日本語教育研究協議会 第1分科会

日本語教育研究協議会
第1分科会 「親子参加型の日本語学習支援の方法について」
伊東 祐郎(東京外国語大学教授)
石山 由美子(山形ボランティア日本語協会)
榎井 縁(財団法人とよなか国際交流協会)
櫻井 ひろ子(特定非営利活動法人かながわ難民定住援助協会)

伊東:皆様,お待たせいたしました。ちょうど13:30になりましたので,今日の午後の分科会,第1分科会を始めさせていただきます。
 こちらは,日本語教育研究協議会第1分科会「親子参加型の日本語学習支援の方法について」ということで協議を進めてまいりたいと思います。私,今日の司会役を仰せつかっております伊東祐郎と申します。昨日パネリストとして発言させていただきましたが,今日は司会という形で1時間30分,進行役を仰せつかりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,今日の趣旨説明をまず最初にさせていただきまして,そして今日御登壇の方々を御紹介させていただき,全体の流れの説明をさせていただきたいと思います。
 文化庁では,平成14年から地域日本語教育活動の充実施策の一つである“学校の余裕教室等を活用した親子参加型の日本語教室”の事業を始めております。私はちょうど14年度からこの企画評価会議の座長を務めさせていただいた関係で,今回このような形で司会をさせていただくことになりました。
 この親子参加型の日本語教室というのはどういう趣旨で始まったかと申しますと,基本的に文化庁では,地域に居住する外国人に対する日本語教育の充実を図る,そして外国人と日本人との相互理解や協調に資することが極めて重要であるとの認識から,地域において学校の余裕教室等を活用して外国人の親と子がともに学ぶ機会を提供できればということを希望して,親子参加型日本語教室を開設する,そして地域における日本語教育の一層の推進を図ることをその設立の目的に掲げておりました。
 昨日も申し上げましたが,もう少しわかりやすく申しますと,親子参加型日本語教室を開設することによって,外国人の親の日本語学習を推進するとともに,子供たちが幼いころから日本語に親しむことができるよう,外国人の親と子が共に学ぶことのできる学習機会を提供するというのが一番の目的となっております。
 平成14年度から15年,16年,そして今年ともう4年目に入っております。委嘱先は都道府県または教育委員会を含む市町村というふうになっております。委嘱期間は単年度ごとですけれども,長いところですと連続2年,あるいは3年ということで,継続して委嘱を受けている自治体等もあります,今年でちょうど4年目に入ったところですけれども,2年あるいは3年継続して受けているところもありますので,これまでに延べで63地域が委嘱を受けているということになっております。
 今日はその中でも皆様方に事例報告をしていただいて,活発な議論をしていただけることを望んで,三つの委嘱先から代表してこちらに登壇していただきました。御紹介いたします。
 北からということで,山形ボランティア日本語協会から石山由美子さんです。
 そして,かながわ難民定住援助協会の櫻井ひろ子さんです。
 そして,とよなか国際交流協会の榎井縁さんです。
 このお三方をお招きして活発な議論もしていきたいと思っております。
 今日の流れですけれども,まず事例発表ということで,1年ないし2年のこれまでの実績を踏まえた事例発表をそれぞれの方に約15分していただこうと思っております。その後,この事業をやるに当たって課題だとか問題点等が多分出てきて,それをどのように解決したらいいかわからないまま今日まで来ていらっしゃる方もいらっしゃると思いますので,それぞれの抱えている問題ですとか課題をどのように解決してきたかというようなことの意見交換をしていきたいと思います。
 最終的に私が望むところは,3地域共通の課題についての意見交換を踏まえた上で,地域のネットワークをどうやってつくっていったらいいかとか,情報の共有をどうしていったらいいかというようなことも議論できたらなと思います。できれば最後,今日この第1分科会にお集まりのフロアの皆さんから御質問等があれば,それをお受けして今後の地域の日本語教育活動の一つの参考になるような形で議論を進めていけたらと思っております。
 15:00に終わらないと,次の分科会もありますので,なるべく時間どおり終わるようにしたいと思いますので,皆様方の御協力をよろしくお願いいたします。
 それでは,まず最初に北からということで,山形ボランティア日本語協会からお越しいただきました石山さんに事例発表をお願いしたいと思います。では,石山さん,よろしくお願いします。

