日本語教育研究協議会 第6分科会

日時:平成16年8月4日(水)
文化庁

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日本語教育研究協議会
第6分科会 「学習者を支える教材の活用方法」
清 ルミ(常葉学園大学外国語学部教授)

清 それでは,時間になりましたので,始めさせていただきます。
 第6分科会「学習者を支える教材の活用法」という論題で仰せつかりました,清と申します。よろしくお願いいたします。
 今日は,大きく分けまして,三つのことを用意してございます。まず,一つ目は,NHKのテレビ日本語講座「新にほんごでくらそう」の活用について,それから,二つ目は,レジュメがお手元にございますでしょうか,両面で印刷されていますが,3枚目の2番,「その他の教材の活用について」というところで,神戸市定住外国人支援センターでお作りになった教材について,御紹介したいと思います。それから,最後に,4ページ目ですけれども,地域のタウン誌等,実際のレアリア(生教材)を活用して,こんなことができるんじゃないかということで,御紹介したいと思っています。
 では,初めに,一つ目,1ページからまいりたいと思います。
 NHKの「新にほんごでくらそう」という番組が4月から始まり,9月までの半年間ということで,今,放映されております。10月からは再放送になります。この番組の講師を仰せつかりましたので,どういう目的で,どういうようなコースデザインを敷いて番組を作ったかというお話と活用方法について,実際にVTRを御覧いただきながら,御説明したいと思います。今日は,NHKのこの日本語講座を制作してくださったプロデューサー,制作のスタッフである泉田純子さんがいらしています。それから,ほかにもスタッフがいらしていますので,御紹介したいと思います。ディレクターの森本さんと,高橋さんです。そしてNHK出版でテキストをお作りくださっている杉尾さんです。
 それでは,まずおそれいりますがお手をお挙げいただけますか。「新にほんごでくらそう」を御覧いただいていらっしゃいますか。20分なんですが,1回でも結構です。通して御覧いただいた方はどれくらいいらっしゃいますでしょうか。それでは,御覧になっていない方もいらっしゃいますので,その方に焦点を合わせてこれからのお話しを進めさせていただきたいと思います。
 番組は4月から始まりまして,1回20分,25回で完成ということでつくっております。まずNHKの方から,今までに過去5本の日本語講座がつくられているけれども,対象がすべて初級で,サバイバル表現から,動作性が比較的あるような表現が導入されてきているので,今回は,短期滞在型とか,来たばかりという人ではなく,地域の定住者対象の番組をということでお話を承りました。できれば,配偶者を主人公にしてというような企画でしたので,それに基づいて,私の方では,お話を承ってから1か月ぐらいの間に超特急でニーズ調査をいたしました。
 私は静岡県に住んでおります。静岡というところは,御存じのように,日系人が非常に多く住んでいます。そういう場所ですので,対象者には事欠かないんですが,50人弱インタビューをいたしました。大体30分ぐらいの予定で依頼したんですが,相手の方がだんだんいろいろなお話をしてくださるので,1人2時間ぐらいかけました。特に女性の場合は,堰を切ったようにいろいろなことを話し始めるんです。いろいろ鬱屈していて,悩みを聞いてほしくてしようがないという感じなんです。
 調査対象者は,大体3年から10年ぐらいの滞在期間なんですけれども,全く話せないとか,片言しか話せないという方ではなく,日常会話はある程度できるという方にしました。周りからスノーボール方式をとりまして,教会とか,ボランティア活動をなさっている方とか,あるいは私が直接知っている方とか,紹介から紹介という形で膨らませていったんです。まず初めに電話をしまして,「こういう番組を作ることになった。それで,今までに自分が言いたいんだけれども言えない表現とか,ボランティアとかほかの教育機関で勉強してきたけれども,そこでは習えなかったこういう表現が欲しいとか,最初の頃こういう表現が言えなくて困ったとか,そういうような情報をぜひ欲しいと言っておきました。その電話から,大体3日間後ぐらいにアポをとって,お会いしました。
 テープはとりませんでした。相手が硬直するのでテープは回さずに,私の方でメモをとらせてくださいねと承諾を得て,ただし,その人のプライバシーや何かに関しては一切公表しませんということで,全部メモをとっていったんです。人によっては,明確にこちらの目的に沿ってお話しくださる方もいらっしゃるんですが,中には全然違うお話から入る方もいらっしゃったので,私の方で酌み取りながら,ある程度は水を向けながら話を聞いていきました。
 そのときに,非常に特徴的に出てきたことが幾つかあります。まず一つ目は,日本語教育機関あるいはボランティアの教室で勉強しているか,勉強した経験がある場合,感情表出に非常に困っているということが出てきました。これは,例えば日本語教育の中で,特にボランティア教室では非常に多く使われている「みんなのにほんご」という教材がございます。この教科書を分析してみますと,動作性の強い動詞,フレーズは多いんですが,感情表現が非常に少ないということが言えます。
 例えば,形容詞は感情表出によく使われるんですが,形容詞を見てもその特徴は明らかです。多分そういうことが背景にあってではないかと思うんですが,例えば,何かとっても親切なことをしていただいて,そのことに対してお礼を言いたいんだけれども,深々と頭を下げて「どうもありがとうございます」しか言えない。もっと深くお礼を言いたいんだけれども,どう言っていいかわからない。実は,視聴者から反響やお手紙をいろいろいただいています。ある方からのお手紙にもそういうのがありました。180%ありがとうとか,超ありがとうとか,いろいろそう言ってきたんだけれども,深くお礼を伝える表現に困っていたので,この番組を見て言えるようになって本当にうれしかったということを言ってくれました。
 そういうことで,ありがたいという気持ちを具体的に描写しながら説明することができない。それと,逆に不満表出ができないということです。特に不満表出のターゲットは,女性の場合は夫です。それから,一緒に住んでいる,もしくはそばで別居をしているおしゅうとさんとかおしゅうとめさん,それから夫の家族です。また,押しなべて夫に対して文句が言えない。けんかができないというんです。
 やはりこれも視聴者からのはがきでしたけれども,「自分はすごく怒って,日本語で言えないから中国語でまくし立てる。そうすると,端で夫が何言っているから分からないから,怒っているということすら分からずに『えっちゃん,かわいいね』と言って見ている。それが日本語でけんかができるようになりました」というお手紙をいただきました。
 けんかができない,文句が言えない,これは非常につらいことだと思うんです。動作性の強い表現は,初期においては私も必要だと思うんです。自分がどこに行くとか,何を食べたいとか,何を欲しいとか,要求を満足させるということは非常に大事だと思うんですが,社会人になればなるほど,もう少し心の中のことを話したくなりますね,愚痴を言うとか。それができないままでいるというのは,相当つらい状況なんですね。
 話を聞いてみて感じたことなんですが,配偶者の女性40人ぐらいに聞きましたけれども,彼女たちは本当に孤立しています。日本語がかなりできる方の場合は問題ないんですが,大体ACTFLのOPIインタビュー*1で言うと,中級の下から中級の中ぐらいに判定されるぐらいのレベルです。ですから,ですますで普通に話せるんですが,文法的にちょっとおかしいとか,複文なんかもちろん出ない。そういう感じなんです。
 ふだんの生活の中では多分問題はないんでしょうが,そのままストレートに不満を表現すると,相当攻撃的に聞こえてしまう。それで,あつれきを生んで,余計言えなくなっている。そういうようなことがいろいろ事例的に出てきました。お母さんにこう言ったら,こうなっちゃってとか,夫にこういうふうにしたら,こういうふうになっちゃって,それから言わなくなったとか,事例的に挙げられた中から,私の方で必要とされている表現を酌み取っていったことがコースデザインのベースにございます。
 そこで,今回の番組制作に関しては,動作性のものは一切置いておこうと。それよりは,不満表出,謝意表明というような部分の,感情的に自分自身が具体的に説明したいことを中心にするというのが1本目の柱で,2本目の柱としては,人間関係を円滑に構築する,あるいは継続させるための,いわゆるつなぎのようなフレーズですね。そういうものを大事にしようというふうに決めました。
 これもやはりインタビューの結果から出てきたんですが,例えば「こんにちわ」「おはようございます」は言える,けれども,その後,何と言っていいか分からない。二言目が言えないんです。それから,人の話に対して「ふうん,あ,そうですか」は言えるけれども,その後に聞いた話に興味があるんだけれども,そこから先に掘り下げることができない。反対に,掘り下げられたときに,自分自身がどういうふうに対応していいのかわからないというのがありまして,話をつないでいく,ちょっとしたつなぎ,そのつなぎが言えないために,ぶっきらぼうに見えてしまうこともあるわけです。
