第11期文化審議会第4回総会(第56回)議事録

平成24年2月27日

【滝波調整官】  事務局の方から失礼します。ほとんどの先生方にお見えいただいていますので,冒頭に資料確認だけさせていただきまして,その後会議を始めていただきたいと思います。
お手元には今日の配付資料を御用意しております。お手元の議事次第がまずございまして,本日の議題は,各分科会等における審議状況についてとなっております。その下,資料1−1としまして,文化政策部会における審議状況と今後の主な課題。資料1−2として,文化審議会文化政策部会,文化芸術への助成に係る新たな仕組みの在り方に関するワーキンググループ「意見のまとめ」。資料2としまして,美術品補償制度部会における審議状況と今後の課題。資料3−1としまして,著作権分科会における審議状況と今後の主な課題。資料3−2としまして,平成23年度国際小委員会の審議の経過等について(概要)。資料3−3としまして,平成23年度著作権分科会における審議の経過等について。資料4−1としまして,国語分科会における審議状況と今後の主な課題。資料4−2としまして,国語分科会で今後取り組むべき課題について。資料4−3としまして,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会(第11期)の審議経過について。資料4−4として,「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案,教材例集抜粋。同じく資料4−5としまして,「生活者としての外国人」に対する日本語教育における日本語能力評価について。資料5−1としまして,文化財分科会における審議状況と今後の主な課題。資料5−2としまして,指定等の答申をした文化財の概要。以上が資料で,その下には参考資料1としまして,第11期文化審議会委員の名簿でございます。参考資料2としましては,文化芸術関連データ集となっております。
事務局の方で取りそろえておりますけれども,万一過不足がございましたらお申しつけいただけたらと思います。
特にないようでしたら,早速会長の方で始めていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【西原会長】  ただいまより文化審議会第56回を開催いたします。年度末でありまして,また,御多忙のところ御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
本日は,森副大臣が御出席くださっておりますので,開会に当たりまして,一言御挨拶いただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【森副大臣】  副大臣の森でございます。第56回文化審議会の開会に当たりまして,一言御挨拶を申し上げたいと思います。
委員の皆様には,平素から文化芸術の振興に格別の御指導,御支援を賜り,厚くお礼を申し上げます。本日の総会では,文化政策部会,美術品補償制度部会と著作権,国語文化財の各分科会の審議状況等について御報告いただきます。1年間にわたり,大変御熱心に御審議いただいてまいりましたことにまずもって心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
現在,衆議院予算委員会で平成24年度予算案に関する審議が行われておりますが,文化庁予算としては過去最高額の1,074億円を確保いたしました。これは極めて厳しい財政状況のもとではありますが,昨年2月に本審議会の答申を経て閣議決定いたしました文化芸術の振興に関する基本的な方針の2年次分として内容を盛り込んだものであり,文化芸術の一層の振興を図るために必要な経費を計上しております。
文化芸術は人々がしんにゆとりと潤いを実感できる心豊かな生活を実現する上で不可欠なだけでなく,創造的な経済活動の源泉,人々をひきつけるソフトパワーであります。また,いわゆるクールジャパンという言葉にも象徴されますように,我が国の文化芸術は国際的にも魅力あるものとして多くの注目を集めております。間もなく東日本大震災から1周年を迎えようとしている中で,我が国がまだまだ国難とも言える状況に直面しておりますが,文化芸術の力を通じて,被災地のみならず,我が国全体の創造的復興と新たな成長を目指し,被災者を始め,国民全体に大きな希望と生きる勇気を与えることが大変重要であります。委員の皆様にも,震災直後から様々な形で震災復興への御支援,御協力を頂いていることに重ねて感謝を申し上げます。
私といたしましても,国会における議論などを通じて,国家戦略としての文化芸術振興や文化芸術による創造的復興の重要性,必要性を力強く訴えてまいりたいと思います。
最後に,今後に芸術文化,著作権,国語の各分野の振興や,文化財の保存,活用に全力を尽くしてまいりますので,引き続き様々な形で委員の皆様の一層の御支援,御協力をお願い申し上げまして,簡単ではございますが,開会に当たっての私のからの御挨拶とさせていただきます。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。

【西原会長】  どうもありがとうございました。御多忙中おいでいただき,御挨拶いただきましたことを本当に感謝しております。
なお,副大臣には,公務御多忙でございますので,これにて御退席くださるということでございます。本当にどうもありがとうございました。

【森副大臣】  よろしくお願いいたします。

【西原会長】  さて,本日は,議事次第にもありますとおり,各分科会等における審議状況について御報告いただくこととしております。本日は,今期の任期満了日ということでございまして,今期最後の審議会となります。委員の皆様方には,どうぞ御忌たんのない御意見をよろしくお願いいただきます。
審議の手順につきましては,まず,各部会,分科会の審議状況等について,10分程度で一通り御報告いただきまして,その後一括して御意見を頂く時間とさせていただきたいと存じます。御報告の順番は,文化政策部会,美術品補償制度部会,著作権分科会,国語分科会,文化財分科会の順にお願いしたいと存じます。
では,まず,文化政策部会の審議状況につきまして,宮田部会長からどうぞよろしくお願いいたします。