石山:山形ボランティア日本語協会の石山由美子です。よろしくお願いいたします。
 山形ボランティア日本語協会は,今年で親子参加型日本語学習支援,3年目になっています。特徴としては,短期集中型で開催していることです。今日私はこちらに来ているんですけれども,今日もたくさんの学習者がこの暑い中勉強しています。
 山形の現状をお話ししますと,外国人登録者数は7,000人,そのほとんどが中国,韓国の人たちです。外国人の4割は日本人男性と結婚した外国人配偶者です。近年の傾向は,そろそろ山形にも慣れて,子供を呼び寄せているケースが多いです。また,配偶者という形ですので,来日して間もなく出産を迎える人も多いです。そして,やはり生活のどこにウエイトがあるかというと,子育てという部分になり,出産した人の中には日本語を学ぶ暇もないまま育児に追われている。そして,日本語が話せないというほかにも育児に対して不安を抱いている人が多い,そういった傾向にありました。
 そのほかに,外国人の配偶者を受け入れた家族から,子供がどんなふうなんだろう,「うちの孫はちゃんと日本語が話せるようになるんだがね」という相談を受けます。そういったケースがありました。
 1年前までは,子供が日本語を学ぶ教室はありませんでした。現在は山形市とその近隣で子供日本語習得支援事業が行われています。そこでは日本語指導だけではなく,教科学習の支援なども行われていて,山形には山形大学があるんですけれども,そこの教育学部の学生が指導に当たっているようです。でも,こういったこともこの親子参加型日本語教室がきっかけになりました。
 取組を説明させていただきます。2003年親子参加型日本語教室は,7月29日から8月18日,なんと1日4時間の15日間,計60時間を学習者は頑張ったわけです。参加者は親のクラスが22名,子供のクラス,これがゼロ歳から12歳と幅広く1年目は募集をいたしました。子供のクラスは,日本語が全くゼロの子供クラス,そしてある程度もう学校に行っていて問題は教科学習という子供,また参加したお母さんの赤ちゃんのクラスというのを設けました。内容は,親は日本語学習で,子供は日本語学習と教科学習という形でプログラムを組みました。
 2004年度の親子参加型日本語教室は,先ほども申しましたように,子供日本語習得支援事業が行われましたので,そちらの方はいいだろうということで,親と赤ちゃんの教室を開催しました。ここの特徴としては,日本の物語を知ったり絵本を活用したい,そして小さい赤ちゃんはこちらも共同体の中の連携ということで,地元のNPO法人に手伝っていただきまして,託児という形をとりました。でもただの託児ではなく,保育者との遊びの中からたくさんの日本語に触れるという形で,日本の手遊びとか,折り紙とか,全く日本人のお子さんをお預かりするような形で保育者が語りかけるという方向でいきました。
 そして,事業の中に親子でお話を聞いたり一緒に手遊びをして楽しむというものも取り入れました。子育て支援をやっている方はいろんな引き出しを持っているんですね。大きな紙芝居,パネルシアター,そういういろんな引き出しを使いながら親と子で触れ合う,そしてそこで知った歌やお話が家に帰っても続けられるようなプログラム,そういったことでやりました。
 そして,私が一番良かったなと思っているのは絵本の読み聞かせです。絵本の読み聞かせというと,今,子育ての中に取り入れられていますが,とても有効でした。小さい子が言葉がわからなくても絵本の魅力に取りつかれるように,外国人学習者もそういった傾向にありました。特に私がやった開き読みの中で感じたのは,『チビゴリラのちびちび』という絵本です。それは自己肯定する絵本なんですね。そうしたら,まだ日本語もわからないお母さんが泣き出すんです。自分は大好きだよ,みんなに愛されているよという本なんですけれども,わからない日本語で読んでも伝わってくる。そういったものに興味を持って,私,子供にこういうのを読んで聞かせたいんです,この講座が終わるまでにこの絵本を読めるようになりたいと言って,何度も何度もこの日本語教室の中で練習しています。
 短期集中ということで,とても大変です。レベルの差もとてもありますので,学習目標の達成度というのはどうなのかなと思うんですけれども,満足度はとても高いとアンケートで感じました。
 また,この特徴としては,山形市は主に文型積み立ての「みんなの日本語」を使ってやっているんですけれども,それではなく会話中心の「長沼25」というのを使っています。やはりいつも文型積み立て型に飽き飽きしていたというところもあるからでしょうか,受講者からは新しいアプローチの学習方法でまとめたということで好評でした。
 ここまでは親の方なんですけれども,子供の方はやっぱり短期集中の成果か,習得状況が極めて高いです。全くゼロで入ってきた子供が,最後には作文を書いてくれたんです。どうやって作文を書くんだろうって思われるかと思いますが,私たちが使った手法としては,エンカウンター*1を使いました。そこに何人かの子供たちがいるんですけれども,お互いにシンパシー*2を感じ合って,自分一人じゃないんだというクラスづくり,そういったものを心がけました。
 そして,このエンカウンターは自己表現をとても豊かにする,それの階段を上っていく手法がとても指導者もやりやすいし,本当に子供が習得している,ああ子供はこんなふうに思っているんだというのがよくわかる方法で,これはとても良かったなと思っていました。
 そういった感じで,豊かな表現とか相互理解なども指導者は指導項目に入れてクラスづくりをしたところです。
 今後の課題ということですけれども,この日本語教室があったおかげで,まず子供の日本語習得事業が起きました。そして,何か情報を伝えたいということで,何と山形市のライオンズクラブがお金を出してくれまして,日本人の子育て支援ガイドブックをつくりました。それはここにかかわってくれた子育て支援を主とするNPO法人の方への情報の提供に役立ちました。あと小学校,中学校,高校の先生の方に書いていただいたものに対して翻訳をつけ,ライオンズクラブがお金を出してくれて冊子をつくりました。学校ではどのようなことが行われているか,学校でいろいろよこされても,何持ってきてって言われてもなかなかわかりづらい。また,将来自分がどのように進みたいか,高校受験てどんなのか,そういったこともわかりづらい状況でしたので。それがなかなか地域の人たちに渡らない。知らない。こういうのがあるんだよと言うと,欲しいですと言われて渡すような状況。そこまでは行ったけれども,次のアクションに行っていないのが現状です。
 そして,親子日本語教室をするのに実行委員会というのがあったんですが,そこにこんな仕組みを入れたい,あんな仕組みを入れたいということで,委員になっていただいた方からネットワークづくりができました。一番良かったのは,子育て支援という部分に対して日の目が当たったということです。外国人配偶者であろうが,日本のお母さんであろうが,子育てに対する不安は同じなんですね。私もちょうど二人の子供を育てているので,本当に同じなんです。そういったことから支援しようというネットワークづくりができました。
 ただ,どうしてもまだ点という形で,行政がどんなふうにかかわってもっともっと広く,そして日本語教育というとしり込みする地域の人たちも,私,日本の歌だったら教えられるよ,絵本だったら読んであげられるよって,そういった活動をしたいという人をどんどん巻き込んで,学校,家庭,地域というふうに割れていますけれども,家庭がなかなか難しいのなら地域でやりましょう。ただ,地域というと山形も田舎なんですけれども,都市化しつつありますので,NPOとか,私たちのような日本語の団体,そういったのがネットワークをつくって共同体をつくってやっていくことが大切なんだと思います。
 ただ,それにはやはり行政の支援や理解が必要です。そういったところで,そこら辺が今の大きな課題となっています。ありがとうございました。

*1 エンカウンター =エンカウンターグループ(encounter group)小集団で互いに率直に感情を表明し合い,互いに認め合う体験をし,人間的な成長をめざす心理療法。
*2 シンパシー (sympathy)同情。同感。共鳴。


伊東:石山さん,どうもありがとうございました。短期集中形式ということでちょっと私も驚いたんですけれども,大学では短期集中というのはあるんですが,地域の日本語教室で短期集中という,非常に興味あるお話でした。また後でいろいろお聞きしたいと思います。
 それでは次,かながわ難民定住援助協会の櫻井さん,よろしくお願いします。

櫻井:改めまして,かながわ難民定住援助協会の櫻井でございます。皆様こんにちは。
 私どものかながわ難民定住援助協会は27年前にインドシナ難民定住者を国が受け入れましたが,そのアフターケアの団体として,1986年に神奈川県の大和市に事務所を開き,近隣に住むインドシナ難民定住者への日本語指導,生活相談,そして法律相談などを行っております。そういうところから,上飯田地区親子参加型日本語教室の活動を通してということで,今日は少しお話をさせていただきます。
 現状としましては,横浜市の上飯田地区は外国人定住者の集住地区として近隣では知られているところです。地域の小中学校には日本語教室や学習室が設置されていたり,また地域のボランティアによる日本語教室,学習室などの活動が盛んです。しかしながら,外国籍児童生徒が教科学習を理解するために必要な日本語,また外国人定住者がその日常生活で必要とする日本語を専門家から総合的・体系的に集中して学べる環境には至っておりません。
 そういうところから,子供の日本語教室の取組といたしまして,地域の公立小学校の国際教室や図書室,そしてコミュニティーハウスをお借りして,子供の日本語教室を平成14年度から16年度の3年間実施しました。日時は6月,11月,2月,各年ですが,毎週(火)(水)(木)の放課後,1日90分授業を10日間集中的に,9回行いました。
 受講者数は,保育園児4名,1年生61名,2年生35名,3年生,6年生14名,低学年クラス2クラス,保育園児と1・2年生,毎回45分授業といたしました。高学年クラスは1クラス,3年生から6年生,毎回45分授業といたしました。この45分ずつの低学年と高学年,時間差で実施いたしましたので,待ち時間が大変にぎやかなことになりました。
 また,夜には親子の日本語教室,活動場所は小学校のコミュニティハウスをお借りしまして,期間は80分授業を80回という回数になっております。対象者は,子供の日本語教室参加の児童生徒とその保護者,また地域の中学生を対象としました。夜の18:30から20:00までを実施時間としまして,前半の45分を全体クラス授業,学校生活,日常生活に必要な日本語の指導を,後半の45分を中学生は教科指導に必要な日本語の指導をグループ授業として行いました。
 取組の工夫としましては,子供の日本語教室では初めの1年間は教科書の予習や復習,算数の加減乗除を文章題にするなど,基礎学習をいたしました。2年目以降は読み聞かせの読み・書きをテーマに,日本語の総合的な学習を目指しました。その中では,本に興味を持たせ,動機を高めさせて,話し言葉と書き言葉の違いを意識できるようにしたり,高学年はそれを文章化できるようにしました。終了日には学習のまとめを作文にして一人ずつ発表しました。漢字の練習は別途毎日15分ぐらいですが,「かんじだいすき」を使用して,筆順に気をつけて丁寧に書くことをモットーに学習をいたしました。
 親子の日本語教室では,学校生活と地域の生活情報,そして中学生には教科学習に必要な日本語の学習を行いました。指導方法としましては,専門家の講師が授業をし,ボランティアが個別に定着させるという役割分担にしました。
 取組の効果,そして成果ということですが,子供の日本語教室,主に学校側からの評価としまして,基礎学習の効果としては九九の理解度が進み定着が見られた,それから読み聞かせの効果として,授業時間中の音読に積極的に手を挙げる外国籍児童生徒が増えたというふうに言われました。また,横浜市内での小学校の国語の平均値を初めて超えたというふうにも言われました。生徒が日本語教室で明るく元気になっているというのは,これは校長先生方が特におっしゃっていたことです。これはやはり専門家による指導の効果ではないかというふうに思います。そのほか宿題など,保護者の日本語が不十分で対応できないことをボランティアによってフォローすることができました。日本語教室が生徒たちの居場所の一つとなったのは,これは副産物でしたけれども,一番私が喜んでいることです。
 親子の日本語教室の方では,親子がともに学校生活や地域での日常生活について学ぶことで,親は子供の学校生活への理解が増し,子供は地域での生活情報を学べたと思われます。親子が日本語教室で同じことを学び,時間を共有することで,親子間の相互理解が促進されました。
 また,学校専門家,NPOの連携・協力による効果と成果といたしましては,学校の施設の利用とコピー機の一部使用など,ボランティア団体にとりましては活動現場を借りるということが,大変困難になっています。そういうことを考えずに活動に没頭できるということは本当にありがたいことだと実感いたしました。
 それから,専門家による効率的な日本語の指導,これもまたやはり専門家ならではの工夫を凝らしたコースデザイン,カリキュラの作成などはボランティア団体では限界があると思いました。
 それに,NPOのボランティアによる外国籍児童生徒の保護者に不足がちな家庭的フォローなど,きめ細かいアフターケアもすることができました。これが効果・成果です。成果というのは大変見えにくいものです。
 今後の問題としましては,当事業の継続の必要性,これは小学校1年生から中学3年生まで必要だと思います。そして,放課後ではなくて正規授業に入れていただけたらとも思っています。
 それから,地域の学校,NPOと専門家との連携・協力の促進について,これもまた大変大切なことだと思います。それぞれが別々に同じことをしていると活動に限界を来します。複数の機関が協力・連携することで合理的な事業運営が可能になります。
 それから,地域の教育委員会,学校への理解の促進を,強く強く願っております。こういう先駆的事業はもっとどんどんいろんな地域で展開し,親子参加型の日本語教室をもっといろんな地域に広げていかなければならないと思います。それを点として,それを結ぶネットワークづくりが急がれると思います。
 簡単ではございますが,以上です。

