2025年3月14日
文化庁 文化財第二課・文化資源活用課
イベント概要
2024年11月22日(金)に開催された、小説家の万城目学さんと脚本家の吉田玲子さんによるトークショー「建物と物語が交わる瞬間」の前段として、文化庁の西岡調査官(建造物担当)より、文化財保護の観点から建物に日々向き合う中で感じる建物や空間の魅力、そしてマンガ・アニメなどの物語に登場するいくつかの建物や空間を紹介しました。

西岡 聡(にしおか さとし)
文化資源活用課 震災対策部門 文化財調査官

会場(京都市京セラ美術館「光の広間」)
我々文化財調査官は、貴重な歴史的建造物の調査を行い、新しく国宝や重要文化財に指定したり、登録有形文化財などに登録したり、重伝建地区(いわゆるまちなみ)に選定する業務を主に行っています。また、建造物の保存修理、地震や火災に備えるための防災設備の設置、文化財建造物の活用に対する指導・助言も行っています。
「文化財」というと寺社仏閣を想像しがちですが、文化庁では文化財保護法に基づき、明治期からの近現代建造物も重要なものを文化財として指定し、保護に務めています。現代社会の中で稼働している近現代建造物は、修理や改修を行いながら継続的に活用していくことが保護にもつながります。今回ゲストとしてお招きした万城目さん、吉田さんの魅力的な建造物がマンガ・アニメの舞台として描かれることは、一般の方々への文化財に関する理解促進につながるとともに、建造物の保護や活用について関心を持つきっかけとなり得ます。そのようなマンガ・アニメの舞台となった建物・空間の例をいくつかご紹介します。
―まずは、京都市美術館本館について
イベント会場である京都市京セラ美術館「光の広間」は、建てられた当初は中庭だった場所で、そこに近年の改修で新たに鉄骨の屋根をかけて、魅力的な空間を作ったという場所になります。そもそもこの建物(京都市京セラ美術館)は、昭和8年に建てられた現存最古の公立美術館で、日本風の勾配屋根を乗せているという特徴があります。また、外観デザインについても、彫刻が幾何学的にアレンジされたり、外観のタイルにはスクラッチタイルに似たものが使われていたりと、当時の流行を反映したものになっています。これらの特徴をちゃんと生かした形で改修されたこの空間を味わいながら今日の話を聞いていただければと思います。
―物語の「舞台」についてご紹介
物語の中で舞台として使われた場所は、多くのファンが訪れる場所になることがあります。京都市にある出町桝形商店街は吉田さんが脚本を書かれた『たまこまーけっと』の舞台となりました。一方で、物語とは無関係ですが、アニメ作品のキャラクター像などがつくられることで多くの人が訪れることもあります。福岡市の商業施設は、ガンダムの物語とは無関係ですが、そこに「νガンダム」の実物大立像がつくられ、国内外から多くのファンが訪れる場所になりました。これらの場所を紹介するムック本も出版されています。


© 創通・サンライズ出展

出典:KADOKAWA
(写真左)所在地:京都府京都市 出町桝形商店街
ゲスト・吉田さんが脚本を手掛けた『たまこまーけっと』の舞台
(写真中央)所在地:福岡県福岡市の商業施設
敷地内に「νガンダム」の実物大立像が登場し話題になった
※概要についてはページ下部に記載
(写真右)アニメの舞台となった場所や関係する場所を紹介するムック本
―文化財調査官が見る物語の舞台
ゲストのお二人の作品の舞台となった建物・空間を中心に、いくつかご紹介します。
①鴨川デルタ
所在地:京都府京都市
作品:アニメ「けいおん!」・「たまこまーけっと」(吉田さんが脚本を担当)
映画「鴨川ホルモー」(万城目さん原作)
解説:京都市中心部から鴨川を北に上ったところにある、川がY字型に合流する地点は「鴨川デルタ」と通称され、多くの物語で紹介されています。

鴨川デルタ
②旧網走監獄 ―国指定重要文化財
所在地:北海道網走市
作品:「ゴールデンカムイ」
解説:アニメ化、実写化もされた野田サトルさんによる漫画「ゴールデンカムイ」には、北海道にある文化財や文化財に相当する古い建物が数多く登場しています。そのなかで印象的な建物が旧網走監獄で、作中では囚人が逃げ出すなど、この建物を中心に物語が展開します。現在は監獄としての役目を終え、博物館・網走監獄として活用されています。

網走監獄

網走監獄
③豊郷小学校校舎 ―国登録有形文化財
所在地:滋賀県犬上郡豊郷町
作品:アニメ「けいおん!」(吉田さんが脚本を担当)
解説:建築家として著名な宣教師ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計による昭和初期の校舎で、簡素なデザインが特徴の建物です。作中では、階段の手すりにある、うさぎとかめの像が印象的に描かれています。建物の一角に作品に関する展示があるほど、長きにわたって親しまれている場所でもあります。

