第10期文化審議会第2回総会(第51回)議事録

1  出席者
(委員)
石上委員,いで委員,内田委員,佐々木委員,里中委員,清水委員,田村委員,堤委員,東倉委員,土肥委員,西原委員,林委員,林田委員,宮田委員,山内委員,山脇委員
(事務局)
玉井文化庁長官,合田文化庁次長,戸渡文化庁審議官,清木文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,大木政策課長,滝波企画調整官
2  議事内容
○西原会長
ただいまより文化審議会第51回総会を開催いたします。本日はご多忙のところご出席いただきまして,まことにありがとうございます。
議事次第にありますとおり,本日は3つの議題を用意してございます。まず第1は「改定常用漢字表」の答申(案)についてご審議,そして採択と考えております。次に文化政策部会における審議経過についてご報告いただきます。そして,各分科会における審議の状況についてもご報告いただくこととしております。
それでは,早速,議題1に入りたいと思います。常用漢字表の見直しにつきましては,平成17年の3月30日に,「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」,諮問を受けて以来,5年余りにわたり国語分科会において審議いただいてまいりました。この間の検討状況につきましては,試案などの段階でそれぞれ総会にもご報告いただいておりますけれども,このたび答申案としておまとめいただきましたので,本日,審議・採択を行いたいと思います。
まず,お手元の配付資料にある(答申案)につきまして,林国語分科会長よりご説明をお願いいたします。
○林委員
それでは,ご説明申し上げます。
常用漢字表の改定につきましては,ただいま会長からご説明ありましたように,毎年この会で審議の経過を報告してきているところでございますが,今日は最後になりますので,これまでのことをすべてまとめてご報告・ご説明を申し上げます。
これもただいまご指摘ありましたように,平成17年3月に文部科学大臣から「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」,諮問がございました。常用漢字ができましたのは昭和56年,1981年でございまして,諮問の時点でおよそ四半世紀がたっております。その間に情報機器が発達・普及いたしまして,どんなに難しい漢字でも機器に搭載されていさえすれば自由に使えるというふうな環境が生まれました。
ちょっと余談になりますけれども,文字の歴史について2つの大事件がございました。1つは印刷の発明でございます。これによって同じ文章をたくさんつくることができるようになりました。特に読者に非常に大きな便益が発生いたしました。もう一つの大きな変化は現在進行中の情報化でございます。だれもが機器を使って同じ文字を自由に使えるようになりました。そういう新しい時代にどういうふうに対応していくかというのが,今回の見直しでございまして,そういう面で言いますと,歴史的に意味のある常用漢字の見直しだというふうに認識をいたしております。
情報化社会で重視されますのは,何と言いましても読みやすさでございます。機器を用いれば使えるからといって,あまり難しい漢字を使うと読めなくなりますし,仮名で書けば読みやすいかというとそういうわけではありません。漢字で書いたほうが読みやすい語というのもたくさんございます。日本語の読みやすい書き方にはどの程度のどんな漢字が必要か,情報化社会の実態に合わせた常用漢字の見直しというふうなものが必要になるわけでございまして,諮問もそういう方向に沿った内容であるというふうに理解をいたして,議論を始めました。
これも会長のお言葉にありましたように,平成17年からおよそ5年間,国語分科会といたしましては,同時に諮問された「敬語に関する具体的な指針の作成」と並行して議論を進めてまいりました。文化審議会の国語分科会をその間16回,漢字小委員会は42回,そして,原案を作成するためのワーキングの会議は49回,このワーキングの会は長いときには10時間に及ぶような会議をいたしましたので,ここに費やされた時間は相当なものでございます。それから,有識者,専門家を呼んでお話を伺う懇談会を3回いたしまして,合わせますと110回の会議を重ねまして,今日お手元にあるような冊子ができ上がったわけでございます。
主な審議事項は,漢字政策の在り方,それから,固有名詞の漢字,新常用漢字表の基本的な性格,漢字選定の方針,字種選定,追加字種の音訓,同訓異字の漢字の用法,追加字種の字体等々,必要な事項すべてにわたって議論をいたしました。特に重視した点でございますが,これは3点ございます。
1つは,情報化社会の実態をよく反映した漢字表にするということでございます。そのためには,調査をする文献を目的にあった文章に絞るということが重要だということでございます。もう一つは,それが刊行された時期があまり古いものは,情報化の影響がそれだけ少ないということで,ごく最近のものを用いたと。それから,こういう調査に必要な十分な量を持っているということが必要でございまして,平成16年から18年の3年間の書籍・雑誌の組版データというものを使いました。対象の総漢字数は約5,000万字,それ以外に朝日新聞,読売新聞の新聞のデータとか,ウェブサイト調査の抽出データ等も必要に応じて参照いたしました。こういうことを通じまして,情報化社会の実態をよく反映した漢字表にするという方向で努力をいたしました。これが1点目でございます。
2点目は,情報化社会にふさわしい読みやすさを重視した漢字表にするということでございます。出現頻度というのは非常に大事でありますが,その単語は漢字で書いたほうがわかりやすいか,読み取りやすいか,あるいは,仮名で書いても構わないか,そういった点の検討もこれに加えて慎重にいたしました。
第3点目は,国民に開かれた透明な議論をするということでございます。漢字表というのは,一般の社会生活や教育に非常に大きな影響がございまして,広く関心を集める事柄でございます。そういうことで,国語分科会や漢字小委員会をすべて公開といたしまして,傍聴を可能にし,議事録もホームページを通じてすべて公開をいたしました。それから,2回の意見募集を行いまして,それに基づいて原案を修正してまいりました。最後に,今年の2月でございますが,追加や削除候補の漢字を中心とした意識調査を行いまして,全国16歳以上の男女約4,100人から回答がありました。そういう意識調査を実施して,この試案の内容を確認,吟味をいたしました。
そういうことで,今日のこの冊子ができ上がったわけでございますが,ざっとその冊子をごらんいただければありがたいと思います。最初に前文がございまして,下を見ていただきますと,括弧付きのページが振ってございますが,これが23ページまでございます。
それから24ページに,ローマ数字で大きく「Ⅱ 漢字表」と書いてございます。これが表の見方を含めましてこの漢字表の本体部分でございます。これが141ページまで続いております。大体の様子をパラパラとごらんくださいませ。線を引いたところがございますが,その線を引いたところが新しく加えたり改めたりした部分でございます。
それから,141ページの次の紙をごらんいただきますと,ローマ数字で「Ⅲ 参考」と書いてございますが,通しのページ数で143ページから追加字種(196字)の表,追加字種だけの表をつけ加えてございます。
それから,153ページをごらんいただきますと,追加する字種と削除した字種がそこに書いてございます。それ以下は,変更点の一覧表等が続いております。これに沿って何点か申し上げます。まず,字種につきましては,ただいま申し上げましたように,196字を追加することといたしました。それから,今日まではあまり使われなくなった5字を全体から削除するということにいたしました。
153ページの追加する字種,削除する字種の一覧表をごらんになりながらお聞きいただければありがたいと思いますが,こういう字種を追加いたしました。例えば,「挨拶」とか稽古をするの「稽古」とか,あるいは,「軽蔑」,「破綻」,それから,臓器の中でも「腎臓」,心臓や肝臓は書けたんですが,腎臓はこれまでの常用漢字では「腎」という字が入っておりません。今回この「腎」を入れまして,「腎臓」。それから,「哺乳類」などというときには,「ほ」はくちへんの「哺」でございますが,この字が認められておりませんでしたので,やむを得ず混ぜ書きをする場合が多かったわけでございますけれども,今回こういう字を入れまして,理科の教科書等にも出てくるこういう大事な言葉については,学年が進むについてルビを付けなくてもいいということになってございます。
