いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について(解説資料) (第30条の2,第30条の3,第30条の4及び第47条の9関係)

1.はじめに

平成24年6月20日に成立し,同年6月27日に公布された著作権法の一部を改正する法律(平成24年法律第43号)のうち,いわゆる「写り込み」等に係る規定については,国会での審議や参議院文教科学委員会における附帯決議において,「関係者からその具体的な内容が条文からだけでは分かりにくいとの意見等があることを踏まえ,これらの規定の対象となる具体的な行為の内容を明示するなど,その趣旨及び内容の周知を図ること」とされています。こうした決議等を踏まえ,各条の趣旨及び内容の概要についてご紹介いたします。

2.各条の解説

  1. (1)付随対象著作物の利用(第30条の2)
  2. (付随対象著作物の利用)

    第30条の2 写真の撮影,録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて,当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は,当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし,当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

    2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は,同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし,当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

     著作物の創作や利用に際しては,例えば,写真撮影やビデオ収録の際,背景に著作物であるキャラクターが写り込んでしまうといったことや,キャラクターが写り込んだ写真等をブログ等に掲載するといったことが行われています。こうした写り込んでしまった著作物の利用は,通常著作権者の利益を不当に害するものではありませんが,著作権侵害に問われるおそれがありました。
     このため,写真の撮影等の方法によって著作物を創作するに当たって,当該著作物(写真等著作物)に係る撮影等の対象とする事物等から分離することが困難であるため付随して対象となる事物等に係る他の著作物(付随対象著作物)は,当該創作に伴って複製又は翻案することが侵害行為に当たらないことを明確にしました。(第1項)

     また,複製又は翻案された付随対象著作物は,写真等著作物の利用に伴って利用することが侵害行為に当たらないことを明確にしました。(第2項)

     本条第1項で,「分離することが困難である」とあるのは,ある著作物(写真等著作物)を創作する際に,創作時の状況に照らして,付随して対象となった他の著作物(付随対象著作物)を除いて創作することが,社会通念上困難であると客観的に認められることをいいます。
     また,「当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る」とありますが,「軽微な構成部分」であるか否かは,著作物の種類等に照らし,個別の事案に応じて判断されるものであり,予め定量的な割合が決まっているものではありません。
     さらに,同項ただし書では,「著作権者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りでない」とされており,著作権者の著作物の利用市場と衝突するか,あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点等から,最終的には司法の場で個別具体的に判断されることとなります。

     本条第2項では,「利用することができる」と規定しているため,「利用」全般が著作権者の許諾を得ることなく行うことができ,複製,上映,演奏,公衆送信,譲渡など全ての支分権に該当する行為が想定されています。
     なお,本条第1項の「付随対象著作物」は,写真の撮影等の対象とする事物等から分離することが困難であるため付随して対象となるものです。この「付随対象著作物」については,撮影後には画像処理等により「付随対象著作物」を消去することが可能な場合が考えられますが,本条第2項では条文上「分離することが困難であること」を要件としておらず,「付随対象著作物」を「写真等著作物」から分離することが可能であっても,著作権者の許諾を得ることなく利用することができます。
     また,同項においても,本条第1項と同様のただし書が規定されています。

     本条の対象となる著作物の利用行為としては,以下のような例が考えられます。(ただし,本条の対象となるかどうかについては,最終的には,個別具体の事例に応じ,司法の場で判断されることになります。以下,他の条文の対象となる著作物の利用行為の例についても同様です。)

    1. 写真を撮影したところ,本来意図した撮影対象だけでなく,背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
    2. 街角の風景をビデオ収録したところ,本来意図した収録対象だけでなく,ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
    3. 絵画が背景に小さく写り込んだ写真を,ブログに掲載する場合
    4. ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を,放送やインターネット送信する場合

     一方,以下のような著作物の利用行為は本条の対象とならず,原則として著作権者の許諾が必要となります。

    1. 本来の撮影対象として,ポスターや絵画を撮影した写真を,ブログに掲載する場合
    2. テレビドラマのセットとして,重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し,これをビデオ収録した映像を,放送やインターネット送信する場合
    3. 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で,写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合
  3. (2)検討の過程における利用(第30条の3)
  4. (検討の過程における利用)

