文化審議会第15期文化政策部会(第2回)議事録

平成29年6月26日

【髙田企画調整官】失礼いたします。おはようございます。

事務局から配布資料の確認をさせていただきます。本日は紙の資料となっております。

座席表の次のページに議事次第がございますが,それぞれ配布資料1から6まで,また,机上資料といたしまして,答申について参考という形で付けておりますので,御確認いただき,もし,ないようでしたら,お近くの事務局職員まで御連絡いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【熊倉部会長】資料は大丈夫でしょうか。

それでは,改めまして,皆様,おはようございます。

ただいまより今年度の第2回の文化政策部会を開催させていただきたいと思います。本日も御多忙のところをお集まりいただき,誠にありがとうございます。

先日,文化芸術振興基本法が改正されまして,これまで策定していた「基本方針」を「基本計画」と改める必要性が出てまいりました。このため,6月21日に開催された文化審議会総会において,松野文部科学大臣から文化審議会へ「文化芸術推進基本計画」の策定に向けた諮問が行われました。今回は,この諮問に関することを中心に事務局から御説明を頂き,それについて審議をしてまいりたいと思います。本日も,是非とも活発な御議論をお願いできればと思います。

それでは,早速,議事に入ってまいります。

まず,議題1として,文化芸術推進基本計画の諮問について,早速ですが,事務局より関連資料の説明をお願いしたいと思います。その後に引き続きまして,議題2の文化芸術振興基本法の改正についても,事務局より資料の説明をお願いしたいと思います。質疑応答は議題1,2をまとめまして御説明を頂戴した後に行いたいと思います。

それでは,事務局,お願いいたします。

【髙田企画調整官】失礼いたします。

それでは,私から資料1から3までまとめて説明いたしまして,その後,資料4につきましては,基本法の担当から説明させていただきます。

まず資料1を御覧ください。

6月21日に松野文部科学大臣から文化審議会に対して行われた諮問でございます。「文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な在り方について」,副題として「『文化芸術推進基本計画(第1期)』の策定に向けて」というものでございます。

めくっていただきまして,次,このたび諮問することになった理由が書かれております。

ざっとかいつまんで御説明いたしますが,初めに文化芸術振興基本法が改正されたということで,その背景などについて御説明しております。制定から約16年が経過したことや,オリンピック・パラリンピックを控えていることですとか,昨年,文化審議会で答申されたことなどについて背景説明をさせていただいております。

また,その後,今回の文化芸術振興基本法の改正の趣旨,そして改正内容について御説明いたしております。ここの部分につきましては,後ほど基本法の担当から御説明いたしますので,詳細は省略させていただきます。

次のページの中ほどに,こういった改正を踏まえまして,特に今回の改正の内容でこれまで,文化芸術に関して基本方針というものをこれまでこの審議会で定めていたわけでございますけれども,今回,基本方針に代えて推進基本計画というものをより総合的かつ計画的にこういった文化芸術施策を推進するために設けるということで諮問を行うということが書いております。

また,今回の計画作りに当たっては,これまで4回にわたり基本的な方針が作られてきましたし,また,昨年,答申も頂きましたので,そういったところで出ている種や芽などについても留意しながら,特に以下の事項3点を中心に審議をお願いしたいという内容が書かれております。

1点目でございますが,「文化芸術施策の推進に当たっての望ましい体系の在り方について」というものでございます。より計画立てて実施していくために,文化芸術施策をどのようなまとまりや体系,骨格とすべきか,また,それに基づく文化施策の推進体制の在り方,例えばこれまでアーツカウンシルとかそういったものを進めてまいりましたけれども,国や地方のそういった推進体制の在り方などについても併せて御検討いただければと考えております。

また,今回の法改正に基づきまして,文化庁の機能強化ですとか京都移転といったようなことについても留意いただくとともに,適切な目標や指標などの設定にも留意して御審議をお願いしたいというものでございます。

2点目でございますが,次のページで「新たに追加された『文化芸術に関する基本的な施策』の推進について」,特に御審議いただきたいということでございます。

これは,今回の基本法の改正の中で,新たに「食文化」でありますとか,「芸術祭の支援」だとか,そういったもの,あるいは「人材育成」とか「高齢者・障害者の支援」などについて,より中身を書き下した改正が行われております。そういったことを踏まえて,振興策を御議論いただくとともに,これらも含めた文化芸術振興施策と,その関連施策の有機的な連携をいかに高めていくかというようなことについて御審議をお願いするものでございます。

また,今回の法改正の背景といたしまして,文化芸術をより広く捉えて総合的に進めていこうというのがございますが,文化芸術の振興活用について,文化芸術そのものの振興だけではなく,より社会・経済を作り上げていく,発展させていくというような視点で,様々な価値を文化芸術の継承・発展・創造にもつなげていくという好循環を生み出していこうと,そういったようなことについても御議論いただければというものでございます。

3点目が,「2020年及び2020年以降を見据えた遺産(レガシー)の創出について」というものでございます。

御承知のとおり,2020年,東京オリンピック・パラリンピックがございますが,一方,この後説明するいろいろな各種政府の閣議決定された施策の中で,2020年までを文化政策推進重点期間として進めていこうというものがございます。そういったようなことも踏まえて,また,前回第4次答申としてまとめていただきました「文化芸術に関する答申」は2020年までを目標に作ったものでございますけれども,今回,基本計画を策定するとなりますと,通常,基本計画は5年程度をめどに実施するものですので,間に2020年が入るということで,そういった点についてどのような適切な目標なり計画を作っていくのかということについて議論をお願いしたいというものでございます。

最後に,この3点のほかに,今申し上げましたような「経済財政運営と改革の基本方針2017」など政府で決定されているその他の決定事項にも留意しながら,今年の秋をめどに中間報告,年度内をめどに答申することを目指して審議をお願いするというものでございます。

恐らく今年の秋の中間報告は,この1,2,3のうちの主に1の部分の骨格を固めていくというような内容を目指していくもので,その後,年内・年度内を目指して中身を固めていくというようなイメージで進めていきたいと考えております。

続きまして,関連資料として資料2と資料3を御説明いたします。

資料2につきましては,今,最後の方で申し上げました関連する政府の決定文書について,文化部分について抜粋したものでございます。

まず,「経済財政運営と改革の基本方針2017」ということで,これは毎年6月をめどに来年度の予算の要求に向けて,特に重点を入れるべき事項などについて政府として出していくものでございますけれども,その中で,まず外国人の受入れなどの関連するところで日本語教育の充実などについての記述がございます。

また,「新たな有望成長市場の創出・拡大」のところに「文化芸術立国」というパートを設けていただきまして,その中で,「『文化経済戦略』を策定し『稼ぐ文化』への展開を推進するとともに,政策の総合的推進など新たな政策ニーズ対応のための文化庁の機能強化等を図る」ということで,改めてここに文化庁の機能強化などについて記述させていただいております。

また,先ほど申し上げましたように,「2020年までを文化政策推進重点期間として位置付け,文化による国家ブランド戦略の構築と文化産業の経済規模(文化GDP)の拡大に向け取組を推進する」というようなことなどが記載しております。

その他,これまで文化庁として非常に重要と申し上げておりました子供の体験・学習機会の確保ですとか人材育成,障害者の文化芸術活動の推進,文化プログラム等々につきまして,ここで記載をさせていただいております。

めくっていただきまして2ページは,ここは戦略的な輸出・観光促進などで,いわゆるクールジャパンなどのことについて,上の方のパラグラフなどで記載させていただいております。

また,この2ページの後段で観光関係の部分の記述でございますけれども,そこで例えば古民家等を活用したまちづくり,日本遺産をはじめとする文化財等の景観のすぐれた観光資源を保全・活用し,地方への誘客につなげるなどの文化財を活用した観光などについての記述がございます。

3ページ,オリンピック・パラリンピックの記述で,文化プログラムですとか,あるいはアイヌの博物館ですとか民族共生象徴空間の整備だとか,そういった記述がございます。

3ページの一番下は,いわゆる文教施設等の集約化・複合化,優良事例の横展開等の推進などについて記載がございます。

4ページ,5ページでございますが,ここは,先ほどのものは「骨太の方針」でしたけれども,今回は「未来投資戦略」という別のところの閣議決定でございますが,ここでも同じようなことでございますが,以下に記述がございます。

ここでは著作権の記述が新たに入りまして,権利制限規定等の整備などの記述がございますし,また,4ページの下の方で,ここも古民家とか文化財のさらなる効果活用の促進,文化財所有者・管理者からの相談への一元的な対応等を行うセンター機能の整備,文化財保護制度についての見直しなどの記述がございます。

5ページ,著作権の規定がございますし,また,真ん中あたりで日本語教育の充実などがございます。

6ページ,7ページ,ここにかなりまとまって文化の記述がございます。ここは,先ほど申し上げました観光資源として文化財を活用する話ですとか,そういったことについてかなり詳しめに書いている記述がございます。例えば,そういった多言語解説の取組を1,000か所ですとか,幾つか数値的な目標も掲げてここに書いてございます。博物館・美術館などの記述も具体的に書いております。

