第2 文化芸術の振興に関する基本的施策

第1の「文化芸術の振興の基本的方向」を踏まえ,国は,以下のような施策を講ずる。

1.各分野の文化芸術の振興

文化芸術の振興に関する施策を講ずるに当たっては,基本法に例示されている文化芸術の分野のみならず,例示されていない分野についてもその対象とし,基本法における例示の有無により,その取扱いに差異を設けることなく取り組んでいく。

(1)芸術の振興

多様で豊かな芸術を生みだす源泉である芸術家や文化芸術団体等の自由な発想に基づく創造活動が活発に行われるようにするため,次の施策を講ずる。

  • 「文化芸術創造プラン(新世紀アーツプラン)」の推進等により,我が国の芸術の向上の直接的なけん引力となる創造活動に対して重点的に支援を行い,世界に誇れる文化芸術活動を伸長する。
  • 広く優れた芸術を創造し,国民に親しまれるようにするため,地方公共団体や関係団体の取組にも留意しつつ,幅広い文化芸術団体の活動に対し,「芸術文化振興基金」などによる助成を行う。
  • 内外の優れた芸術作品の鑑賞機会を提供し,芸術の創造の推進に資する芸術祭等の充実を図る。
  • 新国立劇場における公演の充実を図る。

(2)メディア芸術の振興

近年の情報通信技術等の進展に伴い,メディア芸術は,広く国民に親しまれ,新たな芸術の創造や我が国の芸術全体の活性化を促すとともに,諸外国に対して文化芸術のみならず,我が国への理解や関心を高める媒体ともなっていることを踏まえ,次の施策を講ずる。

  • メディア芸術の一層の振興を図るため,多元的な資金の導入,関連拠点の整備などメディア芸術に係る人材養成から製作,保管,利活用までを一体的に進める方策について検討を行う。
  • メディア芸術作品の製作・上映等への支援,漫画,アニメーションなどの海外発信及び国内外の映画祭等への出品等を推進するとともに,優れたメディア芸術の製作者等の育成を図る。
  • 国内外の優れたメディア芸術作品を鑑賞する機会,特に,子どもたちの映画の鑑賞機会の充実を図る。
  • 優れたメディア芸術作品に対する発表や顕彰の場であるメディア芸術祭等の充実を図る。

(3)伝統芸能の継承及び発展

我が国古来の伝統芸能は,長い歴史と伝統の中から生まれ,守り伝えられてきた国民の財産であり,将来にわたって確実に継承され,発展を図っていく必要があることから,次の施策を講ずる。

  • 伝統芸能が有する歴史的・文化的価値の理解・普及を図るとともに,公演等への支援を行う。その際,我が国の文化芸術の向上の牽引力となる実演家団体が実施する国内外の公演活動に対する支援を重視するとともに,伝統的な音階や技法を用いた新作公演活動の展開も図られるように配慮する。
  • 国立劇場,国立能楽堂及び国立文楽劇場における公演や,各地域における普及のための公演を推進する。・ 伝統芸能の所作や楽器に触れる体験をする機会の提供を通じて,伝統芸能に親しむ人々の拡大を図る。特に,子どもたちが伝統芸能を身近に親しむことができる機会の充実を図る。
  • 伝統芸能の表現に欠くことのできない用具等の製作・修理等に必要な伝統的な技術の継承及び原材料の確保を図る。
  • ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「人類の口承及び無形遺産の傑作宣言」を通じて,世界的にたぐいのない価値を有する我が国の伝統芸能を世界に発信する。

(4)芸能の振興

芸能の創造活動が活発に行われるよう,次の施策を講ずる。

  • 「文化芸術創造プラン」による芸能の創造活動への重点的な支援や,関係団体の育成などを図る。
  • 広く国民に芸能が親しまれるようにするため,幅広い活動に対して,「芸術文化振興基金」などによる助成を行う。

(5)生活文化,国民娯楽及び出版物等の普及

生活文化,国民娯楽及び出版物等の普及を図るため,次の施策を講ずる。

  • 地方公共団体や関係団体の取組にも留意しつつ,生活に密着した衣・食・住に係る生活文化や,国民の間で定着し,長い間楽しまれてきた国民娯楽に関する活動を推進するとともに,関係団体の育成を図る。
  • 子どもたちが生活文化や国民娯楽を身近に親しむことができる機会の充実を図る。
  • 国民生活や社会を支える文化創造の基盤である出版物,レコード等の普及を図るための環境整備を図る。

