日本語教育施策説明

司会(野山) 引き続きまして,日本語教育に関する施策につきまして,文化庁,それから文部科学省,そして国際交流基金の担当官から御説明いたします。
 まず,今回のテーマは,先ほどごあいさつでも説明いたしましたとおり,「地域における年少者への日本語習得支援について考える」というテーマでございます。世界の日本語学習者を考えた場合にでも,年少者の学習者が約7割を占めているというふうに聞いています。5年に1回の調査,国際交流基金で結果が出たばかりですが,そのことを基金の方には話をしていただきます。
 それから,地域の年少者の問題を考えるときに第2言語としての日本語,つまりJSLの問題に関して,文部科学省の初等中等教育局国際教育課で小学生のためのカリキュラムというものをつい最近出したばかりで,中学生のカリキュラムを今検討中でございます。そのことも含めた話を文部科学省の方でしていただきます。それから,文化庁の方では,今,文化庁で行っている施策の全体の説明をしますので,聞いていただければ幸いです。
 まず最初に,文化庁国語課長の久保田治より,文化庁の日本語教育施策について説明いたします。

久保田 こんにちは。文化庁で国語課長をしております久保田でございます。
 本日は,文化庁が取り組んでおります日本語教育の施策に関しまして,若干時間をいただきまして御説明をさせていただきます。
 お手持ちの大会の青いパンフレットの方の7ページから15ページまでに文化庁関係の資料を掲載しております。適宜ご参照いただきながら聞いていただければと思います。
 まず,パンフレットの7ページになりますが,文部科学省・文化庁における日本語教育施策の一覧を掲載させていただいております。ここでは,文部科学省,文化庁,それから独立行政法人の国立国語研究所が実施しております日本語教育施策を掲げております。この中で,事項の1から7までが文化庁で取り組んでおる施策でございまして,後半の8から13までが文部科学省の施策となっております。
 文部科学省の施策のうち,初等中等教育局が所管しておるものにつきましては,後ほど文部科学省の担当官の方から説明いただくことになっております。
 さて,文化庁国語課の仕事でございますが,国語課の事業につきましては,主に国内の地域の日本語教育の充実ということを中心にやってきております。この地域の日本語教育の充実のための事業の中で柱となっているものが,7ページの資料1の日本語ボランティア活動支援推進事業と2の地域日本語教育活動の充実事業でございます。この2つの事業につきましては,10ページと11ページに事業の概要を載せておりますので,そちらを見ていただきたいと思います。
 現在,我が国の外国人登録者は約191万人おりまして,その数は年々増加の傾向をたどっております。また,我が国で暮らす外国人は,留学生,就学生,それから技術研修生,ビジネスマン,外交官といった方々のほかに,いわゆるニューカマーと言われている日系の南米人の方,それから日本人と結婚した配偶者の方,それからインドシナ難民,条約難民などの人々が増えてきておりまして,そういった面で国籍,それから年齢,在留目的などが非常に多様化しておるのが現実でございます。
 このような多様な外国人に対する日本語学習支援,それから生活支援をしていくためには,まず地域の地方公共団体が中心となって,積極的な取り組みを進めていただく必要があると考えております。これとあわせて,個々の地域住民の方々の理解と身近なご支援をいただくことが欠かすことができないと考えております。こういった面で文化庁の事業の中では,10ページにあります日本語ボランティア研修でございますが,こういった各地域で暮らす外国人の方々に対しまして身近な日本語学習の支援者となっている日本語ボランティアの方々に対して,そのステップアップの自己研さんの機会を提供したいと考えておりまして取り組んでおります。
 また,地域の日本語支援コーディネータ研修につきましては,日本語ボランティアの方々,それから地域で日本語学習の支援に携わっている国際交流協会でありますとかそういった機関の方々,関係者を結びつけてその地域全体として外国人の日本語学習の支援の輪を広げるという面から,地域の日本語支援コーディネータの育成に取り組んでおります。
 次に,11ページの学校の余裕教室等を活用した親子参加型の日本語教室の開設事業についてでございますが,この事業は,今回の日本語教育大会のテーマであります年少者に対する日本語支援という問題にも関連した事業でございますので,少し実例を加えながらお話しさせていただきたいと思います。
