文化審議会第14期文化政策部会(第1回)議事録

平成28年4月15日

【三木企画調整官】定刻の時間を少し過ぎた時間になりましたので,開会に先立ちまして,まず配布資料の確認をさせていただきたいと思います。  ダブルクリップでとめております議事次第が最初にある資料の塊がございます。
 まず議事次第がございまして,資料1「文化審議会組織図」という資料。
 それから,A4横長の資料2-1「文化芸術資源を活用した経済活性化」という資料。
 それから,資料2-2,北川フラム先生の資料。その後ろに瀬戸内国際芸術祭の資料が二つございます。このような資料でございます。
 それから,資料2-3「可児市文化創造センター 成熟社会における文化政策」という資料。
 資料2-4は,兵庫県教育委員会の村上裕道様の資料となっております。
 最後の資料3が,今後の予定となっております。
 このほか,机上に可児市関係の資料等も頂いておりますので,またそれぞれ御覧いただきたいと思います。
 それから,今回,今期第1回の政策部会でございます。人事案件がございますため,一般職員以外の傍聴者の方,人事案件が終わるまで一旦御退出いただきたいと思います。

(傍聴者退出)

※ 部会長に熊倉委員,部会長代理に片山委員が選ばれた。

(傍聴者入室)

【熊倉部会長】それでは,お忙しい中,本日わざわざヒアリングのためにお越しいただきましたゲストの皆様,いちいち退室いただきまして,大変失礼申し上げました。
 それでは,今期文化政策部会第1回を開会したいと思います。開会に当たりまして,僭越(せんえつ)ながら一言,部会長として御挨拶を申し上げたいと思います。
 第4次基本方針が閣議決定されてから大分たちますが,その中でも言及されておりますように,2020に向かってのオリンピックの文化プログラム,そして,それを契機にして我々が提唱している地域版アーツカウンシルの問題など,これから具体化していかなければいけない問題が山積をしております。そちらに向けて,また引き続き,そして新たに加わってくださった委員の皆様方も含めて,闊達(かったつ)な御意見を頂戴いたしながら,なるべく具体的な策が一歩でも前に進むように努力をしていきたいと思っております。
 また,賛否両論ございますが,文化庁さんが京都に行ってしまわれるということで,そのメリット,デメリットなどに関しても,皆様方の御意見を頂戴していけたらと思います。
 続きまして,本年4月に文化庁長官に着任されました宮田亮平長官から一言御挨拶を頂戴したいと思います。

【宮田長官】宮田でございます。よろしくお願い申し上げます。
 第14期の文化政策部会でございますが,熊倉部会長は,言葉は優しいけれども中身は結構とげがあるということで,これがまたなかなか魅力的な先生でございますので,是非部会長の下で審議会を進めていただけたら幸いかと思いますが,私としては,できれば,私も以前にやらせてもらったことがあるのですけれども,多くの方々から頂戴した率直な御意見を事務局がどうまとめていくのかというときに,まとめたものをただ積み上げるのではなくて,メディアも含めてどう発信をしていくのかというところに対して,相当ウェイトをしっかりと付けていただけたらいいのかなと思っております。その辺ができませんと,せっかくこれだけの先生方がお集まりになっていながら,それが非常にかすんでしまうというのはどうももったいないことであると思っておりますので,その辺のところ,よろしくお願いします。
 そしてまた,今日はお三方の先生方においでいただいて,大変貴重な御意見を頂戴できると思っておりますので,それも期待したいと思っております。
 ありがとうございました。

【熊倉部会長】長官,ありがとうございました。
 それでは,本日は今期最初の審議会ですので,本審議会の概要と運営上の規則について,確認しておきたいと思います。
 これらの点について,事務局より御説明をお願いいたします。

【三木企画調整官】部会長,ありがとうございます。
 それでは,資料1に沿いまして,簡単に御説明をさせていただきたいと思います。文化審議会の概要ということで,1ページ目は組織図でございます。この文化政策部会は,上から二つ目でございますけれども,全体,文化審議会総会の下に四つの分科会,三つの部会が置かれております。本部会はその一つでございまして,文化の振興に関する基本的な政策の形成に係る重要事項に関する調査審議を行うことが任務でございます。
 2ページ目は,第16期文化審議会委員の名簿。
 それから3ページ目は,総会で4月4日に決定されました本部会の設置について規定した文章でございます。
 4ページ目が,この文化政策部会委員の皆様の名簿でございます。
 5ページ以降は,関係法令でございます。文部科学省設置法におきまして文化審議会の事務についての規定,文化審議会令におきまして組織や委員の任命,任期等についての規定がございます。
 ポイントといたしましては,9ページ目,運営上のルールとしまして,特別の事情がある以外は,会議,会議資料,議事録を公開することになっております。特別な事情というのは,今日あったような人事といったようなものを想定してございます。御承知おきを頂ければと思います。
 簡略ではございますが,以上でございます。

【熊倉部会長】それでは,ただいまの内容について,もし委員の皆様方から御質問等ございましたら,お願いいたします。
 それでは,今期の文化審議会での議論を始めるに当たって,事務局から最近の文化政策の動向について,説明をしていただきたいと思います。
 その御説明を頂いた後,本日は大地の芸術祭・瀬戸内国際芸術祭総合ディレクターでいらっしゃる北川フラム様,可児市文化創造センターaLa館長兼芸術総監督の衛紀生様,兵庫県教育委員会事務局参事の村上裕道様,以上3名の有識者の方々にお越しいただいておりますので,お三方の取組について御紹介いただき,その後,意見交換を行いたいと思います。
 なお,北川氏は16時頃に御退出の必要があるということでございますので,北川様の御発表に関する質問については,御発表後,10分程度,お時間を設けたいと思います。
 それでは,昨今の動向について,事務局より御説明をお願いします。

【三木企画調整官】資料2-1,A4横長の資料を御覧いただければと思います。第4次基本方針でも副題に「文化芸術資源で未来をつくる」ということで,この基本方針の中におきましても文化芸術資源をしっかり活用していくことの重要性がうたわれているところでございます。文化芸術資源を活用して,経済にも貢献し得るものだと考えておりまして,それについてしっかり取り組みたいと思っております。文化庁が今現在検討していることをこの資料にまとめてございます。
 おめくりいただきまして,1ページ目でございますけれども,今回初めての試みでございますが,文化庁において文化産業の経済規模,文化GDPを試算してみました。産業連関表等のデータを用いまして,文化関係のものについて抽出したものでございます。この試算におきましては,約5兆円,総GDPの1.2%ぐらいを占めるというような額が出てきております。
 諸外国も同様なことで,文化における経済への貢献といいますか,規模を計っておりますけれども,各国定義がまちまちではございますが,諸外国,3~4%というような数字もございまして,日本の数字から見れば,まだまだ日本においては文化を活用することによって経済への伸び代があるのではないかと考えてございます。
 こちらが文化産業についての規模でございますけれども,右側に,他産業への経済波及効果の創出というものがございます。これは一例でございますけれども,国民文化祭・あきた2014年の例を見てみますと,経済波及効果ということで,宿泊,飲食,お土産,交通費等々,文化以外の分野にも波及をしているということですので,右の上の青丸の図,黄色の丸の図がありますように,文化そのものをしっかりと振興し,拡大していくだけではなくて,観光,製造,流通,小売等への波及もしっかり視野に入れて,そういう関係分野との連携を視野に入れた施策の振興が必要ではないかと考えてございます。
 そのための取組の方向性としましては,次のページでございます,方向性1,インバウンドの増加・地域の活力の創出ということで,地域創生に資する地域の文化芸術資源の掘り起こしということでございます。本日のヒアリングでもいろいろお話をお伺いできるかなと思っておりますけれども,各地でいろいろ行われている文化芸術についての活動を一層振興してまいりたいと考えております。
 それから,部会長の御挨拶にもありましたけれども,2020年のオリンピック・パラリンピックに向けました文化プログラムにもしっかりと取り組んでいきたいと考えてございます。
 次のページ,めくっていただきまして3ページ目でございますけれども,方向性2,文化芸術における潜在的顧客・担い手の開拓ということで,児童生徒,親子,障害者,高齢者等,幅広い方々が活躍する芸術文化の場を創出していきたい,文化芸術活動の裾野を拡大していくという方向性も重要かと考えてございます。
 方向性3,「文化財で稼ぐ」力の土台の形成ということで,文化財をより活用し,観光客の方々含め,魅力あるものに見せていくというような観点から,文化財活用・理解促進戦略プログラムを年内に策定しまして,地域の様々な文化財を一体的に活用する取組への支援を行っていきたいと考えてございます。
 次のページ以降からは参考事例でございます。一つ一つ御説明すべきところではございますが,本日の有識者の先生方のお話がより具体的かと思いますので,また御覧いただくことをお願いいたしまして,私の説明は割愛させていただきたいと思います。
 以上でございます。

【熊倉部会長】ありがとうございました。
 それでは早速,ゲストとしてお迎えいたしました皆様方のお話を伺ってまいりたいと思います。
 まず最初に,北川フラム氏より,大地の芸術祭と瀬戸内国際芸術祭の取組について,御説明いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

