平成22年度 千葉大学教育学部附属中学校

研究成果の概要

(1)研究主題

新学習指導要領に対応した著作権教育のあり方に関する研究

(2)研究のねらい

教育の情報化に伴って情報教育が推進されてきた。一方、ネットいじめやケータイ依存など、子ども達を取り巻く情報社会の問題点も指摘されるようになってきた。そのため、情報社会の影の部分にあたる情報モラル教育の充実が求められるようになり、新学習指導要領にも各教科等の中に情報モラルという言葉が多く登場するようになった。
その情報モラル教育の中核をなすものの1つに著作権がある。著作権に関しては情報社会以前から存在していたものであるが、ディジタルデータが誰でも簡単に複製できる時代となり、その問題性がより注目されるようになってきた。新学習指導要領でも情報モラルという言葉以外に、知的財産権や引用など、著作権に特化した言葉も登場してきたほどである。
そこで本研究では、新学習指導要領のもと、各教科等の連携を図り、限られた時間の中でより良い著作権教育の実践を目指し、そのあり方について追求することとした。

(3)研究の概要

  1. 初等中等教育で扱う具体的な著作権教育の内容の整理

    昨年度は、新学習指導要領及び新学習指導要領解説に記述されている著作権に関する内容を整理した。それをもとに、本年度は著作権に関して、いつ、どこで、具体的にどのような内容を扱うべきか、の整理を行い一覧表にまとめた。
    また、著作権に関しては小中高とスパイラル的に取り組んでいくべきものなので、発達段階に応じて以下のような目標を設定してみた。そして、具体的に扱う内容を学校種に分類するときの拠りどころとした。

    • 小 学 校:他人の著作物を尊重する気持ちを養う
       小学校段階では、主に身近な人たちを対象とし、著作者の気持ちなど心情に訴える道徳的要素の強い内容を中心とする。
    • 中 学 校:著作権に関する基本的な考え方と態度を身につける
       中学校段階では、小学校段階での学習を踏まえ、主に身近な人たちから社会一般を対象とし、著作権のルールや権利と義務など、社会人としての視野に移行していく内容を中心とする。この段階で、著作権に関する基本的な考え方や態度を身につけさせる。
    • 高等学校:著作権法を理解し、遵守する態度を身につける
       高等学校段階では、中学校段階での学習を踏まえ、主に社会一般を対象とし、法の遵守や経済的損失など社会人としての視点を重視した内容を中心とする。
  2. 技術・家庭科の技術分野における具体的な授業実践

    扱う内容については、教科の特性を踏まえ、情報技術及び情報通信ネットワーク技術の特性から著作権を捉え、絞り込むことが大切である。具体的には、ディジタルデータは容易に複製ができること、情報通信ネットワークを通して容易にディジタルデータのやりとりができること、著作物を不特定多数に容易に公表できることなどがあげられる。
    授業形態は1単位時間とし、具体的な事例を通して思考し、判断する時間をできるだけ多く確保するようにした。
    また、本研究時は新学習指導要領の移行期ということであったので、3学年においても授業実践している。しかし、新学習指導要領では技術分野の中で情報教育を扱う時間が縮減されたため、情報教育の中で著作権に関して扱える時間も削減せざるを得なくなってきた。そこで、新学習指導要領実施後は1学年においてのみ授業実践する予定でいる。