【宮田会長代理】  ありがとうございます。お時間を頂戴いたします。
まず,お手元の資料1並びに資料1−2がベースでございます。それをもとに約10分間の中で御説明させていただきたいと思いますが,細かいことは1及び2をごらんいただきたいというふうに思っております。
23年2月に閣議決定された第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の着実な進行管理を図ることということでございまして,6回にわたって審議をいたしました。1回からは何はともあれ,大震災への対応,それから,第3次基本方針の進捗状況等。3回からはアーツカウンシルワーキング部会の設置の了承。4回,第3次基本方針の概算要求の反映状況とかアーツカウンシルのワーキングの検討の開始等でございます。第5回になってアーツカウンシルのワーキングの意見をまとめ,政策評価手法等を協議しました。6回になって第3次基本方針の予算案の反映状況並びに劇場等の在り方をまとめて,政策評価手法経過報告,独法の改革報告等を行いました。
少なくとも諸外国におけるアーツカウンシルに相当する新たな仕組みの導入の試行をいろいろと考えまして,9月に部会の下に文化芸術の助成に係る新たな仕組みの在り方に関するワーキンググループを設置して,3回でございますが,調査研究,検討を行い,12月に意見をまとめました。ワーキングの内容としましては,新たな仕組みの対象の拡大,新たな仕組みの体制の整備,新たな仕組みにおける事後の評価の充実ということでございます。少し内部に入るならば,トップレベルの舞台芸術創造事業を演劇及び伝統芸能・大衆芸能の分野にも広げるべきではないか。あるいは,トップレベルの舞台芸術創造事業以外の事業についても新たな仕組みの導入の可能性を検討しようということでございます。それから,新たな仕組みの体制の整備としましては,POの増員,調査員の拡充,振興会の調査研究機能の強化など,今後のことについてもいろいろと調査いたしました。
振興会の環境整備を進めるのと同時に,文化庁において文化芸術の助成の在り方全体に関する考え方についても検討いたしました。第3次基本方針の重点戦略に基づく施策の評価手法の確立に向けた検討を行ったということでございます。新たな仕組みの試行について24年度以降実施されるフォローアップが的確に行われるようにということでございます。どちらにいたしましても,このPD,POが活躍するには,お互いの信頼関係ということが一番大切なのではないかということでございます。
次に,昨年3・11に発生した大震災によって,文化芸術の各分野に甚大な被害,影響を受けました。その復興や文化芸術の力に通じて,地域を活性化しようということで活発な意見交換が行われております。
今後の課題としまして,引き続き第3次基本方針の重点戦略に基づく着実な進行管理を図る予定でございます。その際には,第3次基本方針において施策のPDCAサイクルの確立が重要な課題とされているということでございます。今期から着手している重点政策に基づく施策の評価手法の確立に向けて調査研究の進展と一層の連携を図りたいというふうに思っております。
補足としまして,23年12月から文化庁において外部のシンクタンクへの委託をし,調査研究を開始いたしました。主な施策の個別の取組の事例について効果を把握するために実用的な様式例を作り,施策全体の評価のための様式例に向けて調査研究を継続中でございます。引き続き評価の手法やPDCAサイクルの確立に向けて調査研究をしていきたいというふうに思っております。
アーツカウンシルも諸外国のものから日本版アーツカウンシルというものをスタートさせて動いていきたいということでございますが,何しろでかいみこしをつくり過ぎますと,施策としては立派なんですが,担ぎ手がいなくなってしまうというふうなことになっても何の意味もございませんので,まずスタートする。そこから子供みこしでいい。そしてそれを徐々にみんなの手で,地域の手で大きくしていって,新しい日本に適したアーツカウンシルにしていきたい。かように思っております。
以上でございます。

【西原会長】  どうもありがとうございました。
では,先ほど申しましたように,御報告を続けていただきます。
続きまして,美術品補償制度部会の審議状況等について,青柳部会長から御報告をお願いいたします。

【青柳委員】  御報告申し上げます。昨年6月から実施,施行されております展覧会における美術品損害の補償に関する法律でございます。この部会はその12条第2項の規定に基づいて設置されているものでございます。御承知のとおり,海外から借受けた美術品に損害が発生した場合に,その損害を政府が補償制度を設けて対応するということでございまして,国際レベルの大変評価額の高い展覧会などもこの制度によって可能になっております。
お手持ちの資料2のところにこの補償制度によって開催された展覧会が5つ出ております。そして,今現在6番目のところはまだ締結されておりません。多分されるのではないかと思っていますが。これらで大体作品の評価額全体では3,000億円以上の美術品を保障することができております。適用したものの最初がプラド美術館蔵の「ゴヤ 光と影」という展覧会でございますが,これは作品もスペインの方へ返却いたしましたので,完結した事業となっております。この制度を実施し始めたことによって,世界中の大きな美術品の貸し借りというものがどういう形で動いているのか,あるいはどの国にはどういう事情があるのか,あるいはアメリカでも東海岸と西海岸では日本の補償制度を受け入れる,受け入れないという国の中においても対応の仕方が違うということが明らかになってまいりました。これからもこの運用が円滑に進むように慎重に,しかし良い展覧会をきちんと選びながら対応していきたいと考えておりますが,一種のバイプロダクトとして,この制度を受ける美術館が設備等を,美術品を展示するのにふさわしい環境を整えるというようなこともだんだん振興しておりまして,そういう意味で,日本全体の美術館活動の水準を上げることになるという状況が徐々に生まれてきております。
また,保険業界でも地震というものがあるので,日本の保険会社というか,日本での保険というのは保険会社にとって非常に気持ちの悪いものなんだそうです。ところが,この制度によって地震が起きた場合には国家補償が適用されている展覧会では1億まで免責を下げて,1億以上は国が補償してくれるという大変柔軟性のある制度になっておりますので,今までのその気持ちの悪さというものを保険会社が払拭できる可能性が出てきたということで,文化の充実というものにとってこの制度が大変大きく貢献するのではないかと思います。
それから,最後にもう1つ,国際社会の中での文化というもののやりとりというのは大変に具体的で現実的なんです。そういう具体的,現実的なところのいろいろな条件というものがこういう制度の実施によってどんどん情報が集まり出しております。これはやはりこれからの日本の文化の国際化という意味でも大変重要な情報になっていくということで,我々慎重に,しかし大きく育つように努力していきたいと考えております。
以上です。