【北川氏】北川です。では,パワーポイントで説明をさせていただきます。これはただやっていることを説明するだけです。後でもし時間があったらと思いますが,やっているに関して危惧がものすごく多いわけです。
 まず最初に言ってしまうと,いらっしゃるお客さんの数ですが,できるだけ分かりやすくお客さんの数を把握しようと思っても,瀬戸内は島に来た人の数で分かるのですが,越後妻有みたいに,境界線が分からないところは分からない。有料者と無料者のことをどう考えるかも非常に大きな問題があって,できるだけ有料の入場者で数を勘定したいと思っていますが,これもパスポートという制度をとっているために,分かりにくい。
 もう一つ大きいのは,やっぱり行政がやっている仕事ですから,新聞社がうるさくて,とにかく数を出させようとするわけです。それも,終わってからいろいろなことを考えて出せればいいのだけれども,1週間,2週間で報告を出させるということの中で,しかも数年に1度とかの単位でやりますから,担当課長,部長が変わるので,数が全部オーバーになっていくということがあって,これを何とかしなくてはいけない。
 大まかな数字は必要だと思いますが,GDPもそうですが,数字に表したときに全部おかしくなるというのがとにかく最初の出発で,今日,どうお話ししていいか分からないというところがあります。
 まず,大地の芸術祭について,お話しします。これは1996年から国・県の合併施策に乗って,広域でやろうということで始まったもので,去年,第6回目が行われたという中で,過疎の豪雪地,日本では近畿あるいは江戸中心の段階でも,まさに古越(こし),化外の地のその奥のまたとどのつまりという場所,これが日本一の米どころでありながら,近代の日本のいろいろな政策の中で切り捨てられててきました。そういう中でアートが何らかの役割を果たせないかということでやり始めた芸術祭です。
 合併施策の中でやるというのが初めからの前提でしたが,最初から180度合併施策には対抗するということで,当時約200あった集落にこだわり続けるということでやり始めました。効率化,情報化,一極集中はとにかく捨てることが前提です。6回目までの中で,約200の集落にこだわりながら,それぞれの集落が自分たちの豪雪であるとか,棚田であるとかの特徴を生かしながら,あるいはいろいろな縁でよそとつながっていこうと考えました。
 もちろん集落という単位では余りに人口が少なく,いろいろな展望がないので,集落が五つ六つ集まった振興会という単位が地域では有効,これは場所によっては言い方が違いますが,それに根差しながらやっていくということで,それぞれの場所でやっています。
 ここで一番重要なのは,やっぱりそれぞれの場所で生きてきた人たちが,昔の集落単位がリアリティーであって,昭和の大合併でできた町とか,あるいは平成の大合併でできた市とか,そういうことに対してほとんどリアリティーを持っていないというところから出発しなければいけない。私たちの前提としてはコミュニティーを前提にするということで,それぞれの土地が,もちろん市とか県とか国にいろいろな意味で手伝っていただきますが,その三つを信じてはいけないというところから出発しています。かなり大きな反対を浴びるわけですが,それは今までの経験及びだまされ方で言えば当然の話であって,特にそれが現代美術であるとかだったら大きな反対を浴びるのは当然なわけですが,そういう中で一番有効な,皆さんにリアルな単位でものをやっていく。これを蓄積しようということをやってきました。
 その結果,幾つかできてきたことは,現代美術は都市にしか向かないと思っていたのが,意外に地方に向くと。やっぱりその土地の力というものを尊重しよう。特に廃校,空き家というネガティブな要素をプラスにすることが少しできたかなと思っています。
 これまでの成果に関して言いますと,大体こんな感じで,初めは28か所であっても,やる気になった集落は二つです。28か所の公園とか道路を使ってやったということですが,今,約200の集落のうちのほとんどの集落がやりたがっている。これは大きな違いです。来訪者,アーティストというのは,約200の作品があって,3分の1,4分の1が残る。毎回200ぐらいの作品でやりながら,少しずつ蓄積していくということです。
 それで,そういう中で唯一リアルな数字というのは,雇用者です。芸術祭をやっているときの有償の人たちは,いろいろなレベルがありますが,とにかく500人を今超えていると思います。芸術祭をやっていない年でも約100人の人たちがこの関係で雇用されているということです。これは唯一のというか,はっきりしたデータです。
 次に,どういうアートをやっていくかということですが,この地域のもともとあった地勢,土壌,気候,そういう中でできてくる植生,最終的に人がいろいろな形で住んで,何かをとって料理をすると。これが私たちが考える生活美術の基本です。そういうふうな問題をちゃんと作ろうということで,例えば信濃川でいいますと,今や,右側にあるように,三面張り直線になっている突堤があるわけですが,昔は曲がっていてエコロジカルなことだったわけです。それを昔の川筋を再現することによって,今の川の三面張り直線,早く流すことに対しての疑問が出てくる。あるいは,この地域の豪雪地帯です。
 その中で,これは今までやった作品の中で恐らくトップ3に入るものですが,真夏の信濃川河川敷で13台の除雪労働車。新潟,長岡,小千谷,十日町,津南とだんだん山に近くなる。山に近いと,今度,技術者はそれだけ長い時間待機をするし,技術がめちゃくちゃうまい。この人たちがダンスをするということ。これが地域の人たちに大きな感銘を与えました。これは大地の芸術祭の中の最高傑作だと思います。私たちは食事と並んでこういったものがかなり好きですね。
 いよいよ雪もやらなくてはいけないということで,雪の持っている,札幌とか今までの十日町がやっていた雪まつり以外の働きにアプローチを移しながら,冬もやり始めました。紅葉落葉樹とか,そういう中で,約4,600年ぐらい前の縄文のこの形態,これは辻惟雄先生がお話ししているように,まさにアニミズムと遊び心と飾りですね,そういったことがあった,もともと私たちのかなり重要な文化的資質,つまり一言で言えば,水と土によって鍛えられてきた私たちの文化的基本ということをかなりやっていこうということです。
 文化庁でこの話をするのはまたタブーですが,あえて生木,生土を入れてやっています。これをやらないと,縄文土器がどこから出てきているのか,あるいは約40種類ある紅葉落葉樹がどういう性格を持っているか,これがやっぱりこの地域の出発なわけです。そういったことをやっています。
 そういう中で極めて分かりやすい,世界的に有名なのがロシアのイリヤ・カバコフの作品です。これがこの地域の美術を非常によく表している。つまり,皆さんが実際にここにいるとすると,50メートルぐらい先に,川を越えた向こうに猫の額ほどの棚田が7段あって,そこに約3メートルぐらいのレリーフ状の彫刻が右から順番に,田起こしから始まって,町にお米を届けるということ。手前に字が書いてあって,それがいわば立体絵本のようになっている。こういうことによって,ここの土地がどういうふうにして開かれてきたのかがわかるのです。
 今この場所は,福島さんというお百姓が引退しまして,我々が引き継いでいるということで,3年に1回の芸術祭でありますが,基本的に3年に1回,1,100日のうちの50日あるいは100日を担保するのは日常の活動であるということで,越後妻有では約100人近い人たちが残りの1,050日入っているし,瀬戸内でも芸術祭以外のところに五,六十人の人たちが日常的な活動をするということによって,入っています。
 これは3年に1回のお祭りをやるための担保です。と同時に,その担保こそが重要なのであると。3年に1回はその大変さの中でのお祭りで大遊びしようということです。これはもともと人の土地になかなか作品が作れなかったのを,うまくその土地の人たちの肖像を形にすることによって,やっている。
 そういうことをやっているうちに,香港の特にアンブレラレボリューションで参加した人たちが,香港大学の学生が多かった。彼らの何人かは,越後妻有に来て,農業をやっていた人たちでした。これはすごく大変なことが起き始めている。その香港大学のOBたちが,今,中学生,高校生を越後妻有に農業体験で送り始めています。これが芸術祭を超えて,今年もそうですが,行われている。そういう場所としてつながった。
 世界棚田遺産のフィリピンのイフガオとの関係でもそうです。そういうふうな形でいろいろな人たちが関わってくるということが行われています。
 ただ,香港はとにかく有機で全部やりたがるんですが,越後妻有は全部有機は不可能です。そういう中でいろいろな理念と習慣の違いが話されていく。
 廃校,廃屋がこの地域のマイナスではありますが,大きな資源です。それをようやく使えるようになりました。この奴奈川キャンパスというのは割と新しめな廃校ですが,そこでは我々が嫌いな主要5科目以外の授業というか,セミナーをやるということで,遊びに徹底するということで,いろいろな人たちが関わるようになってきた。ついでに申し上げますと,今,ITの新しい企業の社長たちが妻有に相当多くサポーターで入り出して,オイシックスの高島さんとかがやり出していて,彼らも非主要5科目には頑張っています。
 この棚田をつなぎながら,あとは特に石巻が多いのですけれども,東北,福島ですが,林間学校は恒常的にずっと続けてやっています。
 これも昔あった瀬替えです。蛇行をショートカットして,その部分を田んぼに替えている。ここで世界太鼓フェスティバルをやっていますが,そういうこの地域のまさに,越後妻有,それが外とつながっていくためにやり出した土木工作物,これが公共事業は駄目だという一般的な話とは全然違って,まさに公共事業ということが極めて重要な要素としてあるのだということをかなり大きく我々は前回から言い出しました。
 それで,こういうことですね。例えばこれはJR山手線の取水によって信濃川に水が流れていない。これを長野,新潟の高校生たちが作っているわけです。詩を書いている。この審査を大岡信先生が全部やってくれました。こういう形でやっている。
 これは東北大震災に連動して,1日と13時間後に起きた長野県北部地震ですが,これは昔の関根伸夫さんの作品とある意味で似ているわけですが,とにかく流れ出た土を全部使って,土で最新鋭のダムを造るということが土木の中で行われてきているわけです。これはかなり重要な話であって,ある意味で東北の8.5メートルの防潮堤に対してのアンチ提案です。土の耐性の方が絶対生きるぞということをやろうとして,やっているものです。
 これはこうですね。こういうものです。
 このスノーシェードとか,そういったことを徹底して,これを芝居の舞台に使うとか,そういったことをやります。
 もう一つは,空き家です。当初は個人情報ということで全然出てきませんでしたが,今はものすごい数が出てきています。やってくれ,やってくれで,本来は維持にもお金が掛かるし,壊すにもお金が掛かる,それをアート作品に変えていくということで,これは結構有効なものです。これは2004年の中越大震災の震源に一番近いところにあった,もう人がいなくなった建物を,焼き物の名人たち,地元の人たち,プロたちがやって,地元の食材,地元のお母さんの料理と,あとは建築,焼き物,そういったプロ,コックさんが入ってやる。
 これは後で瀬戸内につながるわけですが,基本的に空き家を使って地域の食材を使って地域のお母さんたちの料理をやって,ほかのプロたちが関わるということを今やっている全部の場所で,少しずつ丁寧にやっていこうということをやっています。これが越後妻有あるいは瀬戸内のベースになる考え方です。
 こういう感じですね。これは空き家の例です。彫ることによって生き返る。
 これは今はありませんが,廃校というのがどういうふうに地域にとって重要かと。人口減による制度としての学校がなくなるのは当然ですが,今,合併の中で地域の学校がなくなったときに,基本的にもともとあった集落,村は壊滅します。絶対に物理的には残さなければいけないと思っていて,これを徹底的にやろうということで,現在,相当な数の学校を使っています。
 こういうことですが,これは結構人気がある。
 そういううちの一つで,東京芸術劇場に少し連動できたらと思っていますが,シアターイースト,ウエストと同じ大きさのスペースがあったので,これが練習用の劇場として,かつレジデンスにならないかということから,結構いい劇団が入って,やっているということです。
 これが前回の芸術祭の,私は最高傑作の一つだと思っていますが,人口20人ぐらいの本当に山奥の集落,そこにタイのアーティストが入って,タイの自分のお父さんが商売にならない,商売をどう続けるかという問題と,御自分が日本に20年前来たときの日本のある意味で排外思想との出会い,そして,こういうところで集落が消えていく,これを三重映しにした,これは絵画でできるのですね,こういうことを知りました。こういうことが作品としてもとんでもないものができてきているということです。
 瀬戸内国際芸術祭を簡単にやります。瀬戸芸は2006年から今まで福武總一郎さんが極めて個人的にやってきたアートサイト。これを瀬戸内の海につなげたいというところから,私が呼ばれて,関わるようになったものです。直島のインセンティブを生かしながら,妻有でやってきたようなことをやっていく。
 もう一つ,ここでは海の復権ということをやっていますが,もともと日本はいわば黒潮文化圏というか,そういう中にあり,自由な海,自由な島でした。そして,この列島には鼻とか洲(す)とか,そういうふうに,岬とか言われているところからいろいろな人たちが入り込んで,海の文化で世界につながっていった。それが近現代になって一望監視方式的な島の使い方になって,豊島の産業廃棄物の不法投棄,あるいは100年続いている大島のハンセン病の隔離病棟等になっている。
 この二つを瀬戸芸をやるに当たってのちゃんとしたベースにしようということで出発しました。当然考えているのは,日本文化批判です。海の文化ということを考えていきながら,孤立した島を開いていくということをどうやるかということで,アジアのいろいろな国といろいろ語っています。
 春の期間が今日,明日。今日を含めてあと3日で終わりますが,できるだけ数の発表を控えるように,相当言ってきています。今までに比べて相当減らしていますが,それでも120%を超えています。ちょっと異常な数の人々が瀬戸芸に来られています。外国人の比率が約3割ということで,とんでもないことになっている。これはすごいです。そんな感じで出ています。
 アート・建築は表の看板ですが,狙いは2番目の民俗・生活で,これをやりながら,そこに住んできた人が自分たちのその文化,生活に誇りを持つ。一言で言うと,じいちゃん,ばあちゃんの笑顔を見ようということだけですね。それで,これを日本から開いていかなければいけないということで,1回目から特にアジア中心でいろいろな交流をやっていく。外国からのサポーターの数がものすごく多いです。ものすごい数です。150人以上が来ています。
 そういう中で,開いていくということで,おらく香川県はこの秋から,アジアに対しての人の手伝い,そういうことを含めた政策を香川県を中心に入れてやろうという動きに入り出しています。
 つまり,いろいろな人たちが次世代の人たちがいろいろ,先ほど香港の話をしましたが,つながっていく。国ということを文化を通して,生活美術を通して越えていくということをやらなければ,アジアの緊張がよくなるわけがないということがベースにあります。
 アート・建築に関してはぱっと見ていくと,こういうことですね。特に1回ごとにフォーカスして,前回はバングラディシュでした。今回はタイを中心にやります。バングラディシュが一つの県とかなりやったということが日本の非常任理事国にものすごい大きな成果があったとも言われています。こういう形で,人口800人の集落が世界7か国とつながっている。日本がお金を出しているわけではありません。半分ずつです。そういう形でやろうということです。こんな感じで進んでいます。いろいろな形ですが,実際上は芸術祭以外のつながりが重要だということです。
 ここでもう一つ,釈迦(しゃか)に説法みたいで恐縮ですが,簡単に言います。これは普通の海です。せいぜい夏の海です。そこにカボチャが入ると,これは瀬戸内の,あるいは直島の海ということになります。つまり,今,アートはあらゆる意味で,いろいろな抽象的にある地域をもう一度,直島あるいは瀬戸内ということで,言葉あるいは光と影を与えることによって,歴史をよみがえらせていると言えるかもしれません。
 これは安藤さんの地中美術館ですが,建物の形が全くありません。ここでやっていることは,今までの建築と全く違うわけで,戻りませんが,この建物の中に瀬戸内の海と空をいわば輸送している仕組みなのです。こういう方,あるいはこれは地元のじいちゃま,ばあちゃまが入れる銭湯を作る,そういう形です。
 今から82年前に国立公園法ができました。ある意味で似ています。時代が全く同じです。そのときに,同じインバウンドという言葉が出てきます。そのときに国立公園法を作っている。
 見てみると,海です。それで,緑が多い。必ず神社仏閣が点景に入っている。これが日本三奇景と江戸時代に言われた日本三景です。これが瀬戸内でたまたまそういう形になっているというようなことで,アートの機能として幾つかやりましたが,これが代表的な作品ですが,いわゆる彫刻,絵画は全くありません。水が流れている。ちょっと見えるだけですね。これが今,有数の大人気美術館になっている。テーマは豊島の自給自足です。
 これは瀬戸大橋でつながれた五つの島が,大橋ができることによって分離されました。これがアートをそれぞれの島で作ることによって,もう一度分離された島をつないだ画期的な作品になりました。
 これはアジアの稲作文化圏ですね。そんなようなことで動いています。
 最後に,幾つかの分かりやすい成果で,大島のハンセン病の施設が前倒しになって国が動き出したということがあります。これは皆さんの最初の感動ですね。今,80人を切ったその約6割が目が見えなくなって,ここに通ってきている芸術祭で子供たちがラジオ放送に入り出しました。それで,そんなこととか,あるいは島キッチンが大人気ですね。これも産廃で分かれた,あるいは分かれている三つの集落をつなげるために,270軒を毎月4日かけて回って誕生会をやり出したのです。何のことはない,私たちは幼稚園をやっているようなものです。この誕生会が地域をもう一度つなげ出しました。
 もう一つは,日本で初めてですが,小・中学校が再開したということです。これは,この4月からは中学生4人,小学生3人,幼稚園生4人という形で,おととし再開したわけです。ここの島を出た親の子供たちが,父ちゃんが出た島が元気だということで,親を動かして,ここに住み始めたというようなことが新しい風です。
 あと,データ的に,平均宿泊数が2日を超えました。これは岡山,香川のおばあちゃんたちを入れての数字ですから,かなり滞留が長くなっています。こういう感じで,2泊,3泊,それ以上が増えてきているということですね。
 あと,圧倒的に女性が引っ張っている。男はほとんど駄目です。だから,男が多い審議会は危ないと私は本当に思います。そんなふうに思っています。
 以上です。