7ページにつきましても,そういった記述が具体的に書いてあります。7ページの2ポツ目あたりでは,「学芸員の質的向上や高度プロデューサー人材等の育成をはじめ,多様な人材の戦略的な育成・確保を図る」ですとか,三つ目のポツで「ユニークベニュー」や「バーチャルリアリティー」「クローン文化財」など,そういったような記述も少し詳しめに書いております。

7ページの丸2のあたりでは,「上野文化の杜」等をモデルとした文化クラスターなどを創出して,面的・一体的な整備を進めようとか,アーツカウンシル機能の連携・強化など,これまで文化庁が進めてきた政策なども記載しております。

真ん中で「文化プログラム」ですとか,四つ目あたりで国際交流のところ。実は丸2の一番最後の二つのポツについては,今回,法律が通らなかったのですが,実は国際文化交流の祭典,又は障害者の文化芸術活動の推進に関する二つの議員立法が実は計画されておりまして,いわゆる文化芸術振興基本法が全体の基本の法律と考えれば,これが国際交流だとか障害者芸術活動を進める各論を振興する法律みたいなものが検討され,今回の国会では通らなかったのですが,いずれ通る可能性があるということで,この二つの記述については少し厚めに書いております。

8ページ,9ページにもそういった記述がございますが,特に9ページの最後の部分です。ここに京都移転に関連することが書いております。この記述の後半の方に,平成29年8月末をめどに本格移転の庁舎の場所を決定する,文化庁の機能強化及び抜本的な組織改編を検討し,これに係る文部科学省設置法の改正案等を平成30年1月,来年の通常国会をめどに提出するなど,全面的な移転を計画的・段階的に進めていく,といったことを記載しております。

以上が,この6月に出された政府関係の各種決定の文化関係の抜粋でございます。

次に,資料3に移りますが,これは既に文化芸術振興基本法の改正に先立って,今回の諮問より前に,既に主に文化財分科会宛てに諮問した内容でございます。「文化財の保存と活用の在り方について」というもので,5月19日に松野文部科学大臣から文化審議会に諮問を行いました。

これについては,先ほど幾つか既に6月に出た政府の決定文書の中に,文化財の保存・活用の在り方についていろいろな記述がございましたが,それを先取りして,既に検討を進めていこうということで行われているものでございます。

別紙にその理由が書いてございますが,具体的には以下の事項を中心に御審議をお願いしますということで,(一)に3点ございまして,1点目が「これからの時代にふさわしい文化財の保存と活用の方策の改善」についてということで,2段落目に「特に」ということで書かれてございますが,「指定された文化財の保存と活用をより計画的に進めるための取組」ですとか,「周辺地域を含めた文化財を取り巻く環境も一体的に捉えた施策の一層の推進」でございますとか,専門人材,具体的施策や制度改正などについて御検討をお願いするものでございます。

二つ目が,「文化財の持つ潜在力を一層引き出すための文化財保護の新たな展開」ということで,これも最後に「特に」と書いてございますが,文化財の復元や高精細レプリカの展示・管理など新たな科学技術等との融合,美術館・博物館等の機能強化と基盤整備,地域振興,観光振興との連携などについて幅広く御検討をお願いするというものでございます。

最後が「文化財を確実に継承するための環境整備」ということで,これについては,特に保存技術や技能についての伝承者養成,そのほか,用具や原材料等の確保などについて,そういった点についても検討をお願いするというものでございます。

今,こういったことが文化審議会全体に対して諮問という形で行われているものでございます。

私の説明は以上でございまして,この後,基本法についての改正内容について説明いたします。

【井上文部科学戦略官】失礼します。基本法担当の戦略官をしております井上でございます。よろしくお願いいたします。

それでは,文化芸術振興基本法の一部を改正する法律が先般の通常国会で成立いたしまして,実は先週金曜日にちょうど公布・施行されたものでございますので,それにつきまして御説明をさせていただきたいと思います。

資料4-1が概要になります。そして,資料4-2,大変失礼しますが,これは下の方の「現行」と書いてありますのが改正前,先週の金曜日の前の条文でございまして,「改正案」と書いてあります上の方が改正後,先週末に公布・施行されました改正後の文化芸術振興基本法の姿でございます。概要に基づきまして御説明をさせていただきますが,適宜,新旧等も御覧いただければと思っております。

まず,文化芸術振興基本法でございますが,これは文化芸術の振興についての基本理念を明らかにしまして,その方向を示しているということ,また,総合的に推進するための基本的な法律となってございます。これは2001年,今から約16年前でございますが,超党派の音楽議員連盟,これは当時,超党派の音楽議員連盟,現在は文化芸術振興議員連盟と申しますが,それが企画いたしまして成立したものでございまして,今回の改正に当たりましても,文化芸術振興議員連盟が中心となりまして,1年以上にわたる検討を進めまして,今国会に全党一致で賛成により成立したものでございます。

具体的な改正の趣旨について申し上げます。資料4-1の一番上を御覧いただければと思います。

今回の改正におきましては,文化芸術の純粋な振興,いわゆる芸能でございますとか,メディア芸術とか,そういうものにとどまらないで,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業,こういう関連分野の中に様々な文化芸術の施策が含まれております。そういうものも今回の文化芸術基本法の範囲に取り込んでいこうというものが1点目でございます。

そして,もう一つ,趣旨の2点目は,このような文化芸術により生み出される様々な価値,この中に経済的な価値だけではなく,例えば社会的な価値でございますとか公共的な価値,様々なすばらしい価値があると思いますが,それを次世代の文化芸術の継承・発展・創造に生かしていこうという,この2点を趣旨といたしまして改正が施されたものでございます。

具体的な改正の概要は以下のとおりでございまして,第2のところにございますが,具体的に1番目として,こういう形で範囲を広げたということもございまして,「文化芸術振興基本法」という名前を「文化芸術基本法」という形で改めますとともに,前文ですとか目的についても,いろいろな改正をしております。

また,基本理念といたしまして,2番目にございますが,具体的には例えば年齢,障害の有無,又は経済的な状況に関わらず等しく文化芸術を鑑賞することができるような環境の整備をしていこうと。今までも「地域に関わらず」というのはございましたが,今後は「年齢,障害の有無,経済的な状況に関わらず等しく」というようなことも加わっております。

また,我が国及び世界において文化芸術活動が活発に行われる環境を醸成していこうというのも基本理念でうたっております。

更に3番目として,児童生徒等に対する文化芸術が極めて重要であるということも踏まえまして,そのための様々な施策を講じること,さらには4番目として,文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつも,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業,その他の各関連分野の施策と文化芸術の施策とを有機的に連携させていくような規定が基本理念として追加されているわけでございます。

それに基づきまして,今回,諮問させていただいて御検討をお願いしておりますことでございますが,今までの文化芸術振興に関する基本的な方針に代えて,政府においては文化芸術に関する政策の総合的かつ計画的推進を図るための文化芸術推進基本計画を定めることになっております。

さらには地方公共団体においても既に文化芸術の様々な基本方針がいろいろ定められておりますが,まだまだ市町村レベルだと定められているところは少のうございます。そういうことも踏まえまして,地方公共団体においても,地方文化芸術推進計画を国の計画を参考にして定めていくように求めているところでございます。

更に4点目として,基本的な施策の拡充ということで,条文の中に様々いろいろな施策が書かれてございますが,その中で幾つか拡充をしているものがございます。例えば,一つ目として,芸術,メディア芸術,伝統芸能,芸能の振興につきまして,「物品の保存」でございますとか「展示」,「知識及び技能の継承」,「芸術祭の開催」を追加しております。さらに,伝統芸能の例示に「組踊(くみおどり)」を追加しているところでございます。

また,二つ目として,生活文化の例示に,これまでの「華道」「茶道」「書道」とともに「食文化」を追加するとともに,普及のみならず振興を図るということを明確にしているところでございます。

3番目として,地域の文化芸術の振興は非常に重要でございますので,ここに地域で行われているような「芸術祭への支援」を追加しているところでございます。

そして,四つ目として,国際的な交流の推進ということで,海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示への支援等,さらには文化芸術に関する国際機関で業務に従事する人材の養成及び派遣,日本の方がなかなか少のうございますので,そういうところで働く人材を養成したり派遣したりするというようなことも追加しているところでございます。

更に人材養成ということで,芸術家の養成及び確保に関する必要な施策として,国内外における研修に加えて,教育訓練への支援も新たに加えたところでございます。

このような多岐にわたる施策を推進するために,文化庁のみならず,関係省庁等の連携を進めるために,今回の改正法では新たに文化芸術に関する推進に係る体制の整備として,「文化芸術推進会議」という規定を置いております。具体的に新旧対照表の18ページをお開きいただければと思います。

新旧対照表の18ページの上のところにございますが,「第四章文化芸術の推進に係る体制の整備」というところで,見出しで「文化芸術推進会議」で「第三十六条」とございますが,政府は,文化芸術に関する施策の総合的,一体的かつ効果的な推進を図るため,文化芸術推進会議を設け,文部科学省及び内閣府等々その他の関係行政機関相互の連絡調整を行うものとする,とされておりまして,このような会議は地方公共団体にも教育委員会知事部局をまたいで設けているところもございますが,地方公共団体においても条例に基づいてそういうことができるというような規定も設けているところでございます。