 地域に在留する外国人の中には,農山村,漁村でありますとか,余り身近に学習の場がなかったり,それから,自らの状況が,子供さんを抱えていたりして,学習の場はあるんだけれども,そういったところになかなか参加できないといった方々も多く見られます。そういう面で,日本語を学びたくても学習機会に恵まれない人たちが多く存在しておりまして,このような人たちに焦点を当てまして日本語教室の開設をしておるのがこの親子の日本語教室でございます。
 例えば,教室に乳幼児を世話する保育士を配置しまして,親が安心して日本語学習に集中できる学習環境を整えたり,小学生の子供が親と一緒に日本語や生活習慣を学べる場を設けるといった工夫をしておるところでございます。こういった面で,地域の実情に応じて親子の日本語教室を開設していただいております。
 この中で一例を申し上げますと,現在取り組んでおる地域の中に,横浜市泉区の上飯田地区というところがございます。ここの横浜市立いちょう小学校は,在籍する児童の半数以上がご両親が外国籍の方という,我が国の中でもかなり外国人の居住が進んだ地域になっております。ここでは,いちょう小学校の学校関係者,それからNPO法人で神奈川の難民定住援助協会というボランティア団体の方々,泉区役所,県,市の交流協会が連携して,その学校の中で親子の日本語教室を開設するということで取り組んでいらっしゃいます。
 子供さんに対しては,その学校の中で必要な教科学習の補習でありますとか,教科学習で使われる日本語を中心に教えると。また一方,親御さんに対しましては,学校の行事で必要な用語でありますとか,学校通信なんかを読み解くのに必要な日本語という意味で,そういった内容の日本語教室を運営しております。
 こういった各地で開設される親子の日本語教室は,単なる日本語を学ぶ場というだけではなくて,ある意味で情報交換の場になっていたり,同じ国の人たち同士でさまざまな悩みを相談できる場となっておるのが特徴でございまして,各地域でとかく引きこもりになりがちな外国人の方の心の居場所としても非常によい効果を上げていると聞いております。この場をおかりしまして,親子の日本語教室の運営にご尽力いただいている方々に対しましてお礼を申し上げたいと思います。
 また昨今,外国人の年少者が,言葉や生活習慣の違いから仲間や社会から孤立して,その結果,犯罪や事件に巻き込まれたりするという例が見受けられております。特に,身体的にも精神的にも発達段階にあります外国人年少者に対しましては,地方公共団体,学校,それから地域の日本語ボランティア,住民の方々が連携して,地域全体としてそういった外国人の年少者を支えていくということが必要になってくるかと思います。そういう面で文化庁といたしましても,この親子の日本語教室につきまして,各地域で取り組んでいただけるように一層充実させていきたいと考えております。
 また,このパンフレットの12ページから15ページには,平成14年11月に文化庁が調査を行いました国内の日本語教育の概要というデータを載せております。この調査は毎年行っておりまして,公的な機関あるいは地域でのボランティア教室を含めて,文化庁が把握し得る限りを対象に調査票を送付させていただきまして,まとめさせていただいております。こういった調査に御協力いただいている方々,毎年,いつもお世話になっていまして,ありがとうございます。昨年の11月現在の結果につきましては,現在,集計を進めておるところでございますので,この秋ごろに御報告ができるかと考えております。
 これから二日間にわたって年少者の問題ということで考えていきたいと思いますが,文化庁の国語課といたしましても,日本語教室あるいはボランティア研修ということで,地域にできるだけ入り込んで事業をやっていきたいと考えております。皆様,御協力をよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました。(拍手)

司会(野山) 引き続きまして,文部科学省初等中等教育局国際教育課の濱谷貢適応・日本語指導係長から,日本語教育の初等,中等教育にかかわる部分についての説明をしてもらいます。よろしくお願いします。

濱谷 皆さん,こんにちは。文部科学省初等中等教育局国際教育課適応・日本語指導係長の濱谷と申します。よろしくお願いします。
 本日,ボランティアですとか教育関係者,そういった方を一堂に会した日本語教育研究大会を開催されました文化庁国語課の皆様及び御準備に御協力された関係者の皆様方にまず,こういったお時間をいただいてお礼申し上げます。また,本日お集まりの皆様方におかれましては,年少者への日本語教育を含めて,日本語指導の充実・発展に日ごろより多大の御尽力をいただいておりまして,この場をおかりしてお礼申し上げます。