【熊倉部会長】北川さん,ありがとうございました。それでは,委員の皆様方から今の北川さんのプレゼンテーションに対して御質問を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。

【佐々木委員】では,感想を。北川さん,いつもお世話になっていまして,最後の写真,私も非常に感動的に見ていまして,高松市長の隣におられましたね。男木島の小・中学校が再開するというのは,多分これは日本で初めてですね。歴史的に,一旦過疎が進んで閉校というか休校したものを再開するということは,なかったと思うのです。それが,文字どおり,瀬戸内芸術祭がきっかけになって,移住者あるいは島に戻ってくる人たちが増えて,それで再開できた。学校というのはやっぱりコミュニティーの中心ですから,このコミュニティーが継続的に持続的に維持される上でとても大事なものですよね。
 私は高松市創造都市推進審議会の座長もやっているので,高松の市長さんとよく意見交換していまして,学校を再開することに掛かる経費は市の財政の持ち出しになるので,短期的に見たらマイナスですよね。でも,芸術祭のもたらす効果はそんな短期的なものでは計れないわけです。
 財務省に声を大きくして言わなくてはいけないけれども,芸術祭というのはそのように,たとえ短期的に経済効果が低くても,中長期的にもっと大きな地域創生という社会的効果があるわけですね。そういったことというのはこの事例が非常に雄弁に物語ると思うのです。
 だから,恐らくこの後,衛さんの話でもアートによる社会包摂の話が出てくるわけだけれども,そういう意味で,芸術というのは文化芸術的な価値ももちろん高めるし,経済効果も持っているし,先ほどの文化GDPですね,しかし,社会が持続するための効果,これははるかに今大事だということを改めて感じて,私,感動しました。お礼を申します。

【北川氏】ありがとうございます。

【熊倉部会長】武内委員,どうぞ。

【武内委員】ありがとうございます。すごく有名な芸術祭なのですけれども,不勉強で済みません。それぞれ全体の予算と,それから収入の構成というのは,どういうものなのでしょうか。

【北川氏】これはかなりリアルな話です。十日町の場合は,3年単位ですが,3億円の予算からしか出発させてもらえません。十日町,津南町が1億円出します。あと2億円は助成や寄附等です。それを何とか,十日町の場合は5億5,000千万円から6億円にしました。お金がないと本当にできない。これはほとんどが,いろいろ助成がありますが,入場料収入及び寄附,協賛,ふるさと納税です。越後妻有はふるさと納税はお返しに使っていません。だから,数年前まではトップ10に入っていたと思いますが,今,一挙にがんと落ちましたけれども,基本的にお返しはやらないと。芸術祭のパスポートぐらいですね。そういう形でやっています。
 瀬戸内国際芸術祭の場合は,恐らく十数億円いっていると思いますが,重要なのは県と市町村で損はない,市町で出しているお金は3年間で約3億5,000万円です。それでもあと8億円はほかのお金であって,瀬戸芸は今回,本当に相当頑張ってやりまして,恐らく入場料収入で6億円いくと思います。入場料収入で賄えるところまで持っていかないと,危ないと思っています。知事や市長が代わったり,とにかく議会は猛烈に文句を言いますからね。議会の出番が全然ないので,存在感が全然ないので,とにかく四六時中,北川おろしをやっていますから,だから例えばそういうような感じですね。
 そんなことでやっているので,お金に関しては以上です。ただ,ものすごく風景が変わったことだけ申し上げますと,主に伊勢丹ですが,伊勢丹三越が,例えば節句とかあるいはバレンタインデーの催事期で動いている以外に,この1年瀬戸内国際芸術祭で動くということをもう一つ作ってしまった。デパート業界が変わり始めています。
 もう一つ,これは国の後押しがあるのだと直感的に会社は思っていると思いますが,三井不動産が日本丸を瀬戸内国際芸術祭で動かし始めますね。
 そういうことを含めて商売ベースがいろいろ関わり出してきていて,協賛の数は恐らく300いっているのではないでしょうか。
 だから,これを先ほどの大きい問題で言いますと,要するにお金のというか,効果の表し方をもっと違う表し方でやった方がいいし,恐らく社会の底流を,例えば伊勢丹はつかんでいるのですよね。そういう底流に対してキャッチしているところがあって,しかもそれが面白いのは,要するに,産業をやってくれといっているわけではないのですね。例えば伊勢丹新宿の12面あるショーウインドーは,ものすごいラジカルで構わないと。ちょっと危ないの出てくるぞと。秩父前衛派とか,カオスラウンジとか,怪しいのが関わっていますから,だけど構わないと言っているわけですね。つまり彼らは,売るよりも社会の底流をつかみたいと。それは都市の,普通のこれを売ろうという中でつかめない逆の話であると。何で瀬戸内に人が動いているのだと。その人たちのセンスを自分たちはつかまないといけないという形で動いている。そういう動きが出てきたということですが,僕は今まで怖いと思っていたのですね。ファッションに引っ張られるのではないかということに対して,ファッションではもたないぞということを伊勢丹が思っているということが分かったというのは,ちょっと驚きました。そんな底流が動いている。
 ですから,お金は最終的に入場料とかで賄えるようにしないと,この予算は普通の行政でセットする予算ではありません。高過ぎる。これをどうやるかというのはやっぱり大変な話だと思いますね。