伊東:はい,どうもありがとうございました。ここでも読み聞かせということで,子供たちの学校での反応が随分変わったというお話も出ていましたし,専門家という話も出ておりましたが,その辺も後でいろいろとお聞きしたいなというふうに思います。
 それでは,とよなか国際交流協会の榎井さん,豊中での報告をお願いいたします。

榎井:御紹介いただきました榎井でございます。レジュメの7ページをごらんください。それから,もしお持ちの方はAJALTさんが出してくださった244ページに日本語教室がどうなったかという部分がちょっと紹介されていますので,短い時間しゃべり切れない部分もありますので,それも参考にしていただければと思います。
 とよなか国際交流協会は複数回,文化庁主催の大会に招かれておりますが,特段先進的な地域ではありません。外国人市民が特別集住しているわけでもありませんし,山形のように国際結婚の方が多いわけでもありません。日本における外国人人口のパーセンテージは,1.55%ですが,豊中市はそれよりも低い1.2%程度の町で,在日韓国・朝鮮の方々が一番多いのですが,それ以外満遍なくいろんな人たちがいるというところです。
 地域の国際交流協会は,日本語教室などによる単独の支援というよりは,すべて事業を通じて,多文化共生のまちをどうやったらつくれるのかという課題を持っています。この間感じることですが,頑張れば頑張るほど,問題が集中する傾向にあります。皆さんも多分,積極的な活動をすると,外国人が来たら,あそこに振ったらいいと反応されて困っているところもあると思います。現在,日本での多文化化に対応した多文化共生のまちづくりが目指すものは,普段着で,一般の人たちが,外国人が隣にいて当たり前でこういうふうにしたらいいということができることではないでしょうか。私たちは親子参加型日本語教室をその戦略として使わせてもらいました。
 98年ごろから,外国人支援の中でも,特に女性と子供に注意を払うようになりました。すでに報告にもありましたが,外国人登録者数総数197万人のうちおよそ二人に一人は20代か30代です。当然,家庭を持つ,結婚する,出産をするという人たちが増え始めたことを肌で感じました。
 あるとき外国人相談の電話で,子供が泣いて眠れないというものがありました。彼女に,一度センターに来てくださいと呼びましたが,来ない。乳母車を押して町を歩くのが怖いと言うんです。何で怖いか聞いたら,だれも赤ちゃんに声をかけてくれない,自分の国にいたら,子供を連れていたら,みんなが声をかけてくれるのに,豊中の駅前を歩いても,邪魔にはされるけれども声をかけてくれないという話でした。
 その人がなぜ眠れなかったかというと,1日じゅう子供と家の中にこもっていたんです。子供は,ストレスで夜寝ない,で,泣く。泣くから自分が眠れない。場合によっては子供に手をあげる。家にこもっている人は,センターに来られる人よりしんどいことがわかったのです。日本語活動もそうですが,しんどい人や力の弱い人が参加できる,そういう仕組みをつくっていかないといけないと思って,いろいろなサービスを変えてきました。
 2番の表を説明していきたいと思います。右側にとよなか国際交流協会関係事業とあります。親子参加型日本語教室の委嘱を受けたのは2002,2003,2004の3年間です。「とよなかにほんご」は教室型の日本語を参加型の日本語に変えて実施してきた事業です。しかし,その参加型日本語に来られない人たちが出てきました。小さい子供を連れているお母さんです。子供はなかなか親から離れないし,離すと泣きます。中へ連れて行くとじっとしていません。そのうち勉強したい人に迷惑になるから気が引けると言って来なくなってしまう。本当は一番来てほしい人が来なくなるという状況が出てきたんですね。
 とよなかの場合は子供がすごく小さいです。小さい子供が泣いてもいいよ,一緒に勉強しよう,ということで始めたのです。お母さんたちがほっとしながら,勉強も教えてもらいながら,子供たちもじゃれ合いながらという空間がつくりたかったのです。
 始めたときは,日本語のボランティアさんに手伝ってくれないかと頼みました。その時,結婚して出産して子育てが大変で,ボランティアをリタイアした人にも声をかけてみたんです。子供連れでもいいよって。そうしたら,1年目やってみて気がついたのは,親子参加型日本語教室で一番求められているボランティアさんは,子育て中のボランティアさんということがわかったんですね。
 2年目に,これは図書館でやったんですけれども,担い手養成事業と右側に書いてありますね。子育てしている人の子供と一緒に国際理解講座,4回,延べ58人参加。要するに,今,子育て中の人がボランティアできますよという講座をやったら,人がたくさん来ました,子供を連れて。2004年,去年もやっていますけれども,去年は倍になっています。その人たちは,子育て中はボランティアできないと思っていた,あるいは子育ても一人前に終わっていないのに何でボランティアというようなことを言われて。でも多くの人は子供を産むまでは,社会でばりばりやっていた人たちです。社会との接点を失って,何かおかしい,苦しいと思いながら,子供連れでもボランティアできることに魅力を感じた人が増えていったわけですね。
 実は,このことが事業を継続していくきっかけになりました。なぜかといったら,子育て中の日本人のお母さんにとっても,ほっとする場になったんですね。いつも同じ年齢の子と比べて,何歳児健診などで遅れているとか進んでいるとかキリキリしていたのに,外国人のお母さんが,「私は掃除機かけるとき歌を歌うんです」と言うと,私が掃除するときは眉間にしわが寄っているのに,ああそういうふうに思うのか,子育てってこんなふうにもできるのかって,実は日本人のボランティアさんが学ぶ場になっていったり。その中でよくあることなんですが,外国人のお母さんたちの方が先生になっていろんな料理を教えてくれたり,外国語での外国のお話や絵本読み聞かせの会を図書館が主催して,外国人のお母さんの読み聞かせするのを地域の日本人のお母さんたちが聞きに来る,そんな事業もしました。
 なぜ図書館と結びついたかですが,一つには図書館活動の活性化です。色々な情報が手に入れやすくなった現在,活字離れの傾向にあって特に若い層の人たちが図書館に来ないことが課題であったのです。二つ目は図書館の多文化サービスです。豊中市は,2001年に図書館協議会から「多文化サービスの在り方について」という意見書が出されて,外国人市民の利用促進が求められましたが,上京が進んでいない現実がありました。この活動を図書館で行うことが,この二つの意味でメリットがあるのではと考えてもらえたのです。
 とよなか国際交流協会としては,豊中市の南部地域へのアプローチという課題がありました。現在センターがある場所は市の北部で,大学や研究施設に関係して来日する外国人が比較的多い反面,南部には就労者として来日し生活問題を抱える外国人が住んでいることを知りながらも,センターから出て行く事業ができずにいました。この機会をとらえて,2年目からもっと地域展開していこうということで,庄内図書館というのがそうなんですが,南の方の図書館と,多言語の絵本をたくさん所蔵している岡町図書館の2カ所を使って,この参加型の日本語教室をやりました。
 そこに効果が書いてありますけれども,やっぱり子供連れでの参加で,実は外国人の子供もお母さん以外の大人と接触したことのない子供もも多くて,初めはものすごく泣いたりしていたんですが,子供同士で遊んだり,お母さん以外の親もみんなその子のことを見ているという,そういうピア*1的な相乗効果がありました。また,同一空間で子育てしている外国人のお母さん同士が話す中で母語への心配が共有されました。まだ保育園にあがる前に,もしかしたらこの子,母語を忘れてしまうかもしれないということになって,子供への母語活動が親たちによって始められました。
 それから,図書館の話をしましたが,外国人の人がそこで主体的に活躍してくれることによって,図書館の人も本当に喜んでくれて,またお母さん来てくださいねというような声かけもすごくしてくれるようになりました。どうしても国際というと国際交流協会とか外国語ができる人とか,日本語支援をやっている人に限られていたんですが,本当に地域の図書館でつっかけ履きで行けるようなところに拠点が二つできた。実はこれを三つ四つと増やしていくきっかけにしていこうと思っているんですが,その部分はちょっと活動の継続性のところでまたお話をしていきたいと思っています。
 今後の課題のところなんですが,やはり地域の多文化を推進していくというのは,公的な施設で,そしてみんなが出入りしやすいようなところでもっと勧めていくべきだなと,初めて図書館を使って思いました。
 それから,考えていただきたいんですが,図書館や公民館など公的な施設が本当に市民活動の現場になっているかどうか。もっとそこを,例えば日本語であるとか,多文化共生であるとか,本当に参加型の市民活動というのを進めていく拠点地にできないだろうかと思っています。
 それから,一番しんどい状況に置かれているところにいつも目を置いているかどうか,活動をしていたら必ずそこから漏れ落ちていく人が出てくるわけですね。じゃ,だれが一体来られない状況になっているのかということをいつも考える本当にいい機会になりました。
 最後に,文化庁の委嘱をとるということは本当に効果があると思います。それは実行委員会をつくれたことですね。先ほど,山形,神奈川のお話でもあったと思うんですが,行政関係機関,教育委員会だけじゃなくて,子育て支援課であるとか,市民活動課であるとか,あるいは近くの大学であるとか,多文化子育てをやっている方であるとか,そういうあらゆる方が参加して実行委員会をつくってくださるということと,あともう一つはやっぱりここの課題になるんですが,持続可能なシステムはどうやったらできるのかというのが一番の課題です。その辺をあとのお二人にも聞いてみたいなと思っています。
 簡単ではありますが,以上で報告を終わります。ありがとうございました。

