日本語教育研究協議会 第3分科会

日本語教育研究協議会
第3分科会 「日本語会話習得について考える」
鎌田 修(南山大学教授)

鎌田 皆さんこんにちは。南山大学の鎌田と申します。よろしくお願いします。
 この分科会のテーマは「日本語会話習得について考える」ということ。それから,いただいているテーマの中に地域での日本語教育ということを言われていまして,ボランティアで教えていらっしゃる方とか,あるいは近所でそういう,京都では余りあるのかないのか知りませんけど,割合公民館とか豊中市とか,そういうところとは結構やっているので,それとの関連みたいなことについて話すというか,私自身はちょっとそういう意味での地域とのかかわりというのが少なくて,もっと持たないとだめだなと思っているんですけど,そういうことを頭に入れて皆さんと一緒に考えていきたいなと思います。
 それで,どういうことがメインかということをちょっと書きましたが,会話能力の上達のためにどのような活動が必要か。OPIの理念を活用しながら地域でも可能な活動例について考えたいと思います。
 OPIというふうにぱっと出しましたけど,私にとってはOPIというのはよく知っていて,耳がたこになるぐらいな感じなんですけど,私の学生だとか,元学生とかいろいろな関係の方が何人もここにいらっしゃるので,その方たちはもちろん知っていらっしゃるんですけど,OPIというのをちょうど初めてお聞きになった方は,どうぞ自信を持って手を挙げてください,それ知っておいた方がいいものですから。
 はい,わかりました。約3分の1ぐらいの方はOPIは初めてだということですので,OPIが何であるかということを,会話能力をはかるものなんですけど,それについて前半は詳しく話をしようと思います。1時間50分の時間が与えらていますので,そのうち半分は,OPIそのものの話をして,途中で5分くらいの休憩を入れたいと思います。
 最初は,日本語の会話能力というのは一体何なんだろうという,話ができるということは一体何なんだろうということ,それから,日本語がどのように,そしてどれくらい話せるのかという,会話能力ということがわかったとすれば,どれくらい能力があるのかということをはかる必要がありますので,その方法について考えます。そこで出てきますのが,ACTFL*1というんですけれど,これはアメリカの外国語協会です。私自身92年までアメリカにおりまして,77年から92年まで人生の半分を過ごしました。日本語教育はもともとアメリカでやってきました。そして今,日本でしているということです。そのアメリカ時代に経験して自分なりに勉強したことなんですが,このACTFLというところが開発したもの。それをベースにしたものがOPIというものです。それによるレベル分けということについて話そうと思います。それから,それはどういうふうにやるのかという,どうやって会話能力をはかって,それからそれをどうやって伸ばすのかという,そういうことを考えようと思います。
 OPIというのはここにも書きましたように,Oral Proficiency Interviewの略で,Oralは口頭,Proficiencyは熟達度,習熟度とか言います。Interviewは面接,面接法による口頭能力の測定という,そういうふうになります。決して難しいものではありませんので,途中で皆さんにもやっていただこうと思っています。コツがありまして,そのコツはひねりで,頭も腰もひねらんと上へは上がっていかへんという話です。
 あとはOPIと地域における日本語学習支援ということで,ここが一番私としては余り経験がなく,むしろ皆さんと考えていきたいと思っているところです。いったん,これは止めておきますけれども,ハンドアウトの方を見ていただいたらいいと思います。
 日本語の会話能力ということなんですが,いろんな考え方がこれまでありまして,それを一個一個当たっているわけにはいきませんけど,大ざっぱなところをちょっと見ておきたいと思います。やはり文法を知っていないとだめだと,だれでもそう思われるんですけど,そういう古典的な考え方というものから,いや,文法だけ知っていてもちょうど日本の英語教育がそうであるように,何や文法はよう知ってんのに,ちっともしゃべられへんという,これではどうも文法を知らん方が,むしろよくしゃべるんじゃないか。今日のダイアンさんの話とかを聞いていても,やはり度胸と関心というのがなかったらだめじゃないか。いわゆるコミュニケーション能力みたいな,そういうものというのが必要じゃないかという,そこに能力感というのは流れていくわけですね。
 ですから,ここに書きましたチョムスキー*2という有名な言語学者ですけれど,この方は理論的なことを勉強されている方ですので,しゃべれるとか,ダイアンさんみたいに突っ込みが入れられたり,おもしろい話ができるというところにはそれほど興味はなくて,もっと脳の構造,言語そのものの構造というところを探っていたわけですが,どうもやはり会話能力ということを考えてみると,運用面のしゃべるということがやはりメインになりますし,言語能力というのは,どうやら何も文法だけじゃなくて,もっと周りにあるもの,言語を包むものというのか,言語を動かすものという,それが後で出てきますハイムズとかカネイル&スウェインとか,こういうような名前が出てきますが,後半になればなるほどもっとコミュニケーションというのを重要視しないとだめだということになります。
 ですから,言語能力というのは文法という抽象的なものだけではなくて,実際に使えるという社会的な状況,例えば目上に対してはこういう言い方をするだろうし,子供に対してはこういう言い方をするとか,そういう言語の選択ができるという,使用上の選択ができるという,そういうものを能力と呼ぶべきじゃないかという考えが今の大抵の考え方だと思います。
 もちろん,文法能力というものを決して無視しているわけじゃなくて,それはそれで必要だけど,余りに昔はそれを強調し過ぎたと。むしろ,もっと社会言語学的な能力,それから方略能力とも言ったりしますけど,いかにそのギャップが生じたときとか,あるいは今日のダイアンさんの話だと忘れ物をして,アヒル柄の傘の忘れ物でしたよね,ああいう話なんかおもしろいです。何とか用を足すというか,ちゃんとアヒルの柄のついた傘を捜し出すという,そういう方略能力みたいなものを,何か困った空間を埋めるようなそういう能力というのも必要じゃないかというようなことが考えられています。
 結局,今行き着いています,私がこれから時間をかけて話をしますのは,このACTFLという学会がありまして,American Council on the Teaching of Foreign Languagesと言って,アメリカ外国語教育協会というものです。そこが私が言ったのと同じような考え方を持っています。それがどういうものであるかというと,ちょうど何か我々が話をするというのはただ単に言葉を発するとか,ただ単に文法を知っているとか,それも必要なんだけれど,もうちょっと大きいことがあるという,ここで書いています言語活動って何か活動が行えるのか行えないのかという,目的を達するかどうか,あるいはちょっと難しい言葉では機能力というか,何か目的を果たすことができるかという,そういう観点に立った考え方です。
 ここに「言語活動をプール」と書きましたけれども,実際おもしろいんですね。今日,家を出たのが9:00ちょっと過ぎですけど,西院で降りてバスを待っていると,バスがなかなか来ないし,来たのはいいんだけど,いっぱいで,どうしようかというから,周りの人に「バスちゃんと来たか」とまず聞くと,205番ですけれど,まだ来てないという。こう聞きながら来ました。満員のバスも一応乗りまして,衣笠で降りたんですけど,衣笠からここへ来るのにちょっと覚えていないもんですから,まず「立命はどこですか」と学生のような方に聞いたんですよ。そしたら,「これをまっすぐ行って左に曲がったらいい」と。まっすぐ行って曲がるところがわからないものですから,また,ちょっと年配の人がいたもので,「立命はどこですか」と聞いたら,「これをまっすぐ行ってとんつきのところを左へ」と,こういうふうに言いましたね。また,そこをずっと歩いていくと。こういう活動というのは皆さんも同じようになさったと思うんですね。
 シンさんという,前は私は京都外大にいてそのときの1期生の方が山形からはるばる来られているんですけれど,同じようなことじゃないかな。「昨日はどこに泊まっていました?」,ホテルね。同じようにバスに乗って,多分いっぱいね,今,観光シーズンですから。
 そういうわけで,まず私が,皆さんも経験されたことというのは,バスが来たかどうかということを聞いて,まだ来ていないから,そしたらちょっと待っていたらいいんだという判断をした。それからバスに乗って,衣笠で降りていいのかどうかがわからないので,僕は立命はここでおりたらいいんですかと近くの人に聞いたら,「そうや」という。
 今日の言語活動を後で振り返ってみると,やっぱり朝,女房にあいさつして,御飯を食べて,出て行って,大体が道を聞くという簡単な言語活動だったんですけど,人によってはいろいろ違うこともあると思うんですね。重い言語活動がある場合もあるでしょうし,軽いのもあると思うんですけれど。そういうわけで,この会話能力というものを言語活動をベースにした会話能力というふうに考えます。言語活動における,もちろん言語活動というのは書いたり読んだりということもありますので,何も話すことだけではないんですが,これは会話能力ですから,だから,会話面,口頭面における言語活動の能力というふうに考えたいと思います。
 次にどういうことを考えるかといいますと,そういう能力,私は今講義をするという言語活動をやっているわけです。皆さんは講義を聞くという言語活動をやっているわけですね。こういうものは,一体どういう構成になっているのかということをちょっと考えようと思うんですね。これもゆっくり考える方がおもしろいんですけど,それだけで時間を食ってしまいますので。プールというのは,やっぱり底がないとプールじゃないわけなんです。底なし沼ではプールにはならない。やはり私たちの会話の,今しゃべっている中の底の部分という,水が漏れないように,変なところへ行ってしまわないように支える部分というのは一体何なんだろうかというと,これを私たちの考え方では機能とかタスクと呼びます。機能というのは,電気を消すんだったら本当に消えるかどうかということです。つけたいんだったらつけられるかどうか,道を聞いているんだったら本当に道を聞けてそこまで行けるかという,これが機能です。
 タスクというのは具体的なもので,これは若干外国語教育用の用語というか,タスクを与えると言いますね。仕事を与えると言う。ですから,このタスクというもの,機能というものがなかったら,水はどこでも行ってしまうわけなんです。これがあるから,言語活動というのは成り立つわけなんですね。いわゆるその生活に密着していない,例えば今日のダイアンさんの落語にしても,お風呂の話が出ましたけれど,お風呂にそういう入り方をしているわけじゃないけど,お風呂を想像してくれと,そういう場面というのを置くわけですよね。それと同じ,ただ私たち今現在は,教室という場面において話を聞く。何か口頭能力,会話能力が何かということを知りたい,こちらも話したいと,そういうのが目的になっているわけです。