 それでは,文部科学省の施策について,資料にあります16ページ,17ページに基づいて御説明申し上げたいと思います。  文部科学省ですので,まず学校教育における指導という観点から御説明申し上げます。
 我が国の学校に就学する帰国児童生徒は,平成14年度間,これは平成14年4月から平成15年の3月31日までなんですが,約1万1,000人が日本の小・中・高等学校に在籍しております。そのうち,日本国籍を有する者で日本語指導を必要とする児童生徒が2,886人というふうになっておりまして,日本の国籍を有するというだけで,帰国子女だということではございませんが,海外への在留期間の長期化ですとか,海外へ行かれる方の若年化がもとになって,このように日本国籍を有していても日本語指導が必要になる児童生徒が増えてきているのだというように推測されます。
 外国人児童生徒の動向でございますが,公立の小・中・高等学校,盲・聾・養護学校,中等教育学校に在籍する児童生徒は,平成15年5月現在で約7万1,000人おりまして,そのうち日本語指導が必要な児童生徒は約1万9,000人というふうにここ数年なっております。このうち実際に日本語指導を受けている児童生徒は1万5,931人となっておりまして,全体の約83.7%を占めております。ただ,残りの16.数%につきましては,何らかの日本語指導を受けていない,また受けられる環境にないということでございまして,こういった児童生徒への支援についても今後考えていく必要があるかと思います。
 17ページに移りまして,日常生活で使用する言語といたしまして何が一番多いかということでございますが,ポルトガル語を話すお子様が約6,772名います。こちらの図は,カラーではないものですからちょっと見づらいんですけれども,一番多いところがポルトガル語,中国語,スペイン語とフィリピノ語は両方とも白なんですが,スペイン語が2,665人の14.0%,フィリピノ語は次の1,523人というふうになっております。
 ポルトガル語を話す児童生徒が多いのは,皆さん既に御承知かと思うんですが,平成2年の入管法の改正により日系ブラジル人が日本に来やすくになったといったことがありまして,そういったポルトガル語を話す児童生徒が増えてきているのだと思われます。
 このポルトガル語,中国語,スペイン語で全体の約4分の3を占めておりまして,この傾向は従前から全然変わるものではございません。
 次に,外国人児童生徒の受け入れでございますが,まず,外国人児童生徒には就学義務がございません。日本の児童生徒であれば,憲法ですとか学校教育法にあるように,保護者には就学義務が課されておりますが,外国人児童生徒には就学義務がございません。ですが,日韓三世協議*1ですとか児童の権利条約*2を踏まえまして,公立の義務教育諸学校へ就学を希望する場合には無償で受け入れて,その受け入れ後は授業料不徴収,教科書無償給与,就学援助等を含め,日本人と同一の教育を受ける機会を保障しているところでございます。
 次に,文部科学省の施策の説明でございますが,大きく分けますと,指導体制,教員研修,日本語指導,調査研究,あと配慮を求めるということで事業を行っておりますが,まず指導体制といたしましては,日本語指導が必要な児童生徒へ,通常の教員配置人数よりも特別に多く国庫負担をしております。
 平成16年度で985名でございます。この985名が多いか少ないかということにつきましては各々いろんな御意見はお持ちかと思うんですが,日本語指導が必要な児童生徒が在籍している学校は約5,130校ございまして,ただ単純に数字だけで考えますと,50校に1名配置されているということになります。ただもちろん,集住地域,または1名しか在籍していない分散地域がございますものですから,そういったところへ今後どういった支援を行うかといったことについても,今後検討していきたいと思っております。
 教員の研修につきまして?,?とありますが,まず?から説明したいと思いますが,外国人児童生徒,また最近,先ほどもお話ししましたとおり,日本国籍を有する子供であっても日本語指導を必要とする児童生徒が多いので,そういった日本語指導を必要とする児童生徒の教育を担当する指導主事ですとか校長,教頭等の管理職,または直接,学校現場で日本語指導をしている教員を対象としまして,日本語指導法を初めとする必要な知識の習得のための研修を行っております。この研修は,実は本日3日から6日までの4日間の日程で,現在,渋谷のフォーラム8という会場におきまして行っております。
