目の集中ヒアリングでございますが,その模様を恐縮ですが,岡本先生,ご報告いただけますでしょうか。

【岡本委員】  岡本です。それでは第1回目のヒアリング,参加させていただきましたので,その内容について,簡単にではございますけれども,ご報告をさせていただきます。皆さんが非常に多岐にわたって重い,そして重要なことをおっしゃいましたので,できるだけそれをその言葉とともに思いを伝えるということをできればというふうに思っております。
 まず1人目のヒアリングが,赤坂憲雄先生でいらっしゃいました。福島県の県立博物館長であると同時に,遠野文化研究所の所長もしていらっしゃいます。遠野文化研究所の所長としては,被災後も書籍を集めて整理分類して,書架に配架直前のところまでをするといった作業をしていらっしゃいますが,主にお話は福島県立博物館長として,博物館をいかに芸術の創造拠点にするかというところでお話をいただきました。
 この問題関心はこの被災とかかわらず,赤坂先生がずっと考えていらっしゃったことで,要するに従来は,皆様にヒアリングの主な意見というところを配ってありますので,基本的にはそれに即して申し上げますが,これまでの博物館というのは役割が調査,あるいは収集,展示の場であったけれども,もう少し地域文化芸術の創造的な拠点にならねばならないのじゃないか,そういう役割の変化が求められているのではないかという問題意識をずっと持っていらっしゃいました。東北の漆ですね。具体的には漆の伝統というものがあるんですけれども,それが核になっている,東北のアイデンティティーの核になっているので,それをもとに漆の伝統を受け継ぐ職人さん,そして現代アートの方々をコラボさせることによって新しい価値を生んでいくというような試みをされていらっしゃいます。
 このような取り組み自体は非常に高い評価を受けていらっしゃるんですけれども,2点目ですが,ただ,やはり問題は,博物館の中で学芸員の方を含めて内部でかなり抵抗が強いということです。このような,いわゆる地域文化のハブとなるような役割というのは自分たちの役割ではないというふうに考えられる方もいらっしゃるので,それで彼らを巻き込んでいくというのがなかなかに難しいんだということをおっしゃっておられました。震災に関連して言いますと,「東北へのエール」というふうに題して,町中をギャラリーにして100人近い作家を動員したりして,博物館の中ということではなく,町全体をギャラリーにするような取り組みもされまして,10万人近い来訪者が来られたそうです。こういった取り組みの中で被災地の負のイメージを劇的にひっくり返していく,良くしていく仕掛けとして,アートというものは非常に強い決定的な役割を果たすということを強く再認識をされまして,現在のところ,飯館村に写真ミュージアムをつくろうというような取り組みをされていらっしゃるそうです。
 それから,今回の震災にかかわって,東京都による文化支援,アートサポート東北・東京という取り組みがあって,その中で非常に役に立ったといいますか,実質的に助かったのは,東京から派遣されてきたサポートの方々が文化振興の活動に一緒に携わってくださった,単に経済的な,あるいは仕組みのサポートというだけではなく,一緒に動いてくださったということで,それが非常に力になったということもおっしゃっておられました。そして,特に今回の被災を契機に,博物館というものは地域の復興の核にならなければならないということを改めておっしゃっておられたわけです。
 赤坂先生はもともと「東北学」というものを提唱されまして,民俗学者でもいらっしゃるんですけれども,民俗芸能がやはり今回,この被災にあっても非常に力強い形で立ち上がってくるということについて,やはりその力を再認識したということもおっしゃっておられました。その場合に,やはりコミュニティ復活にとって,お墓であるとか,神社であるとか,そういったものの再興というものは,おそらく非常に重要になってくるだろう,これからと。ただし,現在の文化の扱い方においては,特定の宗教に対する支援というものはやはり控えるという姿勢が基本的にあるので,今回のことを考えたときに,私たちの国が宗教というものをどうとらえるのかということを真正面からやはり考えていく必要があるんじゃないかということを最後におっしゃっておられまして,非常に重たい言葉であったかなというふうに感じております。
 赤坂先生の報告については,まず以上でございます。
 続きまして,神山梓さんのヒアリングの報告をさせていただきます。宮城県女川町で,彼女は東北大学の大学院生として研究のために女川町に入っていたところ被災をしてしまって,その後,避難所におられたのですけれども,助けられた後で大学生としての生活にそのまま平穏に戻っていくということになかなか心がなじまなかったということで,どこかの小学校に移っていた女川町の町役場の仮役場に履歴書を持って飛び込んでいって,復興推進課員として即日採用されて復興に当たったという方でいらっしゃいます。
 ここに書いてあるのは女川町の獅子振りという,この文化の力についての報告が中心で報告に上がっているんですが,やはり全く素人の彼女が,この復興に当たって体験されたことというのは,非常に伝えておく必要があるかなと思いますので,少し申しますと,やはり復興というものがなかなか進まない,住民参加をしようとすればするほど合意形成にも時間がかかってしまう,そして復興にかかわる業務においては,専門的であったり,あるいは煩雑であったりということで,書類の手続等が非常に時間がかかってしまう,人手が足りない中でそのような業務に時間をとられ,力をとられという中で,自分たちがやっていることの情報公開であるとか,住民の方との情報共有ができないという状況にかなり追い込まれていった。力のある人のところに業務が集中をして,まさにつぶれてしまいそうになると。しかし,時間がないために情報公開,情報共有ができていないと,住民の方からは行政は何をしているんだと。何もしてくれないというふうに言われてしまう。この辺のジレンマというものが非常につらくて,このあたりはやはり県ですか,国にもなかなか伝わっていかないところなので,非常に苦しいところであったという,この声は非常に重要だと思いました。
 そして文化にかかわるところでいいますと,女川町にはそれぞれの地区に獅子振りという獅子舞の一種があるそうですけれども,その中で竹浦集落というところは,被災後一番早く,その獅子振りという伝統文化,伝統芸能を復旧させて,集落の人たちが集まってそれを演じたりされたということで,集落の人々が獅子振りを通じて励まし合い,団結できたことが自立的な復興の取り組みにつながったと思うと。特に,この竹浦集落というのは,高台移転についても最も早く合意形成ができたそうなんですけれども,彼女が見る限りにおいては,やはり獅子振りを通じて,意思が非常に早く統一されていたというところがあっただろうと。これは文化の力によるものではないかというふうにおっしゃっておられました。
 神山さんは今回の震災復興ということを,豊かさとは何だろうか,幸福とは何だろうか,それから生きるってどういうことだろうかと,まさに若い視点からそのような形で自分なりに問いかけられて,そして3番目のところに書いてあります,ほんとうの豊かさというのは,根本は心から発せられるものであって,励まし合いの心のような心の宝が豊かな地域をつくると感じましたということで,ほんとうの幸せとは,人の不幸の上には自分の幸せは築けないということ,自分1人が幸せになってもほんとうの幸せではないということが,今回東北の方々が感じられた心の宝ではないかと。そして生きるというのは希望であって,絶望のどん底にあっても希望を生み出すことができるというあたりを,この心の可能性を再認識することが重要ですと。ここについてはなかなか彼女の説得力があり,そして切実な声というのを再現してお伝えするというのは難しいんですけれども,彼女が言っていた豊かさとか,幸福とか,生きるというところをもう少し芸能文化という取り組みから言いますと,やはり今回,獅子振りという伝統芸能を行うことそのもので,住民の方々が生きていたいという思いを確認し,それを表現していたというふうにおっしゃっていました。そして,獅子振りを通じて一体感であるとか,互いを元気づけるという力の源が,まさに獅子振りになっていたということ,それからこの伝統芸能をともに行うことで,励まし合うということを通じて,やはり人の不幸の上には自分の幸福というものは成り立たないという,そういう心の宝の発見に導かれたのだろうと。その意味では,まさに地域の伝統というものが,伝統に根ざしてといいますか,現地に根ざした文化・伝統というものに即して,人々の心に沿って復興するということがいかに力強いかということを神山さんなりの言葉でお話になっていらっしゃったというふうに感じております。
 以上が神山さんのヒアリングです。
 そして,次に3人目の方ですが,亀井様ですね。東京文化財研究所の所長様として,被災文化財の救援委員会で,いわゆる文化財レスキュー事業というのにかかわっていらっしゃいました。この文化財のレスキュー事業,いわゆる文化財を救い出していくということなんですけれども,おっしゃっておられましたのは,いわゆる何か指定されたり,重要であると言われている文化財だけではなく,今回のような大規模災害の場合に地域にとってのさまざまな意味での宝,土地の重要な方が書いたものであるとか,その雑誌であるとか,そういったものもやはり救い出していかないといけないということで,これらについては,やはり地域の宝,記憶に結びつくようなものなので,レスキュー事業に当たる方々が信頼される方でないと,なかなか安心してレスキュー事業に当たっていただけないということもありますので,レスキュー活動を行うチームが安心できる組織であること,つまり現地の方々に信頼される組織であることということを示す必要があって,市町村の教育委員会とつながった,地元の方と関係のある方の存在がなければ,なかなかこの事業というものは成り立たなかったということをおっしゃっておられました。
