文化審議会第12期文化政策部会(第2回)議事録

平成26年5月29日

【内田調整官】  お疲れさまでございます。定刻ですので始めさせていただきたいと思います。
 まず,配付資料の確認からさせていただきたいと思います。お手元の資料ですけれども,資料1が,委員の御意見の発表資料,資料2が,文化政策部会の今後の進め方という資料でございます。この資料2に関しましては,前回配付させていただきました資料と全く同じものを参考として再び配付させていただいているものでございます。そのほかに,太下委員と宮田委員から別に配付資料がございまして,その資料もそれぞれ置かせていただいております。それと,今回からですけれども,もろもろの文化関係の資料を一つの紙ファイルにとじまして右側に置かせていただいております。この中には文化芸術関係のデータ集がございまして,この資料に関しましては,随時数値を更新させていただいておりまして,今回も幾つかのデータを更新させていただいております。
 配付資料の確認は以上でございますけれども,過不足あれば事務局までお知らせいただければと思います。
 それでは,以後の進行は,部会長,どうかよろしくお願いいたします。

【熊倉部会長】  皆さん,こんにちは。本日もお忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございます。
 本日は,皆様からのお一人ずつの御意見をお伺いしていく第1回ということで,少し長めに4時半までということで時間を取らせていただいております。お忙しい委員の皆様方におかれましては,途中で退席なさる方もいらっしゃるかと思いますけれども,何とぞどうぞよろしくお願いいたします。
 早速,本日の議題の方に移っていこうかと思います。順番に御意見を発表いただいて,これで次期基本方針や平成27年度の概算要求に生かしていくべく,審議の発端となればなと考えております。趣旨や意見フォーマット,委員皆様方の意見割り振り表などに関しては,前回も御説明しましたとおりですが,資料2の方に詳しく記載をしてございます。
 本日割当てをさせていただいた合計7名の委員の皆様方,順番に御発表いただこうと思います。お一人約5分と大変短い時間で恐縮なんですけれども,何とぞよろしくお願いいたします。
 では,はじめに,太下委員からお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【太下委員】  太下です。それでは,発表させていただきます。
 実は,資料1の方にもフォーマットにのっとって提出はさせていただいたんですけれども,一番バッターから恐縮なんですけれど,書いているうちに大分思いが余って長くなってしまいまして,別紙で「Design for Future」というふうにタイトルをつけました別とじの紙を作らせていただきました。こちらで御説明させていただきたいと思います。多分,淡々と御説明していると4時間ほどかかるボリュームなので,5分ということですので,タイトルだけの御紹介という形になってしまうかと思いますが。
 まず開けていただいて,基本的な考え方として,せっかく2020年という,ある意味,今世紀最大の大きなインパクトのあるチャンスを前提として大きな議論をしようということですので,従来の文化政策の視点とは違うような,そういう発想からいろいろな提案をさせていただければと思いまして,6つ視点をここで書かせていただきました。キーワードを読み上げますと,継承(legacy)ということ,国際交流(Openness),共有(Share/Commons)ということですね。それから,総合政策(Mash-up)ということ,それから,協創・協働(Collaboration)ということ,それから,逆転の発想(Creative Change)ということで,こういう6つの視点を設けました。それぞれに5つの提案をして,計30という形で構成させていただいております。
 簡単に次に参りまして,2ページ目ですけれども,まず継承(レガシー)という視点からは,マル1で,やはりオリンピックのレガシーとして,是非「アーツカウンシル」を設置していただければということです。中身はもう全て飛ばします。
 そして,2番目,やはりレガシーとして,「文化イノベーション省」という,文化の省を設立していただきたい。ただ,これは一足飛びには無理でしょうから,その第一歩として,まず職員の独自採用を文化庁でしていただきたいと,こういう提案です。
 続きまして,3ページ目,それから,マル3として,レガシー・システムとしての文化芸術教育の再構築を是非していただければと思います。例えば,今日本で欠けている分野といたしましても,欠けているといいますか,不十分な分野といたしましても,「映像」「演劇」「食文化」,こういったものの高等教育というのはほとんどなされていないのが実態です。
 それから,マル4,日本のパフォーミング・アーツの演出も含めた総合芸術としての継承と。最近ようやく戯曲とかのアーカイブは取組がなされましたけれども,やはりパフォーミング・アーツの場合は,演出も含めた総体が一つの作品となっていますので,是非これを新国立劇場等で演出も含めた型として継承していくのが望ましいのではないかなと思います。
 それから,マル5は,映画における日本独自の上映形態,例えば「活弁」等,こういったものをレガシーとして常時上映していく。この情報提供なんかをしていくことも必要ではないかという提案になっています。
 続きまして,5ページ目ですけれども,国際交流(Openness)という視点。マル1ですが,国際文化交流における「優先連帯地域」の設定というものがあってもいいのではないかと思います。これは,御案内のとおり,例えば,フランス,イギリスにおいては,かつての旧宗主国の立場ということではありますけれども,確実に優先連帯地域というものを設けています。
 マル2,日本の文化政策の成果の国際的な発信。例えば,アーツカウンシルの議論もそうですが,日本は海外から学ぶのは非常に得意ですが,日本の文化政策も今,相当な水準に達していると思います。是非これを国際的に発信していっていただきたいと思います。
 マル3,次の6ページ目ですが,UNESCO創造都市ネットワーク基金の設立。御案内のとおり,アメリカがUNESCOに対する拠出金をストップしていますので,そういった中で,一時期,この創造都市ネットワークの運営も滞っていたわけですが,今後そういうことがないように,是非日本が基金を設立して,この世界的な,国際的な創造都市ネットワークの活動を続けていけるようにすればいいのではないかという提案です。
 それから,マル4,「国立劇場おきなわ」,既に2004年に整備されておりますけれども,これを沖縄伝統芸能のためだけではなくて,東アジアの芸能センターとして再整備するのが望ましいのではないかと考えております。
 それから,続きまして,7ページ目で,マル5ですけれども,未来へ向けた新しい伝統音楽の国際的発信。今,世界の音楽潮流の中で,伝統的・民族的な音楽をベースとしつつもコンテンポラリーな要素を加えた「コンテンポラリー・トラッド」が非常にはやっておりますけれども,こういった新しい分野での国際的な発信というのはこれから必要ではないかと思っております。
 続きまして,8ページ目,共有(Share/Commons)という発想で考えますと,マル1では,「日本型著作権制度」。著作権の保護期間,これが著作者の死後50年というものを是非堅持すべきだと思っております。最近,TPPに加盟する関連の報道の中で,これが死後70年に延長されるという新聞報道等も見られますけれども,是非そういったことのないように,ここで堅持すべきというふうに考えています。
 続きまして,9ページ目で,マル2,2014~2020年を日本における「デジタルアーカイブ集中整備期間」にというふうに書いております。御案内のとおり,ヨーロッパでは「Europeana」,アメリカでは「Google」という形で,今,デジタルコンテンツのアーカイブというのが世界的な覇権競争が起こっております。日本だけ今取り残される感じになっておりますけれど,是非ここに集中的に取り組むべきと考えています。
 続きまして,10ページ目,マル3,著作権特区による「オーファンワークス・ミュージアム」の整備ということで,「オーファンワークス」というのは著作者不明,又は許諾が取れない,そういう孤児作品というものですけれども,こういったものを一種の著作権特区でどんどん二次利用できるような形にしていくべきではないかなという提案です。
 続きまして,11ページ目で,マル4,文化のオープンデータ政策と。公的な補助金で作られたパフォーミング・アーツ等は,その公演という生の舞台が終わってしまって,それで終わりではなくて,是非映像化,アーカイブ等をとり,それをパブリックに開いていくべきではないかと考えています。
 それから,マル5,パフォーミング・アーツの多言語化と技術提供による国際貢献。先日,新国立劇場でもグラス型で字幕が映るような社会実験等も行われましたけど,これを是非日本でいち早く技術として確立して,国内におけるパフォーミング・アーツの上演を多言語化すると同時に,こういった技術を是非世界にも提供していく形で国際貢献をすべきだと思っております。
 続きまして,12ページ目,総合政策(Mash-up)の発想による文化政策ということで,マル1ですけれども,スポーツ政策との協働ということで言いますと,オリンピックの競技,これはロンドンのときは26競技・302種目ありましたけど,これに日本の漫画・アニメのキャラを全て当てはめていく。これに民間スポンサーをつける形で,ある意味,勝手連的な応援をしていくと非常にオリンピックの競技が盛り上がるのではないかと,こういう提案です。恐らくお金は余るでしょうから,それを「オリンピック文化基金」として,今後の文化投資に使えばいいと思います。
 マル2,イノベーション政策との協働ということで,イギリスですとNESTAという組織,これが科学技術と文化をつなぐような新しいイノベーションの投資をしておりますけど,是非日本もこういう基金を設けて,新しいイノベーションのアートというものを生み出していくべきではないか,こういう提案です。
 それから,13ページ目,マル3で,高齢福祉政策や社会的包摂政策との協働と。こういう取組,既にいろいろありますけれども,これをもっと本格的に進めていくことによって,アーティストの社会的機能を国策として開拓していくべきではないかと,こういう提案です。
 続きまして,14ページ目,農業政策との協働ということで,熊倉部会長も取手等で取り組まれていますけど,「半農半芸」という形で,片や農業をやりながらクリエイティブな活動をする,そういうライフスタイルを地方自治体等と組みながら推進していく,これも1つの政策になり得るのではないかという御提案になっています。
 それから,15ページ目で,防災政策との協働ということですけれども,3.11以降,全国の自治体で「災害時応援協定」というのが同時被災しないような離れた自治体等で組まれるケースが増えていますけれども,こういう都市間において平時において交流する,そのツールとして文化交流が非常に有効ではないかと,こういう提案です。簡単に言うと,防災予算で文化交流をしようということです。
 続きまして,16ページ目,協創・協働(Collaboration)という発想ですけれども,日本に本部を置きます唯一の国際機関として国連大学がありますけれども,国連大学のテーマであります「平和と持続可能な社会」という,これにのっとって,日本政府と国連大学が協働で,世界で最も栄誉ある文化賞を作ればいいのではないかと,こういう提案です。
 それから,マル2,世界のアーツ・ファウンデーションとの協働によるアジア・ヘッドクォーターの整備ということで,日本に世界の巨大な文化財団のアジアブランチ,ヘッドクォーターを是非誘致すべきではないかと,こういう提案です。
 続きまして,17ページ目,マル3ですけれども,諸外国のアートNPO等との協働ということで,従来のアーティスト・イン・レジデンスよりも長く,しかも,アーティストやクリエーターだけではない,アートNPO的な方も含めてレジデンス政策を推進していくことで,日本語をきちんと理解してもらうコア人材というものをどんどん作り出していくべきではないかと,こういう提案です。
 それから,マル4,他省や地域の文化プロジェクトとの協働ということで,次の18ページ目にちょっとポンチ絵を描いてありますけれども,2016~2020年までにかけてオリンピックの文化プログラムというのが開催されますが,それにいろいろな施策を連動させていくべきではないか。具体的に言いますと,東アジア文化都市とか,全国で行われているいろんなトリエンナーレ,芸術祭,そして,国民文化祭とか厚労省さんの行っている全国障害者芸術・文化祭,こういったものをリンクさせていくべきでしょうと。しかも,2020年は恐らく各都市で非常に要望が高いでしょうから,東アジア文化都市は複数都市で開催した方がいいのではないかと,こういう提案です。
 それから,マル5で,国,地方自治体,指定管理者の協働による「劇場・音楽堂」の継承ということですが,この三者がアライアンスを組むことによって,ハード面の追加投資を確約した形で長期の大型の補助を出していこうと,こういう提案になっています。
 それから,21ページ目に飛んでいただきまして,逆転の発想(Creative Change)ということですけど,マル1は,前回申し上げました「ロンドン・プラス」という,ロンドンのときに行われた観光政策を,これは逆転の発想で,東京で行うときは「プラストーキョー」ということで,全国の地方にある国際空港に海外から入ってもらって,地方都市にステイしてもらい,新幹線等を使って,競技を見たいときには東京に通ってもらうという。その際に,地方都市にステイしてもらう魅力付けの1つに,この文化プログラムは大きく貢献するのではないかと,こういう提案です。
 それから,マル2,「文化に携わる職業」を未来へレガシーとして創造するということです。御案内のとおり,前回(1964年)のオリンピックのときには,「デザイナー」という存在が社会から注目されて,職業として確立しました。今回(2020年)も,今はないかもしれないけど新しい文化に携わる職業が職業として確立するような,そういうことを目指していくべきだと思います。まだ6年ありますので,きっと間に合います。
 マル3,“官製”海賊版によるクール・ジャパンの海外発信。これは放っておいても,皆さん海外のファンがどんどん海賊版を作っちゃいますので,そうではなくて,日本に来ている留学生の方に協力してもらって,オフィシャルな海賊版を先に発表しちゃおうと。そのことがいろんなコンテンツのプロモーションになるのではないかと,こういう逆転の発想の提案です。
 それから,マル4,23ページ目ですけど,日本の温泉宿全てをアーティスト・イン・レジデンスにしたらどうかと。昔の文人墨客,いろんなところに行って休養して,書いたことが,今になってみると,その土地土地のレガシーになり,しかも,観光名所になっているわけですね。それを考えると,全国の温泉宿がスペースを提供して,多少自治体が補助するような形でやれば,芸術家が創作をしに行くのではなくて,休みに行くという環境が全国ネットワークでできるのではないかと思います。これのアーティストの選定とかマッチングを国が側面からサポートすれば,日本全国の温泉宿がそのままアーティスト・イン・レジデンスになるという,こういうすてきな提案です。
 マル5,最後ですけれども,こういったことをやるためにも,文化政策を持続可能にするための新たな財源の確保をしていくべきだと。普通に考えれば,文化庁の予算をもっと増やしていく,2倍にしていくべきということでしょうけれども,それはそれとして,全く別の予算,例えば,今議論になっているようなカジノ,これの収益を文化に投資するような,そういう違う発想があってもいいのではないかと,こういう御提案です。
 すいません,10分ほどかかってしまいました。でも,4時間はかかりませんでした。

