2023年5月2日
「デジタルアーカイブ」
「ミュージアムのDX」のゴールはどこ?(前編)
東京富士美術館 学芸課長 鴨木年泰
「デジタルアーカイブ」「収蔵品データベース」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「オンライン展覧会」これらは最近、美術館の現場でちらほら耳にすることが多くなってきたワードです。ミュージアムの設立ラッシュから開館ウン十年を迎え、老朽化した設備の大規模リニューアルや建て替えに合わせて、ミュージアム機能のDX化の推進やデジタルアーカイブの整備に取り組むといったお話もよく聞くようになりました。直近の博物館法の改正で博物館の事業に「博物館資料のデジタルアーカイブ化」が追加されたことも話題になりました。
そこで今回は、デジタル技術を活かした収蔵作品情報管理からオンライン上でのミュージアムの新たな活動までをテーマに東京富士美術館の最近の取り組みを紹介したいと思います。
東京富士美術館の常設展示室に展示されている作品には、作品名や作家名などを日・英・中・韓の4ヶ国語で表示したキャプションの隅に、QRコード(※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標。以下同様)を表示しています。鑑賞者は自分のスマホでこのQRコードから美術館HPの該当作品の詳細ページを表示し、解説や、作品のこれまでの展覧会出品歴、来歴、高精細画像、音声ガイド、学芸員のギャラリートーク映像などを楽しむことができます。

常設展示室に使用している4ヶ国語表記キャプション

キャプションに表示されたQRコード
これを実現できたのは、収蔵品データベースを館内の学芸業務を行うためのツールとして位置付けて、データベースの維持管理がそのままウェブサイトへの情報発信に直結できるような業務フローを工夫したことによります。例えば学芸員の業務として行う収蔵品の貸出記録をデータベースで管理し、その結果蓄積した貸出記録がウェブサイトに掲載されるようになっています。来館者は展示室からQRコードを通してウェブサイトにアクセスし、作品の前でその作品が過去にどういった展覧会に出ていたのかを知ることができ、作品を異なる展覧会の文脈からよりよく理解することができます。
さらに当館ではもう一歩踏み込んで作品に付属したICタグとハンディターミナル端末を使って、作品のアドレス管理を行っています。ハンディターミナル端末で、誰が、いつ、何を、どこからどこへ移動したのか、という履歴がデータベースに蓄積されていきます。作品の貸出後に書類をもとに入力される記録とともに、実際の移動時にハンディターミナル端末による移動履歴が記録されることになり、事務手続きと移動作業の両面から「収蔵品の移動を記録する」という学芸員のお仕事になっているというわけです。

作品に付属したICタグ

ハンディターミナル端末
そして同じ仕組みを使って、ウェブサイトの収蔵品ページから、現在常設展示室で見ることのできる作品、今後展示予定の作品、また他の展覧会への貸出予定作品、貸出中の作品、過去の出品歴などについていつでも簡単に知ることが可能です。このようにデジタル技術は工夫次第で館内業務の合理化・効率化と同時に作品情報の外部への共有を両立できる可能性を持っています。
・・・(この続きは、後編で!!)
東京富士美術館
(住所)〒192-0016
東京都八王子市谷野町492-1
- 問合せ
- 042-691-4511
- 交通
- JR八王子駅または京王八王子駅から西東京バスで15〜20分 詳細はホームページをご覧ください
- 開館時間
- 2023年7月15日(土)まで設備改修工事のため全館休館
- 2023年7月16日(日)以降 火曜日~日曜日 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(祝日の場合は開館。翌火曜日は振替休館)
- 観覧料
- 設備改修工事のため全館休館中(2023年7月15日まで)
- ※入場料金は展覧会によって異なります。
- ホームページ
- https://www.fujibi.or.jp