2.文化財等の保存及び活用

文化財は,我が国の歴史の営みの中で自然や風土,社会や生活を反映して伝承され発展してきたものであり,人々の情感と精神活動の豊かな軌跡を成すとともに,現代の我が国の文化を形成する基層となっている。今日の社会構造や国民の意識の変化等を踏まえ,新たな課題にも積極的に対応することが求められていることから,次の施策を講ずる。

  • 建造物・史跡等の文化財の周辺環境や文化的景観,近代の科学・産業遺産,生活用具等の歴史的な価値を有する我が国の文化的な所産などの保存・活用方策について検討を進める。
  • 生活,教養,好等に関する技能・技術に関し,特に,消失のおそれのある民俗技術について重点的に調査や記録作成の措置を進めるとともに,その特性や実態に応じた保護方策について検討する。
  • 有形文化財(有形民俗文化財を含む)について,その種別や特性に応じて計画的に保存・修復を進める。また,保存施設等の整備,建造物の安全性の向上,防火安全対策,伝統的建造物群保存地区をはじめ文化財集中地域等における総合的な防災対策の検討など,防災対策の充実を図る。その際,科学的な調査研究の成果を生かした取組を推進する。
  • 無形文化財(無形民俗文化財を含む)について,伝承者の確保・養成や,用具の製作・修理など,保存伝承のための基盤の充実を図るとともに,記録映像等の活用を図る。
  • 伝統的な様式表現を伴う身体文化について,適切に保存及び活用を図る。
  • 文化財の保存技術について,選定保存技術制度の活用等により,その保存を図る。
  • 「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」に従い,地方公共団体等と連携して,我が国の文化遺産の登録推薦を進めるとともに,登録後の文化遺産の適切な保存を図る。
  • 国民が文化財を理解し,親しむ機会の充実を図るため,文化財の特性や保存に配慮しつつ,情報通信技術や様々な映像技術など多様な手法も用いて,公開,活用を推進する。特に,史跡等については,必要に応じて史実に基づいた復元等の整備を行うことにより,国民に分かりやすい形での公開を促進する。

  • 子どもたちが,学校や地域において継続的に文化財を学習,体験できる機会の充実を図る。
  • 文化財の保存及び活用に当たり,地方公共団体,大学,専門的機関,NPO(民間非営利組織)・NGO(非政府組織)などの民間団体の活動や,文化ボランティア等の自主的,主体的な活動との適切な連携協力を促進する。
  • 独立行政法人文化財研究所が,科学的・技術的な調査研究に基づく保存修復において我が国の中心的な役割を果たすことができるように,その充実を図るとともに,同研究所や大学等における文化財の保存修復等に関する研究水準の向上及び人材の養成に努める。

3.地域における文化芸術の振興

地域における多様な文化芸術の興隆は,我が国の文化芸術が発展する源泉となるものである。全国各地において,国民が生涯を通じて身近に文化芸術に接し,個性豊かな文化芸術活動を活発に行うことができる環境の整備を図る必要があることから,次の施策を講ずる。

  • 地域住民の文化芸術活動への参加を促進するための機会や,各地域における公演・展示等への支援を行う。
  • 都市と農山漁村の共生・対流の推進の視点も踏まえつつ,各地域の歴史等に根ざした個性豊かな祭礼行事,民俗芸能,伝統工芸等の伝統文化に関する活動の継承・発展や,生活・生業に関連して形成された文化的景観の保護を図る。
  • 地域の特色ある文化芸術や,豊かな自然を生かしたまちづくりなど地域に根ざした文化芸術活動を促進する。
  • 地域の文化芸術活動の指導者や地域の文化芸術団体の育成を図るとともに,地域間の文化芸術の交流を促進する。
  • 「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(平成9年法律第52号)に基づいて,アイヌ文化の振興を図るとともに,アイヌ文化の伝統等に関する知識の普及及び啓発を図る。