【武内委員】ありがとうございました。

【熊倉部会長】たしか一昨日ぐらいまで,新宿伊勢丹の明治通り沿いを中心に,ショーウインドー全部に瀬戸内国際芸術祭の出展の若手作家が,1ウインドー1作品で,店内でパスポートも販売しているというタイアップを今年度からなさっていたと思います。
 お待たせしました,赤坂委員。

【赤坂委員】私も瀬戸内に伺ったときに,圧倒的に若い女の子たちが多いということに驚きを覚えたのですけれども,でも,考えてみると,国東半島でも,私たちがやっている福島でも,アート関係のこういうイベントとかプロジェクトに関わっているのは,圧倒的に若い女の子たち,女性たちが多い。明らかに新しい風景を作る起爆剤になっているのは,その若い世代の女性たちなのだということをどういうふうに考えたらいいのか。
 私なんかは周りにいる若い男の子たちが完全に置き去りにされてしまって,知ったかぶりもできないという悲惨な状況に追い込まれている。だから,若い男の子たちをどういうふうに巻き込んでいくかみたいなことも含めて,私はやっぱり北川フラムさんに,なぜ女性なのかということをお聞きしたいなと今思いました。

【北川氏】結果的に言いますと,男は,2年前の地域でモールを作るときに,そこの父ちゃん,反対した,賛成したかをねちねちと,思っているわけですね。女性は,明日,何するかに関しては,2年前の話はしないね。明日,これをやるに関して,どうできるかしか考えない。これでやっぱりいろいろなことがばんばん出てくると,女の人しか残らないのですよ。それで,女の人はやることが面白ければやると。2年前のモールのときに旦那が反対したなんていうのは全然忘れているね。覚えているかもしれないけれども,自分がやろうとしたことがそのままやれることに対しては,本当に計算しないで,自分が楽しんでやれることはやりますね。
 男はやっぱりいろいろなことを,その瞬間的なイベント以外のことを考えてしまうね。ぐんぐん減っていく。それで,若い女の人と,退職した女性教師も加わっているのです。結構優秀なのが多くて,みんな若い女性と言われるのを喜んでいるね。瀬戸内は若い女性が多いって。そんな感じです。
 いや,すごいパワーですよ。めちゃめちゃ。

【熊倉部会長】河島委員。
 お時間があられるので,これで最後になるかと思います。

【河島委員】お時間ないと思うので,半分感想なのですけれども,今日のお話の中では,インバウンドの増加というようなあたりと,実は雇用も生んで経済もという一つの事例みたいな枠組みに,今日の事例,お話があったのですけれども,やっぱりこの二つの芸術祭の価値というのは,現代アートと建築を媒介としつつ,もっと広い,日本人の原風景であるとか,本当に広い意味での文化というものを見直す,そしてそれをもう1回大切にしていこうという,そういう物語を生み出したところに北川さんのやっていらしたことの価値があるのではないかと思いまして,大変感動したのですけれども,一つだけ最後に質問,いつも,ずっと前から伺いたかったことなのですが,これ,現代アートならではの効果であるとか,ほかの文化ではなくて現代アートだからこれができているのだという,何かその辺のお話を伺えますか。

【北川氏】いわゆる現代美術と違う生活美術みたいなことは横に置いておいて,いろいろ本音で言いますと,美術をやっていて現代美術をやっていない人間はおかしいです。簡単に言うと。私は本当にそう思っています。真っ当にやっていたら,そうなるのは当たり前だろうと私は思っています。
 だって,その方が面白い。いや,私の専門は仏像彫刻史ですよ。研究するのは仏像彫刻の方が全然面白いですよ。現代美術なんて研究したって,ちっとも面白くない。思い付きだとか,やりたいことをやっているのではないか。だけど,一緒に何かやるとしたら,現代美術をやっている作家の方が断然魅力的ですからね。それは学生のときに本当にそう思いました。

【熊倉部会長】例えば作家自身が生きているとか,そういうこともあるのではないですか。作品だけ残っているというのではなくて,現代美術が非常に効果的だということ。

【北川氏】でも,現代美術の作家とは基本的に付き合いたくないですね。本当に大変。

【熊倉部会長】でも,それが案外地域の人たちと,我々よりも仲よくしたりとかしますよね。その辺が面白かったりとか。

【北川氏】いや,例えば一昨日,あるグループが裸で海の中で撮影したというので,大変です,今。そういうのを平気でやりますもんね。勘弁してくれというぐらい。今時まだそういうことをやるかというぐらい,アーティストははねますね。

【熊倉部会長】ほかにどうしてもという方がいらっしゃらなければ。
 では,吉本委員。

【吉本委員】今日,事務局から文化GDPの話がありました。それで,大地の芸術祭も経済波及効果を計算して,大きな数字が出ていると思うのですけれども,だから,そういう経済効果もちゃんとアピールしつつ,でもやっぱり最後に北川さんがおっしゃっていたような社会の底流というか,社会に対するインパクトとか,あるいは学校が再開したようなことが重要だと思います。そうしたほかの分野では起こり得ない,文化ならではの効果というものもやっぱり強く,社会に対する効果だったり,日本創生に向けた効果だったり,いろいろな言い方ができると思うのですけれども,この審議会としてはそこを強くアピールした方がいいなと思いました。

【熊倉部会長】松田委員,どうぞ。

【松田委員】お急ぎだということで,短く一つお伺いしたいのですけれども,これぐらいの規模の広域の芸術祭というのは,この先,まだ日本のどこかで行える,すなわち,大地の芸術祭のような成功事例をほかでも広域で展開できる,そういう感覚を覚えていらっしゃいますでしょうか。

【北川氏】いや,いろいろなケースがあると思いますね。例えば山出さんがやったのも,そういうような感じでやっているし,幾つかのところがあると思いますが,ただやっぱり,この間,美術における,あるいは美術文化による地域おこしというのが甘やかされた面があります。緊急雇用とか,あるいは地域町おこし協力隊とか。

【吉本委員】地域創生とか。

【北川氏】協力隊とか。そういうことで,要するに自分の生活,これは痛しかゆしなのですが,足元が危ない人がそこに寄ってやっていた点で,約2,000近く,中小を寄せればあるかもしれませんが,1,000はあると思いますが,ほとんどこれから一気になくなると思います。それは,形が美術文化による地域作りではあったけれども,それをやっている人たちの足元が極めて弱いという問題と,やっぱり作品それぞれの強さというか,面白さが弱いということによって,これから相当大変なことにはなるだろうと思っていますが,そこで頑張っていかないとまずいと思いますね。