【熊倉部会長】  盛りだくさんの御提案,ありがとうございます。
 続いて,加藤委員,お願いいたします。

【加藤委員】  では,発表させていただきます。太下委員の大変具体的かつ斬新な御提案に比べると,極めて堅い話で恐縮なんですけど,御報告させていただきたいと思います。
 今,2020年を目指して,先般大臣のお出しになったビジョンは,ポイントとしては非常にいいところを突いておられるかなと思って,3点の重点には非常に共感をしたところがあります。
 今日特に御提案したいところは,社会の全ての領域で創造性あるいは文化というものが機軸となるような社会形成を目指すべきではないかと。環境が,20年ぐらい前は誰もそんなものは何が必要だと言っていて,ごく一部の環境専門家の方以外には関心がなかった。にもかかわらず,今日,全ての社会領域において環境に対する配慮抜きに何も前に進まなくなった。つまり,環境は社会の内部化に成功したと思うのですが,創造性,文化というものが社会の内部化に成功していくべきではないのかなと。
 特に私どもは,もともと経済領域に生きている者から見ると,今の経済と文化の関係はややいびつかなという理解をしています。むしろ経済そのものをもっと創造性を高めていく必要があるのではないか。経済的価値がある文化に今非常に着目されているわけですが,コンテンツ産業その他,お金になるから応援しようという気運があるわけですが,それはそれで別に悪いことではないと思いますが,文化そのものには価値があるので,そうした創造性という価値から言うと,経済をむしろ文化によって創造的に変えていくということができるのではないか。この点にこそ注目すべきではないかなと思っております。
 2009年のリーマンショックのときに,メセナ協議会は「ニュー・コンパクト」という政策提言を行いました。この趣旨は,骨子は何かというと,経済政策だけで社会再生をすることはできないんだということを申し上げたわけです。特に文化,創造性,特に地域社会における創造性に集中的な投資をしていくことによって社会を再生していこうと。その手法として,経済的な側面で言うと,「コンパクト経済」というものを提案をいたしました。これはいわば広い意味での「創造的経済」,創造経済の一つの手法だというふうに我々は考えています。これを今説明すると太下さん以上に時間がかかりますから省略しますが,そういう考えを持っているわけです。それを世界経済のレベルにおいても提案していきたいというのが私どもの願いで,現在のいわば金融至上主義の経済をもっと実態に即した経済に転換し,創造性によって新たな経済を生み出していく必要があるのではないかというふうに思います。
 2020年に向けていろいろなプロジェクトが展開をされるわけですが,ゴールはむしろ2020年以降だろうと。これは絶好のチャンスであり,非常にいい契機になりますが,創造的社会のゴールを2021年以降に引き継がれる,これは既にまとめたこの御提案のそれぞれに全て共通していますが,レガシーという言葉を使って,部会長が特に何度も何度も言っておられることですが,そうした先に残っていく,そういう展開をしていくべきだろうと思います。
 特に着目していますのは,地域創造に寄与する制度づくりと世界の相互理解のための制度づくり,そうしたものが必要なのではないかなと。それらを同時に解決するような手法はないだろうかということを考えたいと思っております。
 特に少子高齢社会にあっては,今まで文化というものは鑑賞中心型というか,ともかく広く国民に優れた文化の鑑賞機会を提供するといいという考え方があったわけですが,むしろ高齢者を含めた創造体験型といいますか,より参画をしていただくというものに変えていく必要があるのではないかなと。オリンピックはパラリンピックと両方行われるわけですから,そのパラリンピックにおいて障害者に視線が集まっている,そういうことから言うと,自己表現の社会化といったようなことができる制度づくりが必要なのではないかなと。
 文化政策の面においては,文化政策の検証機関として機能するアーツカウンシルを本格的に実施していく必要があるのではないかと思います。これは何を言っているかというと,現在施行されているアーツカウンシルは,個別分野の個別プログラムについての検証というようなことがなされているわけですが,それらは必要ないというわけではありませんが,そうしたことが必要ではありますが,より重要な点は,政策全般,そもそもこうした施策が,本来国が目指していた政策に合致しているのかどうか,そのところを検証する必要があるだろうと思います。あわせて,国側に現在不足していると私が思っているのは,国自体に文化政策研究機関というものが必要なのではないのかなと。国レベルでの文化政策の専門家の養成――こんなことを言うと,もう十分専門家だと言われるかもしれませんが,より専門性の高い人たちが必要なのではないかと思います。
 具体的な展開で,次の4ページ目の部分ですけれども,まず地域振興と国際交流について,実は現在幾つかの地域で既にもうもちろん実施もされているものもありますが,国際フェスティバル,トリエンナーレのようなものが全国で計画あるいは検討されている事例が少なくありません。そうした国際芸術祭の開催というものが,地域社会と国際発信・国際交流の両方の目的を同時に実現するものとして重点的に全国展開をされるといいのではないかと思っております。その支援体制を強化し,国際芸術祭の開催については,特に,例えば数年の継続した事務局体制の維持とか,あるいは,市民が主体的に参画する仕組みづくり,そうしたことに重点を置いていく必要があるだろう。具体的に,今まで余り注目されていませんが,今後特に重視すべきなのは,郷土芸能やお祭といったような地域に残る全ての遺産,有形・無形を問わず全ての遺産を資源化して,地域ブランドを生み出したり,地域の高齢者が中心になって運営をするというような,あるいは,滞在型文化ツーリズムによって都市から若者を引き込むというような国際展開を,特に被災地を含めて全国展開していく必要があるのではないか。
 1つだけ例を御紹介しておきますと,さいたま市が2016年に今トリエンナーレを計画しています。これはもう実施することは発表されていますが,そこで,まだもちろん内容は細かく決まっているわけではありませんが,私の夢としては,「敬老国際芸術祭」というテーマが打ち出せないかと思っています。基本的に65歳以上の人が参加するのだと。普通の国際芸術祭は,みんな若い人を参加させようとする。若い人も参加していいが,敬老の精神を持って参加してください,そういうものにできないかなというふうに思っています。
 いずれにしても,企業メセナ協議会としては,震災被災地の郷土芸能等を支援する「百祭復興」というプログラムを中心にGBFundというファンドを立ち上げましたが,これを強化・発展させて,今後地域創造と国際交流に目的限定した「2021年社会創造ファンド」というものを立ち上げたいと思っております。今年度中に是非実施,立ち上げを行いたいと考えております。
 ここで1つだけ懸念されることは,こうしたファンドを形成していくということが,これまでせっかく企業が様々な自発的な活動をやっておられる,それを阻害するようであってはならないので,むしろそれらを助長する方向性でやりたい。そうした気運の醸成と,それにもかかわらず,必ずしも独自のファンド形成ができないというような企業や個人の受皿として,こうした基金を作っていきたいというふうに思っています。
 こうした気運を盛り上げるために,郷土芸能を含めた文化の多様性を実感できる文化交流と仕組みづくりを議論するような国際会議も,今後重点的に開催していくべきではないかと考えています。
 それから,もう一つ,特記事項といいますか,国の文化施設の強化の面で,沖縄文化振興というのが非常に重要だと考えていて,先ほど太下さんも触れておられましたが,「国立劇場おきなわ」の機能強化というものをやるべきではないか。これは,実際にこの劇場を拝見しますと,毎日やっているわけではないという不思議な現象があるわけです。普通,日本の方々は文化の施設は毎日やっていなくても不思議に思わないんだけれども,そういうことはあり得ないんで,沖縄へせっかく行って,沖縄の様々な芸能がここへ行くと見られると思って行くのに全然見られないと。そういうところを今後改善していく必要があるのではないか。専属の俳優等をここに設置をして,機能強化を図っていく必要がある。
 それらを実現するために,予算の面で3点提案をしておきたいんですが,地方における国際芸術祭支援のための予算組みというものが必要ではないか。
 2つ目に,「国立劇場おきなわ」を機能させるために,年間30億程度の予算は当然組むべきではないか。
 それから,国の政策研究機関創設のための予算も計上されてはいかがかという点です。
 ありがとうございました。

【熊倉部会長】  では,続きまして,佐々木委員,お願いいたします。

【佐々木委員】  資料1の6ページ,7ページに書いておりまして,先ほどの二人と重なる点もあるのですが,まず基本的視点ということでは,2020年代以降の世界経済のトレンドというのは,明らかに従来型の製造業に代わりまして,創造的文化産業と言われる一群の産業群の比重が増大しますので,「創造経済」に向かうのは間違いない。これはUNCTADやユネスコなどの国連の機関で3回にわたってレポートが出ておりまして,今や途上国も含めて,この方向に向かっておりますし,ダボス会議でも2年前にこれがテーマになっております。すなわち,文化芸術が新しい産業を生むだけではなくて,既存の製造業の質的転換を図る重要なインフラになるということの認識が必要になるだろうと。
 それから,2番目は,最近特に世界的に,日本だけではなく,大規模な自然災害が多発しております。この中で,レジリエント・ソサエティという言葉が認識されておりまして,これは生態学で復元力のある社会ということなのですが,日本ではこの言葉は強靭化というふうに理解されたので,国土強靭化法となっているわけです。同じ言葉なんですね,これ,レジリエント。私はやっぱりコンクリートだけでは復元力はないと思っておりまして,文化芸術の創造力が,むしろコミュニティの復元力をもたらす本質的な力があるだろうと思っております。この2つの点から,明らかに国の中で文化芸術予算の予算優先順位が,先進国に比して非常に低いわけです。これを抜本的に上げていかなくてはいけないという問題にチャレンジしていきたいと思っております。
 3番目ですが,言うまでもなく,2020年に向けて東京が突出して頑張れば頑張るほど,日本列島では東京再集中が起こるだろうということはだいたい予想されることでございます。最近,滋賀県や京都府や兵庫県の知事さんたちとお話をする機会がございまして,一様に,このままいくとまた関西が沈没すると。何とか関西,あるいは西日本全体を含めた文化プログラムというものを取りまとめて,そして,東京再集中へいかない方向というのは出せないだろうかということで,相談を受ける機会がありました。あわせて,つい最近の国土交通省の発表などでは,限界集落がいよいよ増えてくるということでございますので,特に限界集落などでも文化芸術をどうその再生に役立たせるかという,こういう施策が大事だろうと。
 この3つが基本的な考え方でございまして,7ページの方へ行きまして,具体的に,地域を元気にするということで,今ほど加藤種男委員も言われましたけれども,やはり各地で実験的に取り組まれている様々なアートプロジェクト,あるいは国際芸術祭というものを数回で終わらせてはいけないので,これを継続開催させるための資金的・人材的支援というのは特に重要であるだろうし,現在私も関わっておりますが,創造都市ネットワーク日本という形で,北は札幌から南は九州の久留米あるいは沖縄まで含めて,34の自治体がこれに加盟しているわけですが,このネットワークを更に広げていくということのための支援が必要だろうと。
 それから,3番目に,文化発信・国際交流についてでございますが,先ほど太下委員も言われたように,それから,今の創造都市ネットワーク日本とも関係がございますが,ユネスコが進めておりますグローバルな創造都市ネットワーク,これは現在世界で41の都市が入っておりますが,現在60余りの都市が審査を受けておりまして,今年の11月末にはこの結果が出てまいりますと,恐らく半数,つまり30余りが今年度だけで加盟が増えるということですので,早晩100を超えるような大きなネットワークになってきます。ここに対して,実はアジアでは中国,韓国が積極的な国の関わりで,様々なユネスコと組んでシンポジウム,あるいは支援策を講じております。とりわけアフリカとか途上国の都市に対する支援をしております。これを指をくわえて見ているわけにいきませんので,日本としても積極的に支援をする方向性が必要だろうと。
 それから,本年から東アジア文化都市事業が始まりまして,今日はお見えでないかな,横浜市が日本の代表として頑張っておられて,私も横浜の副実行委員長として中国,韓国の都市との交流に出てまいりましたが,3年ごとに日本が1つの都市を回していくことになっていますが,中韓は毎年でもやりたいと。それから,できれば常設のネットワークの事務局は自分の国の都市でいきたい――これは韓国の光州市です――非常に強い意向がありますし,東南アジアの都市ネットワークの連合があるんですが,これも加えていきたいという姿勢があります。したがって,日本側としても,日中韓の三国で始まった事業ではあるのだけれども,早晩というか,早い段階でASEANプラス3,この枠組みの方に移行するような,そうした方向性があった方がいいだろうと思います。
 それから,4番目に,体制整備についてでございますが,先ほど来アーツカウンシル,国としての設置の問題を両委員が言われましたが,このときに,イギリスはそうなんですけど,アーツカウンシルを国で一本というのではなくて,アーツカウンシル・スコットランドとか,5つぐらいの広域圏でアーツカウンシルを国として設置する方向がいいと思います。そして,分権的な文化芸術振興体制をとるということにならないかということ。
 それから,ちょっと書き忘れているんですが,せっかく今回オリンピック・パラリンピックを一緒にやるわけですから,同じ体制で,パラリンピックの時期に,世界の障害を持ったアーティストの方にお越しいただいて,障害者のアートについても特別の取組ができないだろうかと思います。
 それから,最後,27年度要求に関連していきますと,「文化立国中期プラン」では,創造都市ネットワークの自治体を全自治体の1割,170とするという方向性が書いてございますが,今年度,京都府庁内に文化芸術創造都市振興室が設置されております。私もそれに関わってございますが,これを創造都市に関する国内外の政策・資料・研修センターとして充実させる方向に向けた予算化ができないだろうかということでございます。
 以上でございます。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 では,どんどん行きたいと思います。お待たせしました。武内委員,お願いします。