 ですから,そういう機能というものがあるんだけれど,では,それだけで言語活動が成り立つかというと,そうじゃなくて,場面というものが必要なんですね。それがちょうどこの場面,内容という2番目のところに行きます。私は今,立命館大学の教室を使って講義をしています。それが場面ですね。それから,私と大抵の皆さんは初めてなんですね。こういう対人関係,これは場面なんです。どちらかというと疎遠な関係ですね。次に内容,これもなかったら困る。一体何についての講義なんだという。これは口頭能力についての,口頭能力というのは,結構抽象的な内容ですね。簡単な内容というのもありますね。あいさつをする,自分の名前を言うなんて,これはとても簡単な内容ですけれど,口頭能力についてというと,これはぐっとレベルが上がって抽象的な話になりますね。
 その二つは,まだ言語活動としては具体化しないです。具体化させるためには,やはり文法というものが必要になってきます。それが3番目のもので,正確さ,文法というものが出てきます。正確さというのは,いわゆる文法の位置付けみたいなもので,発音上の問題とか,あるいは語順の問題とか,語彙の選択とか,こういうものが正確さとなるんですね。それは,どれぐらい正確につくれるかという,それをつかさどっているのが文法になります。
 そして,表面的に今皆さんは私を見ておりますけれど,しゃべっている,それをテキストあるいはテキストタイプといいます。言葉そのものが出てくるわけです。それを皆さんが聞いていて,こういう割合長ったらしい,間が多い,間が多いのではなくて,何というか言葉に詰まるのが多いんですね,考えながらしゃべっているもんですから。そういうテキストですね,談話ともいいますけど,そういうものが表面化しているわけです。
 我々は,その表面化したものに目が行きますけれど,その表面化するものというのは,底にあるものがなかったら表面化しませんから,星の王子様ではないですけど,表面だけでその人を判断しないように。上っ面の表面というのがありまして,例えばオウムとかキュウカンチョウとか,最近のロボットなんかもそうですよね,ただ繰り返していくという。それで,じゃ,言葉ができるのかといったら,あれはただ繰り返しているだけの話であって,表面的にはきれいかもしれないけど,実は言語活動をやっていると言えないわけなんですね。やはり言語活動のもとになっている,何かの目的があって,キュウカンチョウなんかは朝でも晩でもおはようというわけで,これではちょっと困るわけなんです。
 ですから,大切なことは,我々の言語活動は機能とタスクをベースにして,どういう場面で,どんな内容で,そして,そこに文法というものが入り込んで,そして,表面化するという考え方です。ですから,この辺はすごく浅いんですね。機能的にも軽くて,吹けば飛ぶようなものです。プールの例えでいけば,泳いでいるとは言えない。足がついてて,水の中を歩いているという感じです。だんだんこの辺になってくると,やはり足が届かなくなって泳ぎ始めるんです。この辺は波も高くなってかなりのことができないとだめ。それを記したのがこれです。
 ですから,言語活動も軽い言語活動,初級レベルのもの,それから中級レベルのもの,上級レベルのもの,超級レベルのものというふうに分けられるんじゃないかと思われます。もちろんこういう4段階で分けようと,6段階で分けようと,10段階で分けようと,それは必要性に応じてそうやるわけですが,ACTFLでは四つに分けていると思います。この分け方にもいろんな理屈はあるんですが,いわゆるNoviceという初級レベルはだれでも,ひょっとして人間でなくてもできるかもしれないです。うちにいた犬は割合バイリンガルで,聴解に関して日本語で言っても英語で言ってもちゃんとわかっていましたから,へっちゃらなところにいたはずです。大分できるということになってくると中級レベル,かなりいけるというのはやはり上級レベル,すごいというのがやはり超級,超超級,こういうレベルになると思います。今の話で,言語活動の重さ,軽さ,それに伴う口頭面におけるレベル分けというものを大体わかっていただいたと思うんですけど,もうちょっとそれを具体的に考えてみたいと思います。
 まず,初級レベルというのは一体どんなことなんだろう。だれでもちょっと勉強したらすぐにできるようなものというのは。これ実は,36ページ,37ページ,ここに「言語活動のプールとその構成」というのがあります。ちょっと字が小さ過ぎますので,何か虫眼鏡がないと見づらいような感じですが。初級レベルというのは,上の方は表面的に出てくるもの,あいさつをする「私は鎌田です。よろしくお願いします。今日はちょっと天気が下り坂みたいですね」という,こんな感じのものですね。それから「その辺に売っているものは幾らぐらいするでしょうね」「今日は観光客が多いですから,漬物を買ったり,この近くだといろいろしていると思うんですよ」。それから「今何時ですか」とか,こういう,いわゆる日々,そういうことなくして言語活動が成り立たないような極めて基本的な,極めて一般的な決まり文句,あるいは日々繰り返し繰り返しやるものだから,犬でも猫でも,猫は余りしゃべらないと思いますけど,キュウカンチョウとかオウムなんかも繰り返し繰り返しやるものだから,出てくるようなもの,意味がわからなくても出てくるようなもの,こういうのはよくあると思うんですね。
 海外旅行で1週間もいれば何かそこでの土地のことというのがわかってきますけど,インドネシアに私は去年1カ月いたんですが,やっぱりスラマットというのがよく書いてあって,スラマットというのはあいさつの言葉で最初に出てくるもので,スラマットというものの本当の意味はよくわからないけど,みんながスラマットパギーとかスラマット何とかというものだから,そう言えばいいんだなという,そういう意味での暗記とか,そこでは古典表現と書いていますけれど,そういうような意味です。単語の羅列,簡単な古典表現でのみコミュニケーションが図れる,そういうものが初級レベルというふうに考えます。
 ちなみに,皆さんは日本語を教えていらっしゃって,教科書を使っていらっしゃると思うんですけど,その場合の初級というのは,全然違いますね。皆さんの使っていらっしゃる教科書というのはほとんどが文法や文型に基づいていて,AはBです。それから,いわゆる単文という「京都はきれいです」とか,こういう形容動詞が出てきて,次は動詞が出てくるというような,単文が終わると複文,複文が終わると…とね,待遇表現なんていうのが大体最後のあたりに出てくるとか,受け身が最後の方にね。それでもって初級というふうに考えていますけど。私たちの考えている初級というのは,そうではないんです。これはあくまで機能に基づいたものであって,ある機能を果たすためにどういうものが必要かということ。ですから,初級レベルでは,いわゆる初級文法で言われているような長い文だとか,そんなことは余り考えないです。
 初級レベルの言語活動能力は何かというと,ここで書いているようなあいさつができること,名前が言えるとか値段だとか時間とか,極めて初級というかNoviceという言葉がありますが,Noviceいうものは大体そんなものですね。スキーなんかでもNovicecourseと言って,スキーをやっているのか,ただ雪と遊んでいるのかわからないような感じ。でも,一応雪の上にはいるという。
 中級レベルはちょっと違います。中級レベルになってくると,機能的には,自分なりに言語が使え,よく知っている話題について簡単な質問や答えができる。単純な状況や,やりとりに対処できる。買い物ができるとか具体的に言うと道案内。ですから,今日私がここへ来たのも中級レベルの活動です。ホテルでの予約,シンさんが山形から電話をかけてと,これも中級レベルで,こんなのは余り大したことないんですね。それからレストランで注文するなど。だけど,これを外国でやるというと結構難しいです。私はインドネシアに行って注文できない。ダイアンさんじゃないですけれど,メニューを見てこうやって,向こうはサンプルがないものだから,人のを見てあれですとかと言う。こういうことができるというのは,結構中級レベルのいい線にいっているわけなんです。
 デートの約束なんていうのは,これは言葉だけじゃなくて度胸も要りますけどね,震えてたらできないんで。「明日があるさ」という歌がありますが,あれなんかは我々の若いころを思い出させる。そういう約束,どこそこで会おうと。何時に会って何々しようと。映画を見に行こうとか,映画の後は何か食べようとか,こういうことです。それから,スケジュールを立てる。スケジュールを立てるということは,結局長くなってきます,文というかその活動が。ですから,具体化すると,ここでは文が言えなきゃだめということになってきます。初級レベルでは,文というより単語,語句,塊みたいなものです。中級レベルになってくると,文というものが必要になってきます。それを中級と言う。ですから,もっと平たく言うと,中級レベルというのはいわゆる日常生活ができるというレベルになります。電話をかけたりいろんな日常生活というものがあると思うんです。切符を買う。最近は自動販売機で買うので余り言葉は要らないですけれど,そういうようなストレートな単純な状況ということは,Aと言えばB,Bと言えばCという,これが決まっているような日常性。日常というのは基本的には決まりきっているという,だからそれを日常というわけなんですね。ですから,中級レベルというのは日常的な活動が行えるレベルと言います。
 一方,上級になると大分違います。具体例を言うと,ふるさと紹介。自分はどこから来て,どこそこのこういうところなんだ。そこは何が有名で,今度出張に行くんだったら,例えば私は山形はちょっとしか行ったことがないんですけど,シンさんだったら山形のことで随分語れるはずなんですよね。山形は何がおいしんですか。さくらんぼ。町自体は盆地で,何か穴場みたいなものありますか。蔵王温泉というのがあって,どんな温泉か説明ができるわけですね。山形というのはこういうところで,温泉があって,何とかかんとかという,これになるとちょっと中級レベルじゃないです。大体,そもそも説明を要するということは,これは日常生活ではないんですね。日常生活では余り説明が要らない。ある意味であうんというのか,わかり切っていることをやっていく。ところが,説明が必要ということは結局わかり切っていないから説明をするという考えです。
 自分の国の結婚式,まさか結婚式について毎日毎日説明するわけにいかないし,やっぱり韓国式の結婚式を説明しろといったら,これは結構難しいでしょうね。日本の結婚式のやり方を別の人に紹介するというのもいろんなことを知っていなければだめです。それから,好きな映画の紹介,最近読んだ本の内容,交通事故の報告。交通事故なんかは非日常の典型です。交通事故にしょっちゅう遭っている人にとっては日常的かもしれない。そしたら,その人にとってはそれが中級レベルになるかもしれないけれど,普通交通事故はそんなものじゃなくて,ちょうど今朝5:00過ぎに名神であったそうですけど,あれを説明するとなると,どうして起きたのか,あるいはその現場に行ったとしたらどういうことをしたか,警察にどういうふうに連絡したかとか,こういうのは明らかに上級レベルです。