【熊倉部会長】よろしいでしょうか。
 それでは,すいません,予定の時間を大分オーバーしてしまいましたが,北川フラムさん,ありがとうございました。

【北川氏】どうもありがとうございました。

【熊倉部会長】それでは続きまして,衛紀生さん,可児市文化創造センターの取組について,御説明よろしくお願いいたします。

【衛氏】可児市文化創造センターの衛です。今日,文化庁から言われているのは,社会包摂プログラム,我々のアーラまち元気プロジェクトについてプレゼンテーションしてくれということですので,そちらに限ってお話をしたいと思います。
 私は2008年に縁もゆかりもない可児市に来まして,劇場をどうしようかということから始まりました。その前にいろいろ明治大学で研究していたことを形にしようということでしたのですけれども,まさに成熟社会でどういう劇場が社会に対して役割を果たすのかということを考えて,劇場を作りました。
 これはアーラまち元気プログラムのことで,これはゼロ歳児から3歳児までのお子さんと若いお母さん方のネットワークを作るため,毎週1回やっているワークショップです。考えたときに,ちょっと古いのですけれども,アンソニー・ギデンスという人がポジティブ・ウェルフェアということを言っています。ウェルフェアは経済的な概念ではないと。満足すべき生活状態を表す心理的な概念だと。だから,経済的な給付だけ,優遇措置だけでは福祉という,Well-Beingな社会はできないということを言っていて,むしろ後付けで,アンソニー・ギデンスのポジティブ・ウェルフェアという考え方と私どもの劇場の経営を重ねました。
 大事なことは,孤立しがちな人々の生きる意欲を作り,もっと大事なのは,そのポテンシャルを社会の発展に反映させる仕組みというのが社会包摂であって,ちょっと語弊がありますが,社会包摂を社会的弱者への施しというような考えで事業を組み立てているところが現にあるというのは,非常に間違っていると私は思っています。
 その中で,包摂的な社会を作るためには,身体的な障害,それから,これは被災した皆さんのPTSDであるとか,あるいは急性ストレス障害も含めて精神的障害というのがあるのですけれども,成熟社会ということを考えると,私は社会的な障害も重要な柱の一つになるだろうと。つまり,それぞれの障害を要因とした生活困難と,人間の尊厳の危機的な状況によって,やっぱり孤立してしまうと。そういうものに対して,文化芸術の力を活用して個々のポテンシャルを新しい社会構築に反映させようという考え方です。
 だから,孤立してしまい,淵(ふち)にいる人たちをもう一度社会構築に反映させる,その人たちのポテンシャルを反映させるということ,そこで社会包摂という事業が完結すると私は考えています。
 それは,自己肯定感と生きる意欲の醸成であり,すなわち他者を発見する。孤立のふちにいる人間が自分以外の人間を発見することによって,自分が必要とされる,あるいは自分が役に立っているというBeingに対する自信というようなものを醸成することによって,それぞれの可能性,ポテンシャルを引き出していくということを考えています。
 最終的に,包摂型事業によって社会コストの軽減と将来的な税収増を図るというところまでデザインをしています。
 よく文化庁さんのものに,県立東濃高校の事例が出ています。問題校と言われまして,実は県立東濃高校は,明治時代に岐阜県に三つ作られた旧制中学の一つで,名門中の名門です。高名な政治家や経営者を輩出しているところですが,ここ10年少し,問題校とされてきました。問題校というのは,荒れているということではなくて,荒れる気力もない子たちが集まっているということです。それで,県の松川教育長の依頼で,何とかできないかということで,芸術コースを作ることによってこの高校を立て直したいという依頼がありまして,学校に行ったんですけれども,余りの無気力ぶりに実は愕然(がくぜん)としたのですが,その子たちとワークショップをやるならば,相当腕のある,アーティストでなくて,コミュニティーアーツワーカー的な要素をしっかり持った人間にやってもらうしかないということで,文学座の西川信廣氏に依頼をしました。
 これが,3年間でおよそ40人前後で推移していた中途退学者,毎年1クラスがなくなるという状態だったのですけれども,それが9人になったということです。非常に劇的な変化があったのですけれども,実は3年で岐阜県の教育委員会の補助金が切れまして,今年は相当大変な状態になっていますけれども,しかし,せっかく成果が出たのだから続けるべきだということで,校長先生,教頭先生と私で,何とかしなければねという話はしております。
 もう一つ事例を挙げますと,劇場から一番遠くにいる人々に劇場の果実を届けるということが必要なのではないか。左側の私のあしながおじさんプロジェクトというのは,私が行った年に始めて,中高生でアーラの様々な事業の中から自分が聞きたい,見たいと思っているものを選んで申し込むと。地元企業,団体,個人から1口3万円の浄財を頂いて,生チケットですね,自分の席を探すところから劇場体験を始めるということをやっていたのですが,昨年度,私のあしながおじさんプロジェクト For Familyというのを始めました。これは,東濃高校の経験がFor Familyを生むんですけれども,東濃高校の子供たちが,実は先生の言葉で言うと,叱るときに叱れないというのです。家庭環境をどうしても考えてしまう。そうすると,思い切って叱れないのですよ,館長という話を聞きしました。少なくとも会話がないとか,あるいは独り親家庭でなかなか一緒に食事する機会もない,あるいは学習障害を持った方が親になり,子供に対して関心を示さないということがある。
 では,まずそれを何とか少しでも手助けできないかということで,For Familyというのは,教育委員会の学校教育課さんと連携して,就学援助をもらっているお子さんとその御家族,それから,子供課さんと連携しまして,児童扶養手当をもらっている独り親家庭のお子さんとその御家族を,あしながおじさんプロジェクトと同じように,見たい,聞きたいと思っているものに御家族単位で招待しようということで,別にこれが何かの解決になるわけではないですけれども,会話が途絶えてしまったりとかいう家族,家庭の真ん中に音楽だとか演劇だとかダンスという木を1本植えて,その木を見上げながら家族が会話する機会を作ろうという企画です。
 これは必ず感想文と,それからお母さん方は感謝の文章を手紙で送ってくれます。これを1冊のブックレットにして,御寄附を頂いた企業,団体,個人の皆さんと担当各課にフィードバックします。そのことによって,自分たちの3万円がこういうふうに活用されているのだということで,ささやかな企業メセナですけれども,成立しているということです。
 それからこれは,障害者施設も我々は行っているのですが,障害者の皆さんの多くは,心が動く,感動すると奇声を上げたりとか立ち上がったりするので,劇場体験がないのです。ホールコンサートの経験がない。ではということで,年に1度,劇場も全部車椅子で入れるようにスタッフが作りまして,皆さんに来てもらうと。障害者福祉施設の皆さん,それから障害者支援のNPOがあります。それから県立特別支援学校が隣町にあります。それから乳幼児の方と若いお母さんも,お母さん方が実は子供を持ってしまったがためになかなか行けないという人たちに来てもらって,地域拠点契約を結んで,新日本フィルの弦楽八重奏を40分ぐらいのコンサートですけれども,やりました。大変なコンサートで,大騒ぎです。奇声は聞こえる,立ち上がる,うめく人間はいる,大変なあれですけれども,皆さん喜んでくれて,よかったと思います。
 それから,私どものまちは在住外国人が多いまちで,多文化共生パフォーマンスも私が行った年から始めました。ブラジル人がリーマンショックのときに大量に戻りましたが,今,フィリピン人の方が多くなって,あと,ペルーの方とかいらして,こういう形でドキュメンタリー・プレイという方向でやっております。これは4か月ぐらい稽古して,成果発表をします。
 それから,こういう仲間づくりのワークショップ。福祉施設だとか,高齢者福祉施設,障害者福祉施設に行って,つまり他者を発見するという機会を作るということです。
 それから,病院,小学校,老人保健施設に行きます。
 それから,不登校の子たち,私どもは人生最初の社会保障は何かというと,やっぱり教育の機会をどういうふうに保障するかということで,不登校の子たちを学校に戻すことはミッションだと考えていません。やっぱり一種のスティグマを感じている子供たちが多いので,彼ら,彼女たちが生きる意欲を持って,通信制でも高校に行く,あるいは大検を受けても大学に行こうという意欲が出てくればいいなということで始めています。これも毎週1回,やっています。やっぱりすごく複雑な家庭が多いのですね。でも,ワークショップ,新井英夫さんだとか,あとは金沢のTen Seedsというグループが非常に頑張ってやってくれています。
 これは毎年続けている祈りのコンサート。東日本大震災を忘れないということで,今年3月11日にやりました。大体40万円弱ぐらいのお金をアーツエイド東北に毎年寄託をしています。
 実は大事なことは,社会包摂事業というのは,劇場課題,鑑賞者とか愛好者を開発するというのが1990年代からの流れであるのですけれども,それから,2010年前後ぐらいまではとにかく愛好者を作る,演劇の愛好者,クラシックの愛好者,鑑賞者を作るということにシフトしてやってきたのですが,今求められているのは,やっぱり成熟社会ということでいうと,地域課題とか社会課題を解決することによって支持者を作る,その劇場の支持者を作るというマーケティングをすべきだというのが私の考えで,やっぱり愛好者というのは好き嫌い,趣味嗜好(しこう)に依拠していますから,そんなものはすぐ変わります。しかし,社会課題,地域課題に対してきちんと対応している劇場,ホールは,市民の生活信条だとか価値観に依拠しているので,そんなに簡単に変わるものではない。
 だから,当然支持者を開発するという方向で考えていまして,実はこういうことをしています。CAUSE RELATED MARKETING,社会貢献型マーケティングと日本語で訳されていますけれども,創造鑑賞事業と社会課題の解決をやることによって,ETHICAL CUSTOMERを作り出す。それは継続的な,持続的な顧客開発をする。創客と支持者の開発と書いてありますけれども,これをやるということで,実は社会包摂的なプログラムは主な事業ではないという位置付けが非常に多いのです,日本の場合。つまり,主な事業が鑑賞事業だとか創造事業であって,取りあえずそのほかに包摂的な事業をすると。しかし,どうしてもどんどん予算は減っています。1997年にそういう事業を始めた世田谷パブリックシアターも,そういう事業の予算が年々減っているという状態。
 でも,これをリンクさせるべきだと私は考えています。リンクして,支持者開発,顧客開発をやると。その結果が,これは皆さんのお手元にある資料と若干違いますけれども,実は昨年度,来館者がおよそ47万6,000人,2倍ちょっと増えています。それから,愛知県の会員数というのは特出すべきですけれども,1,096%増。それからパッケージチケットもおよそ3倍。入場料収入が177%,2億円ほど伸びております。
 これは後で見ていただければと思うのですけれども,経済波及効果は12億2,200万円,誘発係数が2.57,これはニッセイ基礎研究所さんに私の就任した次の年にお願いした数字で,今はもう少しよくなっているのではないかと思っています。
 今後の課題,これはとても大事なのですけれども,ソーシャル・インパクト投資という考え方が,2010年,イギリスで始まりました。先ほどの東濃高校の事例でいうと,高卒者の生涯賃金が約1億6,000万円と言われています。ドロップアウトしなかった30人が,これから数十年,退職までに租税負担が12億2,880万円,社会保障負担が8億5,440万円,これに当然難しい変数Nを足して算出するということですが,このことを研究者に投げましたら,彼らはびっくりして,劇場がそんなことをやっているとは思ってもいなかったわけですから,一緒に研究をしましょうということになっております。
 経済効果として,だから,短期的ではないのだけれども,中長期的に,租税あるいは社会保障の原資が確実に生まれるということで,そのエビデンスをやっぱり作らなければいけないというのが私の考えで,社会的投資収益率というものでどういうふうに政策根拠を作るか。この根拠を作ることによって,こういう事業が劇場経営とかホール経営の中で重要な位置を占めていくのではないか,いかなければいけないと私は思っています。
 創造的福祉社会が成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築していくことが求められるということを第4次基本方針の中で言っています。それが私どもは創造的な福祉社会を作ることだ,社会的に孤立する人たちをいかにケアするかということによって,その人たちのポテンシャルを社会形成のために反映させるということを考えております。
 すごく飛ばしましたけれども,以上で終わります。ありがとうございます。
 それから,皆さんのお手元にあるこれが一昨年度の報告書です。毎年,前年の報告書を作っています。大体年間420回ぐらい。初年度が230回ぐらいだったと思います。
 ありがとうございました。