 そこでできるだけ円満に事を済ますとか,相づち表現をなるべく豊かに入れていこうということを心がけました。それから,これは日々感じていることなんですが,日本語の教材というのは非常に不自然なダイアローグ*2になっていますね。特に構造的シラバスであればそうですけれども,そうは普通は言わないんじゃないかという言い方をしたり,日本語は高文脈言語ですから,主語とか目的語というのは言わないんですけれども,教科書の中ではそういうものを明示的に出したりしていますね。今回そういうことをなるべく避けようと考えました。
 ですから活字だけだと,高文脈で分からないのではないのかというようなものも,これはテレビのありがたさなんですが,ドラマですから分かるわけです。ということで,せっかく作っていただくんだったら,テレビの利点を精いっぱい活用して,高文脈性を生かし,不自然な会話はなるべく控えようと,私の方では心がけました。ということで,コースデザインの根幹には,外国人配偶者対象インタビューのニーズ分析のがございます。
 裏支えとしてですが,地域在住外国人対象ビジネス日本語クラスを参照しました。これは静岡県で,既に働いている人,あるいは就職をしたいと思っている人,例えば,ある企業の社長さんから依頼されたんですが,研修生という形でフィリピンから迎えている人たちがいて,ある程度日本語はできるんですが,いわゆるビジネスとか,会社の中での言葉がなっていない。それをちょっと見てほしいというので,コースデザインだけ敷いて,教え子たちに教えさせたなどのクラス運営の経験がございます。そのときに,どういうことが言えないのか,どういうことで衝突が起きているのかを基にコースデザインしましたので,その中のものを取り入れました。
 次に,日本語教育機関(初級後半)在席の就学生,これは,私も大学の中で,うちの大学の学生と交流させたりするものですから,そういう中でのやりとりを見ていて,言いたいんだけれども,言えていない表現というのが目につくんです。そういうものをメモをしてありましたので,そういうものも今回は盛り込みました。
 テレビですので,配偶者の外国人だけが見るわけではございません。それで,ビジネスピープルにもいいように,留学生にもいいようにということで,なるべく汎用性高くということも心がけなければいけませんので,この辺を参考にいたしました。
 また,英語番組のある番組のVTRをたまたま教え子が教えているクラスで見てもらって,どういう日本語番組を望むかというイメージ調査もいたしました。そうしましたところ,意外にも非常にクラシカルなものを望んでいるということがわかりまして,余り色がどぎついものよりは,静かで,いやされるようなものがいい。自分たちは非常に忙しい生活を送っているので,いやしがほしい。それから,録画をするので,たくさん勉強になるような情報をたくさん盛り込んでほしいという要望も上がりました。そんなようなことを,これは私の方ではどうしようもありませんが,制作のスタッフの方に一応お目通しいただいて,考慮していただけたらということで,お渡ししました。
 以上のことが基になりまして,コースデザインを敷いたんですが,敷く時点で,日本語教育機関でいういわゆる初級,中級,上級というような枠組み一切無視いたしました。というのは,そういうことがナンセンスだと思ったからです。私も長くボランティアにかかわっておりますが,地域の中で,日本人の家庭の中で暮らしている以上,いわゆる文型シラバス的にいうところの初級であるとか,中級であるというのは,全く意味ないんです。上級の言葉であっても,必要なものは必要であって,不必要なものは要らないわけですから,そういう,いわゆる日本語教育機関のシラバス設定は一切無視しました。結果的に見ると,初級後半から上級まで散らばっていることになったと言えます。
 ですから,関心を示すとか不満を表現するという形で,私の方では,25回分,機能の柱だけを全部立てまして,その上で,NHKさんの方から基礎編と応用編と2本でやってほしいということでしたので,ちょっと親しい場合と,そうでない場合とか,あるいは場面が違う場合とか,いろいろなんですけれども,まずキーフレーズだけを1回に二つずつ立てました。
 この段階で,配偶者の女性たちにつくったものをお送りしまして,いいと思うところに丸とか花丸,自分にとっては必要ないと思うところはバツをつけてくださいというような形で,私の方に戻してもらったんです。それを整理して,並べて,そしてNHKの方へお渡しした,そういうようなステップを踏みました。非常におもしろかったのは,彼女たちが花丸をつけてくるところというのは,不満表出とか,夫とのけんかというところなんです。実は,男性で日本人の女性と暮らしている人たちの意見というのは,実は余り役に立たなかったんです。というのは,ほとんどが語学教師で,英語とかフランス語で日本人女性との生活が済んでしまうんです。
 次に内容構成についてお話しします。「スキット*3」は,今,申し上げましたように基礎編と応用編と二つありまして,その後に「くらしの漢字」というのと,それから「今日のひとこと」というオノマトペ*4を中心に扱っているもの,この3本の柱があります。この漢字のところに盛り込むものと,オノマトペに盛り込むものはなるべくスキットと関連性を持たせようと努め,季節性のあるものは,なるべくその季節にふさわしいように配置しました。この辺の漢字も,どういうものが困ったかとか,どういうものを知りたかったかというので全部インタビューでとっています。
 それから,「今日のひとこと」,これは後で御覧いただきますが,トントンとか,ドンドンとかいうものよりも,心の状態を示すようなものを中心に入れました。これはなるべくスキットの中の,主人公あるいは登場人物のだれかの心情を表出しているよう関連性を持たせて組みました。
 あとは,スタッフと話し合いながら,私がつくったフレーズや何かにいろいろ修正やコメントをいただきながら,一緒に作っていったという形です。
 それから,対訳に関しましては,英語,ポルトガル語,ハングル語,中国語と4か国語ついています。スタジオの生徒は,ブラジル出身者,それから台湾出身で米国在住者,韓国出身者の3人です。これは,日本在住外国人の母語の中で,多いランキングの順で,その上位を入れたということです。
 反響について先にお話ししてしまいますが,今までにいただいた反響としては,まず配偶者の女性たちからお手紙をいただいています。日本文化の中での人間関係とか,待遇表現は非常に難しいので役に立っているとか,さっき御紹介したように,けんかなど感情表出ができるようになったというようなことですね。それから,日本語学校の学習者からは,学校で勉強していないフレーズがたくさん紹介されていて,それが特にアルバイトでとても役に立っているという反応がありました。また,ビジネスピープルからは,これはビジネスマン教育に使えるんじゃないか。配偶者女性でなくても役立つんじゃないかというようなことで,歓迎して見てくれているようです。
 この点につきましてスタッフと話し合いまして,意図的にイラストでところどころ,これはこんなふうにも使えますよと説明するスタジオシーンがあるんですが,そのときの場面の一つは必ずビジネス場面にするようにしました。
 それから,日本人の方が,思った以上に見てくださっているということが分かりました。日本語教育関係者で御覧いただいている方からいろいろなコメントをいただきましたが,それ以外に,日本語教育に全く関係のない日本人が,たくさん見てくださっているようです。私がいただいたお便りとかコメントの中では,一番若い人は高校生です。年齢の上の方は,恐らく60代かもっと上かもしれないという方々です。20代,30代を読者層に持っている月刊誌が,読者から,割合この番組がおもしろいという投書がいろいろ来るので取り上げたいということで,NHKさんの方に取材がありました。若い視聴者の意見をまとめますと,「ためになる」とか,「日本人だけれど知らないと思っているような情報がある」などです。生活文化情報が特にそうだったんですが,暑中見舞いはいつからいつまでに出すかとか,そんなことも番組で触れているんですが,そういう部分で,「日本人なのに知らなかった」というようなことがあるようです。おもしろいなと思ったのは,「わざわざ」というオノマトペの説明に感心して聞いてくださった方々から,複数の同様のコメントがありました。
 では,これから活用方法の実際に入っていきたいと思います。
 まず1ページ目のVTRを御覧いただけますでしょうか。つくりとしては,まず基礎編があり,その後,スタジオでいろいろやりとりをしたり説明を加えたりして,重要表現だけもう1回再生紙,それから応用編に行くんです。応用編の方は重要表現の再生がすぐ後にくっついています。それで,今日御覧いただきます第6回は,基礎編,応用編,その後にくっついている重要表現という順番で御覧いただきます。

