文化審議会第12期文化政策部会(第8回)議事録

平成26年11月10日

【内田調整官】  お疲れさまでございます。定刻でございますので,これから開会させていただきたいと思いますけれども,開会に先立ちまして配付資料の確認をさせていただきたいと思います。
 本日の配付資料といたしましては,皆様のお手元右側でございますけれども,まず座席表がございまして,その下に各団体様からカラー刷りのリーフレットを全部で5種類頂いておりますので,置かせていただいております。そして,そのリーフレットの下でございますけれども,議事次第以下でございますが,まず資料1番,各団体からの発表資料といたしまして小田原市さんからの縦長の資料,そしてアートNPO法人リンクさんの横長の資料,そして,その下に資料2といたしまして,事務局説明資料といたしまして,大きな文字で①②③番とそれぞれ書かせていただいていますけれども,その3種類の資料がございます。そして,皆様の左側でございますけれども,平成24年度に取りまとめしました政策評価の報告書,クリーム色の冊子でございます。それと行政事業レビューの関係資料,政策評価における事後報告書という資料がございまして,その下に机上資料として紙ファイルにとじた資料一式がございます。過不足ございましたら,事務局までお知らせいただければと思います。
 それでは,部会長,よろしくお願いいたします。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 それでは,ただいまより,文化政策部会の8回目を開催させていただきたいと思います。皆様,本日は御多忙のところお集まりいただき,誠にありがとうございます。
 本日はヒアリングの最終回でございます。文化芸術団体へのヒアリング,本日は4団体に御出席いただいておりますので,皆様是非ともよろしくお願いいたします。お忙しい中,ありがとうございます。
 ヒアリングの後は,前回に引き続き,現行の基本方針である第3次基本方針のフォローアップ,現在御審議いただいております次期基本方針に向けた論点整理などについて,事務局の方から説明を頂きながら自由討議を行っていきたいと思います。
 それでは,早速ヒアリングに入りたいと思います。今回は,まず1番目に諸外国との文化の交流の可能性を探るという意味で国際交流基金様,次に昨年被災地から文化芸術創造都市長官表彰を受賞された八戸市様,更に市民が参画して芸術ホールの創設の準備が進められている小田原市様,そして最後に中間支援法人として先進的な取組をされているアートNPOリンク様,それぞれから御活動,お取組について御説明を頂きます。
 それでは,まず独立行政法人国際交流基金の安藤理事長がわざわざお越しいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

【安藤国際交流基金理事長】  御紹介にあずかりました安藤でございます。
 頂いたお時間が10分ちょっとぐらいということなので,はしょって御説明いたしますけれども,2つ申し上げたいと思います。1つは,国際交流基金,我々の組織,創立40周年を越えておりますけれども,なかなか知名度も低くて,どういう活動をやっているかということについて御存じない方が多いと思いますので,国際交流基金の概要について簡単に御説明して,その後,文化交流につきまして私の考えている所感を4点ばかり簡単にまとめさせていただきたいと,こういうふうに思っております。
 最初に国際交流基金の概要でございます。我々,1970年にできて以来,もう40年を越える歴史を持っておりますが,現在,海外に22か所の拠点を持っております。あと本部は東京本部をはじめとして幾つかございますけれども,全体で200人を超える人員がおりまして,予算は年間で200億円弱ぐらいでございます。我々にとってやっぱり海外との交流というのが一番大きなポイントでございますので,海外に事務所を持っているということが1つの強みかと思います。事務所がないところは,私どもは外務省の下に設置された独立行政法人でございますので,大使館の協力を得て事業を展開しているということです。
 事業の柱は3つございます。1つは日本語教育の振興,もう一つは文化芸術交流,そして3番目が日本研究・知的交流でございます。以下,簡単に御説明します。
 日本語につきましてはいろいろな事業をやっておりますけれども,日本語能力試験を外国,それから国内で実施しております。それから,さくらネットワークといいまして,国際交流基金の事務所のあるところや海外の日本語教育機関を中心としていろいろな日本語教育の振興事業をやっていると。あと,専門家を海外に派遣したり,講座を実際に基金の事務所ほかで開いたりしております。あるいは日本語の教師を外国に400人以上派遣していると。あるいは,EPAの関係で日本に来る前の予備教育を海外でやっているというようなことをやっております。下の地図を見ていただきますと,左側にございますけれども,79年に始まったときは,これは本当にまだ12人ぐらいでございましたが,40年間で今400人になりなんとしているということでございます。
 文化芸術交流については,これは様々なことをやっておりますけれども,例えば一例を申し上げると,左側の下にございます「半神」は,この間池袋でもやりましたけれども,韓国で野田秀樹さんが韓国人の俳優を使って合作をしたわけでございまして,こういう演劇での交流であるとか,それからその次は,これはパリのグラン・パレでやった「北斎」展でございまして,1日に4,000人ぐらいの観客が来てくださいましたけれども,こういう美術展であるとか,あるいは右上にございます,これは杉本博司さんがやった文楽でございます。ヨーロッパのスペイン,イタリア,フランスで公演いたしました。フランスではル・モンドが1面トップで報道してくれたというようなものもございました。それから,右下は文化芸術,広い意味での人物交流でございますけれども,中国の高校生を年間で30人ぐらい呼んで交流をしているということでございます。
 それから,日本研究・知的交流もやっておりまして,各国の日本を研究する機関に対する支援を行ったり,フェローを呼んだり,それから知的交流を行うことによってセミナー,シンポジウム等も主催し,あるいは助成をしているということでございます。それから,右下にございます青年交流ですけれども,日本とアメリカで,こちらに呼ぶのは1,000人ぐらい,それからこちらから出掛けていくのは1,000人ぐらいということで,毎年2,000人以上の交流をお助けしております。
 以上が3本柱,大変駆け足ですけど,申し上げましたけれども,その次に,アジアセンターというのがございまして,これは今年から発足したんですけれども,特にこれから成長の著しいアジアとの交流を盛んにしていこうということで,オリンピックまでの7年間で300件規模の事業を実施すると,補助金として新規で200億円を頂いております。内容は,日本らしい交流をしようと。対等の立場に立って,各国のアイデンティティーを尊重しながら双方向で交流していこうというものでございます。
 具体的な内容をその次のページで申し上げますけれども,1つは,左上にございますように,東京で先般,森美術館で行ったんですけれども,都市を中心とした,新しい都市をどう考えていくかというセミナーをしたり,それから左下にございますが,これはついこの間終わった東京国際映画祭,この中でアジア部門を強化いたしまして,アジアの映画を20本ぐらい見せる,あるいはアジアの映画人を100人ぐらい連れてくるということで交流を始めております。来年以降は,今度は日本映画を向こうに持っていくのにどうしたらいいかということを新たに今始めようと,現状以上に精力的に紹介していこうということでございまして,今年はその第1回でございました。
 それから,右下でございますが,これはサッカーでございますけれども,近くサッカー協会と一緒に連携して,アジアのサッカー人の人材育成,若者の育成のお手伝いをしていこうと思っております。これはほかに野球であるとか柔道であるとか,こういうこともと思っております。
 それから,右上がちょっと大きな事業ですが,これはアジア,東南アジアで今日本語を勉強する方が110万人ぐらいいるんですが,教師が絶対的に不足しているということで,いわばボランティア的にシニアの方と若い学生を大量に派遣しようと,2020年までに3,000人ぐらい派遣しようという計画で,とりあえず第1陣がこの秋に出発いたしまして,今大体,とりあえず100人ぐらいですけれども,これは総理官邸で総理に激励会をやっていただいたというものでございます。
 日本語について最後にちょっと一言だけ申し上げますが,我々も頑張っておりますが,孔子学院が物すごい勢いで活動をやっておりまして,左側にございますのは語学試験の受験者。これは赤が孔子学院で,左側の緑が国際交流基金でございますが,ほとんど日本の方は横ばいなのに,中国はどんどん増えていると。それから,真ん中のは語学教師の派遣数でございますけれども,これも国際交流基金は100人ちょっとぐらいしか外に派遣しておりません。今さっきのパートナーズは別にしてでございます。ところが,孔子学院はもう既に1万人以上派遣していて,2015年には2万人にしようという目標を公に言っておると。それから,一番右は海外の持っている講座数でございますが,孔子学院はごらんのように,赤の国際交流基金に比べて,もう右肩上がりで大変な勢いで増やしているということで,我々もしっかりやっていかないと,いろいろな国でもう既に第二外国語として日本語に代わって中国語というところが増えているわけでございますので,しっかり取り組んでいきたいと思っております。
 国際交流基金の活動については,もっと詳しく御説明したいんですけれども,このぐらいにいたしまして,あとちょっとポイントだけ,私が考えている文化交流の上での問題点を申し上げておきたいと思います。4点ございます。
 1点目は,日本は非常に豊かな文化を持っている,これは世界に誇れることだと思います。ただ,日本国民が自ら質の高さというものを必ずしも十分理解しているかというと,そうではないのではないかと。そういうすばらしい日本文化をもっと海外に紹介していく必要があると思っておりまして,そういう意味でも,やっぱり日本は文化芸術立国としての体制,予算,人員,組織も含めて,そういう体制をしっかりしていくということが必要だと思います。文化庁さんもその方向で一生懸命努力しておられると伺っております。ただ,最近の動きとして,私がやや楽観視というか,いい兆しが出てきているなと思いますのは,3点ございまして,1つはやはりそういう日本の持つ文化の高さ,質の高さというものを日本国民がよく理解し始めてくださっていて,もっと文化を外に出していこうという雰囲気が非常に出てきているというのが1点。それから2点目は,これはさっき申し上げた中国あるいは韓国のことと関係するんですけれども,今,中国,韓国がコンテンツ産業であるとか語学であるとかそういう面で大変な攻勢を掛けている,これではまずいという意識が日本の国民にも出てきているということでございます。それから3番目は,やはり何といってもオリンピック,こういうものがあって,2020年に向けて日本の文化というものをもっと出していこうと,そういう風が吹いているということがあると思います。以上,1点です。
 それから2点目は,私は文化とビジネスということについてちょっと申し上げておきたいと思います。やはり文化は,所詮というか,基本的にビジネスの要素を非常に色濃く持っております。和食,食にしてもファッションにしても音楽にしても映画にしても演劇にしても,基本は文化はビジネスとして成り立っているという部分があると思います。クール・ジャパンの最近の流れというものはまさにそういうものに乗っかっているわけでございますが,他方で,文化はビジネスだけではないということを強調したいと思います。ビジネスで出ていくところだけを考えていると,落ちてしまう地域や分野が出てくると。例えば地域でいえばアフリカであるとか中南米であるとか中東であるとか,そういうところはなかなか商売にならない。そうすると,そういうところの手当てがされない。これでは日本の国益が増進されないということになると思います。それから分野にしても,もうからないことでもやらなくてはいけないという分野がある。ここはやはり国が取り組んでいく部分だろうと。それからもう一つ申し上げたいのは,余りビジネス,ビジネスで文化を扱っていると,やはり反発が出てくる。いわば文化侵略というような声,今は全くありませんけれども,そういうことが出てくる可能性もあり得るので注意しなくてはいけないと思います。
 それから3点目は,今オリンピックに向けての議論の中でも,発信,発信,日本文化をしっかり発信していこうと,こういう機運があって,それはそれで私は結構だと思うんですけれども,やはり日本が一方的な押し付けで日本の文化を相手に持っていくということだと,相手から反発が出てくることにもなりかねない。それからもう一つは,ビジネスの場合でも,日本人が「これはいいんだよ」というふうに一方的に言うだけでは,本当にそれが現地のニーズに合ったものになるかということは,それは分からないと。テレビ番組にしても映画にしても音楽にしても,日本人がいいと思っても,相手側がそれをいいと思うとは限らないので,やっぱり相手の考え方というのをよく踏まえて文化交流をやっていく必要があると。それからもう一つは,日本の一方的な発信だけではなくて,相手の文化も尊重してあげる,そして相手の文化も日本に紹介してあげる,そのための手助けをしてあげるということが必要だと思います。そして,そういう一方通行ではなくて双方向の交流を通じて,できれば共同制作であるとか,新しい価値を生み出す努力,こういうことによって新しいものを生み出していくと。つまり,日本が日本だけではなくて外国と手を携えて,このグローバル化の世界の中でしっかりとお互いの価値を認め合っていくということが必要ではないかと思います。
 最後に4点目でございますが,先ほどちょっと申し上げたオリンピックでございます。これはもう皆様方に申し上げるまでもなく,日本と世界の友好を文化というものを通じて増進する絶好の機会でございますので,こういうものに取り組んでいきたい。その場合に,やはりオール・ジャパン,日本のいろいろな組織,そしていろんな民間も含めた,これはオール・ジャパンで取り組んでいく必要があると思っておりまして,私ども国際交流基金もその一翼を担っていきたい。それからもう一点は,オリンピックのときだけ,その夏の時期に何かをやるというだけではなくて,オリンピックに向けたこれからの数年間,これをそれに向けた1つのネットワーク作りというか,お互いの理解のために続けていく。そして,オリンピックの後も同じような努力を続けていくことによって,オリンピックを1つの通過点として意識してやっていくと,継ぎ目なく文化の交流をやっていくということかなと思います。
 ちょっと時間を超過しましたが,以上でございます。ありがとうございました。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして八戸市様,よろしくお願いいたします。