 次に,?の帰国・外国人児童生徒教育研究協議会の開催でございますが,こちらにつきましては,後ほど御説明する(4)にある調査研究の帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域,また本年から実施しております母語を用いた帰国・外国人児童生徒支援に関する調査研究,これらの事業の説明を主として,またそれに伴う地域への取り組みの情報交換を主とした協議会を開催しております。こちら,本年度は6日の午後から,日本語指導講習会と同じく,渋谷のフォーラム8で開催することとしております。
 次に,3番目に日本語指導ということでございまして,学校教育におけるJSLカリキュラムの開発ということでございまして,こちらはこちらの文章に書いてあるとおり,日本の学校への速やかな適応を目指して日本語習得を促すとともに,効率的かつ効果的な日本語指導の取り組みを支援する目的で,日本語の初期指導から教科指導につながる段階の学校教育におけるJSLカリキュラムの開発を行っております。
 先ほど,文化庁の野山専門官からもお話がありましたとおり,小学校編につきましては,平成15年7月に最終報告を出しております。中学校編につきましては,後ほど基調講演される佐藤郡衛先生に座長をお願いしておるんですが,現在,どのような方向で中身をどの辺まで詰めて作るかということについて,今,協力者会議で検討していただいている最中でございます。
 次に,日本語指導教材の作成・配付,外国人児童生徒等指導資料の作成・配付とありますが,皆さん御存じかどうかと思うんですが,「日本語を学ぼう」というような冊子と,教師用の指導資料,あとマルチメディア版の指導教材もつくっておりまして,こちらはホームページから,「日本語を学ぼう」というふうに打っていただくと,マルチメディア版の「日本語を学ぼう」は取り出せるようになっております。こちらにつきましては,韓国・朝鮮語ですとかポルトガル語ですとか,幾つかのそういった多言語にも対応するようになっておりまして,日本語指導に少しでも役立てるのではないかというふうに考えております。
 4番目に移りまして調査研究でございますが,ちょっと名前が長いんですけれども,帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域の指定。これは従前,文部科学省では,帰国子女学級の受け入れですとか外国人児童生徒の適応ということで事業を行っておりましたが,平成13年度に,帰国・外国人とその他の日本にいる児童生徒への指導のあり方についてもすべて一緒にやらなければ,学校への適応ですとか日本語指導がなかなか促せないんじゃないかということで統合した事業でございます。中身としましては,そういった帰国・外国人児童生徒の個に応じた特色ある教育指導のあり方,また日本にいる児童生徒にも,そういった児童生徒との相互啓発を通じた国際理解,異文化理解の促進について,市町村教育委員会,都道府県教育委員会と連携し,学校と地域等が一体となった実践研究を行っていただいております。こちらは全国33地域で行っておりまして,茨城,群馬,埼玉などなど,南は熊本でも行っております。
 具体的な取り組みを申し上げますと,岐阜県の美濃加茂市におきましては,ソニーの工場がありましてゲーム機の組み立て作業なんかしているものですから,特にポルトガル出身の方が多いということで,授業の始まる10分前にアミーゴタイムという時間を設定いたしまして,そういった国の出身の児童が自分の母国の言葉であいさつですとか号令をするですとか,そういった簡単な言葉を紹介して,日本にいる子供にもそういった言語を理解してもらうと。それと同時に,日本の児童は,そういった海外からの児童の言葉,時間があれば文化についても多少紹介する時間を設けて,異文化理解等を図っている地域もございます。
 次に,母語を用いた帰国・外国人児童生徒支援に関する調査研究でございますが,こちらは,昨年まで教育相談員派遣事業というものを全国71地域で行っておりました。ただ,毎年事業を行っていても,日本語指導が必要な外国人児童生徒の在籍する学校に日本語指導員が派遣されるだけで,学校全体としての取り組み,また指導体制ができないということがございまして,時間が進むとともに成果も何らか求めなければいけないということでございまして,来日前の生活背景ですとか学習歴を踏まえて,そして母語等のわかる指導協力者を活用して,今までは日本語指導だけでしたが,日本語指導と教科指導ですとか生活指導,そういったもろもろの支援について取り組んでいただくための調査研究でございます。その取り組み成果は最終的にはデータベース化し,全国に情報提供する予定となっております。