*1 ピア (peer)仲間。同じ地位にある者。


伊東:はい,どうもありがとうございました。図書館を利用したいわゆる親子参加型の日本語教室,やはり図書館というのは地域日本語教室という点で言うと,新しい活動の場かなという印象を持ちました。どうもありがとうございました。
 皆さん,いろいろとお聞きになりたいことが多分わいてきているだろうと思いますけれども,皆さんにお聞きする前に,まず登壇していらっしゃる3人の方,それぞれの発表をお聞きになって,自分のところではこうだったけれどもそちらではどうだったかとか,こういう課題をこれまで抱えてきたけれども,どう解決してきたかというような,ちょっと建設的な問題を解決できるような議論がしたいと思います。課題があったり問題があったりした場合,それをちょっと出していただいて,それでこれまでの実績から何か助言が得られるような形にしたいと思います。どなたでも構いません,どうでしょうか。

榎井:ちゃんと言わなかったので悪かったんですが,とよなかの場合は毎週決まった曜日の決まった2時間ずつ二つの図書館でやっています。それはやはりなかなか定着しないからなんですね。自分たちの居場所だと思えるまでには何年か,多分3年ぐらいかかるだろうと思って,毎週来ても来なくても開くということを一生懸命やっています。前のお二人の発表を聞いていて,割と短期集中型でも子供たちがすごく成長していくというのを聞いて,自分たちの地域の中の居場所みたいなところをどういったところにつくっていらっしゃるのか,教えていただくと,多分みなさんにとってもわかりやすいと思うんですけれども,どうでしょう。

伊東:どうでしょうか。今の質問に対して。参加における継続性といったところ,どういうふうに仕組みづくりをしていらっしゃるかですよね。それと短期の場合,あんなに4時間も5時間も日本語を勉強したのに,何か頭の中が破裂しそうで嫌になってしまうんですけれども,どうですか。

石山:短期のことはちょっと置いておいて,やはり親子参加型日本語教室を開いたということで,行政が動いてくれたということが一番のポイントだったような気がします。そして,子供日本語習得支援事業が一歩一歩進んでいるのはいいことだなと思っているところです。
 ただ,そういったところからお二方のお話を聞いて,うちもそういった問題を抱えているなと思うんですが,子供たちの居場所っておっしゃいましたけれども,うちは常設の教室も持っているんですね。そこにも来る,市の協会のところにも来る,学校にもいるというように,一人の子供がいろんなところでいろんな支援を受けているんですが,ほかの現場で同じ子供の姿というものを本当に共有しているかなと思うことがあります。子供の姿をもしかしたら知らずに問題と取り組んでいるのかなというのを常々感じます。
 先ほどもおっしゃっていた,それぞれがそれぞれに同じようなことをしていても成長がないのかなと。こういうことを積極的にコンタクトをとることで解決できないかなということは常々思っているんですが,今,市の方で子供支援事業のコーディネータを置いてくださっています。その方が本当に一生懸命やってきてくれて,そこでの子供の姿を,日本語教室ではどうですかって聞いてくれたり,いろんな情報をその方を介してやってくれていることはとてもありがたいし,一歩進んだなと思っています。