【武内委員】  武内です。文化のプロの皆様の中で,ちょっと素人くさい発言ばかりで恥ずかしいんですけれども,短くやらせていただきます。
 コメント幾つか書いていますけれども,大きくは参画の仕組みと発信の仕組みを,この機に,ちょっと経験的なところから検討いただきたいという話になります。
 まず,主に参画の件ですけれども,このはじめのところに,文化活況の状況を作り出したいとか,それから,発信の場づくりを「産・学・官・民」,順番はいいとして,連携により行いたいとか,そういうふうな形で書かせていただいていますけれども,それとの被災地というのを最初に挙げております。
 次ページに,次の項目のところで挙げてあるんですけれども,なかなか文化は,私なんかですと,言葉を聞くだけでハードルが高いというふうなところのイメージもあるんですけれども,本当にいろんな分野の方々,最近,本当に事業を行うにおきましても,チームジャパンであるとか,チームどこどこということで,チーム化して,いろんな立場の方々が参画して作っていくというのが絶対必要とよくありまして,文化に関しましても,非常にそこにアクセスしやすい方から,いろんな広くそこに入っていきやすい仕組みづくり,そういう意味で,「マッチング」機能のプラットフォームという言葉を使ったんですけれども,こういった形について支援をしていく若い方も取り入れていく。今ここには挙げていませんけど,先ほどから年配の方々,障害者の方々という言葉もありまして,なるほど,そういうふうなことも広く取り込むといいなと思ったんですが,そういったプラットフォームづくりをやっていきたいというところが,参画の仕組みづくりとしてあります。
 それから,発信する方としまして,そういったものができて,いろんな場が,ものができるとして,発信,今もいろんな仕組みが既にあることだと思うんですが,私の専門としておりますMICEの部分でいきますと,この場面を機会であったり,場所であったりということで,うまく活用できないかというのが1つ思うところです。国際会議と言いますと,特に国内外,海外の発信力のある場面ということがありまして,あわせて,MICEの誘致側,開催側も,そういった文化的要素について,回りきれないところもあるんですけど,求めている部分というのがありますので,これもある種マッチングとしまして,誘致であるとか,開催であるとか,そういった場面に文化を取り込める,そういった発表・発信の場を作れるような仕組みづくりができないかと。これが後の予算的なところの支援も含めてやると,非常にそこの場が作りやすいということがあります。
 そして,場所という意味で,3枚目に書いたんですけれども,今,実はオリンピック後のスポーツ施設をMICEに活用できないかというお問合せというか,ヒアリングをよく伺います。そういった場所の問題。あわせて,各地方自治体等でMICEの施設を,改修と併せて新設をということで,「ハコモノ」大丈夫かというふうな話も起こっているんですけれども,この活用,もちろん,MICE自体で使うということもあるんですが,必ず非常に入りにくい,ホテルで「ニッパチ」とか言いますが,大体この時期はすきやすいということがありまして,そういった場所自体を有効に文化に活用するという企画が何かできるのではないかということで,そういった場所に対する提供,そういった発信の場づくりというふうなことも御提案の中に入れたいと思います。
 そういった意味では,こういった誘致のシステムの中で,それから,そういったマッチングシステムの形,それから,場を提供するところによる若干の支援,そういったところでの予算化が可能であれば御提案したいということで挙げております。
 以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 続きまして,では,馬渕委員,お待たせいたしました。お願いいたします。

【馬渕委員】  私がここで意見をお出ししているのは,まず,非常にいろいろな視野から,非常に広い大きな御提案がいろいろあるだろうと思いましたので,むしろ国立美術館をお預かりしている立場として,一体今何をやらなければいけないのかということを考えて,とりあえず4つの御提案をいたします。
 それはどういうことかと言いますと,国立美術館というと,展覧会をやったり,作品をお見せしたりする場所というふうに考えられておりますし,実際にそういう機能もあるわけですけれども,そして,見かけというか,外から見たところ,日本の場合は華やかな展覧会活動,あるいは,一般の収集活動をさせていただいていると。しかし,そういう表向き,外から見える部分に比べまして,そのベースとなる保存・研究という部分が非常に遅れているというふうに私は思います。それはやはり国際的な――国際的というのは,欧米諸国と比べて,やはりそういう作品の保存や研究の制度というのがまだまだ追いつかないという意味で,今後更に飛躍・発展していくためには,その部分をきっちりしていかなければいけないのではないかと考えて,まずデータベース化ということ,これは御提案するのは,度々いろんなところで出てきておりますけれども,データベース化をただすればいいというのではなくて,そのデータベース化に伴って,やはり非常にきっちり,何が必要なのか,データとして必要なのか,それから,それを裏付けるものは何かというような,そういう部分をもう少し専門性を高くしていかなければいけないだろうと思います。
 つまり,今までは西洋美術に関しては,西洋の方から問い合わせ,あるいは閲覧の希望というのはそれほどなかったわけですけれども,今後,特にアジア地域から日本の西洋美術の収集に関して,あるいは作品に関していろいろ照会があるだろうと考えます。つまり,アジアにおいて,例えば,国立西洋美術館というのは,唯一の西洋美術のコレクションを持っている機関でありますし,それから,国立美術館の持っている作品というのは,日本の近現代,そして西洋の近現代,そういったものを収集しておりますので,アジアにおいてそういった関心,あるいはニーズに対して応えることができるのではないかと考えます。
 それで,当然,ですから,そのために,より精巧なアーカイブを作り,そして,それを発信していく。そして,既に収集している作品を今後長く,次の世代,次の次の世代まで継承していくためには,保存・修復ということを欠かせないわけです。さらに,作品をいかにきっちりと収蔵していくかという,この辺の,面に見えてこないけれども,いわゆる美術館活動において欠かせない部分というのが,特に今後必要になってくると思いますので,そういった部分のサービスというのではないですけれども,足元をきっちり固めていきたいと考えます。
 それから,今申し上げたように,アジアというのを視野に置いた場合には,やはり西洋美術のコレクションを持っているアジアにおいて唯一の美術館である国立西洋美術館,あるいは国立国際美術館等が,やはりそういった日本における文化資産をアジアに巡回し,そして,それを紹介するという使命も持っているのではないかと考えますので,設備の整ったところから,なるべく,日本の紹介をするという以上に,日本が持っているそういった文化資産を巡回していきたいと考えています。
 それから,2020年,東京オリンピック・パラリンピックという機会がありまして,それは,特に美術館活動としては非常に面に出てくる華やかな部分でありまして,そこでどれだけの新しい視点で,どれだけの内容のあるものをお見せできるかというのは,それは問われていることだと思いますので,それに関して特に重点的に取り組んでいきたいと思っています。例えば,オリンピックという,特に人間のスポーツと身体に関する,考える大きな機会であると思いますので,人々がスポーツと身体の関わりを古代からどういうふうに考えてきたのかというようなことが理解できるような,そういった展覧会の実行の準備にかかっていきたいと思っております。
 それから,4番目は,これは度々この会議でも出てきておりますし,隣にいらっしゃる宮田先生がもう中心となって御活動いただいている「上野の杜文化ゾーン」という,そういう視点ですね。その発想はもう立ち上がっておりますが,実際に何をどうアピールしていくのかというような点において,国立美術館としては,その中の一つの建築物としての,ル・コルビュジエ設計の建物を所有しておりますので,それが世界遺産としてもし登録されることになりましたら,文化ゾーンのシンボルとして非常に大きな役割を果たすのではないかと考えます。
 基本としては,当たり前の美術館活動なわけですけれども,やはりここで少し表に見える部分以外の部分の整備をするということ,それから,それを研究の中心となるべく,様々なサービスに応えられるようにしていくという,そういう視点を持ち,あえてオリンピックでなくてもいいのではないかと言われるかもしれませんが,特に海外から注目される,そういう時点において,非常に丁寧に,そして,足元を固める活動をやっていければというふうに思って,ここではよそ様にどうしてほしいとか,あるいは,みんなでこういうふうにしましょうということではなく,私どもが何を責務としてやるべきと考えているかということをここに御紹介いたした次第でございます。
 以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 では,続きまして,宮田委員,パワーポイントを御用意していらっしゃいます。

【宮田委員】  宮田でございます。発表の機会を与えていただきまして,ありがとうございました。
 今回の事項について,5分間ちょっと御説明させていただきます。大学の中で議論をしましたところ,30ページを超えてしまいました。とてもそれをここで御披露するわけにはいかないので,非常に簡略に発表させていただきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。
 まず2020において,それを見据えるということにおいたときには,どのような視点があるのかということを考えたときに,グローバル化の時代にできる高度な専門人材の育成と機関連携の推進ということを考えなければいけないだろうと。
 もう一つは,総合的な文化資源アーカイブのシステムのネットワーク構築,これは大変大事だと思います。今までの先生方の中にも,そのようなお言葉が随所に含まれていたような気がいたします。
 そして,人材・文化資源等のリソース活用による芸術文化情報のコンシェルジュ機能,これを強化する。今,上野の山などは,ほとんど日本語よりも多言語化された環境の中にあります。その中で,いかにそれをどうさばくか,あるいは,どのように人が動いていけるかというようなときには,どこかに必ずコンシェルジュの機能が必要ではないか。そうしたときに,文化芸術情報のコンシェルジュというものをきちっと作らなければいけないと思っています。それをすることによって,日本の文化芸術がよく海外の人に理解されるというふうなことを考えるということでございます。
 そして,4番目に,芸術教育研究機関における地域の中核的な拠点としての創造的再生。何と言っても,そのコンシェルジュも含め,アーカイブも含めて,人的な頭脳の構築ができるような環境づくり,教育機関,これも併せて並行して動いていかなければいけないのではないかと思っております。
 2020に向けて,文化庁の方から,“人をつくる”,“地域を元気にする”,“文化発信”,そして“体制整備”ということでありますので,人をつくるということにおきましては,大学・文化施設等の“地域中核拠点”としての機能を高めるということ,これは今申し上げたことでございますが,機関同士の連携強化,これはもうそれぞれの,日本人特有なんですが,自分のところはとてもすばらしいことをやっているんですが,自分の得意・自分の不得意というのがある。隣のうちには得意と不得意がある。それがそれぞれ違っているときに,融合することによって両者が得意・得意になれる,ウィン・ウィンの関係ができるというふうなことをこれからは十分に図っていく必要があって,この小さな日本の国でも確実に文化大国として発信できるということを感じております。特にこのグローバル化がされたときに,新たな芸術文化を作るときには,高度な専門人材を育成することが必然ではないでしょうか,そんなことを感じました。
 そして,“地域を元気にする”ということにおきましては,総合的な文化資源のアーカイブシステムのネットワークを構築すること。そして,今,馬渕先生もおっしゃっておりましたけれども,博物館や美術館,この辺のポテンシャルを,十分にそれぞれの個性を発揮する。同時に,昨年度から文化庁が大学の支援ということもしていただいておりますが,やはり大学の持つ人的な豊富な組織というのがございます。それを大いに文化施設の中に組み込むということによって,資源のリソースの活用がより多く発信できるのではないかというふうな気がしております。そして,当然,そのことは,東京のみならず地域の振興や活性化を図ることになるのではないかという気がしています。
 そして,“文化発信・国際交流”でございますが,これはもう何と言っても我が国の芸術文化の価値を,英語のみならず,少なくとも中国語,韓国語,そして,同時にイスラム圏にまで視野を広げることによって,多くの観光資源が得られる,国際交流ができる。文化芸術の世界は,グローバルの人材を作りやすい環境にあります。というのは,1つの例でございますが,絵画を見たとき,彫刻を見たときに,それぞれの国の言葉でも語れるけれども,それを共通言語とすることにより世界言語ができるのではないか,そして,それぞれの国の特性も生かせるのではないか,そのようなことが考えられます。そうすると,より我が国の芸術文化が国際交流の中に発信できるのではないか,そして,活性化できるのではないかというふうに考えました。そういうことでございます。
 最後でございますが,芸術と社会の体制でございますが,やはりアートマネジメント,アーキビスト等の高度専門人材の育成や,国際舞台で活躍できる傑出した芸術家の育成等,関係機関の連携によって総合的に推進することができるのかと思っております。
 何はともあれ,先ほど馬渕先生からもちょっと御紹介がございましたが,皆さんの机上に配付しております私のこのプリントの中にございますが,最後の2つのペーパーでございますが,上野の杜芸術文化都市構想,これを,私,先般,下村大臣のところにこのペーパーを持ってまいりました。何しろ,この文化立国を世界に発信する,21世紀ということで,ちょうどこれは2020にも適合するし,その後の流れにも適合するのではないかと思っております。裏を返しますと,ちょうどこの上野の杜というのが,何とロンドンやパリやワシントンと非常によく似ている環境にあります。しかし,ここには20幾つを数える機関がございます。国と,民間と,それから,私のところにあるような教育機関と,いろいろな総合された,これは世界にない環境でございますが,しかしながら,それぞれがその連携がいまいち取れておりません。今うまく取れているのは,東京都美術館と東京芸大の関係があります。それは「とびら」とか「あいうえの」とか,そういうふうなことで連携をしたときに,先ほど申しましたが,得手・不得手が,実に得手・得手,ウィン・ウィンの関係がよりよくできておりますのを,これを全部の環境の中に作っていきたいという話をしたところ,大変喜んでいただきまして,すぐその足で青柳文化庁長官のところ,そして,河村次長さんのところに同じこの話を持っていきました。1時間の中に全ての先生方に御協力,それから御賛同を得た。そして,今,ワーキングが進んでおります。昨日のワーキングでは,一番ネックになっておりましたが,JRさんが非常に協力的なお返事を頂きましたので,あの上野の杜の中のインフラをより整備して,今後はメトロさんとか,いろんなところとの関係も作っていくことによって,町との関係がよく出来上がるのではないかと思っております。
 最後は蛇足でございますが,蛇足と言うにはちょっとおこがましいんですが,自分の内々の話をするんで申し訳ないんですが,やはりこの構想の中には,International Resource Center of the Arts,IRCA,つまり,仮称でございますが,国際芸術図書館と,これはあんまりいい言葉ではないんですが,さっと読んだら,イルカと呼んでいただければ結構だと思います。IRCA構想ということでございまして,これを作ることによって,私どもの大学をより広く門戸を開けて,土地も提供しましょう,そして,コンシェルジュの機能を作ろう,よって,上野の杜がより,ばらばらになっているものが組み合わさっていくような環境を作っていけたらいいのかなと思っております。
 先ほど,たしかどなたか先生が,障害とアートというお話を頂きました。大変うれしく思います。東京芸大は,今,2つの大きな柱で,アートと障害ということで,もう発信しております。それがオリンピック・パラリンピックに照準を合わせて動いております。同時に,今ここにありますが,コンシェルジュと同時に,日本の深い芸術文化というものと世界との結びつき,人との結びつきというのを,このIRCAの中でやっていきたいと,かように思っています。この構想は,当然のことながら,国のお力も必要ですが,民間のお力も導入して,大きな柱で持っていきたいと,かように思っております。
 時間が来ましたので,この辺で私の発言は終わらせていただきます。ありがとうございました。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 それでは,最後に,三好委員,お待たせいたしました。お願いいたします。