それから,ごく普通に使われていて,実際にはほとんどの方が知っておられる漢字というのもございまして,そういうものも追加をいたしました。例えば,代名詞の「俺」とか「誰」,それから,果物の「柿」,それから,「鍋」とか「釜」とか「丼」,あるいは「串」,あるいは,「枕」とか「餅」とか,元旦の「旦」とか,そんな字も新たにこれに加わっております。
それから,もう一つの大きな特徴は,これまで固有名詞に使う漢字はここから除外いたしておりましたが,都道府県名,あるいは,それを越える広い地域をあらわす地名の漢字は,どなたもが現に使っておられるし,教科書等にも出てくることが多いということがございまして,例えば,岡山県の「岡」とか,大阪の「阪」とか,岐阜県の「阜」とか,茨城県の「茨」とか,埼玉県の「埼」ですね,そういう字も加わっております。
音訓につきましては,28の音訓を追加いたしまして,3つの音訓を削除,それから,変更が1カ所ございます。例えば,「委(ゆだ)ねる」とか「育(はぐく)む」とか「期待に応(こた)える」などというときの「応援」の「応」という字を使いますが,この「応える」とか。あるいは,「関わる」,関係の「関」という字に「かかわる」という訓を認めました。それから,「公私混同」の「私」でありますが,これにはこれまで「わたくし」という訓しかございませんでしたけれども,現に「わたし」という訓で使うケースが多い。パソコンなどでも「わたし」と入力するとちゃんとこの漢字が出てくるという実態がございますので,そういう訓も認めることといたしました。できるだけ実態を尊重した結果になっております。
字体に関しましては,改定常用漢字の場合もそれまでと同様に,明朝体のうちの1種,印刷文字における現代の通用字体を示すという原則に立ちましたので,新しく加わってくる字につきましては,部分的に現在の常用漢字表の字体と一致しないことが生じましたけれども,これは印刷文字のことでございます。しかも,その印刷文字に関しましては,両用の字体がある場合には,これをともに認める考え方に立って現状の混乱を極力避けることといたしました。
それから,手書き字体との関係につきましては,前文に付記いたしました字体についての解説で説明をいたしておりまして,例えば「しんにゅう」等に関しましても,1点のしんにゅうで手書きの場合には統一するという方向が示してございます。
問題になった点の一つ二つを申し上げますと,一つは学校教育との関係でございます。学校教育との関係につきましては,一般の社会生活に必要な漢字は,それを選んで,それを習得していただくというふうな考え方に立った上で,学校教育における漢字指導については,これまでどおり教育上の適切な措置に委ねるということを答申案の前文にあたる基本的な考え方に明記いたしております。この改定常用漢字表の趣旨を学校教育においてどのように具体化するかにつきましては,今後,文部科学省の該当部署で検討されるということになると思います。
それから,もう一点,「障碍」の「碍」という字につきまして,障害のある方あるいはその関係の方から,うかんむりの「害」というのは非常にイメージが悪い,差別感の強い漢字なので,これを使わないようにしてほしいと。具体的に申し上げますと,いしへんに「損得」の「得」のぎょうにんべんをとったほうを組み合せた,「げ」とか「がい」と読みます,この字を入れてほしいというふうな要望がありまして,国語分科会でも慎重に審議をいたしましたけれども,結論的には,現時点で言いますと,一般の漢字の選考基準に照らしまして,追加字種としてここに加えてございませんが,政府の障害者制度改革推進本部では,「障害者」の表記等についても検討されることとされておりますので,その検討結果を待って,必要があれば改めてこれは審議するということにして,そういう形で問題を残しております。
概略,これまでの審議の内容とその結果を,ごらんいただきました冊子の中から幾つか拾ってご説明を申し上げました。
以上でございます。
○西原会長
ありがとうございました。
では,ただいまご報告いただきました内容につきまして,ご質問等ございましたら,お受けいたします。どうぞ。
よろしゅうございますでしょうか。とりわけて何か特別にないようでございましたら,この答申案につきまして,文化審議会として了承したいと存じます。
よろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」と呼ぶ者あり)

○西原会長
ありがとうございます。
それでは,ただいまご了承いただきましたので,この答申を坂田事務次官に提出させていただきます。

(西原会長から坂田事務次官へ答申を手交)

○坂田事務次官
事務次官の坂田でございます。一言御礼を申し上げたいと存じます。
ただいま西原会長から「改定常用漢字表」のご答申をいただきました。委員の皆様方には,平成17年の諮問以来5年以上にわたりまして,情報化時代に対応する漢字政策の根幹となる「改定常用漢字表」の策定に関しまして,2度の意見募集で寄せられた意見の扱いや,漢字の意識調査の結果の分析などを含めまして,周到に,また,大変慎重にご審議を賜りました。このような立派なご答申をおまとめいただきましたことに改めて心より御礼を申し上げます。
国語は長い歴史の中で形成されてまいりました我が国の文化の基盤をなすものであり,文化の伝承や創造に密接にかかわるとともに,我が国の文化そのものでございます。その国語の中核に漢字があるといっても過言ではないと思います。改めて言うまでもないことでございますけれども,我が国の表記法として広く行われております漢字仮名混じり文は,我が国の社会や文化にとって大変有効なものでございます。
漢字は語の意味を明確にし,文中で語の切れ目を見やすくするなどの長所がございますけれども,他方でこれを過度に用いる場合には相手には読めないというような,相互の伝達や理解を困難にする場合もございます。漢字と仮名を用いる漢字仮名混じり文におきましては,読み取りの効率性を高めるためにどの程度の漢字を用いることが望ましいのか,今回のご答申は我が国の表記法の根本にかかわる文化審議会からのご回答でもあろうと受けとめております。
常用漢字表の制定から約30年が経過いたしました中で,情報化が進展し,パソコンや携帯電話等の情報機器が広く普及しましたことにより,だれでも容易に漢字を打ち出すことができるようになりました。このような大きな変化を受けまして,現行の常用漢字表の在り方について見直しを行っていただいたと,そういうわけでございますが,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送等,一般の社会生活で用います場合の漢字仕様の目安であると,そういう漢字表の理念自体は変わっておりません。
新しい漢字表の名称が「改定常用漢字表」となっておりますのも,このような考え方を踏まえたものだと理解をしております。いずれにいたしましても,「改定常用漢字表」が文字言語を用いた私どものコミュニケーションの円滑化に大きく寄与することは間違いないと確信をしております。この「改定常用漢字表」は,今後,関係府省との調整も行いまして,内閣告示となり,現行の常用漢字表に代わって,法令や公用文書などの漢字使用の目安となる予定でございます。私どもといたしましても,先生方皆様のご尽力の結実でございますこの「新漢字表」が広く社会に用いられますよう,責任を持って普及に努めてまいる所存でございます。
以上,簡単ではございますけれども,心よりの御礼のごあいさつとさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。
○西原会長
ありがとうございました。
次に,議題の2に入らせていただきます。議題の2は,文化政策部会における審議状況ということで,ご報告いただきます。
文化政策部会では,本年2月10日に「文化芸術の振興のための基本的施策の在り方について」,諮問を受けて以来,第3次基本方針の策定を見据えて精力的にご審議をいただきました。このたび,この間の成果を審議経過報告としておまとめいただきましたので,ご報告いただきたいと存じます。
それでは,宮田会長代理・文化政策部会長よりご報告をお願いいたします。
○宮田会長代理
文化政策部会の審議経過についてご説明申し上げます。