【大澤八戸市まちづくり文化スポーツ観光部芸術環境創造専門員】  よろしいでしょうか。八戸市まちづくり文化推進室の芸術環境創造専門員という立場で働いております大澤苑美と申します。どうぞきょうはよろしくお願いいたします。八戸の実施している文化政策の内容と,地方で文化行政をしていて思うことというのをお話ししたいなと思っております。
 まず,青森県八戸市ですけれども,地図の青森県の右端の青くなっている部分です。人口24万人おりまして,実はねぶたの文化とは違う南部地方の文化に含まれております。北東北の中では工業地帯としては1番目というので,工業地帯でもありますし,水産の都市でもあったりします。
 この八戸市で私たちが文化に取り組んでいる部署というのがこのような図式になっておりまして,平成22年度にこのような部署になりました。それまでは文化を担当するのは教育委員会の中にあったんですけれども,市長の肝いりというのもありまして直属の部署になりまして,まちづくりと文化とスポーツと観光という,何かこれからまちづくりの力になりそうだというものをごちゃっとまとめたのが私たちの部署になっております。その中に私のおりますまちづくり文化推進室というのもありますし,2011年に開館した文化施設の「はっち」,また美術館なども含まれております。
 私たちが八戸で取り組んでいる文化の方針として,多文化都市と言っているものがあります。通常は国際交流の分野で使っている言葉かと思うんですけれども,伝統文化から新しい文化まで多様な市民の文化活動というのを何とか力にして,八戸の活性化,地域の活力の創出につなげたいということで,多文化推進ということをコンセプトに進めています。こちらが平成22年度にこの委員会,懇談会が発足しまして提案書が出されているんですが,今現在これを更に発展させまして,八戸にはまだビジョンとか条例というものがないんですけれども,そういったビジョン作りも今現在取り組んでいるようなところでございます。
 八戸でアートのまちづくりといったときの考え方なんですけれども,アーティスト・イン・レジデンスというような形で,アーティストが八戸の町に入り込んで市民と一緒に共同制作,創作をしてもらう中で,地域の資源の掘り起こしですとか市民力を掘り起こしたりとかということで,従来とは違う視点から八戸の日常生活,暮らしということに対する新しい価値観を見つけてもらいたいと思っています。それを市民活動をまた再構築することにつなげたりですとか,地域の誇りを回復していくというような流れで,その後に目指すこととしては,八戸市が創造活動が日常的に,多発的,自発的に行われる地域になって,活力ある地域になっていきたいなというようなプロットを考えて進めています。
 こうした中で行っているプロジェクトが主に3つあります。これは八戸市役所の文化の担当の部署がやっているプロジェクトで,これからお話しするんですが,八戸に合併した南郷村というところで行っているダンスを用いたアートプロジェクト「南郷アートプロジェクト」と,先ほど工業都市と申しましたけれども,八戸にはたくさん工場群がありまして,それを地域資源と捉えて行っていく活動,「八戸工場大学」という市民活動の場,また「まちなかアートリノベーション」と題しまして,町なかの空き店舗を拠点にクリエーティブ産業を生み出していくようなことにつなげたいというので拠点を作っていく,そんな活動をしています。それに加えまして,2011年にオープンした「八戸ポータルミュージアムはっち」が,地域の資源を大事に思いながら,町の新しい魅力を創り出すところということで,はっちの方でも地域の資源を巻き込んだ文化活動を行っています。はっちは文化だけじゃなくて,中心街のにぎわい創出ですとか,観光ですとか,そういったことも含めた複合施設になっております。
 こうした八戸のアートのまちづくりを行うに当たって特徴かなと思えることなんですけど,「アートとまち」の専門員という立場の人間が何人かおります。私もその1人なんですけれども,市が実施するアートプロジェクトの企画立案ですとか,アーティストを呼んだりとかコーディネートしたりとかいうことに対して,芸術環境創造専門員という職員を置いています。今年から2名になっていまして,私も実は八戸出身ではないんですけれども,市外から,アートマネジメントを勉強してきた,経験してきたという職員がいます。嘱託職員という立場で一応週30時間働くということになっておりますけれども,このような状況で1年契約で異動しなくて,私も今4年目ということでおります。そのほかの普通の職員は私たち以外に5名所属して運営をしています。
 また,先ほどのはっちの施設の中にもコーディネーターと呼ばれる職員がおりまして,たしか7名,七,八名おります。こちらのコーディネーターも,アート事業のこともやりますし,また,まちづくりだったり広報のこととか,町なかにぎわいのこととか,様々な分野ですけれども,はっちが行う事業のコーディネートをしています。こちらも嘱託職員という立場で働いている職員です。さらに,はっちにはその上にディレクターという立場の方がいまして,はっちが主催する事業の企画立案ですとかディレクションを行っています。現在2名おりまして,芸術文化の分野とまちづくり・観光の分野と2分野あります。B-1グランプリの発祥の地は実は八戸なんですけれども,せんべい汁を売り出して率いている木村さんという方と,南三陸町の「きりこ」のプロジェクトなどを担当されている吉川由美さんが今担当しております。この方たちは非常勤で,デスクはなくというような立場で働いております。
 あと,恐縮なんですが,もう一人おりまして,八戸市長の政策というのもかなり八戸にとっては大きいことになります。今3期目なんですけれども,市長が創造的な復興,つまりクリエーティブな町にするということを復興のスローガンに上げておりまして,公約の中にアートのまちづくりをちゃんと推進するということですとか,こういった専門員を活用するんだということを盛り込んでいまして,市長の公約では珍しいのかもしれませんが,「文化」とか「アート」とかいう言葉が7つとか8つとか出てくるような,そんな政策を出している市長でございます。
 では,実際にやっているプロジェクトをちょっと御紹介したいと思います。
 「南郷アートプロジェクト」です。こういった写真のような農村地帯なんですけれども,平成13年に合併した地域で行っています。民俗芸能とか農作物,サマージャズフェスティバルとか,意外と地域資源が豊富にあるようなところです。ここに文化ホールが20年に開館しておりまして,このホールの在り方の模索という意味でも行っているもので,例えばというので,町なかにアーティストの方たちに出てきてもらってジャズとダンスのパレードをやったりですとか,これは山田うんさんたちのダンスカンパニーが地元の島守神楽保存会とコラボレーションして,ヒマワリ畑があるんですけども,ヒマワリ畑の中に特別なスペースを作ってパフォーマンスを上演するですとか,これは八戸市内の高校生とか大学生がモデルさんになってダンスのファッションショーをやりましょうというのを,これはホールの中でやりました。また,先ほどジャズフェスティバルと申したんですけれども,八戸はかなり地元にアマチュアミュージシャンが多くて,その方たちと何かコラボレーションができる企画をということで,プロのダンサーの主にコンテンポラリーダンスのアーティストの方と作品を創作して上演するというのを行っています。ジャズフェスティバルがあるというので,南郷がジャズの町というので一応アピールしているということにももとがあります。また,南郷では小学校がだんだん廃校していくということがあるんですけれども,その学校の記憶をちゃんと残すというのでダンス映画を作るプロジェクトをやっておりまして,昨年から始めて,3部作を作るというので,今年もセレノグラフィカさんというアーティストの方と一緒に子供たちと作っているプロジェクトがあります。また,先日は大駱駝艦(だいらくだかん)の皆さんが公演してくださったんですが,八戸えんぶりという,これも民俗芸能がありまして,こちらを大駱駝艦の皆さんに習っていただいて,新しい作品を作るというようなことをやっています。12月には大駱駝艦の拠点の吉祥寺・壺中天でも再演ということになっております。またもう一つ,ダンスではないんですが,南郷区に引っ越してきたアーティスト,山本耕一郎さんがおりまして,山本さんと一緒に行うプロジェクトというのもあります。まず空き家を掃除するということから始まったんですけれども,こういうのを地域の人たちとか町の人たちと一緒にやっています。山本さんははっちにレジデンスしていたアーティストなんですけれども,八戸が気に入って移住しています。保育所が閉園するに当たって,そのプロジェクトを企画してもらったりですとか,あとは,田舎なのでなかなか新しい人の出会いというのがないんですけれども,新しい交流の形を作ろうというので,山本さんちでbarスマモリという新しい交流の場を開くというような活動をしています。
 2つ目,「八戸工場大学」ですけれども,こちらは大学という形式に倣って,講義,課外活動,サークル活動というのを工場という資源を用いて行いましょうということをしています。工場の方に先生になってもらって,写真を撮ったり,工場もえというのがはやっていますけれども,どんなことを作っているのかとか,どんなことがすごいのかというのを知りましょうというようなことだったり,八戸の工場製品を使ったワークショップ,例えばセメントとか紙とかといったものをアーティストにワークショップに仕立ててもらってやるような,そんな活動を軸にしながら,時々は課外活動と称しまして船に乗って工場を見に行くというようなこともしていますし,また今年は,サークル活動と呼んでいるのはアートプロジェクトを実施しようということなんですが,これはLNGのガスタンクのターミナルなんですけれども,これが来年の4月に稼働しまして,その前にタンクでガスを運び入れると大きな炎が上がるということになっていまして,それをみんなで見るための最高の場所を作りましょうというアートプロジェクトを1月に実施する予定です。マイナス162度になると気化するという温度だそうなんですが,この鉄塔にフレアスタックと呼ばれるガスの炎が上がるので,それをみんなで見るというので今試行錯誤していまして,このような市民の皆さんと一緒に行っているプロジェクトで,ちゃんと学長とかもいるんですけど,市の中で一番工場に詳しい方に学長になってもらって,助手さんという形で市民の方を巻き込んで,運営もこのように運営会議をして進めています。
 あともう一つの軸の「まちなかアートリノベーション」ですけれども,こちらはちょっと年によって行っている拠点が違ったりするんですが,最近,八戸ニューポートという場所をオープンさせまして,町なかの空き店舗を拠点にクリエーター,実際にクリエーターとして働いている方は八戸はなかなか少ないんですけれども,そういうことに興味があるような方たちを対象にしたセミナーですとかワークショップなんかを行いながら,まずはそういう人たちを発掘していこうという試みをスタートさせます。先日オープニングをしまして,八戸の未来がどうなったら面白いかというのをみんなで集まってワークショップをやったりしました。その前身として福年商店という,こちらの空き店舗で,いろんな演劇の人たちの練習場所だったりミーティングスペースだったり,そういう活動をするような場所もオープンさせていました。
 もう一つ,「はっち」ですね。はっちでの文化活動です。いろいろあるんですけれども,「八戸レビュウ」というのは,はっちのオープニングの企画として行ったもので,八戸はいろいろ8にこだわっているんですが,88人の市民の方の生きざまのストーリーを取材して,そのポートレート写真を有名な皆さん,アーティストに撮っていただいて写真集を作るというプロジェクトをやりました。先ほどの南郷に移り住んだ山本さんですけれども,八戸の商店街を取材して,お店の人たちのうわさ,ゴルフがうまいらしいよとか,そういうことを店頭に張っていくようなプロジェクトですとか,八戸は横丁に飲み屋街がたくさんあるんですが,その空き店舗でダンスや演劇,落語などをするような「酔っ払いに愛を」というプロジェクト,また,デコトラって御存じですかね。ぴかぴかしているトラックなんですが,これも発祥が八戸だということで,左側の写真は三社大祭という祭りなんですけれども,こういうきらびやかな祭りがきっとデコトラにつながっていて,実際に魚を運ぶトラックが,俺たち魚を運んでいるぜというあかしでデコトラになっているということらしいんですが,そういうのをプロジェクトにしたりしています。また,その三社大祭のときに騎馬打毬(きばだきゅう)という馬の上に乗ってやるポロみたいな競技があるんですけれども,これをKOSUGE1-16というアーティストユニットの方がプロジェクトにしてくれて,八戸はロボコンも盛んなんですけど,ロボコンで騎馬打毬をやるというようなプロジェクトもやったりしています。また,最近,八戸演劇祭もこのはっちができたことによって行われるようになってきまして,今1年に1回行っているのもあります。
 というので,こんなふうにいろいろやっているんですが,そんな私たちの課題,目指す目標かなというのもあるんですけれども,今私たちはどちらかというと行政とはっちが主導してこういったプロジェクトをやっているんですが,できれば市民や企業がアートイベントや中間支援といったことを自発的,主導的に実施して,それを行政がサポートするという状態になりたいなと思っているんですが,やはり地方自治体だとなかなかそういう人材はいないというか,流出しているというのが現状かなと思います。そういう人たちをどう発掘していくのかというのも問題ですし,どう育てていくのかということも課題になっています。また,市内の文化芸術関係部署が総合的にレベルアップすることというのもあるんですが,もちろんはっちだけじゃなくて八戸市公会堂とか美術館といった施設もあるんですが,こういった施設も併せて,どう社会,八戸のまちづくりに自分たちが関わっていけるのかということも総合的に意識していかないといけないなと思うのと,文化の部署だけじゃなくて,例えば福祉の部署ですとか教育とか環境とかといったところからも,何かあったときに,あっ,アートを活用しようと職員の人が思えるような意識も必要かなと思っております。
 また,国の文化政策に期待することというので偉そうにまとめてみましたけれども,まず,こういったことをするのに専門員とかコーディネーターを長期的に確保するというのが必要かなと思っています。実際にどういったアーティストを呼んだらいいのかとか企画をしたらいいのかということを考えられるスタッフがいる,しかもそれが1年だけじゃなくて長期的にいるというのが必要かなと思っています。もちろん,私も含めですけれども,いきなり来てすぐにぱっとはできないので,そういう人たちが市の中でちゃんと働けて,地域のことが分かってと思うと,やっぱり長い期間そういう人を確保していく仕組みみたいなものが欲しいなというところです。また,そのときに是非雇用環境も向上させたいなと思っていまして,なかなか八戸市役所には言いにくいことですけれども,とにかく単年度契約とか嘱託職員とか緊急雇用制度とかといったもので何とかお金を確保して私たちを雇ってもらっているんですけれども,なかなか通常の職員と同じような勤務状況で働ける制度が,実際そう雇いたくてもそういう制度が役所の中にないというのも1つあるのかなと思っていまして,私も週30時間働いていることになっていますけど,そんなんじゃ仕事終わらないなとか,いろいろありながら働いていたりするので,何とかこういう専門員が長く普通の仕事として働けるような環境が地方にあったらいいなと思っています。また,そういったことの行政職員の理解も必要かなと。あとは,複数年度にわたる助成制度みたいなのも欲しいなと思っていまして,単年度でいろいろ企画をしてみるんですが,それを単年度でやっていると,やはり行政の人たちは皆さん異動したりしますし,そのときに例えば市長がアートが好きだからやっているというだけで終わらせては意味がないので,オリンピックを経てその後も続けていくためには,ちゃんとそれが仕組みになっていく,アウトリーチしていくような仕組みとか,こういう事業をしてほかの分野と連携してこの問題を解決させていく制度とか,何かそういうところに結び付くまでちゃんとできるような長期的な助成などがあったらいいなと思っております。
 というわけで,八戸の発表はこれで以上になります。ありがとうございました。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 続きまして,小田原市様,よろしくお願いします。

