2023年01月30日
パブリックドメインで公開して得られること
足立区立郷土博物館 学芸員 多田文夫
2015年 パブドメ公開やってみた
足立区立郷土博物館では、著作権の保護期間が終了した博物館資料のデジタルアーカイブをパブリックドメイン(以下パブドメと略します)として公開しています。2015年の公開から今年度で7年が経過し、予想した反応、予想外の結果も経験することが出来ました。メリットとデメリットをふくめてレポートしてみたいと思います。
足立区立郷土博物館
来館が難しい人たちが見えてくる
足立区立郷土博物館は東京特別区の一つの区が運営する小さな博物館です。現在、デジタル化とウェブ公開の展開として、常設展示はGoogleマップのストリートビュー機能を用いたバーチャルツアー(2020年5月導入)や、最新の特別展『琳派の花園あだち』展もウェブ上でご覧いただけます(2022年10月から導入)。
常設展示=https://www.city.adachi.tokyo.jp/hakubutsukan/virtual-tour.html
特別展『琳派の花園あだち』=https://rimpa-adachicitymuseum.jp/
公開によっていただいた反応からは、「時間的に難しいから良かった」「外出が大変なのであって助かる」等々、ご来館が難しい人々の姿が見えてきました。高齢、距離、時間など理由は様々ですが、利用していただいた方からのお声から、様々な形の来館ハードルの存在が具体的に視野に入ったこと、このことが大切な気づきでした。
終了した特別展『琳派の花園あだち』2023年3月までご覧いただけます。現在、保存を検討中。
=https://rimpa-adachicitymuseum.jp/
導入ハードル 入館者数と有償化
ウェブ公開の導入を検討するにあたって、お約束とも言えるハードルが「入館者数が減るのでは?」「有償利用にしたら?」の二つです。このうち入館者については杞憂に終わりました。むしろ、ウェブ公開を進めた展覧会こそ入館者数が多いのです。次に「有償で稼げ」についてですが、これは博物館によって個別に事情が違うでしょう。足立区のコレクションは、一部を除いて住民や関係者の無償の寄贈、寄託で出来ています。収集・資料管理の現場では寄贈者さんから「多くの人に見てほしい」という願いが添えられるので、ウェブ公開やパブドメでの利用も寄贈者の願いと合致します。そこに有償という制限をかけるほうが不自然だったのです。
パブドメだと商品化もあり壁もあり
さてパブドメ公開で経験したことの意外な結果は商品化に関する事項です。公開して商品化の連絡がありました。スマホケース、帯のデザインへの利用等などです。ところがある全国企業オーナーから「独占して商品化したいから特約を」検討したいというものです。打診の理由は「商品化し広告費かけて売り出しても、コピー商品が作られるから」ということです。独占利用を取り決めることは他の利活用が制限されてしまうことにつながるので、これは予想外の壁であり、今後の課題となっています。
2016年の商品化の紹介(近藤やよい足立区長による)
https://www.city.adachi.tokyo.jp/hisho/ku/kucho/20160614-mainichi.html
もう一つ予想外だったのは、海外からも画像利用についての確認のお話がきたことです。デザイン企画段階においても自由に使えることに加え、仮に企画が実現した折にも安心して素材利用できることが理由のようでした。区立の博物館では普段出会えない人との交流でした。ネット公開はあっさり国境を越えていくと実感しました。
まわりの関連施設や海外では常識だった
2015年に始まったパブドメは容量の制限から小規模でした。2017年には収蔵品管理システムを拡張し運用し始め、PRもはじめました。すると「なぜか」話題となり多くのご質問やご意見を頂戴しました。
ダウンロード可の公開頁=https://jmapps.ne.jp/adachitokyo/
Twitterのまとめ記事=https://togetter.com/li/1134747
パブドメ公開のベースとなった収蔵品検索システム
オープンデータ内のダウンロードボタン(赤矢印)パブリックドメインで公開中。
「なぜか」としたのは、導入当時でも図書館や文書館ではウェブ公開とダウンロード機能が広がっており、欧米では博物館資料は公共財としての認識からパブドメが常識でした。つまり周りには、先行例が沢山あったので「なぜか?」と不思議に思ったのでした。最近では、少しずつですがパブドメ公開する館も増え、利用の幅が拡がってきたように感じています。
さらに、近年のコロナ禍で、ウェブ公開の重要性と利点が大きく注目され「おうちミュージアム」のような取り組みに参加することで、全国的に発信することができました。
おうちミュージアムの紹介=
https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/museum/museum_055.html
足立区立郷土博物館のおうちミュージアム=
https://www.city.adachi.tokyo.jp/hakubutsukan/ouchi_museum.html
ツールと実感 見えるもの、つながるもの
公開から7年、パブドメでの資料公開やウェブ上の展覧会も、博物館に来るのが難しい人たちへの利活用ツールとして不可欠です。これからパブドメ公開は「常識化」していくでしょう。導入して何よりのメリットは、パブドメが一般化した先のことが見えることです。例えば展覧会自体のアーカイブ化(今までは写真と図録くらい)や、新たにつながる意外な人との交流、市民の多様な利活用による資料の新しい価値の発見です。要するに「やってみた」ら得るものがたくさんだったのです。
足立区立郷土博物館
〒120-0001
東京都足立区大谷田5-20-1
- 問合せ
- 03-3620-9393
hakubutsukan@city.adachi.tokyo.jp - 交通
- バスでお越しの場合:
常磐線・亀有駅から
亀有駅北口→足立郷土博物館(徒歩約1分) - 開館時間
- 9:00~17:00(最終入館16:30)
- 休館日
- 【令和7年3月末まで改修工事のため休館となります】
毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始12月29日~1月3日
展示入れ替えに伴う臨時休館日があります。
無料公開日=毎月第2、第3土曜日ほか - 観覧料
- 一般(高校生以上)200円、70歳以上の方と中学生以下無料
- ホームページ
- https://www.city.adachi.tokyo.jp/hakubutsukan/index.html