第8期文化審議会第1回総会(第46回)議事録

1  日時
平成20年2月14日(木) 10時31分〜12時13分
2  場所
文部科学省 東館 3F1会議室
3  議題
  1. (1) 会長の選任
  2. (2) 文化審議会運営規則等について
  3. (3) 文化行政に関する最近の動向について
  4. (4) その他
4  出席者
青山委員,石澤委員,岡田委員,里中委員,田端委員,田村委員,東倉委員,富澤委員,中山委員,西原委員,野村委員,林田委員,林委員,松岡委員,宮田委員,山内委員
(欠席委員)
市川委員,尾高委員,西委員,森委員
(配付資料)
  1. 第8期文化審議会委員名簿
  2. 文化審議会について
  3. 文化審議会関係法令
  4. 各分科会への委員の分属
  5. 平成20年度文化庁予算(案)の概要
  6. 文化審議会の議事の公開について
  7. 文化政策部会の設置について
  8. 地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律案について
  9. 文化発信戦略に関する懇談会について

午前10時31分 開会

○小松政策課長
皆様,おはようございます。
ただいまから,文化審議会第46回総会を開催いたします。
本日はご多忙のところご出席いただきまして,どうもありがとうございます。
私は文化庁長官官房政策課長の小松でございます。
本日は第8期の文化審議会の第1回目の総会でございますので,後ほど会長をお選びいただくまでの間,私の方で議事を進めさせていただきますので,よろしくお願いいたします。
本日の議事進行につきまして,まず文化審議会会長及び会長代理をご選任いただきたいと思います。その後,事務局から審議会関係法令,運営規則等を簡単にご説明申し上げ,会長より文化政策部会に所属する委員を指名していただきます。続きまして,事務局より文化行政に関する最近の動向といたしまして,地域おける歴史的風致の維持及び向上に関する法律案についてご説明申し上げます。また,昨年12月に設置いたしました文化発進戦略に関する懇談会における議論をご紹介し,委員の皆様からご意見を賜りたいと存じます。よろしくお願いいたします。
それでは,本日は池坊文部科学副大臣が出席していらっしゃいますので,池坊副大臣よりごあいさつをお願いいたしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○池坊文部科学副大臣
皆様,おはようございます。池坊保子でございます。
本日より第8回文化審議会が開催されます。皆様方には,お忙しい中お時間をとっていただきまして,ありがとうございます。また,委員にご就任いただきましたこと,心よりお礼申し上げます。新しく林先生に委員になっていただきましたこと,心より感謝申し上げております。その他の委員の方は,今まで私が親しく意見を交換させていただいた方ばかりでございますし,大変この文化審議会を楽しみにいたしております。また皆様方の限りないお力をいただきながら,21世紀にふさわしい文化行政を果たしてまいりたいと思っております。
私の娘婿がマスコミ関係で今ロンドンに駐在いたしておりまして,G7で日本に帰ってまいりまして昨日会いました。イギリスから日本を見たときに,日本はもっともっと文化,教育に力を出さなければ,これから世界に互していけないのではないかと申しておりました。今ロンドンは大英博物館で秦の始皇帝の展覧会をしているそうでございます。中国はそれに対して莫大な費用を注入し,毎日毎日行列ができている,BBCも毎日それを流していると。そのような話を聞くたびに,日本は大丈夫だろうか。日本もたくさんの文化,芸術があるけれども,いろいろな形でもっともっと他国に発信してほしいという思いを本当に深くしているんだという話をいたしておりました。
経済を見ましても,確かに日本のGDPは世界第2位でございますけれども,総生産の500兆円というのは10年前と変わっておりませんし,280兆円の総所得というのも10年前と変わらない横ばいでございます。現在3位はドイツであり中国ですが,いずれこのGDPもきっと越されるのではないかと危惧しております。そのときに,日本は一体何が残っているのか。人材,科学,そして文化,芸術は残っている。そう言われるためには,これまで以上に国策として教育・科学技術・文化芸術の振興に重点的に取り組んでいかなければならないと強く感じております。
第7期においても,皆様方には本当に各分科会において精力的にご議論いただき,そしてご報告もいただきました。私どもはそれをしっかり反映させていきたいと思っております。第8期におきましても,皆様方のお力添えをいただきますよう,心より願っております。
ありがとうございます。
○小松政策課長
委員の方々をご紹介させていただきます。〈委員紹介〉
それでは,第8期文化審議会の会長及び会長代理をお選びいただきたいと存じます。
〈会長及び会長代理の選任〉
※会長について,石澤委員が委員の互選により選出された。
※会長代理については,石澤会長から宮田委員の指名があった。
○石澤会長
それでは,議事に入らせていただきます。
事務局から配付資料のご説明をお願いいたします。
○事務局
お手元の配付資料を確認いただきたいと思います。〈配布資料の確認〉
○石澤会長
本日,まず本審議会の概要について,事務局から簡単にご説明いただきたいと思います。それでは,お願いいたします。
○小松政策課長
〈資料2〜資料6説明〉
○石澤会長
ありがとうございました。
今,ご説明がありましたように,資料4をごらんいただきますと,各分科会,3つの分科会ができております。
引き続きまして,文化政策部会に所属する委員の方々をご指名申し上げたいと思います。 
〈文化政策部会所属委員の氏名〉
※尾高委員,田村委員,富澤委員,宮田委員,山内委員の5名が文化政策部会所属委員に指名された。
それでは引き続きまして,資料8及び資料9について事務局よりご説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○有松伝統文化課長
〈資料8〜資料9説明〉
○石澤会長
ありがとうございました。
それでは,資料9に基づきまして,青木文化庁長官からご説明いただきたいと思います。
○青木文化庁長官
資料9をごらんいただきたいと思いますが,文化発信戦略に関する懇談会を昨年12月に設置いたしました。昨年の2月に本審議会で答申を出しまして閣議決定されました文化芸術の進行に関する基本的な方針(第二次基本方針)の中の重点的に取り組むべき事項の2番目に,日本文化の発信,交際文化交流の推進という柱がございます。この柱について文化審議会でご議論いただいたものを,文化庁として実際に具体的な形にしていくために,文化庁長官の私的懇談会として,文化発信戦略に関する懇談会を開催することにいたしました。これまで,昨年12月26日と本年1月23日の2回会議を開催いたしました。
その懇談会の概要に関しましては,趣旨,検討事項が1枚目に載っております。それから,2枚目にここに参加いただいております懇談会の委員の方々のご紹介がございます。3枚目が,論点の案でございます。こういうようなことが委員の皆様から出されたということでございます。