【西原会長】  ありがとうございました。
続きまして,著作権分科会の審議状況等について。土肥分科会長からお願いいたします。

【土肥委員】  それでは,資料3−1,3−2,3−3とございますけれども,3−3に基づいて,今期の著作権分科会における審議状況等につきまして御報告いたします。
まず,法制問題小委員会における審議状況等についてでございます。今期の法制問題小委員会では著作権法第30条に規定する私的使用のための複製に係る権利制限規定につきまして,関係者からのヒアリング等を通じ,論点の整理を行うとともに国立国会図書館からの送信サービスに係る権利制限規定につきまして検討いたしました。また,これらに加えて,「いわゆる『間接侵害』に係る課題」を司法救済ワーキングチームにおいて,また,「インターネット上の複数者による創作に係る課題」を契約・利用ワーキングチームにおいて,それぞれ検討が行われ,一定の取りまとめを行ったところでございます。これらにつきまして簡単に御報告いたします。
1枚めくって,資料3−3の2ページでございますけれども,著作権法第30条に規定されている私的使用目的の複製に係る権利制限規定につきましては,ヒアリング等を通じて論点の整理をいたしましたので,今後は政府の知的財産戦略本部からの提言や関係者の意見等を踏まえて,必要に応じ課題を抽出し,適宜検討することとしております。関係団体からのヒアリング等を通じてまとめました論点の整理につきましては,上から6枚目ぐらいのところにございますけれども,別紙2にまとめてございますので,後ほど御覧いただければと存じます。
次に,国立国会図書館からの通信サービス,送信サービスに関する権利制限規定でございますけれども,これにつきましては,電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議において示された検討結果を踏まえて,法制問題小委員会において検討を行いました。その結果,電子書籍市場の形成,発展に影響を与えることのないように送信先を公立図書館等に限定するとともに,送信対象となる出版物を絶版等市場で入手困難なものに限定した上で送信サービスを実施することや,送信先における一部複製を行うための権利制限規定を設けることを適当とする旨の結論を得たところでございます。本件の詳細につきましては,別紙3というところにまとめてございますので,御覧いただければと思います。
次に,司法救済ワーキングチームの検討結果についてでございます。これは2ページから3ページにかけてございますけれども,いわゆる間接侵害等に係る課題については司法救済ワーキングチームを設置し,関係団体からのヒアリングや主要裁判例の分析等を通じて,望ましい立法的措置のあり方につき検討を行ってきました。ワーキングチームでは,一定の範囲の間接行為者について差止め請求の対象となることが明確になるよう立法的措置を講ずべきであるということを内容とする考え方の整理が示されたところでございます。考え方の整理の具体的な内容につきましては,別紙4,上から14枚目ぐらいにございますけれども,そこにございますので,御覧いただければと存じます。今後この考え方の整理をたたき台としまして,法制問題小委員会においてさらなる検討を行うこととしております。
次に,契約・利用ワーキングチームの検討結果についての御報告でございます。インターネット上の複数者による創作に係る課題については,契約・利用ワーキングチームを設置し,現行法上の整理やその特性に関する検討を行う共に,主に権利処理ルールの明確化という観点から立法措置や契約等による対応の可能性等について検討を行ってまいりました。その結果,インターネットの特性等の観点から,立法措置による対応は困難であり,契約等による柔軟な対応にゆだねる方が合理的である旨の報告書が取りまとめられております。報告書の具体的な内容につきましては,別紙5,上から17枚目ぐらいから始まっておりますけれども,そこを御覧いただければと思います。
法制問題小委員会の審議状況等に係る御報告につきましては,以上でございます。
次に,国際小委員会における審議状況等について御報告いたします。今期の国際小委員会においては,インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方や著作権保護に向けた国際的な対応の在り方について検討を行うとともに,知財と開発問題,フォークロア問題への対応の在り方について検討いたしました。これらについて簡単に御報告いたします。
資料3−3で言いますと6ページでございますが,まず,インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方については,今期海外における著作権侵害への効果的な対応を行う団体からヒアリング等を通じて侵害への対応の今後のあり方,それに対する政府による支援方策等について検討を行いました。当該ヒアリングにおきましては,インターネット上の違法コンテンツ等の侵害実態及び権利執行に係る対応等の現状が紹介され,インターネット上の違法コンテンツを監視し,削除要請を行うシステムの活用,侵害発生国の関係機関等との連携強化や違法コンテンツの流通防止に向けた意識啓発に関する事例が紹介され,これらの取組を更に進めていくことが必要とされております。
次に,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方についてでございますが,国際小委員会において視聴覚実演の保護や放送機関の保護に向けた条約に関する議論及び権利の制限と例外に関する議論が行われておりますWIPOの著作権等常設委員会における議論の進捗状況が報告されました。こうした中,特に視聴覚実演の保護については,昨年開催されましたWIPOの第49回総会において,条約採択のための外交会議を本年6月に開催することを合意するという具体的な進展がございました。このほかにも放送機関の保護については議論に加速が見られており,今後も引き続き伝統的放送機関の保護の在り方について議論を行っていくこととされております。また,権利の制限と例外に関する議論においては,これまでに行われた視覚障害者等に関する国際文書の提案等の議論のほか,図書館・アーカイブに関する権利の制限と例外についても議論が始められているところでございます。
次に,知財と開発問題・フォークロアの問題への対応のあり方に関し御報告いたします。これらの問題に関し,先進国・途上国間で意見に隔たりがある状況下において,相互に合意可能な方策,又は相互理解を深める方策について,WIPOの遺伝資源・伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会において議論が行われており,今期の国際小委員会においては2011年の当該委員会の内容についての報告がなされました。その中でもフォークロア,伝統的文化表現についてはIGC,先ほどの政府間委員会でございますけれども,ここにおけるテキストベースでの議論が具体的に進みつつある状況となっております。
国際小委員会の審議状況等に係る御報告につきましては,以上でございます。
以上,著作権分科会の審議状況等につきまして御説明申し上げました。今後は結論の得られた課題につきまして,文化庁におきまして立法措置を含め,必要な作業を進めていただきたいと考えております。また,今後も引き続きの検討が必要とされた課題につきましては,来期以降の分科会におきまして順次検討を進めてまいりたいと考えております。
私の方からは以上でございます。