最後に,改正法の附則になりますが,27ページをお開きいただければと思います。今回の改正に当たりまして,多岐にわたる文化芸術に関する施策を総合的に推進するため,文化庁の機能の拡充等の検討を政府に求める規定を附則の第二条で置いてございます。「政府は,文化芸術に関する施策を総合的に推進するため,文化庁の機能の拡充等について,その行政組織の在り方を含め検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされているところでございます。

これらが本改正の趣旨,内容でございます。文化庁におきましては,公布後速やかに本改正法の施行通知を各地方公共団体,文化芸術団体等に周知をいたしまして,この改正文化芸術基本法の趣旨の浸透を図りますとともに,関係省庁とともに先ほど申し上げました文化芸術推進会議を早期に立ち上げるなど,改正法の趣旨を踏まえた文化芸術政策を総合的に展開してまいりたいと考えております。

また,地方公共団体におきましても,この改正法の趣旨を踏まえた取組が展開されるよう,必要な情報提供を行ってまいりたいと考えているところでございます。

以上でございます。

【熊倉部会長】ありがとうございました。資料1から4まで御説明いただきました。

それでは,質疑応答,意見交換に入りたいと思います。各委員から,今の御説明,新たな法律に関する御質問あるいは御感想でも結構ですので,今回の諮問に関して本日は是非皆様方から大所高所からの御意見を頂戴して,今後,この夏開催されていく,後ほど述べますがワーキングの作業につなげてまいれればと思います。いかがいたしましょうか。

手を挙げていただきました亀井委員。

【亀井委員】文化財分野に関わっている亀井でございます。

文化芸術基本法ができたことは大変すばらしいことだと思います。従来の枠にとらわれずに日本政府が中心となって全体的に文化に取り組むという姿勢がこの法律で表れていると思うのですが,その中で国はもとより地方も基本計画を立てることが書かれています。国が基本計画を立てるのはいいのですけれども,地方が基本計画を立てる段になって,国が定めた基本計画の趣旨に従って定めるという方向がもし出ますと,日本の文化は地域,地域によってものすごく千差万別であり,変化に富んだものがありますので,それらがうまく生きるような文言を入れた形で立案いただければと思います。

つまり,金太郎あめになるような基本計画では駄目で,そうではなくて,各地域にこれまで固有に展開してきた様々な文化,芸術があります。それらが更に発展できるようなやり方,仕掛けを,是非,国の基本計画の中に織り込んでいただきたいというのが1点です。

あと,私は文化財の方の委員もやっていますが,大臣からの諮問を受け,活用を中心とするやり方,人材育成,それから幾つかの視点についての検討をすることが求められています。それらについては真剣に議論しますけれども,その成果を基本計画の中に織り込めるようにタイムスケジュールをうまく合わせていただきたいというのが2点目の意見でございます。

以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

文化財も新たな考え方での保存・活用ということに関して,たしか昨年度,亀井委員から,実はもろもろ環境的に大変危機的な状況にあるというような御意見もいただいていたところです。是非,文化財の方の審議の進捗状況ですとか論点なども,こちらの文化政策部会にもお伝えいただいて,共有していければと思います。

次に井上戦略官。

【井上文部科学戦略官】ありがとうございます。

1点目の地方文化芸術推進基本計画につきましては,新旧対照表の8ページを御覧いただければと思うのですが,法律におきましても,すみません,多岐にわたりますけれども,法律におきましても,地方の計画はあくまで地方分権に基づきましてそれぞれでと考えておりまして,七条の二の7行目なのですが,「文化芸術推進基本計画を参酌して」と。この「参酌して」とは,いわゆる参考にしてということ,あくまで参考でございますので,それぞれ,どう作るかはそれぞれの地方公共団体に任されている,委ねられているということでございます。

【亀井委員】分かりました。

【髙田企画調整官】補足いたしますが,7月5日にこの基本法を含めて地方向け説明会を開催いたしますので,今,亀井委員がおっしゃられた趣旨なども明確に示したいと思いますので,それに対応したいと思います。

【熊倉部会長】是非お願いいたします。条例などに関しても,後発の自治体でも文化庁の振興基本法,国の振興基本法にかなりなぞっているものもあれば,かなり独自路線を行っていらっしゃる自治体もありますし,各地でそれぞれ特色のある計画がますます策定されていくことが望ましいと思います。

次の方,どなたかいらっしゃいましょうか。順番に回した方が心が落ち着きますか。どうしましょうか。

松田委員。ありがとうございます。

【松田委員】先ほど亀井委員から文化財のお話が出ましたが,私も文化財よりはもう少し広い文化遺産を研究している立場から,追加の質問をさせていただきたく存じます。本日の議論の中心テーマは,文化芸術基本法の方だとは理解しつつも,もう一つの諮問,「これからの文化財の保存と活用の在り方」についてもごく簡単に確認させていただきたいです。

この文化財団関連の諮問の内容は,おそらく文化財分科会でこれから検討していくものだと推測しております。うわさで聞いた限りでは,やはり文化財保護法の改正を念頭に置いた諮問だと思うのですけれども,これのタイムラインについてお伺いできますでしょうか。

「1年ぐらいで法律改正を目指す」というようなうわさも聞いておりますので,そちらのタイムラインと合わせて文化芸術推進基本計画も考えねばならないように思います。この文化財関連のタイムラインがあるようでしたら,あくまでも予定で大丈夫ですのでお伺いしたいです。

【山崎文化財部長】文化財部長の山崎と申します。

今御指摘の件につきましては,資料3にありますように5月19日に大臣から諮問が行われまして,それを受けて文化財分科会に企画調査会というものを設置して,6月1日からもう既に審議を始めております。

今後の予定でございますが,年内には取りまとめを行って,できますれば来年の通常国会に文化財保護法を改正することを見据えて精力的に審議を行うという予定にしてございます。

【熊倉部会長】吉本委員にマイクをお願いします。

【吉本委員】今回の法律の改正で文化芸術がいろいろな領域に効果があるのだということを盛り込まれたのは,非常に大きな一歩だと思います。この部会でも,文化芸術を振興するだけではなくて,もっと幅広い視点からという議論が出ていたと思いますので,本当に大きな一歩でよかったと思います。

その上で,あえて留意すべきと思われることを発言させていただきます。この法律の中にいろいろ例示されておりますけれども,教育,福祉,まちづくり等に文化が効果があるのだということなのですが,逆に,そこのところばかりにスポットライトが当たり過ぎると,例えば観光に役立たない文化は意味がないとか,それから,芸術本来の意味,あるいは芸術本来の価値が損なわれることはないと思うのですけれども,法律を丁寧に読めばしっかり書き込まれていると思うのですが,どうしても例えばこの文化の振興をすると観光に役立って地域経済が潤うとなると,そちらの方が分かりやすいので,どうしてもそっちに流れていく傾向があるような気がいたします。

ですから,これから作っていく基本計画においては,恐らく「基本計画」という名前から,ある種の工程表とか,目標とか,KPIとか,そういうものも盛り込まれるのだと思うんですけれども,そのときに,文化の領域以外の効果の部分と,そもそも文化芸術を振興するという両方が,バランスよく盛り込まれていく必要があるのではないかと思いました。

それから,体制についても,文化芸術推進会議が設置されるということなのですけれども,これは政府の組織として作られるということなのですね。そうすると,こちらの文化審議会文化政策部会と推進会議との関係がどうなるのかという点について教えていただけたらと思います。それと法律の最後の附則の第二条に,「文化庁の機能の拡充について,その行政組織の在り方を含め検討」とございますが,これは従来からこの部会でも議論が出ておりました,いわゆる「文化省」のようなものも視野に入っているのかどうか,そのあたり2点,御質問させていただきました。

【井上文部科学戦略官】まず1点目で,従来の文化芸術との関係でございますが,これについては,これを企画されました議員連盟の中でも大変議論がされているところでございました。

やはり,これまでの文化芸術の振興はきちっと従来以上に推進していかなければいけない,ただ,その上で,観光,まちづくり等,国際交流等の様々な施策と連携させるようなことによって,新たな経済的価値だけでなく,社会的価値,公共的価値を生み出していこうというようなことでございます。

具体的に条文におきましても,例えば新旧の5ページを御覧いただければと思うのですが,5ページの「国の責務」のちょっと前,二条の10項なのですが,ここは文化芸術に関する施策の推進に当たっての基本理念を書いているものでございますが,そこにも3行目のところで「文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ」と書いてございます。これは,まさに今までの当然ながら文化芸術の芸能でございますとか,メディア芸術,芸術の振興,そういうものはきちっと振興していかなければいけない,その上で,観光,まちづくり等々の分野と有機的な連携を図っていこうということを明らかにしたものでございます。

また,文化芸術推進会議についてですが,これは政府に設置されます関係省庁との連携会議でございます。この詳細については,今後,検討されることになると思いますが,具体的に法律の中で書かれておりますのは,新旧対照表の7ページ,この文化芸術推進基本計画につきましては,七条の3項で「文部科学大臣は,文化審議会の意見を聴いて,計画の案を作成する」となっておりますが,その第4項のところで,文部科学大臣は,この案を作成するときにはあらかじめ連絡調整を図るということで,今回の基本計画は文化芸術の振興のみならず観光とか国際交流,他省庁にまたがるところがございます。そういうところを実効性があるような形で計画を作るために,あらかじめ関係省庁とこの会議で調整をさせていただいて,政府としての計画を閣議決定していこうということでございます。