今日の読売新聞を見ますと,朝刊に海外交流審,国際放送の拡充提言へというような記事が載っておりました。海外交流審議会は日本の対外発信力の強化を検討している外務省の諮問機関であり,張富士夫さんが審議会の会長になっていらっしゃいます。審議会では,日本の国力というものを文化の力として示す必要があり,日本のソフトパワーの発信が国際関係においても非常に大きな役割を果たすということから,日本国際放送の拡充,海外日本語教育拠点100カ所以上設置,ポップカルチャー等の活用などが提言されたようです。
この文化発信戦略会議の第1回に外務省の広報文化交流部長がいらっしゃいまして,外務省のこの懇談会に対する期待とか,また外務省側の対応といったことをお話しになり,海外交流審議会についてもご説明がございました。
外務省とか国交省もいろいろなことを今文化に対してやろうとしていることは事実ではございまして,それは非常に重要なことだと思います。昨年4月に文化庁長官に就任以来いろいろと勉強させていただいておりますけれども,文化に関して,特に日本文化については,その知識の蓄積,ノウハウから,日本に文化庁のほかにこういう機関はございません。
ですから,ほかの官庁や民間でもいろいろな文化発信をなさることはもちろん重要であります。我々にとっても非常にありがたく存じますけれども,やはり文化庁が一つの日本文化の基本を押さえているというところから発信をするということが非常に重要であるということをひしひしと感じております。先ほど副大臣からお話がございましたように,国際社会における文化力の競争は非常に熾烈な形で今展開されております。それは各国が文化発信をすることによって,自国の国際社会における存在というものを非常にはっきりとさせよう,あるいは重くさせようと図っているところでございます。そういう時期に文化庁といたしましても,この文化振興の基本的方針の第2の柱を何か具体的な形にまとめるために,この懇談会を発足いたしました。
今後,いろいろな問題がご議論されると思いますけれども,それについてはもちろんこの文化審議会においてご報告し,また文化審議会の全体の委員の皆様から貴重なご提言あるいはご助言をいただきたいと思います。懇談会には,最終的に具体的な文化発信のあり方を報告書の形としてまとめていただきたいと思っております。
私個人は,数年前に内閣府で総理の私的諮問委員会としての文化外交の推進に関する懇談会の座長をさせていただき,報告書をまとめたことがございます。外務省,内閣府が中心だったと思いますが,そのときにもここにいらっしゃる委員の方も出ていらっしゃったと思います。文化の内容について,日本がどういう文化を伝統的に持っていて,それがどういう形で蓄積されて,どういう形でそれが発信可能になるかという内容については,やはり文化庁が責任を持ってやらなければいけないと思います。
日本語教育の拡充といいましても,文化庁には国語分科会がございますし,国語についてもいろいろな形で今研究,協議を重ねております。そういうものも生かさないと,やはり今の世界において効果的な文化発信はできないだろうと強く思う次第でございます。ここにいらっしゃる委員の皆様のご協力も仰ぎながら,今後この懇談会を進めてまいりたいと思います。
何か具体的な形でこういうことをするという,今こういうことをしなくては駄目だということをきちんと出すことを考えまして,戦略という言葉を入れさせていただきました。委員の中には戦略はちょっと強過ぎるとかいろいろおっしゃっていましたけれども,基本的にはやっぱり現在の状況においてこれは必要だということで認めていただきました。  また,先ほど副大臣のお話にもございましたように,アジアの各国が大変国策として文化発信に力を入れるようになりまして,これまで文化発信を国際社会でやるのはほとんど日本だけという時代でしたが,今は中国も韓国も,あるいは東南アジア諸国やインド,そのほかも世界でいろいろな文化発信をしております。その中で日本がやはり非常に大きな役割を果たすことができると思うし,また日本にはそれだけのものがあると思います。それを効果的にどういうふうにやっていったらいいか,そういう知恵をいただきたいと思い,今懇談会を開催してやっている次第でございます。
ここにございますようなテーマ,今のところは検討事項としましては2つ,文化発信のための国内基盤の整備ということと日本文化の効果的発信について,いろいろな立場からご発言をいただいております。
以上でございます。
○石澤会長
ありがとうございました。
ただいま青木文化庁長官から,文化発信戦略に関する懇談会についてご説明をいただきました。大変重要な問題でございますし,これから日本がそういう文化政策をまた世界に向けて発信するかということでございます。それで,文化発信の懇談会の座長を務めておられました山内委員から何か補足がございましたら,ご説明をお願いいたします。
○山内委員
ありがとうございます。今期の文化審議会の委員を仰せつかった山内昌之でございます。今日は遅参いたしまして,申しわけございません。
ちょうど入ってまいりましたらソフトパワーという長官の表現が何度かにわたって聞こえました。まさにそのソフトパワーの発明者であるハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が今日本に来ておりまして,こちらへ参る少し前にナイ教授と今外務省で諸般の打ち合わせをしてきたところでありまして,ちょうど文化審議会に出るということを伝えてきましたので,後刻ソフトパワーのことも話題になったというふうに伝えたいと思います。
外務省ではまさに文化発信,広い意味での文化交流にかかわる事業もしているわけですが,私のような市民的な基盤で活動している人間としては,こうした外務省の問題意識と,それから文化庁におけるこうした国際交流,そして文化発信にかかわる問題意識,これを何とか大きな力としてまとめ上げて日本全体として発信するような,そういうことができないものかと思っております。ナイ教授にもそういった問題意識を伝えて,いずれこの今私たちがやっている文化発信のための戦略的な問題意識について説明して,ご協力などもいただけたらとふと感じております。
さて,せっかくの座長からのご指名でございますので,ただいま長官からもご説明のありました文化発信戦略に関する懇談会につきまして,簡単にご説明いたしたいと思います。
お手元に既に資料もそれに関してごらんいただけるかと思いますが,2つございまして,1つは文化発信のための国内基盤の整備に関係すること,それから2つ目は長官のご説明にもありましたように,日本文化の効果的な発信に関係すること,この2点であります。
これまで2回にわたって懇談会が開かれましたが,第1番目の文化発信のための国内基盤の整備につきましては,次のような意見が出ておりますので,皆様にもご紹介申し上げたいと思います。
1つは,日本人自身がもっと日本文化のよさを再認識する必要がある,そのための仕組みづくりをする必要があるのではないかという意見がたくさん出ております。中でも,伝統文化と現代文化の連続性のようなものを認識する必要があるという意見が多かったわけです。
また,第2としまして,人材の育成や活用という大事な観点からは,例えば大学における教養教育,リベラルアーツをもっと充実すべきだろうという意見,さらにさまざまな交流活動を行っている日本人のネットワーク化を図るべきではないかという意見なども出ております。
3番目に多かったのは,文化拠点の整備という観点から,例えばヨーロッパで始まった創造都市,クリエイティブシティの形成や,伝統工芸に関する拠点を国内に設置してはどうかといったご意見が出ているところであります。
