近代の文化遺産の保存と活用について(報告)

平成8年7月8日
近代の文化遺産の保存・活用
に関する調査研究協力者会議

 近代の文化遺産の保存と活用に関する調査研究協力者会議は,平成6年9月から,近年における社会経済情勢の変化に伴い大きな課題となっている近代の文化遺産の保存と活用の在り方について,調査研究を行ってきた。
 調査研究は,記念物,建造物,美術・歴史資料及び生活文化・技術の4分野について分科会を設け,それぞれの分野の専門の学識経験者の協力を得ながら進めてきた。記念物分科会及び建造物分科会の関係については,それぞれ平成7年1月及び10月に報告をまとめ公表し,今回,美術・歴史資料分科会及び生活文化・技術分科会関係の報告をとりまとめた。
 すべての分科会関係の報告がまとまり,本協力者会議としての使命を終えるに当たり,これまでの議論を総括し,近代の文化遺産の保護の在り方及び保護を進める上での重点課題を次のようにとりまとめた。これらの点を考慮し,各分科会報告で述べられた提言が,今後,文化庁の具体的な施策に十分生かされることを期待する。

1 近代の文化遺産の保護の必要性

 近代の文化遺産は,記念物,建造物,美術・歴史資料及び生活文化・技術のいずれの分野をとっても,開発の進展,技術革新や情報化の進展,生活様式の変化等により,消滅や散逸等の危機にさらされているものが多く,他方,未だ必ずしも文化財としての認識や評価が定着していないため,保護措置が十分には講じられていないという状況にある。
 これらは,一旦失われてしまうと回復ができないものであるので,価値があると認められるものについては適切に保存し,後世に継承していくことが,現代に生きる我々の責務である。

2 近代の文化遺産の保護の在り方

  1. 指定制度による保護
    近代の文化遺産は,多様かつ大量という特色をもっているが,これらのうち典型的かつ代表的である等の価値を有するものについては,文化財保護法により重要文化財等として指定を行い,できる限り完全な形で保存し,後世に継承していく必要がある。
    このため,記念物及び建造物については,既にとりまとめた報告に基づき,近代の文化遺産について史跡や重要文化財として積極的に指定できるよう「特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準」及び「国宝及び重要文化財指定基準」がそれぞれ改正され,一部についての指定が行われているが,今後,他の分野についても必要に応じて指定基準の見直しを行うとともに,重要な近代の文化遺産については,史跡等として指定を促進することが必要である。
    なお,指定に当たっては,記念物,建造物,美術・歴史資料及び生活文化・技術の各分野の間で密接な連携を図り,総合的な保護を図ることができるよう配慮する必要がある。
  2. 登録制度など多様な手法による保護
    このたびの文化財保護法の一部改正により,近代の建造物等を保護するため,指定制度を補完する制度として,現状変更等の届出制と指導・助言・勧告とを基本とする緩やかな保護措置を講ずる登録制度が導入された。これは,多様かつ大量の近代の建造物等を幅広く後世に継承していくには,強い規制と手厚い保護措置を講ずる指定制度に加えて,文化財の保護手法の多様化を図る必要があるとの要請によるものである。
    今回の法改正による登録制度は,建造物を対象とするものであるが,他の分野についても,これにならって保護手法の多様化を進めることが望まれる。その際,各分科会の報告にもあるように,文化遺産は,分野によってそれぞれ特質や置かれている状況が異っており,その保護の手法は,それぞれの分野にふさわしい内容のものとする必要がある。
    また,近代の文化遺産は,極めて多様であり,かつ大量に存在することが多く,特に美術・歴史資料や生活文化・技術については,地方公共団体,企業,団体や個人収集家が収集,保存し,博物館や資料館等の施設において公開を行っている例が少なくない。したがって,このような保存の活動を奨励し顕彰する制度の創設や,これらの施設間のネットワークの形成の促進を図ることなどが期待される。
  3. 地方公共団体における保護
    地方公共団体においては,条例に基づき当該区域の重要な文化財を指定して適切な保存及び活用の措置を講じている。また,一部の地方公共団体においては,登録による保護措置を講じたり,近代の文化遺産の保護に関して調査したりするなどの取組みを始めている。
    今後,各地方公共団体において,国における以上のような施策等も参考にしつつ,近代の文化遺産について指定等による保護の措置をとるよう検討することが期待される。このため,文化庁においては,この調査研究の各報告について地方公共団体への周知を図るとともに,その要請に応じ,適切な指導や助言を行っていくことが必要である。

3 近代の文化遺産の保護推進のための重点課題

  1. 全国的調査の実施
    今後,保護手法を多様化することについての検討を含め,近代の文化遺産の保護を促進していくためには,それぞれの分野について近代の文化遺産の所在状況等に関する体系的な調査を早急に進め,その把握に努める必要がある。
  2. 情報の蓄積・整理の促進
    近代の文化遺産については,多様かつ大量であるため,その所在情報ひとつとってみても膨大なものになることが予想される。このため,これらの所在,形状や保存状況等の情報を,デジタル情報の形で幅広く大量に蓄積していく仕組みを整えることが有効であり,この点からも文化財情報システムの構築及び全国ネットワーク化を一層進める必要がある。
  3. 公開の促進
    近代の文化遺産には,機能を失わないで現在も使用されているものが多いが,これらは使用し続けることによって適切な保存が図られる。したがって,記念物や建造物自体の公開について,このような使用を前提とした公開を行ったり,博物館等における機械類の展示についても実際に動かしながら行ったりするなど,公開についても柔軟な対応が必要となる。
    また,近代の文化遺産の情報の蓄積は,広く国民が活用するための基盤の形成につながるものであり,文化財情報システムの構築とともに,今後,マルチメディア技術を活用した新たな公開手法の開発について検討する必要がある。
  4. 保存方法等の研究開発の推進
    近代の文化遺産については,その材料や技術等において近世までのものとは大きく異なるところが多いため,その修理等の技術について研究開発を進めることが肝要である。このため,国立文化財研究所等の機能の充実強化が必要である。
  5. 人材の養成研修
    近代の文化遺産を適切に保護していくためには,それを扱う専門的人材の養成・確保に努めるとともに,地方公共団体の文化財関係職員,博物館・資料館等の職員を対象とした研修を充実する必要がある。
  6. 関係省庁・機関・団体等の連携協力の強化
    近代の文化遺産は,様々な行政分野の対象となっており,また,企業活動や大学の教育研究活動によって産み出されたものが多い。今後,文化庁がその保護を進めるについては,関係省庁,大学や博物館等の機関,企業,団体等との連携協力を強化することが求められる。近代の産業技術のように,既に連携の取組みが始められた分野もあるが,残された分野も多く,今後一層の努力が必要である。
  7. 国民の理解協力の増進
    近代の文化遺産に限られるものではないが,文化財の保護を推進するためには,国民の理解と協力が不可欠である。特に,青少年に対しては,学校教育及び社会教育を通じて文化財に親しむ機会を充実することが必要である。 また,多様かつ大量で,身近に存在することが多い近代の文化遺産を保存し活用するためには,地域の一人ひとりの自主的かつ自発的な活動の果たす役割が大きいことから,文化財に関するボランティア活動を奨励するとともに,地域の住民がその保存と活用のため支援・協力する「文化財トラスト」等,民間団体の育成に努める必要がある。

担当

伝統文化課

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