【諸星小田原市文化部長】  神奈川県小田原市から参りました,文化部長の諸星と申します。よろしくお願いいたします。
 小田原市の場合はお手元に資料を配らせていただきました。1つは小田原市の文化振興ビジョンというものでございます。それから,カラーになったものが2種類ございます。こちらが芸術文化創造センターの基本設計の概要版と,それから芸術文化創造センターの管理運営の実施計画の概要版でございます。文化部は平成23年度に誕生いたしまして,こちらも他の都市と同じように教育委員会の生涯学習部であったものと市長部局の文化政策の部門を合体して市長部局の文化部というものを作りましたけれども,その23年度からの主な成果がこの3つの資料に集約されているかと思います。
 芸術文化創造センターは,様々な紆余曲折(うよきょくせつ)がありましたけれども,ようやく今年度実施設計が終了する見込みとなりまして,来年,再来年で建築の工事を行って,3年後の秋にオープンするという形で今準備を進めております。それに先立ちまして,そもそも小田原市としての文化政策をどのように定めていくのかというところが芸術文化創造センターの基本構想の段階で市民の方や専門の委員の皆さんからいろんな御意見が出まして,その中で改めて,そういったプランは過去に作らなかったわけではないんですけれども,総合計画という市の,行政の計画の中で文化力を高めるという方針は打ち出されているものの,文化政策としてはそのビジョンというものをまだ確立できていないのではないかという御指摘に応える意味で,平成23年度に文化振興ビジョンを作らせていただいたものです。この文化振興ビジョンは,いわゆる芸術文化といいますか,ファインアートに限定されるものではありませんで,生活文化ですとか,小田原にありますなりわいの文化,小田原は箱根の足元で,木製品などでの寄せ木細工ですとか木造玩ですとか,そういったものづくりの部分などもたくさんございますので,そういったものも視野に入れながら,市民の様々な活動を活発にしながら,人づくりとまちづくり,経済的な側面も視野に入れた文化振興あるいは文化の視点でのまちづくりを横断的,総合的に進めていくための指針ということで作らせていただいたものです。目指す都市の姿としては,「希望と幸福感を持って暮らすことができるまち」というふうに定めて,総合的に文化の視点でまちづくりを進めていこうという旗印にしたものでございますけれども,まだこれを改めて条例化していくというようなところ,文化振興の条例にしていくというところが私どもの宿題として残っているところでございます。
 芸術文化創造センターについては実はかなり紆余曲折があって今ここまで来たわけですけれども,そのお話と,それから管理運営の実施計画の内容に行く前に少し,これは今度50年ぐらい遡って過去のお話をさせていただこうかなと思います。こうした50年ぐらいの小田原の文化政策の歴史自体を見てみますと,やはり行政が文化政策を一貫して安定して行っていくということの難しさを改めて感じるわけですけれども,特に50年前といいますか,今私どもが使っている小田原市民会館という施設があります。これはもう53年を既に経過していますけれども,昭和37年に開館しました。昭和29年に開館した神奈川県の音楽堂を除けば,神奈川県内では早い時期にオープンした文化施設ですけれども,これができました背景としましては,当時の市長が鈴木十郎という方で,読売新聞や朝日新聞の記者を経て,松竹に勤務されて歌舞伎座の支配人などをやられた方でした。現在,国立劇場の伝統芸能情報館で「代々の團十郎」という企画展示が行われているんですが,ここに展示されている品物はこの鈴木十郎氏のコレクションでございます。こういった歌舞伎との関わりが非常に深い,またあるいは大阪の松竹にいられた時代には文楽の振興にも大変尽力した方が市民会館の立ち上げ時に市長であったということが1つは小田原の非常に幸運なところだったと思います。開館当時にはこけら落としに歌舞伎を呼んだり,オープン以降も歌舞伎の上演というものはずっと続いていたわけですけれども,ただ一方で,行政が行っていく文化政策というものは,やはり首長の交代であったり,あるいは財政難であったりすることによって一気に変化してしまいます。ある時期は,オープンから昭和50年代ぐらいまでは,自主事業というまでは成熟していなかったかもしれませんが,官で実施する事業としてはかなりのものがやられていたり,あるいは当時は貸し館が中心ではありましたけれども,労音などの組織がありましたり,大学のOB会などが積極的に音楽などの公演で使っていただいたりしましたので,市民の文化状況というのは大変豊かでした。ただ,それ以降の経済状況が悪くなったり,市としての財政状況が悪化したり,あるいは行政としての課題が別のところに移っていくことによって,なかなか文化に対する投資というものが行われにくくなりまして,近年では市民会館は,建物が老朽化しているということもありますけれども,また周辺により良い施設がたくさんできてきているということもありますけれども,なかなか文化事業が展開できなくなった状況がかなりの期間続いてきたというところです。そういった中で,小田原でももっと文化振興を図りたいというところから施設の建て替えの議論と内容をもっとより良くしていくというような議論が起こったわけですけれども,ただ,施設の改修の中で,残念ながら,一度城下町ホールというプランが立ち上がりましたけれども,これは平成17年のことですが,こちらは設計者も決まり実施設計まで至ったんですけれども,この施設のプランに対して市民が非常に強い反対運動を起こしまして,その結果としてそのプランは白紙に戻り,改めての仕切り直しで平成20年からその取組をさせていただいて今,今日に至っているのが芸術文化創造センターでございます。そういったものの反省を込めて,私どもは専門家の方と市民の方に相当密度高く参画していただいて,例えて言えば毎週のように市民の方に集まっていただいてワークショップをやり意見交換をやって,基本構想,基本計画から練り上げてきました。その結果として,設計者も選び,そして今度は設計者を交えて,設計者の方と専門家と市民の皆さんとで意見交換をしながら施設を整備していったというところです。その結果として,今,基本設計というところまで至ってきたというところになります。
 また一方で,施設を造る上で,これまでずっと文化事業というものが非常に低迷してきた時代が小田原の場合はありましたので,その中でその反省を込めてそういったものを,施設整備だけが目的ではなく,中身をどうしていくのかというところも議論を起こさせていただいて,仕掛けとして,これは行政側から文化事業を少しずつ増やしてまいりました。ここ3年間では,金額としてはまだ1,000万にも至らない事業費ですけれども,スタートからすれば約3倍ぐらいの規模になりまして,各小学校ではほぼ全校アウトリーチができるようになりましたり,あるいはセミナーを開催したりワークショップを開催したり,鑑賞に堪えられるものの授業なども実施して,いわゆる担い手の育成というものには積極的に取り組んでいるところです。特に子供たちに向けての鑑賞や体験といったものには力を入れておりますし,また,先ほど文化ビジョンで御紹介いたしましたような幅広の総合的な取組という意味では,昨日なども小田原の地場の木を使って楽器を作って,それを一緒に演奏するというのを7年ぶりにリニューアルオープンした地下街という場所でやらせていただいたりというようなところで,様々なところとコラボレーションして,市民を育てていくといいますか,市民の意識を高めていくということのきっかけ作りに今ひたすら取り組んでいるところです。行政の内部としてはやはりなかなか現在では予算の獲得などには厳しい面がありますけれども,そこの理解を得ながら,これは市民参加でやってきていることによって,市民の皆さんのお声が非常に高まってきているところもありますので,そういった力を背景にして,少しずつではありますけれども,予算獲得に今取り組んでいるところでもあります。
 もともと小田原は市民の文化活動というのは大変盛んでございました。戦前からも絵画に取り組む方々なども大変盛んでしたので,本当にともし火管制の中で絵の品評会をやっていた方々などもまだ文化団体の活動の一端を担っていただいている方が,御高齢になりましたけれども,いらっしゃいます。ただ一方で,そういった長年やってこられた方々の文化団体がやはり高齢化しているというもう一方の課題もあります。また,市民の状況を改めて見ますと,実に多様な活動が非常に増えてきました。こういったものを捉えて,新しい担い手の方々をもっともっと育成して,それを見えるようにしていくというのが私どもの仕事かなとも思っています。市民の方から湧き上がった力では,小田原の映画祭,小田原城で野外でやる野外上映などもありますし,ミュージックストリートという,市街,町なかでいろんな演奏をしていただくものでは神奈川県内最大規模のものに成長してきたものや,あるいはブックマーケットという古本市の新しい形などの様々な展開を,市民の力でそういうものが今できつつありますので,そういったものをもっともっと顕在化していくためにどのような支援をすべきかというところが私どもの改めての課題かと思います。
 具体的な事業の取組につきましては,芸術文化担当課長の間瀬の方から御説明させていただきます。

【間瀬小田原市文化部芸術文化担当課長】  少し時間もないので,かなりはしょった形になると思うんですけれども,我々は今,お手元にあると思いますが,事業の概要の中で7つの事業の基本的な考え方というものを持っているんですが,施設ができるまでは,まず鑑賞事業,育成事業,それから参加していただく事業,これを重点的にやっていこうと。まだ我々は新たな施設ができるまでを種まきの時期であると。それをワークショップ,それからアウトリーチで子供たちに本物の体験をしていただくことによって,だんだんと小さな芽が出て,大きな木に育つというところを目指したい。それで文化力が市民の中に蓄積されることによって,より大木になり,小田原が活発になってくるのではないだろうかと考えております。
 ただ,今つくづく思っておるんですが,私もこの仕事を始めて約50年たっております。舞台スタッフから始まりまして,今,地方公務員という立場になっているわけですけれども,その中で,なぜ日本の国民は文化芸術が必要と思わないんだろうかと,この席で言うのは大変暴言かもしれませんが,私は思っております。まさに関係する法律が,我々が待ちに待った法律ができ,そして文化を語る皆様方のこういう会議の中で,日本を変えるプロジェクトとして是非初年度として位置付けていただきたい。今のままでいくと,先ほどの全国のアマチュアの文化団体というのは大変高齢化しています。あと20年たったらば,もし世代交代がうまくいかなくなれば,その文化団体は消滅するのではないかと私は危惧しております。昭和40年代50年代に元気良く文化を始めた方がそのまままだ担っていらっしゃる,それは大きな問題ではないだろうかと思っております。
 きょうは2つ言いたいことがあったんですが,1つだけにさせていただきます。まず1点目は,先ほどから地域の文化施設というものがやはりその地域の文化環境を良くしていくために必要な施設であるということ,そこには継続的に専門人材がいなくては単なる箱でしかないということだと思っております。それで,1つの文化施策,何か作品を作る,又は状況を変えるということは,私はワンスパン10年だろうと思っております。ですから,文化施設の専門人材の雇用環境,これを少なくとも10年間は働ける体制を作る。これはなるべく,「長期間」というような言葉で書かれますと,恐らく関係自治体は3年よりも5年は長くなったからということで5年で終わりになるかなと思います。是非10年を越えるような長期スパンで明記していただきたい。それで,この地域の文化施設で働く職員が前向きに,経済的にも安定して,地域に真摯に向き合える態勢ができるんだろうと思っております。より劇場,音楽堂等で働く専門人材,特に舞台技術者たちが今大変大きく流動化が見られております。これは事業関係者も含めてですけれども,流動化してきているというのは私は大変危機感を持っております。というのは,大変危険な舞台機構を操作するスタッフがその施設に対して愛情を持たなくなったときに,利用者にとって大変危険な状況が起こるのではないか。やはりこれも先ほどの長期間の雇用というものに結び付くのではないかと思っております。
 ちょっと時間をオーバーしてしまいました。以上で終わります。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 それでは最後に,お待たせいたしました。NPO法人アートNPOリンク様,よろしくお願いいたします。パワーポイントを使われますか。