続いて,2つ目に示されております日本文化の効果的な発信については幾つか意見がございますが,特に注目すべき3点についてご紹介申し上げたいと思います。  第1は,本格的な海外における展示,海外展などが,海外に関わる我が国における展示ということであります。海外展などがコンスタントに開催できるような仕組みづくりをする必要性が指摘されております。また,もちろん外国におけるそういう展示,すなわち狭い意味の海外展といったようなものをきちっと仕組みづくりとして行う必要性というもの。さらに,海外発信を意識した作品の制作を支援してはどうかといった意見が出ております。これは当文化審議会の前期における文化政策部会などにおける問題意識とすこぶる共通しているということは既にお気づきかと思います。さらに,日本の戯曲を海外で現地の俳優が上演するようなことをしてはどうかといったような意見も出ておりまして,これらは文化審議会の中でも文化政策部会などにおける問題意識と通底するところがあろうかと思います。
2つ目には,発信仕方についてであります。日本文化を発信する英語版のホームページを充実するというようなことも考えられますし,海外における発信拠点としての日本人学校などの既存の施設を活用すべきではないかという意見も出ております。海外の文化遺産の修復にこれまで日本は文化庁を中心にして協力してまいりましたけれども,さらに日本の貢献がわかるような形で,もっとアピールしてはどうかといった意見もたくさんいただいております。
最後に3点目として,地域からの文化発信,すなわち日本のローカルからの文化発信についてであります。地域の中でトータルでアートコーディネートできるような人材を育成すべきではないかという意見が出ておりますし,先ほどのヨーロッパで始まった創造都市とも関係しますが,市民活動をもっと支援していくべきだという意見もいただいているところであります。おおむね始まったばかりでありまして,まだこれから議論を整理し,詰めていかなければいけない点は多々残しておりますが,本日文化審議会の委員の皆様からもご意見をちょうだいしまして,それをさらに懇談会の席へフィードバックしていきたいと,このように思っております。
○石澤会長
ありがとうございました。
それでは,青山委員の方から順にいろいろご意見を賜りたいと思います。先ほど山内座長からいろいろご説明いただきました分,大変重要な問題,また重たい問題でもございますし,もう少しこういう点,あるいはこんな問題を考えたらどうかとか,それぞれ専門分野及びお立場からご意見がおありかと思いますので,大体2分から3分ぐらいで,こんな問題はどうかというぜひ忌憚のないご意見をいただければ幸いでございます。
それでは,順繰りにお願いいたします。
○青山委員
文化というものをどういうふうにとらえるかということですが,山内座長や先ほどの長官のお話などを伺っておりますと,精神的活動の成果のような形で文化をとらえておられる。これは大いに海外に発信すべきだというふうに感じました。けれども,私は文化というのはもう少し広くて,1つの時代とか1つの地域にそれぞれの人々が共有して持っている,そしてはぐくまれてきた生活様式とか行動や思考方式というように広く文化というものを考えています。そういうものが積み重なって出てきている結晶のようなものが文化芸術というようなものだと思います。
私は文化の価値は相対的なもので,どの文化が尊いとか,どの文化が尊くないとかいうことはないと思います。ただ,さまざまな地域に存在している文化が,磨き抜かれて結晶のような文化をつくり出していくものだというふうに考えております。
それで,今日の懇談会の中心は文化の海外発信ですが,その前提として発信以前に日本人が割合気づいていない,これが非常に大事なものだと気づいていない文化というのがあるのではないかという気がいたします。
私の経験から,信州長野県の大町に木崎夏期大学というのがありまして,これについてちょっと話させていただきたいと思います。これは大正7年にできまして,昨年で91年になります。夏期大学というのは全国どこにでもあると思いますけれども,これは非常に伝統がありまして,期間も夏休みの期間のうち,9日間ずっとやっております。
それをどうやって維持しているかというと,昔は財団法人がありました。信濃通俗大学会という財団法人がありまして,そこで財政的な支援をしておりました。ところが,戦後その財団はお金がなくなって,今はお金はありません。ありませんけれども,いろいろな意味でサポートをしており,今,私はその理事長を仰せつかっております。
それでは,どういう運用をしているかというと,その地域の小中学校の校長先生を初めとする先生方のボランティア活動によって支えられています。東京や大阪,京都から著名な講師を迎えて地域の方々にいろいろな話をしてもらっています。長野県大町市の住民だけではなくて,北は北海道から,南は九州まで,その期間はここに行くというファンがたくさんおります。そういうことが毎年繰り返されて,大正から昭和へ,昭和から平成へと戦争による中断もなく,時流におもねることもなく,91年間続いてきた。これはやっぱり素晴らしいことだと思います。このように毎年毎年繰り返されて,人々の意識に残っていることは,木崎湖畔の大町というところは,こういう伝統的な行事を毎年毎年繰り返しているところだ。今年もここに来られてよかった,来年もまた来たいという気持ちを持って参加者が帰っていくのです。
これは先ほどのまちづくりの法律にありますように,地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律案のようなお祭りだとか派手に打ち上げるイベントのようなものではありませんけれども,脈々と続いている人々の営みで,地域の文化や伝統を維持しています。地域の人々にとって非常に誇りになっているわけです。ですから,東京や大阪から著名な先生方が来てくださるというふうになっている。  私は,文化を海外に発信するということはもちろん大事ですけれども,その前提にはこういうそれぞれの地域の文化が積み重なっているのではないか。そのこと自身がまず大事で,その積み重ねから発信する文化,それから発信する文化の戦略というものが出てくるのではないかということを感じた次第です。
○石澤会長
ありがとうございました。一番最初の検討事項の中の国内基盤の整備につながる非常に貴重な活動だと存じております。
それでは,その次に岡田委員お願いいたします。
○岡田委員
たしか文化芸術振興基本法の第2次の基本方針の議論の中で,「文化と経済は車の両輪」という言葉が出てきたと思いますけれども,それはそれでそうであるけれども,ここに出てきた論点案というのは,国民一人一人が日本文化への理解を深め,日本文化の発信主体となることも必要であるという大前提,これには大賛成でございます。経済は一応置いておいて,文化を語るときに,やはり国民一人一人がどういう心の持ちようができるのかということを大前提にするということは大変すばらしいことだと思います。
常々私は日常の暮らしが文化であるという考え方でありまして,そして日常の暮らしがつくり出す文化というものが本当に人の心を豊かにしていく基本であると思っております。日常からの発信ということもここに盛り込まれていると感じますので,この考え方に大賛成でございます。