【西原会長】  ありがとうございました。
続きまして,国語分科会の審議状況等につきまして,林分科会長から御報告いただきまして,その後短く私からもつけ加えさせていただきます。

【林委員】  資料1と資料2につきまして御報告申し上げます。このうち,国語施策の関係につきましては私の方から,それから,ただいま会長がおっしゃいましたように,外国人に対する日本語教育施策の関係につきましては,その小委員会の主査を兼ねていらっしゃいます西原会長の方から御報告いただくこととなっております。
今期の国語施策関係の小委員会でございますが,前期までに常用漢字表の見直しを終了いたしまして,懸案の事項に区切りがついたというところから,それからもう1つは,情報化社会の中で日本語や日本語の環境がどんどん変化しているというふうなことがありまして,このあたりで今後の国語施策の課題について全面的な見直しをし,それから,それに基づいて新たな方針を決定していくということが必要であろうということで,国語分科会で今後取り組むべき課題について,問題点整理小委員会における意見のまとめという,資料2がそれに相当いたしますけれども,こういう取りまとめを行いまして,1月31日に国語分科会で了承されております。
その中身でございますが,時間がありませんので,取りまとめた14ページの紙で御説明申し上げたいと思います。まず,今期の議論の特徴についてでありますが,今日も何度も言及されておりますように,東日本大震災が起こりました。その直後にありましては,特に緊急時における日本語の分かりやすさというふうなことが大きなトピックになりました。ああいう場面で言葉が人命を救うというふうなことが再認識されまして,これからそういう問題について文化審議会として,私どもの国語分科会としてもどういうふうに取組んでいくべきかというふうなことが議論になっております。
それから,今後の施策に関しましては,これまでの施策を振り返りまして,これまでの施策が,いわゆる基本的な考え方を示すタイプと,それから具体的な言葉の使い方の指針などを示すタイプ,それから,常用漢字表のように一般的な文章を作成する場合のよりどころを示すタイプと大きく3つに分けられるだろうというふうな考え方のもとから,これからもこういう分類に従って施策ごとにどういうふうな施策を立てていったらいいかというふうなことを議論すべきだというところに話が詰まってきております。
今後の具体的な検討事項でありますが,まず,公用文書の作成について,その指針となるような,そういう内容を整理する必要があるのではないかというのがその1点でございます。公用文作成の要領につきましては,昭和26年に国語審議会で作成したものがありまして,これは内容が非常に古くなっておりますので,こういうものを見直した上でできるだけ公用文が全般として国民に分かりやすく伝わるような施策を具体化していく必要があるだろうという,これがその第1点でございます。
それから,常用漢字表はできましたけれども,ただ,それを作っただけでは,日本語の表記がこういう時代の表記として適切になるかどうか疑問でございまして,例えば,同訓異字の漢字の使い方とか,あるいは字体に関わる考え方等についてもう少し具体的なことを考えていく必要があるのではないか。あるいは常用漢字につきましては,やはり定期的な見直しということがどうしても必要になりますので,その方法についても検討する必要があるのではないかといったことがございました。それから,言葉遣いにつきましては,先ほど申し上げました緊急時の言葉遣いであるとか,あるいは機器を使った言葉遣い,これはそれに干渉するものではありませんけれども,そういうものを検討した上で,必要な事項があればそういうものについて検討していくというふうなこともこれからの課題だというふうに考えているところでございます。
それから,コミュニケーションの在り方。これも機器のコミュニケーションが発達いたしますと,どうしても対面のコミュニケーションの割合が下がってまいります。これからの社会のコミュニケーションの在り方について,これを総合的に検討した上で,コミュニケーション能力の何たるか,それに対して一体どういうふうな取組が必要かというふうなこともこれからの大きな課題であろうというふうに話を進めているところでございます。
その他,幾つかございますが,省かせていただきまして,今後の主な課題でありますが,この意見のまとめを受けまして,来期は課題検討小委員会といったような小委員会を設置いたしまして,更に個々の項目について深掘り検討し,諮問事項とするかどうかなどを慎重に整理してまいりたいというふうに思っているところでございます。
以上でございます。