 それから迷子の報告。うちの子が迷子になって困っていますと,どんな子ですかと言うと,背は110センチぐらいで,何とかを着ていて,言葉は大体よくしゃべりますとか。
 忘れ物の記述。これもダイアンさんはあの時点ではしっかりと説明できなかったんですね。まだ初級レベルで。今だったら彼女は十分やっていけるわけです。言葉に詰まってもアヒルの絵のついている黒い傘で,折りたたみの傘かもしれないし,開くとアヒルがグウァグウァと鳴くという,そういう説明をするという,こういう能力になりますね。それから病状の説明。病気もしょっちゅうなっていたら困るわけです。病気を説明するというのはすごく難しいですね。隣人への苦情。苦情なんていうのはいつもあったら,これはまた困ったものです。
 ですから,こういう非日常的なもの,非平凡な活動を上級レベルとみなします。これをもう少し抽象的にいいますと,主な時制,アスペクト(高度な文法的正確さ)。日本語のアスペクトというのはすごく難しいです。例えば,「日本に来る前に随分勉強したんですけど,余り役に立ちませんでした」とか,「アメリカに行く前に英語を一生懸命勉強したけど,余り役に立ちませんでした」と。「行く前」というのは,いわば現在形ですよね。「役に立ちませんでした」というのは過去のこと。過去なのにどうして現在なんだという,これがアスペクトという問題です。ですから,欧米系の人たちはよく間違えます。「日本に来た前に一生懸命勉強しましたけど,だめでした」と言う。「来た前に」は意味が通じない。ですから,こういう操作ができないと,しっかりした物事の説明ができないという。
 例を使って叙述,描写ができる,それから,複雑な状況,複雑な意味交渉に対応できる,こういうのが上級レベルという非日常的なもの。Aと言ってもBが戻ってこなくて,Aと言ったのがDが戻ってきて,これどないしょと。欲しいのはBですよ。どうやったらBを取ったらいいんだろうという,こういう能力。
 最後は超級です。やはり具体例からいうと,平和運動について議論をする。これはなかなか難しいですね。米軍基地問題,これもうるさい問題です。それから,少子化問題。無実,自分は悪いことをしていない,おれはそんなことをやっていないとかと説明していくという,こういう議論というのはかなり高度です。それから,泣いている子供を言葉で説明する。泣いている子供に「どうしたのよ,一体あんた,何でこんなところで泣いてるのよ」と,子供の立場に立って,「ああそうなの。それはおじさんもわかるんだけどね」と,こういう共感,同情を示すというのかな,言葉もすごく子供のわかるレベルに落とさないとだめです。落とすというのは何も優しくするんじゃないんですよね。落とすというのは調整をするわけですから,能力はかなり高いですね。それからユーモアが言える,しゃれなどの。冗談が言える。離婚問題。目上,目下,同僚,仲間の者などに対して社会的に適切な言語形式で話し合いができる。これは難しいですね。目上の人にどうしゃべる。目下に,同僚,仲間,社会的に適切な,この辺になってくると価値観なんかも出てきてすごく難しくなってきます。
 ですから,このレベルになってくると,ダイアンさんもすごい能力がありますけれど,落語家としてはうまくいくかもしれないけど,あのままのしゃべり方で天皇陛下としゃべるというと,これ困ったもの。天皇陛下もきっと落語家はこんなものだと思うかもしれないけど,やっぱりなかなか難しくて。ピーター・バラカンというすごい人がいます。彼なんかはこういうのが十分できるぐらいの能力を持っていますね。
 専門的テーマで議論,反論ができる。もっともっと具体例はありますけど,ここまでに抑えておきます。抽象的にこれを言うと,意見の裏付けができる,仮説が立てられる,具体的な話題も抽象的な話題も議論できる,言語的に不慣れな状況に対応できる,こういうのが一番上のレベルの記述ということになります。
 随分駆け足で言いましたけど,初級レベルというのは本当にありきたりの,繰り返し繰り返しやって単発的に処理できる言語活動。中級レベルというのは日常的な,繰り返し繰り返しやってて,ただ,こちらから質問もできるし,そういう外へ出て生活できる。中級までは結構行きやすいですから,日本にいる外国人の中級はたくさんいます。でも,上級が少ないですね。上級になってくると,やはり非日常的な予期しないことに出くわしても大丈夫なレベル。超級になってくると,もっとレベルを超えているんですね。抽象的で複雑で,その上議論とか相手の立場に立つとか,こういう能力。こうなるとかなり少ないですね。
 それで,参考のために,OPIに関心を持っていらっしゃる方もいらっしゃると思うので,バックグラウンドについて言っておきますと,このOPIというのは,実はその前身がありまして,アメリカの国防関係でやっていたものなんです。外交官の養成のときにこういうOPIというものをやっていまして,OPIは1対1なんですけど,外交官の方はもっと厳しいんです。2対1でやります。試験管が二人,被験者が一人。これをFSI,これを Foreign Service Instituteと言います。外事事業所というのかな,そういう外交官養成のところでのスケールというのがあるんですね。こっちは厳しいです。6段階で,ゼロ,ゼロプラス1,1プラス2,2プラス3,3プラス4,4プラス5,ですから6段階です。
 ACTFLは,実はこれをベースにして名前もOPIという名前に変えて,そして初級,中級,上級,超級,4段階にやったんです。名称もNovice, Intermediate, Advanced, Superiorという,こういう名前にした理由というのは,大学で使おうとしたんですね。それが理由です。ただ,初級NoviceというのはFSIのゼロ,ゼロプラス,Intermediateというのは1,1プラス,それからAdvancedというのは2,2プラス,Superiorというのは3から5まで超級というのは。ですから,FSIの方がはるかに厳しい。
 ACTFLのOPIの方は,超級は3の一番低いのも超級だし,5も超級になっちゃって,かなりできるのもいれば,例えばダイアンさんなんかぐらいだとどうかな,ちょっとOPIをやってみたいなと思いますけど,Superiorの一番下のところかなというような,ひょっとしたらSuperiorにはいかないかなと。テスターの方がここに何人かいらっしゃるから,どうですか,ダイアンさん。ちょっと危ない。何を言っているのかちょっとわからないようなところはいろいろ出てきちゃうんですね。ということになります。
 能力というものはこういうふうに考えるというこれが大体の前提です。口頭能力で,文法だけじゃない,何ができるかということをベースにしているということですね これに基づいて面接を今からやってみるという,それについてちょっとお話ししようと思います。
 ちょうど今31ページですが,口頭能力というものをこういうふうに考えていると。一つは,機能・タスク。どういう機能,タスクを果たせるか。それから,どういう場面,場面・内容。どんな場面のものなのか。それから,正確さはいったいどうなのか。発音,語彙,文法,社会言語学,誤用云々とあります。それから,最後談話の型(Text type)はどういう形の発音ができるかと。これで判定をします。ダイアンさんの場合ですと,今日はいろんな話が出てきましたけど,かなりのレベルにありますね。機能的には,忘れ物の話とか,いろんな話が出てきましたけど,割合いいですね。場面・内容,どういう場面でのというと,こういう他人に向って話ができるんですけど,これはかなりいいですね。それから正確さ。これがいいところもあったし,ちょっと何を言っているのかなとわからないようなところもありました。言い間違いというのもあったと思うんですけれどもね。談話の形,表面的に見たら,割合長い文を言っていました。だけど,割合単発的な文をどんどん並べて,それで勝負をしているという面もありましたから,テープに吹き込みましたんで聞いてみたらわかると思うんですけど,例えば博物館という言葉がわからないときには,いろんな絵とか絵画とかいろんな物を置いているところと。これはまあよかったと思うんですけど,もっと長いのが言えてるかどうかという,こういうところも調べないとだめなんですね。
 そういうものでサンプルをとってレベルを判定するんですが,先ほどのプールの絵でわかりましたように初級から超級までありますが,ちょっと細かいことを言うと,初級には三つの階レベルがあります。初級,上・中・下,中級も上・中・下,上級も上・中・下,ところが超級はなし。超級は超級だけ。こういう階区分があります。ちょっと今からビデオを見ていただきます。これはOPIの全部見ると30分かかりますのでそれはできませんけど,ボビーさんというすごいハンサムなイラン人ですけど,ボビーさんのビデオを見られた方はあるでしょう,OPIのビデオをもう既に見たという方。ありますね。でも大半がそうじゃないからいいですね。
 日本語教授法ワークショップというもので,実は10年前なんですね。もう一人すごい男前が,精悍な顔をした人が出てきます,そのはずですけど。この人ですけど。京都外大時代ですから,京都外大と書いてあります。ちょっと説明だけしておきます。
 これは,基本的に30分以内,30分を超えてはいけません。このビデオは20分ものです。面接で,あのプールのようなことを頭に描いていますから,あのプールでどれくらい,このボビーさんがどの辺まで泳げるか,つまり,どういうレベルまで行けるかという,これを探っていくものです。それで,そういうのをまず一番最初,ウォームアップ,準備体操というのがある。泳ぐときにやる準備体操。それから,この人はこの辺だな,まあ中級ぐらいかなと,あるいは浮き袋をずっと持たしておかんといかんかなとか,こういうことをすぐにはかっちゃいます。すぐ,もう2,3分でそれがわかるんです。それから,これは結構いけるよということで,もっと難しいタスク,質問。例えば交通事故に遭いました。どうしますかとかね,こういうことをずっと聞いていきます。おぼれそうになったら,つまり,しゃべれなくなったらまた戻します。しゃべりやすいレベルに戻して,いろんな話題のものを与えるので,行ったり来たりします。それで,もうわかったよということになると,ちょっとロールプレイというのを最後のあたりで入れます。ロールプレイを入れる理由というのは,面接以外の実際の活動ではどうだろうかというのを調べるために,ショッピングだとかホテルの予約だとか電話の会話とか,ここでは違うことをやりますけど,それがあって,締めくくりでさよならとします。これは20分もので全部見るわけにはいきませんので,ちょっと止めながらいきます。じゃ,最初のところから行きます。

