令和元年度文化庁映画賞について

文化庁では,我が国の映画芸術の向上とその発展に資するため,文化庁映画賞として,優れた文化記録映画作品(文化記録映画部門)及び永年にわたり日本映画を支えてこられた方々(映画功労部門)に対する顕彰を実施しています。

文化記録映画部門では,選考委員会における審査結果に基づき,次の3作品(文化記録映画大賞1作品,文化記録映画優秀賞2作品)を受賞作品として決定しました。各作品の製作団体に対して,賞状及び賞金(文化記録映画大賞200万円,文化記録映画優秀賞100万円)が贈られます。

また,映画功労部門についても次の7名の方が受賞者として決定し,文化庁長官から賞状が贈られます。

【贈呈式】
(都合により,日時・場所の変更の可能性があります。)

日時
令和元年10月28日(月)18:00~
会場
六本木ヒルズグランドハイアット東京

【受賞記念上映会】

<文化記録映画部門受賞作品>

日時
令和元年11月2日(土)
10:00~『沖縄スパイ戦史』
13:00~『ぼけますから、よろしくお願いします。』
16:00~『福島は語る』
会場
神楽座(飯田橋)

【令和元年度文化庁映画賞受賞一覧】

【文化記録映画部門】

文化記録映画
大賞
作品名 ぼけますから、よろしくお願いします。
製作者名 株式会社ネツゲン,株式会社フジテレビジョン,関西テレビ放送株式会社
文化記録映画
優秀賞
作品名 沖縄スパイ戦史
製作者名 「沖縄スパイ戦史」製作委員会
作品名 福島は語る
製作者名 土井敏邦

(作品名50音順)

○文化記録映画部門贈賞理由

『ぼけますから、よろしくお願いします。』監督:信友直子2018年/102分
老齢化や看護は,誰しもが避けることができない人生の課題である。これは,その試練に淡々と向かい合おうとする家族の物語である。老夫婦の日々は,時に悲しく,時に過酷で,見る人をも辛くさせる。しかし,その試練に黙々と対処する老夫婦の姿に触れている中に,やがてやるせなさや愛おしさを共有し,静かな感動へと誘われていることに気付く。認知症という難しい課題を扱いながら,普遍的な物語へと昇華させた稀有な作品である。
(塚田芳夫)
『沖縄スパイ戦史』監督:三上智恵,大矢英代2018年/114分
第二次世界大戦の末期,沖縄本島北部へ大本営が送り込んだ陸軍中野学校の青年将校たち。映画は,彼らが十代半ばの少年を組織しゲリラ戦を遂行したこと,スパイ容疑者のみならず,病人や怪我人が足手まといとして殺害されたことなど,当時の生存者の証言や資料を丁寧に掘り起こして敗戦末期の軍隊の恐ろしさを浮き彫りにする。語られることの少ない本島北部の悲劇について,沖縄戦の新たな視点での貴重な記録となっている。
(山田顕喜)
『福島は語る』監督:土井敏邦2018年/170分
原発事故という大きな現実の中で,生きざるを得ない人びとがいる。その人たちは今,何を思い,どうしようとしているのか。映画は14人の声を,丹念に長い時間をかけ記録していく。お互いの信頼関係の中で,人びとは徐々に語りにくかった思いをしずかに,整理するように語る。制作者はその証言に正面から向き合い,そのことで,福島の現実を直視しようとする。この映画はドキュメンタリーの一つの到達点といってよい作品である。
(原田健一)

※()内は執筆した選考委員名

【映画功労部門】

氏名 分野
淺香時夫(あさかときお) 科学映画(生物試料作成・脚本・演出)
牛場賢二(うしばけんじ) 映画照明
倉橋静男(くらはししずお) 音響効果
佐々木史朗(ささきしろう) 映画プロデュース
淳一郎(はやしじゅんいちろう) 撮影監督
日野重朗(ひのじゅうろう) 美術装飾・造園
渡辺宙明(わたなべちゅうめい) 映画音楽

(敬称略・氏名50音順)