    第30条の3 著作権者の許諾を得て,又は第67条第1項,第68条第1項若しくは第69条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は,これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得,又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には,その必要と認められる限度において,当該著作物を利用することができる。ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

     著作物の利用行為として,例えば,企業がキャラクター商品の開発や販売の企画を行うに当たり,そのキャラクターの著作権者の許諾を得る前に,企画書等にキャラクターを掲載する行為が行われています。こうした著作権者の許諾を得ることを前提とした行為は,通常著作権者の利益を不当に害するものではありませんが,著作権侵害に問われるおそれがありました。
     このため,著作権者の許諾を得て,又は裁定を受けて著作物を利用しようとする者は,これらの利用についての検討の過程における利用に供することを目的とする場合には,その必要と認められる限度において,当該著作物を利用することが侵害行為に当たらないことを明確にしました。

     本条では,「著作権者の許諾を得て,又は(略)裁定を受けて著作物を利用しようとする者」が対象となっていることから,適法に「利用しようとする者」であれば足り,最終的に利用が行われることが要件となっておりません。このため,最終的に著作権者から許諾を得る前提で企画書等に著作物を複製したものの,その後結局企画が実現しなかったといった場合であっても,本条は適用されます。
     また,本条で「(当該許諾を得,又は当該裁定を受ける過程を含む。)」との括弧書きを設けていますが,これは,検討自体は終了したものの,検討後に行われる利用(例えば,著作権者に許諾を申し出る際に作成される各種プレゼン等資料における著作物の利用)を含めて本条の対象となることを明確にするために規定したものです。
     さらに,本条では「当該著作物を利用することができる」と規定しているため,複製に限らず,「利用」全般が著作権者の許諾を得ることなく行うことができることとなります。もっとも,本条の対象となる「利用」は,検討の過程における利用に供するという目的に照らして,「必要と認められる限度において」行われることが求められます。また,本条においても第30条の2と同様に,ただし書が設けられており,ただし書に挙げられた諸要素に照らして著作権者の利益を不当に害すると評価される場合には,本条は適用されません。

     本条の対象となる著作物の利用行為としては,以下のような例が考えられます。

    1. 漫画のキャラクターの商品化を企画するに際し,著作権者から許諾を得る以前に,社内の会議資料や企画書等にキャラクターを掲載する場合
    2. 映像にBGMを入れるに際し,著作権者から許諾を得る以前に,どの楽曲を用いるかを検討するために,実際に映像にあわせて楽曲を録音する場合
    3. 権利者不明の著作物に関し,裁定制度を利用するか否かを検討するに際し,社内の会議資料や企画書等に著作物を掲載する場合

    一方,以下のような著作物の利用行為は本条の対象とならず,原則として著作権者の許諾が必要となります。

    1. 企業内において,業務の参考とするために新聞や書籍,雑誌等の著作物を複製する場合(公益社団法人日本複製権センターと契約を結んでいる場合には,その契約の範囲内で新聞等を複製することができます。)
    2. あるキャラクターの利用に係る検討を行う過程で,当該キャラクターを利用した試作品を,社外の者に幅広く頒布する場合
  5. (3)技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用(第30条の4)
  6. (技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)

    第30条の4 公表された著作物は,著作物の録音,録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には,その必要と認められる限度において,利用することができる。

     録画機器などの著作物の利用を目的とした機器の開発などの際には著作物の利用が広範に行われており,例えば,企業が録画機器を開発するに当たって,実際に映画等の著作物を素材として録画するといった行為が行われています。こうした行為は,通常著作権者の利益を不当に害するものではありませんが,著作権侵害に問われるおそれがありました。
     このため,公表された著作物は,著作物の録音・録画等の技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には,その必要と認められる限度において,利用することが侵害行為に当たらないことを明確にしました。