*1 ACTFL The American Council on the Teaching of Foreign Languages(全米外国語教育協会)の略称。
*2 チョムスキー(Avram Noam Chomsky) アメリカの言語学者。伝統的な構造言語学を批判,生成文法理論を提唱,言語学のみならず,哲学・心理学・コンピュータ科学など広範囲にわたり影響を与える。反戦運動や,現代アメリカ社会についての鋭い批判でも知られる。主著「文法の構造」「文法理論の諸相」「デカルト派言語学」など。

<ビデオ視聴>
鎌田 私は鎌田です。お名前はなんですか。
ボビー 私はボビーです。
鎌田 ボビーさんですか。ボビーさんはどちらから来られましたか。
ボビー イランからです。
鎌田 イランからですか。なるほどね。いつ来られましたか。
ボビー 去年の4月。
鎌田 去年の4月。
ボビー はい,そうです。
鎌田 そうすると,今何カ月ですか。
ボビー 今14カ月ぐらい。
鎌田 14カ月ですね。しばらく日本にいるわけですね。
ボビー そうですね。
鎌田 日本はいかがですか。
ボビー 慣れました。
鎌田 慣れました。
ボビー 何でも。
鎌田 楽しいですか。
ボビー そうです。楽しい。今ごろはちょっと忙しいんです。
鎌田 お忙しいんですか。
ボビー 大学でいつも朝から晩まで実験してます。
鎌田 そうですか。じゃ,大学に行っているんですね。
ボビー そうです。
鎌田 大学はどちらですか。
ボビー 阪大。
鎌田 阪大。ああそうですか。で何を勉強されていますか。
ボビー 化学。
鎌田 これが,ウォームアップのレベルですけれど。どうですか,この人は初級レベルだろうか,初級どまりか,もっと能力を持っていると思われるか。どうですか。初級は十分クリアしていると思われる方,手を挙げてください。大丈夫ですよね。自分の紹介もやっているし,何をやってるかってね。ですから,これからレベルを上げて行きます。
<ビデオ視聴>
ボビー ケミストリー。
鎌田 ケミストリーのようなもの。
ボビー 光化学,フォトケミストリーする。
鎌田 光化学,随分難しい勉強をしているようですね。
ボビー そうです。
鎌田 で,勉強は楽しいですか。
ボビー 楽しいです。はい。いろいろなことを習います。新しいことを習います。楽しいです。
鎌田 お宅はどのへんですか。
ボビー この近くです。
鎌田 10分ぐらいで。そうすると大阪大学からちょっと離れていますね。
ボビー そうです。
鎌田 どれぐらいかかりますか。
ボビー 30分ぐらいかかります。
鎌田 随分かかりますね。どうやって行きますか。
ボビー 雨の日バスで行きます。雨が降らないときはバイクに乗って大学へ行きます。
鎌田 なるほどね。雨の降らないときはバイクでね。バイクって自転車ですか。
ボビー バイク,モーターサイクル。オートバイクです。
ボビー 30分。同じ。家から大学までたくさん信号がありますから同じぐらいです。
鎌田 なるほどね。早く走ろうと思ってもなかなかね。
ボビー ちょっと私のバイクは,ちょっと古くて小さいです。
鎌田 小さいバイクですか。
ボビー そうです。
鎌田 それは買いましたか。
ボビー いいえ,もらいました。
鎌田 もらったんですか。
ボビー 日本人の友達からもらいました。
鎌田 そうですか。でも,ちゃんと動いていますか。
ボビー そうです。
鎌田 それはいいですね。
鎌田 どうですか,今のところで,道,来かたで何分くらいかかるかとか。そうすると,これはやはり初級じゃないですよね。ということは,水泳で例えるならば,浮き袋は要らない。足は十分届かないところでも行けるというところへ入っていっています。これからだんだん突っ込みを入れますので,ちょっとそこのところに注意をして。
<ビデオ視聴>
鎌田 食べ物はどうですか。

ボビー 最初は何でも食べました。でも,今はちょっと熱い食べ物食べられない。
鎌田 熱いものって。
ボビー 歯がちょっと痛くなります。
鎌田 歯をどうしたんですか。
ボビー わからない。まだ歯医者にまだ行かなかった。まだわからない。
鎌田 でも痛くて。
ボビー そうです。
鎌田 眠れますか。
ボビー 大丈夫ですけれど,食べるときちょっと痛くなります。
鎌田 そうですか。その熱いものというのはどんなもの。
ボビー 例えば,うどん。みそ汁,熱いみそ汁。全然だめです。
鎌田 ああ,そうですか。おふろはどうですか
ボビー 大丈夫です。
鎌田 おふろは入られますね。
ボビー はいそうです。関係ないです。
鎌田 日本の食べ物はどうですか,おいしいですか。
ボビー 私は,ちょっとにおい魚は嫌いです。魚においがします。
鎌田 におい魚。
ボビー ちょっと食べられない。
鎌田 そうですか。におい魚は古い魚ですか
ボビー 古いではなくて,フライ魚は食べます。でも,においがあったらだめ。
鎌田 においがあったらだめ。というとフライ。
ボビー フライはにおいがない。においはしません。
鎌田 じゃあ,そうするとおすしはだめですか。
ボビー だめです。
鎌田 残念ですね。日本の食べ物で一番好きなものはなんですか。
ボビー お好み焼きです。
鎌田 お好み焼き。どうしてですか。
ボビー おいしいですから。
鎌田 イランにもそのような食べ物がありますか。
ボビー ありますよ。
鎌田 何と言う食べ物ですか。
ボビー ククといいます。
鎌田 クク。ちょっと説明してみてください。私イランへ行ったことがない。
ボビー 難しいです。ポテトちょっと水に入れて,火の上に置いて,そしてシェロ,ポテトのシェロはずして。
鎌田 何を。
ボビー わからない。日本の言葉わからない。そして,パーンとして。
鎌田 パーンとするんですか。
ボビー そして,卵も入れて,かくはんして。
鎌田 かくはん。なるほどね。そして……。
ボビー そして,お好み焼きと同じ方法でつくっています。
鎌田 なるほどね。
鎌田 どうですか。今のタスクは,活動は食べ物でお好み焼きが好きだと言って,お好み焼きのつくり方を聞いたんですけど,大変おもしろかった。ジェスチャーでわかるんだけど,この言語活動はどうでしょうね。さっきのプールの絵でいくと,どこへ行くんでしょう。中の上,上級レベルのタスクを与えたんですね。説明をするという,つくり方。ところがうまくいかない。におい魚というのも,これもおもしろいですね。
 実はテスターはわかってしまってもいけないんですね。におい魚とは,ああにおいのする魚ね。でも「えっ」というふうにわざわざ聞くんですね。つまり,ちゃんと言えるかどうかということを確かめるんですけど,におい魚って「何でにおい魚と言うんやろう」と思うんですけど,これすごく学習者の頭を,隣で第二言語学習を迫田さんやっていますけどね,これはやはり学習者の観点から言ったらすごく当然なんですね。古い魚,新しい魚,おいしい魚,甘い魚,にがい魚,だからにおい魚,これですね。もうこれが理由なんです。ボビーさんにはそれを聞かなかったです。大体の学習者はそう言うんですよ。これぐらいのレベルの学生は,におい魚っておもしろい。
 やはりちょっと上級になるともうおぼれちゃうんですね。困って,その上「かくはん」という,これは,いわゆるキュウカンチョウの言葉ですね。常々使っている言葉なんだけど,彼はいつも何かまぜているんでしょう。「まぜる」ということが言えなくて「かくはん」していると言う。でも,この場面では「まぜる」でなきゃ困るわけなんですね。ですから,やっぱり下がっていく。
 この後ずっとまた映画の話,それから教育の話というふうに,それから旅行をして東京はどうだったかという話。それから,ほかに日本にいて問題はありませんでしたかと言ったら,問題があったと。大家さんと問題があった。何の問題だったかというと,友達が来るんだと。ところが遅くまで騒ぐから大家さんが文句を言ってきたと。どうしましたかと聞いたら,「友達来ない,遅く,早く来る言いました」と言うんですね。ですから,やっぱりもう上の方にはいかない。ということはこの人はやはり中級レベルなんですね。
 ロールプレイのところまでちょっと見てもらおうと思うんです,せっかくですから。これは,上級レベルのロールプレイを与えたんです。どうしてかというと,この人はすごくスムーズなんですね,コミュニケーション能力というのが。泥棒に入られたという話です。ですから,私は警察です。
<ビデオ視聴>
ボビー 怖いです。電話しましょう。もしもし。
鎌田 もしもし,箕面警察ですが。
ボビー すいません。泥棒さんが来ました。
鎌田 泥棒さん。どんな泥棒さんですか。ちょっと説明してください。
ボビー ちょっとわからない。パスポートを持っていきました。お金も何万円ぐらい持っていきました。
鎌田 そうですか。今,あなたはどこなんですか。
ボビー 今大学から電話をします。
鎌田 どこの大学ですか。
ボビー 阪大です。
鎌田 阪大でね。そうですか。そうすると,あなたの部屋に泥棒が入りましたか。
ボビー そうです。
鎌田 ちょっとどういう状態か言ってください。
ボビー 昨日私は琵琶湖へ行きました。そして,その間泥棒来ました。
鎌田 そして。
ボビー 開いて,その物を持っていきました。
鎌田 ああそう。で財布とほか。
ボビー 財布とかパスポートとか。
パスポートとか。ほかはどうですか。窓なんかはどうですか。
ボビー どんなふうに入ったかまだわからない。そして,まだ失ったものをよく知らない。
鎌田 じゃ,ないのは。
ボビー 今までは何万円ぐらい,そしてパスポートとか,ほかにもビデオもいない。ありません。
鎌田 そうですか。じゃ,とにかく行きますけど,あなたは大丈夫ですか。体は大丈夫ですか。
ボビー ちょっと怖いです,今。
鎌田 今,一人ですか。
ボビー そうです。
鎌田 どうやって行きましょう。阪大のどこですか。
ボビー 阪大の豊中市です。
鎌田 豊中のどこですか。
ボビー 理学部のオオノ先生の研究室。
鎌田 オオノ先生の。電話番号は。
ボビー 06・×××・××××