【三好委員】  意見発表の機会を頂きましてありがとうございます。大分もう時間も過ぎていますし,最後になりまして,皆さん方からいろんな御意見があったので,そことできるだけ重ならないように話をしていきたいと思います。
 それで,この意見を申し上げるに当たって,文化芸術立国中期プランと,それから,今回の諮問文を改めて熟読させていただきまして,その上で,特に芸術文化を振興する意義は何かという原点に返って基本から考えるということで,少しまとめさせていただこうと思っています。
 まず質問1についてでありますが,芸術文化というのは人が人らしく行動するために欠かせないものであるという,その基本にたって,その振興を考えていくことが重要であろう。また,地域づくり,経済活動,人的なつながりなど人が行動し生活する全てに芸術文化というのは関係しているんだということを,ここでやっぱり再認識した上で話を進めていきたいなと思っています。特に芸術文化というと,どうしても文化関係者だけが議論する傾向がやや見られるわけですけれども,やはりそれだけではなくて幅広く議論することが必要でありますし,そういう場を作っていく。今回も,この審議会部会の委員の中では,そういうことにも御配慮いただいているようでありますけれども,是非そういう議論をもっと広げていく必要があるだろう。どうしても芸術文化というと,人のやっていることに余り意見は行かないという,意見を控える傾向があって,それが結果として関心の低さということにどうもつながっているのではないかというのが,多分,多くの国民に共通することかと思っております。ということで,何か話題性のあるものだけが文化と思ってしまうということのないように,やはり基本的に芸術文化というのは創造活動を基本としているという,そこのところをきちっと認識しておくという必要があろうかと思います。
 特に2020年以降は本格的な高齢社会,人口減少社会を迎えることになるわけですので,そのことを念頭に置いて,これから2020までの数年間に準備を進めていく,それが今回のこの文化振興方策の基本ではないか。したがって,そこにどのような社会の課題があるのかということをやっぱり明確にしておく必要があろうと思います。
 そこで,幾つか具体的な内容を申し上げますと,まず1つは,子供や若者が国際社会において行動できる人材として育つことであります。最近よく言われているのは,外に出ない,内向きである,外国に行くことを余り好まないという,そういう仲間だけの社会というのが,別にそれは子供に限らないかもしれませんが,我が国の中では非常に多い。特に子供や若者,これから社会を背負っていく方々にとっては,我が国の活力を高めていくためには,国際関係,特に国際社会で活動できるということが必要でありますし,そのためには,やっぱり芸術文化の素養というものが人格形成にとって不可欠であるということをきちっと認識しておく必要があるだろうと。
 それから,2つ目には,これも先ほど出ていますが,障害者や高齢者などにとっては,芸術文化というのが,自分たちの生きていく価値を見いだすという意味で,非常に意義のある活動。単に障害者に見せる,高齢者に見せる,あるいは,単に参加するだけではなくて,彼ら自身がどう主体的に関わるかということが重要であるということであります。
 それから,3つ目には,地域の問題ですが,それぞれの地域が育んできた地域の個性を芸術文化を通して表していくということが重要であります。地域の個性というのは,自然的な要因と人的な要因とが重なって作り上げられてきているものでありますので,その活動として,それぞれの地域の文化を継続させていくということが重要であると思っています。
 2020年というのがオリンピック・パラリンピックの年として世界から注目が日本に集まるわけでありますし,これまで半世紀,経済活動で世界の人たちから評価をされてきたわけですが,これからは人間として生きることの意味を世界に先駆けて問いかけるという,そういうための文化振興を是非2020に向けて進めていく必要があるのではないかと思っています。
 質問2-1については,1から4の全てを挙げました。ここで言っている2-1の1から4は,いずれかを選択するという性格のものではなくて,文化振興に関する見方,あるいはアプローチの違いであって,いずれも重要であると考えます。かつ,それらが有機的に連携することで,本来の目的を達することができるのではないか。ということで,幾つかの具体的な施策について少し述べさせていただきます。
 まず1についてでありますが,特に学校現場というのが非常に重要だと思っております。学校現場で芸術文化の意義を理解して,それをこれからの世代の人たちに普及させていくということが非常に重要であります。そのためには,都道府県市町村に教育委員会があるわけで,学校は,結局,その教育委員会が関係しているところが非常に強いので,かつ,各教育委員会には文化の担当セクションもあるんですけれども,どうも今まで拝見していると,教育関係と文化関係のセクションというのが,人的交流も比較的少ないし,緊密に連携を取ってやっているということが余り感じられないので,是非教育委員会の中の学校教育のセクションと文化関係のセクションが,例えば,何か新しい課なり室なりを作るということもいいし,そこまでいかなければ,プロジェクトチームのようなものを作って,是非連携してやれるような体制を作っていただきたいなというのが1つであります。
 それから,2つ目としては,地域の産業振興と芸術文化振興というのは,これはややもすると,例えば,地域振興の中に芸術文化があるとか,そういうふうな図を描いてしまうケースが,あるいは,それを1つの手段として考えるというようなことがあるわけですけれども,本来,産業振興と芸術文化振興というのは全く違うものであって,どちらが優先するものでもありません。むしろそれぞれが主体性を持って進めていく中で,新たな相互の連携というのを図っていく必要があるだろうと考えております。従来,経済活動で支えられてきたもの,それと芸術性の高い優れたものというのが合わさることによって,その地域の価値が高まっていくという,そういうための芸術創造の場を設けていく必要があると思っております。
 それから,3番目,国際交流でありますけれども,これはやや言葉の問題かもしれませんが,交流というと,お互いにいいですねで終わってしまう傾向がややもするとあります。そうではなくて,いろいろ話合いをする中で新たな発見,あるいは,新たな価値をそこに見いだすこともあります。特に芸術文化の分野で言うと,国際社会の中に自分の身を置いてみるということが非常に重要であって,そこで,例えば共同制作をやるということであれば,単に共同でやればいいということではなくて,お互いにその場でお互いが持っているバックグラウンド,価値観を議論し合うことによって新たなものを生み出していくという,そういうことで初めて本当の意味が出てくるだろうということですので,交流だけではなくて,是非もっとそこに身を置くということをやれるようなことを支援していただければと思っています。
 それから,4つ目は,「場」というのが非常に重要な要素でありまして,これまでどちらかというと,施設を否定するわけではありませんが,施設を使うということにどうも偏りすぎている傾向があるかと思います。いろんな地域においては,歴史,あるいは人的活動の場というのがいろいろありまして,例えば,街並みですとか,街中ですとか,景勝地ですとか,いろんなものがあるので,そういったものを是非もっと芸術文化に活用する。そのためには,いろんな期制ですとか,あるいは,条件というのはいろいろあるので,それらをできるだけ緩和というよりも,取っ払うぐらいの気持ちで是非やっていただければと思っています。
 最後に,2-3にあります早急にということですので,幾つか並べてみましたが,特にそういうことをやっていく上で,全国の自治体,なかなか専門家というのが少ないので,そういうところに是非専門家がもっといられるような具体的な方策については,例えば,各地域にそういう専門家を派遣すると言うとちょっと語弊があるかもしれませんが,そういう人たちが何か協力できるような,そういう体制を作るというのが1つ。
 それから,2番目の観点としては,芸術的に優れた国際芸術フェスティバルを各地域で開催して,内外から人を集める。そういうところに,例えば文化庁から支援をしていただくということ。
 それから,3つ目は,逆に,海外のいろんなフェスティバルに参加する人たちをもっと支援していくという,そういうことでの国際性というのをもっと高めていただく。
 それから,4番目は,国立施設については,是非相互の連携をもっとお願いしたいと思います。ちょっと長くなって恐縮なんですが,沖縄の話がさっきも出ていましたけれども,国立劇場おきなわというのがあって,そこで組踊とか非常に優れたことをやっておられるんですが,東京にも国立劇場が三宅坂にありますけれども,今年は国立おきなわの10周年ということで三宅坂でもやられたようなんですが,我々東京にいると,せっかく国立劇場がありながら,片や国立劇場おきなわがありながら,三宅坂の劇場で組踊を見る機会というのは非常に少ない。お互いに研修生も,それぞれに研修生があるんですけれども,三宅坂の研修生は三宅坂の国立劇場で公演の機会を拝見することができるんですけど,おきなわの研修生を三宅坂の国立劇場で見る機会というのは,私が知る限りでは多分ないのではないかと思っています。もしあったら,後で教えていただきたいんですけれども。ということなので,せっかくですから,やっぱり国立劇場同士の,そういうお互いに交流し合うというか,お互いの場を利用し合うということは是非やっていただければと思っております。
 ということで,私の意見を終わります。以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 どなたからでも構いませんが,例えば,御発表いただいた方への具体的な御質問,あるいは,それに触発されての御意見など,どちらでも構いません。どなたかいらっしゃいますでしょうか。
 平田委員,沖縄の話が随分出ましたが。

【平田委員】  3人の先生方から,国立劇場おきなわを含めて,沖縄のことを取り上げていただきまして,本当にありがとうございます。
 県の方で,私,部長時代に,文化新交流拠点ということで,今進めている,この二,三年のうちに,国立劇場おきなわに隣接する形で,インキュベーター的な文化発信の交流拠点を作っていくという方向があります。これは,いわゆる国立劇場おきなわが浦添市にぽつんとあるんですけれども,その周辺にどうしてもにぎわいの機能,それから,もっともっと劇場に来た方々が満足して余韻を楽しめるような,そういうふうな施設が必要なのではないかというような声がある一方で,一方で人材育成や,それから,文化芸術の仕事づくりというのが非常に必要だと言われながら遅れていると,そういったところを是非何とか県の方でも対応していこうということで,文化新交流拠点という形で今整備を進めているところでございます。
 ここはインキュベーター的なところでございますので,決して国立劇場とすみ分けがされていないわけではなくて,しっかりとそういうふうに頭になるような,いわゆるシンクタンク的な機能をうちの財団が担いながら,そして,それを人づくりをやりながら,文化の本当に裾野をもっと広げていく,そして,観光とのマッチングも図りながら,文化産業の振興と併せて,文化の芸術振興も進めていくということを今計画をしております。
 是非そういった面では,玉三郎さんをはじめ,つい先週終わったばっかりですけれども,『聞得大君誕生』というふうに,新しい若い芸術監督の嘉数道彦氏が玉三郎さんと一緒になって,ダブル演出で沖縄の新しい組踊の裾野も広げつつありますので,これからは若いそういう皆さんにどんどん一緒になって我々も作り込みをしながら,頑張ってやっていけたらいいなと思っています。
 次の会で僕自身もまた意見を発表できる機会があるようでございますので,その中でもうちょっとまた詳しくお話しできたらと思っていますので,沖縄に対するエールをしっかりと受け止めたいと思います。ありがとうございました。

