第17期文化審議会第2回総会(第72回)議事録

平成29年6月21日

【馬渕会長】それでは,時間となりましたので,ただいまより,今年度の文化審議会第2回総会を開催いたします。本日は,急遽(きゅうきょ)開催させていただいたにもかかわらず,御多忙のところ,お集まりいただき,誠にありがとうございます。

今回は,文化芸術推進基本計画の策定に向けた諮問に関することを中心に,事務局から御説明いただき,それについて議論を行いたいと思います。

本日は,松野文部科学大臣にも御出席いただいております。最初に,松野大臣から御挨拶を頂ければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

【松野文部科学大臣】皆さん,おはようございます。本日の文化審議会への諮問に当たり,一言御挨拶申し上げます。

先週末の6月16日,文化芸術振興基本法の改正案が国会で可決・成立しました。平成13年の制定以来,初めての改正になります。本日御出席いただきました文化審議会の皆様とともに,喜びを共有したいと思います。文化芸術振興基本法の改正は,与野党含む超党派で構成された文化芸術振興議員連盟を中心に検討され,文化芸術の振興のために党派を超えて全会一致でまとめられたものです。その内容には昨年の文化審議会で緊急に取りまとめていただきました答申の内容も大きく反映されていると伺っており,皆様の御尽力に改めて感謝申し上げます。

法律改正の背景や内容につきましては本日御用意した資料に詳しく記載されておりますので説明は割愛させていただきますが,その趣旨は,文化芸術の振興にとどまらず,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業,その他の関連分野における施策をこの法律の範囲に取り込むとともに,文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承,発展及び創造に活用しようとするものです。こうした考え方の下,これまで基本方針として取りまとめてきた文化芸術施策を基本計画に変更し,より総合的かつ効果的に推進することとした次第であります。

このような状況を受けて,この度,文化審議会に対し,第1期の文化芸術推進基本計画の策定を念頭に,文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な在り方について,諮問を行います。委員の皆様におかれましては,幅広い視点から自由闊達(かったつ)に御検討いただき,年度内を目途に答申いただければと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。

【馬渕会長】松野大臣,大変ありがとうございました。

【髙田企画調整官】それでは,松野大臣から馬渕会長へ諮問文を手交いただければと思いますので,報道関係者の方,どうぞ御自由に前の方でお撮りいただければと思います。関係職員の者,諮問文を大臣に手交をお願いします。

それでは,よろしくお願いします。

(諮問文手交)

【馬渕会長】確かに頂戴いたしました。ありがとうございました。

【髙田企画調整官】松野大臣,ありがとうございました。御公務のため,退室されます。

(松野文部科学大臣退室)

【馬渕会長】それでは,今回の諮問に関連し,事務局より資料の説明をいたします。資料1,2,4については髙田企画調整官から,資料3については井上戦略官から,お願いいたします。質疑応答は,お二人の説明が全て終わった後に行います。

それでは,髙田企画調整官,よろしくお願いします。

【髙田企画調整官】それでは,まず,資料1,「文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な在り方について」,諮問文につきまして,御説明いたします。タブレットの方で申し上げますと,資料1でございますので,それを御覧ください。

まず,今回の諮問につきましては,副題で「文化芸術推進基本計画(第1期)」の策定に向けて」ということで,それを念頭に置いた諮問ということでございます。

次のページに,諮問理由について,詳しく解説しております。まず,大臣の御挨拶でもありましたように,先週,文化芸術振興基本法が改正されたということが一番大きな点でございますが,その法律改正の背景といたしまして,法律の制定から16年近くが経過したということでございますとか,その間,社会が大きく変化する中で,文化芸術が,それ自体の振興にとどまらず,観光,まちづくり,国際交流等の幅広い関連分野との連携を視野に入れた総合的な施策の展開が求められるようになったこと,ということがございます。また,昨年の答申の審議の要請でもございましたが,2020年のオリンピック・パラリンピックを意識いたしまして,戦略的な施策の展開ということが求められていることがございます。そういった点で昨年の緊急的な答申を頂きまして,そういった緊急答申の提言の内容も踏まえた改正が行われたわけでございますけれども,そういったことでこの改正法が提出されたわけでございます。

その趣旨は,先ほどの大臣挨拶のとおり,文化芸術施策の対象を広げて幅広い関連分野を取り込むとともに,そのことによって文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承,発展,創造に活用していこうという,より視点を大きく,ダイナミックに捉えた内容にしていこうというものでございます。

具体的な改正内容については,この後詳しく御紹介いたしますが,簡単に申しますと,振興にとどまらなくなったということで文化芸術振興基本法が文化芸術基本法になり,関連施策と有機的な連携を図るようにするということが規定されたことがございます。第2点目といたしまして,今回の諮問にありましたように,基本的な方針に代えまして文化芸術推進基本計画というものを定めることとし,また,各地方においてもそういった計画を定めるように,その努力を求めるものという内容でございます。3点目に,新たに,食文化,芸術祭等が,今回,文化芸術基本法の中における基本的な施策の中に追加され,あるいは記述が充実されたということがございます。そして,関係省庁間の連携調整を進めて,文化芸術施策を総合的・一体的・効果的に推進していこうということで,文化芸術推進会議を設けること。最後に,文化庁の機能の拡充等について検討を加え,それに基づいて必要な措置を講ずることというような,主に5点の内容が改正法の内容でございます。そういった改正法の内容を踏まえて,また,これまで4次にわたる基本的な方針を頂きましたけれども,答申の中に既に基本計画の種ですとか芽が示されていると思いますが,そういったことにも留意しながら,以下の事項について御審議をお願いするというものでございます。

一つは,文化芸術施策の推進に当たっての望ましい体系の在り方について,でございます。これは,今後,こういった新しい関連分野が入ったことによりまして,どのようなまとまりや体系の下で,計画を立てて,実施していくことが望ましいかということにつきまして,大所高所から御議論いただきますとともに,そういった文化施策の推進体制の在り方などについても御議論いただければというふうに思っております。その際には,文化庁の機能強化,京都移転についても念頭に置いていただきますととともに,新たに規定された法律の位置付けですとか,計画の進捗状況を確認するための適切な目標や指標の設定,最近ですと計画を作る際にはKPIの設置などがよく求められておりますけれども,そういったことも念頭に置きながら,御審議をお願いしたいと思っております。

二つ目は,新たに追加された「文化芸術に関する基本的な施策」の推進について,でございます。一部重複している部分ございますが,新たに規定された,食文化,芸術祭,人材育成,高齢者・障害者の支援の拡充などにつきまして,特に御議論いただくとともに,既に行われている文化芸術振興施策も当然議論いただきますけれども,そういったものと一体となって関連施策が有機的に連携を高めていくというようなことについて,御議論いただければと思っております。また,文化芸術の振興・活用によって,社会や経済などにも大きな波及効果がございますが,社会・経済を作り上げていく成長・発展なども念頭に置いていただくとともに,趣旨でも申し上げました,文化芸術の継承・発展・創造といったことなど,こういったことが好循環を生み出せるような,文化,経済,社会との好循環,そういったようなことを御議論いただければと考えております。

三つ目は,2020年及び2020年以降を見据えたレガシーの創出についてでございます。政府におきましては,2020年までを文化政策推進重点期間として位置付けまして,国家ブランド戦略の構築と文化産業の経済規模の拡大に向けて取組を推進することとされております。また,振興基本法に基づく基本方針は,要するに第4次基本方針につきましては2020年を目途にこれまで立てられておりましたけれども,今回,計画を作るとなりますと,基本的には計画というのは5年程度というのが一般的でございますけれども,間に2020年を挟むということで,これからの基本計画の策定について,そういったことも念頭に置いて,御議論いただければと考えております。

以上3点が中心に御審議いただきたい事項でございますが,このほか,この後説明いたします「経済財政運営と改革の基本方針2017」など,政府が決定したいろんな政策につきまして,文化芸術に関係する事項が幾つかございます。そういったことについても留意していただきながら,今秋を目途に中間報告,年度内を目途に答申ということを目指して,御検討をお願いしたいということでございます。今秋をめどの中間報告というのは,基本的には,いわゆる基本計画の骨格といいますか,体系といいますか,そういったものでございまして,年度内にそういった中にいろんな施策なり具体的なものをはめ込んでいくというようなことをイメージしております。