○映画功労部門受賞者功績

淺香時夫(あさかときお)
医学部の森於菟教授の助手時代に鶏の胚の研究を始め,東京シネマの自主作品『生命誕生』(昭39)で生物試料を担当。昭和42年に小林米作を代表として創設されたヨネ・プロダクションに参加し,ミクロの生命現象を映像化させるための映像表現を理解し,顕微鏡撮影に適した生物試料を作成する専門スタッフとして,科学映画を大きく前進させた。ヨネ・プロダクション『ダルムの世界』(昭42)『酵素療法への招待』(昭43),シネサイエンス『カルスの世界-培養された植物細胞』(昭52)『重症感染症の化学療法』(昭56)など,脚本や演出も手がけている。平成30年には,生きた状態で鶏卵の発生を軸に胚が成長していく様を8K映像で収録することに成功したヨネ・プロダクション『からだの中の宇宙〜超高精細映像が解き明かす〜』で総監督指揮(生物試料指導)を務めており,永らく日本の科学映画の発展に寄与してきた。
牛場賢二(うしばけんじ)
(株)円谷プロダクションを経てフリー。技術者集団コダイ・グループの設立に参加。実相寺昭雄監督『あさき夢みし』(昭49)で照明技師デビューした。数々の特殊撮影を手がけ,『帝都物語』(昭63)など実相寺監督の独特な世界観を表現することに手腕を発揮,同作品ではその特撮技術により本編・特撮同時撮影を実現して高い評価を受け,『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』(平2)では竹藪の中に舞台用ライトを埋め込み光芒を表現するなど,その独創的かつ大胆なライティングに多くの若い助手が師事を仰ぎ,同人のもとで多くの後進が育成された。主な作品に『屋根裏の散歩者』(平6)『ゲゲゲの鬼太郎』(平19)『駆け込み女と駆け出し男』(平27)など。平成22年まで日本映画テレビ照明協会副会長を務め,斯界の発展に尽力した。
倉橋静男(くらはししずお)
昭和43年に日活(株)と契約,昭和53年に東洋音響効果グループに参加,TVドラマやTVアニメでキャリアを重ねた。昭和63年には劇場用アニメーション・映画等の映像作品への音響効果を制作する(有)サウンドボックスを設立。篠田正浩作品や三谷幸喜作品などの実写作品も手がけつつ,アニメーションを中心に活動し,実写特有のリアルな音付けや音響を応用した複雑な音の世界,新しい音の響きなどを追及してアニメーションの演出に個性を与えた。代表作品に,宮崎駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』(昭54),大友克洋監督『AKIRA』(昭63)今敏監督『東京ゴッドファーザーズ』(平15),水島精二監督『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(平17),高坂希太郎監督『若おかみは小学生』(平30)など。多ジャンルで培った技術を若手スタッフに継承し,多くの人材を輩出しており,日本のアニメーション制作に多大な貢献をした。
佐々木史朗(ささきしろう)
永年,プロデューサーとして多くの新人監督の発掘と映画製作を手がけてきた。日本アート・シアター・ギルド社長時代には大森一樹監督『ヒポクラテスたち』(昭55)根岸吉太郎監督『遠雷』(昭56)井筒和幸監督『ガキ帝国』(昭56)大林宣彦監督『転校生』(昭57)森田芳光監督『家族ゲーム』(昭58)などの作品をプロデュースして,自主映画や成人映画の世界から多くの新進監督を世に出した。平成5年には(株)オフィス・シロウズを設立し,原将人,中江裕司,李相日,沖田修一,西川美和などの新人や若手監督の作品を積極的に製作して,日本映画の発展に大きく寄与した。早稲田大学や立命館大学の客員教授,日本映画製作者協会代表副理事長などを歴任,日本映画大学の開学に尽力して理事長を務めるなど,人材育成にも多大な貢献をした。
淳一郎(はやしじゅんいちろう)
日本現代企画,東映東京撮影所を経て,フリーとなり,昭和60年『ムッちゃんの詩』でデビューし,中島丈博監督『郷愁』(昭63)吉田喜重監督『嵐が丘』(昭63)で毎日映画コンクール撮影賞を受賞。その後,神代辰巳監督『棒の哀しみ』(平6)降旗康男監督『タスマニア物語』(平2)『あなたへ』(平24)森淳一監督『重力ピエロ』(平21)など,劇場用映画だけで60本以上の撮影を担当し,自由でユニークな発想により,挑戦的で刺激的な個性を撮影に発揮して,日本映画に貢献してきた。中田秀夫監督『リング』(平10)『仄暗い水の底から』(平14),黒沢清監督『回路』(平13)などホラー作品の撮影も手がけ,海外でもその評価は高く,近年ではメキシコ映画の撮影を担当している。
日野重朗(ひのじゅうろう)
昭和55年に(株)紫水園に入社し,永らく植栽や庭の造作,敷石や添景物など映画美術に欠かせない造園部門に携わり,行定勲監督『北の零年』(平17)滝田洋二郎監督『おくりびと』(平20)など,多くの映画作品を支えてきた。降旗康男監督『鉄道員』(平11)ではスタジオに建てた病院セットの窓外に大雪の降り続くナチュラルな雪景色を作り上げ,原田眞人監督『クライマーズ・ハイ』(平20)では,膨大な当時の事故現場写真を参考に,群馬の山中に御巣鷹山尾根のジャンボ機墜落現場の忠実な再現を図るなど,優れた造園知識と卓越した映像感覚で日本映画に貢献してきた。撮影の時期に合わせたメンテナンスなど,経験と高い技術力に加えて根気が必要とされる仕事を継承するため後進の育成にも尽力しており,その功績は大きい。
渡辺宙明(わたなべちゅうめい)
ラジオドラマ音楽を経て,中川信夫監督『人形佐七捕物帖 妖艶六死美人』(昭31)で映画音楽デビュー。以後,新東宝作品では中川信夫監督『東海道四谷怪談』(昭34)『地獄』(昭35),大映作品では山本薩夫監督『忍びの者』(昭37)安田公義監督『妖怪百物語』(昭43)など多くの映画音楽を担当した。「人造人間キカイダー」(昭47~昭48)「マジンガーZ」(昭47~昭49)「秘密戦隊ゴレンジャー」(昭50~昭52)「宇宙刑事ギャバン」(昭57~昭58)など,TVアニメや特撮ものの劇中音楽,主題歌も数多く手がけ,現在も「プリキュアシリーズ」などに新曲を提供するなど活動を続け,評伝も出版された。また,90歳を迎えた際には,「渡辺宙明「日活映画音楽傑作選」」が発売されるなど,作品の音盤化により映画音楽文化を振興した功績も大きい。

【令和元年度文化庁映画賞選考委員】

【文化記録映画部門】

岡田秀則
国立映画アーカイブ主任研究員
栗田香穂
公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団学芸員
塚田芳夫
公益社団法人映像文化製作者連盟会長
原田健一
新潟大学人文社会科学系人文学部教授
村山英世
一般社団法人記録映画保存センター事務局長
山田顕喜
日本大学芸術学部・大学院芸術学研究科非常勤講師

【映画功労部門】

芦澤明子
映画キャメラマン
新藤次郎
株式会社近代映画協会代表取締役社長
中嶋清美
公益社団法人映像文化製作者連盟理事・事務局長
野村正昭
映画評論家
氷川竜介
明治大学院特任教授,アニメ・特撮研究家

(敬称略・氏名50音順)

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