最後に,附則第二条でございますが,これは新旧対照表の27ページにございます。先ほど申し上げたとおり,文化庁の機能の拡充,こういう文化芸術の振興のみならず,観光等の関係施策を総合的に推進するためには,やはり文化庁の機能の拡充が必要だろうということでございますが,それとともに,その行政組織の在り方を含め検討を加えるということになっております。

これは,御承知の方がいらっしゃるかもしれないですが,議員連盟の中で「文化省」を五輪の年に設置しようという話がございます。こういう行政組織になりますと,これは政府全体の中で検討しなければいけませんので,今後どうなるかは分からない部分があるのですが,そういう思いも込めてこういう条文にしているということは承知をしているところでございますが,まずはこの施策を総合的に推進するためには,やはり文化庁の機能の拡充が必要だろうということで,そこについては検討結果に基づいて必要な措置を講ずるということがされているところでございます。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

ほかにいかがでしょうか。

石田委員,どうぞ。

【石田委員】よろしくお願いいたします。音楽分野から参加している石田でございます。

今回の法律の改正は,非常に大きな期待があるとともに,若干,心配な点もあります。

それは何かと申しますと,この計画をこれから作っていくに当たって,その文言に対する解釈をきっちりしていかなければということなのです。

先ほど説明のありました資料3の文部科学大臣から文化審議会への諮問に関する別紙理由「これからの文化財の保存と活用の在り方について」(一)の最後の3行にある言葉は非常に印象深いと思っています。「多様性」とか「取り巻く環境をも一体的に捉えた」と,一体的に施策を推進するのだと言った上で,「専門的人材等の育成・確保や組織の在り方など…検討」と専門性というものにもきちんと着目するんだぞという姿勢がきちんと示されているわけですね。

先ほど吉本委員が,効果がない文化芸術は切り捨てられるのではないか,そんなことをおっしゃったと思うのですけれども,そういうことにも我々は気を付ける必要がある。それから,「一体的な」とか,「総合的な」という言葉で,いろいろな文化芸術の,「継承・発展・創造」が,「観光」「まちづくり」「国際交流」といったいろいろな大きな視点と一緒に語られていくのだろうと思うんです。が,1点ここで私が特に申し上げたいのが,芸術系大学で人材育成をしている身として,専門人材の育成というのは本当にジャンル間それぞれ特有の方法もありますし,難しさもありますし,それから世界的な流れもあります。そういったものも十分に念頭に置いた上での議論が必要であること,更にこれからの基本計画の策定,それから数値目標の作成,そういったことをやっていく必要が絶対必要だろうと思っております。

それから,文化芸術の「継承」「発展」「創造」というこの三つの文言ですけれども,これもどういうふうに行っていくものが「継承」なのか,「発展」なのか,「創造」なのか,ここに「物品の保存」などということも実際書いてありますけれども,その「保存・継承」という言葉ではなくて,「継承」ということだけがここに書かれているのはなぜなのかというようなこと。いろいろ思いはめぐります。

とにかく私が申し上げたいのは,専門性ということに関しても一定の配慮をもって計画を作っていきたいということです。

【熊倉部会長】ほかにいかがでしょうか。

河島委員,ありがとうございます。

【河島委員】「最近の政府の重要方針における」という資料2の方ですが,こういった政府の全体の大きな会議の中で,いろいろと文化の持つ役割が注目されるようになって,取り残されないできちんと政府の大きなところに入っていっていることはとてもいいと思います。ただ,こういった首相官邸の会議ですよね,そういったところにこちらの文化戦略・文化政策関係でどなたのインプットがあるのかというところがちょっと分からないのですけれども,やはり少し私たちの理解とずれているところが何となくあるのです。石田委員がおっしゃったことも大事な1点だと思いますし,何か少し違うなと思うところがありまして,一つだけ指摘させていただきます。

資料2の中の7ページの上の方で,このあたりずっと下線が引いてあって,私たちに関係する大事なところだと思いますが,二つ目のポツで「学芸員の質的向上や」と書いてあります。学芸員の質が低いと,たしか去年,どなたかの問題発言があったと思いますけれども,それ以外,質が低いということが問題なのですかというのを言いたくて,そうではないと思うのです。

むしろ学芸員がすべきことができない環境が現実にはあると言われていますし,それから,ここで言っていることは質的向上ではなくて,学芸員に新たな役割を期待したいという話だと思うのですけれども,それは現実的にどうなのかと。

ここで言いたいことは,文化芸術資源を従来の学芸員という枠組みではなく,新たな発展形を考える,そういうプロデュース人材が必要だよねという話だと思うのです。そのあたりがこういう書き方をされてしまうと,現状で,学芸員の方々の質が低い,というように読めます。こういうふうにいろいろと文化芸術を積極的に地域の開発に活かそうですとか,それからブランディングに使っていこうとか,観光資源とも連携させていこうと,とても積極的に捉えるようになったことは好ましいことなのですけれども,こういった会議へのインプットの仕方をもう少しこちら側からきちんと言わせていただきたいということがありまして,そのあたり,どういう連携になっているのですか。今度新しくできる文化経済戦略会議というところでは,きちんとそういうことが,発言なり,文書のチェックなり,いろいろな情報交換とか,そういうコミュニケーションがとれるような仕組みになるのでしょうか。

【髙田企画調整官】政府関係文書の取りまとめに当たっては,先ほどのところは我々と別のパートのところが取りまとめたのですけれども,ここは我々が中心になって取りまとめています。ただ,最後の最後になって,非常に文言圧縮要請がすごいものが来ていまして,すみません,細かい話になって恐縮なのですが,で,「等」で読めるからどんどん短くしていこうという感じで,結構書き下して書いていた部分が短くなってきている部分もございます。

おっしゃるとおり,学芸員の部分については,まさに同じような考えなのですけれども,結果的にこういう短い文章になっておりますが,ただ,折衝に当たっては,一応,我々と特に問題になるような箇所──問題になるというか,初めは向こうと我々でペーパーでやりとりしているのですけれども,そのうち,ちょっとここは対面できちんと話をしなければいけないということについては,直接行って御説明して,そこで一緒になって文言を調整していくというような形はとっております。

また,文化経済戦略チームにつきましては,もう少し大きな観点から幅広い議論をしておりまして,ここのいわゆる文言調整ということになりますと,まさに我々みたいな者が対面しながら,ああでもない,こうでもないと言いながら調整をしているというのが実態でございます。

【熊倉部会長】ですので,基本的には文化庁の皆さんが,こうした様々な委員会などでの有識者からの知見を基に一生懸命折衝していただいているので,こういうふうに細かく言っていくことは重要ということですね。分かりました。

でも,政府のものになると,どうしてもお金の方に傾きがちになるところを,我々の方で常に是正して,揺り戻していく必要はあると思います。

三好委員。

【三好委員】ありがとうございます。

基本法の改正には,昨年の答申を丁寧に踏まえて,かなりの内容が盛り込まれたと思っておりますので,これを具体的にどうしていくのかが基本計画ということになっていくと思います。

その基本法の中で教えていただきたいのは,「第二十九条の二」という「調査研究等」が新しく条文として追加されました。これも昨年の答申では議論されて書かれた内容ですので,これ自体は非常に好ましいことだと思いますが,その上で具体的なこととして二つお伺いしたいのです。一つは,この調査研究のための「必要な施策を講ずる」が,既に何らか予定されているものがあるのか,あるいは,基本計画などの中で議論した上でこれから準備をしていくということなのか,今段階でどの程度見通しがあるのかをまず伺いたいというのが1点です。

もう一点は,これも細かい表現なのですが,文言の遣い方で言うと,第二十九条の二の1行目が「文化芸術に関する施策の推進」,これはほかでも使われている言葉なのですが,その次の行に,「文化芸術の振興」という言葉がここだけ突然に出てくるのです。「振興」はほかではほとんどなくなっているにも関わらず,ここだけ「文化芸術の振興」という言葉を残したのは,何か意図があるのかという,その2点を教えていただきたいと思います。

【山田文部科学戦略官】今年度から佐々木先生も加わっていただいておりますけれども,京都に地域文化創生本部を設置いたしました。そこで,これまで以上に文化政策に関する調査研究を推進するということで,予算が800万円弱,微々たるものなのですけれども新規に付けまして,それでスタートしているところでございます。

そういったことがこれまで取り組んだものということでございますので,今後,その成果を生かしつつ,更に拡充・発展させていくという方向なのかなと思っております。

あと,研究者については,これまで佐々木先生お一人だったのですけれども,今年度から2名増やしまして3名の体制ということにしてございます。

【井上文部科学戦略官】もう一つは,この規定の趣旨でございますが,やはり文化芸術の振興に当たって,当然,前回答申いただいたように調査研究は非常に重要だと。一方で,文化庁の調査研究機能が弱いと。ほかの諸外国と比べてもそういう点があるというような議論も議員連盟の中でございまして,それで今後,観光やまちづくり,国際交流等の関連施策も含めた文化芸術に関する施策を推進するためには,まずは文化芸術の振興,純粋な文化芸術に関する振興に必要な調査研究,芸能とかそういう部分についての調査研究と,あと国内外の情報徴集,収集,整理及び提供,そういう部分をしながらやっていく必要があるだろうということでこの条文ができたと承知をしているところでございます。