本年2月ですが,前回第50回の文化審議会総会において川端文部科学大臣から「文化芸術の振興のための基本的施策の在り方について」,諮問をいただいたことを受けまして,文化政策部会において第3次となる文化芸術振興基本方針の策定に向けた審議を開始いたしました。お手元の参考資料3がその諮問文でございますが,諮問事項の文化芸術振興の意義,文化芸術振興のための基本的視点,文化芸術振興のための重点施策,この3つからなっております。このうち重点施策につきましては,分野ごとの振興策,人材育成,文化発信と国際交流,新たな手法の導入と,4項目について重点的な審議を行うこととされました。
文化政策部会におけるこの間の審議経過については,お手元の資料2−1をご参照いただきたいと思います。先生方におかれましては大変なお力をいただきました。2月,3月にかけて包括的な審議を行った後,5つの分野ごとにワーキンググループを開かせていただきました。精力的に何回かに分けて大変熱のこもった集中的な検討を行いました。
その経過を踏まえまして,5月以降は部会としてまとめの審議を重ねてきて,先週の2日,第8回の会合を開催し,現時点までの審議の成果をとりまとめた審議経過報告について審議を行い,基本的に了承いただいたところでございます。本日は,字句訂正等を経て,審議経過報告をお手元に配付してございます。表紙をおめくりいただきますと,目次がございますが,全体構成としましては,大きく第1に文化芸術振興の基本理念,第2に文化芸術振興のための重点施策,そして,第2の重点施策は分野横断的な6つの重点戦略と各分野における重点施策に分かれております。さらに,5つのワーキンググループの成果を本文の中に盛り込んでございます。
この審議経過報告の内容については,本日は時間も限られておりますので,資料2−2により主なポイントに絞って説明をいたします。
まず第1の文化芸術振興の基本理念でありますが,ここは部会長である私のほうで文案を作成したものであります。文化芸術そのものの価値,文化芸術が心のよりどころであること,また,持続的な経済発展や国際協力の基盤となることにも触れた上で,国自らの責任において文化芸術を振興する必要性を強調しております。
本文では,多くの委員から意見が出されまして,「文化省」の創設を提案するとともに,文化芸術の振興を国の政策の根幹に据えて,これまでの政策を抜本的に見直し,文化芸術振興の強化拡充を図らなければならないという方向性を強く打ち出しております。また,その第1の末尾は,以前に日本の国が成り立ったように,「鉄は国家なり」という言葉がございましたけれども,私は,「文化は国家なり」という理念を持っていただき,私たちは今日新たなる「文化芸術立国」の実現を目指すべきであると結んでおります。
次に第2,文化芸術振興のための重点施策については,第1で述べた基本理念の下,文化芸術振興の重要性に対する国民の理解を醸成するとともに,国際社会における我が国の魅力や存在感を高めるために,文化予算を大幅に拡充し,国家戦略として新たな「文化芸術立国」の実現を目指すとした上で,当面重視すべき方向性を6つ,重点戦略として打ち出しております。
主なポイントとしまして,文化芸術に対する支援の在り方の抜本的な見直しとして,1つ目,インセンティブの働く助成方法やマッチンググラント等,文化芸術団体への新たな支援の仕組みを導入。3つ目,専門的審査・評価を実施する機関として新たに日本版アーツカウンシル,これは仮称でございますが,導入を検討。4つ目,地域の核となる文化芸術拠点への支援拡充と法的基盤の整備。5つ目,美術品国家補償制度の導入,この件に関しても強くお話がされておりました。
(2)でございますが,文化芸術を創造し,支える人材の充実として,1つ目,国内外での研修や顕彰など,若手をはじめ芸術家の育成支援の充実,やはり若者たちを大切にしたいということでございました。その若者との関連でいくならば,4つ目,大学等の関係機関との連携の強化,これも大切なことであると考えております。
(3)としましては,子どもや若者を対象とした文化芸術振興策の充実。1つ目の◆として,芸術鑑賞機会などの充実,これはずっと言われている話でございますが,ヨーロッパなどのような感じでは具体化しておりません。2つ目,コミュニケーション教育をはじめ芸術教育の充実,現場での芸術教育を充実してもらいたいという心がこもっております。
(4)文化芸術の次世代への確実な継承。1つ目,2つ目の◆として,文化財の修復,防災対策,公開・活用の推進。3つ目として,新たな文化芸術創造の基盤として重要なアーカイブの構築と活用,生きたアーカイブを研究していきたいということでございます。
(5)でございます。文化芸術の観光振興,地域振興などへの活用。2つ目の◆として,創造都市など新たな創造拠点の形成支援。地方芸術祭,アーティスト・イン・レジデンス等による地域文化の振興。4つ目,「くらしの文化」の振興ということでございます。
(6)として,文化発信・国際文化交流の充実。1つ目,2つ目の◆でございますが,海外公演,あるいは,海外に出展するというように,自ら前へ進んでいくということで,国際共同制作への支援や各種フェスティバル等の海外展開をすることにより,日本の魅力を世界の人に知ってもらうということを大事にしたいと。5つ目の◆,東アジア芸術創造都市や大学間交流など,東アジアの文化芸術活動の推進ということでございます。
以上,紹介しなかったものも含めて,本文では6つの重点戦略として24の事項を提言しております。また,「2.各分野における重点施策」では,5つの分野別ワーキンググループを開かせていただきました。舞台芸術,メディア芸術・映画,美術,「くらしの文化」,文化財による提言の要点を記述してございます。
次に,キャッチフレーズ等でございますが,資料2−4をごらんください。簡単に申し上げておきたいと思います。「審議経過報告」の概要を簡単に説明申し上げましたけれども,なお,部会としてはこれだけにとどまり切らないものですから,何かアピールするものがあったらいいのかなということで,こんなことも書かせていただきました。「ときめきの国,日本へ」,「振り向いてこそ未来が見える」,「文化は豊潤な果実である」「文化が国の杖となる」,「日本をつくる文化の力」,「気付く心築く」,「もの・こと・人も」と。
私の大学のアクションプランで「世にときめきを」という言葉を使っておりますが,「ときめいているか日本」,それから,「分業というコラボレーション」,かつての日本の工芸というのは非常に分業制が確立していて,世界に冠たるものを持っていたということで,こういうことをもう一度提唱しようと。最後に,「官・学 共同プロジェクトの可能性」となっておりますが,ここのところ,世の中バタバタしているときに,私としましては,「ときめきの国,日本」というだけでは,せっかく先生方が大変な思いをしてここまでもってきてくれたので,もう一つここで書かせていただきます。

(宮田会長代理,「凜として日本」と色紙に揮毫)

○宮田会長代理
「凜として日本」,いかがでしょうか。
ありがとうございます。こんな気持ちで「文化芸術立国日本」をつくっていきたいと,時の政権に皆さんに伝えていきたいと思いますが,いかがなものでしょうか。
文化政策部会では,先生方からとても白熱したご意見をいっぱいいただきました。それを部会長としてどう伝えていくかというときに,このようなパフォーマンスをさせていただきました。ご無礼をいたしました。どうぞ大所高所からご意見をいただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
○西原会長
ありがとうございました。
ただいまのアピールも含めまして,何かご意見ございましたら,どうぞ。
はい,どうぞ,林田委員。
○林田委員
まだ十分読みきれていないところがありますので,吟味したいとは思っておりますけれども,今後の作業と言いますか,大体これからどういう進め方になりますのか,固まっていることがありましたら,教えていただければと思うんですけれども。
○宮田会長代理
今後につきまして,この報告には重要な提言が数多く含まれております。文化庁におかれましては,可能なものから平成23年度の概算要求に積極的に反映していただけるようお願いしたいと思います。他方,限られた審議日程の中で十分な調査審議を尽くせず,今回の報告に盛り込めなかった事項も少なくないので,部会といたしましては,この後,明日8日から約1カ月程度本報告に対する国民からのご意見募集も行いまして,夏以降の部会審議再開後,残された検討課題を含め,答申に向けてさらに審議を深めていきたいと,かように思っております。よろしゅうございますでしょうか。
○林田委員
ありがとうございます。
○西原会長
ありがとうございました。