 また,阪神・淡路大震災のときにも,一たん保管された文化財で,文化財を救うことはできても,そのもともとの所有者の方がそれを改めて取り戻すという状態にまで復興される,生活が立て直るまでに時間がかかりますので,阪神・淡路大震災のときも,やはり文化財が救い出されて,それをもとの状態に戻し,そしてもとの持ち主にしっかり戻すというところまではかなり時間がかかったわけですけれども,今回の場合もやはり同じように,そういったものを一時的に受け入れたり,あるいは今回の場合は津波を受けたりしていますので,そのまま置いておくと劣化をしてしまうという意味では,保存の措置をとった上で置いておくといった場所の確保,というものには非常に苦労をしたということをおっしゃっておられました。
 ここに書いてあるみたいに,一時的に預かって,そして保存の措置をしたり,置いておくということ,そして持ち主が立ち直ったらそれを順次返していくといったことには非常に時間がかかりますので,例えば長期的にこういったレスキュー事業というのは実施すべきであるということと同時に,事業経費も数年で切られるということになったのでは,その役目を果たせないということがあるので,それが数年で切られるということがないように願いたいということでございました。それから,今回の取り組みを通して,今後震災などが起こったときに今回の知見を生かしながら,すぐに動けるような文化財レスキューの組織づくりであるとか,そのためのマニュアルのようなものをこれからまとめていきたいというふうにおっしゃっておられました。
 それから,このまとめで最後のところになっているんですけれども,今回は文化財レスキュー事業では,各地の大学,埋蔵文化財センター等の協力を得て文化財の修復・保存を行ってこられました。少なくとも,文化財を修復・保存できる能力を持った施設が必要,特に先ほどの津波のようなケースだと,そのままにしておきますと劣化しますので,そのあたりの能力が必要なので,県の博物館,美術館が地域の中心施設としての機能を果たすとともに,危機管理のための施設としても位置づけていく必要があると思うとおっしゃっていました。それからまた,一時的な保管場所としては,例えば廃校といったものを利用するといった可能性も探っていく必要があるのではないかということも,たしかおっしゃっておられたと思います。
 以上が亀井様のお話でございました。
 それから,続きまして島田誠さまですね。現在,神戸文化支援基金というものも立ち上げられて,もともと阪神・淡路大震災のときに「アートエイド神戸」の実行委員会の組織をされまして,今回東北の震災でも「アーツエイド東北」というものを設立されて,芸術家の支援に当たっておられるという方でいらっしゃいます。
 島田さんのお話は,ポイントとしてはここに書いてありますような寄附の制度ですね。市民が,これは神戸のときに実際に文化というものはどうしても後回しになるので,市民自身が,自分の力でアートを支えていくという仕組みをつくって,非常に小口の支援であったりするんですけれども,その仕組みをつくってこられた。そのご経験をもとにお話になられました。その経験から,寄附の制度を活用すれば,市民が芸術文化の受け手,鑑賞者というところから一歩踏み出して,みずからも支援者として文化を支えていく主体となり得るんだということと,実感として,支援したい,あるいはしてみたいと思っている層はかなり潜在的にいらっしゃるんじゃないかということを強くおっしゃっておられました。
 文化芸術を支えたいという方には参画の呼びかけを行うことによって,助成財団は増えていくのではないかと。このあたりはなかなかにわかっていてもうまくいかないという部分ではあるかと思うんですが,例えば島田さんの場合には,助成の仕組みというのでも,取り組みの中でさまざまな支援の仕方,その1つが2点目に書いてあるんですけれども,例えば全額何かに寄附をするというようなかかわり方もあれば,一部を寄附するというようなやり方もありますが,このぼたんの会というのは,例えば寄附つきのチケットなんかを販売しまして,その販売数に応じて,その買った方が寄附先を選ぶことができるというような形で,みずからがどこを支援するんだという主体的な意思形成ができるというようなシステムのようです。この辺ちょっとウェブでも見せていただいたんですが,これはここに書いてありますように,お金のシステムというよりは市民の志が文化を支えているという,それぞれの人々のプライドにつながっていくので,こういった気持ちをつなげていくという仕組みをつくることで,地域に密着した有効な装置として,この寄附の制度が動いていくということで,かなり実績も上げていらっしゃいますし,このような形で今回アーツエイド東北においてもさまざまな取り組みをされていらっしゃるということでございました。これが島田様からのご報告です。
 それから八巻様ですね。続きましてせんだい演劇工房10-BOXの工房長をされていらっしゃいます。このご活動といいますか,今回さまざまなアートであるとか,演劇であるとか,芸術関係の支援というものが東北にもたらされたときに,まずご紹介されていたのは,いわゆる芸術を鑑賞するとか,体験するということではなくて,おじいちゃんおばあちゃんが何かパフォーマンスを見て,素直に上手だねえというような声を上げるという,そこでやはり,何とおっしゃっていますか,やっぱり日々の生活の中で,そういった何か心が潤うような状態というものがつくり出されていく,それが非常に重要であって,したがって,芸術がとかいうことではなくて,生活の場と,それからそのような芸術というものが出会うような場がどのように設定できるか,つくり上げることができるかというのが重要な点ではないかというふうにおっしゃっておられました。
 このまとめの2点目のところに,文化と芸術はつながっているかもしれないが,文化と芸術は違うものだと考える必要がある。つまり,非常に乱暴に言いますと,生活というものと,それから芸術というものが出会うようなところ,そこがうまく出会いの場としてつくり上げられるような,そういうところを政策として取り組めなければ,なかなかうまくいかないのではないでしょうかということだったと思います。
 それでこのような,いわゆる生活と,それから芸術というものをうまくつなげていくためには,1つには大きな機関ということではなくて,小劇場であるとか,実験劇場のような小さな劇場というものが施設としてあることが必要ではないか。また,その施設だけではなくて,やはり出会いの場をつくっていく,その人が育っていかないといけないので,国立の育成機関というものが東北につくられれば,大変いいのではないかということをおっしゃっておられました。
  そして最後になりますが,田澤様と関様ですね。日本芸能実演家団体協議会から,震災復興支援のさまざまなプロジェクトを立ち上げまして,現地での芸術活動の実演等をされておられたんですけれども,また同時に文化芸術による復興推進コンソーシアムの調査であるとか,シンポジウムなども行っておられました。
 まず,おっしゃっておられたのは,かなりたくさんの数の支援のプログラムをなさっていたんですけれども,ただで,無料の公演などが非常に多いんだが,やはりそれでは復興というものがもとの生活に戻っていただくことととらえるならば,ただでいつまでも公演を聞いたり見たりするというのではもとの生活に戻れないですし,実際その公演が無料であるということで,逆に何か抵抗があるというようなこともあったということでした。それから,たくさんのものが押しかけるということになったときに,実際被災者の方はせっかく来てくださったんだからといって来られるんですけれども,実は休んでいたいというか,別に見に行くのしんどいようなところもあって,そういう意味ではかなり押しつけというところがあったんじゃないでしょうかということです。
 ですから,被災地の実情や要望に合わせた復興支援というものをとにかくニーズに合わせてやる必要があるんだということを強く強く,力説をされていらっしゃいました。そのためには,やはり現地のニーズが何なのかということをしっかりと把握できなければマッチングができないので,もう少し地元が一致団結してさまざまな実行委員会をつくって,芸術団体,アーチストがそれを通じて取り組みを行うといったことで,ニーズに応じた取り組みができるのではないでしょうかということです。
 それから,3番目に書いてあります,現地の方々にもコーディネート役を担っていただいて,それを国側が支援するということ,そしてコーディネートに応じて芸術団体が現地に入っていくといった役割分担を構築できるようなコンソーシアムなどの取り組みが必要ではないかと。こういう仕組みはやはりつくっていく必要があるのではないでしょうかということです。
 最後の4点目については下線は引いてないんですけれども,かなり強調しておられたのが,やはりさまざまな予算の支援があっても,申請書類というものが極めて膨大であって,緊急事態であるにもかかわらず,やはり精算払いで立てかえが原則と,そんなことをできる余裕のある自治体がないということです。そこまで煩雑で大変だったらもう要らないと言いたいほど大変だったということで,少なくともこの使い方について,もう少し使い勝手のいいものにならないだろうかという点は極めて強くおっしゃっておられました。
 以上がヒアリングでそれぞれの方が大体おっしゃったことを簡単にご報告させていただいた点です。質疑応答では,1点目の赤坂先生の福島の県立の博物館について,例えばこれから博物館等が地域のハブとなっていくときに,なかなかそういう業務に学芸員の方が自分たちの業務でないというふうに考えてしまうという話があったことに対して,熊倉委員から,例えば公立の文化施設の役割について,今後,学芸員の資格をとるときにそうした役割であるや,地域の中核的な役割を果たすべきであるといった視点を博物館の学芸員の研修で取り入れたりといったことも必要ではないでしょうかというようなコメントも出てきました。
 大体以上が報告です。