それでは,続きまして,資料2の方を御覧ください。今の諮問文の最後に申し上げました,政府が決定したいろんなものについてのもので,文化関係について抜粋したものをここにまとめております。政府の方では,来年度の概算要求の前に,毎年6月に,特に来年度以降重点的に取り組むべき施策ということについて,特に経済成長を促すようなものについて取りまとめて,それを発表しております。その中で文化についてまとめたものを抜粋したものでございますが,まず初めに,「経済財政運営と改革の基本方針2017」の働き方改革の外国人材の受入れの中で,日本語教育の充実などにつきまして,記載がございます。また,文化芸術立国を成長戦略の加速に生かすということで,この中に,「文化経済戦略」を策定し「稼ぐ文化」への展開を推進するということですとか,政策の総合的な推進に文化庁の機能強化というようなことも盛り込まれております。また,繰り返しになりますが,先ほど申し上げました2020年までを文化政策推進重点期間として位置付けるということは既にこの6月9日の決定で書いてございまして,そういったことで文化政策を推進していくということでございます。そのほか,子供の体験・学習機会の確保でございますとか,人材の育成,障害者の文化芸術活動の推進,文化プログラム,そういったようなことでございますとか,また,国立文化施設の機能強化,文化財公開・活用に係るセンター機能の整備,文化財の保存・活用・継承,デジタルアーカイブ,そのほか,アニメ,漫画,メディア芸術などについての記述がございます。

次のページにつきましては,いわゆるクールジャパン関係のものを少し書いておるものでございまして,食ですとか,映画,コンテンツ,そういったクールジャパン戦略を推進し,輸出・観光を促進していこうですとか,ナイトエンターテインメント,伝統芸能等の外国人向けコンテンツの開発や受入れ体制の整備などが書かれております。

また,今,政府全体として観光に非常に力を入れておりますが,2ページの後段で,古民家を活用したまちづくりですとか,日本遺産をはじめとする文化財等の景観の優れた観光資源を保全・活用していくだとか,そういったようなことが書かれております。

次の3ページ,オリンピックの記述がございますが,ここでは,文化プログラム等を通じた日本文化の魅力発信ですとか,あと,アイヌ文化の復興等を促進しつつということで,民族共生象徴空間の整備・開業準備等を進めていくということが書かれております。

三つ目は,いわゆる文教施設について,適切に展開していこうという内容でございます。

次の4ページにつきましては,著作権の関係で,権利制限規定の整備などについての記述がございます。また,地域経済の好循環という話で,この後幾つか,内容の重複がほとんどでございますけれども,古民家の活用,伝統芸能等を書いております。

5ページの内容につきましても,著作権法の柔軟な権利制限規定の整備ですとか,そういったこととともに,日本語教育の充実,そういったことが書かれております。

6ページです。ここはちょっとまとまって文化庁の関係するものを大きく書いてございますが,2025年までに文化GDPを現在のおよそ倍にするというようなことを目指して,施策を展開していこうということが書いてございます。内容は今まで説明したことと重複いたしますので割愛いたしますが,一番最後の方でかなり具体的に書いている部分もございまして,例えば,国立の美術館・博物館について,多言語化ですとか,開館時間の延長等を促進するといったような内容ですとか,そのほか,すみません,真ん中に戻りますが,バーチャルリアリティー技術を活用して,地方における国宝等の展覧の促進ですとか,保存・活用ノウハウの地方への蓄積などについての記述もございます。

次のページ,7ページでございますが,これまで説明していない内容といたしまして,マル1の二つ目のポツのところに「文化芸術資源を活用した新たな需要やイノベーションの創出のため,学芸員の質的向上や高度プロデューサー人材等の育成をはじめ,多様な人材の戦略的な育成・確保を図る」というような内容も盛り込まれておりますし,かなり細かい内容といたしまして,「文化財の適切な周期での修理・整備・美装化及び防災・防犯に取り組むとともに,ユニークベニューや多言語解説等の優良事例」等々,かなり文化施策について書いております。

また,マル2のところで,ここは面的な整備ということなどを中心に書いてございますが,「上野文化の杜」をモデルとして,文化の集積地区において面的・一体的な整備を進めていこうというようなことですとか,アーツカウンシル機能の強化ですとか,そういったようなことを書いております。また,最後の二つのポツでございますが,国際文化交流の祭典の実施を推進ですとか,障害者の文化芸術の推進というようなことについて書いてございますが,これは実は,文化芸術振興基本法と併せまして,国際文化交流の祭典,こういった芸術祭の開催とかを推進するような議員立法の法律と,障害者の芸術を推進するような議員立法というのが検討されていたわけでございますが,結局,それは今国会では成立しなかったわけですけれども,そういったことについても,今,立法府の方でございますけれども,推進していこうということがございますので,それも念頭に置いた計画の策定ということが重要になるかと思っております。

8ページは,漫画,アニメとか,デジタルアーカイブ,クールジャパン,そういったことの繰り返しになりますので,省略いたします。

最後のページになりますが,文化庁の移転について,書かれております。一番最後のところですが,この中で真ん中あたり,平成29年4月に地域文化創生本部というのを設置したということはこれまでも御説明いたしておりますが,29年8月末をめどに本格移転の庁舎の場所を決定する。そして,文化庁の機能強化及び抜本的な組織改編を検討し,これらに係る文部科学省設置法の改正等を平成30年1月からの通常国会をめどに提出するなど,全面的な移転を計画的・段階的に進めていくといったようなことを書いております。

そういったことが,最近,政府として決められた方針でございまして,こういったことも念頭に置きながら,基本計画の検討を進めていただければというふうに思っております。

最後に,資料3を飛ばしまして,資料4の説明をいたします。資料4は,「これからの文化財の保存と活用の在り方について」というものでございまして,縦書きの資料でございます。次のページに別紙ということで諮問の理由について書いてございますが,実は,文化芸術振興基本法の改正に先立ちまして,先ほど政府の方針という形で御説明した中で,文化財の保存・活用を進めていくと。そのためにより面的・一体的に捉えてとか,そのほか,センター的な窓口というか,そういったものを設置してはどうかというような,そういった内容がございましたが,そういった内容が閣議決定という形で確定したのは6月9日でございますけれども,それを見越して,この諮問につきましては,5月19日に,これからの時代のふさわしい文化財の保存と活用方策を検討していくということで,諮問をしております。

理由は幾つかございまして,その中ほど以降に,「具体的には,以下の事項を中心に御審議をお願いします」ということで,三つございます。これからの時代にふさわしい文化財の保存と活用の方策の改善ということで,この最後の方に,特に,指定された文化財の保存と活用をより計画的に進めるための取組,指定された文化財とその周辺地域の多様な文化財や取り巻く環境も一体的に捉えた施策の一層の推進,文化財を適切に保存管理しながら活用を図る専門的人材等の育成・確保や組織の在り方,そういったようなことについて,制度改正を含めて検討をお願いしたいというのが,1点目でございます。

2点目は,文化財の持つ潜在力を一層引き出すための文化財保護の新たな展開ということで,これも後段の「特に」以降を御覧いただければと思いますが,文化財の復元ですとか,高精細レプリカの展示・管理など新たな科学技術等との融合,美術館・博物館等の機能強化,基盤整備,地域振興,観光振興との連携,そういったようなことについて,幅広く検討をお願いするという内容になっております。

また,文化財を確実に継承するための環境整備というのが最後にございまして,これは,最近,保存・修復関係につきまして,例えば,必要な用具や原材料等の確保だとか,そういったようなことも課題になってございますので,そういった周辺環境なども幅広く御検討いただければということで,それの審議をお願いする内容でございます。

実は,今日は事務局側の文化財関係の者が少なくなっておりますが,同じ時間帯にこれについての検討の会議が行われるということで,こちらの諮問と急遽(きゅうきょ)重なってしまったので,そちらに職員が行っておりますが,そういったこともありまして,今正にこの議論をこちらの方でも進めているというような状況でございます。

私からの説明は,以上でございます。

【馬渕会長】ありがとうございました。

引き続き,井上戦略官の方から,お願いいたします。

【井上文部科学戦略官】基本法担当の戦略官をしております,井上でございます。文化芸術振興基本法の一部を改正する法律につきまして,経緯,内容等について,御説明をさせていただきたいと思います。資料3-1が,概要になっております。資料3-2が,新旧対照表になっております。新旧対照表の下の方が現行法でございまして,上の方が改正された後の形でございますので,適宜,御参照いただければと思っております。