鎌田 じゃ,今から行ってちょっと調べますけど,今そこはそのままにしておいてくださいね。
ボビー はい,どうもありがとう。怖かったね。
鎌田 こういう感じで終わります。
<ビデオ視聴>
鎌田 でも,ボビーさんは大丈夫なんですね。
ボビー そうです。
鎌田 よかったですね。じゃ,ボビーさんはうちがすぐ近くだから,今から帰って何をしますか。
ボビー 勉強するんです。
鎌田 また勉強するの。いつも勉強しているんですか。
ボビー そうです。
鎌田 何の勉強。
ボビー 化学の論文の日本語で勉強。
鎌田 なるほどね。試験があるんですか。
ボビー いいえ,学会があります。8月に,東京。
鎌田 東京で。そこで発表するんですね。
ボビー そうです。
鎌田 難しい研究なんでしょうね。
ボビー 研究も難しいし,専門の日本語も難しいです。
鎌田 日本語で発表するんですか。
ボビー そうです。私はできるかどうかまだわからないです。
鎌田 でも,頑張ったらできますから。
ボビー はい,頑張ります。
鎌田 今日はどうもありがとうございました。
ボビー どうもありがとう。
鎌田 というわけで,御覧になってわかるように最初の出だしはいいですよね,すごくすいすいと泳いで。最後もやはり気持ちよく終えさせるんですね。お話してよかったと言う,最後もすごく優しい,気持ちよく彼は十分しゃべったなと思う。だけど,その間のところは結構汗をかいて困ったなと,何て言ったらわからないから何かパーンと言ったりいろいろ言うんですね,その言葉がわからない。そういうところは随分困っているわけなんですね。困っているところというのは,結局,そこが上限,すいすいと泳いでいるところは下限,これを行ったり来たりこうしていて,この人はこうだなと,大体中級の中とか上とかいうレベルになります。
 ボビーさんだとプールの上からいえば真ん中ぐらいまでしか要らないですね。これがダイアンさんだとかピーター・バラカンだったらもう確実にでっかいプールでないと測定ができないと。中には日本人よりもはるかに議論もうまいし言葉も知っていると,デーブ・スペクターさんとか。関西では結構いるんですね,12チャンネルに出てくるアメリカ人の何とかというすごい人がいますね。ネイティブでない,母話者じゃないというのはやはりわかるんだけど,母語話者以上の語彙力とかいろんなものを持っていたりします。
 これがOPIの全貌です。ですからどういう質問をいつ与えるか,そして何の目的でと,これが大切です。これさえわかれば十分にできます。
 それで,ちょっと振り返ろうと思うんです。このOPIというのがどういうものかということを。32ページのところを見てください。
 OPIとは,最長30分の間にできるだけ大切なことは自然な会話です。今のでも御覧になってわかるように極めて自然です。楽しい会話をします。これを行い,能力測定に必要な限りの有効な発話サンプルを集めます。だから,発話はサンプル集めなんですね,我々の立場からすると。発話サンプルは被験者自信の最大の能力,つまり,能力の上限がわかるものであること。精一杯話させ,上限と下限を行ったり来たりして定めていきます。テープ録音した発話サンプルを聞き直し,ACTFL Proficiency Guidelinesという基準,これは,前に,モニターで,パワーポイントで見せたILRとこれとの比較したものですね。あれに従って能力判定を行います。
 構造はどういうものかというと,導入があって,ウォームアップですね,レベル・チェックで下限を探します。それから,突き上げる,probingと言います。これで難しい質問を与える。これが上限探し,あるいは細部チェックです。これを何回も繰り返してロールプレイを与えます。ロールプレイの目的というのは,この面接場面以外の電話だとかいうようなところを探っていく,そして締めくくりと。わずかそれだけのことです。非常に簡単な構造です。ただ,テスターの方は次に何を聞くかということをいつも考えながら,データを聞きながら次に何を聞くかということをやらなきゃならない。これが難しいです。ジキルとハイドみたいなもので,ああいいな,いいなでは困るんです。余り相手がすいすいと泳いでいっては話しにならない。難しい質問を次に考えていかないとだめ。ですから,顔とは裏腹のことをやっていくわけです。逆に言うと,被験者の方が嫌な顔をしているということは,これは困っているわけですから,そしたら上限がわかってテスターの方はうれしいわけなんですね。だから,テスターはいつもにこにこはするんですけど,心の中は被験者がにこにこしていたらテスターは困るし,被験者が困っていたらテスターは喜ぶと,こういうような二重人格になるわけですね。
 次,面接はあらかじめ用意したテーマにおいて行われるのではなくて,テスターと被験者がその場でつくり出す,その場に特定したものである。何が言いたいかというと,その被験者のことを聞くんです。被験者が言いたいことを言わせると。何かあらかじめ質問を用意しておいてそれについて答えさせるという,いわゆる筆記試験とは違うんですね。その被験者の能力とは無関係なものではなく,能力測定に強く関与したものである。中級に関与すると思われるOPIには,面接という形態を離れた実生活における能力を調べるため,ロールプレイが行われる。初級の場合には余りしないです。つまり,やっても意味がないんですね。
 ボビーさんの例でいきますと,ratingのための証拠探しということで,喜びの部分。この人よりも低い簡単な名前を聞くとか自己紹介の後,彼は喜んでいる。ところが,苦しみ(i+1)というふうに書きましたけれども,難しいことを与えると苦しんじゃう。これを何回も繰り返します。テスターの方は,喜びというのは,難しい質問を与えたら喜びがあって,易しい質問のときにはだめだから苦しむと,逆になると。だから,助けないということです。テストのときには助けません。精いっぱい力を出させて,そして,例えばにおい魚というのもわかってしまわない。何ですかというふうに,すぐに助け船を出さない。それから,質問の形,話題展開の方法。最後,OPIの中で,ラポール*1のつくり方というのが一番大切だと思います。会話テストで一番大切なのはやっぱりこれで,なぜこれが大切かというと,相手のことを親身になって聞く,相手の立場に立つ,この人が言いたいことを言わせる,この人に最大限の力を発揮させるというのがOPIの目的だから,何か距離を置いてしまうとか,あんたのことなんか全然関心ないよとか,そういうことでは困るわけなんです。この人の能力において最大限,この人が言おうとしていることを言わせるという。ですから,ロールプレイなんかでも,一番いいロールプレイというのはロールプレイでなくなったときのロールプレイ。本当の話をやっちゃう。カウンセリングみたいなことになっちゃう。これはよくあるんですね。
 実は,私が先生であなたは学生ですよとか,警察官ですよ,あなたは泥棒に入られたんですよって,いつの間にか本当の話になっちゃって,実は本当に泥棒に入られているとか,よくこういうことはOPIで,私はこの道は長くて,もう20年ぐらいやっていますから,いろんなテスターのトレーニングをやっている。それでいろんなテープをしょっちゅう聞いているんですね。本当にいいのはあります,もう涙,涙の話。これが,基本的には地域ということに結びついていきますけど。ですから,いいラポールをつくるということが大切ですね。
 生きた発話の抽出という,翻訳・通訳などの間接的な方法に頼るのではない,学習者の置かれた地域環境におけるその場における心からの発話ですね。ですから,やっぱりリラックスさせる必要がありますし,緊張をほぐして,それからいいものを出してくると。ほかには,座り方とか接し方とか気配りとか,こういうのも結構OPIには大切なんですね。緊張していたらやはりちょっと,どうぞ服をとってリラックスしてくださいとか,こういう訓練もやります。話したいことを精いっぱい話させる。関心と関心事のマッチング,それから質問の形,話題の設定。
 実は,川崎さんという方がここにも来られているんですけど,川崎さんはこれを地域でずっとやっていらして,とてもいい研究をされています。いわゆるOPIテストという枠を越えてるようなものがよくあるんですね。地域になると30分でじっくり話をする機会というのはなかなかないんですね。OPIをやっていると,学生はもう1回やってほしいと言ったりしますけれど,どうしてかというと,こんなにたくさん日本語を話したことがないというのが多いです。それと同じように,地域なんかでもそんなに日本人とじっくりと話をするという機会はなくて,何かいつも言えないことが言えた。いつも思っているんだけど,聞かれることもないし,だけどそれが言えたという,楽しい話もあれば悲しい話もあります。
 特に,地域なんかになってくると,実は昨日NHKで肝っ玉母さん何とかというのをたまたまテレビでやってたから撮ってきたんですけど,ああいうのでもやっぱり,白人は白人なりのつらさというのもあるだろうけど,社会におけるアジアの人たちというのはやっぱり難しい面がありますね。フィリピンとか山形とか,日本語ができなかったら困るし,それから今日の話なんかでも母語を,韓国語をしゃべってはいかんとか,そんなん困ったもんやなと思うんですけどね,いろんなことがあって言えないと。どうしても日本語を解しないとだめだし,それを親身になって,そのレベルで話を聞いていってちょっと上げてあげる,開放してあげる,そうするとどんどんと言い始めるという,こういういい機会になっています。
 せっかくですから,皆さんに練習してほしいと思うんです。初級レベル,中級レベル,上級レベル,超級レベルにどんな質問があるんだろうかということ。例えば今,隣あるいは前に座っていらっしゃる方と,一応一人の方がレベルを設定して,私は中級ですよとか,上級ですよと。超級というのは言わないように。超級だったらおもしろくないですから。ちょっと質問を考えてください。
 次は,ロールプレイについてと,ロールプレイというのは,やっぱり,ロールプレイはロールプレイだけでやるとするとおもしろくないです,確かに。だけど,本当の場面というのを考えてみて,こういうときにどうなるかと。だから,この人が中級レベルの人だとこういう場面,上級レベルだとこういう場面というのを設定して,ちょっと考えてほしいなと思うんですね。ですから,1,2分,本当に時間はないんですけど,ちょっと近所の方とレベル設定だけやって,そのレベルに合った質問をやる。どうぞちょっとお願いします。一番最初は自己紹介が必要ですね。