従いまして,その他の必要な施策でございますので,条文上は何でもできるということでありますが,やはり文化でございますので,文化芸術の芸能でございますとか芸術,メディア芸術等々の文化芸術の振興,純粋な部分についての必要な調査研究は今後とも重要だということでこういう条文になったと承知をしているところでございます。

【熊倉部会長】佐々木先生,何か。

【佐々木委員】もうちょっと後で発言しようと思ったのですけれども,名前が出たので,今のところについて少し意見を述べたいと思います。

今回,こういう形で調査研究を更に充実して「新・文化庁」という内実を作ろうということは,とても第一歩としてはいいと思っていますが,御承知のように,文化庁50年です。それで,本格的な政策官庁を目指すという上で,これも大きな課題だけれども,本格的な文化白書を出していくとか,あるいは,第4次基本方針にあったように文化政策研究所を独立的にというか確立していくということが,テーマとしては大事だと思っているのです。そこまで書き切れなかったというもどかしさは一方で感じているところなのです。

したがって,それは恐らく先ほどの附則ですか,見直し,あるいは「文化省」への道筋,こういった中においては,より具体化していただきたいと思っています。

それから,山田戦略官が言われましたけれども,研究者としてはこれまで私は関わっていないので,ゼロからパートタイマーが3名になったということで,専任の方がおられるわけではないので,本当の第一歩の半分ぐらいという感じ。もう少し大胆に踏み込んで,このあたりは拡充していきたいと思っているところです。

以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

三好委員も,鋭い御指摘をありがとうございます。ここの部分もちょっと第4次基本方針及び昨年度の緊急提言における私ども文化政策部会,半分ぐらい今日も新しい方がいらっしゃいますが,の意向と確かにちょっと違うところで,私どもは文化芸術の調査研究が必要ないとは確かに誰も言いませんでしたが,より必要なのは,政策研究が全く未着手であるということを再三指摘をしてきたつもりですので,確かにやや残念なところで,今,佐々木委員から,まだまだ推進体制も少し爪先が出たぐらいだという御報告を頂きましたが,でも,おいおいどのような調査研究を進めていかれる計画なのかなどに関しても,今後,御報告を頂けるものと期待をしておりますが,ほかの委員の皆様方。

秋元委員。

【秋元委員】4月から新しく加わった秋元といいます。美術館で仕事をしています。

ちょうど先週,大学美術館・博物館の全国会議がありまして,その中で基本法の話も出ました。現場の学芸員の受けとめ方としては,何か新しい仕事がまた加わるらしい,それはどうやら観光ガイドのようなものらしいというふうな,半ば冗談ですが,悲壮な受け止められ方をしていました。現場に話が伝わるうちに,それぐらいはしょって話が来るということであります。

現場からすると,人員や予算削減とか,全体としては決して美術館博物館にはいい状況ではないわけで,文化財が大事にされている感じはしないけれども,しかし,観光資源としては注目されてきていて,何かそういった観点からは活用だけはしなければいけないのだというふうな受けとめ方でありました。

観光資源として眠っている文化財を活用し,海外の方も含め多くの方に理解いただくということは,大変すばらしいことだと私も思います。その中で,食や映画とか,先ほど石田委員もお話しされていましたけれども,エンターテイメント産業とか,狭い意味での芸術だけでなく,様々な文化を幅広く扱っていくということも大事だと思います。また,定義も改めてかなり幅広い視点から行っていく必要が出てくるでしょう。芸術文化を捉え直していくという試みも重要だと思います。アカデミックな側面からの視点といいますか,それが大切だと思います。

もちろん文化の有効性,有用性という視点から,経済的価値とか,観光とか,まちづくりとか,いろいろな効果を持つわけですが,活用が単なる消費になっていくのは大変危険なことなので,文化財はあくまで資源であり,それ自体は大切に保存されなければならないという前提に立って,活用を検討する必要があると思います。消費財化してはいけない,それについてはくれぐれも注意していく必要があるだろうと思います。

もう一つは,今,世界的に見て一番関心が高く活発に動いている現代美術については,もっともっと前面に出していってもいいと思います。世界の共通言語は現代美術ですから,世界との距離を縮め,コミュニケーションを深めていくという観点から,日本の現代美術を活用していいでしょう。伝統文化や漫画などに対しては,アピールすべき日本文化というイメージを持っていますが,同様に現代美術もそうだと考えてほしいと思います。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

ほかに御意見,いかがでしょうか。

では,赤坂委員から先に。

【赤坂委員】すみません,先に話させていただきます。

僕は,福島県博の館長という立場で地域の博物館の実情をお話ししながら,ちょっと意見を述べさせていただきたいのですけれども,基本法だと二十六条,二十七条あたりが「博物館」という言葉が出てきて,関係があるのですけれども,ここは15年前とほとんど変わらなかったのだなという思いがいたしました。

しかし,現実には,この15年間で地域の,とりわけ博物館の置かれている環境は激変しています。予算規模で言うと,恐らくうちだけではなく,ほぼ全ての県立博物館が半分の予算になっていると思います。特別展示の,あるいは調査研究の費用,そこに予算の配分が限りなくゼロに近い状況に追い込まれています。外部資金を導入することなしには特別展示すらできないような状況がもう常態化,当たり前になってしまっています。激変しているにも関わらず,ここは何も加わっていなかったのだという思いを,ちょっと僕は痛みをもって感じていました。

それから,学芸員の質的向上,僕は必要だと思っています。向上というか,質的転換というか,再検証というか。

つまり,僕らの周りでは福島県博がそうなのですけれども,30周年を昨年迎えました。県博クラスはそのくらいが多いのです。そのときに,博物館を造った人たちが,そのまま来ていまして,今,端境期で交代しようとしています。僕はもういろいろなことをこの10年間やってきましたけれども,やっぱり古い,予算がふんだんに与えられていた古い博物館の運営に関わっていた学芸員スタッフは,やっぱり頭が固い,はっきり言うと硬い人たちが多かった。だから,いろいろなものが変わることに対する忌避・拒絶が多くて,結構,苦労しました。

今,端境期であるということを上手に使いながら,学芸員とは何なのか,30年前の学芸員と今の学芸員とは役割が違うのではないか,社会的ミッションが違うのではないかという議論を当たり前にきちんとしていかないと,変わることができない。

その中で,例えば僕らの博物館は,震災後に一つは震災遺産,震災によって変わっていく文化や芸術をどういうふうに継承していくのかということをすごくやりました。それからもう一つは,文化庁の支援もいただいたのですけれども,文化や芸術をめぐる人材育成やネットワーク作りといったことを,博物館であるにも関わらず徹底してやってきました。

そして,これは分かりやすい形でお話ししますけれども,博物館の評価指標は,いまだに入館者数なのです。入館者数がかつて10万人を我々はずっと維持できていたのですが,今は6万人です。激変しています。議会で追及されたり,きっとします。

でも,ちょっと待ってください。我々は,震災遺産やら文化芸術のネットワーク作りといったところで,すごくいろいろなことをやってきました。外に出る,あるいは移動博物館,京都や,水俣や,いろいろなところで震災関係の展示をやったりする。その人数を合計すると,参加してくれた人たち,3万人ぐらいいます。でも,入館者数というたった一つの評価指標の中にそれが組み込まれていないために,「おまえら,何をやっているんだ」ということになってしまう。

つまり,博物館とは何かということを根底から考え直す。単に参加プログラムを充実させるというのではなくて,博物館とは何かという根底からの議論,その中で博物館はどういう指標をもって評価されるべきなのかということをやっぱりしてもらわないと,実は震災遺産とか文化芸術のネットワーク作りということに一生懸命動いていた学芸員スタッフは,博物館の中ではずっと迫害視されていました。そんなことは学芸員の仕事じゃないよと,そういう抵抗がずっとありました。もちろん変えてきました,少しずつ。そうじゃなくて,博物館のこの社会的なミッションがこんなに変わってきた中では,そういう新しい動きが必要なのだという議論もしてきました。

そういうのを見ると,「学芸員の質的向上」という言葉,反発はもちろん食らうと思うし,反発されるのが当然だと思いますけれども,変わらなければいけない部分は変わらなければいけない。そして,今,実は,そういう端境期で,変わっていくためのチャンスでもあるといったことを,ちょっと考えていました。

ですから,博物館とはこれからどういう姿をもって社会に対して,人々に対して,向かい合っていくのかということをどこかできちんと議論をしていくべきだと思います。

そんなところです。

【熊倉部会長】ありがとうございます。博物館の議論が続きましたが,柴田委員,お待ちいただいて,田辺委員,長谷川委員,そのあたりはいかがでしょうか。

【田辺委員】ありがとうございます。

私は,地方自治体の美術館に勤める学芸員ですので,いろいろと思うことはあるのですけれども,「美術館・博物館・図書館等の充実」ということで二十六条,二十七条に関しては赤坂先生のおっしゃったとおりで,少しこれを基本とするとしても,もう少し丁寧に詳細を考えていくべきところだし,求められるものは,もうこの前と今とでは,結構,違っていると考えております。