【西原会長】  ありがとうございました。
続きまして,資料4−3,4−4,4−5につきまして,日本語教育小委員会の方から御説明申し上げます。今期審議いたしましたのは,資料4−3,1枚紙でございますけれども,その2番目の四角で囲われた領域のローマ数字の3でございますけれども,平成21年1月27日の時点で今後の課題としてお示ししました標準的なカリキュラムの開発,参考例としての教材作成,そして,日本語能力及び日本語指導力に関する評価のうち,今期は参考例としての教材作成及び日本語能力についての評価のことを審議いたしました。その成果物と申しますのが資料4−4,カリキュラム案の教材例集の抜粋と,それから4−5,日本語能力の評価についてということでございます。日本語教育小委員会はこのところ生活者としての外国人に対する日本語教育ということをテーマにして取組んでまいりました。皆様よく御存じのように,近年少子高齢化その他の理由で経済の産業構造等も転換しつつあり,海外の人材と海外で,あるいは海外から招へいして日本で共に働くというようなことが起こっております。滞在形態のいかんに関わらず,生活者として共に働くということが喫緊の課題となっておりますので,そのことにつきまして検討した結果,基本的なカリキュラム案を策定し,それに基づきまして,それを実際に地域等で使っていただくためのガイドブックを作成,そして教材例集をつくりました。
1枚めくっていただくと,そこに目次がございまして,このようないわゆる生活上の行為につきまして実際にこういうふうなテーマに従って学んでいただき,そして日本の社会の中で生活者として日本人とともに社会を創っていっていただくというようなことを目標にしまして,このような項目について教材をつくっております。後でおめくりいただきますと,例えば病気になったときというのは,外国では一番心細いものでございますけれども,そのようなときにどういうような行動体験中心の教育,日本語の指導が可能なのかということを例にそこに抜粋しております。
それから,資料4−5でございますけれども,これはそのようにして日本で生活し,日本語の学びを続けていただく外国人の方々の日本語能力につきまして,それをペーパーテストで一斉にというような様式ではなく,その方々一人一人が自分の能力を自分でも把握し,かつ支援する者の助けも得ながら,どのような生活上の行為について自分はどの程度獲得しているのかというようなことを計る手立てとして,ポートフォリオというような,これは記録集というかファイルでございますけれども,そのようなものを各自がつくって持っていただくための方策ということで,少し分厚でございますけれども,生活上の行為のリストとともに,どういうふうにしてそれを計っていくかというようなことをまとめております。これも大部の資料でございますけれども,後でお目通しいただければと存じます。
日本語教育小委員会につきましては以上でございます。
それでは,文化財分科会の審議状況等につきまして,佐々木分科会長からの御報告を頂きます。

【佐々木委員】  それでは,今期,第11期の文化審議会文化財分科会における審議状況等について御報告いたします。資料5−1を御覧いただきたいと思います。
文化財分科会の開催状況でございますが,今期は昨年2月28日に第112回分科会を開催し,先日開催いたしました2月17日の第123回分科会まで全12回開催いたしました。文化財分科会では文化財保護法第153条の規定により,文部科学大臣又は文化庁長官から諮問された懸案につきまして,調査審議を行っております。今期は重要文化財の指定,重要無形文化財保持者の認定,史跡等の指定等について157件,それから,有形文化財の登録等について549件,文化財や史跡等の現状変更の許可等について2,000件の答申を行いました。
それでは,答申を行いました文化財について幾つか御紹介いたしたいと思います。
建造物関係の文化財につきましては,今期は14件の指定について答申いたしました。資料5−2の1ページを御覧いただきたいと思います。平成23年10月の第119回文化財分科会におきまして,旧毛利家本邸の重要文化財へ指定するよう答申いたしました。旧毛利家本邸は旧長州藩主の毛利家が大正5年に建設した住宅でありまして,大規模で複雑な構成の建築を上質な意匠と高度な木造建築技術を駆使してまとめるとともに,コンクリート造りや鉄骨造り,機能的な配置計画などの近代的な建築手法が効果的に取入れられた近代における和風住宅の精華を示すものでございます。
重要有形民俗文化財につきましては,1月の第122回文化財分科会において1件答申いたしました。資料5−2の2ページを御覧いただきたいと思います。福應寺毘沙門堂奉納養蚕信仰絵馬は,宮城県角田市鳩原に所在にする福應寺毘沙門堂に江戸時代半ば以降,養蚕の安全と多収を祈願して奉納されました2万3,000点を超える絵馬群であります。毘沙門天信仰と結びついた養蚕信仰絵馬の奉納習俗を示すものでありまして,全国的にも類例のない絵馬のまとまりでございます。この地域における養蚕の在り方や全国的な養蚕に関する信仰の習俗との比較の上でも重要な民俗文化財でございます。
史跡名勝天然記念物については64件の指定等について答申いたしました。資料5−2の3ページを御覧ください。今月開催いたしました第123回文化財分科会において,長崎県松浦市の鷹島神崎遺跡を史跡に指定するよう答申いたしました。鷹島神崎遺跡は長崎県本土北部,伊万里湾に浮かぶ鷹島の南岸東部に位置する神崎港地先の海域に所在する蒙古襲来にかかわる古戦場でございます。この海域は1281年でございますが,弘安(こうあん)の役の際に元軍の船団が暴風雨により沈没した地点として伝えられておりまして,昭和55年度から開始された発掘調査では船体の一部や武器,武具類などが多量に出土いたしまして,分析の結果,これらの遺物は弘安(こうあん)の役で沈没した元軍のものであるがい然性が高いとされております。
蒙古襲来は鎌倉幕府を崩壊させる遠因となった日本史上重要な事件であり,遺跡から出土する様々な遺跡は従来文献・絵画等によってしか知られなかった蒙古襲来の様相を具体的に明らかにしたものであることから,当時の軍事・外交などを理解する上で極めて重要な遺跡でございます。
次に,世界文化遺産特別委員会の調査についてでございます。今期も世界文化遺産特別委員会を設置し,調査を行っております。今期は武家の古都,鎌倉及び富士山をユネスコへ推薦すること等について調査を行い,その結果については平成23年9月の第118回文化財分会において報告を受け,推薦することを決定いたしました。なお,「平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群−」と,それから自然遺産候補であります小笠原諸島につきましては,世界遺産委員会の諮問機関から世界遺産一覧への記載が適当との勧告がなされた旨,前回,6月の総会にて御報告いたしましたが,平成23年6月25日にユネスコ世界遺産委員会において世界一覧表への記載が正式に決定されておりますので,ここで御報告いたします。
次に,無形文化遺産保護条約に関する特別委員会の調査についてでございます。今期も無形文化遺産保護条約に関する特別委員会を設置し,調査を行っております。今期は和食,日本人の伝統的な食文化をユネスコに申請すること等について調査いたしました。その結果につきましては,今月開催いたしました第123回文化財分科会において報告を受け,平成24年3月にユネスコへ申請する旨,決定いたしました。なお,平成21年8月に提案された壬生の花田植及び佐蛇神能につきましては,昨年11月にインドネシアのバリ島で開催されました第6回政府間委員会において代表一覧への記載が決定されました。
以上,文化財分科会の今期の審議状況について,大まかではございますが,御報告させていただきます。