ところが,今パソコンネットワークが急速な勢いで発達しておりまして,人間が孤立化しているという現実があります。文化というのは,日常人々が集うことから文化が始まったのではないかと私は考えております。お祭りなんかもそうですし,地域のいろいろな業,地域における歴史的風致及び向上に関する法律案も出てまいりましたが,やはりその辺が一番,日常的な生活というものを念頭に置いた上で人の心を考えていくということが必要ではないか。そして,今人間の心が壊れかけているというのも,インターネットなどで人々の心が孤立化しているという弊害が出てきているのではないかと思います。
ですので,地域ということ,そして日常の暮らし,みんなが集って,そして和み合ったり語り合ったり,そして叱咤激励し合ったりする地域というものの見直しということを,今ここで文化を考える上でやっていくことが必要ではないかと思います。
その上で海外に対する文化の発信ということもいろいろ考えていくわけでございますが,コンテンツがあるものと,そして今申し上げたようなお祭りとか何とか,来て見ていただかなければよくわかっていただけないものと,大きく2つあると思います。コンテンツの流通促進というのはこの前の著作権分科会でもちょっとお話が出ておりましたが,それには力を入れてくださるようで,形あるものに対しては形ある形でやっていただきたい。そして,来て見ていただかなくてはわからないものは来て見ていただくための,日本の風土的な歴史というものの発信というものも必要なんじゃないかと思います。
○石澤会長
ありがとうございました。
それでは,引き続きまして里中委員お願いいたします。
○里中委員
この論点案の前提となる,たしか国民一人一人が日本文化への理解を深めというのは,これはもちろんすばらしいことですが,その方法をちょっと不安に感じるんですけれども,理解を深めるのが必要だといって理解が深まるのかどうか。ここの方法の部分が具体的に示されないと少し心配だなという気はいたします。
それとつながるのは,論点のところの教育機関や文化施設などという,先ほどお話に出ておりました大学における教養の部分,この教養の部分が大学のみならず,高校あるいは義務教育におきましても,いわゆる教養という部分がここ数十年随分ないがしろにされてきたような気がいたします。つまり,効率主義で経済性のないものは排除していくような受験体制と,あとはみんなが答えの出るものでなければ努力する意味がないというような,そんな形でずっと突き進んできたように思います。
昔を懐かしがっても仕方がありませんので,気づいたからにはこれからどうするべきかということを考えたいと思います。文化という言葉はみんな非常に使いやすくて,だれもノーとは言えない言葉です。だけど,具体的に何を指すのかというその具体性に限ると,かけ声だけで終わってしまうと思いますので,こういうことはやはり教育の現場の中で何を重視していくか,そういうあたりから少しずつ積み重ねていかないといけないと思います。子供の成績の評価も昔と違いまして,ボランティア活動とかそういうものも評価されるようになっていますが,基礎教養の部分と表現力−表現力がないと発信力は持てないので−を重視するように,少しシフトしていけないかと思います。
また,日本文化の発信をできるだけ英語表記でというお話がありましたが,これから英語表記だけでいいのかどうかと思います。費用はかかるかもしれませんが,アメリカにおいてすら英語が読めない方たちもたくさんいらっしゃいますので,やはりたくさんの方が使っている言葉,英語プラススペイン語,中国語などで,こちらがきちんと発信することによって,我が国の文化であるというアピールにもなると思います。やはり英語一辺倒ではない広い視野でいろいろ構築していったらいいなと思います。
○石澤会長
本当に貴重な意見をありがとうございました。
それでは,その次に田端先生お願いいたします。
○田端委員
文化財分科会に属しておりますので,そのような観点からしか意見を述べられないですけれども,資料8にありますように歴史的風致という考え方のもとに,国土交通省だとか文化庁だとかいろいろなところが協力して法案をつくっていただくというのは大変うれしいことだと思います。多くの文化財を持っているところでは,それを何とか町づくりに生かしたいと悩んでいますけれども,そのルートがなかなか見えてこなかったと思いますので,これは大変それぞれの地域に与える影響は大きい,いい法案になると思って期待しております。
そのことに関連して,以前大分県や兵庫県などで,中世荘園の棚田みたいなところを圃場整備という名目のもとに,棚田を壊して平らに,トラクターが入れるようなある程度大きな区画の田んぼにされた時期がありました。歴史学の方ではいろいろ反対しましたが,やはり生活の利便性からいうと,過疎化が進んでいる地域でそういう棚田は農村人口が少なくなっているため耕作しにくいので,トラクターが入るような広い地域にされることもある程度仕方がない部分もあるのかなと大変悩みました。その後むしろ棚田が再評価されて,棚田的景観のよさというのが随分言われた時期がありました。だから,一度壊してしまうと,なかなか元には戻らないので,その辺は慎重にしないといけないと思います。  例えば,今回の法令を活用する際に当たりましても,ぜひほかの省庁ではなくて,文化庁だとか文部科学省の方が主導権をとって,今までの歴史的な景観などを生かしつつ,文化財も生かしつつやることを原則とすることをまず考えていただきたい。そこで主導権をぜひとっていただきたいというふうにお願いしておきたいと思います。
いろいろな地域を見てみますと,世界遺産に指定された熊野などは,逆に指定されたから人がたくさん来て,苔がなくなったとか言われていますけれども,地域の人はむしろたくさん見にきてくださってうれしいと,苔はまた復活しますのでというふうに言っています。ところが,ちょっと今出足が少なくなっているようです。そういうふうに景観を変えられないところから,市街地の真ん中でどうしようもないので,京都みたいに現在の建物の高さを制限しようということを市民が納得してくれたというところまであって,さまざまなタイプの文化財の活用の仕方というのがあると思います。
それを地域の方たちの提案をもとにして考えていくということですが,やはり文化財の活用については,出発時点で何も方針なしというのはいけないと思うので,ある程度の指針,文化の活用の指針を,これからしっかりと考えてつくっていかなければいけないと思います。提案の出るままに,「はい,これはいいですよ,こっちもいいですよ」というふうにやってしまうと,これから問題を残すことになるのではないかなという気がいたします。
○石澤会長
貴重なご意見,ありがとうございました。
引き続きまして,田村委員の方からお願いいたします。
○田村委員
こちらに文化発信のための国内基盤の整備についてとございますが,私は本当にこれが戦略的に実施されるかどうかが問われると思っております。
昨日も実は公立文化施設協会の総会がございました。先日文化政策部会でまとめられました「アートマネジメント専門の人材の育成と活用について」の報告書が配られました。でも配られたにとどまっているというのが現状でございました。そこに参加しておりましたので,理事会でははっきりご説明させていただいたのですが,なかなか各地区から出ていらっしゃる担当の方は,財政の厳しい折に総会にすら出席できないというのが現状と皆様おっしゃっていらっしゃいます。その上,施設への指定管理者制度導入のためあおられている現状では,文化施設を生かした文化振興を真剣に考えるどころか,どうやったら現状を守っていけるかというのが精いっぱいというのが日本全国の現状でございます。
