三輪山本は創業300年余りの老舗であり、東に三輪山を望み、箸墓古墳の麓に面した敷地に、第1期の1978年9月に始まり第3期の1983年4月竣工まで4年6カ月をかけて建てられた建築である。目立たない建物とし、人々が寄り付きやすく親しみやすい建物という施主の山本氏の条件に対し、設計者の狩野氏は三輪山と勾配を合わせた寄棟瓦屋根によって、おおらかさと風格を持った形態を実現し、まるで三輪山と対峙してその昔から変わらず存在しているかのようである。建物に近づくと成長した樹木と共に軽快な深い庇に迎えられ、内部はモダンで明快でありながら、事務所・ロビー食堂棟、工場棟、倉庫棟とそれぞれのスケール感に合わせた空間構成は的確である。事務所、工場、ロビー食堂に囲われた中庭は静寂と精神性を併せ持つ空間である。そして3期工事で生まれたフラットルーフは、目前に葺き上がる瓦とその向こうの三輪山を目にすることのできる絶妙の場を創り出している。東大寺にも瓦を提供している窯元が製作した瓦がもたらす肌理や、ジュラク壁などの伝統的な素材を用いながら、将来に通じる空間構成をもつことで、その空間には安定感の中に研ぎ澄まされた緊張感ももたらされている。
40年たった現在、一部食事施設や体験展示施設に変化したところもあるが、ほぼ当初の状態を見ることができる。のびやかな大屋根、越屋根、背景の三輪山によって、屋根と風景の関係を見事に昇華してみせた建築である。
受賞歴等/吉田五十八賞・BCS賞・BELCA賞・JIA25年賞・奈良県景観調和デザイン賞・グッドデザイン賞・きれいな奈良県づくり功労賞