先ほど松野文部科学大臣から御挨拶申し上げましたように,現行の文化芸術振興基本法というのは,文化芸術の振興についての,新旧対照表の下にございますように,基本理念でございますとか,国の責務,地方公共団体の責務,さらには基本的な施策などを定めております基本的な法律でございまして,2001年に議員立法として成立したものでございます。それにつきまして,今回,新旧対照表の上の方にございますような形で改正法が成立いたしました。内容については,多岐にわたりますので,資料3-1に基づきまして御説明をさせていただきたいと思います。

まず,資料3-1の一番上のところにございますように,今回,文化芸術振興基本法から文化芸術基本法という形になりましたが,この改正法,文化芸術基本法の趣旨というのは二つございます。一つが,第一の趣旨の1と書いてあるところにございますように,文化芸術の振興にとどまらず,観光でございますとか,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業その他の関連分野における施策というのを文化芸術基本法の範囲に取り込んでいくと。そして,二つ目といたしまして,そういう文化芸術により幅広く生み出される様々な新しい価値――恐らく,この価値というのは,公共的価値でございますとか,社会的な価値,経済的な価値,ただ単に経済的な価値というわけではないと思いますが,そういう様々な価値というのを文化芸術の継承,発展及び新たな創造に活用していこうと。この大きな2点というのが,今回改正された趣旨でございます。このため,具体的には,以下のような,第二,改正の概要というようなところに書いてございますような改正が施されております。

まず,1は,先ほど申し上げように,今までの純粋な文化芸術の振興にとどまらず,様々な関連分野も含めるということで,「振興」というのをとりまして,文化芸術基本法という形に名称が変わっております。

次に,基本理念につきましては,第二の改正の概要の2の総則というところにございまして,そこに点線で囲んだ形で基本理念の改正内容を書いてございますが,例えば,「年齢,障害の有無又は経済的な状況」にかかわらず等しく文化芸術というのを鑑賞することができる環境の整備でございますとか,我が国及び「世界」において文化芸術活動というのが活発に行われるような環境を醸成していこうというようなこと,さらには児童生徒らに対する文化芸術に関する教育の重要性,そして,文化芸術の固有の意義と価値も尊重しながらも,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業,そういう関連分野の中での文化芸術関連施策と有機的な連携を図っていこうということを基本理念で明確にしているところでございます。

それを踏まえ,今回諮問を申し上げたような,政府として文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために,従来の文化芸術の振興に関する基本的な方針に代えて,文化芸術推進基本計画というのを政府において定めるということになっております。さらに,地方公共団体においても,国の定める文化芸術推進基本計画を参酌,参考にして,地方文化芸術推進基本計画というのを定めるように努めるというような努力義務を課しているところでございます。

続きまして,文化芸術に関する基本的な施策というのが現行法でも様々規定をされておりますが,今回,それに追加される形で拡充が施されております。具体的には,まず一つ目として,芸術,メディア芸術,伝統芸能,芸能の振興について,必要な施策の例示に,物品の保存でございますとか,展示,知識及び技能の継承,芸術祭の開催などを追加いたしますとともに,伝統芸能の例示として,重要無形文化財であります組踊(くみおどり)を追加するということになっております。二つ目として,先ほど御説明ありました生活文化の例示として,現在規定されております,華道でございますとか,茶道,書道に加えまして,食文化を追加するとともに,生活文化の普及というよりはより広い形で,「生活文化の振興を図る」というような形で規定が改められております。三つ目として,各地域の文化芸術の振興を通じた地域の振興を図るということで,これについても,芸術祭等が盛んに全国各地で開かれておりますので,それへの支援ということが追加されておるところでございます。四つ目として,国際的な交流が非常に重要だということで,これについても,「海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示」――これは,議員連盟の中で議論されていたのは,例えば,日本の文学とかを現地の言語に改めて,広く普及を図っていくと。単に英語だけではなくて,多言語化を図っていくというようなことを想定しているようでございますが,そういうようなことでございますとか,「文化芸術に関する国際機関等の業務に従事する人材の養成及び派遣」――これは,我が国の人材というのをもっとそういうところでも働いてもらえるようにしていこう,養成及び派遣をしていこうというようなことが,追加をされております。さらに,五つ目として,人材の育成の規定がございますが,そこに国内外における「教育訓練等の人材育成への支援」というのが追加されております。当然,芸術の担い手である方々についての人材育成というのも大事なのではございますが,そこに至る,一生懸命教育訓練をされている方々,そういう方々への人材育成というのも支援していこうという思いで,これが追加されておると聞いておるところでございます。

また,今回の改正法に規定されております趣旨,基本理念,施策を一体的かつ効果的・総合的に進めるため,政府では文化芸術推進会議というのを設けるということになっております。これは具体的には,資料3-2の新旧対照表の18ページを御覧いただければと思いますが,「文化芸術に関する施策の総合的,一体的かつ効果的な推進を図るため,文化芸術推進会議を設け,文部科学省及び内閣府,総務省,外務省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省その他の関係行政機関相互の連絡調整を行うものとする」ということになっているところでございます。また,これについては,三十七条におきまして,地方公共団体におきましても,地方文化芸術推進計画その他の計画を策定する際には,条例で定めるところにより,部局横断的な合議体の機関を設けることができるというような規定も設けられておるところでございます。

最後に,資料3-2の新旧対照表の27ページでございますが,改正法の附則の第二条におきまして,政府は,文化芸術に関する施策を総合的に推進するため,文化庁の機能の拡充等について,その行政組織の在り方を含め検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるための検討条項が設けられているところでございます。

これらが,本改正の趣旨・内容でございます。この基本法が,昨日,公布閣議が行われましたので,近く公布されるということが予定されております。文化庁では,本改正法の施行通知等を各地方公共団体,文化芸術団体に送りまして周知・趣旨の浸透に努めますとともに,関係省庁とともに文化芸術推進会議も早期に立ち上げて,改正法の趣旨を踏まえた文化芸術施策を相互的に展開してまいりたいと考えております。また,地方公共団体においても,この改正法の趣旨を踏まえた取組というのが面として展開されるよう,地方文化芸術推進計画の策定・検討というのを促すということも大事ではないかと思っておりまして,必要な情報提供を行ってまいりたいと考えております。

以上でございます。

【馬渕会長】ありがとうございました。

それでは,今の御説明に関しての質疑応答・意見交換に入りたいと思います。今回は,委員の方々,ふだんより少し少なめにいらっしゃっているので,お一人から複数の御意見を頂戴できればというふうに思っております。

それでは,どこからでもということになると思いますが,今の御説明に対して,どうぞ,質問とか御意見,御自由に御発言ください。

すみません,私の方から一つ,御質問を差し上げてもよろしいですか。法律案の概要,資料3-1に,第二,改正の概要の2の総則のところに,基本理念の改正内容として,「「年齢,障害の有無又は経済的な状況」にかかわらず等しく文化芸術の鑑賞等ができる環境の整備」というふうに書いてございますが,これを例えば美術館・博物館の側から読みますと,限りなく入館料金を抑えるというような,そういうサービスに向くように思うのですけれども,現実には,国立美術館に対して,多分,財務省からの御指導があったのだと思いますけれども,入館料を値上げして収益を上げろという御指示があって,これはどういうふうに解釈したらよろしいのか。この一文を読みますと,現在は無料にしている部分が多いのですけれども,時々,無料を撤廃したらというような声もちょっと聞いたり,あるいは,現在は高校生以下と65歳以上は無料にしたりしているところなのですけれども,それ以上にもっと無料ゾーンを増やせというふうに読み取れるのですが,どういうふうに解釈したらよろしいのか,ちょっと教えてください。