【熊倉部会長】  ほかにどなたか,いかがでしょうか。

【宮田委員】  1つの事例なんですが,今,最後に三好先生が,沖縄と東京の国立劇場のうんぬんというお話がございましたが,同じように,過去の例で残念だなと思ったのが1つあるんで,1つ事例を発表させてください。
 東京芸大の美術館で夏目漱石の展覧会をやりました。そのときに,漱石は必ず何かの題材をもとに小説を書きます。その中の1つに,例えば,ターナーの絵,あの一本杉の絵,あれをもとにしてこんな小説ができましたというのをやりました。ターナーの本物の絵を私どもは借りることができませんでした。2か月後に都の美術展でターナー展やっちゃったんですね。それと同じ写真が,本物が。ちょっとその3年前に私ども同士がきっかけを作り,そしてやったら,絵画好き,文学好き,いろんなものの好きな人たちが,その2つの,ちょっと100メーターしか離れていないところにもかかわらず,すばらしい人材,つまり,そのファンを増やすことができるんですね。そういうことが実に多かったものですから,今回,上野の杜というのを1つ作らせていただきました。
 よって,これは何も上野だけをすごくしたいということでは――なくもないんだけどね,なくもないんだけど,あるんです。だから,それが1つの大きな「なるほどな」という教科書になるような環境づくりみたいなのがあるといいのかなと思います。そうすると,漱石は書も好きです。それから,絵も描きます。それから,もちろん小説は書きますね。医学もやる。そういったときに,いろんなジャンルの専門の人たちが集まることによって重ね技で,今,柔道も相撲も重ね技でやらなかったら勝ちにはなりませんので,必ず重ね技を作るのが文化芸術の中で作れるのかなと,そんな感じがしたので,1つの事例を参考にまでと。

【熊倉部会長】  非常にそれぞれがいいことをやっているのに,本当に連携がなくて,いろいろもったいないことになったという連続での数十年だったのではないかという気がするのですが,そうしたことのちょっとした情報共有で,それならここで一緒にやろうよみたいな連携のモデルが上野から作られて,そういうふうにやればいいのかというふうになっていくとすばらしいということですよね。
 関連しまして,馬渕委員に是非伺いたいのですけれども,かつて青柳長官は,この委員時代に,やはり国立美術館が大変苦しい状況にある窮状を切々と何度も訴えられていらっしゃって,オリンピックに向けての日本の西洋的な近代化のこれだけ長い歴史があって,それをアジア諸国へと交流の架け橋へしていくという,すばらしい発想だと思うんですが,今日御提案いただいたようなことって,どのぐらい予算がかかるものなんでしょうか。

【馬渕委員】  ちょっと予算をここで言うと,えーっとか言って,ほかのことをやろうと言われると困るので,具体的には申し上げられないんですけれども。私が考えているのは,やはり国立美術館が持っている作品,特にアジアの人々がなかなか見る機会のない西洋美術,一番人気のあるのはもちろん印象派周辺なんですけれども,あるいは,もうちょっと古い時代のものでもいいんですが,例えば,アジアの中の先進国の一つとして韓国があるわけですが,韓国の場合は,現代アートは非常に豊かに収集し,アーティストもたくさん育てているんですが,19世紀以前のものはほとんど持っていないという特色がありまして,そういう意味で,日本の持っている古いというか,19世紀以前のものというのは,ある意味ではアジアの宝物とも言えるかなと思うんですね。
 それで,ただ,やはり展覧会というのは難しいもので,やっぱり作品が傷まないようにする,そういうファシリティが整っているところからでないと難しいというので,やみくもにここに持っていきたい,ここの人たちが見たいのでというわけにもいかないところがあります。ですから,場合によっては,アジアの中の経済的に豊かな地域であれば,折半というか,こちらは半分出して,あちらからも半分出していただくというような形でもできると思いますし,そうでない地域に関しては,日本政府の方である程度予算処置をしていただいたりということで,そういういろんなやり方があると思うんですね。
 日本のものを海外に発信するというのは非常に分かりやすい発想で,もちろん,国立美術館の中に日本の近代のものはたくさんあるわけで,そういうものを持っていくというのも,今まではそういうことを何度かやっていると思いますが,むしろ日本が集めた西洋のものというのをお見せしたいと。そして,それは国のものだけでなくて,個人とか私立の美術館が非常にたくさんのものを持っていらっしゃいますので,そういったものをうまい具合に組み合わせて,そういった展覧会のコンテンツができたらというふうに今考えておりますので,ちょっとお金の話はなしにしていただきたいと思いました。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 文化施設の連携ですとか,そうした絵画という文化資産の活用の仕方ですとかというところから話へ入ってしまったんですけれども,頂いた御意見の中には,アーツカウンシルという言葉も何度も出てきましたし,そして,更にクリエイティブエコノミーのこと,全国の地域社会と大型芸術祭も多くの委員の御発表の中に散見されましたが,何でも結構ですが,いかがでしょう,御質問,御意見,付加など。
 湯浅委員,アーツカウンシル,どうですかね。

【湯浅委員】  御質問が非常に大きいので,どこから申し上げようか。ちょうど次回に発表させていただくので,今いろいろと考えをまとめているところでもあるんですけれども。
 今の御質問と離れてしまうかもしれないんですが,今回まとめさせていただくのが,特に2015年から2020年の間の基本政策ということだと思うんですけれども,そこを考えるに当たっては,どうしても2020年以降の姿というものの合意をしていないと――合意ということではないかも,それを今話し合う場だとは思うんですが,どういった姿でありたいのか,そのために5年間どういう政策をするのかということを考えるんだろうなというふうにすごく今考えておりまして。ちょうど今週,英国からクリエイティブエコノミーの関係者を2名呼んでいるんですけれども,今,英国の中では,ここから先の世界に向けて文化芸術機関がどうあるべきかという,その中で必要な政策として,キーワードにイノベーションとか,テクノロジーとか,パートナーシップみたいなことがすごく出てきているんですね。全部片仮名になってしまいますが。その中で,先ほど宮田委員の御発表にもあった,例えば,アーカイブの在り方,あとは地域を結んでいく在り方の形というものの中で,文化芸術がほかのセクターとどう関わっていくかということが非常に今は大事なんだと思うんですけれども。
 英国のアーツカウンシルの動きとしても少し御紹介をいたしますと,いかに芸術文化のセクターがほかのところに積極的に関わっていきながら,ほかの成長と,そして芸術文化の成長をどういうふうに共にしていくかということを非常に考えながら政策を出しながら,少ないお金を,イギリスの場合は,もう30~40%文化予算が減っていく中で,いかに力強くしていくかというところでいろいろ政策が行われているので,少しその中でアーツカウンシルを日本の中で日本型のものを作っていくときに,どういうところにプライオリティを置いて,どういうふうな形が望ましいのかというのは,PDCAサイクルをきちんと入れて,助成金をきちんと回していくだけではなく,大きなビジョンを合意できる枠組みを作っていくのが必要かなというふうに最近よく考えております。ちょっとまとまりませんが。

【熊倉部会長】  いえいえ,ありがとうございます。
 ほかにどなたか。

【大林委員】  アーツカウンシルの話が出たんで,大阪の動きをちょっと報告させていただこうと思うんですけれども。
 実は,関西経済同友会で随分前から,七,八年前からアーツカウンシルの,日本もそういうのがあるべきだという話をしておりまして,委員会を作って,ずっと視察なんかも行ってきまして,そういうのを温めていたら,ある日突然アーツカウンシルを大阪市でやるんだという話で,府市でやるんだということで。それは,でも,大変すばらしいことであって。
 結局,我々は我々で,税務上のメリットは取れないんですが,民間で,純民間でやろうということで,この前,ちょうど数週間前にキックオフのパーティーをやって,みんなで1万円ずつの会員券を売って,それで何と1,500人ぐらい集まったんですかね,ものすごく集まって,こんなに人が来たのは新年の互礼会以来だなぐらいな感じだったんですけれども。横の方でいろんなオークションをやって,僕らが見ても,こんなもの売れるのかなと思うものが結構売れるんですね。それで,かなりいろいろ幅広い方を対象としていましたので,有名人のグッズとか阪神タイガースのとか,そんなものまで出てきて。でも,そういうのとか,それから,企業で賛同して,まとめて数百万ずつ寄附をしてくださった企業もいたりとかで,結構なファンドが数千万集まって,それをもとに,今度は民間レベルでいろいろな事業のサポートをしていくということで,実は大阪では一気に2つほどアーツカウンシルができたんですけれども。
 やはり日本の場合は,大きな財団などでどーんとというのはなかなか難しいですし,国の予算でそれを大きなものをやるというのはなかなか難しいので,やっぱり広く薄く集めてきて,それを今度,実際みんなが育てた目利きの人にお願いして,いろいろな文化事業をサポートしていくというようなことになるのかなと思っているんですけど,始まったばっかりです。東京都さんはもうしばらくやっておられるのかな。

【太下委員】  三好さんが機構長。

【大林委員】  そうですね。ということですけど,だんだん地方レベルでそういうのを増やしていくということが大事なのかなと思いますけどね。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 仲道委員,どうぞ。

【仲道委員】  すばらしいいろんなアイデアや御意見を伺っていて,ちょっと大きなことで恐縮なんですけれども。これまで,文化はこういうことをもたらすからすばらしいから推進しなければならないという観点で皆さん一所懸命考えてきて,私たちも考えてきて。でも,もしかしたら,大もとの前提の何かということが,もう一度このオリンピック,それから,その後のことに確認するのもいいのではないかなと思うんですが,それは何のために,やっぱり世の中が平和で幸せでみんなはありたいわけで,そのために文化は非常に有効であると。だから,文化がこういう効果があるから大事なんですよではなくて,こういった世界を作るために文化をどのように形作っていけばそういった世界になるんだろうかという。
 というのは,例えば,未来の世界に私たちが,これからの,19世紀,20世紀を終えて必要なのは,もしかしたら共に生きるということであったり,それから,違いを認め合うということであったり,お互いを理解するというようなことで,そこのキーワードからその文化を考えていくと,その共に生きるということの範囲の中で,様々なジャンルのいろんな芸術であったり,生活文化であったり,そういったものが,その目的,それを実現するためのツールとして文化がもし存在できるような考え方をするのであれば,全くこれまでと違った逆の枠組みでそういったものを結びつけたり,理念のもとに結びつけることができる。すいません,ちょっと抽象的なんですけれども,それぞれの皆様が御努力なさって,こうしたらもっとよくなるのではないかという考え方を大きく反対から見てみると,すごく結びつきやすくなるし,施策として立脚しやすくなったり,その理念,何のために,2020以降のために何を求めているかということがすごく見えやすくなりますし,それから,世の中にも文化の重要性を語りやすくなるような気が,今日お話を伺っていてしたものですから。すいません,分かりにくいお話で。

【熊倉部会長】  大丈夫ですよ。ありがとうございます。
 ほかにどなたかいらっしゃいますか。どうぞ,湯浅委員,もう一回。

【湯浅委員】  ちょっと関連して,今すごく重要な,文化とは何かという御発言だったと思うんですけれども。
 私どものプロジェクトの中で,例えば,美術館の教育関係の方々とか,ホールとかオーケストラの教育関係の方々と,これからの,今の教育の在り方みたいなことについて,日本の方と英国の方が議論する機会は最近とても多いんですけれども。その中で,エデュケーションから今ラーニングという言葉がかなりイギリスの文化の中では使われていて,美術館もエデュケーション部からラーニング部になっているというのは,その学びの在り方の変化だと思うんですけれども。
 あわせて,こういった文化政策の中で,創造性あふれる人を作るとか,創造性あふれる都市というときの,創造性あふれるというのはどういうことなのかということも最近すごく現場の方が議論することが多いんですね。その中で,じゃ,創造性が増えるというのは,英国でも同じ議論があるんですが,例えば,それはリスクテーキングができる人たちであって,多様な考え方を享受できる人であるとか,いろいろな,今言葉が人によっていろんな解釈ができる中で,2020年に向けたビジョンを出すときに,専門的なスキルのある人材は果たしてどういう人なのかとか,少し具体的に言葉をもう少し精査していくと,すごくビジョンがすっきりするのかなと最近ちょっと思っていまして,御専門の先生の方々とも,じゃ,日本がこれから目指す創造性というのは何なのか,学びとは何かというような,あと人材のスキルですね。アートマネジメントのスキルの中の,それは特にどういうスキルなのかということを少し議論ができる時間があるといいのかなというふうに思いました。
 そのときに,現場で日々プロジェクトをしている方々とも意見交換をするような場があると,今年その政策を作っていく中で,より実質のある,そして,現場の方の賛同を受けるものに作っていけるかなというふうに思っております。

【熊倉部会長】  言い残したことが。三好委員。

【三好委員】  今,私,アーツカウンシル東京の仕事もちょっとやっておりますので,それでちょっとお話をさせていただきたいと思いますけれども。
 今,アーツカウンシル東京,正式にできたのが一昨年の11月ですので,まだ2年ぐらいですけれども,発足当初が常勤6名と,私,非常勤なんですが,スタートして,今,大体常勤が倍近くの人数に増えつつありまして,2020年に向けてもっと増やそうという話を今しているところなんですが。
 じゃ,何をやっているかというと,1つは,まさに芸術文化振興支援ということで,助成金でありますとか,あるいは,フェスティバルを開催するとか,そういうことをやっているのが直接的な話なんですが。
 もう一つ,アーツカウンシル東京での議論としては,それは具体的な話であって,先ほど仲道委員がおっしゃったように,そもそも芸術文化振興が目的ではなくて,芸術文化が何を生み出してくるのか,そこから何が生まれてくるのか。例えば,我々は東京をテーマにという場で仕事をしていますので,東京というところで,じゃ,これから東京の将来はどうあるべきなのか,その中で芸術文化というのがどういう役割を果たしていくのかという,少し話が大きなビジョンになってしまうんですけれども,そういうところをやはり議論しようということで,これはカウンシルボードという方にお願いして,今日も関係の方いらっしゃいますけれども,そういう方を交えて話をする。
 ですから,具体的に,例えば,助成金を配ることが目的ではなくて,それは,例えば助成金だとしても,どういう人にそれを支援したいのかとなると,当然,そこは東京という街がこれからどうなっていくんだろうか,まちづくり,人づくり,まさにそれが大きなテーマとしてあって,そういうことを片一方で考えながら,具体的に助成金をどうしましょうという話をしている,あるいは,ほかの支援施策,どういうことが必要ですかということを議論しているということですので,そういうことが,我々,アーツカウンシル東京というのを,これは今のところは全額東京都のお金で運営していますので,そういう状態ではありますけれども,ようやくそういうことが議論できる場所ができたということですので,是非その辺の成果は,またどこかの機会があれば御披露させていただこうかと思っております。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 沖縄もアーツカウンシルをやって。