【宮田部会長】  ありがとうございました。大変貴重なご報告をいただきました。それぞれの方々のお話の中に,心にずしっと来るものがあったように思っております。

 

【宮田部会長】  次に太下委員お願いします。

【太下委員】  はい。ヒアリングは2日にわたって行われたわけですけれども,2回目の7月6日に行われたヒアリングについてご報告したいと思います。
 資料は資料4と資料5が対象になりますけれども,このうち資料4は当日に,スピーカーの方から配られた資料でございますので後ほどごらんいただくとして,資料5の事務局のほうでおまとめいただいたペーパーをもとに簡略にご説明したいと思います。
 当日は6名の方からご報告をいただきました。まずお一人目は,岩手県立博物館の赤沼さんです。ご案内のとおり,岩手県を含む太平洋沿岸部の博物館等において,今回の地震,それから津波によって収蔵資料などが大分と損傷を受けたということで,その救援活動に尽力されてこられた方です。
 資料の中で大事な部分にはアンダーラインが引いてありますので,それにのっとってまいります。実は文化財が地域のアンデンティティを形成するものであるということで,非常に重要であるということが今回の大震災を経て明らかとなりました。ただし,そうはいっても当初,震災からの復興においては,文化財のことよりも,まずはほかの分野の救援のほうが先ではないかという議論が被災地でもあったと伺いました。しかし,この文化財の復興状況を社会に対して公開していったことによって,被災地でも「これは重要だ」という議論が形成されてきたという点が,非常に印象的でした。
 この文化財の救出は,第一に文化財を回収して,第二に劣化防止措置をするという,2段階になっているということなのですが,実は今回の被災では,単に地震によって物理的に損傷しただけではなくて,津波の被害によってかなり劣化をしている部分がありました。しかし海水につかった資料の回復や劣化防止のノウハウというものは,実は確立されたものはまだないということで,現在は模索をしながらこの作業を進めているということでございました。
 最後にスピーカー6名の方それぞれのご発表後の意見交換があったのですが,この中で,下から5番目の丸になりますけれども,赤沼さんが重要な発言をされています。すなわち,今回のような震災からの復興においては臨機応変な救出活動がどうしても必要になるのだけれども,一方で現行の指定管理者制度においては,自治体と施設運営団体側との協定によって業務内容が限定されているということで,なかなか動きにくい側面がある,というご指摘をされたことは,非常に重要なご意見ではないかと思いました。
 また資料5の1ページ目に戻っていただきまして,2人目は建築家の伊東豊雄さんのご発表でした。伊東さんは建築家のお立場から,特に仮設住宅というものが当然のことながら必要なものではあるのですけれども,現行の仮設住宅では,人間が暮らす場としては必ずしも居心地がいいものとなっていないという中で,建築家から何か提案,実行ができないかということで,心が帰るという帰心という言葉を使って,「帰心の会」という建築家の有志のグループを結成して,「みんなの家」というものを普及する活動に従事されています。この「みんなの家」というのは何なのかということなのですけれども,1番目の丸のところに書いてございますが,仮設住宅に暮らす方々がリラックスして日常的に集まれる場というものとして,この「みんなの家」を提唱されているということでした。住民の方からも反応は良好ということです。私なりに理解すると,場としてのコモンズといいますか,新しい共有地のようなものでないかと理解しております。
 一方で,伊東豊雄さんは,仮設住宅への取り組みだけではなく,釜石市の復興ディレクターとして,復興後のまちづくり計画のアドバイザー的なお立場もあります。その中で,安心・安全のためには今まで暮らしてきた土地ではなくて,低地ではなくて高台に移転するケースもでてきますが,このこと自体は仕方のないことであるのだけれども,その際にもともとの町の歴史とか,人々のコミュニティとか,暮らしとか,そういったものをどういうふうに継承していくことができるのかという点を考えていかなくてはいけないというご指摘をされていました。これも私なりに理解しますと,従来の近代化の流れでいいますと,低地が危ないのだったら高台に移転だ,というような単純な合理性,効率性だけではなく,移転にあたっては「復興の哲学」のようなものが,これからのまちづくりにおいては必要ではないか,と感じました。
 また同様に3番目の丸で,木造で仮設住宅をつくったりする場合に,県の担当者等からは,「全県的に見た場合,ほかの地区と違うことをされては困る」というふうに意見されたことがあるそうで,ささやかながらも新しいチャレンジをしようとする際に,“公平性の原則”の下ではなかなかうまくいかないことがある,というご指摘もありました。行政の方は公平性というものを重視されるわけですけれども,こういう緊急時,震災からの復興時においては,単純な公平性とも異なる理念や哲学というものが必要ではないかと感じました。
 続きまして2ページ目です。3人目のスピーカーとしましては,いわき市の芸術文化交流館,愛称でアリオスという施設ですけれども,こちらの支配人の大石さんからのご発表でした。アリオスではもともと震災前から,学校アウトリーチ等を非常に重視して活動されてきたのですけれども,震災後も子供たち,または子育て世代への文化的な面でのサポートというものを重点を置いて活動されているというご発表がありました。
 また,いわき市の状況として,大量の転入,転出があるという現場のご報告がありました。これは,転出というのはわかりやすいんですけれども,一方で復興支援ですとか,原発の避難地区からの流入など,いろいろな理由でこの地に入ってくる方がいるということで,おそらく十数年分の社会的な変化がほんの短期間でこの地域に起こっていると,いうことではないかと思います。
 また,この地の複雑さとして,ほかの地域,特に原発の被害があったエリアから避難してきた方々が補償をいただいているという一方で,同じ被災をした方々なのに,短期的に見た場合に経済的な格差が生じており,そのことが子供たちにも影響を与えているという報告もあって,非常に複雑な状況だということを感じました。
 ただ,こういった中で,子どもたちが少しでもそういったことを忘れて,子どもたちに未来の希望といったものをあたえることができるのではないかということで,さまざまな文化プログラムを通じて新しいチャレンジをされているというご報告でございました。
 それから4人目は仙台フィルハーモニー管弦楽団の大澤参与のご報告です。大澤さんの発表としては,音楽には大きな3つの力があるということでした。1つは日常を取り戻す契機となる,2つ目としては,復興の困難に立ち向かう心にエネルギーを充てんする。3つ目としては,音楽を通じて全国できずなを結ぶ,というご報告でした。もともと仙台フィルさんが仙台を拠点として,地域に根ざした活動をされているという中で,震災後も比較的スムーズに音楽の活動を通じた復興に携わることができたということです。そのプロセスを通じて,オーケストラの新しい社会的役割を開拓していると評価されているということで,これは非常に重要なことではないかと思いました。今後はこういう文化を提供する主体,文化団体等と,実際そのニーズがある人たち,実際どこにどういうふうに行けばいいのかというような点をマッチングをしていくということが非常に重要ではないかという現地からのご報告でした。
 それから5人目の報告は,東北芸術工科大学教授の宮島さんからのご報告でした。もちろん宮島さんはアーチストとしても非常に著名でありますけれども,ご所属の大学で立ち上げた東北復興支援機構の責任者でもあり,実際その活動の中で,日帰りの学生によるボランティア活動「スマイルエンジン山形」ですとか,または被災した福島の子どもたちを対象とした「キッズアートキャンプ山形」といったさまざまな活動を展開されています。この中で,1日目の報告の中でもありましたけれども,アーチスト,または文化関係者はよかれと思って現地に行くわけですが,実際には東北の方々はホスピタリティが非常に高いので,行ったときには非常にうれしがってくれるのだけれども,終わったときはすごく疲れた顔をするという場面もままあるということで,いわゆるアーチスト側,文化団体側と現地,被災者のニーズというのが乖離している場合もあるのではないかというご指摘がありました。また,ご自身は美術分野のアーチストでいらしゃるわけですけれども,美術とかデザインという分野は,被災直後にはなかなか機能しないかもしれない,音楽のほうがより機能しやすいかもしれないというコメントがありました。文化の分野による違いというのでしょうか,特性というのもあるのかもしれないというところを,実際皮膚感覚で感じられたご報告でした。
 先ほどの仙台フィルさんの報告の中でもありましたけれども,やはり現場でのニーズと,それを提供する側とのマッチングということが,今後の大きな課題ではないかというご指摘がありました。
 それから6人目でございますけれども,村上さんの報告です。これは直接今回の東北での被災地での活動ということではなく,先般の阪神・淡路大震災直後の文化財保護活動,またはそのシステムづくりということでご発表いただいたわけです。この中で,「ヘリテイジマネジャー」という概念を提唱されておられます。これは冒頭の赤沼さんのお話とも通じるのですが,大きな震災があって文化財が被災をした場合に,これをいち早くレスキューしていくために,「ヘリテイジマネジャー」という存在が必要ではないかというご提案でした。こういう人たちは急に社会にわき出てくるわけではないので,日常的にこういった人たちを育成していく必要があり,そういう仕組みづくりが必要ではないかというご意見です。そのために大学を中心とした役割がこれから非常に大事になるのではないかというご報告でした。
 また,この「ヘリテイジマネジャー」とも関連すると思いますけれども,実際こういった大震災等,大災害が起こった場合,自治体の職員の方々が大きな役割を果たすことになるわけですけれども,自治体の方々自身も被災することがあり,そして平常時よりも何倍もの多くの業務をこなさなくてはならないという中で,平時の業務すらなかなかできなくなるという事態も想定されます。こういったときに同時被災のない自治体同士の協定というものが非常に大事になってくる,というお話がありました。これは村上さんのご発表の内容ではなくて,別の機会に私自身が聞いたことがあるのですけれども,こういう自治体間の防災協定というものが,この震災以後大分締結されているというふうにお聞きしております。ただ,この防災協定というものは日ごろの交流がやはり大事であり,防災協定があるからこれで安心ということではないわけですので,この平時の交流に当たっては文化芸術というものが非常に大きな役割果たすのではないかと感じています。
 ヒアリングをさせていただいた6名の方の発表は以上ですけれども,これらの話をお伺いして私自身が感じた点を,手短に4点ほどお話しさせていただきたいと思います。
 1つは担い手の問題です。このヒアリングを通じてさまざまな方々からお話を伺って,こういったヒアリング対象者をはじめ,多くの方々が今頑張っていらっしゃるわけです。現在は東京等を中心として多くの方々が出かけていっているという状況があろうかと思いますが,今後中長期的に考えますと,やはり東北の自律的な復興というものが非常に大事ではないかと考えております。そういった意味では,今後は地域に密着したアートNPOですとか,中間支援組織といったものの育成や側面支援が非常に重要ではないかと考えております。本委員会の委員としてアサヒビールの加藤さんいらっしゃいますけれども,同社で展開されているアサヒアートフェスティバルのような,地域に密着した文化コミュニティ活動がこれから大きな役割を果たすのではないかと思います。
 2点目は場の問題です。今回,アリオスですとか,他の文化施設の方々からのヒアリングを伺って思ったことが,文化施設というものが,こういう被災時には単なる文化芸術の提供機関ではなくて,より広い社会的機能を持ち得るということでした。具体的に言いますと,社会的包摂の場,社会のコモンズとしての場になり得るのだ,ということが確認されたのではないかと思います。その意味では,今般こういう被災が起こってそのようなことが確認されたわけですけれども,実は平常時においても文化施設とはそういう役割を担い得るし,担うべきではないかと思います。
 今日の議題にもありましたけれども,いわゆる「劇場法」が成立して,劇場の役割というものがこれからまた新たに見直されていくことになるかと思うのですが,その中においても社会的包摂の機関としての劇場,さらには文化施設全般の役割が非常に大事になっていくのではないかと思います。
 3点目は,提供していく文化のコンテンツ,内容についてです。宮島さんのお話にも分野の違いのお話がありましたが,現状は主に鑑賞,または消費する文化をいかに被災地に届けるのかという内容がかなり中心であるのではないかと思いますが,今後につきましては,生活に根ざした文化のありようというものが非常に重要になってくると思います。その意味では,赤坂憲雄先生がおっしゃっていたような会津の漆工芸ですとか,そういった生活に根ざした文化というものをどういうふうに再興していくのかということが大きな検討課題になるのだと考えます。ある意味では英国で起こりました「アーツアンドクラフツ運動」の現代版のような活動が,この東北の地で新たな運動体として必要になっているのではないかなと,こういうふうに思いました。
 4点目,最後になりますけれども,アーカイブについてです。今回のこうした経験をぜひ情報として記録して,このノウハウを確立,継承していくべきではないかと思います。例えば文化財の安定化にしましても,まだ世界で確立された技術はないわけですが,今回の一連の経験というものが,世界に対しても価値のある,非常に大きなノウハウになると思います。また,被災した方々への文化芸術の提供方法というのも非常に重要なノウハウになり得ると思います。少し大げさかもしれませんけれども,こういったものはおそらく人類共通の知恵になるのではないかなと思いますので,ぜひこういった情報を記録し,そして次世代に継承していくような,そういう機関やアーカイブが必要ではないかと思いました。
 以上です。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。貴重な経験を後世に残す,これも大事なことだということでございます。そのほかに平田オリザさんにもと思っておったんですが,都合がつかないので相馬委員と事務局で意見をいただいております。それは資料6でございますので。それと今日の朝日新聞の記事でも平田さんのことが載っておりますということでございます。これで,その辺はもうごらんになっていただいていると思いますので,説明は省略いたします。
 さて,お二人の先生からのご報告がございました。しばらく先生方からこの件につきまして,また新しいご意見でも結構でございますが,頂戴いたしたいと思いますが,いかがでしょうか。どなたからでも結構でございます。先ほど言葉数が少なかった加藤先生,ひとつ。

