4 日本語能力試験について

(1) 日本語能力試験の現状と問題

 「日本語能力試験」は,日本語を母語としない者を対象に日本語能力を測定し認定するため,「私費外国人留学生統一試験」の一科目であった日本語の試験が分離・独立して,昭和59年にできた試験である。国際交流基金が国外での実施を,(財)日本国際教育協会が国内での実施をそれぞれ主催しており,今年度(平成10年度)15回目の試験が実施された。国内外でその受験者数は徐々に増え続けており,平成10年度においては,国外において10万893人が,国内において2万9,492人が受験している。
 この試験の目的としては,基本的な日本語能力の測定のほかに,1級から4級まである試験の中で,特に1級及び2級の試験については,留学生の大学入学選考にも活用されている。また,試験の構成・認定基準においては,特に1級について,この両者の目的を折衷的に両立させようという配慮の下に設定されているのが現状である。
 こうした状況の下,これまで試験関係者の努力によって,試験問題作成のための出題基準の作成,試験問題の信頼性の向上などが図られてきているが,本試験の基本的な在り方に関する問題も幾つか残っている。例えば,試験の出題領域の適切性の問題や,1級合格者に対する大学側の期待と,実際にこれに合格した者の日本語コミュニケーション能力との間には開きがあるとの指摘が見られる。また,今後,他の日本語能力測定に関する試験との関係を踏まえ,本試験の需要を明確化した上で,その使途範囲の拡大と受験者数の増大を図ることについても考える必要がある。

(2) 日本語能力試験の今後の在り方

ア 日本語能力試験の基本的な在り方

 日本語能力試験は,日本語学習者にとって学習の一つの到達目標を提供するものとして,学習意欲の向上にも資しているとともに,日本語学習者の日本語能力を客観的に測定し,日本語学習者に対する効果的な教育の在り方を検討する基本的な資料としても,極めて重要なものとなってきている。
 (1)の現状で見たとおり,国内外の日本語学習者の増加とともに,学習者のニーズは多様化して来ており,日本語能力試験の受験者についても,1級,2級の受験者が必ずしも日本留学希望者ではないという状況が以前から生じている。(大学受験予定者については,1級が全体の約30パーセント,2級が約4パーセントとなっている。)このような状況の中,今後より学習者の多様なニーズに適合し,またより多くの学習者が受験することを促し,学習意欲の向上に資するためには,日本語能力試験が本来目的とする基本的な日本語能力を測定するための試験へと特化することについて検討する必要が生じている。
 一方,この関係では現在,現行の日本語能力試験とは別途に,留学生の入学選考に係る「日本留学のための新たな試験」の創設について検討が行われている。将来,この試験がどのような実施形態により行われるかは未定であるが,これが創設された場合においても,日本語能力試験は上述のとおり学習者の学習到達目標として利用されている以上,基本的な日本語コミュニケーション能力を測定するための試験として,継続して実施されるべきものである。

イ 日本語能力試験の出題内容について

 日本語能力試験の基本的な性格とは別に,その試験構成や級別の認定基準についても検討すべき課題がある。
 その一つとして,現在各級別の認定基準(出題内容)は,学習時間数を基にレベル分けが行われ,初級の4級から上級の1級へという区分になっているが,先に述べたように学習者のニーズが多様化している現状においては,むしろ学習目的に応じて必要とされる基本的な能力を勘案した認定基準を設けることが合理的であるとも考えられる。したがって,どのような試験区分が適当であるか,見直しを行っていくことが必要である。
 また,現行の試験は,文字・語彙,聴解,文法・読解の3部門を総合して出題されているが,これらの出題領域をコミュニケーション能力をより重視する視点から部門の内容を見直すとともに,各部門の構成の仕方や各部門ごとに選択的に受験を認めること等についても検討が行われる必要がある。
 なお,このような日本語能力試験の出題内容の再検討に当たっては,この試験が学習者の学習到達目標として利用されている実態からして,日本語教育機関のカリキュラムにも少なからず影響を及ぼす可能性があることに留意する必要があろう。

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