*1 ACTFLのOPIインタビュー 言語の運用能力を判定するためのインタビューで,有資格者のテスターにより初級から超級までの4段階(初〜上級は上中下と下位分類が三つある)に判定される。
*2 ダイアローグ (dialogue)会話。対話。問答。
*3 スキット (skit)寸劇。テレビの語学番組などにはさみ込まれた,実例などを示すために劇化された部分。
*4 オノマトペ (onomatopee)擬声語。擬音語。


(ビデオ上映)

清 今,御覧いただきましたのが,1ページ目の6で,ここは「関心を示す」という機能を立てたところです。重要表現になっているのは,そこの下線部で,基礎編の方の「それは大変でしたね」で,応用編は,「それは大変でしたね」という基礎編の表現に加えて,「で,どうしたんですか」とさらに関心を示して,相手の話を引き出していくものです。これは,構造的にはほとんど初級ですね。構造的には初級のはずなんですが,比較的こういうことが言えないんですね。「あ,そうですか」とか,「はい,はい」で終わってしまうので,こういうものも拾おうと思って,入れました。
 ここで,重要表現以外のところに着目して,お使いいただけたらこういうことができるんじゃないかというのを,今からお話ししたいと思います。番組は,20分で,今のように既につくられているスキットの部分,それから漢字,オノマトペの部分を全部合計しますと大体10分です。そうすると,スタジオの時間は10分しかないんです。10分の時間の中でできることというのは,本当に限られているものですから,あれもこれも言いたいんだけれども,そういうものを全部落とさなければならないというつらさがあります。言いたいことの本当に10分の1ぐらいしか触れられない。それは現場でやっている教室活動とは全く違う,どうしてもやむを得ない限界です。そんな部分で,皆さんにお使いいただく場合に,ぜひ,こんなことをしていただけたらどうかということを,お話ししたいと思います。
 例えば,相づちということで言うと,基礎編の左側のページですが,上から4行目「ああ,そうでしたね」,その2つ下「え,そうだったんですか」,それから応用編の方の上から6行目「えー,そうなんですか」,それから一番下「そうだったんですか」。こういうものも比較的「あ,そうですか」だけで済ましてしまう人が多いんです。私がインタビューして話をしていてもそういう印象を受けました。「あ,そうですか」は言えるんですが,「そうだったんですか」が言えないとか,「そうですか」を過去形にするか現在形にするのか,「ん」が入るのか入らないのかというような部分なんですが,比較的大事ではないかなという感じがします。こういう相づちをうまく打たせて会話をつなげていくような練習というのも必要ではないかと思いました。
 それから,この回で「ちゃった」という表現を意識的にたくさん入れています。例えば,基礎編の方の下から3行目,「うちのおばあちゃんがね,入院しちゃってね」の「入院しちゃう」,それから応用編の方の上から4行目「今朝まいっちゃった」の「ちゃった」,その次「お客さんにコーヒーこぼしちゃったの」の「ちゃった」,そして下から3行目「上着汚しちゃってね」の「ちゃった」,このように「ちゃった」がたくさん出てきます。テキストには,予想外のことが起きて,そのことを残念に思ったり,びっくりしたりするような表現であると,ここではまとめています。「てしまう」は,比較的がっちり習ってきている人もいるんですが,こういう言葉は割合言えないんですね。こういうのは,感情を付加しながら言いますね。自分は非常に残念に思うとか,後悔しているというような感情の表現ですので,大事なんではないかと思います。
 それにプラスなんですが,ここでは,残念とか後悔という機能でしか出していませんけれども,予想外のことが起きて非常にうれしい場合も使いますよね。私の記憶違いでなければ,「となりのトトロ」の映画の中で,メイとさつきが,初めてトトロに出会って傘を渡した感動をお父さんに伝えるときに,お父さんに抱きついて「会っちゃった,会っちゃった,トトロに会っちゃった」と言っていたと思うんです。そんな場合の表現でも使いますね。そういうアニメとか,サザエさんの漫画とか,そういうものをいろいろ利用して,日本語教師がつくったものではなくて,なるべく文脈がある漫画とか,映画とか,アニメの中から「ちゃった」を抜いてみてください。そうすると,いろいろな「ちゃった」が集まります。それを分類分けして,ここでは後悔の「ちゃった」しか出てないけれども,予想外のことが起きて感激している「ちゃった」がある。今のトトロのようなものも見せながら,こういうときにはこういう表現ができるのよと提示をしながら,それを練習させていくということができるんじゃないかと思います。
 こういうものは,残念ながら,日本語教育の教材の中では乏しいです。なぜかというと,仕方がないことなんですが,どうしても紙面上でつくりますね。そうすると,紙面上で理解しやすいようにつくるので,不自然な日本語になっていますし,感情表出が,さっき申し上げたように非常に少ないんです。ですから,自然なものというのは既成教材になかなか見つかりませんので,日本語教師以外の方がお作りになったもので,文脈性のあるもの,視覚情報があるものの中からお探しになるとかなり見つかると思います。
 それから,基礎編の一番下のフレーズ「ねえ。いろいろあるわね」の「いろいろあるわね」もいろいろなふうに使えますね。この場合には,幼稚園で子供同士がお友達の友人が自分のことに使っていますが,人から何か愚痴めいた話を聞いたり大変だった話を聞いたりしたときも,「そうねえ,本当にいろいろあるわよね」と,慰めたり,共感したりするフレーズとしても使えますね。「いろいろあるわね」なんて,文法構造は非常に簡単ですが,大事な割に見落とされているんじゃないかと思います。
 我々スタッフの中でも,いろいろなことが起きるたびに「いろいろあるわね」と,流行ったんですけれど,よく使えるんじゃないかと思います。
 右側の応用編の方で,上から3行目,「なんか元気ないですねえ」の「なんか」の使い方,これは,今,若い人は,初めから「なーんか」と,別に何にもなくても「なーんか」「ていうか」と始める人が多いですが,これはその「なんか」ではなくて,意味がありますね。よくわからないけれどもというような意味の「なんか」ですね。こんな言葉があるのとないのとでは違いますね。「元気ないですね」といきなり言うのと,「なんか元気ないですね」というのと,ちょっとの違いなんですが,相手の受ける印象が随分違うと思うんです。私たちふだん使っているんですが,日本語教材の中には比較的見つかりにくいんです。こういう言葉を見逃さないで,こういうものをなるべく注意して,入れられるところには入れているんですが,まだまた不足しておりますので,皆さんも周りからこういうものを拾っていただいて,なるべく視覚情報とともに御提示いただけたらと思います。
 それから,下から2行目「あーあ,失敗,失敗」。これもただ「失敗,失敗」と単語を二つ並べただけの言葉なんですが,このように2回繰り返して,自分自身の感情表出をするということが多いと思います。感情表出の仕方はいろいろあって,悲しいですとかうれしいですというのだけが感情表出ではないですね。そういう部分にぜひ目をお向けいただくと,いろいろなものが周りから見つかるんじゃないかと思います。
 ちなみに,私は,このようなことをボランティアで扱うときには,比較的みんなが見ているだろうと思うような番組から拾うようにしています。青春ドラマで,レンタルビデオになっているものが幾つかありますね。そういうものの中でもかなり見つかります。今,はやりの「冬ソナ」も,そういう意味では随分使えます。コミュニケーション上の非言語メッセージも,ここは日本と同じメッセージだな,ここは全く違うなとか,そういう面で見ても,「冬ソナ」は非常におもしろいです。周りにあるものをぜひお使いいただけたらと思います。
 では,次にいきます。次は,第15回の基礎,応用,重要表現,さっきと同じような流れで御覧いただきます。