それからもう一つ,美術館では,教育普及というところも重要視されてきていますけれども,二十三条,二十四条あたりは,内容がほぼ変わっていないと思われます。このあたりも,今,これから将来にわたって文化芸術活動をサポートしていくような人材を育てていくことが大事かと思っております。

ということでは,学校教育における美術とか芸術に関する教科書ですとか,主要5科目に偏りがちな教育の在り方とか,そういったところも是非これから枝分かれする議論の中で深めていっていただければと思います。

それから,「学芸員の質」ということですけれども,そもそも学芸員の資格を取るのが非常に簡単というか,大学で授業を取り,そして我々美術館に実習に来るということで取れるのですけれども,実際に学芸員になることができるよりもはるかに多くの資格を取る人がいて,こちらの採用する側も,学芸員の資格があることだけではとても採用には至らないということが現実としてあります。

それから,昨今では,やはり教育普及ということで学芸員が期待されているところも大きくございますので,そのあたり,美術であれば美術の専門的な内容を深めるということと,それから教育普及に関してもある程度分けて人材を育成することも必要になってくるのかなと思っております。

それから,文化財の委員の方も参加させていただいているのですけれども,先日のヒアリングで言われたのは,文化財を所有している人,特に個人の方,保存に関して費用がないという非常に厳しい現実があるように伺いましたので,そのあたりも何か対策ができればと希望しております。

以上です。

【熊倉部会長】では,続いて長谷川委員,お願いいたします。

【長谷川委員】改正案は大変いろいろ考慮されていて,的確に問題点を反映されていると思います。

基本的に私の方で,先ほどの16ページの第二十九条の二で「文化芸術に対する施策の推進を図るための調査研究」のところで,これは実際的に政策研究ということが中心となっていることを明記していただきたいという希望があったと思いますが,このことについて恐らく多くのケーススタディーがあって,先ほどもあったように,観客とか観客の持っている情報の摂取の状況ということも随分違ってきております。

今までのように自動的にいろいろな文化施設から情報を摂取してくるようなタイプの自動的な観客は減ってきていて,多くの人たちが積極的に文化的な情報にエンゲージするという方向になっている。時代が非常に変わっているところで,恐らく今の成功例であっても,非常にそれが有効であるかどうかということで,この調査は非常にある意味で複雑なというか,現状に合わせたアップデートされたものであることが必要で,そこの方法論を明確にする必要があるのではないかと思います。

もう一つの十五条のところ,11ページなのですけれども,言及していただいている「国際交流等の推進」,これは非常に今,私がやっておりますグローバルのキュレーションコースでも重要なポイントだと思うのですけれども,一番海外の関係者と話しておりまして欠落しているのは,「海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示」ということがございます。

これは,展示だけではなく,基本的な情報そのものが圧倒的に不足しておりまして,これは学術振興の方になるのかどうか分からないのですけれども,ここはやっぱり文化というこの範囲の中でのことなのか,それとも学術振興全体のことなのか,つまり,どういう情報が関心を持って必要とされているかという,海外の展覧会の需要例及び研究者のいわゆる今,論文を全部上げておりますので,どういうところの情報をより求めているかということについて,立体的な大学諸関係と併せて研究をしておき,かつ,それを展覧会実施及び様々な研究発表のサポート等で,この言語化のサポートをもう少し実体的に考えていただきたいところではございます。

これは,この項目だけに限らないのですけれども,全般に関して情報リサーチということについて,もう少し精密な実態調査と,それに合ったいわゆる経費の掛け方ということが重要ではないかと考えます。

【熊倉部会長】ありがとうございました。

先ほどの御説明のどこかに,もうちょっと専門的な人材の派遣というような文言があったような気もするのですが,日本文化,特に現代文化の紹介も,基本的には国際交流基金の所掌かとは思いますが,何せ日本の例えば現代美術を紹介できるような専門的人材が圧倒的に配置数においては不足をしている現状と思われますので,その辺も必要なのではないかという気がいたします。

「学芸員の質的向上」といいますか,もうちょっと新たな役割が求められているということの認識を,秋元委員のお話を伺うにも,それをポジティブに捉えて闘っていこうという気力を発する暇もないぐらい忙しいという状況かと思います。

赤坂委員から御報告いただいた予算の削減ということに関しても,地方美術館もかなり厳しい状況だと思いますが,第4次基本方針で最も議論された,要は労働市場としてブラックであると。圧倒的に雇用数が足りていないという,こういった雇用状況,労働環境の改善,この人材の育成はいいよと言っているのですけれども,その後の「確保」という一言に,ここに反映されているのかなとかすかな期待を抱きつつも,予算面でも人員面でも,今の長谷川委員のお話にもありましたが,もうちょっとマーケッティング的な観客の需要の仕方を鑑みて新しいプログラムを,いわゆる作品の保存や調査研究に中心的に携わる,従来の学芸員とは違う立場の様々なスタッフがこれからの文化機関には必要で,赤坂委員がおっしゃったように,もっと地域全体の社会インフラを構築していくという大きな役割が期待されていると,そのあたりのところを残念ながら二十七条あたりにもうちょっとはっきり書いておけばよかったなという気がしますが,我々が作ったのではないので,その辺は基本計画で言及していくしかないかなと思いますが。

まだ御発言を頂いていない委員の皆様方。

柴田委員,すみません,お待たせいたしました。

【柴田委員】失礼いたします。

改正案を拝見させていただきまして,文化の範囲を広げていただいたこと,新しい文化への投資の考え方,今まで光が当たってこなかった生活文化への配慮など,よいポイントが盛り込まれておりまして,一定の評価をさせていただきます。今後,この法律をどのように我々が活用していくかということが非常に重要なのではないかと感じております。

政府から出された「未来投資戦略2017」6ページにKPIの目標が掲げられています。2025年までに文化GDPを18兆円に拡大することを目指すと。2015年で8.8兆円ですから,それが2025年に約倍以上になるわけです。

オリンピックが2020年にありまして,その後,25年までに5年間あるという中で,果たしてこの18兆円の目標を達成することができるか,非常に疑問であり,懸念があります。

数字が独り歩きしてしまうという,目標が目的になってしまうという懸念を私は抱かざるを得ない。この目標を達しようとするがあまり,本来の目的が見失われてしまって,先ほどから議論が出ているような文化芸術の本来的価値が見失われ,便益的な価値が優先してしまうという事態にならなければ,いや,ならないようにしなければいけないということを現場の我々は承知しておかなければなりません。

文化GDPですが,インバウンド,共生社会の構築,文化財で観光振興という三本柱は,中長期的な計画で進めていかなければいけない,すぐ成果があらわれるものではありませんので,長い目でこの文化GDPを捉えていきたいと認識いたします。

そういう中で,同じく未来投資戦略の中で7ページの「地域活性化・ブランド力向上」の1ポツ目にあります「国・地方のアーツカウンシルの機能の連携・強化」,これは非常に重要な役割を持ってくるのではないかと認識しております。私も日本版アーツカウンシルの機能強化の一スタッフとして,非常に重責を感じているところであります。

本年1月末に地域版アーツカウンシルの方々のヒアリングをしていただいたわけですけれども,2020年以降の地域版アーツカウンシルの地方自治体における取組がどの程度まで本腰を入れて,腹を据えて実施していただけるのかが,今ひとつ心配な点であります。

日本版アーツカウンシルにおきましても,平成30年度は新旧入替えの端境期にあります。業務量が非常に多くなっておりますことも事実です。PD・POの常勤者の確保,事務方の増,そういう財政的な措置,人的な配置等々をしっかり行っていく必要があると思います。

このような意味においては,この諮問1の中で「体系化」と「体制」重要ですね。それから2020年以降が課題だと思います。しっかりこの部会で意見交換をし,ワーキングでも議論を深めていかなければいけないだろうと,考えております。

この基本法の改正の背景には,日本社会の産業の構造の転換が図られていないという点,それから社会保障費が増大してしまっている点,これをどうやって抑制していったらいいのか,そういう中で一人一人の幸せ度というか幸福感というものがなかなか実感されていないという,そういう背景があると思います。

ですので,低い経済成長ではあるかもしれませんけれども,その中でどうやって充実を図っていくのがいいのか,文化芸術の持続可能性をどういうふうに進めていけばいいのか,政府の方では「働き方改革」が,今,議論されておりますけれども,文化芸術は人生に直結するものでありますので,「文化芸術による生き方改革」として議論できたらいいと思います。

以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございました。

お隣の篠田委員,お願いいたします。

【篠田委員】私,15年ほど前までは新聞記者,今は首長という立場で発言させてもらうと,今回,基本的に文化芸術に関する基本的政策を拡充して,「食文化」「芸術祭」「人材育成」「高齢者・障害者の支援」を追加したと,これはすばらしいと思います。特に「食文化」を一番先に出してくれたということは,私はすごくいいことだと。

新潟,地方で見ていると,文化芸術を狭く捉える方が結構多くて,十数年前はその一番の勢力は学芸員ということだったわけですけれども,私どもは,文化芸術ってそんなに狭いものじゃないよねと。