【熊倉部会長】衛さん,ありがとうございました。
 それでは,質疑応答は後ほどまとめてと思いますので,引き続きまして,村上様の御発表をお願いしたいと思います。おまたせしました。

【村上氏】どうも,兵庫県教育委員会の村上でございます。北川さんの話と違いまして,女性でなくて,若くないので,ちょっとアプローチが違うスタイルで進めさせていただきます。割と文化財の方でございますので,じんわりと計画的に進んでいるような部分がございますので,そこに着目しながら話をさせていただきます。
 お配りしております資料で御説明させていただきます。資料2-4の1ページの上の方を見ていただきますと,真ん中に竣工(しゅんこう)式のときの絵を入れております。ブルーインパルスが飛びまして,お城からずっと上がって,お花が咲いているような状態。その右側が竣工式に来られた皆さんの状態でございます。下側を見ると,これは商店街のところに人がいっぱいになっている状況というようなことでございます。左側は,4月6日,城の日でございまして,またどういうふうになっているかなということで,確認をしてきたところでございます。やはりかなりの人が来られていまして,多くの方が年間通じてこられている状況になったというのが確認できると思います。
 ただ,そういう状況になる上において,1ページの下側の表を見ていただきますと,準備期間,工事中,そして実際の竣工後の状況ということで,それぞれいろいろなことを姫路市さんはじめとして取り組んでこられているというところでございます。
 その中で一つ私の方で言いたいのは,平成12年に循環型社会における歴史文化遺産の活用方策というのを書かせていただいて,その後,人材の育成に取り組んでまいりました。地域におきまして,民間のボランティア中心の活動といたしまして,歴史文化を再発見し,それを活用していこうというような人たちを各地域ごとにずっと作っていこうということで取り組ませていただきました。現在,兵庫県内では,建造物が私の主でございますので,建造物は400人ぐらい既にできております。そのほか,樹木遺産だとか庭園関係をされている造園管理技能士の方々だとかいうことで,総勢大体1,000人ぐらいに今は膨らんできたということでございます。
 特に建造物分野におきましては,建築士の連合会に賛意を表明していただきまして,現在35府県でその人材育成に取り組んでおられ,現在,3,000人を超える状況まで受講者数を数えるまでになってきたということでございます。来年度ぐらいには東京都もお始めになると聞いているところでございます。
 そういう準備のところで,もう一つ大事なのは,姫路市長さんが都市計画の専門家でおられまして,平成16年から地域運営プランということで,中学校単位ごとに自分たちの地域を将来どういうふうに持っていけばいいのだろうということを,住民の方々を主にいたしまして計画を作っていかれたということがございます。その後,実施におきましては小学校単位でそれぞれの授業をしていくということで,ひとつ,自分たちの住んでいる場というものを意識付けする作業をしていただいたということが大きいのだろうと思っております。
 その準備をする段階で,右側のところにございますように,姫路城の大天守の保存修理専門家委員会をこしらえましたら,その中で大事なことを言われました。一つは,文化財というのは,身障者の方々にとって常に上がれる状態ではないと。ただし,文化財というのはその時代の物の考え方というのが表現されております。それを現代に見ようとしたときに,どうしてもエレベーターを付けるなりしてということをやってくると,美そのものが壊れてしまって,文化財そのものが壊れてしまうということで,なかなかふだん文化財をそういう方々にまで利活用していただけるのは難しいところがあると。だけど,修理工事期間中で,これこそできるようなことを何か考えようという話になりまして,身障者の方々がエレベーターを使って工事中は見られるようなことにしてあげようと。そしてまた,そういうことで新たな物の考え方が見えるだろうというようなことが会議の席で話になりまして,それを現実化していこうという話になりました。それが,天空の白鷺(しらさぎ)という修理見学施設ということで,常時見学施設ということで,文化財の中ではそういう事例は今までなかったということでございました。
 次のページを開いていただきたいと思います。先ほどの地域夢プランということで,割と詳しくそのものについて考えております。住民に投げ掛けて,自分たちの地域の将来を考えていただこうというと,当然のことながら地域資源という話になります。資源は資源のままでございますが,それを資産に変えていこうとしたときにどういう方策があるかというときに,対象物というのはおのずと決まってまいりますので,それは歴史文化に裏打ちされた自分たちの生活のなりわいから出てくるものであろうということでございます。
 ただし,それらのものを利活用していこうとすると,時間が掛かるのです。確かに時間が掛かる。そういうときに,住民だけではどうしても維持できないと。誰かとタイアップしながらするときに,それだけ長い間関わってくれる機関というのはどこがいいのだろうということで,そのときは近在の大学とタイアップしながら動いていくような話を作ったと聞いております。
 また,豊かさというものは時によって変わってまいります。物の豊かさを求めた時代も当然ありましたし,心の豊かさを求めた時代もございます。今は場の豊かさ,自分たちの住んでいるところの場が非常に豊かなのだということを求める時代ではないかということをこの地域夢プランでは考えて,そして動いてきたところでございます。
 その事業の内容については,右上のところにどういうソフト事業をいつ頃やったというようなことを書かせていただいております。
 その下のところに行きますと,一つは専門的な能力のある人たちを各地域に送り込んできた私ども県の教育委員会,そして,姫路市はまちづくり市民活動団体をこしらえてきたという形で,二つが合わされば,場が出来上がる話になっていくのではないかということでございます。
 一つの事例として,NPOの船場城西の会というところが,ペンペン草の生えていた大きなお寺をもう一度よみがえらせてきたというような事例でございます。左側のところを見ていただければ,本堂の中でミュージアムフェアをやろうというようなことまでされているということでございます。
 次のページを御覧ください。そういうふうに自分たちの住んでいるところともっと縁を持っていただいて,自分たちのものだというふうに考えていただこうということで,寄附活動を文化財の修理の中に入れてまいりました。一つはふるさと納税がございますけれども,そのほかに,お買物をしただけでわずかな金額でも積み上がっていくような,それぞれの階層にあったような形での寄附活動ができないかなということで,負担感の少ないものから,ものすごく高額なお金を寄附していただけるものまで,全部用意していこうということで,させていただきましたし,なおかつ,そのときに市の方々とお話ししていたのは,近くの企業の方々にはお金というのは余り求めずに,自分たちの作っているものを利用できるものは寄附していただけるような話にできないかということで,縁作りのための寄附をしていこうという話をさせていただいたところです。
 下側のところでは,3万円以上寄附した方々には修理工事したときの瓦の裏側にお名前を書いていただくということをさせてもらっています。そうすると,お孫さんと一緒に来られたりとか,家族の方々が来られているというような風景がかなり見えました。そこで私たちが感じておりますのは,多分そのお孫さん方は,次の修理のときには,おじいさんのときに一緒に行ったなと。そのときの思いを持って,また寄附しようという確率が上がるのではないかと考えた次第でございます。
 下のページを見てください。修理を契機とした活性化策ということでございますが,そういうことを考えるときのマイナスの要素も実はございました。それは何かというと,昭和39年の昭和の大修理のときは,見学者数が20万人を切ってしまったのです。何が起きるかというと,その近辺の商店が閉鎖するような話になってしまったのです。今回も6年ぐらいの工期です。6年間,人が来ないという状態になったときは,当然経済的なダメージがすごく大きいのです。そういうことから,それを回避する方法は何かということは当然考えていたということもあるのだろうということでございます。
 そのために,右側の絵のように,修理工事中でも楽しい状態とは何だということで,できるだけ修理そのものが自分が生きている間で1回しか見られない貴重な体験をする場であることを感じていただこうということで,修理そのものに価値を見出(だ)そうという話になったというところもございます。
 また,私は城が見えなくなるのは嫌なのです。そこに常にあるというのが大切でございます。工事中に,素屋根でお城が見えなくなるというのは耐えられなかったものですから,原寸大で絵を描いていただいたというところもございます。それを見ていると,そんなに違和感はないのです。最初はこれを写真にしようと思ってやったのですけれども,写真だと大き過ぎてうまくいかないので,イラストに変えたという形でございます。
 次のページを見てください。そういうこつこつとした努力のおかげでございまして,大体姫路城の場合,年間の入場者数が90万人から100万人ぐらいでございますが,現在,286万人ということで,3倍ぐらいになっていると。外国の方々も2.何倍ぐらいになってきているということでございますし,修理のそれぞれの場面では,入場者数の左の下にありますように,今しか見られない姫路城ということで,修理前は今しか修理前の状態は見れませんよとか,修理工事中は,今しか見れない修理工事とか,出来上がると真っ白になりますから,今しか見れない白すぎ城だとか,キャッチコピーも作りながら見ていただいたということでございます。
 下のページを見てください。これは人件費も全部入れた収支の計算表でございまして,平成27年度になると入場料収入等だけで黒字化しております。かなりの金額になっております。これまでの各イベントの来客者数と経済効果の計算式を見てくると,かなり大きな金額にこの1年でなるだろうと見ております。これが放っておいても大体8掛けぐらいですから,来年はそのぐらい,その次も8掛けぐらいということで,3年間ぐらいはかなり優位な数字になって出るのだろうと見ています。
 次の5ページを見ていただきたいと思います。これが姫路城に来られている方々のパーソントリップの図でございます。左側でございます。それを見ていただくと,彼らの動線は真っ赤なところを歩いているだけなのです。全体として,水色のところまで皆さんに満遍なく歩いていただくと,かなりな滞留時間になり,かなりな消費金額になってくるはずなのですが,今,赤い線だけを歩いているということなのです。これを考え直すと,現在でもかなりな経済効果を生んでいる。だけど,まだこの文化財をどう生かすかということを考えると,伸び代がかなりあるのではないかなと私は理解しているところでございます。
 そういうことから,右側にありますように,円周部に人を動かすための方策を考えていきましょうという話を市の方々としている状況でございます。
 下側のところでは,文化プログラムということで市の方はいろいろ考え始めたと。そこで知っておいていただきたいのは,私ども,今話している対象物件は,器なのです。建物という器。何も動かないし,じっとしているものなのです。中でプレーする人が必要なのです。プレーヤーになるような方々。そういうものをどうしても考えないと,こういう歴史的なものというのも生かし切れない部分があるのだろうと思っているのです。
 ということで,今後,本格的に歴史とか文化を生かした経済活動に持っていこうとすると,パッケージングデザインというものを考え始めないと,しんどいのではないかと私は思っております。プレーヤーだけだと,雰囲気のない中でしてもなかなか難しいし,雰囲気のある中でプレーヤーがいないと静かな状態になってしまうということで,歴史文化を預かる文化財の部門と,文化ということでクリエイティブな活動をされている部分をどう融合させるかというのが,今後本当に大事なことになるのではないかなと感じているところでございます。
 次のページを御覧ください。これは竹田城の事例でございます。左下にちょこっと写真を載せていますけれども,中世の山城です。石垣だけしかないのです。だけど,そこに雲がたなびいて,美しい姿を見せると,人々はたくさん来てくださります。そこに泊まる場所を設計して,宿泊施設にしてまいりますと,かなりの人が泊まられます。金額,単価もビジネスホテルより高い値段でも来られるという状況です。そこで知っておいていただきたいのは,これらのいいものをうまく使うと,イニシャルコストが非常に安くなって,ランニングコストが助かるのです。シティーホテルの客室稼働率に比べて,2分の1ぐらいの稼働率でも運営できるはずでございます。
 ということで,いいものを生かせば,イニシャルコストを安くできるということで,経営的にも非常に有利になるはずでございますので,それらをどう生かしていくかということを,場というものの中でデザインしていく必要があるのだろうと思います。
 その下の事例を見ていただいたら,これは佐々木先生なんかがよく御存じでございまして,佐々木先生に話ししていただかないといけない部分がありますが,これは篠山の事例です。人口が数万人のところでは,能力のある人がぽんと入ってきて,一つのパッケージのグループを作ると,デザイン的に雰囲気をこしらえて,その地域の場作りというものにかなり影響を与えて,変わってくるというのは既に分かってまいっております。
 それらのスキームも,次のページでございます,どういうふうに持っていけばできるかというのもデザインされておりますし,最近では銀行からも出てまいりますので,融資,それからファンドも出てきております。ということで,民間の経営だけでもできるような体力も付いてきているということでございます。
 その下のページを見てください。私は,それだけで見ていても,ある程度限界がありそうだなと最近感じつつあります。それは何かというと,泊まる場所が一つだけで一生懸命頑張っていても,ある一定の規模ぐらいまでしか人を泊めて楽しくしてもらおうというのは難しいのです。だけど,隣近所と一緒になって,ネットワークになってくれば,お互いさまで,ずっと限界の内部で頑張っているだけでも,その場をいろいろなところで作っていけるということで,広域的なネットワークというのをそろそろ考えていけませんでしょうかねというところでございます。
 そのときに,歴史とか文化というものを主体にして,地域作りを考えているところのネットワークというものを考えてくれば,それらは観光DMOとか,そういうものとも一緒になって物を考えられますし,そういうことを考えてくると,場というものが一つずつ出来上がったものが,より集まって,群になっているような,そういう姿というのがひとつ考えられないでしょうかというところでございます。
 以上でございます。