【井上文部科学戦略官】こちらの規定でございますが,「施策の推進に当たっては~年齢,障害の有無,経済的な状況~かかわらず等しく,文化芸術を鑑賞し」と書いてございますが,これは基本理念でございますので,具体的な施策は今後の,政府での基本計画の策定でございますとか,地方公共団体の取組に委ねられるということでございます。ただ,これを作られている国会議員の先生方の議論の中では,文化芸術について,今の現行法でございますと,「居住する地域にかかわらず等しく」ということだけが書かれておりました。ただ,居住する地域ということだけではなくて,障害の有無でございますとか,年齢,若年者からこういう文化芸術に親しむということも大事じゃないかというようなこと,また,最近では経済的な状況によって文化芸術に触れる機会に格差が生じているのではないかというような指摘もあるというようなことが話されておりまして,そういうこともあってこういう基本理念が加わってきたと思っております。具体的な取組については,既に博物館において,例えば,若年者について無料にするとか,障害者のために施設の改修等を行っているというような取組もあるかと思いますが,今回,例えば障害者については,バリアフリーということだけではなくて,障害者自身とか高齢者自身が創作活動に入っていくというようなことについても基本的な施策で規定をされておりますので,そういうことも踏まえて,今後,基本計画の中で御検討いただければよろしいのではないかなと思っているところでございます。

【馬渕会長】分かりました。了解しました。

ほかの委員の方々,いかがでしょうか。御自分の御活動の分野からいろいろ,御質問,御意見,是非お願いいたします。

【佐藤会長代理】質問なのですが。

【馬渕会長】どうぞ,佐藤委員。

【佐藤会長代理】単純な質問なのですが,私,これができたらすばらしいなと思ったのは,政府や地方公共団体における文化芸術推進会議という,様々な方面の官庁等が文化芸術を目指して総合的に検討して推進を図るということなのですが,具体的に,この法ができた後でそういったものが置かれる見通しというのは,もうできているのでしょうか。それについて,ちょっとお伺いしたいのですが。

【井上文部科学戦略官】先週,法律が成立したばかりでございますが,この法律案を策定する過程におきまして,当然ながら,関係する省庁に対しても,私ども,政府の窓口をやっておりましたので,情報提供等をしておったところでございます。この法律の趣旨を踏まえて,なるべく早く立ち上げる必要があるかと思っております。ここに書いてある,例えば国土交通省でございますとか外務省というのは,実際に今でも,例えば国土交通省ですと観光庁がございまして,観光の振興のためにいろいろ施策をやっておるわけでございますが,ただ,その中には文化芸術の推進に関わる施策がございますので,そういうのをうまく進めていくためにも,より政府の中で連携することは大事だと思っておりますので,なるべく早く,調整をいたしまして,立ち上げていきたいと思っております。

【佐藤会長代理】文化芸術に関しては,私は,文化庁が一番ノウハウをしっかり持っておられるというふうに,実感もしているし,そう考えておりますので,是非,イニシアチブを持って,この会議を経営,運営と言うのかな?リードしていただいて,より良い施策に結び付けていただきたいと思います。

【馬渕会長】どうぞ,ほかの方,御意見,御質問。沖森委員,どうぞ。

【沖森委員】この概要のところを見ますと,これからいろいろな施策が必要だなあというふうに思っておりますけれども,そこで,質問が少ないようですので,私が質問させていただきます。

4の基本的施策の二つ目として,生活文化の例示に「食文化」というのが追加されるということですけれども,例えば,方言のようなものはいかがなものなのか。もう既に入っているのかもしれませんけれども,ちょっとお聞きしたいということと,四つ目に「現地の言語による展示」というのがありますけれども,これは具体的にどれぐらいの範囲のことをお考えであるのか,もちろん今後の検討の問題だとは思いますけれども,それをちょっとお聞きしたいということ。そして,最後の五つ目は「教育訓練等の人材育成への支援」ということであるわけですけれども,具体的には教育訓練等の人材育成というのはどこでどのように行われるものなのかということをちょっとお聞きしたい。以上,素朴な質問で申し訳ありませんけど,3点,御質問いたします。

【井上文部科学戦略官】まず,第1点目の方言というのは,国語ということですかね。

【沖森委員】それぞれの地域の言語という,方言。

【井上文部科学戦略官】海外ではなくて,日本の方言でしょうか。

【沖森委員】日本です。

【井上文部科学戦略官】日本語,国語につきましては,既に現行法で,資料3-2の新旧対照表で言いますと12ページでございますが,十八条において,「国は,国語が文化芸術の基盤をなすことに鑑み,国語について正しい理解を深めるため,国語教育の充実,国語に関する調査研究及び知識の普及その他の必要な施策を構ずるものとする」ということがございまして,現在,国語課においていろんな施策が行われておると思いますが,ちょっと国語課長の方から補足を。

【西田国語課長】失礼します。今,井上戦略官からお話があったとおり,この法律の十八条に国語についての理解という規定がありまして,改正前の法律に基づく第4次の基本方針,こういう冊子で今日もお配りしていると思いますが,この基本方針の25ページを見ていただきますと,国語の正しい理解の中の様々な施策のうち,4点目に,「消滅の危機にある言語・方言や」というようなことで,国語の中にそういった部分も含めてこれまでも考えているところでありますし,この部分の改正は第十八条の条文がそのままということですので,今後,基本計画作りの中で同じように考えて対応していくことになるものと考えております。

【井上文部科学戦略官】あともう一つ,今回追加された十五条,新旧対照表で言いますと11ページでございますが,国際交流等の推進の規定の中で,「海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示」というようなものが追加されました。これを機とした議員の議論の中では,例えば,インドネシアにおいて日本の文学を普及するときに,英語だけで翻訳したのでは,英語から現地語に訳すときに様々な意図が伝わらなかったり,ニュアンスが伝わらなかったりというようなことがあるので,日本語からそれぞれの言語に訳して日本の文学を浸透させるというようなことが大事であるというようなことをおっしゃっておりました。具体的な施策は今後になるかもしれませんし,既に国際交流基金等でやっているものもあるのかもしれないのですが,意図としてはそういうことでございますので,そういうことも念頭に置いて,今後,必要なことがあれば,御意見等を頂ければなと思っております。

あと,最後の教育訓練等の人材というのは,新旧対照表で言うと11ページと12ページにまたがっておるのですが,芸術家等の養成及び確保という,十六条の規定の真ん中あたりに,「国内外における研修」の下に「教育訓練等の人材育成」というのもございました。これも,議論されている国会議員の先生方の中で,例えば,歴史的な文化財の修復などにおいて,修復をする人材というのは,教育訓練というのがかなり長い年月かかると。ただ一方で,志す人でございますとか,長い年月かかるものですので,なかなか希望者が少ないと。それを何とかしないと,担い手が幾ら増えたとしても,優れた人材を育成しなければ,文化財を修復するということがなかなか難しくなってくると。あと,例えば文化伝統芸能に必要な小物とか物品,そういうものについての作成者というものも教育訓練にかなり年月がかかるので,そういう方々についても目配りをしていく必要があるのではないかというようなことで入ったと承知しております。

【沖森委員】ありがとうございました。

【馬渕会長】どうぞ,道垣内委員。

【道垣内委員】私はかつてスポーツ仲裁機構という機関の運営を担って,12年間やってきたのですが,ちょうどその最中にスポーツ振興法のスポーツ基本法への改正がございまして,当時,井上戦略官も御担当で,非常にお世話になりました。そのスポーツ振興法ができたのは1961年で,文化芸術振興基本法ができたのは2001年,40年のビハインドがあったわけであります。スポーツ振興法は,1961年から50年後の2011年にスポーツ基本法になりました。今,「振興」という言葉がとれて,広く基本法になったのが2017年で,それでも6年のビハインドがございます。追い付いたことは非常に喜ばしいし,非常に期待をしておりますけれども,もっと早く文化芸術にも目を配るという姿勢が示されてもよかったのではないかと思っています。

そのスポーツ仲裁機構の経験に基づいて申しますと,スポーツ基本法ができまして,非常によくなるんじゃないかと期待しました。スポーツ仲裁機構というのはスポーツ界のもめごとを解決しましょうという機関なのですけれども,スポーツ基本法の条文にもその役割が書かれまして,国が振興するという規定も入ったので,非常に期待していました。しかし実際にはそれほどのことはなく,予算の制約もあるので,それを具体化していくのは徐々にということでございました。

この法律も,恐らく同じだと思います。この法律ができたことは非常に喜ばしく,器としては有り難いと思います。大きな政策としてしっかり法律で示されたことはいいのですけれども,これを具体化していくにはお金も必要ですし,お金がないとすれば,知恵が必要ではないかと思います。つまり,この法律の今後の使い方が大切ではないかと思います。