豊郷小学校
④旧日本銀行京都支店(京都文化博物館) ―国指定重要文化財
所在地:京都府京都市
作品:アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(吉田さんが脚本を担当)
解説:ヴァイオレットが働く郵便社のモデルとなったこの建物は、辰野金吾・長野宇平治の設計によるもので、明治39年に完成しました。外観は赤煉瓦に花崗岩で白色の帯を回して装飾されていますが、これは東京駅などを設計した辰野が多用した設計手法で、「辰野式」と呼ばれています。万城目さんの小説「プリンセス・トヨトミ」でも、この「辰野式」をモデルとした建物が登場します。

京都文化博物館
⑤京都大学百周年時計台記念館
所在地:京都府京都市
作品:「鴨川ホルモー」(万城目さん原作)
解説:作中に登場する大学のモデルとなった、京都大学の時計台も大正時代の建物です。京都大学の教授であった武田五一が設計したもので、装飾を抑えた平坦なデザインが特徴です。

京都大学百周年時計台
⑥大阪城天守閣 ―国登録有形文化財
所在地:大阪府大阪市
作品:「プリンセス・トヨトミ」(万城目さん原作)
解説:作品のタイトルにもあるように、大阪城といえば豊臣の居城ですが、現在は豊臣滅亡後に徳川によって整備された天守台が残されています。その上に建てられた現在の天守閣は、昭和6年に復興されたもので、石垣の上に鉄骨鉄筋コンクリートの建物を作る技術力をもって、絵図から豊臣時代の姿を追求した、復元復興天守のさきがけとしても評価されています。

大阪城
⑦旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設 ―国指定重要文化財
所在地:長崎県佐世保市
作品:NHKドラマ「17才の帝国」(吉田さんが脚本を担当)
解説:海軍が通信施設としてつくった施設で、高さ136メートルの3本の無線塔と電信室が重要文化財に指定されています。電信室を中心に無線塔が正三角形の頂点に建ち、そのまわりを円形の道路が囲むという、魔法陣とも思えるような幾何学的な配置が、物語の舞台としても魅力的です。

針尾送信所
⑧旧五輪教会堂 ―国指定重要文化財
所在地:長崎県五島市
作品:アニメーション映画「きみの色」(吉田さんが脚本を担当)
解説:キリスト教の信仰が盛んな五島列島に建てられた、数少ない明治初期の木造の教会堂のひとつです。瓦屋根の簡素な外観に反して内部は本格的な教会のつくりになっています。作中では夜遅くまで楽器の練習をして、そのまま夜を明かすという印象的なシーンの舞台として使われました。

旧五輪教会堂

旧五輪教会堂
本日のトークショーでは、私たちが普段業務で携わっている’’建物’’が物語にどうリンクしていくのか、物語にとって建物がどう使われていくのか、というようなお話がお伺いできればと思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
トークショー記事はこちらから
近代化遺産(建造物)の魅力発信イベント「建物と物語が交わる瞬間―万城目学氏と吉田玲子氏が描く空間―」 (2024年11月22日開催)レポート - 文化庁広報誌 ぶんかる
イベントのプログラム
日 時:令和6年11月22日(金)18:30~20:00
会 場:京都市京セラ美術館「光の広間」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
登壇者:万城目学氏(作家)、吉田玲子氏(脚本家)、文化財調査官
内 容:
◆「文化財調査官が見る物語の聖地」
登壇者:文化財調査官 西岡聡・村上玲奈
◆トークショー「建物と物語が交わる瞬間―万城目学氏と吉田玲子氏が描く空間―」
登壇者:作家 万城目学氏
脚本家 吉田玲子氏
(司会:文化財調査官 西岡聡・村上玲奈)
※実物大ν(ニュー)ガンダム立像展示概要
立像名称 実物大ν(ニュー)ガンダム立像「RX-93ff ν(ニュー)ガンダム」
設置場所 三井ショッピングパーク ららぽーと福岡
住所/福岡市博多区那珂六丁目351番地
【高さ】 最高部24.8m(頭頂部20.5m)
【表面積(縦横高さ)】 1129.6㎡
【敷地面積】 約167.3㎡(直径14.6m) ※立像周囲の円形敷地面積
【重さ】 立像本体:80t(基礎梁除く)
【材質】 構造:鉄骨造、仕上げ:FRP
【稼働箇所】 右肩部(右腕ごと)、頭部
・原型は1988年に公開されたガンダムシリーズ初の完全オリジナル劇場版映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場する「RX-93 ν(ニュー)ガンダム」。
・同作品に登場するνガンダムは、スタイリッシュなデザインと搭乗キャラクターとのドラマティックな親和性から、現在も国内外で高い人気を誇る。
・「RX-93ff ν(ニュー)ガンダム」は、新たにロングレンジ・フィン・ファンネルを装着。『機動戦士ガンダム』シリーズ総監督・富野由悠季氏監修のもと、彩度の高いトリコロールのマーキング。