審議経過ということでございますので,これからに向けてご意見等を賜れば,後の審議に有効かと存じますが,いかがでございましょうか。また,補足なさることがありますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,今日これを初めて目にされた委員の方もいらっしゃるかとは存じますし,今後の審議も続くということでございますので,引き続き最終的な答申に向けて審議を続け,さらによいものにしていただきたいと存じます。
そして,文化庁におかれましては,先ほど宮田委員のほうから来年度の予算にも反映させてというようなご希望もございましたけれども,その他の施策に向けてのご検討をどうぞよろしくお願いいたします。
それでは,今までの報告につきまして,玉井長官より何かコメントをいただければと存じます。
○玉井文化庁長官
文化庁長官の玉井でございます。部会長はじめ各委員の方々,本当にありがとうございました。文化政策部会の委員の方にも大変忙しい中お時間をとっていただき,大変短時間でございましたけれども,集中的なご審議をいただきましたし,その間,5つのワーキンググループに専門委員という形で多くの専門の方々にもお入りいただいてご議論いただきました。この場を借りて厚く御礼を申し上げたいと存じます。
これだけ急ぎましたのは,目の前に概算要求もあるものですから,これにできるだけメリハリのついた文化芸術政策を反映させていきたいという思いがあって,部会長にも大変ご苦労をおかけいたしました。ありがとうございました。これを私どもは概算要求の中にできる限り生かしていきたい。そして,概算要求だけではなく,他の政策も着々と進めてまいりたい。そういう中で,本来のねらいというのは,文化芸術振興基本法に基づく第3次の基本方針にいずれは閣議決定という形できちんとしたものを体系的に載せていきたいわけでございますので,それにつなげていくということもあるわけでございます。これにつきましては,夏以降さらにご審議をいただき,できれば今年度中,来年の3月ぐらいを目途におまとめいただければ,次の第3次の基本方針に結び付けていくことができるのではないかなと,かように思っておりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
先ほど部会長から「凜として日本」というすばらしいご提言をいただきました。いただきながらふと思い出しましたのは,平成8年に中教審が「生きる力」という答申をまとめました。残念ながら学力論ばかりがいろいろ言われてしまったんですけれども,あのときの「生きる力」のもう一つの柱は,「美しいものを美しいと感じる心を育てていこう」というのが,あの中の「生きる力」の大きな一つの柱でございました。まさに「凜として日本」,美しいものを美しいと感じる,そういう凜とした心を育てていく,これまた文化芸術の大切な仕事ではないか。また,その振興を図ることによって次世代にそのことを引き継いでいきたい,こういう思いを強くいたしましたので,先ほどの部会長のご指摘,十分踏まえながら,最大限また努力させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
○宮田会長代理
よろしくお願いします。
○西原会長
ありがとうございました。
それでは,引き続き,各分科会の審議状況についてご報告いただきたいと思います。国語,著作権,文化財の各分科会よりそれぞれご報告いただいた上で,質疑,自由討議の時間を設けたいと存じます。
まず,国語分科会でございますが,私から手短に報告させていただきます。資料は3−1及び3−2をごらんください。
国語分科会には,漢字小委員会,日本語教育小委員会が設置されておりますけれども,漢字小委員会につきましては,先ほど林分科会長のほうから審議状況を含め答申案が示されましたので,私のほうからは日本語教育小委員会の審議状況について説明させていただきます。
これまでも申し上げていることですけれども,我が国において220万人を超す外国人登録者があり,また,国の人口統計等によりますと,数十年後には大幅な人口の減少が見込まれており,今後の日本社会の構成員についてもいろいろな議論があるところでございます。そういう状況の中で,我が国に滞在し生活する外国人の日本語能力について,どういう施策が必要かということについて日本語教育小委員会が検討してまいりました。
資料3−1でございますけれども,国語分科会における審議状況と今後の課題というところの3つ目の○が,日本語教育小委員会の説明ということになります。まず,第8期の分科会におきまして,生活者としての外国人に対する日本語教育の体制整備,及び内容の改善について審議を行いました。そして,第9期以降,日本語教育の標準的な内容についての検討をしてまいりまして,平成22年5月19日,先月の国語分科会において「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案を作成いたしました。
まず,概要を説明させていただきます。資料3−2,これはA4が横長にとじて2枚になっておりますけれども,ごらんいただきながらお聞きいただきたいと思います。
標準的なカリキュラム案と申しますのは,日本に在住する外国人が生活上の基盤を形成する上で必要不可欠であると考えられる日本語の教育の内容を示したものでございます。全国津々浦々いろいろな生活形態で暮らしている外国人ですから,一律にこのカリキュラム案を実施してというふうに定めるものではございませんで,各地域,地域の特徴を生かして日本語教育の内容を検討する際の基となるということで開発いたしました。それぞれの地におきましては,実情に合わせて工夫を加えるということが必要だと思いますので,これを読んでくださる方としましては,各地域において実施,企画等にあたられる日本語教育担当者,特にコーディネーターと呼ばれる方々を一義的な読者として考えております。
資料3−2のほうに全体的な概要が示してございますけれども,まず左下にIVという数字がありまして,これが「生活者としての外国人」に対する標準的なカリキュラムの本体部分ということになっております。また,左の一番下のVでございますけれども,ここではそのカリキュラム案に基づく教室活動の例示をしております。それから,同じページの右のほうの下に,参考資料としまして,情報リソースというところがございますが,教室活動を行う際に参考となる情報を掲載してございます。?の基礎資料というのは,開発過程で作成した資料ということになります。
先ほども申しましたけれども,日本語教育小委員会は第8期で「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的・目標について検討いたしました。言語文化の相互尊重を前提としながら,生活者としての外国人が日本語で意思疎通を図り,生活できるようになることというのが目的でございました。
そして,さらに4つの目標を立てました。日本語を使って健康かつ安全に生活を送ることができるようにすること。自立した生活を送ることができるようにすること。相互理解を図り,社会の一員として生活を送ることができるようにすること。文化的な生活を送ることができるようにすることということでございました。
次に内容に移りますけれども,標準的なカリキュラム案は,先ほども申しましたように,各地域において現場の実情に合った日本語教育を具体的に編成・実施する際に参考となるということで組まれた構成内容になっております。来日間もない外国人が生活上の基盤を形成する上で必要な生活上の行為,又は安全にかかわり緊急性がある生活上の行為を日本語で行えるようにするということで,121事例を取り扱っております。
その121事例を最初から順番に学習するということではなく,それぞれの地域の特性に応じて,順序も内容も自在に組み立てていただくわけでございますけれども,全体としてはそれを全体的に学習していただくということが必要でございますので,それらの内容につきましては,全体で30単位,そして,おおよその目安として60時間を基本と考えて組み立てております。それに従って学習上の内容をまとめております。
次のページをめくっていただきますと,左側に生活上の行為,右側に学習項目というふうに書いてございます。例えば左側に赤字で「健康を保つ」と書いてありまして,「健康を保つ」の事例として,右側に「医者の診断を受ける」と例示しております。
[1]として,能力記述というのが書いてございますけれども,これは言語教育の用語で“Can do Statement”というのですけれども,できるようになるということが期待されることということです。つまり,健康を保つために医者の診断を受けるときには,できるようになることとして,症状を伝えることができる,それから,医者の診察,指示が理解できる。そういうことをすることができるようになるということを能力記述と言っております。