 指定地域が42地域(予定)というふうになっておりますが,8月1日に指定を終了しておりまして,結局は43地域になりました。北は札幌市から南は宮崎,熊本までなんですが,集中地域,分散地域,またはそのどちらにも当てはまらないような両方に位置するような地域ということと,あと母語についても,ポルトガル語を話す児童生徒が多いですとか中国語を話す児童生徒が多い地域ですとか,そういったいろいろな地域に割り当てるように指定をいたしました。ですから今後は,事業成果を全国に情報提供する,またそのためには皆様のご支援も必要になると思いますので,学校ですとか教育機関に自分もそういった支援ができるというような働きかけを行っていただきたいと思うとともに,ぜひ何か必要なのがあれば,文部科学省の国際教育課の濱谷までご連絡いただければ必要な情報は提供いたします。やはり学校だけでの取り組みには限界がありますものですから,ぜひ皆様の御協力をお願いしたいというふうに思っております。
 最後になりましたが,帰国児童生徒に対する特別な配慮といたしましては,昭和48年から,国立大学附属学校におきまして帰国児童生徒を専門に受け入れる学級を設置いたしまして,その教育的配慮に基づく実践研究を行っていただいております。現在,9国立大学法人19校がありまして,ここには他の学校以上に教員が多く配置されたり,20人程度の人数構成で授業を行っております。
 また最近では,高校ですとか大学への入学者選抜への帰国子女枠設定ですとか,入試における特別な配慮を行うように要請をしております。
 先ほどのJSLに戻るんですが,日本語指導のための支援ツールとしてつくっているものなんですけれども,初め,自分が今の課に来たときに,そもそもJSLカリキュラムとは何かというのがわかりませんでした。日常会話ができても学習にはついていけないといったことについても意味がわからず,何で通常の会話ができても特別なそういった支援が必要なのかということを考えて,初めの数週間過ごしました。幾つかの地域,また学校をめぐらせていただいていろんな話をお伺いしたことによりますと,もちろんその外国人の方の意識にもよるんですけれども,日本に短期間しか滞在しないから日常会話さえできればいいと,読み書きができなくてもいいというような考えの子供さん,保護者の方もいて,そういった子供はやはり,試験とかそういったことになりますと読んだり書いたり,そういった作業が出てきますものですから,そういった作業ができない。または,そもそもその国には日本でいう言葉の概念が見当たらないというようなことがございまして,日本語で教科指導を行うための日本語を身につけるための支援ツールが必要だということで,JSLカリキュラムを現在作成しているところです。まだホームページにこの小学校編につきましてはすべてアップしてないんですが,今後,すべてホームページ上に載せる予定ですので,ホームページに載せたときには,皆さん,ぜひ御活用をお願いしたいと思います。
 最後になりましたが,皆様におかれましては,本日のこれからの講演ですとか事例発表,パネルディスカッションを通じまして多くの情報ですとか知見を身につけていただきまして,地域にお戻りになられましてからもこれまで以上に日本語指導,日本語教育の一層の充実に取り組んでいただくようお願いいたしまして,私の説明とさせていただきます。
 どうもありがとうございます。(拍手)

司会(野山) どうもありがとうございました。
 施策説明の最後になります。続いて,独立行政法人国際交流基金日本語事業部企画調整課課長の嘉数勝美様から,国際交流基金の最近の調査結果の報告及び日本語教育施策について説明をしていただきます。
 よろしくお願いします。

嘉数 皆さん,こんにちは。
 初めに,夏風邪を引いておりまして聞き苦しい点があるかと思いますが,お詫びいたします。皆さんどうぞご注意ください。  私ども国際交流基金は,実は資料の18ページに今日これから話すことが入っておりますが……。聞こえますか,大丈夫ですか。これ,半分ぐらい緊張して,半分ぐらい風邪のせいでこうなっていますので,勘弁してください。
 国際交流基金は,昨年10月から,独立行政法人という行政改革に遭いまして,大分様子が変わっております。それから,この5月からは大幅な機構改革も行いました。その結果,国際交流基金ジャパンファウンデーションって非常に違和感のある呼称を使っておりますが,実は外国では,国際交流基金と申しましても余り通用はいたしません。むしろジャパンファウンデーションと言っていただけると,ああ,というふうな返事が返ってくると思います。一方日本では,ジャパンファウンデーションと言いましても,それは下着のメーカーですかとか,そういったふうな反応がありますので,その辺のギャップが非常に大きな問題でありまして,私どもはこの5月からは国際交流基金ジャパンファウンデーションと,日本語と英語とごちゃ混ぜで少し違和感がありますが,そう自称しております。
