第2 文化芸術の振興に関する基本的施策[その2]

7.日本語教育の普及及び充実

近年,日本語を学習する外国人は国内外ともに増加しており,また,学習の目的も多様化している。このような多様な学習需要や社会の変化に対応し,外国人の我が国及び我が国の文化芸術に対する理解の増進に資するよう,次の施策を講ずる。

  • 国内における日本語教育を受ける対象者の拡大に対応し,日本語教育の指導内容・方法等の調査研究,日本語教育教材等の開発及び提供,日本語教育に携わる者の養成及び研修など,日本語教育の充実を図る。
  • 地方公共団体などの関係機関や日本語ボランティア等との連携協力を図りつつ,地域の実情に応じた日本語教室の開設や,幅広い知識や能力を持つ日本語ボランティアの養成及び研修など,地域における日本語教育の充実を図る。
  • 海外における日本語学習の広がりにこたえるため,日本語教員等の海外派遣・招へい研修を推進するとともに,インターネット等の情報通信技術を活用した日本語教材・日本語教育関係情報の提供を推進する。

8.著作権等の保護及び利用

文化芸術の振興の基盤を成す著作権等について,国際的な動向を踏まえるとともに,「知的財産基本法」(平成14年法律第122号)及び「知的財産戦略大綱」(平成14年7月3日知的財産戦略会議決定)に沿って,その保護の充実を図るため,次の施策を講ずる。

  • メディア芸術を支えるデジタル・コンテンツ産業も含め,著作者等の権利の適切な保護を図るため,国際的に条約の検討が進められている放送事業者や実演家の権利の拡充など,ネットワーク上での著作権の保護強化等を図る。
  • 我が国では,著作物等の創作時・利用時における契約システムが十分に機能していない面があるため,権利者や利用条件等が曖昧あいまいとなり,適切な保護や円滑な利用の促進に支障が生じているとの指摘がある。このため,著作物等の適正かつ円滑な流通を促進する観点から,新技術と著作権契約システムを組み合わせた著作物等の新しい流通システムの構築に向けた取組を支援する。また,ネットワーク上での著作権契約システムの研究開発や,著作物等の利用可能範囲に関する権利者の意思表示システムの開発・普及を行う。
  • 国内外において我が国の著作物等の海賊版を防止・撲滅するため,官民が連携して対策に取り組む体制づくりを行うとともに,二国間,多国間の枠組みを通じ,適切な保護を求める。
  • デジタル化,ネットワーク化に対応した国際的な著作権保護を進めるため,WIPO(世界知的所有権機関)などで行われている新たな国際ルールづくり等において積極的な役割を果たす。
  • インターネットやパソコンの普及など,情報技術の発達・普及による権利者及び利用者の急激な拡大により,著作権に関する知識や意識がすべての人々に必要不可欠なものとなり,著作権の保護や適切な契約の習慣が広く多くの人々に受容される状況を作っていくことが,必要となっている。このため,学校教育,ネットワークを利用した情報提供など,様々な方法により,著作権に関する知識と意識の普及を図る。
  • 著作権の侵害については,基本的に,権利者自らが侵害の事実を発見・立証する必要があるが,情報通信技術の進展に伴う著作物等の創作・利用形態の多様化が進むに従い,権利侵害行為や損害額の立証などが困難になってきている。このため,著作権に係る権利行使の実効性を確保するため,司法による権利救済に係る諸制度の充実を図る。

9.国民の文化芸術活動の充実

国民がその居住する地域にかかわらず等しく文化芸術を鑑賞し,参加し,創造することができる環境を整備し,心豊かな社会を実現していくため,特に,高齢者,障害者,青少年などへのきめ細やかな配慮等を図りつつ,次の施策を講ずる。

(1)国民の鑑賞等の機会の充実

  • 国民が身近に文化芸術を享受できるよう,各地域における様々な文化芸術の公演,展示等に対する支援を行う。
  • 国民文化祭の開催をはじめ,国民の文化芸術に関する参加や関心を喚起する機会の充実を図る。
  • 国民の文化芸術活動への参画に資する文化ボランティア活動を活発にするため,各地域や文化施設等においての文化ボランティア活動の場の整備,情報の提供,相互交流の推進などの環境の整備を図る。

(2)高齢者,障害者等の文化芸術活動の充実

  • 文化施設等において,高齢者,障害者,子育て中の保護者等が文化芸術を鑑賞し,参加し,創造しやすい環境の整備を促進する。
  • 文化芸術活動の公演・展示等において,字幕や音声案内サービス,託児サービス,利用料や入館料の軽減などの様々な工夫や配慮等を促進する。
  • 高齢者,障害者,子育て中の保護者等の文化芸術活動に配慮した活動を行う団体等の取組を促進する。