*1 ラポール (rapport) 心理学で,人と人との間が和やかな心の通い合った状態であること。親密な信頼関係にあること。

<練習>
鎌田 それでは,ちょっと披露していただこうと思います。できるだけ地域とかかわりを持っていらっしゃる方にお願いしたいと思うんですが,中級レベルからいこうと思います。質問とロールプレイというところで,名簿があるものですから見せていただくと,どの方が地域かということがちょっとわからないので,Nさんはいらっしゃいますか。じゃ,すみませんけど,ちょっと立っていただけますか。NさんとTさん,どのレベルでどうだったかということを報告していただけますか。
<報告>
N 中級もやっていなくて,初級の話を今していたんです。
T 初めからいっていたので,初級のところをしていました。実際にやるんですか。
鎌田 はい,やってください,一度。
N はい,わかりました。私が質問します。こんにちは。どちらの国の方ですか。どこからいらっしゃいましたか。
T フィリピンから来ました。
N そうですか。いつ来ましたか。
T ことしの3月28日に来ました。
N そうですか。そしたら,今何カ月になりましたか。
 まあ,そんな感じです。
鎌田 そんな感じですね。「どちらの国の方ですか」というのが出てきたんだけど,これで結構つまずきますね。そういうときはどうしたらいい。「どちらの国の方ですか」は,すごく丁寧な言い方で,当然,我々は普通そういうやり方をやるんですけど,どうしたらいいんでしょう,そういうときは。
N どこから来ましたか。
鎌田 どこからもあるし,それでもだめな場合は。
N お国はどこですか。
鎌田 お国はどこですかの「お国」で困る場合がある。相手が,例えばアジア系だと。
N こちらが国を言う。
鎌田 そう。つまり中国ですか,韓国ですか,フィリピンですかと言う。こういうA or Bタイプの質問というのはすごく易しいんですね。ところが,どちらとか,まして「どちらのお国ですか」と,こうなってくるとレベルが上がってきます。これもすごくOPIのおもしろいところで,ぜひ皆さんも本当に低いレベルというのはやっぱり言えないんだから,こちらから助け船,助け船というか易しい質問系に持っていく。
 ロールプレイはどうですか。
N まだそこまで届きませんでした。すみません。ついでにちょっとお聞きしていいでしょうか。今「どちらの」という,地域でやっておりますものですから,今先生の御指摘があったように一番初めのレベルのときにはそういうふうにわかりました。だけど,できるだけ教科書的言葉でない日常的言葉を耳に聞いてもらおうという気持ちもありますので,どうしてもちょっとそういうのを初めに使って,それから言い直すということが私たちの活動の中ではちょっと多いかと思いました。
鎌田 なるほど,そうですね。基本的に,いわゆるオープンエンディングという開放型の質問というのは難しいんですね。「何をしているんですか」とか「どうしてここにいるんですか」「どうしてこんなに遅れたんですか」とか,「あなたの国はどんな国ですか」とか,いろんな答え方ができるわけなんです。これはレベルが高くなっちゃう。
 そうじゃなくて,AかBか,というのに落とすとこたえやすくなってくる。あるいは,「もう食べましたか,食べませんでしたか」と言うと,「はい,食べました」「いいえ,食べませんでした」何か質問がわからなくてもこたえられるというのか,こういうのはやはりレベルが低いんですね。ですから目指すもの,相手のレベルが低かったら,これで難しかったらやっぱりA,あっちへ行くと。いつもいつもこんなことをやっているとよくないから,やはりこっちへ持っていくと。これをうまく使い分けるという,それでもって相手のいわゆるレベルに乗っかるというのかな,こういうことが必要だと思います。
 ですから,確かに自然な会話で日本人と話をやっているようにはいかないことは事実です。だけど,だからといって変にスピードを落とすとか,はっきり言うとかというのは,それは意味がないわけであって,自然な発話だけど,形の簡単なもの。
 じゃ,中級レベルのをちょっと聞いてみようと思います。Kさんはいらっしゃいますか。
<報告>
K はい。初級の話をしてまして,彼女は香川から来てるんですけど,「香川から来ましたか」「香川です」「何で来ましたか」という話をしていたんですけれど,しょっちゅうそういう質問をされている人にとっては,それは機械的な会話の範囲になりますけれども,そうじゃない人にとったら,その何というのは難しい質問になるかなと思って,初級か中級かわからないという議論をしていたところです。
鎌田 「何で来ましたか」とか「いつ来ましたか」とか「どれぐらいかかりましたか」というのは,これはよくある中級レベルの低い方のパターンですね。これは,我々の生活の中ではよくあることですから,当然我々もよく聞いているし,日本に住んでいる外国人も多分聞くと思うんですよね。趣味は何ですかなんて,今日もダイアンさんが言っていましたよね。いつもいつもあればっかり聞かれて嫌やと。だれでもそうだと思いますけどね,だからあれはレベルが低いわけですね。だけど,「趣味はなんですか」から「ああそうですか,へえ南京玉すだれ,そんなものが趣味なんですか」「あれはどういうふうにできているんでしょうね」と上げていくと,これは中級から上級へ上がっていくわけなんですね。ですから,そこでとまらないで「フェリーで来られたんですか」,「フェリーに私は乗ったことがないんですけど,どんな感じですか。」となってくると,これはぐっとレベルが上がってきますよね。
 どうかな,だれか中級レベルをなさった方はありますか。ない。みんな初級で終わっちゃった。ちょっと時間が足らんかった。
 中級レベルの何か質問とロールプレイはどうですか。Oさんどうぞ。ロールプレイお願いします。
O 例えばレストランの予約をしてくださいであるとか,それからホテルの予約,切符を買ってください。このあたりですね。
鎌田 そんな感じですね。ホテルの予約やレストランで注文をするなど。例えば,天丼を注文したら,天ぷら定食が出てきたと。そうなるとレベルが上がっちゃうんですよ。文句を言い始めるわけですね。これは違うよという,こういう感じですね。ありがとうございます。
 上級レベルはどうでしょうか,どなたか。上級レベルの質問,ロールプレイ。どうでしょう。Cさんいかがでしょうか。やみくもに当ててますから。
C 上級レベルについてはできないです。今考えるんですか。
鎌田 はい,今考えて。
C 日本で病気になりましたか。
鎌田 そうですね。どうぞ,お隣の方と一遍どうぞ立ってください。
 じゃ,今から上級レベルでいきますから。ボビーさんより上ですからね。
C こんにちは。
D こんにちは。
C もういきなり入っていいですか。
鎌田 ちょっとした紹介があって,もう大体生活態度とかがわかってきて,例えば日本に1年いて元気なことは元気だけれど,今インフルエンザがはやっているし。
C 最近,インフルエンザがはやっていますけど,病気とかされましたか。
D 病気はないです。
鎌田 ないじゃなくて,したと言ってください。
D 病気しました。
C そうですか。それはいつですか。
D ずっとせきをしています。
C 病院へ行きましたか。
D 病院へは行っていません。
C じゃあ,家でどうしているんですか
D 薬を買っています。
C どんな薬ですか。
D 風邪の薬です。
C それで,せきはとまりましたか。
D とまりません。
C どんなせきですか。
鎌田 ありがとうございます。実は,矢継ぎ早というのは余りよくないんですね。やっぱり盛り上げて,そして乗って,矢継ぎ早になるとこれ質問のための質問になってしまうので,ちょっと病気もしていないのに病気になったなんて,こういう言い方もよくなかったですね。病気はされていないんですか,やっぱり,本当に。
D はい,していません。
鎌田 いたって健康体ですか。
D はいそうです。
鎌田 どうやって健康は保つんですか。何か妙薬というかあったら教えていただけますか。私は病気がちでちょっと困るんですが,どうしたらいいんでしょうね。
D いつも歩いています。
鎌田 歩くというのはただ歩くのか,どうやって歩くんですか。
D 電車に乗るところを歩きます。電車に乗らずに歩きます。
鎌田 それはどういう意味ですか。電車賃がないんですか。
D それもありますけれど,例えば五つ目の駅で降りるところを四つ目の駅で降ります。一つ分歩きます。

鎌田 ああ,なるほどね。

鎌田 今のこれは確かに上級レベルに入っていますね。五つ目のところを四つ目,四つ目のところを三つ目で降りてそこから歩くという,これは明らかに上級レベルになっています。

鎌田 そうですか。その四つ目のところを三つ目でおりたらどこかいいところ,景色はいかがですか。

D 三つ目のところは景色はよくないです。四つ目のところから歩くと木がいっぱいあります。

鎌田 どんな木がありますか。どんな感じですか,その辺の町の情景は。

D イチョウの木がたくさんあってきれいです。

鎌田 どこですか,それは。

D 御堂筋です。

鎌田 御堂筋は有名ですけれども,ちょっと行ったことがないんですけれども,どんなところなんでしょうね,御堂筋って。

鎌田 これで記述に入っていくんですね。こういう感じでどんどんと話を続けていくということをやります。ありがとうございます。
 これで上級レベルは大体こういう状況説明とか,非常時の泥棒に入られたというロールプレイをやりましたけれど,病気になったとか,隣がうるさいとか,今トラブルが起きていて人間関係の問題とかいろいろ出てきます。超級になってくるともっともっと難しい話になってきます。
 こういう感じで話を進めていくんですが,これをやはり地域の場合というのは,その地域の方と一緒に話をして,そこでやはりいいラポールをつくるとどんどんとその人たちの話が出てきます。
 私自身がそういうことに出くわしたというよりも,川崎さんをちょっと紹介させてもらいますけど,立っていただけますか。名古屋から来られたんですが,OPIのテスターをやっていらっしゃるんですけど,ちょっと紹介してもらえる,地域でOPIを使ってこういうことをやっていると,こういうことがわかってきたというようなことを,急にすみませんね

川崎 川崎と申します。通常は別に大学で教えているんですけれども,週に1回だけ愛知県海部郡蟹江町というところで日本語教室をしています。
 そして,テスターになるにあたってたくさんOPIのデータをとらなくてはいけないので,いろんな方にさせていただいたんですけれども,大学の学生とは違って地域の方々というのはとても地域密着型のお話がたくさん出てきまして,それで30分間じっくりお話を聞くんですけれども,今まで大体日本の方と結婚された方が多いんですけれども,夫以外の日本人とこんなに長い間話をしたことがないという人ばかりで,それで,本当に生活のこと,あとはお子さんのこととか,御自身のこととかで,今までつらかったこととか,それから本当に大変な外国人ならではの厳しい生活をされてきたということで,話し合っているうちに泣かれる方がすごく多かったんです。それで,テープを1回止めたりということもあったんですけれども,結局,それぐらい私に対して心を開いてくださったのかどうかというのまではわからないんですけれども,とてもいいラポールが形成されたんではないかと思いました。
 それで,そこからたくさん本当に涙,涙のOPIというのがたくさんあったんですけれども,その中からここまで話をしてくださったんだから,私たちが地域でこの方たちのために何かできることはないか,OPIを生かして,この後何かできるんじゃないかなと思って,OPIのその後の活動に続けようと思って今一生懸命やっているところなんですけれども。すみません。ちょっと簡単なんですけれども。

鎌田 どうもありがとうございます。実際にいろんな話がありまして,やっぱり涙の話があります。ちょうど覚えているのでは,やはりフィリピンの方で日本人と結婚したんだけれど,子供ができて,ところが,その子は死産だったんですね。名古屋から青森まで連れて帰ったんだけれど,お墓に入れて,そのまま,また24時間戻ってくると。そっちの実家の方にはちょっといただけでもう帰ってくるとか,悲しい話が結構ありますね。
 上級レベル,超級レベルになったら結構楽しいのもたくさんあります。やっぱり地域のこと,自分のことをたくさん話せるようになりますからね。朝日新聞の特派員みたいな人がいて,ドイツ人ですけど,これはなかなか忘れられないのがありました。ドイツの右翼の何とかというところのリーダーに面接に行ったという話をやっているんですね。そうすると,まず入るや否や若いのが出て来て,入ったらすぐ後ろのドアを閉める。次のところの部屋に入ったら,入ったらまた閉める。それを何か五つか六つぐらい部屋に入って,最後のところでやっぱり閉められたら,そこにリーダーがいたと。これは出られるかどうかわからなかったという,そういう恐怖心なんかも語っていましたし,彼のところをちょっと聞いてもらおうと思います。

