Ⅲ. 文化財保護協力推進のための具体的方策

1 国内の関係機関・団体の連携・協力の推進

  • (1) 我が国の文化財保護協力を全体として効果的に進めるため,文化庁や国立文化財研究所・国立博物館,外務省,国際交流基金,国際協力事業団,大学,地方公共団体,民間団体間の定期的な連絡会議の開催等,情報の相互交換や事業間の連携・協力を一層強化することが望まれる。
     特に,地方公共団体や民間団体については,国の機関との間での役割分担と連携協力を進めるとともに,その活動について支援していくことが期待される。
  • (2) 個別の協力事業についても,当該事業に関係する機関・団体間の情報交換を図るとともに,そのフォローアップを行い,実施された案件の事後評価を次の案件に反映していくことが重要である。

2 協力人材の養成・確保

  • (1) 国立文化財研究所が中心となり,大学の文化財保護関連分野の研究者や公・私立博物館で文化財を取り扱う学芸員,地方公共団体の職員に対し,実践的な研修の機会を提供することが期待される。
  • (2) 文化庁等関係機関においては,大学,地方公共団体などの協力を得て,文化財保護協力に参加を希望もしくは参加可能な人材のデータベースを整備するとともに,国内外関係機関に対し情報を提供することによりその活用を図ることが期待される。
  • (3) 大学については,文化財の保存科学・修理技術,発掘調査技術など海外での文化財保護に必要な分野に関する豊富な専門知識や経験を有する専門家や技術者の養成を図ることが望まれる。
  • (4) 国民の文化財保護協力に関する理解を深め,支持を得るため,文化財保護協力関係機関・団体はそれぞれ広報・普及活動の充実に努めることが望まれる。

3 国内の関係機関・団体の体制整備

  • (1) 文化庁については,文化財保護に関する国際協力においてより重要な役割を果たしていくため,外務省との連携をさらに緊密化しつつ,文化財保護協力に関する政策の企画立案機能や調査研究機能,評価機能を充実する必要がある。
  • (2) 国立文化財研究所については,国際共同研究の充実により海外の多様な環境下にある文化財の保護に関する調査研究機能の充実を図るとともに,専門家の派遣,諸外国からの研修生の受入れ,地方公共団体の文化財保護に関する専門家や技術者に対する文化財保護協力に関する研修の実施などの機能の充実が期待される。
     東京国立文化財研究所の国際文化財保存修復協力センターについては,国際共同研究,受入れ研修,文化財保護協力に関する情報データベース整備などの事業を自ら企画・実施したり,同種の事業を行う他の関係機関,地方公共団体,民間団体に対する専門的な指導・助言を行う我が国の文化財保護協力の中心的機関として,引き続きその整備充実を図ることが期待される。
  • (3) 国立博物館については,我が国の博物館全体の中心的な施設として,海外の博物館との交流を通じた海外の文化財に関する調査研究機能の充実を図るとともに,海外からの研修生の受入れを推進することが期待される。
  • (4) 外務省については,引き続き相手国の文化財保護協力のニーズの継続的かつ的確な把握に努めるとともに,文化財保護協力実施のため海外に派遣された日本人専門家や技術者が協力に専心できるよう,現地での適切な支援体制をより充実させることが望まれる。
  • (5) 国際交流基金,国際協力事業団については,文化財保護協力に関する事業分野の充実を図ることが望まれる。
  • (6) 地方公共団体については,我が国の文化財保護協力をより多様かつきめ細やかなものとするため,研修生の受入れに加え,文化財保護に関する専門的知識をもった職員を海外での文化財保護協力事業に派遣したり,文化財保護協力を行う民間団体に対する支援を行うなど,文化財保護協力に一層主体的かつ積極的に取り組むことが望まれる。
  • (7) 文化財保護協力活動を行う民間団体については,国の関係機関や地方公共団体との適切な役割分担のもとで連携・協力を進めるとともに,国や地方公共団体による適切な支援を推進することが望まれる。

4 研修生の受入れ体制の整備

 海外からの研修生の受入れを推進するため,国立文化財研究所と国際協力事業団,大学,地方公共団体,民間団体との連携により,多様なニーズに対応した研修の企画,実施を図るとともに,宿泊・研修施設の確保を図ることが望まれる。

5 国際機関との連携・協力の推進

 ユネスコや文化財保存修復研究国際センター,国際記念物遺跡会議(イコモス),国際自然保護連合(IUCN)などの国際機関・国際NGOとの連携・協力を強化する必要がある。特に文化財保存修復研究国際センターについては,我が国の専門家を職員として派遣することを検討することが望ましい。

6 文化財保護協力推進のための新たな国内拠点の整備

  • (1) 今後増加が見込まれるアジア太平洋地域諸国から我が国に対する世界遺産を含む文化財の保護協力の要請に対応するため,文化庁は,外務省と連携しつつ,関係機関や地方公共団体,大学,民間団体,ユネスコなどの国際機関の協力を得て,同地域における文化財保護協力活動を行う機関・団体に対する支援とともに協力活動を行う新たな国内拠点の整備を進める必要がある。
  • (2) その際,新たな国内拠点の役割としては,[1]海外調査等を通じたアジア太平洋地域の文化財に関する国内外からの情報収集及び情報提供,[2]文化財保護協力関係機関・団体間のネットワークの構築と,それを通じた情報共有機能の提供,[3]国際会議・セミナーの開催等を通じた文化財の保護に携わる国内外の研究者,専門家,行政担当者の情報交換の場や研修機会の提供,などの事業を国内外の関係機関・団体と連携・協力して実施すること等が期待される。
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