 ちなみに,国際交流基金の本部に電話をしていただきますと,「国際交流基金ジャパンファウンデーションでございます」という応答をいたします。しない場合には,投書をしてください。お願いいたします。
 それではまず,先ほど冒頭に加茂川次長から,日本語教育が国際化しているというお話がありました。日本語教育の国際化というのは,必ずしも海外だけではなくて,今日お集まりの皆さんはほとんど国内で一生懸命,日本語教育をやってらっしゃると。そういう点では,国内でも日本語は国際化している,日本語教育は国際化しているというふうに思えます。私どもは,文科省さんと文化庁さんときれいに線を引くという意味で,仲良く国内は文科省さん,文化庁さんにお願いをして,国際交流基金は海外を担当しております。とはいっても,日本語教育という点では同じ目的,あるいは同じ責任を感じているわけですから,これからは表と中というふうなそういう関係ではなくて,情報を共有し,あるいは事業を共有しやっていきたいというふうに考えております。
 今日の皆さんは,これから表で日本語を教えようという方は余りいないかとは思いますが,そうは申しましても,海外で今どのような日本語教育が行われているかということは非常に重要な情報になりますから,ぜひこれは勉強していただきたいと思います。
 詳しくは私どものホームページに情報は載っておりますので,もちろん見ていただければわかりますが,今日は概略を申し上げます。
 先ほど申し上げましたが,資料は18ページから25ページまであります。
 これは,先ごろ7月5日に記者発表いたしましたときに使った資料でございまして,これ以上最新の資料は,今のところはございません。これからは新しく,この内容に関して分析等をして,発表いたしたいと思っております。恐らく,それは今年度末ぐらいになると思いますので,またそれは改めて,御関心があれば,いろいろな研究材料あるいは情報源になると思いますので,ぜひご活用ください。
 まず申し上げますと,私どもは,従来は5年に1回調査をしてまいりました。今回は7回目になりますが,次回からは,実は3年置きに調査をいたします。と申しますのは,調査というのは,状況を知るということが,非常に新しい情報あるいは新鮮な情報が必要ですから,その意味で5年に1回というのは余りにも今の時代の速さには追いつけないと。なおかつ,最近の経験で申しますと,5年の間の変化というのはすごく大きいものがございます。したがって,次回以降は3年に1回,情報を収集し,分析し,提供するというふうに考えております。
 前置きが長くなりましたが,今回の調査では,2003年の7月からことしの3月まで調査をいたしました。この結果,世界127か国・地域で約235万人が勉強しているというふうな結果が出ました。
 皆さん,ここでご注意いただきたいのは,235万人というのは,今現在あるいは過去も含めて235万人という意味ではございません。台風で言いましたら瞬間最大風速というのがございますが,これはまさに瞬間最大値でありまして,今現在,235万人以上の学習者あるいは学習経験者がいるわけですから,大ざっぱにいえば数千万という人もいますし,あるいは数百万という人もいますが,相当な数の人が勉強しているというふうにお考えください。
 前回の調査から比べますと,前回は210万人という数でした。ただし,200万人を超えたということは,我々,国際交流基金の人間にとっては一生懸命仕事したみたいな,そういう印象もありましてうれしい数字でしたが,今回は少し減るのかなという予想もありました。と申しますのは,世界的に余り景気もよくない。世界的にと申しますか,むしろ日本の景気が依然としてよくないから,日本に対する関心が非常に落ちているんではないかというふうな,そういう観測もございましたから,どうしても日本語を勉強しようという動機の多くが,日本との関係を考える,あるいは将来の投資として学ぶ,あるいは日本の文化をもっと知ってみたいというときに,日本が景気が悪くて元気がなければ余り関心もわいてこないということでございますから,ひょっとして減るのかなというふうな気持ちもありましたが,実は,ふたをあけますと235万人という数字になりまして,一応,担当者としてはほっといたしました。とは申しましても,まだまだいろいろとこれから取り組むべき問題,課題等は明らかになっております。
 今回の調査で一番特徴とすべきことは,学習者が増えたこと,これは非常に大きな問題ではありますけれども,それ以上に,例えば機関数は前回に比べますと11.8%,約12%,同じように学習者も約12%増えております。しかし,ここで注目すべきは,教師の数が20%増えております。これは各国の教師養成,あるいは各国の教師の存在あるいは数の重要さがわかってきて養成が進み,あるいは確保が進み,結果として,できる限り多くの先生が教室活動に当たられるというふうな状況が出てきたわけです。したがって私どもは,学習者の総数が増えたことよりも,教師の数が増えたことを非常にうれしく思っております。