【樋口アートNPOリンク常務理事】  はい,使います。
 皆さん,こんにちは。アートNPOリンクの樋口と申します。今日はこのような場にお招きいただきまして,ありがとうございます。アートNPOの活動についてこういった場で話す機会というのは余りないと思いますので,少々長くなるかもしれませんが,是非お聞きいただければと思います。
 まず初めに,私どもアートNPOリンクについて簡単に御紹介させていただきます。私どもアートNPOリンクは,芸術文化に関する公益的な活動を行うNPO,芸術系NPO,アートNPOのネットワークの組織です。そして,全国のアートNPO同士をつなぐ中間支援組織としてその役割を果たしています。アートNPOリンクは,全国のアートNPOがこれまでに蓄積してきた知恵ですとか経験を共有,交換する機会を様々な事業を通じて提供しているほか,アートNPOの活動概況ですとか運営実態,あるいは文化政策についての調査研究というものを行っております。アートNPOセクターのシンクタンクとしての機能も担っておりまして,アートを社会の中で生かす新しいアイデアですとか取組に関する提案を行っております。また,公共文化政策に関する専門機関として政策提言等にも取り組んでおります。
 その中で交換事業としまして全国アートNPOフォーラムというものを各地で開催しております。これまでに11年,12の地域で開催してきた実績を持っておりまして,延べ2,000人を超える方々に参加いただいております。顔の見えるネットワーク作りというものをこのようなフォーラムを通して促進したりですとか,個々のNPOや地域が持っておられる固有の課題ですとかNPO全体に関わる課題の共有ですとか経験の交換というものを図ってきております。また,フォーラムの開催が突破口となりまして,フォーラムだけではなくて,実はフォーラムを通して地域に様々な新たな動きを生み出すなど,起爆剤としてフォーラムが機能しております。例えばアートフェスティバルが始まったりですとか,産業遺産の保存につながったりとか,地域に隠された資源みたいなものを発掘したりとかということも起こっております。
 そして,文化庁さん等々の助成も受けまして,2006年度よりアートNPOの活動概況の調査というものを行っております。この調査資料は文化庁はもとより国土交通省ですとか名古屋市さんですとか,様々な文化財団,大学,シンクタンク等々,例えば国立国会図書館等などにも幅広く活用されておりまして,芸術系NPOの振興施策にも寄与しております。
 次に,ではアートNPOセクター,アートNPOがどういった活動をしておられるのか,どういった社会的な役割を担っておるのかというのを簡単に御紹介したいと思います。1998年12月にNPO法が施行されましてから,市民が社会に参画する領域というのが格段に広がっております。NPOの登場によりまして,市民自らも公共を担っていくのだという理念が浸透しまして,皆さん御存じのとおり,医療ですとか福祉,教育,まちづくり,観光,国際交流,人権,災害救助,科学技術,ありとあらゆる多様な社会的な公共サービスというものが市民自らの手で生み出され,企業ですとか行政などとセクターを超えた連携が今生まれております。2013年9月30日の時点で4万7,000を超えるNPO法人が認証されておりまして,第6号分野,学術,文化,芸術又はスポーツの振興を図る活動という分類が定款上に掲げられているんですが,それを掲げている団体は1万6,000を超えております。そのうち芸術文化に係る活動を行っているだろうと思われる法人は,これは私どもの独自の調査ですが,4,867法人を数えております。このことから,NPO法人全体のおよそ10%強の法人が何らかの芸術文化活動を事業に含めておられるということが明らかとなっておりまして,公共文化事業の担い手の広がりというのをこの数字からも確認していただくことができるかと思います。私どもの調査はNPO法人に限っておりますので,一般社団ですとか実行委員会等を含めますと,市民による非営利型の芸術文化活動というのは相当数,社会の中で既に取り組まれているだろうということが言えると思います。この数字が多いのか少ないのかというのはいろいろな指標によって考え方は変わるでしょうけれども,法律ができる2000年以前の状況と現在とは明らかに,比較にならないほど多様で多彩な公共文化事業が市民の手によって全国各地,津々浦々で行われているということが言えると思います。
 次に,日本のアートシーンに変化をもたらしたアートNPOとして,インパクトについて御紹介したいと思います。少しデータも含みます。ちょっと遠いので見にくいかと思いますが,口頭で補足させていただきます。2006年当時のアートNPO法人というのは,鑑賞の機会を提供する鑑賞型の団体ですとか,自ら演劇等々を作っておられる実演団体の方が圧倒的に多く,63%ほどを占めておりました。次いでワークショップやアウトリーチなどの芸術普及,芸術サービス型,そして芸術団体支援型,その次にまちづくりなど芸術文化活用型に取り組むNPOというのが続いておりました。ここ数年この調査は行っていないので,実際にどの程度変化があったのかは臆測でしかないんですけれども,私どもの実感からするに,恐らくまちづくりや地域コミュニティーの活性といった文化芸術活用型ですとか,指定管理者制度や地域での創造拠点を自ら運営するような文化施設運営型の勢いが随分増してきているのではないかと感じております。この背景には,いろいろ考えられると思うんですが,一つにはNPOの社会的認知度の向上と相関しているだろうと思います。また,実演団体等々であっても,NPO法人化したことによって社会的な存在であると強く自覚するようになったという意見がよく聞かれるように,NPO側の意識の変化ですとか成熟度も背景にあるだろうと思います。このほかにも,文化芸術が社会のいかなる領域にも関係することができるという発見,それとその方法論の開発がNPOによって進められたことも,アウトリーチですとかサービス事業ですとか文化活用型というものが増えた理由になっているだろうと思います。さらに,アートNPOの創成期の頃というのは,どちらかというとオルタナティブな存在であるという自覚が強かったと思いますし,あるいは現代美術,音楽,その中でも更にコンテンポラリー,クラシックと,非常に細分化された芸術のジャンルに特化したアイデンティティーが見られておったかと思うんですが,今はどちらかといえば,NPOセクターのみならず,幅広くセクターを超えて関係しておりますので,表現分野は軽やかに超えて複合型のアートプロジェクトが市民の手によって当たり前のように行われております。
 日本のNPOの登場によって様々な公共サービスというものが開発されてきたんですけれども,例えば欧米ですとコミュニティー・アートですとかソーシャル・エンゲージド・アートという言葉が最近使われておりますが,既に日本でもNPOによってそのような活動はあまた取り組まれております。その経験値の蓄積というものは欧米と比較しても僕は引けを取らない水準と強度を持っていると思っております。
 アートNPOによって,次にどのようなソフトが開発されてきたのかについて,かいつまんで御紹介したいと思います。見にくくて大変申し訳ないんですけど,アートNPOは社会の様々な領域で,先ほど来お伝えしているように,クロス・セクトラルな動きを見せ始めています。旧来型の文化振興に加えまして,アートの実践やアートを介した革新的なソフトの開発というものを今行っていると私たちは見ています。それは結果的に市民としての自覚,自分たちが社会の責任を担っているのだという自覚を促す取組にも育ち始めています。ここに一覧を幾つか紹介しております。例えばBEPPU PROJECTさんですとかアートネットワーク・ジャパンさんのように,地域の中で先駆的な,国際的な文化芸術の振興を担うNPOもございます。そのほかにも,文化芸術の専門家を育成するプログラムを開発しているNPO,学校等をはじめとする教育ですとか子供の現場でアーティストによるワークショップですとかコミュニケーションの能力を高めるようなプログラムを提供,開発するNPOもございます。また,在日外国人を日本社会にエンゲージしていくような取組ですとか,社会的マイノリティーの存在を社会に訴えて彼らをエンパワーしていくような取組を行っているNPO,アートを介して人々をつなぎ社会的に孤立しがちな状況にある人々を包摂するNPO,居場所を作っていくNPO,さらには,高齢者福祉のみならず,そのケアに関わる人のメンタルヘルスについてアートを通して取り組む団体もおられます。そのほかにも,選挙に対する関心を呼び起こすような活動をしているアートNPOもありますし,コミュニティーに転機をもたらして地域に活力を与えていく,時に雇用を促進していくようなアントレプレナリアルなNPOというのもおられます。東日本大震災でもたくさん活躍されましたけれども,災害復興におけるコミュニティーの再構築を担ったりですとか,クリエーティブな方法で防災訓練を開発したプラス・アーツさんのようなNPOというのもございます。はっちさんでも取り上げておられたかと思うんですが,近代産業遺産ですとか廃校といった遊休施設ですとか,ふだんアートの現場として使われていないような場所の活用提案をするNPO,観光と組み合わせたアートツーリズムを開発するNPO,地域の歴史ですとか気づかれざる価値に光を当てて,資源の発掘と開発を得意としていくNPOというのもおられます。まだ続きます。アートNPOによるアーティスト・イン・レジデンスを運営し草の根の国際交流を担っているNPOもあれば,メディアですとか情報リテラシーを高めていく活動をしていたりとか,あと私どものような中間支援をするNPOと,枚挙にいとまがないほどありとあらゆる領域で斬新で革新的なソフトを開発し,公共文化政策ですとか公共サービスに対してNPOが取り組んでいるというのが今の現状でございます。
 文化庁さんが今掲げておられる文化芸術立国中期プランにあります,この3つのポイントですね。「世界の文化交流のハブとなる」役割というのは,先ほども申し上げましたように,国際芸術祭ですとかアーティスト・イン・レジデンスを通じてあまた実施しておられますし,「地域を元気にする」ということでいえば,例えば先ほど国際芸術祭で紹介したBEPPU PROJECTさんですが,衰退しつつあった温泉街の空き店舗というものを,国際芸術祭を誘致することによる強烈なインパクを通して,そこの場所,あいている場所というのを地域創造拠点に作り替えていくですとか,あと神山のグリーンバレーさんのように,急激な過疎が起こっている地方の農山村地域を,その過疎のスピードを,これを止めることはできない。しかしながら,緩やかにすることはできるだろうと。それをクリエーターの方を誘致したりですとか,お店,商店を誘致するなどして実際に取り組んでおられる方々というのもたくさんおられます。また,「人をつくる」というポイントでは,例えば,ここは幾つかあるんですけれども,在日ブラジル人の子供たちが多い愛知県の小学校で,NPO法人アスクネットさんというキャリア教育に取り組むNPOが,「トヨタ子どもとアーティストの出会い」というプログラムを通して,学校で子供とアートをつなぐワークショップをやった。例えばそのときにどういったことが起こったかというと,ふだん学力も低くて日本語がおぼつかないブラジル籍の子供がいらっしゃるんですが,アーティストのワークショップを通して,例えばその子の魅力というものに友達が気付いていくわけです。「○○ちゃんは日本語できないと思っていたけど,ポルトガル語も日本語も両方できるんだね」と変わっていくわけです。そういったことがアーティストのワークショップによって起こっているということです。ここで特に重要なことは,こういった地域づくりですとか人づくりといった社会的な事業と,アーティストのアートそのものの振興というものは,矛盾することなく成立するということです。
 そして,先ほど御紹介したNPOの活動領域の中で,今回の中期プランの中にない要素がありました。これは,ここに掲げております社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)という観点です。生きづらさですとか,社会的に排除されやすい状況にある人々,例えばシングルマザーですとか外国籍の方,不安定就労者,ニート,高齢者,子供,障害を持った人,セクシュアルマイノリティーといった方々が真っ当にこの社会の中で生きていける寛容性の高い社会をどのようにして生み出していくのかというのは今喫緊の課題です。このようなソーシャルチェンジに取り組むNPOは,今すごく多くなってきてはいますが,まだまだ弱いです。特にアートに関して,ここに取り組むNPOというのは極めてまだ薄いです。しかしながら,世界の潮流を見てみますと,美術展ですとか国際舞台芸術フェスティバルであれ,社会的課題にコミットすることはもはや当たり前になってきておりまして,ここに対しては日本がこれからもっとソフトを開発していったりですとか投資を生み出していくべきポイントだろうと私たちは思っております。
 続きまして,では,そういった様々なソフトを開発し,公共サービスを生み出してきたアートNPOというのがどういった実態にあるのかというのを簡単に御紹介します。ちょっと図が長細くなっておりますが,御容赦ください。これは2006年に実施しました調査です。アートNPO法人の規模について調査しております。アートNPO法人の年間収入というのは,ちょっとこれは見にくいので,口頭でこれもフォローします。年間収入の平均値は1,047万円,中央値は381万円,約半数のアートNPO法人が350万円未満で運営しています。また,職員の雇用環境を見ますと,常勤職員1人以上を雇用する法人のうち,給与について回答が得られたものだけを集計すると,30%が年間50万円未満です。そして,80%が年間250万円未満の給与で働いているという実態が,これが現実です。
 これは2006年に続きまして次2012年に,アートNPO法人に限らず,大阪府域で活動する文化団体全般を大阪府・大阪市さんの委託により行ったものの報告です。こちらでも同様の規模の報告が上がってきておりまして,団体の年間収入は55%が500万円未満で活動しているということが実態として明らかになっております。このように文化団体で働くアートマネジャーというのが,先ほど来ずっとその話が出てきていてちょっとびっくりしたんですが,文化団体で働くアートマネジャーですとか,芸術労働者と私たちは呼んでいますが,芸術労働者が不安定な労働環境に置かれているということ,そして持続可能な組織運営が極めて困難な状況にあるというのが今,現状にあります。
 少しこの調査は飛ばします。皆さんのお手元にはなかったかな。ちょっと飛ばします。
 ここでもう一度アートNPOの事例を少し紹介したいんですけれども,革新し続ける文化芸術。日本での最先端のアートが集合すると言われる「横浜トリエンナーレ2014」に行かれた方も多いと思いますが,ここで大阪のアートNPOの一事業がアーティストとして招聘(しょうへい)されました。これはNPO法人こえとことばとこころの部屋,通称COCOROOMと呼ばれる団体さんが取り組むプログラムで,「釜ヶ崎芸術大学」というものです。COCOROOMさんは大阪市の西成区の釜ヶ崎と呼ばれる地域,日雇い労働者ですとか生活保護受給者,路上生活者の方々がとても多い,貧困地域と言われるエリアなんですけれども,そこで活動しておられます。その中で昨年,地域の方々とともに自分たちが,皆さんそこに住んでいる人たちが共に学び合う学校,釜ヶ崎芸術大学というものを開校しました。学ぶということを通して様々な社会的な背景を持った人たちが出会うプラットフォーム作りに彼らは成功しています。COCOROOMはこれまでにも台湾のアートフェスティバルに招聘されたりですとか,今日,湯浅さんがおられますが,ブリティッシュ・カウンシルさんとも協力して英国のアート団体とコラボレーションしたりするなど,アート実践者として国際的な評価は受けていたんですが,日本ではこれまで芸術関係者からもアートとはみなされていませんでした。それが今回,横浜トリエンナーレに抜てきされたんです。これは驚きとともに,やっとかという思いと,両方が交錯した出来事でした。このように,この例を出すまでもなく,文化芸術というのは江戸の昔から常に革新し続けて今日に至っています。文化芸術というのは,その言葉が指し示すもののみならず,その意味すらも変容し革新し続けていくものです。そのような時代を先んじて進む文化芸術というものを振興するというのは,大変難しいし,容易なことではありません。時に大きな失敗を伴うでしょう。しかし,その失敗を恐れていては,常に新しく革新し続ける文化芸術を振興することはできません。
 最後に,そのような革新し続ける文化芸術というものをどのように振興していくのかというのを私たちなりにポイントをまとめましたので,御紹介したいと思います。1番が受容者の進化です。見逃されがちですけれども,文化芸術を受容する意識の高い市民というものをいかに増やしていくのかということは,実は大きな,その国の文化度を測る上でも絶対的に必要な要素です。リテラシーの高い芸術愛好家というものをどのように増やしていくのかは,我々NPOの役割でもありますけれども,ここは教育とも絡んできますので,国も全力を挙げて取り組むべきです。
 次に,芸術家への多様な支援の方法を開発していくということ。これもまさにNPOと力を合わせないといけないんですが,例えばアーティストというのは,はっちさんの例で山本さんの例がありましたが,旅人であり,時にまれびとです。その移動というもの,モビリティーというものをどのようにして保障し支援していくのかということは実は重要な課題だったりします。地域に新しい知恵や経験がもたらされたりとか創造性の種がまかれるのは,アーティストが移動するからこそ起こったりするわけです。こういった芸術家の個別の具体的な状況に対して寄り添ったきめ細やかな支援の制度というのが実は必要です。
 3つ目,投資としての助成制度の確立。先ほども述べましたように,常に革新し続ける芸術文化を振興するためには,赤字補てんですとか裁量性の極めて乏しい使途限定型の助成制度ではもはやイノベーションを引き起こすことはできません。投資としてそのリスクを背負うような助成制度の確立というものが急務です。ここ数年,確かに文化庁さんの助成制度に大きな進展がありました。例えば,十分とは言えないかもしれないですが,一般管理費が総事業費の10%まで計上できるようになったものもありますし,80%までの概算払が可能になったものもあります。これは大いに評価できるポイントだと思います。しかしながら,本来必要であるはずの経費が逆に一般管理費の中で見るようになってしまったりですとか,あるいは先ほど来話に出ているように,切実な制作人件費ですとか職員給与といった雇用に関わる支援には結び付かないという点はまだまだ改善の余地が必要なポイントになります。
 多少重複しますが,評価の定まっていない先駆的な取組への支援。投資としての資金分配も必要になりますが,例えばこの度作られたアーツカウンシルさんですとか,そういった機関が率先して,今後,将来のビジョンですよね。方針を示していくですとか,専門家による調査等に基づいたシンクタンクに基づく指針の作成ですとか,市民,企業,政府をも巻き込んだ文化キャンペーンを打ち出していくといったチャレンジも必要です。
 そして,5と6は一緒にお話ししますが,芸術労働者,アートマネジャーですとかキュレーターですとかコーディネーター,そういった方々の雇用,地位の向上というものと研さんプログラムの開発というものが必要です。先ほどの調査でも明らかなように,NPOに限らず,文化団体に所属する職員,アートマネジャーの雇用は極めて厳しい状況にあります。はっちさんのような公立の施設でさえ厳しい状況にあります。文化芸術の振興はアーティストと市民だけで成り立っているわけではありません。そこには必ずアートディレクター,アートマネジャー,あるいはコーディネーターといった芸術労働者が存在しています。彼らがアーティストよりも先に地域住民と折衝したりですとか,高いコミュニケーション能力を発揮して,文化芸術に関する知識も持ち,それで地域の中で立ち居振る舞う,そういった極めて高い専門性が求められているにもかかわらず,その社会的地位は低いままです。芸術文化に関する労働や雇用の環境を整備することは,文化芸術立国中期プランの実現に向けて,さらには2021年以降に向けた文化芸術振興の底上げの最重要課題ではないかと私たちは考えています。
 最後に,文化芸術団体のキャパシティービルディングというものを挙げました。投資型助成金ということを先ほどから言っていますが,これは文化芸術がより広がりを持って多様に発展していくべく下支えすると同時に,実は公的資金の分配の比率ですとか,その投資先というものも適宜戦略的に変化していくということを意味しています。また,私たちのような支援を受ける側の文化団体というのは,政策面の合意形成ですとか評価指標の作成に時間を割く必要が必ず出てきます。事業の成果や効果についての説明責任というものもなおのこと問われるようになるでしょう。しかし,現在の状況で更なるこのような負担を文化団体に求めたとしても,それに応えられないのは明白です。なので,今後,国や地方公共団体の助成制度の改善とともに,アートNPOですとか文化芸術団体の意識の改革ですとか経営スキルの向上ということを促していくこともまた同時に行っていかなければならないと思います。
 これで終わりになりますが,私たちNPOセクターが考える国ないし政府等々が果たすべき文化振興の最大の役割というのは,文化的な生活を営む権利を保障するとともに,多数,多様な表現を保障するということが最大の役割です。例えば阪神・淡路大震災のときに,その後コミュニティーから孤立した状況にある方々の自殺の問題が大きく社会的な問題として取り上げられました。幸せに生きるということと,衣食住が充実する,あるいは経済的に成長するということとはまた別です。人が尊厳を持って生きていくためには,文化的な生活,人とのつながりというものは必ず必要になります。文化的で最低限の生活のその最低限のレベルをどのようにして社会全体で上げていくことができるのか,これがまた2021年以降に向けた重要な指標となるでしょう。
 以上で私の発表を終わります。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 非常に充実したプレゼンテーションが続きまして,ちょっと予定の時間をオーバーしてしまっているんですけれども,せっかくですので15分程度は質疑応答の時間を設けたいと思います。個別の団体でも結構です。また,今回は委員の皆様方から推薦が多かった団体に来ていただいている部分もございますので,今のプレゼンテーションの数々に補足を頂くという形でも結構です。また,あるいは全般的な課題に向けて,個別に質問先を指定しない形での御意見表明でも結構ですが,どなたかいらっしゃいませんでしょうか。
 加藤委員,どうぞ。