今日本文化の海外発信というお話がございましたけれども,その前に日本の中で文化がなぜ大切なのかということを,教育機関も行政機関も日本の地域にいらっしゃる方に伝える,そのことを納得していただく,理解していただく努力というのが非常に大切だということを実感しております。
先ほどございました「歴史まちづくり法案」これは閣議決定され,まだ国会に出ていないものでございます。でも,マスコミで相当取り上げられております。というのは,財政的なバックアップがあるということが皆様わかっていらっしゃるからだと思います。  ところが,いつ発表なさったのかちょっとわかりませんが,アートマネジメントの人材育成について取り上げられた記事は,昨日見せていただいたのですが,信濃毎日にほんの少し載っただけでございます。私が見落としているかもしれませんが,これが現状でございます。
文化に関連していらっしゃる方々は当然と思われていらっしゃるかもしれませんが,日本の社会の中では当然と思わない方が多いのです。そのためにどうしたらいいか一歩踏み出すのは,なかなか今の社会の中では難しいのが現実でございます。先ほど里中委員のお話にもございましたが,教育の中で情操教育というか文化に関する教育というものがいかに大切かということを,ぜひ文化庁から文部科学省の方にも強く言っていただきたいと思いますし,関係の皆様からも強く言っていただきたいと思います。地方の文化施設に携わる者の一人としても実感しているところでございます。
○石澤会長
貴重なご意見,本当にありがとうございました。
引き続きまして,東倉委員お願いいたします。
○東倉委員
日本文化の効果的な発信についてなんですが,ぜひインターネットを活用していただきたいと思っています。ホームページの英語化とかいろいろな話題が出ていましたが,先端技術というのは日進月歩でありまして,非常に進んでいます。皆さんが思っていらっしゃる以上に進んでいまして,最近では大型建造物の三次元でのアーカイブ化とか,感動まで伝えられる情報通信手段ということ,それから検索にしても非常に横断的検察ができるようになってきたと。インターネットの中でも我が国の文化力というのをどんどん高めていくということが非常に大事じゃないかと。それによって,実際海外で展示を行うというようなものと相まって,それが非常に効果的になってくると思います。
私どもも守りの文化よりも攻めの文化だということで,情報学の立場から文化発信ということをお手伝いさせていただきたいと日ごろ思っておりまして,こういう文化と情報学の融合を課題として取り上げていきたいというふうに思っています。
○石澤会長
ありがとうございました。
それでは,富澤委員お願いいたします。
○富澤委員
私は文化発信を強めていく,あるいは力を注ぐということは,そのこと自体について全く同感でありますし,大賛成であります。
やっぱり文化に限らず,日本という国のイメージを今後どういうふうに世界の200カ国近い人たちに持ってもらうかということだろうと思います。かつては,富士山,芸者という時代もありました。そのころはまだ経済が非常に未成熟な時代でしたから,そういうことでしたが,その後経済発展ということでトランジスタになったり,あるいは新幹線になったり,あるいはトヨタ自動車,パナソニックとそういうことで日本人のイメージというのは持たれてきたと思います。
日本が世界第2位に経済大国になる。これもここ十数年にわたって停滞しておりますから,いずれ中国に抜かれ,あるいはほかの国に抜かれるということは仕方のないことでありまして,そのときに日本のイメージというのはどうなるか,外国人が見て日本という国はこういう国なんだというときに,文化は1つじゃありませんけれども,文化の大きなイメージづくりに役立つというふうに思うからであります。
その文化力を外国に発信していく力を強めていくという場合,従来から文化庁が中心になっていろいろな文化人を派遣したり,あるいはメディアを活用したり,あるいは外務省の大使館,外交官の理解,協力を得てそういうものを伝えていくという手段もありますが,私は一番大事なのは,日本にやって来てくれる外国の方だと思います。これは主にビジネスあるいは観光で来るわけですが,小泉内閣の時代に日本へ来る外国人の観光客というのは500万人でした。これは世界のランキングからいうと,たしか当時世界の中で33番目であり,これではいかんということで,首相官邸が中心になって各省の協力を得て,観光客を1,000万人にしようということになりました。いろいろな英知を集めてやってきた結果,たしか昨年で800万人という大台になった。これは大変な成果だと思います。その人たちが,何も日本がお金を出さなくても自分のお金で日本にやって来てくれるわけですから,こういう人たちに日本のイメージを,日本という国はこういう国なんだと見ていただく。
我々もそうですけれども,外国に行くときにビジネスで行くこともありますし,その国の文化に触れるということが非常に大事であります。パリに行けばルーブル美術館あるいはオルセー美術館に行くとか,そういうことよくあるわけでありまして,日本にやってくる外国人もやっぱり日本の文化に触れたいという気持ちが強いわけです。できるだけそういう人たちに便宜供与というか,そういう人たちが足を運びやすくするような方途を考えていったらいいのではないかと。
それは,先ほど述べられた文化拠点の整備とか,あるいは歴史まちづくり法案とか,こういうものがそれに直接役立つものだろうと思いますが,そういう点に絞ってやれば,文化発信にもなりますし,日本の国のまちづくりにも大きく貢献すると,一挙両得の政策ではないかと考えるわけであります。かつては経済の分野で,米ソ冷戦時代が壊れた後,大競争時代というのに突入したわけですが,多分文化もこれから大競争時代に入ってくると思うので,そういう中で日本も積極的に文化庁が中心になって,大競争時代に負けないようにやっていくことはタイミングのいいことだし,ぜひやらなければならないことだろうと思います。
○石澤会長
ありがとうございました。大変貴重なご意見を賜りました。
それでは,中山委員の方からお願いいたします。
○中山委員
私の専門は著作権の方ですけれども,今日はその話題ではないようですので,あまり申し上げることはないですが,二,三回前のこの会議でも申し上げましたが,基本的には文化庁の予算が少ないのではないかと思います。今日いろいろ結構な話がいっぱい出ました。全部大変貴重な話ですけれども,どれをやろうと思っても恐らく予算の裏付けがなればできないのではないかと思います。約1,000億の予算というのは我が国の国力からすれば,前回も申し上げましたけれども,丸が1つ足りないと感じています。
博物館にしろ,あるいは美術館にしろ,どこでも今は非常に困っています。発信どころか,美術館,博物館が困窮している。あるいは,文化庁の所管ではありませんけれども,国会図書館の予算だとかも非常に少ない。国会の持っている図書館としては考えられないくらい少ない。ですから,この予算の増額がまずインフラとして大事ではないかと思っております。