【加藤委員】  貴重なヒアリングを聞かせていただいてありがとうございました。私も今,太下さんからひとつ触れていただいたアサヒ・アートフェスティバルというプロジェクトで,我々のネットワーク先のグループが幾つか大変な被災をされて,しかしそれがもともと震災以前からネットワークを形成していたおかげで,全国のいろいろな方からいち早く支援することができ,なおかつ一時日本から海外の人が全部いなくなった時期があったわけですが,そういう時期にあえて海外の人に被災地の状況をよりよく知っていただきたいというので,このネットワークをさらに広げて,アジアから7人のアーチストの方においでいただいて,一緒に東北を回るというようなこともできて,そういう意味では,こうした文化,芸術の活動というものも日常的にやっていて,幅広く全国的,あるいは国際的なネットワークを形成していることが,こうした防災,さらには復興において非常に大きな力を果たすという実感を持っています。そうした経験とともに,私のもう一つの仕事であります企業メセナ協議会でGBファンドというのを,これも昨年の震災が起きた3月中に立ち上げて,4月から支援活動が現実的に動かしてきたわけですが,そうした中での経験ということを考えて,先ほどのお話,ヒアリングのお話もいろいろ伺った上で,幾つかのことを切実に必要だなというふうに感じているので,その点をちょっとお話をさせていただきたいと思います。
 1つは現地の復興の状況がなかなか一律ではないし,ほんとうに1つの町でもちょっとエリアが違うと全く状況が違っているということで,そうした中で明らかに芸術文化が果たす,復興への果たす役割が大きいということはよくわかってきていて,その活動をいろいろきめ細かくやっていく必要があるんですが,何といっても不足をしているのがコーディネーターというか,現場において文化活動と被災者の間をうまくつなぐ人,人材が徹底的に不足をしている。それも相当きめ細かい活動をしていかなくてはならないんだけれども,その辺が不足をしている。
 この点は,実は世の中にいないかというとそんなこともなくて,人を探してくれば今まで文化活動をやっておられた方で非常にコーディネーター力のある方が少なくない。1つの例で挙げると,平田オリザ先生なんていうのは典型的なそういう方,みずからアーチストでもあるが,コーディネート力の高い方なんですが,そうした方もいらっしゃる。そうしたコーディネート能力を持っているけれども,実際には,現地に長く滞在するだけの資金的な余裕がないので行けないという人たちが残念ながら数多くいて,そういう人をみすみす放置しておくのはまことにもったいないなと考える。ですので,せっかくお作りになったコンソーシアムなども含めて,もっと現場に即した機能を果たすべきではないか。そういう対応を丁寧に果たしていくべきではないか。
 そういうふうに考えると,先ほどヒアリングの中にも出ていましたが,手続の煩雑さというのはまことにけしからんと思います。それは,我々GBファンドを立ち上げたときに,実は地元の方の郷土芸能の支援を要請された幾つかの応募用紙は,ほとんど白紙だったんです。つまりそんなことを書いている余裕もなければ,何を書いていいかわからない,ともかくこれを応援してほしいんだと。なので神楽の名前だけが書いてあって,連絡先も,まだ当時十分つかないような状態のときに,しかしいろいろ関係者が手を尽くして応募したらどうかいというので書いていただいたわけです。そうした白紙の,ほとんど白紙に近いような応募用紙に対しても,我々民間だから支援することを決定することはできるし,対応もいたしました。そういう意味で,手続に関しても含めて,ぜひ今後コーディネーターの投入ということについて熱心に取り組んでいただきたいし,特にアーチストみずからがコーディネート力を持った人というのが最も有効なので,そういう人の派遣にぜひ尽力をしていっていただきたいなと。
 太下さんも言っておられましたが,鑑賞型のものがあっちゃいけないことではないんですけれども,そういうことよりは,やっぱり地元の方がみずから動かれる,みずから表現される,そういうことに対する,ちょっとしたコーディネートがあるとそれが大変進むし,平田さんに典型的なような能力を持った方々をもっともっと現地に行ってもらいたいなという点が,私としては非常に切実に感じている点です。
 それから2つ目は,緊急的にはそういうことが必要なんですが,もう一つは,どうも一周年のころから,震災は一応1つの段落に来て,これからはまあ原発の問題はあるけれども,震災については大きな流れとしては復興にもう向かっているのではないかという,何となく一周年幕引き感があって,その継続性,今後5年,10年,阪神・淡路のときのその後の対応で我々が経験したことでいうと,15年たっても必ずしもすべての課題が解決しているわけではない。そういうことからいうと,今後継続してやっていく必要があるんだということを文化庁含め,いろいろな機会にぜひ繰り返しアピールをしていっていただきたいなというふうに思います。
 以上です。

【宮田部会長】  ありがとうございました。書類の煩雑さというのは別に震災に限らず,ふだんからそう思っておりますけれども,もう少しシンプルになるとよろしいですね。ありがとうございました。
 中村先生,ここにも仙台フィルのことで積極的に七夕のときなどにもご参加していただいたりしていましたけれども,何か感想などございましたか。

【中村委員】  あれはもう既に去年の話となってしまったんですが,私は仙台とは昔からいろいろなつながりがあって,仙台でコンクールをやったり何かという折にも協力したりということがあったものですから,何をおいてもと思って行きました。ただ,ピアノというのは非常に不便なもので,場所をとるし,それから大きいし,何というんでしょうか,持ち運びがなかなかできない。ですから私,例えばいろいろとコンサートをやりたいと思っても,そういう状況が整わなかった。幸いに仙台で震災後5カ月,4カ月ぐらいでできたんですけれども,そういうことで,私は1ピアニストとして常に思うことをちょっと申し上げさせていただけたらと思うんです。
 これほんとうに難しい問題ですから,文化とは何か,芸術とは何を指すかみたいなところからまた考えなければいけない場合もあるので,何を指して芸術,何を指して文化ということを考えると,例えばいろいろな地域の問題とか,そういうものも非常に場合によっては,何か私はこうやって今お話を伺っていたんですが,私にとってはなかなか理解ができない面もある。で,それは一言に言うと,芸術は時に想像もしないような大きな力で人を感動させる,そういう一種マジカルな力を持っていると同時に,その一方で,わからない人にはわからない面もあり,かつ一般の一種の民俗,民俗の俗はにんべんの俗のほうなんですが,そういう土着のものと受け入れられない場合もあって,なかなかこれを万人が,みんながそれを鑑賞し,愛し,それによって勇気づけられるということは,ほとんど不可能で,あり得ないことだと思うんですね。ですからその辺をこういう震災とか,地域のいろいろな地域独特の文化や生活と結びつけたところでどういうふうに作っていくか,生かしていくかという問題は,私には非常に不可能に思えるんです。これはちょっと私の不勉強の面もあるので,今ちょっと長くなりますので,この辺にさせていただきます。

【宮田部会長】  ありがとうございました。でも深い問題ですね。地域的なもの,それからグローバルなものの中での芸術の役割のようなことがございますものね。
 ほかにどなたかいらっしゃいますでしょうか。湯浅先生,どうぞ。

【湯浅委員】  ヒアリングのレポート,大変興味深く伺わせていただきました。先ほど加藤さんと太下さんのご発言のなかでも,人材ということが課題のひとつとして出てきたと思います。先ほど加藤さんからは,いかにほかの地域にコーディネーターの方々を効率的に投入する仕組みづくりなどについてもお話があったかと思いますけれども,同時に今後必要な新しい人材の育成についても考えていく必要があると考えております。特に今回のような大規模な震災に直面し,復興に向けて今後必要とされる人材には,これまで以上に多様なステークホルダーとの連携や,リーダーシップが求められるのではと思います。被災地での活動にあたり,例えばアートとは違う分野のNPO,NGOの方や,社会起業家,住民,自治体,企業関係者などといった,多様なステークホルダーと連携できる人材をアート分野がどういうふうに育成していくのかということを考えていくことも必要となっていくのではないでしょうか。これは,被災地以外の場所でも,これから文化芸術を取り巻く環境が厳しくなっていく中で,今後求められていく人材像にも重なるかと思います。これを契機に文化芸術分野で活動する人材の育成についても考えていく必要があるのではと思います。
 もう一点,先ほど日本の被災地で積み重なっている知見が,今後ほかの地域や,世界の国々に共有できるものではないかというお話もありましたが,私も同感です。震災から1年以上経過した中で,最近では海外のアーチストが現地で活動するということも増えてきているようです。ここ数カ月,被災地を訪れて現地の方々と対話をしたり,演奏活動を行ったりする英国のアーティストも何人か出てきて,彼らから話を聞く機会がありました。被災地での活動を通して,被災地の状況に非常に大きな衝撃を受けると同時に,被災地にいらっしゃる日本の人々の力強さ,またはその地域の文化の力強さというものに非常に感銘を受けたという話も良く聞きました。かれらは,被災地での体験を帰国後,例えばインターネットなどで発信もしています。こういった文化的な国際交流を通して日本の姿や文化が国際的に発信されています。先ほど仙台フィルの事例について報告がありましたが,数カ月前にロンドン交響楽団の担当者を招いて交響楽団のコミュニティやアウトリーチプログラムについてシンポジウム開催し,仙台フィルの方もスピーカーとして参加していただきました。ロンドン交響楽団の教育プログラムは,世界の中でも先進的な取組みとして知られていますが,その彼らが仙台フィルの方々が震災後一歩ずつやっている姿というものに非常に感銘を受けていました。復興に向けての日本のこのように芸術団体の取組みについても,日本が海外に向けて共有できるものであるというふうに感じました。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。片山先生,どうぞ。