【加藤委員】  いささか失礼な言い方になるかもしれないんですけど,大澤さんと樋口さんの仕事を比較的早くから横で拝見してきた立場からいうと,よくぞこれだけ成長されたなと。

【樋口アートNPOリンク常務理事】  お褒めいただき,ありがとうございます。

【加藤委員】  それぞれの方々の自己研さん能力の高さというのに改めて感動したというまず感想を一言申し述べたいと思います。大変すばらしいプレゼンテーションをしていただいて,有り難いなと思いました。今のプレゼンテーションを聞いて,現在の芸術文化の振興が社会的な課題を解決していく上でも大変大きな力を発揮しているんだと再確認できます。樋口さんがいみじくも言っていただいた,芸術文化そのものの振興とこうした活動を通した社会的課題解決は矛盾しないんだということに,非常に共感するところが大きかったと思います。ただし,課題がまだまだ幾つもある。最大の課題はやはり,こうした専門家たちが安定して働ける環境にないという状況を今御説明いただいたんだと思います。その安定して働ける環境作りには,終身雇用のようなシステム,あるいは少なくとも間瀬さんのおっしゃられた10年ぐらい働けるような中期的な働けるシステムというようなものがもちろん必要なんでしょうが,一方で,とはいえ,それを国とか行政にだけ期待していてもなかなか難しい点があるかと思うので,今せっかくアートNPOリンクのような仕組みが作られた,こうした動きに期待したい。また,大澤さんのところでいうと,地方行政の中でいろいろな活動がスタートしている。それと,地域社会でこうした専門家がなかなか不足しているという御説明がさっきありましたが,とはいえ,例えば「はっち」で働いてきた人たちが幸か不幸か雇用期限が3年しかないものだから,逆に八戸市内の中で専門家として独立して働いているようなケースもあるように見受けています。そうした意味でいうと,民間でいろいろと働いている人たちや,今現にNPOで働いている人たちや行政で働いている人たちの専門家同士の更なるネットワークというか,プラットフォーム形成が是非必要なんじゃないかなと思いました。特に民間における企業セクターも含めたこうした文化の振興,それと社会的課題解決を結び付けるような活動をやっている人たちの専門家の支援のためのネットワークというか,プラットフォームのようなものができるといいと思いました。そうしたものを作るべく,どういう形でどういうものを作っていくと有効だということをこれからも是非提案,提言をしていただけるといいかなと。ちなみに,私が今所属している企業メセナ協議会では,少なくとも何らかの形で来年の春ぐらいにそうしたプラットフォーム形成を図りたいと思っているんですが,その内容を十分まだ詰め切れているとは言えないので,今のようなお立場から是非今後とも御意見を頂ければと思います。
 ありがとうございました。

【熊倉部会長】  ほかにどなたかいかがでしょうか。
 仲道委員の方が早かったかな。はい。

【仲道委員】  先ほどの樋口さんの,アーティストのアーティストリー,芸術性と,社会的活動は両立するという意見に,強く賛同いたします。芸術家にとって,自分の芸術性を求めるだけではなくて,社会的な活動をするということがひいては自分の芸術性にも返ってくることなのですが,現状として,そういった活動に進んでいこうという意志を持ったアーティストが少ないことの原因の1つは,やはりそのような活動がボランティアのような,社会的にも報酬を得られない形のものになってしまっているというところに,もしかしたらあるのではないかということに,今日のお話を聞いてはたと気が付きました。若い人たちがその方面でのスキルを磨いて,これからそのスキルを生かした人材となって育っていこうとしたときに,若いから,いいことだから,ボランティアするのが当たり前,というようになってしまっている。そして,それに携わっている人たちも苦しいまま働いている。みんなで何とか頑張って苦しくてもやっていかなきゃいけない,という風潮がこのまま続いてしまうと,せっかくのこういった活動も意識そのものも,やはり疲弊してしまう。それをどうしたらいいのか。すぐに支援ができるということではないかもしれませんけれども,考えていかなくてはならない大きな問題ではないかと思いました。

【熊倉部会長】  吉本委員,どうぞ。

【吉本委員】  どうもありがとうございます。今日のプレゼンテーションも本当にいろんなことに気付かせてくださいました。どうもありがとうございました。
 私も大澤さんと樋口さんの発表で,現在の課題になっている部分が非常に浮き彫りになったような気がいたしました。NPOとか,それから大澤さんのように若くして芸術の分野に飛び込んだ勇敢な人たちが,言ってみれば芸術の社会における在りようを変えていく,あるいは芸術の社会における役割というのをどんどん拡張する現場で働いてくださっていると思うんですけれども,そういう人たちの現状がいかに厳しいものかというものが今日のお2人の話ですごく私は理解できたと思います。そして,今度作ろうとしている基本的な方針でも,文化政策や芸術の役割は拡大しているし,社会にとってますますなくてはならない存在であるということは強く訴えていくことになると思うんですけれども,そのことの背景にはそういう現状があるということをちゃんと認識して,それをどうしたら変えられるのか。つまり,一番新しいところを開発するというところは,樋口さんの言葉にありましたけれども,実験的だったりして,新しい分野を開発するというところに対してなかなか資金は流れていかないわけですよね。失敗してもいいからお金を出すよというのは国には難しいわけですよね。だけど,そこがないとフロンティアは開拓できていかないわけで,それを果たして公共の政策で担保できるのか,できないとしたらほかにどういう仕組みがあるのかということを,この部会でも是非議論しなきゃいけないなという気持ちに改めてなりました。
 以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 すみません,馬渕委員。

【馬渕委員】  今,きょうの4人の御発表,非常に様々なアートの活動があちらこちらで芽生えていると,大変心強く伺いました。その中で例えば,後の3つの御発表と,それから最初の国際交流基金の御発表と比べますと,国際交流基金というのは非常にやっぱり長い歴史を持っていらして,かなりの予算を持って大幅に活動していらっしゃると思うんですが,実際に私は交流基金と一緒に仕事をさせていただいたことがあって,その経験から申しますと,実は非常に少ないスタッフで,非常に優秀な方たちが本当に頑張ってやっている組織だなというのをつくづく現場で感じました。そのときはパリの日本文化会館で展覧会を1つやったんですけれども,展覧会のカタログを全く1人のスタッフの方でやっていた。それから,展覧会のいろんな集荷とか展覧会のいろいろな作品を集めるのも,これも全く1人でやっていらしたわけですね。そのように,普通は私どもが展覧会をやるときというのはもっと複数で分担してやるものだと思っていましたし,そういうふうにやってきたわけですが,その数の少なさにまず驚きました。それから,展覧会の予算の話をしているときに,本当に大変なんだなというのはつくづく思いまして,いろんなところから借りたいというような話をすると,もう予算がないから借りられないと,知り合いのところから借りてくれと言われまして,それで必死になってやりくりしてやったんですけれども,そういう長い歴史があり,しかも国際的にもかなり名が知られている,そういった日本を代表するような文化の窓口である国際交流基金がそんなに苦しいのかというのがよく分かりまして,本当に,同情するというのは変ですけれども,これでは日本は駄目だとつくづく思いました。ましてや今御発表のあった地域でいろいろやっていらっしゃる方々のいろいろ,生活のこととか予算のこととかの厳しさというのを考えると,日本は何を考えているのかと。文化国家というふうに旗印が掲げられようとしていますけれども,やはりそういう本当の現状を御存じないのではないかと。つまり,一番お金を出すところの部署ですね。文化というのは何となく,先ほど仲道委員もおっしゃいましたけれども,何か志だけとか,それからアートが好きでやっているんだとか,そういうような,生活に直接関わらない,何かプラスアルファでやっているようなふうにただ見ているだけでは駄目だと思うんです。やはりしっかりしたスタッフを育て,生活を支え,なおかつ活動にもきっちり予算を配っていただくというのがオリンピック・パラリンピックに向けての日本の一番基本的な,お金のことになってしまうんですけれども,それを,どういう位置付けでお金を出すのかというところをもうちょっと厚く考えていただきたいとつくづく思いました。
 ありがとうございます。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 たしか湯浅委員が手を挙げていらっしゃいました。

