2023年5月25日
「デジタルアーカイブ」
「ミュージアムの DX」のゴールはどこ?(後編)
東京富士美術館 学芸課長 鴨木年泰
では美術館が収蔵品データベースを整備し、収蔵品のデジタルアーカイブ化を推進すると何ができるようになるのでしょうか。これまでよく耳にしたのは、デジタルアーカイブ化により広報的な効果がある、また、検索によって作品の所在や情報を簡単に知ることができるようになる、などです。果たしてこれがデジタル化のゴールなのでしょうか。
東京富士美術館では2020年8月にジャパンサーチが正式公開された際に連携機関として参加しました。そして、2022年8月29日から2023年7月15日まで設備改修工事のための約1年間の長期休館をするにあたり、ジャパンサーチのギャラリー機能を使ってオンライン展覧会をリリースしました。コロナ禍をきっかけに話題となった「おうちミュージアム」参加プログラムとして、これまでの美術館のポスターには珍しい休館中のオンライン展覧会を告知するポスターを作成することにしました。

オンライン展覧会のポスター(B3判)
今回は当館が過去に開催した収蔵作品による企画展を題材に、ジャパンサーチのギャラリー機能でオンライン展覧会を作成し、ポスターに表示したQRコードから見ることができるようにしています。リアルな展覧会ではない、長期休館中のオンライン展覧会のポスター展開は、かなり珍しいチャレンジングな事例と言えるのではないかと思っています。このポスターは東京の多摩地域に広く掲出され、ポスター掲出を始めた9月のページアクセス数は、それ以前の月間数十アクセスから急増して約45,000アクセスとなりました。その後もコンスタントに月間1,000〜2,000アクセスを維持しています。

ポスターに表示されたオンライン展覧会にリンクするQRコード
オンライン展覧会と聞くと、VR(Virtual Reality:仮想現実)を思い浮かべる方も多いと思いますが、ジャパンサーチのギャラリー機能を使って作成した今回のオンライン展覧会では、展覧会開催時の挨拶文や紹介映像、展示構成に沿って章ごとに展示作品の収蔵品情報を配置しました。画像のサイズや説明文のレイアウトは、いくつかの表示形式から選択することができます。構成要素や素材も自由に選択できるので、見せ方についてまだまだいろいろと工夫することができそうです。ジャパンサーチには、このように収蔵品情報を活用できるギャラリー機能が備わっている点に大きな可能性を感じています。さらに注目したいことは、今回当館が作成したオンライン展覧会と同等のギャラリー作成機能がマイノートやマイギャラリーといったジャパンサーチの基本機能として、ユーザーが誰でも利用できるようになっているということです。
このようなユーザー向けのギャラリー機能を、自館のウェブサイトで自前でサービスを提供することはとても難しいことです。まして、自館以外の収蔵品情報も利用可能な大きなプラットフォームの中でこのサービスが実現されていることも特筆すべきことだと考えています。かつてSNSの登場が情報発信の門戸を大きく開いたことと同様に、ジャパンサーチの利用者向けのリッチなサービス機能は、これまでアーカイブ機関や学芸員に囲い込まれていた収蔵品情報を開放して、展覧会の作成・キュレーションを誰もができるようになる状況を生み出すのではないでしょうか。一連携機関の担当者としても、自館の収蔵品情報が単に“知られる”のみならず、広く“利用される”ことが当たり前となったときに何が起きるのか高い関心を持っているところです。
これまでの美術館のウェブサイトでは収蔵品データベースを構築してデジタルアーカイブを整備し、収蔵品情報をウェブサイト等で紹介することがゴールの設定になっていたといえますが、収蔵品情報そのものはあくまで素材であり、これからは収蔵品情報を使って作るオンライン展覧会がゴールになるのではないかと思っています。また適切にキュレーションされて作成されたオンライン展覧会はそれ自体が優れた検索ツールとしても機能することにも注目していきたいと思っています。美術館が取り組むデジタルアーカイブの未来はすなわち、本当の意味で収蔵品情報を活用する未来であり、あえて誤解を恐れずにいえば、美術館の学芸員だけがキュレーションできた展覧会が、デジタル=オンラインのツールで誰でも企画し、鑑賞し、楽しむことができる展覧会になる未来がすぐそこまできていると言えるのではないでしょうか。
東京富士美術館
(住所)〒192-0016
東京都八王子市谷野町492-1
- 問合せ
- 042-691-4511
- 交通
- JR八王子駅または京王八王子駅から西東京バスで15〜20分 詳細はホームページをご覧ください
- 開館時間
- 2023年7月15日(土)まで設備改修工事のため全館休館
- 2023年7月16日(日)以降 火曜日~日曜日 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(祝日の場合は開館。翌火曜日は振替休館)
- 観覧料
- 設備改修工事のため全館休館中(2023年7月15日まで)
- ※入場料金は展覧会によって異なります。
- ホームページ
- https://www.fujibi.or.jp