(ビデオ上映)

清 第15回は,「不都合を伝える」という機能を立てているところです。ここは,今,御覧いただきましたように,基礎編と応用編で両方とも「間に合う」という表現が出ているんですが,この「間に合う」の意味が違うんです。応用編の方の「間に合う」は,日本語教育どこでも出てきますね。時間の前に行くという意味の間に合うですが,基礎編の新聞を断ったときの「間に合っていますから」の「間に合う」はほとんど出てこないです。出てこないですが,婉曲的に断ったりするときに,私たち日常的に結構使いますし,さっきのような場面というのは割合あるんです。
 日本語教育であまり触れないものを取り入れるということで言うと,基礎編の方の下から4行目「1カ月無料で入れますから」の「入れる」もそうです。容器に何かを入れるとか,水を入れるというような「入れる」というのは分かると思うんですが「新聞を配達してくれる」という意味で使われたりもします。
 一番下もそうです。「火をかけたまま」。「火をかける」というのを文字通り理解するとちょっとわかりにくい言葉です。ですが,我々は割合使う言葉ですね。こういう表現もなるべく拾い上げて,いわゆる日本語教育の中で出てきている言葉を組み合わせることによって,もっと日常的に別の意味で使っている点も目をお向けいただければと思います。上から4行目の「安く手に入った」の「手に入れる」とか,「手に入る」というような部分もそうですね。
 それから,さっき御覧いただいていてお気づきだと思うんですが,「申しわけないんですが,お迎えの時間に間に合いそうもないんですが」というフレーズは,人に婉曲的に,丁寧に自分自身ができないということを伝えます。日本語教育でビジネス場面のテキストなんか見ると,必ず,事故に遭ったとか,車がとまったという,自分が遅刻しそうという場面をつくって,導入していますね。ここでは,ちょっとひねって,相手は厚意で,土用丑の日にウナギを持たせてくれようとしている。厚意はありがたいんだけれども困ったなというようなときに,陰で自分の都合を調整しなければならないというようなことは多々ありますね。これも一つの感情表出だと思うんです。相手には謝意を表明しているわけですが,相手に見えないところで,他の人に謝らなければならないというようなことですね。
 なるべく日常的に遭遇するシーンを努めてスキットに採り入れております。そういう点も御利用いただければと思います。文型としては,構造的には目新しくなくても,どういう文脈の中でそれが使われ,どういう気持ちを言いたくて出しているかという部分に特に着目していただければと思います。
 それから,この「間に合う」ということについていえば,本当はもっと適当なものがあるけれども,何かで代用するとかの場合に,「これで間に合わせますから」というような言い方もしますね。このような部分に発展的にもっていっていただくこともできるんじゃないかと思います。
 それから,ここから先,スキットから離れますので,ここで申し上げておきますが,今まで御覧いただきましたように,スキットの中では,口語的な表現ということを主に扱っていますので,「すみません」ではなくて「すいません」のように口語的なものを出す。ですから,助詞もかなり欠落したり,「ています」と言わずに,「てます」という言い方になったりしています。そういうくだけた表現も必要だと思います。
 ただ,これはテキストを書くときには非常に苦労しました。普通は教室の中ではいろいろな例文を幾つも重ねて提示して理解させますね。そういうことができないですから,こういうものが日本語教育の教材にないのもやむを得ないなと今回自分自身がやってみてよくわかりました。紙面上はやはり限界がありますね。スペースの限界がありますので,例文を幾つも提示できませんから,省スペースで解説するとなると,やはり抽象的な語彙に頼らざるを得ない,その抽象語彙はかえって分からなくさせるというような悪循環の苦労は,今回随分身にしみました。「日本語教育の中にない,ない」と,批判的ばかりできない。ないのは当然だなと,自分自身がやってみて,よく分かりましたし,この企画はテレビという視聴覚情報があるからこそできるという感じがいたしました。
 以上が,スキットです。
 次に,心情吐露の部分,これもスキットですけれども,続けて,三つ,基礎編だけ御覧いただきますが,第4回,第8回,第12回と,月1回,月末に,心情吐露の特集を組んでおります。本日御紹介するのは基礎編だけですが,夫に対して言っている。実は,配偶者からのフィードバックで返ってきたのを見ると,皆さん本当はもっとストレートな表現を望んでいたんですが,NHKさんと話しまして,それを許容する夫ばかりではないので,少し柔らかく,抑え目になっていますけれども,御覧いただけますでしょうか。

(ビデオ上映)

清 今のところだけ御覧いただくと,ひどい妻でひどいお母さんみたいですけれども,そんなこと決してないんです。優しいお母さんであり優しい妻であるんですが,月1回だけこういう場面があるんです。夫は,「あ,ごめん,ごめん」というシーンがすごく多いんですけれども,そういう場面を入れています。
 これらは,配偶者の女性たちが花丸をつけてきたフレーズです。非常に大事であるが,こういうことが言えない,と。特に,最初のお布施という袋を買ってきてしまった部分なんですが,特にこれは日本人全般に対しての不満としても挙げられたんですが,わかっているんだったら最初に言ってくれればいいことを言ってくれなかったために,自分ではいいと思ってやったことが違っている。結果を見て,それではだめだったと言われることが多い。何で初めに言ってくれなかったのと言いたくなることがたくさんあるということを訴えていました。それをここに盛り込んだんですけれども,異文化コミュニケーションでは,相手の視点に立って物を言うということは大事だと思います。この後スタジオでそういったやりとりを入れ,日本人に理解を促しました。夫は,完全によくある日本人のタイプですね。それぐらいわかっている当然理解しているだろうということを強要してしまうのは,日本人同士でもトラブルになりますよね。
 その次の,「そんなふうに言わないで,私が悪いみたいじゃない,ひどい」というのもやはり同じです。「愛想よくできないか」は一つの例ですが,夫にいろいろ言われるんだけれども,そのことに対して怒りたい気持ちがあってもそれを言えない。それを決定的なけんかにならない程度に,自分自身は誤解を受けているということを訴えたいというのも採り上げました。
 その次の,「私だって一生懸命やっているのよ,少しは私の気持ちもわかってよ」も,自分は一生懸命やっているんだけれども,それを理解してもらえないという訴えがやはりたくさん出てきたんですね。それは,アルバイト先であったり仕事先であったり,家族の中であったり,いろいろな場面でなんですが,やはり皆さんかなり大変な思いをなさっているんですね。それが言えないんです。それを,「私も一生懸命やっているんです」ということを言いたいということで,保母さんに対して,「私だって精いっぱいなんです」と言ったりする場面もつくっています。
 この辺は,心情吐露ですから,これ以上バリエーションを組むというような活用はできないと思うんですが,このまま教えていただくとか,あるいは男性の場合には,女性の「わ」とか,「のよ」というところだけちょっと注意していただいたらと思います。
 ここは,「わたし」とか「わたくし」ではなくて,「あたし」で全部やっています。特に近い人の関係の中では「あたし」ということで統一しています。
 その次に,今度は「くらしの漢字」を御覧いただきます。三つございますので,続けて御覧いただいて,その後御説明したいと思います。

