奈良県002

旧佐伯邸

  • 1965年竣工
  • 設計/村野・森建築設計事務所
  • 施工/(株)大林組
  • 構造形式/木造2階建、寄棟造桟瓦葺及び銅板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/奈良県奈良市

旧佐伯邸は、昭和30年代から住宅地開発がなされた近鉄学園前駅から北約2kmにある大淵池の北岸に立地している。昭和40年に近鉄社長の佐伯勇氏の住宅として村野藤吾氏によって設計され、平成元年に佐伯氏が亡くなった後、敷地内に松伯美術館が建設され、同美術館の施設となり、茶室を貸席する等の利用がされている。
3,300坪にも及ぶ広大な敷地に建つ邸宅の前庭兼車寄せは、そのゆったりとした広がりとしだれ桜や門脇の松が出迎え、門内への期待が高まる。軒先高も内側で低く抑えた門から主屋に至る中庭に面した回廊の露地構成は、茶の湯の精神に通じる謙譲の佇まいを感じさせる。
南斜面の大淵池に面した丘陵地の良さを十二分に生かした数寄屋系建築で、雁行型プランによる外周壁の最大化を図り、屋外景観を存分に取り込んだ庭屋一如の構成は伝統的日本建築の真髄に通じる。
建築南側に松林を造成し、対岸からの視覚上のプライヴァシーを守りつつ、建物高さも極力抑え環境造成として池に映える美観を維持している。
北側の門から外部渡り廊下をとおり辿りついた玄関と応接室の東側には、来客用の和室と茶室があり、西側には居間、食堂に続く主人室、厨房等の個人住宅の部屋が配置され、公私が分離されている。一部2階建て部分は子供部屋がある。
茶室は水屋をはさんだ中板付十畳半台目と4畳半があり、4畳半は下座床で、平天井と突上げ窓付き掛け込み天井で構成され、平天井の回り縁と天井板の間には女竹を入れる。中板付十畳半台目の茶席は、表千家残月亭床の間の形式を取り入れ、池に面した景色が望める。
内部は昭和40年当時のままの部分がほとんどで、厨房は当時、最新設備のシステムキッチンで米国製の食器洗浄機やディスポーザーが設置され、ラワン合板や真鍮金物を使った内装や戸棚が残る。2階の子供(娘)部屋の襖は桜花片が描かれ縁もピンク色に塗られ、個人性を反映している。
旧佐伯邸は、近代和風住宅の好例であり、図面資料も保存されていることから、村野藤吾の伝統理解と近代住宅への理解を示す作品としての意義もある。