それから,専門のことで言いますと,二十条に著作権法の規定がございまして,著作権法がちゃんと文化芸術に役立つようにということを,具体的に詳しく書かれました。これは非常に適切な改正だと思います。もちろん著作権分科会の方でも同じ思いから文化芸術の振興あるいは発展のためになるような法改正を考えておりますので,両方からアプローチして,良い施策になればいいなと思います。

以上でございます。

【馬渕会長】ありがとうございました。御質問ではなかったので,お答えは結構です。

ほかの委員の方,何か御意見。どうぞ,松田委員,お願いします。

【松田委員】資料3-1の「改正の概要」の2の総則の中の「基本理念の改正内容」のマル2で,「我が国及び「世界」において文化芸術活動が活発に行われる環境を醸成」と書いてあります。この中の括弧付きで世界と書いてあることが,今回の改正のポイントの一つだと理解いたしました。そこで,括弧付きの世界が実際に基本法の中でどのように表現されているのかを見たところ,資料3-2の新旧対照表の4ページの4のところに明確に出ているように思いました。新しい法律では「我が国及び世界において」となっていて,「世界において」の文言が新たに加わったことが確認できます。

そこでお尋ねしたいのですが,世界において文化芸術活動が活発に行われるようにしていくという趣旨の中で,世界における文化芸術活動というのは,あくまでも日本と直接関係があるかぎりにおいて世界的な文化芸術活動と理解すべきなのでしょうか。それとも,もっと広い意味で国境を越えるといいますか,文字どおり世界の文化芸術活動を推進していくものと理解すべきでしょうか。その「世界」の言葉についてどのような議論があったのかということを少しお伺いできればと思います。

【井上文部科学戦略官】資料3-2の新旧対照表で言いますと,4ページを御覧いただければと思います。もともと二条の4項におきましては,下の方にございますように,「振興に当たっては,我が国において,文化芸術活動が活発に行われるような環境を醸成することを旨として文化芸術の発展が図られ,ひいては世界の文化芸術の発展に資するものであるよう」というものを,上にございますように,「推進に当たっては,我が国及び世界において」という形で変えてございます。この趣旨でございますが,議員連盟の中では,グローバル化が進む中で,文化芸術に関する施策の推進に当たっては,我が国での文化芸術の発展と世界の文化芸術の発展とを区別して捉えるのではなくて,一体的に捉えるというようなことの考え方を基本理念で明らかにしたということなので,恐らく,先生がおっしゃったうちの後者の方に当たるのではないかなあと思うところでございます。

【松田委員】なるほど。

【井上文部科学戦略官】従来の現行法では,まず我が国において文化芸術を振興していくと。それが結果として世界が良くなることにつながるのだというような考え方に立っていたのではないかと思うのですが,それをもう少し連続的・一体的に捉えることによって,より世界の文化芸術の発展にも我が国の文化芸術政策が貢献していこうということを明らかにしたということで承知しております。実は,もともとこの文化芸術基本法というのは,1ページに前文というのがございまして,文化芸術の創造というのは,1ページの最後にございますように,「世界の平和に寄与する」と高らかにうたっているということからも明らかになっているのではないかなと思っているところでございます。

以上です。

【馬渕会長】よろしいですか,何か御意見。

【松田委員】文字どおり世界の文化芸術活動を推進していくという高邁(こうまい)な理想を掲げているということを,私はとてもうれしく思っております。そのことだけ,コメントさせていただきます。

【馬渕会長】ありがとうございました。

岩崎委員,どうぞ。

【岩崎委員】2点ですけれども,1点はほぼ感想というものですが,基本的施策の2番目のところで「生活文化の振興を図る」という項目があって,私はこれまで無形文化に関わる仕事をしている中で,日本の国内の文化財の捉え方と,国際条約の中で捉えられている文化財の捉え方と,齟齬(そご)があるというか,少しずれがあって,一般的に最近の傾向としては,生活文化,食文化も含めてですけれども,それも含めた形での文化財の在り方ということが語られています。ですから,この項目を見て,やはり日本もある程度そういうことの国際的な理解の方に歩み寄ろうとしているのかなあという印象で,好感を持ちました。是非そのような形で少しずつ齟齬(そご)をなくしていく努力が必要なのかなあと,これは感想です。

もう一つですけれども,4番目の「海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示」うんぬんというところで,たまたま私の友人の中に,かつて国が推進していた,日本の小説とか文学作品を英語に訳すというプロジェクトに関わった人たちが何人かいるのですけれども,その人たちがみんな言うのは,とてもいい試みで,自分たちも努力してやったけれども,どこかでぷつっと切れて,続かないのだと。これは英語だけのことですけど。先ほどの説明の中で英語だけではなくというふうにおっしゃられて,現地の言語ももちろん大事だと思うんですけれども,英語ですら単発的なプロジェクトに終わってしまっているというのが現状なのではないのかなと。関わった人たちも,それから,それによって恩恵を受けている人たちも,具体的に私の身近にかなりいるものですから,是非,現地の言語に移る以前に,英語はある意味で世界の共通語的な役割を果たし得る言語ですので,英語訳を継続的にやっていただけたらなあと,そういった具体的な考えとか,話とかはあったでしょうか。あるいは,飽くまで現地言語ということでしょうか。

【井上文部科学戦略官】失礼します。この議論の中では,当然,英語はもちろん重要であるということで,どちらかといえば,それは更に充実して一層進めていくべきだと。一方で,英語だけではなくというようなことで追加されたものと承知しています。ただ,先ほど道垣内先生からもございましたように,どうしても,予算の制約とか,いろんな制約がありますので,その中でどれをどういう形でどういうふうに重点的に進めていくかというのは,今後,関係省庁とも連携しながら進めていく話ではないかなあと思っております。

【岩崎委員】ありがとうございました。

【馬渕会長】どうぞ,大渕委員,お願いします。

【大渕委員】ありがとうございます。今回,文化芸術振興基本法が改正され,文化芸術を今後進めていく上での基礎がより強化されたということは大変結構なことで,基本が出てきたので,今後これをどう肉付けしていくかという各論的なことが中心になってくるかと思います。私が,今回,新味を感じたのが,先ほども多くの方が強調されていました,「「年齢,障害の有無又は経済的な状況」にかかわらず等しく文化芸術の鑑賞等ができる環境の整備」ということであります。これは,中身も重要なのですが,受け手を広げるということは,裾野を広げることであり,国民全体が共有できるということで,当然といえば当然のことなのですが,このような形で非常にクリアに理念として示すということは,大きなインパクトがあるのではないかと思っております。

多々ある全ての文化を発展させるというのは大変結構で,前から申し上げておりますとおり,古いものも重要なのですが,日本文化の非常な強みは,アニメ,漫画,いろいろな形の新しいものも,古いものも含むということにあるため,文化を総合的に発展させていくというのは大変重要なことではないかと思っておりますので,この点をしっかりと入れていただいておりまして,ありがとうございます。

それから,先ほども出ておりましたが,今回の二十条を見ますと,「国は,文化芸術の振興の基盤をなす著作者の権利及びこれに隣接する権利」ということで,とかく著作権というのは地味なのですけれども,いわば文化のエンジンと言いますか,クリエイターにしっかりと利益がリターンされることによって,クリエイターが潤い,文化が発展していくという非常に重要な法的基盤をなすものでありますので,今回,その関係で出していただいているかと思っております。資料5の著作権分科会報告書には,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方ということで,クリアで柔軟な規定を出すということですとか,あるいは,次のページに行っていただくと,これも非常に文化に関連しておりますが,教育の情報化の推進ということですとか,あるいは,まさしく先ほどのタイプを全てカバーするようなものですけれども,障害者の情報アクセス機会の充実などの検討課題が挙げられております。著作物の全て,新しいものも古いものも,教育なども含めて,これからやるというよりは,現在もほぼできかかっているものも含めて,縁の下の力持ちで余り目には触れないかもしれませんが,先ほどのほぼ全てのことに確実に対応できるように,著作権分科会の方も汗をかいておりますので,よろしくお願いいたします。

あともう1点は,資料2の一番最後の京都移転の関係であります。文化といってもいろいろな面があって,例えば著作権の場合ですと,立法対応が多いから国会との関係が強いというように,それぞれ違う要素がたくさんあるかと思うのですが,恐らくそれぞれの機能に最も適した場所というのがあるわけでございます。どう機能をうまく発展していくかというのは,人も重要ですけど,場所というのも重要なので,全体として日本文化が発展していけるように,どう機能をうまく配分していくかというところも,よく考えていただければと思っております。