【平田委員】  思いがけず時間があるということでございますので。
 沖縄でもアーツカウンシルは今始まって,今年3年目を迎えています。東京や大阪と少しうちの性格が違うのは,アーツカウンシルをする人件費だけではなくて,事業費も予算として組んでいると。ですから,億単位でアーツカウンシルをうちは今やっています。これは,僕が沖縄県の文化観光スポーツ部長時代に,アーツカウンシルは必要だというふうなもとで,私の発案で,是非やりましょうと。ただ,ブリティッシュアーツカウンシルや,それから,東京や大阪の動きというのを見てはいたんですけれども,やはり土地柄といいますか,地域性がありますので,沖縄は沖縄版をやっていこうということで,今始めていて,約2億円の予算の中で事業をやっています。
 僕らの大きな目標は,とにかく沖縄の場合特にそうですけど,個人でやっている個人事業的な感じの芸術活動が多いんですね。もちろんですけれども。ですから,そこをしっかり団体を強化するための法人を取れるような体制強化,組織強化というのがメーンでやっていこう。そうしなければ,結局文化産業と言っても,そういうことの集まりの中で組織強化をしていかなければ,税金を納めてくれるような文化団体や文化企業にはならないだろうということで,それを作っていこうというふうにやっていますので,私の大きな目標というのは,5年,10年後に,その沖縄版アーツカウンシルが育ててきた団体が,法人が300ぐらいできてきて,その中で100の法人が約1億円企業,あと100が5,000万規模の文化事業,それから,あと100が3,000万規模の文化事業ということをやれるような団体になっていただき,そこが育ててくれた沖縄県やそういったところにしっかりと文化基金を拠出できるような,そういうふうな団体にまで育ててもらったらいいなと思って,自主財源をいかに作り出せるかというところまで頑張って入っていきたいなと思っております。
 あと,仲道委員からもお話がありましたけれども,文化に関しては,非常に扱い方,僕も,特に沖縄という立ち位置もありますので,考えていきたいというのは,人間国宝である照喜名朝一先生と以前対談をさせてもらったときに,文化芸能というのは平和的な側面だけではないんだということを先生からすごく言われたことがありました。例えば軍歌であったりとか,例えば,教育の中で文化とか芸能の使われ方によっては,それが間違えた方向に行くこともあるよということで,大事なことは心をつくることなんだ,人をつくることなんだよというふうなことをすごく言われましたので,まさにこれから早急に対応すべき事項の,人をつくるというんでしょうか,この部分に関しては,とっても大事な視点だなと改めて感じているところです。
 以上です。

【熊倉部会長】  ちなみに,沖縄のアーツカウンシルでは,かなり起業,インキュベーション的な目的が大きいのだとしたら,どんな人材を今抱えて,どんな能力を実際に期待していらっしゃいますか。

【平田委員】  やっぱりどこの場面でも言われているところですけれども,マネジメントの人材ですね。つまり,プレーヤーはいっぱいいると。特に沖縄県においては,140万県民全員が芸能人じゃないかというぐらい,みんないわゆる芸能が達者な方々が多いんですね。一方で,セミプロ的なといいますか,なかなかプロとしての現場がないと。理由は簡単で,やはりそれをマネジメントし,そして,それをコーディネートできる,そういうふうなところが,残念ながら,県立芸術大学の中にもアーツマネジャーの科目がまだしっかりと設置されておりませんので,そういった面では,アーツマネジメント的な人材育成というのが急務であろうということで,今,そういったところを面倒見られるような,しっかり切り盛りできるような,そろばんとロマンがあるような,そういうふうな人材をつくっていこうというのは頑張っているところです。

【熊倉部会長】  そろばんとロマン,はい。
 吉本委員,お待たせしました。

【吉本委員】  今日は遅参して申し訳ありません。熊倉先生のところの教えをなかなか。大変質問が熱心でして,授業が終わらなくなってしまいまして。
 次回発表なので,そこでもお話しさせていただこうと思っていたんですけれども,やっぱりこれからの国の文化政策にとって,私もアーカイブというのが非常に重要だと思います。これは民間では決してなかなかできない,収入というものが基本的にありませんので,というふうに思います。
 今日は宮田学長から非常に具体的な提案もありました。私も同じような内容のことを考えていまして,次回提案したいと思うんですけれども,この基本的な方針の中で,前回の基本的な方針のときは,重点事項で具体的な施策をかなり書き込んで,その中でアーツカウンシルとか,劇場法とか,具体的になったものがあったと思うんですね。ですので,今度の基本的な方針では,2020年というのが大きな目標になっていますので,そこで実現できる非常にシンボリックな,もう非常に具体的なものを書き込んで,それに向けて7年間準備をしてやっていくというようなことができないかなと思っています。
 その一つが,このIRCAという名前がいいかどうかはよく検討した方がいいと思うんですけれども,まさしく宮田学長の御提案いただいたような,こういうものを作るというのがいいんじゃないかなと思っているんですね。実は私の研究所で5年ぐらい前に,音楽資料のアーカイブについて,それから,2年ぐらい前に建築資料のアーカイブについて,文化庁さんから委託を受けて,いろいろリサーチをしました。
 ちょっと具体的なイメージがあった方がいいと思いますので,そのとき調べたものをちょっと紹介したいんですけれども,音楽資料に関しては,日本では長らく近代音楽資料館という民間のというか,遠山先生の個人財団でやっておられたところが,例えば,作曲家の直筆譜とか,書簡とか,そういうものを本当に地道に集めておられて,今それは明治学院大学に移管されていて,散逸の危機はなくなったと思うんですけど,そういうことを調べたんですね。
 例えば,イギリスでは大英図書館の中に音楽コレクション部門というものがあり,あるいは,サウンドアーカイブ部門というものがあり,大英図書館でありながら,例えば,ナショナルシアターの公演の映像記録は全てそこが撮影して保存することになっているとかいうことがありましたし,フランスも国立図書館の中に音楽部門,視聴覚部門というのがしっかりとありまして,そういったものをコレクションしているんですね。日本も国会図書館が,例えば楽譜なども収集することにはなっているようなんですけれども,そうした諸外国の図書館に比べると,まだまだ弱いのかなと。それで,ライブラリーを図書館と翻訳してしまったから,図書だけでいいんじゃないかというふうになっているんじゃないかということすら,そのときは思いました。
 一番印象に残っているのは,アメリカの議会図書館を取材したんですけれども,そのときはワシントンにある議会図書館の中に,やはりそういう貴重な資料がいろいろ保管されておりまして,古いもの,例えば,バッハの直筆譜などというのを,オークションに出たら国の予算で買って保存しているんですね。そういうこともやりつつ,アメリカの場合は,議会図書館と,もう一つは,ニューヨークにありますパブリックライブラリーという,これは民間のNPOの巨大な図書館なんですけれども,そこに舞台芸術公共図書館というものがあります。そこは民間。それで,議会図書館は公共なわけですけど,アメリカの,例えば作曲家の方が亡くなられたときに,自分のものをどこに寄贈するかというのを選ぶそうなんですね。それで,非常に面白かったのは,今,バーンスタインのコレクションは全て議会図書館にある。でも,ジョン・ケージのコレクションは全てニューヨークにあるということらしいんですね。それは,遺族の方がそれを選ばれるということなんですけれども,ジョン・ケージの場合は,やはりできるだけ多くのアーティストにたくさん見てほしいというと,ワシントンよりニューヨークだろうというようなことで,やはりそういうものがちゃんと受け入れられて,安心して保存できるという環境が整っています。
 一番印象に残っていることは,そのときまだ日本の近代音楽資料館がまだ細々とやっていた頃なんですけれども,そういう日本の状況を説明したら,ニューヨーク・パブリックライブラリーの図書館の方が,「武満の楽譜は大丈夫か」とおっしゃったんですね。それがもう非常に印象に残っていまして,「そういう物の保存先がないなら,ニューヨークに持ってこい」と言われたんですよ。それぐらい,彼らはそういうものを重視して保存しているんですね。
 ですから,そういうものを是非2020年に作るという,非常に具体的な目標を掲げて,今から7年間どういうふうにやっていけばいいかということをちゃんと計画していくと,7年というのは決して長くないと思います。そういうことをやるときに,いろんなネックがありまして,1つは著作権の問題で,公開できるかどうかということなんですけれども,もう一つ,非常に興味深かったのは,そのメディアを何で保存するかということなんですね。当然,これからはデジタルになっているわけですけど,例えば,紙資料をデジタル化したらそれでオーケーかというと,そのデジタルしたものを読み取れる機器というのは日進月歩でどんどんなくなっていくので,またそれを別のメディアに置き換えていく作業も膨大になるそうなんですね。なので,何のメディアで保存するかということを考えるだけでも相当大変なことになります。
 ベルリンにあります国立音楽資料館というところに行ったときに,これも非常に興味深い話だったんですけれども,膨大なレコードをコレクションしているんですよ。それをどんどん電子化しているんですって。だけど,レコードは捨てられないというんですね。結局,CDというのは何十年かで穴が開いちゃったりして,保存できないそうなんです。そうすると,物理的なレコードの方が断然長期的な保存に耐えるというようなことがありますので,このこと一つ取っても,物すごく準備,リサーチ,いろんなことが必要ですので,2020年にそういうものを開けるという目標を立てて,それに対するロードマップを作って何かやっていくということができればいいなと思います。
 日本の特色を出すためには,いつか仕分だか何だかでなくなってしまったアニメ・漫画のアーカイブを作るというようなことも是非オリンピックに向けてやれば,海外から参照される人も多いんじゃないかなというふうに思いました。
 ちょっとIRCAに触発をされましたので,発言させていただきました。失礼しました。

【熊倉部会長】  河島委員,どうぞ。

【河島委員】  すいません,私もIRCAに触発されて,個人的に詳しい領域ではなくて,吉本さんほどいろんな情報を持っているわけではないんですけれども,こういう上野の文化の森新構想というのがあることを今日伺って,大変興味深く思いました。この,特に英語の名称がすばらしいですよね。日本語がどうかと先生もおっしゃっていましたけれども,英語の方は,まさにそういうリソースセンターなんだろうなということで,よく分かりました。
 この名前がいいなと思ったことと,あともう一つ思い出したんですけど,パリのポンピドーセンターの中にIRCAMという,最後にMを付けた音楽の,あそこはリソースセンターだけではないと思うんですけれど。違いますよね。むしろ実験的な活動をするところがあって,今,保存とかアーカイブというお話が出ていて,それ自体,もちろん非常に価値あることなんですけれども,結局は,それを使って次の何かクリエーションをしていくだとか,それから,それを発表して,IRCAM,コンサートもよくやっていると思うんですけれど,そういう発信活動に最終的には行ってほしいなというふうに個人的には思ったんですけれど,宮田先生,そこまでの,それはまた違うところでやるという構想なんですか。

【宮田委員】  いえいえ。これはあくまでもきっかけでございまして,この中の約8,000平米の中にいろんなものを舞台を構築していきたいと,かように思っております。その中には,まだ決めてないものがあえてあります。それは何かと言ったら,食文化とか,そういうところまで入れていきたいと思っています。
 そして,予算関係も,ざっくり言うと30億ぐらいは考えているんですけれども,その3分の1ぐらいは民間からもらおうかと。それを,食の美しさ,それから,私どもがやっているようなものの美しさ,それから,心の美しさとか,そういうものをその中で非常にときめきを感じさせるような環境づくりをしていく。それが結果的には上野の20数ある国立,都立,それから,民間との連携にもなっていくきっかけのコンシェルジュにするというふうに考えております。
 ですから,どうぞそのすき間の中にいいアイデアを入れていただければいいと思っています。

【河島委員】  そうですか。ありがとうございます。
 それで,最初の頃の話題としてもう一つ気になったというか,思い出したことがあったんですけれど,上野ほどではないんですけれども,国立の美術館だとか,私立の美術館と動物園が集積しているところというのは京都にもございまして,岡崎という地区なんですけれど,意外にそのポテンシャルが生かされていないというのが京都の悩みでして,岡崎という地名なんですけれど,よその人に聞いても,ほとんど「それどこ?」という感じで,あんまり通じないのではないかと思うんですが,平安神宮の付近ですね。大きい公園とこういった美術館施設が集積した地域でした,多分,京都市も,余り詳しくないんですけれど,今,再開発を進めていて,文化会館のような京都会館というのをリニューアルして,それで,今,食ってちょうどおっしゃったんですが,レストランだとか,軽く飲む,コンサートの後にどこか行く場所がないというのも1つ悩みだったので,そういった施設も,民間業者を活用してというか,導入して再開発しようという計画があるんですね。でも,それこそ,この上野と連携はないのかなというようなことも少し気になったところではありました。