【片山委員】  お金の面で,国からの助成などがあっても煩雑な手続で非常に使いにくいというご意見があったかと思います。加藤委員もお話しされたような,民間の資金をつくっていって,柔軟で機動的な対応をできるにしていくということが,まず1つの解決策としてはあるかと思いますが,やはり国や自治体などの公的資金についてもそこを改善していくことが求められるだろうと思っております。公的な資金というのは事業経費に対する補助になりがちですけれども,やはりここは人にお金をつけることを思い切ってやることが求められるのではないかと思います。自治体,あるいは非営利団体などでこうした活動に当たる中心人物の人件費を期間限定でいいので補助するという形をとれれば,浮いた分のお金を自治体が自主財源として手当てして事業を行うことができれば,補助金申請に伴う煩雑さを回避して,より機動的にできることになるかと思います。これはNPOであっても,財団等のいろいろな公益法人であっても同じだと思います。
 その場合,補助金を出す側として何を審査するかということですが,その人件費の補助を受けた人材がその期間何をやったかということをきちんと報告して,それを評価するというような関係が築くことが重要です。そうすれば国民,納税者に対するアカウンタビリティーも担保することもできます。そういった形で現地に人を確保していくことが,多くの方がご指摘されたような,現地で求められる人材の育成とか発掘とか,そういったものにもつながっていくかと思います。まずは,現地で,現地の必要なものを考えながら行動する人を確保していくというところに,国,あるいは自治体などの公的資金も重点的にむけていくことが重要だと思います。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。仕組みでございますね。そういう意味では,長官,震災後すぐ私のところにおいでいただいて,目的のはっきりとした資金,基金ということで,私が理事長をさせていただいている文化財芸術振興財団のところで,そうすると東文研と連携をとってレスキューというふうな,非常にあれは素早い動きの1つの事例ではないかなというふうに思いますね。ありがとうございました。
 さてそれでは,恐縮ですがこの話はひとまずここまでとさせていただいて,大変いいお話がございました。特に,最初の岡本先生からのご発表の中で獅子振りという1個の民芸で非常に多くの人命が動けることができるとか,レスキューが地元の信頼感が必要であるとか,「ぼたんの会」というふうなことをつくって市民の志をつなげていくと,生活,文化,あるいは芸術がうまくつながっていくのかどうか,その辺に国の機関をちゃんと確立していたほうがいいというようなお話等々,大変いい話をいただいておりますし,太下委員からは伊東豊雄さんの「帰心の会」とか,いろいろな「みんなの家」とかというふうなこと,ほんとうに仮設住宅はあれでいいのかどうかというようなことは,大変疑問な部分がいっぱいございますので,いいご発言を,ヒアリングをちょうだいしたことを感謝申し上げます。
 さてここで一歩進めさせていただければと思います。現在,芸文振において,PD及びPOを配置して専門家を活用した審査や評価の仕組みを試行的に導入いたしました。文化政策の評価手法の確立に向けた取り組みでございますが,その進捗が大変注目されております。今回は芸文振から状況報告ということをいただきたいと思っております。日本芸術文化振興会の関理事においでいただいておりますので,ひとつ発表のほどをお願い申し上げたいと思います。よろしくどうぞ。

【関理事】  日本芸術文化振興会基金担当の理事の関と申します。本日どうぞよろしくお願い申し上げます。

【宮田部会長】  宜しくお願いいたします。

【関理事】  それでは資料8のシリーズ,8の1から4までございますけれども,これを使いまして簡単にご報告をさせていただきます。最初に,本当に念のためでございますけれども,この第3次基本方針の中での位置づけについて触れさせていただきます。この閣議決定,第3次基本方針の中の5ページでございますが,ちょっと読み上げさせていただきます。文化芸術への支援策をより有効に機能させるため,独立行政法人日本芸術文化振興会における専門家による審査,事後評価,調査研究等の機能を大幅に強化し,諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入する。このため,早急に必要な調査研究を行うとともに,可能なところから試行的な取り組みを実施すると,このように第3次基本方針に書かれております。これを受けまして,私どもで今試行的に取り組んでいる,その状況についてご報告をさせていただきたいと思います。
 資料8-1でございますけれども,一番上に枠がございます。これが今,やらせていただいていることのエッセンスでございます。試行的な取り組みといたしまして,私どもの行っている助成事業の中で,文化庁から補助金をいただいて実施しておりますトップレベルの舞台芸術創造事業,この中の音楽分野,舞踊分野の2分野につきまして,昨年度,平成23年度から導入しております。それを中心にご説明をさせていただきたいと思います。
 まず,1といたしまして,プログラムディレクター(PD),それからプログラムオフィサー(PO)の配置ということでございますけれども,音楽分野,舞踊分野,それぞれPD1名,PO3名の方をお願いしてございます。いずれも公募により選考したわけでございますけれども,具体的にどのような方かということにつきましては,資料8-2をごらんいただきたいと思います。
 上の2名がプログラムディレクター,それぞれ音楽と舞踊,それから下の6名がプログラムオフィサー,音楽と舞踊それぞれ3名でございます。なお,この資料8-2の2枚目でございますけれども,これは1年遅れでさらに2つの分野,演劇分野と,それから伝統芸能・大衆芸能分野につきましても24年度から新たにPD,POをお願いいたしまして,取り組みを進めているというところでございますので,ご紹介をさせていただきたいと思います。このように,PD,POは,1プラス3,各分野4名お願いしております。PDの統括のもとにPOが務めていただくという形でございます。勤務形態は非常勤でございまして,週2回程度芸文振にきていただいている状況でございます。
 それから,1の一番下に書いてございますのは,PD,POに加えまして文化芸術活動調査員もお願いをしているということでございます。この方には主に助成対象にいたしました具体の公演の実地調査を中心に行っていただいております。これが体制の整備ということでございます。
 それから2つ目に具体のお願いをしております職務でございますけれども,2に書いてございますのは,具体の募集,それから審査にかかわる企画立案ということでございます。これにつきましては,まず,資料8-3を見ていただきたいと思いますけれども,資料8-3は私ども日本芸術文化振興会で行っております助成金につきましての審査体制を書いたものでございます。右側に芸術文化振興基金運営委員会がございまして,これが理事長の諮問機関として置かれております。具体的にどこの団体にいくら助成するのかということにつきましては,この運営委員会に付議をいたしまして,その答申をいただいて決めるという構造になっているわけでございます。したがいまして,今までもこのような形で外部有識者にお願いをしてきたわけでございますけれども,今回の新たなスキームとしましては,いわばその振興会の内部,私どもの内部にPD,POという専門家を配置いたしまして,より効率的な,効果的な助成ができるように取り組んでいるということでございます。
 その上でもう一度,資料8-1に戻っていただきますと,まず一番最初が募集と審査に関する企画立案ということでございます。助成事業の実績や課題等について,PD,POが中心になり調査分析を行いまして,助成にかかわる基本的な方向性,あるいはどのような基準によって審査をしていくのかということについて案を作成いたしまして,これをこの基金の運営委員会に付議をして,説明をいたしまして,そこで決定をしていただくという,このような作業をしておるわけでございます。
 それから次に,具体に応募のあった各団体,各個別の助成対象活動の応募書類からの活動内容でございますとか,あるいは経費の積算が適正かどうかといったようなことについて調査分析をいたします。これにつきましても最終的にはこの運営委員会で決定されるわけでございますけれども,そこに出席をいたしまして説明をするという形でサポートしているということでございます。
 それから2の一番下の丸でございますけれども,審査結果の分析をして,それをさらに反映させるということでございます。PD,POはこのように運営委員会の会議に出席してございますので,そこで出されます意見を踏まえまして,採択理由,あるいは助成することによって期待される効果,こういったことを整理いたしまして,それを採択された団体に伝える,意見交換を実施するというようなことをしているわけでございます。それからまた,不採択になった団体にも伝えるということが課題になってございますけれども,これについては今,検討しているところでございます。
 それから1ページめくっていただきまして,次のステップが3の公演調査及び事後評価の実施でございます。今2で申し上げましたのが,実際どこに助成をするかという,その審査の段階でございますけれども,3に書きましたのは助成することとした公演,団体に対する評価ということでございます。2つ書いてございますが,1つ目が公演調査,実際に助成対象とした公演についての調査ということでございます。これにつきましては,音楽,それから舞踊という分野ごとに公演調査計画を策定いたしまして,調査員も活用するということを23年度から実施しております。公演調査はできる限り複数の人間が1つの公演を見ることとしておりまして,下にちょっと数字を書きましたが,23年度には120公演の公演調査を行っているということでございます。本年度,24年度は今後の事後評価等もございますので,より客観的な評価ということを念頭に置き,評価基準案を策定しまして実施しているところでございます。
 それからその下の丸でございますけれども,事後評価の本格導入に向けて,事後評価の案を検討しまして,現在試行的に取り組みをしているということでございます。
 それから最後の4でございますけれども,このようなPD,POを配置しているということにつきましては,振興会のホームページでも紹介しておりますし,メール等で手軽に問い合わせができるように,インターネット上の環境を整備しているところでございます。それからまた,そういった機会だけではなくて,あらゆる機会を通じてPD,POが助成対象団体と実際に会って話をするということにつきましても,意を用いているところでございます。PD,POの方々の協力を得て,なるべくそのような機会を増やすということで実施しているところでございます。
 以上,大変簡単でございますけれども,今までの取り組みでございます。なお,最後につけました資料8-4でございますが,これは私ども芸文振の中に置かれております評価委員会の23年度評価報告書の抜粋でございます。これは適宜お目通しいただければと思っております。
 以上でございます。

【宮田部会長】  関さん,ありがとうございました。進捗状況をご説明をいただきましたが,この件に関していかがでしょうか。
 はい,中村先生,どうぞ。

【中村委員】  今拝見していて,プログラムオフィサーとか,そういった役職の中で,例えばプログラムオフィサーを1,2,3,4,5,6,6人の中に昭和音大が3人いるというのは,何かよほど理由があるのですか。それから,プログラムディレクター,やはり昭和音大となっております。

【関理事】  私どもとして,特に特定の大学の方といったようなことを考えているわけではもちろんございません。もう一度選考の方法だけを繰り返して申し上げさせていただきますと,いわゆる公募という形でございます。それには自薦も他薦もあるということで,まず公募をさせていただきました。自薦,他薦の方々のリストを,選考委員会を私ども日本芸術文化振興会に設けまして厳正に審査し選考したところでございます。

【中村委員】  しかしこれは相当偏っているのではないかと思いますがいかがでしょうか。

【関理事】  基本は,今申し上げました自薦と他薦でございます。かつ他薦の場合にはご本人の意向も確認しつつということになりますので,そこが出発点の分母です。分母は一定の限度があるということかと存じます。