櫻井:短期集中というところなんですが,これは意図的にいたしました。というのは,ボランティアの日本語教室,それから学習室を10何年間開催してきた中で,1週間に1回2時間の活動として続けてきましたけれども,一言で言えば場当たり的にならざるを得ない。日本語教室も1週間2時間では積み重ねというのは難しい。
 地域の日本語教室はそれでいいと思っております。やはり半分は情報交換という場所としての地域の日本語教室という役割はとても大切だと思います。ですから,積み重ねるということよりも,日本語のパターンを,すなわちリソース型生活日本語に即したような授業というものがとても効果的ではないかなというふうに思っておりますが,一方,1週間2時間では来週になったら忘れてしまいます。場当たり的な対応しかできず,むなしさを覚えていました。
 日本語の力をつけるには,専門家による総合的・体系的な日本語の指導というものが非常に大切です。そして,それを個別に定着させるボランティア,きめの細かいケアができるボランティアも必要です。場所の提供をしていただける学校も必要です。その上にある教育委員会の御理解も,そして文化庁の御支援も必要です。NPOの財政基盤,そして人材の無さという現状では大変ありがたいことだったというふうに思っております。

伊東:榎井さん,いかがですか,今のお答え。

榎井:ちょっとわからない言語が二つほどあって,山形の子供日本語習得支援事業というの,これは何でしょうか。すみません。

石山:1年目にやったときに,やはり教科学習も必要だろうし,日本に来てすぐに学校に入れるというのはどういうものだろうかというふうな課題がありまして,山形市の方で,来た子供に対して,たしか100時間だったと思うんですけれども,それを受けてから学校に入れる。また,その学校に入ったときにとても難しいですよね,学習言語って。私ももしフランスに行ってやりなさいといったら絶対できないと思うので,そういったことを取り上げて指導しているという形です。

榎井:ありがとうございました。
 櫻井さんの方ですけれども,学校との関係がすごく良かったように思うんですね。発表の中でも学校側の校長先生がすごく高い評価をされたという部分があったんですが,子供たちがすごく基礎学力が上がっているとか,そういう話をされていたと思うのですけれども,学校というのは場所を提供するだけじゃなくて,もうちょっとどういう形で連携をされたのかというのは。

櫻井:じゃ,その前に居場所について先ほど申し上げなかったので,居場所というのは山形の方も言ってらっしゃいましたけれども,いろんな場所に今は子供たちが出向いております。でも,この日本語教室というのはある面で出席者に一致したものがあります。というのは,言葉の不自由さを抱えている子供たちの集まる場所である。そこでは,彼らの言葉に対するストレスというものが発散されます。そして同じような境遇を持っている共通性ということから,思い切って自分らしさを出せる居場所というふうになっていると思います。
 学校との連携なんですが,校長先生がというよりは担任の先生方からの先ほどの評価だったと思いますが,校長先生方が特におっしゃられたというのは,これはちょっと語弊があるかもしれませんけれども,子供たちが日本語教室で,普通の授業では見せないような明るい表情,そしてとても楽しそうということをおっしゃって,それに関しては何人か複数の校長先生も驚かれていたということがありました。
 学校との連携は,決して初めからスムーズにいったわけではないですね。摩擦がありました。この文科省事業になる直前ですけれども,同じようなことをし始めておりました。そして,そのときここにもいらっしゃいますけれども,大和定住促進センターで年少者への日本語指導をされていた関口先生と二人で,12年前から8年間,ずっと学校の門をたたき続けてまいりましたけれども,門戸はかたく,開いてはいただけませんでした。そして,こういう事業を温めて8年目にようやく日の目を見る。そして,きちんとした形での親子参加型の日本語教室,これは文化庁のプロジェクトならではのことだと思いました。
 残念ながらNPO,NGO,ボランティア団体はなかなか信用してもらえません。それは承知していますが,勢い門を開いてくれたとなると,あれもしてくれ,これもしてくれ,とないものねだりが始まって,ついに学校の校長先生から,櫻井さん,自分でしたいって言ったんじゃないですかとかなり厳しいやり取りがありました。
 4校連絡協議会の拡大委員会というのを設置していただいたり,それ以前に準備段階でも複数の地域の小・中学校の校長先生,副校長先生,担任の先生方とお会いするうちに,やはり顔合わせってとても大事だと思います。それぞれの立場を理解し,そして最終的には榎井さんがおっしゃったような評価につながったんだと思います。何回も申し上げますけれども,それぞれのNPOやボランティア団体だけでもだめ,地域行政だけでもだめ,学校だけでもだめ,専門家だけでもだめということで,その4者がより良いコラボレーションで,なされることが成果につながることだと思います。

榎井:それに付け足しますが,やはり場の確保というのがすごく大変です。委員会をつくったから貸す,でも事業が終わったときに,何で特定のグループに貸し続けるのかという意見があったのです。多分小学校も図書館もそうだと思うんですけれども,初めは貸すというイメージですね。でも,借りてやっていてはだめだと感じていて,地域展開というのはいかにその場にかかわる人を巻き込んで,その事業にそこを貸している館の人たちも一緒にやって一緒に楽しんでくれるかどうかだと思います。今も試行錯誤で,やって良かったなと思ってくれるか不安です。でも多分もう少しこれが定着していけば,そういうふうにコミット*1していったりとか,時間を押さえたりとか,ああこのためにコピーなんかいいですよとか,看板つくってあげますよとか,そんなことがもっと自然にできるんじゃないかなと。
 公的な施設というのはその辺すごく,私の印象で言うと敷居が高い。変なところで公平性という言い方をして,一般だとか,一般じゃないとか,料金がどうだとか,そこを打破するような仕組みをつくっていくというのがすごく大事で,それは何かこういう形で励まし合わないと,ちょっとめげてしまいそうな気がします。

*1 コミット (commit)関係すること。参加すること。かかわり合うこと。


伊東:はい,そうですね。非常に難しいかなと。8年間の櫻井さんのずっと門戸をたたき続けたという,機が熟したというのもありますし,タイミング的に文化庁のそういう委嘱というのがあったというのもありますよね。ただ,やはり日頃の積み重ねというのがあるだろうというふうに思いました。
 さっき石山さん,ちょっと質問おありでしたよね。お願いします。

石山:こういった支援を市民活動の中に入れたという,すばらしいなと思っていました。今,特に市民活動がすごく盛んですけれども,外国人支援とまちづくりの仕掛けをつくっていくのは,お話を聞いていて2,3年でできたことじゃないんだなと思いますし,また参加するボランティアの人,そういった巻き込むときに参加してもらう人に何が必要かというと,多分私は必要とされる自分だと思うんですね。それで,子育てでボランティアはできないと言われるような人もやりたいっていうのを巻き込むのはすごいなと思うんですが,やれる事務局というのがないと難しいですよね。
 実は私たちは民間の自主団体で,親子日本語教室は支援していただいているんですが,そのほかは全く持ち出しなんです。こういう企画にしろ何にしろ準備にしろ,全部持ち出し。それは好きだからやっているところもあるんですが,すごい労力なんですよね。コピー機も借りていくと,いや行政サービスはそんなにコピーは貸せないよとか言われたりすることもあって,とても大変。やっぱり事務局があるというのはすごいなと思うんですけれども,そういったのは協会から働きかけてこういった仕組みづくりをしていたのか,どういうふうな過程で今のようなすばらしい市民活動に結びついたのかをお聞きしたいなと思いました。