そして,場面としましては病院,相手となるのは医者,それから,状況とか動機としましては,「診察を受けること」というふうな記述になっております。
そして,[3]がやりとりですけれども,医者は通常「どうしましたか」というふうに聞くんだと思いますけれども,それを理解して,昨日から頭が痛いというようなことを訴える。それに対して医者が「口を大きく開けなさい」とか「風邪ですね」とか,「5日分の薬を出しておきます」というようなことを言うだろうということです。
[4],[5],[6],[7]は,言語教育の専門用語的な用語でございますけれども,それぞれの発話の働き,やりとりにかかわる文法,そして,やりとりに必要な言葉,語彙,それから,四技能といって,やりとりに必要な,話す,聞く,読む,書くのうちの主としてどれが使われ,どれが学習されるべきかというようなことについての記述がついているというのが今度のカリキュラム案の内容でございます。
今後は,各地の実践を通じてカリキュラム案を充実させていき,使い方を研修し,これを使ってくれる日本語教育支援者の人材育成ということも考えなければなりません。これはカリキュラム案でございますので,これに基づいた教材の例示をしなければならないでしょうから,そういうことを含めて指導の方法,それから,これをなし遂げてくださったということをどういうふうに評価するかというような,目標達成・評価の基準についても考え,全体的に指導をする人々の養成ということも考えて,今後の課題としております。
以上が日本語教育小委員会の報告でございます。
続きまして,著作権分科会のご報告をいただきたいと思います。本日は,野村分科会長,それから,中山分科会長代理ともにご欠席ということでございますので,あらかじめ分科会長より土肥委員にご指名いただいておりますので,土肥委員のほうからご報告をいただこうと思います。よろしくお願いいたします。
○土肥委員
それでは,代わりまして,私のほうから著作権分科会の審議状況と今後の課題について,資料4−1及び資料4−2に基づいてご報告を申し上げます。
まず,4−1をごらんください。第10期の著作権分科会におきましては,第9期の分科会における検討課題について引き続き検討するために,平成21年2月に基本問題小委員会,法制問題小委員会,国際小委員会の3つの委員会を設置いたしました。
まず,基本問題小委員会でございますけれども,ここでは著作権関連施策にかかる基本的な問題に関することを審議いたしております。具体的に申し上げますと,デジタル・ネットワーク社会における著作権制度の意義,及び今後検討が必要になってくるであろう具体的な検討課題について,有識者の方々からのヒアリングを踏まえて検討を進めているところでございます。今後一層検討を進めた上で本小委員会の報告書をとりまとめることを予定していると聞いているところでございます。
それから,2つ目は法制問題小委員会でございます。ここでは著作権制度の在り方に関することを審議いたしておりまして,具体的にはインターネット等の技術の変化に適切かつ迅速に対応するために,権利制限の一般規定の導入について検討を進めているところでございます。現在,この導入の必要性及び具体的な内容等についてとりまとめた中間まとめにつきまして,意見募集を行っているとでございます。秋ごろまでには本小委員会において最終のまとめが行われる予定になっております。
この中間まとめの概要につきましては,お手元にある資料4−2,横長の資料に詳細を述べてございますので,ごらんいただければと思いますけれども,特に肝要になる部分としては,4枚目の権利制限の一般規定の内容ということで,法制小委員会,著作権分科会,そういったところで議論を経たものがここで挙がっているわけでございますので,ごらんいただければと存じます。このA,B,Cの3案ですね,ここのところを中心に意見募集を行っているところでございます。
それから,3つ目でございますけれども,国際問題小委員会でございますが,ここでは,同様にデジタル・ネットワーク化の進展に伴う著作権保護の国際的な対応の在り方について審議,検討を行う予定にしております。
今後の予定ですけれども,先ほども申し上げましたけれども,各小委員会において引き続き審議を行いまして,今後とりまとめた上で,来年1月に著作権分科会に報告をする予定でございます。
以上でございます。
○西原会長
ありがとうございました。
それでは,引き続きまして,文化財分科会のご報告をいただきます。佐々木分科会長よりお願いします。
○佐々木委員
それでは,今期第10期の文化審議会文化財分科会における審議状況等についてご報告申し上げます。資料5−1をごらんいただきたいと思います。
まず,分科会の開催状況でございますが,今期は,本年2月19日に第101回分科会を開催し,5月21日の第104回の分科会まで,計4回開催いたしております。文化財分科会では,文化財保護法第153条の規定により,文部科学大臣または文化庁長官から諮問された案件について調査審議を行っております。
諮問案件については,基本的に文化財分科会に設置されております5つの専門調査会の調査に付し,その調査報告を受けて,文化財分科会でその内容を調査審議し,議決を行います。今期はこれまで国宝・重要文化財の指定,重要文化的景観の選定等について97件,登録有形文化財の登録等について142件,重要文化財や史跡等の現状変更の許可等について784件の答申を行いました。
それでは,答申を行った文化財について幾つかご紹介いたしたいと思います。
建造物関係の重要文化財については,本年4月の第103回文化財分科会において,京都市下京区の杉本家住宅など8件の指定等について答申をしました。資料5−2の1ページをごらんいただきたいと思います。杉本家住宅は,明治3年に上棟された主屋や,江戸時代に建てられた3棟の土蔵などからなり,明治期から昭和初期にかけて整えられた茶室なども良好に保存されております。京都市内に現存する大規模町家建築として歴史的に価値の高いものとして答申をいたしました。
美術工芸品関係の国宝・重要文化財については52件の指定等の答申をおります。本年3月の第102回文化財分科会では,古文書の部において越中国射水郡鳴戸村墾田図を国宝に指定するよう答申いたしました。資料5−2の2ページをごらんください。本図は,奈良時代に越中国射水郡鳴戸村に存在した東大寺領庄園における土地開発状況を詳細に記した絵図でございます。国宝の額田寺伽藍図並びに条理図,あるいは,正倉院宝物の絵図に比べても,保存状態がよく,作成当初の状態を今に伝える稀有な遺品でありまして,学術的価値が極めて高いものであります。
また,歴史資料の部では伊能忠敬関係資料二千三百四十五点を国宝に指定するよう答申しました。資料5−2の3ページをごらんいただきたいと思います。本資料は,江戸時代に全国を高い精度で測量し,正確な地図を作製した伊能忠敬の学問の内容,及び測量実施や地図製作の具体的な方法を知ることができる資料群でございます。我が国の測量史,地図史上における極めて高い学術的価値を有するとともに,伊能忠敬の生涯の事績とその人物像を多面的に伝える歴史上に極めて価値が高いものでございます。
史跡名勝・天然記念物については33件の指定等の答申をいたしました。先月,第104回文化財分科会では,奈良県奈良市の平城宮東院庭園を特別名勝に指定いたしました。資料5−2の4ページをごらんいただきたいと思います。本特別名勝は,8世紀に平城宮の東南隅部に造営された大規模な池を伴う庭園であります。日本と大陸との庭園文化の融合過程を知る上で極めて高い造園史上の価値を持ち,独特の意匠,構造,技法が精緻な修復により再生された庭園として,芸術上・鑑賞上の価値が極めて高いものでございます。
続きまして,重要文化的景観については3件の選定等の答申をいたしました。同じく資料5−2の5ページをごらんください。先月第104回の文化財分科会では,滋賀県高島市針江・霜降の水辺景観を選定いたしました。本件は,安曇川の湧水を利用した独特の生活が営まれると同時に,集落・河川・ヨシ帯が一体的な水環境を形成する貴重な文化的景観でございます。
続きまして,重要伝統的建造物群保存地区については,4月の第103回文化財分科会において,茨城県の桜川市真壁伝統的建造物群保存地区の選定について答申をいたしました。6ページでございます。当該地区は,戦国期の真壁城下の集落を起源とし,近世を通じて筑波山北麓の経済の中心地として発展いたしました。地区内には,江戸時代以来の地割がよく残るとともに,幕末から明治期の重厚な蔵や,大正から昭和初期の町家あるいは洋風建築が建ち並ぶなど,多様性のある町並みや景観に特徴があり,茨城県では初めての重要伝統的建造物群保存地区となります。