【宮田部会長】  よろしゅうございますか。
 平田委員,どうぞ。

【平田委員】  はい,沖縄の平田です。前回のときでも,少しだけ触れさせていただきましたけれども,この沖縄版のアーツカウンシルも今,試行的にやっていこうということで,今年度の予算の補正のほうで,まだ決定はされていませんが,考えているところです。その中でやっぱり公演調査の実施,それから事後評価の実施に向けた検討の中の,何をどう調査するのかというのが非常に我々の中でも大きな課題になっておりまして,正直申し上げまして,やりながらでしかできないなということで今,今年はやりながら進めていこうということで,まさに検討課題が結構山積だなと思いながらやっているんですが,そもそもこのアーツカウンシルを非常に重要だなということを感じております。
 ですから,今回呼吸を合わせる形で県としてはすぐにでもやろうと思ったのは,やはりなかなか文化の予算というのが,行政の中では取りにくいという現状があります。その理由がはっきりしておりまして,文化は成果指標がなかなかないということで,観光の分野は結構今,満足度調査であるとか,いろいろさまざまな方法はあるんですが,その指標がないがゆえに,文化の予算をどんどん削られていくという現状があります。ですから,そういった面では,このPDCAを駆使して,ほんとうにアーツカウンシルを1つ成功事例として位置づけていけば,おそらく日本全国の中での文化の位置づけというものが,随分アプローチが変わってくるんじゃないかというふうにも考えておりまして,ぜひ頑張っていきたいと思っております。
 本当にそういった意味では,ちょっとこの中身に関して,今詳しく何をどう調査したのか,少し可能な限り,できれば意見交換をさせていただいて,どういうふうな形で昨年1年間かけて,この何百件か,その調査対象になったといいますけれども,見て感想を書いたのか,それともアンケートをとったのか,そういうふうな方法も含めて,できれば意見交換できればありがたいなというふうに考えております。

【宮田部会長】  いかがですか,関さん。今の平田委員のお話に関して。

【関理事】  済みません。若干抽象的なお答えになりますけれども,今やっておりますのは審査基準,つまり審査の際の基準がございますので,その審査基準をどの程度満たしているだろうかという観点からのチェックを行っているところでございます。ただ,そう申し上げましても,なかなか言葉で書くと抽象的になってしまいますので,5段階評価してもらうということです。結局そこは個々の評価者の主観になってしまうかもしれませんけれども,審査の際に求めている点を,例えば何%満たしていれば何にするといったような形で,S,A,B,C,Dをつけてもらうということでございます。
 審査基準としてどういうものを採用しているかといえば,例えばその団体についていえばキャスト,スタッフに高い専門性があるか,あるいはその財務会計が適正明朗であるかという基準もありますし,それから公演計画,公演内容についていえば,我が国の芸術水準の向上の,要するにトップレベルの向上という意味の牽引力になるか,公演の趣旨目的が明確であって内容が優れているかといった基準がございますので,それを実際のパフォーマンスが本当にどの程度満たしているのかという観点からチェックをしているところでございます。

【宮田部会長】  あとあれですね。この件に関しては順次資料が増えてくると思いますので,それでご参考になる部分が出てくると思います。進行状況を着実に,お互いに共有したらいかがでしょうか。

【平田委員】  はい,ありがとうございます。わかりました。

【宮田部会長】  ほかに。はい,湯浅先生。

【湯浅委員】  先ほどアーツカウンシルについて,専門家による審査,事後評価,調査研究の機能を拡大するための新しいシステム作りをしているとご説明をいただきました。最近,アーツカウンシルの役割として,審査,事後評価,調査研究ということが非常に大きく取り上げられていますが,アーツカウンシル,イコール評価または審査機関というような認識が非常に強まっているのではいないかという気が少ししてます。評価といいましても政策自体を評価する政策評価と,助成を出した団体の活動,もしくは助成プログラムの評価というものを分けて考えていくべきであろうというふうに思っておりまして,どちらも何のための評価なのかといった目的を明確にする必要があると思います。
 英国のアーツカウンシルと日本で立ち上がったアーツカウンシルとは,仕組みも全く違いますし,助成の枠組みも違うのですが,ご参考までに最近の動きをご紹介したいと思います。アーツカウンシル・イングランドは,今年の4月にこれまでの団体助成に変わり,ナショナルポートフォリオファンディングという新しい助成の枠組みを導入しました。それにあわせ,「The relationship between the Arts Council and funded organisations (アーツカウンシルと助成団体との関係)」という25ページに渡るレポートを発表しました。今年度導入された新たな助成の枠組みについては昨年発表されたのですが,新女性プログラムの施行までの1年間,助成団体とアーツカウンシルのリレーションシップオフィサー(助成団体の窓口になるアーツカウンシルの担当者)の間でかなり対話が重ねられ,評価についても活発な議論が行われてきたようです。評価については,当初は助成団体に対し,わりと複雑なKPI(重要業績評価指標)を設定するように要請があったのですが,その後いくつかの問題点も指摘され,様々な議論を経て,現在はよりシンプルな評価システムが導入されています。
 先ほどご紹介したレポートにも書かれていますが,現在導入された助成団体の評価のシステムは,各団体に5つのKPIを設定するほか,セルフアセスメント(自己評価)を導入するように要請しています。そして,セルフアセスメントを行う目的として,団体の成長を助けるという点が上げられています。つまり,助成団体が将来の方向性や,現在の課題を認識し,それに対してどういう解決策を出していくか,または今後団体が成長する方向性を明確にするための手段としてのセルフアセスメントという位置づけをしています。
 助成をした団体に対する評価が,公演や活動の良し悪しについていわゆる点数をつけるようなものなのか,それとも今後の成長を助けるものなのかということでは,評価の目的や,評価を受ける団体の受け取り方も違うのではと思います。評価と一言でいっても,助成をする側と助成を受ける団体との関係性にも影響が出てくると思うので,この点を明確にする必要があるのではと思います。また,政策の評価については,誰に向けて,何のための評価で,そのためにどういうデータを助成団体に協力を依頼して集めるのかなど明確にする必要もあると思います。政策評価,個別の助成プログラム,団体の評価など文化芸術の評価については,より包括的な議論が必要かなというふうに思います。

【宮田部会長】  ありがとうございます。ちょっと加藤先生,そのまま続けていただいてから関さんにということでよろしいですか。じゃあ加藤先生,お願いします。

【加藤委員】  今,湯浅さんのおっしゃったことに全く大賛成なんですけれども,1つ例を挙げますと,今東京都も実はアーツカウンシルを準備していて,この10月には正式に発足させるわけです。そこで既に陣容は雇用を進めていて,雇用しているんですが,プログラムディレクターを1名雇用し,オフィサーを全体で5名雇用しているわけで,それはすべて,この国が今お進めになっておられるケースと全く違うのは常勤です。ここが非常に大きなポイントで,中村先生からも今疑問が上がって,それぞれに別の仕事を持っておられるので,こういう問題が出てくるんだと思うんですけれども,全部常勤化することを,ぜひ提案しておきたいなというふうに思います。今後,検討をしていっていただきたいなと思います。
 というのは,一番重要な点は,個々個別の助成団体の評価ももちろん必要ですけれども,それは選考委員会そのものに対する制肘としては非常に重要かもしれないが,より効果的なのは何かというと,今の行っているこの助成システムそのものが,本来政策に合致しているかどうかの,政策を立案した上で,それの効果が上がっているかどうかを評価しなくてはならない。そこの部分が一番重要で,したがって,何を一番やらなくちゃいけないかというと,政策が何を期待しているのかということと,その上に立って一体どういうことを芸術団体個々個別に期待するのか,まさに今湯浅さんがおっしゃった用語をかりれば,どういう課題を持っているのかということをみずから認識して,それをみずからどういう方向に変えたいと思っているのか,それが政策と合致しているのかどうかということが一番重要な点で,そうした合致をしているところを支援しなければならない。そのためにどういう施策を実施するのかという観点で,アーツカウンシルというのは機能していくべきで,そういう意味では現場の個々個別の団体の評価,それはしかし,本来審査会がやるべき仕事でしょう。もっと本気出して,やってほしいなというふうに思います。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございます。これがスタートした段階からの加藤先生のご意見だと思いますけれども,中村先生のお話も先ほどありましたが,難しい問題ですね。偏よるのではなくて,評価は公平でなくてはならないということになったときに,たまたまこういう特定の大学が出てくると,問題が出てくることにならないように,なるべく努力していってもらいたいというふうに思います。太下先生,どうぞ。

【太下委員】  ご発表については,助成金の配分方法という点についてはこういった流れでよろしいかと思うのですけれども,私の意見といたしましては,先ほどの湯浅さんと加藤さんと同じ意見を別の角度から申し上げることになるかもしれないのですが,表題にありますとおり,これは試行的導入,試みとして導入されているということですので,この試み自体についての全体の評価というものが別のレベルで,メタレベルで必要な評価ではないかと思います。具体的には,この日本版アーツカウンシルというものが称しているミッションは何なのかとか,分野の設定はこれでいいのかとか,PD,PO,調査員という三層構造がこれでいいのかとか,人数はこれで足りているのかとか,非常勤という雇用形態はこれでいいのかとか,人選及びその方法はこれでいいのかとか,このチャレンジ自体のさまざまな評価が必要かと思います。
 最後にこの振興会自体の評価報告書というのをつけていただいておりますけれども,おそらくそのメタレベルの評価とは,セルフアセスメント,ご自身で評価していただくとともに,さらに別のレベルで客観的な評価を経る必要があると考えます。そして,そのことが今,アーツ・カウンシルづくりにトライしている東京とか,大阪とか,沖縄とか,さまざまなアーツカウンシルの試みの参考になる基礎資料になるのではないかと思います。
 以上です。

【宮田部会長】  ありがとうございました。大変貴重なご意見でございます。じゃあ,渡辺先生お願いしてから関さんにお願いします。

【渡辺委員】  先ほど中村委員のほうから指摘があった問題って,私非常に重要だと思っていて,1つの提案なんですけれども,1つの分野については同一機関からのオフィサー,ないしディレクターというのは1人にするとか,あるいは2人までとするとか,ある程度そういう意図的に偏りを防いでいくというような措置も必要なんじゃないかというふうに思います。  以上です。

【宮田部会長】  はい。ありがとうございました。それでは関さん,お願いします。

【関理事】  いろいろご指摘をいただきましてありがとうございました。若干弁解的に聞こえるかもしれませんけれども,私どものレポートは,現在どこまで進んでいるのかということを中心としてレポートさせていただいたつもりでございます。特に,今後の展開ということを述べれば,資料8-1の2枚目でございますけれども,現在実施しているのはその2年目,つまり昨年が1年目でございますが,1年目はどのようなところに助成をするのかという団体の決定というところに参画をいたしました。今年度は2年目でございますので,助成をすることにした公演,個々のパフォーマンスのチェックをしております。次の年でございますけれども,では助成したことによって,その団体に対してどういう効果があったのかと,そういったことについて事後評価をきちんとしたいと思っております。そしてさらにその上で,ぐるっと元に戻るわけですけれども,音楽なら音楽,舞踊なら舞踊という,この分野の状況がどうなっていて,どういうところに,例えば重点的に助成していくべきなのかという全体の方針を決めるというところに戻していきたいと思っているところでございます。その辺りはまたご指摘をいただきまして,取り組みを進めてまいりたいと思っております。