それから,先ほどから出ている教養の話ですけれども,確かに私は,戦後は一貫してどうも教養を蔑視するという傾向があるのではないかという気がします。大学も教養課程を非常に軽視しておりまして,東大はかろうじて教養学部を持っておりますけれども,多くの大学では教養壊滅状態だと思います。教養学部を持っている東大でも,私の付き合っている学生は,例えば歴史的な教養なんかは能力が年々下がっているという感じがいたします。テレビのバラエティーショーを見ておりましても,教養あることが恥ずかしいとか,あるいはちょっと教養と違うかもしれませんけれども,刻苦勉励とか青雲の志,そういうものはもうダサいと,そういうものを馬鹿にするという傾向がある。
これは私は非常に憂うべき傾向だと思っておりますけれども,とにかく教養をどうやってつけるか,専門にプラスして教養をどうやってつけるかということが非常に大きな問題になってくるのではないかと思っております。

○石澤会長 ありがとうございました。文化庁の予算が足りないというのは本当のことだと思いますが,いかがでございましょうか。
そういう意味におきましても,次,西原先生お願いします。

○西原委員 私は国語分科会というところに属しておりますので,言葉について少し希望と抱負を述べたいと思います。
論点の前提のところに,「国民1人1人が日本文化への理解を深め」とあるところの言葉についてのことですけれども,言葉というのは見えない文化でありますけれども,非常に重要な文化の1つと考えられると思います。そして,その言葉の後ろには心があるわけですし,その心こそ日本文化というふうにも考えることができます。それから,その言葉を通じて発信,相互理解ということが行われるわけですけれども,そこにもおのずから日本的な発信とか,日本的なコミュニケーションのパターンとかいうものがあるわけで,世界的に累計的に見ますと,西欧的なロゴスというか論理優先の発信,受信形態に対して,情緒,パトス優先の日本的な発信または相互理解の仕方というのがあるわけでございます。そのこと自体をやはり理解するというか,どういうふうに我々は言葉を使っているのかということをやっぱり理解する必要があるというところにここの意味があるかと思います。
それから,論点の一番下のところに,どのような方法で発信するかということがあるわけでございます。一般的に日本人は発信下手だというふうに世界的には言われていると思います。国際会議の議長の役割は,1つはインド人を黙らせ,1つは日本人をしゃべらせることだというジョークがあるわけですけれども,一般的に非常に深淵なことを言っているようだけれども,何を言っているかわからないというふうに思われているような気がいたします。ですから,国際的な発信という場合に,なぜ我々は黙っているのかと説明しなければならないという,そういう発信の方法を言葉によらなければならないわけなのだけれども,そこを工夫してロゴス的な人にわかってもらうパトス的な価値という,そこのところで我々の言葉に関する重要な文化的な側面というのが理解されていかなければならないのではないかと考えます。

○石澤会長
ありがとうございました。大変おっしゃるとおりでございます。
それでは,野村委員の方からお願いいたします。
○野村委員
私は法律を専門にしておりますけれども,法学というと非常に実務的な学問ですけれども,この法学の中でここ100年ほどの新しい分野で比較法学という諸外国の法制度を比較するという学問がありますが,この中で一部の人たちが比較法文化論というのを強力に主張していまして,フランス語ではculture juridiqueと言いますが,英語ではlegal cultureという言葉が使われています。
法制度というのは人為的につくられるものですけれども,これはそれぞれの一国の文化の上に乗っかっているという観点から,法というものが文化を反映しているという立場です。文化という言葉は非常に曖昧な概念でありますけれども,文化庁には文化庁としての文化概念というのがあると思いますが,先ほどの論点を拝見しますと,伝統文化から現代文化まで含めたかなり広く文化をとらえていると思います。広めにとらえるということが,外国に伝わっていくときに,日本人とかあるいは日本というものの正しい姿を理解してもらえるということにとって非常に重要ではないかと思います。もちろん,予算の問題もあって,どこまでできるかというプライオリティの問題もありますので,そう単純ではないと思いますけれども,検討の対象としてはなるべく概念というのを広めにお考えいただければと思っております。
○石澤会長
ありがとうございました。それでは,林田委員お願いいたします。
○林田委員
私は文化財分科会に属しておりまして,現在美術館の館長をしておりますので,ちょっとそれに関連して申し上げたいと思います。
1つは,先ほど中山先生の方からもお話がございましたけれども,やはり文化を発信するためには,国策としての位置づけというものをもう少しはっきり打ち出していかなければ,なかなか現実には進んでいかないという点が非常にあると思います。やはり,文化庁の予算にしても,それから各文化交流をする,発信するべき拠点にしても,そういう面では今大変に厳しい状況にあるのは,国も地方も多分同じだと思います。やはり現在の状況からいたしますと,一律にそれをシーリングで押さえ込むという手法で節約に努めていかなければならないような状態になっているように思いますけれども,やはりよほどそこに特例としての,こういう政府全体としての位置付けをどうやって高めていくかということが一番大きな要素のような気がいたしております。
それからもう一つは,発信ということに関しては,先ほどもお話がございましたけれども,日本はまだまだ発展途上国という感じがいたします。特に美術館というのは外国のものを持ってきて日本にいいものの展覧会をやっていくという点にかなり重点的に活動し,評価もその点で受けているという点が大きいと思いますが,外国へ持って行って外国で展覧会をやるということについては,特別なイニシアチブとインセンティブがなければ,なかなか各美術館等でそれをやるというのは難しゅうございますので,やはりこれは政府,文化庁なり,また国際交流基金とご一緒になって,そういうものをよほどプッシュしていただかなければ,なかなか難しい面があると思います。
美術館関係者もぜひそういうことをやりたいという気持ちは高まってきてはいるように思いますけれども,これはやはり国としての特別なお力添えがなければ難しいのが実情でございます。美術館の外国の大きな展覧会を,あちらからのものを持ってきてやる場合には,この点でもまだまだ日本の美術館の足腰が非常に弱いところがございまして,実態としてはかなり新聞各社とかテレビ界のような会社からお手伝いといいますかご協力いただいて,ようやく成り立っているというのが実情でございます。ましてや,外国に持って行くとなると,そのような力添えもご協力も難しい面がございますから,よほどこれは文化庁なり外務省なりのお力を特別な仕組みで確保していただかなければ,なかなか難しい面があるかなという気がいたします。
実際,先ほど来話が出ておりますけれども,美術館の世界でも国際的な競争というのは大変感じます。私のところへもおかげさまで立派な国際的な施設をつくっていただきましたので,諸外国からいろいろな視察の方がお見えになりますけれども,欧米はもちろんアジアの各国でも世界に発信できる拠点,文化的な拠点をつくろうというので,そのために視察に来たという方が何人もいらっしゃいます。