【西原会長】  ありがとうございました。それぞれの御報告,時間を厳守していただきましたので,大分自由討議の時間の余裕が生じました。
それで,これより意見交換,自由討議としたいと存じます。どの部会,分科会に関するものでも結構でございますので,御意見,御質問等ございましたらお願いいたします。また,先ほども申しましたように,今期最後の審議会でございますので,今期の文化審議会を振り返っての御意見とか御感想,それから文化政策全般に関する御意見等,御自由におっしゃっていただきたいと存じます。どなたからでも結構でございますので,どうぞよろしくお願いいたします。はい,鷲田委員。

【鷲田委員】  ちょっと質問させていただくという感じになろうかと思うんですが,日本語教育の問題なんですけれども,日本に在住されている外国人の方で一番困るのが,標準カリキュラムの例にあるように,医療,病気になったときと,あともう1つ,事故とかトラブルに巻き込まれたときの法律的なことで,どちらも日本人でも微妙なところを表現しにくいものですが,日本語を学ばれると同時にやはり現実問題としては適切な通訳というのが必要になると思うんです。
行政としてこの医療通訳とか司法通訳というものの養成であるとか,あるいは,非常に生命に関わるものなので,過重な責任がこの通訳の方にかかるとなり手もなくなってきますから,そういう方たちの保護であるとかということが,厚労省とか法務省とか文科省で横断的に外国人の生活をサポートする取組として,国としてそういうことが現在進められているのかどうかという。

【西原会長】  これはもしかしましたら,日本語教育に関する省庁横断的な検討の部会を文化庁国語課主導で組織していると承知しておりますので,そちらの方でもし御用意がありましたらお答えいただくのではないかと思うんですけれども。

【早川課長】  国語課長でございますけれども,補足して説明させていただきます。
ただいま委員の先生から御質問いただきましたとおり,日本語教育と申しましても各省庁それぞれ所掌事務の範囲内,例えば就労のための日本語教育,あるいは人材育成のための日本語教育等々をそれぞれやっております。そこで日本語教育も総合的に各省庁等と連携しながらやっていくことが必要であろうということで,既に関係省庁が集まった会議というものは日本語教育の関係府省連絡会議ということでこれまでも開催しておりまして,その中で必要な情報交換等をさせていただきながら,お互いに連携協力して進めてきておるところです。実は,単に関係府省庁だけが集まるだけではなくて,そこに日本語教育にかかわる関係団体,関係機関等々も加わっていただこうということで,それは文科省の関係の団体さんだけではなく,例えば外務省の関係で言いますと国際交流基金とか,あるいはJICA等々,また,厚労省の関係の団体にも入っていただきまして,日本語教育推進会議というものを,先月,1月23日に1回目のキックオフの会議を開催させていただきまして,そこで私ども関係省庁から行政説明をさせていただくとともに,関係団体さんの方から事例発表,それから課題認識について発表していただきました。
今後,次回はまた3月に開催することとしておりますけれども,関係団体さんの方からいろいろと課題発表というものを引き続きやっていただきまして,私ども事務局でその課題というものを整理いたしまして,関係省庁とも課題を共有しながら,何ができるかということを今後詰めていきましょう。今そのような日本語教育推進会議というものが立ち上がったところでございますので,先ほど御指摘にありました医療の関係で,あるいは通訳の関係とか,そういったものもそういった場も通じながら関係省庁と共有しながら日本語教育をトータルとして連携しながら進めていきたいというふうに考えております。

【鷲田委員】  よろしいでしょうか。それを日本語教育という枠組みの中でやるのは少し狭くなり過ぎないか。つまり,実際にはそういう通訳の養成とか,あるいはその人たちに一体医療現場とか司法の現場にどこまで入っていただくことがふさわしいのかという,そういう検討はより大きな文脈の中でやるべきではないのでしょうか。

【早川課長】  今申し上げましたのは国語課ということで,日本語教育という切り口で申し上げましたけれども,その場をきっかけとして,是非それはそれぞれ厚労省なら厚労省なりにそういうセクションがございますので,そこにきちんとつなげるような形で,そういう場も活用しながら連携して取組んでいきたいというふうに考えております。

【西原会長】  長官の方から一言お願いいたします。

【近藤長官】  鷲田先生の御指摘は大変重要な点だと思います。今の日本語教育という枠組みでは,おっしゃったように必ずしも十分に手当がし切れない部分であろうかと思います。といいますのは,どういう日本語を教えていくか,危機対応できるように教えていくかということを超えて,それではできない場合にどうするかということであるとすれば,恐らくは何らかの,例えば在住外国人の方々の人権をどう守るかというような観点から,あるいは警察なり日弁連なり,そういうような観点から,正面から対応しないと恐らく日本語教育の延長では十分手当ができないような,直感的にはいたしますので,政府として今後どういう対応をとれるのか,日本語教育の枠にとらわれず,今鷲田学長のおっしゃった点に正面から取組む方法をちょっと私も考えつつ,また関係者と政府部内で話をしてみたいと思います。
恐らくおっしゃった点はやや書き落ちている嫌いがあるような気がいたしますので,しばらく私どもで引き取らせていただいて,また何か動きがございましたら個別に,あるいはこの審議会を通して御報告させていただきます。

