平成8年度「国語に関する世論調査」の結果について

文化庁

Ⅰ.調査目的・方法等

調査目的 日常生活の中の敬語その他の言葉遣いについて,また,外来語の理解度について,国民の意識や実態を調査し,今後の施策の参考とする。
調査対象 全国の16歳以上の男女3,000人
調査時期 平成9年1月10日~21日
調査方法 個別面接調査
回収結果 有効回収数(率)2,240人(74.7%)

Ⅱ.調査結果の概要

1.ふだんの言葉遣い(「お」を付けるか,付けないか)

 ふだん,「皿」「弁当」には「お」を付けて「お皿」(52.8%),「お弁当」(45.3%)と言う人が半数前後いるが,「おビール」(2.5%),「お紅茶」(3.4%),「おソース」(3.9%)は少ない。「お酢」(33.7%),「お天気」(30.1%)は3人に1人,「お薬」(17.5%)は2割弱である。「お」の付けすぎが話題になることがあるが,語によって「お」を付ける人の割合には差がある。また,男性より女性に「お」を付けて言う人の割合が高く,女性では上記8語のうち「弁当」「天気」「皿」「酢」で「お」を付けて言う人の割合が付けない人より高いのに対し,男性では,8語すべて「お」を付けない人の割合の方が高い。

2.気になる言い方(「千円からお預かりします」など)

 「ちょうどからお預かりします」という言い方については「気になる」人の割合が61.1%と高く,問いに示した八つの言い方の中で,唯一「気になる」が「気にならない」を上回った。「千円からお預かりします」「お会計のほう,1万円になります」は近年よく聞かれるが,3~4割程度の人が「気になる」と答えている。
 「~させていただきます」という言い方については,全体に「気にならない」割合が高いが,「ドアを閉めさせていただきます」「この商品は,値引きさせていただきます」は,2割近い人が「気になる」と答え,「気になる」割合が「これで会議を終了させていただきます」「明日は休業させていただきます」の2倍以上となっている。

3.気になる言い方(「休まさせていただきます」など)

 五段活用の動詞「休む」「帰る」「伺う」の使役の形は「休ませる」「帰らせる」「伺わせる」が本来で,問いに示した三つの言い方は誤用と言えるが,「休まさせていただきます」は64.6%,「伺わさせます」は58.7%,「帰らさせてください」は50.0%の人が,「気にならない」と答えた。特に,男性の16~19歳で「気にならない」の率が高い。前問との関連を見ると,「閉めさせていただきます」などが「気にならない」とした人は,「休まさせていただきます」なども「気にならない」割合が高い。

4.気になる言い方(不調和な言葉)

 敬語と俗語などを交ぜて使った言い方の中で,「気になる」と答えた人の割合が高かったのは「でかいお皿を御用意ください」(79.9%),「スープは熱いやつと冷たいやつがございます」(78.7%)で,「気になる」が8割近くに上る。「そこの茶店でコーヒーでもいかがですか」「イヤホンの使用はただでございます」は,「気になる」と「気にならない」が相半ばしている。
 本来は謙譲語の「いただく」を,言葉遣いを上品にするために使ったと考えられる「きのうは一人で夕食をいただきました」についても,「気になる」と「気にならない」が拮抗している。

5.気になる敬語の使い方(会社で客に対して)

 誤用とされる三つの言い方について「気になる」と答えた人は,「お伺いしてください」が56.0%,「お聞きしてください」が53.3%,「伺ってください」が44.1%と半数前後である。正しい言い方である「お聞きになってください」については約2割の人が,「お聞きください」については1割弱の人が「気になる」と答えている。「聞いてください」も形としては正しいが,約半数の人が「気になる」としたのは敬意不足と感じたものか。

6.敬語か否か

 「よろしくお願い申し上げます」(89.2%),「あの方は何でも御存じだ」(62.9%)は「敬語だと思う」人の割合が高いが,「私は野菜を食べます」は10.9%と低い。敬語形式は用いられていなくても,「あの方にはとても感謝している」(19.7%),「すまないが,そこの鉛筆を取ってくれないか」(11.3%)のように,感謝の気持ちや相手への配慮などを込めた表現を敬語だと受け取る人が,ある程度いる。「なさる」の命令形を用いた「そこに座りなさい」(4.3%)よりも,敬語形式を用いていない「そこに座ってもらえる?」(8.3%)の方が,「敬語だと思う」割合が高い。