【熊倉部会長】ありがとうございました。
 すいません,進行がまずくて,予定の時間まであと10分しかございませんが,もし委員の皆様方,ゲストの皆様方のお時間が許されれば,少しだけ延長をお許しいただければと思いますが,もちろん次の御予定のあられる方々もいらっしゃると思いますので,その場合はあと十数分で時間でございますが,時間になられたら御退出いただいて結構でございます。
 それではお二方のプレゼンテーションに対して。
 加藤委員,どうぞ。

【加藤委員】姫路城なのですけれども,いささか私事なのですが,実は私の母方の祖父は,戦前しばらく姫路城の管理事務所の所長をしていたことがございまして,実はこのお城に100回ではきかないぐらい上っていると思うのですが,非常に懐かしく伺いました。また,この修復の御努力に大変敬意を表したいと思うのですけれども,修復中も拝見して,上らせていただいて,初めて建物の外から屋根を見るという貴重な体験をしたのです。
 その上で,今,観光の観点あるいは地域活性化の観点から,いろいろな計画をしておられるということはよく分かりましたのですけれども,しかも効果が上がっているという点もよく理解できたのですが,一つ,一番最後に広域的ネットワークということもお考えだということも分かりましたのですが,もうちょっと狭い範囲で,しかし,姫路城の周辺だけではないもう少し広い範囲というか,中規模の範囲内での回遊をもう少し考えられないだろうか。お城を見にいって,遠くからお見えになる方は別ですが,近隣からお見えになる方にしたら,城だけ見ると,いかに周辺を回っても,そのまま日帰りで帰れるし,また,姫路のまちに宿泊施設が正直言って余り充実していないという課題もあろうかと思います。
 その点,例えばこの地図の中で一番上なのですけれども,豊岡市に行くと,まずコウノトリの公園を見にいって,それから城崎温泉に1泊して,明くる日に出石でまちをぐるっと見学した上で,そばを食って帰るという,こういうコースが考えられている。
したがって,三つぐらいポイントがあると何とか1泊できるのではないかなと考えると,例えば書写山ですね,そういうぐらいの距離の文化資源,西国三十三所の一つですが,それらを含めたような規模ぐらいで,ここに龍野地区も書かれているので,そうした龍野地区,書写山,姫路城ぐらいのエリア,できればもう一つ,室津という瀬戸内にとって非常に貴重な資源がありますから,そうした室津ぐらいまで視野に入れたエリアをうまく構成していただけないだろうかという,そのあたりはいかがでしょうか。

【村上氏】ありがとうございます。実は姫路から城崎に上がっている播但線のところに特急電車ではまかぜというのが走っておりまして,実際,私自身が乗っていて,最近,周りが外国の方ばかりになるのです。外国の方がどのルートを通っているかというのを肌身で感じているところでございまして,そういう意味で,姫路から城崎の南北軸を一つ作ろうかということで話はしております。
 ただ,御理解いただきたいのは,私,文化財の部局におりますので,観光対策まで手を出せないところがございますので,そういう話は観光部局の方々とお話は実際しておりますし,多分にそういう動きになってくると。また,姫路城一つでお城で見ていると,やっぱりポイントになってしまいますから,ところが,播磨の圏内で見ると,お城は大体450ぐらいあるのです。中世から近世にかけて。それをみんなどういうふうに見ているかというのはほとんどやっていなかったので,実をいうと,官兵衛のテレビドラマ化しているときに,官兵衛に関連するようなところという形で,ほとんどふだん人が行っていないようなところまで人に行っていただけるような機会をこしらえたりとかいう話をして,皆さんに少しそういうことの価値を御理解していただいているというような状況までなってきているというところでございます。

【熊倉部会長】大林委員,どうぞ。

【大林委員】すいません,またまた観光の話であれなのですが,今,続けて宿の話が出たのですけれども,やっぱり宿というのは大事なポイントで,ただ,数があるだけではなくて,チョイスがあるというのがすごく大事で,そういう意味では比較的,京都とかはチョイスが結構いろいろあるのですね。物すごいハイエンドから物すごく安くても泊まれると。もっとも先週末はアパホテルでも5万円取ったらしいですけども。そういう特殊なシーズンは別として,一般的にはすごくチョイスがある。
 もう一つ大事なのは,食。最近,アジアのお客様なんかに聞いていても,やっぱり食文化に対して物すごく貪欲なので,今度,泊まるだけではなくて,おいしいものが食べられるというようなこともポイント。だから,奈良があれだけ国宝,文化財がありながら,本当に泊まるところがない,食べるところがない,結局大阪とか京都にみんな泊まっていくという,極めてもったいないなと。
 一方で最近京都では宿坊ですか,お寺とホテルが提携して,お寺に泊まったりというようなこともやったりとか,それから逆に,もっと本当に町家を改装して泊まれるようにして,あるいはすごく安く泊まれるようなところもある。
 東北なんかも,将来的に水産業とかいろいろなこともあるのですけれども,やっぱり観光で食べていかなければならないところがいっぱいあると思うのですが,地産地消でおいしいものを出して,それですごく安く泊まれる,でもこぎれいで,とにかく女性のお客様も行きたいと思うような,そういうところがやっぱり増えないとと思うのです。
 そういう意味で,姫路はこれだけのランドマークがあるわけですから,もう少しうまくネットワーク化する,横にネットワークする,それから中でもいろいろな人たちがいろいろな形で泊まれる,あるいは食べられるような工夫をすると,もっと皆さん行くのではないかなと思っています。

【熊倉部会長】すいません,時間もございませんで,今日,せっかくお忙しい中いらしていただいて,御発言も頂いていない委員もいらっしゃいますので,順に一言ずつ,できれば簡潔に御質問か御感想など頂いて,それに対してお二人から一言ずつお返事を頂いて,本日は閉会とさせていただこうと思いますが,こちらからずっと行きますと,柴田委員,いかがですか。

【柴田委員】文化GDPの拡大というお話から,今日,お三方のプレゼンをお伺いして感じたことなのですけれども,文化資源で地域経済を活性化させていくということはとても重要ですし,それは推進していかなければいけないことだと思うのです。プレゼン内容に共通することとして,やっぱり人,人材です。人材が共通にあったかと思います。地域でいろいろな事業なり,コーディネートをできるような方々をどういうふうに育成していって,確保していって,雇用に結び付けるかという,その人材育成が非常に重要だなと。やはり人が中心になって,みんな物事が成り立っていると感じました。
 そういう意味からいうと,文化GDPの拡大のペーパーの中に,人材育成とか人材確保とかの内容がちょっと薄いことを感じてしまいまして,一番最初の事務局の御説明とお三方の説明に乖離(かいり)があるかなということを率直に感じました。
 というのは,1億総活躍社会に向けてというペーパーを大臣が書かれているのですけれども,その3本の矢の真ん中にすぐれた人材育成というのが書かれているのです。ですから,やっぱり人材を核にして経済を動かす,文化芸術を動かすということで持っていかないと,何か数字が独り歩きしていってしまうということを感じました。人材育成の重要性というものをもう少しペーパーの中に落とし込んでいただければ,すごく有り難いかなと感じました。
 以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございます。育成というか,北川さんのお話にも雇用ということがありましたし,衛さんがあれだけ細かく各方面にアプローチをされて,一体何人のスタッフでやっていらっしゃるのかどうか,第4次基本方針の中の重要なテーマである,この文化の分野での雇用ということ,専門人材の配置ということについて,今日,本当はもうちょっと細かいところを伺いたかったなという気がいたしますが,馬渕委員,いかがでございますか。