そういう状況にあることをもう少し認識を広げていかなければならないと思いますのと,美術館の関係でも,アジアの美術館会議というのを新年度で文化庁で予算をとっていただいてやることになっております。その事務局は中国が自分の方の政府職員を派遣でもして事務局を務めようかというような提案がもう既に出ていて,いやほかの国との間では,もう少し相談しようという話になっているというのが実情でございます。やはりそういうことをいろいろな面で感じるような状況なので,日本でもそういう認識をもう少し高めることが必要のような気がいたしております。
それから最後に,国際交流と地域振興とがこれまで文化庁の中ではなかなかつながっていなかったのかなと,先ほどの山内先生のお話を伺っていてちょっとそんな気がいたしました。したがって,ヨーロッパでやっているような例も参考になるのかもしれませんが,現在文化を使って地域おこしということをかなりやり始めている,一方では国際交流ということが必要になっているというものをうまく文化庁でつないでいっていただくと,少し力強いバックアップが受けられるような施策が出てくるかもしれないというような感じがいたしました。
○石澤会長
ありがとうございました。
それでは,林委員お願いいたします。
○林委員
先ほど山内委員がお話しになられましたけれども,文化発信の基盤として自国の文化を理解し,愛する国民をつくるということはやはり非常に大切なことだと思います。改正されました教育基本法では,最初の方に教育の目標についてうたっているところがありまして,たしかその5番目に伝統と文化を尊重するという趣旨の条項が入ってございます。今,改正中の学習指導要領がそれをどういうふうに取り入れるかということは,つぶさに承知しておりませんけれども,やはり教育に文化を理解し愛するということのできるような方法を取り入れていくということは基本だろうと思います。それに実効性を持たせるためには,やはり先生の養成にこういう文化について勉強してもらうという要素を強力に入れていく必要があるのではないかと思います。教科を越えて先生になる人たちには,日本の文化のよさを理解し,それを愛する,つまりそういう気持ちを持ってもらうということが非常に大切なのではないかと思います。規則をつくって,それで指導要領みたいなものを示しましても,実際に先生がそういう力を持っていないと,なかなか教育の場でその効果が出てきにくいというところがございますので,ちょっと迂遠のようですけれども,それが1つではないかなと思っております。
それから,海外への発信ですけれども,こちらから用意したものを発信していくというのは非常に有効な方法の1つでございます。例えば,英文とかその他の言語の公式サイトで日本の文化に直接アクセスできるような方法を考えるというのは1つでございますが,もう一つの大切な方向は,海外で芽生えてくるところの日本文化に関する関心を育てるという視点も非常に有効ではないかと思っております。
つい数日前車を運転しておりまして,NHKのAMラジオを聞きましたら,ジュネーブでは若い人はアニメとかゲームの人気が非常にあるが,子育てを終えた女性の方々は日本の生け花に大変関心を持っているということを言っておりました。やはりそういう世界の各地で芽生えてくるところの日本文化に関する関心を幅広くキャッチし,それを情報網に載せて,そういうものに基づいたきめの細かい支援をしていくというのは,実際に世界のいろいろな人々の生活に密着した方法として有効だろうと思います。
最後に,こういう施策というのはいろいろな政策と複合して実施していくということで非常に効果を上げるということがあるだろうと思いますが,私の身近なところで申しますと,先ほどとちょっと同じ発想ですが,日本語教師の養成にぜひこういう要素を取り入れていただきたいと。言葉としての日本語を教えるだけでなく,その言葉を通して日本文化というものに関心を持ち,あるいはそれを愛してもらえるような,そういう世界の人々をつくるということで,非常に効果のあることだろうと思います。それ以外に,いろいろな方法と複合させて,こういう大きな方針が浸透していくということを切に願っております。
○石澤会長
ありがとうございます。
それでは,松岡委員お願いいたします。
○松岡委員
松岡でございます。私は文化審議会の関係では国語分科会に属して,常用漢字の問題の委員をしていますけれども,仕事としては戯曲の翻訳者として演劇の現場にも携わり,向こうから来る芝居を見たり,向こうへ持っていく芝居の現場にかかわったりしております。
文化の発信,受信ということですけれども,今東倉委員のおっしゃったようにインターネットを活用した情報という形がある,それから林田委員が今おっしゃったように展覧会という物を発信するという,私の場合は人が行くわけです。どれも大事だと思いますが,優劣はつけられないと思います。人が行くということは,要するにハードとソフトが合体しているというか,1つになっているのが人だと思うんです。
ついこの間テレビで中国の現代女性のことを特集でやっていました。少数民族で女性の言葉,女性の文字というのを持っている少数民族がいたが,文革のときにすっかりそれがなくなってしまった。幾つか書かれたものは残っているけれども,だれも読めないのです。ついこの間のことなのに,だれも読めない,読める人が全くいなくなっている。
そうすると,文化とか伝統というものは記録とか書かれたもので残したのでは本当には伝わらなくて,やはり人というのが大事だと思います。それは,今までにも出てきた教育という問題にもかかわるし,それからアートマネジメントという問題にもかかわるし,とにかく人が大事だと。
その演劇交流で海外に行ったり,向こうから来た人たちを迎えたりしていてつくづく思うのは,やはり違いとか共通点とかの発見の場がそういうことだということです。ですから,やはり人ということを第一に考えなければいけないと思います。
それからもう一つ,文化予算の問題とか,それから国策として文化の活動をするときの力不足,あるいはバックアップの力の弱さということが,何人かの委員からお話がありました。けれども,これは実は私は7期の文化審議会の第1回のときも申し上げたんですが,議事録からも消えてしまいまして,なぜここで庁ではなくて省にならないのかというのがやっぱり疑問としてあるんですよね。議事録から消えてしまったということは,何かの都合でそれは言っちゃいけないことなのかしらと勘ぐりたくなってしまうんですけれども,どうか今回は議事録に載せてください。お願いします。
○石澤会長
ありがとうございました。
宮田先生の方からも一言いただきたいと思います。
○宮田会長代理
文化に関する予算云々の話もございましたが,無から,ちょっとした視点を変えることによって,おもしろい有を生むことができるというのも1つのおもしろいことであり,そしてあり余る予算の中でやったことは,あまりメディアは取り上げてくれません。意外と「こんなことでも」といったときは,結構メディアは取り上げてくれます。ここはやっぱりただで使わなければ損だという部分もございまして,論点がずれて申しわけないですが,要するにメディアに伝えることによって,メディアを共有することによって,皆さんが「そうか,じゃ次に持っていこう」という,いろいろなことをやっていこうというものに持っていくことにも大きな力になるのかなと思いました。
○石澤会長
大変貴重な例をありがとうございました。
最後になりましたが,私はカンボジアで人材養成をやっていまして,やっぱり一番感じるのは,やっぱり日本の文化と違うという文化が非常に生きている。それは何なのかというと,やっぱり私たちはそこに地位というか,アジアの固まった伝統があるということを実感しております。そういう意味におきましても,やはり日本と違うという違いを学んでいくというところも文化の1つの力になっていくのかなということを感じております。