<テープ再生>

鎌田 じゃ,初めますけど,私の名前は鎌田です。お名前は何ですか。

アブディ アブディです。

鎌田 アブディさんでいいですか。私は名古屋にある南山大学というところの先生ですけれど,アブディさんはどちらからですか。

アブディ アフリカのスーダンです。

鎌田 スーダンね。随分遠いところですね。私はアフリカに実は行ったことがないんですけど,スーダンって日本からどうやって行くんですか。

アブディ そうですね,幾つかのルートがあるんですけれども,大体僕はドバイ経由で。

鎌田 ドバイから。

アブディ はい。関西空港まで行って,関西空港から直行便があるんです,ドバイまで。ドバイから私のスーダンの首都のハルツームというところまで行きます。

鎌田 ハルツーム。何時間ぐらいかかるんですか。

アブディ そうですね,大体1日ぐらいですね。本当は乗り継ぎの時間がなければ13,4時間ぐらいで着くんですけれども,10時間ぐらい乗り継ぎでかかるので,そちらの方で。

鎌田 そうですか。随分遠いですね。そして関西空港からしか便がないんですね。だから,関西空港までまた飛行機で,羽田からですね。いつ来られましたか。

アブディ 日本にですか。6年前です。

鎌田 日本はいいですか。

アブディ ああ,いいですね。

鎌田 住みやすいですか。

鎌田 だけど,スーダンと気候とかいろいろ違うでしょうね。どう違いますか。

アブディ まず,向こうだと乾季といいますか,があって,夏が7,8カ月ぐらいですね。あと短い冬があるだけですけども,日本だと四季がはっきりしているという。

鎌田 声が小さくて聞きにくいですけど,彼はかなりできるんです。大分,こんな易しい話じゃなくておもしろいところということになると,実はこの方は目が不自由なんですね。

<テープ再生>

鎌田 頭の上に氷を乗せて自転車で行くんですよ。アブディさんですね。アブディさんもそういうことをしますか。

アブディ そこまでしないですね。

鎌田 本当に暑かったんですね。そうですか。そういう状態の気候なんですね。そうすると日本の冬は大変でしょうね。寒過ぎるでしょう。

アブディ 私は日本に来たときは福井県で3年間住んでいました。

鎌田 そうですか。

アブディ 北陸の。あそこはやはりすごい寒いですね。雪の上にも3年といいますけれども。

鎌田 雪の上にも3年。(笑い)なかなかおもしろい表現を知っていますね。福井では何をされていたんですか。

アブディ 産業という意味ではハリとか,そういうものを勉強していました。

鎌田 ああそう。つまり鍼灸ですね。

鎌田 これを全部聞くと結構おもしろいんですけど,鍼灸の勉強のために日本に来て国家試験も受けて,それからもっと勉強したくなって東京外大に来たと。全部で7年と言っていましたけど。
 いろんな質問もしたんです。抽象的な質問を大分やりました。「日本語どうですか」と言ったら「難しい」と。「何が」というと「漢字が難しい」と言う。「ほう,漢字がね」と。「でも目が不自由なのにどうして漢字」と言うと,「いや,漢字って,留学生の留って,流れるじゃなくて留まるんですね」と言うんですね。そういうふうに何かかなり高度な勉強の仕方というのをやるみたいですね。冗談も今のように言えるし,それから東洋医学と西洋医学の違いを。「どうですか,鍼灸は。私は実は椎間板ヘルニアで大変困った経験があるんですけど,そのときにアメリカの医者は東洋医学はいいと言っていましたが,あなたはどう思いますか」と言うと,「いや,一長一短だ」って言うんですね。「いざというときにはやはり手術は必要だと思う」とか言ったり,そういうことを言った。
 それから,「目が不自由だということは,やっぱり耳がいいんでしょう」と言うと,「みんながそう言うけれど,そうじゃない。私は目の不自由な目の見えない人は心がきれいだと言うけれど,私は心が汚いです」って。やっぱり何か物をとりたくなる気持ちもあるとか,非常におもしろい方でしたね。
 明らかにスーペリアの方で,ロールプレイはちょっと忘れちゃいましたけど,「趣味は何ですか」と言ったら「サッカーだ」と。「ほう,サッカー,どうやるんですか」と言うと,「鈴のついたボールを蹴るんです」と言うんですね。というので,こういうちょっと余り一般的な例ではないんですけど,このOPIというものがいかにその人のことを一生懸命聞いて,その人に焦点を合わすという,これがとても大切だと思います。
 時間が少なくなってきましたので,まとめに行きたいと思いますけど,33ページの「OPIと地域における日本語学習支援」というところです。
 OPIの原点というのは,やはり被験者,逆に言うと学習者,テストをするしない,テストというふうに言うと何でボランティアのところとかの定住者にテストと言われるかもしれないけど,そういうふうには考えないで,やっぱりその人の能力を知る。やはり能力はだれでも高めたいというのは外国人ならだれでもそう思うと思うんですね。できることならやはり日本語を上手になりたいと思うのは当たり前だと思うんですね。その人の本当の発音を探求すると。それから,OPIにある学習者の能力の把握,それから学習者の学習環境の把握。どのような生活環境にあり,何に満足し何に困難を感じているのかの情報の収集が必要となります。それから学習者を主体とした指導と教材。これは,すごく大切だと思います。OPIをやることで,この人のレベルというのはわかるし,どういう日本語かと,この人に何が必要かということがわかるわけですね。ボビーさんはやっぱりもっと文を長く言う練習をする,記述の練習をする必要があると。そういうようなことが十分言えますし,地域の場合ですと,その人の経験している生活に基づいた教材というものが必要になってくるわけで,その人が1日どんな生活をやっているのか,あるいは教師ですからできるだけ力が伸ばせるようにいろんな経験をしてほしいわけです。
 一番最初のパワーポイントのプールの絵,もう一度それを見るとわかりますけど,いろんな活動で我々の生活は成り立っていますから,こういうことを頭に置いて,やっぱり能力の低い人には余り右側のものというのはおかしいですし,能力が高い人にこの左側というのもおかしいですし,やっぱりその人の能力よりちょっと上のところの活動に焦点を当てる。それも,これは割合一般的な活動を言っていますけれども,その人自身の活動というところに焦点を当てて教材をつくっていくという必要があると思います。
 ですから,地域における日本語学習者がどのような言語活動を送っているか列挙してみようと。これは宿題になりますね。皆さんが持っていらっしゃる学習者は一体どういう生活をやっているのだろうかと。もちろんそこでとまらなくて,能力をつけるためにはやはり外へ向っていく,より高い高い能力がつくような,もうちょっとレベルの高い活動を紹介していく,そっちへ向けていくという必要があると思います。中級であれば上級,上級であれば超級というふうに。そういうような意味での学習支援が必要なんじゃないかと思います。
 それから,教材づくりの原点というところをちょっと述べましたけれども,これもOPIのところからくるアイデアですが,落語もそうです。やはりダイアンさんの話がおもしろいというのは,状況をしっかりとつくりますよね。こういうおふろの状況だとか何とか言っていましたけど,まくらが長いというのは,状況をしっかり言わないと言葉というのは生きてこないですから,やはりいいコンテクストを与える,いい場面という言語場面,それから,タスクも,本当にある,何かいつもおとぎ話みたいな話ではなくて,遭遇する可能性のある,遭遇する可能性の高い場面・機能・タスク・活動というのを与える。
 山形だったらやっぱり山形の,山形は余り知らないんですけど,山形市内のどこそこのおいしい飲み屋さん,こんな話ではちょっとつまらないかもしれないけど,やっぱりそういうものがあると思うんですけど,そういうものを想定するとか,できるだけいわゆるダイアンさんが言っていた,いつも趣味を聞かれて,名前を聞かれてというんじゃなくて,その人が考えていること,関心を持っていることとぴったりすれば一番いいわけなんですよね。ですから,それを探るというのがすごく難しいかもしれないけど,やっぱりそうでなければいい教材というのは生まれないと思いますね。
 あとは言語文化というんで,言語だけではないですから,やはりその言語にまつわる文化,表現となります。子供が結婚するとやっぱり子供ができて,子供が病気をすると,こういうのはよくあることですよね。こういうのも取り上げるべきじゃないかと思います。
 最後の方ですけど,生教材といいますけれど,生教材はたくさんあります。だけど,生教材はほうっておいたら生ごみですよね。臭くなって邪魔になってきます。捨てないとだめ。ところが,我々が必要としているのは生きた教材だと思うんですね。それはどういうことかというと,この三つのポイントになると思います。
 1は,学習者自身の言語行動の把握。つまり学習者が出くわす,あるいは出くわしてほしい接触場面,こういうのを接触場面というんですね。学習者が,日本の場合だと日本人,あるいは学習者同士というのもありますけど,そういうのを接触場面というんですけど,それをしっかり探ることだと思います。ですから,ああいう皆さんが持っていらっしゃる学習者は,どういう言語活動を送っているんだろうかという,これを完成することだと思うんですね。その活動を遂行できるように能力をつけていくと。
 次は,学習者の能力レベル。例えばそのレベル,iを中級だとすれば,それよりもちょっと高いレベル,i+1,そういうちょっと高いレベルのものを与える。それから,関心事に合った場面を選択する。これはとても大切だと思いますね。それが学習者主体の教育となるんじゃないかなと思います。
 ですから,OPIをやればやるほど枠から外れて,その人の本当に生活しているところ,面接からという枠を外れた本当のところというのを見る必要があるわけですね。接触場面の提供,コンテクストに合った文法指導が必要だと思います。生ごみ化するような教材ではいけないと思います。
 「コツはひねり」というふうに書きましたけれど,せっかくですからちょっと見てもらおうと思いますけれども,やっぱり初級レベルというのは豆電球みたいなもので,これをちょっとひねっていくわけですね。「どちらからですか」「中国です。中国の天津です」「天津はどんなところですか」と。答えられなければ,「大きい町ですか,小さい町ですか」。答えられるようだったら,「北京の近くで人がたくさんいます」というように,中級レベルに入ってきます。「天津はそんなところなんですか。そんなに魅力的なところだったら,さぞ楽しい生活ができるでしょうけど,ただあの辺は何か環境が悪いと聞いていますね」と,環境問題に入って上級レベルに入ってきます。「それについてどんな政策が必要でしょうかと」,で超級レベルに入っていくというように,ひねっていくという。
 こういうのをスパイラルといいますけれど,話題展開というのはすごく大切で,とっぴな話題展開をしない。今与えられているものに足をのせてちょっとひねっていく。最後になるとああいうでっかいシャンデリアみたいな電球になる。そこを目指そうと。そのためにはやっぱりひねる,電球をひねるように頭もひねって話題もひねると。それがコツじゃないかなと思います。
 下の方で書きましたけど,日本語クラスというのはひねりで,i+1の概念による能力開発,それから会話面での問題箇所の発見。今日のシンポジウムのところでも「気づき」というのがありましたけど,確かにそうだと思いますね。発見をするという,そしてそこからそれが問題点であれば脱出,あるいはそこに戻ってその問題を解決する。つまり,意思疎通の観点からの判断,うまく意思疎通ができたかどうか。
 2番目は教えないで学ばせる。何かすぐに助けてしまわないで,言えるところまで頑張って言わせる。すぐにひねってしまわないで,自分でひねられるぐらいにしてあげる。手順は意思疎通に何か問題があったら,それが問題だということを気付かせる。ちょうどボビーさんが,今も忘れてないと思いますね,もう10年たってますけど,皮をむくというところね,これが言えない。シュワッ,シュワッというの,これ絶対に家に帰って調べているはずですね。皮って何て言うんだろう,こういう難しさを。
 ほかでも僕のこれまでやったOPIの中でも結構できるオーストラリア人がいましたけど,生肝が好きだというんですよ。生肝って僕ね,聞いただけで余りいい感じしない,まあ,聞いたことはあるけど,食べたことないんだけどって。「どんなものですか,中身は」と言ったら,これ説明難しいですね。ぬるっとした鶏の肝ですとか言ってくれたらいいんだけど,言えない。彼はいつもそれを根に持っていて,あのときのOPIであれが言えなかったのが悔しかったと言うんですよ。ですから,そういうものをやっぱり気付かせて,自分で効果的にもっていかせる。
 最後のページですが,ヒネリ(スパイラル)な話題展開。効果的な話題とタスクの展開方法ということで,これをお勧めしたいと思います。例えば,初級レベル,単語レベルですよね。「趣味は何ですか」「読書です」「へえ,読書ですか」。文レベル。「その話はだれが出てきて,何をしましたか」「なるほどね。もうちょっと詳しくその話をしてくださいよ」。これで上級レベルに上がっていく。「そうですか,そんなに悲しい話なんですね。もし,それがあなたの身の回りに起きたとしたら,そういう悲しい歴史的な問題はどうやって解決すべきでしょうね」と,上へ上がっていきます。こういうのをスパイラルな話題展開ということになりますから,ですから皆さんもぜひ地域でかかわりがあるとすれば,そこでのかかわっている学習者の本当に思っていることという,言えたことを土台にして,そしてそれをちょっとレベルを上げていくという,こういうことを試みていただきたいと思います。
 あと2分なんですけれど,質問の時間を10分とるつもりだったんですがやっぱり時間がかかりました。終わりという前に何か質問があれば,いかがでしょうか。