(ビデオ上映)

清 この「くらしの漢字」は,こういうふうに全部実写で作っていただいています。スタッフの方には本当に御苦労をおかけしているんですが,さっきの「松竹梅」も,皆さんお笑いになっていますが,あれはコンピューターで,ウナギを大きく誇張してくださっているんです。それから,「満車」では,満車状態のときにカメラをかついで撮ってきてくださるとか,本当に申しわけないぐらい,いろいろな形で視覚的に伝わりやすい映像をこういう形で,お作りいただいています。
 「松竹梅」というのは中国人だったらすぐわかることですけれども,木の名前ですね。この木の名前がランクで使われることをスタジオで説明はしました。このように視覚情報として漢字が認識できればいいというものを,「くらしの漢字」にもってきています。
 「死」とか「寝」という贈り物のタブーです。四とか九は「苦しい」が映像にしにくいので漢字では採り上げませんが,スタジオでカバーしています。贈り物のタブーをスタジオの中でお互いに情報交換をしたんですけれども,そうすると,中国と韓国は,日本と同じように四というのは避けるということが分かってきたりします。視聴者の方々にそういうこともお伝えできればということで,入れております。こんなことも御活用いただいて,教室の活動の中で一緒に異文化的なことをお互いに理解するとか,お互いに得るということもできるんじゃないかと思います。
 それから,最後の,「満員」,「満車」,「満室」ですけれども,ここは,満があってなぜ「空(くう)」がないと思われるかもしれませんが,「空(くう)」は後でフォローしていますけれども,要するに「空(くう)」だったら入っていいわけです。ですから,そういうものはどちらかというと必要なくて,「満」というのがあったときに入れないよということが大事ですね。ということで,「満」の方を取りました。
 「満車」に関してですが,満車の反対「空車」というのがありますが,実は「空車」というのは意味が二つあるんですね。一つは,後で出したんですが,タクシーの「空車」,これは車の中がからですよ,どうぞお乗りくださいの意味ですね。ですが,駐車場で「空車」というのは,これは車の中ではなくて,駐車場に車がないという意味になりますね。こういうような部分にもぜひちょっと目をおつけいただいて,生活の中の漢字をいろいろとってきていただければ,番組では回数は限られていますので全部出せないんですけれども,広げていただければと思います。
 それから,同じように「満室」もそうですが,この逆の「空室」を町の中で見つけますと,やはり二つあります。一つは,満室の反対の空室,映像では入る前の旅館の状態が空室だったわけです。それともう一つは,空き部屋ありますというような,不動産情報ですね。そういう場合の空室もありますので,そういうようなこともまたフォローしていただければと思います。
 では,その次,「今日のひとこと」,オノマトペの部分を御覧いただきます。

(ビデオ上映)

清 今,御覧いただきましたように,「今日のひとこと」の部分は,心情表現ですが,心情ではアニメにならないものですから,なるべく具象的に見せるように,スタッフと話し合いまして,どういう絵コンテにしたら分かるか,ああでもない,こうでもないとやって,こういう形になっています。一番難しいのは,やはり「ほどほど」なんです。スタジオで後でフォローしています。人にプレゼントをもらって,ほどほどにしておいてねとか,こういうふうに使えるのよとか,飲み過ぎないで,食べ過ぎないでと使えるのよというふうに,必ずフォローするようにしていますが,このほどほどというのは,何かに対するコミットメントの度合いですね。そういうところは,スタジオの中でごく限られた時間内ではなかなか十二分には説明しきれていないんですね。その辺を御活用いただく時,補足していただければと思います。
 次の,「心のこもった」,これは泉田さんのアイデアなんですけれども,ハートが流れ出るというのを具象的に上手に,やってくださったのでわかりやすいんじゃないかと思うんですが,「心のこもった」言葉とか,手紙ということで,ここで茶道を習っているお茶の先生に「お大事になさってくださいね」といたわるところのフレーズとして出したと思うんですが,「心のこもった」というのもなかなか言えないんですね。彼女たちと話をしていても,温かい手紙をもらったとか,温かい言葉をもらった,親切な言葉をもらったという言い方はするんですが,それ以外の言葉がわからないということで,こんなものを出してみました。
 その次の「すっきり」というのは,これは愚痴を言うというところで,愚痴を聞いてもらった後,すっきりしましたと,気が晴れましたとお礼を言うという機能として出しました。この「すっきり」も,具象的に,外見をすっきりさせるという文脈で作って,その後で,愚痴を聞いてもらって「すっきり」しましたと使えるとフォローしていますが,最後のところでちょこっと触れるぐらいしか,本当に時間がないんです。ですから,この辺もぜひ補足説明していただければと思います。
 あとは制作の方から,私が落とした部分とか,制作サイドからの話などしていただきたいと思います。

泉田 主に,VTRとか,中の素材というものをすべて清先生に挙げていただきました。基本的に中のパーツは清先生ともお話をしまして,先ほどもお話がありましたように,清先生がいろいろなところで教えている中で,なかなか教材にないもので,皆様のお役に立つようなものを少しでも作りたいということを目指して,先生から,「それじゃ分からない」とか,いろいろおしかりを受けながら,一生懸命作りましたので,ぜひいろいろな形で御活用いただければと思います。
 ちょっと,触れられなかったのは,ここの合間をつないでいる,今,ちょろちょろと前後出ましたけれども,スタジオ部分も,ある意味部分,部分活用していただければ,うれしいかなと思います。全部通して見るというのはなかなか難しいと思うんですが。例えば,清先生は,今,わかるようにものすごく速いスピードでしゃべるんですね。これは,放送のときはもうちょっと抑えるようにはなるべくしているんですが,とまらないときもあるんです。いろいろな人のナチュラルスピードに慣れるべきであるという意味で考えると,普段ゆっくりしゃべっている先生方,例えばこんな人もいるんだよという意味で使っていただくと,そういう意味でまた慣れることができるかなという意味でもいいかなと思います。
 あと,実際に生徒を,さっきも出ていましたけれども,3人そろえています。基本的に中国,台湾出身でアメリカにいた人と,韓国と,ブラジル出身の人がいます。彼らがいろいろな異文化でここが引っかかるぞみたいなところは,なるべく入れるようにしています。中でも,先生から細かいチェックをいただきながら,いろいろイラストを入れています。丸と三角がくっついているような。「〜してあげる」という言葉をよく韓国の人や中国の人と言ったりするんだけれども,これはこういうところではまずいのよねみたいなものを,スタジオで,中のモニターを使ってやっていますので,例えばそういうところなどを採り上げていただいて,そこでディスカッションする。「死」とか「寝」とか,いろいろなところがありましたけれども,一応これだけバラエティーをそろえましたので−教室の中でも必ずこういうバックグラウンドの人がそろうわけでもなくて,私も武蔵野市国際交流会とか,西原先生のところでいろいろお話を伺っている中でも,やはり全部そろっているわけではないんです。
 そういう意味では,日本人も学ばなければいけないし,日本にいらっしゃる外国の方も,お互いに,どうしてあの人あんなことを言うのかみたいなところもあると思うので−そういう異文化コミュニケーションの一つの素材としても,ぜひところどころ御活用いただければと思っております。
 あと,実際に番組の中で結構苦労したのが,物をいろいろ見せたりとか,ここの皆さんにお配りしたチラシの中にもありますけれども,実は,私も一回も普段の生活で使ったことがない「花冷え」とか,日本の文化で,紹介するのに,ちょっと役立つような情報をイラストで出したり,物で出したりしています。物をそろえるのはなかなか大変です。私も大変です。皆さんそろえるのは大変だと思います。そういうときは,こういった映像を利用していただけると,ありがたいかと思います。
 それ以外に,さっきちょっとおっしゃっていましたけれども,応用練習とか,入れ替えとか,意味の説明をするときに,これも厳しい御指導を受けながら,イラストで紹介したり,この生徒たちが実際に練習してみるという場面も作っています。そんなところも皆さんきっといろいろな絵を使って御説明なさっていると思うんですけれども,そこで用意しきれないときとか,これは使えそうだというときに,入れかえとか,こんな場面は使えるよみたいなときにも使っていただければ,うれしいかと思います。
 番組制作が自転車操業状態で,この「くらしの漢字」と「今日のひとこと」は作りましたので,今,出ているテキストには,申しわけありませんが,載っていません。ですが,次,後期からまた再放送がありますけれども,そこで出るテキストには載せます。載せますので,そういったものも参考資料としてぜひお使いいただきながら,やっていただければなと思います。
 そういうことで,ぜひ皆さんに御活用いただきたくて作っている番組ですので,ぜひ御活用いただければと思っております。