4.国際交流等の推進

文化芸術に係る国際的な交流及び貢献の推進を図ることにより,我が国の文化芸術活動の発展及び世界の文化芸術活動の発展に資するため,次の施策を講ずる。

文化芸術に係る国際的な交流及び貢献の推進を図ることにより,我が国の文化芸術活動の発展及び世界の文化芸術活動の発展に資するため,次の施策を講ずる。

  • 伝統文化から現代文化に至るまで魅力ある我が国の文化を総合的かつ計画的に発信するため,官民を通じた国際文化交流を進める上での理念や具体的な方策等を明確にし,関係府省及び国際交流基金その他の関係機関等の緊密な連携・協力の下,国際文化交流を推進する。
  • 文化芸術に関する国際的な相互交流や意見交換を推進するとともに,我が国の文化人・芸術家等と海外関係機関との交流を強化することにより,国際的な人的ネットワークを形成する。
  • 文化交流の国内の拠点である国立の文化施設,文化交流機関等において,相手国の対応機関との継続的な専門家の交流や各種事業の共同実施を推進し,国際文化交流のネットワークづくりを推進する。
  • 関係機関の連携,ネットワークの有効な活用を通じて,芸術家や文化芸術団体の相互交流,各分野の文化芸術の国際交流,国際フェスティバルの開催,我が国の文学作品の翻訳による海外発信などを推進する。
  • 二国間又は国際機関を通じて,人類共通の財産である世界的な文化遺産の保存修復のための協力や,人材育成,共同研究などを積極的に展開するとともに,「文化財の不法な輸入,輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」(平成14年12月9日発効)の適切な実施を図る。

5.芸術家等の養成及び確保等

多様で優れた文化芸術を継承し,発展させ,創造していくためには,その担い手として優秀な人材を得ることが不可欠であることから,次の施策を講ずる。

  • 今後の文化芸術活動の発展等に伴い必要とされる新たな分野の芸術家等の養成及び研修体制の整備や,優れた才能を発掘し,能力を引き出すため早期の教育システムについて検討を進める。
  • 学芸員,舞台技術者・技能者,文化財修理技術者等の専門性の向上を図るための資格の在り方について検討を進める。
  • 芸術家等の海外留学や国内研修の充実,各分野の文化芸術団体等が行う研修への支援,次代を担う新進芸術家が活動成果を発表する機会の充実,世界的な芸術家による指導の機会の充実などを図る。
  • 伝統芸能の伝承者や文化財の保存技術者・技能者,文化施設や文化芸術団体の管理運営者,企画・管理担当者(アートマネージャー),舞台技術者,技能者,学芸員など,文化芸術活動に携わる幅広い人材の養成及び確保,資質向上のための研修の充実を図る。
  • 大学等や国立の文化施設等における教育及び研究の充実を図る。

6.国語の正しい理解

言葉は,意思疎通の手段であると同時に,その言葉を母語とする人々の文化とも深く結び付いている。このような文化の基盤としての国語の重要性を踏まえ,個々人はもとより,社会全体としてその重要性について認識し,国語に対する理解を深め,生涯を通じて国語力を身に付けていく必要があることから,次の施策を講ずる。

  • 分析力や論理的思考力,表現力,創造力など,これからの時代に求められる国語力や,そのような国語力を身に付けるための具体的方策について明らかにし,家庭,学校,地域を通じて,総合的に国語教育の質的量的充実が図られるよう,新しい時代に向けての国語力向上施策を推進する。
  • 学校教育に携わるすべての教員が国語についての意識を高め,実際に生かしていくことができるよう,学校の教員の養成及び研修の各段階において,国語力に重点を置いた取組を進める。
  • 家庭や地域において,国語に対する意識を高めるため,言葉に関する講演会の開催や体験活動を推進し,国語力の育成及び,向上を図る。近年の外来語・外国語(いわゆる片仮名言葉)のはん濫などの状況や放送・出版等様々な媒体が人々の言語生活に及ぼす影響等を考慮し,国民に分かりやすくするという観点から,公用文書等における表現を工夫するとともに,国民の言語への影響に関する関係機関の自覚を求める。
  • 独立行政法人国立国語研究所や大学等の関係機関における調査研究の充実を図る。
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