参加者 いつもインタビューをする場合に,1フレーズ,単語一つの答えをしないようにというようなことが就職なんかのでありますが,今先生の場合のインタビューはどういうふうなサイズになっているんですかね。

鎌田 そうですね,OPIの目的というのは相手にしゃべらせることが目的です。テスターの方がべらべらとしゃべっていては意味がないわけですね。ただ,相手にしゃべらせようと思ったらそのための布石というか,やはり差し伸べないとだめですから,それをよく考えて短くて済むのであればそれでいいし,そうじゃなくてやっぱりいわゆる土台づくりをするためにはちょっと長めに話もします。

参加者 僕らがもし生徒にインタビューで,就職の場合といったら,絶対に1フレーズはだめやと。とにかく三つか,四つは言いなさいよということについては異議ありますけども,だからそういう何かヒントというか,結局何か聞いていると案外,もっとそういうようなこと言ったらイエスか,ノーだけで済む場合も多いわけですね。

鎌田 わかりました。だけど,ジョブインタビューなんかになってくると,できるだけ自分の言ったことをもうちょっと膨らませるという,自分自身で豆球から部屋球へちょっと伸ばしていくという,博物館というのがわからないから,ちょっと言葉が出てこないから,いろんなピカソの絵とかそういういろんなものを置いているところなんですけれどという,こういうところへ持っていくようにこっちも指導せんといかんし,自分の方でも言えるようにという。

参加者 自分でね。切り替えるのか,イエス,ノーの答えでいいのか,そのインタビューする相手に自分で詳しく述べるような答えをしなさいという暗示を与えるのか,それを聞いているんです。

鎌田 なるほどね。それはやっぱり一生懸命しゃべりなさいと言うから,できるだけしゃべるんだったら長めでしゃべりなさいと,そういうことは言いますね。単発的じゃなく。ただ,無理にそれを言わせるんじゃなくて,やっぱりこっちが聞きたいことで聞いて,その辺はちょっとトレーニングというのが必要なんですけれど,できるだけそれはたくさん言わせる方がいいと思います。

参加者 32ページの真ん中のところに,導入からレベル・チェック,突き上げ,それからさらに,次にロールプレイに入って,締めくくりというそういうつくり方がありますね。ロールプレイのところは間違いで,これはクールダウンではないですか。ロールプレイというのは,レベル・チェックと突き上げのやり方の一つなので,ここのところにむしろ入って,クールダウンというのをやって終りましょうというのと,僕は昔,テスターズ・マニュアルで読んだんですけど。

鎌田 ロールプレイの目的というのは,基本的にはそれまでの仮測定の確認なんですよね。ただ,そういう意味ではクールダウンといえばクールダウンだと思いますが,ロールプレイするまでに大体レベルってわかるはずなんですね。それがわからないといいロールプレイというのは与えられないから。それをやってみるわけです。それで場面というのを変えるわけですよ。それで,仮測定が合う場合もあれば,そうじゃなくてああ,やっぱり場面から電話の会話になるとかそういうことになってくると,もっともっとしゃべられるじゃないかと。そこで突き上げもあったりするわけです。

参加者 つまり,実生活場面でやらせてみて,確認するという感じなんですか。

鎌田 本当はそうなんですね。だけどそれをやるのは,大抵の場合は仮測定の確認から入るんですけれど,仮測定を微調整というか,だからそこでの突き上げというものやりますね。例えば,私のところでもやっぱりもっと言わせるということをやるわけです。ただ,ロールプレイというのは最後のところでやるわけですから,いい気持ちで終わらせないことには困ります。ですからそういう意味でクールダウンに入っていきます

参加者 はい,わかりました。

参加者 先生,2点あるんですが,レベルによっては上級,中級ぐらいになってくると,例えば話題の切り方によってそのことは余り専門ではないけれども,何とか説明して答えられるということがあると思うんですが,ただ,全く知らないことを聞かれたりする,そういうのはやはりその相手を見ながら,この人が話し易いものとか,知っているものを選択するようにするのか。

鎌田 まずそこからスタートして,それからもっと泳がせる。つまり知らないことまでしゃべらせるということをやります。だから,まず知っていること,これはやはり必要なことであって,我々も知らないことについては,「わあっ,経済のこと,悪いけどちょっとしゃべられへん」と。「だけどちょっと八百屋へ行ったらこうあるでしょう」と言って,何かやっぱり全体的にはガイドラインというか能力というものを頭の中に入れておいて,いろんな面が当たるようにします。だけど,いきなり知らないようなことを,自分が数学が詳しいから数学のことというのはちょっと困るんです。やっぱり相手の知っているところから派生していって展開させるということになります。

参加者 じゃ,超級レベルというのは,話題に関して知らないこともあるけれども,それを表現する能力があれば超級レベルというふうに認めるということですね。

鎌田 そうです。ただ,超級レベルは語彙量がすごい問題ですね。やはり語彙量がなければ困ります。いろんなことを,朝日新聞の1ページから30ページまで大体カバーできるくらいの語彙量というのを要求します。

参加者 わかりました。それからもう1点なんですが,OPIが最終的に目指しているものというか,お話を伺っていると地域に対してもこういうことがやれるんじゃないかということもおっしゃっていましたけれども,それをやることによって教材開発とかいろいろあると思うんですが,もう少し何か展望というか,そういうものはあるのでしょうか。

鎌田 そうですね,今,山内さんという私の同僚がいますけれど,彼がロールプレイの本も出しましたし,それから『OPIの考え方に基づいた日本語教授法』*1というのも出しましたし,これからの展望というのは,実は時間はありませんでしたけれど,結局OPIのおもしろい点というのは,やっぱり学習者,被験者自身の力を発見して,ちょっとそれを伸ばしてあげるというのがポイントですから,本当に面接だけではなく,あるいはロールプレイではなくて,本当の生活は一体どうなんだというそこへ入っていきますね。
 ですから,今私の持っているプロジェクトというのは一人の学習者かもしれないし,グループの学習者かもしれないし,それに焦点を当てたまずビデオ撮影から入っていくんですけれど,そういう接触場面に基づいた教材化というのをやっているんです。これは,結構大きいプロジェクトで,実はヨーロッパ人というのをある理由でベースにしているんですけど,ヨーロッパ人の日本における接触場面,ヨーロッパにおける接触場面,そこから教材をつくり上げていくという場面優先の豆シラバスとは言わないですけど,そういう教材開発をやっています。そういうところに行き着くはずです。ですからこういう面接という枠から外れていく,外れるというか越えていくというのかね。

*1  『OPIの考え方に基づいた日本語教授法』 山内博之著,ひつじ書房,2005年。

参加者 それにはやっぱり,例えば地域で言えば地域が欲しているような教材もあるし,例えば日本の教材,日本の教育で留学生であれば留学生という。
鎌田 ですから地域の場合だったら地域密着のが絶対にあるはずです。密着であるべきだと思います。そこの地域の人たちが経験する,遭遇する,あるいは問題を解決しなければだめなような,そういう問題を取り上げるべきだと思いますね。それがOPIの真髄というか,そういうものだと思います。
 ただもう一つ言うと,そこだけでいいのかというのが問題になってくると思います。その人はひょっとして東京へ移るかもしれない,あるいは新潟へ行くかもしれない。だから,やっぱりいい教材というのはそこでも良くなくてはだめだけど,共有性がなければ意味がないと思いますね。だから,個別にすごくいい,京都ですごくいいものが,やっぱり東京でも使えないと困るから,そういう含みのある教材であるべきだと思うんです。
 ちょうど時間もきましたので,ここで閉めておきましょうか。皆さんどうもありがとうございました。

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