【湯浅委員】  今日は御発表ありがとうございました。
 ずっといろいろなヒアリングをさせていただく中で,今の日本のいろいろな多様な状況ですとか課題というのを非常に理解することが,とても勉強になっております。今回もそうですし前回もそうですが,課題としてやはり人材というのはとても大きく出てきていると思うんですけれども,そこの中で,先ほど加藤委員がおっしゃったように,そこの問題をどういうふうに支えていくかというところでの,もしかしたら例えばネットワークが必要ではないかとか,雇用全体の仕組みをもう少し見直していくなり,国の方でもどういった支援ができるかという検討も必要だと思うんですが,併せて文化芸術で働く人材に必要な資質,これから必要な資質をどういうふうに伸ばしていくかという育成のプログラム,内容についても引き続きこちらで議論をしていけるといいのではないかと思います。先ほど樋口さんやほかの御発言の中でも,非常に今変わってきている中での多様化する社会課題とか,あとは自治体との関係性だったりとか,ほかの文化以外の部署との関係性ということも非常に必要性が高まっていると思うんですが,少し英国のことで恐縮なんですけれども,先週,アーツカウンシル・イングランドが支援するプログラムの1つで,オックスフォードの大学の併設する美術館が立ち上げたのが「カルチャー・リーダーシップ」というプログラムで,背景としては,日本の状況よりも非常に厳しい中で,イギリスの場合は文化助成が非常に今減っているので,文化助成に頼らない人材,文化機関で働く人たちがリスクを冒して,そして新たなビジネスを開拓できる,恐らくNPOで働く人であれば経営基盤を高くしていけるような,そういった人材を育成していこうということで,特に説得できる,自信を持ってリスクを冒せるリーダーシップのある人材を育成するというプログラムが大学と連携して立ち上がっています。ほかにも幾つかそういった事例もありますので,今ある育成のプログラム,アートマネジメントの育成だったり海外との人材の育成というのもありますけれども,これから先に必要な育成というのも必要かなと思いました。
 もう一つ出てきているのが,文化の価値をどういうふうにほかの人たち,社会に向けて訴えるのかというのがずっと出てきていると思いますが,文化は大事なんだということだけではやはり説得ができない中,例えば先ほどのはっち,八戸の活動でも,そういった御活動が始まってどういうふうに社会が変わっていったのかとか市民がどういうふうになっていったのかというような価値を一緒に探していけるような,もしかしたらツールなのかもしれませんし,またそれはスキルなのかもしれませんが,というものを日本全国で集約できると,その価値というものを具体的な目に見える形で訴えることができるのかなと少し思いました。

【熊倉部会長】  では,佐々木先生と紺野さんでこの前半のヒアリングは締めたいと思いますので,お願いいたします。

【佐々木委員】  今日はどうもありがとうございました。
 私,実は先月末に,青柳長官も臨席いただいて,創造都市ネットワーク日本の市長サミットというのを開催しました。現在,創造都市のネットワークは42自治体に増えていまして,発足時の倍ぐらいに1年間でなったんですが,きょうお出掛けいただいている八戸市さん,それから小田原市さん,当然入っていただいています。そこで,今日お話になった中で,今後の課題というか,気になることですね。例えば現在の首長さん,市長さんは文化芸術に非常に熱心に取り組まれ,理解が深い。しかし,時々選挙がありますので,選挙で急に代わると,方針ががらっと変わってしまうと。これは小田原市さんもそういう経験がある。そういうことをどうやって継続的,安定的にこの創造都市なり文化芸術都市を進めるかということで,2つほど私は考えていることがあるんです。1つは,これはやっぱり,より広く市民的基盤,文化芸術に関する市民の合意を得なければいけないと。アーティストだけじゃなくて。とりわけ地域の経済団体,ここの合意が一番大事だろうと思います。そういった形で広がった体制作りに向かうことですね。それからもう一つは,恐らくアーツカウンシルというものの根本的な在り方を日本に定着させようと思いますと,そもそも教育委員会というのは首長部局から独立している行政委員会になっているわけですけれども,これは時々の選挙によって影響されないような中長期の安定的な文化芸術に関する,その場合は教育委員会ですけれども,方針を作るという意味でのアーツカウンシル,芸術委員会の在り方ですね,独立性を持った。そういったことに踏み出していかないと今の問題は解決していかないと思うので,本格的に日本でアーツカウンシルを国も地方自治体も定着させるというのが,例えば2020という目標に向けて議論されるということがあってもいいんじゃないかと思います。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 紺野委員,お待たせしました。

【紺野委員】  時間も限られているようなので,手短に申し上げます。
 皆さん,ありがとうございました。まず国際交流基金の安藤理事長,グラフで見せていただいた孔子学院との比較,大変危機感を覚えました。ありがとうございます。そして八戸ですが,先日,私,朗読公演で伺いまして,公演の合間に種差海岸という自然な芝生がばーっと広がるすばらしい海岸に伺いまして,次世代に残したいすばらしい風景だと思いましたので,まだいらしていない皆さん,是非行ってみてください。ありがとうございます。
 そして,1つだけとても気になったので間瀬さんにお伺いしたいのですが,半世紀にわたって芸術文化の現場で御尽力なさったお立場から,2つ御用意なさっていたことの1つしかおっしゃいませんでしたが,お時間を気遣っていただいてありがとうございます。簡単にで結構ですので,もう一つのことだけちらっと御披露いただければ大変有り難く存じます。お願いします。

【間瀬小田原市文化部芸術文化担当課長】  よろしいですか。御配慮ありがとうございます。
 もう一つ言いたかったことというのは,文化って誰が担うんだろうということが言いたかったんです。それで,2つ目の長期間に担い手を育てていく人というのは長期間必要だよねというふうな,そういう段取りを考えていたんですけれども,前段を抜いてしまい,後半だけ言ったので,かなり強烈だったかなと思うんですが,まず私は地域のコミュニティーというものが文化を創っていく,それで,何かがぽんと落ちて,それが波紋のように広がっていくというのが文化の広がり方なのではないか,それは様々な場所で波紋が起きることによって広く日本国中に広がっていくものと考えておりまして,ということは,市民ニーズに即したものをやっていかなくてはいけないとか,また地域住民と一緒になって物を作っていくということも大事だろう。そのためには利用者,ホールを使ってくれる人,又は文化に興味を持ってくださる方へ何をどういうふうな形でサービスを提供していくのか,それがホールにいるスタッフであり文化を担当する行政の職員の僕は責務ではないかなと。ということは,やはりそれは専門人材だと思います。ですから,その専門人材,よく言われるんですけれども,主に政治家の方がよくおっしゃいますが,最低の投資で最高のサービスを提供する,これはあり得ないことだと思っていまして,最低の投資だと,やはりサービスもそこそこのサービスになるんだろうなと思っておりますので,地域の文化施設の活性化をしていくと,それにはやはりお金だけではなくて人と物と金というか,その3つがバランス良くいかないといけないのかな。それにはやはり人ですね。運営をする人がそこに居着いてきちっと仕上げていかないと,地域と真摯に向き合っていかなくてはいけないんだろうというのが私の一番の重要なところで,それで後段の先ほどの話になります。
 以上でございます。ありがとうございます。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 夏前から延々と続いてきたヒアリングがこれで終了いたします。いろいろな内容,いろいろなレベルのプレゼンをたくさん聞かせていただいて,勉強させていただいて,また次回以降の我々の第4次基本答申にどのように反映していくのか,ちょっと我々の側もそしゃくしていく時間が必要かなと思いますけれども,最後にちょっとだけ私見を述べさせていただこうと思いますが,たしか今回のこの政策部会,経産省さんのクール・ジャパンの取組の進捗状況についてお話を伺うところから始まりました。もう振興基本法が出て第1次の基本答申から,経済に関しても,経済と文化はもちろん両輪だし,経済に非常に資するものだということを私どもは強調してきた面があるんですけれども,今回ヒアリングの中でファッション,デザインなど,通常ですと経産省の管轄であるところの御活動も非常に活発にやっていらっしゃる中で,文化庁が何ができるのかということ,少し見えてきたような気がいたします。
 そして,今日最後に安藤理事長がおっしゃっていただいた,産業絡みで日本文化をシステムごと輸出していくと,これが1つの国策なのはいいけれども,発信,発信というふうに言っていると,文化侵略と受け取られかねないという非常に重要なくさびを打っていただいたような気がいたします。何のために文化交流というのが行われるのか,どうあるべきなのかというところについても考えていかなければいけないなと考えました。
 この夏前の皆様方からの,オリンピックに向けて何をしたらいいのか,どういうレガシーを作っていけばいいのかということで,やはり専門的な人材,作品を作るだけではなくて,文化政策が政策全般に関して何らかの様々な形での寄与をするということが創造都市理論の根幹にあると思うんですけれども,それを実施していくためにNPOや,あるいは文化施設の新たな役割,そして文化政策の実際のプログラム化に関して全然人材が足りていないと。育成するだけではなくて,幸いきょう2人の若者たち,昔から私も存じ上げている方々ですけれども,さほど育成しなくても仕事があれば育つということかもしれませんが,その専門人材の配置をどうしたらいいのかということが我々の大きな課題で,それに関して行政本体,大澤さんははっちではありませんので,文化施設じゃなくて行政本体にコーディネーターがいる,それが専門職として外から雇われている希有な例ですので,文化施設にこういう人材がいるんじゃ駄目だという事例として御紹介させていただきたかったんですけれども,文化施設にも必要ですが,文化施設だけではどうしても箱の中のことで現状では手いっぱいになってしまうかなという気がいたします。そこで,専門人材が入ったときにどのようなプログラム展開が可能なのかということを具体的な例を示していただけたかと思います。
 小田原市さんは本当にこの文化ホールという,200年続いてきたけれども,本当に21世紀にどういう役割を担ったらいいのかと。ライブで人が一緒に集まることが,インターネット時代だから,逆に非常に重要というふうに言われながら,ただ,客席に縛り付けられて舞台芸術を見せられるのが本当に幸せなんだろうかというような声は20世紀の後半から舞台芸術の専門家からも数々上がってきたかと思います。そこで言うところの市民参加とは何を指すのか。特に私は,最後に間瀬さんがおっしゃっていた,これまで文化行政の中心であったアマチュアの文化団体をどうしていくのかと。高齢化が進んでいて,滅び行くものとしてそのまま放っておくのか,それとも何か新しい社会的価値をそこへ見いだしていくのかということも文化政策に求められている課題かなという気がしました。
 そして最後にNPOですが,第3次方針にも書かれているにもかかわらず,まだまだ政策的な着手ははかどっていないようですけれども,正に芸術文化の新しい価値を開拓していくと,そういうところに関しても果たしてどのようなサポートが可能なのかというようなことが言われてきまして,最後に馬渕委員がおっしゃいましたが,まさにその芸術文化の概念が二重三重に広がってきている中で,やはり従来の文化庁の――予算的にも人員的にも――体制で,果たして今我々が唱えようとしているようなことが実施,実現可能なんだろうかというようなことももちろん再びやや不安な気もいたします。
 ヒアリングの団体の皆様方,お忙しい中,大変ありがとうございました。すばらしいプレゼンテーションに心からお礼申し上げます。次の議題に移りますが,団体の皆様方はお時間の都合でここで御退席いただいても結構ですし,そのまま引き続きそちらのお席で傍聴いただいても結構です。
 次の議題に移ります。前回の部会では,現行の第3次基本方針との関連で,各施策の評価が様々にされているはずだけれども,そうしたものについて少し取りまとめて,文化庁側の見解や評価事業の大まかな結果などについて知らせてほしいという部会からの宿題がございましたので,それにつきまして事務局から御説明をお願いいたします。