榎井:ちっともすばらしくなくて,文化庁に考えていただきたいんですけれども,やっぱり3年で切り上げられるというのはすごくしんどいんですね。スタートの年,次の年,終わる年という。結局その後,金の切れ目が何とかの切れ目というふうに本当になるんですよね。でも,もう3年で切られるというのはわかっていて,どうしようどうしようってすごく思ったことが一つです。
 豊中市の場合はたまたま2002年の年に公益市民活動推進基本条例というのができまして,つまりNPOを応援しますよというのを市が掲げて出してくれたんですね。その中に三つ支援の型がありまして,NPOに助成金を出しますよというのが一つ,二つ目は市の方がこんなことをNPOでやりませんかという提案,三つ目がNPOの側から市の,市というのは縦割りですので,縦割りではできない提案をして,それを市としても受けてお金もつけましょうというのがあって,これを利用するしかないと思ったんですね。
 そうなると,文化庁から委嘱をされた豊中市の実行委員会ではだめなんですね。やっぱり現場の人たちに,今までやってくれたのはボランティアの仕組みとして,駒としてやったのではなく,この事業をあなた方が利用して継続できるようにできませんかという話をして,結局やっていたボランティアさんたちが,地球ママくらぶという一つのグループをつくって,今までやってきたことを実績にして,豊中市にこの事業を続けながら図書館と連携をして地域づくりをしていきたい,多文化共生の地域づくりをしていきたいという事業を提案して,それが通ったんですね。
 それは双方に希望があって,図書館の方は廃棄本が年に2万冊出る。何とかリサイクルしてほしい。でも,図書館というと市民活動が全然無いところだから,それをこの協働事業の制度を使って地球ママくらぶへ委託するということで,今試験的にやっています。やっぱり動機づけの間には国際交流協会があっちへ行ったりこっちへ行ったり,コーディネータ的な役をしないと多分無理だと思うんですが,これがうまく評価されれば,今度市が責任を持ってくれるわけですね。1個の図書館でもし成功すれば,これは全図書館に行く。さらに図書館というところは教育委員会の生涯学習課が大元締めですから,そこが今度は公民館を変えてくれるかもしれない。
 そういうふうに,自分たちのやっていることが継続すると同時に,もっと公的な波及効果を持っているんだという意味で,とっても喜んで今,お母さんたちがいっぱいやってくれています。
 ということで,委嘱期間が終わったら市民だけでやってください,とか,初めは3年終わったらあなたたちで考えてというのではだめだと思います。1年目にそれを実はやってしまったんですね。そうしたらやっぱりいいように利用されたって市民の方は何人か,それで1年目に半分以上やめてしまいました。2年目からは,やっぱりお互いにとってメリットがある活動にどうしたらその質を上げられるかがすごく課題で,それにはやはり2年かかって,いろんな新しい学びの場をつくったりとか,活動の場を広げたりということをしました。新宿の大久保のまちづくりの事例を引っ張ってきたりとか,いろんなことをしながら考えたというのが実情です。

伊東:はい,どうもありがとうございました。そうしますとやはりコーディネータだとか,何か文化庁の委嘱を受けた場合,母体となる,あるいは核となる組織というのは必要ですよね。豊中の場合だと国際交流協会といういろんな地方にあるような団体に相当するものですよね。そうしますと,山形ですと国際交流協会に相当するようなものというのがあるわけですよね。

石山:あります。

伊東:そことの,山形ボランティア日本語協会とのいわゆる連携というのはどんなふうになっているんですか。

石山:いろんな,日本語教室で講師派遣とかでは連携していたんですけれども,こういった事業を共同してやるというのは全く今回が初めてでした。なので,お互い試行錯誤しながらやって,それである程度1年目で,市も実行委員会に入っていますので,形が見えてきて,じゃ市でやってみようかというふうな形で支援してくれているといった状況です。ただ,まだ本当に1年目,2年目,一歩二歩踏み出したばかりなので,今はお互い手探りでという状況です。

伊東:はい,わかりました。
 あとは御質問は登壇者の方の中から何かあればここでちょっとお聞きしたいんですが,櫻井さんの方は御質問いかがですか。ほかのお二人に対して。

櫻井:私もとよなか国際交流協会の榎井さんがこの席にいらっしゃるというのを,神奈川県としてとてもうらやましく思います。神奈川県には国際交流協会に日本語教室はありません。たくさんの民間のボランティアでの日本語教室があるというのが理由かもしれません。私は国際交流協会の理事も兼ねておりますので,私自身も情けないことだなと思い,理事会でも毎年毎年発言するんですけれども,取り上げてもらえません。多分採算が合わないんではないかとは思います。
 でも,国際交流協会というところに外国人の方々が何を求めてくるか,まず言葉の問題を持ってくると思います。言葉のコーディネータとしての役割というのは積極的になされるべきではないかということで,豊中市がうらやましく思いました。
 あと,地域の教育委員会とか学校への理解の促進というところでは,お二方はどういうふうに思っていらっしゃるんでしょうか。

石山:山形のことを暴露してしまうのは,何か市の教育委員会に申しわけないと思うんですが,実行委員会に名前はかしてくれても出てきてはくれませんでした。やはりほかにもいっぱい問題があって忙しい,でも後援には名前は貸すという感じです。ただ,県の教育委員会から出てきた先生が協力しますよと言ってくれて,親子日本語教室には協力はしてくれませんでしたけれども,先ほどお話しした次のステップの子育て支援とか学校教育の支援ガイド,そちらの方には本当に選ばれた先生が執筆をしてくださって,自分の仕事のほかにもやってくださって,とてもすばらしいものができたのは,やはり少しは協力してくれたんだなと思います。

榎井:昨日とよなかの発表を聞かれている方はもう御存じだと思うんですが,就学,要するに義務教育課程にある子供に関しては,8年以上前から教育委員会と仕組みができていますし,教育委員会の方にも仕組みができています。ただ,やはりそれ以前の問題だなというのが今回の年少者の問題なんです。
 つまり,子供が教育機関に,保育所でも幼稚園でもいいです,入った瞬間から親というのは子供の教育に対してとても受け身になってしまうんですね。つまり,学校から言われることを理解することが親の役割というか,でも子供の教育というのは本来親も一緒に考え,選択をしていくという部分に関して,教育機関に入ったときにそういうことがわかっていなければ,自然に受け身で,はいはいというような親になっていく可能性というのが非常に高い。だから,その前に子育てのこととか,学校へ入ったらこうだよとか,そういうことをたくさん話せる機会をつくってあげるというのがとても大事です。母語教室は,どうも子供が学校に行くと母語を忘れてしまって,親より日本語ができてしまって,親とうまくコミュニケーションができなくなったり,大事な私たちの文化のことがわからなくなるらしいと知って,南米のお母さんたちが数十人集まって話をしたことから始まりました。今まで見られなかった,就学前の子供と就学している子供,そしてこれから義務教育を終えた子供とのつながりをつくる,その一環としての基礎的な部分にこの親子参加型日本語が作用したのです。

伊東:はい,どうもありがとうございました。
 今日お話を伺っていて,やはりここにいらっしゃる方たちの立場というのは,地域に居住する外国人の人たちをどう巻き込んでいくかという部分と,あとは日本社会の中でどう制度をつくっていくかという,その二重のちょうど中間にいらっしゃるような感じもしました。ですから,やはりやるべきことというのは対居住者に対してと,対組織に対してということで,その辺のお話が今日は両方あったのかなというふうに思いました。
 あと残り時間も20分ほどになってしまいましたけれども,今日のお三方の事例報告ですとか質疑応答をお聞きになって,もう少しこの部分を聞きたいとか,自分の地域で今後こういった活動をするためにこの部分の助言を欲しいという方がいらっしゃいましたら,少し時間を設けたいと思いますので,御質問のある方は挙手をお願いしたいと思います。マイクをお回ししたいと思います。いかがでしょうか。はい。