清 私が言い落としてしまったことをたくさん言ってくださったんですが,さっきの「物」,私たち「ぶつ」と呼んでいますけれども,物を出すということで言うと,本当に御苦労して集めてくださっているんです。というのは,収録はオンエアより時季が早いんです。それで,例えば冬瓜を,「夏至」,「冬至」の説明のところで出したり,ワラビなど市場に出回るより大分前に手に入れなければならないものですから,本当にスタッフの方が走り回って,仙台からとか,沖縄から取り寄せてくださっています。ちなみに冬瓜に関しては,泉田さんが5:00起きで煮てきてくださったりとか,本当に番組制作にどれだけ時間がかかって,エネルギーがかかるかということが,私は身にしみてよく分かりました。これから私は教育テレビは寝っ転がって見ることは決してできないだろうと思います。本当に大変なんです。ロケも本当に時間がかかるんです。さっきのスキット1本で1日かかったりすることもあるんです。
 余談ですけれども,私がつまらないスキットを書いてしまったものですから,スタッフ泣かせだったことがありました。5月に公園でピクニックの場所を探しているというシーンを書いたのですが,それを撮らなければならないのが11月ぐらいで,イチョウの落ち葉がその辺に散らばっていて,カメラが回せないんです。スタッフが都内で撮れる場所を探してくださって,3本だけ緑がついている木があるので,この前でしか撮れないというので,みんなで一声にわあっとイチョウをほうきで掃いて,木の前でカメラを固定して,そこでお弁当を広げるという形でやるということで作ってもらいました。本当に,何にも知らないで書いている側はいかに酷なことをスタッフに課しているかというのが,今回よくわかりました。
 そういうことで,これだけエネルギーがかかって,コストがかかっている番組です。4か国語の対訳もありますし,普段の私たちの教室の中でなかなかできないことですので,ぜひ御活用いただければと思います。
 長くなりましたが,ここまでで何か御質問,私ではなくても,NHKの制作の方もお答えくださると思いますので,何かありましたら,どうぞ。

参加者 すばらしい教材でとても勉強になりましたが,一番最後の,「今日のひとこと」の,「すっきり」というあれなんですけれども,あれを見ていましたら,「さっぱり」という感じにもとられて,その場合に,日本語教師をしているんですけれども,生徒からたまたまこの間「すっきり」の意味を聞かれたときに,私は思わずトイレに行きたいというので説明したんですが,今のを見たときに,さっぱりとどう違うんですかと聞かれたときに,どういうふうに答えたらいいのかということです。
 もう一点,「ほどほど」のあれも,「ちょうどいい」というのとどう違うんですかと聞かれたときに,どういうふうにお答えしたらいいのか,教えていただきたいなと思います。

清 非常に難しい質問がいきなり飛んできて,実は今,たらっと思っていますけれども。オノマトペはそういう誤解を与えるものがほかにもあると思います。そのときに,差別化をしていかなければならないと思うんですが,まず,「ほどほど」と,「ちょうどいい」ということで言うと,言っているときの意味が,恐らく違うと思うんです。「ちょうどいい」というときには,プラスとマイナスの部分の中の度合いでいうと,本当に真ん中というか,そういう部分で,例えば,服を試着していたときに,これは私にちょうどいいわというのは,サイズとして自分に合っているという意味ですね。ですが,そのときに「ほどほど」とは使いませんね。円でいうと,「ほどほど」の円と「ちょうどいい」の円を考えたときの,重なっている部分はあるけれども,決して重ならない部分を見つけて,御説明したらいいんじゃないかと思います。今のような試着ということでいうと,自分のサイズに合う服を探しているときに「ほどほど」は使えないだろうと思います。いかがでしょうか。
 それから,「さっぱり」と「すっきり」ですか。皆さんいかがでしょうか,「すっきり」と「さっぱり」,どなたか,こんなのはという方がいらっしゃったら,私,今,適切なことがぱっと出ませんが,どなたか。

参加者 「さっぱり」というのは,外観ではないでしょうか。外から見た感じ,「すっきり」というのは,例えばおなかの中のことも「すっきり」と言いますね。おなかの中が「すっきり」したわとか,両方言えると思うんですけれども,どちらかといいますと「さっぱり」というのは見た目,外から見た感じがさっぱりで,「すっきり」というのは,両方言えると思います。内と外と,どちらか。

参加者 今,思いついたことですけれども,例えば,今日空を見ていると,とても雲が多いんですね。でも,雲が晴れて,「すっきり」と空が広がるとは言いますが,「さっぱり」とは言わないと思ったので,やはり本質的には,何かそういう違うことの例を使うしかないかなと思います。

清 そうですね。私も今頭をぱっといろいろ回しているんですが,私も今空というのも考えたんですが,もう一つは部屋ということでいうと,「さっぱり」した部屋と「すっきり」した部屋はちょっと違うんじゃないかと思うんです。「さっぱり」した部屋というのは,どちらかというといろいろなものを飾っていない,ごてごてとインテリアをしていないのが「さっぱり」している。「すっきり」した部屋というのは,整理整頓されていて,不潔でないんじゃないかという感じがするんですが,私の語感かもしれません。

泉田 この後,スタジオのときに,あ,気持ちが「すっきり」したというようなのをフォローしていて,心情表現として使えるようということをフォローしたんです。そういう意味では,気持ちは「すっきり」しても,気持ちは「さっぱり」しない。でも,「さっぱり」した性分の人はいても,「すっきり」した性分の人はいなかったりするので,語感としては結構似ているんだけれども,おっしゃったように,やはりどういう場面で使うのかというのは,私たちも多分語感で,こういうときは言うし,こういうときは言わないと,日本人も多分覚えていると思うので,その人が必要とする場面というのでフォローしていったらいかがかと思いました。

清 今の性格というのは非常にはっきりしますね。「すっきり」した性格とは余り言わないでしょうね。部屋と一緒ですね。

参加者 学校で,授業でお話を聞いているときに,例えば前の数学で,「あ,先生,これがさっぱり分からないんですけれども」というふうに使うんですけれども,「すっきり」は使わないかなと思いまして,ちょっと例を出してみました。

清 すばらしい。そうですね。ネガティブが後ろについたときにはさっぱり分からないと言うけれども,「すっきり」分からないは言わないですね。それは,とてもいいポイントですね。