(3)青少年の文化芸術活動の充実

  • 完全学校週5日制の実施も踏まえ,青少年が各地域において多種多様な文化芸術に直に触れ,体験できる機会の充実を図るとともに,学校や文化施設等を拠点として,子どもたちが伝統文化や生活文化を継続的に体験・修得できる機会の充実を図る。
  • 青少年を対象とした文化芸術の公演,展示等への支援を行うとともに,各地域における社会教育関係団体などによる,青少年の自主的な文化芸術活動の場や機会の充実を図る。
  • 各地域において青少年に対する指導や助言を行う指導者の養成及び確保を促進する。
  • 各地域の美術館,博物館,文化会館,図書館などにおける児童生徒向けの教育活動及び体験の機会の提供を促進するとともに,学校教育との連携・融合を促進する。

(4)学校教育における文化芸術活動の充実

  • 初等中等教育から高等教育までを通じて,歴史,伝統,文化に対する理解を深め,尊重する態度や,文化芸術を愛好する心情などを涵養し,豊かな心と感性を持った人間を育てる。
  • 「総合的な学習の時間」などを活用し,積極的に,文化芸術に関する体験学習など文化芸術に関する教育の充実を図るとともに,優れた文化芸術の鑑賞機会の充実を図る。
  • 子どもたちに対する文化芸術の指導を行う教員の資質の向上を図るとともに,各教科の授業や部活動において,優れた地域の芸術家や,文化芸術活動の指導者,文化財保護に携わる者等が教員と協力して,指導を行う取組を促進する。
  • 授業において,和楽器を用いたり,長い間親しまれてきた唱歌,わらべうた,民謡など日本のうたを取り上げる等,我が国の伝統的な音楽に関する教育が適切に実施されるよう配慮する。
  • 全国高等学校総合文化祭など文化芸術の発表機会の充実を図る。

10.文化施設の充実等

(1)劇場,音楽堂等の充実

劇場,音楽堂等が,優れた文化芸術の創造,交流,発信の拠点や,地域住民の身近な文化芸術活動の場として積極的に活用され,その機能・役割が十分に発揮されるよう,次の施策を講ずる。

  • 法的基盤の整備や税制上の措置などの方策により,劇場,音楽堂等の活動の円滑化,活発化を図る。
  • 各地域の劇場,音楽堂等の公演等への支援,芸術家等の配置等の支援,情報の提供などを充実するとともに,他の劇場,音楽堂,学校等と連携した活動を促進する。
  • 各地域の劇場,音楽堂等の施設設備の適切かつ安全な環境の確保を図るとともに,施設の管理運営等に関し,それぞれの目的等に応じて,多様な手法を活用してサービスの向上,運営の効率化等の配慮が行われるよう促進する。
  • 国立劇場や新国立劇場等における公演の充実を図り,国民に質の高い文化芸術の鑑賞機会を提供するなど,国立施設としてふさわしい活動を推進する。また,「国立劇場おきなわ」を開設し,組踊をはじめ沖縄の伝統芸能の保存・振興を図るとともに,伝統文化を通じたアジア・太平洋地域の交流の拠点とする。
  • 劇場,音楽堂等における活動に不可欠な企画・管理担当者,舞台技術者・技能者,文化施設の職員等の資質向上のための研修の充実を図る。

(2)美術館,博物館,図書館等の充実

国民の要望の多様化,高度化を踏まえ,美術館・博物館が優れた文化芸術の創造,交流,発信の拠点や,地域住民の文化芸術活動の場として積極的に活用され,その機能・役割が十分に発揮できるよう,次の施策を講ずる。

  • 美術館,博物館の活動がより円滑かつ活発となり,質の高い展覧会の開催などが促進されるための施策について,法的整備も含め,検討を進める。
  • 寄附等に係る税制上の措置などの方策により,所蔵品の充実や安定した運営を図る。
  • 国内外の優れた美術品等の鑑賞機会の一層の拡充を図るため,利用者の要望に対応したサービスの向上や,登録美術品制度の活用を進める。
  • 各地域の美術館,博物館の展示等への支援を充実するとともに,学習の場としての機能の充実や,他の美術館,博物館,社会教育施設,学校等と連携した活動を促進する。
  • 国立美術館,国立博物館が,国内外の美術館,博物館の連携の中核的・指導的役割を十分に発揮できるよう各機能の充実を図るとともに,「九州国立博物館」(仮称)及び新しい国立美術展示施設を開設し,国民の文化芸術活動の機会の一層の充実を図る。
  • 魅力ある施設づくりの核となる学芸員等の資質向上のための研修の充実を図る。
  • 優れた文化財,美術品等の積極的な公開・展示を進めるため,映像技術や情報通信技術を活用した記録・保存・公開を促進する。
  • 多様化・高度化する国民の要望に対応した情報拠点として,国民に親しまれる図書館づくりを進めるとともに,「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(平成14年8月2日閣議決定)に基づき,子どもの読書活動の推進を図る。

