[1]成熟社会における成長の源泉

高度経済成長を経た我が国は,バブル崩壊後の長引く経済的低迷の中で人口減少期を迎えており,今や成熟社会として歩み始めつつある。もとより資源の少ない我が国においては人材が重要な資源であり,「ハード」の整備から「ソフト」と「ヒューマン」への支援に重点を移すとともに,国民生活の質的向上を追求するためにも,人々の活力や創造力の源泉である文化芸術の振興が求められる。

文化芸術は,その性質上,市場のみでは資金調達が困難な分野も多く存在し,多様な文化芸術の発展を促すためには公的支援を必要とする。同時に,文化芸術は,国家への威信付与,周辺ビジネスへの波及効果,将来世代のために継承すべき価値,コミュニティへの教育価値といった社会的便益(外部性)を有する公共財である。

また,文化芸術は,子ども・若者や,高齢者,障害者,失業者,在留外国人等にも社会参加の機会をひらく社会的基盤となり得るものであり,昨今,そのような社会包摂の機能も注目されつつある。

このような認識の下,従来,社会的費用として捉える向きもあった文化芸術への公的支援に関する考え方を転換し,社会的必要性に基づく戦略的な投資と捉え直す。そして,成熟社会における新たな成長分野として潜在力を喚起するとともに,社会関係資本の増大を図る観点から,公共政策としての位置付けを明確化する。

文化芸術は,過去から未来へと受け継がれる国民共有の財産であり,その継承と変化の中で新たな価値が見出されていくものである。公共政策として文化芸術振興を図る際には,こうした文化芸術の特質を踏まえ,短期的な経済的効率性を一律に求めるのではなく,長期的かつ継続的な視点に立って施策を講ずる必要がある。

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