建造物関係の登録有形文化財につきましては,3月の第102回文化財分科会において,千葉県銚子市にある犬吠埼灯台など139件の登録について答申をいたしました。7ページでございます。犬吠埼灯台は,房総半島東北端に明治7年に建てられ,現在も船舶の航行などに使用されております。英国人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンが設計指導を担った我が国最初期の大規模煉瓦造構造物であり,再現が容易でないものとして答申をいたしました。
以上が審議状況の報告でございます。
今期は,引き続き国宝・重要文化財等の指定のほか,重要無形文化財,それから,民俗文化財の指定,あるいは,保存技術の選定等についても審議をする予定でございます。
以上,今期第10期の文化財分科会の検討状況と今後の課題についてご報告を申し上げました。
○西原会長
ありがとうございました。
それでは,残りの時間を質疑あるいは自由討議にあてたいと存じます。ただいまの各分科会からの報告についてのご意見,ご質問等ございましたら,ご発言いただくと同時に,文化政策全般にかかわるご意見でも結構でございますので,どうぞご発言いただきたいと存じます。
また,先ほどの答申,それから審議経過報告につきましても,何かございましたら,補足等でも結構でございます,どうぞご自由にご発言くださいませ。
○堤委員
この「生活者としての外国人」に対する日本語教育について,私,実はアメリカとカナダに長く住んでおりまして,ご存じのように両国ともいわゆる移民の国で,言語というものを,いかに英語なりフランス語なりを新しい移住者に対して教育していくかということが大事なひとつのあれだと思うものですから,ちょっと述べさせていただきたいと思います。
もちろん言語そのものを身につけさせるということもすごく大事だと思いますけれども,両国とも私が感じましたのは両国の文化,言語というのは文化そのものだという話が今日の冒頭に出てきておりましたけれども,そのとおりでございます。ですから,アメリカならアメリカの文化,カナダならカナダの文化を全体につかんでもらう。そして,その方法としての言語があるというアプローチをしていたような気がしております。これはすごくよくできているし,細かいし,個別的にすばらしいと思うんですけれども,そういう大きな哲学的というか,根本のコンセプトがあることが大事だと思います。
そして,私が両国で違いを感じたことがございます。1つは,アメリカでは言語教育なり,地域社会に入っていくことに関しまして,「メルティングポット」という言葉を使います。「メルティングポット」というのはごった煮と言いますか,1つのポットに全部入れてしまう。いわゆるアメリカ人をつくり出すんだという基本的な考え方がございまして,それに対してカナダでは「モザイクソサエティ」,「モザイク」ということは,人々のよさというか,持ってきた文化なり土台を生かしながらカナダの社会になじんでいってもらう,そういう一つの大きな違いがございます。
これからもいろいろとご検討なさると思いますけれども,言語を教えるということは,その人個人の存在価値,レゾンデートルにも関係してまいりますので,ひとつご慎重にお願いしたいと思います。どうも失礼しました。
○西原会長
ありがとうございました。
ちょっと補足でございますけれども,ヨーロッパの国で在住許可を申請しますと,例えばオランダのような国では2つの種類の試験が,これはペーパーテストである必要はないようですけれども,あると聞いております。1つはオランダに関する知識,もう一つは生活に足るだけのオランダ語の運用能力があるかということのようでございまして,オランダに関する知識にあたる部分にも非常に重要なポイントが置かれているという社会統合政策全体の方針が立っているということでございますので。
日本におきましても大きな全体の方針と申しますか,どういうふうに国を立てていくのかというところは,別途,高いところでご議論がないといけないのではないかというふうに,小委員会の作業をしながら強く感じているところでございます。
○堤委員
ありがとうございました。まことにそのとおりだと思います。特に最近のヨーロッパの国々も,トルコとかアフリカとか移民の方が非常に増えております。これもヨーロッパの国々にとっては新しい経験というか体験で,今,オランダの例をおっしゃいましたけれども,それはドイツでもフランスでも北欧の国でも同じで,皆さん非常に苦労しているところで,どういうふうにしたら,例えばフランスという国がいわゆるフランスの良さを保ちながら,逆により広がっていって,文化的にも多彩なものを繰り広げられるか。日本もそういうふうにそれに面と向かっていかなければならないことになると思いますけれども,今,会長がおっしゃったように,そういう基本的な面というのとやはり大事だなと思います。
ありがとうございました。
○西原会長
ほかにご発言がおありですか。はい,どうぞ,林田委員。
○林田委員
文化政策部会の審議経過報告に関連してなんですけれども,今回の文化政策部会の議論がマスコミなどに取り上げられている状況を見ますと,私も文化庁でいろいろ働いてきた経過からみますと,かなり関心が高いのではないかなという印象を私は持っております。
それは,一つには,必ずしも文化政策部会のことではなくて,例えばこの間も読売新聞の「これからの日本の在り方」という記事の中に,文化産業の振興ということをぜひ進めていくべきだというような議論もありましたし,さらに地方の振興のためにも文化ないし文化財をてこにした地域振興というようなことに対する期待が非常に高まってきているというような気もいたしております。
それだけに文化審議会で取り上げたことが,審議会だけではなくて,ほかの各省,さらには国全体として取り上げられるような形での議論が深まる,広まっていくような努力を,これからさらに各界の意見を聴取した上で,審議会としてのとりまとめを進めていくことになるわけですから,会長,会長代理にもお願いしたいと思いますし,我々自身ももう少しいろんな機会に,それぞれ分野でかかわりのあるところで声を上げていくことによって,これが本当に世の中の期待にもこたえ,かつまた,我々の期待にもこたえられるようなものになっていくように,一生懸命頑張っていかなければいけないなということを感じましたということだけ申し上げておきたいと思います。
○宮田会長代理
大変ありがとうございます。
世の中,官から民とかいろいろ言われておりますが,今こそぶれることのない「文化芸術立国」をとらえていくときに大事なことは,念仏のように唱えるだけではなくて,いろんな方のお力を借りながら,それを生かしながら伝えていくことが必要かなと思っております。そういう意味では,林田先生のお話,ありがとうございます。
同時に,私ちょっと思ったんですが,どんな方もすべてがお力でございます。今回の私どもの委員はいろんなお話をしてくださいました。結構厳しいご指摘もいっぱいありました。それをまとめるにあたって,事務方が本当によくやってくれました。そういうお互いの連携があるということで大きな文化ができるのかなということもつくづく感じております。これは発信するだけで終ったら何の意味もございません。実行するということが必要になってくると思いますので,長官,ぜひとも私どもとタッグを組みながら,大きくやっていければと思っております。ありがとうございました。
○西原会長
はい,土肥委員。
○土肥委員
私,今日で2回目なんですけれども,前回,著作権分科会長の中山委員がお出でになって,本日はご欠席でございますので,ある意味,私,中山先生が前回お話になったようなところとの関連で,必要あるところは申し上げなくてはならないのかなというふうに思いました。
申し上げるべきことは,文化政策部会でおまとめになっている審議経過報告でございますけれども,前回の説明では文化庁予算が1,020億円で,人材育成の部分が大体68億,大体15分の1で,この額というのは各国との比較からしてもそう威張れるような数字ではない。それから,寄附金の部分についても極めて少ない。こういう状況で,国政調査等の数字からすると,クリエイターはデザイナーを除きここ数年右肩下がりになっている。つまり,人材がこの分野についてどんどん参入していくような状況を,資金的な面においても確保しなければ,文化政策ということからすると問題があるのではないかなというふうに思います。