【馬渕委員】皆さん,いろいろな努力をなさって,文化財の活性化に努めていらっしゃるというのはよく分かったのですが,非常に簡単なものが片方にあって,それは何かというと,NHKの大河ドラマの舞台になるとどっと人が押し寄せるという,一方でそういうフィクションに基づいた,歴史フィクションなのでしょうけれども,そういうストーリーに基づいた動員のやり方というのはあって,私はそれが一体どのぐらい続くものなのだろうかと非常に不思議に思っているのです。
 ただ,やはりそれが人を動かしてしまう力を持っていることも事実だと思いまして,そういう大河ドラマ頼りにならないストーリーを,しかもそれが長続きするような,そういうストーリーを地域で築き上げていくというか,そういうことがどうやると可能なのかなと考えているだけなのですけれども,例えば私は上野の美術館におりますので,あの辺の上野のいろいろなストーリーを見ていると,本当に歴史が重層化して,文学もあれば,彰義隊の滅亡もあれば,もちろん以前に寛永寺の発展とか,いろいろなストーリーがあり,そして昭和なりの物語もあって,いろいろ重層した歴史があるのですけれども,それをどうやって使うのかというと大変難しいのです。
 ですから,何かそういう土地が持つ時間と,それから様々なそういったストーリーを方法論的にどなたかうまく整理していただくと有り難いなと思っているのですが,そういう人々を,観光資源というのは変ですけれども,人々がそこに行って,その土地の何かを感じたいと思うような,そういう動機付けみたいなものがやはりあると,行ってみたい,そこで体験してみたいということになるのだろうなと思うので,私なんか瀬戸内は本当に成功した例だと思います。非常に不便ですよね。船の時間に遅れるともう次の島に行けないという,そういうとんでもないスリリングな経験をしながらも,でも,行って,やっぱりそこにいろいろなタイプのアートがあって,そこにいろいろな人が来て,村の人が番をしているわけですね。
 ですから,そういうものを作り上げるのは本当に大変だったと,もうお帰りになってしまいましたけれども,そういう時間と手間を掛けて作られたものを,全国いろいろな形で作っていくといいかなと思いました。
 ありがとうございます。

【熊倉部会長】ありがとうございます。山出委員お願いします。

【山出委員】BEPPU PROJECTの山出です。
 今日,お三方のお話を伺いながら,人ということが最終的に私も柴田さんと同じように思うのですが,それともう一つ,やはり文化がある島,横串になっていくというか,そういうところを改めて考えさせられました。先ほど兵庫の村上さんからDMOのお話もちょっと出ていたと思うのですけれども,文化庁さん,観光庁さんとも包括的な連携をされるというようなこともありますが,これからやはり文化が果たす役割というのは,観光の部分的なところよりも,衛さんがおっしゃるような,もう少し包摂的な考え方でもって,いろいろな各省庁とも関係し,連携していくような在り方を是非考えるべきではないかなと改めて考えました。
 それを国の中で大きくしていくという形も非常に重要ではありますが,やはり基礎自治体をはじめ,各自治体の様々な取組を積極的に支援していくような考え方がこれから時流として求められるのかなと改めて感じました。
 すいません,感想までですが,以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございます。
 三好委員,いかがでしょうか。

【三好委員】ありがとうございます。今日のお話を聞いていて,やはり数値化というのは非常に重要なポイントだと思っています。ただ,逆に北川さんがおっしゃっていたように,ただ数字を出せばいいというものではなくて,きちんと活動の実態が分かるものでないと,多分数値化する意味がないなと思っています。
 そういう意味で,最初に文化庁さんが文化GDPを出されたというのも,これまでの考え方からするとかなり踏み込んだものだというふうに,一応,評価はします。が,かつて,GDPで物を計るのはやめて,豊かさ指標にしよう等いろいろな話が出てきて,結局その豊かさ指標というものも何となく中途半端に,みんなが勝手に言って終わってしまったという苦い経験もあるので,ということも踏まえるならば,やはりGDPとか豊かさというだけではなくて,正に今日,衛さんからソーシャル・インパクト投資という,正にこれは芸術文化にとって本当にこういう観点できちんと数値化してその効果を計っていくというのは非常に重要だと思っておりますので,すいません,私,不勉強で余りこの内容を深く承知していないというか,今の状況を余りよく承知していないので,できれば,これをいわば芸術文化の公的な指標として,政府,民間が共通に使えるような指標になっていくような可能性があるのかどうか。もしそういうことが期待できるのであれば,是非それをこの文化政策部会でももっと御議論いただいてもいいのではないかと思いましたので,その辺の可能性を教えていただければと思います。

【熊倉部会長】では,湯浅委員,お願いします。

【湯浅委員】時間もあるので,短くなのですが,本日,三つの事例は非常に参考になったのですけれども,そもそも文化庁さんの方で文化GDPという新しい言葉を使いながら,数字を出されている背景というのは,やはり国が経済成長とか経済効果を政策的に押す中で,文化芸術セクターとしてもそういった系譜を出さなければいけないというのが背景にあるということですよね。
 その場に,先ほどずっとここの話の中で,経済だけではない大事な効果があるというのも一つなのですけれども,こと,経済効果というものが分かりやす過ぎる,経済というのは数字で1回出してもすごく危険があると思うのです。というのは,大きな,いろいろな産業の中で文化芸術の規模を出すというときには,かなり戦略的に数字を作るというか,まとめる必要があると思っています。
 エポックでも,クリエイティブインダストリーという1990年後半からマッピングをされて,初めてそこで経済価値というのを出したのですけれども,今そこから20年近くたつ中で,当時の13セクターのクリエイティブインダストリーも狭過ぎて,実際のクリエイティビティーというものが効果があるセクターというのが実は計れていないということで,より包括的なクリエイティブエコノミーというような概念,言葉が非常に使われていて,当時入っていなかった,例えばゲーム産業とかコンピューター産業,クリエイティビティーが関わるものは非常に多いのですね。
 今,ここで文化芸術資源を一層活用することによりと書いてありますけれども,文化芸術資源のインパクトというのは,今ここの数字で出されているものというのは,結構限定的な感じがするのです。一生懸命数字を作って,1.2%と書いてありますが,私は感覚的にもっと多いはずだと思うのです。日本も今ナレッジエコノミーになっていますから。
 その中で,この文化芸術というと,文化GDPという言葉を使っていますけれども,クリエイティブな分野に関わる経済の波及効果を出すときには,例えば日本が強いゲームもそうですし,ファッション,デザイン,そのほか音楽もそうですし,非常に大きく見ていかなくてはいけないのではないかと思うので,今,目標数字が出ていますけれども,これを政策として目標数字にするのであれば,現状把握については幅広い,特に今ずっと文化遺産のお話もあって,この創造,伝統文化とか芸術資産というものの経済価値を計る非常に大きなエクササイズだと思いますので,もう少しここのそもそもの現状把握については時間を掛けた方がいいかなと思いました。
 というのも,昨日,イギリスの中でも今こういう議論があるのですけれども,日本の大学のいろいろな部を出た方の生涯賃金のデータが出たのです。そうなると,やっぱりどうしても文化芸術部を出た,文化芸術系の大学を出た人が一番収入が低いというのが数字で出ているのです。ということは,今の経済状態の中,その学部に投資する意義があるのかという議論になってしまうかもしれないのです。それだったらもっと工学系に投資しようと。
 でも,そこで,昨日1日,ロンドン芸術大学の方と一緒だったのですが,そうではなくて,クリエイティブな人材を輩出することの社会の価値というものを,今,分かりやすく出さなければいけないのです。ということで,この経済効果を出すというのはすごく大事なのだけれども,とても注意しないと,かえって自分たちの足をすくわれることになるかなと。
 経済効果は割と簡単に,それでもやりやすいのではないか。それよりも難しいのは,例えば衛さんがやっていらっしゃる事業のような,又はほかの人たちの事例もそうなのですが,人々の健康に関わることだったり,又は社会的な効果だったり,福祉的な効果,その一つの手法でSROIというのを使っていらっしゃると思うのですけれども,そちらのふんわりしたもの,分かりにくいものをいかに知らない方にも強く言うのかというためのスキルや戦略が必要で,一つは衛さんがやっていらっしゃるように,大学のそのほかの機関との連携も必要かなと思いました。

【熊倉部会長】すいません,延長可能と思われていた時間もオーバーしつつあるので,先ほどの数値化についての様々な懸念や大胆な方向転換に対するポジティブな御意見も頂きましたが,先ほどの御質問で,福祉などに対する社会的な投資についての有効性についてだけ,衛さん,一言いただけますか。

【衛氏】私,今,T3という会社に,私どもの先ほどの東濃高校の事例を投げて,これは研究に値するかどうかということを質問して,いけるという話で,研究会に参加しようと思っております。
 最近のように,四半期資本主義みたいな,短期的な経済効果を求める社会風潮からは恐らく文化というのはそぐわないですね。その意味では,30年,40年後にどういうことが起こるのかということをきちんと科学的に算出するという意味では,私は非常に着目していますし,研究が始まってまだたった五,六年しかたっていないのです。これは一緒に協働しながら文化に携わる人間としては是非ともやらなければいけないことだと思っております。

【熊倉部会長】ありがとうございます。
 申し訳ありません,15分近く延びてしまいました。質疑応答のゆっくりとした時間が確保できずに,皆様,大変申し訳ございませんでした。今期は,せっかく出ていただいた方々は,是非1回は御発言いただきたいと部会長として目標にしていきたいかなと思っておりますので,その辺も含めて,プログラミングに関して事務局にも御配慮いただければと思います。
 次回からはもうちょっと事務局と密に連携をして,準備をしていければなと思います。
 最後に,事務局から連絡事項をお願いいたします。

【三木企画調整官】事務局から説明申し上げます。すいません,お一人お一人の話が非常に興味深いのに,3人の先生方に詰め込んでしまいまして,本当に申し訳ございませんでした。
 次回ですけれども,5月27日を予定しております。文化プログラムについてですので,また次回もよろしくお願いしたいと思います。
 本当にありがとうございました。

【熊倉部会長】それでは,第1回を閉会したいと思います。
 皆様,どうもありがとうございました。

── 了 ──

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