【西原会長】  それでよろしゅうございますでしょうか。

【鷲田委員】  ありがとうございました。はい。

【西原会長】  私個人もそのような場面で,法律ですとか医療の関係の通訳を介して外国人の方と接するチャンスがございますけれども,通訳の方々は目一杯というか,あらゆるところを1人でかけ持ちして,例えば,英米仏というような話者の多い,通訳者の多い言語というのは手当が行き届かないということはございませんけれども,例えばミャンマーの少数民族の言葉ですとか,それから,トルコのクルド語ですとか,そうなりますと,もう通訳者のいうのは全国に数えるほどしかいなく,そして,医療であろうが,法律であろうが,あらゆる分野に1人で関わるというようなことが現実には起こっており,そして,その通訳の質についての,これを判断できる人間も余りいないというような。だから,裁判で本当にちゃんと被告の言い分が通訳されているかというようなこともあるかと思います。
ただ,これは日本だけの問題ではないと承知しておりまして,各国で同じような人材の,相互に移動するというような状況の中で本当に大きな問題になっているというふうに承知しておりますが,今長官がおっしゃいましたように,政府レベルでも大きなところで考えていただくということが必要かと存じます。
ありがとうございました。

【青柳委員】  よろしいでしょうか。

【西原会長】  はい。

【青柳委員】  今の件なんですけれども,僕も鷲田先生がおっしゃることを非常にいつも感じておりまして,特にネイティブでない日本に住んでいる方々に対しては,一種の社会的弱者なんです。これから国際化していく中でその方々をどうきちんと制度的にやっていくかということが非常に重要で,例えば法律の場合には法テラスという法律に恵まれていない方々を,後で道垣内さんに補足してもらいたい,法テラスというような組織が日本全体に今作られていって,それで直接弁護士などに頼めない人もそういうところへ行って,法の恩恵を授かることができるようになっているので,それが今申し上げた外国人の方々などには適用されていかないんです。
ですから,これから日本全体として非常に重要な問題であり,この辺が文化的にも非常に重要なことだと思う。特にキリスト教国ではそういう部分が教会という行政組織ではないネットワークがカバーできるようになっているんです。ところが日本は行政というものが最も大きなネットワークになってしまっているので,それを補うネットワークがなかなかできてきていない。だから,これは本当に重要なことだと私は考えております。

【西原会長】  ありがとうございました。
これに関してでも,ほかのテーマでもよろしゅうございますが,何かご発言がございますでしょうか。また御発表に補足する御意見,御報告等がございましたら,まだ少し時間の余裕がございますので,よろしくお願いいたします。どうぞ。

【青柳委員】  発言したばかりで恥ずかしいんですけれども,著作権のあれで,7ページのところで御報告があったフォークロア問題のところでございますけれども,実はユネスコ国内委員会あるいはユネスコ本部では文化の多様性に関する条約というものがございまして,このことに関しましては,日本もその条約をつくることに関しては賛成したのでございますけれども,いまだ条約を締結しておりません。
これに関しましてユネスコ国内委員会では早く締結してくれということを外務省にお願い申し上げているんですけれども,WTOとの関係で少し問題があるのではないかということで,経産省などとすり合わせをしなくてはいけない。それから,問題点の列挙を文化庁等にもお願いしているということがユネスコ国内委員会では報告されておるんですが,このあたりもフォークロアのあれがWIPOあるいはIGCということであれするんですが,ユネスコともかなりいろいろ関連があることではないかと思うんですが,いかがでございましょうか。

【西原会長】  はい,よろしくお願いいたします。

【土肥委員】  道垣内先生……。

【西原会長】  どちらが。

【道垣内委員】  フォークロアの問題は国際小委員会という私が委員長をやっているところで扱っていますので,私の方から簡単に。もし必要があればまた補足していただきたいと思いますが。
この問題は文化の多様性自身をどうこうしようというものではなくて,それぞれの文化的な背景をもって作られている,例えば民族の歌とか,あるいは踊りとか。そのあたりならまだフォークロアなんですが,それから更に進んで,アマゾンの土の中にいる微生物とか,そういうものを先進国の企業がうまく使って,彼らの方がもうけている。それについてアマゾンの歌をつくった民族の子孫の人たち,あるいはそこに住んでいる人たちにも分け前をよこせというのがむしろ中心の問題で,それはその人たちの文化を別にどうしようというのではなくて,それを使ったその成果を何か分けたらどうかという話から来ていまして。そう言ってしまうと,また1つの見方になってしまいますから,そうではないという見方もあり得ると思いますけれども。
したがって,その問題は著作権枠を既に超えていて,最初のころの踊りとか歌の話ならまだ入るんですけれども,そこを既に超えているので,なかなか扱いが難しいというのがWIPOでの議論でございまして,それをやるのであれば,また違う話の枠組みではないか。著作権の中に規定に盛り込めば何とかなるという話ではないのではないかというのがここで言っているフォークロアの問題でございまして,今おっしゃったユネスコと共同して多様性を保護していく,あるいはそれをもり立てていくという話とちょっと違うのではないかと思います。
また,日本としては,そもそも法律的に可能なのか,その歌なりを作った歴史的な伝統をそのまま受け継いだ人たちなのかどうかも1つ問題ですし,だからといって,現在生きている人たちに何か直接の恩恵が行くというのもまた必ずしもぴったりする話ではない。途上国と先進国かというと,もちろん日本の中でもある話です。山のどこかのお神楽の何かをやっている人たちが商業的に使われることについて何か言いたいということがもしかしたらあるかもしれませんが,でも,それと全く同じで,そのときも,では,今そこの村にいる人に何か恩恵を与えればそれでいいのか。その中にはそこに後から来た人もいるでしょうし,必ずしもその人たちの知的産物ではない。その地域に受け継がれたもの。
ですから,法律的な扱いは非常に難しい話だというふうに認識していまして,そこの情勢といいますか,ルール化をするのであれば,その話をもう少し進めないと日本としても対応しにくいですというのが現状だと私は認識しております。