この点は前回の文化審議会の中でも著作権分科会の委員から発言があったところだと私は承知しておりますけれども,今回の審議経過報告でそのあたりを,先ほど少しご説明があったところで拝聴したんですけれども,少しわからないところがございますので,その点補足的に説明していただければ,どういうふうな考え方になっているのかということをご説明いただければありがたいということでございます。
○西原会長
冒頭に例えば「文化省」とか,それから,予算のこともおっしゃいましたよね。
○土肥委員
要するにデザイナー以外のクリエイターが,この国政調査からするとどんどん減っているという数字が,文化庁の文化芸術関連データからも明らかになっているところでございますけれども,こういう状況で,いろんな原因があるんだろうと思うんですけれども,人がこの分野に入っていかないと,文化芸術のコンテンツにしても,創作物にしても創作されていかないということになりますので,まずは人がこの分野にどんどん入っていけるような状況を作るために,この審議経過報告ではどうしようと考えておられるのかというのが質問の趣旨でございます。
○大木政策課長
ただいまのご指摘に関しましては,予算が抜本的に充実する必要がある,そういったことに関しましては,宮田部会長にご執筆いただきました。そこのページでいいますと,2ページの基本理念の中に,国として文化芸術の振興施策をきちっとしていかなければいけないんだと。そうした中で,「文化省の創設などということも念頭に置きながら」というようなワンフレーズが入っているわけでございます。検討経緯の中で人材流出の話はかなり書かれていたんですけれども,その表現自体やや誤解を生むところがあるのではないかというようなご指摘もございまして,その部分直ってしまったという経緯がございます。そうしたことも念頭に置きながら文化芸術振興の基本理念を展開しているところでございます。
実はこれは後へいくほど具体的になってまいりまして,少し断片的なご紹介になりますが,3ページの第2の1.の「六つの重点戦略」でございます。ここも紆余曲折を経てこういう表現になってございますけれども,この中をごらんいただきますと,※をつけてございますが,リードの部分で「諸外国と比較して,極めて貧弱な文化予算を大幅に拡充し,国家戦略として新たな『文化芸術立国』の実現を目指すべきである。」という,前提として予算なりそれに類するような税制はじめいろんな制度の貧弱さということをここでまず掲げた上で,その下に6つの重点戦略ということにしてございます。
その中に,文化芸術を創造し,支える人材の充実ということで,各分野,実は各論的な指摘がたくさんございました。例えば,クリエイター対策ということに関しましては,メディア芸術の部分ではかなり後ろのほうで言われている部分でございますが,ここの部分は分野横断的に書くということで,新進芸術家など若手を中心にした芸術家の育成でありますとか,文化芸術活動や文化財を支える専門的人材の育成でありますとか,そういうごく一般的な形にここではなってございます。
しかしながら,クリエイターという観点から申し上げますれば,その後ろの例えば7ページから8ページのあたりをごらんいただきますと,これはメディア芸術の分野でございますけれども,例えば8ページの[3]では新人クリエイターにかなり特化した表現ぶりになってございますし,こういうことも触れられているわけでございます。
いずれにいたしましても,今回は概算要求に向けての中間的な報告ということになってございまして,先ほど来お話が出ております答申に向けてという部分に関しましては,14ページをごらんいただきますと,今後の検討課題ということで,先ほど長官からできれば年度内にというようなこともお示ししながらご説明いたしましたが,具体的には第2次基本方針の実施状況の評価ということも子細にやらなければならない。それから,十分な調査審議ができていない事柄が幾つかあろうかと思います。今ご指摘の点もその一つかもしれません。そうしたことも含めまして,文化芸術振興のための各般の施策について検討を深め,それらの施策の達成目標と工程スケジュールを明らかにしながら答申をまとめあげること。
それから,国語と著作権に関しましては,率直に言いまして,ほかに分科会があるということで,あまり念頭に置いた議論がなされておられないようにお見受けいたしておりますので,そうした関係分科会の審議状況も踏まえながら,本部会として必要な検討を行うことといたしてございます。その辺のことを全体としてご理解をいただければと思っております。
○宮田会長代理
よろしゅうございますか。ただ,これは経過報告の部分もございますので。
○土肥委員
はい,そういうことは承知しております。
○西原会長
よろしゅうございますか。
では,内田委員の手がさっき挙がっていましたので,内田委員。それから,石上委員ということで。  
○内田委員
先ほど西原会長のほうからご報告がありましたように,日本語教育小委員会においては,「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム,すばらしいものをおつくりいただきました。大変なご尽力とワーキンググループの大変な作業の成果で,本当に細かい,細部にわたってのご配慮の下ですばらしいものができ上がったことに対してまず敬意を表したいと思います。
私はこれを時々伺いながら気になっていたことが一つあるのです。それは「生活者としての外国人」のカリキュラムなんですけれども,学習者としての外国人児童の日本語教育の標準的なカリキュラムというのが,今,学校現場などでは喫緊の課題ではないかと。これは文化審議会の問題ではないというふうなことも承っておりますけれども,文科省のほうの課題であるということでございますけれども,本当に文科省のほうできちんとそれに対する対策をとっておられるのかどうか。外国人の家族と一緒に駐在している子どもたちの日本語,それから,母語の保持,それから,学習言語としての日本語の習得の状況というのは極めて貧しいものがある。
将来はその人たちも日本文化をつくる一員であると。先ほどのご発言にありましたように,メルティングポットとしていくのか,あるいは,モザイクソサエティなのか。日本の大方針がない限り,そこのところは難しいのかもしれないんですけれども,それを決まるのを待っていては,現実に子どもたちは日々生活し,学校で学習しているわけですが,小学校4年生になりますと,学習についていけなくなるような状況がございます。言葉,会話そのものはいいのですけれども,考える手段としての言語教育という面になりますと,いろいろな課題があるわけで,貧困が再生産されると。高等教育を受けるような日本語能力が身につかないというような状況があるように思うんです。
これはどういうところに発言していったらいいのかわからないんですけれども,「生活者としての外国人」,その人たちの家族の中の子どもたち,児童の日本語教育についてもきちんと取り組んでいっていただけないかと,それをどこでやったらいいのかというところがわからないで発言しておりますけれども,西原会長にちょっと道をつけていただくようなことをお願いしたいなというふうに思いまして,発言させていただきました。
○西原会長
ありがとうございました。
「生活者」というのは,滞在する220万人のだれもが生活者でございまして,その中には当然子どもも入っているということになります。今回は市民生活にとって基礎的な事柄というので,それを横断するようなカリキュラムとして提案しておりますけれども,そのほかにもそれぞれの職業に特化する,あるいは,育児,子どもを育てることに特化する,それから,学問・研究に特化する,その他いろいろのカリキュラムを別途立てていかなければいけないことであろうと思いますし,特に子どもは育っていく過程で母語との関係も非常に重要だというような研究者からの指摘もあり,非常に重要な課題であるというふうに認識しております。
文部科学省のほうでは,JSL(Japanese as a Second language)カリキュラムというのが,既に学習言語または教科学習とのかかわりで,完成しておりますけれども,普及という面におきましてまだあまり知られていないということがあり,そのことも参考視しつつ私どもも研修とか普及ということをカリキュラム立案の次に重要だと考えております。
日本語の支援にかかわる者が連携していろんな問題について意見を共有し,方針を共有していくということがとても必要なのであろうと,ご指摘を聞いてさらに意を強くしたところでございます。
○玉井文化庁長官