今ずっとご発言いただきましたけれども,これだけは言っておきたい,これはもう少し追加したいというご発言がございましたら,どうぞお願いいたします。
○山内委員
これは今日出たばかりの外交フォーラムの会議でも発表しましたが,ここにアリランテレビに見る韓国国際放送の現在というのがあります。我が国で申しますとこれはNHKワールドに相当するものです。具体的なことの発言だけで恐縮ですが,国際放送の活用と注視というようなことをNHKワールドは英語でやっています。先々週出てきたばかりですが,私はイスラムについて話したので,本当の日本文化の発信と言えるかどうか疑問でありますが,日本の知の1つの発信という意味では発信だったと思いますが,そういう機会をできるだけ充実してほしいと。
これは国内では見られないのですが,4月から衛星で一部見られると聞いております。ぜひこれは屋内でも外国人などに見られるようにしたらいかがかなと思います。
それから,結局文化交流と地方の町おこし,あるいは文化振興という問題,これが観光というようなことに結び付くのではないかと感じました。したがって,有機的に文化交流というと,ややかた目の非常に精神主義的な感じも受けますが,観光やお祭りというものを通して,町おこし,文化振興と国際的な交流というものが有機的に結び付くという観点が大事だという気がいたしました。  経済産業省的な問題関心では,こういう観光と,例えば観光でもスキーなど,そこに温泉があって,さらにそこに療養所,病院なんかもつけると。海外からも人を呼んで,今のところシンガポールで止まっていると,そういう人をもっと日本に呼ぶべきだという関心があるものです。
我が方の文化審議会や文化庁の問題関心では,ここに日本の誇る非常に形である文化財,それから無形文化財という言葉があるように人,さらに地方の物,まちづくり,まちおこし,こういうものをセットにして今のような経産省的な問題関心というものもドッキングしていくと,ぐっと話が具体的になるかなという気がいたします。
そのために,やはり観光と文化の関係で申しますと,やはり日本の若者が海外に安く出かけていくというようやくいい時代になったのですが,同じように外国の若者や外交人がもっともっと安く日本に来られるような装置を考える必要がある。したがって,これは文化庁との関連であって,所管などはどうなっているのか。恐らく経産省ということになるのかもしれません,あるいは国土交通省の方になるのかもしれませんが,いわゆる昔のジャルパックという言葉がありましたが,パック旅行をもう少し安くやってもらえるような工夫を外国人に対して開いてほしいという切なる願いを私は持っています。
例えばトルコのケースで申しますと,トルコ人たちは今安いパックでタイまでは来られるんですね,バンコク,東南アジア,タイまでは。これをもうちょっと延伸して,日本の方にまで来てもらうと。そうしますと,今台湾,中国,韓国という近隣の国々が中心ですが,もう少しアジア,中東からも含めて日本の文化を知ってもらう機会,つぶさに見てもらうと。  ここの委員の方々の中から移動できるもの,コンテンツというもので味合うことができる日本文化と,しかし来てもらわなければどうしてもわかってもらえない文化と2種類あるとおっしゃっていました。この来てもらわないとわからないというところをどう解決するかという点で,やはり観光と文化交流とまちおこし,文化振興ということを,少しセットとして具体的に考えてみるというようなことも意義深いかなと思いました。ありがとうございました。
○石澤会長
ありがとうございました。長官からもお言葉をいただきたいと思います。
○文化庁長官
委員の皆様,本当に貴重なご意見をいただきまして,ありがとうございました。さまざまな視点からのご意見で,それを我々もしっかりと受け止めてまいりたいと思います。
もともとこの文化発信戦略に関する懇談会は,昨年度の最初の文化審議会で,山内委員を初め,こういう国際交流をするものを何かやらなくちゃ駄目だとおっしゃったことも大きな動機になっております。あと,今日の議論はそれぞれの文化財,文化景観,そのほかいろいろと出ましたが,1つは国策として例えば予算を増やすとかいろいろなこと,そのためにもこの戦略的な会議でいろいろな具体的な施策をいっぱい出して,やっぱり文化交流や文化発信が非常に重要だということを,もちろん政府にも,それからほかの官庁にも,また世間に訴えていかないと,予算は増えるわけないんですね。やはりニーズがあれば,今は非常に民間からも声が起こってくれば,政治も動くと,政府も動くという時代でございますので,そういう意味で皆様のますますのご協力をお願いいたしたいと思います。そういう動機もあって,こういう発信会議をつくらせていただきました。またそこでいろいろな具体的なことを,この審議会の皆様とも一緒に考えてまいりたいと思います。
それから,もう一つだけ。教養ということが中山先生の方から出ましたけれども,実は昨晩聞いたホットな話なんですが,別にホットなわけではないんだけれども,知っている学生がMITの大学院に留学している理科系の学生なんですけれども,去年留学して2年目になったら必修科目が文化芸術。それで,自分たちの生化学なんかをやっている,それはちゃんとラボでやっているわけですけれども,必修科目に芸術の時間がある。MITというのは,つまり科学技術の発展は芸術がなければ駄目だというのが大学の方針だそうで,しかもその芸術の科目もただ知識をやるんじゃないですよ。ピアノをやれとか,ジャズを聞きにいってそれを一緒にやれとか,あるいは映画を,何とかというドラマをやれとか,そういうような実技的なものも入った科目だそうです。それをやらないと卒業できない。恐らくディページでもとれないんじゃないですか。
そういうようなことで考えると,私は去年の10月だったか,東京大学の先端科学技術研究センターの20周年記念のパーティーで「何が欠けているかと,ここには何も芸術がない」と言ったんですけれども,だれも聞いてくれなかったですね。後で,そういう芸術と実は自分のやっている関係が関係あるんだという教授は1人か2人いらっしゃってお話ししましたけれども,やはりああいうところで芸術部門をちゃんとつくれば,やはり世界の学問をリードするような方向が生まれるんじゃないかと思います。そういう点で,理科系出身の総長に入っていただいたんです。
教養全般,やはり日本の教育においては,これは文部科学省の方の分野かもしれませんけれども,文化庁にいる者として言わせていただければ,もう小学校以来,あるいは幼稚園以来でもいいんですけれども,文化の影が非常に薄いですね。ですから,今日委員の皆様からそういう方面のご発言をいただきまして,大変貴重だというふうに思って,今後ともよろしくご指導をお願いいたします。
○石澤会長
長官,どうもありがとうございます。
大変熱心なご意見,ご討論をいただきましたけれども,時間の関係もございまして,本日の会議はこれで終わらせていただきたいと思います。今後の日程につきましては,別途事務局よりご案内があろうかと思いますので,よろしくお願いいたします。
それでは,文化審議会第46回の総会をこれで終わらせていただきます。ご協力ありがとうございました。

午後0時13分 閉会

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