山田 法政大学キャリアデザイン学部の山田です。昨日は伊東さんの席に座って司会をやっていた者ですけれども。
 この親子参加型について,母語や母文化との関係でお聞きしたいことがあります。私も元々文化庁にもいた人間なんで,私にいろんな人から質問をされることがあって,親子参加型というのはそれはそれでいいのかもしれないけれども,一つ工夫をしないと大きな間違いを起こしてしまう可能性もあるので,どういう工夫をしているんですかというようなことを聞かれます。私は知りませんとしか言えないので,今日実際どのような対応をされているか,榎井さんはもうわかっているのでいいんですけれども,櫻井さんと石山さんにお聞きしたいと思うんですが。
 それは,ひょっとしたら小さいときから親と子供が日本語漬けというか,日本語あるいは日本文化によって自分の母語とか母文化とかを抹殺してしまう,そういう場になってしまうのではないかというふうに言う人がいます。それをクリアするために文化庁はどういう工夫をしているんだというふうに言われるんですけれども,文化庁は別にそれは考えていなくて,それぞれの地域に合わせて、それぞれの事情でということだろうと思うので,お二方にはそれぞれ地域でどんなふうにそのことに対して工夫していらっしゃるか,お聞きしたいと思います。

石山:そうですね。1年目はやはり今先生がおっしゃったように,日本語漬けでした。ところが,手遊びとかそういった,お母さんが語りかけるのは韓国でも中国でもあるんだよというふうな形で,一緒にこういう歌があるよああいう歌があるよというふうに語りかけてやっているようでした。
 先ほども,とよなかの榎井さんのお話しになった母語活動,保護者の主体的な活動はすばらしいなと思いました。もし継続があるんだったら,そういったことをやってみたいなという形です。恥ずかしながらこの3年間,日本語のシャワーを浴びさせるということに焦点を置いていて,母語の保護は正直やっていません。遊びの中で触れて,日本でこうだけれども韓国ではこうだよ,韓国のお話はこうだよって教えてくれた,それをじゃ家でもお話ししてあげてねっていう程度にしかやっていないのが現状でした。

櫻井:母語ということに関しては,いろいろな御意見があるんじゃないかと思いますけれども,差し当たって私たちができることは日本語の支援になっています。それと同時に,ある定住者の人から聞きましたが,お子さんが小学校4年ぐらいまではずっと母語を教えていた。確かに母語教室も開催していた時期がありました。ベトナム語は別としまして,ラオス語,カンボジア語というのは結局続きませんでした。7,8年前のことだと思います。
 先ほどの話に戻りますが,その定住者の親が,娘が小学校4年になったときに娘から言われたそうです。お父さん,私はラオス語と日本語とどちらを一番に勉強したらいいんだろうと。このままラオス語を勉強していると,学校に授業についていけなくなってしまうって。つまり4年生になるとだんだん難しくなってくる。だからラオス語を勉強している時間はないんだと言われたそうです。
 その定住者の親は,そうか,日本の学校に入って日本語で勉強している,やっぱり学校の勉強が一番かというふうに判断して,そこでラオス語の勉強というものを止めたようです。これはどちらも私は必要だと思いますが,順番があるのかなって,必要なものを一緒にというのはできる人もいるかもしれませんけれども,このようにできない人もいる。それぞれが選んでいいと思いますけれども,母語もとても大事ですが,日本にしばらくの間定住するということは,日本語をまずクリアして,次に母語に向かう。
 ここの席にもいる人ですけれども,ずっとカンボジアのことを知らない,そしてカンボジアに余り関心もなく育ってきた。カンボジア語というのも親とは意思が通じるけれども,果たしてほかの人とは正確にどうなのかという問題がありました。彼は9歳で日本に来て,ずっとその後日本語の中で育っています。
 その彼が19歳ぐらいのときだと思いますが,カンボジアに行く機会があって,行ったとき,ああここが僕の国だ,祖国だってはっきりと自覚したそうです。その時点で,カンボジア語というものを強く意識し,それから勉強したいと思うようになったというふうにも聞いています。無理はせずに,その人が勉強したいときにそういう環境づくり,そういう環境のあるところを紹介するという形でいいのではというふうに思いますが。
 それから今,日本語教室をやっているところでは,国際学級を使わせていただいてます。国際学級の中にはいろんな国のおもちゃなどがいっぱいありますし,また,大きな張りぼてのかぶり物とか衣装とかが飾ってある中で日本語の勉強を続けています。待ち時間には生徒たちがとても器用に,日本の羽子板をしたり,今度は中国ゴマを回していたりとか,いろいろな国の遊び物で遊んでいます。そういう環境の中で母語の習得ができたら,とてもすばらしいなというふうに思っております。

伊東:山田先生いかがですか。山田先生御自身がもし母語のことに関して質問が来た場合には,どのように。ちょっとお聞きしたいですね。

山田 私自身のことについて言えば,昨日の話になってしまいますけれども,こどもメイトというところで,子供たち,これは学校教育を受けている子供たちですけれども,それが放課後に週2回来て,最初1カ月に1回だけ母語教室をしていました。1カ月に1回で母語保持できるわけがないんです。でも,我々からのメッセージとして母語教室をやりました。もちろん日本の学校でやっていくんだから,日本語や日本の教科は大事,だから一緒に勉強しましょう。だけどあなたの母語も,それからあなたの文化も大切だと思っている。だから1カ月に1回,自分の国の先生から教わるんだというメッセージを伝えていたんです。それが月2回になって,昨日の中津さんの話で,今は週1回,2日のうち1日はそれをしていると,そういうふうになっていますけれども。
 そういう意味で,ここは日本なんだから日本語,日本文化,それから日本の教科についていける,それはどうしてもやらざるを得ないけれども,でもあなたが持っているものって,付加価値というか,ほかの子が持っていないすばらしいものがあるでしょうということをマジョリティ*1側から伝えていくというようなことが一つは可能かな。
 それでさっき櫻井さんがおっしゃったように,同じようなことがあります。要するに子供たちは自分の言葉,例えばポルトガル語,中国語というのは,家の中でしか通じないんだというのはわかるわけですよね。ところが,それがいろんな機会でバイリンガルの留学生とかいろんな人と出会うことで,バイリンガルって格好いい,翻訳もやってしまうんだという人に出会う。自分も自分の国に行って,例えば中国へ行ったんだったら自分は大人が話している中国語はできないということがわかって,その後,今度は大学に入ってから中国に留学するということをして帰ってきた女の子もいますけれども,そういうことに気付くためには,その前に伏線じゃないですけれども,それは大切なものだよというメッセージを伝えておいて,抹殺しないで残しておくことが大事かなと思います。

*1 マジョリティ (majority)多数。多数派。


伊東:私も今,山田先生がおっしゃったように,やっぱり複言語主義ではないけれども,自分の母語,そして日本で生活するために必要な日本語というようなことで,自分の持っているものもすばらしいというような,何かそういうことを日本の社会が認めるような社会になっていくといいかなと。要するに,多様性を享受できるぐらいの私たちのいわゆる懐の深さというのが出てくるといいと思います。
 私も日本語教育を専門にしていますが,日本語を教えればいいというものではなくて,日本語も一つの選択肢というような考え方が今後必要かなと思います。
 あと10分ほどしかありません。御質問のある方どうぞ。

櫻井:すみません。その前にちょっとよろしいでしょうか。
 今の山田泉先生のに関連しているんですけれども,この日本語教室を始めまして,ある小学校なんですが,逆に外国籍児童生徒の保護者の方から意見が出て,母国語教室を立ち上げられたんですね。それというのは,日本語教室をしてくれている,では私たちは母語教室をしなければということで母語教室を始められましたということを申し上げておきます。