今,西原会長から大変重要なご指摘をいただきました。生活者としての外国人全般の国語としてのカリキュラム,いずれこれは指導方法とかあるいは教材までこれからご議論を深めていただくわけでございますけれども,そうしながら文部科学省の初等中等教育局で子どもの日本語の問題,それから,高等教育局は留学生の問題がございます。あるいは,他省庁,特に外務省のほうになりますと,海外における日本語教育をどうするか。それから,国内に入られる留学生のことになりますとビザの関係も含めて法務省も関係ございます。それぞれ多岐にわたっておりますけれども,日本語教育という目で文化庁がイニシアティブをしっかり持って,あるべき姿を模索していくべきだろうと思って,そこの方向に向かっていろんな準備をしたり,連絡をとりあったりしているところでございますので,いずれ西原会長にもご相談しながら,いろいろとお知恵を貸していただければと思っております。
○西原会長
石上委員,どうぞ。
○石上委員
石上でございます。私は大学におりますころは日本の古代史を研究してまいりました。そのことで,今,日本語教育のお話を伺いまして,ぜひここで一言述べさせていただきたいと思っております。
資料3−2の13ページに「文化財を通じた国際協力・交流の推進」という項がございまして,その3つ目の○の2行目のところに,「伝統的な芸能や技能等も含めて,日本の伝統文化を戦略的に海外に発信する取組の充実を図ることが必要である」ということがございます。このことが文化政策部会のワーキンググループで議論になりましたときに多少発言させていただきましたけれども,私が述べさせていただきたいのは,特に欧米,アメリカ,それからヨーロッパのいわゆる先進国における日本研究の衰退ということでございます。
それはどういうことかと言いますと,日本におきましても国文学でありますとか歴史学の古いところは学生がもう来なくなっていると。第三言語を学ぶような難しさがあるということもありますが。特に外国におきまして,日本の前近代言語を学ばなければ日本文化を知ることができないという非常に大きな問題がございます。ところが,例えばアメリカでしたらば,ASというのは年次総会がございまして,そこにまいりますと,東南アジアから日本まで広く分科会があるわけでありますけれども,年々日本のセクションは減っております。特に日本の前近代,明治以前,プリモダンとかアーリーモダンのセクションというのはどんどん減っている。
これはなぜかと言いますと,アメリカにおいて日本研究が衰退を始めているということであります。まだ有力大学において日本語を専攻する学生たちは非常に多くて,特に西海岸とか東部においては多いということが言われておりますけれども,一方でフルプロフェッサーが減っていると。古典文学,美術,歴史という分野で減っております。これはどこにシフトしているかというと,中国にシフトしているというふうに言われております。
数年前に福田総理が「ジャパニーズ・イニシアティブ」でしたか,そのようなことを政策提言されまして,今でもジャパン・ファンデーションなんかは積極的になさっていますけれども,大きな予算で日本文化の外国での研修というようなものの基礎をつくるということを発言されたように私なりに覚えております。それを聞いたときに,私の知人のアメリカの大学の先生が大変喜んで,自分たちが苦労してきたことがこれで報われるというか,これから可能になるのではないかというふうに考えられたそうであります。
私はどういう経験をしてきたかと言いますと,日本語さえしゃべれればいいということで,コーネル大学で1回と,南カリフォルニア大学で2回,それから,スウェーデンのストックホルムの王立工科大学で1回,それぞれ夏1カ月の日本史の史料を読むワークショップというのをやってまいりました。それは日本の古典語をどのように,古典史料をどのように読むかというものです。そのときに,これは学術的なことにかかわりますけれども,日本の文化に関心を持っている若い人たちが非常に多い。だけれども,それがアカデミックな日本文化の研究にいくのか,またはそこの言葉だけでとまってしまうのかという大きな問題があります。
そこを超えるためには,13ページのところにありますように,日本の伝統文化を戦略的に海外に発信する取組の充実という枠組みと,もう一方で,国際交流基金でありますとか,そのようなところがなさっているようなものとが一緒になって,文化財でありますとか,芸能でありますとか,または武道。そういうふうなことを絡めて日本文化を発信して,国際社会の中での日本の位置をもう一度取り戻していく。特にアメリカにおける日本理解の基本になるのは,どれだけアカデミシャンがふえるかということにあるというふうに私は思っております。
そういうことで,今の大変な方たちを救う日本語の教育ということもありますし,また,別の意味での日本語,広い意味での古典語まで含めた日本語の教育というようなことも,文化財の活用とか利用とかということと絡めてぜひご検討願いたいと思います。
○西原会長
ありがとうございます。
長官,何かございますか。
○玉井文化庁長官
さらにこれを議論する中でまたご意見いただけると思いますので,もう少し深めていければと思います。
○西原会長
ありがとうございました。
文部科学省,文化庁は国内のことを,そして,外務省は海外のことをというような,いわゆるデマケというのがあるやに聞いておりますけれども,国家戦略としてはみんなで一緒にということが大切ということでございましょうね。
○玉井文化庁長官
これからの時代は,それぞれ持っている強みだとか,それぞれの手段,各省それぞれのツールがございますから,デマケというよりはどう協力していくか。多分これは宮田部会長がお書きになった「協働」の力なんだろうと思いますけれども,そういう方向で頑張ってみたいと思っています。
○石上委員
アカデミックな日本語教育の前に高度な日本語教育というのが必要なわけでありますけれども,ご承知かと思いますが,米加大学連合というものがございまして,それはスタンフォードが拠点を担っていますが,横浜のみなとみらいにIUCという日本文化研究交流センターというところがあって,そこに毎年50人ぐらい,アメリカの大学の優秀な,日本を研究したいと,ビジネスから歴史まで含めてですけれども,学生たちが1年間語学研修にきています。そこでどういう日本語教育をしているのかとか,いろいろな日本語教育の側面があると思いますので,そういうような経験も大変重要で,知っておくべきことだと思います。
そこのセンター長の方は今,桜美林の先生でいらっしゃいますけれども,伺ったところでは,ファンドレージングができなくて困っていると。つまり,アメリカの財団なものですから,日本でうまくファンドレージングができないというようなことも聞いて,そのために留学生を増やしているんだとおっしゃっていますけれども,そういうことまで含めて幅の広い目で日本語教育というものをぜひ文化の振興のためにご検討いただければと思います。
○堤委員
それに関連いたしまして一言述べさせていただきたいと思います。
今は日本の経済力もちょっとダウン気味ですけれども,非常に調子がよかったころは特に欧米の大学に対して,欧米の大学ではいわゆるネームドプロフェッサーとか,何とかチェアと言いまして,講座を持てるわけですね,講座を寄附によって持てる。ですから,ある意味では文化庁から出ているお金でもいいだろうし,外務省から出ているお金でもいいだろうし,民間企業から出ているお金でもいい。コーネルとかスタンフォード,コロンビア,非常に日本研究が盛んな,私がいたインディアナ大学も非常に盛んなんですけれども,そういうところにお金が前に比べて入りにくくなっているというか,減少気味です。そうすると,どうしても学びたい人も中国語をやったほうがいいのかなというふうになってきまして。
今,中国語が盛んだというお話が先ほどございましたけれども,今は特に中国政府が力を入れているのが中国語教育でございます。全世界的にいろいろな大学にそういう講座をつくって非常に力を入れております。もしそういう面から日本が攻めていくとしたら,そういう講座を開設するような,そのくらいまでの踏み込み方をしたほうがいいのではないかと思います。
○西原会長
その他ご発言ありますでしょうか。
課題は山積,また夢も限りなくというところでございますけれども,各分科会・部会,それから,この文化審議会全体として発信できることが山とあるということを認識いたしました。今後ともどうぞ委員の皆様方にはよろしくご審議,ご検討,ご発言のほどをお願いしたいと存じます。
少し時間は早いのですけれども,もし格別のご発言がないようでございましたら,以上をもちまして第51回の文化審議会総会を閉会とさせていただきます。どうもご協力ありがとうございました。
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