研究成果の概要
(1)研究主題
著作権についての意識を高めていく方法の改善
〜言葉の理解から意識としての理解へ〜
(2)研究のねらい
本研究のねらいは、
「著作権について児童および教師や保護者など地域ぐるみで目的意識をもって学習していこうとする環境を設定すること」である。
今までも著作権等の学習については、教材や学習形態を工夫することでより分かりやすく理解できるような研究が行われてきた。一方普段の学校生活では、児童・生徒、教師の回りで起きる著作権等の問題について、あまり問題化されずに見逃されていることもあった。つまり、学習したことが実生活の中においてはあまり生かされていない、児童・生徒の意識の中に浸透していかない「著作権についての教育」をどのように工夫していったらよいのかが著作権教育を行う上での課題であった。
そこで、自分自身の問題を解決する過程において発生する、本当に必要感のある著作権等の課題を克服していくことで、単に文言としての著作権やその活動の制限等の理解から、自分のイメージ、過去の体験との結びつき、人との関わりなどを含めた深い理解ができるようにしていきたい。
そのためには、児童・生徒にどのような学習の場を設定していくことが、著作権を学んでいくために有効なのかを検証していくことにした。
(3)研究の概要
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研究の方針
著作権についての意識を高めていくためには、児童・生徒が「著作権について知りたい」という関心を持てるようにすることが一番重要なことである。また同時にそれを指導していく教師や社会の著作権についての意識の向上も大切である。
そこで今回は、「ホームページコンテスト」を市内全80校の小・中学校を対象に行い、それに児童・生徒、教師や社会が関わっていくことで、わかりやすい目的のもと著作権についての意識向上を図っていくことにした。
つまり、児童・生徒にとっては、コンテストに応募するという目的のもと、自分たちの作った「ホームページ」が果たして公共の場にだしても大丈夫なのかという問題を解決していく。また、教師にとっては、児童・生徒が応募しようとしている作品が、著作権等数々の権利などを侵害していないのか、またどのようにそれを指導していけばよいかという問題を解決していく。さらに社会がその意図をくみ取りどのように関わっていけるかというように問題解決の輪を広げていく。 このように、児童・教師・社会が一体となって研究を進めていくことにした。
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研究1 「児童の著作権についての意識を高める学習の展開」
小学校6年生30名を対象に「自分たちの学校紹介をホームページコンテストに応募しよう」という目的で、授業を展開し、その中で専門家との関わりを通して、著作権についての意識を高めていった。
【授業の実際】
- 総合的な学習の時間 12時間
- 活動名 「花と小鳥とみどりの学校を みんなに伝えよう」
- 対象児童 6年生30名(内容によって2〜4名のグループに編成)
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授業の流れ
- ホームページとはどういうものかを知る…1時間
- 自分たちの伝えたい内容を考え、ページの構想を練る…2時間
- 取材をしたり、ホームページを作ったりする…5時間
- コンテストに出品できるのか、不安に思っていることについて専門家の話を聞いたりソフトを使ったりして著作権について学ぶ…2時間
(※別紙1「授業の概要」、および別添映像参照)- ※日常著作権に関わることの多い新聞社の人を外部教師として招く
- ※文化庁学習ソフト「これであなたも著作権何でも博士」を利用
- 自分たちの作品を見直し、改良する…2時間
- ※教育委員会 情報担当指導主事を外部教師として招く
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研究2 教師や大人の著作権に対する意識の高揚
コンテストを行うのは初めてということもあり、県、市の教育委員会から後援を受け、市の小中学校の情報教育部会、宇都宮大学の教育実践総合センターの主催、またNTT、新聞社の協力のもと、「ホームページコンテスト」を立ち上げた。このコンテストは必ず学校を通し応募することで、教師の著作権等に関する意識も高めていくことにした。
【ホームページコンテストの開催】
- コンテストの目的
- 小・中学生が創意工夫しながら楽しくホームページを作成することを通して、著作権の概念、個人情報保護などの人格問題、情報を受けとる様々な人への対応などの情報モラルを学習していく
- 対象
- 宇都宮市内小中学校、全80校の児童・生徒(来年は全県下)
- コンテストの流れ
- 9月 全校へ実施要項を配布する。
各校の学校長、情報担当者へコンテストの趣旨と積極的な参加を呼びかける。 - 11月〜1月 作品募集
この間、コンテスト広報用ホームページを宇都宮大学教育学部実践教育総合センター内に立ち上げ、その中に著作権等の質問コーナー(対応は新聞社)を設ける。また新聞社ホームページにもバナーを作成してもらい、一般社会にもコンテストについて広く伝えるようにする。
(※別紙3 「コンテストの広報状況」参照) - 2月 作品審査
著作権については、避けて通るのではなく、積極的に解決しようとしているという項目を審査基準に設ける - 3月 結果報告、優秀作品掲載(http://et.mine.utsunomiya-u.ac.jp/hpcon/)
- 9月 全校へ実施要項を配布する。
- コンテストの目的
(4)研究の成果
【成果】
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児童
- 著作権が言葉だけの「権利」としての理解から、「難しいもの」「人の持っているもの」「その人に確かめることが大切」と理解を深めることができた。
(※別紙4 「授業前後のイメージの変容」、「授業後のホームページの例」参照)
- 著作権が言葉だけの「権利」としての理解から、「難しいもの」「人の持っているもの」「その人に確かめることが大切」と理解を深めることができた。
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教師
- コンテストを目指したホームページ作成の授業をとおして、以下のことが明らかになった。
問題意識を十分に高めた上で、著作権について学ぶことで児童の深い理解につながること
「ホームページを作った後の時間」を情報教育で大切にしていかなければならないこと
- コンテストを目指したホームページ作成の授業をとおして、以下のことが明らかになった。
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社会
- コンテストについて新聞掲載や新聞社ホームページにバナーを貼ることで、そこからのアクセスやいろいろな団体からの反響で、学校での著作権教育についての関心の高さを知ることができた。
文化庁学習ソフト「これであなたも著作権何でも博士」
- 問題は児童の学校生活に合ったもので、積極的に活用できた。
- ただのゲームで終わらないように、ソフトを使う前の著作権についての解決意欲を十分に高めておく必要がある。
【課題】
今回は「コンテストに応募する」という場を提供することで、児童に関わる教師の意識も高めていこうとしたが、さらに、学校や社会が著作権等の権利についての大切さを理解し、全教育活動の中でそれらの啓蒙を図っていこうとする意識を高めていく方法をさらに追求していく必要がある。