今の立場で言うと,まちづくりを考えるときに,必ず歴史,地形,これが土台にあると思っているわけですけれども,その歴史,地形,それを具現化すると,「暮らし文化」が出てきて,その暮らし文化の中で最も分かりやすいのが食文化であると思っている立場ですと,こういう暮らし文化,食文化みたいなところを学芸員の人が語れるはずはないよねと,語れる人もいるかもしれないですが,語るべき範囲だと思っている学芸員は余りいらっしゃらない。

でも,地域のまちづくりをやっていくときに,そういうところで暮らし文化を語ったり,実践したり,あるいは分析される人がいると,すごくまちづくりが進化していく,あるいはネットワークが広がりやすいという部分があるように感じていて,この部分をこれから誰が担っていくのか,ここが私ども,まさにそこの人材を育成する必要があると考えています。

あと,よく芸術祭に何億円も使うなら福祉に金を回してくれと,こういう議論が新潟でも,あるいはいろいろな地方でもまだまかり通っていて,それに負けないためには,経済効果が幾らですとかを説明しないと認めていただけない,あるいは何となく無駄遣いしているという雰囲気にとられてしまって,せめて文化度・文化力みたいなものを計る指標が非常に脆弱(ぜいじゃく)だと。

例えば日本総研がやっていらっしゃる47都道府県,今は20政令市も幸福度調査をやられていて,そこに文化分野もあるのですけれども,昨年,20の政令市も初めてその幸福度調査を出していただいて,新潟市は幸福度調査は真ん中ぐらいなのですけれども,文化分野では20市の中で最低だということになっているのです。

どんなものが文化分野を計る指標になっているのだというのをちょっと聞いたら,年間の書籍購入額,教養・娯楽支出額,常設映画館数などで,これ,みんな,金を払っている文化じゃないか,地方は消費文化ではなくて,むしろ創り出す文化の方に参画している。例えば地域の神楽,ここの仲間になっているよとか,そういう指標が全然ない。

これは,日本の豊かさ,日本の幸福度を計っていく上で,文化芸術による満足度,あるいはシビックプライドみたいなものが,指標としてないのかなと。そのとき反論するために文化庁の方に聞いたら,なかなか日本総研に反論するいい指標が見いだせなくて,これから日本総研と共同研究させてもらいたいという,そんなレベルなのですけれども,そういう首長の立場で言うと,この法律概要の第1「趣旨」の2番目ですが,「文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承,発展及び創造に活用すること」と,これは我々からいうと,「文化芸術の継承,発展につなげ,地域の創造に資すること」とか,我々は「地域創造」が一番の目標なので,この並列じゃないんだよなというのが,私の市長としての立場です。

「食文化」あるいは「高齢者・障害者の支援」,これを追加したということで,佐々木先生から御指導いただいている創造都市を目指すと。では,創造都市とは何なのですかと市民に聞かれたときに,誰もが生涯学び続けられるまちですとか,もっとかみ砕くと,誰もが生涯楽しみ続けられるまちが創造都市なのだと申し上げている立場とすると,ここに「高齢者・障害者の支援」を入れていただいたのは,大変すばらしい,有り難いということで,最後は感謝申し上げます。

【熊倉部会長】確かに文化GDPの中に,市民の消費ではなくて参画ですとか,そういう指標を入れていかないと,もうからないものは要らないということになってしまうかもしれませんが,毎回同じことを言うかもしれませんが,その意味で,新潟市さんの「水と土の芸術祭」,市民参加部門の方がもしかしてクリエイティブなのではないかという様相を呈している珍しい芸術祭のような気もいたしますし,そうした従来の学芸員の所掌の中では解決できない問題に関して扱う資料を作って取り組んでいらっしゃるのではないかと考えております。

予定の時間なのですけれども,まだ御発言いただいていない委員の皆様方からも是非一言と思いますが,では,まず紺野委員,どうぞお願いします。

【紺野委員】一言だけ。

今,最後に篠田新潟市長がおっしゃったことと同じように,基本理念の改正内容,「年齢,障害の有無又は経済的な状況に関わらず」うんぬんという部分を入れていただけて,大変有り難く思います。

といいますのも,常日頃,地方等で演劇や朗読公演の現場で,まさに文化芸術の格差があるなと感じることが多いです。例えば朗読公演などの無料公演にしても,空席が多少あることがあるのです。そういった場合に,なかなか実演を見る機会のない方々,学生さんですとか,高齢者の方,障害のある方に対して優先的に招待ができるような,そういったシステムがあればいいなといつも思います。特に目の不自由な方,朗読でしたら,十二分に楽しんでいただけると思いますので,そういった方たちも御招待できればいいなと思う機会が非常に多いです。

ですから,こういった形で基本理念に入れていただいたこと,大変有り難いと思いますけれども,あわせて,現在,地方自治体で行われているこういった文化の格差をなくすための具体的な取組であるとか成功例などを,一般に対して情報発信,情報共有ができるようにしていただけると,大変有り難いと思っております。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

本郷委員。

【本郷委員】本郷です。

教育普及の話が出ましたので,美術教育というところで一言だけお話しさせていただきます。配布の文書のあちこちに書いてある「子供たちへの芸術体験」という言葉を見ますと,義務教育での芸術教科の削減傾向という問題を思い起こします。これは私が,長年取り組んでいる問題の一つでもあります。

これだけ文化が大事だと言われているにも関わらず,なぜ学校教育では芸術教科が「削減傾向にある」のでしょうか。これには,文化政策の在り方というところで1回目の会議でお話しさせていただいたように,各省庁や各専門部門がどのように連携し,文化施策として取り組んでいくかという課題でもあり,大事なところだと思います。配布文書には「子供たちの芸術体験」は表記されていますが,「義務教育との連携」という言葉ではないようです。

美術教育を例に挙げますが,美術館での教育普及は,これからますます盛んになっていくと思います。学校によっては地域の美術館等との連携を積極的に進めて取り組んでいる例も見られます。実際に連携を進めていくと,学校教育の中での美術教育と,美術館での教育普及活動での鑑賞教育やワークショップ等との関係が問題となる場合が出てきます。

学校現場での授業時間数は限られていますので,教育課程で主要な強教科が大半を占め,芸術教科にとって決して十分な授業時数が確保される状況ではありません。そうした中で,子供たちの美術教育は,学校で行わなくても社会の中での受け皿,つまり美術館での教育普及活動がありますということになれば,芸術は学校教育ではなく社会教育で行った方がよいという認識が生まれます。実際に,そのような発言を聞くことがあります。

しかし日本の芸術文化は,社会教育だけでやっていけるのか。義務教育段階で芸術教科が位置づけられていることは,すべての子供が学校教育で芸術を学び,芸術に触れる機会が得られるということです。日本の場合は「日本の義務教育課程での芸術教科が芸術文化を支えてきている」という考え方もあります。そこから考えれば,義務教育課程での芸術教科の時数削減傾向は,実は文化振興の基盤を薄くしているとも言えます。文化振興の気運を作っていくためには,特にこれからの社会を担う子供たちの芸術教育は非常に重要であると思います。その芸術教育を充実させていくためにも,文化庁と初中局がどのように連携でき,そして実際に連携するときに何ができるのか,できないかを少し検討していただけたらと思うのです。

【熊倉部会長】先ほど,内閣府をはじめ他省庁との連携推進会議の御提案がありました。それは大変すばらしいことという御意見がありましたが,確かに肝心の文部科学省との連携において,私ども,壁を乗り越えられたことがございません。なぜか気が付くと文言が消えているような気が──気のせいだったかもしれませんけれども。

でも,せめて,そうですね,基本計画の中に義務教育でのさらなる充実というようなことを入れる分には,我々の自由だろうという気もいたしました。妙案かと思いますが,再三申し上げていることで,ちょっと諦めぎみだった案件についての御指摘,ありがとうございました。

あとは川村委員,いかがですか。

【川村委員】各位いろいろなジャンルを代表してこの場に集まっているので,それぞれの守備範囲を代表した発言があるのは必然かなと思います。

結構,知り合いに省庁の方がいらっしゃって,某お金を取りまとめている省庁の方などは,何か「文化にお金を払うのはもったいないと言われるんだよね」みたいなことを平気で僕に言うんです。ひどいなと思うのですけれども。

確かに国という全体の感覚で言うと,どこにどういうふうにお金を配置するのかは,重要なポイントだと思うんですけれども,そもそも,文化チームとしてどうやって政策なり,税金なりということでしょうけれども,こちらを向いてもらうかという,チーム観の作り方みたいなものが大切なのかなと思っています。そもそもの全体のパイからどうやって取ってこられるのかというところに主眼を置いて話がある程度できたらというのを,改めて,今回の方針を見ていても思います。

もう一つですけれども,議論が,芸術かビジネスか教育か,みたいな話になりがちなのですけれども,そこの分かり合えなさというか,政策の新たな視点として「食文化」とか「映画」と書いてありますけれども,残念ながら僕の大好きなおすし屋さん,世界に誇るべき三ッ星のすし屋さんは全く国の税金を当てにしていないというか,気にもしていないですね。映画も,そういうところはあると思います。あと,僕の周りの小説家で税金の支援を期待している人は一人もいないです。