【平林課長】  それでは,事務局より御説明させていただきます。
 今,部会長からございましたように,前回の部会で宿題として,3次基本方針の進捗状況について,政策評価であるとか行政事業レビューなどの指摘について御説明させていただきたいと思います。また,併せて今後のスケジュールやヒアリングにつきましても御説明させていただきます。
 まず,資料2-1を御覧いただければと思います。3次方針の重点施策ごとに指摘事項をまとめているところでございます。まず,資料には書いてございませんが,全体的に今後の重点を置くべき文化政策をまず初めに大局的に申し上げたいと思います。3月に文化芸術立国中期プランを取りまとめておりますし,またその後の諮問文にもございますが,まず2020年を目指して地域の文化資源の掘り起こしや育成,発信というものをこれまで以上に行っていこうということ,それから,我が国の最大の宝である地域の文化資産,文化資源に関しまして,これまでの保存や管理に加えて活用や発信にも力を入れていこうということ,さらには地域の文化財を一体的に面で捉える日本遺産とか,文化芸術で地域振興などを図る文化芸術創造都市への支援によって文化プログラムを盛り上げて,2020年以降も日本が文化の国として世界に愛される姿,究極的には文化芸術立国を目指していくと,こうしたことに重点を置きながらめり張りのある文化政策を講じていくことが今後文化庁として目指していく政策の方向性かと思っております。
 3次基本方針の下での文化政策の進捗に関しましては,これまでの課題や今後に向けた展望に関しまして後ほど御意見を頂ければと思います。
 この資料におきましては,3次基本方針の戦略ごとの現況をまとめております。まず2ページ目を御覧いただきますと,上の方に「戦略1」とございます。文化芸術活動に対する効果的な支援というものでございます。その点線の枠囲いをごらんいただきますと,政策評価等における指摘及び今後の方向性といたしまして,トップレベルの舞台芸術創造事業で芸術団体のインセンティブがより働くよう支援制度を見直したということ,日本版アーツカウンシルにつきましては今後本格導入に向けた取組を推進するということ,それから,制度面につきましては劇場法や美術品補償法など制度整備がなされまして今後運用の充実が求められている状況にあるということ,民間に関しましてはNPO活動の課題解決への道筋やメセナ協議会のファンドに期待が寄せられているということが挙げられると思っております。点線から下の部分につきましては,3次基本方針に個々の重点的に講ずべき施策というものが四角ごとに掲げられておりますが,それごとに文科省における政策評価であるとか行政事業レビュー,それから,平成23年度から24年度に吉本委員にも御参画いただいて実施しました文化政策の評価手法に関する調査研究でございますが,そこでの指摘を記載しているところでございます。本体自身は大変大部でございまして,机上には置かせていただいておりまして,このペーパーにはそのエッセンス的なものを記載しているところでございます。詳細は御覧いただければと思います。
 次に4ページ目を御覧いただきますと,戦略2の文化芸術を創造,また支える人材の充実につきましては,これもまた括弧の点線の中の指摘でございますが,各事業に関してそれぞれの意義が評価される一方,効率的な経費執行等が求められているということ,新進芸術家人材育成については実効性の検証等が求められているということ,それから,事業の採択では協力者会議など公正性の確保が求められているということ,そして,2020年に向けて人材育成を図っていく必要があるということ。
 それから,次の5ページ目に,子供や若者を対象とした文化芸術振興策の充実の箇所でございますが,こちらは,高総文祭については都道府県の特色を生かした事業の充実に努めてきているところでございます。次世代育成事業については,学校に対する実態調査を踏まえて,効果的な事業実施をすることが求められているということ。自治体との連携の上で,芸術鑑賞あるいは体験可能な環境を計画的に充実させていくことが求められているところでございます。
 それから,6ページ目でございますが,戦略4,次世代への継承に関する施策につきましては,これも同様でございますが,各事業に関して,それぞれの意義が評価される一方,効率的な経費執行などが求められるほか,被災地での心の復興,文化遺産の継承などの成果があったこと,それから,事務手続の煩雑さに対する課題があるということが指摘されておりまして,今後は文化資源の魅力を総合的に活用,発信していくことや,アーカイブ構築の必要性というものが求められているところでございます。
 次に,まためくっていただいて9ページ目に,戦略5,文化芸術の地域振興,観光・産業振興等への活用という箇所でございます。こちらについて,各事業に関して,それぞれの意義が評価される一方,効率的な経費執行などが求められていること。被災地での心の復興,文化遺産の継承などの面での効果があると。他方,事務手続の煩雑さに対する課題があるということが指摘されておりまして,地域のニーズを踏まえた事業内容の見直しや予算の拡充,更に文化財をパッケージで発信しつつ,地域振興,観光・産業振興へ活用していくということが求められていると考えてございます。
 続いて,13ページ目に戦略6がございまして,文化発信・国際文化交流の充実の箇所でございますが,各事業に関して,その事業が評価される一方で,効率的な経費執行などが求められているということ。文化芸術の海外拠点形成事業につきましては,滞在者の分野が多分野化していること,国内芸術家とのネットワーク作りを目指す招聘者が多いという効果が指摘される一方で,招聘ができていない国や文化を視野に入れた取組というものが求められているところでございます。
 以上,概略で大変恐縮でございますが,最後の16ページに基となったこれまでの政策評価に関する報告などを説明する資料がございます。御覧いただければと思います。最後には現行の3次方針の概要資料を付けさせていただいておりますので,御参考にしていただければと思います。
 ちょっと駆け足で恐縮ですが,次の資料2-2について御説明させていただきます。これは前回の部会でも配付させていただいた資料でございまして,それぞれの基本方針の柱ごとの予算面や制度面での対応についての資料でございます。説明は省略させていただきます。御参考にしていただければと思います。
 続いて,資料2-3,「事務局説明資料」の③でございますが,こちらは前回の部会の資料を時点更新した資料でございます。4ページ目の下に書面ヒアリング団体一覧がございまして,既に依頼を行っておりまして,今月中を目途にそのヒアリング内容を取りまとめようと思っておりまして,取りまとめ次第,御報告をさせていただきたいと思っております。それ以外の論点等,前回説明したものでございますので,省略したいと思います。特に最後,4次方針策定に当たっての構成とか大枠につきましても御意見があれば是非御教示を賜ればと思います。
 駆け足で恐縮ですが,以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 というわけで,前回指摘のあった評価に関する概要と実態,非常に細かい評価をたくさんなさっていらっしゃるということが分かりました。また,事後評価書も机上にお配りいただいていて,ただ,割と細かい事業ごとの評価が厳密になされているんだなということが分かったかと思いますが,委員の皆様方,今のような御回答でどうでしょうか。きょうだけじゃないんですけれども,今後ワーキングで素案を作っていく際にも皆様方の御議論を参考にさせていただきますので,ここからは是非,なかなか,随分前に私,ここにすごい溝があるような,こっちとこっちであるような気がすると申し上げたんですが,その溝が少し埋まるような議論もできればなと思いますので,文化庁の事務局の皆様方にも是非忌たんのない現場の御感想などをおっしゃっていただけると大変有り難いと思いますけれども,委員の皆様方,いかがでしょうか。
 加藤委員から,手短にお願いします。

【加藤委員】  個別具体的な施策の評価になるのはある程度やむを得ないと思うんですけれども,是非第4次の際に御検討いただきたいのは,第3次のときの基本理念はすばらしいことが書いてあるんですね。例えば「社会的必要性に基づく戦略的投資と捉え直す」と,文化芸術への公的支援をそういうふうに捉え直すと言っておきながら,具体的な戦略1から6まで見るときに,果たしてこれが戦略的投資と言えるかなというような項目になってしまっているのではないか。もちろんそのときにはそのときで相当議論してこういう結果になったので,そのときが問題だと言いたいわけではなくて,今後やっぱりこうした基本理念をきちんと議論した上で,具体的な重点課題に置くときに,重点戦略に置くときに,もうちょっと本当に戦略的投資という観点を盛り込むべきなのではないか。それがなされなかったがゆえに,しようがないというか,個別の具体的な細かい話だけになってしまって,今の資料1の中でもやっぱり,もうちょっと包括的な評価がなされればいいのになと思うところが随分散見されたので,是非次回作られるときにはそこをよくお考えいただきたいなと思いました。

【熊倉部会長】  宮田委員,お願いいたします。

【宮田委員】  3次のときは私も参加しておりましたので,特にこの戦略というお話を頂きましたが,その3次のまま,本学の話をしてもしようがないんですけれども,今,大澤さんのところや樋口さんのところでも,個々の,また部分的な部分のすばらしさはあるんですが,みんなばらばらなんですよね。それが我が社も全く同じ状態であったときに,一昨年ぐらいから「戦略的な方向で芸術文化を広めるぞ」というふうに私がわめき出して,昨年ちょうど運良くスーパーグローバルが出てきたものですから,それに乗ることができたと。やはり今見ていますと,とてもすばらしいことを皆さんやっていらっしゃるんですけど,結局ばらばらで,はっちも単なるみつばちハッチになっちゃってはいかんのだよね。すばらしいことをやっているんだから,それがほかのところもみんなそのノウハウを欲しいというような環境みたいなものを作るのが今度は行政の仕事であり,行政もばらまきをする,あれもいい,これもいいというような,ついばらまきになっちゃうんだろうけれども,最低でもこの1,000億ちょっとのものの中では3分の1は戦略的にこういう方向で動いているというものに対して区分して,分けて,それが戦略的な効果になっているという捉え方もするというふうなこともしていきませんと,一生懸命いい話をお聞きしていても,結局は小さく小さくばらまいていくしかないという環境をもう打破しないといけないのではないかと。議長のときは言えませんでしたけれども,今こそ言うべきかと。

【熊倉部会長】  じゃ,大林委員。間もなく御退席のお時間です。

【大林委員】  すみません,勝手を言いまして。お先にすみません。
 結局,やっぱりビジョンというか,最終ゴールがすごく見えにくいんですね。ですから,非常に細かくいろいろなポイントは押さえ,これは本当にどんな企業でも,どうしても企業の経営計画なんかでもそうなってしまうんですけれども,ですから結局,戦略的な投資というのも見えてこないということなのかなと思うんですが,やはり文化庁さんは本当に一番大事な日本の文化行政を総力戦でまとめ上げていくんだという気概で,単なる文化庁さんのこのジャンルにとどまらず,例えば国際交流基金さん,帰られましたけれども,国際交流基金は外務省だ,こっちは文科省だ,文化庁だというんじゃなくて,どうやったら本当に日本の総力を挙げるかというようなことに踏み込んで,だから文化庁としてやっぱりこういうようなことをというような,その辺のストーリーというのがちょっと見えてこないなというのが正直なあれです。それは地方のあれでもそうなんですけど,先ほどの小田原の話を伺っていて,非常にすばらしい企画だと思うんですが,ただ,なぜ小田原だと。いろいろ書いてあるんですけれども,それが正直言って見えにくいというか,私の理解力がちょっと足りないのかもしれないんですが,もっと簡単に言うと,ほかの地域と比べて何が違うんだというようなこと。ですから,日本の場合ですと,本当にほかの海外と比べてどう違うんだという違いがないと,やはり非常にターゲットというか,ゴールが見えにくいと思いますので,その辺をもう少し見せた上で,だからこういうのをやりますよという説明の方が分かりやすいんじゃないかなと思うんですけど。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 ちょっとお待ちくださいね。太下委員,いいですか。

【太下委員】  私の意見は多分今まで発言された方,加藤委員,宮田委員,大林委員とほぼ同じ内容だと思います。この事務局の御説明いただいた,先ほど平林課長から御説明いただいた資料は,行政評価的にいうと,主に事業評価のところに注力された資料かと思うのです。特に,いわゆるインプットして,そのアウトプットがどうだったかという評価がかなり詳細にされていると思います。一方で,実際に大事なのは,行政評価の場合,御案内のとおりアウトカムとかインパクトです。結果として,それを何のために行っているのか,ちゃんと政策目的に適合しているのかというところだと思うのです。そう考えると,多分戦略のくくりとか名前の付け方がそういうアウトカムの評価に余り適していない形だったので,この評価が事業評価的に特に見えてしまうのだと思います。例えば端的な例を挙げますと,文化発信・国際文化交流の充実という戦略6がありますけど,これは先ほど国際交流基金さんのプレゼンテーションでもありましたが,単に海外発信をやればいいということではないわけですね。この事業をやることの真の目的は,相互理解であったり多文化の共生のためであったり,そのための国際発信であったり,そのための国際交流であったり,ということになるかと思うのです。第4次基本方針を考えるときは,我々が何を目指しているのかと,そういうことがきちんと戦略として見えるようなプランを考えていかなくてはいけないと思います。
 それに関して1つだけ付言いたしますと,やはり今日のプレゼンテーションでも感じたことですけど,文化に関わることというのがきちんと職業として確立して,それが持続性を持って続いていく社会をこの第4次基本方針のタイミングで作っていかないといけないと思います。多分日本は投資余力がなくなっていきますから,これが最後のチャンスではないかと思います。であれば,それをきちんと明示した戦略と,それに適合した事業というものをこの際きっちり提言していくべき必要があると感じました。

【熊倉部会長】  ありがとうございます。
 では,吉本委員。

【吉本委員】  短く話したいと思うんですけれども,評価の報告を頂き,そして前半の報告と何となく関連づけて考えていました。確かアーツカウンシルが重点戦略になったのは,仕分けのときに評価が十分に行われていなかったということがあって,その反省もあってアーツカウンシルの強化というのがでてきていると思うんです。そして,きょうの報告の中に今の振興会のものの評価が入っているかどうか,分からないんですけど,私が何を申し上げたいかといいますと,今振興会でやっているのは,トップレベルの芸術団体への支援と,それから従来から振興基金でやっている助成事業の評価だと思うんですが,アーツカウンシルこそ,前半に報告のあったような非常に評価しにくいものの評価を行うべきなのではないかと。つまり,そこにどういう評価基準とかどういうアウトカム,成果や目的というものを付与すれば説明責任を果たせるような評価が実現できるのかということを,これはアーツカウンシル東京にも是非やってほしいと思うんですね。いわゆる芸術団体への助成も非常に重要な仕事ではあると思うんですが,評価とか助成に関するプロが集まっているところは,是非より難しいところにチャレンジをしていってほしいなと思いました。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 三好委員,お願いします。