 それからあとは,相変わらず同じ傾向として見られるのは,やはり先ほど野山さんからも御紹介がありましたが,各国の初等,中等での取組が非常に盛んであるという点であります。これは特に90年代半ばから非常に顕著になってまいりました。なぜ初等,中等が顕著になってきたか,あるいは学習者が増えたかと申しますと,国際化する社会との対応という関係で,国際理解教育という観点から外国語を学習させるという制度がかなり大規模に各国で進んでまいりました。その結果,そういった取り組みが反映して,非常に初等,中等で学習者が増えてきたというふうに申せます。
 一方で,初等,中等が増えていて,なおかつ数も安定的な数を維持しているという理由には,また別な要素が最近は入ってまいりました。それは,よく言われますが,私自身は余り好きな言葉ではありませんが,ポップカルチャーという表現,あるいはそういう言い方がありますが,例えばマンガであるとかアニメであるとか,あるいは日本映画であるとか音楽であるとか,そういったポップカルチャーに対する関心が強くて日本語を勉強してみたい,あるいは日本に行ってみたい,日本に関心がわいたというふうな,そういう若い層の学習者が増えているというふうなレポートが,各地から挙がっております。
 少し前,10年以上前ですが,少し前までは高等教育で日本語教育が行われていた,あるいは日本研究として日本語教育が行われておりましたという状況がありましたが,今ではすっかりそれは様変わりをしてしまって,むしろ日本語を学ぶ動機あるいは目的,それからニーズは非常に多様化しているというふうに考えていいと思います。
 したがって,我々がこれから取り組むべき問題は,そのニーズの多様化,あるいは目的や動機の多様化に対して,どういった対策をとるかということだと思います。
 次には地域別で少し様子を見ていきますが,一番学習者が多い地域は,我々がくくっておりますところの東アジア地域,これはいわゆる中国,それから韓国,そしてモンゴル等が入りますが,こういった地域で全体のほぼ6割を占めております。  次は,横棒のグラフがありますが,そこには機関数,教師数,学習者数の地域別割合というのがございますが,ここを見ていただきますと少し気がつくと思います。先ほど教師の数の問題を申し上げましたが,特に東アジアは,機関数が39.5%であるのに対して学習者が61.0%という,そういうシェアを占めておりますね。一方で,大洋州地域,これは主にオーストラリアですが,こちらの方では機関数が20%に対して学習者が17.6%というふうな数字になっておりまして,これはいかに1機関における学習者の数の大きさが違うかということがわかると思います。この辺は十分見ていただきたいと思います。
 それから,この種の調査をしますといつも一番関心があるのは,どこが一番学習者が多いかという話になりますが,これはもうしばらくずっと続いておりますけれども,韓国が一番多いというふうになります。次が中国,オーストラリアという順番ですが,実は,前回の調査では,オーストラリアが2番でした。今回は,選挙でいえば5,000票差というぐらいな感じで,中国がオーストラリアを抜きました。しかし,これは競争ではありませんから,どっちがいい,悪いという話ではございません。実は中国は,回収率は前回よりも下がっております。しかし,学習者は前回よりも相当な数増えております。これは何かと申しますと,上海とか,あるいは大連とか北京とか,そういった大都市の民間学校の学習者が非常に増えているという情報がございましたから,その辺の情報を一生懸命,これも選挙ではありませんが,戸別訪問をして調査票を書いてくださいというお願いをして一生懸命集めた結果,このように学習者が増えました。
 少し前,NHKのニュースを見て私もびっくりしたんですが,大連地域では今,ビジネスと結びついた日本語教育が非常に盛んであるというふうな話を聞きました。皆さんもふだん気づかずに電話を受けていますと,交換の方が出たりいろいろサービスを聞いていますが,実は最近ではそれが日本国内の地方ではなくて海外にまで拠点が移っているというふうな現象があることがわかって,非常にびっくりしました。特に中国では,IT産業が中心のようですが,そういったサービス産業での日本語を使ったスタッフの確保あるいは養成というところが非常に盛んになっている,ということがございます。