    • 1学年での授業実践
      まず、導入の場面で著作権という言葉の意味について、「権」という漢字に注目させ、著作物を作成した人を守るための権利であることを確認した。そして、権利者の視点から著作権を考える姿勢が大切であることを確認した。また、簡単な3択クイズを通して、著作物の種類や著作権の特徴について学習させた。
      次に、中高生の間で実際に起こった事件や中高生の間で実際に問題となっている事例を3つ取り上げ、どこがいけないのか、なぜいけないのか、どうすればよかったのかを考えさせた。
      1つ目の事例は、ファイル共有ソフトを使って、違法に入手したゲームソフトを友達に配ったことを自分のブログで紹介したため、不特定多数から非難を浴び、ブログ炎上状態になった高校生のニュースをアレンジした。
      2つ目の事例は、人気漫画をディジタルカメラで連続撮影し、それを動画投稿サイトに投稿したために、著作権法違反で逮捕された中学生の事件をアレンジした。
      3つ目の事例は、違法着うたサイトの利用者が、中学生が最も多いというデータを示し、著作権法の改正で違法サイトからのダウンロードも同様に違法になることを扱った。
      そして、まとめとして、他人が創った著作物に対して、どのような態度で対応することが良いのか、権利者の視点から考えさせた。
    • 3学年での授業実践
      まず、1学年での復習をかねて、著作権に関する○×問題を10問行った。
      次に、独立行政法人教員研修センターが提供しているWeb教材「情報モラル研修教材2005」(http://sweb.nctd.go.jp/2005/index.htm)を活用し、具体的に文化祭で起こりうる著作権に関する問題について考えさせた。その教材に絡み、著作者人格権や著作隣接権の考え方について紹介した。
      また、これも同様のサイトから、ファイル共有ソフトの仕組みを確認させ、何が問題なのかを考えさせた。そして、著作権法の改正により、音楽データや映像データを違法と知りながらダウンロードすることも違法になること、コンピュータウイルスに感染して個人情報が流出する危険性があることについて指導した。最後に、このような著作権違反を幇助するようなソフトウェアを開発することの是非について、自分の立場をはっきりとさせ討論させた。
      最後に、著作権の利用制限の例外事例として、代表的な私的利用の範囲内、引用の範囲内、教育活動の範囲内を紹介した。その際、線引きが甘くならないように注意を促した。
  3. 短学活における指導例の検討

    生徒にとって大きな学校行事である文化祭と関連づけて、著作者人格権や著作権法35条(学校その他の教育機関における複製)の内容について理解させる活動である。学校は教育活動を円滑に進めるために特別に「学習者による複製」が法律によって認められていること、また、認められている範囲を中学生段階で理解して活動させることによって、遵法精神を育成できると考える。

(4)研究の成果

  1. 初等中等教育で扱う具体的な著作権教育の内容の整理

    著作権に関する内容は幅が広く、奥が深い。これらの内容全てを学校教育で行うことは時間的に不可能である。そこで、学習指導要領を踏まえ、初等中等教育で扱うべき内容を具体的に53項目あげ、扱うべき学校種及び学習場面を一覧に整理することができた。(資料1

  2. 技術・家庭科の技術分野における具体的な授業実践

  3. ◆1学年での授業実践
    中高生の間で最近実際に起こった具体的な問題事例を取り上げたため、著作権をより身近な問題として考えさせることができた。(資料2

    ◆3学年での授業実践
    発達段階を考慮し、1学年よりも高度の内容を取り上げ、著作者人格権や著作隣接権の考え方やファイル共有ソフトの問題性について扱うことができた。(資料3
    特に、違法性の高いファイル共有ソフトを制作することの是非については、意見がちょうど半分に分かれ、討論が盛りあがった。ここでは生徒の意見をいくつか紹介する。(資料4

  4. 短学活における指導例

    授業として1時間扱いで実践するのではなく、短学活の中で必要に応じて扱えるような形式で指導例を作成することができた。具体的には「文化祭の学級発表を宣伝するポスターに、アニメのキャラクターを使用する」という生徒の学校生活の中で身近にありがちな事例を取り上げ、技術・家庭科(技術分野)で学んだ著作権についての知識を活用させ、その問題性について考えさせるという内容である。 (資料5

※最後に、直接本研究とは関係ないが、情報モラルに関する保護者への啓発として、保護者向けリーフレットを作成して配布した。その中で、著作権に関する内容に関しても扱ったので、その部分を紹介する。(資料6) 

◇課題
  1. 初等中等教育で扱う具体的な著作権教育の内容の整理に関して

    初等中等教育で扱う具体的な内容として53項目あげたが、これらの項目をさらに精査し、取捨選択していく必要がある。ただし、著作権教育として扱える時間には限りがあるので、その点を考慮し、扱う具体的な内容の優先順位をつけていくことも今後の課題としてあげられる。

  2. 技術・家庭科の技術分野における具体的な授業実践に関して

    新学習指導要領実施後は1学年で1時間しか予定していない。したがって、3学年で行っている内容については高等学校の「情報」の授業の中で行っていただくことを期待したい。ただ、内容的にも時期的にも中学校の段階で扱いたい内容でもある。できるだけ3学年でも扱えるよう時間の調整を今後していきたい。

  3. 短学活における指導例に関して

    使用するアニメのキャラクターに対する著作者人格権がどの程度までが許容範囲であるのかなど、指導者が判断に迷う場合が多々ある。法律の条文のみでは判断しかねることがあり、今後は指導者、学習者にも理解が可能な資料作成が必要であろう。