伊東:自主的に出てくるといいですよね。
 こちらどうぞ,真ん中辺ですね,お願いします。

参加者 櫻井先生がやってくださっている上飯田地区の飯田北小学校の国際教室を担当していますSと申します。
 まず,最初は本校の実態からお話しさせてください。全校児童204名中,外国につながる子は52名です。それで,子供たちを支援するのは国際教室担当が2名,教育委員会の方から母語を話せる日本語教室の巡回指導という形で来てもらっています。それから,学習時には学生ボランティアの方とか地域のボランティアが一緒に入って,TT*1という形でやってくださっています。そのほかに親子日本語教室という形で,放課後の子供たちの日本語教室を櫻井先生たちがやってくださいました。
 やはり本校は自分の国のことを,友達の前で誇りを持って出せるような子供たちにしていきたいというのが全職員の願いです。昨年は10カ国でしたが,本年は8カ国になりました。日本を含めて自分の国を大事にして誇りを持っていってほしいなというのは,保護者からの願いでもありますし,学校全体の願いです。そういうことで,子供たちをいろんな人とのかかわりを通して育てていきたいと思っています。
 先ほどの親子日本語教室の方に話を移させてもらいますが,親子日本語教室の前から櫻井先生たちの方で子供たちの日本語教室をやってくださいました。そのときに何回も何回も話し合いを持ちまして,こうやってほしいああやってほしいと私たちのいろんな願いをその都度その都度聞き入れてくださって,子供たちにどうやったら一番いいかというふうにしてやってくださいました。1年生のときからやってもらった子たちがもう5年生になっています。
 先ほどから居場所づくりということがお話にありましたが,やはり家庭に帰っても宿題ができない,それから掛け算九九を覚えようとして家族に言っても聞いてもらえない,そういう面で家族と同じように子供たちを包み込むような形で,待ち時間に本の読み聞かせをしてくださったり,学習を温かく見守ってくださったり,子供たちがたどたどしく読む本を本当に心から聞いてくださったりというように,子供と同じ目線に立って子供たちを包み込んでくださいました。
 そういうことで,子供たちがそこに行けば自分たちが見守ってもらえるんだ,自分が出せるんだ,そして子供たちはその期間をすごく待っているんですね。だから,私たちからしてみれば,学校の授業が終わってからまた勉強というのはとても大変だなと思っても,子供たちは楽しみにそこに参加する,私たちがもうちょっと静かにやりなさいよと思うぐらいでもちゃんと受けとめてやってくださるというのは,本当に私たちはありがたいことだなと思います。午前中の授業でも,どういうふうな形で連携しながらできるかというのは,やはりいろんな話し合いを通して積み重ねながらできていくんじゃないかなと実感しています。
 それで,この事業が終わっても本校では継続してやっていただいておりますので,本当にいろんな方の支えをいただきながら,本校では子供たちは幸せな環境にいるなと本当につくづく思っています。

*1 TT(Team Teaching) 複数の教師が指導計画の作成,授業の実施,教育評価などに協力してあたること。


伊東:はい,どうもありがとうございました。
 今日は親子参加型日本語教室ということで,いろいろお話を伺いました。今日は文化庁の方がいらっしゃっているかどうかわからないんですけれども,やはりお金がなくなってこれでおしまいというのは本当にもったいないなと思うんですね。昨日の山田先生のお話じゃないんですが,もっと政府がお金を出して,単年度で終わるのではなくて,やはり日本が多言語・多文化社会にということであれば,その基盤づくりのための予算をずっと出し続けてもいいかなと思うんですけれども,まだまだ私たちの意識というのはそこまで行っていないのかなということで,ちょっと残念に思います。
 ちょうど1週間前にカナダで学会があって行ってきたときに,カナダのESL*1プログラムを専門にやっているセンターがありまして,カナダは今,看護師が非常に不足しているということで,以前から移民対策はとっておりましたけれども,移民として受け入れる職業人のための英語教育は全部無料,そのための教材開発等も専門の組織があってつくっているというようなことで,やはり移民政策をかなり本腰を入れてやっているなということを実感しました。
 そういう意味で,近い将来,実際海外から労働者を受け入れるというようなこともありますので,やはり国としての言語政策にもっともっと本腰を入れるべきかなと思いました。
 あと2,3分です。最後に一言,今日の登壇者の方々からメッセージをいただいて,それで締めにしたいと思います。じゃ,石山さんの方からお願いします。

*1 ESL (English as a second language)第二言語としての英語。母語が英語でない人々のための英語。また,そのような人のための教育(課程)。


石山:今日私はここにいながら,本当に自分でも勉強になりました。やはり市民活動を通して多くの人が志願して参加する,また何よりも母語の母語,自分のアイデンティティを大切に育てていくといったことも大事なんだなと,本当に勉強になりました。ありがとうございました。

櫻井:ついついNPO,NGO,ボランティアというのは井の中の蛙になります。というのは,とても忙しいんです。時間がないんですというところですが,こういうところに出させていただいて,そしていろいろなお話を伺うことができて,とても豊かな気持ちになりました。
 そして,先ほどS先生がおっしゃってくださいましたけれども,午前中のシンポジウムで,どういう先生が必要かといわれたときに,一人一人の生徒を見守ってくれる,ずっと見てくれる,一人一人のいいところを伸ばしてくれる先生が必要だという結論になりました。そのときにさっと私の脳裏をかすめたのがA先生でした。本当にすばらしい国際級の担当をしていらっしゃると思います。本当に今日はありがとうございました。

榎井:最後に,皆さん日本語関係でかかわっていらっしゃるので,ちょっと考えてほしいことを言いたいと思います。
 私が最近すごく気になっていることに,リテラシーという言葉があると思うんですね,識字。エモーショナル・リテラシーという言葉があります。感情のリテラシーをどういうふうに読み取っていくのかということをしないと,暴力が世の中に繰り返されるという考え方なんですけれども,やはり子供にしても外国人女性にしても,当事者が何を喪失していて何に傷ついているのかということを自分で無意識に抑えてきていることがすごく良くない影響を将来的に起こすかもしれない。そのときに学校の中では感情を出していいですよ,何でそういうふうに思っているか言っていいですよなんて絶対言ってくれないで,絶対静かにしていると思うんですね。そういう子供や女性が自分の感情をきちんと読み取れるような介添えとして,こういう親子とか日本語とか安心できる場所をつくりたいなと本当に思っています。
 それから最後になんですが,1年目にこういうすごくかわいい報告書をカラーでつくったんです。何時に何したとか,こっちにはお絵かきとかレシピとかいっぱいあって,写真もいっぱい張っていて。これをもし情報交換として希望される方は,送料だけでお配りしますので,またここにホームページが出ていますので,私の方に御一報いただければ,こういうものを公開しながら,少しでもネットワークをつくっていきたいなと思っていますので,よろしくお願いします。
 今日は勉強させていただきました。ありがとうございました。

伊東:ちょうど15:00になりました。この第1分科会では,文化庁の委嘱事業を通しての事例紹介と,それを通して議論をしてまいりましたけれども,今日の1時間30分という短い議論を通して,親と子供がともに学ぶことの意義が多少なりとも確認できたかなと思いますし,今後のそれぞれの地域における活動の一つの参考にしていただけたらなということを願って,今日の第1分科会を終わりにさせていただきたいと思います。
 本当に1時間30分ありがとうございました。では,もう一度3名の登壇者の方に拍手をお送りしたいと思います。

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