参加者 ビデオは紛らわしいなと思ったんですが。

清 それは御容赦くださいという部分で,それがさっき言ったことなんですが。とにかく10分で全部盛り込む。応用練習から,物を出すから,何から,時間が10分しかないんです。ですから,本当にない中でやるので,教室活動でしたらいろいろな例が出せるんですが,それができないということと,アニメも本当は二つあるともうちょっと誤用を防げるのですが,それもできないんですね。この時間の中でやるしかないという制約が,どうしても番組上ありますので,そこは皆さんに,申しわけないですが,後はよろしくお願いしますというしかない部分です。そういう意味では完璧ではありません。

参加者 先生ではなくて,NHKの方にお伺いしたいんですけれども,今,語学の番組は何だか夜中に追いやられてしまっていて,視聴率が悪いのかなと思っているんですけれども,いかがなんですか。やはり夜中になりますとなかなか見にくくなりますね。それから,早朝,ましてこれは,(土)の朝なら辛うじてと思いますけれども,0:30からというと,大変な時間帯ですね。そういうのはやはり視聴率の問題でこういうふうに,ほかの英語の番組もそうですけれども,何となく今夜中に追いやられているような気がしますけれども,いかがなんでしょうか。

泉田 NHK全体で編成というのを決めている人たちがいまして,今,何が必要なのかとか,生活時間帯で,どこで,何が必要かということを考えた上で組んではいます。基本的に,今,語学ゾーンといわれているものは,ほかの言語も含めて,夜は23:00以降,朝はそれこそ5:00とか6:00ぐらいからやっています。どちらかというと,普段働いたりしている方々にも,夜か朝か,見ていただくようにと考えて出しているという形だと思います。

参加者 お話,大変楽しかったです。まず,一つ目に清先生にお伺いしたいんですけれども,本日のレアリアを活用してという,最後にあったと思うんですけれども,これはどういうふうに使おうと思ったか,ヒントをぜひ伺いたいです。

清 それに関してはこれからですので,ちょっとお待ちください。

参加者 NHKのスタッフの皆さんにお伺いしたいんですけれども,今,中学生に教えているんですけれども,例えば子供たちに対する番組というのは,作る予定はあるんですか。

泉田 まさに今回の日本語教育大会のテーマですね。申しわけないんですけれども,皆様からの受信料の中で作る中で,前に流していた「にほんごでくらそう」は,5年再放送しました。監修は水谷先生に立っていただいているんですが,先生には初級と中級と2バージョン作ったらどうかと,年少者のものを作ったらという御意見もいただきました。そういったものも出したいのですが,今のところ,申しわけないですが,予定はないです。次に作るのは,また3年後かもしれないし,来年かもしれない。来年は多分ないと思うんですが,2年後かもしれないし,5年後かもしれないんですが,そのときに,今あるものと,次は何だというときの,まさに激動する社会の中で何が必要かというところを,私のような担当者がまたそこで考えて,作らせていただくと思います。そういうときはきっと,私もいろいろな方に話を聞いてまいりました。そのときに,皆さんに聞きに伺うかもしれないので,そういうときは温かく迎えていただけるとありがたいです。

参加者 私,実は番組の方は拝見したことがなくて,今,この場で初めて接したんですけれども,私は,大学院の方で教えているんですが,部分,部分で,活用をさせていただくところが多いなと思って,うれしく拝見しました。それで,過去に放送されたものが,ビデオなどで手に入るということはありますか。

清 過去とおっしゃいますと,「新にほんごくらそう」に関してですか。

泉田 それは先生の周りからも寄せられてはいるのですが,今のところ予定はまだ明確には決まっていませんが,ぜひそういうふうにしたいなと。どういう形になるか,丸々になるのか,おっしゃったように,素材として出すのかということも含めて,これからの検討課題ということになっております。今,手に入るかわからないんですが,かなり前,最初の2シリーズ目ぐらいにつくったスタンダードなものというのはビデオになっています。