7.敬語を使うとき

 「目上の人と話すとき」に敬語を使う人の割合が86.0%と最も高く,8割を超えた。次いで,「年上の人と話すとき」(79.2%),「尊敬する人と話すとき」(69.7%),「知らない人(たとえ同年輩でも)と話すとき」(57.7%),「意識的に改まった感じを出したいとき」(44.2%),「ものを頼みたいとき」(42.1%),「上品さを表したいとき」(20.6%)の順となっている(複数回答)。「敬語は使わない」は1.8%である。若者は言葉遣いの乱れが指摘されることが多いが,16~19歳の男性,女性とも,8割以上の人が目上の人や年上の人と話すときには敬語を使うとしている。

8.敬語を身に付けてきた機会

 今まで敬語を身に付けてきた機会として,「学校の国語の授業」(54.6%),「家庭でのしつけ」(54.5%),「職場(アルバイト先を含む)の研修など」(51.4%)を挙げた人の割合が高く,5割を超えている。次いで「国語の授業以外での,学校の先生の指導」(27.4%),「学校のクラブ活動」(21.1%),「テレビやラジオで,出演者の話し方を聞いて」(19. 2%),「テレビやラジオで,敬語を扱った番組を視聴して」(17.7%),「敬語について書かれた本を読んで」(9.1%),「話し方教室や作法教室,自治体や民間の講習会など」(8.9%)の順となっている。(複数回答)

9.敬語に対する意見

 同意率(「そう思う」の比率)が最も高いのは「敬語は,家庭でのしつけが大切だ」で,84.4%と8割5分近くに及んでいる。「学校で,敬語について十分指導することが大切だ」も77.2%と8割近くの人が同意している。また,「学校で教えるための,敬語の基準が必要だ」には54.1%,「一般の人が敬語を使うための,敬語の目安が必要だ」には45.0%の人が同意しており,いずれも不同意率(「そうは思わない」の比率)を上回っている。前問との関連では,「家庭でのしつけ」で敬語を身に付けてきたと答えた人は,「敬語は,家庭でのしつけが大切だ」に同意する率が高い(94.2%)傾向が見られる。

10.ふだんの言い方(「なにげに」「チョー」「むかつく」など)

 言うことがあるという人の割合が高いのは,「むかつく」(43.2%),「あの人は走るのがすごい速い」(43.1%),「あの人は私より1コ上だ」(41.7%)で,いずれも4割を超えているが,全体では言わないという人の割合の方が高い。これに対して,「あの人みたくなりたい」(16.8%),「寝る前に歯を磨くじゃないですか,その時に…」(13.1%),「チョーきれいだ」(12.0%)と言う人は1割台,「なにげにそうした」(8.8%)は1割未満と低い。ただし,年齢による使用率の差が大きく,例えば「1コ上」は男女とも20代以下では8割を超え,60歳以上では1割台である。

11.外来語(カタカナ語)の認識

 「ボランティア」は聞いたり見たりしたことのある人が99.2%,「意味が分かる」と答えた人も95.4%に及ぶ。「ブティック」「スタンバイ」「マスカラ」は,聞いたり見たりしたことのある人が8割以上,「意味が分かる」割合も7~8割台となっている。「バーチャル・リアリティー」「アイデンティティー」は半数前後の人が聞いたり見たりしたことがあるが,意味が分かる人は全体の4分の1程度にとどまる。「インフォームド・コンセント」は聞いたり見たりしたことがある人が4割,意味が分かる割合が2割弱と,8語の中で最も低い。性・年齢別に見ると,言葉によって若干の違いはあるが,男女とも20~30代を中心に「聞いたり見たりしたことがある」「意味が分かる」割合が高く,60歳以上で低くなっている。例えば,「バーチャル・リアリティー」は男性の30代以下,女性の20代以下の若年層で「聞いたり見たりしたことがある」割合が8割を超えているのに対し,男女とも60歳以上の高年層では2割以下と低い。

12.外来語(カタカナ語)の意味が分からなくて困ること

 新聞やテレビに出てくるカタカナ語の意味が分からなくて困ることが,「よくある」人は17.1%,「時々ある」は37.5%,「たまにある」は34.6%で,合わせて89.2%と約9割の人が,カタカナ語の意味が分からなくて「困ることがある」と答えている。困ることが「ない」と答えた人は10.2%にとどまる。困ることが「よくある」割合はおおむね高年層ほど高く,困ることが「ない」は,男性の20代が最も高いが,それでも2割を超える程度である。

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販売価格 1,360円(税別)
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