【大木部長】  ご指摘のあった中でもって,これは全部が全部に近いほど文化庁の補助事業という形で日本芸術文化振興会にお願いして,そこでもってまた,要は助成金の配分を具体的に指示させていただいていると,こういうシステムになっておりまして,根っこのところは,やはり文化庁から日本芸術文化振興会にどういう,いわゆる実施要綱に基づいてその補助事業としてお願いするかということにかかわる構造論が1つございまして,ですから日本芸術文化振興会はあくまで試行という位置づけのもとに,手探りで具体の実務を積み重ねていただいて,それがようやく1年度終わって2年度目にきているという,こういう状況でございます。したがいまして,幾つかご指摘のあった中で,この試行という位置づけの中で,これが試行がとれるに際して改めていかなければならない1つ,2つのポイントといたしまして,1つはやはり審査委員の人選にかかわってご指摘がございましたので,これかほんとうにこういう形でいいのかどうかというようなことは,全体方針を定める立場の文化庁として真摯に受けとめて,これはちょっと考えていく必要があろうかなというふうに,今認識をいたしました。
 それからもう一つは,要はこれは試行でございますので,政策評価をどういうふうに,政策的な観点からの助成制度,試行とはいうものの助成のシステムに対する評価というものは,これは文化庁というよりも文部科学省全体の政策評価なり何なり,そういうより高次元のところでもってなされるとともに,審議会がこれを評価するという明確な位置づけはございませんけれども,今回のようにきちっと,時々ご報告をしながら,またご意見を賜りながら,そうしたことを,要は省内での全体の政策評価の中に生かしていきたいと,このように考えております。
 なお,試行という位置づけではありながらも,要はプログラムオフィサーなり,プログラムディレクターなり,どういう,要は勤務の形態というか,任用の形態にするのかということですね。これは非常に思い悩んだところでございます。実はちゃんと見る人間がいなければならない。公演なり,そういった活動を見る人間がいなければならないということが1つある一方で,これが常勤の任期なしの雇用形態という形に,仮に極端な場合なったといたしますと,10年来,20年来にわたって同じ人間,1人が見ていくというシステムは,多分民間の財団でしたらわりと,それは1つの民間のポリシーとしてご理解いただくとしても,公的な助成金を配分する場合にそれがどうなのかという,極めて悩ましい問題がございます。したがいまして,先ほど加藤先生のお話伺って,若干推測しておりましたのは,東京都の場合も勤務形態は常勤ではあっても,多分任期つきなのではないかなというふうに私は思ったりしていたんですけれども。それがもう少しライトな,軽い形になると非常勤という形で,それが先ほどいいましたように,本部との関係でもっと同じようなところから来ていると,こういう問題も出てきているわけでございまして,ちょっと頭の中,今全然整理ついておりませんけれども,ポイントといたしましてはそれが1つあるなということは認識をいたしましたので,ちょっとしっかり検討をいたしてみたいと思います。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。関さん,誤解のないようにしていただきたいんですが,先生方はこの取組にうちて,すばらしいものにしたいというだけで,その思いでお話をしておりますので,よろしくまたお願い申し上げます。先生方もどうもありがとうございました。

【近藤長官】  湯浅委員と加藤委員,それから平田委員ですか,いろいろコメントいただきました。太下委員からコメントいただきまして,私も一番大事なことは,その政策,政策を決めるのは文化庁ですが,それに合った公的支援の仕組みはどういうのが一番望ましいのかということを考えてもらい,常にレビューをしながら,最も効果的な目的を実現するような助成の仕組みを継続的に考えていくというのが,この主要点だと思います。そのためにまず審査基準を決め,配分を決め,事後評価をし,その事後評価で終わりではなくて,事後評価した後それを,じゃあどうやって実際の芸術団体とコミュニケートしながら,その評価に基づいて今後どういうふうにしていったらいいのか,場合によっては基準も変えたほうがいいかもしれない。常にダイナミックに変化しながら,常によりよい助成の仕方を,その助成団体と一緒になって考えていく,それがPD,POの役割,特にPOの役割だろうと思います。我々組織の人間はそれだけの時間もゆとりもありませんので,PD,POの方々がその間をつないでいただいて,我々の政策目的と現場の状況とを両方を把握した上で,どういう方向に今後進んでいったらいいかを考えていただき,提言もしてもらう。そこの部分が多分一番大事なんだろうと思います。
 実際に今,既に働いていただいているPD,POの方々も,かなりそういう意識をお持ちです。それから平田さんであれ,あるいは東京都,大阪府も今度始めますし,結構関心のある方々はPD,PO同士で,あるいは平田さんご自身もお話を直接聞いていただくのがいいと思います。それぞれ週に何回,非常勤ではありますけれども,かなり意欲に燃えてあちらこちらに,意欲のある方はコンサート会場でも顔を見かけますので,一生懸命現場に行って,その劇団とか,芸術団体と話をしながら,彼ら,あるいは彼女ら自身も試行錯誤を経ながら,理想的な姿を求めているということですので,みんながみんな,それぞれいろいろなことを考えながら,一緒に進んでいるところです。お互いに今コミュニケーションをよくして,日本全体として文化予算がより効果的に使えるような仕組みをみんなで考えていくという,そういう非常に大事な時期だと思います。
 自治体のほうで既に始められたことも非常に歓迎すべきことですので,それぞれ緊密に会って,そこら辺の情報交換をしながら,何が一番日本にふさわしい,日本の土壌に合った,効率的な文化予算の使い方かということを考えていくのがいいと思います。そういう意味で,今,既にもう1年以上の経験のあるPD,POの方々と,ぜひ直接お話を,直接お話を聞かれるのが一番いいと思います。彼ら自身が一番問題意識を持っていると思います。現在のシステムのいい点,悪い点,将来あるべき形態,一番そういう先鋭な意識を持っている今のPO,PDの方々と,一度何らかの形でじっくりとした掘り下げた議論をしていただく。それを定期的に繰り返すことも必要かもしれませんが,そういったことをしてみてはいかがかと思います。

【青柳部会長代理】  よろしいでしょうか。

【宮田部会長】  はい。

【青柳部会長代理】  おそらくPD,POを使ってのこういう助成金システムというのは,ある意味で芸術文化の助成という意味での,逆行している部分もあるわけですね。つまり,本来であれば自由競争に任せておけばいいわけですね。だけど文化芸術というのは,世界中そうですけれども,助成金がなければ成り立っていかない。だから取り込んで,こういうアーツカウンシルというのをつくっていく。そしてその中でPO,PDというものをつくっていくと。そうすると,そのPDCAの方法論でやっていったりすると,結局は強いものはより強く,弱いものはより弱くなるんですね。これはもうマタイの法則で明らかなことなんです。ですからPD,POというチームをつくって,そこで政策的にこれから1強のところに2強をつくっていく,あるいは3強で競争してもらうということで,より低いところにも,あるいはよりマイナーなところにも助成金を与えていくような方針をPD,POのところでつくっていくわけですよね。ですから,このPD,POというのは,その助成の方針をつくっていかなければならないところだから,常にここでは討論し,会議をし,そして自分たちの方針がどうであるかを公表していく必要があるわけですね。ですからもう1年やったんだったら,そろそろ自分たちがどういう方針で,どういう助成を実際にやってきたのかと。そしてそのことが政策的にほんとうのナンバー2,ナンバー3の助成にまでこういうふうにやっていったんだということを出てこなければいけないと思うんですね。そうなって初めてアーツカウンシルに近いものになっていくということで,ですからこのPD,POという人たちの中でどれだけ議論が進んでいるかという,そしてその途中報告をぜひ報告していただければ,周りの助成を受ける団体も安心して応募できんじゃないでしょうかね。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。いいお話をいっぱいいただきましたが,また関さんこれ,ちょっと時間もありますが,一言いただいて,次に構築させていくというふうにしたいと思いますが,いかがですか。

【関理事】  いろいろご指摘を賜りましたけれども,このように世間の注目を浴びまして,新しい取り組みという形で進めさせていただいておりますので,また先生方のご指摘を踏まえて,適切にレポートさせていただいて,改善すべき点を改めるということで,この試行的取り組み自身もブラッシュアップさせていただければと思っております。

【宮田部会長】  初めての試みでございますので,ご苦労さまでございますが,よろしくどうぞお願い申し上げます。
 次に,著作権法の一部改正についてでございますが,さくっとご説明いただけますでしょうか。