【熊倉部会長】  では,関連して,太下委員から。

【太下委員】  今ちょっとアーカイブのお話が出たので,関連して。
 私のちゃんと読むと4時間かかる資料もちょっとそこに触れていまして,9ページ目から10ページ目のところに,2014~2020年を日本における「デジタルアーカイブ集中整備期間に」というふうに書きました。この中で,宮田学長もおっしゃるIRCAではなくて,「国立デジタル文化情報保存センター」という名前で提案しております。最後はIRCAになるのかもしれませんが。
 あわせて,次の10ページ目の頭のところに書いてあるんですけど,先ほど吉本さんがおっしゃったように,実はメディアはどんどん変わっていくので,時代ごとの主要なメディア,OS,フォーマットなどを全部保存しておいて,世界中から持ち込まれるものをここでちゃんと再現できるという機能を持つべきだと。これを一応「デジタル正倉院」というふうに名づけています。正倉院って,もともとそういうアーカイブだったわけですね。
 あわせて,先ほど河島さんからお話があった,これは単に保存するだけではなくて,二次創作とか産業活動にもつなげていけると思うんです。実は事例はあって,アメリカにNPOでインターネットアーカイブという非常に奇特な,世界中のインターネット情報を時間ごとに保存しているという活動があるんですけど,ここが実は民間のアーカイブ――民間のアーカイブも実はアメリカではビジネスになっているんですけれども,そこと組んで,民間のアーカイブの持っている,例えば,主要なコンテンツを無償で提供してもらう。そこのインターネットアーカイブで無償で提供するということをやっているわけですね。
 これは一見考えると,商売にならないじゃないかと思うかもしれないんですけど,実は,インターネットアーカイブというパブリックのアーカイブを通じて出ていくデータは,画像レベルが粗いものが比較的。そこは,だから,1つのショーウィンドウになるわけですね。それを実際ビジネス利用したい人は,ビジネスの方のアーカイブに行って,きちんとフィーを払って高画質のデータをもらってくださいと,こういう形でやっていますので,多分,これは,これから日本で作っていく新しいアーカイブは,民間のアーカイブでも十分接続は可能だと思います。そういった部分の新しいビジネスを生み出すような知恵をそこにビルトインすればいいんですね。
 ということで,私はここでは二次創作なんかの動きのことも書いていますけれども,そこから更に言えば,新しい,今で言うユーチューバーのような新しい職業が生まれてくるぐらいの構想を持ったアーカイブを作るべきだと思っています。
 以上です。

【熊倉部会長】  赤坂委員,どうぞ。

【赤坂委員】  今日何人かの方の発表の中で,高齢者という言葉がとてもキーワードとして使われていることに1つの共感を覚えましたので,少しだけお話しさせていただきます。
 僕のように,地方の村や町ばかり歩いている人間にとっては,まさに限界集落という極限のイメージがそこに出てきていますけれども,高齢者の問題をどういうふうに考えるのかって,当然重要な問題なんですけれども,震災の後,僕は国際交流基金の仕事で,中国で震災のことを少し話す機会があったんですね。そのときに,僕にとって大変印象的だったのは,被害の状況とか,そういうことを話しても,何にも彼らは興味がない。けれども,その地域が超高齢化社会に向けて,今物すごい大きな転換期を迎えているという話をした途端に,彼らが食いついてくるんです。つまり,我々は高齢化社会というのがもうどんどん進んでいくということに物すごい危機感を覚え始めていますけれども,実はお隣の中国や韓国でも,それはそんなに遠くない時期に,ほとんど日本と同じような状況になるということがもう統計的に分かっていて,彼らはそれに対してどういうふうに対応したらいいのかということを真剣に考えていますね。
 そういう意味で,僕はこの2020年の東京オリンピックに向けて,あるいは,それ以降に向けて,我々が来るべき超高齢化社会に向けてどのように立ち向かおうとしているのか,その中で文化や芸術というものをそこでどのように使うというか,文化や芸術をもってどのように豊かに成熟した高齢化社会を迎えようとしているのかということをきちんとメッセージとして送るというのは,物すごく有効なことなのかなというふうに感じていました。
 それで,全く唐突なんですけれども,僕は温泉大好きなので,太下委員が,日本の温泉宿全てをアーティスト・イン・レジデンス化するという,ちょっとここに引っかかってしまいまして。1つの事例を紹介したいんですけれども。僕はずっと山形で仕事をしていましたので,山形県の最上郡にある小さな肘折温泉というところで,いろんなことを実はやってきました。その中で,「ひじおりの灯」という小さなアートイベントを8年ほど前に始めまして,それがかなり根づいているんですね。何をやったかというのは,大したことはやっていないんです。予算だって200~300万しかない予算でやっていました。でも,山形には東北芸術工科大学という僕自身の勤めていた大学がありまして,その学生たちや先生たちと僕はつき合いがもちろんあったわけで,彼らを肘折温泉に招待するというか,連れていったんですね。
 肘折温泉というのは,実は直径が1~2キロしかない9000年前の火山爆発のカルデラの中にある小さな温泉場です。物すごく湯のいい魅力的な温泉場なんですけれども,湯治場でありまして,ついこの間まで,秋になるとおじいちゃん,おばあちゃんの本当にレジャーランドで,小さな部屋の中におじいちゃん,おばあちゃんが雑魚寝状態で,2週間,3週間滞在するという姿が当たり前に見られたんですね。僕なんかも泊まっていると,おばあちゃんが「一緒に入っていい?」なんて入ってきて,一緒に混浴をするような本当にすごい湯治場としてまだ生き残っている文化もある,そして,実は茂吉が訪ねたとか,アートとか文化とか文学の様々な蓄積があるところでもある。
 そういうところで,具体的には,夏場に灯籠を旅館とか商店の軒先に並べるという,それだけなんですけれども,それを作るために,若い学生たちが温泉場に入って,それぞれの旅館やお店に泊めてもらって,そこの家の人たちの話を伺い,その家の歴史,その温泉場の歴史,いろんなことを聞き書きして取材しながら,それを灯籠の絵にしていくということを7年,8年やってきたんですね。
 何が変わったか。幾つか変わったことがありました。それまで,おじいちゃん,おばあちゃんしか見えなかった温泉場の中に,若い人がどんどん現れました。それは,温泉場の中の旅館の中の若い世代が,行き場もなく隠れていたんですね。でも,若いアーティストの女の子たちがうろうろし始めると,どんどん出てきて,驚いたことに,10人,20人いまして,スケッチなんかしていると,みんなもう寄ってきてのぞき込んだりして,そういうことから始まって,若い人がどんどん出てきました。
 そして,夏の風物詩のような形で灯籠をつり下げると,それまでもう5時,6時になるとみんな旅館にこもってしまって,誰も外に出なかったその旅館の中を,げたをからんころん鳴らしながら散策するといったことが生まれるとか,本当にささやかなんですけれども,実は肘折温泉を変えてしまったと思います。
 その変えたというのは,これからどういうふうになっていくのか,まだ確かなものとしては見えないんですけれども,うれしかったのは,震災の後に,もしあの「ひじおりの灯」を始めていなかったら,みんなつぶれて消えていたと思うと言われたときに,アートとか芸術文化というのは,その地域にとって大変大きな力になり得る。あるいは,土地の力とか場の力を引き出す物すごい有効な触媒になり得るんだということを感じました。映画もできましたし,音楽祭もやっていますし,もういろんなことが始まる。
 恐らく日本の温泉宿全てがアーティスト・イン・レジデンスに向いているとは思えないんですけれども,でも,日本の文化として温泉というのは,海外の人たちにとっても大変好奇心や関心の対象でもありますし,そこが日本の地域の芸術や文化の拠点として演出していけるとしたら,とっても有効な手立てになるのかな。それは,その地域社会にとっては,温泉宿が全てではないんですけれども,温泉場というのが人々が集まって交流してという,そういう場でもあるといった,そうした埋もれつつある温泉文化というものを掘り起こす,そういうきっかけにもなれば面白いかなと,そんなことを感じていました。
 温泉,実はアートがとっても似合う場なんですね。細かいテーマに見えるんですけれども,僕,ここがきっかけになって,何かとても面白いことが起こるかもしれないと思いました。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 多くの今日御発表いただいた委員,それから,今頂いたようなお話,典型的な瀬戸内ですとか越後妻有のトリエンナーレと呼ばれているようなものが,社会関係資本を新しく作るという研究は,非常に文化経済学,文化政策学の分野で進んでおります。その知見をまさに裏づけるような事例だったと思うんですが。
 施策として何が必要ですかね,赤坂委員。そういうことが日本全国の温泉場で起こるためには。さっきは,ロマンとそろばん勘定?

【赤坂委員】  温泉が文化庁の管轄かどうかというのは,僕にも分からないんですけれども,だから僕は無理やり温泉文化というふうに申し上げたんですけれども。でも,すごく面白い社会資本であり,今,日本の温泉地,すごい転換期なんですよ。バブルの頃には,大きなバスに乗せて,大きな温泉ホテルに運び込んで,その中で全部自足するようなことをやって,それはもう完全に失敗したんですね。失敗というか,もう今駄目なんですよ。そういうところはどんどんつぶれている。ですから,温泉地そのものが物すごい転換期の中で,実は肘折温泉も,どうしたらいいのか分からない,もうカウンセラーを入れたり,あらゆることをやり尽くして,最後にアートというところに結びついた。
 ですから,温泉地は文化庁の管轄ではないとしても,アートとか文化の一つの舞台として,物すごく有効な可能性のある,しかも,歴史の中でアーティスト・イン・レジデンスを延々とやってきて,文化財を蓄積してきた,実はそういう場でもあるということで,皆さんに発見していただけると,そこから何かが始まるかもしれないなんていうことを考えていました。

【熊倉部会長】  どうぞ,佐々木委員。

【佐々木委員】  私も最初はちょっと時間を気にしすぎたので。
 実は,この会議が終わったら,私は大分県に行くんですね。それで,大分県が新しい美術館を中心にしたクリエイティブ大分という総合計画を作りたいということで,委員に入るんですが。この話を取り次いでくれたのは,別府プロジェクトの山出さんという方で,これは吉本さんもよく御存じですが,混浴温泉世界ですね。今,赤坂さん言われたように,団体型の温泉で衰退してしまった別府を再生したいという若手の経営者の方と,それから,山出さんがアートNPOを作りまして,それで古い湯治場だとか,あるいは,使われなくなったアパート,それから,かつてのストリップ劇場,こういったものを総合的に再生するようになったわけですね。
 やっぱりそのときに,もともとの別府の温泉というのは,公民館が温泉場なんですね。1階が温泉で,2階が公民館なんです。それが原型であって。だから,何かセンセーショナルな混浴温泉という言い方ではあるんだけれども,実は非常に古い湯治場という機能を見直すようなネーミングだったわけです。
 だから,例えば,こういうものに対する支援というのを,これを継続的にやっていけばいいし,それから,群馬県ですかね,四万温泉というのがありますね。中之条という町。これは前の町長の入内島さんが温泉宿の経営者だったわけですが,やはり衰退してきたと。そこで,越後妻有のトリエンナーレが始まったときに,地元の若い人たちがそれを見に行って,それで,何とか中之条でもやりたいという話があって,それで,入内島さんは若い経営者だったので,ともかく予算はないけどやってみようというところから始まって,中之条ビエンナーレというのを始めました。これは恐らく日本の中では最も低額の予算でかなりの集客をしている……違うか。

【熊倉部会長】  そんなことはないと思いますけどね。

【佐々木委員】  最初はですよ。最初はともかく予算がゼロから出発していましたから。今は少しずつ。でも,その入内島さんが町長をおりましたのでね。そうすると,この後どういうふうに継続していくかという問題が当然出てくるわけです。
 それで,先ほどからずっとお話だけ出てきているのは,アートプロジェクトなりフェスティバルをビエンナーレ,トリエンナーレで継続開催していかないと,人は育たないわけですね。あるいは,地域のマネジメントも発展しないわけで。一番長いビエンナーレで私が知っているのは,やっぱりベネチア・ビエンナーレで,これは100年以上続いているわけで。100年ぐらい続けるつもりで,そういう小さいものを応援していくことができれば,まさに日本の温泉地は再生しますね。それをもう来年度予算でともかく頭出しをすれば,かなり元気になる温泉地は多いんじゃないかなと思います。