【三好委員】  今のに対するお答えではないんですが,きょうのこの資料2-1,資料2-2で頂いているのが第3次基本方針の進捗あるいは評価,というのは当然,これは第4次方針を作るためのものだと思うんですが,まだ全部読んでいるわけじゃないんですけれども,そういう目で見てみると,文化庁はこういうことをしましたというのは,やっぱりどうしてもそういう体系になってしまう。もともと基本方針そのものはもちろん国が作るんですけれども,これは振興法からいえば,それは国だけの施策ではなくて,自治体あるいは民間も含めた,いわゆる総合的な推進のための指針だと思いますので,そういう意味で,せっかくきょうも八戸市さん,小田原市さんに来ていただいて,自治体の立場からいえば,もちろん文化振興も重要ですけれども,ほかのいろんな行政分野というのがあるわけですね。その中で文化振興をどうやっていくのかというのが正に首長さんにとって一番重要なことなので,そういうための指針にもなるものというのがやっぱり必要ではないか。たまたま八戸市も小田原市も市長さんを私も存じ上げていますけれども,文化振興だけやっているんじゃなくて,やっぱりいろんなほかの分野でも非常に積極的に取り組んでおられる自治体というのがまさに文化振興もやっている。ですから,それはそういう趣旨,あるビジョンがあってそういうことをやっておられると思います。ほかの自治体にも是非そういういろんな課題の中で文化振興をどうやっていくのかということの言わば道しるべになるような,そういう指針でなきゃいけないし,そのためには今の評価のところも,例えば補助金を受けた自治体にとってどうだったのかというところの評価というのも是非どこかの時点で頂けると有り難いかなと思います。特に2020に向けては文化プログラムをやっぱり全国展開していかなきゃいけない。それをやりたいと思っている自治体もたくさんあると思うので,是非そういうときの道しるべ,導きになるような,そういう指針にできるように少し今の評価の点も加えていただけると有り難いかなと思います。
 以上です。

【熊倉部会長】  ありがとうございました。
 湯浅委員,もう一回,はい,どうぞ。

【湯浅委員】  きょうの説明資料の方,こちらの各委員の方から依頼があってまとめていただいて2回出していただいたんだと思うんですが,そもそもの出していただきたいという理由の1つに,第3次があって,それに基づいて予算を投入していろんな施策がなされた結果,どういうふうな効果があった。先ほどの太下さんのお話とかぶると思うんですが,どういう効果が出たのか。あとは,例えば子供たちを対象とした芸術文化振興の充実というときに,それが具体的にどれほどの子供たちに効果があって,でもまだもしかしたらこの地域は足りていないとか,今どこにギャップがあるのかということを理解した上で第4次を議論したいということだったんだと思います。あとは,これまでのヒアリングの中で,文化芸術に投資する意義というものがなかなか説明できないという中で,多分これを読んでもなかなか一言では今言いにくい状態であると思うので,それはこれから先の,ここから先のビジョンを作っていくのと同時に,恐らくいつでも,この文化芸術に公的なお金を投資した結果どういう効果が出たのかというのを紙1枚で説明できるぐらいクリアなビジョンがあって,そこで戦略性を持って投資ができるのかなと思いますので,まだまとめていただいた資料を全部読み込めていないので,もしかしたらそういったことが書いてあるのかもしれないんですが,今これで見ると,例えば公募の仕組みがまだ公平性が足りないとか,運用についての評価は分かるんですけれども,できれば本当は,この各戦略が今どこまで行っていて,どこはもう達成したので,ここは予算を削減して別のところに新たに投資しようとか,そういったデザインの議論ができるといいのかなと個人的には思っておりました。

【熊倉部会長】  はい。ということなんですが,事務局の皆さん,何か,そんなことを言ってもというところを正直に言っていただいたりする方が,どうしてもこういうふうになっちゃうんですよとか。

【平林課長】  どうしても,確かに予算化した場合に,結局,これだけの事業のレビューが実際に求められるわけですね。予算要求していった際にはですね。したがって,そういう中でいかに骨太の方針なり大方針なりを立てていくかということがやっぱり大事になっていくのかなと思っています。そこを正直,皆さん方と一緒に何か知恵を絞れればいいかなとは思っています。丸投げしているわけではないんですけれども,一緒に何か考えられればなと思っております。

【熊倉部会長】  あるいは,御担当ごとに,ここはうまくいったけど,ここがいまいちとか,だんだんそうやって視野を広げるのはいいけれども,支援プログラム全体が散発的で小粒化していっちゃうんじゃないかとか,何か現場からあられますか。今,先ほど湯浅委員から,「ここはもう達成したから」とおっしゃいましたけど,経済産業省じゃないので,そうそう,経済産業省の方がおっしゃっていた。文化のアセットは減らないんですよ。なので,支援すべき,支えなきゃいけないところは減らない。新しい地域振興もいいけど,じゃあ文化財はどうでもいいのかというと,やはり国民的議論からそうはいかないという部分もあるのに,そもそも審議会があれもやれ,これもやれと言うのが問題だと。そんなこと言えませんよね。すみません,失礼しました。事務局からほかに何かあられますでしょうか。
 有松次長,突然振ったら迷惑だとは思いますが。

【有松次長】  今,御意見を頂いた中で非常にやっぱり重要な御指摘がいっぱいあったと思いました。つまり,最初のこの基本方針を作る段階で,そうした評価を念頭に置いた基本方針の作り方というような御指摘があったかと思います。あるいは,どこまで達成できているか見えるようにするという意味で,達成すべき目標がはっきりしていないと,そもそも達成できているかというのは言えないわけです。ただ,行政的な,すばらしい理念を具体化していくときに,どうしても施策レベルの,戦略的と言っているけれども戦略的ではない,施策の項目ごとのことになっているという意味で大変重要な御指摘があったんだと思いますので,これは,さっき課長も申し上げたように,これからの御相談事項ではございますけど,そうした戦略目標の書き方を従来型ではない書き方にしてみるというような工夫ももしかしたらできるのではないか。今,自分で自分の首を絞めているような気もするんですけど,それがどこまでできるかというのが1つ挑戦かなというような気もいたします。是非,起草委員会の先生方と,その辺りから少しお知恵を頂戴できればと思います。

【熊倉部会長】  ということなんですが,それに対してもし一言というのがあられれば。
 今日は相馬委員はいいんですか。何か。文化庁の助成金を受けたことのあられる方がこの中にどれほどいらっしゃるか。相馬委員と私ぐらい。使いにくさだとか。

【相馬委員】  そうですね。実は今も連日,文化庁の申請書の締切りに追われています。この10年ぐらい文化庁の様々な助成金にアプライしてきましたが,随分変わったことが多い,非常に良くなったことが多いという実感を持っています。例えば,かつてはフェスティバル助成は3年に1回しかアプライできないですとか,あるいは基本的には赤字補てんというものがほとんどだった訳ですが,最近では業務委託という形で全額基本的に文化庁が出すというものも出てきました。それは「戦略的芸術文化創造推進事業」であるとか「人材育成支援事業」であるとか,そういったものが出てきたことによって大分,アプライする側としては文化庁の意図がかなり明確に伝わってきているという実感は持っております。ですが,やはり先ほど来様々な立場の方から御意見があったように,結局のところ,今の大きな流れとして,文化庁の助成金が経営母体がしっかりしているところに付くような形になってきているのは確かだと思います。例えば「大学を活用した人材育成事業」であるとか,あるいは地域イニシアチブであれば地方自治体から申請ができるが,逆に言うと,小さなNPOから申請できるものが非常に減っているという現状があると思います。もちろん経営母体がしっかりしていないと,長期的に見たときに成果が蓄積されないであるとか,あるいは様々な監査が入ったときに危ないのではないかといった御危惧も分かるんですけれども,やはり先ほど吉本委員からもありましたとおり,チャレンジする,ある種切り込んでいって新しい価値観を創造するような発想力が豊かな世代や存在は,まさに樋口さんや大澤さんのような若い方であるとか,あるいは,まだ経営は不安定だけれども非常に志の高いNPOであるとか,そういうところが多いと思うんです。ですから,これはなかなか難しいことではあると思うんですけれども,安定的なベースに対する支援と,例えば先ほどあったアーティストのモビリティーですとか,そういった非常に戦略的に,かつダイナミックに動いていく部分への支援と,それをうまく組み合わせていくことというのが必要なのではないかと思います。
 あともう一点だけ,これは第4次に盛り込まれるかどうかということが争点になると思うんですけれども,この審議会でずっと議論してきた人材育成ということに関して,なぜ「雇用」という一言を入れられないのかという問題があると思います。皆さんもう課題は明確に分かっている中で,何とか文化庁の政策の中にも雇用を創出する,雇用を確保していくということを明確に打ち出せるかどうかが今後重要な議論になってくるのではないかと思います。
 以上です。

【熊倉部会長】  中間報告では一応,「育成」とともに「配置」という言葉は何度か入れていただいたんですけれども,なかなか「雇用」というところまではいかない。ちょっとその辺り,全体の会議で話し合えないこともあるのかなと,ワーキングの方にも期待しておりますが,頑張ってバトルをしていきたいと思います。
 片山委員,最後に一言ということで。

【片山部会長代理】  この後,ワーキングを開いてたたき台を作っていくということになるのですけれども,ヒアリングやここの議論を通じてすごくいろんな有益な情報が得られましたし,多分,政策の方向性,つまり,こういうことをやっていったらいい,ということについてはかなり合意が得られつつあると思うのですが,今度ワーキングで次のたたき台を作るときは,やるべきことを漏れなく書き込んでいくということとともに,ちょっと一歩引いて大きなマクロなビジョンを書くことが重要かなと思うのです。こういうことをやっていくべきだということではなくて,何年後にこうなっていたいという姿をかなりマクロなレベルで描いておくということが必要で,そこに行くための道筋としてこれを今やるのだという書き方が,これまでは足りなかったのかなと思うのです。マクロということでいうと,大事なものとしてはやはり国と地方の関係,つまり国と自治体の関係ですね。自治体は今苦しいとは言いながらも,文化庁よりもはるかに多くの予算を文化に投じているわけですし,たくさんの職員がそこで従事しているわけです。その外郭団体までを含めるとものすごく大きな規模になるわけです。そこが今後どういう姿であるべきなのかということを明示したいというところがあります。それから,官と民の関係というところで,国や自治体などの公立のものと,民間非営利のもの,民間の営利セクターのもの,これらがどういう関係にあるのか。小さなアートNPOから公益財団法人になっている有力芸術団体まで含めて,民間セクターをどういう規模にしていくのか,どういう役割を持たせていくのか。公益法人改革もありましたし,それが市民の手によってどう支えられていく姿を描くのか,その辺もきちんと議論する必要があると思っています。それから,90年代に補助金制度が大幅に改革されてアーツプラン21ができた後,ほぼ同時に新国立劇場ができたわけですけれども,ハイレベルな創造活動を国が新国立劇場でやるのか,民間のトップレベルを補助金で推進するのか,実はその辺の整理もなされないまま現在に至っていますので,やっぱり官民の役割分担ですね。国と地方の関係,それから官と民の関係です。民については営利セクターと非営利セクターと両方を視野に入れながら,マクロなビジョンを,10年後20年後ぐらいを想定して描きながら,そこへのステップとして戦略を描くということが必要と強く感じたところです。限られた回数のワーキングですけれども,何とか効率的に議論を行いたいです。次にそれをお出しするのは1月でしたっけ。

【熊倉部会長】  はい。

【片山部会長代理】  そうですね。そのときには有益な議論ができるようなものを作っていければと思っております。

【熊倉部会長】  そうですね。すみません,毎回宿題ばっかりで。事務局の皆さん,ありがとうございます。ただ,私もこの資料2-1,説明資料①を見てちょっとびっくりしたんですけれども,今日のお話を聞いていて,効率的な経費執行というところが全戦略に出てきているのがちょっと,先ほどの樋口さんのプレゼンテーションの最後の方にありましたけれども,どう評価していくのか,そもそも何のために芸術文化を税金を投じて支援しているのかというところで,なかなか悩ましい問題があるなと感じました。もちろんこれは財務省がお金を出してくれないとにっちもさっちもいきませんので,文化庁さんも財務省向けの評価にどうしてもなりがちなのは致し方ない部分が,それが職務でいらっしゃる部分はしようがないのかな。なので,正にこの審議会の政策部会の皆様方で,だから,経済を助けるためだけに芸術というのはあるわけではないときょう口々にプレゼンターの方々がおっしゃっていただいて,経済だけではこぼれ落ちてしまう部分をどのように活性化していけるか,そこに向けてどのような評価手法がいいのかということに関してもちょっと言及しないと,これにすごく時間を掛けて,それで財務省がよしよしと,「じゃ,5%増ね,来年」と言ってくれたらいいんですけど,なかなかそれも難しいようなので,そうじゃない,戦略のそもそも達成度というふうに安直に言えるのかというところがなかなか難しい問題で,それも,今年度はもしかしたらそこまで踏み込むのは難しいかもしれないですけれども,芸術文化が存在することの意味,役割というようなことについても方針の中で明確にしていきたいなと思います。
 あとは最後に,やはりこれも出てくるかと思うんですけれども,なかなか行政直轄でできない部分の投資的でリスクが伴う部分を本来アーツカウンシルというアームスレングスの機関が活動に寄り添いながらインセンティブを少しずつ与えていくというものだと私は理解しているんですが,残念ながら,今日本に存在するアーツカウンシルがそうであるかどうかはまだちょっとなかなか厳しいところかなと感じました。
 皆様,本日も時間の御協力を大変ありがとうございました。どうなることかと思いましたが,何とか時間内でぎりぎり,1分過ぎましたけれども,何となく収まったかなと思いますので,部会の方はこれで閉会とさせていただきます。御協力ありがとうございました。
 最後に,事務局から次回以降の会議日程の御説明をお願いいたします。

【内田調整官】  本日も貴重な御意見をたくさん頂きまして,どうもありがとうございます。
 先ほど来話題にも出ておりましたけれども,12月中に2回ほど答申起草のためのワーキンググループ,5名の委員の方に御参画いただきまして,12月1日と15日の2回開催させていただきまして,そこで議論いただきました案をまた改めまして1月にこの政策部会の方で報告させていただきたいと思っております。1月の開催日程につきましては改めて日程調整などさせていただきたいと思いますので,どうかよろしくお願いします。
 本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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