 職業と日本語教育の結びつきという点では,中国がやはり一番顕著な例であろうというふうに考えます。それ以外の国は,先ほど来申し上げましたように,初等,中等のいわゆる学校教育課程で勉強する人が多いわけですから,職業とは余り結びついていないというところがございます。
 もしこれから御自身で海外進出,海外展開をお考えになってる方がいらっしゃったら,ぜひその辺の違いをはっきりとわきまえていただきたいと思います。つまり,自分は初等,中等という学校教育課程においてお手伝いをしたいのか,日本語を教えたいか,あるいは職業教育として日本語のビジネスとしての能力をつけるためのお手伝いをしたいかといった,その違いをはっきりと分けていただきたいと思っております。
 あとは,学習者が多かったけれども,減った国もございます。例えば台湾なんかも大分減っております。それからニュージーランドも大分減っております。こういった減った国の原因というのは幾つかあるんですが,主に特徴的に言えますことは,一つは,減った国の経済状況で,行政改革が行われて教育予算が減る,教育課程の変更がある。その結果,一番外国語教育があおりを受けるということがあって,減ってきたということが1点でございます。もう一つは,新しい外国語が力を伸ばしてくる。例えば台湾で言いますと,英語教育が非常に強い影響力を持っている。つまり,英語教育が非常に盛んになっているために,日本語教育があおりを受けたという1点もございます。
 ニュージーランドも似たような状況があります。かつて盛んであったフランス語,ドイツ語が復活をして,一方で日本語教育がまた少ししぼんできたというふうな状況がございます。あとは,例えばアメリカの西海岸,あるいはカナダのブリティッシュコロンビア等では,スペイン語が非常に大きなシェアを占めてきて,スペイン語学習者の増加に伴って日本語学習者が減ってきている。日本語に限らず,ほかの言語の学習者が減っているという状況もございます。
 そういった,一つは経済的な理由から来る現象,あるいは学校教育制度の変更というところから来る理由もありますが,もう1点では,新しい言語あるいは何か特別な要因で新しい言語に取り組む力が大きくなってきた。そのために日本語教育が影響を受けるということも現象としてはございます。
 あとは,先ほど学習者の動機や目的,あるいはニーズが多様化しているというふうに申し上げましたが,そこに特に挙げられている点では,日本に対する関心のほか,あるいは日本語に対する興味もありますけれども,やはり就職という点も挙がっているというふうなことがございます。
 それから,各国が抱えている問題は何かといいますと,やはり教師が少ない,あるいは教材が少ない,そして十分な教育施設がないといった問題があると。これは数の変化にかかわらず,ずっと一貫して私どもが聞いている問題点でございます。
 あとは,特に皆さんとの関係で申し上げれば,海外で,特に初等,中等で取り組みが盛んな国では,必ずしも専門的な,いわゆる有資格の教師ではなくて,ボランティアあるいはインターンシップのような取り組みで教師を必要としている機関もあるということがございます。ただし,そうはいっても,そうお気軽に行かれる場所ではありませんし,十分に各国の教育事情あるいは制度,そして求められている内容を吟味して,皆さんができる限りの協力をしていただければというふうに考えます。
 以上,大体調査については御説明しましたが,また御質問あるいは疑問がありましたらば,先ほど申し上げましたように,ホームページの方を見ていただければもう少し,私が今申し上げた以上の詳しい情報はございますから。それから,この機関調査に限らず,関連の各国の国別の状況等は毎年1回更新しておりますから,皆さんが御関心がある国について情報を得たいという場合には,そちらを見ていただければ,十分な情報が入ると思います。
 最後ですが,私の方から申し上げたいことは,先ほど冒頭に,日本語教育が国際化しているというふうなお話をいたしました。これは私に限らず,加茂川次長もそうおっしゃいました。しかし,私たちが今考えているのは,日本語が国際化している,日本語が国際化する可能性を持ってきたというふうな意識も必要であるというふうに考えております。もちろん,日本国内の国際化もございます。そういった点で,日本語教育というメディアあるいはツールを通じて,私たちが国際化にかかわってくることは,これからますます大きくなってくると思います。ぜひ皆さんの各々の立場,あるいはお力,あるいはお気持ちをもって,日本語教育を大きくしていただきたいと思います。
 それでは失礼します。(拍手)

司会(野山) どうもありがとうございました。

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