文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第1部:特別講演

「音楽著作権等を活用した資金調達の事例と問題点」

朝妻 一郎(株式会社フジパシフィック音楽出版代表取締役社長)

朝妻 一郎

ご紹介いただきました朝妻です。今日は「音楽著作権等を活用した資金調達の事例と問題点」ということで、今までのいろいろな例をお話していきたいと思います。

 最初は、吉田官房審議官からもお話がありましたように、今までは著作権の資産価値の評価や流動化に対しては、特に金融業界、あるいは関係官庁などの理解がありませんでした。今回このように「知的財産推進計画2006」で、知的財産の価値評価の実務を奨励する、知的財産流通の担い手を育成する、知的財産を活用した資金調達の多様化を図るというような提言がなされ、なおかつ、それをベースに今回このような研究会やセミナーが催されることは、我々にとっては非常に画期的な出来事です。
 と言いますのは、私が音楽出版ビジネスに入ってすでに40年ぐらいになりますが、今から約20年前に資金需要があり、「融資してください」と銀行に行きました。しかしその時、銀行の人が私たちの貸借対照表を見て「おたくには土地もビルもないですね。何も資産がないではないですか。これではお金は貸せません」と言ったので、「とんでもない。私たちには著作権という、これだけの収入を上げているものがあるのです」とお話ししたのですが、全然ご理解いただけませんでした。
 また、その後、1988年にアメリカで音楽出版社を銀行借入で始め、1998年ぐらいにはアメリカの音楽出版社の中ではメジャーに続く、インディーズでは1位、全体としても上位10社の中に入る音楽出版社に創り上げたのですが、ちょうどその頃、日本の銀行が不良債権処理ということで私たちのほうへ来ました。我々はその事業を全て借入でしておりまして、約6000万ドルを銀行から借りていました。ただ、銀行から借りて事業は行っていましたが、我々としてはそれまでに築き上げた著作権は資産として少なくとも1億5〜6000万ドルの価値はあるなと思っていました。しかし、銀行は「いやいや、朝妻さん。この会社は毎年赤字だし、いつ黒字になるかは分からないので、貸したお金は不良債権と認定せざるを得ません。だから、ともかくすぐ返してください」と言うのです。私は、「本当に1億5000万ドル以上あるので、絶対大丈夫です」と何度も説明したのですが、著作権の売買が本当に行われていることも、著作権に資産価値があることも一向に理解してもらえませんでした。結局、話していても判ってもらえないなら、ここで1回、音楽著作権がどれだけ価値があるのか、そして、本当に著作権の売買が行えるのだ、ということを銀行の方に知ってもらうのもいいのではないかと思い、1998年の後半から売りに出し、結局1999年に約2億ドルと少しで売却できました。ですから、6000万ドルの不良債権が実は2億ドル以上の優良な現金にかわったということで、我々としては折角全米のベスト10に入る素晴らしい音楽出版社を売らなければならないという内心じくじたる思いはありましたが、少なくとも著作権の価値を一部の金融関係の方に知ってもらうことができたのです。
このような過去の私の経験からして、最初に言いましたように今回のこの研究会やセミナーは我々にとってとても画期的な出来事だと言えるのです。

朝妻 一郎

我々が6000万ドルの投資をして、それが2億ドルで売れたというようにアメリカでは音楽著作権は一番確実に現金化できる資産であるといわれており、映画会社やレコード会社が経営難に陥ると、最初に自分の持っている音楽著作権を売ることを今までやってきています。例えばコロムビア映画は過去に映画がヒットしなくなって経営が苦しくなると、自分のところの音楽出版社が持っていた音楽著作権をすでに2度、売った経験をしています。
 また、20世紀フォックスの音楽出版社もワーナーミュージックに売られていますが、その結果、非常に奇妙なことが起こりました。20世紀フォックス映画をご覧になった方は覚えていると思いますが、最初に大きなブロック体の「20th CENTURY FOX」が出てきて、バックでオープニングのテーマがかかります。あの曲も実は20世紀フォックス・ミュージック・パブリッシングが持っていたのですが、ワーナーミュージックに売られたときに一緒に売られてしまいました。ですから一時期、20世紀フォックス映画は自分のところでつくる映画のオープニングは必ず競争会社のワーナー映画傘下のワーナー・チャペルが持っている楽曲という恥ずかしい事態が起こったのです。その後、ワーナーと20世紀フォックスがいろいろ交渉して、現在では20世紀フォックスがワーナーから買い戻していますが・・。
 それからRCAレコードがまだNBCの子会社だった頃に、レコードの経営が悪くなり、自社で所有していたサンバリー/ダンバーという音楽出版社を売り、現金収入を得て、経営を立て直しました。CBSレコードは株の買収事件があったために現金が必要になり、そのために自分たちが持っていたCBSソングス/BIG3を売りました。ポリグラムはドイツとオランダのジョイントベンチャーの会社で、何度かの買収の結果、現在ではユニバーサルになっていますが、CDの開発にお金を使ったために経営が苦しくなり、自分たちが持っていたチャペル/インターソングスという出版社を売りました。このように過去、何度もレコード会社や映画会社は自分のところの経営が困ると著作権を売って凌ぐということが起こっているのです。
 しかし、この数年は傾向が少し変わりました。バイアコムというMTVなどを傘下に有している放送会社が、パラマウント映画を買ったときに、買収資金が非常に巨大だったので、その買収資金を少しでも早く回収するために音楽出版社を絶対に売るだろうと思われていました。しかし、バイアコムはフェイマス・ミュージック・パブリッシング(Famous Music Publishing)という音楽出版社を売らずにマディソン・スクエア・ガーデンなど音楽、映画とは関係ない部分を売って音楽出版社をキープしたということが起こりました。それは音楽著作権が非常に重要だという意識がすでにバイアコムにあったわけです。これ以降、流れとが変わって来ています。

 

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