清 10月から再放送がありますので,そちらで御覧いただければと思います。
 ほかにありますでしょうか。
 では,次にいかせていただきます。
 それでは,3ページ目です。その他の教材の活用についてというところですが,スペイン語圏の人のための日本語テキストとCDで,入門編と初級編というのが,神戸市定住外国人支援センターから発行されています。こんなような教材なんです。これぐらいの体裁のものです。非常に薄いんですけれども,2冊作られています。CDが別売されています。これは,各教科書13課構成で,つくり方としては,非常にオーソドックスな構成になっています。ダイアローグがあって,新出語彙があって,文型があって,練習問題があって,コラムがあるというような形なんですけれども,この神戸市定住外国人支援センターでは,この間の地震の災害の後で,こういうものが必要だということで,おつくりになったそうです。現在ポルトガル語版を作成中というお話でした。
 本当は,地域のラジオ局で,ラジオで日本語講座をという形で活用してもらえるように作ったそうなんですが,今のところ,それを流していただくような場というのがなかなか得られないでいるということです。もしそういう機会が皆様の中であればまた御連絡いただきたいというお話でしたが,私のところにはCDが届いております。このCDは,そのラジオ版用につくったものを,ちょっとコンパクトにしたものだということです。
 ちょっと御紹介したいと思いますが,下に,三つ,7課,4課,6課と,別々ですが,7課は入門編,それから4課,6課は初級編からとってきています。基本的には,構造シラバスかなという感じがしますが,これに対訳が右側にページがついています。それで,最初の第7課の部分を見ると,これは,「おくには。ペルーです。そうですか,ペルーに何がありますか。そうですね,が,あります」という形で,ごく普通のシンプルな,どこそこに何々がありますというものですけれども,こういう文章を使って,出身国の名産を言わせるとか,自分の国の紹介をするということですね。自分の国のことを話すという機会は多いだろうと思いますので,日本のことだけを勉強して,受容してもらうのではなくて,自分の国の文化を紹介してもらうようなことでも,これは使えるんじゃないかと思うんです。そういう方向に発展できるんじゃないかと思って,持ってまいりました。  その次に,初級編の部分ですが,第4課,許可を求める表現という部分で,上から3行目と4行目を御覧いただきたいと思います。「たばこを吸ってもいいですか」の後,「すみません。ここは禁煙ですので,ちょっと……」とあります。これは,こんなのは当然じゃないのと,日本語教育に携わっていらっしゃらない方ほどお思いかもしれませんが,意外や意外,構造シラバスで作られている教材を見ると,こういうときに,「すみません,たばこは吸わないでください」や「ここは禁煙ですので,たばこは吸わないでください」というような応答が結構出されているんです。そういう言い方をしたら,大体対立関係を生じますね。ここは「何とかですので,ちょっと……」と事実を述べて,ここがどういう場であるかという事実を提示して,「ちょっと」と言いよどみ表現を使っているという部分,こういう部分がいいんじゃないかと思って,御紹介しました。
 その次の,病気の表現と書かれた課です。ここの,第6課の下の方の語彙を見ていただきたいんですが,この中を見ますと,普通の日本語教材には載っていないだろうと思うようなものが幾つかあると思うんです。例えば,せっかち,そそっかしい,穏やか,まじめ,のんびり屋とか,おっちょこちょいという言葉は,多分出てこないと思うんです。こういう言葉は割と使いますね。自分自身のことをちょっと卑下して言うとき「本当に私はおっちょこちょいで,もう」というふうに言ったり,それから,どういう人が結婚相手として理想?というとき,「頭がよくてまじめで…」というふうに話をするときもあるでしょう。それから,人の家族などの性格描写をすることもあるだろうと思うんです。こういう部分は,なかなか他の教材では得がたいかなと思うようなところということで,御紹介いたしました。
 ちなみに,このスペイン語圏の人のための日本語テキストのパンフレットを,このホールの受付のテーブルの上に置いてございますので,御興味,御関心のある方は,ぜひお持ちください。この定住外国人支援センターにお問い合わせいただければ,手に入るんじゃないかと思います。ポルトガル語版は間もなくできるというお話でした。初級前半から初級後半へまたがったぐらいまでの,それぐらいのカバーです。文型としては,そんな感じでした。
 もし御質問があれば,私がお答えができるかどうかわかりませんが,後でお願いいたします。
 最後のページです。その他の教材の活用ということで,教材といっても,これはレアリア,生教材といわれているようなものなんですが,これは静岡市で出されている地域タウシ誌の切り取りです。ここで御覧いただいてお分かりのように,すべてレストラン,飲食店の紹介になっていますが,こういうものを使って,一つ一つ逐語理解をするということではなくて,例えばよくあることだと思うんですが,この,私の「新にほんごでくらそう」の中でもあるんですが,自治会の打ち上げをするとか,秋祭りの打ち上げをするとか,あるいはお母さん同士,子供が保育園で一緒のお母さん同士で,ちょっとお茶会をしようというような場所を設定するということを作っておいて,では,どこにしようかというときに,こういうような生のものを与えて,その中から必要な情報を抜き取る。抜き取って話をするというようなものに使えるんじゃないかと思うんです。そうすると,予算が大体決まっていますから,幾らかとか,駅から近いかどうかとか,駐車場はあるかないかとか,それから好き嫌いがあった人の場合,問題ないかとか,そういうようなもので,この中から,全部を読むということではなくて,大事な部分の情報を抜いて,そしてこれがいいんじゃないかとか,いや,こっちの方がいい,なぜいいと思ったのかというファクターを自分で話をしてみるというような,産出の方向にもっていけるんじゃないかと思います。
 これは,ほんの一例でしかありませんけれども,私もボランティアに携わっていまして,比較的こういうタウン誌というのは使えるなと普段から思っております。それから,救急病院の情報などもありますね。そういうようなものを活用したり,求人情報,不動産情報などの,ちょっとこういう視覚的なものがついているものの方がいいと思うんですけれども,数字と簡単な電話番号や何かの部分で,わかるような情報を御活用いただけたらと思います。
 完全な初級とか,全くゼロの人にはちょっと難し過ぎると思いますが,今日のNHKのターゲットのように,少しは日本にいて,片言だけれども話せるというような人たちだったら,これで十分ではないかと思います。それから,今度は表現の問題として,見ていくと,例えば,一番右,「クック安藤」というところなんですが,それの4行目に「びっくり!」,それから同じ「クック安藤」の上から2段目の最初「食べられるのもうれしいですね」というような,この「うれしい」,それから,ファミリーステーキフェアと書いてある左側のものの一番下の段の右から4行目に「おすすめ」というのがあります。それから,一番最後の行の何々「もぜひ」。この「ぜひ」というのは,この中で拾おうとすると三つ出てきます。こういう「おすすめ」とか,「うれしい」「ぜひ」というような形で,ものを勧める。あるいは,推薦するときの表現としてよく出てくるキーワードだけを抑えるというような形でも使えるんじゃないかと思います。
 それを,今度は自分自身が好きな店について知っている言葉で,簡単な情報記事をちょっと書いてみないというような形で,こういう表現を入れて,自分の好きな店,場所とか,営業時間とかを相手に情報として提供するというような活動にも使えるんじゃないかと思います。
 そういうフレーズを中心に見ていくとほかにもありまして,左下,「カフェ ニャーゴ」ステキなお店というところの,下の段の真ん中に,「見逃せません」というのがありますね。これも,NHKの番組案内で「お見逃しなく」とか「見逃せません」と,よく使っています。こういうのも,割合教科書の中に出てきていないですが,よく使う言葉ですし,よく聞く言葉だと思うんです。こういうものを,こういうところから拾って,アウトプットの方向にもっていくというようなこともできるんじゃないかと思います。
 ボランティアの活動を,私もお手伝いさせていただいていて思うことは,なるべく日本語の既製の教科書ではないものから探すと,本当にいろいろいいものが見つかるんじゃないかと思うんです。素材を探すというよりは,素材の中から共通するコアを抽出していくような作業は,ちょっと時間がかかりますが,グループでなされば,そんなに難しいことではないだろうと思うんです。そういうような形で,教材開発というよりは,生で,既に作られているものの中から,あるストックを作っていくというような作業をなさると,ボランティアの活動には有益なんじゃないかと思います。
 大体以上ですが,簡単で申しわけありません,こんなところですけれども,何か御質問なり,御意見なり,もしあれば,お願いします。さっきのNHKの方のことでも,もし,まだ何か御ざいましたら。

参加者 とてもおもしろく拝見させていただきました。T大学のYと申します。NHKのことでよろしいでしょうか。時間があれば後でと思っていましたので。
 このテレビについては,私も拝見したことがないので,分からないんですけれども,このテキストは,今日拝見できるのでしょうか。というのは,先生が御指摘になったように,6課だけでもとてもたくさん,小さなポイントが,日本語教師ですからとても気になるところがたくさんありまして,もちろん教師側でピックアップはしていきたいとは思うんですけれども。

清 今,出版の方が持ってきてくださいましたので,御覧になりたい方はこちらに置いておきます。

参加者 例えば,先ほど,「すみません」が「すいません」になるとか,「ちゃう」,「ちゃった」だったら,結構ほかの教科書でもあるかと思うんですけれども,音声的に「すみません」が「すいません」になるとか,それから男女の対応とか,ある程度ルールがあるものなどについて,どのくらいこの教科書でピックアップされているか,線引き,ここまではテキストに入れて,ここまでは,テキストには入れたかったけれども,入れられなかったとか,意図的にここまでいうとちょっととか,そういうのがあったかどうかなど,教えていただけると。

清 意図的に,特にそこの部分を整理はしていませんけれども,頻繁に,高頻度で出てくるものは大体入っていると思います。テキストにも,それからスタジオでもそうですが,「わよ」というのも女性が使うという言い方はしていません。主に女性が使うという言い方です。男性でもお使いになる方がいらっしゃいますので。
 今の「すいません」のことに関して言うと,「すいません」を載せている教科書は最近出てきました。前のバージョンの「にほんごでくらそう」も「すいません」は出ていたと思うんですが。視聴者の方から抗議の手紙が来まして,正しい日本語を教えていない。特に,あの講師はけしからん,「すいません」なんて平気で言っているという,お叱りのお手紙が来ました。それに対して説明の手紙を,参考文献も挙げて,こんなに長く書いたんですけれども,正しさをどこに求めるか,形式で見るのか,あるいは使用で見るのか,運用で見るのかという部分だと思うんですが,そういうことでいうと,私は「すいません」は必要だと思うんです,普段聞きますので。
 そういうことで言うと,やはり放送で使うというときには,限界があるというか,なかなか難しい部分があって,皆さんどうですか「にっぽん」とおっしゃる方はいらっしゃいますか。もうすぐオリンピックでは「にっぽん,チャチャチャ」とやると思いますが,普通には「にほん」ですよね。ですが,NHKの決まりで,「にほんご」とか,「にほんじん」となった場合は「にほん」ですが,単独のときは「にっぽん」と発音するという規定がありまして,愚痴を言うときに,「ここはにっぽんだ,私はにっぽんにいるんだからと,何度も言い聞かせるんですけれども」というせりふがあるんですが,そういうときは,「にっぽん」「にっぽん」というふうに言っているんです。そういうところ,ちょっと違和感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんが,そういう縛りは幾つかあります。
 普段私たちが普通に使っているものより,まだなじみが薄いものでも,やはりこちらがいいということになればそれを使うというようなことは,私も非常に勉強になりました。
ほかに何かございますか。
それでは,終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

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