【壹貫田補佐】  著作権課でございます。それでは著作権法の一部改正法につきまして,簡単にご報告を申し上げたいと思います。資料の9をごらんいただければと思います。
 まず簡単に審議の経過につきまして触れさせていただきますと,この法案は3月9日に閣議決定をされた後国会に提出をされ,6月15日に衆議院の文部科学委員会で質疑が行われ,可決がされました。その際に違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定につきましては,内閣提出の著作権法の一部改正法案に対する修正案という形で提出がなされ,同じく可決されております。続く参議院文教委員会におきましても,6月19日に内閣法案と,それから修正案という部分に対する質疑,それから参考人質疑が行われ,翌20日に可決成立というふうになっております。その上で6月27日に公布ということになってございます。施行日につきましては条文の内容ごとに分かれておりますので,内容説明の際にあわせて申し上げたいと思います。
 次に改正内容についてでございますが,これは資料9でございます。1枚目にございますとおり,端的に申し上げますと,今回の改正というのはまさにデジタル化,ネットワーク化の進展に対応するというものでございます。著作物の利用態様がかなり多様化してございますので,こうしたことを受けて,いわゆる写り込み等に係る規定の整備を行ってございます。また,同じくネット上の違法利用,違法流通が大変大きいものがございますので,そういった観点からは技術的保護手段に係る規定の整備,それから先ほど申し上げた違法ダウンロードの刑事罰化という形の規定の整備が行われてございます。
 各事項につきましては,3ページ以降に詳し目につくったものがございますので,ごらんいただければと思います。
 まず写り込み等と言われる権利制限規定の整備についてでございます。この規定につきましては,そもそもの知的財産推進計画2009や2010等におきまして,いわゆる権利制限の一般規定という形で措置を講ずることが求められていたものでございまして,著作権分科会において2年以上にわたって審議を行ってきたものでございます。この写り込み等に係る規定は,デジタル化,ネットワーク化の進展,こういったことを背景にして,先ほど申し上げましたように利用行為が大変多様化しておりますので,形式的には違法ではありますけれども,著作物の利用を制限することによってネット上での著作物の利用の萎縮を解消しようという観点から行われたものでございます。
 具体的に全部で4つございます。もう細かくは申し上げませんけれども,1つ目,これがいつも代表例というか,一番最初に申し上げている写り込みといった規定でございます。具体的には,たまたま写真を撮ったときに背景に,ここではクマになっていますけれども,有名なキャラクターが一緒に写り込んでしまったという場合に,このクマのキャラクターに係る複製等の権利制限をしようというのが1つ目でございます。また,自分が撮ったデジタル写真を,これはまたブログに載せてインターネット送信するという場面も想定されますので,こういったものも権利制限の対象にしようというものが1つ目でございます。
 それから2つ目でございますけれども,これ例えばある会社でキャラクターを使って商品を開発しようというときに,当然企画会議等々におきまして,そのキャラクターをコピーした企画書を配付するということが行われるわけです。従前の著作権法におきましては,実はこうした,最終的にはこのキャラクターの許諾を権利者にとる,適法な利用行為をしようとちゃんと考えているんですけれども,その途中の段階で著作物を利用する場合には,実は形式的には著作権侵害になってしまっていたということでございますので,今回こういった,最終的に適法利用を目指している,その前段階での利用というものを権利制限の対象とするというものでございます。
 3つ目は技術の開発,実用化のための試験の用に供するための利用というふうになってございますけれども,これは,例えばブルーレイの録画機器でありますとか,スピーカーを開発するといった場合に,どうしても試しに録画をしてみますとか,試しに音楽を流すといった,これは演奏権というのに抵触するということになるんですけれども,そういった著作物の利用が行われるわけです。こういった著作物の利用についても権利制限の対象にしようというのが3つ目でございます。
 最後の4つ目,ちょっと長いですけれども,情報通信技術を利用した云々とございますが,これは最近フェースブックでありますとかユーチューブで多様なサービスが行われておりますけれども,これらのサービスを行うに当たっては,その背後にあるサーバー内で大量の複製が行われ,情報処理が円滑,効率的に行われるためにサーバーでの大量複製というものが行われております。こういったサーバー内の複製も形式的には権利侵害の対象となり得るというものでございますので,今回の改正によって権利制限の対象にするというものでございます。
 この3枚目の4つの規定については来年の1月1日より施行ということになってございます。
 それから,おめくりいただいて4ページ目の国会図書館による図書館資料の自動公衆送信に係る規定の整備というものでございますけれども,これは繰り返しになりますが,ネットワーク化が進展する中で,広く国民が出版物にアクセスできる環境を整備しようという趣旨でつくった規定でございます。国立国会図書館におきましては,現在資料のデジタル化というものが積極的に行われておりますけれども,このデジタル化された資料を利用しやすくしようというものでございます。一番下にある絵に沿って説明申し上げますと,出版物の場合は納本制度によりましてほとんど国会図書館に納本されてございますけれども,この納本された出版物をデジタル化し,それをまず各公立図書館,あるいは各大学図書館等に対してインターネット送信して,利用閲覧できるようにするということ,それからこうした地方の公立図書館等におきまして,利用者がその送信された資料の一部をコピーして,その提供が受けられるようにするという形での権利制限を行っております。ここでいうと黄色の送信行為と,それから複製物の提供行為というところが著作物の利用にあたりますので,ここの部分を権利を制限して,自由に利用できるようにするということを考えております。ただ,今電子書籍市場の形成・発展ということが言われておりますので,そういったものの阻害にならないように,資料の送信先については公立図書館や大学図書館などに限定をしております。また,送信される出版物の対象範囲につきましても,絶版等,市場においての入手が困難な出版物に限るということとしてございます。本規定につきましても,来年1月1日より施行ということになってございます。
 それから1枚おめくりいただきまして,次に公文書等の管理に関する法律に基づく利用というものがございます。平成21年に公文書管理法が制定されまして,国立公文書館等の長におきましては,行政機関などから移管された重要な公文書などにつきまして,利用者が請求した場合,これは写しの交付をしなければいけないということになっております。また,こうして移管された重要な公文書を適切な記録媒体によって永久に保存しなければならないという義務が定められておりまして,利用者からの請求,あるいは適切な記録媒体による保存と,いずれの場面におきましても複製という行為が伴いますので,こうした複製といった著作物の利用行為を権利制限の対象としようというのがこの規定でございます。本規定につきましては今年の10月1日より施行ということとなってございます。
 それからもう1枚おめくりいただきまして,技術的保護手段,それからその回避規制についてということでございます。実は平成11年当時に既に技術的保護手段の規定というものは整備してございまして,当時まだVHSなどが主流だったものですから,そのVHSにかけられている,いわゆるコピーコントロール,このコピーコントロールを回避して複製する行為,あるいはそのコピーコントロールを回避することを可能とするような機器,プログラムの頒布といったものが規制の対象となってございました。ところが,最近皆様ご案内のとおり,DVDでありますとか,ブルーレイというものが主流になっておりまして,あらゆる機器におきましても,最近では暗号技術というコピーコントロール技術が使われております。したがって,こうした現在使われている主流の技術が対象となるように見直したところでございます。ただし,規制の内容そのものにつきましては,要は技術的保護手段の対象範囲を拡大しているだけでございまして,規制の内容そのものについては今般は見直しをしていないというところでございます。
 最後になりますけれども,違法ダウンロードの刑事罰化についてでございます。冒頭にも申し上げましたように,この規定に関しましては自民,公明両党の修正案提案という形で盛り込まれた規定でございます。もともと平成21年の著作権法改正におきまして,私的使用目的であっても,違法にアップロードされたものと知りながら,要は海賊版だと知りながら,権利者に無断で音楽,映像をダウンロード,ここでは録音・録画といっておりますけれども,する行為を違法としておりました。ただし,このときはあくまでも民事上の責任を負うだけということで,刑事罰の対象にはなっていなかったというところでございます。しかしながらここにもございますように,違法ファイルによる侵害,被害がいまだ深刻な状況にあるということで,今回の法改正によりまして,有償で提供,提示されている著作物,すなわちCDやDVDによる販売でありますとか,有料インターネット配信されている音楽,映画,こういったものに限りましては,違法にアップロードされたことを知りながら権利者に無断でダウンロードする行為,録音・録画する行為について,2年以下の懲役もしくは200万以下の罰金,またはこれの併科という形で刑事罰の対象となっております。
 なお,資料にもございますとおり,本刑事罰規定は親告罪と申しまして,権利者からの告訴がなければ公訴を提起できないという規定となっております。また,改正法の附則や参議院の文教科学委員会において出されました附帯決議におきまして,こうしたことがならないように国民への普及啓発,学校教育の充実,あるいは刑事罰規定の運用上の配慮ということが求められているところでございます。文化庁といたしましても,この違法ダウンロード刑事罰化につきましては,普及啓発,あるいは学校教育の充実といった一環から,別途Q&Aというものを作成して,現在文化庁のホームページ上に掲載させていただいております。ぜひごらんをいただければと思います。
 以上,大変足早で恐縮でございましたけれども,著作権法の一部改正についての説明でございました。

【宮田部会長】  はい,ご苦労さまでした。後でもよく一度ごらんになっていただいたらと思います。わりにわかりやすく,本来非常に厳しい,難しい問題がいっぱいあるんですが,ご説明いただきました。ありがとうございました。
 最後に,劇場,音楽堂等の活性化に関する法律でございます。これも芸術文化課よりご説明をお願いします。

【舟橋課長】  わかりました。資料の10をごらんいただきたいと思います。
 劇場,音楽堂等の活性化に関する法律でございますが,これは超党派の音楽議員連盟等で検討が進められまして,議員提出の法案という形で今国会に提出をされまして,去る6月21日に可決成立いたしまして,6月27日に公布,施行ということになっております。
 趣旨のところにございますが,まず現状,それから主な課題といたしまして,劇場,音楽堂等の施設の多くについては,文化会館などの文化施設であり,多目的に利用される場合が多いということ,また多くの場合は貸し館公演が中心になっているという現状があること,また,主な課題といたしまして,劇場,音楽堂等としての機能が十分に発揮されていないことでございますとか,芸術団体の活動拠点が大都市圏に集中している,こういった現状や課題を踏まえまして,法律の策定が行われたものでございます。
 趣旨といたしまして,このような現状,課題を踏まえまして,文化芸術振興基本法の基本理念にのっとって劇場,音楽堂等の活性化を図ることによりまして,我が国の実演芸術の振興,また心豊かな国民生活や活力ある地域社会の実現等に寄与すると,そういう目的でございます。
 概要は2のところにまとめておりますけれども,第2条から第8条におきまして,対象となります劇場,音楽堂等の定義,また劇場,音楽堂等の事業,また劇場,音楽堂等を設置運営する者,また実演芸術団体,それから国・地方公共団体の役割を規定しております。また,これらの関係者等が相互に連携すべき,連携協力することについて規定をいたしております。
 次に第9条から第15条におきまして,国及び地方公共団体が取り組むべき事項を明確にいたしまして,劇場,音楽堂等を取り巻く環境の整備を進める旨を規定いたしております。そして第16条におきまして,劇場,音楽堂等の事業の活性化に必要な事項に関する指針を文部科学大臣が策定することを規定いたしております。文部科学省におきましては,この第16条に基づきまして,今後,この劇場,音楽堂等の活性化に関する指針を年末までを目途といたしまして策定する予定にいたしておりまして,今後関係機関や団体のヒアリング等を進めながら,指針の策定を進めてまいりたいというふうに考えております。
 概要は以上でございます。

【宮田部会長】  はい,ありがとうございました。この劇場,音楽堂,それから著作権に関しては質問の時間をちょっと省略させていただいたんですが,もし,ご質問等があれば,事務局とメール等でやりとりをさせていただくということでよろしゅうございますか。その辺はよろしくお願い申し上げたいと思います。
 それでは,今後の日程について,事務局,お願いします。

【内田調整官】  今後の予定でございますけれども,既にご案内をさせていただいておりますが,次回,第3回の部会でございますけれども,8月6日(月)の15:00からを予定しております。また,その次の第4回文化政策部会でございますけれども,8月30日(木)の16:00を予定させていただいております。また引き続きよろしくお願いしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【宮田部会長】  どうもありがとうございました,先生方。忌憚のないご意見をいただきました。ありがとうございました。

── 了 ──

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