     本条は,「著作物の録音,録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する」場合に適用される旨規定していますが,「録音,録画」はあくまで例示として規定されています。このため,著作物の利用に関する技術であれば,録音技術,録画技術に限らず,幅広く本条の対象となりえます。「その他の利用に係る技術」としては,具体的には,著作物の送信や通信に関する技術,上映に関する技術,視聴や再生に関する技術,翻訳や翻案に関する技術等が想定されます。
     また,「技術の開発又は実用化のための試験の用に供する」とあるのは,技術の開発のための試験や,技術の実用化のための試験における検証のための素材として著作物を用いることを意味します。
     さらに,本条では「利用することができる」と規定しているため,複製に限らず,「利用」全般が著作権者の許諾を得ることなく行うことができることとなります。もっとも,当該「利用」は,技術の開発又は実用化のための試験の用に供するという態様に照らして,「必要と認められる限度において」行われるものであることが求められます。

     本条の対象となる著作物の利用行為としては,以下のような例が考えられます。

    1. テレビ番組の録画に関する技術を開発する場合に,技術を検証するため,実際にテレビ番組を録画してみる場合
    2. 3D(三次元)映像の上映に関する技術を開発する場合に,技術を検証するため,3D映像が収録されたBlu-ray Discを上映してみる場合
    3. OCR(光学式文字読取装置)ソフトウェアを開発するに当たり,ソフトウェアの精度の向上を図ったり,性能を検証するため,小説や新聞をスキャン(複製)してみる場合
    4. スピーカーを開発する場合に,性能を検証するため,流行している様々なジャンルの楽曲を再生してみる場合

     一方,以下のような著作物の利用行為は本条の対象とならず,原則として著作権者の許諾が必要となります。

    1. 上映技術の試験の用に供するという目的で,断続的に,広く観客を集めて,全編にわたって映画を上映する場合
    2. 企業において,技術開発のための複製ではなく(例えば,新たなコピー機を開発するということではなく),技術の開発を検討する際に参考にするとの名目で,技術者等に対して幅広く論文等を複製し,頒布する場合(公益社団法人日本複製権センターと契約を結んでいる場合には,その契約の範囲内で論文等を複製することができます。)
  7. (4)情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用(第47条の9)
  8. (情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用)

    第47条の9 著作物は,情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合であつて,当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは,その必要と認められる限度において,記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。

     デジタル化・ネットワーク化の進展は,著作物の利用の飛躍的な多様化をもたらしており,例えば,クラウドサービス等の各種インターネットサービス等においては,データの処理速度を速めるという目的で,サーバーにおいてデータを大量複製するといった行為が行われています。こうした行為は,通常著作権者の利益を不当に害するものではありませんが,著作権侵害に問われるおそれがありました。
    このため,著作物は,情報通信の技術を利用する方法により情報提供する場合であって,当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは,その必要と認められる限度において,記録媒体への記録又は翻案が侵害行為に当たらないことを明確にしました。

     本条では,「情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合」と規定していますが,これは情報通信技術,典型的にはインターネットを利用して情報を提供する場合全般をいいます。
     また,「当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理」とは,インターネットを利用した情報提供の準備として行われる,当該提供を円滑化・効率化のために行われる各種情報処理をいいます。
     さらに,本条の対象となる利用行為は,「記録媒体への記録又は翻案」に限られます。このため,本条の対象は,サーバー上の記録等に限られ,情報提供そのものを行う際に必要となるインターネット送信等は,本条の対象とはなりません。
     なお,「記録媒体への記録又は翻案」は,こうした情報処理を行うために「必要と認められる限度」において行われることが求められています。

     本条の対象となる著作物の利用行為としては,以下のような例が考えられます。

    1. 様々なファイル形式でサーバーにアップロードされているファイルを,統一化したファイル形式にするために必要な複製が行われる場合
    2. 各種インターネットサービスにおいて,分散処理による情報処理の高速化のため,サーバー上で必要な複製が行われる場合

     一方,以下のような著作物の利用行為は本条の対象とならず,原則として著作権者の許諾が必要となります。

    1. 動画投稿サイト等において,動画をインターネット送信する場合
    2. 情報処理の円滑化の準備として必要な数を超えて複製物を作成する場合

 なお,(1)から(4)までについては,著作物の利用のみならず,実演,レコード,放送又は有線放送の利用についても同様に,著作隣接権者の許諾を得なくても利用することが侵害行為に当たらないことを明確にしています。(第102条第1項)

(以上)

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