(3)地域における文化芸術活動の場の充実

国民が身近に,かつ,気軽に文化芸術活動を行うことができる場の充実を図るため,次の施策を講ずる。

  • 各地域の文化施設や公民館等の社会教育施設について,地域の芸術家,文化芸術団体,住民等が円滑に利用しやすい運営を促進する。
  • 学校施設については,学校教育に支障のない限り学校教育以外の利用が認められていることや,学校教育に利用される見込みのない余裕教室や廃校施設については,様々な用途への転用が可能となっていることを踏まえ,地域の芸術家,文化芸術団体,住民等の公演・展示や練習の場として,また,文化芸術作品等の保存場所としての利用を促進する。
  • 学校や,文化施設以外の施設など様々な場について,地域の芸術家,文化芸術団体,住民等による文化芸術活動での幅広い利用を促進する。

(4)公共の建物等の建築に当たっての配慮

  • 公共の建物等の施設の整備に際して,建物の外観等が,周囲の自然的環境や地域の歴史,文化等との調和が取れたものとなるよう形状,色彩,デザイン等について配慮するよう努める。

11.その他の基盤の整備等

(1)情報通信技術の活用の推進

情報通信技術の活用は,文化芸術の創造活動のみならず,その成果の普及や享受を通じて,人と人との結び付きを強め,協働・共生社会の実現に資するなど,多様で広範な文化芸術活動の展開に貢献するものであることから,次の施策を講ずる。

  • 文化芸術に関する情報や画像等について,地理的制約を受けずにその活用を可能とするネットワークの構築を推進する。
  • 我が国の多様な文化芸術,映画フィルム,文化財等について,デジタル技術,インターネット,CD-ROM等を活用して,保存,展示,国内外への公開等を推進する。その際,デジタル化された画像等を文化芸術活動以外の様々な活動においても活用しやすくするよう配慮するとともに,学校教育における活用の促進の観点から,子どもたちが理解しやすいものとすることにも留意する。
  • 情報通信技術の活用のための研究開発を推進する。
  • 文化芸術関係者の情報通信技術の活用の推進を図るための取組を促進する。

(2)地方公共団体及び民間の団体等への情報提供等

地方公共団体,芸術家等,文化芸術団体,NPO,NGO,文化ボランティア等が行う文化芸術の振興のための取組を促進するため,次の施策を講ずる。

  • 国内外の文化芸術に関する各種の情報や資料,特色ある取組事例等を積極的に収集し,提供する。
  • 国内外の文化芸術関係者等が,国の文化芸術の振興に関する施策の内容や,国内外の文化芸術に関する各種の情報,専門的知識等を把握することができるよう,情報通信技術など様々な方法を活用して,積極的に提供していくとともに,相談,助言等の窓口機能の整備を図る。
  • 地方公共団体,芸術情報プラザなどの文化芸術団体等による情報提供のための取組を促進する。

(3)民間の支援活動の活性化等

個人や企業・団体等が文化芸術活動に対して行う支援活動を促進するため,次の施策を講ずる。

  • 文化芸術活動に対する寄附の促進を図るための税制上の措置の活用等を講ずるよう努める。
  • 文化芸術団体等と連携しつつ,文化芸術関係者が寄附等を受けやすくなる仕組みの整備を促進する。
  • 文化芸術関係者をはじめ広く国民に対して,文化芸術活動に対する寄附等に関する税制措置の現状,企業等による支援活動の状況,多様な方法による文化芸術活動への支援の事例などについて,文化芸術団体等と連携をしつつ,情報の収集及び提供を行う。
  • 文化芸術関係者の寄附金等の確保のための活動の促進を図るとともに,社会全体で文化芸術活動への支援を促進していくための機運の醸成を図る。

(4)関係機関等の連携等

  • 文化芸術の振興に関する施策を効果的に推進するため,国,地方公共団体,企業,芸術家等,文化芸術団体,NPO,NGO,文化ボランティア,文化施設,社会教育施設,教育研究機関,報道機関などの間の連携を強化する。
  • 文化芸術と教育,福祉,医療その他の分野の連携が図られ,地域で人々が様々な場で文化芸術を鑑賞し,参加し,創造することができるよう,芸術家等及び文化芸術団体と,学校,文化施設,社会教育施設,福祉施設,医療機関等との間の協力の促進に努める。

(5)顕彰

  • これまで顕彰の機会が少なかった文化芸術の分野も視野に入れ,文化芸術活動で顕著な成果を収めた者や,文化芸術の振興に寄与した者に対して積極的に顕彰を行う。

(6)政策形成への民意の反映等

  • 文化芸術の振興のための基本的な政策の形成や,各施策の企画立案,実施,評価等に際しては,芸術家等,学識経験者その他広く国民の意見を求め,これを反映する体制の整備を図る。
  • 各地域において,国及び地方公共団体の文化行政担当者,芸術家等,文化芸術団体等が,各地域の文化芸術を取り巻く状況や活動状況,文化芸術の振興のための課題等について,情報や意見の交換を行う場を積極的に設ける。
  • 情報通信技術を活用して,広く国民が文化芸術に関する政策提言等を行うことができる仕組みを構築する。
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