【熊倉部会長】  湯浅委員,どうぞ。

【湯浅委員】  今幾つかの事例の御紹介があって,温泉と少し離れることになるかもしれませんが,その前のところで,超高齢社会に向けての取組の御発言,今日多かったと思うので,少し英国の取組を御紹介しながら,この先日本でのことを考えたらいいかなと思うんですが。
 1つ,美術館の方で,今まで子供を中心の文化政策はイギリスも行われていたんですけれども,それまでファミリーフレンドリー・ミュージアムという形の指針を立てていたのが,今議論が進んでいるのが,エイジフレンドリー・ミュージアムの在り方,高齢者に優しいといいますか,高齢者も集える美術館というのはどういうものなのかということを,大博物館と,スコットランドとウェールズとマンチェスターの美術館が,英国全土ネットワークを組みながら,今いろんな議論がされていまして,恐らく今始まったばかりなので,この分野については,恐らく日本がこれから世界に先駆けて超高齢社会の中で,文化芸術機関がどういう役割を果たせるのかというところで,国際的な議論をしていくということは,非常に国際的プレゼンスを高める中でも,可能性は非常に高いかなと思いました。
 アーツカウンシルが今すごく話題にも出ていますが,英国のアーツカウンシル,やはり子供たちに向けての創造性ということを非常にプライオリティを置いていまして。ただ,今,社会が変わっていく中で,全ての人にすばらしい芸術をという政策を推し進めるために,高齢者というのはやはりこれから大事な中で,去年始めたのが,Arts for old people in careという,特にケアホームにいる認知症の方々を含めた方というのは,アートに対する接触が非常に薄い中で,アート,文化芸術がどういった役割を果たせるのかというところで,いろんなリサーチですとか,いろんなプロジェクトと,実際にお金をつけて新しいイニシアチブを生むような後押しが今されています。恐らくその背景としては,アーツカウンシル,国として余り知見がない,実際,地域,NPOとか,いろんな方々の活動はありながらも,それが文化芸術に知見が蓄積されていないかもしれない。そこを可視化しながら共同で新しい知識を蓄えていこうというような動きが今あります。
 具体的に,あともう一つ面白いと思ったのは,リバプールのナショナルミュージアムの方で,文化の予算ではなくて,保健省の多大なお金を得て,その美術館がケアホームの認知症のケアラーのため,サポートをする方のためのトレーニングプログラムを立てました。ハウス・オブ・メモリーズというプログラムで,美術館という拠点があって,そして,コレクションがあるという大きな資産がある文化施設が,認知症の方々,特にそのケアをする方というのは,今とても孤立をして,すごく難しい状況にある中で,どういうサポートができるか,具体的なトレーニングのプログラムをして,今,イギリス全土にロードアウトをしています。
 これは,美術館と,アート機関と社会との関わりということをこれから考えていくんだと思いますけれども,アートの拠点が持つ社会に果たせる役割の中で,ここは,あと,アルツハイマー協会とか,大学機関とリサーチ機関と連携をしながら,美術館として知見を高めて,それを今度は福祉の現場に提供しているというようなモデル,それを今国際的にも連携を高めようとしておりまして,恐らく日本の文化芸術以外の分野で,かなり超高齢社会に向けていろんな政策が,ICTを使って何ができるかとか,経済活動で何ができるかということがありますけれども,文化政策の中でも,文化芸術機関がどういう貢献ができるかというようなことを政策の中に盛り込んでもいいのかなと少し思っていまして,この事例を御紹介させていただきました。

【熊倉部会長】  仲道委員,どうぞ。

【仲道委員】  今のお話でちょっと思い出したんですけれども,最近,シニアのための音楽教室って物すごくはやっているんですけれども,それも音楽だけではなくて,シニアのための音楽と体操を組み合わせたプログラムというのがすごく人気なんだそうです。ですから,オリンピックに向けて,文化ということと,それから,健康ということの,運動ということを組み合わせたようなプログラムとか,幅広い可能性があるんじゃないかなって。そこまで考えて,いろんなプログラミングをしていくのも面白いんじゃないかなと思いました。
 あと,温泉に戻るんですが,海外のアーティストも温泉大好きですね。温泉で何かあると言ったら,喜んで来て,滞在して何かしたいと思います。私も好きです。

【熊倉部会長】  三好委員と,その後,吉本委員どうぞ。

【三好委員】  じゃ,今の話題に続けて,事例の紹介になるんですけど。
 高齢者施設,いろいろありますけれども,どうしても施設に入ってしまうと,皆さんやることがなくて,多少いろいろ,お手玉を作ったりとか,人形を作ったりとかするんですけど,やっぱりどうしても動きが少なくなってしまうんですね。
 これはある劇団が東北の方でも今やっているんですけれども,そういう施設に行って,まさに劇団でいろいろ体を使った動きをしますけれども,それをあるパッケージプログラムを作って,それを高齢者の方々にその動きをやってもらう。そうすると,当然劇団ですから,ある物語を持って動くわけですね。ただ体操をするのではなくて,ある物語を持って動いてもらうと,頭を使いながら手足も使うというので,高齢者の方のボケ防止と言ったらあれですけれども,ボケ防止とか,体の機能が衰えていくことを少しでも防止できるという,そういうプログラムを作ってやっているところがあって,それをもっと全国的に広げていって,いろんなプログラムが多分できてくると思うので,そういうものを実際に劇団のメンバーが行って一緒にやるという,そういうことがもっと広がっていくと,多分,片や芸術文化に親しむ機会にもなるし,片や介護保険を減らすことができるかもしれない。いわゆるピンピンコロリに近づけるのではないかというので,そういうことのためにも,芸術文化的な,単に体を動かすというだけではなくて,やっぱり芸術の要素を持ち込むことによって,より効果が表れるのではないかというので,やや実験的というか,実際やっているんですけれども,そういう例なんかも参考になるといいかなと思って,ちょっとお話しさせていただきました。

【熊倉部会長】  吉本委員,どうぞ。

【吉本委員】  じゃ,短めに。
 高齢者の話が出ましたけれども,私も二,三年前にいろいろ取材してレポートを書いたことがあるんですが,高齢者とアートの出会いというのは,大きく2つの方向があって,1つは,今,例えば,高齢者劇団とかで検索すると,すごい数が出てくるんですけれども,お年を召されて高齢になられても元気な方々が,演劇であったり,コーラスだったり,そういうものをすることによってますます元気になっていく。
 例えば,1つだけ例を御紹介しますと,横浜に65歳からのアートライフというNPOがあるんですけれども,そこはアリアを高齢者の方がソロで歌うという演奏会を青葉台のホールで年2回やっているんですね。それで,そのコンサートは有料なんですよ。1,000円。それに出ている方に私,取材をしたんですけれども,80歳ぐらいの女性の方なんですけど,まず絶対80歳に見えない。真っ青のドレス着て。それで,その形がプッチーニのアリアを熱唱するんですよ。しかも,すばらしい歌声なんですね。いろいろ聞いたら,イタリア語のアリアを歌うために,75歳からイタリア語の教室に通い始めるんですよ。あるいは,もう一人の方は男性の方で,シューベルトを歌われた方で,奥様がピアノ伴奏をするって,もう夢に描いたようなあれなんですけれども。その方は,年1回それに出るために体力が必要なので,日々ランニングと水泳をしている。だから,芸術に親しむことで,お年を召された方はますます元気になっていく。
 同じような活動をしているのが,北海道にある団体があるんですけれども,そこが近隣の小さな町にフラダンスの教室を教えに行ったと。そうすると,その町の医療費が減った。それだけが因果関係があるとは思えないんですけど,そんなことが起こっているというのがあります。
 もう一つは,これは熊倉先生なんかが立ち上げられた,野村誠さんが,何ていうところでしたっけ,あれ,横浜の。

【熊倉部会長】  さくら苑。

【吉本委員】  そう,さくら苑というところで,もう10年以上アーティストがそこの高齢者施設に通って,認知症のお年寄りだとかにいろんなことをやることによって,その施設の方々が驚くような,ふだん絶対見せないような豊かな表情をしたりとか,それから,車いすにずっと座っていたおじいちゃんが,あるとき鐘をたたきたくなって,気がついたら車いすから立ち上がっていたとか,あるいは,別のプロジェクトだと,ダンサーが施設に通って体を動かすワークショップをすると,リハビリで幾らやっても腕の上がらなかったおばあちゃんが,気がついたら腕が上がっていたとか,そういう効果も生まれていると聞きました。ですので,高齢者とアートの関係は,そういう2つのベクトルでできたらいいなと思います。
 そして,そういうものを,文化庁の政策として立ち上げるにしても,最終的には,さっき湯浅さんのおっしゃっていたように,保健省ですよね。ですから,厚生労働省が,厚生労働省の施策として,そういうものに取り組んで,そこでしっかりと予算をつけてもらえるというふうになるといいなと思いました。

【宮田委員】  吉本先生,ありがとうございます。何かきっかけを作ってくれたような気がします。
 今,高齢者とアートと言いましたけれど,同じような感じで,障害とアートということで,1つの事例なんですが,厚労省と私どもで組みまして,大きなイベントをやらせていただきました。そうすると,言葉遣いをちょっと気をつけなければいけないんですが,五体満足でないことによって,1つのピュアな表現が,物すごいすばらしいものを感動してお聞きすることができました。それは身体表現もそうですし,音楽にしてもそうですし,書道だとか,いろんな場面で,むしろ不満足な人という言葉は,これは使ってはいけないのかな。その辺はうまく適当に議事録を書いてくださいね。とても感動的なものがございました。
 同時に,やはり今後この2020を考えていったときに,アートと何とか,何とかとアートとかというふうな感じの重ね技で持っていくと,文化庁が主導権を持って,イニシアチブを持ってやっていけるものというのはいっぱい出てくると思いますね。今は温泉,高齢者,何だっけ,何とかと何とかあったね。そろばんと何とかというふうに,そういうキャッチコピーを作るということは,とても旗を振るには振りやすい状況でございますので,いかがでしょうか,何とかとアート,アートと何とかということを,障害とアートでいくのは,パラリンピックなんて,まさしくその光が当たるようになりましたですよね。懸賞金も,金メダルに対して,オリンピック150万も,たしかパラリンピックも150万もらえるようになったような気がするんで,そういうふうなところで顕彰できることがあるわけですので,今後こういう政策部会かなんかでも御提言というのをなさると,またそれに対して知恵を募集するとか,そんなことを次の政策公開までに宿題として,内田さん,そんなことまで振ったらどうですか。せっかくだから。そうすると,いいアイデアがいっぱい出てくると思いますね。
 以上です。

【熊倉部会長】  今日はたっぷりと時間が取れて,本当に皆様から次々わいてくる温泉のような様々なアイデアやすてきな事例,これをどうまとめていくのか大変だと思いますが,まだ今日のところはあっちゃこっちゃ話が行っていて,むしろその方がクリエイティブかと思いますが,最後に長官,一言,聞いていらっしゃって,何か御感想があればお願いします。

【青柳長官】  いや,いろいろ聞きほれていたんですけれども。
 今,アーカイブに関しましては,今月からアーカイブに関する有識者会議を開かせていただきます。それで,いろいろな分野や,あるいは,いろんな形態のアーカイブがあると思うので,それを少しまとめていただくようにしたいと思います。
 それから,今現在,現代美術に関しましては,海外発信に関する有識者会議というのを開かせていただいておりまして,大変すばらしい御意見を頂いております。
 それと,もう一つ,今日お聞きしていたアートカウンシルですけれども,確かに,東京というか,一つだけのアートカウンシルだと,例えば,一番アクティブな東京のいろいろな活動にお金がおりて,そうじゃないところになかなか行かないということもあるので,今日お聞きしていた広域なアートカウンシルを幾つか作るというようなこと,あるいは,もう少し細分化するというようなことも,文化芸術の奨励という意味では非常に重要なのかなというような印象を得ました。
 そんなところでございます。ありがとうございます。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 同時に,仲道委員から非常に大きな宿題も頂いて,それもあわせて,少しずつ何かいい言葉になっていくといいかなという気がするんですけれども。余りにもいろいろなことが豊かに出てきたので,全然まとめにはなりませんが,これまでの文化庁が行ってきた,いわゆる従来の芸術文化振興というのは,いわゆるヨーロッパ的な天才の概念に基づく,タレントの世界なんですよね。才能という意味のタレントをどういうふうに作っていくのか,残していくのか,伝えていくのかというようなことで,これはこれで,幸いすごくたくさんのタレントを生み出している国ですので,是非その側面も伝えなければいけない。それも考えなければいけないんですが,今日多くの議論にあったように,今日使われているクリエイティビティという言葉は,これは万人に関係することなんです。天才だけでなく,全ての人間にそのクリエイティビティというものは必ず関係すべきものであるというふうに,恐らく今日考えられているところで,文化政策の考え方の両輪というものが,これまでの区分の仕方からはデザインがちょっと変わってくる時代になっているんだろうなという気がいたしました。
 そのクリエイティビティという観点でいきますと,実はオリンピックに出るようなアスリートは,体を極限に使って,命を削ってでも記録に挑むような芸術家タイプの人たちですけれども,今,IOC,オリンピック委員会は,そのスポーツと,もう一つ,スポーツということを,まさにお話にありましたように,人々の健康観,あるいは身体観というようなものとどう結びつけて新しい概念を構築していく,オリンピックを契機にしていくのかというようなことを求められていたはずです。たしか。
 同時に,非常に傑出した才能と,そういうわけではないんだけれども,全員が非常に新しいわくわくする活動みたいなものが,実にこの社会の中あちこちにあふれていて,そこに参画したり,そういう機会をどうやってもっと作っていったりして,一生涯クリエイティブな人生を送ることができるのかというような問題も,実は今突きつけられているし,そういったクリエイティビティやタレントがどのように交錯することで,更に社会的なクリエイティビティが生まれるのかというような議論にだんだんなってくるんだろうなというように,今日多くの皆様の非常に豊かな知見を拝聴していて,何となくそんなようなことを思いました。
 また,本当に次回の議論が楽しみですので,委員の皆様方,お忙しいとは思いますけれども,是非是非御都合をつけて御参加の上,議論を進めていければと思います。本日はどうもありがとうございました。
 事務局にお返しいたします。

【内田調整官】  次回以降の日程でございますけれども,3回目が6月16日で,4回目が7月3日を予定しております。次回とその次に関しましては,引き続き委員の皆様からヒアリングをさせていただきたいと思っておりまして,また一方で,頂いた御意見を徐々に集約していく作業も進めてまいりたいと思っておりまして,頂いた御意見など,論点を整理するようなペーパーも事務局から徐々に提案させていただきたいと思っております。
 本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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