【馬渕会長】ありがとうございました。

今まで御発言のないやすみ委員,お願いいたします。

【やすみ委員】ありがとうございます。幾つか,感想を述べさせていただこうかと思います。

まず,今,今回の基本法の御説明を頂いて,文化芸術だけじゃなくて,もっと幅広く取り入れた内容になっているということを大変興味深く拝見しました。観光ですとか,食文化,このあたりになると私たちの日常のありとあらゆるものが関わってきていて,これをうまく展開していくと,本当にそれぞれの日常生活がとても豊かなものになるなあと,期待が膨らみます。私は,日頃,短詩型文芸というジャンルの中で一創作者としてささやかに活動しているのですけれども,そんな活動の中で,例えば,自分の作品作りだけではなくて,私で言うと川柳ですけれども,五・七・五の文化の発信,いろんな人に体験してもらって,味わっていただくというような活動もしています。

そんな中で,先ほど方言のお話が出ましたが,地域の言葉をどう残していくかとか,使うかとか,そういったものも取り入れた活動もしています。例えば,言葉について考えるワークショップで,講師として全国の小学校や中学校を回らせていただいて子供たちと一緒に川柳作りなんかをしたときには,その地域の特色ある言葉,いわゆる方言だったりも含めてですけれども,それを実際に使っている世代の方が高齢化で,子供たちもその言葉を余り知らなかったりとか,聞いたことはあるけど,その言葉の持つ意味をちゃんと知らなかったりとか,そういうことが結構いろんな地域ごとにあるのを見受けます。なので,五・七・五を作るときにその言葉を必ず取り入れて,方言川柳,地域の言葉川柳みたいなものを作るというようなことにも挑戦してもらったことがありまして,若い世代の人も楽しくそういったことを取り入れて作品作りをしてくれた姿を思い出しました。

私は,五・七・五というジャンルで,例えば方言とかを一緒に組み合わせて,それを楽しむというような活動もやりましたけれども,私の周りの,例えば,茶道や,華道や,香道ですとか,いろんな日本の文化のジャンルを担っていっている,割と若い世代の後継者,20代とか,30代とか,そういう人たちも,いろんなことと組み合わせて,自分の携わっているジャンルをつなげていこうというふうに活動されています。お話をする機会なんかには,そういうことで結構盛り上がったりとか,参考になるお話を聞けたりとかもします。ですので,皆さんそれぞれ,自分の創作活動だけじゃなくて,ささやかにですけれども活動をしていると思うので,そういうところをもっといろいろと拾い集めていただいて,芸術祭とか文化祭とかでそういったことを発信できるような場を与えていただけるといいかなあというふうに感じました。

そんなところなんですけれども,よろしくお願いします。

【馬渕会長】ありがとうございます。

それでは,薦田委員,どうぞ御意見。

【薦田委員】私も,今まで皆様の議論を聞かせていただきながら,自分自身のささやかな活動の経験の立場から何を言わせていただけるのかなというふうに考えておりましたけれども,まず,改正の趣旨は2点あるという御説明を頂きましたが,他分野との関係を広く取り込みながらというようなことで,これは正に,佐藤先生がおっしゃったように,文化庁が是非リーダーシップをとってほしいというふうに思います。逆に言うと,他分野と関わりを持つということは,下手すると飲み込まれかねないということでもあると思います。大体,スローガンというのは,できてないことをスローガンにする,目標にするということはありまして,それを是非,強い気持ちでと言うと変ですけれども,実施していただけたらなあというふうに思いました。

それから,2番目もそういう意味で,様々な価値,経済的な価値に限らないのだというお断りがありましたけれども,それはともすれば経済的な価値に置き換えられがちだということでもあると思います。さっき,障害者のバリアをなくすために入場料を下げようと思うと,入場料を上げよという指示が一方からは来る。どうしてくれるのだと。そういうところにこそ文化庁の役割があるのではないかと,私は思っております。そして,経済効果に負けないというか,経済とは違った価値があるということを声高に主張できるのが文化庁の役割だというふうに思っておりますので,この二つの趣旨は大変結構なことだと思います。

そんなことが全体についての感想ですけれども,あと,様々な分野と関連を持つということで,さっき,岩崎委員からでしたでしょうか,文化というものが,芸術に限らず,生活にまで広く範囲を広げて理解されるようになってきているという指摘がありましたけれども,芸術という考え方そのものがどちらかというと19世紀ヨーロッパ中心主義的な思想の下に形成されてきたようなことであって,むしろアジアの1国である日本が主張すべきは,芸術という言葉にとらわれない文化の在り方というものを理念として持っていくことではないかというふうに思いました。

あとは,個別のことなのですけれども,例えば,私は日本の伝統音楽の伝承者の育成ということに関わっております。それは,人の一生とか,多くの時間を必要とするものですから,非常に難しい。一人一人の個人の幸福ということと伝統の継承ということをどうやって両立させていくかということで日々悩むようなことをしております。また,伝統芸能の周辺技術の伝承にも目配りをするということが行われていますが,それに関してもう一つ自分の経験から言わせていただくと,今,三味線のばちが大変問題になっております。アフリカのマルミミゾウという絶滅危惧種の象の牙が三味線のばちに一番向くということで日本の伝統音楽の演奏家に愛用されているのですけれども,今の状況ですと確実にマルミミゾウは絶滅してしまいます。そうなったときに,ばちがなくなりました,三味線の今までの音色は出せません,それじゃあ日本の三味線音楽はおしまいですねということにするわけにいかない。新しい代替素材の開発ということも,伝統の継承の視野に入れて,取り組んでいただきたいと思います。今,実際に象牙に代わる代替素材の開発を,人間の骨の組成なんかを研究していらっしゃる先生を巻き込んで,始めようとしております。ただ,そういう新素材の開発というのは,大変お金がかかることでございます。そのあたりも,日本の伝統の継承という視点から,目配りしていただけるといいなあというようなことを思っております。

以上です。

【馬渕会長】ありがとうございました。

ほかに何か,御意見ございますか。

すみません,また私の方から一つ申し上げさせていただきたいのですが,資料4の別紙のページに,文化財保護に関して,文化財の保存と活用をより計画的に進めるための取組等についての項目がございまして,「専門的人材等の育成・確保や組織の在り方など,具体的施策や制度改正について,御検討をお願いします」という文章がございますが,これは非常に重要なことだと常日頃感じているところでございます。国立美術館の側からすると,博物館もそうなのですけれども,非常に多くの文化財を所有しているわけですね。国民の財産として,預かっているわけです。そして,それがいろんな条件でなかなか活用できていないという現状があり,例えば,貸出しとか,展示とか,そういうことに関して,十分ということはなかなか言い切れないのですけれども,良い状況でそういったものが活用できているかというと,そうではない。もちろんそういうものを活用することは非常に重要なことで,昨今,学芸員がそういうものにネガティブであるというような印象を与えられているような気がするのですけれども,条件を整えれば,そういったものはかなり活用できるというふうに,私は思っているのですね。例えば紙作品なんかも,展示の期間を限って交換したり,照明を抑えたり,いろんな形で,あるいは紙なら修復がかなりできるというようなことで,そういう手間暇を掛ければ,かなり活用はできるという現状をもうちょっと理解していただければ有り難いなと思います。つまり,作品を見せるということに関して,一つは,ここで書いていただいている,専門的人材が必要である。つまり,作品を一つ外に出す,展示するというときに,それが展示に値するかどうかを必ずチェックします。それから,それに何か問題があったときには,それを修復いたします。そして,環境をチェックして,大丈夫だから展示しましょうという段階になるので,何もかもは展示できないわけで,そういうプロセスをきちっと踏まえるということが,作品の活用につながるわけですね。ですから,そういうプロセスがあって初めて作品が滅びない形で次世代につながっていくわけなので,そこのプロセスさえしっかりしていれば,もっと活用できる,もっといろんな形で使えるということがあります。