だから,そういう状況で各々が勝手にやっている,回ってしまっている。むしろ余りにもそこが関係なくなってしまっているということと,一方で,そういう国のある種支援に頼らざるを得ない,それが必要なジャンルもある。そこがまた議論を闘わしても余りしようがないというか,それぞれの必要に応じた議論をもうちょっと結び付けていく方がいいのかなというのは,今日も話を聞いていて思うところでした。

今回,盛り込んでいただいた観光庁だったりとか経済産業省だったりとかの連携は,必要に応じて,むしろ今まであまり関係なかった食とか映画は,あまり国の政策とどうつながるかということを期待していなかったので,そういうところとどう繋(つな)がっていくか。海外に対してどうアピールしていくかというときに,そういう文化庁だけではないところでの会議体みたいなものを積極的に使っていった方がいいのかなというのは,今回盛り込んでいただいた部分で可能性を感じた部分でした。

【熊倉部会長】それでは,山出委員,トリをお願いいたします。

【山出委員】もう皆さんがおっしゃるとおりだと思って,余り皆さんの繰り返しになるのでと思っていたのですけれども,まず,文化芸術基本法,大変すばらしくまとめていただいて,大変よかったと思います。

ただ,この場だからだと思うのですけれども,どうしても話が文化財であるとか,今生まれた価値を活用するという観点,これは大変重要だと思うのですけれども,そもそもまず価値が生まれないといけないと思っています。制作者というか創作者の視点でのそういう観点が余り足りないと,常々,こういう会議でやっぱり感じるのです。

特に,先ほどの教育の点でも,小学校,中学校で僕らは年間ワークショップなどをやっているのですけれども,なかなか授業も時間も取れないし,美術とかそういう芸術は余り必要ないというように感じられている教育関係者も大変多い中で,地方では特にそういう体験する場であるとか機会がすごく少ない。そういうことを考えていく中で,どうやって厚みを持つのだろうなと感じていました。

昨月海外をいろいろ回っていたときに,ちょうど今年はヨーロッパでいろいろな国際展が重なっていることもあったので,訪れてきたのですが,そこには政治的なことも含めてすごくメッセージの強い作品,プロジェクトが多く出展されていました。僕らはテープカットにも参加しましたが,そのような作品がある中で,メルケルさんがテープカットされていました。

そこでの展覧会の作品は,いろいろな国の国旗が燃やされている映像が延々と流れていくような,大変ショッキングな作品などもあって,今,世界はどうなっているんだということをアーティストならではの視点で語っている。

そもそもこれ,「芸術立国」ということをここで標榜(ひょうぼう)していくときに,もちろん観光や産業に活用されていくという観点は大変重要だし,僕らもそういうことをやっていますが,そもそもの表現の自由というか,そこをどうやって今から守っていくかということもとても重要だと思います。

どうしても今,先ほどからも話が出ている評価のことでもそうですけれども,分かりやすい評価ということが語られていくときに,なかなか出しづらい言葉や考え方を元にした作品は,国内ではどんどん発表の機会を失われているということも同時に起こっています。こういうことを,やはり芸術立国と標榜(ひょうぼう)していくのであれば,どのようにお考えになるのかということは,これから重要であるなと思います。

とはいっても,なかなかそれは一朝一夕ですぐできることではないので,やはりしっかりとした政策であるとか,文化とは何かという議論も含めて,より広く国民に対して一緒に考える機会が必要だと。その点では,京都の佐々木先生の今進めていらっしゃる機関は大変重要になると思いますので,是非そちらに予算をもっと付けていただいて,どんどん推進していただけるといいなと思いました。

以上です。

【熊倉部会長】ありがとうございます。

残念ながら,いまだに国も自治体も財布を握っている人たちは,川村委員がおっしゃったように文化芸術にお金を使うのは無駄だという言説が平気で語られることがまだまだあるという,これは自治体でも篠田委員からの御報告があったとおりです。

今回の法改正は,そうした文化芸術の振興のためだけに予算を割くということが既に社会的共通理解を得ることに限界が来ているという20世紀末の認識に基づいて,大きく社会全体に深く関係するものであるという認識を示すという点で大きな進歩だと思います。

しかしながら,それは芸術文化の道具化という大きな危険性をも併せ飲まなければいけないという側面を持っていると思います。

第2次基本方針を取りまとめる前にも,この文化政策部会の中で,表現の自由についての危機感は表明されてきました。今,山出委員のお話にもありましたが,今回の新しい法律の中で,一応,一言「表現の自由」について言及されましたことは,前回の緊急提言で私はもう次の新文化庁の役割は何ですかと,実はこれに尽きるのではないかと本当は思っていて,あちこちで「文化GDPに資する」は文化GDPの指標を考えれば何とかいいと思いますが,「表現の自由」に関して,自治体などが割と当たり前のように介入してくることが横行するようになってきていました。文化施設の現場も,それに対して全く無抵抗であるということが余りにも多すぎるような気がして,そういうところに無防備に介入すると,文化庁がすっ飛んでくるというようなふうになるといいなと個人的には思っているんですけれども,AかBか,右か左か,白か黒かみたいな議論をしていても仕方がないので,その間をどのようにこの振興計画で豊かなものに,フレキシブルな対応がみんなで創意工夫ができるようなものにしていくのかということで,今年度の我々の役割は非常に重たいかなと思いますが,でも,皆様,本当に活発な御意見をありがとうございます。本件に関しては,このあたりで終了とさせていただきます。

続きまして,「基本計画策定に向けた今後の進め方について」です。年度内の答申取りまとめというハードスケジュールに向けて,この部会においてワーキングを設置し,議論を進めてまいりたいと考えております。その設置の背景や目的,今後の進め方について,事務局から説明をお願いいたします。

【髙田企画調整官】それでは,資料5と資料6を御覧ください。

資料5に「文化審議会第15期文化政策部会基本計画ワーキング・グループ名簿」ということで,この8名の委員の方にワーキングへの参加をお願いしております。

このワーキング設置の趣旨は,前回の第4次答申ですとか昨年答申のときでも,こういった形でワーキングを設置いたしましたが,文化政策部会の皆様に議論のたたき台として,資料を提出する前に文化庁の方で資料を作成いたしますけれども,その作成過程においていろいろ少ないメンバーの中で突っ込んだ議論をしながら資料を作成して,皆様にたたき台を出すための下作業という形で,これまで文化政策部会でこういった,特に計画作りに携わられた委員に参加をお願いするというものでございます。

ここではワーキング・グループで,先ほど諮問いたしました,主に第1点,今後の基本計画の在り方,その枠組み,骨格,コンセプト,そういったようなものを中心に議論していただいた上で,次の文化政策部会,資料6になりますけれども,8月下旬あたりを予定しておりますが,そういったところで御議論をしていって,中では詰めていきたいと思っております。

今年の秋をめどに中間報告ということでございますが,その後,関係団体ヒアリングなどを通じまして,徐々に中身を固めていこうとしております。そして,最終的には年度末に答申というスケジュールで進めていきたいと思っております。

なお,今回,観光,まちづくりだとか,その他教育,福祉と,非常にかなり広範に関連分野ということで位置付けをいたしましたので,関係団体ヒアリングでありますとか,あるいは今後,必要に応じて追加委員の選任もあり得るかと思っておりますが,そういった中で,今回は改正法の趣旨を踏まえて幅広な議論を行いたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

また,今回,先ほど一番初めに亀井委員から文化財分科会の議論の反映ということがございましたが,前回の総会で事務局から各分科会や部会,あるいは文化財分科会の下にある企画調査会などでの議論も,その都度,文化政策部会の中に反映していきたいと思っておりまして,それぞれの部会・分科会で,第4次答申のフォローアップや新しく追加された事項などについてもまずは議論をお願いしたいということで要請をしておりますので,その点,お知らせしておきます。

以上でございます。

【熊倉部会長】ということでございまして,一応,せっかくみんなで頑張った第4次基本方針がございますので,これをひとつ素地(そじ)に,基本計画にどこをどう変えていったらいいのか,あるいは今日の御議論などでも,もう少し理念的な部分でも書き添えた方がよろしそうなことも出てまいりましたが,一応,というわけで第4次基本方針を作ったときのワーキングの皆様方には,是非,御参加を頂きたいと思いまして,事務局と相談いたしましてこのようなメンバーの方々に御協力を頂けないかと思っております。ワーキング,今後の進め方などに関してこのように考えておりますが,いかがでございますでしょうか。御質問,御意見などがあられましたら。

よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。

それでは,お認めいただいたということで進めてまいりたいと思います。

というわけで,本日の議題はこれで終了ということで大丈夫ですよね。皆様,ありがとうございました。

それでは,最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。

【髙田企画調整官】次回の開催ですが,まだ調整できておりませんが,調整次第,すぐに皆様にお知らせいたします。また,ワーキング・グループのメンバーになられた方については,連絡事項がありますので,熊倉部会長の近くにお集まりいただければと思いますので,よろしくお願いいたします。

以上でございます。

【熊倉部会長】というわけで,早速ワーキングの皆様と日程調整などを始めたいと思いますので,ちょっとだけお残りいただければと思います。

というわけで,本日も活発な御議論をありがとうございました。皆様の御協力で何と1分前に何とかぎりぎり収まることができました。御協力,ありがとうございます。また次回もよろしくお願いいたします。これにて終了いたします。

――了――

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