【西原会長】  それでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございました。
では,ほかに何か。
もし格別御意見等ないようでございましたら,これで自由討論を終わりとさせていただきますが,よろしゅうございますでしょうか。
では,審議そのものはこれで終了,間もなく閉会ということになりますが,今期最後の文化審議会でございますし,長官も先ほどからずっと御同席いただいておりますので,近藤文化庁長官から一言御挨拶を頂きたいと存じます。

【近藤長官】  第11期の文化審議会,最後の総会になりましたので,一言お礼とお願いの御挨拶をさせていただきます。
まずはこの1年間,特に3・11という衝撃的な事件を挟んでの1年間,それぞれお仕事上あるいはプライベートに3・11の関連でいろいろ思われるところ,そしてまた行動に移された方もいらっしゃると思いますが,そういう超御多忙の中でこの審議会に御出席いただいて大変貴重な御意見を賜りましたことをまずもって心からお礼申し上げます。
この1年間この審議会の御議論を拝聴していまして非常に感じましたことは,文化芸術あるいは文化財あるいは著作権,国語といったものはいずれも生き物でございまして,時代の流れとか社会の動き,あるいは技術の進歩,国際的な潮流,そういったものに常に,翻ろうされると言うとちょっと受け身的に聞こえるかもしれませんが,そういう大きな流れを常にウォッチしながら一番いい方法を考えていかなければいけない,そういうことを強く感じた次第でございます。
古くからあるもの,前につくった制度だからといって,それをそのまま維持すれば良いわけではなく,しかし新しい流れに流されっぱなしでもいけない。常にその両者をにらみながら,文化芸術の在り方であれ,文化財,例えばユネスコの世界遺産条約あるいは無形遺産条約というのも条約の運用の仕方自身が時代の流れによって変わってきております。そういった流れを見ながらこちらも対応していかなければいけないし,技術進歩が最も大きな影響を与えるのは著作権分野であることは当然でございますが,そういう新しい流れと本来守るべきもの,今持っている制度の本来の目的をどう達成するかということを常に考えながら,柔軟にかつ前向きに将来の先を考えて,国民の権利あるいは幸せをどうすれば一番守れるのかということを考えていかなければいけないという大変難しい時代に今差しかかっていると思います。
そういう中で,必ずしも日本の今の政治,経済,社会の現状は日本人の持っているはずの能力がフルに発揮し切れていない,ややフラストレーションを感じるような状況です。これも誰が悪いということではなく,1つの時代の転換期にあるのではないかと思っておりますが,そういう中で,文化芸術の持つ力というのはそういう政治情勢,経済情勢に惑わされることなく,常に力強いパワーを持っており,それが先人から伝えられてきているんだろうと思います。
そういう文化芸術,広い意味ではこの文化審議会の担当分野の行動を通して,国民一人一人がより生きがいを感じる,そして,一人一人が良い国を造っていこうと思うような意思と能力を持っていただくような,そういう環境をつくることが政府の役割ではないかと思っております。
公益性とどこまで政府が内容に介入すべきかというのは常に気にしなければいけない問題ではありますが,今の日本の状況を見ておりますと,政府がある枠組みを作って,その中で一人一人が生きがいと国の将来をつくるという意欲,意気込み,能力,そういったものを持っていただくような雰囲気を醸成していかなければいけないと思います。その意味で,この審議会で扱っていただいている分野というのは非常に潜在的な能力があり,一人一人に今申し上げたような力を与えることのできる分野だと思います。
したがいまして,これからのこの審議会からは世の中の潮流がどうなっているのか,今後どうなっていくのか,そして,その中で政府が,文化庁が何をすべきか。公益性実現のためにどこまで我々が予算をとり,法律をつくって直接介入していくのか,どこからは民間に任せるのか,あるいは独法に任せるのか,これは常に考え続けていかなければいけないと思います。そういう点についての,いわば生きたアドバイスを審議会からは引き続きいただきたいと思います。
今期限りの先生方も何人かいらっしゃいますが,分科会の方で引き続きお力添えいただく方もいらっしゃいますが,そうでない方もいらっしゃいます。仮にこの文化審議会の外に出ていくことになったとしても,その外から是非こういった点について引き続き先生方のお知恵,お力添えをちょうだいしたいと思いますし,また,引き続きまして,フレンズ・オブ・文化庁として是非時々は文化庁に足をお運びいただければと思っております。
簡単ではございますけれども,この1年間の大変貴重なアドバイスへのお礼と,これからも引き続き今申し上げたような観点で皆様方のお知恵を是非拝借したいと思いますので,そのお願いを込めまして私の閉会の御挨拶をさせていただきます。
ありがとうございました。

【西原会長】  どうもありがとうございました。
せん越でございますが,不肖私も今日をもちまして,文化審議会の会長及び文化審議会委員を退任することになりました。ここに座らせていただいた過去何年かにおいて,分科会,部会のすばらしいお仕事に接することができましたことを本当に光栄に存じております。また,それにかかわる先生方の本当に献身的なお仕事ぶりにつきましても本当に尊敬の念を持って拝見しておりました。今後とも文化審議会が同じように活発に,精力的にお仕事なさいますようにお祈りしております。
どうも御協力ありがとうございました。
では,1年間,先生方各自,本当にありがとうございました。
これで今期の文化審議会を閉会といたします。どうもありがとうございました。

── 了 ──

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