そういう意味で,美術館や博物館の立場からすると,今,日本で一番欠けているのは,そういう作品の管理をする,これは海外で言うとレジストラーという仕事ですが,それが一つ。それから,保存・修復に携わる人。その二つの分野が,日本では一番欠けている分野だと思います。海外の美術館・博物館と比べて,いわゆる企画をしたり,作品を購入したりする学芸員というのは,もちろん絶対数は足りないのですけれども,そこそこ活動していますし,教育普及も最近は結構いろんなことができるようになりました。それから,資料なんかも,細々ですけれども,何とかやっております。今申し上げた,レジストラーという,作品を貸し出したり,展示したりするときの,作品のいろんなデータをチェックするような,そういう仕事と,保存・修復というあたりが本当に貧困なので,この辺をもうちょっとしっかり手厚くすると,もっと作品を有効な形で活用できるというふうに思うのですね。ですから,ここで人材の育成・確保というふうに書いていただいたのは大変有り難いことで,その具体的な人材はどういうことをする人たちなのかというところまで,今後も目を配っていただけたら有り難いと思います。

ほかに何か。

【佐藤会長代理】1点だけ,よろしいですか。

【馬渕会長】どうぞ。

【佐藤会長代理】自分の不勉強を知ったようなところがあるのですが,今日,文化芸術基本法について御説明いただいて,いろいろと,納得というか,よくわかったなというところがありまして,この文化芸術基本法ができたことがちゃんと国民に伝わっているかなというのが,今,ちょっと心配になってきまして,こういったことの発信について今まで余り上手じゃなかったのかなという気もちょっといたしますので,是非,文科省,文化庁の方で,今回の基本法で,具体的なことについては,今,委員の皆様のお話を聞いても,いい仕事をこれまでもずっとしてきているのですけれども,いろんな条件があってなかなか思うところまで行ってないという面があると思いますが,そういった事情も含めて,更に発信に努めていただけると有り難いなと,実感いたしました。

【馬渕会長】ありがとうございました。いろんな方からいろいろ御意見を頂戴いたしまして,今日御欠席の委員からも今後いろいろと御意見を伺っていきたいと思いますが,大体,皆様から,この答申についての,基本法についての考え方の御理解を頂いて,また御意見を頂戴いたしましたので,一応,諮問事項に関連する意見交換はこのあたりで終わりにしたいと思います。

次に,議題(3)に入ります。その他ということでございますが,報告事項がございます。著作権分科会において4月に報告書をまとめていただきましたので,著作権分科会長の道垣内委員から,この件に関して御説明を頂きたいと思います。

【道垣内委員】資料5に概要の紙がございます。それから机の上に,せっかくのペーパーレスのための道具があるのに,たくさんの紙を配っていただいて申し訳ありません。これが報告書本体です。これにつきまして,できるだけ簡単に,要点を御報告申し上げたいと思います。

著作権分科会では,法制・基本問題小委員会という小委員会を設置しまして,以下申し上げます四つの課題について,検討してまいりました。そして,今年の3月に中間取りまとめについてこの審議会でも御報告させていただきましたが,この度報告書がまとまりましたので,改めて御報告申し上げたいと存じます。

まず四つのうちの第1,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等です。権利制限という文言がやや分かりにくいですが,著作者には著作権があって,他人が著作物を使うに当たっては著作者には許諾権があり,使った人に対して報酬請求権があります。しかし,それをあらゆる場面で主張されますと社会生活において様々な支障が生ずるので,その権利を制限する規定が著作権法の中にございまして,これを権利制限規定と申します。ずっと昔からこの種の規定はあるわけですが,時代が変わってきますと,こういうことにもしたいけれども大丈夫かといった疑心暗鬼が生じます。最近はコンプライアンスが当然のことながら重要視されているので,しっかりした会社は危ないことはできません。そこで,著作権の活用を円滑にしていくために,新たなニーズに対応した権利制限規定に改めていったらどうかということでございます。

それについて検討しました結果,例えば,ここに挙がっておりますが,所在検索サービスとか,情報分析サービスとか,あるいはコンピュータの中でする様々な操作とか,あるいは教育関係もあるのですけれども,これは違う項目でも扱いますから後から申しますが,そういったことについて,著作者の権利を侵害する程度と利用の必要性とのバランスをよくとった改正を行っていくべきだというのが,第1の提言でございます。

第2の点は,教育の情報化の推進について,でございます。この課題につきましては,著作権法に昔から三十五条という規定がございまして,教室で少人数の生徒さんたち相手に先生が他人の著作物の一部を使って授業を行うことを認めています。教科書であれば著作権の処理はできているのですが,教科書ではないものを配布するときに,それは非常に小規模だし,そのことについて一々許諾を得たり,お金を払ったりするのは,トランザクション・コストといいますか,取引の費用の方が膨大になってしまうので,こういう使い方については権利制限がされているわけです。そうした中,近時,そして今も更に進んでおりますけれども,インターネットを使った教育がどんどんと進展しています。そういう状況に対応した権利制限をする必要があるのではないかということでございます。

それについて検討しました結果,一部は無料で使えるというものを残すものの,方向としては,ここにありますように,補償金請求権の対象とするということで,許諾を得ないで使っていいけれども,お金は払ってもらうということです。お金を一々払うのも大変なので,例えば一括して生徒さん一人当たり幾らという計算で学校に支払ってもらって,あとは自由に使っていただくような仕組みがあり得る方法です。そのためには,権利者団体も,その補償金を集める――補償金というのは,先に使った上で,お金を後で払うということですが,そういう保証金の徴収とか,著作権者への分配とかについて,権利者団体の方にもきちんとした組織を作ってもらわなければならないわけですけれども,そういったことを進めて教育の情報化の推進に資するように著作権法の在り方に変えていったらどうかというのが,2番目の提言でございます。

3番目の課題は,障害者の情報アクセス機会の充実について,でございます。これにつきましても,著作権法には既に規定がございまして,三十七条です。一番分かりやすいのは,昔からある1項で,著作物を点字にするときに,それも内容をコピーしているわけですけれども,それは自由にできるという規定がございます。だんだんと拡充していっているわけですが,もう一段拡充して,例えば,従来は視覚障害者を念頭に規定が書かれていたところ,必ずしも視覚障害者だけが困っているわけではなくて,肢体不自由な方も,本を読んだりするのに不都合がある,支障があるという方もいらっしゃいますので,そういう方を対象に入れましょうとか,あるいは,著作物の利用行為に,複製だけではなく,メールで送信するという電子的に使うということも含めましょうとか,あるいは,ボランティア団体,ボランティアグループもそういう複製等を行う主体に加えましょうとか,そういったことをしたらどうかというのが,3番目の点についての提言でございます。

最後,4番目は,著作物等のアーカイブの利活用促進について,でございます。大きな点だけで申しますと3点ございまして,第1点は,外国の図書館等から国立国会図書館に絶版になっている著作物を送ってほしいという要請があるようでございまして,それができるように,送信サービスが可能になるようにしたらどうかということです。第2点は,これが一番ここにいらっしゃる多くの方に関係するかもしれませんが,美術の著作物や写真の著作物の展示をする際に,現在の著作権法の四十七条では,小冊子を作って,その小冊子に絵とか写真が入ってもよろしいという規定はあるのですが,もう少し進めて,電子機器を用いて観覧者に作品の解説や紹介を行うようにしてもよいということにしてはどうかということです。ただ,それがそのまま美術館等の外に持ち出されたりすると困りますので,そこの措置はしっかりしてくださいという条件があります。また,外向けにこういう芸術作品がこの美術館あるいは博物館にありますということを発信する際に複製が起こるわけですが,それは,サムネイル画像,つまり親指の爪程度の画像である必要があり,それは画素数を余り上げないで,鑑賞用の作品としては不足である程度にするという条件が必要です。作品への誘導のためには,その程度の画像等の外部発信はしていいということにしましょうというのが,第2点です。第3点は,著作者が不明等の場合の裁定制度について,です。これは,他人の著作物の利用に際して,著作者を探しても見付からないというときに,勝手に使うというわけにはいかないので,著作権料相当額,これは業界等の標準で決めるわけですが,その額を国に供託して使うということが行われているのですが,国や公共機関が行う場合にはこの供託義務をなくしましょうということです。そういう3点についての提言がここに含まれております。

以上,四つの課題について,それぞれ著作権法の改正の方向性についての提言をしたのが,この報告書でございます。現在,この報告書の方針を既に踏まえて,改正法の準備を文化庁においては進められていると承知しております。著作権分科会としては,残された課題はたくさんありますし,今後もどんどん起きてくると思いますので,引き続き,著作権制度に関する諸問題について検討を進めてまいりたいと存じます。

以上でございます。

【馬渕会長】ありがとうございました。

今の御報告に何か,御質問等ございませんでしょうか。よろしいですか。

大変前向きな制度で,私ども美術館の側としては,本当にこれが法的に通れば,非常に便利な,すばらしい法改正になると思います。

それでは,議題(3)はこれで終わりということでよろしいんでしたっけ?どうぞ,髙田調整官から。

【髙田企画調整官】最後に,今後の予定と,お配りしたチラシにつきまして,ちょっと御説明いたします。

まず,今後の予定でございますが,資料6を御覧ください。資料6は,今後,文化審議会での審議をどのようにしていくかということについて,簡単にまとめたものでございます。これまでも基本方針の議論につきましては文化政策部会で主に議論をしてきまして,節目,節目で総会に報告するという形をとっております。そういったこともございまして,早速来週,文化政策部会を開催いたしまして,今回の諮問内容だとか,基本計画の改正などについて説明をし,その後,文化政策部会の中で具体的な議論を進めていくことにしております。

その後,予定といたしましては,今秋をめどに中間報告,年度内をめどに答申という方向で進めようというふうに考えております。その際,文化政策部会での議論ということですと,どうしても全体の議論が中心になりますので,文化政策部会以外の各分科会・部会,また文化財分科会で先ほどの諮問内容を検討するために企画調査会というものが設けられておりますけれども,そういったようなところでも,今回の基本法の改正の内容ですとか,第4次答申を作りましたけれども,その内容が今どういうふうに進められているのかということについて,必要に応じて御議論いただきながら,節目,節目に総会で議論いたしますので,総会の場でそういった議論を反映させていただければというふうに考えておりますので,よろしくお願いいたします。

それと,机上配布資料の方で,二つ,チラシを配っております。初めに,こちらの映画のチラシの方でございますけれども,今,文化庁の方で,文化芸術と関連する映画につきましてはタイアップをして宣伝していこうということで,「花戦さ」という池坊専好さんをモデルとした生け花の映画でございますけれども,そちらについて,文化庁の方でも,例えば長官が野村さんだとかと対談したりして,こういった映画を通じて生活文化の振興を進めていこうというような取組を進めておりますので,それを御紹介いたします。

もう一つは,「文化プログラム発信!」という資料でございます。これは,あらゆる文化イベント情報を文化庁の方でデータベースとして構築いたしまして,それを発信していくと。その際には多言語で発信していこうということで,そういう取組を進めております。先ほど法改正のポイントの一つに,文化の対象範囲を広げるというような,そういったことがございましたけれども,この文化プログラムにつきましては,これまで文化庁が支援してきたような施策だけでなく,例えば,見開きのページを開いていただきますと,これは全国の祭りを紹介しているものでございますけれども,これまで文化庁というのはどうしても,補助している,あるいは文化庁で指定している対象については詳しいけれども,こういった各地域の文化といいますか,年中行事でありますとか,そういったものについて情報が不足していた部分がございますが,今回,文化プログラムを全国津々浦々で展開していこうというのに当たって,各都道府県,各市町村で行われている,こういった取組などもどんどん,この文化プログラムとして文化情報プラットフォームの中に皆さんから登録していただいて,それを発信していこうというような取組を進めております。先ほど,方言の話でございますとか,あるいは多言語をどうしていくかという話,翻訳という話がございましたけれども,そういった方言で行われるワークショップですとか,あるいは,実はこの文化プログラムの関係で国文学研究資料館のロバート・キャンベルさんから相談があったりしたのですけれども,アーティスト・イン・レジデンスと似たような形で,トランスレーター・イン・レジデンスというようなものを進めて,例えば,日本の古典文学なんかの翻訳をどんどん進めていって,その翻訳を進めた内容で新しい劇のシナリオだとか,そういったものにも活用してもらいたいというような,そういったことがありまして,我々としてはそういったことも文化プログラムとして是非支援していきたいというようなことを考えておりますけれども,そういったような幅広い,これまで以上に幅広い内容の文化の取組をこの中に取り込んで発信していきたいというふうに考えておりますので,御紹介でございます。

最後,文化芸術振興基本法の周知についてどうしていくのかというお話がございましたが,実は,文化情報プラットフォームの説明会というものを7月5日に行うのですけれども,それに併せて基本法の説明会も行いまして関係者への周知を図りますとともに,あと,文化芸術振興基本法は,先週通ったばかりで,まだ公布・施行されていませんで,役所的に言うと公布・施行されてから施行通知を出したりして広めていくということがございますので,今週金曜日が公布・施行の日になるわけですけれども,それに合わせて積極的にそういった周知を展開していきたいというふうに考えておりますので,よろしくお願いいたします。

私の方からは,以上でございます。

【馬渕会長】どうもありがとうございました。

それでは,今日はそろそろ閉会ということにいたしますが,閉会に当たりまして,御出席いただいています宮田長官から一言いただきたいと思いますので,どうぞ,長官,よろしくお願いいたします。

【宮田長官】先生方,ありがとうございます。やっとという言い方がいいのか,どうなのでしょうかね。出来上がりました。これは,文化庁はもとより,当然,文化庁がイニシアチブをとらせていただくのですが,それぞれ専門分野の先生方がこの法案をどう活用していって,ドラスチックに発信していくかに掛かっております。ですから,今後の総会及び分科会においても,こうありたいと,ここまで枠を広げたのだからという意識を,先生方の方から,リーダーシップを持って動いていって,発信していっていただきたいというふうに思っています。あと3年後にオリ・パラもありますので,非常にタイミングのいいときに,通ったんですね。もう通らないんじゃないかと,大変心配しておりましたけれども,通りましたので,是非ともお願いしたいと思っております。

この法案では,大きく三つあります。要するに,今までの文化は文化だけという意識ではなくて,観光だとか,経済とか,その対象範囲,いろんなものにその視点を広げていきたいと思っております。この法案ができる前に,私,文化庁長官を拝命したときに,文化,経済,観光という三輪車構想でいきましょうという話をさせていただいていたのですけれども,日本の文化財とか,いろんなものを見ていますと,清く,正しく,美しくなんですよ。そして,化石になり,最後は土に戻っちゃう。そういうんじゃなくて,それを実にうまく活用していく。馬渕会長からのお話もございましたけれども,活用の仕方というのは,ヨーロッパの文化から比べますと,つくづく,そのはかなさなんですね。石ではない,紙や木や土であるという,その美しさを大いに誇るためにはどうしたらいいかというふうな,例えば,恐縮ですが,ドラスチックな捉え方というのもあっていいと思う。

私の前身の東京藝大でやっているクローンの話だとか,それから,ちょっと余談になりますけれども,フランスのコルベール委員会というのがあるのですね。最初は東インド会社からスタートしているのですね,あれは。すごい歴史を持っているのですよ。経済人や,分かりやすく言えばブランド品のメーカーの人たち,ああいう人たちが積極的な資金援助をして,4年前からスタートして,先日オープンしたのですが,60年後の未来を考えた作品を学生に作らせようとしたのですね。そのきっかけとして,小説家が60年後のロマンを書いている。それを読んで,そして自分なりの表現で形を作っている。それを僕らが,60年後にはもういませんけど,そのロマンを感じて,これはいいんじゃないのというようなことを言わせるというふうな,言ってみれば,日本国内だけではなくて,いろんな国々との連携を持っていきながら,日本の若者たちに対して委ねる気持ちみたいなものを作っていけたらいいのかなというふうに思っております。

当然のことながら,文化庁の機能強化は絶対図りたいと思っております。どこかに心柱がないと,世の中,不安な環境に陥っちゃう。特に文化芸術に関しては非常にはかない部分がございますので,しっかりとした心柱を作っていきたいと思います。だけど,そのためには,是非とも先生方には,例えばコルベールのような話があるように,ダイナミックな企画を立てていただいて,それが具現化されていくというふうな感じになっていっていただけたら大変有り難いというふうに思っておりますので,よろしくお願いします。もちろん文化庁も頑張りますが,両者がタッグを組むという環境作りは,是非,馬渕会長,御指導のほど,よろしくお願い申し上げます。

以上でございます。

【馬渕会長】宮田長官,大変ありがとうございました。同時に,この委員会も大きな責任を負わなければならないということを確認いたしました。

それでは,どうも長時間にわたり,いろいろ御意見,ありがとうございました。本日の総会,これで終わらせていただきます。ありがとうございます。

――了――

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